(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168489
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 2/00 20060101AFI20221031BHJP
D01D 5/06 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
D01F2/00 Z
D01D5/06 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073993
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000103622
【氏名又は名称】オーミケンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】磯島 康之
(72)【発明者】
【氏名】梶田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】岡林 太志
【テーマコード(参考)】
4L035
4L045
【Fターム(参考)】
4L035BB06
4L035BB11
4L035BB16
4L035BB19
4L035BB22
4L035BB66
4L035BB91
4L035EE09
4L045AA02
4L045BA01
4L045DA06
4L045DA32
4L045DA33
4L045DB07
4L045DB17
(57)【要約】
【課題】高強度、高伸度、高弾性などの高度な機械的物性を具備した溶剤法セルロースフィラメント糸を製造することができる溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法を提供すること。
【解決手段】溶剤法セルロースフィラメント糸を紡糸するに当たって、エアギャップ中に紡出された糸条を、凝固を主に実行するために調製された凝固液を用いた凝固部3で処理し、次いで凝固後の再生を主に実行するための再生媒体を用いた再生部7で処理を行った後、水洗、乾燥及び巻取を行う溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法において、凝固液は、低温・高濃度溶剤液であり、再生媒体は、高温水及び/又は飽和蒸気若しくは過熱水蒸気であり、かつ、再生部の前後に糸走速度規制のためのゴデットロール5、8を設けて、凝固部3までのドラフト及び再生部7のドラフトを規制する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤法セルロースフィラメント糸を紡糸するに当たって、エアギャップ中に紡出された糸条を、凝固を主に実行するために調製された凝固液を用いた凝固部で処理し、次いで凝固後の再生を主に実行するための再生媒体を用いた再生部で処理を行った後、水洗、乾燥及び巻取を行う溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法において、前記凝固液は、低温・高濃度溶剤液であり、前記再生媒体は、高温水及び/又は飽和蒸気若しくは過熱水蒸気であり、かつ、前記再生部の前後に糸走速度規制のためのゴデットロールを設けて、凝固部までのドラフト及び再生部のドラフトを規制することを特徴とする溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法。
【請求項2】
前記凝固液は、温度25℃以下、溶剤液濃度10%以上の低温・高濃度溶剤液であることを特徴とする請求項1に記載の溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法。
【請求項3】
前記再生媒体は、温度80℃以上の高温水及び/又は飽和蒸気若しくは過熱水蒸気であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法。
【請求項4】
再生部の前後に糸走速度規制のためのゴデットロールを設けて、紡出~凝固段階でのドラフト比を60以内とし、再生部前後のゴデットロール間では1~300%の延伸を行うことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法。
【請求項5】
セルロース溶剤として、NMMOを用いることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法。
【請求項6】
セルロース溶剤として、イオン液体を用いることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤法セルロースフィラメント糸の製造において、高強度、高伸度、高弾性などの高度な機械的物性を具備し発現させるための湿式紡糸方法に関するものである。より詳細には、溶剤法セルロースフィラメント糸の凝固再生過程における現象と機能の検討によって、これまで潜在化していたフィラメント糸としての能力を顕在化発現させる方法に関するものである。また、高速紡糸時においてもその効果を優位に発現させるために適した湿式紡糸方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然原料であるセルロースに対してザンテーション(硫化)やキュプラアンモニウム化のような化学変性を加えることなく、原料パルプから溶剤による直接溶解によって紡糸ドープ液を製造し、繊維成形した後、脱溶剤処理によってセルロース繊維を生成させる方法が知られている。
【0003】
レンチング社によるリヨセル繊維は、N-メチルモルホリン-N―オキシド(本明細書において、「NMMO」という。)を溶媒としたセルロースステープル糸である。この製造技術は1980年代に工業化に至り、その後その需要を順次増大させながら30年以上経った今日、その生産は大きく拡大している。
【0004】
一方、溶剤法によるセルロース繊維が他のセルロース繊維に比べて高い強度を有するという特長を生かして、同様の紡糸原理を応用してフィラメント糸分野においても開発が長年試みられている。
【0005】
特許文献1には、NMMOを溶剤とするフィラメント糸製造方法が記載されている。
特許文献1において、原液調整、紡出エアギャップ紡糸、凝固浴、水洗部、乾燥部、巻取部で処理されることが明記されている。凝固浴で凝固再生反応を完了させた後、水洗部での洗浄処理を行うことが示されている。
【0006】
特許文献2には、同じく、NMMOを溶剤とするフィラメント糸製造方法が記載されている。
特許文献2において、紡糸されたフィラメントは、紡糸後、凝固浴で凝固液によって凝固したフィラメントはこれに含まれるNMMOが水で除去され,NMMO成分が残らないように水洗装置を通過する際に洗浄される。
そして、水洗装置の1段目に集まったNMMO液の含有量が3~25重量%になるように投入される水洗液の量を調節し、次いで乾燥することにより繊維を得てワインディングすることが示されている。
【0007】
特許文献2で提案された技術によれば、このようにして得られた繊維をオートクレーブ中で120℃の飽和蒸気状態で10分間浸漬処理を行った後、130℃の常圧で2時間乾燥させることによって物性が改善されることが記載されている。
【0008】
いずれの場合でも、繊維形成に当たっては単一の凝固液が用いられ、凝固及び再生が遂行されている。これらの処理のために流動浴が用いられているが、その流動浴によって凝固後、再生を行い、その後洗浄乾燥処理を行いフィラメント糸として仕上げを行う。
【0009】
一方、特許文献3には、セルロース溶剤としてイオン液体を用いる技術が記載されている。
特許文献3には、溶剤としてイオン液体を用いて多糖体原料を溶解してなる多糖類溶液を、イオン液体を含む固形化液体に接触させて、多糖類を乾湿式紡糸する精製多糖類繊維の製造法が示されている。
【0010】
さらに、特許文献3には、複数段の固形化液体槽に遂次浸漬する方法が開示されており、それらの槽における固体化液体におけるイオン液体の濃度が0.4~70重量%であることを示している。
紡出された繊維は、第1の固形化槽、第2の固形化槽及び第3の固形化槽を浸漬通過して処理される。第1の固形化槽における第1固形化液による作用効果については実施例中に記載されているが、第2の固形化槽、第3の固形化槽についてはその役割についての説明がなく、順次濃度を希薄にすることによって全体としての効果を発揮させようとしたものである。この結果、イオン液体のリサイクル性に優れた、高い強力及び伸度を有する精製多糖体類繊維を製造する方法が得られることが記載されている。
【0011】
特許文献3には、イオン液体の種類については網羅的に説明がなされているものの、紡糸方法や紡糸過程における現象についての記載は限られている。このことから、特許文献3は、イオン液体を用いること自体を主眼に置いた技術であり、特許文献1~2にあるような複数段の水洗洗浄による脱溶媒を目指したものと解される。
【0012】
また、特許文献3には、第1の固形化液が20重量%のとき、第2の固形化液は16重量%以下であることが望ましく、12重量%以下であることがより望ましく、8重量%以下であることが特に好ましいとされている。多段式の液槽の中で、遂次処理することは特許文献2と同じである。
浸漬式かスプレー付与式かの違いはあっても、順次希薄な溶液中で多段処理することは共通である。各層における機能については記載されていないが、多段式水洗段方式としては共通している。
【0013】
特許文献1~3以外にも数多くの技術がフィラメント糸分野の技術開発を目指して開示されている。
しかしながら、フィラメント糸分野においては、その有用性を高く期待されながらも幾つかの理由が障害となって今日に至るまで工業生産、商業生産に至ったという事実はない。
【0014】
その主な理由は、ステープルに比べて生産デニールが著しく低いことにある。それゆえ生産性やコストの面で事業化に耐えうる損益構造に競合素材対比でなりにくく、事業化に対する難易度は高いと見られている。
【0015】
そのために主原料及び副原料のすべてに亘って、ロス率を低減させ、原単位を向上させること、また単価の低減を図ることも必要である。
しかし、これまでの工業化技術では製造変動費を抑え込むことに成功していない。
さらに、生産デニールが小さいことに加え、生産速度が低いため、償却費や労務費などの固定製造費負担が大きい。この固定製造費の問題が全コストの圧迫要因になっており、このブレークスルーのため紡糸操作及び洗浄、乾燥処理における高速化が求められてきた。
【0016】
その他の理由は、その物性面にある。同じセルロースフィラメント糸である強力レーヨンに比べて、伸度が低く、かつディッピング加工後の耐疲労度低下が大きいとされる。伸度の低さが耐疲労性に影響を与えるとされており、強度アップとともに一段の高物性化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2006-188806号公報
【特許文献2】特表2010-529325号公報
【特許文献3】特開2014-227619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
溶剤法セルロースフィラメント糸に関してはこれらの課題が指摘されてきたところであるが、本発明はこれらの課題のうち、特に、物性に関する課題を解決することを目的としたものである。
物性は、用途の適合性における最たる課題であり、その点で本発明は溶剤法セルロースフィラメント糸が資材用途、特に、タイヤコード糸分野にこれまで本格的に事業参入できていなかったことをブレークスルーするための技術を提供することを目的としたものである。
【0019】
得られる繊維の物性は、原料スペック、原液ドープ条件、紡糸条件によって大きく変わる。産業的な観点からいえば比較的安価な低重合度(DP)パルプを使用した場合に、高い強伸度、弾性率が発揮できることが望ましい。
また、固定製造コスト低減の観点からは高速度での生産時において高物性の発現が安定的になされることが望ましい。
【0020】
そうしたなかで、溶剤法セルロースフィラメント糸の凝固再生過程の重要性に着目し、凝固再生過程の機能を分離分解しながら検証することによって、溶剤法セルロースフィラメント糸製造において従来方法に比べて一段の物性向上を具現する方法を見出すことができ本発明に至ったものである。
また、高強度糸製造に一般的に用いられる高重合度パルプを使用したときに比べて、低い重合度パルプを用いた場合においても高い強伸度、弾性率を発揮させることが目的である。
加えて、500~600m/minを凌駕するような高速生産時においても物性低下を起こすことなく、高い強伸度、弾性率が発揮できることも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明の溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法は、溶剤法セルロースフィラメント糸を紡糸するに当たって、エアギャップ中に紡出された糸条を、凝固を主に実行するために調製された凝固液を用いた凝固部で処理し、次いで凝固後の再生を主に実行するための再生媒体を用いた再生部で処理を行った後、水洗、乾燥及び巻取を行う溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法において、前記凝固液は、低温・高濃度溶剤液であり、前記再生媒体は、高温水及び/又は飽和蒸気若しくは過熱水蒸気であり、かつ、前記再生部の前後に糸走速度規制のためのゴデットロールを設けて、凝固部までのドラフト及び再生部のドラフトを規制することを特徴とする。
これにより、高強度、高伸度、であり結果的に高タフネス、高弾性である溶剤法セルロースフィラメント糸を製造することができる。
ここで、溶剤法セルロースフィラメント糸の製造に当たって、紡糸原液ドープの調製方法は一般的な既知の方法による。その後、スピンパックやノズルキャピラリーを含むスピンヘッド部から繊条として吐出し、エアギャップ部で整流された低温・低湿の冷風によって冷却された後、凝固部において凝固作用を受けるようにする。
【0022】
この場合において、凝固液は低温が望ましい。具体的には温度25℃以下、好ましくは20℃以下、より好ましくは温度15℃以下である。凝固液の溶剤液濃度は10%以上が
望ましい。好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上である。凝固液の温度が25℃より高い場合は、紡糸性の悪化につながり、糸切れの頻発を招く。また強伸度などの機械的物性の向上にはつながらない。凝固液の溶剤液濃度が10%未満の低濃度の場合は後述する再生部での延伸率が上がらず、強伸度などの物性向上効果は限定的となる。
【0023】
また、凝固が実質的に完了後、直ちに再生処理に入るが、再生媒体は、温度80℃以上の高温水及び/又は飽和蒸気若しくは過熱水蒸気であることを特徴とする。
熱水の場合、槽の溶剤濃度は供給繊維糸条量と供給水量によって決まる。重要なことは濃度ではなく、供給されるのは水であるということであり、溶剤は含まれない。しかも高温であることが必須要件である。
再生媒体の好適例は飽和蒸気である。過熱水蒸気を用いることがさらに望ましい。
ここで、供給する再生媒体には溶剤は含まれないが、糸条との接触によって脱溶媒による溶剤濃度は確認されるようになる。その濃度は再生媒体供給量と糸量によって異なるがこれはさほど重要ではない。重要なことは供給される媒体がフレッシュ水からなる熱水、飽和水蒸気、過熱水蒸気のように溶剤を含まない媒体であることである。
【0024】
このように、再生媒体は、浸漬式であっても、蒸気による吹き当て暴露式であっても、短時間で効果ならしめるためには高温であることが重要である。
凝固段階での繊維構造が剛直形成された場合、その繊維構造に緩みを与えるのは難易度の高い作業となるが、高温下に置かれる処理によって、凝固過程で生じた剛直な繊維構造に緩みが生じる。その結果、再生部での延伸が可能となる。
【0025】
また、再生部の前後に糸走速度規制のためのゴデットロールを設けて、紡出~凝固段階でのドラフト比を60以内とし、再生部前後のゴデットロール間では1~300%の延伸を行うことを特徴とする。
これらは糸条の速度を既定の値に規制するためのものである。
再生部前のゴデットロール(第1ゴデットロール)によって紡出時の吐出線速度との関係でエアギャップ部におけるドラフト比と凝固段階でのドラフト比が決定される。
このドラフト比の値は、第1ゴデットロール速度(m/min)/ドープ液の紡糸ノズルのオリフィスからの吐出線速度(m/min)で表され、エアギャップ部でのエアギャップドラフトと凝固浴中でのコアギュレーションドラフトが合成されたものとなる。
また、再生部前後のゴデットロールの速度によって、再生部における延伸率が決定される。
紡出~凝固の間では60倍以内のドラフトを掛けることが望ましい。
このようなドラフトを掛けるためには、紡出に使うノズルオリフィスのキャピラリースペック、特にL/Dが重要である。
これに対し、再生部前後のゴデットロール間では1~300%の延伸を行うことが必要である。
【0026】
また、セルロース溶剤として、NMMOやイオン液体を用いることができる。
ここで、イオン液体とは、カチオン部とアニオン部からなる有機溶剤である。カチオン部は各種アルキル基を有するイミダゾリウムイオン、アニオン部はクロライドイオンのほか、ホスフィネート、ホスホネートイオン、ホスフェートイオンのような燐系化合物を用いることができる。
【0027】
溶剤法の場合、凝固の段階で剛直な繊維構造が形成されることが知られている。
しかし高温の湿熱条件にさらされることによってその剛直構造が緩和させることが確認できた。
再生部前後のゴデットロールを同じ速度で紡糸した状態で、再生液の温度条件をアップさせると糸条が第1ロールに巻き付くようになる。これは再生部区間中で糸条に緩みが生
じている証拠である。この緩みは延伸を与える源泉になる。
単一の凝固再生液ではなく、凝固機能と再生機能を分離した媒体で処理した方が高物性を獲得する上で効果的であることが分かった。
【0028】
本発明の溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法は、以下の点が推奨される。
・凝固と再生を機能分化すること、そのために凝固液と再生媒体を分けること。
・凝固には遅延性、再生には加速性をもたせ、そのために、凝固液は高濃度かつ低温、再生液は低濃度かつ高温にする。
【発明の効果】
【0029】
本発明の溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法によれば、凝固の段階で剛直なセルロース分子構造を形成し、高強度、高伸度、高弾性などの高度な機械的物性を具備した溶剤法セルロースフィラメント糸を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法を実施する装置の一例を示す模式図である。
【
図2】同再生媒体をフィラメント糸条に当てるために好適な再生媒体供給装置を示す説明図で、(A)は断面図、(B)は平面図である。
【
図3】同再生媒体をフィラメント糸条に当てるためにより好適な再生媒体供給装置を示す説明図、(A)は断面図、(B)は平面図である。
【
図4】凝固部のドラフトと再生部の延伸率を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0032】
図1に、本発明の溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法を実施する装置の一例を示す。
原液調整工程(図示省略)で調製された紡糸ドープ液は、スピンパック、ノズルオリフィスを含むスピンヘッド部1から紡出され、エアギャップ部2を通過しながら冷風を当てて冷却される。
【0033】
その後、フィラメント糸条は、本発明の中核部分をなす凝固部3及び再生部7で処理を受けた後、既知の洗浄工程や乾燥工程を経て最終的にはフィラメント糸として巻き取られる。
図示において、巻取部などは省略してあり、また、水洗部15や乾燥部16は長さの関係で途中をカットして表示してある。
なお、
図1中、17は洗浄液回収流路、18は洗浄液回収槽である。
【0034】
図1における水洗部15や乾燥部16などは、メインコンベア13及びカバーコンベア14を用いた弛緩コンベアプロセスとして描かれているが、特許文献1~2に示されているように、走行糸条をロール搬送しながら洗浄乾燥処理を行うロールプロセスであっても良い。
【0035】
凝固部3は、図示されているように、流動浴を用いるのが高速紡糸対応などにおいて好都合である。
凝固部から出た糸条は糸液分離変向バー4により凝固液から分離される。
糸条と分離した凝固液は、落液後、凝固液回収槽19にストックされ、循環ポンプ(図示省略)によって循環され、冷却器20で冷却され、凝固部3に5~15℃の温度で循環
供給される。
【0036】
凝固液の温度は25℃以下が適温である。低温ほど望ましく、25℃より高い温度は紡糸性の観点からも不適である。
凝固液の濃度は10%以上であることがドラフトや延伸率を上げて物性を高いレベルに発現させるために好適である。
溶剤法セルロース繊維の凝固段階は、凝固液と接触後、初期凝固から凝固完成段階を含め、0.05~0.1秒の間と見られる。
凝固液の濃度が高くなれば、凝固固化が完了するまでの時間は延びる。濃度25%の場合で0.1秒程度である。
凝固部でのフィラメント糸条の滞在時間は紡糸速度から決定され、紡糸速度が高くなればなるほど凝固部の長さは長く取る必要がある。
凝固浴温度15℃より高い温度、特に25℃以上になると、エアギャップ中での糸切れが多発する。高温凝固でエアギャップ切れが発生することは溶剤種に関わらずNMMOでもイオン液体でも同様に発生する。
【0037】
凝固液濃度は生産量や凝固液や洗浄液の流し方によって影響を受けるが、所定の濃度に設定させることは工程設計によって可能である。
【0038】
1つのモデルケースとして、紡糸ドープ液のセルロース濃度を標準的な10%とした場合の試算を行うと溶剤原単位は9となる(紡糸ドープに水分を含まない場合。)。
水洗部での洗浄水の消費量は洗浄効率によるが、水原単位25とした場合、すべての凝固液、再生媒体、洗浄液を凝固液に集積させたときの濃度は、9/(9+25)=26重量%になる。
【0039】
系全体及び工程各部での溶剤量の存在量はマテリアルバランスを取ることで明確になる。溶剤の3つの出所は、凝固液、再生媒体、洗浄液であるが、これらは最終的には溶剤回収工程の溶剤回収装置21に回って、ロスがないようにリサイクル使用される。各々の媒体液にはストック槽が設けられているので各ストック槽から凝固液の濃度調整に必要な量を分岐させて凝固液ストック槽に供給して濃度調整する。
【0040】
系全体の溶剤を回収すれば、20%以上、洗浄水原単位も改善することができれば、再生部に蒸気を使用する場合、過熱水蒸気を使用する場合、あるいは、それらを併用する場合、さらに、それらと熱水を併用する場合、水原単位は15にすることができる。この場合は全量凝固液リターンの場合、9/(9+15)=37.5%になる。凝固液、再生媒体、洗浄液で異なる温度の関係で、利用割合を設計管理し決定する必要がある。
また、凝固液、再生媒体、洗浄液で温度が異なることからエネルギミニマムの流量配分設計を行う必要がある。
【0041】
洗浄水による洗浄の仕方によって水の原単位は変化する。併せて、再生媒体、洗浄液についてはその全部又は一部の量を凝固液ストック槽に回すかどうかによって凝固液の溶剤濃度は数%~60%ほどに変わる。つまりこれらの範囲のなかで所望の濃度レベル(20%以上)に設定することは再生媒体、洗浄液の凝固液ストック槽への返送条件を組み変えることで達成される。
また、これらの条件はNMMOとイオン液体においても変わり、イオン液体の種類によっても変わる。これらの溶剤によってセルロースに対する溶解度、脱膨潤度、凝固、再生の速度などが異なるためである。それゆえ使用溶剤決定後は凝固液濃度の至適条件を設定するために工程設計や工程管理に注意を払う必要がある。
【0042】
第1ゴデットロール5は、公知のセパレータロール又はセパレータガイド(両方とも図
示省略)によって糸条を牽回し速度規制する。
【0043】
この後、糸条は再生部としての浸漬処理槽7において再生媒体に浸漬させる。
図1中、6a、6b、6c、6dは糸条を浸漬させるためのガイド、9は再生媒体供給口である。
再生浴には、再生媒体が供給されるが重要なのはその温度である。
再生媒体は基本的に水である。したがって、熱水又はより高い温度が必要な場合は飽和蒸気又は過熱水蒸気を用いる。熱水と蒸気を併用することも可能である。
再生浴を出た後、第2ゴデットロール8で引き取られるが、第1ゴデットロール5と同じく、セパレータロール又はセパレータガイドで捲回巻きができるようにしておき、再生部の両ゴデットロール間で延伸を掛ける。
【0044】
再生部に供給される再生媒体は液相であれ気相であれ水である。
供給される媒体は水であっても再生部における溶剤濃度は再生過程で脱溶媒が起こることから水量と糸量の関係で濃度が決まる。
しかし、再生部の濃度自体は重要でなく、重要な要因は温度である。温度は高いほど繊維構造の弛緩が起こり延伸率アップにつながる。
ここで重要なことは、再生部における延伸現象である。通常セルロース繊維は、繊維構造完成後は後述するように延伸できない。可能な範囲で引張を掛けようとすれば、強度は上がるが伸度が下がる。つまり強伸度積であるタフネス自体は変わらない。それとともに糸切れが起こる。
したがって、単なる延伸伸長によっては強度伸度を共に向上させることはできない。
【0045】
図2に、再生媒体をフィラメント糸条に当てるために好適な再生媒体供給装置を示す。
先に、
図1で説明した実施態様は浸漬処理槽7を用いた浸漬形式であった。
熱水による浸漬方式では処理の上限温度は100℃以下である。
それ以上の温度の加熱処理を行う場合は熱水ではなく飽和水蒸気又は過熱水蒸気を用いる必要がある。
図2に示す装置では、80℃以上の熱水による処理を可能とするだけでなく、100℃以上の熱処理を行うことができる。
図2(A)に再生媒体供給装置の処理ガイドの断面図、
図2(B)にその平面図を示す。図中の矢印は糸条の進行方向である。
【0046】
この再生媒体供給装置の処理ガイドは、セラミック製やステンレススチール等の金属製のものからなる糸条の直線状の走行ガイドを形成しており、
図2(A)に示す断面図のとおり、ノズル本体31には窪地32が形成され、窪地32を形成する斜面の谷の部分が処理糸条の通過路34となって糸条が通過するようにされている。処理糸条の通過路34には孔状の再生媒体供給口33が形成されており、この再生媒体供給口33から熱水又は蒸気を供給する。再生媒体供給口33は、本実施例の1個のほか、2個以上の複数個を設けて、例えば、熱水と蒸気又は過熱水蒸気を供給することもできる。熱水による浸漬方式では処理温度は100℃以下であるが過熱水蒸気を併用することでより高温での処理が可能となる。
【0047】
図3に、再生媒体をフィラメント糸条に当てるためにより好適な再生媒体供給装置を示す。
図3(A)に再生媒体供給装置の処理ガイドの断面図、
図3(B)にその平面図を示す。図中の矢印は糸条の進行方向である。
【0048】
この再生媒体供給装置の処理ガイドは、セラミック製やステンレススチール等の金属製のものからなる糸条の直線状の走行ガイドを形成しており、
図3(A)に示す断面図のと
おり、ノズル本体35には窪地36が形成され、窪地36を形成する斜面は屈曲しており処理糸条の通過路38となって糸条通路の出入口が絞られ、糸条が通過するようにされている。このため、再生媒体はこの部分で溜りを形成するので浸漬効果も加わりより効果的であることが分かった。処理糸条の通過路38には孔状の再生媒体供給口37が形成されており、この再生媒体供給口37から熱水又は蒸気を供給する。再生媒体供給口37は、本実施例の1個のほか、2個以上の複数個を設けて、例えば、熱水と蒸気又は過熱水蒸気を供給することもできる。熱水による浸漬方式では処理温度は100℃以下であるが過熱水蒸気を併用することでより高温での処理が可能となる。
【0049】
これらの再生媒体供給装置の処理ガイドは、1つで長さのあるタイプや、短い長さのものを複数設置することも可能である。処理時間や糸速度などの条件によって処理ガイドの長さを適宜決めることができる。
【0050】
再生部における再生媒体による処理時間は1秒前後が目安である。ただし、物性に影響を与える他の因子の影響が数多く存在することが一般的であるので、それらを考慮して適宜選ぶ必要がある。処理ガイドの長さは再生媒体が高温であるほど短時間処理が可能であり、短い長さで済む。
【0051】
再生媒体の供給は、ヘッダーによるヘッド高さの管理、若しくは圧力コントロールによって行う。また、再生媒体供給装置の処理ガイドからの溢流液を回収するための受け槽を設けて、凝固液回収槽19又は溶剤回収装置21に送液する。
【0052】
紡出糸条のドラフト条件や延伸条件については制約がある。紡出糸条の再生部前にある第1ゴデットロール5との間のドラフト比は60以内の条件として、再生部前後の再生浴でのドラフト比は2以内に延伸する。
トータルドラフトをアップさせるにはノズル条件がポイントとなる。そのためにはノズルのキャピラリー部分のストレート長(ランド長)を長くすることが必要であり、その結果、ドラフト比はアップする。
【0053】
これにより、紡出糸条の強度は10%以上向上し、同時に伸度も向上する。ここが重要で、単に強度をアップしようとすれば伸度はダウンする。
本発明による効果は、紡糸諸条件を照合しながら詳細には後述の実施例によって説明するが、一例として、1840dtex/1000fの紡糸において、再生媒体処理を行わない場合、強度は4.72(cN/dtex)、伸度は10.1(%)であるのに対して、80℃熱水による浸漬処理で、延伸率15%のとき、強度は5.17(cN/dtex)、伸度は12.3(%)であった。
強度は約10%アップし、伸度は約20%アップする結果であり、再生部での再生媒体処理によって強度、伸度ともにアップすることが分かる。
【0054】
加えて500m/min以上の高速紡糸において、再生媒体による処理がない場合は、低強度・低伸度であったが、再生媒体による処理を行った場合は60%の延伸率を達成し、高強度、高伸度の糸条が得られることが分かった。
【0055】
次に、再生媒体による効果を示す現象について説明する。
図4は、再生部に
図3に示した再生媒体供給装置の処理ガイドを設置した状態でその前後の工程を表したものである。そして、延伸の掛かり具合とその結果を説明するものである。
昇降バー41はそれを昇降させることによって、糸条が再生媒体供給装置の処理ガイド上を走行し、再生媒体による処理を受けるか、あるいは離れた位置を走行し再生媒体による処理を受けないかを変えるための機構である。このような昇降バー41は糸立て操作に
おいて必要となる。
図4中、42は糸条(再生媒体による処理を受ける糸条)、43は再生媒体の供給付与装置、44は再生媒体の受槽、45は糸立て操作過程における昇降バーの位置、45は糸条(糸立て操作過程における糸条)を示す。
【0056】
凝固液条件を温度10℃、ブチルメチルイミダゾリウムクロライドを溶剤とする溶剤濃度26%として、再生媒体条件を温度90~95℃の熱水を用いて第1ゴデットロール5と第2ゴデットロール8間で30%の延伸がなされている。この状態を定常維持しているときに、昇降バーを上げて糸条を再生媒体からの接触を離すと第1ゴデットロール5と第2ゴデットロール8間で引きちぎるような状態で切れ糸が発生する。
切れ糸がなくなるまで第2ゴデットロール8の速度を落とすことによって定常状態になることを確認できる。このことから再生媒体から糸条が離れることによって糸条46に緩みがなくなり延伸効果がなくなることが分かる。
【0057】
その後、昇降バー41を下して糸条を再生媒体液に接すると、糸条42には緩みが生じて第1ゴデットロール5に巻き付くようになる。
この条件で第1ゴデットロール5に糸条が巻き付くのを防止するためには、第2ゴデットロール8の速度を30%アップさせる必要があった。糸走行に伸びによる緩みが生じて、この伸びをカバーするために第2ゴデットロール8の速度を上げる必要があった。
これらの結果から、糸条が再生媒体と接触処理されることによって、繊維の構造に緩みが生じて、その構造的な緩みが延伸処理の源泉になっていることが分かる。
このように糸条に緩みを生じさせて延伸が可能となるためには凝固液は、低温、かつ高濃度ほど好ましい。再生媒体は高温、かつ低濃度ほど好ましい。
【0058】
糸条を再生部に当てない状態では第2ゴデットロール8の速度400m/min程度で糸走に問題ないが、再生部に当てると糸は伸長し、その速度は520m/minである。
これによって、物性は強度・伸度ともアップすることも分かった。
つまり、再生部による伸長によって繊維構造は完成されたものと考えられる。
延伸は結果であって、延伸するというより、蒸気処理/熱水液との接触処理により繊維構造に緩みを発生させて、そこで発生する伸びを吸収する形で伸長を行う。
延伸するというより、蒸気処理/熱水液により繊維構造に緩みを発生させて、そこで発生する伸びを吸収する形で伸長を行う。
【0059】
糸を再生部から離すと、糸は伸びがなくなるために第2ゴデットロール8の速度がそのままだと、延伸限界を超えるため、引きちぎり切断が発生する。糸が切断しないように第2ゴデットロール8の速度をダウンすると切断は発生しなくなる。第2ゴデットロール8のスリップがなければ第2ゴデットロール8の520m/minでの引き取りは無理だということが分かる。また、その状態で糸を再び再生媒体につけると、糸は伸び、緩み切断を発生する。
これらのことから、再生媒体との接触によって糸が伸び(約30%)、その結果、物性も発現される、という過去未経験の知見が得られた。
【0060】
この再生媒体効果は、凝固・再生途上段階の繊維構造が未完成のものを完成させつつ、伸長させて物性を出すことにあるが、高速化によって、糸の凝固・再生・繊維の構造形成がより未完成となって惹起される現象と推察される。
【0061】
その後、糸条は洗浄、乾燥処理が行われる。これをロールプロセスで行う場合もあるが、糸条処理の高速化に有利に対応できる弛緩コンベアプロセスを例示している。
トラバース10、振込羽根ロール11によって反転コンベア12上に振込蓄積され、糸シートが堆積する。その後、メインコンベア13上に糸シートが反転載置され、カバーコ
ンベア14でサンドイッチ搬送される。この間に洗浄処理を行い、洗浄完了後、乾燥処理を行う。
図1において、洗浄、乾燥部は長いのでカットして図示している。この部分は本発明とは直接関係ない部分であるので、洗浄液のスプレーや液の回収槽、循環ポンプや洗浄槽各段の多段向流式構造などの常套手段は図示を省略している。
また、糸条の洗浄、乾燥処理部分は、特許文献1~2に示されるように、ロール式プロセスであっても良いが、弛緩コンベアプロセスの洗浄乾燥法に比べてロール式洗浄乾燥法の場合は、洗浄効率や乾燥効率が低くなり、設備生産性が低くなるので低速度運転以外の場合は弛緩コンベアプロセスが推奨される。
【0062】
セルロースは分子構造が完成した後は延伸が困難とされている。引張を掛けると強度は上がるが、伸度は下がる、そして、より強い引張を掛けると結果的には糸切れにつながる。しかし、溶剤法セルロースフィラメント糸の凝固再生条件を検討することによって強度も伸度も共にアップする条件があり、物性発現を顕在化させる条件があることが分かった。
再生部で延伸率を高めるためには、凝固液は低温・高濃度、再生媒体は高温・低濃度という条件を満たすことが重要であることが分かった。特に凝固浴の濃度と再生媒体の温度は重要である。
【実施例0063】
以下、本発明の実施例を記載する。ただし、これらの実施例は開示を完全にし、本発明の概念を当業者に完全に伝えようとして記載されているに過ぎず、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
原料パルプとしてDP630を用い、原液ドープのセルロース濃度は10%とした。セルロース溶剤としてはブチルメチルイミダゾールクロライド(BMimCL)を用いた。
紡糸速度は200m/minの条件で紡糸を行った。
物性発現に影響を与える要因として考えられる条件については以下の条件に固定して紡糸を行った。エアギャップ部における冷風条件としては、温度15℃、湿度35%、風速5m/secの冷風を用いた。また、凝固浴としては液速150m/minの流動浴を使用した。その他の条件は以下のとおりである。再生以降の糸処理については、
図1に記載の弛緩コンベアプロセスで実施した。
凝固液としては温度10℃、濃度25%として、再生媒体として
図1に記載の熱水浸漬式により、温度85~90℃とした。
第2ゴデットロール8の速度は200m/min、フィラメント糸条を再生媒体に浸漬させた状態では第1ゴデットロール5の速度は174m/minで15%の延伸を保ったまま安定走行が可能であった。
この安定走行している状態で、
図4の昇降バー41を上げて走行糸条を再生媒体から離すと糸条は切断し、この状態で糸条走行を連続化させるには第1ゴデットロール5の速度は200m/minに漸近させる必要があった。
この状態で再び昇降バー41を下ろして糸条を再生媒体に接触させると、たちまち糸条は第1ゴデットロール5に巻き付き断糸した。再生媒体と接触することによって第1ゴデットロール5と第2ゴデットロール8間で糸条に緩みが発生したことが観察された。
【0065】
[比較例1]
上記の実施例1における昇降バー41を上げて再生媒体と接触しない場合を比較例とした。実施例1も比較例1も紡糸ノズルからの吐出量は同じで、最終引き取り速度も同じなので繊度は実質的に同一である。その結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
表1に示す結果から、凝固液が低濃度であり、再生媒体がない場合に比べて、凝固液が高濃度であり、再生媒体が高温である場合は延伸率を高めに設定することができ、得られるフィラメント糸の強度は10%程度高くなり、かつ伸度も20%以上高くなることが分かった。
凝固浴を出て再生媒体浴に浸漬する時点では、糸条は凝固の大半が完了し、再生段階に入っている状態と思われる。この段階では溶剤法セルロースフィラメント糸は剛直で引き延ばしにくい状態になっているものと考えられる。そこでそのまま凝固液の付着した条件で再生を続けるのではなく、繊維構造を弛緩する条件を付与することが再生段階で糸条に延伸を可能とさせ、そのことによってセルロース繊維中の潜在的な微細構造が物性発現に向けて顕在化しすることによる効果だと思われる。
凝固浴濃度が低いと低延伸率で糸切れが発生する。4%では延伸率4.5%で糸切れが発生したが、凝固浴濃度25%では延伸率15%まで糸切れなく可能であった。凝固が遅延したことによって延伸率がアップするものと推察される。
実施例1は、溶剤がイオン液体の場合であるが、同様のテストを溶剤を変更してNMMOを用いて行った実験でも同様の結果を得られることが分かった。
【0068】
[実施例2~6][比較例2]
原料パルプとして実施例1と同様にDP630を用いた。原液ドープのセルロース濃度は10%とした。セルロース溶剤としてはブチルメチルイミダゾールクロライド(BMimCL)を用いた
紡糸速度は500m/minの条件で紡糸を行った。
物性発現に影響を与える因子として考えられる条件については、以下の条件としている。
エアギャップ部における冷風条件としては、温度15℃、湿度35%、風速5m/sec冷風を用いた。また、凝固浴としては液速が第1ゴデットロール5の速度に対して100m/min低い液速の流動浴を使用した。
再生媒体供給装置としては、
図3に示した再生媒体供給装置の処理ガイドを用いた。
これを表2では「処理ガイド」で表している。蒸気は飽和蒸気である。実施例4及び5は、再生媒体供給装置は再生媒体供給口37を2つ設けて熱水と飽和水蒸気又は過熱水蒸気を供給することができる方式で処理を行った。
その他の条件は以下に記載のとおりである。
再生以降の糸処理については
図1に記載の弛緩コンベアプロセスで実施した。
その結果を表2に示す。
【0069】
【0070】
比較例2は糸切れが多発し、糸のサンプリングはできたが継続的に紡糸することはできなかった。
延伸率アップに対して凝固液の温度と濃度が重要であり、また再生媒体の温度が重要であることが分かる。これらの条件下において高配向のセルロース分子からなる繊維構造を形成することで、高物性、高タフネスに結びつけることができる。
セルロース繊維は、洗浄乾燥後の延伸は困難であり、物性への寄与もない。このことから、凝固再生過程での引張と繊維構造形成後の引張では糸物性に与える影響が異なる。また、紡糸速度が高速になった場合でも物性の向上効果は顕在化する。
【0071】
本発明によって得られた溶剤法セルロースフィラメント糸は、物性アップとともに、ラテックスホルマリン液処理後の物性ダウンも小さい。
また、再生速度が比較的遅いとされるイオン液体を用いた溶剤法セルロースフィラメント糸では、凝固再生後に糸条にヌメリが残り、振り落し作用を阻害することがあるが、本発明技術によってそのような問題も解決することも分かった。
【0072】
以上、本発明の溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法について、その実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
溶剤法セルロースフィラメント糸の製造方法において、高強度、強伸度、高弾性を具現する方法を見出した。それは凝固と再生の機能を分離し、それぞれに異なる処理を与えること、それぞれに適した処理媒体によって処理されることで達成される。
凝固液は低温高濃度であり、再生媒体は高温低濃度である。そうすることによって再生部における延伸率の増大が図れるようになり、凝固部で形成された剛直な繊維構造は弛緩し引き伸ばせる条件ができる。
その条件のもと、再生部で延伸が増大するようになる結果、強度、伸度のアップが図られる。
本発明の方法によって生じる効果は紡糸速度が増大した場合においても優位に発揮されることから、高い物性値を具備したフィラメント糸を高い生産性で製造する場合に有用性
が高い。