(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168627
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】酸化物超電導線材
(51)【国際特許分類】
H01B 12/06 20060101AFI20221031BHJP
【FI】
H01B12/06 ZAA
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074223
(22)【出願日】2021-04-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2016年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、高温超電導実用化促進技術開発/高磁場マグネットシステム開発/高温超電導高安定磁場マグネットシステム技術開発に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 朋
(72)【発明者】
【氏名】柿本 一臣
(72)【発明者】
【氏名】飯島 康裕
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA02
5G321AA04
5G321CA18
5G321CA21
5G321CA24
5G321CA50
(57)【要約】
【課題】超電導体層と保護層との間の電気抵抗を低減することが可能な酸化物超電導線材、またはそのような酸化物超電導線材の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化物超電導線材10は、基板11と、超電導体層13と、保護層15とを備える。超電導体層13は、酸化物超電導体により形成されており、保護層15に接している。超電導体層13は、銀および酸化物超電導体を含む。超電導体層13に含まれる銀の含有量は、超電導体層13の全体に対して、4.0~27.2vol%の範囲である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上方に積層された超電導体層と、
前記超電導体層上に積層され、銀により形成された保護層と、を備え、
前記超電導体層は、酸化物超電導体により形成されており、かつ、前記保護層に接しており、
前記超電導体層は、銀および酸化物超電導体を含み、
前記超電導体層に含まれる銀の含有量は、前記超電導体層の全体に対して4.0~27.2vol%の範囲である、酸化物超電導線材。
【請求項2】
前記超電導体層においては、前記銀が凝集した銀粒子が分散している、
請求項1に記載の酸化物超電導線材。
【請求項3】
前記銀粒子の径が、0.3~1.0μmの範囲である、
請求項2に記載の酸化物超電導線材。
【請求項4】
前記保護層と接する前記超電導体層の面の算術平均粗さRaは、39.8~103.4nmの範囲である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の酸化物超電導線材。
【請求項5】
前記超電導体層の臨界電流密度は、0.2~1.8MA/cm2の範囲である、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酸化物超電導線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板と、中間層と、酸化物超電導体により形成された超電導体層と、銀により形成された保護層と、を備えた酸化物超電導線材が開示されている。保護層は超電導体層上に形成されている。保護層は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、超電導体層と保護層の上に設けられる層との間で起こる化学反応を抑制したりする等の機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、超電導体層と保護層との間の界面では、互いに異なる種類の材質である酸化物超電導体と銀とが接合されることになる。このように、異種材同士の接合(ヘテロ接合)では、超電導体層と保護層との間の電気抵抗が大きいため、超電導体層から保護層へバイパス電流が流れにくいという問題があった。また、酸化物超電導線材を超電導コイル等の入出力電極に接続したり、酸化物超電導線材同士を接続したりする場合においても、超電導体層と保護層との間の電気抵抗が損失の大小に大きく寄与する。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされ、超電導体層と保護層との間の電気抵抗を低減することが可能な酸化物超電導線材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る酸化物超電導線材は、基板と、前記基板の上方に積層された超電導体層と、前記超電導体層上に積層され、銀により形成された保護層と、を備える。前記超電導体層は、酸化物超電導体により形成されており、かつ、前記保護層に接している。前記超電導体層は、銀および酸化物超電導体を含む。前記超電導体層に含まれる銀の含有量は、前記超電導体層の全体に対して4.0~27.2vol%の範囲である。
【0007】
上記態様によれば、超電導体層には、超電導体層の全体に対して4.0~27.2vol%の範囲の含有量を有する銀が含まれている。これにより、超電導体層に含まれる銀と、保護層の銀とが結合する。換言すると、超電導体層と保護層との間では銀同士のホモ接合となる。これにより、超電導体層と保護層との間の電気抵抗を低減することができる。
【0008】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材の前記超電導体層においては、前記銀が凝集した銀粒子が分散してもよい。
これにより、銀が凝集した銀粒子が分散するように超電導体層が形成されていることによって、超電導体層と保護層との間の電気抵抗を低減することができる。
【0009】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材の前記超電導体層においては、前記銀粒子の径が、0.3~1.0μmの範囲であってもよい。
これにより、超電導体層と保護層との間の電気抵抗を低減することができる。
【0010】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材において、前記保護層と接する前記超電導体層の面の算術平均粗さRaは、39.8~103.4nmの範囲であってもよい。
ここで、「保護層と接する超電導体層の面」とは、保護層と超電導体層との間に位置する界面となる面である。
これにより、超電導体層と保護層との間の接触面積が増大し、超電導体層と保護層との間の電気抵抗を低減することができる。
【0011】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材において、前記超電導体層の臨界電流密度は、0.2~1.8MA/cm2の範囲であってもよい。
これにより、超電導体層の臨界電流密度が0.2~1.8MA/cm2の範囲であることによって、高い臨界電流値を有する酸化物超電導線材を実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様によれば、超電導体層と保護層との間の電気抵抗を低減することが可能な酸化物超電導線材、またはそのような酸化物超電導線材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態の酸化物超電導線材の断面図である。
【
図3A】
図1の酸化物超電導線材の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態の酸化物超電導線材について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、酸化物超電導線材10は、基板11と、中間層12と、超電導体層13と、保護層15と、がこの順に積層された積層体16を有している。
【0015】
本実施形態においては、中間層12を有する酸化物超電導線材10について説明する。なお、中間層12は、酸化物超電導線材10において必須な構成ではない。基板11自体が配向性を備えている場合は、中間層12が基板11上に形成されずに、基板11上に超電導体層13が積層されてもよい。
【0016】
基板11は、テープ状の金属基板である。金属基板を構成する金属の具体例として、ハステロイ(登録商標)に代表されるニッケル合金、ステンレス鋼、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni-W合金などが挙げられる。基板11の寸法は、例えば、幅10mm、厚さ0.1mm、長さ1000mmである。
【0017】
中間層12は、多層構成でもよく、例えば、基板11側から超電導体層13側に向かう順で、拡散防止層、ベッド層、配向層、キャップ層等を有してもよい。これらの層は必ずしも1層ずつ設けられるとは限らず、一部の層を省略する場合や、同種の層を2以上繰り返し積層する場合もある。中間層12は、金属酸化物であってもよい。配向性に優れた中間層12の上に超電導体層13を成膜することにより、配向性に優れた超電導体層13を得ることが容易になる。
【0018】
超電導体層13は、基板11の上方に積層されている。本実施形態においては、超電導体層13は、中間層12上に積層されている。超電導体層13は、中間層12及び保護層15に接している。
超電導体層13は、銀および酸化物超電導体を含む。
酸化物超電導体としては、例えば、一般式REBa2Cu3Oy(RE123)等で表されるRE-Ba-Cu-O系酸化物超電導体が挙げられる。希土類元素REとしては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上が挙げられる。RE123の一般式において、yは7-x(酸素欠損量)である。超電導体層13の厚さは、例えば、約2μmである。超電導体層13は、電流異方性が発現するように結晶配向性を整えて形成するとよい。具体的には、結晶のc軸を基板11の表面(成膜面)対して垂直に配向させ、電流が流れ易いa軸またはb軸を基板11の長さ方向に配向するように成膜するとよい。これにより良好な臨界電流特性を得ることができる。
【0019】
一般的に、酸化物超電導線材10は、磁場中においては臨界電流特性が低下する性質を持つ。磁場中において臨界電流特性が低下するのを抑制するために、超電導体層13に磁束線の動きを抑制する人工ピンが導入されてもよい。例えば、超電導体層13内にBaZrO3(BZO)、BaSnO3(BSO)、BaHfO3(BHO)の人工ピンのナノロッドが導入されてもよい。
【0020】
図1において、酸化物超電導線材10は、超電導体層13と保護層15との間に位置する界面14を有する。界面14においては、保護層15の銀と超電導体層13に含まれる銀とが結合している。
【0021】
超電導体層13に含まれる銀の含有量は、超電導体層13の全体に対して4.0~27.2vol%の範囲である。このように、後述する保護層15の構成物質と同種である銀が超電導体層13に含まれることで、超電導体層13と保護層15との間の電気抵抗を低減することができる。超電導層13に含まれる銀の含有量は、例えば、ICP発光分光分析法により特定することができる。
なお、これ以降、超電導体層13と保護層15との間の電気抵抗を、単に「層間抵抗R」と言う。
【0022】
保護層15は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、超電導体層13と保護層15の上に設けられる層との間で起こる化学反応を抑制したりする等の機能を有する。保護層15は、銀(Ag)により形成されている。保護層15はスパッタ法等により形成することができる。保護層15の厚さは、例えば、1~30μmの範囲である。
【0023】
超電導体層13に含まれる銀は、銀が凝集した粒子状の状態で、超電導体層13内に分散している。銀原子の凝集体である銀粒子の径は、例えば、0.3~1.0μmの範囲である。超電導体層13には、複数の銀粒子が凝集している。これにより、超電導体層13と保護層15との間において、複数の銀粒子が存在している。
超電導体層13内に分散している複数の銀粒子の一部は、保護層15と一体化している。また、超電導体層13に含まれる複数の銀粒子は、中間層12と超電導体層13との界面付近には存在されていない。銀粒子は、中間層12の表面から保護層15の方向へ0.2~1.0μmほど離れた位置に存在している。
【0024】
超電導体層13において、保護層15と接する超電導体層13の面の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、例えば、39.8~103.4nmの範囲である。
酸化物超電導線材10の長手方向に流れる臨界電流Icから求められる超電導体層13の臨界電流密度は、例えば、0.2~1.8MA/cm2の範囲である。
【0025】
以上説明したように、本実施形態の酸化物超電導線材10は、基板11と、基板11上に積層された中間層12と、中間層12上に積層された超電導体層13と、超電導体層13上に積層されているとともに銀を含む保護層15と、を備えている。超電導体層13は、銀および酸化物超電導体を含んでいる。さらに、超電導体層13に含まれる銀の含有量は、超電導体層13の全体に対して4.0~27.2vol%の範囲である。この構成によれば、超電導体層13の銀と、保護層15の銀とが結合する。換言すると、超電導体層13と保護層15との間では銀同士のホモ接合となる。これにより、超電導体層13と保護層15との間の電気抵抗(層間抵抗R)を低減することができる。
【0026】
超電導体層13が銀を含むことで、保護層15と接する超電導体層13の面の表面粗さ(算術表面粗さRa)が増大する。超電導体層13の表面粗さ(算術表面粗さRa)は、39.8~103.4nmの範囲である。これにより、超電導体層13と保護層15との間の接触面積が増大し、超電導体層13と保護層15との間の電気抵抗が低減する。
【0027】
また、超電導体層13の臨界電流密度は、0.2~1.8MA/cm2の範囲である。これにより、層間抵抗Rを大幅に低減することができるだけでなく、高い臨界電流値を有する酸化物超電導線材を実現することができる。
【0028】
次に、以上のように構成された酸化物超電導線材10の製造方法の一例について説明する。なお、下記製造方法はあくまで一例であり、他の製造方法を採用してもよい。
【0029】
まず、PLD(Pulsed Laser Deposition)法について説明する。PLD法では、
図2に示すようなPLD装置20を用いる。PLD装置20は、光源21および集光レンズ22を備えている。光源21は、レーザー光Lを出射する。集光レンズ22は、レーザー光Lをターゲット23の表面23aに集光させる。これにより、ターゲット23の構成粒子を叩き出し、若しくは蒸発させて、プルーム24を発生させる。プルーム24に含まれるターゲット23の構成粒子が、積層対象物25に堆積することで、積層対象物25の表面に前記構成粒子の薄膜が形成される。したがって、ターゲット23の構成粒子の組成を変更することで、積層対象物25に形成される薄膜の組成を適宜変更可能である。なお、
図2では複数の積層対象物25に同時に薄膜を形成する様子を示しているが、積層対象物25の数は1つでもよい。
【0030】
酸化物超電導線材10を製造する際は、
図3Aに示すように、基板11を用意する。
次に、
図3Bに示すように、基板11上に中間層12を積層する。中間層12は、PLD法によって形成してもよいし、その他の公知の方法により形成してもよい。
【0031】
次に、
図3Cに示すように、中間層12上に超電導体層13を積層する。超電導体層13は、PLD法によってc軸配向(厚さ方向に配向)して形成される。このとき、中間層12が表面に形成された基板11(
図3B)が、
図2における積層対象物25となる。また、超電導体層13を構成する銀を含む酸化物超電導体のブロックが、
図2におけるターゲット23となる。
【0032】
次に、
図3Dに示すように、超電導体層13上に保護層15を積層する。保護層15は、スパッタ法等によって形成する。これにより、積層体16が得られる。
【0033】
次に、酸素アニール処理を行う。より詳しくは、積層体16を酸素雰囲気下で300~500℃に加熱する。酸素アニール処理は、超電導体層13を形成した後(保護層15を形成する前)に行ってもよい。酸素アニールを行うことで、超電導体層13に酸素がドープされ、超電導体層13が超電導性を発現可能となる。
【0034】
このように、本実施形態の酸化物超電導線材10の製造方法は、基板11上に中間層12を積層する工程と、PLD法によって銀および酸化物超電導体を含む超電導体層13を中間層12上に積層する工程と、超電導体層13上に積層する工程と、超電導体層13上に銀の保護層15を積層して積層体16を得る工程と、超電導体層13に酸素をドープする酸素アニール処理を行う工程と、を有する。このように、超電導体層13をPLD法によって形成することで、酸化物超電導体および銀をより緻密に超電導体層13として堆積させることができる。したがって、超電導体層13と保護層15との間の電気抵抗をより確実に低減できる。
【実施例0035】
以下、比較例及び実施例を参照し、上記実施形態を説明する。
表1に示すように、比較例1及び実施例1~9の酸化物超電導線材を作製した。
表1は、比較例1及び実施例1~9の酸化物超電導線材の各々に関し、以下の項目を示している。
・超電導体層の構成材料
・超電導体層の膜厚(μm)
・超電導体層におけるEu(ユウロピウム)の含有量が1molである場合のAg(銀)の含有量
・超電導体層に含まれるAg(銀)の含有量(wt%)
・超電導体層に含まれるAg(銀)の含有量(vol%)
・表面粗さRa(nm)
・臨界電流密度Jc[MA/cm2]
・臨界電流Ic[A]
・接続抵抗比
・評価結果
【0036】
表1の「超電導体層の構成材料」に記載された「EuBCO+BHO」は、EuBa2Cu3Oyの酸化物超電導材料とBaHfO3の人工ピン材料との混合材であることを意味する。
【0037】
「Ag含有量(wt%)」は、超電導体層の全体(100wt%)に対する銀の含有量(wt%)を意味する。「Ag含有量(vol%)」は、超電導体層の全体(100vol%)に対する銀の含有量(vol%)を意味する。
つまり、比較例1の超電導体層は、銀を含有していない。実施例1~9の超電導体層は、銀を含有している。実施例1~9において超電導体層に含まれる銀の含有量の範囲は、4.0~27.2vol%である。
比較例1および実施例1~9において超電導体層に含まれる銀の含有量は、超電導体層を溶解して得た溶液を対象としてICP発光分光分析法を用いて測定した。
【0038】
表1において、表面粗さRaは、保護層と接する超電導体層の面の算術平均粗さRaを意味する。表面粗さRaは、超電導体層を形成した後であって、超電導体層上に保護層を形成する前に測定された値である。表面粗さRaの測定には、触針式表面測定装置(KLA-Tencor社製、D-100)を用いた。
【0039】
臨界電流密度Jc[MA/cm2]及び臨界電流Ic[A]は、77Kの温度条件において測定された結果である。臨界電流密度Jcとは、超電導体層の単位断面積あたりの臨界電流値である。
【0040】
接続抵抗比とは、超電導体層に銀が含有されていない比較例の酸化物超電導線材を用いて作製した接続構造体の接続抵抗をRC0[nΩ・cm2]とし、超電導体層に銀が含有されている実施例1~9の各々の酸化物超電導線材を用いて作製した接続構造体の電気抵抗をRC1[nΩ・cm2]としたとき、RC0に対するRC1の比(RC1/RC0)である。
【0041】
詳述すると、先ず、比較例1(超電導体層が銀を含有しない)の酸化物超電導線材を2本準備し、保護層15同士を向き合わせて接続長さ2cmで半田接続した接続構造体を作製した。
次に、2本の酸化物超電導線材のうち一方の超電導体層と、2本の酸化物超電導線材のうち他方の超電導体層との間の電気抵抗を測定し、その電気抵抗をRC0とした。電気抵抗の測定においては、測定対象物を超電導状態にしたうえで4端子抵抗測定法により行った。同様に、実施例1~9(超電導体層が銀を含有する)の各々の酸化物超電導線材で接続構造体を作製して各接続構造体の接続抵抗を測定し、その電気抵抗をRC1[nΩ・cm2]とした。そして、実施例1~9の接続構造体ごとに接続抵抗比(RC1/RC0)の値を求めた。比較例1の接続抵抗比は1.0とした。
【0042】
上述した接続構造体の電気抵抗(RC0及びRC1)は、超電導体層13と保護層15との間の電気抵抗(層間抵抗R)と、保護層15と接続用半田との間の電気抵抗との合計と考えることができる。このうち、保護層15と接続用半田との間の電気抵抗は比較例1及び実施例1~9によらず同じと考えられる。このため、接続構造体の接続抵抗の差異は、比較例1及び実施例1~9の層間抵抗Rの差異に起因すると考えられる。したがって、比較例1及び実施例1~9の各々で作製した接続構造体の接続抵抗を比較することで、比較例1及び実施例1~9の各々の層間抵抗Rの大小関係を知ることができる。
【0043】
接続抵抗比(RC1/RC0)は、比較例1(超電導体層が銀を含有しない)の層間抵抗Rを基準にしたときに、実施例1~9(超電導体層が銀を含有する)の層間抵抗Rがどの程度低下したのかを知る指標となりうる。例えば、表1において、実施例1の接続抵抗比が0.4であり、実施例2の接続抵抗比が0.5である。このことから、超電導体層が銀を含有することによる層間抵抗Rの低減効果に関しては、実施例2よりも実施例1において優れた低減効果が得られることが分かる。
【0044】
表1における「評価結果」においては、接続抵抗比が1以上であれば「不可」であることを示し、接続抵抗比が1未満であれば「良」であることを示している。
【0045】
【0046】
表1に示す結果から、以下の点が明らかとなった。
【0047】
(接続抵抗比について)
接続抵抗比が1である比較例1に対して、実施例1~9における接続抵抗比の範囲は、0.3~0.6であった。実施例1~9では、「良」という評価結果が得られた。つまり、実施例1~9に示すように超電導体層が銀を含有することによって、層間抵抗Rが大幅に低減することが明らかとなった。
【0048】
(臨界電流密度について)
さらに、実施例1~9の中でも、実施例7の臨界電流密度Jcは、0.2MA/cm2であり、実施例1の臨界電流密度Jcは、1.8MA/cm2であった。実施例2~6、
8、9の臨界電流密度Jcは、0.2~1.8MA/cm2の範囲であった。この結果、超電導体層の臨界電流密度Jcが0.2~1.8MA/cm2の範囲内であれば、層間抵抗Rを大幅に低減することができるだけでなく、高い臨界電流値を有する酸化物超電導線材を実現することができることが明らかとなった。
さらに、実施例1、2、9の臨界電流密度Jcは、その他の実施例の臨界電流密度Jcよりも大きい、1.3~1.8MA/cm2の範囲であった。臨界電流密度Jcが1.3~1.8MA/cm2の範囲内であれば、より高い臨界電流密度Jcを有する酸化物超電導線材を実現することができる。
【0049】
(超電導体層の表面粗さについて)
実施例1における銀の含有量は4.0vol%である。実施例9における銀の含有量は、27.2vol%である。実施例1から実施例9に向かう順番で、実施例1~9における銀の含有量は順に増加している。表面粗さRaに関し、実施例1から実施例9に向かう順番で、概ね、表面粗さRaが増大している傾向があることが分かった。換言すると、実施例1~9において、銀の含有量が増えるにしたがって、表面粗さRaが増大する傾向があることが明らかとなった。表面粗さRaが増大するほど、超電導体層と保護層との接触面積が増大する。このため、層間抵抗Rを低減する効果が高まると考えられる。
【0050】
(超電導体層に含まれる銀の粒子径について)
実施例1~9の各々について、電子顕微鏡を用いて超電導体層13の断面を観察し、観察された銀の粒子径(銀粒子の径)を測定した。観察条件として、電子顕微鏡の倍率を10000倍に設定した。基板11に平行な方向において、測定された銀粒子の最大の幅を銀の粒子径と定義した。その結果、銀の粒子径は、0.3~1.0μmの範囲であった。
【0051】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0052】
例えば、積層体16の周囲に、不図示の安定化層を設けてもよい。安定化層を設けた場合、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、超電導体層13及び保護層15を機械的に補強したりすることができる。安定化層の材質としては、例えば、銅を採用可能である。
【0053】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。