(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168462
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】橋台、橋脚の橋座面の排水システム
(51)【国際特許分類】
E01D 19/08 20060101AFI20221031BHJP
【FI】
E01D19/08
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073942
(22)【出願日】2021-04-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】509220323
【氏名又は名称】冨田 盟子
(72)【発明者】
【氏名】冨田 盟子
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA01
2D059AA03
2D059GG43
(57)【要約】
【課題】日本中の橋梁が老朽化し、50年経過の橋が通行止め、落橋の危機にある。延命化に有効策を講じなければならない。原因の一つに、橋梁を受ける橋台・橋脚の橋座部で、伸縮装置からの漏水に起因する鋼桁、支承の腐食がある。橋座面に排水溝を掘り抜く対策が考えられるが、構造物を痛め、耐荷力を低下するとともに、排水先、その処理が容易でなく捗らない。
【解決手段】新設、既設を問わず、橋座面にプラスチック製のU字型排水トレイ18を敷設することとすれば簡明。伸縮装置からの腐食性の漏水を受けての排水に加えて、雨垂れ線内側にU字型排水トレイを設置し、誘導ライナーで水平な橋座面から集中して落水すれば、滞水もなく万年の湿潤状態を解消できる。部材長さ2mのブロック割とすれば軽く、梁長10mでも簡単に延長できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋台、橋脚の橋座面に設置する排水システムであって、伸縮装置の下部の橋座面、並びに橋座面の梁先端部にU字型排水トレイ18を敷設したことを特徴とする橋台、橋脚の橋座面の排水システム。
【請求項2】
前記橋台、橋脚の橋座面において、雨水の流れを集水方向に導く三角形、台形、逆T字型、またはL字型の誘導ライナー22を敷設したことを特徴とする橋台、橋脚の橋座面の排水システム。
【請求項3】
前記U字型排水トレイ、または前記誘導ライナーから集水した雨水の集約部に落水口として接続するもので、閉水路断面の落水ボックス管24であることを特徴とする橋台、橋脚の橋座面の排水システム。
【請求項4】
伸縮装置の下部の橋座面に敷設した前記U字型排水トレイの上部に、落水、漏水を前記U字型排水トレイに導く傾斜プレート25を設けたことを特徴とする請求項1に記載の橋台、橋脚の橋座面の排水システム。
【請求項5】
前記橋台、橋脚の橋座面の排水システムを構成する部材であって、部材端部に隣接部材間を線材で連結する穴明き26の部材であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の橋脚、橋台の橋座面の排水システムに使用するU字型排水トレイ、誘導ライナー、落水ボックス管または傾斜プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の腐食対策、延命化に資する橋台、橋脚の橋座面の排水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁間には温度変化による橋桁1の伸縮に対応する
図1に示す伸縮装置6が設けられているが、重交通による伸縮装置の損傷から落水、漏水を生じ、直下の橋台、橋脚2の梁10の水平な橋座面9に落下し、そこの排水状況が悪いと常に湿潤状態になり、桁端部7の塗装部や支承8が腐食する。腐食は、長年の累積で一挙に断面欠損に至ることがある。交通荷重を受け持つ肝心の橋桁、支承が腐食したのでは橋梁の寿命に影響する。場合によっては、通行止め、落橋と社会的影響も大きい。腐食対策として橋台、橋脚の橋座面に
図2に示す排水溝16や排水勾配17を設けることが考えられるが、溝で断面欠損し構造物としての耐荷カを失い、橋座面側面からの落水も拡散して周囲に溝を設けるのも同様の問題が生じ、工事費も多大で容易でない。特許情報プラットホームで検索したところ、キーワード「橋脚」、「排水溝」で3件あったが、該当は2件である。(特許文献1)は、道路の路面3の排水に関するもので、道路の両脇に立ち上がった側壁4の内部に空洞の排水溝を設け、または路肩部に沿って連続した蓋つきの排水装置を設けるもので集水に優れるが、本願は路面下の橋脚梁上、橋座面に落水、漏水した雨水、しずくの排水であり、位置、構造ともに異なる。(特許文献2)も、道路の路面の排水に関するもので、道路の側壁4の立ち上がり部の路肩部に沿って埋設型の排水溝を設けるもので集水に優れるが、本願は路面下の橋脚梁上、橋座面に落水、漏水した雨水、しずくの排水であり、位置、構造ともに異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-185361号
【特許文献2】実全昭53-036833号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
橋梁1を受ける橋台、橋脚2は、
図1に示す路面3の床版5が屋根のように上空にあるので、直接の雨水は受けない。ここで、橋台とは、橋の始まりと終わりの1橋の土台部分で、橋脚は中間の2橋を支える柱で、橋座面9は橋台が橋脚のおよそ半分の面積となる以外は腐食環境が同様なので、以下では、橋脚について説明する。橋梁に設ける伸縮装置6は、雨水を直下に落とさず、その上を流れ、路面3上の近くの排水桝で集水するタイプが多い。ところが、ゴム製品の伸縮装置は重交通の繰り返し、経年で損傷すると、その下の橋座面9に落水、漏水し、そしてしずくが落ちる。タイヤ交通による雨上がりの漏水、泥土混じりのしずくは、酸性、アルカリのイオン化成分の混合で、下の橋台、橋脚上の桁端部7や支承8に深刻な腐食が見られる。さらに、暴風雨時の横方向から桁下への雨水の吹込みの繰り返しで、水平な橋座面に万年的滞水、湿潤環境がある。そこで、これら腐食環境を改善することが求められるが、まず考えられる方法は伸縮装置の下部の橋座面に
図2に説明する排水溝16を設ける方法と、水平な橋座面に排水勾配17をとる方法であるが、既設の構造物に排水溝の溝を掘ったり勾配のために削ったりでは、はつりの騒音問題、断面欠損や損傷となり、構造物の耐荷力を失い鉄筋のかぶりも浅くなり鉄筋腐食をもたらし、補修工事費も高く対策として捗っていない。新設の場合も、設計上の断面欠損となり、鉄筋のかぶり確保から鉄筋位置を全体的に下げる必要があるので地震時の耐荷力が小さくなり、鉄筋量を増やす設計となり相当不経済となる。水平な橋座面での排水処理も煩わしく、桁の重塗装仕様や耐久性の良い伸縮装置を採用するということで設計が捗らない。
そこで、腐食の経過を分析すると、主には雨上がりのしずく、泥汁が跳ねて泥土化し、桁端部7や、支承8に付着し長年で堆積することに起因すると考えられる。一時的な雨水の量を流すための溝としての大きな断面積が必ずしも必要ではないといえる。堆積した泥土は乾くと固化するので、流水断面を塞ぎ、やがて次の横殴りの風雨時には排水溝16の横から雨水が溢れ出す。そうなると構造物を傷つける溝を設計してまで流水断面積を確保する意味がなくなる。すなわち、現実には、橋座面では、大量の雨水を流す排水溝というよりは、まずは、伸縮装置からの少量の泥土を受け、おおむね堆積すること、しずくの跳ね返りを少なくし橋脚の支承周辺に泥土を散乱させないこと、横殴りの侵入雨水をできるだけ早く排水すること、滞水させないことで水平な橋座面の乾燥しやすい状況を作り出すことが肝要といえる。流水断面の設計条件が不確かな溝を掘る排水溝でなく、経験的に試行することができるプラスチック製、モルタル製のU字型排水トレイ18を伸縮装置の下部の橋座面に敷設することで、構造物を傷つけず、かつ新設、既設橋を問わず構造物の耐震上の影響もなく、このことで耐荷力の設計、照査も必要でなく、鉄筋のかぶり不足からの腐食の影響もなく、簡明に施工でき、さらに5年に1度の定期点検時に合わせて施工すれば合理的に進捗が捗ることとなり、日本中の橋梁の猶予のない延命化の飛躍的な進捗促進に寄与するという課題を解決できる。
さらに、橋軸直角方向の伸縮装置の、上からの部分的な線状の落水、漏水とともに、横からの吹込み雨水による橋座面の全体的な面状の滞水、それがもたらす常の湿潤環境も桁、支承の腐食に影響するので対策を要する。吹込みの雨水は、降り始めると橋座面の梁先端部12をきれいに流してくれる。梁奥側への吹込み雨水を制御し、すなわちできるだけ早く橋脚下に導くことが湿潤面積を増やさないポイントとなる。梁先端部12において、上の側壁、床版からの
図3に示す雨垂れ線30より内側に、かつ、桁の下フランジ29の下に橋軸方向に沿ってU字型排水トレイを設けると、吹き曝しの雨水の奥側に流れ込む前の初期段階で効率よく捕捉、流下できる。かつ伸縮装置の下部の橋座面に敷設したU字型排水トレイからの排水を連続して流せる。
【0005】
また、対策として橋座面に排水勾配17を取ることも考えられるが、橋座面全周に雨水を捕捉する処理と集約して流す排水管を流下部に設置する必要があり、橋座面の全周に排水溝を設けるとなると、構造の耐荷力、鉄筋のかぶり不足による腐食、工事費など同様な問題が生じる。そこで、溝を掘るのではなく、水平面の橋座面に滞水させないことを目的とし、
図3、
図5に示す高さを付けた三角形、台形、逆T字型、またはL字型の誘導ライナー22で堰堤、ストッパーをつくり奥側への侵入を少なくするとともに橋座面表面の流れを誘導し、できるだけ早く集水口に集約し、橋脚の梁側面から落下させることで、乾燥しやすい状況を作り出すことができ湿潤環境をもたらす水平な橋座面上の滞水の課題を解決できる。そうはいっても、水である限り、いつかの暴風雨の横殴りの雨水で、橋座面中央部付近に溜まった乾燥した埃、塵が流れ出る事態も考えられるので、絶対的に美観を気にする場合は、梁の橋座面の全体、全周を誘導ライナーで囲み堰堤、ダムのように止めるか、柱中央の側面部に集水口を設け落水ボックス管24から落とすか、そこに既設の縦排水管がある場合や新設設計では
図6に示すように合流する2股ソケット排水管21で部分取り換え、採用する方法が考えられる。橋座面から無秩序に流れ出してできる梁側面の墨汁のような汚れ、シミが改善される。ただし、暴風雨時には越流すること、長い梁の橋脚では不経済となるので、誘導ライナーは短くし、越流できれいに流してくれるという考え方もありうる。
【0006】
図2、
図4、
図5に示すように集水口23では閉水路断面の落水ボックス管24を垂直の排水として接続する。ボックス管とすることにより落下時の飛沫拡散を防止でき、橋脚表面の汚れの広がりを防ぎ、かつボックス管が景観上の縦スリットを演出するので美観上の課題を解決できる。流下位置は、景観橋脚では
図4に示す梁先端部12の縦溝スリット部19を利用することが考えられる。
図4の右部に示す銀杏型橋脚のそこには上の路面から続く排水管20が設置されているので、落水ボックス管24を
図6に示す2股ソケット排水管21として部分置換えをする。その他一般的橋脚では、
図5の左上部に示す梁先端の側面部13、同図左下部の梁の途中の側面部14、同図右上部の梁の柱付け根の側面部15、同図右下部の橋脚の柱中央の側面部32のうちから、路下への落水影響なども考慮して集水口位置を選択する。路下に走行車線がある場合は落水ボックス管24が直接見えないよう梁側面の反対側に設けるのも美観上の配慮となる。落水ボックス管24は接着剤だけでははがれることが想定されるので、一般の排水管と同様に橋脚のコンクリート表面にアンカーボルト止めする排水管バンドで止めるとよい。
【0007】
伸縮装置6からの落水、漏水が、桁端間に突出した支承のモルタル台座28でU字型排水トレイ18の幅の範囲に収まらないときは、桁端部7から斜面を持った
図2に示す傾斜プレート25を設け排水トレイに導くと、落水のより広い範囲の捕捉ができ、腐食の多い桁端部に落水の直接当たること、橋座面での跳ねかえりを回避する課題を解決できる。ただし、このことで桁端部7空間が、輻輳し、風通しが悪く、逆に隙間風速を増すことで路下への落下が危惧される場合は、省略することも選択で、支承のモルタル台座部28ではU字型排水トレイの幅を部分的に狭めたままで、そのほかのところでは幅を拡大するなどの処理を考える。幅を一定とすることにこだわる必要はない。U字型排水トレイ18はオープンの開水路なのでいずれは泥土の蓄積であふれ出すことを前提にしているので。
【0008】
U字型排水トレイ18、誘導ライナー22、落水ボックス管24、傾斜プレート25は、経年で接着剤がはがれることを予想し、突風で飛散して落下事故とならないよう、各ブロック部材には
図7に示す穴26を設け、ロープ、ワイヤーなどの線材27で結ぶことで、不測の飛散落下による第三者事故を未然に防ぐ課題を解決できる。重いモルタル製とすることも選択の範囲だ。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために、本発明の橋台、橋脚の橋座面の排水システムは、橋台、橋脚の橋座面に設置する排水システムであって、伸縮装置の下部の橋座面、並びに橋座面の梁先端部にU字型排水トレイ18を敷設したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の橋台、橋脚の橋座面の排水システムは、前記橋台、橋脚の橋座面において、雨水の流れを集水方向に導く三角形、台形、逆T字型、またはL字型の誘導ライナー22を敷設したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の橋台、橋脚の橋座面の排水システムは、前記U字型排水トレイ、または前記誘導ライナーから集水した雨水の集約部に落水口として接続するもので、閉水路断面の落水ボックス管24であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の橋台、橋脚の橋座面の排水システムは、伸縮装置の下部の橋座面に敷設した前記U字型排水トレイの上部に、落水、漏水を前記U字型排水トレイに導く傾斜プレート25を設けたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の橋台、橋脚の橋座面の排水システムに使用するU字型排水トレイ、誘導ライナー、落水ボックス管または傾斜プレートは、前記橋台、橋脚の橋座面の排水システムを構成する部材であって、部材端部に隣接部材間を線材で連結する穴明き26の部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
橋台、橋脚上部の伸縮装置の落水、漏水に起因する塗装桁、支承の腐食により、橋梁の寿命を縮めている。特に50年以上を経過した老朽化橋梁では、致命的となり落橋、通行止めが想定される。橋座面は水平で雨水が溜まりやすい。このため、延命化対策として橋座面に排水を促す排水溝を設置することが考えられるが、コンクリート構造物に溝の掘り込みを入れるので、既設橋梁では構造物が痛み、新設構造物では鉄筋位置が下がるので設計上不経済なため取り組みが進んでない。本発明の排水システムは、構造物を傷める溝の掘り込みを入れないで、橋台、橋脚の橋座面に簡単に敷設、系統的に排水できるので、橋座面の万年の湿潤状態が解消され、橋梁の延命対策が一挙にはかどる。集水口に流れをまとめることができ、橋台、橋脚表面の汚れ、シミもなくなり美観に資するものである。このことで、延命化対策で排水溝を設けることと同等以上の効果が見込まれる。U字型排水トレイなどの部材はプラスチックなら軽くて設置も簡単である。既設橋梁では義務づけられた5年に1度の定期点検時に合わせて簡単な本排水システムを施工すれば、5年で日本中の腐食で悩む全線を延命対策できる。当然、新設橋梁でも溝による断面欠損による煩わしい構造設計が必要でなく現場対応で簡単に施工でき、将来の老朽化を促進する腐食要因が解消される。簡単明瞭、最小費用で延命化を図ることができる。維持管理はそうありたいところだ。日本全体で橋の延命できれば、漸増する落橋の危惧、社会的不安や、線でつながった道路の寸断がなく、通行止めによる社会的損失を未然に防ぐことができ、膨大化するであろう維持管理費も軽減される。現存する橋梁を長く使うということは新設費がかからないということであり、マイナスを減じるということも逆の意味での経済的効果は計り知れないほど大きい。橋梁の予防保全、延命は国土強靭化に大いに資するといえる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】T型橋脚上の桁端部斜視図、破線は銀杏型橋脚
【
図2】伸縮装置の下部の橋座面のU字型排水トレイの説明断面図
【
図3】雨垂れ線の内側、桁の下フランジの下にU字型排水トレイを敷設した梁先端部の説明側面図
【
図4】縦スリット溝のある景観橋脚の橋座面の排水システム説明平面図
【
図5】一般的橋脚の橋座面の誘導ライナーと集水口位置の異なる排水システム説明平面図
【
図6】方形の落水ボックス管を円形の排水管に合流した2股ソケット排水管
【
図7】部材の両端部に穴明けしたブロック部材を線材で連結した例
【発明を実施するための形態】
【0016】
伸縮装置からの漏水の位置は真下であるので確定できるが、水平で流れの悪い橋座面からの排水は、橋脚梁、橋座面からどう落水させるか、接続先をどうするか頭を悩ます。景観設計の橋脚では梁先端部12に縦溝、縦スリットを設ける場合が多いので、まずはその縦スリットを利用して流下させるとよい。流量も少なく、かつ縦スリットで隠れるので直接流下でよいと考える。ただし、銀杏型橋脚31では、流下途中の梁下面で垂れ、方向性なく落下するので簡単でない。そこで、縦スリットに取り入れている路面からの排水管に2股ソケット排水管21として合流することで流下途中の落水を処理できる。一般の橋脚では、梁側面部に落とすが、橋座面から無秩序に垂れ落ちることは側表面にシミとなり好ましくない。かつ、滞水を少なくするためには橋座面の表面水を早く排水する必要がある。そこで、橋座面の随所に配置する誘導ライナーで、橋座面の水の流れの方向を導き、量をまとめることで早く集水することができ、橋脚下への落水の影響の少ない位置の集水口からに路下に落水する。
ただし、梁先端部は、屋根の床版がなく露出しているので雨水が常に当たり、雨水量は多い。そこで先端部には橋軸直角方向に、誘導ライナーでもよいが誘導ライナーとしての役割も持つU字型排水トレイを敷設するとおおむねの雨量はまとめて早く流下できる。また、桁の奥側、梁奥側の橋座面への大量の雨水の侵入を阻止できる。ただし、梁先端部はもともと風雨に曝される個所であり、自然に路下に流れているので、桁や支承の腐食に影響しないその雨量まで受け持つ必要がない。
図3に示す床版の張り出し部の雨垂れ線より梁奥側にU字型排水トレイを設置することで、雨水をとらえ奥側への吹込み侵入を効率よく阻止し、流下させることが期待できる。もちろん、伸縮装置の下部の橋座面に敷設したU字型排水トレイからの橋軸直角方向の流れを、直角の橋軸方向に流れを旋回、継続して、橋脚梁側面の集水口から落水することも有効である。縦スリットのある橋脚では、伸縮装置の下部の橋座面のU字型排水トレイに逆方向に合流し、流下することもできる。この場合は、梁側面側の集水口は特に必要でないので、
図4に示すU字型排水トレイの端末部にストッパー34を立ち上げ片端を閉じる。
【実施例0017】
U字型排水トレイの断面形状は、両側縁を立ち上げたU字型の皿状のトレイで、断面の幅は標準20cm程度、高さは3~10cm程度、部材厚みは1cm程度が適当である。長さは1m、2mまたは3m単位のブロック部材とすれば、製作上も、狭い桁端部間の作業性も支障が少ない。ただし、これらは目安であり、実績を重ねると考え方も変化し、寸法も変更されるものといえる。幅も10cmものなら並列すれば20cm、30cmと作り出すことができ、あらかじめ現地に行かなくても、狭い空間や支承のモルタル台座で桁端部相互間の空間幅が狭い場合の現場対応も容易である。トレイ幅20cmが橋軸直角方向で直線的に確保できない場合は、臨機に支承のモルタル台座の周りに回避する。部分的に幅を確保できてなくてもよい。立ち上がりの縁が5cm程度確保できていれば折れ線状に継ぎ合わせでよい。いずれ泥土の堆積であふれ出るのだからと割り切ればよい。高さも実績を重ねると低いもので十分という判断もありうる。
橋座面への敷設は接着剤となる。各ブロック部材は接着剤で接合すると簡単。材質はプラスチック製が軽くて望ましいがモルタル製でも可能である。橋脚の梁の長さを10mとすると、5個をつなぎ合わすだけである。モルタル敷きでは付着がはがれ、軽いプラスチック製は風で飛散し、橋台、橋脚下に落下の恐れがある。アンカーボルトによる固定も考えられる。当初は溝を掘る排水溝の設計上の代わりという解釈から、排水量を確保する高さ10cm程度となるのもやむを得ない。しかし、実際には排水量の断面積は必要でなく、実績を重ねると、泥水を受け止め堆積するだけ、支承方向の桁下にまき散らさないこと、盛り上げるだけで十分な効果があると分かるので、地域ごとや、路線ごとの試験施工箇所の2、3年後の判定から、いずれ高さは5cm程度以下で十分であると次第に理解されると期待する。雨水はU字型排水トレイの先端から樋のようにすべて流すという固い考え方でなく、立ち上げの縁の横からあふれ出ても許容するという考えである。排水トレイの縁の高さが低い方が、狭い桁端部の空間の保守点検の邪魔にならない。湿潤環境にある橋台、橋脚上の風通しの確保の観点からも排水トレイの縁は低いほうが有効と判断できる。排水トレイの皿状の底部に、薄板、テフロンシートを敷いておけば、5年後の点検時に板、シートをはがし、蓄積した泥土の塊を簡単に取り除くことができ、新しい板、シートに取り替えることができる。例えば鳥小屋の糞の始末にシートを敷くようなものである。シートの上に、網、メッシュをのせておくとより取り除きやすい。これらも軽いため風で飛ばないよう長さ方向に個々に連結する、重石など落下対策が必要である。全体として、接着が切れて排水トレイの道路下への落下、飛散で第三者事故があってはならないので、U字型排水トレイの両端に穴を設けた部材とし、相互間をステンレスチェーン、ロープなどの線材で結ぶ。
橋座面の集水口、路下への落水口の位置の選定から、そこに導く排水トレイ、誘導ライナーを選択する。直接の雨量や吹き込み雨量の多い梁先端部では、雨の吹き込みを阻止し、排水を促すU字型排水トレイ18とし、吹き込みの少ない梁中央部へ向かっては、誘導ライナー22とする組み合わせが有効である。高さは3~5cm程度で十分である。桁の横方向からは雨水が吹き込んでくるが、雨の多くは面積のある橋梁の側壁、橋桁の壁に当たって遮断される。ただしその雨量は、床版の雨垂れ線30や桁の下フランジ29からそのまま橋座面に落下するので無視できないほど多い。また、桁底面と橋座面との隙間の高さは支承高さ程度と低いため、雨水のほとんどの桁奥への吹込み侵入が梁先端から1m~2m程度で止まる。それより奥は比較的乾燥し、埃、塵が積もっている。したがって、まずは梁先端部の雨垂れ線30の内側、下フランジ29の下の位置を考慮してU字型排水トレイを橋軸方向に設置すれば多量の雨量を受け、橋座面での跳ねかえりもなく排水できる。また梁先端部から1mと2mの位置に誘導ライナー22を設置すれば、それ以上奥への雨水の侵入がおおむね阻止できるとともに、流れを集水方向、集水口に早く誘導することができる。橋座面上の雨水の早く効率的な排除は、橋座面の湿潤状態の回避、乾燥に有効となる。橋脚からの最終的な落下の堰となる誘導ライナーを橋座面の縁の全周に設けると、雨水の無秩序な落下からくる橋脚側面の全体的な汚れ、垂れシミの防止、美観にも役立つ。ただし、全周に設けることは実質的に中央が乾燥している長い梁の橋脚では適当といえず、また不経済である。