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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168636
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】ヤヌスキナーゼ阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/45 20060101AFI20221031BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20221031BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221031BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20221031BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20221031BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20221031BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20221031BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20221031BHJP
【FI】
A61K36/45
A61P31/12
A61P29/00
A61P37/02
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P1/04
A61P17/04
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074237
(22)【出願日】2021-04-26
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森下 和広
(72)【発明者】
【氏名】國武 久登
(72)【発明者】
【氏名】菅本 和寛
(72)【発明者】
【氏名】岡林 環樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 朝永
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD48
4B018MD52
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF07
4C088AB44
4C088AC04
4C088AC05
4C088BA07
4C088BA08
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA68
4C088ZA89
4C088ZA96
4C088ZB07
4C088ZB11
4C088ZB15
4C088ZB33
(57)【要約】
【課題】本発明は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害作用を有する安価な且つ経口投与への適用が可能な薬剤を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、ブルーベリーの処理物を有効成分として含有する、ヤヌスキナーゼ阻害剤に関する。本発明の別の一態様は、ブルーベリーの処理物を有効成分として含有する、ウイルス性感染症、炎症、自己免疫疾患、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎及びアトピー性皮膚炎からなる群より選択される、ヤヌスキナーゼが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を有する対象における該疾患、症状又は障害を予防又は治療するための食品に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブルーベリーの処理物を有効成分として含有する、ヤヌスキナーゼ阻害剤。
【請求項2】
ヤヌスキナーゼが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を予防又は治療するための、請求項1に記載のヤヌスキナーゼ阻害剤。
【請求項3】
ヤヌスキナーゼが関与する1種以上の疾患、症状又は障害が、ウイルス性感染症、炎症、自己免疫疾患、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎及びアトピー性皮膚炎からなる群より選択される、請求項2に記載のヤヌスキナーゼ阻害剤。
【請求項4】
ウイルス性感染症が、ウイルス性肺炎、ウイルス性心筋炎、ウイルス性脳炎、ウイルス性血管炎及びウイルス性結膜炎からなる群より選択される1種以上のウイルス性感染症である、請求項3に記載のヤヌスキナーゼ阻害剤。
【請求項5】
ブルーベリーの処理物が、ブルーベリーの葉の処理物である、請求項1~4のいずれか一項に記載のヤヌスキナーゼ阻害剤。
【請求項6】
ブルーベリーの処理物が、ブルーベリーの粉砕物、搾汁液及び溶媒抽出物、並びにそれらの分離画分からなる群より選択される1種以上の生成物又は画分である、請求項1~5のいずれか一項に記載のヤヌスキナーゼ阻害剤。
【請求項7】
ブルーベリーの処理物を有効成分として含有する、ウイルス性感染症、炎症、自己免疫疾患、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎及びアトピー性皮膚炎からなる群より選択される、ヤヌスキナーゼが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を有する対象における該疾患、症状又は障害を予防又は治療するための食品。
【請求項8】
ウイルス性感染症が、ウイルス性肺炎、ウイルス性心筋炎、ウイルス性脳炎、ウイルス性血管炎及びウイルス性結膜炎からなる群より選択される1種以上のウイルス性感染症である、請求項7に記載の食品。
【請求項9】
ブルーベリーの処理物が、ブルーベリーの葉の処理物である、請求項7又は8に記載の食品。
【請求項10】
ブルーベリーの処理物が、ブルーベリーの粉砕物、搾汁液及び溶媒抽出物、並びにそれらの分離画分からなる群より選択される1種以上の生成物又は画分である、請求項7~9のいずれか一項に記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤヌスキナーゼ阻害剤に関する。特に、本発明の一態様は、ブルーベリーの処理物を有効成分として含有する、ヤヌスキナーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
2020年初頭から、世界的に新型コロナウイルス(以下、「SARS-CoV-2」とも記載する)による感染症(以下、「COVID-19」とも記載する)が蔓延している。COVID-19は、一定の割合の患者が重症化するとも言われている。このため、COVID-19患者の治療において、重症患者の救命が非常に重要な課題となっている。COVID-19においては、肺炎が重症化した患者の死亡率は高い。現時点では、世界全体で5千万人以上の感染者及び120万人以上の死亡者が確認されている。主要な死亡原因は、間質性肺炎である。このため、COVID-19における肺炎、特に間質性肺炎の重症化を回避する手段が求められている。
【0003】
COVID-19における肺炎の悪化因子として、Tリンパ球等の過剰な活性化が引き起こすサイトカインストームが挙げられている。インターロイキン-6(以下、「IL-6」とも記載する)、腫瘍壊死因子-α(以下、「TNF-α」とも記載する)及びインターフェロン-γ(以下、「IFN-γ」とも記載する)等のサイトカイン分泌は、上流に位置するヤヌスキナーゼ(以下、「JAK」とも記載する)/シグナル伝達及び転写活性化因子(以下、「STAT」とも記載する)情報伝達系によって制御されていることが知られている。それ故、COVID-19における肺炎の重症化にも、JAK/STAT情報伝達系が関与している可能性がある。
【0004】
また、近年、SARS-CoV-2以外にも、インフルエンザウイルス及び重症急性呼吸器症候群(以下、「SARS」とも記載する)コロナウイルス等の種々のウイルスがパンデミックを引き起こしている。或いは、ヒトT細胞白血病ウイルス(以下、「HTLV」とも記載する)及びC型肝炎ウイルス(以下、「HCV」とも記載する)等のウイルス感染により、成人T細胞白血病及び肝癌のような癌が発症することも知られている。
【0005】
前記のような状況から、様々なウイルス性感染症及びウイルス性癌に対する治療薬の探索が進められた。
【0006】
例えば、特許文献1は、ブルーベリー葉の加工処理物を有効成分とする、HTLV-1の感染が関与する疾患の発症予防、または成人T細胞白血病の改善若しくは発症予防のために用いる、HTLV-1感染細胞又は成人T細胞白血病細胞に対する細胞増殖抑制剤を記載する。
【0007】
特許文献2は、プロアントシアニジンからなる組成物を有効成分とするC型肝炎ウイルス産生抑制剤を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4617418号公報
【特許文献1】特許第4892690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
日本においては、これまでに、レムデシベル及びファビピラビルがCOVID-19に対する抗ウイルス薬として薬事承認された。これら薬事承認された医薬によるCOVID-19の治療方法について、日本救急医学会及び日本集中治療医学会が提唱するガイドライン(日本版敗血症診療ガイドライン2020(J-SSCG2020)特別編)では、ファビピラビルは軽症患者への投与が「弱く推奨」される一方で、中等症及び重症患者への投与は現時点で「推奨」を提示されなかった。また、レムデシベルは、軽症患者への投与は現時点で「推奨」を提示されなかったが、中等症及び重症患者への投与は「弱く推奨」された。このように、これらの医薬は病状の程度によってやや有効であるがその有効性は限定的であって、COVID-19に対する特効薬とはなり得ない。それ故、COVID-19に対する新たな予防又は治療手段が求められていた。
【0010】
COVID-19における肺炎の悪化因子として、サイトカインストームが注目された。サイトカインストームは、炎症及び自己免疫疾患等の原因ともなり得る。このため、サイトカイン分泌を制御するJAK/STAT情報伝達系の阻害により、COVID-19のようなウイルス性感染症だけでなく、炎症又は自己免疫疾患等の種々の疾患、症状又は障害を予防又は治療できる可能性がある。しかしながら、日本において薬事承認されているJAK阻害薬は、抗体医薬である。抗体医薬は、非常に高価である。また、抗体医薬は、通常は投与経路が静注又は皮下注に限定されており、経口投与への適用が困難である。
【0011】
それ故、本発明は、JAK阻害作用を有する安価な且つ経口投与への適用が可能な薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、ブルーベリーの処理物がJAK阻害作用を有することを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の態様及び実施形態を包含する。
(1) ブルーベリーの処理物を有効成分として含有する、ヤヌスキナーゼ阻害剤。
(2) ヤヌスキナーゼが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を予防又は治療するための、前記実施形態(1)に記載のヤヌスキナーゼ阻害剤。
(3) ヤヌスキナーゼが関与する1種以上の疾患、症状又は障害が、ウイルス性感染症、炎症、自己免疫疾患、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎及びアトピー性皮膚炎からなる群より選択される、前記実施形態(2)に記載のヤヌスキナーゼ阻害剤。
(4) ウイルス性感染症が、ウイルス性肺炎、ウイルス性心筋炎、ウイルス性脳炎、ウイルス性血管炎及びウイルス性結膜炎からなる群より選択される1種以上のウイルス性感染症である、前記実施形態(3)に記載のヤヌスキナーゼ阻害剤。
(5) ブルーベリーの処理物が、ブルーベリーの葉の処理物である、前記実施形態(1)~(4)のいずれかに記載のヤヌスキナーゼ阻害剤。
(6) ブルーベリーの処理物が、ブルーベリーの粉砕物、搾汁液及び溶媒抽出物、並びにそれらの分離画分からなる群より選択される1種以上の生成物又は画分である、前記実施形態(1)~(5)のいずれかに記載のヤヌスキナーゼ阻害剤。
(7) ブルーベリーの処理物を有効成分として含有する、ウイルス性感染症、炎症、自己免疫疾患、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎及びアトピー性皮膚炎からなる群より選択される、ヤヌスキナーゼが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を有する対象における該疾患、症状又は障害を予防又は治療するための食品。
(8) ウイルス性感染症が、ウイルス性肺炎、ウイルス性心筋炎、ウイルス性脳炎、ウイルス性血管炎及びウイルス性結膜炎からなる群より選択される1種以上のウイルス性感染症である、前記実施形態(7)に記載の食品。
(9) ブルーベリーの処理物が、ブルーベリーの葉の処理物である、前記実施形態(7)又は(8)に記載の食品。
(10) ブルーベリーの処理物が、ブルーベリーの粉砕物、搾汁液及び溶媒抽出物、並びにそれらの分離画分からなる群より選択される1種以上の生成物又は画分である、前記実施形態(7)~(9)のいずれかに記載の食品。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、JAK阻害作用を有する安価な且つ経口投与への適用が可能な薬剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1-1】図1-1は、試験II-2において、HTLV-1感染細胞株(MT2)及びATL細胞株(SO4)にブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を添加したときの情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した結果を示す写真である。
図1-2】図1-2は、試験II-2において、HTLV-1感染細胞株(MT2)及びATL細胞株(SO4)にブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を添加したときの情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した結果を示す写真である。
図2図2は、試験II-2において、T-ALL細胞株(Jurkat、MOLT4)及びATL細胞株(SU9T-01)にブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を添加したときの情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した結果を示す写真である。
図3-1】図3-1は、試験II-3において、ATL患者検体(ATL#1)及びHAM細胞株(HCT-5)にブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を添加したときの情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した結果を示す写真である。
図3-2】図3-2は、試験II-3において、ATL患者検体(ATL#1)及びHAM細胞株(HCT-5)にブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を添加したときの情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した結果を示す写真である。
図4-1】図4-1は、試験II-4において、HTLV-1感染細胞株(MT2)にブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を添加したときの情報伝達遺伝子の発現を定量PCR法によって確認した結果を示すグラフである。図中、縦軸は、相対的mRNAレベルである。
図4-2】図4-2は、試験II-4において、ATL細胞株(SO4)にブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を添加したときの情報伝達遺伝子の発現を定量PCR法によって確認した結果を示すグラフである。図中、縦軸は、相対的mRNAレベルである。
図5-1】図5-1は、試験II-4において、HTLV-1感染細胞株(MT2)にブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を添加したときの情報伝達遺伝子の発現を定量PCR法によって確認した結果を示すグラフである。図中、縦軸は、相対的mRNAレベルである。
図5-2】図5-2は、試験II-4において、ATL細胞株(SO4)にブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を添加したときの情報伝達遺伝子の発現を定量PCR法によって確認した結果を示すグラフである。図中、縦軸は、相対的mRNAレベルである。
図6図6は、試験II-5において、HTLV-1感染細胞株(MT2)及びATL細胞株(SO4、SU9T-01)にブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)及びMG132を添加したときの情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した結果を示す写真である。
図7-1】図7-1は、試験III-2において、ATL患者検体(ATL#1)及びHAM細胞株(HCT-5)にBタイプ結合のプロアントシアニジン(PAC)(B-type)を添加したときの情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した結果を示す写真である。
図7-2】図7-2は、試験III-2において、HTLV-1感染細胞株(MT2)及びATL細胞株(SO4)にBタイプ結合のプロアントシアニジン(PAC)(B-type)を添加したときの情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した結果を示す写真である。
図8図8は、試験IV-1において、HTLV-1感染細胞株(MT2)を皮下移植した免疫不全マウスにブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)又は食塩水を投与開始してからの期間と腫瘍体積との関係を示すグラフである。図中、横軸は、投与開始からの期間(日)であり、縦軸は、腫瘍体積(mm3)である。
図9図9は、試験IV-1において、HTLV-1感染細胞株(MT2)を皮下移植した免疫不全マウスにブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)又は食塩水を投与開始してから35日後の腫瘍の観察結果である。Aは、腫瘍の写真であり、Bは、腫瘍重量の比較である。Bにおいて、縦軸は、腫瘍重量(g)である。
図10図10は、試験IV-1において、HTLV-1感染細胞株(MT2)を皮下移植した免疫不全マウスにブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)又は食塩水を投与開始してから35日後の腫瘍における情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した結果を示す写真である。
図11図11は、試験IV-1において、HTLV-1感染細胞株(MT2)を皮下移植した免疫不全マウスにブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)又は食塩水を投与開始してから35日後の腫瘍における情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した写真において、JAKタンパク質及びSTATタンパク質のバンドの強度を比較した結果を示すグラフである。図中、縦軸は、バンドの相対的強度(%)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、ブルーベリーの処理物がJAK阻害作用を有することを見出した。それ故、本発明の一態様は、ブルーベリーの処理物を有効成分として含有する、JAK阻害剤に関する。
【0017】
本発明の各態様において、「JAK阻害」は、JAK/STAT情報伝達系に関与するJAKタンパク質若しくはその遺伝子の発現抑制、JAKタンパク質若しくはその遺伝子の分解促進、及び/又はJAKタンパク質の機能の発現阻害の少なくともいずれかを意味する。本発明の各態様において、JAK阻害作用は、JAKタンパク質の分解促進に起因することが好ましく、ユビキチンプロテアソーム系の活性化を引き起こすことによるJAKタンパク質の分解促進に起因することがより好ましい。JAKタンパク質としては、Jak1、Jak2及びJak3タンパク質を挙げることができる。JAK/STAT情報伝達系は、IL-6、TNF-α及びIFN-γ等のサイトカインの上流に位置しており、これらのサイトカイン分泌を制御している。過剰なサイトカイン分泌であるサイトカインストームは、COVID-19のようなウイルス性感染症の悪化因子であるだけでなく、炎症及び自己免疫疾患等の原因ともなり得る。それ故、本態様のJAK阻害剤により、サイトカイン分泌を制御するJAK/STAT情報伝達系の阻害を介して、サイトカイン分泌に関連する種々の疾患、症状又は障害を予防又は治療することができる。
【0018】
本発明の各態様において、ブルーベリーの処理物のJAK阻害作用は、限定するものではないが、例えば、対象にブルーベリーの処理物を投与して、該対象におけるJAKタンパク質の発現をウエスタンブロット法によって、或いは該対象におけるJAK遺伝子の発現を定量PCR法によって確認することにより、決定することができる。また、本発明の各態様において、ブルーベリーの処理物のJAK阻害作用の特異性は、限定するものではないが、例えば、前記方法において、JAK以外の他のキナーゼ群の発現に実質的な変化がないことを確認することにより、決定することができる。
【0019】
本態様のJAK阻害剤は、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を予防又は治療するために使用することが好ましい。JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害は、ウイルス性感染症、炎症及び自己免疫疾患からなる群より選択されることが好ましく、ウイルス性感染症、炎症及び自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎及びアトピー性皮膚炎)からなる群より選択されることがより好ましい。前記で例示した疾患、症状又は障害は、いずれもJAK/STAT情報伝達系によって制御されるサイトカイン分泌に関連することが知られている。それ故、前記で例示した疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者に本態様のJAK阻害剤を投与することにより、ブルーベリーの処理物のJAK阻害作用を介して該疾患、症状又は障害を予防又は治療することができる。
【0020】
本発明の各態様において、前記で例示したウイルス性感染症としては、限定するものではないが、例えば、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス-1型(HTLV-1)を含むヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヘルペスウイルス、ジカウイルス、デングウイルス、EBウイルス、RSウイルス、水痘-帯状ヘルペスウイルス、ウエストナイルウイルス又はチキングニアウイルスに起因する、ウイルス性肺炎、ウイルス性心筋炎、ウイルス性脳炎、ウイルス性血管炎及びウイルス性結膜炎を挙げることができ、特にウイルス性肺炎である。ウイルス性肺炎を有する対象、例えばウイルス性肺炎を有するヒト患者におけるウイルス性肺炎は、通常はSARS-CoV-2性の重症肺炎であり、特に機械換気を必要とするSARS-CoV-2性の重症肺炎である。本明細書において、「重症肺炎」は、呼吸不全等の症状が確認される肺炎を意味する。また、本明細書において、「機械換気」は、人工呼吸器を用いて機械的に呼吸を確保することを意味する。本発明の各態様において、前記で例示したウイルス性感染症、特にSARS-CoV-2に起因するウイルス性感染症であるCOVID-19を有する対象、例えば該ウイルス性感染症を有するヒト患者に本態様のJAK阻害剤を投与することにより、ブルーベリーの処理物のJAK阻害作用を介して該ウイルス性感染症の症状又は障害を予防又は治療することができる。
【0021】
前記で例示したウイルス性感染症、特にCOVID-19を有する対象、例えば該ウイルス性感染症を有するヒト患者におけるウイルス性感染症の症状又は障害としては、限定するものではないが、例えば、ウイルス性肺炎の場合、臓器障害、呼吸器障害(例えば咳又は呼吸困難等)、発熱、筋肉痛、全身倦怠感、敗血症、敗血症性ショック、及び多臓器不全(例えば肺、腎臓、肝臓、心臓、血管又は脳神経の臓器不全)を;ウイルス性心筋炎の場合、心筋炎を;ウイルス性脳炎の場合、脳炎を;ウイルス性血管炎の場合、血管炎を;及びウイルス性結膜炎の場合、結膜炎を、それぞれ挙げることができる。本発明の各態様において、前記で例示したウイルス性感染症、特にCOVID-19を有する対象、例えば該ウイルス性感染症を有するヒト患者に本態様のJAK阻害剤を投与することにより、ブルーベリーの処理物のJAK阻害作用を介して該ウイルス性感染症の症状又は障害の予防又は治療効果を得ることができる。
【0022】
本発明の各態様において、前記で例示した炎症としては、限定するものではないが、例えば、炎症性サイトカイン分泌を伴う関節炎、大腸炎、皮膚炎及び腎炎を挙げることができる。本発明の各態様において、前記で例示した炎症を有する対象、例えば該炎症を有するヒト患者に本態様のJAK阻害剤を投与することにより、ブルーベリーの処理物のJAK阻害作用を介して該炎症の症状又は障害を予防又は治療することができる。
【0023】
本発明の各態様において、前記で例示した自己免疫疾患としては、限定するものではないが、例えば、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、アトピー性皮膚炎、全身性エリテマトーデス、強皮症、乾癬、乾癬性関節炎、糖尿病性腎症及び脱毛を挙げることができる。本発明の各態様において、前記で例示した自己免疫疾患を有する対象、例えば該自己免疫疾患を有するヒト患者に本態様のJAK阻害剤を投与することにより、ブルーベリーの処理物のJAK阻害作用を介して該自己免疫疾患の症状又は障害を予防又は治療することができる。
【0024】
本発明の各態様において、前記で例示した疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者における該疾患、症状又は障害の予防又は治療効果は、例えば、該疾患、症状又は障害を有する対象に本態様のJAK阻害剤を投与して、該対象における疾患、症状又は障害を、例えば、治療期間(例えば、機械換気を必要とした期間)、臨床状態、臨床検査(例えば、血液学検査及び血液生化学検査)、バイタルサイン(例えば、血圧及び心拍数)、及び炎症性サイトカイン等(例えば、IL-1β、IL-6、IL-8、IL-10、TNF-α、IFN-γ、オートタキシン、FDP、D-ダイマー、tPA、PIC及びPTX3)の変化を指標に用いて評価することにより、決定することができる。加えて、ウイルス性感染症を有する対象、例えばウイルス性感染症を有するヒト患者におけるウイルス性感染症の症状又は障害の予防又は治療効果は、例えば、PCR等の遺伝子検出手段又は免疫学的手段を用いるウイルスの定量結果を指標に用いて評価することにより、決定することもできる。また、本発明の各態様において、前記で例示した疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者に対して本態様のJAK阻害剤を投与した際の望ましくない重篤な副作用(例えば、過度の血圧低下による循環不全(ショック)等)の発生は、例えば、血圧等の循環動態の観察により、決定することができる。
【0025】
本明細書において、「予防」は、前記で例示した疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者において、該疾患、症状又は障害の発生(発症又は発現)を実質的に防止することを意味する。また、本明細書において、「治療」は、前記で例示した疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者において、発生(発症又は発現)した疾患、症状又は障害を抑制(例えば進行の抑制)、軽快、修復及び/又は治癒することを意味する。
【0026】
ブルーベリーは、ツツジ科(Ericaceae)スノキ属(Vaccinium)サイアノココス節(Cyanococcus)に分類される、アメリカ原産の落葉性又は常緑性の、低木性又は半高木性の果樹である(Vander Kloet, 1988年;玉田、1996年)。ブルーベリーは、約6種類の種からなるが、果樹園芸上重要な種は、(1)ハイブッシュブルーベリー(Highbush blueberry, Vaccinium corymbosum. L)、(2)ラビットアイブルーベリー(Rabbiteye blueberry, V. virgatum Aiton)、及び(3)ローブッシュブルーベリー(Lowbush blueberry, V. angustifolium Michaux及びV. myrtilloides Aition)の3種である。これらのブルーベリー種は、20世紀の初頭から米国農務省又は州立大学によって野生種から改良された。品種改良の方向は、栽培が容易であること、果実が大きくて甘い良質の果実を生産できること等を目標として進められた。今日では、ブルーベリーは世界各国で栽培されている。また、近年、ブルーベリーの葉の茶葉としての使用のような、果実以外の部分の用途(例えば、食品用途)も開発されている。
【0027】
本発明の各態様において、有効成分として使用されるブルーベリーの種類、由来及び原産地等は特に限定されない。前記で例示した種を含む任意の種類、由来及び原産地のブルーベリーを有効成分として使用することができる。
【0028】
本発明の各態様において、有効成分として使用されるブルーベリーの処理物は、植物体の任意の部分の処理物であってよいが、通常は、果実以外の任意の部分の処理物であり、例えば、茎、葉、花又は根の処理物であり、特に、茎又は葉の処理物であり、とりわけ葉の処理物である。前記で例示したブルーベリー植物体の部分は、単独で使用してもよく、1種以上の組み合わせで使用してもよい。以下の実施例において示すように、ブルーベリーの処理物は、JAK阻害作用を有する。それ故、前記で例示した疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者に本態様のJAK阻害剤を投与することにより、ブルーベリーの処理物のJAK阻害作用を介して該疾患、症状又は障害の予防又は治療効果を得ることができる。また、本態様のJAK阻害剤により、抗体医薬のような従来技術と比較してより安価な予防又は治療手段を提供することができる。
【0029】
本発明の各態様において、有効成分として使用されるブルーベリーは、そのままの形態で使用してもよいが、通常は、処理物の形態で使用される。本発明の各態様において、「処理物」は、物理的又は化学的な手段によって加工又は分離処理を行った生成物又は画分を意味する。処理物を得るための手段としては、限定するものではないが、例えば、粉砕、搾汁、乾燥、溶媒抽出、濾過、遠心分離、吸着、再結晶、蒸留、及び各種クロマトグラフィー等を挙げることができる。前記各手段は、所望により同一又は異なる条件下で複数回組み合わせ及び/又は繰り返してもよい。
【0030】
粉砕は、当該技術分野で通常使用されるミル又はブレンダーのような粉砕機を用いて実施することができる。例えば、ブルーベリーの粉砕物は、ブルーベリーの部分、好ましくは茎又は葉を、そのまま又は乾燥処理後に粉砕することにより得ることができる。粉砕物は、所望により乾燥処理してもよい。
【0031】
乾燥は、ブルーベリーの処理物のJAK阻害作用を損なわない範囲であれば任意の手段及び条件で実施することができる。乾燥は、例えば、真空凍結乾燥、熱風乾燥、遠赤外線乾燥、減圧乾燥、マイクロ波減圧乾燥又は過熱蒸気乾燥等の手段によって実施することができる。処理物の成分変化が少ないことから、真空凍結乾燥によってブルーベリー又はその処理物(例えば粉砕物)を乾燥処理することが好ましい。
【0032】
溶媒抽出は、限定するものではないが、例えば、水、或いは、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール若しくは2-プロパノール(イソプロピルアルコール)のような1~6の炭素原子数を有するアルコール)、高級アルコール(例えば、1-ヘプタノール若しくは1-オクタノールのような7以上の炭素原子数を有するアルコール)、アセトン、アセトニトリル、ジエチルエーテル、又は酢酸エチルのような有機溶媒を用いて実施することができる。ブルーベリー又はその処理物(例えば粉砕物又は搾汁液)の溶媒抽出に使用する溶媒は、水又は低級アルコールが好ましく、水がより好ましい。また、溶媒抽出は、室温又は加熱条件下のいずれの条件下で実施してもよい。特に好ましくは、ブルーベリーの溶媒抽出物は、ブルーベリー又はその処理物(例えば粉砕物又は搾汁液)を熱水抽出することによって得ることができる。溶媒抽出物は、所望により乾燥処理してもよい。
【0033】
クロマトグラフィーは、当該技術分野で通常使用される吸着、順相若しくは逆相分配、又はゲル濾過等の各種クロマトグラフィー担体を用いて実施することができる。
【0034】
ブルーベリーの処理物は、前記で例示したブルーベリー植物体の部分(例えば茎又は葉)の粉砕物、搾汁液及び溶媒抽出物、並びにそれらの分離画分からなる群より選択される1種以上の生成物又は画分であることが好ましく、粉砕物の溶媒抽出物又は該溶媒抽出物の分離画分であることがより好ましく、粉砕物の熱水抽出物、又は該熱水抽出物のクロマトグラフィー分離画分であることがさらに好ましい。特に好ましくは、ブルーベリーの処理物は、前記で例示したブルーベリー植物体の部分(例えば茎又は葉)の粉砕物の熱水抽出物をSephadex LH-20カラムクロマトグラフィーに添加し、60%アセトン水溶液の溶出液で溶出される画分である。前記で例示した疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者に、前記で例示したブルーベリーの処理物を有効成分として含有する本態様のJAK阻害剤を投与することにより、ブルーベリーの処理物のJAK阻害作用を介して該疾患、症状又は障害の予防又は治療効果を得ることができる。また、本態様のJAK阻害剤により、抗体医薬のような従来技術と比較してより安価な予防又は治療手段を提供することができる。
【0035】
特に好ましい実施形態において、前記で例示したブルーベリー植物体の部分(例えば茎又は葉)の粉砕物の熱水抽出物をSephadex LH-20カラムクロマトグラフィーに添加し、60%アセトン水溶液の溶出液で溶出される画分は、通常は、プロアントシアニジン(以下、「PAC」とも記載する)を含む。前記画分に含まれるPACは、例えば、フラバン-3-オール骨格が重合した、下記の式で表される結合様式の異なる二種類の重合体(Aタイプ及びBタイプ)が主要な構成単位であり、さらにシンコナインIのようなフェニルプロパノイド単位を含む。
【0036】
【化1】
【0037】
式中、R1及びR3は、H又はOHであり、R2は、OHであり、R4は、H又は一価基(例えば、C1~C6アルキルのような低級炭化水素基)であり、延長単位の繰り返し数nは、2以上の整数である。
【0038】
本実施形態において、前記画分に含まれるPACは、重合体の末端単位としてシンコナインI単位を含み、重合体の中間部分である延長単位としてBタイプ結合を含み、平均重合度が10以上、例えば14以上であることが好ましい。前記特徴を有するPACを含むことにより、ブルーベリーの処理物は、特に高いJAK阻害作用を発現することができる。
【0039】
前記特徴を有することにより、ブルーベリーの処理物は、JAK阻害作用を発現することができる。また、ブルーベリーの処理物は、JAK阻害作用を介して、前記で例示した疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者における該疾患、症状又は障害を予防又は治療することができる。
【0040】
前記で説明したように、ブルーベリーの処理物は、JAK阻害作用を発現することができる。それ故、本発明の別の一態様は、ブルーベリーの処理物を有効成分として含有する、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を有する対象における該疾患、症状又は障害を予防又は治療するための医薬に関する。本態様の医薬は、JAK阻害作用を介して、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を有する対象における該疾患、症状又は障害を予防又は治療することができる。
【0041】
本態様のJAK阻害剤及び医薬において、有効成分として使用されるブルーベリーの処理物を単独で使用してもよく、1種以上の薬学的に許容し得る成分と組み合わせて使用してもよい。本態様のJAK阻害剤及び医薬は、所望の投与方法に応じて、当該技術分野で通常使用される様々な剤形に製剤されることができる。それ故、本態様のJAK阻害剤及び医薬はまた、ブルーベリーの処理物と、1種以上の薬学的に許容し得る担体とを含有する医薬組成物の形態で提供されることもできる。本実施形態の場合、医薬組成物は、前記成分に加えて、薬学的に許容し得る1種以上の媒体(例えば、滅菌水のような溶媒又は生理食塩水のような溶液)、賦形剤、結合剤、ビヒクル、溶解補助剤、防腐剤、安定剤、崩壊剤、崩壊抑制剤、膨化剤、潤滑剤、界面活性剤、乳化剤、油性液(例えば、植物油)、懸濁剤、緩衝剤、無痛化剤、酸化防止剤、甘味剤及び香味剤等の添加剤を含んでもよい。
【0042】
本態様のJAK阻害剤及び医薬の剤形は、特に限定されず、非経口投与に使用するための製剤であってもよく、経粘膜(例えば、経鼻、舌下又は経口腔粘膜等)、経皮、経肛門(注腸)、又は経膣等の投与に使用するための製剤であってもよく、或いは経口投与に使用するための製剤であってもよい。また、本態様のJAK阻害剤及び医薬の剤形は、単位用量形態の製剤であってもよく、複数投与形態の製剤であってもよい。非経口投与に使用するための製剤としては、例えば、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る液体との無菌性溶液又は懸濁液等の注射剤を挙げることができる。注射剤に混和することができる添加剤としては、限定するものではないが、例えば、生理食塩水、ブドウ糖若しくはその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール若しくは塩化ナトリウム)を含む等張液のようなビヒクル、アルコール(例えばエタノール若しくはベンジルアルコール)、エステル(例えば安息香酸ベンジル)、ポリアルコール(例えばプロピレングリコール若しくはポリエチレングリコール)のような溶解補助剤、ポリソルベート80又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のような非イオン性界面活性剤、ゴマ油又は大豆油のような油性液、リン酸塩緩衝液又は酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝剤、塩化ベンザルコニウム又は塩酸プロカインのような無痛化剤、ヒト血清アルブミン又はポリエチレングリコールのような安定剤、保存剤、並びに酸化防止剤等を挙げることができる。調製された注射剤は、通常、適当な容器(例えば、バイアル又はアンプル)に充填され、使用時まで適切な環境下で保存される。
【0043】
経口投与に使用するための製剤としては、限定するものではないが、例えば、錠剤、丸薬、散剤、カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセル剤、エリキシル剤、液剤、シロップ剤、スラリー剤及び懸濁液等を挙げることができる。錠剤は、所望により、糖衣又は溶解性被膜を施した糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、口腔内崩壊錠(OD錠)又はフィルムコーティング錠の剤形として製剤してもよく、或いは二重錠又は多層錠の剤形として製剤してもよい。
【0044】
錠剤又はカプセル剤等に混和することができる成分としては、限定するものではないが、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、グルコース液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム又はアラビアゴムのような結合剤;結晶性セルロース、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン又はケイ酸のような賦形剤;乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉又は乳糖のような崩壊剤;白糖、ステアリンカカオバター又は水素添加油のような崩壊抑制剤;第四級アンモニウム塩又はラウリル硫酸ナトリウムのような吸収促進剤;グリセリン又はデンプンのような保湿剤;澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト又はコロイド状ケイ酸のような吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩(例えばステアリン酸マグネシウム)、ホウ酸末又はポリエチレングリコールのような潤滑剤;ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤;及びペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤等を挙げることができる。製剤がカプセル剤の場合、さらに油脂のような液状担体を含有してもよい。
【0045】
本態様のJAK阻害剤及び医薬の剤形は、経口投与に使用するための製剤であることが好ましい。日本において薬事承認されているJAK阻害薬は、抗体医薬である。抗体医薬は、通常は投与経路が静注又は皮下注に限定されており、経口投与への適用が困難である。これに対し、本態様のJAK阻害剤及び医薬の有効成分であるブルーベリーの処理物は、前記で例示した経口投与に使用するための剤形に容易に製剤することができる。それ故、本態様のJAK阻害剤又は医薬を経口投与に使用するための製剤の形態で使用することにより、従来技術の抗体医薬では経口投与への適用が困難であった対象、例えばヒト患者に対しても該JAK阻害剤又は医薬を簡便に処方することができる。
【0046】
本態様のJAK阻害剤及び医薬は、医薬として有用な1種以上の他の薬剤と併用することもできる。この場合、本態様のJAK阻害剤及び医薬は、ブルーベリーの処理物と1種以上の他の薬剤とを含む単一の医薬の形態で提供されてもよく、ブルーベリーの処理物と1種以上の他の薬剤とが別々に製剤化された複数の製剤を含む医薬組み合わせ又はキットの形態で提供されてもよい。医薬組み合わせ又はキットの形態の場合、それぞれの製剤を同時又は別々に(例えば連続的に)投与することができる。
【0047】
本態様の医薬は、前記で説明した本発明の一態様のJAK阻害剤と同様に、ブルーベリーの処理物のJAK阻害作用を介して、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者における該疾患、症状又は障害を予防又は治療するために使用することができる。本態様の医薬において、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害は、本発明の一態様のJAK阻害剤に関して前記で例示したJAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害と同一であることが好ましい。前記で例示した疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者における該疾患、症状又は障害の予防又は治療に本態様の医薬を使用することにより、ブルーベリーの処理物のJAK阻害作用を介して、該疾患、症状又は障害を予防又は治療することができる。
【0048】
本態様のJAK阻害剤及び医薬の有効成分として使用されるブルーベリーの処理物は、ブルーベリー植物体に由来する。このため、ブルーベリーの処理物は、安全で低毒性である。それ故、本態様のJAK阻害及び医薬は、前記で例示した疾患、症状又は障害の予防又は治療を必要とする様々な対象に適用することができる。前記対象は、ヒト又は非ヒト哺乳動物(例えば、ブタ、イヌ、ウシ、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ヒツジ、ネコ、サル、マントヒヒ若しくはチンパンジー等の温血動物)の被験体又は患者であることが好ましく、ヒトの患者であることがより好ましい。前記対象に本態様のJAK阻害剤及び医薬を投与することにより、ブルーベリーの処理物のJAK阻害作用を介して、該対象における疾患、症状又は障害を予防又は治療することができる。
【0049】
本態様のJAK阻害剤及び医薬を、対象、特にヒト患者に投与する場合、正確な用法及び用量は、対象の年齢、性別、予防又は治療されるべき症状、疾患及び/又は障害の正確な状態(例えば重症度)、並びに投与経路等の多くの要因を鑑みて、担当医が治療上有効な用法及び用量を最終的に決定すべきである。それ故、本態様のJAK阻害剤及び医薬において、有効成分であるブルーベリーの処理物は、治療上有効な用法及び用量(例えば、投与量及び投与経路)で、対象に投与される。例えば、本態様のJAK阻害剤及び医薬を対象、特にヒト患者に投与する場合、有効成分として使用されるブルーベリーの処理物の投与量は、通常は、1~1000 mg/kg体重/日の範囲であり、例えば、10~100 mg/kg体重/日の範囲である。
【0050】
本態様のJAK阻害剤及び医薬は、任意の投与経路で投与されてよい。例えば、本態様のJAK阻害剤及び医薬は、静脈投与、注腸投与、皮下投与、筋肉内投与、経口投与又は腹腔内投与のような経路で投与されることが好ましく、経口投与されることがより好ましい。本態様のJAK阻害剤又は医薬を経口投与で使用することにより、従来技術の抗体医薬では経口投与への適用が困難であった対象、例えばヒト患者に対しても該JAK阻害剤又は医薬を簡便に処方することができる。
【0051】
ブルーベリーの処理物は、JAK阻害作用を介して、前記で例示したJAKが関与する疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者における該疾患、症状又は障害の予防又は治療に使用することができる。それ故、本発明の別の一態様は、ブルーベリーの処理物を有効成分として含有する、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害の予防又は治療剤に関する。本態様の予防又は治療剤は、前記で説明した本態様のJAK阻害剤及び医薬と同様の特徴を有する。また、本態様の予防又は治療剤は、前記で説明した本態様のJAK阻害剤及び医薬と同様の用法及び用量で使用することができる。本態様の予防又は治療剤において、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害は、本発明の一態様のJAK阻害剤に関して前記で例示したJAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害と同一であることが好ましい。前記で例示した疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者に、有効量のブルーベリーの処理物を投与することにより、JAK阻害作用を介して前記で例示した疾患、症状又は障害を予防又は治療することができる。
【0052】
本発明の別の一態様は、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者に、有効量のブルーベリーの処理物を投与して、JAK阻害作用を発現することを含む、前記疾患、症状又は障害の予防又は治療方法である。本態様の方法において投与されるブルーベリーの処理物は、前記で説明した本態様のJAK阻害剤及び医薬の有効成分と同様の特徴を有する。また、本態様の方法は、前記で説明した本態様のJAK阻害剤及び医薬と同様の用法及び用量で実施することができる。本態様の方法において、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害は、本発明の一態様のJAK阻害剤に関して前記で例示したJAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害と同一であることが好ましい。前記で例示した疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者に、有効量のブルーベリーの処理物を投与することにより、JAK阻害作用を介して前記で例示した疾患、症状又は障害を予防又は治療することができる。
【0053】
本発明の別の一態様は、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者において、JAK阻害作用を介してJAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害の予防又は治療に使用するための、ブルーベリーの処理物である。本発明のさらに別の一態様は、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者における、JAK阻害作用を介するJAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害の予防又は治療のための医薬の製造における、ブルーベリーの処理物の使用である。本発明のさらに別の一態様は、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者における、JAK阻害作用を介するJAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害の予防又は治療のための、ブルーベリーの処理物の使用である。本態様の化合物等は、前記で説明した本態様のJAK阻害剤及び医薬の有効成分と同様の特徴を有する。また、本態様の化合物等は、前記で説明した本態様のJAK阻害剤及び医薬と同様の用法及び用量で使用することができる。本態様の化合物等において、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害は、本発明の一態様のJAK阻害剤に関して前記で例示したJAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害と同一であることが好ましい。前記で例示した疾患、症状又は障害を有する対象、例えばヒト患者に、有効量のブルーベリーの処理物を投与することにより、JAK阻害作用を介して前記で例示した疾患、症状又は障害を予防又は治療することができる。
【0054】
ブルーベリーの処理物は、これまでに食品用途に使用されていることから、安全で低毒性であることが確立されている。それ故、本発明の別の一態様は、ブルーベリーの処理物を有効成分として含有する、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を有する対象における該疾患、症状又は障害を予防又は治療するための食品に関する。本態様の食品において、JAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害は、本発明の一態様のJAK阻害剤に関して前記で例示したJAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害と同一であることが好ましい。本態様の食品は、該食品を摂取する対象の健康に実質的な影響を与えることなく、JAK阻害作用を介して前記で例示したJAKが関与する1種以上の疾患、症状又は障害を有する対象における該疾患、症状又は障害を予防又は治療することができる。
【0055】
本態様の食品において、有効成分として使用されるブルーベリーの処理物を単独で使用してもよく、1種以上の食品的に許容し得る成分と組み合わせて使用してもよい。本態様の食品は、所望の摂取方法に応じて、当該技術分野で通常使用される様々な剤形に製剤されることができる。それ故、本態様の食品はまた、ブルーベリーの処理物と、1種以上の食品的に許容し得る成分とを含有する食品組成物の形態で提供されることもできる。本実施形態の場合、1種以上の食品的に許容し得る成分としては、防腐剤、安定剤、分散剤、膨化剤、界面活性剤、油性液、緩衝剤、酸化防止剤、甘味剤、香味剤、色素及び顔料等を挙げることができる。
【0056】
本態様の食品は、そのままの状態で食品として使用してもよく、他の食品若しくは食品成分と混合して、すなわち食品原料として使用してもよい。
【0057】
本態様の食品は、例えば、栄養補助食品、機能性食品又は特定保健用食品として使用することができる。本態様の食品の形態としては、例えば、通常の食品若しくは飲料品の他、サプリメントのような栄養補助食品の形態であってもよい。栄養補助食品の形態としては、例えば、錠剤、丸薬、散剤、カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセル剤、エリキシル剤、液剤、シロップ剤、スラリー剤及び懸濁液等を挙げることができる。錠剤は、所望により、糖衣又は溶解性被膜を施した糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、口腔内崩壊錠(OD錠)又はフィルムコーティング錠の剤形として製剤してもよく、或いは二重錠又は多層錠の剤形として製剤してもよい。本態様の食品は、前記で説明した本発明の一態様の医薬と同様の成分を用いて製剤することができる。
【0058】
本態様の食品を、対象、特にヒトが摂取する場合、有効成分であるブルーベリーの処理物は、食品的に有効且つ安全な用法及び用量(例えば、摂取量及び摂取経路)で、対象に摂取される。例えば、本態様の食品を、対象、特にヒトが摂取する場合、有効成分として使用されるブルーベリーの処理物の摂取量は、通常は、1~1000 mg/kg体重/日の範囲であり、例えば、10~100 mg/kg体重/日の範囲である。
【実施例0059】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0060】
<試験I:ブルーベリーの処理物の調製>
[I-1:ブルーベリーの葉の抽出物の分画]
凍結乾燥したブルーベリー(ラビットアイブルーベリー種)の葉に対して、重量に基づき適当量の水を加え、30分間沸騰水で熱水抽出した。熱水抽出物を濾過し、濾液を凍結乾燥した。凍結乾燥した熱水抽出物57.74 gを、3000 cm3三角フラスコにはかり取り、蒸留水3000 cm3を加えて50℃で30分間ソニケーションして溶解させた。その後、室温に戻し、アスピレーターを用いて抽出液を吸引濾過した。濾液を、Sephadex LH-20 550 cm3を詰めたバイオカラム(内径45 mm、長さ500 mm)に通液し、得られた画分をFr. 0(素通り)とした。次いで、蒸留水1500 cm3、20%メタノール水溶液1000 cm3、40%メタノール水溶液1000 cm3、60%メタノール水溶液1000 cm3、80%メタノール水溶液1000 cm3、100%メタノール1000 cm3、及び60%アセトン水溶液1000 cm3の順に溶出液をバイオカラムに通液し、画分(Fr.)1~7を得た。得られた各画分は、溶出液が水だけの場合はそのままで、溶出液が有機溶媒を含む画分はエバポレーターにより有機溶媒を留去した後で、それぞれ凍結乾燥した。凍結乾燥後、各画分の収量を求めた。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
<試験II:ブルーベリーの処理物によるJAK/STAT情報伝達系の阻害効果>
[II-1:材料]
(細胞株)
実験に用いた細胞株は以下の通りである。HTLV-1非感染T細胞リンパ性急性白血病(T-ALL)細胞株(Jurkat、MOLT4、MKB1、HUT78)、HTLV-1感染細胞株(MT2、HUT102)、成人T細胞白血病(ATL)細胞株(KOB、SU9T-01、KK1、SO4、ED)、HTLV-1関連脊髄症(HAM)細胞株(HCT-5)、ATL患者検体、健常人末梢血リンパ球(PBMC、Peripheral Blood Mononuclear cells)を用いた。各細胞株は、IL2(50 U/ml)添加又は無添加のウシ胎仔血清(FBS)を10~20%添加したRPM 1640又はAIM-V培養液で、37℃、5%二酸化炭素下で培養した。
【0063】
(供試抗体)
抗体として、マウス抗Jak1(D1T6W)モノクローナル抗体(#50996)、ウサギ抗リン酸化Jak1(p-Jak1)(Tyr1022/1023)ポリクローナル抗体(#3331)、マウス抗Jak2(E4Y4D)モノクローナル抗体(#74987)、ウサギ抗リン酸化Jak2(p-Jak2)(Tyr1007/1008)(C80C3)モノクローナル抗体(#3776)、ウサギ抗Jak3(D1H3)モノクローナル抗体(#8827)、ウサギ抗リン酸化Jak3(p-Jak3)(Tyr980/981)(D44E3)モノクローナル抗体(#5031)、マウス抗STAT1(9H2)モノクローナル抗体(#9176)、ウサギ抗リン酸化STAT1(p-STAT1)(Tyr701)(58D6)モノクローナル抗体(#9167)、ウサギ抗STAT3(D1A5)モノクローナル抗体(#8768)、ウサギ抗リン酸化STAT3(p-STAT3)(Tyr705)(D3A7)モノクローナル抗体(#9145)、ウサギ抗STAT5(D206Y)モノクローナル抗体(#94205)、ウサギ抗リン酸化STAT5(p-STAT5)(Tyr694)(D47E7)モノクローナル抗体(#4322)、ウサギ抗AKTポリクローナル抗体(#9272)、ウサギ抗リン酸化AKT(p-AKT)(Ser473)ポリクローナル抗体(#9271)、ウサギ抗ERK(137F5)モノクローナル抗体(#4695)、ウサギ抗リン酸化ERK(p-ERK)(Thr202/Tyr204)(D13.14.4E)モノクローナル抗体(#4370)、マウス抗IκBα(L35A5)モノクローナル抗体(#4814)、マウス抗リン酸化IκBα(p-IκBα)(Ser32/36)(5A5)ポリクローナル抗体(#9246)、ウサギ抗カスパーゼ-3(Caspase-3)(8G10)モノクローナル抗体(#9665)、ウサギ抗分解型カスパーゼ-3(CleavedCaspase-3)(Asp175)ポリクローナル抗体(#9661)(CellSignalingTECHNOLOGY)、マウス抗β-アクチン(β-Actin)(AC-74)モノクローナル抗体(A5316)(SIGMAALDRICH)を使用した。二次抗体として、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG抗体(P0260)、HRP標識抗ウサギIgG抗体(P0399)(DakoCytomation)を使用した。
【0064】
[II-2:ブルーベリーの処理物の添加による情報伝達タンパク質の発現抑制試験(1)]
II-1に示す各細胞株に、試験Iで調製したブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を所定量添加した。BBFr7の添加24時間後に細胞を回収し、リン酸緩衝生理食塩水(10 mMリン酸緩衝液、120 mM NaCl、2.7 mM KCl、pH7.5)(PBS)緩衝液で洗浄し、1% NP-40緩衝液(1% ノニデットP-40、50 mM Tris-HCl(pH8.0)、150 mM NaCl、5 mM EDTA(pH8.0))を加えて細胞を溶解させた。細胞溶解液を遠心分離後、10~20 gの細胞溶解液にSDSサンプル緩衝液(100 mM Tris-HCl(pH6.8)、4% SDS、50% グリセロール、0.01% ブロモフェノールブルー、2-メルカプトエタノール)を加えて、95℃で5分間煮沸した。得られた試料を、8% SDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)に供した。ミニプロテアン3セル(Bio-Rad)により、定電圧100 V/1時間電気泳動した。電気泳動後のゲルは、ミニトランスブロットセル(Bio-Rad)により、定電圧100 V/2時間でPVDF膜(Millipore)に転写した。転写膜は、1% ウシ血清アルブミン(BSA)又は5% スキンミルク添加リン酸緩衝生理食塩水/Tween20(PBST)により、定温で1時間ブロッキング反応を行った。Can Get signal(登録商標)Solution 1(TOYOBO)又は5% スキンミルクで1000倍希釈した一次抗体を用いて4℃で一晩反応させた。PBSTでPVDF膜を3回洗浄した後、Can Get signal(登録商標)Solution 2(TOYOBO)又は5% スキンミルクで2000倍希釈した二次抗体を用いて室温で1時間反応させた。PBSTでPVDF膜を3回洗浄した後、Lumi light PLUS Western Blotting Kit(RocheAppliedScience)にて化学発光させ、ルミノイメージアナライザーLAS-3000(Fujifilm)で画像解析を行った。各細胞株にブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を添加したときの情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した結果を図1-1~2に示す。図1-1及び1-2は、HTLV-1感染細胞株(MT2)及びATL細胞株(SO4)の結果である。図2は、T-ALL細胞株(Jurkat、MOLT4)及びATL細胞株(SU9T-01)の結果である。
【0065】
図1-1及び1-2に示すように、HTLV-1感染細胞株(MT2)及びATL細胞株(SO4)では、BBFr7の添加濃度依存的にJak1、Jak2及びJak3タンパク質が分解された。それに伴い、リン酸化STAT1、STAT3及びSTAT5タンパク質も減少した。しかしながら、STAT1、STAT3及びSTAT5タンパク質の分解は確認されなかった。その他の情報伝達系であるAKT経路、ERK経路及びNF-κB経路に関与するタンパク質の発現に変化は確認されなかった。また、アポトーシスの指標である分解型カスパーゼ-3タンパク質は、BBFr7の添加濃度依存的に増加した。
【0066】
図2に示すように、T-ALL細胞株(Jurkat、MOLT4)では、BBFr7の添加によるJAKタンパク質の分解は確認されなかった。これに対し、ATL細胞株(SO4)では、BBFr7の添加濃度依存的にJak1、Jak2及びJak3タンパク質が分解された。
【0067】
[II-3:ブルーベリーの処理物の添加による細胞増殖抑制試験]
96ウェルプレートで、II-1に示すATL患者検体細胞(ATL#1、ATL#2)、PBMC及びHAM細胞株(HCT-5)を2×103細胞数で培養した。試験Iで調製したブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を所定量添加した。72時間後にCell Counting Kit-8(DOJINDO)を添加し、各ウェルの450 nm/620 nm の吸光度を測定して、生細胞数及びIC50値を算出した。IC50値は、試験化合物が阻害効果を示すとき、50%の阻害効果を示す該試験化合物の濃度である。また、試験II-2と同様の手順で、ATL患者検体(ATL#1)及びHAM細胞株(HCT-5)にブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を添加したときの情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した。結果を図3-1及び3-2に示す。
【0068】
BBFr7のIC50値は、PBMCに対して>50 μg/mlであったのに対して、ATL#1、ATL#2及びHCT-5に対して、それぞれ19.72、31.7及び18.59 μg/mlであった。IC50値から、ブルーベリーの葉抽出物は、PBMCに対して細胞増殖抑制効果を示さないのに対して、ATL#1、ATL#2及びHCT-5に対しては細胞増殖抑制効果を示すことが確認された。図3-1及び3-2に示すように、ATL#1及びHCT-5では、BBFr7の添加濃度依存的にJak1、Jak2及びJak3タンパク質が分解された。それに伴い、リン酸化STAT1、STAT3及びSTAT5タンパク質も減少した。
【0069】
[II-4:ブルーベリーの処理物の添加による情報伝達遺伝子の発現抑制試験]
II-1に示す各細胞株に、試験Iで調製したブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を所定量添加した。BBFr7の添加24時間後に細胞を回収した。細胞1×107個から、トリアゾール溶解液(インビトロジェン)を用いて全RNAを抽出した。全RNA 1 μgを用いて、RNA PCR Kit ver3.1 AMV-RT(MgCl2、10xRT buffer、dNTP mixture、 RNase inhibitor、 AMV Reverse Transcriptase、 Oligo dT-Adaptor primer)(TaKaRa)により、1回反応サイクル(42℃、30 分、95℃、5 分)で逆転写反応を行い、cDNAを作製した。特異的プライマー、Brilliant III Ultra-Fast SYBR Green QPCR Master Mix (Agilent Technologies)、鋳型cDNAを混合し、StepOne real time PCR system (Applied Biosystems)を用いて、定量PCRを行った。各細胞株にブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を添加したときの情報伝達遺伝子の発現を定量PCR法によって確認した結果を図4-1~5-2に示す。図4-1及び図5-1は、HTLV-1感染細胞株(MT2)の結果である。図4-2及び5-2は、ATL細胞株(SO4)の結果である。図中、縦軸は、相対的mRNAレベルである。また、図中、*は、Student's t検定(n=3)により算出した、BBFr7非添加の対照群に対するp値が0.05未満であることを示す。
【0070】
図4-1及び4-2に示すように、HTLV-1感染細胞株(MT2)及びATL細胞株(SO4)のいずれの細胞株においても、BBFr7の添加に応答するJak1、Jak2及びJak3、並びにStat3、Stat5A及びStat5BのmRNA発現の有意な変化は確認されなかった。同様に、JAKタンパク質の分解に関与するSocs1、Socs3及びRNF125のmRNA発現の有意な変化は確認されなかった。これに対し、図5-1及び5-2に示すように、HTLV-1感染細胞株(MT2)及びATL細胞株(SO4)のいずれの細胞株においても、BBFr7の添加に応答して、JAK情報伝達系の下流に位置する炎症性サイトカインを含む遺伝子群のmRNAの有意な発現低下が確認された。
【0071】
[II-5:ブルーベリーの処理物の添加による情報伝達タンパク質の発現抑制試験(2)]
JAKタンパク質の分解がプロテアソーム分解機構に依存した分解であることを証明するため、プロテアソーム阻害剤であるMG132の添加による影響を調査した。II-1に示すHTLV-1感染細胞株(MT2)及びATL細胞株(SO4、SU9T-01)に、試験Iで調製したブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)(10 μg/ml)及びMG132(5 μM)を所定量添加した。BBFr7の添加24時間後に細胞を回収し、PBS緩衝液で洗浄し、1% NP-40緩衝液を加えて細胞を溶解させた。細胞溶解液を遠心分離後、100~200 mgの細胞溶解液に1~2 mgの抗体を加え4℃で一晩反応させた。細胞溶解液に、50 mlの 50% Protein G Sepharose TM4 fast flow(GE Healthcare)のスラリーを加えて、4℃で2時間反応させた。Protein G Sepharose TM4 fast flowをPBSで3回洗浄し、SDSサンプル緩衝液を加えて、95℃で5分間煮沸した。得られた試料を、試験II-2と同様の手順でSDS-PAGEに供し、ウエスタンブロット解析を行った。各細胞株にブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)及びMG132を添加したときの情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した結果を図6に示す。
【0072】
図6に示すように、MG132の添加により、BBFr7の添加によって引き起こされるタンパク質の分解が阻害され、且つBBFr7の添加により、JAKタンパク質がユビキチン化されていることが明らかとなった。この結果から、BBFr7の添加はユビキチンプロテアソーム系の活性化を引き起こし、JAKタンパク質の分解につながることが明らかとなった。
【0073】
<試験III:ブルーベリーの処理物に含まれる有効成分の解析>
[III-1:ブルーベリーの処理物に含まれる有効成分の構造解析]
ブルーベリーの葉抽出物には、プロアントシアニジン(PAC)が含まれていることが知られている(特許第4892690号公報)。植物が生産するPACは、通常、フラバン-3-オール骨格が重合した、下記の式で表される結合様式の異なる二種類の重合体(Aタイプ及びBタイプ)が主要な構成単位であり、さらにシンコナインIのようなフェニルプロパノイド単位を含む場合もあることが知られている。
【0074】
【化2】
【0075】
式中、R1及びR3は、H又はOHであり、R2は、OHであり、R4は、H又は一価基であり、延長単位の繰り返し数nは、2以上の整数である。
【0076】
試験Iで調製したブルーベリーの葉抽出物のFr. 4、5、6及び7に含まれるPACの構成単位、結合様式及び重合度を調査するために、これらの画分のチオール開裂分析を行った(特許第4892690号公報、及びGuyot S.ら, Agric. Food Chem., 2001年, 第49巻, p.14-20)。Fr. 4、5、6及び7を、それぞれ酸性条件下で2-メルカプトエタノールと反応させた。この反応により、重合体の末端単位は遊離のフラバン-3-オールとなり、重合体の中間部分であるAタイプ又はBタイプのような延長単位は2-ヒドロキシエチルチオエーテル付加物となる。各画分の反応生成物をHPLCで分析して、平均重合度及び各単位の組成を決定した。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
表2に示すように、ブルーベリーの葉抽出物の各画分に含まれるPACは、いずれも延長単位としてBタイプ結合がほとんどを占めることが明らかとなった。
【0079】
[III-2:種々のPACの添加による細胞増殖抑制試験]
市販のAタイプ結合のPAC(重合度:2~3、AdipoGen社)及びBタイプ結合のPAC(重合度:2~3、ChemFaces社)を用いて、試験II-3と同様の手順で細胞増殖抑制効果及び情報伝達タンパク質の発現パターンを比較した。比較例として、市販のリンゴポリフェノール(アップルフェノン)、OLG-F(ライチポリフェノールを低分子化したオリゴノール(登録商標)(アミノアップ社))、及びEGCG(エピガロカテキン)を用いた。各細胞株に対するIC50値(μg/ml)を表3に示す。また、ATL患者検体(ATL#1)及びHAM細胞株(HCT-5)にBタイプ結合のPAC(B-type)を添加したときの情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した結果を図7-1に、HTLV-1感染細胞株(MT2)及びATL細胞株(SO4)にBタイプ結合のPAC(B-type)を添加したときの情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した結果を図7-2に、それぞれ示す。
【0080】
【表3】
【0081】
表3に示すように、Bタイプ結合のPACは、いくつかの細胞株に対して細胞増殖抑制効果を示した。また、図7-1及び7-2に示すように、ATL#1及びHCT-5では、Bタイプ結合のPACの添加濃度依存的にJak1、Jak2及びJak3タンパク質が分解された。それに伴い、リン酸化STAT1、STAT3及びSTAT5タンパク質も減少した。
【0082】
<試験IV:ブルーベリーの処理物による治療効果>
[IV-1:免疫不全マウスへの皮下移植試験]
HTLV-1感染細胞株(MT2)を回収し、5×106細胞数をPBS及びMatrigel (BD)で懸濁した。細胞懸濁液を、26Gのシリンジを用いて免疫不全NSGマウスの背部皮下に移植した。腫瘍体積が100~150 mm3に達してから、1週間に2回、ゾンデによって、試験Iで調製したブルーベリーの葉抽出物のFr. 7(BBFr7)を50又は100 mg/kg体重/日/100 mlで投与した。対照として、同一体積の0.9% 食塩水を投与した。投与開始から35日間、経過観察した。3日おきに腫瘍の直径及び短径を電動ノギスで測定した。計算式(直径×(短径)2/2)に基づき、腫瘍体積を計算した。投与開始からの期間と腫瘍体積との関係を図8に示す。図中、横軸は、投与開始からの期間(日)であり、縦軸は、腫瘍体積(mm3)である。また、投与開始から35日後の腫瘍の観察結果を図9に示す。Aは、腫瘍の写真であり、Bは、腫瘍重量の比較である。Bにおいて、縦軸は、腫瘍重量(g)である。図中、*は、Student's t検定(n=5)により算出した、対照群に対するp値が0.05未満であることを示す。
【0083】
図8及び9に示すように、BBFr7の投与量依存的に腫瘍形成が抑制された。
【0084】
試験II-2と同様の手順で、投与開始から35日後の腫瘍における情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した。また、確認されたバンドの強度を画像ソフトを用いて定量化した。腫瘍における情報伝達タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって確認した写真を図10に、JAKタンパク質及びSTATタンパク質のバンドの強度を比較したグラフを図11に、それぞれ示す。図11中、縦軸は、バンドの相対的強度(%)である。図中、*は、Student's t検定(n=4)により算出した、対照群に対するp値が0.05未満であることを示す。
【0085】
図10及び11に示すように、BBFr7の投与量依存的にJAKタンパク質が分解された。STATタンパク質についても、BBFr7の投与量依存的にリン酸化STAT3、STAT3及びリン酸化STAT5タンパク質が分解された。
【0086】
なお、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び/又は置換をすることが可能である。
図1-1】
図1-2】
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10
図11