(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168552
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】主鏡と位置をオフセットさせた副鏡とを有するオフセット光学システム
(51)【国際特許分類】
G02B 23/02 20060101AFI20221031BHJP
G02B 5/10 20060101ALI20221031BHJP
G02B 3/06 20060101ALI20221031BHJP
G02B 17/06 20060101ALI20221031BHJP
G02B 17/08 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
G02B23/02
G02B5/10
G02B3/06
G02B17/06
G02B17/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074093
(22)【出願日】2021-04-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】521180669
【氏名又は名称】合同会社北海道環境・エネルギー研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】特許業務法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】浅利 栄治
【テーマコード(参考)】
2H039
2H042
2H087
【Fターム(参考)】
2H039AA02
2H039AB16
2H042AA02
2H042AA03
2H042AA20
2H042AA22
2H042DA10
2H042DA11
2H042DA12
2H042DD06
2H042DD07
2H042DD08
2H042DD09
2H087KA01
2H087KA15
2H087LA02
2H087LA28
2H087RA07
2H087RA12
2H087RA13
2H087TA01
2H087TA03
2H087TA04
2H087TA06
2H087UA01
(57)【要約】
【課題】 集光力が大きく、容易かつ安価に、最小の材料で最大の集光力を有する構造を持つ光学システムを提供すること。
【解決手段】 本発明にかかるオフセット光学システムは、一方向のみに湾曲した凹形状を有し、被写体からの光を反射させて線状焦点に集光させる光学要素を、その湾曲に沿った長さの中間部で分割することによって得られる2つの半光学要素のうちの一方の少なくとも一部である主鏡と、主鏡とその線状焦点との間に配置され、主鏡によって反射された光を透過又は反射させることによって点焦点に集光させる副鏡とを含み、光学要素の中間部における湾曲の接線方向をx軸、x軸に垂直かつ被写体の位置する方向をy軸、x軸及びy軸と直交する方向をz軸としたとき、副鏡が、y軸から遠位に位置する主鏡の端部側に、x軸と平行に所定距離だけオフセットされたことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向のみに湾曲した凹形状を有し、被写体からの光を反射させて線状焦点に集光させる光学要素を、その湾曲に沿った長さの中間部で分割することによって得られる2つの半光学要素のうちの一方の少なくとも一部である主鏡と、
前記主鏡と前記線状焦点との間に配置され、前記主鏡によって反射された光を透過又は反射させることによって点焦点に集光させる副鏡と
を含み、
前記光学要素の前記中間部における湾曲の接線方向をx軸、x軸に垂直かつ被写体の位置する方向をy軸、x軸及びy軸と直交する方向をz軸としたとき、前記副鏡が、y軸から遠位に位置する前記主鏡の端部側に、x軸と平行に所定距離だけオフセットされたことを特徴とするオフセット光学システム。
【請求項2】
前記光学要素は、放物柱面、双極柱面、楕円柱面、及び円柱面からなる群から選択されるいずれかの形状を有する、
請求項1に記載のオフセット光学システム。
【請求項3】
被写体からの光が平行入射光の状態で前記主鏡に入射し、前記光学要素の反射面が式y=ax
2で表される場合に、前記主鏡の焦点距離を1/4a、前記副鏡の焦点距離をf、前記副鏡のy軸から最も遠い端部とy軸に最も近い端部との距離をαとすると、前記所定距離dは、
【数1】
で表される、
請求項1又は請求項2に記載のオフセット光学システム。
【請求項4】
被写体からの光が平行入射光の状態では前記主鏡に入射せず、前記光学要素の反射面が式y=ax
2で表される場合に、前記主鏡の焦点距離をy
FM、前記副鏡の位置をy
L、前記副鏡のy軸から最も遠い端部とy軸に最も近い端部との距離をα、被写体の位置をy
Kとすると、前記所定距離dは、
【数2】
で表される、
請求項1又は請求項2に記載のオフセット光学システム。
【請求項5】
前記副鏡は、平凸形状の柱状レンズ若しくは両凸形状の柱状レンズ又はこれらの組み合わせを含み、
前記副鏡の柱軸がx軸に平行に配置された、
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のオフセット光学システム。
【請求項6】
前記副鏡は、一方向にのみ湾曲した凹形状を有し、
前記主鏡と前記副鏡とは、凹面が対向するとともに、前記主鏡の湾曲方向と前記副鏡の湾曲方向とが互いに直交する位置関係で配置された、
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のオフセット光学システム。
【請求項7】
前記副鏡は、放物柱面、双極柱面、楕円柱面、及び円柱面からなる群から選択されるいずれかの形状を有する、
請求項6に記載のオフセット光学システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射望遠鏡などに用いることができる光学システムに関し、より具体的には、平板を一方向にのみ湾曲させた凹形状の反射面を有する主鏡と、主鏡からの光を透過又は反射させる副鏡とを組み合わせた光学システムにおいて、副鏡の位置をオフセットさせた光学システムに関する。
【背景技術】
【0002】
放物面反射鏡が用いられるニュートン式反射望遠鏡をはじめとして、これまで多くの改良型反射望遠鏡が開発されてきたが、主鏡として用いられる放物面反射鏡の研磨技術に要求される精度の高さとその作業工程の複雑さは、今日に至るまで変わるものではない。そのため、特に中大型の反射望遠鏡は高価なものになり、中型以上の反射望遠鏡を自製することは殆ど不可能である。大型の放物面反射鏡は、重量が数トンから数十トンにも及ぶため、重力による鏡面の変形が問題となり、その変形も観測する天体の高さにより異なる。したがって、鏡面の変形の補正は、スバル望遠鏡などの特殊な最新の制御システムが用いられるもの以外は不可能である。
【0003】
中規模以上の反射望遠鏡は、技術的な観点及びコスト的な観点から、大掛かりな組織でなければ製作は困難である。そこで、莫大な資金を要する大集光力の反射望遠鏡を、従来の望遠鏡より廉価かつ簡便に、軽量で製作することが可能であれば、一般市民レベルでも中型以上の反射望遠鏡を所有したり、自作したりすることができる。
【0004】
中大型の反射望遠鏡におけるこうした問題を解決する技術として、特許文献1に記載のシステムが提案されている。このシステムでは、2つの凹形状反射体が、それらの凹面が互いに対向するように配置されている。被写体から放射された光線は、主鏡である第1の反射体によって、対向する第2の反射体の方向に反射される。第1の反射体からの光線は、第2の反射体によって反射される。第1の反射体及び第2の反射体は、それぞれ互いに対して直交する一方向に曲げられており、したがって、それぞれの線状焦点は、焦点で合体するようになっている。このシステムは、高コストの放物面反射鏡を用いるのではなく、薄いシート状の金属等から作製することができる凹形状反射体を用いるため、軽量かつ安価に構築することができるとされている。本出願の出願人もまた、特許文献2に開示されるように、特許文献1と同様の原理を用いた複合放射面式の望遠鏡を提案している。
【0005】
特許文献3には、2つの柱状レンズを、それらの柱軸が互いに直行するように配置した光学装置が提案されている。この装置によれば、光軸に垂直な直交する2方向成分について独立に光の収斂及び発散を行うことができるため、縦及び横の倍率が異なる像を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-164881号公報
【特許文献2】特開2010-15116号公報
【特許文献3】特開昭57-204018号公報
【特許文献4】特許第6602942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~特許文献3に提案されている光学システムの課題を解決することを目的として、本出願の発明者は、特許文献4に記載の発明を提案した。この発明は、集光力が大きく、容易かつ安価に製造することができ、中型以上の反射望遠鏡等にも用いることが可能な光学システムを提供することができるものである。この光学システムは、
図10(a)に示されるように、一方向にのみ湾曲した凹形状の反射体Mと、x軸方向に延びる柱軸22’を有する凸形状の集束体Lとを備え、
図10(b)に示されるように、光学的対称軸が反射体M及び集束体Lの高さ方向の中央部を通るように構成されている。
【0008】
しかしながら、この光学システムにおいては、反射体M及び集束体Lのいずれにおいても、有効に利用されない部分が存在する。
図1は、特許文献4の光学システムにおける反射体M及び集束体Lと光路との関係を模式的に示したものである。
図1では、光学的対称軸と反射体Mとの交点をxyz直交座標の原点Oとし、光学的対称軸の方向(すなわち、
図1の上下方向)をy軸、y軸と直交する反射体Mの湾曲の接線方向(すなわち、
図1の左右方向)をX軸、y軸及びx軸と直交する方向(すなわち、
図1の紙面に垂直な方向)をz軸としている。
【0009】
図1において、まず、反射体Mが、反射体Mで反射された光のうち集束体Lの柱軸方向(y軸方向)の端部Laと反射体Mの焦点y
FMとを結ぶ光路OP
aより外側を通る光路OP
a’が存在するような長さである場合、その光路OP
a’の光は、集束体Lに入射しないため結像に寄与しない。すなわち、端部L
aより外側を通る光を反射する反射体Mには、有効に利用されない部分M
1が存在する。反射体Mで反射された光をすべて集束体Lに入射させようとすると、反射体Mと集束体Lとの位置関係がこのままの状態では、反射体Mの長さを短くすることになり、集光力が小さくなる。
【0010】
一方、被写体から反射体Mに向かう平行入射光のうち集束体Lの端部La付近を通過し、反射体Mで反射された光は、集束体Lの端部Laと柱軸方向中央部Lcとの間の位置Lbを通過する。そうすると、平行光が集束体Lの端部La付近を通り反射体Mで反射される点Mbと反射体Mの焦点yFMとを結ぶ光路OPbより柱軸方向中央部側の集束体Lの部分L1には、集束体L自身が被写体からの平行入射光を遮っているため反射体Mからの反射光が入射せず、したがって、集束体Lには、有効に利用されない部分L1が存在する。
【0011】
また、反射体Mは、通常、一枚の鏡面板を一方向にのみ湾曲させて作製される。1枚の鏡面板を湾曲させた凹形状の反射体は、特に安価に作製されるものにおいては、その中央部M
cから一方の端部M
e1側の曲率と、中央部M
cから他方の端部M
e2側の曲率とを高精度で一致させることが難しい。両方の曲率が不一致の場合には、中央部M
cから一方の端部M
e1側で反射した光と、中央部M
cから他方の端部M
e2側で反射した光とで、y軸上の焦点位置が異なることになる。両者の曲率を高精度で一致させるためには、極めて高度な加工精度を要するとともに、使用時の変形を防止するために構造的に強度を向上させる必要がある。したがって、
図1の光学システムは、高精度なシステム構築の難易度が高いことに加えて、コストが高く、かつ重量が大きくなる。
【0012】
本発明は、中型以上の反射望遠鏡等にも用いることが可能な光学システムにおいて、被写体からの光を反射させる反射体と、反射体からの光を反射又は透過させて点焦点に集束させる反射体又は集束体とをできるだけ有効に利用できるようにすることによって、集光力が大きく、容易かつ安価に、最小の材料で最大の集光力を有する構造を持つ光学システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一方向のみに湾曲した凹形状を有し、被写体からの光を反射させて線状焦点に集光させる第1の光学要素と、第1の光学要素とその線状焦点との間に配置され、第1の光学要素によって反射された光を透過又は反射させて点焦点に集光させる第2の光学要素とを含む光学システムを考える。ここで、この光学システムの光学的対称軸と第1の光学要素との交点をxyz直交座標の原点Oとし、光学的対称軸の方向をy軸、y軸と直交する平面上で第1の光学要素の湾曲の接線方向をx軸、y軸及びx軸と直交する方向をz軸とする。本発明は、上記の光学システムをyz面で分割することによって得られる2つの光学システムのうちのいずれか一方(例えば、
図1のy軸より左側に相当する部分)の少なくとも一部に対応する光学要素を含むオフセット光学システムを提供する。このオフセット光学システムは、第1の光学要素の分割された一方(第1の光学要素の半分に相当する半光学要素)の少なくとも一部である主鏡と、副鏡とを有し、副鏡は、y軸から遠位に位置する主鏡の端部側に、x軸と平行に所定距離だけオフセットさせて配置されている。副鏡は、分割前の第2の光学要素と同じサイズのものであってもよいが、副鏡のx軸方向の長さが長くなるほど、副鏡が主鏡への入射光を妨げる範囲が広くなるとともに、主鏡のサイズが大きくなり、システム構築が高コストになるため、望ましくない。したがって、副鏡も主鏡と同様に、第2の光学要素の分割された一方(第2の光学要素の半分に相当する半光学要素)の少なくとも一部であることが好ましい。
【0014】
言い換えると、本発明にかかるオフセット光学システムは、一方向のみに湾曲した凹形状を有し、被写体からの光を反射させて線状焦点に集光させる光学要素を、その湾曲に沿った長さの中間部で分割することによって得られる2つの半光学要素のうちの一方の少なくとも一部である主鏡と、主鏡とその線状焦点との間に配置され、主鏡によって反射された光を透過又は反射させることによって点焦点に集光させる副鏡とを含み、光学要素の中間部における湾曲の接線方向をx軸、x軸に垂直かつ被写体の位置する方向をy軸、x軸及びy軸と直交する方向をz軸としたとき、副鏡が、y軸から遠位に位置する主鏡の端部側に、x軸と平行に所定距離だけオフセットされたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、主鏡及び副鏡の無駄な部分をできるだけ少なくしながら、集光力の大きな光学システムを構築することができる。特に、より高価であることが多い柱状レンズを副鏡として用いる場合に、所定の長さの柱状レンズの長さ方向全ての領域を無駄なく利用することができる。また、一方向にのみ湾曲した凹形状の反射鏡は、従来の反射望遠鏡に用いられる放物面反射鏡と比較して、研磨が容易である。したがって、本発明によれば、集光力が大きく、容易かつ安価に、最小の材料で最大の集光力を有する構造を持つ光学システムを提供することができる。
【0016】
例えば、本発明による光学システムは、軽量化が可能であるため、重力による反射鏡の湾曲が軽減され、支持構造の簡素化が可能であり、したがって、中型の望遠鏡への応用においても利点がある。また、本発明による光学システムにおいては、例えば3Dプリンタなどでも容易に反射鏡を作製することができるとともに、使用する材料を節約することができるので、例えば教育用や玩具用の軽量、安価かつコンパクトな小型望遠鏡への応用においても利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】従来の光学システムにおける反射体及び集束体と光路との関係を示す。
【
図2】本発明の一実施形態によるオフセット光学システムを示す模式図である。
【
図3】
図2のオフセット光学システムをx軸方向からみた模式図であり、主鏡の位置を原点として、副鏡、スクリーン及び被写体の位置と、主鏡及び副鏡の焦点の位置との関係を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態によるオフセット光学システムのオフセット量を求める方法を説明するための模式図であり、光学システムをz軸方向からみた図である。
【
図5】本発明の一実施形態によるオフセット光学システムをz軸の方向からみた模式図である。
【
図6】本発明の別の実施形態によるオフセット光学システムを示す模式図である。
【
図7】本発明のさらに別の実施形態による、被写体までの距離が近い場合のオフセット光学システムを示す模式図である。
【
図8】オフセット光学システムOOS(凹形状の反射鏡×柱状レンズ)を用いて撮影した写真である。
【
図9】オフセット光学システムOOS’(凹形状の反射鏡×凹形状の反射鏡)を用いて撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を詳細に説明する。
【0019】
まず、
図10に示される従来の光学システムOSの構成及び設計方法を以下に説明する。なお、同様の内容は、特許文献4にも記載されている。
[従来の光学システムOSの構成]
図10(a)は、従来の光学システムOSの構成を示す模式図である。
図10(a)においては、x軸、y軸及びz軸が、図中に示されるとおり定められている。光学システムOSは、被写体Kからの光を反射させる主鏡Mと、主鏡Mによって反射された光を透過させる副鏡Lとを含む。光学システムOSは、さらに、副鏡Lを透過した光を受けるスクリーンS(受光部)を含む。
【0020】
図10(b)においては、主鏡M及び副鏡LとスクリーンSとがy軸上において直線上に配置されているが、このような配置に限定されるものではなく、例えば、主鏡Mと副鏡Lとがy軸上に配置されており、副鏡Lを通過した光をy軸に配置された斜鏡を用いて側方に取り出し、側方に配置されたスクリーンSで受光するようにしてもよい。
【0021】
(主鏡M)
主鏡Mは、一方向にのみに湾曲した凹形状の反射面12’を有しており、この反射面12’は、被写体Kからの光を反射させることができる。反射面12’の凹形状は、限定されるものではないが、放物柱面、楕円柱面、円柱面、双極柱面などの形状とすることができ、y軸上に線状焦点を結ぶことができることに加えて、収差がないことから、放物柱面とすることがより好ましい。ただし、主鏡による収差が生じても、適切に選択された複数の補正用レンズを配置することによって収差を吸収させることができるため、反射面12’の凹形状として放物柱面以外の形状を採用することも比較的容易である。反射面12’の形状が放物柱面を有する主鏡Mの場合には、例えば、一枚の鏡面板を、反射面12’となる鏡面を内側にして、放物線y=ax
2(aは定数)に沿って湾曲させることにより、作製することができる。例えば、放物線y=ax
2に沿って湾曲させた主鏡Mの場合には、その放物線の焦点はy=1/(4a)であるため、例えば
図10(a)のスクリーンSを主鏡Mの焦点の位置に配置するものとすれば、その位置からaを決定し、主鏡Mの反射面12’の形状を設計することができる。
【0022】
主鏡Mは、凹形状の反射面12’によって反射された光を、y軸上のいずれかの位置において線状焦点に集光させることができる。なお、主鏡Mの反射面12’とは反対側の部分の形状は、特に限定されるものではない。主鏡Mは、例えばこの光学システムOSを用いて望遠鏡を実現する場合には、適切な支持具等を用いて、望遠鏡を構成する鏡筒の内部に固定すればよい。
【0023】
主鏡Mの大きさは、限定されるものではなく、被写体との距離や必要とされる集光力などの条件に応じて、適宜決定することができる。主鏡Mの反射面12’として用いることができる材料は、限定されるものではないが、熱膨張による変形が少なく加工しやすいものであることが好ましく、用途や許容される重量などの条件に応じて、アルミニウム、ステンレス、ガラス、樹脂などを適宜用いることができる。ガラスや樹脂を用いる場合には、これらの材料を基材とし、その表面に金属を蒸着したり鏡面板を貼り付けたりすることによって、反射面12’を形成することができる。反射面12’は、汎用の数値制御工作機械などを用いて形成された型に基づいて、作製することができる。主鏡Mを形状記憶合金で作製すれば、例えばロール状に巻いた主鏡Mをロケットに搭載して衛星軌道までで運搬し、軌道上で展開することによって、巨大な宇宙望遠鏡を構築することもできる。
【0024】
(副鏡)
副鏡Lは、x軸方向に平行な柱軸22を有する凸形状の柱状レンズとすることができ、y軸方向において主鏡Mと主鏡Mの線状焦点との間に配置される。副鏡Lは、その柱軸22の方向(x軸方向)が、主鏡Mの長さ方向中間部における湾曲に沿った接線の方向(y軸方向)と直交するように配置され、したがって、主鏡Mによって反射された光を透過させることによって、点焦点に集束させることができる。
【0025】
副鏡Lの形状は、限定されるものではないが、主鏡Mの反射面12’に対向する側面が平面で、その反対側の側面が凸面である平凸形状の柱状レンズ、又は、主鏡Mの反射面12’に対向する側面もその反対側の側面も凸面となった両凸形状の柱状レンズを、必要とされる焦点距離に応じて適宜選択して用いることができる。焦点距離を長くする場合には平凸形状の柱状レンズを用いることが好ましく、焦点距離を短くする場合には両凸形状の柱状レンズを用いることが好ましい。また、副鏡Lとして、シリンドリカルフレネル面を有するレンズを用いることによって、より軽量かつ安価に大型の望遠鏡を製造できるようにすることも可能である。副鏡Lは、例えばこの光学システムを用いて望遠鏡を実現する場合には、鏡筒の内部において光軸方向に延びるように設置されたレール上に移動可能に支持されることが好ましい。
【0026】
副鏡Lの数は、1つに限定されるものではなく、複数であってもよい。例えば、主鏡Mの反射面12’の形状や最終的に必要となる像の用途等に応じて、複数の柱状レンズ群L1~Lnを副鏡としてy軸上に配置し、主鏡Mから最も遠位のレンズLnを透過した光が点焦点に集光されるように構成することができる。
【0027】
柱状レンズ群L1~Lnとして用いられる場合には、レンズ群L1~Lnは、すべてが平凸形状の柱状レンズであってもよく、すべてが両凸形状の柱状レンズであってもよく、1つ又は複数の平凸形状の柱状レンズと1つ又は複数の両凸形状の柱状レンズとが適宜組み合わされたものであってもよい。また、柱状レンズ群L1~Lnは、複数の平凸形状の柱状レンズ若しくは複数の両凸形状の柱状レンズ又はこれらの組み合わせに加えて、1つ又は複数の平凹形状の柱状レンズ、若しくは1つ又は複数の両凹形状の柱状レンズ、又はこれらを組み合わせたレンズ群を含んでいてもよい。平凹形状の柱状レンズ及び/又は両凹形状の柱状レンズは、平凸形状の柱状レンズ及び/又は両凸形状の柱状レンズと、その柱軸の方向(すなわちx軸方向)が平行になるように配置される。
【0028】
副鏡Lの大きさは、限定されるものではないが、軽量化及びコスト低減の観点からできるだけ小さくすることが好ましい。副鏡Lの高さ(すなわち、z軸方向の長さ)は、主鏡Mの高さ(z軸方向の長さ)に応じて定めることができる。副鏡Lの材料としては、特に限定されるものではなく、用途や許容される重量などの条件に応じて、ガラスや樹脂を適宜用いることができる。
【0029】
(スクリーン)
スクリーンSは、副鏡Lを透過する光の進行方向下流側に配置され、副鏡Lを透過した光を受けることができる。
図10(a)においては、受光部の一例としてスクリーンSが用いられているが、これに限定されるものではなく、スクリーンSの位置に配置されたCCD、CMOSなどの撮像素子や接眼鏡などとすることができる。スクリーンSは、例えばこの光学システムを用いて望遠鏡を実現する場合には、鏡筒内において光軸方向に延びるように設置されたレール上に移動可能に支持されることが好ましい。
【0030】
[従来の光学システムOSの設計]
次に、従来の光学システムOSを設計する方法を説明する。
図10(b)は、
図10(a)の光学システムをx軸方向からみた図であり、図の左右方向に延びる軸がy軸、図の上下方向に延びる軸がz軸である。
図10(b)においては、主鏡Mの高さ方向及び長さ方向の中間部における反射面と湾曲の接線との交点の位置を原点Oとして、副鏡L、スクリーンS及び被写体Kのy軸上の位置と、主鏡Mの焦点のy軸上の位置y
FM及び副鏡Lの焦点のy軸上の位置y
FLとの関係が示されている。ここで、光学システムOSを設計するためには、ある焦点距離の主鏡Mと副鏡Lとを用いたときに、被写体Kの位置y
Kに対して、副鏡Lの位置y
L及びスクリーンの位置y
Sを決める必要がある。
【0031】
遠方の被写体Kから放射され
図10(b)の右方向から主鏡Mに入射した平行入射光は、主鏡Mの凹形状の反射面12’(y=ax
2の放物線に沿って湾曲した面)で反射される。反射された光は、放物線y=ax
2の焦点y=1/(4a)=y
FMの位置で、z軸方向に延びる線状焦点を結ぶことになる。この線状焦点と反射面12’との間y=y
Lの位置に副鏡Lを配置すると、反射面12’からの光は、副鏡Lによってz軸方向に収縮し、y=y
FLの位置に点焦点を結ぶ。
【0032】
ここで、主鏡Mのy軸上の平行入射光の焦点1/(4a)と副鏡Lの端部とを結ぶ光路が主鏡Mと交わる点のx軸上の位置をx’とし、副鏡Lと主鏡Mの焦点との距離をf(=副鏡Lの焦点距離)、y軸と副鏡Lの端部との間の距離(=副鏡Lの柱軸に平行な長さの1/2)をαとすると、
α/f=x'/(1/4a)
であるので、x'は、
x'=α/4af
となる。したがって、集光力を上げるためにはx’を大きくすることになり、x’を大きくするためには、a及びfが小さく、αが大きくなるように、主鏡M及び副鏡Lを設計することになる。
【0033】
一般に、焦点距離fの凸レンズを用い、被写体を凸レンズの焦点距離fより遠くに置いた場合、焦点距離fの凸レンズによる倍率mは、被写体から凸レンズまでの距離をaとし、凸レンズから像までの距離をbとすると
【数1】
で表される。この倍率の計算に従えば、
図10(b)に示される主鏡M及び副鏡Lの配置の場合には、x方向の倍率m
xは、主鏡Mの位置y
M=O、スクリーンSの位置y
S、被写体Kの位置y
K、及び主鏡Mの焦点位置y
FMを用いて、
【数2】
と表すことができる。また、z方向の倍率m
zは、副鏡Lの位置y
L、スクリーンの位置y
S、被写体Kの位置y
K、副鏡Lの焦点位置y
FLを用いて、
【数3】
と表すことができる。
【0034】
(2)式及び(3)式から、
【数4】
ここで、副鏡Lの焦点距離をfとすると、副鏡Lの焦点位置y
FL=y
L+fであるので、(4)の左辺は、
【数5】
となる。(5)式をy
Lについてまとめると、
【数6】
となるので、(6)式からy
Lを求めると、
【数7】
となる。(7)式のAを(4)式を用いて戻すと、以下の式が得られる(なお、以下の式では、現実に合わせるためにプラス符号のみを採用している)。
【数8】
ここで、xが1より十分に小さいときには、以下の近似式、
【数9】
が成立することを利用すると、被写体Kが十分に遠方にあるとき(y
K>>y
FM)には、
【数10】
となり、副鏡Lの位置は、被写体Kの位置に依存せず、主鏡Mの焦点位置y
FMと副鏡Lの焦点距離fのみで決まる。また、被写体Kが十分に遠方にあるときには、入射光は平行光なので、スクリーンSに像が映るようにするためには、
【数11】
となる。
【0035】
[本発明にかかるオフセット光学システムOSSの構成]
次に、本発明にかかるオフセット光学システムの構成及び副鏡のオフセット量の求め方について説明する。
図10に示される従来の光学システムOSでは、主鏡M及び副鏡Lのいずれにおいても有効に利用されない部分が存在すること、並びに、1枚の鏡面板を湾曲させた凹形状の主鏡Mを用いるシステムは、高精度システムを構築する難易度が高く、コスト及び重量が大きくなることは、本明細書の発明が解決しようとする課題にも記載したとおりである。
【0036】
そこで、本発明の発明者は、これらの課題を解決する新たな光学システムを発明した。この光学システムOOSは、これ以降、オフセット光学システムOOSという。
図2は、本発明の一実施形態によるオフセット光学システムOOSの構成を示す模式図であり、x軸、y軸及びz軸が、図中に示されるとおり定められている。また、
図3は、オフセット光学システムOOSをx軸方向からみた状態を表す模式図であり、主鏡MHの位置を原点Oとして、副鏡LH、スクリーンS及び被写体Kの位置と、主鏡MH及び副鏡LHの焦点の位置y
FM及びy
Lとの関係を示す図である。
【0037】
オフセット光学システムOOSは、
図2においていずれも実線で示される主鏡MH、副鏡LH及びスクリーンSを含み、遠方の被写体Kからの光を主鏡MHで反射させ、反射された光を副鏡Lを透過させることによって、スクリーンSに被写体Kの像が結ばれるように構成される。なお、
図2においては、主鏡MHへの入射光が平行入射光となっていないが、これは、図面作成の関係上、被写体Kの位置がオフセット光学システムOOSの近くに描かれているためである。
図2には、主鏡及び副鏡の点線部分が描かれているが、主鏡の実線及び点線を含む全体が従来の光学システムOSにおける主鏡Mを表し、副鏡の実線及び点線を含む全体が従来の光学システムOSにおける副鏡Lを表している。オフセット光学システムOOSは、光学システムOSの主鏡M及び副鏡Lを、光学システムOSの光学的対称軸を通るyz面で半分に分割し、そのうちの一方の光学システムに含まれる光学要素すなわち反射体及び集束体を、それぞれ主鏡MH及び副鏡LHとした上で、副鏡LHを、y軸から遠位に位置する主鏡MHの端部MHe側に、x軸に平行に(すなわち柱軸22に沿って)所定距離dだけオフセットさせて配置した構成を有する光学システムである。
【0038】
主鏡MHは、凹形状の反射面12を有し、反射面12で反射された光を線状焦点に集光させることができる。主鏡MHは、主鏡Mをその湾曲に沿った長さの中間部で半分に分割することによって得られる2つの半光学要素の一方とすることができ、半分に分割されていること以外の物理的性質は、主鏡Mと同様である。主鏡Mの詳細については、従来の光学システムOSの構成において説明したとおりである。このように、主鏡Mの全体ではなくその一部を用いることによって、以下のような利点がある。すなわち、主鏡M全体を用いた従来の光学システムの場合には、
図1を用いて上述したように、副鏡Lにおいて使用されない部分(
図1に示されるL
1の部分)が必然的に生じる。しかし、主鏡Mを分割して得られる半光学要素の少なくとも一部を主鏡MHとして用いることによって、本発明にかかる光学システムの特徴である「オフセット」という新たな技術思想を導入することができ、副鏡の無駄を排除して副鏡全体を有効に活用することができるようになる。また、主鏡MHのコスト及び重量を削減し、使用する材料を節約することができる。
【0039】
また、副鏡LHは、x軸に平行に延びる柱軸22を有する凸形状の柱状レンズとすることができ、y軸方向において主鏡MHと主鏡MHの線状焦点との間に配置される。副鏡LHは、副鏡Lを柱軸方向中間部で半分に分割することによって得られる2つの半光学要素の一方とすることができ、その物理的性質は副鏡Lと同様である。副鏡Lの詳細については、従来の光学システムOSの構成において説明したとおりである。スクリーンSは、副鏡Lを透過する光の進行方向下流側に配置され、副鏡Lを透過した光を受けることができる。スクリーンSの詳細についても、従来の光学システムOSの構成において説明したとおりである。
【0040】
[本発明にかかるオフセット光学システムOSSのオフセット量の求め方]
ここで、副鏡LHを、y軸から遠位に位置する主鏡MHの端部MHe側に、x軸に平行にオフセットさせる所定距離であるオフセット量dを求める方法を説明する。
図4は、オフセット光学システムOSSにおけるオフセット量dを求める方法を説明するための模式図であり、光学システムをz軸の方向から見た図である。
【0041】
図4では、光学システムOSの主鏡Mをyz面で分割することによって得られる2つの光学要素の一方を主鏡MH、同様に副鏡Lから得られる2つの光学要素の一方を副鏡LH
0とし、副鏡LH
0をx軸に平行に、y軸から離れる方向(すなわち、主鏡MHの端部MHe方向)に距離d
0だけ移動させたときの副鏡を副鏡LH
1とする。なお、
図4において、副鏡LH
0と副鏡LH
1とはy軸方向に位置がずれた状態で描かれているが、これは図を見やすくするためであり、実際には、両者のy座標は同じである。
【0042】
図4に示されるように、主鏡MHがy=ax
2の放物柱面を有する場合を考え、主鏡MHのy軸上の焦点y
FM(=1/4a)と副鏡LH
0の左端とを結ぶ光路OP
01が、主鏡MHと交わる点のx軸上の位置をx’
0とする。すなわち、平行入射光が主鏡MH上のx’
0に相当する位置で反射された反射光は、副鏡LHの左端を通過する。主鏡MHの焦点y
FMと副鏡LHとの距離(すなわち、副鏡LHの焦点距離)をfとし、副鏡LH
0の長さ(副鏡LH
0のy軸から最も遠い端部とy軸に最も近い端部との距離)をαとすると、
1/4a:f=x’
0:α から、
x’
0=α/4af
である。このとき、主鏡MHのx’
0より外側の(y軸から遠い)部分は、活用されることがない無駄な領域となっている。
【0043】
また、副鏡LH0の左端の外側付近を通過する平行入射光は、主鏡MH上のx=αに相当する位置で反射され、反射された光の光路OP02と副鏡LHとが交わる点に相当する位置をx=d0とする。そうすると、
1/4a:f=α:d0 から、
d0=4afα
である。このとき、副鏡LH0の光路OP02より内側(y軸寄り)の部分は、副鏡LH0が平行入射光を遮るため、主鏡MHからの反射光が通らず、活用されることがない無駄な領域となっている。
【0044】
ここで、副鏡LH
0の未活用部分d
0の分だけ、副鏡をx軸に平行に、y軸から離れる方向に移動させ、この位置の副鏡を副鏡LH
1とする。この副鏡LH
1において、副鏡LH
0のときと同様に、主鏡MHのy軸上の焦点y
FMと副鏡LH
1の左端とを結ぶ光路OP
11が、主鏡MHと交わる点に相当するx軸上の位置をx’
1、副鏡LH
1の左端のすぐ外側を通過する平行入射光が、主鏡MH上のx=α+d
0に相当する位置で反射され、反射された光の光路OP
12と副鏡LH
1とが交わる点に相当する位置をx=d
1とすると、
【数12】
【数13】
となる。
【0045】
副鏡LH
1とした場合においても、主鏡MHのx’
1より外側の部分と、副鏡LHの光路OP
12より内側の部分とは、活用されることがない無駄な領域である。したがって、さらに副鏡LH
1の未活用部分d
1の分だけ、副鏡をx軸に平行に、y軸から離れる方向に移動させた副鏡LH
2(図示せず)を考える。主鏡MHのy軸上の焦点y
FMと副鏡LH
2の左端とを結ぶ光路が主鏡MHと交わる点に相当するx軸上の位置をx’
2(図示せず)、副鏡LH
2の左端のすぐ外側を通過する平行入射光が、主鏡MH上のx=α+d
1に相当する位置で反射され、反射された光の光路と副鏡LHとが交わる点に相当する位置をx=d
2(図示せず)とすると、
【数14】
【数15】
となる。
【0046】
以上ように副鏡をx軸に平行に移動させる操作をn回繰り返すと、x’
n及びd
nは、公比4afの等比級数の和になり、以下の式となる。
【数16】
【数17】
この光学系では、1/4a>fであるため4af<1となり、副鏡LHnの移動を無限回繰り返してn→∞とすると、式(11)及び式(12)は以下のとおりとなる。
【数18】
【数19】
【0047】
したがって、d
∞を式(14)で定め、d
∞を副鏡LHをオフセットさせる量dとすることによって、長さαの副鏡LHのすべての領域を無駄なく利用した光学システムを設計することができる。また、x’
∞を式(13)で定め、x軸上でx’
∞に相当する位置x
eを主鏡MHの端部MHeの位置とすることによって、光学的精度を出しにくい主鏡MHの端部における無駄な領域をなくした光学システムを設計することができる。このようにして設計されるオフセット光学システムOOSの模式的な上面図は、
図5のようになる。
【0048】
オフセット光学システムOOSは、主鏡MHの端部における無駄な領域をなくした光学システムを設計することができる。一方で、
図5に示されるように、主鏡MHのx軸上のdに相当する位置から原点Oまでの部分については、主鏡MHの反射光が副鏡LHに入射しないため、実質的に無駄な領域となる。また、主鏡MH上のx軸上のα+dに相当する位置からx軸上のdに相当する位置までの部分については、副鏡LHの影になるため平行入射光が到達せず、この部分も無駄な領域となる。したがって、これらの領域に相当する部分をあらかじめ除いた主鏡MH、すなわち、主鏡Mをその湾曲に沿った長さの中間部で半分に分割することによって得られる2つの半光学要素の一方の少なくとも一部を用いることによって、主鏡MHの重量及びコストをさらに低減し、材料をさらに節約することができる。
【0049】
また、主鏡MHの元になる主鏡M(すなわち、
図2において実線及び点線の全体からなる反射体M)について、これまで放物柱面を実施形態として説明してきたが、近軸光線の領域では、放物柱面以外に双曲柱面、楕円柱面及び円柱面についても同様の説明ができる。近軸光線の領域とは、主鏡の光軸と反射光の光路との間の角度をθとしたときにsinθ=θが成立する領域である。この領域では、通常、放物柱面、双曲柱面及び楕円柱面は、いずれも円柱面と同じ曲率半径rを有し、これらの焦点距離が、放物柱面の焦点距離(1/4a)と近似的に等しいと考えることができる。この場合、主鏡の焦点距離はr/2と表すことができ、すなわち、
【数20】
とすることができる。そこで、式(13)及び式(14)において、4a=2/rとすることによって、曲率半径rを用いて、副鏡のオフセット量と主鏡のy軸から遠い端部の位置を定めることができる。
【0050】
副鏡は、柱状レンズなどの集束体ではなく、主鏡MHと同様に一方向にのみ湾曲した凹形状の反射面を有する反射体を用いることもできる。
図6は、一方向にのみ湾曲した凹形状の反射体を副鏡LH’として用いた場合のオフセット光学システムOOS’を示す。このオフセット光学システムOOS’においても、オフセット光学システムOOSと同様に、式(14)で定められるd
∞をオフセット量dとし、この量dだけ副鏡LH’をx軸に平行に、y軸から離れる方向に移動させることによって、副鏡LH’のすべての領域を無駄にすることなく利用する光学システムを設計することができる。なお、副鏡LH’は、高さ方向中央部におけるz軸方向の接線の周りに回転させること、又は、高さ方向中央部を通るx軸方向の軸線の周り回転させることによって、反射した光を任意の方向に向けることができ、したがって、例えばスクリーンSを
図6における主鏡MHの右側方、上方又は下方のいずれかに配置することもできる。
【0051】
これまでの説明は、被写体Kが遠方に存在している場合のオフセット光学システムOOSに関する。一方、被写体Kまでの距離が近い場合には、被写体Kから主鏡MHへの入射光は平行入射光ではないため、主鏡MHの端部の位置及びオフセット量は、オフセット光学システムOOSとは異なるものとなる。
図7は、被写体Kまでの距離が近い場合のオフセット光学システムOOS”を示す模式図であり、オフセット光学システムOOS”をz軸の方向からみた図である。
【0052】
オフセット光学システムOOS”においては、y軸上のy
Kに位置する被写体Kから主鏡Mに入射する光は
図5に示されるような平行入射光ではないものと考える。
【数21】
から、
【数22】
である。さらに、
図7から、
【数23】
となり、この式を変形して、
【数24】
となる。さらに、
図7から、
【数25】
を得る。上記の各式を用いて、オフセット量dは以下の式となる。
【数26】
【0053】
また、
図7から、
【数27】
であり、この式と、上記のy
Sの式及びdの式から、主鏡MHの端部MHeの位置x
eは、以下のようになる。
【数28】
【0054】
さらに別の実施形態においては、オフセット光学システムOOS、OOS’、又はOOS” と、yz面を対称面としてこれらの光学システムOOS、OOS’、又はOOS”と面対称の関係にあるオフセット光学系システムとを組み合わせた光学システムを構成することもできる。すなわち、この光学システムにおいては、主鏡として、反射体MHと、反射体MHとyz面に関して面対称の関係にある反射体とを組み合わせたもの(例えば
図2に示される実線及び点線の全体からなる反射体Mと同じもの)を用いることができる。また、副鏡として、集束体LH又は反射体LH’と、集束体LH又は反射体LH’とyz面に関して面対称の関係にある集束体又は反射体(例えば、
図2に示される柱状レンズLHと同じ形状の柱状レンズを、柱状レンズLHの位置からx軸方向に平行に移動させて、yz面に関して対称な位置に配置したもの)との2つを用いたものとして構成することができる。
【実施例0055】
(実施例1)
放物柱面形状の一部である反射面を有する主鏡MHと、平凸形状の柱状レンズである副鏡LHとを用いた場合の実施例を示す。この実施例のオフセット光学システムは、
図2及び
図5に示されるようなオフセット光学システムOOSに相当する。主鏡MHは、x軸方向の長さ(例えば
図5に示されるOx
eの長さ)が220mm、z軸方向の長さが60mm、厚みが10mmであった。また、副鏡LHは、同様に、x軸方向の長さ(例えば
図5に示される長さα)が50mm、z軸方向の長さが50mmであった。主鏡MHの焦点距離は560mm、副鏡LHの焦点距離は200mmであった。このオフセット光学システムにおいては、副鏡LHのオフセット量dは27.8mmであった。
図8は、このオフセット光学システムによって撮影した写真であり、
図8(a)は、200mの距離(すなわち、y
K=200m)にある家の画像、
図8(b)は月の画像である。いずれも、縦方向に延びた状態の画像となっているが、この歪みは、必要に応じて画像処理などによって補正可能である。
【0056】
(実施例2)
放物柱面形状の一部である反射面を有する主鏡MHと、放物柱面形状の反射面を有する副鏡LH’とを用いた場合の実施例を示す。この実施例のオフセット光学システムは、
図6に示されるようなオフセット光学システムOOS’に相当する。主鏡MHは、x軸方向の長さ(実施例1と同様にx軸方向Ox
eの長さ)が300mm、z軸方向の長さが100mm、厚みが15mmであった。また、副鏡LH’は、x軸方向の長さαが75mm、z軸方向の長さが100mm、厚みが15mmであった。主鏡MHの焦点距離は1000mm、副鏡LH’の焦点距離は430mmであった。このオフセット光学システムにおいては、副鏡LH’のオフセット量dは56.6mmであった。
図9は、このオフセット光学システムによって撮影した写真であり、
図9(a)は、200mの距離(すなわち、y
K=200m)にある家の画像、
図9(b)は月の画像である。月の画像は縦方向に延びた状態となっているが、この歪みは、必要に応じて画像処理などによって補正可能である。