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特開2022-168715標的miRNA及びその前駆体の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168715
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】標的miRNA及びその前駆体の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20221031BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20221031BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20221031BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20221031BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6806 Z ZNA
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074376
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮野 敦子
(72)【発明者】
【氏名】吉本 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 千絵
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QQ57
4B063QR06
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR42
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS39
4B063QX02
4B063QX10
(57)【要約】
【課題】血清等の試料において微量に含まれるmiRNA及びその前駆体を高い精度で検出し、それらの検出量を検体間で比較することによって疾患の罹患鑑別を可能とする方法を提供することである。
【解決手段】試料中の標的miRNA及びその前駆体を検出する方法であって、試料中のRNAを抽出するRNA抽出工程、前記抽出されたRNAの5’末端及び/又は3’末端にアダプターを連結するアダプター連結工程、前記アダプター連結工程で得られたアダプター連結RNAを逆転写して逆転写産物を得る逆転写工程、前記逆転写産物を核酸増幅法により増幅して増幅産物を得る増幅工程、前記増幅産物から、目的の範囲の長さを含む核酸分子を取得する取得工程、及び前記取得工程で取得された核酸分子の塩基配列を決定する塩基配列決定工程を含み、前記目的の範囲の長さはアダプター部分を除いた長さが15~33塩基長である方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の標的miRNA及びその前駆体を検出する方法であって、
試料中のRNAを抽出するRNA抽出工程、
前記抽出されたRNAの5’末端及び/又は3’末端にアダプターを連結するアダプター連結工程、
前記アダプター連結工程で得られたアダプター連結RNAを逆転写して逆転写産物を得る逆転写工程、
前記逆転写産物を核酸増幅法により増幅して増幅産物を得る増幅工程、
前記増幅産物から、目的の範囲の長さを含む核酸分子を取得する取得工程、及び
前記取得工程で取得された核酸分子の塩基配列を決定する塩基配列決定工程
を含み、
前記目的の範囲の長さはアダプター部分を除いた長さが15~33塩基長である方法。
【請求項2】
前記取得工程で取得する核酸分子は、アダプター部分を除いた長さが100塩基長以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塩基配列決定が次世代シークエンス法を用いる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
標的miRNA、その前駆体、及び/又はその断片のリード数を測定する測定工程
をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記試料が体液である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
疾患の罹患鑑別を補助する方法であって、
被検体及び対照体に由来する体液からRNAを抽出するRNA抽出工程、
前記抽出されたRNAの5’末端及び/又は3’末端にアダプターを連結するアダプター連結工程、
前記アダプター連結工程で得られたアダプター連結RNAを逆転写して逆転写産物を得る逆転写工程、
前記逆転写産物を核酸増幅法により増幅して増幅産物を得る増幅工程、
前記増幅産物から、目的の範囲の長さを含む核酸分子を取得する取得工程、
前記取得工程で取得された核酸分子の塩基配列を次世代シークエンス法によって決定する塩基配列決定工程、
標的miRNA、その前駆体、及び/又はその断片のリード数を測定する工程、及び
被検体及び対照体のリード数を比較して、被検体のリード数が対照体のリード数と異なる場合に、被検体が疾患に罹患していると判定する工程
を含み、前記目的の範囲の長さはアダプター部分を除いた長さが15~33塩基長である方法。
【請求項7】
前記対照体が健常体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記体液が、血液、血清、血漿、髄液、尿、組織液、及び唾液からなる群より選択される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記疾患が癌である、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的miRNA及びその前駆体を検出する方法、並びに疾患の罹患鑑別を補助する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
個体の疾患情報を解析するために細胞や組織等の試料中で核酸を検出する方法として、PCR法、マイクロアレイ法、及び質量分析法等が実施されてきた。これらに加えて、近年では次世代シークエンス法を用いて核酸を検出する方法が注目されている。
【0003】
次世代シークエンス法は、膨大な数のDNA断片の配列情報を一度に同時に得ることを可能とする技術である。この技術により、1回の分析で得られる配列情報の量は、PCR法やマイクロアレイ法等の従来技術と比較して飛躍的に増大した。次世代シークエンス法を被験者から得られる生体試料中の核酸の分析に適用することによって、疾患情報を極めて高い精度で解析できるようになることが期待されている。
【0004】
生体試料中の核酸から被験者の疾患情報を解析する場合、主に伝令RNA(mRNA)やマイクロRNA(miRNA)等のRNAが解析の対象となる。ところが、RNA全体では一般にリボソームRNA(rRNA)が約80%と大部分を占めており、次いで転移RNA(tRNA)が10%以上を占めている。一方、mRNAは数%に過ぎず、miRNAの割合はさらに少ない。それ故、特にmiRNAを解析の対象とする場合には、ノイズとなるrRNA等をシーケンシング前に試料から除去するステップが必要とされている。しかし、miRNAの配列長は20~25塩基長と短いため、他のRNAからの分離が容易ではない。
【0005】
例えばイルミナ社の方法(非特許文献1)では、5’アダプターと3’アダプターをmiRNAの両端に連結した後で逆転写及びPCR増幅を行い、電気泳動を行った後、miRNA成熟体の配列長(21~25塩基長)とアダプター配列長(5’側及び3’側を合わせた130塩基長)とを合わせた長さが含まれる145~160bpの範囲をゲルから切り出すライブラリ調製方法が提案されている。このような場合、ノイズを減らす目的でrRNA等に由来する核酸断片を対象範囲から排除することが当業者の技術常識になっており、上記の例では160bpを超えるサイズの核酸断片を混入させないことが必要となる。この方法ではmiRNAの回収率が低下する懸念があるものの、miRNAが比較的多く含まれる細胞や組織等を対象とする場合には有効である。
【0006】
一方、血清のようにmiRNAが非常に微量に含まれる試料を対象とする場合には、サンプルからのmiRNAの回収率が極めて重要となるため、ゲルや磁気ビーズで夾雑物を除去する際にmiRNAが失われる影響が無視できなくなる。それ故、血清等の試料では発現量の差を検出するために十分なmiRNA量を得ることができず、その検出結果に基づいてがん等の疾患を判別することはできなかった。
【0007】
したがって、miRNAが非常に微量に含まれる試料においても、検体間でその発現量の差を検出するための新たな技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第8,999,677号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】イルミナ株式会社、「BaseSpaceで達成するSmall RNA発現解析」、2016年3月28日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、血清等の試料において微量に含まれるmiRNA及びその前駆体を高い精度で検出し、それらの検出量を検体間で比較することによって疾患の罹患鑑別を可能とする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく、癌患者及び健常者の血清から、従来の技術常識に反してmiRNA成熟体のみならずmiRNA前駆体も含まれるように核酸分子を取得し、次世代シークエンス法による配列決定を行った。その結果、miRNA成熟体又はmiRNA前駆体のいずれか単独の発現量を比較した場合には、がん検体と健常検体との間で差が検出されなかった。一方、miRNA成熟体とmiRNA前駆体の発現量を足し合わせた発現量を比較対象として用いた場合に初めてがん検体と健常検体との間で差が検出されることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は、当該知見に基づくものであって以下を提供する。
【0012】
(1)試料中の標的miRNA及びその前駆体を検出する方法であって、試料中のRNAを抽出するRNA抽出工程、前記抽出されたRNAの5’末端及び/又は3’末端にアダプターを連結するアダプター連結工程、前記アダプター連結工程で得られたアダプター連結RNAを逆転写して逆転写産物を得る逆転写工程、前記逆転写産物を核酸増幅法により増幅して増幅産物を得る増幅工程、前記増幅産物から、目的の範囲の長さを含む核酸分子を取得する取得工程、及び前記取得工程で取得された核酸分子の塩基配列を決定する塩基配列決定工程を含み、前記目的の範囲の長さはアダプター部分を除いた長さが15~33塩基長である方法。
(2)前記取得工程で取得する核酸分子は、アダプター部分を除いた長さが100塩基長以下である、(1)に記載の方法。
(3)前記塩基配列決定が次世代シークエンス法を用いる、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)試料中の標的miRNA及びその前駆体を検出する方法であって、試料中のRNAを抽出するRNA抽出工程、前記抽出されたRNAから、目的の範囲の長さを含む核酸分子を取得する取得工程、及び前記取得工程で取得された核酸分子の塩基配列を決定する塩基配列決定工程を含み、前記目的の範囲の長さが15~33塩基長である方法。
(5)前記取得工程で取得する核酸分子の長さが100塩基長以下である、(4)に記載の方法。
(6)前記塩基配列決定がダイレクトRNAシークエンス法を用いる、(4)又は(5)に記載の方法。
(7)標的miRNA、その前駆体、及び/又はその断片のリード数を測定する測定工程をさらに含む、(3)又は(6)に記載の方法。
(8)前記標的miRNAがhsa-miR-16-5p、hsa-miR-483-3p、hsa-miR-4492、hsa-miR-3648-1及びhsa-miR-663aからなる群より選択されるいずれか一以上である、(7)に記載の方法。
(9)前記試料が体液である、(1)~(8)のいずれかに記載の方法。
【0013】
(10)疾患の罹患鑑別を補助する方法であって、被検体及び対照体に由来する体液からRNAを抽出するRNA抽出工程、前記抽出されたRNAの5’末端及び/又は3’末端にアダプターを連結するアダプター連結工程、前記アダプター連結工程で得られたアダプター連結RNAを逆転写して逆転写産物を得る逆転写工程、前記逆転写産物を核酸増幅法により増幅して増幅産物を得る増幅工程、前記増幅産物から、目的の範囲の長さを含む核酸分子を取得する取得工程、前記取得工程で取得された核酸分子の塩基配列を次世代シークエンス法によって決定する塩基配列決定工程、標的miRNA、その前駆体、及び/又はその断片のリード数を測定する工程、及び被検体及び対照体のリード数を比較して、被検体のリード数が対照体のリード数と異なる場合に、被検体が疾患に罹患していると判定する工程を含み、前記目的の範囲の長さはアダプター部分を除いた長さが15~33塩基長である方法。
(11)疾患の罹患鑑別を補助する方法であって、被検体及び対照体に由来する体液からRNAを抽出するRNA抽出工程、前記抽出されたRNAから、目的の範囲の長さを含む核酸分子を取得する取得工程、前記取得工程で取得された核酸分子の塩基配列をダイレクトRNAシーケンス法によって決定する塩基配列決定工程、標的miRNA、その前駆体、及び/又はその断片のリード数を測定する工程、及び被検体及び対照体のリード数を比較して、被検体のリード数が対照体のリード数と異なる場合に、被検体が疾患に罹患していると判定する工程を含み、前記目的の範囲の長さはアダプター部分を除いた長さが15~33塩基長である方法。
(12)前記対照体が健常体である、(10)又は(11)に記載の方法。
(13)前記体液が、血液、血清、血漿、髄液、尿、組織液、及び唾液からなる群より選択される、(10)~(12)のいずれかに記載の方法。
(14)前記疾患が癌である、(10)~(13)のいずれかに記載の方法。
(15)前記癌が乳癌又は膵癌である、(14)に記載の方法。
(16)前記癌が乳癌であり、前記標的miRNAがhsa-miR-16-5p、hsa-miR-483-3p、及びhsa-miR-4492から選択されるいずれか一以上である、(14)に記載の方法。
(17)前記癌が膵癌であり、前記標的miRNAがhsa-miR-3648-1又はhsa-miR-663aである、(14)に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、血清等の試料中で微量に含まれるmiRNAを高い精度で検出し、検体間でmiRNA検出量を比較することによって疾患の罹患鑑別を可能とする方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の方法における取得工程で取得する核酸分子の範囲を例示する図である。取得工程では、アダプター部分を除いた塩基長で15~33塩基長の範囲が含まれるように核酸分子を取得する。取得工程で取得される核酸分子の範囲の一部を図中の両矢印により例示する。
図2】乳癌患者及び健常者の血清から検出された、miRNA成熟体、miRNA前駆体、及びmiRNA成熟体とmiRNA前駆体の両方のリード数を示す図である。図はhsa-miR-16-5pの成熟体、前駆体、及びその両方のリード数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.標的miRNA及びその前駆体の検出方法(逆転写工程を含む場合)
1-1.概要
本発明の第1の態様は、標的miRNA及びその前駆体の検出方法である。本態様の検出方法は、必須工程としてRNA抽出工程、アダプター連結工程、逆転写工程、増幅工程、取得工程、及び塩基配列決定工程を含み、血清のようにmiRNAが非常に微量に含まれる試料から高い精度で標的miRNA及びその前駆体を検出することができる。本態様の検出方法は逆転写工程を含み、逆転写工程後の核酸を塩基配列決定に供する点で第2態様の検出方法と異なる。
【0017】
1-2.用語の定義
本明細書中で使用する「ヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」、「DNA」、「RNA」等の略号による表示は、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)及び当技術分野における慣用に従うものとする。
【0018】
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNA、DNA、及びRNA/DNA(キメラ)のいずれも包含する核酸に対して用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNA、miRNA、siRNA、snoRNA、snRNA、non-coding RNA及び合成RNAのいずれもが含まれる。本明細書において「合成DNA」及び「合成RNA」は、所定の塩基配列(天然型配列又は非天然型配列のいずれでもよい。)に基づいて、例えば自動核酸合成機を用いて、人工的に作製されたDNA及びRNAをいう。本明細書において「非天然型配列」は、広義の意味に用いることを意図しており、天然型配列と異なる、例えば1以上のヌクレオチドの置換、欠失、挿入及び/又は付加を含む配列(すなわち、変異配列)、1以上の修飾ヌクレオチドを含む配列(すなわち、修飾配列)、などを包含する。また、本明細書では、ポリヌクレオチドは核酸と互換的に使用される。
【0019】
本明細書において「断片」とは、ポリヌクレオチドの連続した一部分の塩基配列を有するポリヌクレオチドである。本明細書では、特にmiRNA又はmiRNA前駆体の断片を意味する。miRNA又はmiRNA前駆体の断片は、読まれた塩基配列からmiRNA遺伝子を同定できる十分な長さであることが好ましく、例えば、12塩基以上、15塩基以上、好ましくは17塩基以上、より好ましくは19塩基以上の長さを有することが望ましい。
【0020】
本明細書において「遺伝子」とは、RNA、及び2本鎖DNAのみならず、それを構成する正鎖(又はセンス鎖)又は相補鎖(又はアンチセンス鎖)などの各1本鎖DNAを包含することを意図して用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。
【0021】
従って、本明細書において「遺伝子」は、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNA、1本鎖DNA(正鎖)、当該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)(例えばcDNA)、マイクロRNA(miRNA)、これらの断片、及びそれらの転写産物のいずれも含む。なお、「遺伝子」は、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン又はイントロンを含むことができる。
【0022】
本明細書において「転写産物」とは、遺伝子のDNA配列を鋳型にして合成されたRNAのことをいう。RNAポリメラーゼが遺伝子の上流にあるプロモーターと呼ばれる部位に結合し、DNAの塩基配列に相補的になるように3’末端にリボヌクレオチドを結合させていく形でRNAが合成される。このRNAには遺伝子そのもののみならず、発現制御領域、コード領域、エキソン又はイントロンをはじめとする転写開始点からポリA配列の末端にいたるまでの全配列が含まれる。
【0023】
本明細書において「プライマー」とは、ポリヌクレオチド鎖の一部を特異的に認識し、ポリヌクレオチド鎖を鋳型とするポリメラーゼ反応の起点となるオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドである。プライマーは通常一本鎖であり、ポリメラーゼ反応の鋳型となるポリヌクレオチド鎖の一部に相補的な塩基配列であることが好ましい。
【0024】
本明細書において「アダプター」とは、ポリヌクレオチド鎖の5’末端及び/又は3’末端に連結されるオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドである。本明細書では、ポリヌクレオチド鎖の5’末端及び3’末端に連結されるアダプターをそれぞれ5’アダプター及び3’アダプターという。本発明では、アダプターはDNAアダプター又はRNAアダプターのいずれであってもよいが、RNAアダプターであることが好ましい。
【0025】
本明細書において「マイクロRNA(miRNA;microRNA)」は、特に断りのない限り、ヘアピン様構造のRNA前駆体として転写され、RNase III切断活性を有するdsRNA切断酵素により切断され、RISCと称するタンパク質複合体に取り込まれ、mRNAの翻訳抑制に関与する15~25塩基又は19~25塩基の非コーディングRNAをいう。miRNAは、ゲノム上のmiRNA遺伝子にコードされており、ヒトゲノムには1000種類以上のmiRNA遺伝子が存在する。miRNA遺伝子はRNAポリメラーゼIIによって一本鎖RNAに転写され、RNA配列内で結合してヘアピンループ型の二本鎖構造となる。この構造を有するmiRNAはprimary miRNA(pri-miRNA)と呼ばれる。pri-miRNAはDroshaタンパク質によって切断されてprecursor miRNA(pre-miRNA)となり、次いでDicerタンパク質によってプロセシングを受けて二本鎖miRNAを形成する。二本鎖miRNAの一方の鎖はArgonauteタンパク質(本明細書では「Agoタンパク質」と表記する)と結合してRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)を形成する。本明細書では、miRNAは、特に断りのない限り、miRNA成熟体を意味する。
【0026】
本明細書において「miRNA前駆体」は、miRNAが成熟する過程で生成し得る、未成熟なmiRNAをいう。miRNA前駆体の具体例としては、限定しないが、前述のpri-miRNAやpre-miRNAが挙げられる。
【0027】
本明細書で使用される「hsa-miR-16-5p」という用語には、配列番号1に記載のhsa-miR-16-5p(miRBase Accession No.MIMAT0000069)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。また、hsa-miR-16-5pの前駆体としては、ヘアピン様構造をとるhsa-mir-16-1(miRBase Accession No.MI0000070、配列番号6)が知られている。
【0028】
本明細書で使用される「hsa-miR-483-3p」という用語には、配列番号2に記載のhsa-miR-483-3p(miRBase Accession No.MIMAT0002137)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。また、hsa-miR-483の前駆体としては、ヘアピン様構造をとるhsa-mir-483(miRBase Accession No.MI0002467、配列番号7)が知られている。
【0029】
本明細書で使用される「hsa-miR-4492」という用語には、配列番号3に記載のhsa-miR-4492(miRBase Accession No.MIMAT0019027)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。また、hsa-miR-4492の前駆体としては、ヘアピン様構造をとるhsa-mir-4492(miRBase Accession No.MI0016854、配列番号8)が知られている。
【0030】
本明細書で使用される「hsa-miR-3648-1」という用語には、配列番号4に記載のhsa-miR-3648-1(miRBase Accession No.MIMAT0018068)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。また、hsa-miR-3648-1の前駆体としては、ヘアピン様構造をとるhsa-mir-3648-1(miRBase Accession No.MI0016048、配列番号9)が知られている。
【0031】
本明細書で使用される「hsa-miR-663a」という用語には、配列番号5に記載のhsa-miR-663a(miRBase Accession No.MIMAT0003326)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。また、hsa-miR-663aの前駆体としては、ヘアピン様構造をとるhsa-mir-663a(miRBase Accession No.MI0003672、配列番号10)が知られている。
【0032】
「次世代シークエンス法(Next Generation Sequencing; NGS)」とは、近年開発されたシークエンス方法を第1世代であるサンガー法(ジデオキシ法)と区別して呼ぶ総称である。次世代シークエンス法には、第2世代に分類されるシークエンス法、及びそれ以降に開発されたシークエンス法、例えば第3世代のシークエンス法が含まれる。第2世代のシークエンス法は、数千万から数億といった膨大な数のDNA断片の塩基配列を同時並行的に決定する方法である。その具体例としては、パイロシークエンス法(Pyrosequencing)、合成シークエンス法(Sequencing by synthesis)、ライゲーションシークエンス法(Sequencing by ligation)、及びイオン半導体シークエンス法等が挙げられる。パイロシークエンス法は、DNA合成時に放出されるピロリン酸の検出に基づく方法であり、ピロリン酸はルシフェラーゼ酵素等を用いて検出される。合成シークエンス法は、可逆的ターミネーターを用いて一塩基ずつ配列決定する方法である。ライゲーションシークエンス法は、DNAリガーゼのミスマッチ感受性に基づく方法である。イオン半導体シークエンス法は、DNA合成時に放出される水素イオンの検出に基づく方法である。第3世代のシークエンス法の例としては、1分子リアルタイムシークエンス法等の1分子シークエンス法が挙げられる。なお、本明細書では、第2世代以降のシークエンス法はいずれも次世代シークエンス法に包含されるものとする。次世代シークエンス法において解析されたDNA断片は「リード(読み取り断片)」と呼ばれ、DNA断片が読まれた回数は「リード数」と呼ばれる。また、リードの長さ(塩基長)は「リード長」と呼ばれる。
【0033】
「1分子シークエンス法」は、第2世代の次世代シークエンス法と比べて、リードが長い配列データを得ることを可能とするシークエンス方法である。1分子シークエンス法の具体例としては、1分子シークエンサーとしてPacBio RSII, Sequel(パシフィックバイオサイエンス社)を用いる方法や、MinION(オックスフォードナノポアテクノロジー社)に代表されるナノポアシークエンサーを用いる方法が挙げられる。
【0034】
「ダイレクトRNAシークエンス法」とは、逆転写することなくRNA分子そのものの配列を読みとる方法をいう。RNAをシークエンスする従来法では一般にRNAをcDNAに変換する必要があるのに対して、ダイレクトRNAシークエンス法では逆転写やPCRのバイアスなしにRNAの配列を決定することができる。ダイレクトRNAシークエンス法の例としては、MinION(オックスフォードナノポアテクノロジー社)等のナノポアシークエンサーを用いるナノポアシークエンス法が挙げられる。
【0035】
「ナノポアシークエンス法」とは、シークエンスの対象とする核酸分子の末端にモータータンパク質が付加されたアダプター配列を付加し、モータータンパク質により核酸分子がナノポアと呼ばれるナノスケールの穴に押し込まれ、核酸分子が膜を通過する際に生じる電流変化により塩基配列を決定する方法である。ナノポアシークエンス法は、オックスフォードナノポアテクノロジー社が提供しているMinION、PromethION、GridION、Flongle、SmidgION等を用いて行うことができる。
【0036】
本明細書で使用する「検出」という用語は、検査、測定、判定又は、判定支援という用語で置換しうる。また、本明細書において「評価」という用語は、検査結果又は測定結果に基づいて診断又は評価を支援することを含む意味で使用される。
【0037】
本明細書において「被検体」は、ヒト、チンパンジーを含む霊長類、イヌ、ネコ等のペット動物、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜動物、マウス、ラット等の齧歯類、動物園で飼育される動物等の哺乳動物を意味する。好ましい被検体は、ヒトである。
【0038】
本明細書において検出又は診断の対象となる「試料」とは、被検体又は健常体もしくは健常体群から採取され、本発明の検出方法等に供されるものであって、例えば、体液、細胞、組織、その他、便、毛髪等が挙げられる。体液の例として、髄液、間質液、血液(血清、血漿及び間質液を含む)、リンパ液、各組織もしくは細胞の抽出液、胸水、痰、涙液、鼻汁、唾液、尿等が挙げられる。血液は血液から調整された血清又は血漿であってもよい。組織及び細胞は、例えば被検体の疾患に罹患している又は罹患可能性のある組織及び細胞、並びに健常体における対応する組織及び細胞が該当し、例えば肝臓、膵臓、肺、食道、腎臓、卵巣、胃、大腸、前立腺、又は乳房に由来する組織又は細胞であってもよい。試料は、上記に加えて、これらから抽出された生体試料、具体的にはmiRNA等のRNAであってもよい。
【0039】
本明細書において「健常体」とは、特定の疾患に罹患していない個体、好ましくはいかなる疾患にも罹患していない個体をいう。ただし、本明細書では健常細胞も広義の健常体に含むものとする。したがって、個体レベルのみならず、例えば、がん患者から採取した組織のうちの正常部分のように、細胞レベルで健常状態にあれば健常体と称することとする。
【0040】
本明細書で使用される「P」又は「P値」とは、統計学的検定において、帰無仮説の下で実際にデータから計算された統計量よりも極端な統計量が観測される確率を示す。したがって「P」又は「P値」が小さいほど、比較対象間に有意差があるとみなせる。
【0041】
本明細書において「数個」とは、約10、9、8、7、6、5、4、3又は2個の整数を意味する。
【0042】
本明細書において「複数個」とは、例えば、2~20個、2~18個、2~16個、2~14個、2~12個、2~10個、2~8個、2~7個、2~6個、2~5個、2~4個又は2~3個をいう。
【0043】
1-3.方法
本態様の検出方法は、必須工程としてRNA抽出工程、アダプター連結工程、逆転写工程、増幅工程、取得工程、及び塩基配列決定工程を含み、選択工程として測定工程を含む。
【0044】
(RNA抽出工程)
「RNA抽出工程」とは、試料中のRNAを抽出する工程である。
一実施形態において、試料は体液であってもよい。好ましい体液の例としては、血液、血清、血漿、髄液、尿、組織液、及び唾液が挙げられる。
【0045】
試料からRNAを抽出する方法は、特に限定しない。例えば、一般的な酸性フェノール法(Acid Guanidinium-Phenol-Chloroform(AGPC)法)を用いてもよく、酸性フェノールを含むRNA抽出用試薬を用いることができる。本工程に用いることができるRNA抽出用試薬の例としては、3D-Gene(登録商標)RNA extraction reagent from liquid sample kit(東レ株式会社)中のRNA抽出用試薬、Trizol(登録商標)(Life Technologies社)、Isogen(ニッポンジーン社、日本国)等が挙げられる。さらに、miRNeasy(登録商標)Mini Kit(Qiagen社)などのキットを利用できるが、これらの方法に限定されない。RNA抽出キットは、キアゲン社、タカラバイオ社、TOYOBO社、Thermo Fisher Scientific社、プロメガ社等の各ライフサイエンスメーカーから市販されており、それらを利用することもできる。
【0046】
試料として組織からRNAを抽出する場合には、RNAの収率を上げるためにRNA抽出前に界面活性剤及び/又はプロテアーゼを含む溶液中で組織を溶解させることが好ましいが、血清等の体液を用いる場合には界面活性剤及び/又はプロテアーゼによる処理を省略してもよい。また、RNA抽出後のRNAは、必要に応じて精製することもできる。
【0047】
(アダプター連結工程)
「アダプター連結工程」とは、RNA抽出工程において抽出されたRNAの5’末端及び/又は3’末端にアダプターを連結する工程である。
【0048】
5’末端に連結される5’アダプターと3’末端に連結される3’アダプターのRNAへの連結反応はいずれが先であってもよく、又は同時であってもよい。通常は、5’末端と3’末端に5’アダプターと3’アダプターをそれぞれ連結するために、3’アダプターが先に連結され、5’アダプターが後に連結される。例えば、RNAの5’末端を脱リン酸化した後に3’アダプターをRNAの3’末端に連結し、続いてRNAの5’末端をリン酸化した後に5’アダプターをRNAの5’末端に連結することができる。このような連結反応にはT4 RNAリガーゼ等のRNAリガーゼを用いることができるが、アダプターをRNAの3’末端に選択的に連結することができるRNAリガーゼ変異体、例えばT4 RNAリガーゼ2、truncatedを用いれば脱リン酸化/リン酸化のステップを省略することができる。
【0049】
5’アダプターは、後述の増幅工程においてプライマーが結合できるようにプライマーの塩基配列に相補的な配列を有することが好ましい。また、3’アダプターは、後述の逆転写工程においてプライマーが結合できるようにプライマーの塩基配列に相補的な配列を有することが好ましい。
【0050】
また、5’アダプター及び/又は3’アダプターは、試料中のユニークなRNA分子を識別するためのインデックス配列又はバーコード配列を含んでもよい。
【0051】
本工程に用いるアダプターの塩基長は特に限定しない。5’アダプターと3’アダプターの塩基長は同一であっても異なっていてもよい。アダプターの塩基長は、例えば10~300塩基長、20~200塩基長、又は30~150塩基長であってもよい。好ましくは40~100塩基長、50~80塩基長、又は60~70塩基長であってもよい。
【0052】
本工程で、RNAの5’末端及び/又は3’末端にアダプターが連結されたアダプター連結RNAが得られる。アダプターの連結により、後述する逆転写工程及び増幅工程で使用するプライマーの結合配列が付加され、効率的な逆転写及び核酸増幅が可能となる。
【0053】
(逆転写工程)
「逆転写工程」とは、アダプター連結工程で得られたアダプター連結RNAを逆転写して逆転写産物を得る工程である。逆転写工程は、アダプター連結工程で得られたアダプター連結RNAを鋳型として、プライマーと逆転写ポリメラーゼ等の酵素を用いて、逆転写産物(cDNA)を生成する工程である。
【0054】
本工程で用いるプライマーは、アダプター連結RNAの少なくとも一部、好ましくはアダプター連結工程でRNAの3’末端に連結された3’アダプターの少なくとも一部に相補的な配列を有するプライマーを使用することができる。
【0055】
本工程で用いる逆転写方法は、当該分野で公知のいずれかの方法を使用することができる。例えば、Green & Sambrook, Molecular Cloning, 2012, Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載の逆転写方法に準じて行えばよい。
【0056】
(増幅工程)
「増幅工程」とは、逆転写工程で得られる逆転写産物を核酸増幅法により増幅して増幅産物を得る工程である。
【0057】
本明細書において「核酸増幅法」とは、プライマーを用いて、核酸ポリメラーゼにより核酸を増幅させる方法をいう。例えば、PCR法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法(等温遺伝子増幅法)、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)(登録商標)法が挙げられる。本発明で使用する核酸増幅法について限定はしないが、好ましくはPCR法であり、通常は熱耐性DNAポリメラーゼを使用する。
【0058】
本工程で用いるプライマーは、逆転写工程で得られる逆転写産物(cDNA)を増幅できるように、逆転写産物の少なくとも一部、好ましくは逆転写工程で使用したプライマーの少なくとも一部に相補的な配列を有するプライマーを使用することができる。
【0059】
プライマーは、試料ごとに異なるインデックス配列又はバーコード配列を含んでもよい。そのようなインデックス配列又はバーコード配列の使用により、異なる試料に由来する核酸分子のライブラリをプールして、次世代シークエンス法による配列決定を一度に行う、低コストかつハイスループットなマルチプレックス解析が可能となる。
【0060】
各核酸増幅方法については、当該分野で公知であり、各種プロトコルに記載の条件を参考に行えばよい。プロトコル集の例として、前述のGreen, MR and Sambrook, J,(2012)、Domingues L.(2017) PCR: Methods and Protocols, Methods in Molecular Biology, Humana Press、又はPark DJ,(2010) PCR Protocols, Methods in Molecular Biology, Third Edition, Humana Press等が挙げられる。また、核酸増幅用のキットがライフサイエンスメーカーから市販されており、それらを利用することもできる。その場合、核酸増幅方法の条件等については、添付又は各メーカーが推奨するプロトコルに従えばよい。
【0061】
(取得工程)
「取得工程」とは、増幅工程で増幅された様々な長さの増幅産物から、目的の範囲の長さを含む核酸分子を取得する工程である。ここで、「目的の範囲の長さ」とは、増幅産物からアダプター部分を除いた領域のうち、取得される範囲にmiRNAに由来する核酸分子とmiRNA前駆体に由来する核酸分子の両方が含まれるように決定される長さであって、その具体的な長さは15~33塩基長である。なお、本発明においては、特段の断りのない限り、核酸分子の塩基長を記載した場合、それはアダプター部分を除いた塩基長とする。
【0062】
本工程において「目的の範囲の長さを含む核酸分子を取得する」とは、前記増幅産物から所定の長さを有する核酸分子(ヌクレオチド断片)を取得範囲として取得する際に、前記目的の範囲の長さである15~33塩基長の増幅産物がその取得範囲に必ず含まれるように、前記増幅産物から核酸分子を取得することを意味する。したがって本工程で取得する核酸分子の塩基長の範囲は、その下限は15塩基長以下であれば制限されず、その上限は33塩基長以上であれば制限されない。取得する核酸分子の塩基長の範囲の例としては、15~33塩基長、15~34塩基長、15~35塩基長、15~36塩基長、15~37塩基長、15~38塩基長、15~39塩基長、15~40塩基長、15~45塩基長、15~46塩基長、15~50塩基長、15~55塩基長、15~60塩基長、15~65塩基長、15~70塩基長、15~75塩基長、15~80塩基長、15~85塩基長、15~90塩基長、15~95塩基長、15~100塩基長、15~110塩基長、15~120塩基長、15~130塩基長、15~140塩基長、15~150塩基長、15~160塩基長、15~170塩基長、15~180塩基長、15~190塩基長、15~200塩基長、15~300塩基長、もしくは15~1000塩基長;14~33塩基長、14~34塩基長、14~35塩基長、14~36塩基長、14~37塩基長、14~38塩基長、14~39塩基長、14~40塩基長、14~45塩基長、14~46塩基長、14~50塩基長、14~55塩基長、14~60塩基長、14~65塩基長、14~70塩基長、14~75塩基長、14~80塩基長、14~85塩基長、14~90塩基長、14~95塩基長、14~100塩基長、14~110塩基長、14~120塩基長、14~130塩基長、14~140塩基長、14~150塩基長、14~160塩基長、14~170塩基長、14~180塩基長、14~190塩基長、14~200塩基長、14~300塩基長、もしくは14~1000塩基長;13~33塩基長、13~34塩基長、13~35塩基長、13~36塩基長、13~37塩基長、13~38塩基長、13~39塩基長、13~40塩基長、13~45塩基長、13~46塩基長、13~50塩基長、13~55塩基長、13~60塩基長、13~65塩基長、13~70塩基長、13~75塩基長、13~80塩基長、13~85塩基長、13~90塩基長、13~95塩基長、13~100塩基長、13~110塩基長、13~120塩基長、13~130塩基長、13~140塩基長、13~150塩基長、13~160塩基長、13~170塩基長、13~180塩基長、13~190塩基長、13~200塩基長、13~300塩基長、もしくは13~1000塩基長;12~33塩基長、12~34塩基長、12~35塩基長、12~36塩基長、12~37塩基長、12~38塩基長、12~39塩基長、12~40塩基長、12~45塩基長、12~46塩基長、12~50塩基長、12~55塩基長、12~60塩基長、12~65塩基長、12~70塩基長、12~75塩基長、12~80塩基長、12~85塩基長、12~90塩基長、12~95塩基長、12~100塩基長、12~110塩基長、12~120塩基長、12~130塩基長、12~140塩基長、12~150塩基長、12~160塩基長、12~170塩基長、12~180塩基長、12~190塩基長、12~200塩基長、12~300塩基長、もしくは12~1000塩基長;10~33塩基長、10~34塩基長、10~35塩基長、10~36塩基長、10~37塩基長、10~38塩基長、10~39塩基長、10~40塩基長、10~45塩基長、10~46塩基長、10~50塩基長、10~55塩基長、10~60塩基長、10~65塩基長、10~70塩基長、10~75塩基長、10~80塩基長、10~85塩基長、10~90塩基長、10~95塩基長、10~100塩基長、10~110塩基長、10~120塩基長、10~130塩基長、10~140塩基長、10~150塩基長、10~160塩基長、10~170塩基長、10~180塩基長、10~190塩基長、10~200塩基長、10~300塩基長、もしくは10~1000塩基長;5~33塩基長、5~34塩基長、5~35塩基長、5~36塩基長、5~37塩基長、5~38塩基長、5~39塩基長、5~40塩基長、5~45塩基長、5~46塩基長、5~50塩基長、5~55塩基長、5~60塩基長、5~65塩基長、5~70塩基長、5~75塩基長、5~80塩基長、5~85塩基長、5~90塩基長、5~95塩基長、5~100塩基長、5~110塩基長、5~120塩基長、5~130塩基長、5~140塩基長、5~150塩基長、5~160塩基長、5~170塩基長、5~180塩基長、5~190塩基長、5~200塩基長、5~300塩基長、もしくは5~1000塩基長;又は1~33塩基長、1~34塩基長、1~35塩基長、1~36塩基長、1~37塩基長、1~38塩基長、1~39塩基長、1~40塩基長、1~45塩基長、1~46塩基長、1~50塩基長、1~55塩基長、1~60塩基長、1~65塩基長、1~70塩基長、1~75塩基長、1~80塩基長、1~85塩基長、1~90塩基長、1~95塩基長、1~100塩基長、1~110塩基長、1~120塩基長、1~130塩基長、1~140塩基長、1~150塩基長、1~160塩基長、1~170塩基長、1~180塩基長、1~190塩基長、1~200塩基長、1~300塩基長、もしくは1~1000塩基長であってもよい。
【0063】
一実施形態において、取得工程で取得する核酸分子は、アダプター部分を除いた長さは、100塩基長以下であってもよい。例えば、アダプター部分を除いた長さは、90塩基長以下、80塩基長以下、70塩基長以下、60塩基長以下、50塩基長以下、もしくは40塩基長以下であってもよい。
【0064】
また、本工程で取得する核酸分子のアダプター部分を除いた塩基長Lの範囲は、アダプター部分を除いた塩基長の下限を表すLmin、及びアダプター部分を除いた上限を表すLmaxにより、以下の不等式:
Lmin≦L≦Lmax (1)
(式中、Lminは15以下であり、Lmaxは33以上である)
で示すことができる。上記不等式(1)において、Lminは15以下であり、例えば、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、もしくは1であってもよく、及び/又はLmaxは33以上であり、例えば、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、250、300、もしくは1000であってもよい。
【0065】
一実施形態において、上記のLmaxは100以下であってもよい。例えば、Lmaxは、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、もしくは40以下であってもよい。
【0066】
本工程で取得する核酸分子の範囲を図1に例示する。図1では、取得工程で取得される核酸分子の範囲の一部を図中の右側に示す両矢印により例示する。取得する核酸分子は、アダプター部分を除いた塩基長で15~33塩基長の範囲を含む。
【0067】
(塩基配列決定工程)
「塩基配列決定工程」とは、取得工程で取得された核酸分子の塩基配列を決定する工程である。
【0068】
取得工程後に得られる核酸分子は、目的の範囲の長さを含む核酸分子である。本工程ではこの核酸分子の塩基配列を決定する。
【0069】
塩基配列決定に供する核酸分子は、必要に応じて精製することができる。核酸分子の精製は、当該分野で公知の各種核酸精製法を利用することができる。例えば、ゲル電気泳動による分離抽出方法、シリカマトリクスやシリカメンブレン等を用いた吸着精製方法、カラム精製方法等が挙げられる。核酸の精製方法については、市販の核酸精製キットを利用してもよい。その場合、核酸精製方法の具体的な条件等については、添付又は各メーカーが推奨するプロトコルに従えばよい。
【0070】
増幅産物の塩基配列決定法は、当該分野における公知の塩基配列決定法により実施すればよい。塩基配列決定法としては、サンガー法(ジデオキシ法)及び次世代シークエンス法が挙げられる。次世代シークエンス法は、第2世代のシークエンス法又は第3世代のシークエンス法であってもよい。第2世代のシークエンス法の例としては、パイロシーケンシング法、合成シーケンシング法、ライゲーションシーケンシング法、及びイオン半導体シーケンシング法が挙げられる。第3世代のシークエンス法の例としては、1分子シークエンサー又はナノポアシークエンサーを用いるシークエンス法が挙げられる。これらの方法は、当該分野で公知であり、各種プロトコル集の他、各社Webサイトに開示された方法を参考にすることができる。
【0071】
本工程の塩基配列決定では、複数の核酸分子の塩基配列を同時に決定できる次世代シークエンス法を用いることが好ましい。
【0072】
(測定工程)
「測定工程」とは、標的miRNA、その前駆体、及び/又はその断片のリード数を測定する工程である。塩基配列決定が次世代シークエンス法を用いる場合に本工程を選択工程として含むことができる。
【0073】
塩基配列決定が次世代シークエンス法を用いる場合、塩基配列決定工程で得られたリードは、アノテーションを付与して各miRNA遺伝子に帰属され、miRNA成熟体、miRNA前駆体、又はそのいずれかの断片に分類することができる。アノテーションには、例えばmiRNA配列データベース(miRBase)等を使用することができる。
【0074】
本工程で得られる標的miRNA、その前駆体、及び/又はその断片のリード数は、複数の試料の間で比較する場合には、正規化することが好ましい。正規化に使用する正規化係数は、比較される複数の試料の間で一定であるとみなすことができるものであれば限定しない。例えば、発現変動がないとみなすことができるmiRNAのリード数を各試料において正規化係数としてもよい。
【0075】
本工程でリード数を測定する標的miRNA、その前駆体、及び/又はその断片の種類は限定しない。一実施形態において、標的miRNAはhsa-miR-16-5p、hsa-miR-483-3p、hsa-miR-4492、hsa-miR-3648-1及びhsa-miR-663aからなる群より選択されるいずれか一以上であってもよい。
【0076】
1-4.効果
本態様の検出方法では、取得工程において、15~33塩基長に対応する目的の範囲の長さを含む核酸分子を取得することによって、miRNAに由来する核酸分子とmiRNA前駆体に由来する核酸分子の両方を取得することができる。その結果、miRNAが非常に微量に含まれる試料においてもmiRNA及びmiRNA前駆体を高い精度で検出することができる。
【0077】
また、本態様の検出方法では、miRNA成熟体のみならずmiRNA前駆体も含まれるように核酸分子を取得することで、miRNAが非常に微量に含まれる試料からであっても、バイオマーカーとなり得るmiRNA及びその前駆体を検出することができる。この効果によって、miRNAが非常に微量に含まれる試料においても、検体間で差を検出することができる。
【0078】
2.標的miRNA及びその前駆体の検出方法(逆転写工程を含まない場合)
2-1.概要
本発明の第1の態様は、標的miRNA及びその前駆体の検出方法である。本態様の検出方法は、必須工程としてRNA抽出工程、取得工程、及び塩基配列決定工程を含み、血清のようにmiRNAが非常に微量に含まれる試料から高い精度で標的miRNA及びその前駆体を検出することができる。本態様の検出方法は逆転写工程を含まず、RNAを塩基配列決定に供する点で第1態様の検出方法と異なる。
【0079】
2-2.方法
本態様の検出方法は、必須工程としてRNA抽出工程、取得工程、及び塩基配列決定工程を含み、選択工程として測定工程を含む。
【0080】
(RNA抽出工程)
「RNA抽出工程」とは、試料中のRNAを抽出する工程である。本工程は、第1態様のRNA抽出工程の記載に準じる。
【0081】
(取得工程)
「取得工程」とは、RNA抽出工程で抽出されたRNAから、目的の範囲の長さを含む核酸分子を取得する工程である。ここで、「目的の範囲の長さ」とは、miRNA及びその前駆体の両方が取得される範囲に含まれるように決定され、具体的には15~33塩基長である。
【0082】
本工程において「目的の範囲の長さを含む核酸分子を取得する」とは、長さが15~33塩基長である核酸分子が取得範囲に含まれるように、核酸分子を取得することを意味する。したがって本工程で取得する核酸分子の塩基長の範囲は、その下限は15塩基長以下であれば制限されず、その上限は33塩基長以上であれば制限されない。
【0083】
取得する核酸分子の塩基長の範囲の例は、第1態様において「アダプター部分を除いた長さ」として例示される範囲と同様であり、ここでの記載を省略する。
【0084】
一実施形態において、取得工程で取得する核酸分子の長さは100塩基長以下であってもよい。
【0085】
(塩基配列決定工程)
「塩基配列決定工程」とは、取得工程で取得された核酸分子の塩基配列を決定する工程である。取得工程で取得された核酸分子はRNAであるため、本工程ではRNAの塩基配列を決定する。
【0086】
一実施形態において、RNA分子の塩基配列決定はダイレクトRNAシーケンス法を用いる。ダイレクトRNAシーケンス法としては、オックスフォードナノポアテクノロジー社が提供しているMinION、PromethION、GridION、Flongle、SmidgION等を用いるナノポアシークエンス法が例示される。これらの方法は、当該分野で公知であり、各種プロトコル集の他、各社Webサイトに開示された方法を参考にすることができる。
【0087】
塩基配列決定に供するRNAは、必要に応じて精製してもよい。RNAの精製は、当該分野で公知の各種核酸精製法を利用することができる。例えば、ゲル電気泳動による分離抽出方法、シリカマトリクスやシリカメンブレン等を用いた吸着精製方法、カラム精製方法等が挙げられる。核酸の精製方法については、市販の核酸精製キットを利用してもよい。その場合、核酸精製方法の具体的な条件等については、添付又は各メーカーが推奨するプロトコルに従えばよい。
【0088】
(測定工程)
「測定工程」とは、標的miRNA、その前駆体、及び/又はその断片のリード数を測定する工程である。
【0089】
本工程でリード数を測定する標的miRNA、その前駆体、及び/又はその断片の種類は限定しない。一実施形態において、標的miRNAはhsa-miR-16-5p、hsa-miR-483-3p、hsa-miR-4492、hsa-miR-3648-1及びhsa-miR-663aからなる群より選択されるいずれか一以上であってもよい。
【0090】
本工程も第1態様と同様に正規化を行うことができる。
【0091】
2-3.効果
本態様の検出方法によれば、逆転写することなくRNA分子そのものの配列を読みとることができる。そのため、逆転写やPCRのバイアスなしに標的miRNA、その前駆体、及び/又はその断片のリード数を測定することができる。
【0092】
3.疾患の罹患鑑別を補助する方法(逆転写工程を含む場合)
3-1.概要
本発明の第3の態様は、疾患の罹患鑑別を補助する方法である。本態様の方法は、必須工程としてRNA抽出工程、アダプター連結工程、逆転写工程、増幅工程、取得工程、塩基配列決定工程、及び判定工程を含み、血清のようにmiRNAが非常に微量に含まれる試料から高い精度で標的miRNA及びその前駆体を検出し、被検体の疾患の罹患の有無を判定することができる。本態様の方法は逆転写工程を含み、逆転写工程後の核酸を塩基配列決定に供する点で第4態様の方法と異なる。
【0093】
3-2.用語の定義
本明細書において、「疾患」は、限定しないが、例えば、癌、高血圧症、糖尿病、心疾患、脳血管障害、精神神経疾患、免疫・アレルギー疾患、感染症等が挙げられる。本態様において疾患は好ましくは癌である。
【0094】
本明細書において、「癌」の種類は限定しないが、例えば、腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌及び大細胞癌等が挙げられる。具体的な癌の種類としては、例えば、悪性黒色腫、口腔癌、喉頭癌、咽頭癌、甲状腺癌、肺癌、乳癌、食道癌、胃癌、大腸癌(結腸癌及び直腸癌を含む)、小腸癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮体癌、子宮頚癌、子宮内膜癌、卵巣癌、胃癌、腎癌、肝癌、膵癌、胆道癌(胆嚢癌及び胆管癌を含む)、脳腫瘍、頭頸部癌、中皮腫、骨肉腫、神経膠腫、神経芽腫を始めとする小児腫瘍、白血病、リンパ腫等が挙げられる。癌は、好ましくは膵癌又は乳癌である。
【0095】
本態様において、「対照体」とは健常体が該当し、特定の疾患に罹患していない個体、好ましくはいかなる疾患にも罹患していない個体が該当する。対照体は1個体であっても複数個体であってもよい。
【0096】
3-3.方法
本態様の方法は、必須工程としてRNA抽出工程、アダプター連結工程、逆転写工程、増幅工程、取得工程、塩基配列決定工程、測定工程、及び判定工程を含む。
【0097】
本態様の方法におけるRNA抽出工程、アダプター連結工程、逆転写工程、増幅工程、取得工程、測定工程、及び塩基配列決定工程は、被検体及び対照体に由来する試料を用いる点以外は、第1態様の記載に準じる。したがって、ここでは判定工程について以下で説明する。
【0098】
(判定工程)
判定工程は、測定工程で得られた被検体及び対照体のリード数を比較して、被検体のリード数が対照体のリード数と異なる場合に、被検体が疾患に罹患していると判定する工程である。
【0099】
一実施形態において、判定工程では、測定工程で得られた被検体及び対照体のリード数を比較して、被検体のリード数が対照体のリード数より大きい場合に、被検体が疾患に罹患していると判定する。
【0100】
別の一実施形態において、判定工程では、測定工程で得られた被検体及び対照体のリード数を比較して、被検体のリード数が対照体のリード数より小さい場合に、被検体が疾患に罹患していると判定する。
【0101】
本工程において「被検体のリード数」とは、被検体から得られた標的miRNA、その前駆体、及び/又はその断片のリード数である。好ましくは、被検体のリード数は被検体から得られた標的miRNA及びその前駆体のリード数であるか、或いは被検体から得られた標的miRNA、その前駆体、及びその断片のリード数である。「対照体のリード数」も同様である。
【0102】
本態様において、被検体及び対照体のリード数を比較する方法は、限定しない。例えば、対照体のリード数に基づいて、被検体のリード数に対するカットオフ値を定め、そのカットオフ値に基づいて比較する方法が挙げられる。すなわち、所定の値をカットオフ値と定め、測定値がその値以上(又はその値以下)であれば、被検体のリード数が対照体のリード数より大きい(又は小さい)と決定することができる。
【0103】
カットオフ値は、被検体及び対照体のリード数を比較するための境界値をいう。カットオフ値は、通常、疾患の罹患率とROC曲線(receiver operating characteristic curve)より算出された感度及び特異度に基づき算出することができる。カットオフ値の設定法は特に限定しない。
【0104】
例えば、疾患に罹患していない健常体のリード数、もしくは健常体群におけるリード数の平均値をカットオフ値として、被検体のリード数がカットオフ値よりも高い(又は低い)ときに、被検体のリード数が対照体のリード数より大きい(又は小さい)と決定することができる。
【0105】
或いは、疾患に罹患していない健常体のリード数、又は健常体群におけるリード数の平均値の1.5倍以上、2.0倍以上、3.0倍以上、4倍以上、5倍以上、又は6倍以上をカットオフ値として、被検体のリード数がカットオフ値よりも高いときに、被検体のリード数が対照体のリード数より大きいと決定することもできる。また、疾患に罹患していない健常体のリード数、又は健常体群におけるリード数の平均値の0.9倍以下、0.8倍以下、0.7倍以下、0.6倍以下、0.5倍以下、0.4倍以下、0.3倍以下、0.2倍以下、又は0.1倍以下をカットオフ値として、被検体のリード数がカットオフ値よりも低いときに、被検体のリード数が対照体のリード数より小さいと決定することもできる。
【0106】
また、対照体群から得られた測定値をパーセンタイルで分類し、その分類に用いたパーセンタイル値をカットオフ値とすることもできる。例えば、対照体から得られたリード数の95パーセンタイルをカットオフ値とし、被検体のリード数が95パーセンタイル以上であれば、被検体のリード数が対照体のリード数より大きいと決定することができる。また、対照体から得られたリード数の5パーセンタイルをカットオフ値とし、被検体のリード数が5パーセンタイル以下であれば、被検体のリード数が対照体のリード数より小さいと決定することができる。
【0107】
なお、対照とする健常体のリード数は、被検体のリード数と異なり、必ずしもその都度測定する必要はない。例えば、測定に用いる試料の量、測定方法、測定条件を一定にしておけば、以前に測定した対照健常体のリード数を再利用することができる。
【0108】
3-4.効果
本態様では、miRNA成熟体のみならずmiRNA前駆体も含まれるように核酸分子を取得することで、miRNAが非常に微量に含まれる試料からであっても、バイオマーカーとなり得るmiRNA及びその前駆体を検出し、検体間で差を検出することによって、疾患の罹患鑑別を補助することができる。
【0109】
4.疾患の罹患鑑別を補助する方法(逆転写工程を含まない場合)
4-1.概要
本発明の第4の態様は、疾患の罹患鑑別を補助する方法である。本態様の方法は、必須工程としてRNA抽出工程、取得工程、塩基配列決定工程、及び判定工程を含み、血清のようにmiRNAが非常に微量に含まれる試料から高い精度で標的miRNA及びその前駆体を検出し、被検体の疾患の罹患の有無を判定することができる。本態様の方法は逆転写工程を含まず、RNAを塩基配列決定に供する点で第3態様の方法と異なる。
【0110】
4-2.方法
本態様の方法は、必須工程としてRNA抽出工程、取得工程、塩基配列決定工程、測定工程、及び判定工程を含む。
【0111】
本態様の方法におけるRNA抽出工程、取得工程、測定工程、及び塩基配列決定工程は、被検体及び対照体に由来する試料を用いる点以外は、第2態様の記載に準じる。また、本態様の方法における判定工程は、第3態様の記載に準じるものとする。
【0112】
4-3.効果
本態様の方法によれば、逆転写することなくRNA分子そのものの配列を読みとるため、逆転写やPCRのバイアスなしに標的miRNA、その前駆体、及び/又はその断片のリード数を測定し、疾患の罹患鑑別を補助することができる。
【実施例0113】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、この実施例は単なる一例示に過ぎず、本発明は実施例に記載の範囲に限定されるものではない。
【0114】
<実施例1:乳癌患者の血清におけるmiRNA及びその前駆体の検出>
(目的)
乳癌患者及び健常者から採取した血清からmiRNA及びその前駆体を次世代シークエンス法により検出する。さらに、血清中のmiRNA及びその前駆体の検出量の差によってがん検体と健常検体を判別し得るmiRNA遺伝子を同定する。
【0115】
(方法と結果)
(1)シーケンスライブラリの調製
血清は、乳癌患者及び健常者各々5名から採取したものを用いた。
【0116】
血清300μLからのトータルRNA抽出は、3D-Gene RNA extraction reagent from liquid sampleを用いて行った。
【0117】
次に、トータルRNAからTruSeq small RNA library Prep Kit(イルミナ株式会社)を用いてシーケンスライブラリを調製した。RNA分子の両末端に5’アダプター及び3’アダプターを連結した後、3’アダプター配列を認識するRTプライマーを用いた逆転写反応により一本鎖cDNAを合成した。得られた一本鎖cDNAを鋳型として、インデックス配列を付加したPCRプライマー対(プライマー対の合計の塩基長は130塩基長であり、各プライマーは55塩基長のRead1配列及び63塩基長のRead2配列を含む)を用いてPCR増幅を行った。
【0118】
PCR産物に対してBluePippinを用いて電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色後に約145~430塩基長の範囲(アダプター配列部分を除いた塩基長で22~300塩基長の範囲に対応する)からゲルを切り出した。切り出したゲルからDNA抽出を行い、シーケンスライブラリとした。
【0119】
(2)次世代シークエンス法による発現解析
次世代シーケンサ「Illumina Hiseq」(イルミナ株式会社)を使用し、ペアエンド法による100塩基読み取りにより塩基配列データを取得した。取得した塩基配列データについてリードトリミングを行い、同一配列のリードカウントを行った。また、ヒトゲノム配列へのマッピング、及びmiRNA配列データベース(miRBase)に基づきアノテーションを付与した。各miRNAに帰属するリード配列をカウントし、各サンプルにおけるmiRNA成熟体とmiRNA前駆体の発現量を数値化した。
【0120】
次に、数値化した既知miRNAについて、RPM正規化法及びiDEGES(iterative Differentially Expressed Genes or transcripts Elimination Strategy)正規化法を実施した。統計解析ソフトR言語を使用して、edgeR(replicate有り)又はDESeq(replicate無し)を用いてDEGの検出を行った後、non-DEGと判定された遺伝子の発現情報のみを用いて正規化係数を決める処理を3回繰り返し行い、発現変動の無い遺伝子を絞り込み正規化係数を決定した。この正規化係数によって正規化したリードカウント数を用いて、異なる群の間で発現量が有意に変動している遺伝子を検出した。解析には、統計解析ソフトR言語3.6.2(R Development Core Team(2020).R:A language and environment for statistical computing.R Foundation for Statistical Computing, URL http://www.R-project.org/)、及びRで提供されている発現変動遺伝子検出パッケージ「TCC」を使用した。
【0121】
(3)判別遺伝子の同定
(2)で得られた各miRNAの正規化後のリードカウント数を用いて、がん検体及び健常検体の各々について、(a)miRNA成熟体の発現量、(b)miRNA前駆体の発現量、及び(c)miRNA成熟体とmiRNA前駆体の発現量を足し合わせた発現量を算出した。(a)~(c)のいずれかについて、等分散を仮定した両側t検定を用いてがん検体及び健常体の2群間でp値を計算した。得られたp値が0.05未満であり、統計的有意性がある判別遺伝子として、hsa-miR-16-5p(配列番号1)、及びhsa-miR-483-3p(配列番号2)及びhsa-miR-4492(配列番号3)の3つのmiRNA遺伝子が見出された。
【0122】
hsa-miR-16-5pは、(a)miRNA成熟体の発現量、又は(b)miRNA前駆体の発現量のいずれか単独を判別に使用した場合には、がん検体と健常検体とを判別できなかった(図2)。一方、(c)miRNA成熟体とmiRNA前駆体の発現量を足し合わせた発現量を判別に使用した場合には、がん検体と健常検体とを判別できることができた(図2)。
【0123】
hsa-miR-16-5pの成熟体及びその前駆体の塩基配列、並びに本実施例で検出された塩基配列の例を以下の表1に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
hsa-miR-483-3pの成熟体及びその前駆体の塩基配列、並びに本実施例で検出された塩基配列の例を以下の表2に示す。
【0126】
【表2】
【0127】
hsa-miR-4492の成熟体及びその前駆体の塩基配列、並びに本実施例で検出された塩基配列の例を以下の表3に示す。
【0128】
【表3】
【0129】
<実施例2:膵癌患者の血清におけるmiRNAの検出>
(目的)
膵癌患者及び健常者から採取した血清からmiRNA及びその前駆体を次世代シークエンス法により検出する。さらに、血清中のmiRNA及びその前駆体の検出量の差によってがん検体と健常検体を判別し得るmiRNA遺伝子を同定する。
【0130】
(方法と結果)
血清は、膵癌患者及び健常者各々5名から採取したものを用いた。実施例1と同様に、血清中のRNAに対して次世代シーケンス法による発現解析を行った。さらに、実施例1と同様に、がん検体及び健常検体の各々について、(a)miRNA成熟体の発現量、(b)miRNA前駆体の発現量、及び(c)miRNA成熟体とmiRNA前駆体の発現量を足し合わせた発現量を算出し、がん検体及び健常体の2群間でp値を計算した。その結果、得られたp値が0.05未満であり、統計的有意性がある判別遺伝子として、hsa-miR-3648-1(配列番号4)及びhsa-miR-663a(配列番号5)の2個のmiRNA遺伝子が見出された。
【0131】
hsa-miR-3648-1及びhsa-miR-663aは、(a)miRNA成熟体の発現量、又は(b)miRNA前駆体の発現量のいずれか単独を判別に使用した場合には、がん検体と健常検体とを判別できなかった。一方、(c)miRNA成熟体とmiRNA前駆体の発現量を足し合わせた発現量を判別に使用した場合には、がん検体と健常検体とを判別できることができた。
【0132】
以上の結果から、血清のようにmiRNAが非常に微量に含まれる試料を対象とする場合には、miRNA成熟体とmiRNA前駆体の両方が含まれるように核酸分子を取得することによって検体間で発現量の差が検出され得ることが示された。さらに、miRNA成熟体とmiRNA前駆体の発現量を足し合わせた発現量を判別に使用することで、疾患を判別できることが示された。
【0133】
hsa-miR-3648-1の成熟体及びその前駆体の塩基配列、並びに本実施例で検出された塩基配列の例を以下の表4に示す。
【0134】
【表4】
【0135】
hsa-miR-663aの成熟体及びその前駆体の塩基配列、並びに本実施例で検出された塩基配列の例を以下の表5に示す。
【0136】
【表5】
図1
図2
【配列表】
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