IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特開2022-168694治工具ユニット及び被加工物の補修方法
<>
  • 特開-治工具ユニット及び被加工物の補修方法 図1
  • 特開-治工具ユニット及び被加工物の補修方法 図2
  • 特開-治工具ユニット及び被加工物の補修方法 図3
  • 特開-治工具ユニット及び被加工物の補修方法 図4
  • 特開-治工具ユニット及び被加工物の補修方法 図5
  • 特開-治工具ユニット及び被加工物の補修方法 図6
  • 特開-治工具ユニット及び被加工物の補修方法 図7
  • 特開-治工具ユニット及び被加工物の補修方法 図8
  • 特開-治工具ユニット及び被加工物の補修方法 図9
  • 特開-治工具ユニット及び被加工物の補修方法 図10
  • 特開-治工具ユニット及び被加工物の補修方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168694
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】治工具ユニット及び被加工物の補修方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/02 20060101AFI20221031BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20221031BHJP
   C25D 17/00 20060101ALI20221031BHJP
   C25D 21/06 20060101ALI20221031BHJP
   B23P 6/02 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C25D5/02 Z
C25D7/00 C
C25D17/00 B
C25D17/00 K
C25D21/06
B23P6/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074338
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早野 正洋
(72)【発明者】
【氏名】大宮 勝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】志鷹 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】粟井 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】三浦 恭
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AB06
4K024AB08
4K024BB04
4K024BC04
4K024CB08
4K024CB26
4K024DA05
4K024FA02
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】被加工物の補修部位を、その補修部位の形状に沿って均一に機械加工またはメッキ処理することができること。
【解決手段】シリンダ1の補修部位2を含む部位に設置されて補修部位2を補修する際に用いられる治工具11を備えた治工具ユニット10であって、治工具11は、補修部位2の形状に対応して形成されて加工具17(サンドペーパー等の切削工具17Aまたは筆メッキ用の電極)を保持可能なガイド部材13と、ガイド部材を支持するアーム部材14と、ガイド部材またはアーム部材に取り付けられてガイド部材13をシリンダ1の軸心O方向に移動させるハンドル部材16と、を有して構成されたものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の補修部位を含む部位に設置されて前記補修部位を補修する際に用いられる治工具を備えた治工具ユニットであって、
前記治工具は、
前記補修部位の形状に対応して形成されて加工具を保持可能なガイド部材と、
前記ガイド部材を支持するアーム部材と、
前記ガイド部材または前記アーム部材に取り付けられて前記ガイド部材を前記被加工物に対して移動させるハンドル部材と、を有して構成されたことを特徴とする治工具ユニット。
【請求項2】
前記被加工物が円筒形状であり、治工具のガイド部材が前記被加工物の内周面の形状に対応して形成され、
前記治工具のアーム部材は、前記内周面に当接して前記ガイド部材を前記被加工物内で支持する際に、前記ガイド部材の中心軸を前記被加工物の軸心と一致させるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の治工具ユニット。
【請求項3】
前記被加工物が円筒形状であり、治工具のガイド部材が前記被加工物の内周面の形状に対応して形成され、前記治工具のアーム部材が、前記ガイド部材の中心軸回りに等間隔に3本以上の複数本配置され、
前記アーム部材は、前記内周面に当接して前記ガイド部材を前記被加工物内で支持する際に、前記ガイド部材の中心軸を前記被加工物の軸心と一致させ、
この状態で前記ガイド部材は、前記治工具のハンドル部材により前記軸心に沿って移動可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の治工具ユニット。
【請求項4】
前記被加工物が円筒または円柱形状であり、治工具のガイド部材が前記被加工物の外周面の形状に対応して形成され、
前記治工具のアーム部材は、前記外周面に当接して前記ガイド部材を前記被加工物外で支持する際に、前記ガイド部材の中心軸を前記被加工物の軸心と一致させるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の治工具ユニット。
【請求項5】
前記治工具では、アーム部材の先端に、被加工物の内周面に当接して転動自在なローラが配置されたことを特徴とする請求項2または3に記載の治工具ユニット。
【請求項6】
前記治工具のガイド部材には、加工具として切削工具または筆メッキ用電極が保持されるよう構成されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の治工具ユニット。
【請求項7】
前記治工具は、ガイド部材を押圧することで前記ガイド部材に保持された加工具が補修部位に所定の押圧力を付与する押圧手段を、更に有して構成されたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の治工具ユニット。
【請求項8】
前記治工具の押圧手段は、加工具が補修部位に付与する押圧力を直接または間接に計測することで、前記押圧力を一定値に調整するよう構成されたことを特徴とする請求項7に記載の治工具ユニット。
【請求項9】
前記加工具として筆メッキ用電極が保持された治工具のガイド部材を挟むように被加工物に少なくとも一対設置されて筆メッキ用電解液を貯溜可能なアシスト部材を、更に有して構成されたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の治工具ユニット。
【請求項10】
前記アシスト部材により貯溜される筆メッキ用電解液を循環させ且つ前記筆メッキ用電解液中の不純物を除去する電解液浄化手段を、更に有して構成されたことを特徴とする請求項9に記載の治工具ユニット。
【請求項11】
被加工物の補修部位を機械加工する加工工程と、この機械加工された前記補修部位にメッキ成膜を成膜する成膜工程と、前記メッキ成膜を含む部位を成形する成形工程とを有して、前記補修部位を補修する被加工物の補修方法であって、
前記加工工程、前記成膜工程及び前記成形工程の少なくとも一つの工程において、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の治工具ユニットを用いることを特徴とする被加工物の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は治工具ユニット、及びこの治工具ユニットを用いて被加工物を補修する被加工物の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧シリンダ装置は、シリンダ内のピストンを油圧により移動させ、ピストンに固定されたピストンロッドの押出・引込運動で機械的な仕事をさせる装置である。ピストンは、シリンダ内周面にピストンリングやピストンシールを介して摺動するため、摩耗粉等が摺動面に発生する。この状態で油圧シリンダ装置の運転を続けると、シリンダの内周面に摺動傷や摩耗が発生して、ピストンリングやピストンシールを通過する油の内部リーク量が増加してしまう。また、上述した摩耗部位は、シリンダの内周面の全体に亘って生ずるわけではなく、大半はピストンの摺動領域の一部分が摩耗する傾向にある。
【0003】
従って、油圧シリンダ装置の定期的なメンテナンス業務における従来の補修方法では、シリンダの内周面にメッキが施されている場合には、その内周面の全メッキを剥がし、内周面の全面にメッキを再度施して、機械加工で内周面を研磨する。また、シリンダの内周面にメッキが施されていない場合には、その内周面をオーバーサイズに切削し、その内径に合わせたピストンリングを再度製作する方法を採用している。
【0004】
この従来の補修方法では、再メッキの実施や、内径にあわせたピストンリングの製作に時間を要してメンテナンス期間が長期化し、油圧シリンダ装置のメンテナンスが全体のメンテナンス期間内に完了しない恐れがある。
【0005】
上述の問題を解決するためには、短時間に部分的に補修できる技術が必要になる。これを実現する手段として、シリンダの内周面において補修が必要な部位のみを部分的にグラインダなどで除去した後、短時間にメッキ施工が可能な筆メッキ手法を用いてメッキ処理を実施し、グラインダやサンドペーパー等の切削工具を用いてシリンダの内周面を仕上げる補修技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61-84390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のような部分的な補修技術を短時間に実現させるために、グラインダや硬質工具等を用いて、補修が必要な損傷部位のメッキを除去するが、シリンダの口径によっては、特に手が届かないような長尺形状のシリンダまたは狭隘(小径)形状のシリンダでは、上述の部分的な補修を実施することができず、補修部位の形状に沿って均一に補修することができない。
【0008】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、被加工物の補修部位を、その補修部位の形状に沿って均一に機械加工またはメッキ処理することができる治工具ユニット及び被加工物の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態における治工具ユニットは、被加工物の補修部位を含む部位に設置されて前記補修部位を補修する際に用いられる治工具を備えた治工具ユニットであって、前記治工具は、前記補修部位の形状に対応して形成されて加工具を保持可能なガイド部材と、前記ガイド部材を支持するアーム部材と、前記ガイド部材または前記アーム部材に取り付けられて前記ガイド部材を前記被加工物に対して移動させるハンドル部材と、を有して構成されたことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の実施形態における被加工物の補修方法は、被加工物の補修部位を機械加工する加工工程と、この機械加工された前記補修部位にメッキ成膜を成膜する成膜工程と、前記メッキ成膜を含む部位を成形する成形工程とを有して、前記補修部位を補修する被加工物の補修方法であって、前記加工工程、前記成膜工程及び前記成形工程の少なくとも一つの工程において、前記実施形態に記載の治工具ユニットを用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、被加工物の補修部位を、その補修部位の形状に沿って均一に機械加工またはメッキ処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る被加工物の補修方法で使用される治工具ユニットの治工具を、加工工程または成形工程に用いる場合を示す正面断面図。
図2図1のII-II線に沿う断面図。
図3図1の治工具とアシスト部材とを治工具ユニットとして用いて皮膜工程を実施する場合を示す側面断面図。
図4図3のIV-IV線に沿う断面図。
図5図3のV-V線に沿う断面図。
図6図1図5の治工具の変形形態を示す正面断面図。
図7】第2実施形態に係る被加工物の補修方法で使用される治工具ユニットの治工具を、加工工程または成形工程に用いる場合を示す正面断面図。
図8図7のVIII-VIII線に沿う断面図。
図9】第3実施形態に係る被加工物の補修方法で使用される治工具ユニットの治工具、アシスト部材及び電解液浄化手段を、皮膜工程に用いる場合を示す側面断面図。
図10】第4実施形態に係る被加工物の補修方法で使用される治工具ユニットの治工具を、加工工程または成形工程に用いる場合を示す側面断面図。
図11図10の治工具とアシスト部材及び電解液浄化手段とを治工具ユニットとして皮膜工程に用いる場合を示す側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(図1図6
図1は、第1実施形態に係る被加工物の補修方法で使用される治工具ユニットの治工具を、加工工程または成形工程に用いる場合を示す正面断面図である。また、図3は、図1の治工具とアシスト部材とを治工具ユニットとして用いて皮膜工程を実施する場合を示す側面断面図である。この第1実施形態の被加工物の補修方法は、図1図5に示すように、被加工物としての例えば油圧シリンダ装置のシリンダ1における内周面1Aの補修部位2を補修するものであり、加工工程、成膜工程、成形工程を順次実施する。
【0014】
加工工程は、シリンダ1の内周面1Aに生じた傷などの補修部位2に、切削または研磨等の機械加工を施して傷等を除去する工程である。また、成膜工程は、加工工程で機械加工された補修部位2に対しメッキ処理、例えば筆メッキ処理を実施してメッキ皮膜を成膜し、傷等を埋めるまたは肉盛りする工程である。更に、成形工程は、成膜工程によるメッキ皮膜を含む部位に、切削または研磨等の機械加工を実施してメッキ皮膜を成形する工程である。
【0015】
上述の加工工程、成膜工程及び成形工程の少なくとも一つの工程(本実施形態では全ての工程)において、図1図5に示す治工具11及びアシスト部材12の少なくとも一方を備えた治工具ユニット10が用いられる。このうち、治工具11は加工工程、成膜工程及び成形工程において用いられ、アシスト部材12は、治工具11と共に成膜工程において用いられる。
【0016】
治工具11は、図1及び図2に示すように、シリンダ1の内周面1Aにおける補修部位2を含む部位に設置され、ガイド部材13、アーム部材14、ローラ15及びハンドル部材16を有して構成される。
【0017】
ガイド部材13は、被加工物が円筒形状のシリンダ1である場合には、このシリンダ1において補修部位2が存在する内周面1Aの形状に対応して形成され、例えば半円筒形状に形成される。このガイド部材13には加工具17が保持可能に構成される。この加工具17は、治工具11が加工工程または成形工程で用いられる場合には、サンドペーパーまたは金ヤスリなどの切削工具17Aであり、成膜工程で用いられる場合には、例えば筆メッキ用の電極17B(図3)である。
【0018】
アーム部材14は、ガイド部材13をシリンダ1の内周面1Aに支持するものである。このアーム部材14は、ガイド部材13の中心軸P回りに3本以上の複数本(例えば3本)配置される。このうちの複数本(例えば2本)のアーム部材14の先端側がガイド部材13を貫通する。アーム部材14は、このように配置されることで、ガイド部材13をシリンダ1内でシリンダ1の内周面1Aに支持する際に、ガイド部材13の中心軸Pをシリンダ1の軸心Oと一致させる。また、ローラ15は、各アーム部材14の先端に、転動自在に配置されて、シリンダ1の内周面1Aに当接する。このローラ15は、例えばボールベアリングである。
【0019】
ハンドル部材16は、複数本のアーム部材14に連結されて、ガイド部材13の中心軸Pに位置づけられる。このハンドル部材16がその軸方向Mに操作されることで、ガイド部材13がシリンダ1の軸心Oに沿ってローラ15の転動により移動され、ガイド部材13に保持された加工具17によりシリンダ1の補修部位2が補修される。図1及び図2に示す加工工程または成形工程では、ガイド部材13に保持された切削工具17Aによりシリンダ1の内周面1Aの補修部位2が機械加工されて、傷等が除去またはメッキ皮膜が成形される。
【0020】
前述のアシスト部材12は、図3及び図5に示すように、加工具17として筆メッキ用の電極17Bが保持されたガイド部材13を挟むように、シリンダ1内でシリンダ1の軸心O方向に離間して少なくとも一対(本実施形態では一対)配置される。このアシスト部材12は、下半部が例えば半円形状である。アシスト部材12の中央位置には、ハンドル部材16が摺動可能に挿通される。また、アシスト部材12の下半部の下端に、ゴムやシリコンなどのシール材18が設けられる。一対のアシスト部材12とシリンダ1の内周面1Aとの間に、筆メッキ用の電解液(つまりメッキ液)19を貯溜する貯溜部23が設けられる。そして、シール材18により、貯溜部23からの電解液19の漏洩が防止される。
【0021】
上述のように貯溜部23に電解液19が貯溜された状態で、電極17Bに電源20の陽極が、シリンダ1に電源20の陰極がそれぞれ接続されて電圧が印加されることで、シリンダ1の内周面1Aの補修部位2に筆メッキ処理が施されてメッキ皮膜が成膜される。このとき、ハンドル部材16が軸方向Mに操作されてガイド部材13がシリンダ1の軸心O方向に移動することで、補修部位2の全範囲にメッキ皮膜が施される。
【0022】
以上のように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)を奏する。
(1)シリンダ1の補修部位2を補修する際に用いられる治工具ユニット10の治工具11は、切削工具17Aまたは筆メッキ用の電極17Bを含む加工具17を保持するガイド部材13が、補修部位2の形状に対応して形成されている。更に、治工具11では、ガイド部材13を支持するアーム部材14が、ガイド部材13の中心軸P回りに等間隔に3本以上の複数本配置されることから、これらのアーム部材14がシリンダ1の内周面1Aに当接してガイド部材13をシリンダ1内で支持する際に、ガイド部材13の中心軸Pをシリンダ1の軸心Oと一致させる。
【0023】
これらの結果、この状態で治工具11のハンドル部材16を用いてガイド部材13をシリンダ1の軸心O方向に沿って移動させることで、シリンダ1の内周面1Aの補修部位2を、その補修部位2の形状に沿って均一に機械加工または筆メッキ処理をすることができる。しかも、作業者の手が届かない長尺円筒形状または狭隘(小径)円筒形状のシリンダ1の内周面1Aにおける補修部位2を、短時間に且つ確実に補修することができる。
【0024】
なお、図6に示す変形形態の治工具21は、ガイド部材22が円筒形状に形成され、このガイド部材22の端面のリング形状に沿って等間隔に、複数本のハンドル部材16がガイド部材22の端面に起立状態で取り付けられる。このように円筒形状のガイド部材22に複数本のハンドル部材16が設けられたことで、これらのハンドル部材16をその軸方向Mに操作することによって、ガイド部材22をシリンダ1の軸心O方向に安定して移動させることができる。
【0025】
[B]第2実施形態(図7図8
図7は、第2実施形態に係る被加工物の補修方法で使用される治工具ユニットの治工具を、加工工程または成形工程に用いる場合を示す正面断面図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0026】
本第2実施形態の被加工物の補修方法において使用される治工具ユニット25における治工具26が第1実施形態と異なる点は、ガイド部材13を押圧することで、ガイド部材13に保持された加工具17がシリンダ1の内周面1Aの補修部位2に所定の押圧力Fを付与する押圧手段27を更に備えた点である。ここで、加工具17は、図7及び図8ではグラインダやサンドペーパーなどの切削工具17Aの場合を示すが、筆メッキ用の電極17Bであってもよい。
【0027】
押圧手段27は例えばスプリング27Aである。このスプリング27Aは、複数本のアーム部材14のうちの1本のアーム部材に遊嵌状態で配設され、このアーム部材14に、押圧力を調整するナット28が螺合される。一方、ガイド部材13には受け部材29が立設される。スプリング27Aは、上記1本のアーム部材14に遊嵌された状態でナット28と受け部材29間に配置され、スプリング力を、受け部材29を介してガイド部材13及び加工具17に押圧力として作用する。
【0028】
ナット28のねじ込み量の調整によりスプリング27Aのスプリング力が変化し、これにより、ガイド部材13の加工具17(切削工具17A、筆メッキ用の電極17B)がシリンダ1の内周面1Aの補修部位2に付与する押圧力Fが変更される。スプリング27Aのスプリング力に基づいてガイド部材13の加工具17が補修部位2に押圧力Fを付与することで、加工具17は、シリンダ1の内周面1A及び補修部位2の形状変化に追従することが可能になる。
【0029】
また、押圧手段27は、スプリング27Aではなく、例えば図示しないダンパであってもよい。この場合には、ガイド部材13と加工具17(切削工具17A、筆メッキ用の電極17B)との間に、歪みゲージ等の圧力センサ(不図示)が設置される。ダンパの押圧力が、受け部材29を介してガイド部材13及び加工具17に作用し、この加工具17がシリンダ1の内周面1Aの補修部位2に押圧力Fを付与する。補修部位2に付与された押圧力Fが上記歪ゲージ等により直接計測され、またはダンパの伸縮量の測定により間接に計測されることで、ダンパは押圧力を一定値に調整する。これにより、ダンパの押圧力に基づきガイド部材13の加工具17が補修部位2に付与する押圧力Fが常に一定値に調整される。
【0030】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)と同様な効果を奏するほか、次の効果(2)及び(3)を奏する。
【0031】
(2)スプリング27Aのスプリング力に基づきガイド部材13の加工具17がシリンダ1の内周面1Aの補修部位2に押圧力Fを付与することで、加工具17は、シリンダ1の内周面1A及び補修部位2の形状変化に追従することができる。これにより、加工具17がグラインダやサンドペーパー等の切削工具17Aの場合には、加工工程において補修部位2の傷等を確実に除去することができ、成形工程においては筆メッキにより肉盛りされたメッキ皮膜を良好に成形することができる。また、加工具17が筆メッキ用の電極17Bの場合には、補修部位2の母材とメッキとの定着力が高まって、メッキ品質を向上させることができる。
【0032】
(3)ダンパの押圧力に基づきガイド部材13の加工具17が補修部位2に付与する押圧力Fが、常に一定値に調整されることから、シリンダ1の内周面1A及び補修部位2の形状変化に追従することができると共に、この内周面1A及び補修部位2に常時一定値の押圧力Fを付与することができる。これにより、加工工程における傷の除去や成形工程におけるメッキ皮膜の成形を短時間に確実に実施できる。更に、成膜工程において補修部位2の母材とメッキとの定着力がより一層高まって、メッキ品質のより一層の向上を短時間に実現することができる。
【0033】
[C]第3実施形態(図9
図9は、第3実施形態に係る被加工物の補修方法で使用される治工具ユニットの治工具、アシスト部材及び電解液浄化手段を、皮膜工程に用いる場合を示す側面断面図である。この第3実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0034】
本第3実施形態の治工具ユニット30が第1実施形態と異なる点は、一対のアシスト部材12とシリンダ1の内周面1Aとの間の貯溜部23に貯溜された筆メッキ用の電解液19を循環させて、この電解液19中の不純物を除去する電解液浄化手段31を更に有する点である。
【0035】
つまり、電解液浄化手段31は、電解液タンク32、ポンプ(またはコンプレッサ)33、供給用ホース34及び排出用ホース35を有し、更に一対のアシスト部材12には、シール材18に代えて、電解液19が通過(流動)可能なスポンジ材36が配設されて構成される。供給用ホース34にはポンプ33が配設されると共に、この供給用ホース34の一端が電解液タンク32に、他端が一方のアシスト部材12のスポンジ材36Aにそれぞれ接続される。また、排出用ホース35は、一端が他方のアシスト部材12のスポンジ材36Bに、他端が電解液タンク32にそれぞれ接続される。
【0036】
ここで、一方のアシスト部材12に配設されたスポンジ材36Aは、電解液19が通過することで、この電解液19中の不純物を除去するフィルタ機能を備える。従って、まず、排出用ホース35側が供給用ホース34側よりも下方になるようにシリンダ1を若干傾斜させた状態で、ポンプ33を起動させる。すると、電解液タンク32内の電解液19が供給用ホース34を通り、一方のアシスト部材12のスポンジ材36Aを通過し、このスポンジ材36Aにより不純物が除去されて、一対のアシスト部材12とシリンダ1の内周面1Aとの間の貯溜部23に流入する。この貯溜部23に貯溜された電解液19は、他方のアシスト部材12のスポンジ材36Bを通過し、排出用ホース35を経て電解液タンク32に戻されて循環する。
【0037】
以上のように構成されたことから、本第3実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)と同様な効果を奏するほか、次の効果(4)を奏する。
【0038】
(4)一対のアシスト部材12とシリンダ1の内周面1Aとの間の貯溜部23に貯溜される電解液19中の不純物が電解液浄化手段31により除去されることで、筆メッキによるメッキとシリンダ1の補修部位2の母材との間に不純物が介在することを防止できる。この結果、筆メッキによるメッキ皮膜を補修部位2に安定して定着させることができるので、メッキ品質を向上させることができる。
【0039】
[D]第4実施形態(図10図11
図10は、第4実施形態に係る被加工物の補修方法で使用される治工具ユニットの治工具を、加工工程または成形工程に用いる場合を示す側面断面図である。この第4実施形態において第1~第3実施形態と同様な部分については、第1~第3実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0040】
本第4実施形態の被加工物の補修方法において使用される治工具ユニット40が第1~第3実施形態と異なる点は、被加工物が例えば油圧シリンダ装置のピストンロッド3のような円柱または円筒形状であり、治工具41のガイド部材43が、ピストンロッド3において補修部位2が存在するピストンロッド3の外周面3Aの形状に対応して、例えば略半円筒形状に形成されて1個または複数個設けられ、更に治工具41が、ガイド部材43のほかに、アーム部材44、支持部材45、ハンドル部材16及び押圧手段27を有して構成された点である。
【0041】
アーム部材44は、ガイド部材43に連結されると共に、円筒形状の支持部材45を貫通し、この支持部材45がピストンロッド3の外周面3Aに転動自在に当接する。これにより、アーム部材44は、支持部材45を介してガイド部材43をピストンロッド3の外周面3Aで支持する。このアーム部材44によるガイド部材43の支持によって、ガイド部材43の中心軸P1がピストンロッド3の軸心O1と一致するよう設けられる。
【0042】
ガイド部材43の中心軸P1がピストンロッド3の軸心O1と一致した状態で、ガイド部材43は、貫通して連結されたハンドル部材16のM方向の操作により、ピストンロッド3の軸心O1方向に沿って移動される。このガイド部材43の移動により、ガイド部材43に保持された加工具17がピストンロッド3の外周面3Aの補修部位2を補修する。図10に示すように、加工具17がグラインダやサンドペーパー等の切削工具17Aの場合には、この切削工具17Aによって、加工工程では補修部位2の傷等の除去が、成形工程では補修部位2におけるメッキ皮膜の成形がそれぞれ行われる。
【0043】
押圧手段27としてのスプリング27Aは、第2実施形態と同様に、アーム部材44に遊嵌状態で配設されて、このアーム部材44に螺合されたナット28とガイド部材43との間に配置される。ナット28のねじ込み量の調整によりスプリング27Aがガイド部材43に作用するスプリング力が変更され、これにより、ガイド部材43及び加工具17がピストンロッド3の外周面3Aの補修部位2に作用する押圧力Fが調整される。
【0044】
第2実施形態でも述べたように、押圧手段27はスプリング27Aに代えてダンパでもよい。この場合、ガイド部材43と加工具17との間に歪ゲージ等の圧力センサ(不図示)が配置される。歪ゲージ等の計測値に基づきダンパの押圧力が調整されて、この押圧力によりガイド部材43及び加工具17がピストンロッド3の外周面3Aの補修部位2に一定値の押圧力Fを常に作用するようにしてもよい。
【0045】
図11に示すように、治工具41のガイド部材43が保持する加工具17が筆メッキ用の電極17Bである場合には、治工具ユニット40は、上記治工具41ほかに、アシスト部材42、液溜め部材46及び電解液浄化手段47を有する。
【0046】
アシスト部材42は、筆メッキ用の電極17Bが保持されたガイド部材43を挟むようにして、ピストンロッド3の軸心O1方向に離間して少なくとも一対、本第4実施形態では一対配置される。これらのアシスト部材42は、ピストンロッド3に嵌め込まれると共に、ハンドル部材16を摺動可能に挿通する。これら一対のアシスト部材42に、ピストンロッド3を覆うようにして略半円筒形状の液溜め部材46が結合されて、電解液19の貯溜部48が形成される。アシスト部材42には、ピストンロッド3の嵌込み部、及び液溜め部材46の結合部にシール材18が介在されて、電解液19の漏洩が防止される。
【0047】
電解液浄化手段47は、第3実施形態の電解液浄化手段31と同様であるが、供給用ホース34にはポンプ33の下流側に、電解液19中の不純物を捕捉するフィルタ49が配設される。また、供給用ホース34の他端は、貯溜部48の上方に位置づけられ、排出用ホース35の一端は液溜め部材46に接続される。ポンプ33の起動により、電解液タンク32内の電解液19は、フィルタ49により不純物が除去された後に貯溜部48内に供給され、この貯溜部48から排出用ホース35を経て電解液タンク32に戻されて循環する。
【0048】
このように電解液19が循環された状態で、筆メッキ用の電極17Bに電源20(図4)から電圧が印加され、ハンドル部材16の軸方向Mの操作により、ガイド部材43をピストンロッド3の軸心O1方向に沿って移動させて、このガイド部材43の電極17Bによりピストンロッド3の外周面3Aの補修部位2にメッキ皮膜を成膜する。
【0049】
以上のように構成されたことから、本第4実施形態によれば、第2及び第3実施形態の効果(2)~(4)と同様な効果を奏するほか、次の効果(5)を奏する。
【0050】
(5)ガイド部材43の中心軸P1をピストンロッド3の軸心O1と一致させた状態で、治工具41のハンドル部材16を用いてガイド部材43をピストンロッド3の軸心O1に沿って移動させることで、ピストンロッド3の外周面3Aの補修部位2を、その補修部位2の形状に沿って均一に機械加工または筆メッキ処理することができる。
【0051】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1…シリンダ(被加工物)、1A…内周面、2…補修部位、3…ピストンロッド(被加工物)、3A…外周面、10…治工具ユニット、11…治工具、12…アシスト部材、13…ガイド部材、14…アーム部材、15…ローラ、16…ハンドル部材、17…加工具、17A…切削工具、17B…電極、19…電解液、21…治工具、22…ガイド部材、25…治工具ユニット、26…治工具、27…押圧手段、27A…スプリング、30…治工具ユニット、31…電解液浄化手段、36A…スポンジ材、40…治工具ユニット、41…治工具、43…ガイド部材、44…アーム部材、F…押圧力、O…シリンダの軸心、P…ガイド部材の中心軸、O1…ピストンロッドの軸心、P1…ガイド部材の中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11