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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168466
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20221031BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20221031BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20221031BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20221031BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20221031BHJP
   C25B 9/40 20210101ALI20221031BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20221031BHJP
   C25B 11/053 20210101ALI20221031BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20221031BHJP
   C25B 11/091 20210101ALI20221031BHJP
   C04B 35/01 20060101ALI20221031BHJP
   C04B 35/36 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
H01M4/86 T
H01M8/12 101
H01M8/1213
H01M4/86 U
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/40
C25B9/23
C25B11/053
C25B11/054
C25B11/091
C04B35/01
C04B35/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073949
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 忠司
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA04
4K011AA24
4K011AA38
4K011AA48
4K011AA64
4K011BA02
4K011BA08
4K011BA11
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB18
4K021DB40
4K021DB43
4K021DB49
4K021DB53
4K021DC03
4K021EA05
5H018AA06
5H018AS02
5H018CC06
5H018EE13
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】耐酸化性に優れた電極を備えた電気化学デバイスを提供すること。
【解決手段】電気化学デバイスは、固体酸化物電解質からなる電解質層と電解質層の一方の面に形成された第1電極と、電解質層の他方の面に形成された第2電極とを備えている。第1電極は、電子伝導体として、一般式:Mn3-x-yFexNiy4-α(但し、0.5<x<1.5、0.5<y<2.0、3-x-y>0、αは、電気的中性が保たれる値。)で表される組成を有するMn-Fe-Ni系スピネル型酸化物を含む酸化物電極からなる。電解質層と第2電極との間には、反応防止層がさらに挿入されていても良い。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた電気化学デバイス。
(1)前記電気化学デバイスは、
固体酸化物電解質からなる電解質層と
前記電解質層の一方の面に形成された第1電極と、
前記電解質層の他方の面に形成された第2電極と
を備えている。
(2)前記第1電極は、電子伝導体として、次の式(1)で表される組成を有するMn-Fe-Ni系スピネル型酸化物を含む酸化物電極からなる。
Mn3-x-yFexNiy4-α …(1)
但し、
0.5<x<1.5、0.5<y<2.0、3-x-y>0、
αは、電気的中性が保たれる値。
【請求項2】
前記電解質層と前記第2電極との間に挿入された反応防止層をさらに備えている請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
前記酸化物電極は、さらに酸化物イオン伝導体を含む請求項1又は2に記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
前記酸化物イオ伝導体の含有量は、20mass%以上80mass%以下である請求項3に記載の電気化学デバイス。
【請求項5】
1.0≦y≦1.5である請求項1から4までのいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項6】
前記酸化物電極をアノードに用いた固体酸化物形燃料電池からなる請求項1から5までのいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイスに関し、さらに詳しくは、電子伝導体としてMn-Fe-Ni系スピネル型酸化物を含む酸化物電極を備えた電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、電解質として酸化物イオン伝導体を用いた燃料電池である。SOFCのアノード(燃料極)に、H2、CO、CH4などの燃料ガスを供給し、カソード(酸素極)にO2を供給すると、電極反応が進行し、電力を取り出すことができる。電極反応により生成したCO2やH2Oは、SOFC外に排出される。
一方、固体酸化物形電解セル(SOEC)は、SOFCと構造は同じであるが、SOFCとは逆の反応を起こさせるものである。すなわち、SOECのカソード(水素極)にCO2やH2Oを供給し、電極間に電流を流すと、COやH2を生成させることができる。
【0003】
SOFCのアノード(及び、SOECのカソード)には、一般に、Niとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)との複合体(以下、「Ni/YSZ」ともいう)が用いられている。Ni/YSZに含まれる金属Niは、電子伝導性が高く、電気化学触媒としても高い活性を持つ。そのため、Ni/YSZをSOFCのアノードに用いると、高出力が得られる。しかしながら、Ni/YSZは、酸化雰囲気下に長期間曝されると、金属Niの酸化が徐々に進むという問題がある。金属Niの酸化は、SOFCの性能劣化の原因となっている。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、非特許文献1には、Mn及びFeがドープされたCeO2(CMF)(Ce0.6Mn0.3Fe0.12)からなるアノードが開示されている。
同文献には、
(a)CMFは、CoがドープされたLaGaO3系酸化物(LSGMC)からなる電解質を用いたSOFCの耐酸化性酸化物アノードとして用いることができる点、及び、
(b)CMFをアノードに用いたセルの1273Kにおける最大電流密度は、0.622W/cm2に達する点
が記載されている。
【0005】
非特許文献2には、Ce(Mn,Fe)O2(CMF)と、La(Sr)Fe(Mn)O3(LSFM)(La0.6Sr0.4Fe0.9Mn0.13)との複合体(以下、「CMF-LSFM」ともいう)からなるアノードが開示されている。
同文献には、
(a)CMF-LSFMをアノードを用いたセルは、再酸化処理に対して高い耐性を示す点、及び、
(b)CMF-LSFMをアノードに用いたセルの1273Kにおける最大電力密度は、1.0W/cm2に達する点
が記載されている。
【0006】
非特許文献1、2に記載されているように、混合伝導体としてCMFを含むアノード(酸化物アノード)を用いると、電子伝導体として金属Niを含むアノード(金属アノード)に比べて耐酸化性が向上する。しかしながら、従来の酸化物アノードを用いたセルの発電性能は、金属アノードを用いたセルに比べて低く、改良の余地が残されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Electrochemical and Solid-State Lettrs, 13(8), B95-B97(2010)
【非特許文献2】Journal of The Electrochemical Society, 157(12), B1896-B1901(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、耐酸化性に優れた電極を備えた電気化学デバイスを提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、酸化物電極を備えた従来の電気化学デバイスに比べて高い性能を示す電気化学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る電気化学デバイスは、以下の構成を備えている。
(1)前記電気化学デバイスは、
固体酸化物電解質からなる電解質層と
前記電解質層の一方の面に形成された第1電極と、
前記電解質層の他方の面に形成された第2電極と
を備えている。
(2)前記第1電極は、電子伝導体として、次の式(1)で表される組成を有するMn-Fe-Ni系スピネル型酸化物を含む酸化物電極からなる。
Mn3-x-yFexNiy4-α …(1)
但し、
0.5<x<1.5、0.5<y<2.0、3-x-y>0、
αは、電気的中性が保たれる値。
【発明の効果】
【0010】
Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物は、電子伝導体として機能する。また、電子伝導体として、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物を含む酸化物電極は、電子伝導体として金属Niを含む金属電極に比べて耐酸化性が高い。さらに、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物は、電気化学反応に対する活性が高い。これは、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物に含まれるNiが電気化学反応を活性化させる触媒といて働くためと考えられる。そのため、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物を含む酸化物電極を備えた電気化学デバイスは、混合伝導体としてCMFを含む従来の酸化物電極を備えた電気化学デバイスに比べて高い性能を示す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】Mn0.75Fe0.75Ni1.54(実施例3)のX線回折(XRD)チャートである。
図2】実施例1~3及び比較例1~3で得られたセルの発電特性である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 電気化学デバイス]
本発明に係る電気化学デバイスは、
固体酸化物電解質からなる電解質層と
前記電解質層の一方の面に形成された第1電極と、
前記電解質層の他方の面に形成された第2電極と
を備えている。
本発明に係る電気化学デバイスは、前記電解質層と前記第2電極との間に挿入された反応防止層をさらに備えていても良い。
【0013】
[1.1. 電解質層]
電解質層は、固体酸化物電解質からなる。本発明において、電解質層の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
電解質層の材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ガドリニアドープセリア(GDC)、ランタンガレート系ペロブスカイト型酸化物(La0.8Sr0.2Ga0.9Mg0.13等)などがある。
【0014】
[1.2. 第1電極]
第1電極は、電解質層の一方の面に形成される。本発明において、第1電極は、電子伝導体として、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物を含む酸化物電極からなる。酸化物電極は、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物のみからなるものでも良く、あるいは、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物と、酸化物イオン伝導体との複合体であっても良い。
【0015】
[1.2.1. Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物]
第1電極は、電子伝導体として、次の式(1)で表される組成を有するMn-Fe-Ni系スピネル型酸化物を含む酸化物電極からなる。
Mn3-x-yFexNiy4-α …(1)
但し、
0.5<x<1.5、0.5<y<2.0、3-x-y>0、
αは、電気的中性が保たれる値。
【0016】
式(1)において、xは、Mn-Fe系スピネル型酸化物(MnFe24)のFeサイトを占有するFeの量を表す。xが小さくなりすぎると、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物の電子伝導度が低下する。従って、xは、0.5超である必要がある。
一方、xが大きくなりすぎると、Niが含有量が低下する。その結果、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物の電気化学反応に対する活性が低下する。従って、xは、1.5未満である必要がある。
【0017】
式(1)において、yは、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物のMnサイト又はFeサイトを置換するNiの量を表す。yが小さくなりすぎると、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物の電気化学反応に対する活性が低下する。従って、yは、0.5超である必要がある。yは、好ましくは、1.0以上である。
一方、yが大きくなりすぎると、還元が進みやすくなり、金属Niの性質(酸化劣化)が顕在化しやすくなる。従って、yは、2.0未満である必要がある。yは、好ましくは、1.5以下である。
【0018】
[1.2.2. 酸化物イオン伝導体]
[A. 材料]
Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物は、電子伝導体として機能するだけでなく、電気化学反応を活性化する触媒としても機能する。そのため、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物のみからなる酸化物電極を電解質層の表面に形成した場合であっても、電解質層と酸化物電極との界面において電気化学反応が進行する。しかしながら、この場合、界面の面積が相対的に小さいために、これを用いた電気化学デバイスの特性が低下する。
一方、酸化物電極がMn-Fe-Ni系スピネル型酸化物と酸化物イオン伝導体との複合体からなる場合、界面の面積が増大するために、これを用いた電気化学デバイスの特性が向上する。
【0019】
本発明において、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物と複合化させる酸化物イオン伝導体の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。酸化物イオン伝導体としては、例えば、ガドリニアドープセリア(GDC)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ランタンガレート系ペロブスカイト型酸化物(La0.8Sr0.2Ga0.9Mg0.13等)などがある。
【0020】
[B. 含有量]
酸化物電極がMn-Fe-Ni系スピネル型酸化物と酸化物イオン伝導体との複合体からなる場合において、酸化物イオン伝導体の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な量を選択することができる。
ここで、「酸化物イオン伝導体の含有量」とは、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物及び酸化物イオン伝導体の総質量に対する酸化物イオン伝導体の質量の割合をいう。
【0021】
酸化物イオン伝導体の含有量が少なくなりすぎると、酸化物イオン伝導体とスピネル型酸化物との接触面積が減少し、特性が低下する場合がある。従って、酸化物イオン伝導体の含有量は、20mass%以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、30mass%以上、さらに好ましくは、35mass%以上である。
一方、酸化物イオン伝導体の含有量が過剰になると、酸化物イオン伝導体とスピネル型酸化物との接触面積が減少するとともに、複合体の電子伝導性が低下し、特性が低下する場合がある。従って、酸化物イオン伝導体の含有量は、80mass%以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、70mass%以下、さらに好ましくは、65mass%以下である。
【0022】
[1.3. 第2電極]
第2電極は、電解質層の他方の面に形成される。本発明において、第2電極の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
第2電極の材料としては、例えば、
(a)ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)((La,Sr)CoO3)、
(b)ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)((La,Sr)MnO3)、
(c)ランタンストロンチウムフェライト(LSF)((La,Sr)FeO3)、
(d)ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)((La,Sr)(Co,Fe)O3)、
(e)上記(a)~(d)とGDCとの混合物、
などがある。
【0023】
[1.4. 反応防止層]
反応防止層は、電解質層と第2電極とが直接、接触することにより生じる反応を防止するための層であり、必要に応じて挿入される。例えば、電解質層がYSZであり、第2電極がLSCである場合、反応防止層には、GDCなどのセリア系固体電解質を用いるのが好ましい。
【0024】
[1.5. 用途]
本発明に係る酸化物電極は、種々の電気化学デバイスに適用することができる。本発明に係る酸化物電極を用いた電気化学デバイスとしては、例えば、
(a)本発明に係る酸化物電極をアノード(燃料極)に用いた固体酸化物形燃料電池、
(b)本発明に係る酸化物電極をカソード(水素極)に用いた固体酸化物形電解セル、
(c)本発明に係る酸化物電極を還元雰囲気に暴露した固体電解質型ガスセンサ、
などがある。
【0025】
[2. 電気化学デバイスの製造方法]
本発明に係る電気化学デバイスは、種々の方法により製造することができる。例えば、本発明に係る電気化学デバイスは、
(a)固体酸化物電解質からなる電解質層を作製し、必要に応じて電解質層の表面に反応防止層を形成した後、
(b)電解質層の一方の面(反応防止層が形成されていない面)に第1電極を形成し、
(c)電解質層の他方の面又は反応防止層の上面に、さらに第2電極を形成する
ことにより製造することができる。
【0026】
また、本発明に係る酸化物電極を電解質層の表面に形成する方法としては、例えば、
(a)Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物及び酸化物イオン伝導体を含むターゲットを用いて、電解質層の表面にスパッタリングする方法、
(b)Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物の粉末及び酸素イオン伝導体の粉末を含むペーストを電解質層の表面にスクリーン印刷し、焼成する方法、
などがある。
【0027】
あるいは、本発明に係る電気化学デバイスは、
(a)真空成膜法を用いて、多孔質基板(酸化物、金属)の表面に、第1電極、電解質層、反応防止層、及び第2電極をこの順で成膜し、積層膜を焼成する方法、
(b)真空成膜法を用いて、多孔質基板(酸化物、金属)の表面に、第2電極、反応防止層、電解質層、及び第1電極をこの順で成膜し、積層膜を焼成する方法、
などによっても製造することができる。
【0028】
[3. 作用]
SOFCのアノードには、一般に、Ni/YSZが用いられている。しかしながら、Ni/YSZは、酸化雰囲気下に長期間曝されると、金属Niの酸化が徐々に進むという問題がある。金属Niの酸化は、SOFCの性能劣化の原因となっている。
一方、この問題を解決するために、混合伝導体としてCe(Mn,Fe)O2(CMF)をを用いた酸化物アノードが提案されている。しかしながら、CMFは、耐酸化性に優れているが、電気化学反応を活性化させる触媒としての機能に乏しい。そのため、これをアノードに用いたSOFCの発電性能は、Ni/YSZをアノードに用いたSOFCの発電性能より低い。
【0029】
これに対し、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物は、電子伝導体として機能する。また、電子伝導体として、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物を含む酸化物電極は、電子伝導体として金属Niを含む金属電極に比べて耐酸化性が高い。さらに、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物は、電気化学反応に対する活性が高い。これは、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物に含まれるNiが電気化学反応を活性化させる触媒といて働くためと考えられる。そのため、Mn-Fe-Ni系スピネル型酸化物を含む酸化物電極を備えた電気化学デバイスは、混合伝導体としてCMFを含む従来の酸化物電極を備えた電気価格デバイスに比べて高い性能を示す。
【実施例0030】
(実施例1~5、比較例1~3)
[1. 試料の作製]
[1.1. 電極材料(電子伝導性酸化物)の作製]
以下の手順に従い、
(a)Mn1-x-yFexNiy4-α(x=0.75~1.5、y=0~1.5)粉末、及び
(b)Ce0.6Mn0.3Fe0.12粉末
を作製した。
原料には、Mn(NO3)2・6H2O、Fe(NO3)3・9H2O、Ni(NO3)2・6H2O、及び、Ce(NO3)3・6H2Oを用いた。これらを所定比で計量し、イオン交換水に溶解させた。得られた溶液を500℃で乾燥させ、乾燥粉を880℃で焼成した。
【0031】
[1.2. 試験セルの作製]
[1.2.1. 実施例1~5、比較例1~2]
発電特性の評価には、YSZ基板(φ22mm、t=0.5mm)の両面に電極を形成した電解質サポートセルを用いた。まず、YSZ基板の片面にGDCをスクリーン印刷し、1250℃で焼成した。次いで、GDC層の表面に空気極を形成した。空気極は、GDC層の表面にLSC((La,Sr)CoO3)をスクリーン印刷し、900℃で焼成することにより作製した。
【0032】
次に、スパッタリング法を用いて、YSZ基板の他方の面に燃料極を形成した。スパッタリングターゲットには、上記の電極材料とGDCとを所定の質量比で混合した粉末を用いた。燃料極は、スパッタリング法を用いてYSZ基板の他方の面にスパッタ膜を形成し、880℃で焼成することにより作製した。
なお、空気極の反応抵抗を小さくし、燃料極評価への影響を小さくするために、空気極の大きさを燃料極より大きくした。具体的には、空気極は直径20mmとし、燃料極は直径8mmとした。
【0033】
[1.2.2. 比較例3]
YSZ基板の片面に、Ni/YSZからなる燃料極を作製した。燃料極は、YSZ基板の片面に市販の電極ペーストを印刷し、1480℃で焼成することにより作製した。次に、実施例1と同様にして、YSZ基板の他方の面に空気極を作製した。
【0034】
[2. 試験方法]
[2.1. XRD測定]
目的とする組成を有する電極材料が得られているかどうかを確認するために、電極材料についてXRD測定を行った。
【0035】
[2.2. セルの発電特性]
作製した試験セルの発電特性を評価した。発電特性は、SOFC評価装置を用いて、700℃で測定した。酸化剤ガスには20%O2/N2を用い、燃料ガスには100%H2(35℃加湿)を用いた。
【0036】
[3. 結果]
[3.1. XRD測定]
図1に、Mn0.75Fe0.75Ni1.54(実施例3)のX線回折(XRD)チャートを示す。図1より、ASTMカード(MnFeNiO4)と一致するピークが観測され、狙い通りの材料が得られていることが分かった。図示はしないが、実施例1~2、4~5、比較例1~2も同様であり、狙い通りの材料が得られていることが分かった。
【0037】
[3.2. 試験セルの発電特性]
図2に、実施例1~3及び比較例1~3で得られたセルの発電特性を示す。また、表1に、0.5Vにおける発電電流を示す。なお、表1には、燃料極の電極材料及び配合比(質量比)も併せて示した。図2及び表1より、以下のことが分かる。
【0038】
(1)Mn1-x-yFexNiy4系電極(実施例1~3)は、Mn1.5Fe1.54(比較例1)、及び、Ce0.6Mn0.3Fe0.12(比較例2)よりも高い電極性能が得られた。
(2)Mn1-x-yFexNiy4系電極において、Ni添加量(y)が多くなるほど、電極性能が高くなった。特に、yが0.5以上になると、電極性能は比較例2の約3倍以上となった。また、yが1.5の時には、現在、用いられている金属電極(比較例3)に近い電極性能が得られた。
(3)Mn1-x-yFexNiy4の混合比が大きくなるほど、電極性能が高くなった(実施例3~5)。特に、Mn1-x-yFexNiy4の混合比が20mass%以上(GDCの混合比が80mass%以下)になると、Mn1.5Fe1.54(比較例1)を超える電極性能が得られることが分かった。
【0039】
【表1】
【0040】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る電気化学デバイスは、炭化水素を燃料とする発電装置、水素を生成するための水電解装置などに用いることができる。
図1
図2