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特開2022-168478工具寿命検出システム及び工具寿命検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168478
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】工具寿命検出システム及び工具寿命検出方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20221031BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
B23Q17/09 B
G05B19/418 Z
B23Q17/09 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073969
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000205454
【氏名又は名称】ニデックオーケーケー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀佳
(72)【発明者】
【氏名】柴原 豪紀
(72)【発明者】
【氏名】畠田 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】川尻 竜也
【テーマコード(参考)】
3C029
3C100
【Fターム(参考)】
3C029DD01
3C029DD11
3C100AA27
3C100AA56
3C100BB13
3C100BB15
3C100BB19
3C100BB33
(57)【要約】
【課題】加工中にMD値が閾値を挟んで変化しても、正常/異常を判断可能な工具寿命検出システム及び工具寿命検出方法を提供する。
【解決手段】本発明はMT法を使用する工具寿命検出システムにおいて、工具を回転駆動する主軸モータの電流を検出する電流センサと、電流センサで検出された電流値を観測データとして使用し、正常な加工条件の組合せの種類ごとの加工データについて複数の単位空間を作成する一方、ワークを加工する間に得られる電流値の波形から単位空間に対するMD値を連続的に算出し、当該MD値が所定の閾値を超えているか否かで工具の正常と異常を仮判定し、所定の繰返し判定数に対して異常の仮判定の回数が設定回数以上となったときに工具異常と判定する制御部と、を有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを加工する工具の寿命をMT法を使用して検出する工具寿命検出システムにおいて、
前記工具を回転駆動する主軸モータの電流を検出する電流センサと、
前記電流センサで検出された電流値を観測データとし、当該データから変化量と存在量を算出して特徴量として使用し、正常な工具による複数の加工条件の組合せに対応する複数の単位空間を作成する一方、前記ワークを加工する間に得られる前記特徴量から前記単位空間に対するMD値を連続的に算出し、当該MD値が所定の閾値を超えているか否かで前記工具の正常と異常を仮判定し、所定の繰返し判定数に対して前記異常の仮判定の回数が設定回数以上となったときに工具異常と判定する制御部と、
を有することを特徴とする工具寿命検出システム。
【請求項2】
前記ワークを加工する際に用いられる加工条件が前記単位空間を作成した前記加工条件と相違して一致しないとき、前記加工条件の相違度に対応した修正係数を算出し、当該修正係数を、前記ワークを加工する間に得られる前記電流値の波形に掛け合わせて前記特徴量を算出し、前記単位空間に対するMD値を算出することを特徴とする請求項1の工具寿命検出システム。
【請求項3】
前記電流センサによって前記主軸モータの交流電流を検出し、当該交流電流の二乗値を観測データとし、当該観測データから変化量と存在量を算出して特徴量として使用することを特徴とする請求項1の工具寿命検出システム。
【請求項4】
前記電流センサによって前記主軸モータの交流電流を検出し、当該交流電流の二乗値を観測データとし、当該観測データから変化量と存在量を算出して特徴量として使用し、前記修正係数を、前記ワークを加工する間に得られる前記電流値の二乗の波形に掛け合わせて前記特徴量を算出し、前記単位空間に対するMD値を算出することを特徴とする請求項2の工具寿命検出システム。
【請求項5】
ワークを加工する工具の寿命をMT法を使用して検出する工具寿命検出方法において、
前記工具を回転駆動する主軸モータの電流を検出する電流センサで検出された電流値を観測データとして使用し、正常な工具による複数の加工条件の組合せに対応する複数の単位空間を作成する一方、前記ワークを加工する間に得られる前記電流値の波形から前記単位空間に対するMD値を連続的に算出し、当該MD値が所定の閾値を超えているか否かで前記工具の正常と異常を仮判定し、所定の繰返し判定数に対して前記異常の仮判定の回数が設定回数以上となったときに工具異常と判定することを特徴とする工具寿命検出方法。
【請求項6】
前記ワークを加工する際に用いられる加工条件が前記単位空間を作成した前記加工条件と相違して一致しないとき、前記加工条件の相違に対応した修正係数を算出し、当該修正係数を、前記ワークを加工する間に得られる前記電流値の波形に掛け合わせて特徴量を算出し、前記単位空間に対するMD値を算出するようにしたことを特徴とする請求項5の工具寿命検出方法。
【請求項7】
前記電流センサによって前記主軸モータの交流電流を検出し、当該交流電流の二乗値を観測データとして当該データから変化量と存在量を算出して特徴量として使用することを特徴とする請求項5の工具寿命検出方法。
【請求項8】
前記電流センサによって前記主軸モータの交流電流を検出して当該交流電流の二乗値を観測データとして使用し、正常な加工条件の組合せの種類ごとの加工データについて複数の単位空間を作成し、前記修正係数を、前記ワークを加工する間に得られる前記電流値の二乗の波形に掛け合わせて前記単位空間に対するMD値を修正することを特徴とする請求項6の工具寿命検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械、特に主軸に回転工具を把持してワークを加工するマシニングセンタに装着して加工中の工具の寿命・欠損を検出する工具寿命検出システムと工具寿命検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工具が寿命に近づくと、切削抵抗の増加や加工面品位の劣化、あるいは工具折損に至る場合もあり、ワークの加工不良の原因となる。ワークの加工不良を予防するには工具寿命の検出が重要であり、従来から1)工具の使用前後で工具長を計測し、当該工具長の変化から工具寿命を検出する方法、2)加工中の主軸モータの駆動電流等のパラメタの上限値又は下限値に基づいて工具寿命を検出する方法(特許文献1-4)、3)加工中の主軸モータの駆動電流等の特徴量の変化からMT法により工具寿命を検出する方法(特許文献5-6)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-82836号公報
【特許文献2】特開2020-123409号公報
【特許文献3】国際公開WO2018/229870号公報
【特許文献4】国際公開WO2019/239606号公報
【特許文献5】特許第6722052号公報
【特許文献6】特開2020-146776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1)の検出方法は加工中に到来するかも知れない工具寿命を検出できない。したがって、1本の工具を使用して長時間加工するような場合はワークの加工不良を予防するのが難しい。2)の検出方法は特徴量の数が増えるとその管理が困難であり、また個々の特徴量の上下限値だけでは工具異常を適確に検出できない場合がある。
【0005】
MT法を使用した3)の検出方法は、多数の特徴量を1つの判断指標(MD値)に集約して取り扱える利点があり、2)の方法では検出困難な工具異常も適確に検出可能である。しかしながら、一般にMT法では様々な加工条件に対して一つの単位空間を作成した場合、判定精度が上がらない。加工条件の違いで主軸モータの駆動電流の大きさ・周期性が変化して特徴量の分布(バラツキ)に影響するためである。
【0006】
また、MT法はMD値の所定の閾値を基準として正常/異常を判断するが、MD値は主軸モータの駆動電流により変わるので、加工中に正常と異常が頻繁に切り替わることがある。このような状態では正常/異常の判断が困難となる。そこで本発明は、加工中にMD値が閾値を挟んで変化しても、正常/異常を判断可能な工具寿命検出システム及び工具寿命検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の工具寿命検出システムは、ワークを加工する工具の寿命をMT法を使用して検出する工具寿命検出システムにおいて、前記工具を回転駆動する主軸モータの電流を検出する電流センサと、前記電流センサで検出された電流値を観測データとして使用し、正常な加工条件の組合せの種類ごとの加工データについて複数の単位空間を作成する一方、前記ワークを加工する間に得られる前記電流値の波形から前記単位空間に対するMD値を連続的に算出し、当該MD値が所定の閾値を超えているか否かで前記工具の正常と異常を仮判定し、所定の繰返し判定数に対して前記異常の仮判定の回数が設定回数以上となったときに工具異常と判定する制御部と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の工具寿命検出方法は、ワークを加工する工具の寿命をMT法を使用して検出する工具寿命検出方法において、前記工具を回転駆動する主軸モータの電流を検出する電流センサで検出された電流値を観測データとして使用し、正常な加工条件の組合せの種類ごとの加工データについて複数の単位空間を作成する一方、前記ワークを加工する間に得られる前記電流値の波形から前記単位空間に対するMD値を連続的に算出し、当該MD値が所定の閾値を超えているか否かで前記工具の正常と異常を仮判定し、所定の繰返し判定数に対して前記異常の仮判定の回数が設定回数以上となったときに工具異常と判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加工中にMD値が閾値を挟んで変化しても正常/異常を判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る工具寿命検出システムの概要を示す図である。
図2】工具寿命検出のシステムの設計に使用するデータフロー図である。
図3】工具異常の検出フロー図である。
図4】MD値を計算するときに用いる変化量と存在量を説明する図である。
図5A】MD値の算出手順を説明する図である。
図5B】MD値の算出手順を説明する図である。
図5C】MD値の算出手順を説明する図である。
図5D】MD値の算出手順を説明する図である。
図6】MD値の算出式を示す図である。
図7】MT法の原理を説明する図である。
図8】(a)工具の刃先の側面図と(b)刃先でワークを切削する状態の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る工具寿命検出システムと、当該システムにより実行する工具寿命検出方法について図面に基いて説明する。なお、各図面で共通する部材には原則として同じ符号を付すことで、一度説明した部材についてはその後の重複した説明を省略することとする。
【0012】
(●MT法について)
多変量解析の一種であるMT法は、マハラノビスの距離(MD値)に基づいて、正常/異常の判定を行う分析方法である。正常な集団のことを「単位空間」と呼び、判断基準として利用する。そして判断対象サンプルを単位空間からの離れ具合(MD値)によって定量的に判断する。
【0013】
単位空間とはMD値の算出の基準とするデータ群のことである。MD値は単位空間におけるパラメタの分散や相関に応じて重み付けがなされた距離であり、単位空間におけるデータ群との類似度が低いほど大きい値となる。
【0014】
本発明では、寿命検出が難しい小径工具についてインプロセスで寿命を検出する方法としてMT法を利用する。工具を回転駆動する主軸モータのAC電流を二乗処理した波形を用いて、あらかじめ複数の正常な工具で得られた変化量と存在量を特徴量とする単位空間を作成しておく。AC電流を二乗処理しているのは,ノイズ成分の影響を少なくするためである。
【0015】
加工中の主軸モータのAC電流を二乗処理した波形の特徴量(信号データ、特徴項目又は監視項目とも称する)を算出して単位空間に対してMD値を算出し、これをもとに工具の正常と異常を判別する。MD値とは信号データと、正常データ群である単位空間の原点との距離である。
【0016】
一般にMT法では、様々な加工条件(状態量)に対して1つの(特定の状態量の束に基づく)単位空間を作成した場合、判定精度が上がらない。加工条件の違いで主軸モータの駆動電流の大きさ・周期性が変化して特徴量の分布(バラツキ)に影響するためである。そこで、ワーク・ツール、周速等の加工条件の組合せに対応して、あらかじめ個別に単位空間を定める。
【0017】
対応する単位空間がない場合、すなわち、ワークの加工に使用する加工条件が、単位空間を作成した加工条件に一致しない場合には、加工条件の組合せが近しい単位空間を用いて、修正係数を乗じた加工中の主軸モータのAC電流を二乗処理した波形の特徴量からMD値を算出する。当該「修正係数」は、工具の径、刃数、ワークの材質、送り速度で決まる係数である。
【0018】
(●工具寿命検出システムの概要)
図1は工具寿命検出システムの概要を示すものである。設備(マシニングセンタ)1からの基本的情報(条件ID、加工開始フラグ、加工終了フラグ)と、主軸回転AC電流センサ出力が制御部としての電子制御ユニット(ECU)2に入力される。条件IDは、ツール径、周速、ワーク等の加工条件の組合せの種類ごとに個別に定めるID(Index:指標)を意味する。
【0019】
ここで、本願明細書で使用する用語は以下の意味で使用される。
条件ID :ツール径、周速、ワーク等の加工条件の組合せの種類ごとに個別に定めるID
単位データ :正常な工具の特徴量
信号データ :判別をしたい波形の特徴量
単位空間 :単位データからなるデータ群
MD値 :マハラノビス距離、多次元(標本線の数×2(変化量と存在量))空間で表される単 位空間の原点との距離
【0020】
摩耗過多やチッピング等がある異常工具でワークを加工すると、正常な工具でワークを加工するときと比較して、主軸モータの電流、工具やワークの振動、音といった観測データに違いが表れることが知られている。そこで、計測のしやすさ、前処理の容易さの観点から、主軸モータに後付けでAC電流センサを装着し、当該AC電流センサで計測したAC電流値を二乗処理した波形からMT法の特徴量を算出して用いることにした。
【0021】
工具の正常/異常はMT法のMD値で判定する。そのために、あらかじめ、正常な工具での単位データからなる単位空間を加工条件ごとに作成する。MD値とは、ワーク加工中にサンプリングで得られる信号データと、正常データ群である単位空間の原点との間の距離である。
【0022】
単位空間の作成や判定には、波形の特徴を数値化した存在量と変化量の2つの特徴量を用いる。加工中の波形の特徴量(信号データ)を取り込んで、単位空間に対してMD値を算出し、これをもとに正常/異常(黄)/異常(赤)を判別する。
【0023】
様々な加工条件に対して、1つの単位空間を作成した場合、判定精度が上がらない。加工条件の違いが特徴量の分布(バラツキ)のように扱われるためである。このため、工具異常が発生したときでもMD値が正常時のときに比べてあまり変化せず、異常判定が遅れてしまうことがある。
【0024】
そこで、ワーク、ツール、周速等の加工条件の組み合わせに対して、個別に条件IDを定め、各条件IDによって単位空間及び判定ロジックを切り替えることにした。判定ロジックの切り替えは、図3フロー図のステップS5~S10のように行う。なお、判定の厳しさや誤判定から正常復帰のしやすさを閾値及び正常/異常判定の回数によって変更できる機能も有する。
【0025】
前記AC電流センサ出力は1kHzでサンプリングされ、センサ通信(CAN)を介して信号データとしてECUに入力される。AC電流センサは既存設備に後付けすることができる。「CAN」はController Area Networkと呼ばれる通信プロトコルの一種であって、工場の自動化(FA)等に利用される。
【0026】
ECU2はMD値算出部2Aと異常検出部2Bを有する。MD値算出部2AはAC電流センサ出力を前処理してMD値を計算する。すなわち、
・AC電流センサ出力から判定用データを抜き出す。
・AC電流センサ出力の二乗処理を行う。
・特徴量を算出する(信号データ)。
・信号データの規準化を行う。
・MD値を算出する。
【0027】
異常検出部2Bは、MD値をもとに異常判定を行う。異常判定は、例えば以下の通りである。
工具状態ID 判定内容
1: 正常(起動完了)
2: 判定中
3: 怪しい(黄色判定)
4: 異常(赤判定)


250:FS値(CAN異常)


255:起動中
【0028】
(●フロー図)
図2は工具寿命検出システムの設計に使用するデータフロー図である。当該フロー図に基づいて、図3の工具異常の検出フロー図が作成される。
【0029】
制御部としての電子制御ユニット(ECU)2で、工具寿命検出方法として図3のフロー図が実行される。図3のフロー図において、ステップS1でMD値mdが取得される。ステップS2で当該MD値mdが閾値mを超えているか否か判定される。
【0030】
MD値mdが閾値mを超えていない場合、ステップS3で「OK」カウント+1とされ、当該カウントがr異常であると、ステップS5→S6で異常判定(赤)される。(赤)は異常検出部で表示される警報ランプの色を表す。異常判定(赤)により、加工不良を増やさないために設備(マシニングセンタ)1を自動停止することができる。
【0031】
カウントがr未満y以上であると、ステップS7→S8で異常判定(黄)される。(黄)は異常検出部で表示される警報ランプの色を表す。この段階で工具を交換すれば加工不良を防止することができるので、設備(マシニングセンタ)1を自動停止して工具交換を行う。
【0032】
カウントがy未満s以上であると、ステップS9→S10で正常判定(NGカウント0)される。したがって、同じ工具で加工継続しても加工不良を起こす心配がない。どの条件にも当てはまらない場合はステップS11で「判定中」となる。
【0033】
図4はMD値を計算するときに用いる変化量と存在量を説明する図である。横軸が加工時間、縦軸が主軸モータの電流二乗値の変動を表す。時間軸と平行に一定間隔で延びた複数の破線は標本線である。
【0034】
所定区間内で標本線と交差する回数を変化量とし,標本線よりも上に分布しているデータの合計を存在量とする。変化量と存在量の算出を波形データの全区間で実施することで、波形全体の特徴化を行なうことができる。波形解析の結果からMD値を求めることができる。
【0035】
(●MD値の算出手順)
図5A図5DはMD値の算出手順を説明する図である。図5Aは加工中の定常状態の10波分のデータである。図5Bは標本線10本に対する前記波形の特徴量を抽出する方法を示す。
【0036】
図5Cは複数の単位データ(正常な工具の特徴量)から単位空間を作成する方法を示している。図5Dは信号データ(判別をしたい波形の特徴量)のMD値算出方法を示している。信号データは単位空間(多次元空間)上の1つの点として表されるので、原点から信号データ(点)までの距離がMD値となる。棒グラフは加工中のMD値の推移であり、MD値が判定閾値以下であれば「正常」、判定閾値を超えたものは「異常」と判定される。
【0037】
図6(a)(b)はMD値の算出式を示す図である。MT法で公知の算出式であるのでここでは詳細説明を省略する。
【0038】
図7はMT法の原理を説明する図である。これもMT法で公知であるから詳細説明を省略する。
【0039】
単位空間がある加工条件の組合せについて、加工中の波形の特徴量YiからMD値を算出する場合には、式(1)で規準化された特徴量yiが用いられる。
i=(Yi-m)/σ …(1)
m:単位空間を作成したデータ(単位データ)の平均値
σ:単位空間を作成したデータ(単位データ)の標準偏差
加工中の波形をf(t)とすると、Yiはf(t)の特徴量とする。
【0040】
単位空間がない(単位空間を作成した加工条件の組合せに一致しない)場合には、加工条件の組合せが近しい単位空間を用いて、修正係数αを乗じた加工中の波形の特徴量Yi’を規準化する。
i’=(Yi -m)/σ
m:単位空間を作成したデータ(単位データ)の平均値
σ:単位空間を作成したデータ(単位データ)の標準偏差
【0041】
加工中の波形をf(t)とすると、Yi’はα・f(t)の特徴量とする。修正係数αは、単位空間を作成した加工条件の組合せとMD値を算出する加工条件の組合せから求めることができ、ドリルの場合には式(2)で表される。
α=(n・E・f・φ2)/(n’・E’・f’・φ’2) …(2)
【0042】
n~φは単位空間を作成した加工条件の、
n:刃数、E:比切削抵抗、f:1刃当り送り、φ:工具径である。
n’~φ’はMD値を算出する加工条件の、
n’:刃数、E’:比切削抵抗、f’:1刃当り送り、φ’:工具径である。
【0043】
図8に工具(ドリル)でワークを切削する状態を示す。(a)は工具(ドリル)の刃先の側面図である。(b)は当該刃先でワークを切削する状態の拡大図である。
【0044】
ここで、刃先の微小範囲に作用する切削力をPとすると、
P=A・E=f・dr・E
E:比切削抵抗、f:1刃当り送り
となる。
【0045】
トルクをTとすると、T=r・P=r・f・dr・Eとなる。
したがって、総トルクTallは、
【数1】
と表せる。
総トルクTallは、刃数nと1刃当り送りfに比例し、工具径φの二乗に比例する。
Eは材料と工具材質で決まる定数である。
【0046】
(●まとめ)
本発明によれば、あらかじめMT法を用いて正常な工具の単位空間を作成しておき、加工中の波形の特徴量からMD値を算出し、これをもとに工具の正常と異常を判別しており、寿命判定が正確に行えるので小径工具についても寿命検出が行える。
【0047】
また加工初期の加工データを使用して単位空間を作成する必要がなく、対応した単位空間がない場合には、加工条件の組合せが近しい単位空間を用いて、修正係数を乗じた加工中の波形の特徴量よりMD値を算出するので安定して寿命判定が行える。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1:設備(マシニングセンタ) 2:電子制御ユニット(ECU)
2A:MD値算出部 2B:異常検出部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8