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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168594
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】固定構造
(51)【国際特許分類】
   A61G 3/08 20060101AFI20221031BHJP
   B60P 3/00 20060101ALI20221031BHJP
   B60P 7/08 20060101ALI20221031BHJP
   B60P 7/06 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
A61G3/08
B60P3/00 A
B60P7/08
B60P7/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074164
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺浦 實
(72)【発明者】
【氏名】八木 幹也
(72)【発明者】
【氏名】田原 貴行
(72)【発明者】
【氏名】森山 陽一郎
(57)【要約】
【課題】本発明は、固定対象を強固に固定することが可能な固定構造の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の固定構造1は、固定対象Wを牽引する長尺部材2と、長尺部材2の一端側に設けられ、固定対象Wに係合可能な係合部材3とを備え、係合部材3は、固定対象Wに係合する固定対象係合部31と、車両Vに係合する車両係合部32と、固定対象係合部31と車両係合部32とを繋ぐ基部33とを備え、基部33は、固定対象係合部31が固定対象Wに係合し、車両係合部32が車両Vに係合しているときに、固定対象係合部31と車両係合部32とを結ぶ距離が変化することを抑制する所定の剛性を有する剛体によって構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内部に搭載される固定対象を固定するための固定構造であって、前記固定構造は、
前記固定対象を牽引する長尺部材と、
前記長尺部材の一端側に設けられ、前記固定対象に係合可能な係合部材と
を備え、
前記係合部材は、
前記固定対象に係合する固定対象係合部と、
前記車両に係合する車両係合部と、
前記固定対象係合部と前記車両係合部とを繋ぐ基部と
を備え、
前記基部は、前記固定対象係合部が前記固定対象に係合し、前記車両係合部が前記車両に係合しているときに、前記固定対象係合部と前記車両係合部とを結ぶ距離が変化することを抑制する所定の剛性を有する剛体によって構成されている、固定構造。
【請求項2】
前記長尺部材は、互いに並んで配置された第1長尺部材および第2長尺部材を有し、
前記係合部材は、前記第1長尺部材の一端側に設けられた第1係合部材および前記第2長尺部材の一端側に設けられた第2係合部材を有し、
前記第1係合部材の前記車両係合部および前記第2係合部材の前記車両係合部は、前記車両に設けられた車両側被係合部に係合するように構成されている、請求項1に記載の固定構造。
【請求項3】
前記第1長尺部材および前記第2長尺部材は、前記車両の幅方向に互いに離間して設けられ、
前記車両側被係合部は、前記車両の車室の床面に設けられ、
前記第1係合部材の前記車両係合部は、前記車両の前後方向に離間した少なくとも2つの係合体を有し、前記第2係合部材の前記車両係合部は、前記車両の前後方向に離間した少なくとも2つの係合体を有している、請求項2に記載の固定構造。
【請求項4】
前記固定対象が車椅子であり、前記車椅子は、前記車椅子の前方のみに前記第1係合部材および前記第2係合部材が係合することで、前記第1長尺部材および前記第2長尺部材によって前記車椅子が前進しながら前記車両内に牽引され、または、前記車椅子の後方のみに前記第1係合部材および前記第2係合部材が係合することで、前記第1長尺部材および前記第2長尺部材によって前記車椅子が後退しながら前記車両内に牽引されるように構成されている、請求項2または3に記載の固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤやベルトなどの可撓性長尺体を引っ張ることで、車椅子を車両に固定する装置が知られている。具体的には、特許文献1に示されるように、車椅子の前後左右にワイヤの端部に設けられたフックが引っ掛けられて、4本のワイヤを引っ張ることで車椅子が前後左右から拘束され、車椅子が固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-110186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような構造の場合、ワイヤやベルト等の長尺部材が緩むと、長尺部材による車椅子の固縛力が低下し、車椅子が前後に動く可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、固定対象を強固に固定することが可能な固定構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の固定構造は、車両の内部に搭載される固定対象を固定するための固定構造であって、前記固定構造は、前記固定対象を牽引する長尺部材と、前記長尺部材の一端側に設けられ、前記固定対象に係合可能な係合部材とを備え、前記係合部材は、前記固定対象に係合する固定対象係合部と、前記車両に係合する車両係合部と、前記固定対象係合部と前記車両係合部とを繋ぐ基部とを備え、前記基部は、前記固定対象係合部が前記固定対象に係合し、前記車両係合部が前記車両に係合しているときに、前記固定対象係合部と前記車両係合部とを結ぶ距離が変化することを抑制する所定の剛性を有する剛体によって構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の固定構造によれば、固定対象を強固に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態の固定構造が、車両内において車椅子を固定した状態を示す概略側面図である。
図2】本発明の一実施形態の固定構造が、車両内において車椅子を固定した状態を示す概略上面図である。
図3図1の固定構造に用いられる係合部材が、固定対象側被係合部に係合し、車両側被係合部に係合する前の状態を示す側面図である。
図4】係合部材の固定対象係合部が、固定対象側被係合部に係合する過程を示す概略図である。
図5】係合部材の固定対象係合部が、固定対象側被係合部に係合した状態で、固定対象側被係合部を中心に揺動する状態を示す概略図である。
図6】係合部材の車両係合部が、車両側被係合部に係合する前の状態を示す概略図である。
図7】係合部材の車両係合部が、車両側被係合部に係合した状態を示す概略図である。
図8】車両側被係合部の斜視図である。
図9】折り畳み可能に構成された係合部材の変形例を示す概略図である。
図10】直線状に配置可能な係合部材の変形例を示す概略図である。
図11】車椅子に係合部材が係合する前の状態を示す図である。
図12】車椅子に係合部材が係合した状態を示す図である。
図13】車椅子が車両内に牽引された状態を示す図である。
図14】1台目の車椅子が車両内で固定され、2台目の車椅子に係合部材が係合した状態を示す図である。
図15】2台の車椅子が車両内で固定された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態の固定構造を説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまで一例であり、本発明の固定構造は、以下の実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において、「Aに垂直」およびこれに類する表現は、Aに対して完全に垂直な方向のみを指すのではなく、Aに対して略垂直であることを含んで指すものとする。また、本明細書において、「Bに平行」およびこれに類する表現は、Bに対して完全に平行な方向のみを指すのではなく、Bに対して略平行であることを含んで指すものとする。また、本明細書において、「C形状」およびこれに類する表現は、完全なC形状のみを指すのではなく、見た目にC形状を連想させる形状(略C形状)を含んで指すものとする。
【0010】
図1に示されるように、本実施形態の固定構造1は、車両Vの内部に搭載される固定対象Wを固定するために用いられる。本実施形態の固定構造1は、図1に示されるように、固定対象W(本実施形態では車椅子)を牽引する長尺部材2と、長尺部材2の一端側に設けられ、固定対象Wに係合可能な係合部材3とを備えている。
【0011】
固定構造1は、車両V内で、固定対象Wを固定する。なお、本明細書において、「固定」とは、固定対象Wを所定の位置で保持できるように、固定対象Wが所定量以上移動することを規制することをいい、固定対象Wが所定の範囲内でわずかに動く状態で固定対象Wを保持することを含む。
【0012】
固定対象Wは、後述するように、係合部材3と係合することで、係合部材3を介して長尺部材2によって牽引されるとともに、係合部材3によって車両Vの内部で固定される。本実施形態では、固定対象Wは、後述する係合部材3の固定対象係合部31が係合可能な固定対象側被係合部Wbを有している。なお、固定対象側被係合部Wbの詳細については後述する。
【0013】
固定対象Wは、固定構造1によって固定可能なものであれば、特に限定されない。本実施形態では、固定対象Wは、図1に示されるように、車椅子であり(以下、車椅子Wと呼ぶ場合がある)、固定構造1は、車両V内で車椅子Wを固定するために用いられる。本実施形態では、図1に示されるように、車両Vの背面に設けられたバックドアDが開放されたときに、車椅子Wが車両Vの背面の開口部からスロープSLを介して車両V内に搭載され、固定構造1によって車椅子Wが車両V内で固定される。なお、車椅子Wは、車両Vの左または右側の側面にあるスライドドアが開放したときに、左または右側の側面の開口部から車両V内に搭載されてもよい。以下、固定対象Wとして車椅子を例に挙げて説明するが、固定対象Wは、車椅子に限定されず、車両Vに搭載可能な台車や荷物などであってもよい。なお、本明細書において、車椅子Wと記載した部分は、固定対象に置き換えることができる。
【0014】
本実施形態では、車両Vは、後述するように、係合部材3の車両係合部32に係合可能な車両側被係合部Vaを有している。車両側被係合部Vaは、車両係合部32と係合することで、車椅子Wを車両V内で固定する。本実施形態では、車両側被係合部Vaは、車両Vの車室の床面Fに設けられている。しかし、車両側被係合部Vaは、車両Vの車室のうち、床面F以外の部位、例えば車室の内側側面(車両の左右の側面)に設けられていてもよい。また、車両Vは、図1に示されるように、車両側被係合部Vaを部分的にまたは完全に収容可能な凹部Cを有していてもよい。車両側被係合部Vaの詳細については後述する。
【0015】
長尺部材2は、車椅子(固定対象)Wを牽引するために操作される長尺の部材である。本実施形態では、長尺部材2は車両Vに設けられている。より具体的には、長尺部材2は、後述する駆動部DRを介して車両Vの一部(例えば、車両Vの床面Fに設けられた凹部C)に取り付けられ、車両Vに対して引き出しおよび引き込み可能に構成されている。本実施形態では、車椅子Wに係合部材3が係合した状態で、長尺部材2が操作されることで、係合部材3を介して、車椅子Wが牽引される(図12および図13参照)。長尺部材2の種類や構造は、長尺部材2によって車椅子(固定対象)Wを牽引することができれば、特に限定されない。長尺部材2は、例えば、ベルト、ワイヤ、ロープなど、可撓性を有する材料を有し得る。本実施形態では、長尺部材2は帯状のベルトを有している。なお、本明細書において、長尺部材2によって車椅子(固定対象)Wが牽引される方向およびその反対方向をまとめて第1方向D1(図1および図2参照)と呼ぶ。本実施形態では、第1方向D1は、車両Vの前後方向となっている。また、水平方向のうち、第1方向D1に垂直な方向を第2方向D2(図2参照)と呼ぶ。第2方向D2は、本実施形態では、車両Vの幅方向(左右方向)となっている。また、第1方向D1および第2方向D2の両方に垂直な方向を第3方向D3(図1参照)と呼ぶ。第3方向D3は、本実施形態では、車両Vの上下方向となっている。以下、第1方向D1を前後方向D1、第2方向D2を幅方向D2、第3方向D3を上下方向と呼ぶ場合がある。なお、例えば、車椅子(固定対象)Wが車両の左または右側の側面の開口部から車両Vの幅方向に牽引される場合は、第1方向が幅方向となり、第2方向が前後方向となる。
【0016】
長尺部材2の本数は、車椅子(固定対象)Wを牽引することができれば、特に限定されず、1本でもよいし、2本でもよいし、3本以上であってもよい。本実施形態では、長尺部材2は、図2に示されるように、互いに並んで配置された第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2b(以下、第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bをまとめて長尺部材2と呼ぶ)を有している。なお、「互いに並んで配置された」とは、2つの第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bが、互いに平行であるか否かを問わず、それぞれが車椅子(固定対象)Wを牽引できる力を生じる方向に並んで延びていることをいう。したがって、第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bは、第1方向D1に車椅子Wを牽引可能な方向成分を有していれば、第1方向D1に対して傾斜した方向に延びていてもよい。
【0017】
本実施形態では、図2に示されるように、第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bは、第2方向(幅方向)D2に互いに離間して設けられている。なお、「離間」とは、第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bが、車椅子(固定対象)Wを安定して牽引可能な所定の距離で互いに対して離れていることを言う。車椅子(固定対象)Wを安定して牽引可能な所定の距離は特に限定されないが、例えば、車椅子Wの一対の車輪間の幅方向D2の距離に対して、50~120%、好ましくは80~110%とすることができる。本実施形態では、第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bは、車両V(駆動部DR)側において、第2方向(幅方向)D2で所定の距離離間しており、車椅子(固定対象)W側においても、第2方向(幅方向)D2で所定の距離離間している。第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bの間の距離は、第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bが車椅子(固定対象)Wに取り付けられたときに、駆動部DRから車椅子(固定対象)Wに向かって、均等(第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bが平行)であってもよいし、短くなってもよいし、長くなってもよい。本実施形態では、第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bは、互いに平行に延びている。なお、第1長尺部材および第2長尺部材は、例えば、車両Vの左または右側の側面の開口部から車椅子Wが車両V内に搭載される場合は、車両Vの前後方向D1で互いに離間して延びていてもよい。本実施形態では、1つの車椅子(固定対象)Wに対して、2本のみの長尺部材2(第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2b)が設けられているが、1つの車椅子Wに対して1本の長尺部材が設けられてもよいし、3本以上の長尺部材が設けられていてもよい。
【0018】
なお、第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bは、基本的に同じ構造であるため、以下、これらをまとめて説明する。また、本実施形態では、第1長尺部材2aの構成と、第2長尺部材2bの構成とは同一であるため、各構成に同一の符号を付して説明する。
【0019】
本実施形態では、長尺部材2は、図1に示されるように、長尺部材本体21と、長尺部材本体21の一端側に係合部材3と接合される、接合部22とを備えている。長尺部材本体21は、可撓性を有する材料によって構成されており、本実施形態では、ベルトである。長尺部材本体21の一端(係合部材3側の端部)は、接合部22を介して係合部材3に接合されている。長尺部材本体21の他端(図示せず)は、後述する駆動部DRの巻取部材DR2に取り付けられ、長尺部材本体21は、巻取部材DR2に巻き取られている。接合部22の形状および構造は、長尺部材本体21と係合部材3とを接合することができれば、特に限定されない。本実施形態では、接合部22は、ベルトとして示された長尺部材本体21を通すことが可能なリング状の部材として示されている。なお、長尺部材本体21と係合部材3とは、接合部22を介して間接的に接合されるのではなく、直接接合されていてもよい。
【0020】
本実施形態では、長尺部材2は、図1および図2に示されるように、長尺部材2の他端側において駆動部DRに接続され、駆動部DRの駆動力によって操作される。なお、長尺部材2は、手動で操作されても構わない。
【0021】
駆動部DRは、固定対象Wを牽引できるように長尺部材2を操作することが可能な駆動力を発生させる。駆動部DRの構造は、固定対象Wを牽引できるように長尺部材2を操作することができれば、特に限定されない。本実施形態では、駆動部DRは、図1および図2に示されるように、モータDR1と、モータDR1によって回転し、長尺部材2を巻き取りおよび繰り出し可能な巻取部材DR2とを備えている。モータDR1は、その駆動力によって巻取部材DR2を回転させることによって、長尺部材2を巻き取り、または、繰り出す。巻取部材DR2は、直接または間接的にモータDR1に接続されている。巻取部材DR2は、モータDR1の駆動力によって、巻取部材DR2の軸周りで一方の方向に回転することによって、長尺部材2を巻取部材DR2に巻き取る。また、巻取部材DR2は、巻取部材DR2の軸周りで他方の方向に回転することによって、長尺部材2を巻取部材DR2から繰り出す。
【0022】
モータDR1は、巻取部材DR2を巻取部材DR2の軸周りの一方の方向のみに回転させるように構成されていてもよいし、巻取部材DR2を軸周りの一方および他方の両方向に回転させるように構成されていてもよい。なお、駆動部DRは、例えばクラッチ機構などによって、モータDR1および巻取部材DR2を接続状態と非接続状態との間で切替可能に構成されていてもよい。例えば、固定対象Wを牽引するために長尺部材2を巻取部材DR2に巻き取るときには、モータDR1と巻取部材DR2とが接続状態となり、モータDR1の回転によって巻取部材DR2が回転するようにする。また、係合部材3を固定対象Wに係合させるために、長尺部材2を手動で引き出す際には(図11および図12参照)、モータDR1と巻取部材DR2とを非接続状態として、長尺部材2を引き出しやすくしてもよい。また、駆動部DRは、係合部材3を車椅子Wから外した後、長尺部材2を巻取部材DR2に自動で巻き取れるように、長尺部材2を巻き取る方向に巻取部材DR2を付勢する付勢部材(図示せず)を有していてもよい。
【0023】
なお、駆動部DRが設けられる位置は、長尺部材2を操作可能な位置であれば、特に限定されない。駆動部DRは、例えば、車両Vの床面Fに設けられた凹部Cまたは内側側面に設けられた凹部に埋設して設けることができる。駆動部DRは、例えば、車両Vの床面Fまたは内側側面に設けられてもよい。
【0024】
係合部材3は、長尺部材2の一端側に設けられている。本実施形態では、係合部材3は、長尺部材2の一端側において、長尺部材本体21と接続されている。係合部材3は、車椅子(固定対象)Wを牽引するために、車椅子(固定対象)Wに係合する。本実施形態では、係合部材3は、スロープSLを用いて車椅子Wを車両V内に牽引するために、車両Vの外部にある車椅子Wに係合される(図12参照)。これにより、長尺部材2(長尺部材本体21)が操作されたときに、係合部材3を介して、車椅子Wが車両V内に牽引される(図13参照)。また、係合部材3は、後述するように、車椅子(固定対象)Wおよび車両Vの両方に係合して、車椅子(固定対象)Wを車両V内で固定する。本実施形態では、係合部材3は、車椅子Wの固定対象側被係合部Wbおよび車両Vの車両側被係合部Vaに係合することで、車椅子Wを車両V内で固定する。
【0025】
本実施形態では、上述したように、固定構造1は、図2に示されるように、互いに並んで配置された第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bを有しており、係合部材3は、第1長尺部材2aの一端側に設けられた第1係合部材3aおよび第2長尺部材2bの一端側に設けられた第2係合部材3b(以下、第1係合部材3aおよび第2係合部材3bをまとめて単に係合部材3と呼ぶ)を有している。この場合、車椅子Wが、第1係合部材3aおよび第2係合部材3bと係合して、互いに並んで配置された第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bによって牽引可能となる。したがって、車椅子Wが安定した状態で牽引される。また、後述するように、第1係合部材3aの車両係合部32および第2係合部材3bの車両係合部32が、車両Vに設けられた、車両側被係合部Vaに係合するように構成されている。この場合、係合部材3が1つの場合と比較して、車椅子Wを安定して固定することができる。
【0026】
次に、係合部材3の詳細について説明する。なお、第1係合部材3aおよび第2係合部材3bは、基本的に同じ構造であるため、以下、これらをまとめて説明する。また、本実施形態では、第1係合部材3aの構成と、第2係合部材3bの構成とは同一であるため、各構成に同一の符号を付して説明する。
【0027】
係合部材3は、図1図3に示されるように、車椅子(固定対象)Wに係合する固定対象係合部31と、車両Wに係合する車両係合部32と、固定対象係合部31と車両係合部32とを繋ぐ基部33とを備えている。
【0028】
固定対象係合部31は、係合部材3のうち、車椅子(固定対象)Wに係合する部位である。本実施形態では、固定対象係合部31は、図1図3に示されるように、長尺部材2とは反対側となる、基部33の一端側に設けられている。固定対象係合部31が車椅子Wに係合することによって、長尺部材2を操作したときに、固定対象係合部31を介して車椅子Wに牽引力が伝わり、車椅子Wを牽引することができる(図12および図13参照)。本実施形態では、固定対象係合部31は、図1図3に示されるように、車椅子WのフレームWaに設けられた固定対象側被係合部Wbに係合する。本実施形態では、固定対象係合部31は、車椅子Wが車両Vに固定されたときに、車椅子Wの、車両Vに対する第1方向D1への移動が規制されるように、固定対象側被係合部Wbとの間の第1方向D1でのクリアランスが所定範囲となるように構成されている。
【0029】
固定対象係合部31の構造は、車椅子(固定対象)Wを牽引することができるように、車椅子(固定対象)Wに係合することができれば、特に限定されない。固定対象係合部31は、少なくとも第1方向D1で車椅子Wに係合して、車椅子Wを第1方向D1に牽引できるように構成されている。
【0030】
本実施形態では、固定対象係合部31は、図5に示されるように、固定対象側被係合部Wbに対して、第2方向D2に延びる軸周りに回転可能に係合し、係合部材3が固定対象側被係合部Wbに対して揺動できるように構成されている。この場合、車椅子Wを牽引する際に、車椅子WがスロープSLを登ったり、段差を通過したりしたときに、車椅子Wの位置や姿勢に応じて、固定対象係合部31が固定対象側被係合部Wbに対して回転して、係合部材3が揺動する。これにより、車椅子Wを円滑に牽引することができ、固定対象係合部31と固定対象側被係合部Wbとの間に無理な力が加わらず、固定対象係合部31または固定対象側被係合部Wbの破損を抑制することができる。
【0031】
固定対象側被係合部Wbの形状および構造は、固定対象係合部31と係合することができれば、特に限定されない。本実施形態では、固定対象側被係合部Wbは、図2に示されるように、第2方向D2に延びる軸部材として示されている。固定対象側被係合部Wbは、円柱または円筒状の部分を有し、固定対象側被係合部Wbに対して固定対象係合部31が回転することを可能にしている。なお、固定対象側被係合部Wbは、固定対象係合部31が固定対象側被係合部Wbに対して、第2方向D2に相対移動しようとしたときに、第2方向D2の移動を規制する移動規制部Rを有している(図2参照)。移動規制部Rは、固定対象係合部31が固定対象側被係合部Wbに対して、第2方向D2に相対移動しようとしたときに、当接する部分が設けられていればよい。本実施形態では、移動規制部Rは、固定対象係合部31が係合する部分よりも径方向外側に張り出した拡幅部である。
【0032】
本実施形態では、固定対象係合部31は、図4に示されるように、基部33の一端に設けられた本体31aと、固定対象側被係合部Wbに対して係合する係合位置と、固定対象側被係合部Wbに対して係合しない非係合位置との間で移動するラッチ部31bと、ラッチ部31bをロックするロック部材31cとを有している。
【0033】
本体31aは、基部33の両端のうち、係合部材3が車椅子(固定対象)Wに対して係合する側となる、一端に設けられている。本実施形態では、本体31aは、図4に示されるように、ラッチ部31bとロック部材31cとを収容する筐体として設けられている。本実施形態では、本体31aは、固定対象側被係合部Wbを係合可能な溝部Gを有している。溝部Gは、軸部材として設けられた固定対象側被係合部Wbを係合可能なU字状の溝として形成されており、第2方向(幅方向)D2(図4において、紙面奥行方向)に貫通している。なお、本実施形態では、本体31aの溝部Gが設けられた位置に対応して、基部33にも溝部が設けられている。これにより、固定対象側被係合部Wbは、第2方向(幅方向)D2で、本体31aを貫通した状態で本体31aの溝部Gおよび基部33の溝部内に配置される。
【0034】
ラッチ部31bは、図4に示されるように、固定対象係合部31を固定対象側被係合部Wbに押し付けることによって、固定対象側被係合部Wbに係合するように動作する。ラッチ部31bは、固定対象係合部31を固定対象側被係合部Wbに係合させる際に、固定対象側被係合部Wbが溝部G内に入ったときに、固定対象側被係合部Wbに対して係合しない非係合位置から、固定対象側被係合部Wbに係合する係合位置へと移動する。ラッチ部31bの形状および構造は、固定対象側被係合部Wbに係合可能であれば、特に限定されない。本実施形態では、ラッチ部31bは、図4に示されるように、本体部31aに対して第2方向D2に延びる軸周りに回転するように設けられている。ラッチ部31bは、バネSPによって非係合位置に向かって付勢されている。ラッチ部31bは、本実施形態では、一対の爪部F1、F2を有している。一対の爪部F1、F2の間には、固定対象側被係合部Wbを収容可能な凹溝(U字状の溝)CVが設けられている。ラッチ部31bは、バネSPの付勢力によって、溝部Gの入口が開放した状態(図4の左側に示された状態)で停止している。固定対象側被係合部Wbが溝部G内に入ったときに、ラッチ部31bは、バネSPの付勢力に抗して固定対象側被係合部Wbによって爪部F1が溝部Gの奥に向かって押圧されて回転し、爪部F2によって溝部Gの入口が閉鎖される(図4の右側に示された状態)。
【0035】
ロック部材31cは、本実施形態では、ラッチ部31bが係合位置に移動したときに、ラッチ部31bを非係合位置に移動しないようにロックする係合部を有している。ロック部材31cの構造は、ラッチ部31bが係合位置に移動したときに、ラッチ部31bの一部と係合してラッチ部31bをロックすることができれば、特に限定されない。また、本実施形態では、ロック部材31cは、図4に示されるように、ラッチ部31bとの間の係合を解除するための操作部OPを備えている。操作部OPが例えば、図4において右側に示されるロックされた状態から、操作部OPを時計方向(矢印A参照)に操作されることで、ロック部材31cとラッチ部31bとの間の係合が解除される。これにより、ラッチ部31bと固定対象側被係合部Wbとの間の係合の解除が可能となり、係合部材3を車椅子Wから取り外すことが可能になる。
【0036】
なお、固定対象係合部31の本体、ラッチ部、ロック部材の形状および構造は、固定対象係合部31と固定対象側被係合部Wbとをロックすることができれば、上述した形状および構造に限定されない。また、固定対象側被係合部Wbの形状および構造は、固定対象係合部31の形状および構造に応じて適宜変更される。
【0037】
車両係合部32は、車両Vに係合して、係合部材3を車両Vに固定する。これにより、車両V内に牽引された車椅子(固定対象)Wが車両Vに固定される。本実施形態では、車両係合部32は、図1および図2に示されるように、車両Vに設けられた、車両側被係合部Vaに係合する。車両係合部32が設けられる位置は、車両Vに係合して、係合部材3を車両Vに固定することが可能な位置であれば、特に限定されない。本実施形態では、車両係合部32は、基部33の両端のうち、固定対象係合部31が設けられた一端とは反対側となる他端側に設けられている。
【0038】
本実施形態では、車両係合部32は、車両側被係合部Vaに係合したときに、車両側被係合部Vaに対する第1方向D1での移動が所定範囲に規制されるように、車両側被係合部Vaとの間の第1方向D1でのクリアランスが所定範囲となるように構成されている。
【0039】
車両側被係合部Vaの形状および構造は、車両係合部32と係合することができれば、特に限定されない。本実施形態では、車両側被係合部Vaは、図8に示されるように、第2方向D2に延びる被係合軸部Va1と、被係合軸部Va1を支持し、車両Vに固定される固定部Va2とを備えている。本実施形態では、車両係合部32は、後述するように、1つの係合部材3について2つの係合体(第1係合部材3aに2つの係合体321a、322a、第2係合部材3bに2つの係合体321b、322b)を有している(図1図2図6および図7参照)。車両側被係合部Vaは、図7および図8に示されるように、2つの係合体と係合するために、互いに平行に設けられた2つの被係合軸部Va1を有している。
【0040】
また、車両側被係合部Vaは、図8に示されるように、車両係合部32が車両側被係合部Vaに対して、第2方向D2に相対移動しようとしたときに、第2方向D2の移動を規制する移動規制部R2を有している。移動規制部R2は、車両係合部32が車両側被係合部Vaに対して、第2方向D2に相対移動しようとしたときに、当接する部分が設けられていればよい。本実施形態では、移動規制部R2は、車両係合部32が係合する部分よりも径方向外側に張り出した拡幅部(被係合軸部Va1の端部が取り付けられる部分)である。
【0041】
本実施形態では、図2に示されるように、第1係合部材3aの車両係合部32は、車両Vの前後方向D1に離間した少なくとも2つの係合体321a、322aを有している。また、第2係合部材3bの車両係合部32は、車両Vの前後方向D1に離間した少なくとも2つの係合体321b、322bを有している。この場合、車椅子Wは、係合部材3を介して、第2方向(幅方向)D2の一方側(車椅子Wの左側)または他方側(車椅子Wの右側)において、第1方向(前後方向)D1の2か所で車両Vに固定される。したがって、例えば、係合部材3が車両Vに対して、車両係合部32を中心として第2方向D2の軸周りに揺動することが抑制される(係合部材3が第1方向(前後方向)D1で1箇所のみで車両Vに固定されている場合、係合部材3は、車両係合部32を中心として第2方向D2の軸周りに揺動する可能性がある)。したがって、係合部材3が車両係合部32を中心として第2方向D2の軸周りに揺動することを抑制することによって、車両Vの運転中に、車椅子Wが床面Fから上側に向かう動きを抑制することができる。また、第1係合部材3aの車両係合部32が、少なくとも2つの係合体321a、322aを有し、第2係合部材3bの車両係合部32が、少なくとも2つの係合体321b、322bを有している場合、車椅子Wが車両Vに対して少なくとも4か所で固定される。これによって、より車椅子Wが強固に安定して車両V内で固定される。なお、車両係合部32に設けられる係合体の数は特に限定されず、例えば、第1係合部材3aに1つの係合体が設けられていてもよいし、3つ以上の係合体が設けられていてもよい。
【0042】
本実施形態では、車両係合部32は、図6および図7に示されるように、基部33の他端側に設けられた本体32aと、車両側被係合部Vaに対して係合する係合位置と、車両側被係合部Vaに対して係合しない非係合位置との間で移動するラッチ部32bと、ラッチ部32bをロックするロック部材32cとを有している。なお、本体32a、ラッチ部32b、ロック部材32cは、固定対象係合部31の本体31a、ラッチ部31b、ロック部材31cの構造と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0043】
本体32aは、本実施形態では、図6および図7に示されるように、車両側被係合部Vaを係合可能な溝部Gを有している。本実施形態では、本体32aの溝部Gが設けられた位置に対応して、基部33にも溝部が設けられている。これにより、車両側被係合部Vaは、第2方向(幅方向)D2で、本体32aを貫通した状態で本体32aの溝部Gおよび基部33の溝部内に配置される。
【0044】
ラッチ部32bは、図6および図7に示されるように、車両係合部32を車両側被係合部Vaに押し付けることによって、車両側被係合部Vaに係合するように動作する。ラッチ部32bは、車両係合部32を車両側被係合部Vaに係合させる際に、車両側被係合部Vaが溝部G内に入ったときに、車両側被係合部Vaに対して係合しない非係合位置から、車両側被係合部Vaに係合する係合位置へと回転移動する。ラッチ部32bは、図6および図7に示されるように、本体部32aに対して第2方向D2に延びる軸周りに回転するように設けられている。ラッチ部32bは、バネSPによって非係合位置に向かって付勢されている。ラッチ部32bは、本実施形態では、一対の爪部F1、F2を有している。一対の爪部F1、F2の間には、車両側被係合部Vaを収容可能な凹溝(U字状の溝)CVが設けられている。ラッチ部32bは、バネSPの付勢力によって、溝部Gの入口が開放した状態(図6に示された状態)で停止している。車両側被係合部Vaが溝部G内に入ったときに、ラッチ部32bは、バネSPの付勢力に抗して車両側被係合部Vaによって爪部F1が溝部Gの奥に向かって押圧されて回転し、爪部F2によって溝部Gの入口が閉鎖される(図7に示された状態)。
【0045】
ロック部材32cは、図6および図7に示されるように、ラッチ部32bとの間の係合を解除するための操作部OPを備えている。操作部OPが例えば、図7に示されるロックされた状態から、操作部OPを反時計方向(矢印B参照)に操作されることで、ロック部材32cとラッチ部32bとの間の係合が解除される。これにより、ラッチ部32bと車両側被係合部Vaとの間の係合の解除が可能となり、係合部材3を両Vから取り外すことが可能になる。
【0046】
なお、車両係合部32の本体、ラッチ部、ロック部材の形状および構造は、車両係合部32と車両側被係合部Vaとの係合状態を維持できるようにロックすることができれば、上述した形状および構造に限定されない。また、車両側被係合部Vaの形状および構造は、車両係合部32の形状および構造に応じて適宜変更される。
【0047】
基部33は、図1図3に示されるように、固定対象係合部31と車両係合部32とを繋ぐ部位である。本実施形態では、固定対象係合部31の固定対象側被係合部Wbとの係合箇所と、車両係合部32の車両側被係合部Vaとの係合箇所とは、第1方向D1にずれて配置されている。基部33は、第1方向D1に延びて、第1方向D1で離れて設けられた固定対象係合部31と車両係合部32とを繋いでいる。より具体的には、固定対象係合部31と車両係合部32とは、第1方向D1および第3方向D3で離れた位置に設けられている。基部33は、第1方向D1かつ第3方向D3に延びて、固定対象係合部31と車両係合部32とを繋いでいる。本実施形態では、図1に示されるように、係合部材3が車両Vに固定されたときに、基部33は、車両係合部32側から第1方向(前後方向)D1で後方向、および第3方向(上下方向)D3で上方向に延びている。
【0048】
基部33は、固定対象係合部31が車椅子(固定対象)Wに係合し、車両係合部32が車両Vに係合しているときに、固定対象係合部31と車両係合部32とを結ぶ距離が変化することを抑制する所定の剛性を有する剛体によって構成されている。これにより、後述するように、長尺部材2で牽引した後、車椅子Wを固定する際に、長尺部材2の撓みに関係なく、車椅子Wを車両Vにおいて安定して固定することができる。なお、「固定対象係合部31と車両係合部32とを結ぶ距離が変化することを抑制する所定の剛性を有する剛体」という用語は、車両Vの様々な走行状態(例えば、急カーブ走行、急ブレーキ、段差走行時など)において、車椅子Wが車両Vに対して第1方向(前後方向)D1に移動しようとする力を受けたときに、固定対象係合部31と車両係合部32とを結ぶ距離が明らかに変化するように、基部33が変形してしまうものを除外することを意味する。なお、「距離が明らかに変化する」とは、目視によって距離が短くなったことが明らかになることを意味する。「基部」は、例えば、固定対象係合部31と車両係合部32を繋ぐ部分の剛性が低いものや、固定対象係合部31と車両係合部32を繋ぐ部分それ自体の剛性が高くても、構造上固定対象係合部31と車両係合部32とを結ぶ距離が明らかに変化するように撓むもの(例えば細長いケーブルなど)を含まない。なお、基部33の剛性は、特に限定されないが、例えば、人が載った車椅子Wの総重量が90kgであるときに、係合部材3によって車両Vに固定された状態(図1参照)で、100km/hの速度で走行中の車両に急ブレーキをかけたときに、急ブレーキをかける前とかけた後との、固定対象係合部31と車両係合部32とを結ぶ距離の変化量が、無負荷状態での固定対象係合部31と車両係合部32とを結ぶ距離に対して、0~5%、好ましくは0~3%、より好ましくは0~1%となる剛性を有していることが好ましい。
【0049】
基部33を構成する材料は、車両係合部32が車両Vに係合しているときに、固定対象係合部31と車両係合部32とを結ぶ距離が変化することを抑制する所定の剛性を有していれば、特に限定されず、例えば所定の剛性を有する金属または合成樹脂によって構成することができる。
【0050】
また、基部33の形状は、固定対象係合部31と車両係合部32とを繋ぐように延びる部分を有していれば、特に限定されない。本実施形態では、基部33は、図3に示されるように、車両係合部32側から第1方向D1で後方向に延びる第1部分33aと、第1部分33aの第1方向D1で後側の端部から、第1方向D1で後方向に進むにつれて第3方向D3で上側に向かって(斜め上方に)延びる第2部分33bとを有している。第2部分33bは、第1部分33aと第2部分33bとの間の交差部分から、固定対象係合部31までの間に、係合部材3を使用者の手で把持可能な所定の長さ(例えば15~20cmまたはそれ以上)を有している。第2部分33bが把持可能な所定の長さを有していることによって、第2部分33bが把持部として機能して、係合部材3を容易に車椅子Wおよび車両Vに係合させることができる。なお、本実施形態では、基部33は、第1部分33aおよび第2部分33bがL字状に折れ曲がった板状に形成されているが、基部33は、固定対象係合部31と車両係合部32とを繋ぐように延びる三角形状または四角形状のプレートとして形成されていてもよい。
【0051】
また、本実施形態では、基部33は、第1部分33aおよび第2部分33bが1つの部材によって構成されている。しかし、基部は、複数の部材(例えば第1部分33aおよび第2部分33b)が互いにネジ、ボルト、溶接などによって互いに接合されたものであってもよい。また、基部33は、図9の変形例に示されるように、第1部分33aと第2部分33bとが折り畳み式に構成されていてもよい。図9に示される基部33は、車両Vの凹部Cに収納可能な折り畳み状態(図9の実線参照)と、係合部材3を車椅子Wに係合させる使用状態(図9の二点鎖線参照)との間で、第2部分33bを第1部分33aに対して第2方向D2に延びる軸X周りに旋回可能に構成されている。この場合、係合部材3を使用しない場合は、例えば床面Fの凹部Cなど係合部材3を邪魔にならない位置に収納し、係合部材3を使用するときに第2部分33bを軸X周りに旋回させて使用することができる。なお、図示は省略するが、基部33は、第2部分33bを第1部分33aに対して所定の角度で停止させる公知のストッパや、所定の角度で第2部分33bを第1部分33aに対して角度が変化しないようにする公知のロック機構を有している。また、基部33は、図10に示される他の変形例のように、第1部分33aと、第2部分33bとが直線状になった状態で床面Fに収納可能とし、係合部材3を使用するときに第2部分33bを第1部分33aに対して軸X周りに旋回させて使用するように構成されていてもよい。
【0052】
上述したように、本実施形態の固定構造1は、長尺部材2と係合部材3とを備え、係合部材3の基部33は、固定対象係合部31が車椅子(固定対象)Wに係合し、車両係合部32が車両Vに係合しているときに、固定対象係合部31と車両係合部32とを結ぶ距離が変化することを抑制する所定の剛性を有する剛体によって構成されている。この場合、長尺部材2が撓むか否かに関係なく、車椅子Wは、剛体である基部33によって、固定対象係合部31と車両係合部32との間の距離が変化することが抑制された状態で、車両Vに安定して固定される。すなわち、車両係合部32が車両Vに対して所定の位置で固定され、車椅子Wが固定対象係合部31に対して所定の位置で固定され、固定対象係合部31と車両係合部32との間の距離が変わらなければ、車椅子Wは車両Vに対する位置が変化することが抑制される。したがって、車椅子Wが車両Vに対して安定して固定される。また、車椅子Wを安定して固定することができるので、係合部材3を複数の方向から(例えば、車椅子Wの前方からだけでなく、車椅子Wの後方からも)車椅子Wに係合させる必要がないので、車椅子Wの固定作業が容易となる。
【0053】
また、本実施形態では、係合部材3は、車椅子Wを牽引する牽引手段の一部であるとともに、車椅子Wを車両Vに固定する固定手段の一部としても機能する。本実施形態では、車椅子Wが長尺部材2および係合部材3によって車両V内まで移動したときに、その牽引手段の一部である係合部材3の車両係合部32を、車両Vに係合させるだけで、容易に車椅子Wを車両Vに固定させることができる。そして、車椅子Wが車両Vに固定された後は、従来の長尺部材の張力によって車椅子Wを固定させる構造とは異なり、長尺部材2の張力に依存せずに剛体である係合部材3によって車椅子Wが車両Vに固定される。長尺部材2の張力によって車椅子Wを固定する構造の場合は、長尺部材2の撓みによって車椅子Wが第1方向(前後方向)D1などに移動する可能性がある。これに対して、本実施形態では、剛体である基部33を有する係合部材3によって車椅子Wが固定されるので、長尺部材2の撓みに関係なく、安定して車椅子Wを車両Vに固定することができる。また、ベルト等、長尺部材2の緩みに関係なく車椅子Wを固定することができるので、長尺部材2を操作する駆動部DRにおいて、正確な制御(例えば、一対ある長尺部材の張力や引っ張り量を調整するなど)を行う必要がなくなる。また、本実施形態では、車椅子Wを長尺部材2の張力によって固定するときのように、長尺部材2に大きな張力を発生させる必要がないので、駆動部DRのモータDR1を小型化することができる。
【0054】
次に、本実施形態の固定構造1の使用状態について、図11図15を用いてより詳細に説明する。なお、以下の説明はあくまで一例であり、以下の説明によって本発明の固定構造が限定されるものではない。例えば、図11図15では、車両Vに車椅子Wが2台収容されるように構成されているが、車椅子Wは1台のみ収容されてもよいし、3台以上収容されてもよい。
【0055】
まず、図11に示される状態から、車椅子Wに係合部材3を係合させるために、車両Vから係合部材3を取り外す。なお、係合部材3は、図11では、車椅子Wに取り付けられていない状態で、車両側被係合部Vaに係合するように構成されているが、係合部材3は車両Vの別の場所(例えば、係合部材3が床面Fから突出しないように全体を収容できる凹部など)に収容されていてもよい。
【0056】
図11に示される状態から、係合部材3を車椅子Wに係合させるために、係合部材3を第1方向D1に引っ張って、車椅子Wの位置まで移動させる。このとき、係合部材3に取り付けられた長尺部材2は、駆動部DRの巻取部材DR2(図1および図2参照)から繰り出される。
【0057】
係合部材3が車椅子Wの位置まで到達すると、車椅子Wの前方において、フレームWaから第2方向D2に延びる固定対象側被係合部Wbに係合部材3を係合させる(図4および図12参照)。本実施形態では、車椅子Wの前方の左右両側に設けられた固定対象側被係合部Wbに対して、第1係合部材3aおよび第2係合部材3bがそれぞれ係合される。
【0058】
図12に示されるように、係合部材3が車椅子Wに係合すると、操作スイッチ等の操作手段を操作することで、駆動部DRが駆動される。駆動部DRが駆動されると、駆動部DRのモータDR1が作動し、長尺部材2が巻取部材DR2に巻き取られるように巻取部材DR2が回転する。巻取部材DR2が回転すると、長尺部材2が巻取部材DR2に巻き取られ、係合部材3を介して車椅子Wが車両V内に向かって引っ張られる。車椅子Wが長尺部材2および係合部材3によって牽引されると、車椅子WはスロープSLを登りながら、車両V内に移動する(図13参照)。このとき、係合部材3の固定対象係合部31は、図12および図13に示されるように、固定対象側被係合部Wbを中心として、第2方向D2に延びる軸周りに回転できるように、固定対象側被係合部Wbに係合している。そのため、車椅子WがスロープSLを登ったり、段差を通過したりしたときに、車椅子Wの位置や姿勢に応じて、固定対象係合部31が固定対象側被係合部Wbに対して回転して、係合部材3が揺動する。これにより、車椅子Wを円滑に牽引することができ、固定対象係合部31と固定対象側被係合部Wbとの間に無理な力が加わらず、固定対象係合部31または固定対象側被係合部Wbの破損を抑制することができる。
【0059】
図14に示されるように、車椅子Wが、係合部材3の車両係合部32を車両側被係合部Vaに係合させることが可能な位置まで到達すると、車椅子Wを停止させ、係合部材3を車両側被係合部Vaに向かって移動させる。車両係合部32を車両側被係合部Vaに係合させる際には、例えば、係合部材3の固定対象係合部31を固定対象側被係合部Wbを中心に回転させることで、車両係合部32を車両側被係合部Vaに係合させることができる。このとき、長尺部材2は、ベルト等の可撓性を有する材料によって構成されているので、車両係合部32を車両側被係合部Vaに係合させる際に、係合部材3の動作に合わせて撓むので、係合部材3の係合作業の妨げとならない。
【0060】
上述したように、係合部材3の車両係合部32を車両側被係合部Vaに係合させることで、車椅子Wの車両Vへの固定が完了する。係合部材3の基部33は、固定対象係合部31が車椅子Wに係合し、車両係合部32が車両Vに係合しているときに、固定対象係合部31と車両係合部32とを結ぶ距離が変化することを抑制する所定の剛性を有する剛体によって構成されている。したがって、長尺部材2が撓むか否かに関係なく、車椅子Wは、剛体である基部33によって、固定対象係合部31と車両係合部32との間の距離が変化することが抑制された状態で、車両Vに安定して固定される。
【0061】
本実施形態では、車椅子Wは、車椅子Wの前方のみに第1係合部材3aおよび第2係合部材3bが係合することで、第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bによって車椅子Wが前進しながら車両V内に牽引され、車両V内に入ると、係合部材3によって車両Vに固定される。このように、本実施形態では、係合部材3が車椅子Wの前方のみに係合するので、車椅子Wを車両V内に牽引した後、2つの第1係合部材3aおよび第2係合部材3bを車両Vに係合させるだけで車椅子Wの固定が完了する。したがって、車椅子Wの固定作業が容易となる。また、車椅子Wの前方のみに係合部材3が係合するように構成することによって、車椅子Wの後方側に係合部材3を係合させるためのスペースが不要となる。したがって、車両Vにおいて、車椅子W1台当たりの固定に必要なスペースを低減させることができる。
【0062】
なお、変形例として、車椅子Wの後方のみに第1係合部材3aおよび第2係合部材3bが係合することで、第1長尺部材2aおよび第2長尺部材2bによって車椅子Wが後退しながら車両V内に牽引されるように構成されていてもよい。この場合も、上述した態様と同様の効果を得ることができる。
【0063】
本実施形態では、図14および図15に示されるように、1台目の車椅子Wが固定された後、2台目の車椅子Wが車両Vに搭載される。
【0064】
本実施形態では、2台目の車椅子W用の係合部材3は、図10および図14に示されるように、第1部分33aおよび第2部分33bが直線状となるように(または図9に示されるように、折り畳まれた状態で)配置されて、車両Vの床面Fの凹部Cに収容されている。より具体的には、係合部材3は、車両Vの床面Fの凹部C内に設けられた車両側被係合部Vaに係合した状態で収容されている。この場合、車両Vの床面Fにおいて、複数の車椅子W用に、2つの車両側被係合部Vaが第1方向(前後方向)D1で並んでいる場合に、第1方向D1で前方側に搭載される(1台目の)車椅子Wが通過する際に、第1方向D1で後方側に搭載される(2台目の)車椅子W用の車両側被係合部Vaが通過の妨げとなることが抑制される。
【0065】
2台目の車椅子W用の係合部材3は、1台目の車椅子Wのときと同様に、車椅子Wに係合される。その後、車椅子Wが長尺部材2および係合部材3によって牽引され、車両係合部32が車両側被係合部Vaに係合されて、車椅子Wの固定が完了する。
【0066】
本実施形態では、車椅子Wをベルトのように張力で固定する場合と異なり、所定の剛性を有する基部33によって車椅子Wが固定されている。そのため、ベルト等のように張力で固定する場合と比較して、車椅子Wの固定に必要なスペースを小さくすることができる。具体的には、車椅子Wをベルトの張力で固定する場合、車椅子Wの前後方向の両側から車椅子Wを引っ張る必要がある。また、ベルトの張力で車椅子Wを固定する際に、強固に車椅子Wを固定したい場合、ベルトを水平方向に近い状態で引っ張ることが好ましい。このように、車椅子Wをベルト等の張力で固定する場合、車椅子Wの前後にスペースが必要となり、2台以上の車椅子Wを車両Vに搭載することが難しい。また、仮にベルト等を本実施形態の第2部分33bと同様の角度で前後に配置できたとしても、ベルトの張力が水平に働かないので、車椅子Wを効率良く固定することができず、ベルトの張力をかなり大きくしなければ(この場合、モータが大型化してしまう)、車椅子Wの移動を防ぐことができない。それに対して、本実施形態では、基部33の剛性によって、車椅子Wが車両Vに安定して固定され、省スペースかつ強固な車椅子Wの固定が可能となる。
【0067】
次に、車椅子Wを搭載した状態で、車両Vが移動して、様々な方向に力が加わった場合の作用について説明する。例えば、車両Vに急ブレーキが加わった場合には、車椅子Wが車両Vの床面Fに対して第1方向D1で前進方向に移動しようとする。車椅子Wが第1方向D1で前進方向に移動しようとした場合、車椅子Wから固定対象係合部31を介して係合部材3に前進方向の力が加わる。本実施形態では、基部33が所定の剛性を有し、車両係合部32が車両側被係合部Vaに係合しているので、係合部材3に前進方向の力が加わっても、車椅子Wは前進せずにその場で保持される。
【0068】
また、車両Vがカーブを走行する際など、車椅子Wに第2方向D2の力が加わる場合がある。この力は、固定対象係合部31の第2方向D2での移動が固定対象側被係合部Wbに設けられた移動規制部Rによって規制され、車両係合部32の第2方向D2での移動は車両側被係合部Vaに設けられた移動規制部R2によって規制される。したがって、車椅子Wが第2方向D2に移動することが規制される。
【0069】
また、本実施形態では、図2に示されるように、第1係合部材3aの車両係合部32は、車両の前後方向D1に離間した2つの係合体321a、322aを有し、第2係合部材3bの車両係合部32は、車両Vの前後方向D1に離間した2つの係合体321b、322bを有している。これにより、車両係合部32を中心として第2方向D2に延びる軸周りに係合部材3が揺動することが抑制される。したがって、例えば、路面の大きな段差上を走行したときなどに、車椅子Wが上側に跳ね上がることが抑制される。また、車両Vがカーブを走行する際や急ブレーキの際など、車椅子Wに第3方向D3を軸として回転する方向の力が加わる場合がある。この場合に、4つの係合体321a、322a、321b、322bが車両側被係合部Vaと係合することによって、車椅子Wの第3方向D3を軸とした回転が抑制される。
【符号の説明】
【0070】
1 固定構造
2 長尺部材
2a 第1長尺部材
2b 第2長尺部材
21 長尺部材本体
22 接合部
3 係合部材
3a 第1係合部材
3b 第2係合部材
31 固定対象係合部
31a 本体
31b ラッチ部
31c ロック部材
32 車両係合部
32a 本体
32b ラッチ部
32c ロック部材
321a、322a、321b、322b 係合体
33 基部
33a 第1部分
33b 第2部分
C 凹部
CV 凹溝
D バックドア
D1 第1方向(車両の前後方向)
D2 第2方向(車両の幅方向)
D3 第3方向(車両の上下方向)
DR 駆動部
DR1 モータ
DR2 巻取部材
F 床面
F1、F2 爪部
G 溝部
OP 操作部
R、R2 移動規制部
SL スロープ
SP バネ
V 車両
Va 車両側被係合部
Va1 被係合軸部
Va2 固定部
W 固定対象(車椅子)
Wa フレーム
Wb 固定対象側被係合部
X 軸
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