(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022016849
(43)【公開日】2022-01-25
(54)【発明の名称】超電導線材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 12/06 20060101AFI20220118BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220118BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
H01B12/06 ZAA
H01B13/00 565D
H01F6/06 140
H01F6/06 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020119814
(22)【出願日】2020-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 朋
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA02
5G321AA04
5G321BA01
5G321BA03
5G321CA18
5G321CA24
5G321CA41
5G321DB99
(57)【要約】
【課題】臨界電流特性が閾値以上である領域と閾値未満である領域とを外観から判別することが可能な超電導線材を提供する。
【解決手段】超電導線材1は、テープ状の基材10上に超電導積層体2が設けられた構造を有する。超電導積層体2は、高臨界電流領域16と、低臨界電流領域17とを有する。高臨界電流領域16に対応する位置には第1安定化層15Aが設けられている。低臨界電流領域17に対応する位置には、第1安定化層15Aに対して判別可能な第2安定化層15Bが設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の基材の上方に超電導層が設けられた超電導積層体を備え、
前記超電導積層体は、
臨界電流値が閾値以上である高臨界電流領域と、
臨界電流値が閾値未満である低臨界電流領域と、を有し、
前記高臨界電流領域に対応する位置には第1安定化層が設けられ、
前記低臨界電流領域に対応する位置には、前記第1安定化層に対して判別可能な第2安定化層が設けられている、
超電導線材。
【請求項2】
前記第1安定化層と前記第2安定化層とは、互いに色が異なる、
請求項1に記載の超電導線材。
【請求項3】
前記第1安定化層と前記第2安定化層とは、互いに表面粗さが異なる、
請求項1に記載の超電導線材。
【請求項4】
前記第1安定化層と前記第2安定化層とは、互いに、材料が異なる、
請求項1又は請求項2に記載の超電導線材。
【請求項5】
テープ状の基材の上方に超電導層及び保護層を順に設けることで超電導積層体を形成し、
前記超電導積層体における複数の位置での臨界電流値を測定し、前記超電導積層体の複数の位置と複数の測定値とが対応づけられた臨界電流特性に関する検査情報を得て、
前記検査情報に基づき、前記超電導積層体における臨界電流値が閾値以上である高臨界電流領域と、前記超電導積層体における臨界電流値が閾値未満である低臨界電流領域とを決定し、
前記高臨界電流領域又は前記低臨界電流領域に対応する位置に形成された開口を有するマスキングテープを前記超電導積層体に形成して、
前記開口の位置に対応する前記保護層を露出させ、
露出した前記保護層上に、安定化層を形成する、
超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記高臨界電流領域に対応する位置に形成された第1開口を有する第1マスキングテープを前記超電導積層体に形成して、前記第1開口の位置に対応する前記保護層を露出させ、露出した前記保護層上に、第1安定化層を形成し、
前記第1マスキングテープを除去し、
前記低臨界電流領域に対応する位置に形成された第2開口を有する第2マスキングテープを前記超電導積層体に形成して、前記第2開口の位置に対応する前記保護層を露出させ、露出した前記保護層上に、前記第1安定化層に対して判別可能な第2安定化層を形成する、
請求項5に記載の超電導線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、基材上に、中間層、超電導層、保護層、及び安定化層が順に積層された構造を有する超電導線材が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、超電導線材の製造後においては、臨界電流値が測定され、超電導線材の検査が行われる。検査後の超電導線材は、リールに巻回された状態で、保管されたり、出荷されたりする。
【0005】
長尺の超電導線材を製造した場合、超電導線材の長手方向において臨界電流特性が低下した部分が局所的に形成される場合がある。臨界電流特性が局所的に低下した領域は、超電導コイル等の超電導機器の製造に使用することはできないため、切断等により特性低下領域を取り除く必要がある。
しかし、超電導線材の外周には安定化層が一様に形成されているため、臨界電流特性が低下した領域を外観から容易に判別することができなかった。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされ、臨界電流特性が閾値以上である領域と閾値未満である領域とを外観から判別することが可能な超電導線材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る超電導線材は、テープ状の基材の上方に超電導層が設けられた超電導積層体を備え、前記超電導積層体は、臨界電流値が閾値以上である高臨界電流領域と、臨界電流値が閾値未満である低臨界電流領域と、を有し、前記高臨界電流領域に対応する位置には第1安定化層が設けられ、前記低臨界電流領域に対応する位置には、前記第1安定化層に対して判別可能な第2安定化層が設けられている。
【0008】
ここで、文言「テープ状の基材の上方に超電導層が設けられた」とは、基材上に超電導層が設けられていることを意味するだけでなく、基材と超電導層との間に中間層等の層膜が配置されている構造において基材の上方に超電導層基材が設けられていることも意味する。
【0009】
本発明の一態様によれば、超電導線材が、高臨界電流領域に対応する第1安定化層と、低臨界電流領域に対応しかつ第1安定化層に対して判別可能な第2安定化層とを有するので、超電導線材の外観から容易に低臨界電流領域を判別することができる。
【0010】
本発明の一態様に係る超電導線材においては、前記第1安定化層と前記第2安定化層とは、互いに色が異なってもよい。
【0011】
本発明の一態様に係る超電導線材においては、前記第1安定化層と前記第2安定化層とは、表面性の点で、互いに異なり、判別可能であってもよい。例えば、前記第1安定化層と前記第2安定化層とは、互いに表面粗さが異なってもよい。
【0012】
本発明の一態様に係る超電導線材においては、前記第1安定化層と前記第2安定化層とは、互いに材料が異なってもよい。
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る超電導線材の製造方法は、テープ状の基材の上方に超電導層及び保護層を順に設けることで超電導積層体を形成し、前記超電導積層体における複数の位置での臨界電流値を測定し、前記超電導積層体の複数の位置と複数の測定値とが対応づけられた臨界電流特性に関する検査情報を得て、前記検査情報に基づき、前記超電導積層体における臨界電流値が閾値以上である高臨界電流領域と、前記超電導積層体における臨界電流値が閾値未満である低臨界電流領域とを決定し、前記高臨界電流領域又は前記低臨界電流領域に対応する位置に形成された開口を有するマスキングテープを前記超電導積層体に形成して、前記開口の位置に対応する前記保護層を露出させ、露出した前記保護層上に、安定化層を形成する。
【0014】
本発明の一態様によれば、高臨界電流領域又は低臨界電流領域に対応する開口を有するマスキングテープを用いて、安定化層を高臨界電流領域又は低臨界電流領域に容易に形成することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る超電導線材の製造方法においては、前記高臨界電流領域に対応する位置に形成された第1開口を有する第1マスキングテープを前記超電導積層体に形成して、前記第1開口の位置に対応する前記保護層を露出させ、露出した前記保護層上に、第1安定化層を形成し、前記第1マスキングテープを除去し、前記低臨界電流領域に対応する位置に形成された第2開口を有する第2マスキングテープを前記超電導積層体に形成して、前記第2開口の位置に対応する前記保護層を露出させ、露出した前記保護層上に、前記第1安定化層に対して判別可能な第2安定化層を形成してもよい。
【0016】
本発明の一態様によれば、高臨界電流領域に対応する第1開口を有する第1マスキングテープを用いて第1安定化層を容易に形成することができ、かつ、低臨界電流領域に対応する第2開口を有する第2マスキングテープを用いて第2安定化層を容易に形成することができる。したがって、互いに判別な可能な第1安定化層及び第2安定化層を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記態様によれば、臨界電流特性が閾値以上である領域と閾値未満である領域とを外観から判別することが可能な超電導線材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る超電導線材を示す拡大断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る超電導線材の製造方法に用いられる第1マスキングテープを示す拡大平面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る超電導線材の製造方法を説明する図であって、第1マスキングテープを用いて超電導積層体上に第1安定化層が形成された構造を示す拡大断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る超電導線材の製造方法に用いられる第2マスキングテープを示す拡大平面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る超電導線材の製造方法を説明する図であって、第2マスキングテープを用いて超電導積層体上に第2安定化層が形成された構造を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る超電導線材について、図面を参照して詳細に説明する。説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするため、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0020】
(超電導線材の構造)
図1に示すように、本実施形態に係る超電導線材1(例えば、酸化物超電導線材)は、基材10と、基材10上に設けられた第1中間層11(中間層)と、第1中間層11上に設けられた第2中間層12(中間層)と、第2中間層12上に設けられた超電導層13と、超電導層13上に設けられた保護層14と、保護層14上に設けられた第1安定化層15A(15)及び第2安定化層15B(15)とを備える。
【0021】
(超電導積層体2)
超電導線材1の構造において、基材10、第1中間層11、第2中間層12、超電導層13、及び保護層14は、本発明の超電導積層体2に相当する。
超電導積層体2の高さ、すなわち、基材10の下面から保護層14の上面までの長さ(
図1の上下方向の長さ)は、例えば、80μmである。超電導積層体2(超電導線材1)の幅、すなわち、超電導線材1の左端から右端までの長さ(
図1の左右方向の長さ)は、例えば、12mmである。超電導積層体2は、後述する測定評価装置を用いて臨界電流値の測定(検査)が行われる対象物である。
【0022】
(基材10)
基材10は、基材10は、テープ状の金属基板である。金属基板を構成する金属の具体例として、ハステロイ(登録商標)に代表されるニッケル合金、ステンレス鋼、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni-W合金などが挙げられる。
【0023】
(第1中間層11、第2中間層12)
本実施形態において、中間層は2層で構成されているが、中間層の層数は限定されない。中間層は、多層構造を有してもよく、例えば、基材10から超電導層13に向かう順で、拡散防止層、ベッド層、配向層、キャップ層等を有してもよい。
【0024】
この多層構造を構成する各層は、必ずしも1層ずつ設けられるとは限らず、一部の層を省略する場合や、同種の層を2以上繰り返し積層する場合もある。第1中間層11及び第2中間層12は、金属酸化物であってもよい。配向性に優れた第2中間層12の上に超電導層13を成膜することにより、配向性に優れた超電導層13を得ることが容易になる。
【0025】
(超電導層13)
超電導層13は、酸化物超電導体から構成され、第2中間層12上に積層されている。酸化物超電導体としては、例えば、一般式REBa2Cu3Oy(RE123)等で表されるRE-Ba-Cu-O系酸化物超電導体が挙げられる。希土類元素REとしては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上が挙げられる。RE123の一般式において、yは7-x(酸素欠損量)である。超電導層13の厚さは、例えば、約2μmである。超電導層13は、電流異方性が発現するように結晶配向性を整えて形成するとよい。具体的には、結晶のc軸を基材10の表面(成膜面)対して垂直に配向させ、電流が流れ易いa軸またはb軸を基材10の長さ方向に配向するように成膜するとよい。これにより良好な臨界電流特性を得ることができる。
【0026】
(保護層14)
保護層14は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、超電導層13と保護層14の上に設けられる層との間で起こる化学反応を抑制したりする等の機能を有する。保護層14は、銀(Ag)により形成されている。保護層14はスパッタ法等により形成することができる。保護層14の厚さは、例えば、1~30μmである。
【0027】
(高臨界電流領域16、低臨界電流領域17)
後述する臨界電流特性に関する検査情報に基づき、超電導積層体2上において、高臨界電流領域16と低臨界電流領域17とが決定されている。臨界電流特性において臨界電流値が閾値以上である領域が高臨界電流領域16である。臨界電流特性において臨界電流値が閾値未満である領域が低臨界電流領域17である。本実施形態において、閾値としては、例えば、300A/cmといった値が挙げられる。
【0028】
なお、閾値は、上記の値に限定されない。超電導線材1の用途、要求性能、仕様等に応じて適宜決定される。したがって、閾値に応じて、高臨界電流領域16及び低臨界電流領域17の各々が適宜決定される。
【0029】
(第1安定化層15A、第2安定化層15B)
超電導積層体2の保護層14上における高臨界電流領域16に対応する位置には、第1安定化層15Aが形成されている。超電導積層体2の保護層14上における低臨界電流領域17に対応する位置には、第2安定化層15Bが形成されている。第1安定化層15A及び第2安定化層15Bは、互いに隣り合うように保護層14上に形成されている。第1安定化層15A及び第2安定化層15Bの厚さは、例えば、20μmである。
【0030】
第2安定化層15Bは、第1安定化層15Aに対して判別可能となるように形成されている。具体的に、第1安定化層15A及び第2安定化層15Bを判別可能とする構成として、以下の構成が挙げられる。
【0031】
・第1安定化層15Aを構成する材料と第2安定化層15Bを構成する材料とを変えて、第1安定化層15Aの表面色と、第2安定化層15Bの表面色とを異ならせる。
【0032】
・第1安定化層15Aの成膜条件と第2安定化層15Bの成膜条件とを変えて、第1安定化層15Aの表面色と、第2安定化層15Bの表面色とを異ならせる。この場合、同じ材料を用いて第1安定化層15A及び第2安定化層15Bを形成しても、表面性を異ならせることができる。
【0033】
・第1安定化層15A及び第2安定化層15Bのうち一方の表面をヤスリやサンドブラスト等を用いた表面処理を施し、第1安定化層15Aの表面粗さ(表面性)と、第2安定化層15Bの表面粗さ(表面性)とを異ならせる。この場合、同じ材料を用いて第1安定化層15A及び第2安定化層15Bを形成しても、表面性を異ならせることができる。
【0034】
次に、「判別可能」とは、次の解釈を含む。
・作業者が第1安定化層15Aと第2安定化層15Bとの差異を目視により判別可能であること。
・外観観察装置を用いて、第1安定化層15Aと第2安定化層15Bとの差異を判別可能であること。
【0035】
(作業者による判別)
作業者による第1安定化層15Aと第2安定化層15Bとの判別は、次の点で行われる。
・作業者が第1安定化層15Aの色及び第2安定化層15Bを観察し、第1安定化層15Aの色と第2安定化層15Bの色(色調)との違いを判別すること(目視判断)。
・作業者が指で第1安定化層15Aの色及び第2安定化層15Bを触り、第1安定化層15Aの表面粗さと第2安定化層15Bの表面粗さとの違いを判別すること(触覚による判断)。
【0036】
目視判断の場合、作業者は、第1安定化層15Aの色と、第2安定化層15Bの色との違い(色調の違い)を視覚的に判別することができる。
触覚による判断の場合、作業者は、第1安定化層15Aの表面粗さと、第2安定化層15Bの表面粗さとの違いを指の触覚を通じて判別することができる。
【0037】
(外観観察装置による判別)
外観観察装置による第1安定化層15Aと第2安定化層15Bとの判別は、次の点で行われる。
・第1安定化層15A及び第2安定化層15Bの各々に照明光(外光)を照射し、光センサ(外観観察装置)を用いて、反射光の強度や波長の違い判別すること(光学的検出)。
・表面粗さ測定器(外観観察装置)を用いて、第1安定化層15Aの表面粗さと第2安定化層15Bの表面粗さとの違いを判別すること(表面粗さ検出)。
【0038】
外観観察装置を用いた光学的検出の場合、第1安定化層15A及び第2安定化層15Bの反射光の強度や波長の違いを自動的に判別することができる。
外観観察装置を用いた表面粗さ検出の場合、第1安定化層15A及び第2安定化層15Bの表面粗さ検出の違いを自動的に判別することができる。
【0039】
本実施形態においては、第1安定化層15Aと第2安定化層15Bとを判別可能とするために、第1安定化層15Aを構成する材料と、第2安定化層15Bを構成する材料とは、互いに、異なっている。例えば、第1安定化層15AがCuで形成されている場合には、第2安定化層15BはAgで形成されている。反対に、第1安定化層15AがAgで形成されている場合には、第2安定化層15BはCuで形成されている。また、安定化層15に用いられる金属の組合せとして、Ag及びCu以外にも、他の金属を含む組合せが採用されてもよい。
【0040】
このように第1安定化層15Aを構成する材料と、第2安定化層15Bを構成する材料とを互いに異ならせることで、作業者は、第1安定化層15Aの表面に生じる色調と、第2安定化層15Bの表面に生じる色調との違いを判別することができる。また、外観観察装置を用いる場合では、第1安定化層15Aの表面から生じる反射光と、第2安定化層15Bの表面から生じる反射光との違いを自動的に検出することができる。
【0041】
例えば、超電導線材1が超電導ケーブルや超電導モータなどに使用される場合には、第1安定化層15A及び第2安定化層15Bは、何らかの事故によりクエンチが起こり、超電導層13が常電導状態に転移した時に発生する過電流を転流させるバイパスのメイン部として用いられる。
【0042】
また、超電導線材1が超電導限流器に使用される場合には、第1安定化層15A及び第2安定化層15Bは、クエンチが起こり常電導状態に転移した時に発生する過電流を瞬時に抑制するために用いられる。
【0043】
(超電導線材1の製造方法)
次に、超電導線材1を製造する工程1~工程8について説明する。
ここでは、第1安定化層15Aを構成する材料と、第2安定化層15Bを構成する材料とを互いに異ならせることによって、互いに判別可能な第1安定化層15A及び第2安定化層15Bを形成する方法を説明する。
【0044】
(工程1:超電導積層体2の形成)
まず、テープ状の基材10を準備し、基材10上に、第1中間層11、第2中間層12、超電導層13、及び保護層14を順に形成する。工程1において用いられる成膜方法は、特に限定されず、公知の成膜方法が用いられる。保護層14を形成した後には、酸素アニール処理を行う。このような工程1によって、超電導線材1の一部を構成する超電導積層体2が得られる。
【0045】
(工程2:超電導積層体2の特性検査)
次に、上記超電導積層体2における臨界電流値を測定する。
工程2において使用される測定評価装置としては、例えば、THEVA GmbH社製 Tapestar XLを用いる。
【0046】
具体的に、超電導積層体2(
図1に示す超電導線材1から安定化層15(第1安定化層15A及び第2安定化層15B)が除かれた構造)を測定評価装置に挿入し、測定評価装置に向けて超電導積層体2を長手方向に送りながら、臨界電流値の測定が行われる。これにより、超電導積層体2の長手方向における複数の測定位置(位置)と、当該複数の測定位置の各々に対応する測定値(臨界電流値)を得ることができる。測定評価装置を用いることで、超電導積層体2上における特定部位の臨界電流特性や局所劣化を知ることができる。
【0047】
すなわち、工程2では、複数の測定位置と複数の測定値とが対応づけられた臨界電流特性に関する検査情報として、臨界電流特性のデータ(以下、特性データと称する)を得る。特性データに基づき、超電導積層体2における高臨界電流領域16と低臨界電流領域17とを決定する。具体的には、特性データにおいて、測定値が閾値(例えば、300A/cm)以上である測定位置は、高臨界電流領域16と判別され、測定値が閾値(例えば、300A/cm)未満である測定位置は、低臨界電流領域17と、判別される。
【0048】
超電導積層体2を長手方向における高臨界電流領域16及び低臨界電流領域17の各々の箇所は、例えば、パーソナルコンピュータ等の公知の記憶装置に記憶され、後述するマスキングテープ21、22に開口パターンを形成する際に用いられる。
【0049】
(工程3:マスキングテープ21の準備)
図2に示すように、超電導積層体2と同じ長さを有するマスキングテープ21(第1マスキングテープ)を用意する。マスキングテープ21は、めっき液等の薬液に耐性を有する樹脂テープであり、例えば、ポリエステル樹脂等から構成される。マスキングテープ21の幅(W1)及び厚さの各々は、例えば、15mm、90μmである。
【0050】
工程2によって得られた特性データに基づき、高臨界電流領域16の位置に対応するようにマスキングテープ21に開口21H(第1開口)を形成する。つまり、マスキングテープ21は、高臨界電流領域16に対応する開口パターンを有する。特性データに基づいてマスキングテープ21に開口パターンを形成方法は、特に限定されない。
【0051】
開口21Hの幅(W2)は、例えば、12mmである。開口21Hの形状は、例えば、平面視において矩形である。なお、開口21Hの形状は、矩形に限定されない。
図2に示す例では、開口21Hの数は、3つであるが、開口21Hの数は限定されない。
【0052】
マスキングテープ21の一方の面(超電導積層体2と対向する面)には、予め、接着剤が付されている。マスキングテープ21が超電導積層体2に貼り合わされた際に、接着剤は、マスキングテープ21と超電導積層体2と接着する。また、マスキングテープ21を構成する樹脂材料自体が超電導積層体2に対する接着性を有してもよい。
【0053】
(工程4:超電導積層体2とマスキングテープ21との貼り合わせ)
工程3によって得られたマスキングテープ21を超電導積層体2に貼り合わせる。つまり、マスキングテープ21を超電導積層体2上に形成する。これにより、平面視において、高臨界電流領域16の位置に対応する超電導積層体2の保護層14は、マスキングテープ21に形成された開口21Hを通じて露出する。
【0054】
(工程5:第1安定化層15Aの形成)
マスキングテープ21が貼り合わされた超電導積層体2に対して金属メッキ法(成膜法)を施す。金属メッキ法に用いられる金属としては、銅が採用される(銅メッキ)。
これにより、マスキングテープ21の開口21Hを通じて露出している超電導積層体2の保護層14に対して、すなわち、高臨界電流領域16に対応する部分に第1安定化層15Aとなる銅層が形成される。
【0055】
第1安定化層15Aを形成した後、洗浄等の公知の工程を行い、その後、マスキングテープ21を除去する。この結果、
図3に示すように、超電導積層体2上に第1安定化層15Aが形成された構造が得られる。なお、
図3は、第1安定化層15Aの一部分を示しており、実際には、超電導積層体2の延在方向(
図3の左右方向)に沿って、複数の第1安定化層15Aが並ぶようにパターニングにより形成されている。
【0056】
(工程6:マスキングテープ22の準備)
図4に示すように、超電導積層体2と同じ長さを有するマスキングテープ22(第2マスキングテープ)を用意する。マスキングテープ21と同様に、マスキングテープ22の幅(W1)及び厚さの各々は、例えば、15mm、90μmである。
【0057】
工程2によって得られた特性データに基づき、低臨界電流領域17の位置に対応するようにマスキングテープ22に開口22H(第2開口)を形成する。つまり、マスキングテープ22は、低臨界電流領域17に対応する開口パターンを有する。特性データに基づいてマスキングテープ22に開口パターンを形成方法は、特に限定されない。
【0058】
マスキングテープ21と同様に、開口22Hの幅(W2)は、例えば、12mmであり、開口22Hの形状は、例えば、平面視において矩形である。なお、開口22Hの形状は、矩形に限定されない。
図4に示す例では、開口22Hの数は、2つであるが、開口22Hの数は限定されない。
【0059】
マスキングテープ21と同様に、マスキングテープ22の一方の面(超電導積層体2と対向する面)には、予め、接着剤が付されている。マスキングテープ22が超電導積層体2に貼り合わされた際に、接着剤は、マスキングテープ22と超電導積層体2と接着する。
【0060】
(工程7:超電導積層体2とマスキングテープ22との貼り合わせ)
工程5によって第1安定化層15Aが形成されている超電導積層体2の上面に対し、工程6によって得られたマスキングテープ22を超電導積層体2に貼り合わせる。つまり、マスキングテープ22を超電導積層体2上に形成する。
これにより、平面視において、低臨界電流領域17の位置に対応する超電導積層体2の保護層14は、マスキングテープ22に形成された開口22Hを通じて露出する。
【0061】
(工程8:第2安定化層15Bの形成)
マスキングテープ22が貼り合わされた超電導積層体2に対して金属メッキ法(成膜法)を施す。金属メッキ法に用いられる金属としては、銀が採用される(銀メッキ)。
これにより、マスキングテープ22の開口22Hを通じて露出している超電導積層体2の保護層14に対して、すなわち、低臨界電流領域17に対応する部分に第2安定化層15Bとなる銀層が形成される。
【0062】
第2安定化層15Bを形成した後、洗浄等の公知の工程を行い、その後、マスキングテープ22を除去する。この結果、
図1及び
図5に示すように、超電導積層体2上に第1安定化層15A及び第2安定化層15Bが形成された構造が得られる。なお、
図5は、第2安定化層15Bの一部分を示しており、実際には、超電導積層体2の延在方向(
図3の左右方向)に沿って、複数の第2安定化層15Bが並ぶようにパターニングにより形成されている。
【0063】
上述した工程1~8により、第1安定化層15Aと第2安定化層15Bとが判別可能な超電導線材1が製造される。
【0064】
次に、以上のように構成された超電導線材1の作用及び効果について説明する。
超電導線材1の製造においては、超電導線材1の一部を構成する超電導積層体2の臨界電流特性に関する検査情報として特性データを得る。特性データに基づき、高臨界電流領域16及び低臨界電流領域17を決定し、高臨界電流領域16に対応する第1安定化層15Aと、低臨界電流領域17に対応する第2安定化層15Bを形成している。さらに、第1安定化層15Aと第2安定化層15Bとは判別可能な構成を有する。
【0065】
その後、超電導線材1はリールに巻回された状態で、保管され、超電導線材1が使用される場所に向けて出荷される。リールに巻回された超電導線材1を使用する際には、超電導線材1はリールから取り出される。ここで、高臨界電流領域16及び低臨界電流領域17に対応し、かつ、互いに判別な第1安定化層15A及び第2安定化層15Bが超電導線材1に形成されているので、超電導線材の外観から容易に高臨界電流領域16と低臨界電流領域17とを判別することができる。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明し、上記で説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、請求の範囲によって制限されている。
【0067】
上述した実施形態では、超電導積層体2の長手方向の位置における臨界電流値を測定して特性データを得ている。そして、この特性データに基づき、高臨界電流領域16と低臨界電流領域17とを決定している。本発明は、これに限定されず、超電導積層体2の幅方向(長手方向に直交する方向)の位置における臨界電流値を測定して特性データを得て、この特性データに基づき、高臨界電流領域16と低臨界電流領域17とを決定してもよい。
【0068】
上述した実施形態では、基材10と超電導層13との間に第1中間層11及び第2中間層12が配置されている構造について説明した。
本発明においては、基材10の上方に超電導層13が設けられていればよく、基材10上に超電導層13が設けられてもよいし、基材10上に超電導層13が直接的に接触してもよい。
【0069】
なお、第1安定化層15Aと第2安定化層15Bとが重なって形成された場合、重なった部分を事後的に除去してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…超電導線材(酸化物超電導線材)、2…超電導積層体、10…基材、11…第1中間層、12…第2中間層、13…超電導層、14…保護層、15…安定化層、15A…第1安定化層(安定化層)、15B…第2安定化層(安定化層)、16…高臨界電流領域、17…低臨界電流領域、21…マスキングテープ(第1マスキングテープ)、21H…開口(第1開口)、22…マスキングテープ(第2マスキングテープ)、22H…開口(第2開口)、W1、W2…幅