(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168487
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】振動ローラー
(51)【国際特許分類】
E01C 19/26 20060101AFI20221031BHJP
【FI】
E01C19/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073989
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000175386
【氏名又は名称】三笠産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390023386
【氏名又は名称】高美精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107375
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 明広
(72)【発明者】
【氏名】永澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 秀郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】笠松 洋
(72)【発明者】
【氏名】岡部 裕一
【テーマコード(参考)】
2D052
【Fターム(参考)】
2D052AA03
2D052AA04
2D052AC01
2D052AD13
2D052AD17
2D052AD19
2D052BB01
2D052CA14
(57)【要約】
【課題】傾斜面上においてエンジンが停止した場合でも、斜面下方側へ自走してしまう問題を回避でき、走行モードの切換時に油圧回路内の圧力の過大な上昇を抑制し、機体動作の円滑性を保持できる振動ローラーを提供する。
【解決手段】油圧ポンプ3と油圧走行モーター6,7の間にパイロットチェックバルブ8が配置される。パイロットチェックバルブ8のパイロットピストン31は、左半部32と、右半部33と、それらの間に配置されるパイロットスプリング34とによって構成され、左側チェックバルブ13を開放する位置から、右側チェックバルブ23を開放する位置まで移動可能で、パイロットスプリング34が非収縮状態にある場合の長さ寸法を、左側チェックバルブ13及び右側チェックバルブ23の閉弁時の弁体の間隔寸法よりも大きく設定したことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動力が、遠心クラッチを介して油圧ポンプに伝達されるとともに、油圧ポンプから油圧回路内の作動油を介して油圧走行モーターに伝達されて、前後のローラードラムが回転駆動するように構成された振動ローラーにおいて、
油圧ポンプと油圧走行モーターの間にパイロットチェックバルブが配置され、
パイロットチェックバルブが、油圧ポンプ側から供給される作動油が流入し又は油圧ポンプ側へ向かって作動油が流出する第一ポート及び第三ポートと、油圧走行モーター側から供給される作動油が流入し又は油圧走行モーターへ向かって作動油が流出する第二ポート及び第四ポートと、第一ポートから第二ポートまで連通するとともに左側チェックバルブが配置された左側流路と、第三ポートから第四ポートまで連通するとともに右側チェックバルブが配置された右側流路と、左側流路と右側流路の間に配置されたパイロットピストンとを有し、
左側チェックバルブ、及び、右側チェックバルブは、弁体と、弁座と、弁体を弁座に向かって付勢するバルブスプリングとをそれぞれ有し、
左側チェックバルブの弁体は、弁座と第二ポートとの間に配置され、第二ポート側から第一ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、
右側チェックバルブの弁体は、弁座と第四ポートとの間に配置され、第四ポート側から第三ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、
パイロットピストンは、左半部と、右半部と、それらの間に配置されるパイロットスプリングとを有し、左側チェックバルブを開放する位置から、右側チェックバルブを開放する位置まで移動可能なように構成され、パイロットスプリングが非収縮状態にある場合の長さ寸法が、左側チェックバルブ及び右側チェックバルブの閉弁時の弁体の間隔寸法よりも大きく設定され、
パイロットスプリングとして、バルブスプリングよりも付勢力が大きく、かつ、左半部又は右半部が油圧ポンプから供給される作動油の圧力を受けた際に収縮する強さのものが使用されていることを特徴とする振動ローラー。
【請求項2】
左側チェックバルブの弁体及び右側チェックバルブの弁体として、ボール弁が使用されていることを特徴とする、請求項1に記載の振動ローラー。
【請求項3】
左側チェックバルブのバルブスプリングと右側チェックバルブのバルブスプリングとが、等しい付勢力を有していることを特徴とする、請求項1に記載の振動ローラー。
【請求項4】
エンジンの駆動力が、遠心クラッチを介して油圧ポンプに伝達されるとともに、油圧ポンプから油圧回路内の作動油を介して油圧走行モーターに伝達されて、前後のローラードラムが回転駆動するように構成された振動ローラーにおいて、
油圧ポンプと油圧走行モーターの間にパイロットチェックバルブが配置され、
パイロットチェックバルブが、油圧ポンプ側から供給される作動油が流入し又は油圧ポンプ側へ向かって作動油が流出する第一ポート及び第三ポートと、油圧走行モーター側から供給される作動油が流入し又は油圧走行モーターへ向かって作動油が流出する第二ポート及び第四ポートと、第一ポートから第二ポートまで連通するとともに左側チェックバルブが配置された左側流路と、第三ポートから第四ポートまで連通するとともに右側チェックバルブが配置された右側流路と、左側流路と右側流路の間に配置されたパイロットピストンとを有し、
左側チェックバルブ、及び、右側チェックバルブは、傘部を有するポペット弁と、弁座と、傘部をポペット弁を弁座に向かって付勢するバルブスプリングとをそれぞれ有し、
左側チェックバルブのポペット弁は、傘部が弁座と第二ポートとの間に配置され、第二ポート側から第一ポート側へ向かって傘部が押し付けられて閉弁するように構成され、
右側チェックバルブのポペット弁は、傘部が弁座と第四ポートとの間に配置され、第四ポート側から第三ポート側へ向かって傘部が押し付けられて閉弁するように構成され、
パイロットピストンが、左側チェックバルブを開放する位置から、右側チェックバルブを開放する位置まで移動可能なように構成され、長さ寸法が、左側チェックバルブ及び右側チェックバルブの閉弁時のポペット弁の間隔寸法よりも小さく設定され、
左側チェックバルブ、及び、右側チェックバルブの内部に、リリーフ弁がそれぞれ配置され、
左側チェックバルブのリリーフ弁は、弁体が第一ポート側から第二ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、第一ポート側から第二ポート側への作動油の通過を阻止できるとともに、第二ポート側の圧力がリリーフ圧を超えた場合に開弁して、第二ポート側から第一ポート側への作動油の通過を許容するように構成され、
右側チェックバルブのリリーフ弁は、弁体が第三ポート側から第四ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、第三ポート側から第四ポート側への作動油の通過を阻止できるとともに、第四ポート側の圧力がリリーフ圧を超えた場合に開弁して、第四ポート側から第三ポート側への作動油の通過を許容するように構成されていることを特徴とする振動ローラー。
【請求項5】
リリーフ弁のリリーフ圧が、10~15MPaの範囲内に設定されていることを特徴とする、請求項4に記載の振動ローラー。
【請求項6】
作動油が流入し又は流出する第一ポート、第二ポート、第三ポート、及び、第四ポートと、第一ポートから第二ポートまで連通するとともに左側チェックバルブが配置された左側流路と、第三ポートから第四ポートまで連通するとともに右側チェックバルブが配置された右側流路と、左側流路と右側流路の間に配置されたパイロットピストンとを有し、
左側チェックバルブ、及び、右側チェックバルブは、弁体と、弁座と、弁体を弁座に向かって付勢するバルブスプリングとをそれぞれ有し、
左側チェックバルブの弁体は、弁座と第二ポートとの間に配置され、第二ポート側から第一ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、
右側チェックバルブの弁体は、弁座と第四ポートとの間に配置され、第四ポート側から第三ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、
パイロットピストンは、左半部と、右半部と、それらの間に配置されるパイロットスプリングとを有し、左側チェックバルブを開放する位置から、右側チェックバルブを開放する位置まで移動可能なように構成され、パイロットスプリングが非収縮状態にある場合の長さ寸法が、左側チェックバルブ及び右側チェックバルブの閉弁時の弁体の間隔寸法よりも大きく設定され、
パイロットスプリングとして、バルブスプリングよりも付勢力が大きく、かつ、左半部又は右半部が油圧ポンプから供給される作動油の圧力を受けた際に収縮する強さのものが使用されていることを特徴とするパイロットチェックバルブ。
【請求項7】
作動油が流入し又は流出する第一ポート、第二ポート、第三ポート、及び、第四ポートと、第一ポートから第二ポートまで連通するとともに左側チェックバルブが配置された左側流路と、第三ポートから第四ポートまで連通するとともに右側チェックバルブが配置された右側流路と、左側流路と右側流路の間に配置されたパイロットピストンとを有し、
左側チェックバルブ、及び、右側チェックバルブは、傘部を有するポペット弁と、弁座と、傘部をポペット弁を弁座に向かって付勢するバルブスプリングとをそれぞれ有し、
左側チェックバルブのポペット弁は、傘部が弁座と第二ポートとの間に配置され、第二ポート側から第一ポート側へ向かって傘部が押し付けられて閉弁するように構成され、
右側チェックバルブのポペット弁は、傘部が弁座と第四ポートとの間に配置され、第四ポート側から第三ポート側へ向かって傘部が押し付けられて閉弁するように構成され、
パイロットピストンが、左側チェックバルブを開放する位置から、右側チェックバルブを開放する位置まで移動可能なように構成され、長さ寸法が、左側チェックバルブ及び右側チェックバルブの閉弁時のポペット弁の間隔寸法よりも小さく設定され、
左側チェックバルブ、及び、右側チェックバルブの内部に、リリーフ弁がそれぞれ配置され、
左側チェックバルブのリリーフ弁は、弁体が第一ポート側から第二ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、第一ポート側から第二ポート側への作動油の通過を阻止できるとともに、第二ポート側の圧力がリリーフ圧を超えた場合に開弁して、第二ポート側から第一ポート側への作動油の通過を許容するように構成され、
右側チェックバルブのリリーフ弁は、弁体が第三ポート側から第四ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、第三ポート側から第四ポート側への作動油の通過を阻止できるとともに、第四ポート側の圧力がリリーフ圧を超えた場合に開弁して、第四ポート側から第三ポート側への作動油の通過を許容するように構成されていることを特徴とするパイロットチェックバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路盤や舗装面等の締め固め作業に用いられる振動ローラーに関し、特に、油圧駆動方式の振動ローラーに関する。
【背景技術】
【0002】
路盤等の締め固め作業に用いられる振動ローラーにおいては、駆動方式として油圧を利用する方式が採用されることが多い。油圧駆動方式の振動ローラーは、原動機(内燃機関エンジン等)の駆動力を受けて稼働する油圧ポンプと、前後のローラードラムをそれぞれ回転駆動させる二つの油圧走行モーターと、それらの間で作動油を循環させる油圧回路とを有しており、原動機の駆動力が、油圧ポンプから油圧回路を介して油圧走行モーターへ伝達されて、前後のローラードラムが回転駆動するように構成されている。
【0003】
この種の振動ローラーにおいては、エンジンと油圧ポンプとが常時接続されるように構成されたものや、遠心クラッチを介して接続されるように構成されたものがある。これらのうち、エンジンと油圧ポンプとが常時接続されるタイプの振動ローラーは、エンジンの始動時に油圧ポンプ(及び、油圧回路内の作動油、油圧走行モーター)が負荷となってしまうため、始動性が悪いという問題がある。特に、寒冷時等において作動油の流動性が低下している場合には、始動時のエンジンにかかる負荷抵抗は一層大きくなってしまう。
【0004】
一方、遠心クラッチを介してエンジンと油圧ポンプとが接続されるタイプの振動ローラーは、始動時においてエンジンを無負荷で回転させることができ、上記のような始動性の問題を回避することができる。但し、傾斜面上において、エンジンが停止した場合やエンジン回転数が低下して遠心クラッチの接続が切れた場合、油圧走行モーターは、エンジンによる拘束を受けずに回転が可能な状態となるため、自重によって機体が斜面下方側へ自走してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、油圧回路に使用される要素として、パイロットチェックバルブと呼ばれるバルブ装置が知られている。パイロットチェックバルブを油圧回路に配置した場合、油圧ポンプの非動作時において、油圧回路を閉塞して作動油の流れを止めることができる。このバルブを、遠心クラッチタイプの振動ローラーの油圧回路に配置した場合、エンジンが停止した際に油圧回路内における作動油の流れが止まり、油圧走行モーターは回転不能な状態となる。従って、傾斜面上においてエンジンが停止した場合やクラッチの接続が切れた場合でも、機体が斜面下方側へ自走してしまうという問題を回避することができる。
【0007】
しかしながら、従来の一般的なパイロットチェックバルブを振動ローラーの油圧回路に配置した場合、機体の走行モードを「前進」又は「後進」から「中立」に切り換える操作を行った際に、油圧回路内における作動油の流れが一瞬にして停止して、回転中のローラードラムが唐突に無回転状態に移行するという現象が生じる。この場合、ローラードラムを回転させようとする機体の慣性力によって、過大な圧力が油圧回路内で作用することになるほか、機体動作の円滑性が損なわれる(走行中の機体が急激に停止する)という問題がある。
【0008】
この点について、
図7及び
図8に沿って説明する。まず、
図7は、従来の遠心クラッチタイプの振動ローラーの油圧系統に、一般的なパイロットチェックバルブを配置した構成例(走行モードを「中立」に設定した状態)を示す図である。この図において、1はエンジン、2は遠心クラッチ、3は油圧ポンプ、4は切換弁、5は油圧回路、6は機体後方側のローラードラム(後輪)用の油圧走行モーター、7は機体前方側のローラードラム(前輪)用の油圧走行モーター、8はパイロットチェックバルブである。
【0009】
パイロットチェックバルブ8は、本体9の一方側の側面に、作動油が流入又は流出する二つのポート(第一ポート11、及び、第三ポート21)が形成されるとともに、本体9の反対側の側面にも、作動油が流入又は流出する二つのポート(第二ポート12、及び、第四ポート22)が形成されている。
【0010】
本体9の内部には、第一ポート11から第二ポート12まで連通する左側流路10と、第三ポート21から第四ポート22まで連通する右側流路20とが、左右に並列するように形成されている。左側流路10内には、左側チェックバルブ13が配置されている。左側チェックバルブ13は、ボール弁14(弁体)と、弁座15と、ボール弁14を弁座15に押し付けるように付勢するバルブスプリング16とによって構成されている。左側流路10内において、ボール弁14は、弁座15と第二ポート12との間に配置されており、第二ポート12側から第一ポート11側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成されており、第一ポート11側から流入した作動油の通過を許容する一方で、閉弁時において第二ポート12側から流入した作動油の通過を阻止することができる。
【0011】
右側流路20内には、右側チェックバルブ23が配置されている。右側チェックバルブ23は、ボール弁24(弁体)と、弁座25と、ボール弁24を弁座25に押し付けるように付勢するバルブスプリング26とによって構成されている。右側流路20内において、ボール弁24は、弁座25と第四ポート22との間に配置され、第四ポート22側から第三ポート21側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成されており、第三ポート21側から流入した作動油の通過を許容する一方で、閉弁時において第四ポート22側から流入した作動油の通過を阻止することができる。
【0012】
また、本体9の内部には、左側流路10と右側流路20の間(より詳細には、左側流路10内のボール弁14と、右側流路20内のボール弁24の間)に、パイロットピストン31が、左右方向へ(ボール弁14を外側へ押し出して左側チェックバルブ13を開放する位置から、ボール弁24を外側へ押し出して右側チェックバルブ23を開放する位置まで)移動可能なように配置されている。
【0013】
図7に示すように、走行モードが「中立」に設定され、機体が非走行状態にある場合、パイロットピストン31は、左側流路10と右側流路20の中間の位置に定位し、左側チェックバルブ13、及び、右側チェックバルブ23は、いずれも閉じた状態となり、第二ポート12、及び、第四ポート22側からの(即ち、油圧走行モーター6,7側からの)作動油の通過が阻止される。
【0014】
図8は、
図7に示す振動ローラーにおいて、走行モードを「前進」に設定した状態を示す図である。この図に示すように、油圧ポンプ3の切換弁4を操作して走行モードを「前進」に設定すると、油圧回路5内の作動油が、油圧ポンプ3からパイロットチェックバルブ8の第一ポート11に向かって流れ、第一ポート11から左側流路10内に流入する。左側流路10内の左側チェックバルブ13は、第一ポート11側から流入した作動油の通過を許容するように構成されており、作動油は、左側チェックバルブ13のボール弁14を、バルブスプリング16の付勢力に抗して外側(
図8において左側)へ押し開いて、弁座15との間を通過し、第二ポート12から排出され、油圧走行モーター6,7に供給される。そして、油圧走行モーター6,7は、作動油によってそれぞれ前進方向へ回転し、機体が前進する。
【0015】
尚、左側流路10内に作動油が流入すると、左側流路10内の圧力が上昇し、パイロットピストン31が、右側流路20の方向へ押し出される(移動する)ことになる。そして、パイロットピストン31の右側の先端部によって、右側流路20内のボール弁24が外側(
図8において右側)へ押し出されて弁座25から離れ、右側チェックバルブ23が開放された状態となる。
【0016】
油圧走行モーター6,7を通過した作動油は、パイロットチェックバルブ8の第四ポート22から、右側流路20内に流入する。このとき右側チェックバルブ23は、上述の通り、右側へ移動したパイロットピストン31によって開放された状態となっているため、作動油は、右側チェックバルブ23を通過して、第三ポート21から排出され、油圧ポンプ3へ向かって流下する。
【0017】
尚、油圧ポンプ3の切換弁4を操作して走行モードを「後進」に設定すると、油圧回路5内の作動油が、
図8に示す矢印とは反対の方向へ流れ、油圧走行モーター6,7がそれぞれ後進方向へ回転し、機体が後進する。
【0018】
図8に示すように、走行モードが「前進」に設定され、作動油が、油圧ポンプ3から、パイロットチェックバルブ8の左側流路10、油圧走行モーター6,7、パイロットチェックバルブ8の右側流路20を通って循環し、油圧走行モーター6,7が前進方向へ回転している状態から、切換弁4を操作して、走行モードを「中立」に切り換えた場合、第一ポート11から左側流路10内への作動油の流入が止まり、左側チェックバルブ13が閉じられるとともに、パイロットピストン31が元の位置(左側流路10と右側流路20の中間の位置)へ戻り、右側チェックバルブ23が閉じられる。つまり、
図7に示す状態に復帰する。
【0019】
右側チェックバルブ23が閉じられると、第四ポート22側から流入した作動油は、右側チェックバルブ23を通過することができなくなり、油圧回路5内における作動油の流れが一瞬にして停止し、油圧走行モーター6,7は、唐突に回転不能な状態となる。しかしながら、機体の慣性力がローラードラム及び油圧走行モーター6,7に作用して、それらを回転させようとする力(即ち、油圧走行モーター6,7から作動油を排出させようとする力)が働くため、油圧走行モーター6,7から右側チェックバルブ23までの油圧回路5内で、過大な圧力(例えば、機体重量が500kgの振動ローラーの場合、20MPa程度の圧力)が発生する。
【0020】
この大きな圧力は、油圧走行モーター6,7、パイロットチェックバルブ8、及び、油圧回路5自体に悪影響を与えかねず、それらの耐久性の低下を招いてしまうという問題がある。また、回転中のローラードラムが瞬時に無回転状態となり、走行中の機体が急激に停止することになるため、機体動作の円滑性が損なわれるという問題がある。走行モードを「後進」から「中立」に切り換えた場合にも、全く同一の問題が生じることになる。
【0021】
本発明は、このような従来技術における問題を解決しようとするものであって、傾斜面上においてエンジンが停止した場合でも、機体が斜面下方側へ自走してしまうという問題を回避できるとともに、走行モードの切換時において、油圧回路内の圧力の過大な上昇を抑制し、機体動作の円滑性を保持することができる振動ローラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明に係る振動ローラーは、エンジンの駆動力が、遠心クラッチを介して油圧ポンプに伝達されるとともに、油圧ポンプから油圧回路内の作動油を介して油圧走行モーターに伝達されて、前後のローラードラムが回転駆動するように構成され、油圧ポンプと油圧走行モーターの間にパイロットチェックバルブが配置され、パイロットチェックバルブが、油圧ポンプ側から供給される作動油が流入し又は油圧ポンプ側へ向かって作動油が流出する第一ポート及び第三ポートと、油圧走行モーター側から供給される作動油が流入し又は油圧走行モーターへ向かって作動油が流出する第二ポート及び第四ポートと、第一ポートから第二ポートまで連通するとともに左側チェックバルブが配置された左側流路と、第三ポートから第四ポートまで連通するとともに右側チェックバルブが配置された右側流路と、左側流路と右側流路の間に配置されたパイロットピストンとを有し、左側チェックバルブ、及び、右側チェックバルブは、弁体と、弁座と、弁体を弁座に向かって付勢するバルブスプリングとをそれぞれ有し、左側チェックバルブの弁体は、弁座と第二ポートとの間に配置され、第二ポート側から第一ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、右側チェックバルブの弁体は、弁座と第四ポートとの間に配置され、第四ポート側から第三ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、パイロットピストンは、左半部と、右半部と、それらの間に配置されるパイロットスプリングとを有し、左側チェックバルブを開放する位置から、右側チェックバルブを開放する位置まで移動可能なように構成され、パイロットスプリングが非収縮状態にある場合の長さ寸法が、左側チェックバルブ及び右側チェックバルブの閉弁時の弁体の間隔寸法よりも大きく設定され、パイロットスプリングとして、バルブスプリングよりも付勢力が大きく、かつ、左半部又は右半部が油圧ポンプから供給される作動油の圧力を受けた際に収縮する強さのものが使用されていることを特徴としている。
【0023】
尚、左側チェックバルブの弁体及び右側チェックバルブの弁体として、ボール弁が使用されていることが好ましく、また、左側チェックバルブのバルブスプリングと右側チェックバルブのバルブスプリングとが、等しい付勢力を有していることが好ましい。
【0024】
また、本発明に係る振動ローラーは、エンジンの駆動力が、遠心クラッチを介して油圧ポンプに伝達されるとともに、油圧ポンプから油圧回路内の作動油を介して油圧走行モーターに伝達されて、前後のローラードラムが回転駆動するように構成され、油圧ポンプと油圧走行モーターの間にパイロットチェックバルブが配置され、パイロットチェックバルブが、油圧ポンプ側から供給される作動油が流入し又は油圧ポンプ側へ向かって作動油が流出する第一ポート及び第三ポートと、油圧走行モーター側から供給される作動油が流入し又は油圧走行モーターへ向かって作動油が流出する第二ポート及び第四ポートと、第一ポートから第二ポートまで連通するとともに左側チェックバルブが配置された左側流路と、第三ポートから第四ポートまで連通するとともに右側チェックバルブが配置された右側流路と、左側流路と右側流路の間に配置されたパイロットピストンとを有し、左側チェックバルブ、及び、右側チェックバルブは、傘部を有するポペット弁と、弁座と、傘部をポペット弁を弁座に向かって付勢するバルブスプリングとをそれぞれ有し、左側チェックバルブのポペット弁は、傘部が弁座と第二ポートとの間に配置され、第二ポート側から第一ポート側へ向かって傘部が押し付けられて閉弁するように構成され、右側チェックバルブのポペット弁は、傘部が弁座と第四ポートとの間に配置され、第四ポート側から第三ポート側へ向かって傘部が押し付けられて閉弁するように構成され、パイロットピストンが、左側チェックバルブを開放する位置から、右側チェックバルブを開放する位置まで移動可能なように構成され、長さ寸法が、左側チェックバルブ及び右側チェックバルブの閉弁時のポペット弁の間隔寸法よりも小さく設定され、左側チェックバルブ、及び、右側チェックバルブの内部に、リリーフ弁がそれぞれ配置され、左側チェックバルブのリリーフ弁は、弁体が第一ポート側から第二ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、第一ポート側から第二ポート側への作動油の通過を阻止できるとともに、第二ポート側の圧力がリリーフ圧を超えた場合に開弁して、第二ポート側から第一ポート側への作動油の通過を許容するように構成され、右側チェックバルブのリリーフ弁は、弁体が第三ポート側から第四ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、第三ポート側から第四ポート側への作動油の通過を阻止できるとともに、第四ポート側の圧力がリリーフ圧を超えた場合に開弁して、第四ポート側から第三ポート側への作動油の通過を許容するように構成されていることを特徴としている。
【0025】
尚、リリーフ弁のリリーフ圧は、10~15MPaの範囲内に設定されていることが好ましい。
【0026】
更に、本発明に係るパイロットチェックバルブは、作動油が流入し又は流出する第一ポート、第二ポート、第三ポート、及び、第四ポートと、第一ポートから第二ポートまで連通するとともに左側チェックバルブが配置された左側流路と、第三ポートから第四ポートまで連通するとともに右側チェックバルブが配置された右側流路と、左側流路と右側流路の間に配置されたパイロットピストンとを有し、左側チェックバルブ、及び、右側チェックバルブは、弁体と、弁座と、弁体を弁座に向かって付勢するバルブスプリングとをそれぞれ有し、左側チェックバルブの弁体は、弁座と第二ポートとの間に配置され、第二ポート側から第一ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、右側チェックバルブの弁体は、弁座と第四ポートとの間に配置され、第四ポート側から第三ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、パイロットピストンは、左半部と、右半部と、それらの間に配置されるパイロットスプリングとを有し、左側チェックバルブを開放する位置から、右側チェックバルブを開放する位置まで移動可能なように構成され、パイロットスプリングが非収縮状態にある場合の長さ寸法が、左側チェックバルブ及び右側チェックバルブの閉弁時の弁体の間隔寸法よりも大きく設定され、パイロットスプリングとして、バルブスプリングよりも付勢力が大きく、かつ、左半部又は右半部が油圧ポンプから供給される作動油の圧力を受けた際に収縮する強さのものが使用されていることを特徴としている。
【0027】
また、本発明に係るパイロットチェックバルブは、作動油が流入し又は流出する第一ポート、第二ポート、第三ポート、及び、第四ポートと、第一ポートから第二ポートまで連通するとともに左側チェックバルブが配置された左側流路と、第三ポートから第四ポートまで連通するとともに右側チェックバルブが配置された右側流路と、左側流路と右側流路の間に配置されたパイロットピストンとを有し、左側チェックバルブ、及び、右側チェックバルブは、傘部を有するポペット弁と、弁座と、傘部をポペット弁を弁座に向かって付勢するバルブスプリングとをそれぞれ有し、左側チェックバルブのポペット弁は、傘部が弁座と第二ポートとの間に配置され、第二ポート側から第一ポート側へ向かって傘部が押し付けられて閉弁するように構成され、右側チェックバルブのポペット弁は、傘部が弁座と第四ポートとの間に配置され、第四ポート側から第三ポート側へ向かって傘部が押し付けられて閉弁するように構成され、パイロットピストンが、左側チェックバルブを開放する位置から、右側チェックバルブを開放する位置まで移動可能なように構成され、長さ寸法が、左側チェックバルブ及び右側チェックバルブの閉弁時のポペット弁の間隔寸法よりも小さく設定され、左側チェックバルブ、及び、右側チェックバルブの内部に、リリーフ弁がそれぞれ配置され、左側チェックバルブのリリーフ弁は、弁体が第一ポート側から第二ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、第一ポート側から第二ポート側への作動油の通過を阻止できるとともに、第二ポート側の圧力がリリーフ圧を超えた場合に開弁して、第二ポート側から第一ポート側への作動油の通過を許容するように構成され、右側チェックバルブのリリーフ弁は、弁体が第三ポート側から第四ポート側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成され、第三ポート側から第四ポート側への作動油の通過を阻止できるとともに、第四ポート側の圧力がリリーフ圧を超えた場合に開弁して、第四ポート側から第三ポート側への作動油の通過を許容するように構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る振動ローラーは、走行モードを「前進」又は「後進」から「中立」に切り換えた際に、油圧回路内において作動油の流れが一瞬にして停止するという現象、及び、回転中のローラードラムが唐突に無回転状態に移行するという現象の発生を回避することができる。従って、油圧回路内で過大な圧力が作用するという問題や、機体動作の円滑性が損なわれる(走行中の機体が急激に停止する)という問題を解決することができる。
【0029】
また、本実施形態の振動ローラーは、傾斜面上でエンジンが停止した場合等において、自重によって機体が斜面下方側へ自走してしまうという問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態に係る振動ローラーの油圧系統の構成図(走行モードを「中立」に設定した状態)である。
【
図2】
図2は、
図1に示す振動ローラーにおいて、走行モードを「前進」に設定した状態を示す図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す振動ローラーにおけるパイロットチェックバルブ8の動作態様(下り傾斜面においてエンジン1が停止した場合等)の説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の第二実施形態に係る振動ローラーの油圧系統に配置されるパイロットチェックバルブ8(走行モードを「中立」に設定した状態)の構造を示す断面図である。
【
図5】
図5(1)は、
図4に示すポペット弁17,27の側面図、
図5(2)は、A-A線によるポペット弁17,27の水平断面図である。
【
図6】
図6は、
図4に示すパイロットチェックバルブ8の動作態様(走行モードを「前進」に設定した場合)の説明図である。
【
図7】
図7は、従来の遠心クラッチタイプの振動ローラーの油圧系統に、一般的なパイロットチェックバルブを配置した構成例(走行モードを「中立」に設定した状態)を示す図である。
【
図8】
図8は、
図7に示す振動ローラーにおいて、走行モードを「前進」に設定した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面に沿って、本発明「振動ローラー」の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る振動ローラーの油圧系統の構成図である。この図において、1はエンジン、2は遠心クラッチ、3は油圧ポンプ、4は切換弁、5は油圧回路、6は機体後方側のローラードラム(後輪)用の油圧走行モーター、7は機体前方側のローラードラム(前輪)用の油圧走行モーター、8はパイロットチェックバルブである。この図において切換弁4は、走行モードが「中立」となる位置に設定されている。
【0032】
この振動ローラーは、エンジン1の駆動力が、遠心クラッチ2を介して油圧ポンプ3に伝達されるとともに、油圧ポンプ3から油圧回路5内の作動油を介して油圧走行モーター6,7に伝達されて、前後のローラードラムが回転駆動するように構成されている。
【0033】
パイロットチェックバルブ8は、油圧ポンプ3と油圧走行モーター6,7の間に配置され、本体9の一方側の側面に、油圧ポンプ3側から供給される作動油が流入し、又は、油圧ポンプ3側へ向かって作動油が流出する二つのポート(第一ポート11、及び、第三ポート21)が形成されるとともに、本体9の反対側の側面には、油圧走行モーター6,7側から供給される作動油が流入し、又は、油圧走行モーター6,7へ向かって作動油が流出する二つのポート(第二ポート12、及び、第四ポート22)が形成されている。
【0034】
本体9の内部には、第一ポート11から第二ポート12まで連通する左側流路10と、第三ポート21から第四ポート22まで連通する右側流路20とが、左右に並列するように形成されている。左側流路10内には、左側チェックバルブ13が配置されている。左側チェックバルブ13は、ボール弁14(弁体)と、弁座15と、ボール弁14を弁座15に向かって付勢するバルブスプリング16とによって構成されている。左側流路10内において、ボール弁14は、弁座15と第二ポート12との間に配置され、第二ポート12側から第一ポート11側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成されており、第一ポート11側から流入した作動油の通過を許容する一方で、閉弁時において第二ポート12側から流入した作動油の通過を阻止することができる。
【0035】
右側流路20内には、右側チェックバルブ23が配置されている。右側チェックバルブ23は、ボール弁24(弁体)と、弁座25と、ボール弁24を弁座25に向かって付勢するバルブスプリング26とによって構成されている。右側流路20内において、ボール弁24は、弁座25と第四ポート22との間に配置され、第四ポート22側から第三ポート21側へ向かって押し付けられて閉弁するように構成されており、第三ポート21側から流入した作動油の通過を許容する一方で、閉弁時において第四ポート22側から流入した作動油の通過を阻止することができる。尚、右側チェックバルブ23のバルブスプリング26としては、左側チェックバルブ13のバルブスプリング16と等しい付勢力(ばね定数)を有するものが使用されている。
【0036】
また、本体9の内部には、左側流路10と右側流路20の間(より詳細には、左側流路10内のボール弁14と、右側流路20内のボール弁24の間)に、パイロットピストン31が、左右方向へ(ボール弁14を外側へ押し出して左側チェックバルブ13を開放する位置から、ボール弁24を外側へ押し出して右側チェックバルブ23を開放する位置まで)移動可能なように配置されている。
【0037】
図7に示す従来の一般的なパイロットチェックバルブ8におけるパイロットピストン31は、単一の部材によって構成されているが、本実施形態におけるパイロットピストン31は、
図1に示すように、左半部32と、右半部33と、それらの間に配置されるパイロットスプリング34とによって構成されている。
【0038】
本実施形態においては、パイロットスプリング34として、バルブスプリング16,26よりも付勢力(ばね定数)が大きく、かつ、左半部32が左側流路10内において、油圧ポンプ3から供給される作動油の圧力を受けた際に、又は、右半部33が右側流路20内において、油圧ポンプ3から供給される作動油の圧力を受けた際に、収縮する強さのものが使用されている。また、パイロットピストン31は、パイロットスプリング34が非収縮状態にある場合の長さ寸法(ボール弁14と接触する左半部32の左側先端部から、ボール弁24と接触する右半部33の右側先端部までの寸法)が、閉弁時のボール弁14,24の間隔寸法(弁座15に押し付けられた状態のボール弁14の右端から、弁座25に押し付けられた状態のボール弁24の左端までの寸法)よりも大きく設定されている。
【0039】
図1に示すように走行モードが「中立」に設定され、機体が非走行状態にある場合、パイロットピストン31は、左側流路10と右側流路20の中間位置に定位することになる。また、パイロットピストン31の左半部32及び右半部33はいずれも、作動油による圧力を受けていないため、パイロットスプリング34は非収縮状態にあり、このため、ボール弁14が、左半部32によって左側へ押し出されるとともに、ボール弁24が、右半部33によって右側へ押し出され、左側チェックバルブ13、及び、右側チェックバルブ23はいずれも開弁状態(ボール弁14と弁座15との間、及び、ボール弁24と弁座25との間に、僅かな隙間が開いている状態)となる。
【0040】
図2は、
図1に示す振動ローラーにおいて、走行モードを「前進」に設定した状態を示す図である。油圧ポンプ3の切換弁4を操作して、走行モードを「中立」から「前進」に切り換えた場合、油圧回路5内の作動油が、油圧ポンプ3からパイロットチェックバルブ8の第一ポート11に向かって流れ、第一ポート11から左側流路10内に流入する。
【0041】
左側流路10内に作動油が流入すると、左側流路10内の圧力が上昇し、パイロットピストン31の左半部32が右側(右側流路20寄りの位置)へ移動するとともに、パイロットスプリング34が収縮した状態となる。
【0042】
尚、「中立」時において左側チェックバルブ13のボール弁14を左側へ押し出していたパイロットピストン31の左半部32が右側へ移動した場合でも、左側チェックバルブ13は、第一ポート11側から流入した作動油の通過を許容するように構成されているため、左側流路10内に流入した作動油の圧力によって、ボール弁14が、バルブスプリング16の付勢力に抗して外側(
図2において左側)へ押し開かれた状態が維持され、作動油は、弁座15との間を通過し、第二ポート12から排出され、油圧走行モーター6,7側へ供給される。そして、油圧走行モーター6,7は、作動油によって前進方向へ回転し、振動ローラーの機体が前進する。
【0043】
油圧走行モーター6,7を順次通過した作動油は、パイロットチェックバルブ8の第四ポート22から、右側流路20内に流入する。右側チェックバルブ23は、閉弁時において第四ポート22側から流入した作動油の通過を阻止できるように構成されているが、
図2に示すように、右側チェックバルブ23は、パイロットピストン31の右半部33によって開放された状態となっているため、作動油は、右側チェックバルブ23を通過し、第三ポート21から排出され、油圧ポンプ3へ向かって流下し、油圧回路5内を循環する。
【0044】
尚、走行モードを「後進」に設定した場合には、パイロットピストン31が、
図2とは反対向きに動作するとともに、作動油が、
図2の矢印とは反対向きに循環して、振動ローラーの機体が後進する。
【0045】
走行モードが「前進」に設定され、油圧走行モーター6,7が前進方向へ回転している状態から、切換弁4を操作して、走行モードを「中立」に切り換えた場合、パイロットピストン31等は、
図2に示す状態から、
図1に示す状態に復帰する。
【0046】
より詳細には、第一ポート11から左側流路10内への作動油の流入が止まるため、パイロットピストン31の左半部32が元の位置へ移動するとともに、パイロットスプリング34が非収縮状態に戻り、また、左側チェックバルブ13、及び、右側チェックバルブ23はいずれも、パイロットピストン31によって開弁状態に維持される。
【0047】
上述したように、従来の一般的なパイロットチェックバルブを振動ローラーの油圧回路に配置した場合(
図7及び
図8参照)、機体の走行モードを「前進」から「中立」に切り換える操作を行うと、油圧回路内における作動油の流れが一瞬にして停止して、回転中のローラードラムが唐突に無回転状態に移行するという現象が生じ、ローラードラムを回転させようとする機体の慣性力によって、過大な圧力(例えば、20MPa程度の圧力)が油圧回路内で作用することになるほか、機体動作の円滑性が損なわれる(走行中の機体が急激に停止する)という問題があるが、本実施形態の振動ローラーにおいては、そのような問題の発生を好適に回避することができる。
【0048】
具体的には、本実施形態の振動ローラーにおいて、機体の走行モードが「前進」から「中立」に切り換えられた場合、エンジン1の駆動力が油圧走行モーター6,7へ伝達されない状態となるが、機体に残存する慣性力がローラードラム及び油圧走行モーター6,7に作用して、それらを回転させようとする力(即ち、油圧走行モーター6,7から作動油を排出させようとする力)が働き、慣性力が消滅するまでの間、油圧走行モーター6,7から作動油が排出され、パイロットチェックバルブ8の第四ポート22側へ供給されることになる。
【0049】
このとき、上述したように右側流路20の右側チェックバルブ23は開弁状態に維持されており、作動油を通過させることができるため、油圧回路5内において作動油の流れが一瞬にして停止するという現象、及び、回転中のローラードラムが唐突に無回転状態に移行するという現象の発生を回避することができる。従って、油圧回路内で大きな圧力が作用するという問題や、機体動作の円滑性が損なわれる(走行中の機体が急激に停止する)という問題を解決することができる。
【0050】
また、本実施形態の振動ローラーは、傾斜面上でエンジン1が停止した場合等において、自重によって機体が斜面下方側へ自走してしまうという問題を解決することができる。
【0051】
例えば、本実施形態の振動ローラーが、下り傾斜面(機体が前傾姿勢となる傾斜面)において「前進」モードで走行している際に、エンジン1が停止した場合、或いは、エンジン1の回転数が低下して遠心クラッチ2の接続が切れた場合、走行モードを「前進」から「中立」に切り換えたときと同様に、パイロットピストン31等は、
図2に示す状態から
図1に示す状態に復帰する。
【0052】
従って、油圧走行モーター6,7は、エンジン1による拘束を受けずに回転が可能な状態となり、機体が自重によって斜面下方側へ自走し始めることになる。このとき、回転する油圧走行モーター6,7から排出された作動油が、パイロットチェックバルブ8に向かって連続的に流れ、第四ポート22から右側流路20内に流入する。
【0053】
右側流路20においては、右側チェックバルブ23が開弁状態(パイロットピストン31の右半部33によってボール弁24が外側に押し出されて、ボール弁24と弁座25との間に、僅かな隙間が開いている状態)となっているため、作動油が第四ポート22から流入した直後においては、その一部が、ボール弁24と弁座25との隙間を通過して、第三ポート21側へ流れることになる。
【0054】
但し、パイロットピストン31の右半部33に付勢力を与えるパイロットスプリング34は非収縮状態にあり、右半部33がボール弁24を外側へ押し出す力(開弁状態を維持する力)は、それほど大きくない(
図2に示すように、左側流路10内に流入した作動油の圧力を受ける左半部32と、収縮状態のパイロットスプリング34とによってボール弁24側に押圧されている右半部33の力よりも小さい)ため、機体の自走によって回転する油圧走行モーター6,7から排出された作動油が、第四ポート22から右側流路20内に連続的に流入することにより、背圧(右側チェックバルブ23の上流側と下流側の圧力差)が次第に大きくなり、この背圧とバルブスプリング26の付勢力の和が、パイロットスプリング34の付勢力を超えた時点で、右側チェックバルブ23は、
図3に示すように閉じた状態となる。
【0055】
その結果、第四ポート22側から流入した作動油は、右側チェックバルブ23を通過することができなくなり、油圧回路5内における作動油の流れが停止し、油圧走行モーター6,7が回転不能な状態となり、機体が停止する。このように、本実施形態の振動ローラーは、傾斜面上でエンジン1が停止した場合等において、自重によって機体が斜面下方側へ自走し始めた場合でも、その後速やかに機体を停止させることができる。
【0056】
下り傾斜面において機体が「後進」モードで走行している際に、エンジン1が停止した場合等においても、上記と同様に、機体が自重によって斜面下方側へ自走し始めた後、
図3に示すように右側チェックバルブ23が閉じた状態となり、機体を停止させることができ、また、上り傾斜面(機体が後傾姿勢となる傾斜面)において機体が「前進」モード又は「後進」モードで走行している際に、エンジン1が停止した場合等においても、機体が自重によって斜面下方側へ自走し始めた後、左側チェックバルブが閉じた状態となり(図示せず)、機体を停止させることができる。
【0057】
第一実施形態の振動ローラーにおいては、パイロットチェックバルブ8の弁体としてボール弁14,24が採用されているが、ボール弁14,24の代わりに、
図4に示すようなポペット弁17,27を採用することもできる。
【0058】
図4は、本発明の第二実施形態に係る振動ローラーの油圧系統に配置されるパイロットチェックバルブ8(走行モードを「中立」に設定した状態)の構造を示す断面図である。このパイロットチェックバルブ8においては、弁体としてポペット弁17,27が配置され、また、これらのポペット弁17,27の間には、単一の要素によって構成されたシンプルな構造のパイロットピストン31が配置されている。
【0059】
図5(1)は、
図4に示すポペット弁17,27の側面図、
図5(2)は、A-A線によるポペット弁17,27の水平断面図である。ポペット弁17,27は、弁座15(
図4参照)に当接する中央の傘部41と、基端側(
図5において左側)のベース部42と、先端側(
図5において右側)の延長部43と、傘部41と延長部43の間の小径部44とによって構成されている。
【0060】
延長部43及び小径部44は、いずれも円筒状に形成されており、内側に作動油を流下させるための内部流路45が形成されている。小径部44は、延長部43よりも外径寸法が小さく設定されている。また、延長部43の両側部、及び、小径部44の両側部には、内部流路45と外側とを連通させる貫通孔46がそれぞれ形成されている。更に、延長部43の先端部には、先端側開口部47が形成されている。
【0061】
ベース部42の基端部には、基端側開口部48が形成されている。また、傘部41及びベース部42の内側には、基端側開口部48及び内部流路45と連通する空洞部49が形成されており、この空洞部49にはリリーフ弁50が配置されている。リリーフ弁50は、ボール弁51(弁体)と、弁座52と、ボール弁51を弁座52に押し付けるように付勢するバルブスプリング53とによって構成されている。
【0062】
尚、ボール弁51は、弁座52と内部流路45との間に配置されており、内部流路45側(
図4に示す第一ポート11又は第三ポート21側)から弁座52(
図4に示す第二ポート12又は第四ポート22側)へ向かって押し付けられて閉弁するように構成されている。
【0063】
このリリーフ弁50は、リリーフ圧が10MPa(10~15MPaの範囲内とすることが好ましい)に設定されており、内部流路45側(
図4に示す第一ポート11又は第三ポート21側)から基端側開口部48側(
図4に示す第二ポート12又は第四ポート22側)への作動油の通過を阻止できるとともに、基端側開口部48側の圧力が10MPaを超えた場合に開弁して、基端側開口部48側(
図4に示す第二ポート12又は第四ポート22側)から内部流路45側(
図4に示す第一ポート11又は第三ポート21側)への作動油の通過を許容するように構成されている。
【0064】
図4に示すように、左側チェックバルブ13、及び、右側チェックバルブ23は、ポペット弁17,27と、弁座15,25と、ポペット弁17,27の傘部41を弁座15,25に向かってそれぞれ付勢するバルブスプリング16,26とをそれぞれ有している。左側チェックバルブ13のポペット弁17は、傘部41が弁座15と第二ポート12との間に配置され、第二ポート12側から第一ポート11側へ向かって傘部41が押し付けられて閉弁するように構成されている。また、右側チェックバルブ23のポペット弁27は、傘部41が弁座25と第四ポート22との間に配置され、第四ポート22側から第三ポート21側へ向かって傘部41が押し付けられて閉弁するように構成されている。
【0065】
パイロットピストン31は、長さ寸法(ポペット弁17と接触する左端部から、ポペット弁27と接触する右端部までの寸法)が、閉弁時のポペット弁17,27の間隔寸法(傘部41が弁座15,25にそれぞれ押し付けられた状態のポペット弁17,27の延長部43の先端同士の間隔寸法)よりも僅かに小さく設定されている。
【0066】
走行モードが「中立」に設定され、機体が非走行状態にある場合、左側流路10と右側流路20の間で圧力差は生じていないため、パイロットピストン31は、左側流路10と右側流路20の中間位置に定位することになる。従って、左側チェックバルブ13、及び、右側チェックバルブ23は、いずれも閉じた状態となり、第二ポート12、及び、第四ポート22側からの(即ち、油圧走行モーター側からの)作動油の通過が阻止される。
【0067】
図6は、
図4に示すパイロットチェックバルブ8の動作態様(走行モードを「前進」に設定した場合)の説明図である。油圧ポンプの切換弁を操作して走行モードを「前進」に設定すると、図示しない油圧ポンプから供給される作動油が、第一ポート11から左側流路10内に流入する。左側流路10内の左側チェックバルブ13は、第一ポート11側から流入した作動油の通過を許容するように構成されており、左側流路10内に流入した作動油の圧力によって、左側チェックバルブ13のポペット弁17が、バルブスプリング16の付勢力に抗して外側(
図6において左側)へ押し開かれて、作動油は、弁座15との間を通過し、第二ポート12から排出され、図示しない油圧走行モーターに供給される。そして、油圧走行モーターは、作動油によってそれぞれ前進方向へ回転し、機体が前進する。
【0068】
左側流路10内に作動油が流入すると、左側流路10内の圧力が上昇し、パイロットピストン31が、右側流路20の方向へ押し出される(移動する)ことになる。そして、パイロットピストン31の右側端部によって、右側流路20内のポペット弁27が外側(
図6において右側)へ押し出され、ポペット弁27の傘部41が弁座25から離れ、右側チェックバルブ23が開放された状態となる。
【0069】
油圧走行モーターを通過した作動油は、パイロットチェックバルブ8の第四ポート22から、右側流路20内に流入する。このとき右側チェックバルブ23は、上述の通り、右側へ移動したパイロットピストン31によって開放された状態となっているため、作動油は、右側チェックバルブ23を通過して、第三ポート21から排出され、油圧ポンプへ向かって流下する。
【0070】
尚、油圧ポンプの切換弁を操作して走行モードを「後進」に設定すると、油圧回路内の作動油が、
図6に示す矢印とは反対の方向へ流れ、油圧走行モーターがそれぞれ後進方向へ回転し、機体が後進する。
【0071】
図6に示すように、走行モードが「前進」に設定され、油圧走行モーターが前進方向へ回転している状態から、切換弁を操作して、走行モードを「中立」に切り換えた場合、第一ポート11から左側流路10内への作動油の流入が止まり、左側チェックバルブ13が閉じられるとともに、パイロットピストン31が元の位置(左側流路10と右側流路20の中間の位置)へ戻り、右側チェックバルブ23が閉じられる。つまり、
図4に示す状態に復帰する。
【0072】
右側チェックバルブ23が閉じられると、第四ポート22側から流入した作動油は、ポペット弁27と弁座25との間を通過することができなくなる。上述した通り、従来の一般的なパイロットチェックバルブ8を振動ローラーの油圧系統に配置した場合(
図7及び
図8参照)、前進走行中に右側チェックバルブ23が閉じられると、機体の慣性力により、右側チェックバルブ23の上流側(第四ポート22側)において20MPa程度の過大な圧力が発生することになるが、本実施形態においては、リリーフ圧が10MPaに設定されたリリーフ弁50が、ポペット弁27の内側に配置されており、第四ポート22側の圧力がリリーフ圧(10MPa)を超えると、リリーフ弁50が開くように構成されているため、第四ポート22側から第三ポート21側へ圧力が抜けることになり、第四ポート22側における過大な圧力の発生を抑制することができる。
【0073】
走行モードが「後進」に設定され、油圧走行モーターが後進方向へ回転している状態から、切換弁を操作して、走行モードを「中立」に切り換えた場合も、左側流路10の第二ポート12側の圧力がリリーフ圧を超えると、ポペット弁17の内側に配置されているリリーフ弁50が開いて、第二ポート12側から第一ポート11側へ圧力が抜けることになり、第二ポート12側における過大な圧力の発生を抑制することができる。
【0074】
また、本実施形態の振動ローラーも、第一実施形態の振動ローラーと同様に、傾斜面上でエンジンが停止した場合等において、自重によって機体が斜面下方側へ自走してしまうという問題を解決することができる。
【0075】
例えば、本実施形態の振動ローラーが、下り傾斜面において「前進」モードで走行している際に、エンジン1が停止した場合、或いは、エンジン1の回転数が低下して遠心クラッチ2の接続が切れた場合、走行モードを「前進」から「中立」に切り換えたときと同様に、パイロットピストン31等は、
図6に示す状態から
図4に示す状態に復帰する。
【0076】
つまり、右側チェックバルブ23は閉じられることになるため、右側流路20内の第四ポート22側の作動油は、右側チェックバルブ23を通過することができず、油圧回路5内における作動油の流れが停止し、油圧走行モーターは回転不能な状態となり、機体が停止する。
【0077】
尚、ポペット弁27の内部には、第四ポート22側から第三ポート21側への作動油の通過を許容し得るリリーフ弁50が配置されているが、機体重量が500kg程度の振動ローラーが斜面下方側へ自走した場合に、油圧回路内で生じる作動油の圧力は3~5MPa程度であり、本実施形態におけるリリーフ弁50のリリーフ圧(10MPa)よりも低いため、リリーフ弁50は開放されず、従って上述した通り、油圧回路内における作動油の流れは右側チェックバルブ23によって閉塞されて停止し、機体は停止することになる。
【0078】
尚、下り傾斜面において機体が「後進」モードで走行している際に、エンジンが停止した場合においても、上記と同様に、右側チェックバルブ23が閉じられることにより、機体は停止することになり、また、上り傾斜面(機体が後傾姿勢となる傾斜面)において機体が「前進」モード又は「後進」モードで走行している際に、エンジン1が停止した場合等においても、左側チェックバルブ13が閉じられることにより、機体は停止することになる。従って、本実施形態の振動ローラーにおいても、自重によって機体が斜面下方側へ自走してしまうという問題を好適に解決することができる。
【符号の説明】
【0079】
1:エンジン、
2:遠心クラッチ、
3:油圧ポンプ、
4:切換弁、
5:油圧回路、
6,7:油圧走行モーター、
8:パイロットチェックバルブ、
9:本体、
10:左側流路、
11:第一ポート、
12:第二ポート、
13:左側チェックバルブ、
14:ボール弁、
15:弁座、
16:バルブスプリング、
17:ポペット弁、
20:右側流路、
21:第三ポート、
22:第四ポート、
23:右側チェックバルブ、
24:ボール弁、
25:弁座、
26:バルブスプリング、
27:ポペット弁、
31:パイロットピストン、
32:左半部、
33:右半部、
34:パイロットスプリング、
41:傘部、
42:ベース部、
43:延長部、
44:小径部、
45:内部流路
46:貫通孔、
47:先端側開口部、
48:基端側開口部、
49:空洞部、
50:リリーフ弁、
51:ボール弁、
52:弁座、
53:バルブスプリング