(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168567
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】土壌解析装置、土壌解析方法、及び土壌解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20221031BHJP
G06Q 10/04 20120101ALI20221031BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
G06Q50/10
G06Q10/04
E02D17/20 106
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074112
(22)【出願日】2021-04-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年7月21日 第55回地盤工学研究発表会 にて公開 令和2年8月5日 http://confit.atlas.jp/jsce2020 にて公開 令和2年9月9日 令和2年度土木学会全国大会第75回年次学術講演会 にて公開 令和2年11月26日 令和2年度 地盤工学会四国支部技術研究発表会 にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】501497264
【氏名又は名称】西日本高速道路エンジニアリング四国株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 純二
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和明
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 謙治
(72)【発明者】
【氏名】高畑 東志明
(72)【発明者】
【氏名】矢田部 龍一
【テーマコード(参考)】
2D044
5L049
【Fターム(参考)】
2D044EA07
5L049AA04
5L049CC12
5L049DD01
(57)【要約】
【課題】土壌雨量指数と実測した地下水位とを考慮して、のり面の土壌を解析する。
【解決手段】推定部22が、地下水位が実測可能である実測可能地点についての、実測時期から所定期間前までの土壌雨量指数の時系列データを入力とし、ニューラルネットワークを用いて、前記実測時期の地下水位を推定し、解析水位とすることを、前記所定期間の長さを変更して繰り返す。相関計算部24が、前記実測可能地点について、前記実測時期毎の、前記実測可能地点について実測した地下水位である実測水位と、前記推定された前記解析水位を用いて、前記実測水位と、前記解析水位との相関係数を計算することを、前記所定期間の長さ毎に行う。分類部26が、前記相関係数と、前記相関係数が最大となる所定期間の長さを用いて、前記実測可能地点を分類する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水位が実測可能である実測可能地点についての、実測時期から所定期間前までの土壌雨量指数の時系列データを受け付けることを、前記所定期間の長さを変更して繰り返す入力部と、
前記時系列データから、ニューラルネットワークを用いて、前記実測時期の地下水位を推定し、解析水位とすることを、前記所定期間の長さを変更して繰り返す推定部と、
前記実測可能地点について、前記実測時期毎の、前記実測可能地点について実測した地下水位である実測水位と、前記推定された前記解析水位を用いて、前記実測水位と、前記解析水位との相関係数を計算することを、前記所定期間の長さ毎に行う相関計算部と、
前記相関係数と、前記相関係数が最大となる所定期間の長さを用いて、前記実測可能地点を分類する分類部と、
前記分類部による出力結果を出力する出力部
を含む土壌解析装置。
【請求項2】
複数の前記実測可能地点について、前記推定部、前記相関計算部、及び前記分類部の各処理を行い、
前記分類の結果を目的変数とし、前記実測可能地点の土壌特性に関するパラメータを説明変数として、回帰式を求め、
前記実測可能地点ではない地点の各々について、前記地点の土壌特性に関するパラメータを入力として、前記回帰式を用いて、前記地点を分類する
請求項1記載の土壌解析装置。
【請求項3】
入力部が、地下水位が実測可能である実測可能地点についての、実測時期から所定期間前までの土壌雨量指数の時系列データを受け付けることを、前記所定期間の長さを変更して繰り返し、
推定部が、前記時系列データから、ニューラルネットワークを用いて、前記実測時期の地下水位を推定し、解析水位とすることを、前記所定期間の長さを変更して繰り返し、
相関計算部が、前記実測可能地点について、前記実測時期毎の、前記実測可能地点について実測した地下水位である実測水位と、前記推定された前記解析水位を用いて、前記実測水位と、前記解析水位との相関係数を計算することを、前記所定期間の長さ毎に行い、
分類部が、前記相関係数と、前記相関係数が最大となる所定期間の長さとを用いて、前記実測可能地点を分類し、
出力部が、前記分類部による出力結果を出力する
土壌解析方法。
【請求項4】
コンピュータを、
地下水位が実測可能である実測可能地点についての、実測時期から所定期間前までの土壌雨量指数の時系列データを受け付けることを、前記所定期間の長さを変更して繰り返す入力部、
前記時系列データから、ニューラルネットワークを用いて、前記実測時期の地下水位を推定し、解析水位とすることを、前記所定期間の長さを変更して繰り返す推定部、
前記実測可能地点について、前記実測時期毎の、前記実測可能地点について実測した地下水位である実測水位と、前記推定された前記解析水位を用いて、前記実測水位と、前記解析水位との相関係数を計算することを、前記所定期間の長さ毎に行う相関計算部、
前記相関係数と、前記相関係数が最大となる所定期間の長さを用いて、前記実測可能地点を分類する分類部、及び
前記分類部による出力結果を出力する出力部
として機能させるための土壌解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌解析装置、土壌解析方法、及び土壌解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
降雨による高速道路の通行規制は、時間雨量と連続雨量(2mm/h以下の状況が6時間以上でリセットされる)を基に行なわれている。建設時の斜面や切土のり面の安定性は、切土によるすべり抵抗土塊のバランスが崩れ不安定になるが、供用後は、主に降雨による地下水位の上昇による有効応力の低下から安定性が低下する。このため既往の研究は、現地計測による土中水分変化に応じた事前通行止めの研究(例えば、非特許文献1)や気象庁等で採用されている土壌雨量指数と時間・連続雨量による通行規制の研究(例えば、非特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】館野他,現地計測に基づいた道路法面における道路規制基準の検討,第54回地盤工学研究発表会0993
【非特許文献2】花岡他,土砂災害警戒情報と高速自動車道通行規制に関する検討,第58回平成21年度砂防学会研究発表会概要集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記非特許文献1、2には、土壌雨量指数と実測した地下水位とを考慮して、土壌を解析することは記載されていない。
【0005】
本発明は、土壌雨量指数と実測した地下水位とを考慮して、土壌を解析することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る土壌解析装置は、地下水位が実測可能である実測可能地点についての、実測時期から所定期間前までの土壌雨量指数の時系列データを受け付けることを、前記所定期間の長さを変更して繰り返す入力部と、前記時系列データから、ニューラルネットワークを用いて、前記実測時期の地下水位を推定し、解析水位とすることを、前記所定期間の長さを変更して繰り返す推定部と、前記実測可能地点について、前記実測時期毎の、前記実測可能地点について実測した地下水位である実測水位と、前記推定された前記解析水位を用いて、前記実測水位と、前記解析水位との相関係数を計算することを、前記所定期間の長さ毎に行う相関計算部と、前記相関係数と、前記相関係数が最大となる所定期間の長さを用いて、前記実測可能地点を分類する分類部と、前記分類部による出力結果を出力する出力部を含んで構成されている。
【0007】
本発明に係る土壌解析方法は、入力部が、地下水位が実測可能である実測可能地点についての、実測時期から所定期間前までの土壌雨量指数の時系列データを受け付けることを、前記所定期間の長さを変更して繰り返し、推定部が、前記時系列データから、ニューラルネットワークを用いて、前記実測時期の地下水位を推定し、解析水位とすることを、前記所定期間の長さを変更して繰り返し、相関計算部が、前記実測可能地点について、前記実測時期毎の、前記実測可能地点について実測した地下水位である実測水位と、前記推定された前記解析水位を用いて、前記実測水位と、前記解析水位との相関係数を計算することを、前記所定期間の長さ毎に行い、分類部が、前記相関係数と、前記相関係数が最大となる所定期間の長さとを用いて、前記実測可能地点を分類する。出力部が、分類部による出力結果を出力する。
【0008】
本発明に係る土壌解析プログラムは、コンピュータを、地下水位が実測可能である実測可能地点についての、実測時期から所定期間前までの土壌雨量指数の時系列データを受け付けることを、前記所定期間の長さを変更して繰り返す入力部、前記時系列データから、ニューラルネットワークを用いて、前記実測時期の地下水位を推定し、解析水位とすることを、前記所定期間の長さを変更して繰り返す推定部、前記実測可能地点について、前記実測時期毎の、前記実測可能地点について実測した地下水位である実測水位と、前記推定された前記解析水位を用いて、前記実測水位と、前記解析水位との相関係数を計算することを、前記所定期間の長さ毎に行う相関計算部、前記相関係数と、前記相関係数が最大となる所定期間の長さを用いて、前記実測可能地点を分類する分類部、及び前記分類部による出力結果を出力する出力部として機能させるための土壌解析プログラムである。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明の土壌解析装置、土壌解析方法、及び土壌解析プログラムによれば、土壌雨量指数の時系列データを入力とし、ニューラルネットワークを用いて推定される解析水位と、実測水位との相関係数を、時系列データの長さ毎に計算し、相関係数と、相関係数が最大となる時系列データの長さとを用いて、実測可能地点を分類することにより、土壌雨量指数と実測した地下水位とを考慮して、土壌を解析することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(A)時間雨量と地下水位との相関を示すグラフ、(B)連続雨量と地下水位との相関を示すグラフ、及び(C)土壌雨量指数と地下水位との相関を示すグラフである。
【
図2】地下水位と土壌雨量指数の経時変化を示すグラフである。
【
図3】地下水位と土壌雨量指数の時系列データの一例と、ニューラルネットワークの入力となる土壌雨量指数の時系列データの一例とを示す図である。
【
図4】累積時間と相関係数との関係を示す図である。
【
図5】(A)累積時間0時間の相関係数の一例を示す図、(B)相関係数の最大値の一例を示す図、及び(C)相関係数が最大となる累積時間の一例を示す図である。
【
図6】本発明の第1、第2の実施の形態に係る土壌解析装置を示すブロック図である。
【
図7】本発明の第1の実施の形態に係る土壌解析装置を示す機能ブロック図である。
【
図8】本発明の第1の実施の形態に係る土壌解析装置の土壌解析処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の第2の実施の形態に係る土壌解析装置を示す機能ブロック図である。
【
図10】本発明の第2の実施の形態に係る土壌解析装置の土壌解析処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【
図11】実施例1における評価分類の結果の一例を示す図である。
【
図12】評価モデルの学習に用いた教師データの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
<本発明の実施の形態の概要>
近年、ゲリラ豪雨や多数の台風襲来、長期降雨などの異常降雨が頻発しており、道路管理者は異常降雨の発生後速やかに点検を行い、必要に応じて応急復旧工事を施している。切土のり面は、被災すると高速道路本線や沿線道路・民家等に土砂が流出し、大規模な災害を引き起す重要構造物である。切土のり面やその後背地である斜面は、降雨により地下水位が上昇すると間隙水圧が上昇して土粒子間のかみ合わせが弱まり(抵抗が小さくなり)不安定な状態となるため、土砂災害の発生リスクが高まる。
【0013】
本発明の実施の形態では、実測した地下水位の動態観測データと、近年注目されている土壌雨量指数との関係性について分析し、土壌特性を分類し、点検優先付けなど初動判断に寄与する切土のり面の安定性評価を行う。
【0014】
次に、ニューラルネットワークを用いた地下水位の推定手法について説明する。
【0015】
(地下水位計設置箇所の概説)
これまで斜面・切土のり面の状態監視を目的に地下水位計を設置し、継続的に動態観測を実施している。観測期間は6~20年間で、現在も継続している。また、地下水位計の深度は10~33mと幅広く、地区に応じて観測深度を設けている。また、地区によって地形特性が様々である。例えば、四国の地形特性として、中央構造線の影響を受けた凸状尾根型地形および凹状台地地形を呈している地区が多く、地質は中央構造線の北側の和泉層群と南側の三波川変成岩類に分類されるなど、地区によって断層破砕帯が確認されている。また、後背地を含む流域面積、及びその頂点までの高さなど地区によって諸元は様々である。
【0016】
(雨量データの検証)
本出願人は、降雨による通行規制として、判断が簡潔な時間雨量と連続雨量を基に運用している。なお、連続雨量は、2mm/h以下の状況が6時間以上でリセットされる。近年、雨量データとして土壌雨量指数が注目されており、これは降った雨が土壌中に水分量としてどれだけ溜まっているかを3段に重ねたタンクモデルで数値化したもので、気象庁が土砂災害警戒情報を発令する指標として採用されている。
【0017】
図1(A)に、徳島道の井川地区における2018年の地下水位データと時間雨量との相関を示し、
図1(B)に、当該地下水位データと連続雨量との相関を示し、
図1(C)に、当該地下水位データと土壌雨量指数との相関を示す。降った雨が土中に浸み込んで地下水位に影響を及ぼすまでにはある程度の時間差が生じるため、
図1(A)の時間雨量は相関が低く、
図1(B)の連続降雨は時間雨量に比べると相関はあるがあまり高くない。
図1(C)の土壌雨量指数をみると相関係数は高く、現時点ののり面地下水位の傾向を一番良く表しているといえることから、本実施の形態では、雨量データとして、土壌雨量指数を採用する。
【0018】
(地下水位と土壌雨量指数の経時変化)
地下水位と土壌雨量指数の関係性を確認するため、
図2に地下水位と土壌雨量指数の時系列データを整理した。花園地区の地点Aについては、地下水位と土壌雨量指数の変化が連動し、地下水位が上昇し、平常水位に戻るまでに5日程度要する。
【0019】
これは比較的小さい流域で透水性の高い扇状地礫層に支配された水位変動によるものと推察される。一方、花園地区の地点Bについては、建設時の変状クラック跡等に雨水が侵入したことにより敏感な水位上昇を示しているが、5日の短期間で平常水位に回復している。これは集水井による排水効果が機能していると推察される。
【0020】
また、井川地区の地点Cは花園地区の地点A、Bに比べ、地下水位と土壌雨量指数の変動との連動が小さく、定水位になるまでは40日程度と時間を要している。これは凹状台地地形や断層破砕帯による流域外からの地下水位の流入などの影響で、雨水が時間をかけて流入し、地下水位の低下を抑制していると推察した。以上の推察から、地下水位と土壌雨量指数には特徴的な動向が確認されたため、本実施の形態では、双方の関係性に着目して、土壌雨量指数から地下水位を推定する。
【0021】
(土壌雨量指数を用いた地下水位の推定方法)
ここでは、地下水位の変動を、土壌雨量指数を用いて解析水位を求めることで、前述したような地下水位の挙動を再現できるかを説明する。
図3に、解析用に土壌雨量指数と累積時間を整理したイメージを示す。
図3に示すように、1日前(24時間前)、3日前(72時間前)、5日前(120時間前)、10日前(240時間前)、20日前(480時間前)、30日前(720時間前)の時系列データを整理した。このデータを用いて、ニューラルネットワークによる解析を行い、土壌雨量指数のみで解析水位を演算した。
【0022】
次に累積時間を可変させ演算した解析水位と実測水位の相関を整理し、その近似式を整理した。
図4は、2つのケースの場合をイメージした概説図である。累積時間が0のときに解析水位と実測水位との相関係数が高い場合は、短時間降雨で地下水位が上昇することを示しており、近似式による相関係数が最大となる点の累積時間が遅い場合は、長期に渡り水位が正常に戻らない危険性を示唆している。
図4の3つの指標(「累積時間0hのときの相関係数(切片)」、「相関係数の最大値」、及び「相関係数最大時の累積時間」)の傾向を確認するため、井川、花園地区の2地区を対象に比較検証する。地区ごとに平均した、「累積時間0hのときの相関係数(切片)」、「相関係数の最大値」、及び「相関係数最大時の累積時間」を
図5に示す。
【0023】
図5(A)をみると花園地区の相関係数が0.749と高く、降雨直後から地下水が反応していることから浅層の地下水位の影響が大きく、降り始めからのり面の監視が必要である。一方、井川地区の相関係数は0.511と前者に比べ相関が低く、深層地下水の影響によるものと推察する。
図5(B)では両地区とも相関が高く、ニューラルネットワークによる解析水位の妥当性が確認できた。
図5(C)で相関係数が最大となるまで花園地区は17日程度(390.4h)だが、井川地区は24日程度(593.5h)と長く、降雨による地下水位への影響が長引くことから注視が必要である。加えて、
図3のとおり凹状台地地形や断層破砕帯の影響と思われる水位低下には40日程度を要することから、長期監視の必要性がある。
【0024】
以上の見解から、本実施の形態では、ニューラルネットワークによる解析水位と実測水位の相関係数(最大値)と、最大値までの累積時間(以下、累積時間という)の2つの指標を用いて、土壌を分類し、分類結果を、切土のり面の維持管理における安定性判断に寄与する指標とする。なお、累積時間は、所定期間の一例である。
【0025】
[第1の実施の形態]
<本発明の第1の実施の形態の土壌解析装置の構成>
図6に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る土壌解析装置100は、CPU12、グラフィックカード13、GPU14、RAM16、HDD18、通信インタフェース21、及びこれらを相互に接続するためのバス23を備えている。
【0026】
CPU12、GPU14は、各種プログラムを実行する。RAM16は、CPU12による各種プログラムの実行時におけるワークエリア等として用いられる。記録媒体としてのHDD18には、後述する土壌解析処理ルーチンを実行するためのプログラムを含む各種プログラムや各種データが記憶されている。
【0027】
本実施の形態における土壌解析装置100を、土壌解析処理ルーチンを実行するためのプログラムに沿って、機能ブロックで表すと、
図7に示すようになる。土壌解析装置100は、入力部10、演算部20、及び出力部50を備えている。
【0028】
入力部10は、地下水位が実測可能なのり面についての、実測した地下水位と同時期の土壌雨量指数との組み合わせの時系列データを受け付ける。具体的には、実測可能なのり面についての各実測時期の、実測水位と土壌雨量指数との組み合わせを受け付ける(上記
図3の左側参照)。なお、実測可能なのり面は、実測可能地点の一例である。
【0029】
演算部20は、推定部22、相関計算部24、及び分類部26を備えている。
【0030】
推定部22は、実測時期毎に、実測可能なのり面についての、当該実測時期から累積時間前までの土壌雨量指数の時系列データを入力とし、ニューラルネットワークを用いて、当該実測時期の地下水位を推定し、解析水位とすることを、累積時間の長さを変更して繰り返す。
【0031】
具体的には、土壌雨量指数の時系列データの累積時間の長さ毎に、実測時期から当該長さの累積時間前までの土壌雨量指数の時系列データと、正解の地下水位(実測水位)との組み合わせからなる訓練データセットを用いて、実測時期から当該長さの累積時間前までの土壌雨量指数の時系列データを入力とし、地下水位を推定するニューラルネットワークを予め学習しておく。
【0032】
そして、推定部22は、累積時間の長さ毎に、実測可能なのり面についての、実測時期までの土壌雨量指数の時系列データから、実測時期から当該累積時間前までの土壌雨量指数の時系列データを切り出し、当該長さに対して予め学習された、ニューラルネットワークを用いて、切り出した当該累積時間前までの土壌雨量指数の時系列データから、地下水位を推定し、解析水位とする。この処理を、実測時期の各々について繰り返す。累積時間としては、例えば、累積時間0時間、24時間、72時間、120時間、240時間、480時間、720時間を用いればよい。
【0033】
相関計算部24は、累積時間の長さ毎に、各実測時期についての、実測水位と、ニューラルネットワークを用いて推定された解析水位を用いて、実測水位と解析水位との相関係数を計算する。この相関係数の計算を、累積時間の長さを変えて繰り返し行う。
【0034】
分類部26は、相関係数と、相関係数が最大となる累積時間の長さを用いて、実測可能なのり面を分類する。具体的には、累積時間0時間の相関係数と、相関係数が最大となる累積時間を用いて、実測可能なのり面の土壌特性を分類する。例えば、累積時間0時間の相関係数が大きく、かつ、相関係数が最大となる累積時間が長い場合、降雨時の水位変化が鋭敏であり、かつ、降雨後に平常水位に戻るまでに時間を要する、と分類する。また、累積時間0時間の相関係数が大きく、かつ、相関係数が最大となる累積時間が短い場合、降雨時の水位変化が鋭敏であり、かつ、降雨後に平常水位に戻るまでに時間を要しない、と分類する。また、累積時間0時間の相関係数が小さく、かつ、相関係数が最大となる累積時間が長い場合、降雨時の水位変化が鋭敏でなく、かつ、降雨後に平常水位に戻るまでに時間を要する、と分類する。また、累積時間0時間の相関係数が小さく、かつ、相関係数が最大となる累積時間が短い場合、降雨時の水位変化が鋭敏でなく、かつ、降雨後に平常水位に戻るまでに時間を要しない、と分類する。
【0035】
分類部26は、分類結果を出力部50により出力する。
【0036】
なお、分類対象が、複数の実測可能なのり面を含む地区である場合には、当該複数の実測可能なのり面の相関係数の平均値と、当該複数の実測可能なのり面の、相関係数が最大となる累積時間の長さの平均値を用いて、当該地区の土壌特性を分類すればよい。
【0037】
<土壌解析装置の動作>
次に、本発明の実施の形態に係る土壌解析装置100の動作について説明する。
【0038】
まず、入力部10によって、地下水位が実測可能である実測可能なのり面についての、実測した地下水位と、実測時期の土壌雨量指数との組み合わせの時系列データを受け付けると、土壌解析装置100によって、
図8に示す土壌解析処理ルーチンが実行される。
【0039】
まず、ステップS100において、推定部22は、実測可能なのり面についての、実測時期から累積時間前までの土壌雨量指数の時系列データを入力とし、ニューラルネットワークを用いて、当該実測時期の地下水位を推定し、解析水位とすることを、累積時間の長さを変更して繰り返す。
【0040】
ステップS102では、相関計算部24は、累積時間の長さ毎に、各実測時期についての、実測水位と、ニューラルネットワークを用いて推定された解析水位を用いて、実測水位と解析水位との相関係数を計算する。この相関係数の計算を、累積時間の長さを変えて繰り返し行う。
【0041】
ステップS104では、分類部26は、相関係数と、相関係数が最大となる累積時間の長さを用いて、実測可能なのり面を分類する。分類部26は、分類結果を出力部50により出力する。
【0042】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る土壌解析装置によれば、土壌雨量指数の時系列データを入力とし、ニューラルネットワークを用いて推定される解析水位と、実測水位との相関係数を、累積時間の長さ毎に計算し、相関係数と、相関係数が最大となる累積時間の長さを用いて、実測可能なのり面を分類することにより、土壌雨量指数と実測した地下水位とを考慮して、のり面の土壌を解析することができる。
【0043】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態の土壌解析装置について説明する。なお、第1の実施の形態と同様となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0044】
<本発明の第2の実施の形態の土壌解析装置の構成>
本発明の第2の実施の形態に係る土壌解析装置200は、上記
図6に示す土壌解析装置100と同様に、CPU12、グラフィックカード13、GPU14、RAM16、HDD18、通信インタフェース21、及びこれらを相互に接続するためのバス23を備えている。
【0045】
本実施の形態における土壌解析装置200を、土壌解析処理ルーチンを実行するためのプログラムに沿って、機能ブロックで表すと、
図9に示すようになる。土壌解析装置200は、入力部10、演算部220、及び出力部50を備えている。
【0046】
入力部10は、実測可能なのり面毎に、当該実測可能なのり面についての、実測した地下水位と、実測時期の土壌雨量指数との組み合わせの時系列データを受け付ける。具体的には、実測可能なのり面毎に、当該実測可能なのり面についての各実測時期の実測水位と土壌雨量指数との組み合わせを受け付ける。
【0047】
また、入力部10は、実測可能なのり面毎に、当該実測可能なのり面の土壌特性に関するパラメータを受け付ける。例えば、土壌特性に関するパラメータとして、和泉層群有無、シーム比率、土砂比率、粘土層有無、破砕有無、礫層比率、軟岩比率、地質深度、及び流域範囲の高さを受け付ける。
【0048】
また、入力部10は、実測可能ではないのり面の各々について、実測可能なのり面と同様に、当該のり面の土壌特性に関するパラメータを受け付ける。
【0049】
演算部220は、推定部22、相関計算部24、分類部26、解析部228、及び実測不可地点分類部230を備えている。
【0050】
実測可能なのり面毎に、上記第1の実施の形態と同様に、推定部22、相関計算部24、及び分類部26の各処理を繰り返す。
【0051】
解析部228は、実測可能なのり面毎の分類結果及び土壌特性に関する各パラメータに基づいて、分類結果を目的変数とし、土壌特性に関する各パラメータを説明変数として、回帰式を求める。
【0052】
実測不可地点分類部230は、実測可能ではないのり面の各々について、当該のり面の土壌特性に関する各パラメータを入力として、解析部228で求められた回帰式を用いて、目的変数である分類結果を求め、当該のり面の分類結果とする。
【0053】
実測不可地点分類部230は、実測可能ではないのり面の各々についての分類結果を、出力部50により出力する。
【0054】
<土壌解析装置の動作>
次に、本発明の実施の形態に係る土壌解析装置200の動作について説明する。
【0055】
まず、入力部10によって、実測可能なのり面毎に、当該実測可能なのり面についての、実測した地下水位と、実測時期の土壌雨量指数との組み合わせの時系列データを受け付ける。
【0056】
また、入力部10は、実測可能なのり面毎に、当該実測可能なのり面の土壌特性に関するパラメータを受け付ける。また、入力部10は、実測可能ではないのり面の各々について、当該のり面の土壌特性に関するパラメータを受け付ける。
【0057】
そして、土壌解析装置200によって、
図10に示す土壌解析処理ルーチンが実行される。
【0058】
まず、ステップS200において、実測可能なのり面の各々についての分類処理を行う。具体的には、ステップS200は、上記
図8に示す処理ルーチンを、実測可能なのり面の各々について繰り返すことにより実現される。
【0059】
ステップS202では、解析部228は、実測可能なのり面毎の分類結果及び土壌特性に関する各パラメータに基づいて、分類結果を目的変数とし、土壌特性に関する各パラメータを説明変数として、回帰式を求める。
【0060】
ステップS204では、実測不可地点分類部230は、実測可能ではないのり面の各々について、当該のり面の土壌特性に関する各パラメータを入力として、解析部228で求められた回帰式を用いて、目的変数である分類結果を求め、当該のり面の分類結果とする。
【0061】
実測不可地点分類部230は、実測可能ではないのり面の各々についての分類結果を、出力部50により出力する。
【0062】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る土壌解析装置によれば、分類結果を目的変数とし、土壌特性に関する各パラメータを説明変数として、回帰式を求め、実測可能ではないのり面の各々について、当該のり面の土壌特性に関する各パラメータを入力として、回帰式を用いて、目的変数である分類結果を求めることにより、実測可能でないのり面の土壌を解析することができる。
【0063】
<実施例1>
上記第1の実施の形態に係る土壌解析装置の実施例について説明する。
【0064】
異なる地質・地形や降雨傾向のデータを拡充するため、地下水位の動態観測データのある複数の地区について、地区の実測可能なのり面ごとに地下水位データを収集し、対応する土壌雨量指数を用いて解析水位を求め、累積時間0時間の相関係数と、相関係数が最大値となる累積時間とを、地区ごとに整理し、18地区合計25個所の実測可能なのり面のデータを整理した。
【0065】
図11に指標値となる累積時間0時間の相関係数と、相関係数が最大値となる累積時間の大小で安定性低下が懸念されるリスクと、その対応を想定した安定性評価区分図を示す。累積時間0時間の相関係数(切片)は、降雨時の水位変化が鋭敏なことを示唆していることから、累積時間0時間の相関係数(切片)が閾値以上の分類を、高いリスクを示す評価分類A1、A2とし、異常降雨後などに実施される点検順序の優先付けに活用できる。なお、累積時間0時間の相関係数(切片)が0.80以上の高い値を示す地区のほとんどが徳島県域の和泉層群であり、地すべり面に破砕帯と呼ばれるシーム層が存在し、地下水位の上昇により不安定になる特性を有していることから、0.80を、累積時間0時間の相関係数(切片)に関する閾値とした。また、相関係数が最大値となる累積時間が長期に及ぶ場合は、降雨後も上昇した水位が平常水位に戻るまでに時間を要することを意味し、その後の長期監視の判断や、必要に応じて排水ボーリングなど対策実施の優先付けなどに活用できると考える。評価分類については、分布が離散的になること、近年の四国の梅雨の日数が25日程度(600hr)であることから、600hrを、相関係数が最大値となる累積時間に関する閾値とした。
【0066】
<実施例2>
上記第2の実施の形態に係る土壌解析装置の実施例について説明する。
【0067】
評価分類を、実測可能でないのり面にも適用するために、データマイニングにより評価モデルとしての回帰式を構築する。評価モデルの教師データを
図12に示す。のり面の地下水位の変動に影響を与える説明変数(透水係数や間隙比の代用)として、素因と誘因を地区別に整理した。素因については四国の代表的な地質を網羅し、岩級類と地層データ(サンプリングコアによる深度と比率)を加えた。また、誘因として観測位置の流域面積及び高さを整理した。
【0068】
統計解析ソフトのSPSSモデラーによりデータマイニングを行い、ロジスティック回帰分析によりのり面を分類するために重要度が高い説明変数と、各説明変数の回帰係数を得た。この評価モデルの疑似相関係数は0.9以上であった。表1は説明変数の重要度を、値が大きい順に並べたものである。
【0069】
【0070】
のり面の安定性に関係がある変数が重要度の高い説明変数として採用されていることがわかる。なお、地質深度をのり面高さに置換えることで、段数別に評価できる。説明変数をのり面ごとに整理することで、地下水位の観測が可能でない他の地区ののり面においても安定性評価の分類を行うことができる。
【0071】
本評価モデルを用いて、四国支社管内全のり面の評価分類を行うことで、リスクの可視化や、異常降雨後の重要点検箇所の識別、留意すべき変状の把握など点検実施時の判断材料、補修計画の基礎資料など様々な維持管理上の判断に利用できる。
【0072】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0073】
例えば、上述した実施形態では、のり面の分類に、本発明を適用する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、実測可能地点、実測不能地点として、のり面以外の地点を採用し、のり面以外の地点の土壌の分類に、本発明を適用してもよい。
【0074】
また、本発明のプログラムは、記憶媒体に格納して提供するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0075】
10 入力部
20、220 演算部
22 推定部
24 相関計算部
26 分類部
50 出力部
100、200 土壌解析装置
228 解析部
230 実測不可地点分類部