(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168709
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】自動学習システム
(51)【国際特許分類】
B61L 25/04 20060101AFI20221031BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20221031BHJP
G16Y 10/40 20200101ALI20221031BHJP
G16Y 20/20 20200101ALI20221031BHJP
G16Y 40/20 20200101ALI20221031BHJP
【FI】
B61L25/04
B60L15/40 Z
G16Y10/40
G16Y20/20
G16Y40/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074368
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(72)【発明者】
【氏名】江崎 浩康
(72)【発明者】
【氏名】前田 典宏
(72)【発明者】
【氏名】北谷 大貴
(72)【発明者】
【氏名】阿邊 優一
(72)【発明者】
【氏名】小熊 信
(72)【発明者】
【氏名】弓削 晶郎
(72)【発明者】
【氏名】服部 陽平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 功
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125BE01
5H125CC03
5H125CC04
5H125EE02
5H125EE51
5H125EE64
5H125EE70
(57)【要約】 (修正有)
【課題】車両の制御パラメータを適切な状態にする自動学習システムを提供する。
【解決手段】自動学習システム1は車両100を制御するために用いられる制御パラメータを有する。第1自動学習装置300はデータ格納部310と学習実行部320とパラメータ生成部400と出力部500とを備える。学習実行部はデータを分析して回帰モデルまたは分類型モデルを生成する。パラメータ生成部は回帰モデルまたは分類型モデルを用いて新しい第2制御パラメータ420を生成する。出力部は第2制御パラメータを出力する。第2自動学習装置700は車両に搭載され、パラメータ格納部110とパラメータ制御部109と車両制御部120とを備える。パラメータ格納部は第1自動学習装置からの第2制御パラメータを格納する。パラメータ制御部は第1制御パラメータ111を第2制御パラメータで更新する。車両制御部は第2制御パラメータを用いて車両を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を制御するために用いられる第1制御パラメータを有する自動学習システムであって、
運行中の前記車両から収集された前記第1制御パラメータに関するデータを蓄積するデータ格納部と、
前記データを分析して回帰モデルまたは分類型モデルを生成する学習実行部と、
前記回帰モデルまたは分類型モデルを用いて新しい第2制御パラメータを生成するパラメータ生成部と、
前記第2制御パラメータを出力する出力部と、を備える第1自動学習装置、並びに、
前記第1自動学習装置からの前記第2制御パラメータを格納するパラメータ格納部と、
前記第1制御パラメータを前記第2制御パラメータで更新するパラメータ制御部と、
前記第2制御パラメータを用いて前記車両を制御する車両制御部と、を備え、前記車両に搭載された第2自動学習装置、
を備えた自動学習システム。
【請求項2】
前記データ格納部は、前記データを圧縮したバイナリ形式で蓄積し、
前記学習実行部は、前記データのうち前記第1および第2制御パラメータに関連する学習データのみをバイナリ形式から復元し、前記回帰モデルを生成した後、復元された前記学習データを廃棄する、請求項1に記載の自動学習システム。
【請求項3】
前記学習実行部は、前記学習データをバイナリ形式からテキスト形式に復元し、前記回帰モデルの生成した後、該テキスト形式の学習データを廃棄する、請求項2に記載の自動学習システム。
【請求項4】
前記回帰モデルまたは分類型モデルの変数およびアルゴリズムを含む学習方法情報と、前記回帰モデルまたは前記分類型モデルと前記データとの適合度を示すモデル性能情報と、前記データの分析の開始条件を示す学習開始契機情報と、前記回帰モデルまたは前記分類型モデルとを格納する学習項目格納部をさらに備えた、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の自動学習システム。
【請求項5】
前記学習開始契機情報は、データの分析を開始する日時、あるいは、前記適合度の閾値である、請求項4に記載の自動学習システム。
【請求項6】
前記学習実行部は、前記第1制御パラメータを生成するために用いられる第1回帰モデルまたは第1分類型モデルの前記適合度を示す第1モデル性能情報と、前記第2制御パラメータを生成するために用いられる第2回帰モデルまたは第2分類型モデルの前記適合度を示す第2モデル性能情報とを比較する、請求項4または請求項5に記載の自動学習システム。
【請求項7】
前記第2モデル性能情報が前記第1モデル性能情報よりも前記適合度において高い場合、前記パラメータ制御部は、前記第1制御パラメータを前記第2制御パラメータで更新し、
前記第2モデル性能情報が前記第1モデル性能情報よりも前記適合度において低い場合、前記パラメータ制御部は、前記第1制御パラメータを更新せず、前記車両制御部は、前記第1制御パラメータを用いて前記車両を制御する、請求項6に記載の自動学習システム。
【請求項8】
前記出力部は、前記第2制御パラメータを前記第2自動学習装置へ送信し、あるいは、前記出力部に通信可能に接続された電子記録媒体に出力する、請求項1に記載の自動学習システム。
【請求項9】
前記出力部が前記第2制御パラメータを出力することを許可または禁止することを表示する表示部をさらに備えた、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の自動学習システム。
【請求項10】
前記第1自動学習装置は、前記車両で構成された複数の列車編成と通信可能に接続されており、
前記出力部は、前記第2制御パラメータを、前記複数の列車編成のうち予め設定された一部の列車編成に出力する、請求項6から請求項9のいずれか一項に記載の自動学習システム。
【請求項11】
前記データ格納部は、前記第2制御パラメータを用いて制御されている前記一部の列車編成からさらに更新データを収集して蓄積し、
前記第2回帰モデルまたは前記第2分類型モデルと前記更新データとの適合度が閾値より高い場合、前記出力部は、前記第2制御パラメータを該第2制御パラメータで更新された更新車両以外の車両へ出力する、請求項10に記載の自動学習システム。
【請求項12】
前記データ格納部は、前記第2制御パラメータを用いて制御されている前記一部の列車編成からさらに更新データを収集して蓄積し、
前記第2回帰モデルまたは前記第2分類型モデルと前記更新データとの適合度が閾値より低い場合、前記出力部は、前記第2制御パラメータを前記更新車両以外の車両へ出力せず、前記パラメータ制御部は、前記更新車両の前記第2制御パラメータを前記第1制御パラメータに戻す、請求項11に記載の自動学習システム。
【請求項13】
前記車両のそれぞれで用いられている前記第1または第2制御パラメータと、前記第1または第2制御パラメータに関連する前記車両から収集されるデータとを対比して表示する表示部をさらに備えた、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の自動学習システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、自動学習システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道等の車両において、車両の経年変化、環境変化、乗客の行動様式の変化等によって、車両の製造時点では想定できない事象が生じ得る。このため、自動運転技術において、車両の様々な機器の制御に用いられる制御パラメータは、車両製造時に定義された後、恒久的に適切であるとは限らない。
【0003】
しかし、制御パラメータは、車両の制御装置に組み込まれたソフトウェアに定義されているため、制御パラメータの更新は容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の状態や車両の使用環境に応じて、車両の制御パラメータを適切な状態にすることができる自動学習システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態による自動学習システムは、車両を制御するために用いられる制御パラメータを有する自動学習システムである。第1自動学習装置は、データ格納部と、学習実行部と、パラメータ生成部と、出力部とを備える。データ格納部は、運行中の前記車両から収集された前記第1制御パラメータに関するデータを蓄積する。学習実行部は、データを分析して回帰モデルまたは分類型モデルを生成する。パラメータ生成部は、回帰モデルまたは分類型モデルを用いて新しい第2制御パラメータを生成する。出力部は、第2制御パラメータを出力する。第2自動学習装置は、車両に搭載され、パラメータ格納部と、パラメータ制御部と、車両制御部とを備える。パラメータ格納部は、第1自動学習装置からの第2制御パラメータを格納する。パラメータ制御部は、第1制御パラメータを第2制御パラメータで更新する。車両制御部は、第2制御パラメータを用いて車両を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態による自動学習システムの構成例を示すブロック図。
【
図3】第1実施形態による自動学習システムの動作例を示すフロー図。
【
図4A】データ格納部内のバイナリデータの一例を示す概念図。
【
図4B】バイナリデータのデータ定義情報の一例を示す概念図。
【
図5A】車両の制御パラメータ格納部に格納されている制御パラメータの具体例を示す図。
【
図5B】車両制御装置の制御プログラムの一部の概略を示す図。
【
図6A】第1モデルと性能評価用データとの関係を示すグラフ。
【
図6B】第2モデルと性能評価用データとの関係を示すグラフ。
【
図7A】第2モデルと第2制御パラメータを示すグラフ。
【
図7B】第2制御パラメータで更新後の制御パラメータの一例を示す図。
【
図8】第2制御パラメータの配信の許可または禁止を表示する表示部の画面例を示す図。
【
図9】列車編成への配信方法の変形例を示すフロー図。
【
図10A】更新対象の列車編成における制御パラメータの更新状態を示す概念図。
【
図10B】更新対象の列車編成における制御パラメータの更新状態を示す概念図。
【
図10C】更新対象の列車編成における制御パラメータの更新状態を示す概念図。
【
図11A】制御パラメータのグラフ表示の定義を示す図。
【
図11B】第1制御パラメータのパラメータ性能情報を示すグラフ。
【
図11C】第2制御パラメータのパラメータ性能情報を示すグラフ。
【
図12】或る3つのクラスをとり得る変数を3分類する分類型モデルの一例を示す図。
【
図13】第2実施形態による自動学習システムの構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。図面は模式的または概念的なものであり、各部分の比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。明細書と図面において、既出の図面に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による自動学習システムの構成例を示すブロック図である。本実施形態による自動学習システム1は、車両100と、サーバ200とを備えている。車両100は、例えば、鉄道を走行する複数の列車編成を構成する。
図1において、車両100を1つだけ示しているが、各列車編成は、複数の車両で構成される。また、鉄道では、複数の列車編成が運行されている。
【0010】
車両100は、パラメータ制御装置109と、パラメータ格納部110と、車両制御装置120とを備える。パラメータ制御部としてのパラメータ制御装置109は、サーバ200から送信される制御パラメータおよびその固有名称を受信する。パラメータ格納部110は、車両100を制御するために用いられる種々の制御パラメータ111を格納している。パラメータ制御装置109は、例えば、PC(Personal Computer)等でよい。パラメータ格納部110は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置でよい。制御パラメータ111は、車両100の駆動装置、空調装置、照明装置等を自動制御するパラメータである。従って、制御パラメータは、速度の切り替え、空調の切り替え、照明の切り替え、車両100の速度、ノッチ切り替え、ブレーキ等のタイミングを決定する。車両制御装置120は、車両100の駆動装置、空調装置、照明装置等を制御パラメータに基づいて制御する。制御パラメータは、多種に亘って設定されている。個々の制御パラメータを区別して更新可能にするために、各制御パラメータは、識別子として固有の名称が付されている。パラメータ制御装置109、パラメータ格納部110および車両制御装置120は、第2自動学習装置700を構成している。
【0011】
車両100は、例えば、空調装置130と、温度湿度センサ140と、応荷重センサ150とを備えている。空調装置130は、車両100内の温度および湿度等を制御する。温度湿度センサ140は、車両100内の温度および湿度を測定する。応荷重センサ150は、車両100の荷重を測定し、乗車率を算出する。空調装置130の空調や風量の設定データ、温度湿度センサ140で測定された温度および湿度のデータ、応荷重センサ150で測定された荷重や乗車率データ等のデータは、車両制御装置120へ送信されて、空調装置130の制御に用いられるとともに、ネットワーク10を介してサーバ200に送信される。車両制御装置120は、制御パラメータに基づいて空調装置130をフィードバック制御する。例えば、制御パラメータが温度または湿度の設定値である場合、車両制御装置120は、温度または湿度が制御パラメータよりも高くなったときに空調装置130を冷房にする。制御パラメータが乗車率の設定値である場合、車両制御装置120は、乗車率が制御パラメータよりも高くなったときに車両100内の温度および湿度が高くなることを想定して空調装置130の冷房を強運転にする。車両制御装置120は、例えば、PC等でよい。
【0012】
サーバ200は、第1自動学習装置としての自動学習装置300と、制御パラメータ生成装置400と、制御パラメータ出力装置500と、表示部600とを備えている。サーバ200は、地上側に設けられており、車両100とネットワーク10を介して通信可能に接続されている。
【0013】
自動学習装置300は、車両100からのデータを用いて、制御パラメータを算出するためのモデル(式)を自動で生成する装置である。自動学習装置300は、データ格納部310と、学習実行部320と、学習項目格納部330とを備える。
【0014】
データ格納部310は、運行中の車両100から収集された制御パラメータに関するデータを蓄積する。例えば、上記空調装置130の設定データ、車両100内の温度データ、湿度データ、荷重データ、乗車率データ等が、車両100からネットワーク10を介して自動学習装置300に受信され、データ格納部310に格納される。データは、車両100で測定される全てのデータでよい。また、データは車両100の運行中において周期的にサンプリングされ、サンプリングされるごとに即時にサーバ200へ送信され得る。あるいは、データは、車両100の記憶部(図示せず)に所定期間の分だけ格納しておき、所定期間経過後にサーバ200へまとめて送信してもよい。このとき、データ格納部310は、データを圧縮し、バイナリ形式で蓄積する。バイナリ形式のデータは、データベースまたはCSV(Comma Separated Values)形式等のテキストのデータよりもデータ容量が小さいので、データ格納部310の容量を小さくすることができる。これにより、データ蓄積コストを低くすることができる。データ容量が小さいので、データ格納部310は、車両100で測定される全データを格納してもよく、かつ、データ保存期間は任意でよく無期限でもよい。
【0015】
学習項目格納部330は、データ格納部310のデータから回帰モデルまたは分類型モデルを生成するために必要な情報(定義)を格納している。例えば、学習項目格納部330は、学習方法情報341と、モデル性能情報342と、学習開始契機情報343と、モデルと制御パラメータとの関係情報344と、回帰モデルまたは分類型モデル(単に、モデルともいう)の情報345とを含む。
【0016】
学習方法情報341は、回帰モデルおよび分類型モデルの中から選択され使用されるアルゴリズムの情報である。回帰モデルは、例えば、線形回帰、非線形回帰のいずれでもよい。学習アルゴリズムは、Python等のプログラム言語において一般的に提供されているアルゴリズムであってもよい。あるいは、学習アルゴリズムは、独自定義したものを指定してもよい。
【0017】
モデル性能情報342は、学習実行部320で生成された回帰モデルまたは分類型モデルとデータとの適合度を示す情報である。適合度は、例えば、
図2に示すように、回帰モデルに用いられる二乗誤差、あるいは、分類型モデルに用いられる適合率、再現率、F値等がある。尚、二乗誤差については小さいほど、適合度は高いものとする。また、適合率、再現率、F値については大きいほど、適合度は高いものとする。
【0018】
学習開始契機情報343は、学習実行部320がデータ分析を開始する条件を示す情報である。学習開始契機情報343は、例えば、
図2に示すように、データ分析を開始する日時、あるいは、上記適合度の閾値でよい。設定された日時になったときに、学習実行部320は、データ格納部310のデータを用いて、データ分析を自動で開始し、モデルを生成してもよい。あるいは、既存のモデルとデータとの適合度が低下し、適合度が閾値よりも低くなった場合に、学習実行部320は、データ格納部310のデータを用いて、データ分析を自動で開始し、モデルを生成し直してもよい。
【0019】
モデルと制御パラメータとの関係情報344(単に、関係情報344ともいう)は、制御パラメータの名称とモデルに基づく制御パラメータの計算式との対応関係を示す情報である。制御パラメータの名称は、車両100の制御パラメータで予め設定された上記名称と同じであり、あるいは、それを特定可能に関連付けられた名称である。これにより、サーバ200側で生成された新たな制御パラメータで、車両100側の制御パラメータを更新することができる。
【0020】
モデル345は、学習実行部320で生成された回帰モデルまたは分類型モデルである。モデル345は、学習実行部320で生成されるごとに追加され保存される。
【0021】
学習方法情報341、モデル性能情報342、学習開始契機情報343、関係情報344を含む学習項目情報340は、制御パラメータごとに設けられている。車両100のパラメータ格納部110において、多数の制御パラメータが設定されている場合、その制御パラメータと同数の学習項目情報340が定義され得る。
【0022】
学習項目格納部330は、データ格納部310とは別の記憶装置であってもよく、データ格納部310と同一の記憶装置であってもよい。学習項目格納部330は、例えば、HDD、SSD等の記憶装置でよい。
【0023】
学習実行部320は、上述のとおり、それぞれの学習項目情報の定義にしたがってデータ分析(学習ともいう)を実行し、各制御パラメータに適した回帰モデルまたは分類型モデルを生成する。このとき、学習実行部320は、データ格納部310に格納されたデータのうち、制御パラメータに関連するデータのみをバイナリ形式から、例えば、CSV形式等のテキスト形式に復元する。以下、テキストデータの一例としてCSVデータを用いて説明する。制御パラメータに関連するデータ(学習データともいう)は、例えば、学習項目情報に定義された説明変数、目的変数等である。学習実行部320は、モデルの生成後、復元されたCSV形式のデータを廃棄してよい。これにより、データ格納部310の容量および学習項目格納部330の容量を小さくすることができる。学習実行部320は、例えば、PC等の演算装置でよい。
【0024】
制御パラメータ生成装置400は、自動学習装置300において生成されたモデル345を用いて、制御パラメータ420を生成する装置である。制御パラメータ生成装置400は、制御パラメータ算出部410を備える。制御パラメータ算出部410は、例えば、モデル345の係数aおよび
図2の関係情報344を用いて得られる数値を制御パラメータ420として算出する。このとき、モデル345に適用される算出方法は、関係情報344に定義されている。また、このとき算出される制御パラメータ420の固有名称(識別子)も、関係情報344に定義されている。モデル345から得られた制御パラメータ420は、例えば、具体的数値として得られる。制御パラメータ算出部410は、例えば、CPU等の演算装置でよい。
【0025】
制御パラメータ算出部410は、第2制御パラメータとしての制御パラメータ420とともに、該制御パラメータ420の固有名称を制御パラメータ出力装置500へ転送する。
【0026】
出力部としての制御パラメータ出力装置500は、制御パラメータ格納部510と、制御パラメータ送信部520とを備えている。制御パラメータ格納部510は、制御パラメータ生成装置400からの制御パラメータ420およびその固有名称を格納する。制御パラメータ格納部510は、例えば、HDD、SSD等の記憶装置でよい。制御パラメータ送信部520は、制御パラメータ420およびその固有名称を車両100のパラメータ格納部110へ送信する。
【0027】
制御パラメータ送信部520は、ネットワーク10を介してオンラインで、制御パラメータ420およびその固有名称を車両100へ送信してもよい。あるいは、制御パラメータ送信部520は、制御パラメータ送信部520に通信可能に接続された電子記録媒体(例えば、USBメモリ、SDカード)に制御パラメータ420およびその固有名称を一旦出力し、電子記録媒体を介して制御パラメータ420およびその固有名称を車両100へ格納してもよい。この場合、車両100とサーバ200との通信接続が切断されているようなオフライン状態であっても、パラメータ格納部110の制御パラメータは、電子記録媒体を介して更新することができる。
【0028】
パラメータ制御装置109は、サーバ200側から送信されてきた新しい制御パラメータを受信し、パラメータ格納部110は、その新しい制御パラメータを格納する。このとき、パラメータ制御装置109は、新しい制御パラメータと同一の固有名称を有する制御パラメータを、新しい制御パラメータで更新する。車両制御装置120は、パラメータ格納部110に格納された新しい制御パラメータを用いて車両100を制御する。
【0029】
表示部600は、制御パラメータ420、モデル345、車両100の情報等の様々な情報を表示する。また、表示部600は、複数の列車編成の複数の車両100のそれぞれで用いられている制御パラメータと、制御パラメータに関連するデータとを対比して表示してもよい。表示部600は、例えば、ユーザインタフェースを兼ねたタッチパネルディスプレイでもよい。また、図示しないが、表示部600とは別に、ユーザインタフェースが設けられていてもよい。
【0030】
図2は、学習項目情報の一例を示す概念図である。この学習項目情報では、説明変数xが乗車率であり、目的変数yが10分後の湿度である。学習アルゴリズムは、線形回帰y=a×xである。aは係数である。学習アルゴリズムの目的変数yは、車両100の或る乗車率xに対して、10分後の湿度を示している。学習データ期間は、学習実行部320がデータ分析を実行する日(学習日)よりも30日前から1日前までの期間である。学習実行部320は、学習データ期間に実測された乗車率および湿度のデータを学習アルゴリズムに適用し、係数aを算出する。
【0031】
このとき、学習データフィルタ条件は、例えば、「ドアが閉状態であること」である。学習データフィルタ条件は、学習実行部320における分析(学習)に用いられるデータの条件である。例えば、学習データフィルタ条件が「ドアが閉状態であること」である場合、ドアが閉状態であるときに測定された乗車率および湿度のデータが用いられる。逆に、ドアが開状態であるときに測定された乗車率および湿度のデータは除去される。車両100のドア(図示せず)の開閉状態は、車両制御装置120からドアへの指令、あるいは、ドアに設置されたセンサによってわかる。
【0032】
学習アルゴリズムは、回帰モデルまたは分類型モデルの具体的なモデル(式)を示す。本実施形態では、学習アルゴリズムは、例えば、y=a×xという線形回帰モデルである。学習アルゴリズムは、このモデル以外の線形回帰モデルであってもよく、非線形回帰モデルであってもよい。さらに、学習アルゴリズムは、分類型モデルであってもよい。
【0033】
学習対象編成は、制御パラメータ420の更新対象である列車編成の情報を示す。例えば、学習対象編成がA001編成およびA002編成である場合、学習実行部320は、学習データ期間においてA001編成およびA002編成から得られたデータ(例えば、乗車率、湿度、時刻)を用いて、回帰モデルの係数aを算出する。このとき、A001編成およびA002編成のドアが閉状態のときに測定されたデータが抽出される。
【0034】
モデル性能情報342は、上述のとおり、回帰モデルまたは分類型モデルとデータとの適合度を示す。モデル性能情報342は、例えば、学習アルゴリズムが回帰モデルである場合、モデル性能情報342は、回帰モデル(y=a×x)に対する各データの二乗誤差であってもよい。学習アルゴリズムが分類型モデルである場合、モデル性能情報342は、分類型モデルに対する各データの適合率、再現率、F値であってもよい。二条誤差、適合率、再現率、F値は、ユーザによって選択可能となっている。モデル性能情報342は、新たに生成された制御パラメータ420を車両100や列車編成に適用するか否かの判断に用いられる。
【0035】
学習開始契機情報343は、上述のとおり、学習実行部320がデータ分析を開始する条件を示す。学習開始契機情報343は、例えば、特定日または性能低下である。特定日または性能低下は、ユーザによって選択可能である。特定日が選択されかつ「毎月1日」である場合、学習実行部320は、毎月の1日になると、データ格納部310のデータおよび学習方法情報341を用いて自動でデータ分析を実行し、新たなモデルを生成する。あるいは、性能低下が選択されかつ「P%;前日データ」である場合、学習実行部320は、前日のデータと既存のモデルとの適合度を算出する。前日のデータが既存のモデルからP%以上乖離している場合、学習実行部320はモデル性能が低下しているものと判断する。この場合、学習実行部320は、データ格納部310のデータおよび学習方法情報341を用いて自動でデータ分析を実行し、新たなモデルを生成する。
【0036】
関係情報344は、上述のとおり、制御パラメータの名称と回帰モデルまたは分類型モデルに基づく制御パラメータの計算式との対応関係を示す。関係情報344は、例えば、制御パラメータ名と制御パラメータの計算方法との関係を示す。
図2では、制御パラメータ名が「param001」であり、それに対応する計算方法が「10/a」である。即ち、制御パラメータ「param001」は、式1で表される。
param001=10/a (式1)
この制御パラメータparam001は、説明変数xおよび目的変数yの定義によれば、データ測定時から10分後の湿度上昇が10%となる乗車率を表している。即ち、乗車率が制御パラメータparam001を超えた場合に、その10分後には湿度が10%上昇すると推定される。これにより、制御装置120は、乗車率に応じて、湿度の上昇を抑制するように予め空調装置130を切り替えることができる。
【0037】
制御パラメータ算出部410は、学習実行部320で生成されたモデルから式1を算出する。これにより、制御パラメータ「param001」の具体的数値が得られる。例えば、学習によって得られる係数aが0.256である場合、制御パラメータ算出部410は、式1の係数aに0.256を代入し、制御パラメータparam001を計算する。制御パラメータparam001=39% となる。これは、乗車率が39%の場合に、車両100内の湿度が10分後に10%上昇することを意味する。尚、モデルと制御パラメータとの関係情報344は、多数存在する場合もあるので、プログラムで記述されてもよい。
【0038】
次に、本実施形態による自動学習システム1の動作について説明する。
【0039】
図3は、第1実施形態による自動学習システム1の動作例を示すフロー図である。まず、サーバ200が車両100から様々な測定データを受信してデータ格納部310にバイナリ形式で圧縮して格納する(S10)。データは、例えば、車両100の温度、湿度、乗車率、ドアの開閉状態、日時等である。これらのデータは、周期的にサンプリングされ、日時に関連付けられてデータ格納部310に格納される。バイナリ形式データ(以下、バイナリデータは、データ格納部310内において、例えば、月ごとまたは日ごとにフォルダで区分けしてまとめられている。さらに、バイナリデータは、各データの項目または各データの属性ごとにフォルダで区分けしてまとめられている。
【0040】
図4Aは、データ格納部310内のバイナリデータの一例を示す概念図である。データは、測定された特定期間ごとに個別のフォルダに格納されている。例えば、データは、測定された月ごとに個別のフォルダに格納されている。さらに、データは、そのデータが関連する機器(属性)ごとに個別のフォルダに格納されている。例えば、空調に関するデータ、ブレーキに関するデータ、主回路に関するデータ、ドアに関するデータがそれぞれ個別のフォルダに格納されている。
【0041】
図4Bは、バイナリデータのデータ定義情報の一例を示す概念図である。バイナリデータのデータ項目およびそのデータに関連する機器(属性)は、データ格納部310の外部から判別できるようにデータ定義情報で定義されている。例えば、データ項目「外気温」、「湿度」、「空調運転モード」は、機器「空調」に関連する。データ項目「ドア開閉モード」は、機器「ドア」に関連する。データ定義情報によって、学習実行部320は、学習方法情報341の各項目に関連するデータをデータ格納部310から抽出することができる。
【0042】
尚、バイナリデータの格納の手法は、これに限定されない。従って、データ格納部310は、日ごとあるいは時間ごとにデータを個別のフォルダに格納してもよい。また、データ格納部310は、属性より詳細なデータ項目ごとに個別のフォルダに格納してもよい。このように、データをフォルダごとに区分けして格納することによって、学習実行部320が所望のデータにアクセスし易くなる。
【0043】
次に、学習実行部320は、学習項目格納部330の学習項目情報340を参照する。このとき、
図2の学習開始契機情報343に合致した学習項目情報がある場合(S20のYES)、学習実行部320は、自動的に学習を開始する。例えば、或る月の1日である場合、学習実行部320は、
図2の学習項目情報に従ってデータ分析を開始する。学習開始契機情報343に合致した学習項目情報が無い場合(S20のNO)、学習実行部320は、データ解析を実行することなく学習を終了する。
【0044】
データ分析を開始すると(S20のYES)、学習実行部320は、学習方法情報341の定義に従ってバイナリデータをデータ格納部310から抽出する(S30)。例えば、学習実行部320は、説明変数xのデータ項目として「乗車率」、目的変数yのデータ項目として「湿度」、学習データフィルタ条件のデータ項目として「ドア開閉モード」を
図4Bのデータ定義情報で検索し、それぞれのデータ項目に対応する機器(属性)「空調」、「ブレーキ」、「ドア」を特定する。さらに、学習実行部320は、学習方法情報341の学習対象編成および学習データ期間に従って、データ格納部310から「A001編成」および「A002編成」、かつ、「学習日より30日前~学習日より1日前」のフォルダの中から、
図4Aの機器「空調」、「ブレーキ」、「ドア」のフォルダを特定する。そして、学習実行部320は、この「空調」、「ブレーキ」、「ドア」のフォルダからバイナリデータを抽出する。
【0045】
次に、学習実行部320は、抽出されたバイナリデータをCSVデータに展開する(S40)。本実施形態において、学習実行部320は、学習に必要なデータに限定して展開する。よって、CSVデータを一時的に格納するために必要なメモリ容量は、全データを展開するために必要な容量よりもかなり小さくすることができる。また、展開後のCSVデータを読み込むために必要なメモリの容量も比較的小さくて済む。尚、効率化のために、さらに他の圧縮フォーマットを用いてもよい。
【0046】
次に、学習実行部320は、
図2で指定された学習方法情報341を用いて展開されたCSVデータを分析(学習)し、モデル(以下、第2モデル)を生成する(S50)。このとき、学習実行部320は、展開されたCSVデータを学習用データと性能評価用データとに分割する。学習実行部320は、学習用データおよび学習方法情報341を用いて第2モデルおよび係数a等を算出する。例えば、学習実行部320は、まず学習アルゴリズムとして線形回帰を用いて、乗車率と測定時から10分後の湿度データの関係を式y=a×xとしてモデル化する。yは測定時から10分後の湿度、xは乗車率、aは係数である。なお、通常は切片が存在するがここでは省略する。モデル化のため、まず学習実行部320は、乗車率データを保持したベクトルXと、乱数等によって決まる重みパラメータwを用いて、10分後の湿度データ予測値ベクトルY´を式2のように算出する。
Y´=X×w (式2)
【0047】
次に、学習実行部320は、10分後の湿度データベクトルYと、10分後の湿度データ予測値ベクトルY´から二乗誤差Eをもとめる。
【0048】
次に、学習実行部320は、二乗誤差Eが小さくなるよう、勾配降下法等によりパラメータwの値を更新する。学習実行部320はこの計算を繰り返すこととで、二乗誤差Eが最小となるパラメータwを求め、その値を係数aとする。学習用データが少なすぎるとa×xによる推定精度が低下するので、学習用データは、或る程度多い方がよい。係数aが決まると、第2モデルがy=a×xが決まる。例えば、上記のように、a=0.256であった場合、第2モデルは、y=0.256×xとなる。
【0049】
係数aが決まると、第2モデルとしてy=a×xが決まる。例えば、上記のように、a=0.256であった場合、第2モデルは、y=0.256×xとなる。
【0050】
次に、学習実行部320は、生成された第2モデルに性能評価用データを入力し、該第2モデルとデータとの適合度を示すモデル性能情報を計算する(S60)。モデル性能情報342は、例えば、二乗誤差、正解率、適合率、再現率、F値等から選択される。回帰モデルの場合には、二乗誤差が用いられる。このとき得られたモデル性能情報は、生成した第2モデルに関連付けられて学習項目格納部330に格納される。
【0051】
尚、モデル性能情報に閾値を予め設定しておき、第2モデルとデータとの適合度が閾値よりも低い場合に、学習実行部320は、その第2モデルを破棄してもよい。モデル性能情報の閾値は、学習項目格納部330に格納すればよい。
【0052】
次に、学習実行部320は、車両100に既に適用されている現バージョンのモデル(以下、第1モデル)を、学習項目格納部330より読み出す。また、学習実行部320は、第2モデルに対するモデル性能情報と同様に、同一の性能評価用データを用いて第1モデルについてモデル性能情報を計算する(S70)。さらに、学習実行部320は、性能評価用データに対する第1モデルの適合度を示す第1モデル性能情報と、性能評価用データに対する第2モデルの適合度を示す第2モデル性能情報とを比較する(S80)。
【0053】
第2モデル性能情報が第1モデル性能情報よりも適合度において高い場合(S80のYES)、制御パラメータ算出部410は、モデルと制御パラメータの関係情報344に、第2モデルを適用して、新しい制御パラメータ(第2制御パラメータ)を生成する(S90)。この場合、第2制御パラメータは、制御パラメータ格納部510に保存され、制御パラメータ送信部520から車両100へ送信される(S100)。第2制御パラメータは、パラメータ制御装置109で受信され、パラメータ格納部110に格納される。パラメータ制御装置109は、第1制御パラメータを第2制御パラメータで更新する(S110)。尚、適合度が高い場合とは、回帰モデルの二乗差が小さいこと、あるいは、分類型モデルの適合率、再現率、F値が大きいことを意味するが、他の指標であっても良い。また、第1モデル作成時の性能評価用データに対する第2モデルの適合度を求め、第1モデル作成時の第1モデルの適合度と比較することによって、第2モデルの汎化性能をより厳密に検証してもよい。
【0054】
第2モデル性能情報が第1モデル性能情報よりも適合度において低い場合(S80のNO)、制御パラメータ算出部410は、第2制御パラメータを生成しない。この場合、車両制御装置120は、既存の第1制御パラメータを更新せずにそのまま用いて車両100を制御する(S120)。このとき、第2モデルおよび第2制御パラメータは、破棄してよい。
その後、自動学習システム1は、
図3の学習および制御パラメータの更新を繰り返し実行する。これにより、車両100の車両の経年変化、環境変化、乗客の行動様式の変化等に適応した制御パラメータへ自動更新することができる。
【0055】
(制御パラメータ)
例えば、
図5Aは、車両100のパラメータ格納部110に格納されている制御パラメータの具体例を示す図である。
図5Bは、車両制御装置120の制御プログラムの一部の概略を示す図である。
【0056】
空調装置130は、冷房を強力に効かせる冷房強運転モードと、冷房を弱めに効かせる冷房弱運転モードとを自動で切り換えることができるとする。この冷房強運転モードと冷房弱運転モードとの切り替え条件は、既存の知見より、10分後の車内湿度が10%以上上昇する乗車率によって規定されている。この乗車率(第1制御パラメータ)は、
図5Aに示す制御パラメータ名「param001」に定義されており、現状、40%に設定されている。この乗車率40%は、第1制御パラメータとして車両100のパラメータ格納部110に、制御パラメータ名「param001」に関連付けられて格納されている。
図5Aには、その他の制御パラメータ「param002」、・・・「paramXXX」が設定されているが、ここでは、制御パラメータ「param001」に着目する。
【0057】
図5Bでは、もし、乗車率が「param001」で設定された40%を超えた場合に、車両制御装置120は、空調モードを切り替えることを記述している。
図5Bでは、空調モードについての記述は、省略されているが、本実施形態では、乗車率が40%を超えた場合に、車両制御装置120は、空調装置130を冷房強運転モードに切り替えるものとする。
【0058】
図3のステップS110において、既存の制御パラメータ(第1制御パラメータ)「param001」を第2制御パラメータで更新する場合、
図5Aのパラメータ格納部110の「param001」に定義された乗車率「Value=40」を第2制御パラメータの数値に更新すればよい。
【0059】
図5Aの「param001」で設定された「max」は、乗車率の上限を示し、「min」は、乗車率の下限を示す。乗車率の単位は、パーセントであるので、「max=100」であり、「min=0」である。制御パラメータの更新において、第2制御パラメータが0~100%以外の異常値である場合、第2制御パラメータは破棄する。このように、パラメータ格納部110は、第2制御パラメータの異常値を除くために、制御パラメータの上限値および下限値の設定も格納している。尚、制御パラメータの上限値および下限値は、安全面を考慮して更新されないように固定化することが好ましい。
【0060】
(モデル性能情報)
図6Aは、第1モデルM1と性能評価用データDとの関係を示すグラフである。ステップS70において、第1モデルについてモデル性能情報を計算する。このとき、第1モデルM1と性能評価用データDとの関係は、
図6Aのグラフのようになる。第1モデルM1の係数aは、例えば、0.18であり、第1モデル性能情報としての誤差率は、例えば、0.02である。
【0061】
図6Bは、第2モデルM2と性能評価用データDとの関係を示すグラフである。ステップS60において、第2モデルについてモデル性能情報を計算する。このとき、第2モデルM2と性能評価用データDとの関係は、
図6Bのグラフのようになる。第2モデルM2の係数aは、例えば、0.256であり、第2モデル性能情報としての誤差率は、例えば、0.01である。
【0062】
第1および第2モデル性能情報を比較すると、第2モデル性能情報の誤差率は、第1モデル性能情報の誤差率よりも低い。即ち、第2モデル性能情報は、第1モデル性能情報よりも適合度において高い。よって、この場合、ステップS90において、制御パラメータ算出部410は、新しい第2制御パラメータを生成し、第1制御パラメータは第2制御パラメータで更新される。
【0063】
(制御パラメータの更新)
図7Aは、第2モデルM2と第2制御パラメータを示すグラフである。
図7Bは、第2制御パラメータで更新後の制御パラメータの一例を示す図である。
【0064】
ステップS110において、第1制御パラメータを第2制御パラメータで更新する場合、パラメータ制御装置109は、パラメータ名でパラメータ格納部110を検索し、同一のパラメータ名を有する制御パラメータを更新する。例えば、第2制御パラメータのパラメータ名が「param001」である場合、パラメータ制御装置109は、パラメータ格納部110内の「param001」を検索して、それに対応する既存の第1制御パラメータを更新する。
図5Aに示すように第1制御パラメータが40%であり、
図7Aに示すように第2制御パラメータが39%(=10/0.256)である場合、車両制御装置120は、
図7Bに示すように、「param001」の40%を39%へ変更する。これにより、乗車率が39%を超えたときに、10分後の湿度は10%上昇すると推測されるので、車両制御装置120は、空調装置130を冷房強運転モードへ切り替える。
【0065】
尚、第1制御パラメータと第2制御パラメータとが同一値である場合には、第1制御パラメータは、第2制御パラメータで更新する必要はない。
【0066】
(制御パラメータの更新の承認)
第2制御パラメータは、制御パラメータ出力装置500から複数の車両100へ送信されてもよい。例えば、
図8は、第2制御パラメータの配信の許可または禁止を表示する表示部600の画面例を示す図である。配信対象は、第2制御パラメータを配信する列車編成を示す。この例では、編成P4515およびP5442が配信対象となっている。
【0067】
モデル性能情報は、第1および第2モデルのそれぞれのモデル性能情報を示している。
図6Aおよび
図6Bでは、モデル性能情報は、誤差率で示されているが、
図8では、正解率で示されている。表示部600に表示されるモデル性能情報は、特に限定されず、
図2に示すモデル性能情報342のいずれを表示してもよい。ここでは、第2モデルの正解率が第1モデルの正解率よりも高い。従って、第2モデルの適合度が第1モデルの適合度よりも高い。
【0068】
さらに、表示部600は、第2制御パラメータを上記列車編成の車両へ配信するか否かを選択できるアイコンを表示している。第2制御パラメータを配信する場合、ユーザは、「配信する」のアイコンを選択する。第2制御パラメータを配信しない場合、ユーザは、「配信しない」のアイコンを選択する。このように、ユーザが第2制御パラメータの配信の許可または禁止を選択可能にしてもよい。
【0069】
一般的に、鉄道事業者は車両の挙動が変化するような更新を行う場合、鉄道事業者内での承認を得る必要がある。従って、本実施形態による自動学習システム1は、第2制御パラメータを送信する際に、鉄道事業者に承認を促す画面を表示させることが好ましい。これにより、鉄道事業者の承認を得てから制御パラメータを更新することができる。その結果、車両100の運行の安全を確保することができる。
【0070】
また、サーバ200は、複数の列車編成と通信可能に接続されている。
図8に示すように、制御パラメータ出力装置500は、第2制御パラメータを、複数の列車編成のうち予め設定された一部の列車編成に出力してもよい。あるいは、制御パラメータ出力装置500は、第2制御パラメータを、通信接続された全ての列車編成に出力してもよい。この場合、各列車編成のパラメータ制御装置109は、配信された第2制御パラメータを受信すると、その第2制御パラメータの固有名称をパラメータ格納部110において検索する。第2制御パラメータの固有名称と一致する固有名称がある場合、その固有名称に対応する第1制御パラメータを第2制御パラメータで更新する。第2制御パラメータの固有名称と一致する固有名称が無い場合、その車両の制御パラメータは更新しない。
【0071】
複数の制御パラメータの更新が、同じタイミングで実行される場合がある。この場合、多数の制御パラメータの更新の承認が同時に必要になる。鉄道事業者が各制御パラメータの更新を個別に許可することは煩雑になる可能性がある。そこで、表示部600は、一定期間内に発生した複数の制御パラメータの更新処理について、一括承認を行うように設定してもよい。
【0072】
さらに、同一形式の列車編成であっても、管轄の車両区が異なる場合がある。この場合、表示部600は、車両区単位で列車編成を指定し、制御パラメータの配信を承認してもよい。このとき、表示部600は、所定の車両区だけでなく、任意の車両区を選択して制御パラメータの配信を承認できるようにしてもよい。
【0073】
さらに、制御パラメータによっては、鉄道事業者の承認を省略できる。この場合、表示部600は、
図8の「配信する」、「配信しない」とのアイコンの表示を省略し、承認をスキップしてもよい。
【0074】
このように、本実施形態によれば、車両100の製造時において想定していなかった機器の制御パラメータについても、一意の固有名称(識別子)を付与してパラメータ格納部110に登録しておくことによって、特定の制御パラメータに限定することなく、更新され得る。これにより、パラメータ格納部110に設定された全ての制御パラメータは、外部のサーバ200からの新しい制御パラメータで更新することができる。新しい制御パラメータは、車両からの測定データを用いて、サーバ200の自動学習によって得られるモデルから生成され得る。つまり、制御パラメータは、サーバ200の自動学習と、車両100の制御パラメータの検索および更新によって自動で更新され得る。
【0075】
制御パラメータの更新は、このように自動で実行してもよいが、ユーザが手作業で実行してもよい。制御パラメータの識別子には、jsonやxml等のデータ形式を含めてもよい。制御パラメータは、識別子と一対一に対応していてもよいが、1つの識別子に複数の制御パラメータが対応していてもよい。
【0076】
さらに、同一列車編成の複数の車両には、同一の機器が搭載されることが一般的である。従って、制御パラメータの識別子は、車両ごとに更新を可能とするために、例えば、車両番号と固有名称との組み合わせでもよい。
【0077】
(列車編成への配信方法の変形例)
一般に、自動学習によって生成されたモデルは、過去のデータに対する適合度を検証することは可能である。しかし、将来のデータに対する適合度は不明である。そのため、自動学習システム1によって生成された第2モデルおよび第2制御パラメータの性能は、車両100に適用するまで知ることはできない。このような状況において、制御パラメータの更新対象の列車編成の全てに第2制御パラメータを一斉に配信した場合、第2制御パラメータの性能が悪い場合には、列車編成に大きな障害を引き起こすリスクがある。
【0078】
そこで、本変形例による自動学習システム1は、鉄道事業者の承認後、予め登録された一部の列車編成のみに第2制御パラメータを配信する。そして、第2制御パラメータの性能を確認した後、更新対象の残りの列車編成に第2制御パラメータを配信するか否かを決定する。
【0079】
図9は、列車編成への配信方法の変形例を示すフロー図である。
図10A~
図10Cは、更新対象の列車編成における制御パラメータの更新状態を示す概念図である。
【0080】
まず、
図3のステップS10~S120を実行する。このとき、ステップS100において、制御パラメータ出力装置500は、第2制御パラメータを、更新対象の列車編成のうち一部の列車編成へ配信する。更新対象の列車編成のうち一部の列車編成の第1制御パラメータが第2制御パラメータで更新される。例えば、
図10Aに示すように、列車編成T1~T5のうち一部の列車編成T1、T2の第1制御パラメータP1が第2制御パラメータP2で更新される。
【0081】
次に、データ格納部310は、第2制御パラメータを用いて制御されている一部の列車編成からさらに更新データを収集して蓄積する(S130)。
【0082】
次に、更新データを用いて、第2モデルのモデル性能情報を計算する(S140)。このモデル性能情報の計算方法は、
図3のステップS60と同じでよい。このとき、学習実行部320は、第2モデルと更新データとを用いてモデル性能情報(更新モデル性能情報ともいう)を計算する。
【0083】
次に、学習実行部320は、第2モデルと更新データとの適合度(即ち、更新モデル性能情報)と閾値とを比較する(S150)。更新モデル性能情報が閾値より高い場合(S150のYES)、第2制御パラメータの性能が良好であることを示す。従って、制御パラメータ出力装置500は、第2制御パラメータを、更新対象の列車編成のうち他の列車編成(更新済み列車編成以外の列車編成)へ出力し配信する(S160)。これにより、更新対象の全ての列車編成の第1制御パラメータが、第2制御パラメータへ更新される。例えば、
図10Bに示すように、列車編成T1~T5の全ての第1制御パラメータP1が第2制御パラメータP2で更新される。
【0084】
一方、第2モデルと更新データとの適合度(即ち、更新モデル性能情報)が閾値より低い場合(S150のNO)、第2制御パラメータの性能が悪いことを示す。従って、制御パラメータ出力装置500は、第2制御パラメータを、更新対象の列車編成のうち他の列車編成(更新済み列車編成以外の列車編成)へ出力しない。また、車両100のパラメータ制御装置109は、更新車両の第2制御パラメータを第1制御パラメータに戻す(S170)。例えば、
図10Cに示すように、列車編成T1、T2の第2制御パラメータP2が第1制御パラメータP1に戻され、列車編成T3~T5は、第1制御パラメータP1のまま維持される。尚、
図10A~
図10Cの情報は、表示部600に表示してもよい。これにより、ユーザは、いずれの列車編成または車両の制御パラメータが更新済みか未更新かを一目で把握することができる。
【0085】
(パラメータ性能情報の可視化)
表示部600は、第1および第2制御パラメータごとに、パラメータ性能情報をグラフで表示してもよい。例えば、
図11Aは、制御パラメータ「param001」のグラフ表示の定義を示す図である。表示部600は、制御パラメータの固有名称、グラフのX軸、グラフのY軸、および、グラフ形式の入力画面を表示する。ユーザは、これらの項目を入力する。
図11Aでは、例えば、制御パラメータ「param001」について、乗車率と湿度との関係を散布図で表示するように入力されている。
【0086】
その結果、
図11Bおよび
図11Cに示すように、表示部600は、制御パラメータ「param001」の第1および第2制御パラメータP1、P2のそれぞれについて、乗車率と湿度との関係を示すグラフを表示する。
図11Bは、第1制御パラメータP1のパラメータ性能情報を示すグラフである。
図11Cは、第2制御パラメータP2のパラメータ性能情報を示すグラフである。
図11Bのデータは、第1制御パラメータP1を使用したときの測定データであり、
図11Cのデータは、第2制御パラメータP2を使用したときの測定データである。
【0087】
図11Bに示すように、第1制御パラメータP1では、乗車率が上昇すると、それとともに湿度が高くなっている。これは、乗客が不快を感じることになり、空調装置130の制御が適切でないことを示している。つまり、第1制御パラメータP1が現状の車両100に適合していないことを意味する。一方、
図11Cに示すように、第2制御パラメータP2では、乗車率が上昇しても、湿度はあまり変わらず一定に近い。これは、乗客が不快でなく、空調装置130の制御が適切であることを示している。つまり、第2制御パラメータP2が現状の車両100に適合していることを意味する。
【0088】
このように、表示部600が、制御パラメータの各バージョンに対応するデータをグラフ表示して可視化する。これにより、ユーザは、制御パラメータの性能を視覚的に容易に把握することができる。グラフの並べ方やレイアウトは、任意に変更してよい。グラフは、散布図のほか、度数分布表、箱ひげ図、折れ線グラフ等を指定可能としてもよい。さらに、表示部600は、グラフに補助線などを重ねて表示してもよい。
【0089】
(分類型モデル)
上記実施形態において、自動学習システム1は、学習アルゴリズムとして回帰モデルを用いている。しかし、自動学習システム1は、分類型モデルを用いてもよい。例えば、
図12は、或る3つのクラスC0~C2をとり得る変数を3分類する分類型モデルの一例を示す図である。この例では、分類型モデルとして、決定木モデルを採用している。勿論、本実施形態は、決定木モデル以外の分類型モデルを採用してもよい。
【0090】
始端ノードからクラスC2までの条件を制御パラメータとする。この場合、学習実行部320および制御パラメータ算出部410は、始端ノードから終端ノードのクラスC2までのパス上に存在する分岐条件を、一連の制御パラメータとして取り出す。モデルと制御パラメータの関係情報344は、このような制御パラメータを取り出すプログラムである。この制御パラメータの固有名称を、例えば、「param999」とし、要素ごとの区切り文字を:とすると、制御パラメータは、式3で表される。
param999 = a>3:b>20:a>10 (式3)
決定木モデルは、同じ変数が複数の階層で繰り返し用いられ得るため、正規化されたテーブルを用いて制御パラメータを表現することができない。そのため、始端ノードと終端ノードに至るルート上の分岐要素を、配列として格納する必要がある。
【0091】
以上のように、本実施形態による自動学習システム1は、列車編成の走行時に収集されるデータを自動学習して回帰モデルあるいは分類型モデルを生成し、そのモデルを用いて新しい第2制御パラメータを生成する。この第2制御パラメータを定期的に継続的に生成し、既存の第1制御パラメータを更新することによって、車両100の機器は、その時点の環境および状況に適合した制御パラメータで制御され得る。
【0092】
制御パラメータは、車両100のパラメータ格納部110において予め設定されており、それぞれ固有名称(識別子)を有する。これにより、制御パラメータの固有名称をもとに、既存の制御パラメータを新しい制御パラメータに更新(バージョンアップ)することができる。車両制御装置120は、パラメータ格納部110に格納されている制御パラメータを用いて車両100の機器を制御する。従って、制御パラメータを更新する際に、ユーザは、車両制御装置120の制御用プログラム自体を変更する必要はなく、サーバ200が自動学習によって制御パラメータを適切な値に自動で更新または維持することができる。
【0093】
車両100から収集される測定データは、バイナリ形式でデータ格納部310に格納される。従って、データ格納部310のデータ容量を小さくすることができる。
【0094】
さらに、本実施形態の自動学習システム1は、新しい第2制御パラメータを一部の列車編成に適用して、その一部の列車編成から収集された更新データから第2制御パラメータ、(即ち、第2モデル)の適合度を検証する。その後、自動学習システム1は、第2制御パラメータを、更新対象の全ての列車編成に適用する。これにより、第2制御パラメータが実際には車両100に適切でなかった場合であっても、列車編成の運用や保守に与える影響およびリスクを最小限に抑えることができる。
【0095】
(第2実施形態)
図13は、第2実施形態による自動学習システム1の構成例を示すブロック図である。第1実施形態では、サーバ200が地上に設置されている。これに対し、第2実施形態では、サーバ200が車両100に搭載されている。車両100内の機器やセンサによって生成されるデータは、外部へ送信されず、車両100内で処理される。第2実施形態のその他の構成および動作は、第1実施形態と同様である。よって、第2実施形態は、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0096】
本実施形態による自動学習システム1におけるデータ処理方法の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、データ処理方法の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。また、データ処理方法の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0097】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0098】
1 自動学習システム、100 車両、200 サーバ、109 パラメータ制御装置、110 パラメータ格納部、120 車両制御装置120 空調装置、140 温度湿度センサ、150 応荷重センサ、300 自動学習装置、400 制御パラメータ生成装置、500 制御パラメータ出力装置、600 表示部