(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168671
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】圧力容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16J 12/00 20060101AFI20221031BHJP
F17C 1/06 20060101ALI20221031BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20221031BHJP
B29C 70/32 20060101ALI20221031BHJP
B29C 70/54 20060101ALI20221031BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20221031BHJP
B29L 22/00 20060101ALN20221031BHJP
【FI】
F16J12/00 A
F17C1/06
B29C70/16
B29C70/32
B29C70/54
B29K105:08
B29L22:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074295
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】593166462
【氏名又は名称】サムテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143085
【弁理士】
【氏名又は名称】藤飯 章弘
(72)【発明者】
【氏名】阪口 善樹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 全彦
(72)【発明者】
【氏名】三島 慎一
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
4F205
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB04
3E172AB12
3E172AB20
3E172BA01
3E172BB05
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC05
3E172BC08
3E172BD03
3E172BD10
3E172DA36
3J046AA01
3J046AA14
3J046BA03
3J046CA04
3J046DA05
3J046EA02
4F205AA36
4F205AD03
4F205AD12
4F205AD16
4F205AG07
4F205AH55
4F205AJ08
4F205HA02
4F205HA23
4F205HA33
4F205HA37
4F205HA46
4F205HB01
4F205HB11
4F205HC02
4F205HK04
4F205HK05
4F205HK23
(57)【要約】
【課題】圧力容器の強度を効果的に向上させることができる圧力容器の製造方法を提供する。
【解決手段】圧力容器の製造方法であって、円筒形状を有する胴部と、ドーム形状を有し前記胴部の両端に設けられるドーム部とを有する容器本体をシームレスで形成する容器本体形成ステップと、前記シームレスの容器本体の外周面に繊維束をフープ巻きにて巻回して補強層を形成する補強層形成ステップとを備える圧力容器の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力容器の製造方法であって、
円筒形状を有する胴部と、ドーム形状を有し前記胴部の両端に設けられるドーム部とを有する容器本体をシームレスで形成する容器本体形成ステップと、
前記シームレスの容器本体の外周面に繊維束をフープ巻きにて巻回して補強層を形成する補強層形成ステップとを備える圧力容器の製造方法。
【請求項2】
前記補強層形成ステップは、同一軸線上に沿って所定間隔をあけて配置される一対の回転軸を有する回転装置の一方の前記回転軸に前記容器本体の一方の端部を接続し、他方の前記回転軸に前記容器本体の他方の端部を接続して、前記一対の回転軸間に前記シームレスの容器本体を設置する容器本体設置工程と、
前記容器本体の他方の端部領域に位置するとともに、該他方の端部領域の周方向に沿って延在する環状のストッパ部を有する巻きずれ防止手段を配置する巻きずれ防止手段配置工程と、
前記一対の回転軸を回転させ、前記容器本体の軸線周りに該容器本体を回転させると共に、前記容器本体の外周面に前記繊維束をフープ巻きにて巻回するフープ巻き層形成工程とを備える請求項1に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項3】
前記巻きずれ防止手段は、前記他方の回転軸に固定される請求項2に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項4】
前記巻きずれ防止手段は、円盤状の基台部と、前記基台部の周縁部に接続される円筒状の立設部とを備えており、
前記立設部の一方の端部周縁部は、前記基台部の周縁部に接続されており、前記立設部の他方の端部周縁部は、前記容器本体の他方の端部領域に位置する前記ストッパ部を構成する請求項2または3に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項5】
前記円盤状の基台部の中心部には、前記他方の回転軸が挿通可能な貫通孔が形成されている請求項4に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項6】
前記貫通孔の内周面には、雌ネジ部が形成されている請求項5に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項7】
前記ストッパ部は、前記ドーム部に当接する請求項2から6のいずれかに記載の圧力容器の製造方法。
【請求項8】
前記補強層形成ステップは、フープ巻き層形成工程完了後に実施されるフープ端切削工程をさらに備えており、前記フープ端切削工程は、フープ形成領域において前記巻きずれ防止手段の作用によって当該巻きずれ防止手段に隣接して形成されるフープ端の盛り上がり部分を切削する工程である請求項2から7のいずれかに記載の圧力容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から各種装置または各種設備において使用される様々な圧力容器、例えば、水素ステーションに設置される蓄圧タンク(水素貯留用のタンク)やロケットに搭載される酸化剤タンク(液体酸素、過酸化水素、四酸化窒素等の酸化剤のタンク)、天然ガス自動車用容器、空気を充填して携帯する空気ボンベ等が知られている。
【0003】
このような圧力容器は、内部に充填される水素や天然ガス等の充填量を増加させるべく高強度化が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記要望を鑑みてなされたものであり、圧力容器の強度を効果的に向上させることができる圧力容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の前記目的は、圧力容器の製造方法であって、円筒形状を有する胴部と、ドーム形状を有し前記胴部の両端に設けられるドーム部とを有する容器本体をシームレスで形成する容器本体形成ステップと、前記シームレスの容器本体の外周面に繊維束をフープ巻きにて巻回して補強層を形成する補強層形成ステップとを備える圧力容器の製造方法により達成される。
【0006】
また、上記圧力容器の製造方法において、前記補強層形成ステップは、同一軸線上に沿って所定間隔をあけて配置される一対の回転軸を有する回転装置の一方の前記回転軸に前記容器本体の一方の端部を接続し、他方の前記回転軸に前記容器本体の他方の端部を接続して、前記一対の回転軸間に前記シームレスの容器本体を設置する容器本体設置工程と、前記容器本体の他方の端部領域に位置するとともに、該他方の端部領域の周方向に沿って延在する環状のストッパ部を有する巻きずれ防止手段を配置する巻きずれ防止手段配置工程と、前記一対の回転軸を回転させ、前記容器本体の軸線周りに該容器本体を回転させると共に、前記容器本体の外周面に前記繊維束をフープ巻きにて巻回するフープ巻き層形成工程とを備えることが好ましい。
【0007】
また、巻きずれ防止手段は、前記他方の回転軸に固定されることが好ましい。
【0008】
また、前記巻きずれ防止手段は、円盤状の基台部と、前記基台部の周縁部に接続される円筒状の立設部とを備えており、前記立設部の一方の端部周縁部は、前記基台部の周縁部に接続されており、前記立設部の他方の端部周縁部は、前記容器本体の他方の端部領域に位置する前記ストッパ部を構成することが好ましい。
【0009】
また、前記円盤状の基台部の中心部には、前記他方の回転軸が挿通可能な貫通孔が形成されていることが好ましい。また、この貫通孔の内周面には、雌ネジ部が形成されていることが好ましい。また、前記ストッパ部は、前記ドーム部に当接することが好ましい。
【0010】
また、前記補強層形成ステップは、フープ巻き層形成工程完了後に実施されるフープ端切削工程をさらに備えており、前記フープ端切削工程は、フープ形成領域において前記巻きずれ防止手段の作用によって当該巻きずれ防止手段に隣接して形成されるフープ端の盛り上がり部分を切削する工程であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧力容器の強度を効果的に向上させることができる圧力容器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る圧力容器の製造方法を説明するためのブロック図である。
【
図2】本発明に係る圧力容器の製造方法を説明するための概略構成断面図である。
【
図3】本発明に係る圧力容器の製造方法が備える巻きずれ防止手段配置工程を説明するための概略構成断面図である。
【
図4】(a)巻きずれ防止手段配置工程において使用される巻きずれ防止手段の構成を説明するための正面図であり、(b)は、その側面図である。
【
図5】(a)(b)ともに、巻きずれ防止手段配置工程を説明するための説明図である。
【
図6】(a)(b)ともに、巻きずれ防止手段配置工程を説明するための説明図である。
【
図7】巻きずれ防止手段配置工程において使用される巻きずれ防止手段の変形例を示す概略構成断面図である。
【
図8】巻きずれ防止手段配置工程において使用される巻きずれ防止手段の変形例を示す概略構成断面図である。
【
図9】(a)は
図8に示す半割れ構造を有する巻きずれ防止手段の概略構成正面図であり、(b)はその側面図、
図9(c)は背面図、(d)は(a)における矢視A方向から見た平面図、(e)は(a)におけるB-B断面に関する断面図である。
【
図10】(a)~(c)は、本発明に係る圧力容器の製造方法が備えるフープ端切削工程を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る圧力容器の製造方法について添付図面を参照して説明する。なお、各図は、構成の理解を容易ならしめるために部分的に拡大・縮小している。
【0014】
本発明に係る圧力容器の製造方法は、
図1のブロック図に示すように、容器本体形成ステップS1と、補強層形成ステップS2とを備えて構成される。容器本体形成ステップS1は、
図2の概略構成側面図に示すように、円筒形状を有する胴部2と、ドーム形状を有し胴部2の両端に設けられるドーム部3a,3bとを有する容器本体1をシームレスで形成する工程である。具体的には、例えば、従来から知られているように、円筒状の鋼鉄やアルミニウム合金等の素管をスピニング加工により容器形状に賦形して形成することができる。スピニング加工においては、素管を回転させた状態でスピニング加工装置が有するスピニングヘッドのローラを素管の径方向外側から押し付けることにより素管を縮径変形させ、胴部2およびドーム部3を形成する。なお、通常、ドーム部3a,3bは胴部2の肉厚に比べて厚く形成される。また、各ドーム部3a,3bの頂部に相当する位置には、貫通孔を有する筒状のポート部4a,4bが形成される。これらポート部4a,4bは、胴部2の軸線上であって、当該軸線方向に沿って外方に突出するように、スピニング加工により形成されている。また、各ポート部4a,4bの貫通孔内周面には、雌ネジ部が形成されている。
【0015】
本発明に係る圧力容器の製造方法が備える補強層形成ステップS2は、容器本体形成ステップS1により形成したシームレスの容器本体1の外周面に繊維束をフープ巻きにて巻回して補強層5を形成する工程である。ここで、フープ巻きとは、容器本体1の軸線に対してほぼ90°の角度で繊維束を巻き付ける巻き方をいう。容器本体1の外周面に巻回される繊維束としては、例えば、強化繊維を配列させた強化繊維束とマトリクス樹脂を含有する含侵樹脂強化繊維束を挙げることができる。
【0016】
強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、有機高弾性率繊維(アラミド繊維、超高強力ポリエステル繊維等)、金属繊維、セラミック繊維等が挙げられる。炭素繊維としては、ピッチ系、ポリアクリロニトリル(PAN系)、レーヨン系等が挙げられる。なかでも、特に高い弾性率が得られやすい点ではピッチ系炭素繊維が好ましく、高い強度が得られやすい点ではPAN系炭素繊維が好ましい。強化繊維としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
マトリクス樹脂としては、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂を用いてもよく、熱可塑性樹脂を用いてもよい。熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ビニルエステル樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド等のエンジニアリングプラスチック、ポリプロピレン、ポリ4-メチル-1-ペンテン等のポリオレフィン樹脂等が挙げられる。マトリクス樹脂としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
この補強層形成ステップS2は、容器本体設置工程S3と、巻きずれ防止手段配置工程S4と、フープ巻き層形成工程S5とを備えて構成されることが好ましい。容器本体設置工程S3は、
図2に示すように、同一軸線上に沿って所定間隔をあけて配置される一対の回転軸50,51を有する回転装置の一方の回転軸50に容器本体1の一方の端部1aを接続し、他方の回転軸51に容器本体1の他方の端部1bを接続して、一対の回転軸50,51間にシームレスの容器本体1を設置する工程である。一方の回転軸50の外表面には雄ネジ部が形成されており、容器本体1の一方の端部1aに形成されるポート部4aにおける雌ネジ部と螺合させることにより、容器本体1の一方の端部側は一方の回転軸50に接続固定される。同様に、他方の回転軸51の外表面にも雄ネジ部が形成されており、容器本体1の他方の端部1bに形成されるポート部4bにおける雌ネジ部と螺合させることにより、容器本体1の他方の端部側は他方の回転軸51に接続固定される。
【0019】
巻きずれ防止手段配置工程S4は、
図3の概略構成断面図に示すように、容器本体1の他方の端部1b領域に位置するとともに、該他方の端部1b領域の周方向に沿って延在する環状のストッパ部71を有する巻きずれ防止手段7を配置する工程である。
【0020】
巻きずれ防止手段7は、
図3や
図4(a)(b)に示されるように、他方の回転軸51が挿通可能な貫通孔72が中心部に形成される円盤状の基台部73と、当該基台部73の周縁部に接続される円筒状の立設部74とを備えている。この巻きずれ防止手段7は、鋼鉄やアルミニウム合金等の金属材料によって形成されることが好ましい。立設部74の一方の端部周縁部は、円盤状の基台部73の周縁部に接続されており、立設部74の他方の端部周縁部は、容器本体1の他方の端部領域に位置するストッパ部71を構成する。なお、基台部73および立設部74で囲まれる空間は、容器本体1の他方の端部1bを収容する収容部として機能する。
【0021】
この
図4に示す巻きずれ防止手段を配置する工程は、容器本体1の他方の端部1b側を他方の回転軸51に接続固定する工程中において行われる。具体的には、
図5(a)(b)に示すように、容器本体1の他方の端部1b側を他方の回転軸51に接続する前段階において、予め、貫通孔に雌ネジ部が形成された固定部材8(例えば、ナット)を他方の回転軸51に螺合させるとともに、他方の回転軸51に巻きずれ防止手段7の貫通孔72を挿通させる。その後、
図6(a)(b)に示すように、他方の回転軸51を容器本体1の他方の端部1bのポート部4bに螺入させて、他方の回転軸51と容器本体1とを接続固定する。他方の回転軸51と容器本体1との接続が完了した後、容器本体1の他方の端部1b領域(本実施形態においてはドーム部3b)にストッパ部71を当接させるように巻きずれ防止手段7を移動させ、固定部材8(ナット)を巻きずれ防止手段7側に移動させる。なお、容器本体1の他方の端部1b領域(本実施形態においてはドーム部3b)にストッパ部71を当接させる場合、円筒状の立設部74の内周面の開口縁が他方の端部1b領域の表面に接触し、立設部74の内周面と外周面との間の端面部分が、容器本体1の一方の端部1a側に対向することになる。また、他方の回転軸51の外表面には、雄ネジ部が形成されているため、雄ネジ部と螺合する固定部材8(ナット)の作用によって、巻きずれ防止手段7は、容器本体1の他方の端部1b領域に押し付けられた状態で他方の回転軸51上に設置固定されることになる。
【0022】
フープ巻き層形成工程S5は、上記のように、巻きずれ防止手段7が他方の端部1b側に配置され、さらに、一対の回転軸50,51間に設置された容器本体1に対して、補強層5を実際に形成する工程であり、一対の回転軸50,51を回転させることにより、容器本体1の軸線周りに容器本体1を回転させると共に、容器本体1の外周面に繊維束をフープ巻きにて巻回する工程を有する。このフープ巻き層形成工程S5においては、
図2に示すように、回転する容器本体1の長手方向に沿って、繊維束供給ユニット9を往復移動させながら繊維束Zを供給することによって行われる。
【0023】
本発明に係る圧力容器の製造方法は、シームレスの容器本体1に対して、繊維束Zをフープ巻にて巻回して形成される補強層5を形成するように構成されているため、例えば、20MPaの疲労強度を有する圧力容器(容器本体1)を30MPaの疲労強度を有するように強度を向上させることができ、内部に充填される水素や天然ガス等の充填量を増加させることが可能となる。また、補強層5を設けない形態の圧力容器において、より多くの水素等を充填しようとすると、圧力容器自体の大きさを大きく構成する必要が生じ、製造コストの増加、設置スペースの増大、重量の増加といった問題が生じることになるが、補強層5を形成するようにして圧力容器を製造する場合には、圧力容器を大型化することなく、上記問題が発生することを好適に抑制することができる。
【0024】
また、本発明に係る圧力容器の製造方法においては、容器本体1の他方の端部1b領域に位置するとともに、該他方の端部1b領域の周方向に沿って延在する環状のストッパ部71を有する巻きずれ防止手段7を配置する巻きずれ防止手段配置工程S4を備えているため、繊維束Zを容器本体1にフープ巻きする際に、繊維束Zが容器本体1の他方のドーム部3b側にずれる巻きずれが生じること極めて効果的に防止することができる。
【0025】
ここで、繊維束Zを容器本体1にフープ巻きを行う場合、容器本体1の胴部2とドーム部3a(3b)との境界(タンジェントライン位置T1,T2)間に繊維束Zを巻回することにより行われる。繊維束Zは、繊維束供給ユニット9を往復移動させながら供給されるが、この時、
図2に示すように、容器本体1の一方の端部1a側におけるタンジェントライン位置T1を繊維束供給ユニット9の往復移動の基準点、タンジェントライン間の距離TLを繊維束供給ユニット9の移動距離として設定される。繊維束供給ユニット9の移動距離は、通常、容器本体1の長手方向寸法の公差を考慮して設定され、例えば、設計上のタンジェントライン間の設計寸法が、6m±20mmである場合には、繊維束供給ユニット9の移動距離は6m20mmに設定される。そうすると、例えば、タンジェントライン間の実寸法が、5m980mm(設計寸法上の最小値)の容器本体1にフープ巻を施す場合、繊維束供給ユニット9が他方の端部1b側のタンジェントライン位置T2を40mm超えて往復移動することになり、このときに、繊維束Zの一部が、他方の端部1b側のドーム部3bの表面を滑り落ちて巻きずれが発生することになる。
【0026】
本発明に係る圧力容器の製造方法は、上述のように、他方の端部1b領域の周方向に沿って延在する環状のストッパ部71を有する巻きずれ防止手段7を配置してフープ巻を行うように構成されているため、繊維束供給ユニット9が他方の端部1bのタンジェントライン位置T2を超えて繊維束Zを巻回する場合であっても、ストッパ部71を超えて巻回されるような事態が発生することを防止することができ、繊維束Zの一部に巻ずれが生じることを効果的に抑制することが可能となる。なお、ストッパ部71の高さH(本実施形態においては、円筒状の立設部74の内周面と外周面との間の距離:立設部74の厚みに相当)は、繊維束供給ユニット9によって供給される繊維束Zが、ストッパ部71を超えてポート部4b側を巻回してしまわない程度の高さに適宜設定される。例えば、容器本体に巻回配置されるフープ層(補強層5)の厚み寸法の5倍以上、より好ましくは、20倍以上の寸法となるように、ストッパ部71の高さHの寸法を設定することが好ましい。
【0027】
以上、本発明の一実施形態に係る圧力容器の製造方法について説明したが、具体的構成は上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態においては、巻きずれ防止手段7を他方の回転軸51上に配置するように構成しているが、
図7の概略構成断面図に示すように、ポート部4bに固定するように構成してもよい。このような構成を採用する場合、ポート部4bの外周面上に雄ネジ部を形成し、該ポート部4bに巻きずれ防止手段7の貫通孔72を挿通した後、固定部材8(ナット)をポート部4bに螺着させることによって、巻きずれ防止手段7をポート部4bに固定することができる。
【0028】
また、上記実施形態においては、巻きずれ防止手段7は、回転軸51上を移動可能に構成され、固定部材8(ナット)によって、容器本体1の他方の端部1b領域に押し付けられた状態で回転軸51上に設置固定されるように構成されているが、例えば、溶接によって回転軸51上の所定位置に巻きずれ防止手段7を固定するように構成してもよい。このような構成であっても、他方の回転軸51を容器本体1の他方の端部1bのポート部4bに螺入させる際の螺入量を調整することにより、容器本体1の他方の端部1b領域(本実施形態においてはドーム部3b)にストッパ部71を当接させるように巻きずれ防止手段7の位置を調節することができ、本発明の上記効果を得ることが可能となる。
【0029】
また、上記実施形態においては、巻きずれ防止手段7を貫通孔72が中心部に形成される円盤状の基台部73と、当該基台部73の周縁部に接続される円筒状の立設部74とを備えるように構成され、基台部73に形成される貫通孔72を他方の回転軸51に挿通させるようにして巻きずれ防止手段7を他方の回転軸51上に配置可能としているが、例えば、
図8(a)(b)に示すように、半割れ構造7a,7bを備えるように構成し、容器本体1のポート部4bに接続固定された他方の回転軸51を上下方向から挟み込むようにして、当該他方の回転軸51上に固定できるように構成してもよい。
【0030】
このような構成の巻きずれ防止手段7は、
図9に示すように、対称な2つの部品7a,7bにより構成されており、各部品7a,7bは、半円盤状の基台部731と、当該基台部731の円弧を構成する側縁部に接続される半円筒状の立設部741とを備えている。ここで、
図9(a)は半割れ構造を有する巻きずれ防止手段7の概略構成正面図であり、
図9(b)はその側面図、
図9(c)は背面図である。また、
図9(d)は
図9(a)における矢視A方向から見た平面図であり、
図9(e)は
図9(a)におけるB-B断面に関する断面図である。半円筒状の立設部741の一方の端部周縁部は、半円盤状の基台部731の周縁部(基台部731の円弧を構成する側縁部)に接続されており、立設部741の他方の端部周縁部は、容器本体1の他方の端部領域に位置するストッパ部711を構成する。また、基台部731の半径部分を構成する側縁部の中央には、半円状の切欠部721が形成されており、立設部741が設けられる基台部731の面側とは反対の面側において、切欠部721の周囲に沿って立設する半円筒状の取付部750が設けられている。
【0031】
また、半円筒状の取付部750の周壁には、半径方向に向けて突出するプレート状のフランジ760が形成されている。このフランジ760は、半円筒状の取付部750の周方向の各端部において、取付部750の軸方向に沿って、半円筒状の取付部750の一方の端部側から他方の端部側まで延びるように形成されている。各フランジ760には、一方面側から他方面側に向けて貫通する貫通孔770が複数形成されている。各貫通孔770は、
図8(b)に示すように、半割れ構造を有する一対の各部品7a,7bの半円筒状の取付部750の内周面側を他方の回転軸51に向けて該回転軸51を挟み込むようにして配置した際に、ボルトおよびナット等の締結具85によって両者を一体化させるために使用される孔である。なお、半円状の切欠部721の半径および、半円筒状の取付部750の内面半径は、他方の回転軸51の半径よりもわずかに大きくなるように構成されており、半割れ構造の部品7a,7bを回転軸51上に設置し、巻きずれ防止手段7を構成した際に、当該が巻きずれ防止手段7が回転軸51上を摺動できるように構成される。
【0032】
なお、例えば、
図9に示すように、対称な2つの部品7a,7bによって巻きずれ防止手段7を構成する場合、上述のように、一対の各部品7a,7bの半円筒状の取付部750の内周面側を他方の回転軸51に向けて該回転軸51を挟み込むようにして配置し、ボルトおよびナット等の締結具85によって両者を一体化する取付方法を例示しているが、このような取付方法の代わりに、各部品7a,7bの半円筒状の取付部750の内周面側を他方の回転軸51に向けて該回転軸51を挟み込むようにして配置した後、例えば、溶接によって他方の回転軸51の所定位置上に固定配置するようにしてもよい。
【0033】
また、上記実施形態において、補強層形成ステップS2が、ヘリカル巻きにて容器本体1の外周面に繊維束を巻回するヘリカル巻き層形成工程をさらに備えてもよい。ヘリカル巻にて形成されるヘリカル層は、フープ巻き層形成工程S5において積層されたフープ巻層とドーム部3とを包むように容器本体1を全体的に覆うように形成されることが好ましい。ヘリカル層は、容器本体1の中心軸と0°より大きく90°未満の巻き角度で、胴部2及びドーム部3a,3bの周方向に繊維束をヘリカル巻きにすることによって形成され。なお、ヘリカル巻きは、巻き角度によって低角度ヘリカル巻きと高角度ヘリカル巻きに更に分けられる。
【0034】
低角度ヘリカル巻きは、巻き角度が小さい(例えば0°より大きく30°以下)場合のヘリカル巻きであり、繊維束が中心軸を一周する前にドーム部3a,3bにおける繊維束の巻付方向の折り返しが生じる巻付方法である。高角度ヘリカル巻きは、巻き角度が大きい(例えば30°より大きく90°未満)場合のヘリカル巻きであり、ドーム部3a,3bにおける繊維束の巻付方向の折り返しが生じるまでに、胴部2において繊維束が中心軸を少なくとも一周する巻付方法である。
【0035】
また、補強層形成ステップS2が、フープ端切削工程S6をさらに備えるように構成してもよい。このフープ端切削工程S6は、フープ巻き層形成工程S5完了後に実施される工程であり、フープ形成領域において巻きずれ防止手段7の作用によって当該巻きずれ防止手段7に隣接して形成されるフープ端の盛り上がり部分を切削する工程である。巻きずれ防止手段7を用いてフープ巻を行う場合、
図10(a)に示すように、ストッパ部71を超えてドーム部3b側まで進入した繊維束Z(図中Wで示される領域に侵入する繊維束Z)が、ストッパ部71よりも胴部2側の領域Sに巻回されることになり、ストッパ部71に隣接する他方の端部1b側のフープ端(フープ巻層の端部)に盛り上がり部分5aが形成されうる(
図10(b))。フープ端における盛り上がり部分5aが形成されると、この部分5aでの強化繊維の厚みが増して大きな応力勾配が生じ、外側に巻かれる繊維ほど強度発現のポテンシャルを発揮できなくなってしまうおそれがあるが、フープ端の盛り上がり部分5aを切削し、フープ層(補強層5)を滑らかな表面とすることにより(
図10(c))、フープ層において大きな応力勾配が生じることを効果的に防止することができ、強度発現のポテンシャルを有効的に発揮させ、圧力容器の強度向上への貢献度を高くすることができる。
【0036】
また、上記実施形態においては、巻きずれ防止手段配置工程S4が、他方の回転軸51上に巻きずれ防止手段7を設置し、一方の回転軸50上には巻きずれ防止手段7を設置しない態様について説明しているが、一方の回転軸50上にも更に巻きずれ防止手段7を設置して、そのあとに引き続くフープ巻き層形成工程S5を実施するように構成してもよいことは言うまでもない。なお、一方の回転軸50上にも巻きずれ防止手段7を設置する工程は、容器本体1の一方の端部1a側を一方の回転軸50に接続固定する工程中において行われ、その設置方法については、上述の他方の回転軸51に巻きずれ防止手段7を設置する手法と同じ方法にて実施される。
【符号の説明】
【0037】
1 容器本体
1a 容器本体の一方の端部
1b 容器本体の他方の端部
2 胴部
3a,3b ドーム部
4a,4b ポート部
5 補強層
5a フープ端に形成されうる盛り上がり部分
7 巻きずれ防止手段
71 ストッパ部
72 貫通孔
73 基台部
74 立設部
9 繊維束供給ユニット
Z 繊維束
51 回転装置が有する一方の回転軸
52 回転装置が有する他方の回転軸
S1 容器本体形成ステップ
S2 補強層形成ステップ
S3 容器本体設置工程
S4 巻きずれ防止手段配置工程
S5 フープ巻き層形成工程