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特開2022-168750エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、エポキシ樹脂分解性組成物、リサイクル硬化物、エポキシ樹脂硬化物の分解方法、リサイクル方法、単量体化合物、二量体化合物および三量体化合物とその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168750
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、エポキシ樹脂分解性組成物、リサイクル硬化物、エポキシ樹脂硬化物の分解方法、リサイクル方法、単量体化合物、二量体化合物および三量体化合物とその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/30 20060101AFI20221031BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20221031BHJP
   C08J 11/18 20060101ALI20221031BHJP
   C07C 323/32 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C08G59/30
C08G59/40
C08J11/18
C07C323/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074440
(22)【出願日】2021-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】内藤 昌信
【テーマコード(参考)】
4F401
4H006
4J036
【Fターム(参考)】
4F401AA21
4F401CA75
4F401DC01
4F401EA72
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB46
4H006TA04
4H006TB42
4H006TC09
4J036AB07
4J036AB18
4J036AD20
4J036DA05
4J036DB21
4J036DB22
4J036DC06
4J036DC09
4J036DC10
4J036DD02
4J036DD05
4J036FB07
4J036JA01
4J036JA06
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】エポキシ樹脂硬化物の分解とリサイクル(再硬化)が可能なエポキシ樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】両末端にエポキシ基を備え、かつ、ジスルフィド結合(-S-S-)を有するエポキシ樹脂モノマー(A1)と、エポキシ基と結合可能な硬化剤(B)と、を含むエポキシ樹脂組成物とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両末端にエポキシ基を備え、かつ、ジスルフィド結合(-S-S-)を有するエポキシ樹脂モノマー(A1)と、
エポキシ基と結合可能な硬化剤(B)と、
を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂モノマー(A1)は、次式で表される化合物を含むことを特徴とする請求項1のエポキシ樹脂組成物。
【化1】
(Xは、ジスルフィド結合(S-S)であり、RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖、または脂肪族炭素鎖を示す)
【請求項3】
前記硬化剤は、ジスルフィド結合(-S-S-)を有することを特徴とする請求項1または2のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記硬化剤は、次式で表される硬化剤(B1)を含むことを特徴と請求項3のエポキシ樹脂組成物。
【化2】
(RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖または脂肪族炭素鎖を示し、RおよびRは、同一または別異であって、1級、2級または3級アミン、イミダゾール、酸無水物、有機酸ヒドラジドを示す)
【請求項5】
前記エポキシ樹脂モノマー(A1)と、ジスルフィド結合(-S-S-)を有していないエポキシ樹脂モノマー(A2)とのモル比(A1/A2)が、100/0~25/75であり、
前記硬化剤は、次式で表される硬化剤(B1)
【化3】
(RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖または脂肪族炭素鎖を示し、RおよびRは、同一または別異であって、1級、2級または3級アミン、イミダゾール、酸無水物、有機酸ヒドラジドを示す)
と、
ジスルフィド結合(-S-S-)を有していない前記硬化剤(B2)とを含み、
前記硬化剤(B1)と前記硬化剤(B2)のモル比(B1/B2)が、100/0~0/100である、
ことを特徴とする請求項1または2のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記硬化剤(B)における前記硬化剤(B1)の含有量が、前記モル比(B1/B2)において75/25を超え、前記モル比(A1/A2)が、100/0~25/75であり、かつ、前記エポキシ樹脂モノマー(A1)と前記硬化剤(B1)のモル比(A1:B1)が、2:1~0.5:1であることを特徴とする請求項5のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記硬化剤(B)における前記硬化剤(B1)の含有量が、前記モル比(B1/B2)において75/25~50/50であり、前記モル比(A1/A2)が、100/0~50/50であり、かつ、前記エポキシ樹脂モノマー(A1)と前記硬化剤(B1)のモル比(A1:B1)が、2:0.5~1:0.5であることを特徴とする請求項5のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記硬化剤(B)における前記硬化剤(B1)の含有量が、前記モル比(B1/B2)において50/50未満~25/75であり、前記モル比(A1/A2)が、100/0~75/25であり、かつ、前記エポキシ樹脂モノマー(A1)と前記硬化剤(B1)のモル比(A1:B1)が、2:0.25~1.5:0.25であることを特徴とする請求項5のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
前記硬化剤(B)における前記硬化剤(B1)の含有量が、前記モル比(B1/B2)において25/75未満であり、前記モル比(A1/A2)が、100/0~75/25であり、かつ、前記エポキシ樹脂モノマー(A1)と前記硬化剤(B1)のモル比(A1:B1)が、2:0.01~1.5:0.25または1:0であることを特徴とする請求項5のエポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかのエポキシ樹脂組成物の硬化物であることを特徴とするエポキシ樹脂硬化物。
【請求項11】
ジスルフィド結合(-S-S-)の割合が、エポキシ樹脂の繰り返し単位に対して、1当量以上であることを特徴とする請求項10のエポキシ樹脂硬化物。
【請求項12】
前記硬化剤1当量に対し、前記エポキシ樹脂モノマー2当量が結合してなる繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項10または11のエポキシ樹脂硬化物。
【請求項13】
請求項10から12のいずれかのエポキシ樹脂硬化物と、
チオール基(-SH)を有する水溶性生体分子化合物と
を含むことを特徴とするエポキシ樹脂分解性組成物。
【請求項14】
請求項13のエポキシ樹脂分解性組成物の分解反応物である、ヒドロキシ基(-OH)およびチオール基(-SH)を有するヒドロキシチオール化合物を含むことを特徴とするエポキシ樹脂分解組成物。
【請求項15】
請求項14のエポキシ樹脂分解組成物のリサイクル硬化物であって、
前記ヒドロキシチオール化合物を含み、エポキシ樹脂ネットワーク構造を有することを特徴とするリサイクル硬化物。
【請求項16】
FT-NIRによって、ジスルフォド化されていない未反応のチオール基(-SH)が検出されることを特徴とする請求項15のリサイクル硬化物。
【請求項17】
請求項1のエポキシ樹脂組成物の硬化物であって、
FT-NIRによって、ジスルフォド化されていない未反応のチオール基(-SH)が検出されることを特徴とする硬化物。
【請求項18】
水相および有機相の二相系溶媒中において、請求項10から12のいずれかのエポキシ樹脂硬化物を、チオール基(-SH)を有する水溶性生体分子化合物と接触させ、有機相中に、分解物として、ヒドロキシ基(-OH)およびチオール基(-SH)を有するヒドロキシチオール化合物を生成すること、
を含むことを特徴とするエポキシ樹脂硬化物の分解方法。
【請求項19】
以下の工程:
水相および有機相の二相系溶媒中において、請求項10から12のいずれかのエポキシ樹脂硬化物を、チオール基(-SH)を有する水溶性生体分子化合物と接触させ、有機相中に、分解物として、ヒドロキシ基(-OH)およびチオール基(-SH)を有するヒドロキシチオール化合物を生成すること;および
前記ヒドロキシチオール化合物を含有する液体を加熱して硬化させ、ジスルフィド結合(-S-S-)を含むエポキシ樹脂ネットワーク構造を有する硬化物を得ること
を含むことを特徴とするエポキシ樹脂硬化物のリサイクル方法。
【請求項20】
次式で表される単位構造を有する単量体化合物。
【化4】
(RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖、または脂肪族炭素鎖を示し、
は、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖または脂肪族炭素鎖を示し、
は、窒素原子、ベンゼン、フェノールを示し、
は、チオール基(-SH)を示す)
【請求項21】
次式で表される単位構造;
【化5】
(RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖、または脂肪族炭素鎖を示し、
は、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖または脂肪族炭素鎖を示し、
は、窒素原子、ベンゼン、フェノールを示し、
末端に位置する3つのYのうち、2つがチオール基(-SH)であり、他の1つがスルフィド(-S-)である)
を2つ含み、
2つの前記単位構造が、前記スルフィド(-S-)が連結したジスルフィド結合(-S-S-)を介して互いに結合していることを特徴とする二量体化合物。
【請求項22】
次式で表される単位構造;
【化6】
(RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖、または脂肪族炭素鎖を示し、
は、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖または脂肪族炭素鎖を示し、
は、窒素原子、ベンゼン、フェノールを示す。)
を3つ含み、
3つの前記単位構造のうちの一つは、末端に位置する3つのYのうち、1つがチオール基(-SH)であり、他の2つがスルフィド(-S-)であり、
3つの前記単位構造のうちの他の二つは、末端に位置する3つのYのうち、2つがチオール基(-SH)であり、他の1つがスルフィド(-S-)であり、
3つの前記単位構造の前記スルフィド(-S-)が連結したジスルフィド結合(-S-S-)を介して互いに結合していることを特徴とする三量体化合物。
【請求項23】
請求項20から22のいずれかの化合物を含む組成物の硬化物であることを特徴とする硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、エポキシ樹脂分解性組成物、リサイクル硬化物、エポキシ樹脂硬化物の分解方法、リサイクル方法、単量体化合物、二量体化合物および三量体化合物とその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、最も一般的な高分子材料の一つであり、塗装、塗料、プライマー、接着剤、複合材料など幅広い用途に使用されている。一般に、エポキシ樹脂は、架橋されたポリマーネットワーク構造により、優れた耐熱性、機械的特性、耐薬品性を示す一方で、熱硬化性を有することが多く、リサイクル性やリワーク性が低い。そのため、エポキシ樹脂とその複合体は、通常、埋め立てや焼却などの方法で廃棄され、生態系全体に大きな悪影響を与えている。特に、日常生活で使用されているエポキシ樹脂は、マイクロプラスチックの発生源の一つと考えられている。このため、分解および再利用可能な熱硬化性エポキシ樹脂の開発が強く望まれている。
【0003】
例えば、エポキシ樹脂硬化物の分解に関する技術として、特許文献1には、グルタチオンなどの生体分子を含む開裂剤溶液中に、エポキシ樹脂硬化物で被覆された基材を浸漬する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-535552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法は、単にエポキシ樹脂硬化物の分解を目的とするものであり、そのエポキシ樹脂組成物の組成によれば、分解物をリサイクルすることは難しい。すなわち、上述したような環境に優しいリサイクルシステムの構築の要請から、エポキシ樹脂組成物については、その硬化物の分解が可能であるだけでなく、分解物から再びネットワーク構造が構築されたリサイクル硬化物を作製可能であることが求められている。
【0006】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、エポキシ樹脂硬化物の分解とリサイクル(再硬化)が可能なエポキシ樹脂組成物を提供することを課題としている。また、このエポキシ樹脂組成物の硬化物、エポキシ樹脂分解性組成物、リサイクル硬化物、エポキシ樹脂硬化物の分解方法、リサイクル方法、単量体化合物、二量体化合物および三量体化合物とその硬化物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明のエポキシ樹脂組成物は、以下のことを特徴としている。
【0008】
[1]両末端にエポキシ基を備え、かつ、ジスルフィド結合(-S-S-)を有するエポキシ樹脂モノマー(A1)と、
エポキシ基と結合可能な硬化剤(B)と、
を含む。
【0009】
[2]前記エポキシ樹脂モノマー(A1)は、次式で表される化合物を含む。
【0010】
【化1】
(Xは、ジスルフィド結合(S-S)であり、RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖、または脂肪族炭素鎖を示す)
【0011】
[3]前記硬化剤は、ジスルフィド結合(-S-S-)を有する。
【0012】
[4]前記硬化剤は、次式で表される硬化剤(B1)を含む。
【0013】
【化2】
(RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖または脂肪族炭素鎖を示し、RおよびRは、同一または別異であって、1級、2級または3級アミン、イミダゾール、酸無水物、有機酸ヒドラジドを示す)
【0014】
[5]前記エポキシ樹脂モノマー(A1)と、ジスルフィド結合(-S-S-)を有していないエポキシ樹脂モノマー(A2)とのモル比(A1/A2)が、100/0~25/75であり、
前記硬化剤は、次式で表される硬化剤(B1)
【0015】
【化3】
(RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖または脂肪族炭素鎖を示し、RおよびRは、同一または別異であって、1級、2級または3級アミン、イミダゾール、酸無水物、有機酸ヒドラジドを示す)
と、
ジスルフィド結合(-S-S-)を有していない前記硬化剤(B2)とを含み、
前記硬化剤(B1)と前記硬化剤(B2)のモル比(B1/B2)が、100/0~0/100である。
【0016】
[6]前記硬化剤(B)における前記硬化剤(B1)の含有量が、前記モル比(B1/B2)において75/25を超え、前記モル比(A1/A2)が、100/0~25/75であり、かつ、前記エポキシ樹脂モノマー(A1)と前記硬化剤(B1)のモル比(A1:B1)が、2:1~0.5:1である。
【0017】
[7]前記硬化剤(B)における前記硬化剤(B1)の含有量が、前記モル比(B1/B2)において75/25~50/50であり、前記モル比(A1/A2)が、100/0~50/50であり、かつ、前記エポキシ樹脂モノマー(A1)と前記硬化剤(B1)のモル比(A1:B1)が、2:0.5~1:0.5である。
【0018】
[8]前記硬化剤(B)における前記硬化剤(B1)の含有量が、前記モル比(B1/B2)において50/50未満~25/75であり、前記モル比(A1/A2)が、100/0~75/25であり、かつ、前記エポキシ樹脂モノマー(A1)と前記硬化剤(B1)のモル比(A1:B1)が、2:0.25~1.5:0.25である。
【0019】
[9]前記硬化剤(B)における前記硬化剤(B1)の含有量が、前記モル比(B1/B2)において25/75未満であり、前記モル比(A1/A2)が、100/0~75/25であり、かつ、前記エポキシ樹脂モノマー(A1)と前記硬化剤(B1)のモル比(A1:B1)が、2:0.01~1.5:0.25または1:0である。
【0020】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、以下のことを特徴としている。
【0021】
[10]前記[1]から[9]のいずれかのエポキシ樹脂組成物の硬化物である。
【0022】
[11]ジスルフィド結合(-S-S-)の割合が、エポキシ樹脂の繰り返し単位に対して、1当量以上である。
【0023】
[12]前記硬化剤1当量に対し、前記エポキシ樹脂モノマー2当量が結合してなる繰り返し単位を含む。
【0024】
本発明のエポキシ樹脂分解性組成物は、以下のことを特徴としている。
【0025】
[13]前記[10]から[12]のいずれかのエポキシ樹脂硬化物と、
チオール基(-SH)を有する水溶性生体分子化合物と
を含む。
【0026】
本発明のエポキシ樹脂分解組成物は、以下のことを特徴としている。
【0027】
[14]前記[13]のエポキシ樹脂分解性組成物の分解反応物である、ヒドロキシ基(-OH)およびチオール基(-SH)を有するヒドロキシチオール化合物を含む。
【0028】
本発明のリサイクル硬化物は、以下のことを特徴としている。
【0029】
[15]前記[14]のエポキシ樹脂分解組成物のリサイクル硬化物であって、
前記ヒドロキシチオール化合物を含み、エポキシ樹脂ネットワーク構造を有する。
【0030】
[16]FT-NIRによって、ジスルフォド化されていない未反応のチオール基(-SH)が検出される。
【0031】
[17]前記[1]のエポキシ樹脂組成物の硬化物であって、
FT-NIRによって、ジスルフォド化されていない未反応のチオール基(-SH)が検出される。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂硬化物の分解方法は、以下のことを特徴としている。
【0033】
[18]水相および有機相の二相系溶媒中において、前記[10]から[12]のいずれかのエポキシ樹脂硬化物を、チオール基(-SH)を有する水溶性生体分子化合物と接触させ、有機相中に、分解物として、ヒドロキシ基(-OH)およびチオール基(-SH)を有するヒドロキシチオール化合物を生成すること、
を含む。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂硬化物のリサイクル方法は、以下のことを特徴としている。
【0035】
[19]以下の工程:
水相および有機相の二相系溶媒中において、請求項10から12のいずれかのエポキシ樹脂硬化物を、チオール基(-SH)を有する水溶性生体分子化合物と接触させ、有機相中に、分解物として、ヒドロキシ基(-OH)およびチオール基(-SH)を有するヒドロキシチオール化合物を生成すること;および
前記ヒドロキシチオール化合物を含有する液体を加熱して硬化させ、ジスルフィド結合(-S-S-)を含むエポキシ樹脂ネットワーク構造を有する硬化物を得ること
を含む。
【0036】
本発明の単量体化合物は、以下のことを特徴としている。
【0037】
[20]次式で表される単位構造を有する。
【0038】
【化4】
(RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖、または脂肪族炭素鎖を示し、
は、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖または脂肪族炭素鎖を示し、
は、窒素原子、ベンゼン、フェノールを示し、
は、チオール基(-SH)を示す)
【0039】
本発明の二量体化合物は、以下のことを特徴としている。
【0040】
[21]次式で表される単位構造;
【0041】
【化5】
(RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖、または脂肪族炭素鎖を示し、
は、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖または脂肪族炭素鎖を示し、
は、窒素原子、ベンゼン、フェノールを示し、
末端に位置する3つのYのうち、2つがチオール基(-SH)であり、他の1つがスルフィド(-S-)である)
を2つ含み、
2つの前記単位構造が、前記スルフィド(-S-)が連結したジスルフィド結合(-S-S-)を介して互いに結合している。
【0042】
本発明の三量体化合物は、以下のことを特徴としている。
【0043】
[22]次式で表される単位構造;
【0044】
【化6】
(RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖、または脂肪族炭素鎖を示し、
は、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖または脂肪族炭素鎖を示し、
は、窒素原子、ベンゼン、フェノールを示す。)
を3つ含み、
3つの前記単位構造のうちの一つは、末端に位置する3つのYのうち、1つがチオール基(-SH)であり、他の2つがスルフィド(-S-)であり、
3つの前記単位構造のうちの他の二つは、末端に位置する3つのYのうち、2つがチオール基(-SH)であり、他の1つがスルフィド(-S-)であり、
3つの前記単位構造の前記スルフィド(-S-)が連結したジスルフィド結合(-S-S-)を介して互いに結合している。
【0045】
本発明の硬化物は、以下のことを特徴としている。
【0046】
[23]前記[20]から[22]のいずれかの化合物を含む組成物の硬化物である。
【発明の効果】
【0047】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、その硬化物であるエポキシ樹脂硬化物の分解とリサイクルが可能である。リサイクル後の硬化物は、リサイクル前の硬化物と同等の機械的強度を有している。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物硬化物およびエポキシ樹脂分解性組成物は、エポキシ樹脂組成物硬化物の分解とリサイクルが可能であり、リサイクル後の硬化物は、リサイクル前の硬化物と同等の機械的強度を有している。
【0049】
本発明のリサイクル硬化物は、分解とリサイクルが可能であり、リサイクル前の硬化物と同等の機械的強度を有している。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂硬化物の分解方法およびリサイクル方法は、エポキシ樹脂硬化物の分解とリサイクルが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】エポキシ樹脂モノマー(A1、A2)2当量と、硬化剤(B1、B2)1当量とを混合し、エポキシ樹脂硬化物を得るスキームを例示した図である。
図2図1に例示したエポキシ樹脂硬化物にグルタチオン(水溶性生体分子化合物)を作用させ、ジスルフィド結合(-S-S-)を切断してエポキシ樹脂分解組成物を得るスキームおよびそのエポキシ樹脂分解組成物をリサイクルするスキームを例示した図である。
図3】表1に示した組み合わせ(C1)を有する未硬化および硬化ERDについて、フーリエ変換近赤外分光法(FT-NIR)を行った結果を示した図である。
図4】グルタチオン(GSH)を用いたERDの分解において、反応混合物を1H-NMR分光法で定量的に評価した結果を示す図である。
図5】グルタチオン(GSH)を用いたERDの分解において、反応混合物を1H-NMR分光法で定量的に評価した結果を示す図である。
図6】CDCl相とDO相のそれぞれの化学反応バランスを示した図である。
図7】ERDの分解結果をエポキシ樹脂モノマー(A1またはA2)とジアミン硬化剤(B1またはB2)の組成比でまとめた図である。
図8】エポキシ樹脂モノマー(BGPDSまたはDGEBA)とアミン硬化剤(DTDAまたはDDM)とを含むエポキシ樹脂硬化物の構造と、そのエポキシ樹脂硬化物の分解後の構造を例示した図である。
図9】トリブチルホスフィン(TBP)を除去した後のCDCl相の1H-NMRスペクトルを示した図である。
図10】ERD-C1のCHCl相での分解した可溶性部分のFT-IRスペクトルを示した図である。
図11】CHCl相のUV-vis スペクトルを254nmで時間経過とともに測定した結果を示した図である。
図12】リサイクル前のERDとリサイクル後のERDの膨潤試験を行った結果を示す図である。
図13】リサイクル前のエポキシ樹脂硬化物とリサイクル後のエポキシ樹脂硬化物の正規化応力緩和を示した図である。
図14】実施例1のERDマトリックスを用いたCFRP構造体の分解とリサイクルの様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明のエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、エポキシ樹脂分解性組成物、リサイクル硬化物、エポキシ樹脂硬化物の分解方法およびリサイクル方法の一実施形態について説明する。
【0053】
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0054】
また、本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものとともに置換基を有するものをも包含する。
【0055】
(エポキシ樹脂組成物)
本発明のエポキシ樹脂組成物は、両末端にエポキシ基を備え、かつ、ジスルフィド結合(-S-S-)を有するエポキシ樹脂モノマー(A1)と、エポキシ基と結合可能な硬化剤(B)とを含む。
【0056】
そして、本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂モノマーとして、ジスルフィド結合(-S-S-)を有するエポキシ樹脂モノマー(A1)とともに、ジスルフィド結合(-S-S-)を有さないエポキシ樹脂モノマー(A2)を含むことができる(以下、単に「エポキシ樹脂モノマー(A1)」、「エポキシ樹脂モノマー(A2)」と記載する場合がある。)
エポキシ樹脂モノマー(A1)およびエポキシ樹脂モノマー(A2)の具体的な構造は特に限定されないが、例えば、グリシジルエーテル型(ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型、アルコール型など)、グリシジルエステル型(ヒドロフタル酸型、ダイマー酸型など)グリシジルアミン型(芳香族アミン型、アミノフェノール型など)、酸化型(脂環型など)等を例示することができる。
【0057】
なかでも、エポキシ樹脂モノマー(A1)は、以下の化学式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0058】
【化7】
ここで、エポキシ樹脂モノマー(A1)において、化学式(1)中のXは、ジスルフィド結合(S-S)であり、RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖、または脂肪族炭素鎖である。
【0059】
具体的には、エポキシ樹脂モノマー(A1)としては、例えば、ビス(4-グリシジルオキシフェニル)ジスルフィド(BGPDS)、1,2-bis((oxiran-2-ylmethoxy)methyl)disulfane、
1,2-bis(4-(oxiran-2-ylmethoxy)cyclohexyl)disulfaneであることがより好ましい。
【0060】
また、エポキシ樹脂モノマー(A2)は、上記化学式(1)において、ジスルフィド結合(S-S)示す符号Xを有することなく、RおよびRの部位において、前記エポキシ樹脂モノマー(A1)と同様に、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖、または脂肪族炭素鎖であってよい。
【0061】
より具体的には、エポキシ樹脂モノマー(A2)は、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBA)、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテルであることがより好ましい。
【0062】
エポキシ樹脂モノマー(A1)とエポキシ樹脂モノマー(A2)の比率は、モル比(A1/A2)が、100/0~25/75であることが好ましく、100/0~50/50であることがより好ましく、100/0~75/25であることがさらに好ましい。モル比(A1/A2)がこの範囲であると、エポキシ樹脂硬化物の分解と再利用が可能なエポキシ樹脂組成物となる。
【0063】
また、エポキシ樹脂組成物は、硬化剤(B)として、ジスルフィド結合(-S-S-)を有する硬化剤(B1)、ジスルフィド結合(-S-S-)を有さない硬化剤(B2)のうちの1種または2種以上を使用することができる(以下、単に「硬化剤(B1)」、「硬化剤(B2)」と記載する場合がある。)
硬化剤(B1)および硬化剤(B2)は、エポキシ基と結合可能なものであれば特に限定されず、ポリアミン(ジアミンを含む)、変性ポリアミン、酸無水物、ヒドラジン誘導体、ポリフェノールなどを例示することができる。
【0064】
例えば、ポリアミン系の硬化剤としては、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン等を例示することができる。脂肪族ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、m-キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等を例示することができる。また脂環式ポリアミンとしては、イソフォロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、ラロミン等を例示することができる。芳香族ポリアミンとしては、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルフォン等を例示することができる。また酸無水物としては、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水トリメリット酸、無ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、脂肪族二塩基酸ポリ無水物等を例示することができる。またポリフェノール系の硬化剤としては、フェノールノボラック、キシレンノボラック、ビスAノボラック、トリフェニルメタンノボラック、ビフェニルノボラック、ジシクロペンタジエンフェノールノボラック、テルペンフェノールノボラック等を例示することができる。
【0065】
なかでも、硬化剤(B1)は、以下の化学式で表される化合物であることが好ましい。
【0066】
【化8】
ここで、硬化剤(B1)において、RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖または脂肪族炭素鎖を示す。また、RおよびRは、同一または別異であって、1級、2級、3級アミン、イミダゾール、酸無水物、有機酸ヒドラジドを示す。
【0067】
なかでも、ジアミン硬化剤であることがより好ましく、4,4'-ジチオジアニリン(DTDA)、シスタミン、シスチンジメチルエステル、シスチンジエチルエステルであることが特に好ましい。
【0068】
硬化剤(B2)もジアミン硬化剤であることがより好ましく、上記化学式(2)において、ジスルフィド結合(-S-S-)が、芳香族基、(ポリ)エーテル基、アルキル基などに置換されたものであってよい。具体的には、硬化剤(B2)は、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、エチレンジミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ノルボルナンジアミンであることがより好ましい。
【0069】
また、硬化剤(B1)と硬化剤(B2)の比率は、モル比(B1/B2)が、100/0~0/100である。すなわち、硬化剤(B1)と硬化剤(B2)のうちの少なくともいずれかを含む形態であってよく、硬化剤(B1)と硬化剤(B2)の比率は、エポキシ樹脂モノマー(A1)とエポキシ樹脂モノマー(A2)の比率などに応じて適宜設定することができる。なかでも、モル比(B1/B2)は、100/0~25/75であることが好ましく、100/0~50/50であることがより好ましく、100/0~75/25であることがさらに好ましい。
【0070】
本発明のエポキシ樹脂組成物の好ましい実施形態の一つとしては、エポキシ樹脂モノマー(A1)とエポキシ樹脂モノマー(A2)とのモル比(A1/A2)が、100/0~25/75であり、硬化剤(B1)と硬化剤(B2)のモル比(B1/B2)が、100/0~0/100である。
【0071】
より具体的には、硬化剤(B)における硬化剤(B1)の含有量が、モル比(B1/B2)において75/25を超える場合、モル比(A1/A2)が、100/0~25/75であり、かつ、エポキシ樹脂モノマー(A1)と硬化剤(B1)のモル比(A1:B1)が、2:1~0.5:1であることが好ましい。
【0072】
硬化剤(B)における硬化剤(B1)の含有量が、モル比(B1/B2)において75/25~50/50である場合、モル比(A1/A2)が、100/0~50/50であり、かつ、モル比(A1:B1)が、2:0.5~1:0.5であることが好ましい。
【0073】
硬化剤(B)における硬化剤(B1)の含有量が、モル比(B1/B2)において50/50未満~25/75である場合、モル比(A1/A2)が、100/0~75/25であり、かつ、モル比(A1:B1)が、2:0.25~1.5:0.25であることが好ましい。
【0074】
硬化剤(B)における硬化剤(B1)の含有量が、モル比(B1/B2)において25/75未満である場合、モル比(A1/A2)が、100/0~75/25であり、かつ、モル比(A1:B1)が、2:0.01~1.5:0.25または1:0であることが好ましい。
【0075】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、これを硬化させたエポキシ樹脂硬化物の分解と再利用が可能であり、環境に優しいリサイクルシステムの構築することができる。
【0076】
(エポキシ樹脂硬化物)
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、上述した本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物である。また、以下では、ジスルフィド結合を有するエポキシ樹脂硬化物を「ERD」と記載する場合がある。
【0077】
エポキシ樹脂硬化物を得るための硬化方法および条件は特に限定されず、公知の方法、条件を適宜採用することができる。具体的には、例えば、エポキシ樹脂モノマーと硬化剤を所定の割合で混合し、必要に応じて撹拌等しながら、90~200℃で加熱することで硬化させる方法を例示することができる。
【0078】
本発明のエポキシ樹脂硬化物の構造は、具体的に限定されないが、ジスルフィド結合(-S-S-)の割合が、エポキシ樹脂の繰り返し単位に対して、1当量以上であることが好ましく、2当量以上であることがより好ましい。
【0079】
また、硬化剤1当量に対し、エポキシ樹脂モノマー2当量が結合してなる繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0080】
図1は、エポキシ樹脂モノマー(A1、A2)2当量と、硬化剤(B1、B2)1当量とを混合し、エポキシ樹脂硬化物を得るスキームを例示した図である。
【0081】
例えば、図1に例示したように、A1として、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBA)を使用し、B1として4,4'-ジチオジアニリン(DTDA)を使用した場合、硬化剤(B1)1当量に対し、エポキシ樹脂モノマー(A1)2当量が結合してなる繰り返し単位を含むエポキシ樹脂硬化物(ERD)を得ることができる。また、このエポキシ樹脂硬化物(ERD)は、ジスルフィド結合(-S-S-)の割合が、エポキシ樹脂の繰り返し単位に対して3当量である(X=S-S、Y=S-S)。
【0082】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、エポキシ樹脂の繰り返し単位中に所定の割合でジスルフィド結合(-S-S-)を含むため、分解と再利用が可能であり、環境に優しいリサイクルシステムの構築することができる。
【0083】
(エポキシ樹脂分解性組成物、エポキシ樹脂硬化物の分解方法およびエポキシ樹脂分解組成物)
本発明のエポキシ樹脂分解性組成物は、上述した本発明のエポキシ樹脂硬化物と、チオール基(-SH)を有する水溶性生体分子化合物とを含む。
【0084】
チオール基(-SH)を有する水溶性生体分子化合物は、例えば、グルタチオン、チオレドキシン、ペルオキシレドキシン、ジチオスレイトール(DTT)などのうちの1種または2種以上を例示することができる。なかでも、エポキシ樹脂の分解性と水溶性などの観点から、グルタチオンであることが好ましい。
【0085】
本発明のエポキシ樹脂分解性組成物は、エポキシ樹脂硬化物(ERD)と、チオール基(-SH)を有する水溶性生体分子化合物とを水相および有機相の二相系溶媒中に含むことができる。
【0086】
有機相を構成する有機溶媒は公知の材料であってよく、例えば、ベンゼン、tert-ブチルベンゼン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素又はその置換体や、シクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ぺンタン、n-オクタン等の脂肪族炭化水素や、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロルメチル、ジクロルエタン等の塩素化脂肪族炭化水素などを例示することができる。
【0087】
本発明のエポキシ樹脂分解性組成物は、水溶性生体分子化合物のチオール基(-SH)の作用により、エポキシ樹脂硬化物(ERD)のジスルフィド結合(-S-S-)が切断されるため、エポキシ樹脂硬化物を確実に分解することができる。
【0088】
本発明のエポキシ樹脂硬化物の分解方法は、水相および有機相の二相系溶媒中において、本発明のエポキシ樹脂硬化物(ERD)を、チオール基(-SH)を有する水溶性生体分子化合物と接触させ、有機相中に、分解物として、ヒドロキシ基(-OH)およびチオール基(-SH)を有するヒドロキシチオール化合物を生成する工程を含む。
【0089】
上述したように、有機相を構成する有機溶媒は公知の材料であってよい。
【0090】
水相および有機相の二相系溶媒中において、エポキシ樹脂硬化物(ERD)をチオール基(-SH)を有する水溶性生体分子化合物と接触させることで、チオール-ジスルフィド交換反応により、エポキシ樹脂中の動的ジスルフィド結合が切断され、グルタチオンなどの水溶性生体分子のS-H結合と交換される。これにより、分解したエポキシ樹脂(エポキシ樹脂分解組成物)残渣を有機相に溶解させることができる。一方、例えば、グルタチオンなどによる交換生成物は、親水性基が存在するため、水相中に溶解させることができる。
【0091】
したがって、本発明のエポキシ樹脂分解組成物は、エポキシ樹脂分解性組成物の分解反応物である、ヒドロキシ基(-OH)およびチオール基(-SH)を有するヒドロキシチオール化合物を含む。
【0092】
具体的には、例えば、上述した化学式(1)のエポキシ樹脂モノマーと、化学式(2)の硬化剤を使用した場合、エポキシ樹脂分解組成物として、以下の化学式(3)で表される単位構造を含む化合物(例えば、単量体化合物、二量体化合物、三量体化合物)を得ることができる。
【0093】
【化9】
化学式(3)において、RおよびRは、同一または別異であって、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖、または脂肪族炭素鎖を示す。Rは、芳香族炭素環、芳香族炭素環アルキル鎖、脂肪族炭素環、脂肪族炭素環アルキル鎖または脂肪族炭素鎖を示している。Zは、窒素原子、ベンゼン、フェノールなどを示している。Yは、チオール基(-SH)またはスルフィド(-S-)を示している。
【0094】
エポキシ樹脂分解組成物が単量体化合物の場合、
【0095】
【化10】
化学式(4)において末端に位置する3つのYは、全てがチオール基(-SH)である。
【0096】
エポキシ樹脂分解組成物が二量体化合物の場合、
【0097】
【化11】
化学式(5)において末端に位置する3つのYのうち、2つがチオール基(-SH)であり、他の1つがスルフィド(-S-)であり、この化学式(5)で示される2つの単位構造の前記スルフィド(-S-)が連結したジスルフィド結合(-S-S-)を介して互いに結合している。
【0098】
エポキシ樹脂分解組成物が三量体化合物の場合、三量体化合物を構成する3つの単位構造のうちの一つは、
【0099】
【化12】
化学式(6)において末端に位置する3つのYのうち、1つがチオール基(-SH)であり、他の2つがスルフィド(-S-)である。また、三量体化合物を構成する他の2つの単位構造は、化学式(6)において末端に位置する3つのYのうち、2つがチオール基(-SH)であり、他の1つがスルフィド(-S-)である。三量体化合物は、これら3つの単位構造の前記スルフィド(-S-)が連結したジスルフィド結合(-S-S-)を介して互いに結合している。
【0100】
図2は、図1に例示したエポキシ樹脂硬化物にグルタチオン(水溶性生体分子化合物)を作用させ、ジスルフィド結合(-S-S-)を切断してエポキシ樹脂分解組成物を得るスキームおよびそのエポキシ樹脂分解組成物をリサイクルするスキームを例示した図である。この実施形態では、以下の化学式(7)で示されるエポキシ樹脂分解組成物が得られる。
【0101】
【化13】
化学式(7)においては、化学式(3)と同様に、末端のYは、チオール基(-SH)または、スルフィド(-S-)を示している。
【0102】
例えば、このような単量体化合物、二量体化合物および三量体化合物は、有機相への溶解性に優れている。このような単量体化合物、二量体化合物および三量体化合物を含む組成物を加熱処理することで硬化させ、硬化物を得ることができる。
【0103】
本発明のエポキシ樹脂分解組成物は、これを硬化させることで硬化物として再利用が可能であり、環境に優しいリサイクルシステムの構築することができる。また、その硬化物(リサイクル硬化物)は、初期のエポキシ樹脂硬化物と略同等の機械的強度を有している。
【0104】
(リサイクル方法およびリサイクル硬化物)
本発明のリサイクル方法は、以下の工程を含む。
【0105】
水相および有機相の二相系溶媒中において、本発明のエポキシ樹脂硬化物を、チオール基(-SH)を有する水溶性生体分子化合物と接触させ、有機相中に、分解物として、ヒドロキシ基(-OH)およびチオール基(-SH)を有するヒドロキシチオール化合物を生成すること(第1工程)。
【0106】
ヒドロキシチオール化合物を含有する液体を加熱して硬化させ、ジスルフィド結合(-S-S-)を含むエポキシ樹脂ネットワーク構造を有する硬化物を得ること(第2工程)。
【0107】
第1工程については、上述した本発明のエポキシ樹脂硬化物の分解方法と共通するので、説明は省略する。
【0108】
第2工程における加熱方法や条件は特に限定されず、公知の方法、条件を適宜採用することができる。具体的には、例えば、分解したエポキシ樹脂残渣(ヒドロキシチオール化合物を含有する液体)を所望の型に流し込み、90℃~250℃程度で30分~10時間程度加熱する方法を例示することができる。
【0109】
本発明のリサイクル方法によれば、エポキシ樹脂分解組成物のリサイクル硬化物として、ヒドロキシチオール化合物を含み、エポキシ樹脂ネットワーク構造を有するものが得られる。
【0110】
本発明のリサイクル硬化物は、リサイクル前のエポキシ樹脂硬化物と共通するエポキシ樹脂ネットワーク構造を有するが、リサイクル時にジスルフォド化されなかった未反応のチオール基(-SH)を含む。具体的には、例えば、フーリエ変換赤外線分光法(FT-NIR)によって、2500cm-1付近にチオール基(-SH)由来の吸収バンドが検出される。
【0111】
本発明のリサイクル硬化物は、リサイクル前のエポキシ樹脂硬化物と略同等の機械的強度を有しているため、様々な用途に応用することができる。
【0112】
本発明のエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物硬化物、エポキシ樹脂分解性組成物、リサイクル硬化物、エポキシ樹脂硬化物の分解方法およびリサイクル方法は、以上の実施形態に限定されるものではない。
【0113】
例えば、エポキシ樹脂組成物は、上記の化合物以外の化合物として、公知の硬化促進剤などを含むことができる。また、例えば、エポキシ樹脂組成物硬化物やリサイクル硬化物は、炭素繊維を含む炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の形態であってもよい。
【実施例0114】
以下、本発明のエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、エポキシ樹脂分解性組成物、リサイクル硬化物、エポキシ樹脂硬化物の分解方法およびリサイクル方法について、実施例とともに説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0115】
<実施例1>エポキシ樹脂硬化物(ERD)の合成
エポキシ樹脂モノマーとしてビス(4-グリシジルオキシフェニル)ジスルフィド(BGPDS、A1)、硬化剤(ジアミン硬化剤)として4,4'-ジチオジアニリン(DTDA、B1)を用いて、エポキシ樹脂硬化物(ERD)を調製した(図1)。
【0116】
具体的には、チオール-ジスルフィド交換反応を明らかにするために、BGPDSおよびDTDAの類縁体として、ジスルフィド結合(-S-S-)を持たないビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBA、A2)およびジアミノジフェニルメタン(DDM、B2)をそれぞれ採用した。エポキシ樹脂モノマーとジアミン硬化剤中の芳香族ジスルフィドの化学反応性はほぼ同一と仮定した。ERDは、エポキシ樹脂モノマー(A1またはA2のいずれか)とジアミン硬化剤(B1またはB2のいずれか)との組み合わせによって調製した。
【0117】
エポキシ樹脂モノマー(A1またはA2)とジアミン硬化剤(B1またはB2)の詳細な組み合わせを表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
前処理として、エポキシ樹脂モノマーとジアミン硬化剤の混合物を、化学量論的モル比(2:1)で90℃で30分間撹拌した。予備硬化した混合物をポリテトラフルオロエチレン製の型に転写し、120℃、140℃、160℃で2時間ずつ順次硬化させた。冷却後、茶色の固形物としてERDを得た。なお、表1のC25は、ジスルフィド結合を含まない形態のコントロールとして使用している。
【0120】
硬化過程をモニターするために、フーリエ変換近赤外分光法(FT-NIR)を行った。図3は、表1に示した組み合わせ(C1)を有する未硬化および硬化ERDの例を示している。7200-4000 cm-1からのnIR領域では、エポキシ樹脂モノマーと一級アミンに関連したバンドが、C-H伸縮振動とエポキシ環伸縮振動の二倍音の組み合わせバンド(約4530 cm-1)とNH伸縮振動と屈曲の組み合わせバンド(約5000-5100 cm-1)として観察された。
【0121】
このように、エポキシ樹脂モノマーは硬化過程で減少し、その結果、C-H伸縮振動バンドは約4530cm-1から減少し、末端CHの弱い倍音は約6060cm-1から減少した。5000 cm-1の一級アミン結合バンドも減少した。一方、7000cm-1のO-H倍音のバンドは増加した。7000 cm-1のO‐H倍音帯はオキシラン開環反応の結果として増加した。
【0122】
<実施例2>グルタチオン(GSH)を用いたERDの分解
グルタチオン(GSH)を用いたERDの分解を実証する前に、水と有機の二元系でジスルフィドを含む低分子を用いた分解実験を行った。ここでは、ジスルフィド含有分子のモデルとしてDTDAを選択した。DTDAおよびGSHをそれぞれ重水素化クロロホルム(CDCl)(250mM)および重水素化水(DO)(250mM)に溶解した。この溶液を1:1(v/v)で混合し、予期せぬ光誘起反応を避けるためにアルミ箔で覆って暗所に保管した。
【0123】
反応混合物を1H-NMR分光法で定量的に評価した(図4図5)。1H-NMR分光法は、JEOL ECS-400分光器の装置を用いて25℃、400MHzで測定した。
【0124】
図4(a)および(b)は、それぞれCDCl相およびDO相の1H-NMRスペクトルの経時変化を示した。CDCl相では、DTDA(a)と(b)の芳香環の1H-NMRシグナルが6.55ppmと7.22ppmに現れ、7.12ppmの1H-NMRシグナルは、DTDAの還元剤と推定される4-アミノベンゼンチオール(4-ABT)の芳香環(b’)と同定された(図4(a))。また、2~3ppmの範囲にピークは観測されず、CDCl相にはGSHおよびGSHとの反応物が存在しないことが示唆された。
【0125】
一方、DO相では、3.12ppmに新たな1H-NMRシグナル(e')が出現し、GSHと4-ABTの間にS-S結合が形成されていることが示唆された(図4(b))。
【0126】
また、1H-NMRピーク(c)と(d)は7.15ppmと7.5ppmに出現し、ピーク(e')と同時に強度が上昇しており、DTDAとGSHとの交換反応により水溶性反応物GSH-ABTが生成していることが示唆された。また、7.25ppmと7.5ppmではピークの強度に大きな変化がないことから、わずかな量のDTDAが水相に溶解していることが示唆された。図5に示したジフェニルジスルフィドと比較して、DTDAの水への溶解性が向上しており、GSHのチオール結合とDTDAのジスルフィド結合の交換反応が促進されていることが確認された。
【0127】
次に、CDCl/DO中での組成の時間発展をさらに評価した。図4(c)は、CDCl中の1H-NMRシグナル(b)およびシグナル(b')のピーク面積から算出したDTDAおよび4-アミノベンゼンチオールの変化率をそれぞれ示している。
【0128】
その結果、DTDAは時間とともに直ちに減少し、60分で平衡に達した。これに対応して、4-ABTは撹拌後すぐに生成を開始し、DTDAと対称的に60分後に平衡に達した。
【0129】
同様に、図4(d)は、DO相におけるGSHの減少とGSHと4-ABTの水溶性反応物の増加の時間発展を示している。CDCl相と同様に、GSHの増加とGSH/4-ABTの水溶性反応物の減少は対称的に変化する傾向があり、約60分で平衡に達した。
【0130】
さらに、CDCl相およびDO相ともに、組成の増加と減少のモル率は30mol%に保たれていた。
【0131】
これらの結果から、CDCl相とDO相のそれぞれの化学反応バランスを図6に示した。CDClとDOの界面でDTDAとGSHのチオールジスルフィド交換反応が起こり、GSHと4-ABTの水溶性反応物(GSH-ABT)が生成し、未反応の4-ABTはCDClに溶解したままであった。
【0132】
チオール-ジスルフィド交換反応はCHCl/水の二元系でGSHを介在させて進行することが確認されたので、同じ二元系条件でERDの分解試験を行った。
【0133】
まず、ERDをボールミリング法により、振動数25Hzで1時間粉砕した。得られたERD粉末をCHClに懸濁し、GSH水溶液(20mM)を加えた。ここで、トリブチルホスフィン(TBP)(10mol%)を用いて、チオール-ジスルフィド交換反応を促進した。図5に示したTBPを添加した低分子モデルの1H-NMRスペクトルから、チオール-ジスルフィド交換反応で生成する生成物は、TBPを添加しない場合と同じであることが示された。
【0134】
そして、この二元溶液を室温で激しく撹拌した。一定時間経過後、ERDが完全にCHCl相に溶解して黄色の溶液となったものと、沈殿が発生したものに分かれた。
【0135】
図7は、ERDの分解結果をエポキシ樹脂モノマー(A1またはA2)とジアミン硬化剤(B1またはB2)の組成比でまとめた図である。また、図7においては、BGPDS/DGEBA(A1/A2)と、DTDA/DDM(B1/B2)の様々な組み合わせによるERDの各繰り返し単位のジスルフィド結合のモル当量をまとめた。
【0136】
図7に示したように、C1-C13およびC16において、ERDが完全に溶解したことが確認された。また、アミン硬化剤(DTDAまたはDDM)は、2当量のエポキシ樹脂モノマー(BGPDSまたはDGEBA)と反応することができ、これは、図8の構造式に示したように、ジスルフィド結合がERDの繰り返し単位の3当量まで導入できることを示唆された。そして、完全に溶解した部分からは、真空下でCHCl溶媒を除去した後、粘性のある黄色の液体が得られた。
【0137】
これらの残基の化学構造を同定するために、ERD-C1の1H-NMRおよびFT-nIR分光をそれぞれ行った。
【0138】
図9は、トリブチルホスフィン(TBP)を除去した後のCDCl相の1H-NMRスペクトルを示しており、純粋に分解されたERD-C1を示している。
【0139】
このスペクトルでは、6.5~7.5ppmの範囲に分解ERDの芳香環のシグナルが検出された。また、3.0~4.0ppmのピークは、エポキシ基の開環反応で生成したアルキルプロトンに関連するものであった。また、2.0~3.0ppmの範囲にはピークが検出されず、CDCl相にはGSHと交換生成物が存在しないことが証明された。また、1.0~1.5ppmの範囲ではシグナルが確認されず、トリブチルホスフィンは完全に除去されていた。このことから、ERDは、図2に示したように、可溶性オリゴマーに分解したものの、エポキシ構造が維持されていることが明らかになった。
【0140】
さらに、図10は、ERD-C1のCHCl相での分解した可溶性部分のFT-IRスペクトルを示した図である
図10(a)に示すように、この残渣のスペクトルは、4000 cm-1~7500 cm-1までのNIR領域でERDのスペクトルとほぼ同じであった。このことは、この液状残基がERDのエポキシ構造を保持していることを示している。一方、2550 cm-1にチオール由来の新しい吸収帯が現れた(図10(b))。これは、このフラグメントがERDのジスルフィド基がGSHによって還元されてチオール基を含んでいることを示している。
【0141】
ここで、ERDの溶解度は、ジスルフィド基とERDの繰り返し単位の化学量論的比率の観点から論じることができる(図7)。ジスルフィド基がERDの繰り返し単位に対して1.5当量以上の場合、ERDはCHClに完全に溶解し、ERDは二量体単位または単量体単位に分解された。一方、ジスルフィド基の化学量論的比が1.5当量未満の場合には、繰り返し単位のほとんどが3量体以上となり、析出物が発生することが確認された。
【0142】
さらに、ERDの分解傾向を調べるために、CHCl相のUV-vis スペクトルを 254nmで時間経過とともに測定した(図11)。
【0143】
CHCl中のERD-C1の懸濁液をGSH/水溶液と混合すると、245nmでの紫外吸収は直ちに増加し、飽和曲線に従った。4時間後には一定の値を持つプラトー領域に達し、ERD-C1は CHCl相に完全に溶解したことが示唆された。ERDの分解能はエポキシ樹脂中のジスルフィド結合数と明確に相関していた。
【0144】
<実施例3>リワーク試験
一般に、アミン硬化型エポキシ樹脂は、アミン結合を架橋点とするネットワーク構造と考えられているが、ERDの場合は、ジスルフィド結合を繰り返し単位とする動的共有結合ネットワークポリマーと考えることもできる。このため、ジスルフィド結合の形成によりERDを分解再生しても、元のアミン硬化型エポキシ樹脂としてのERDの構造や物性は変化しないと考えられた。
【0145】
分解したエポキシ樹脂残渣(エポキシ樹脂分解組成物)をポリテトラフルオロエチレン製の型に流し込み、180℃で6時間加熱した。その結果、液状の残渣は暗褐色の固体となった。FT-NIR測定の結果、リサイクルされたERDはジスルフィド結合が形成されて硬化していることが明らかになった。このことから、分解した黄色の液体にはチオール基が含まれており、硬化後(リサイクル後)にはチオール基に対応する2550 cm-1のピークはほぼ消失していたが(図10b)、リサイクル後のERDは、FT-NIR測定により、わずかにチオール基の存在を確認することはできた。
【0146】
さらに、リサイクル前後のジスルフィド含有エポキシ樹脂の熱的・機械的特性を評価するために、動的力学解析(DMA)を行った。その結果を表2に示す。
【0147】
【表2】
【0148】
機械的特性については、リサイクル前の元のERDの貯蔵弾性率は1.8GPaであり、ジスルフィド結合を持たない従来のエポキシ樹脂(1.88GPa)と同等の貯蔵弾性率を示すことが確認された。リサイクル後のERDの貯蔵弾性率は、室温で初期値の約90%が維持されていることが確認された。
【0149】
なお、ガラス転移温度(Tg)は、ネットワークの再接続が一部不完全であったため、131℃から82℃へと低下した。
【0150】
また、リサイクル前後の架橋密度を評価するために、リサイクル前のERDとリサイクル後のERDの膨潤試験を行った。その結果を図12に示す。
【0151】
図12に示すように、室温でトルエンに72時間浸漬した後の膨潤率は、初期硬化物では3%程度であったのに対し、リサイクル硬化物では13~16%であった。この結果は、リサイクル後のERDの架橋密度は、完全には元の構造には戻らず、室温でのガラス転移温度の低下と機械的強度の低下(1.8GPaから1.6GPa)を引き起こす一方で、ゴム状の貯蔵弾性率の上昇(14.3MPaから49.9MPa)を引き起こしていることを示している。
【0152】
図13は、130℃におけるリサイクル前のエポキシ樹脂硬化物とリサイクル後のエポキシ樹脂硬化物の正規化応力緩和を示したものである。応力緩和時間は、マクスウェルモデルの式に基づき、初期応力の63%を解放するのに必要な時間と定義した。その結果、リサイクルエポキシ樹脂硬化物の130℃における応力緩和時間は152秒であり、リサイクルエポキシ樹脂硬化物の方が初期応力の63%の緩和に要する時間が短いことが確認された。その結果、リサイクルエポキシ樹脂硬化物の再生ネットワークは動的ジスルフィド結合の再形成に起因する一般的な動的ネットワークとしてTg以上の応力緩和を示すことが確認された。また、リサイクルエポキシ樹脂硬化物のTgが比較的低いため、低温ではセグメント鎖運動が起こり、交換反応が速くなり、応力緩和現象が発生することが確認された。
【0153】
<実施例4>CFRPのリサイクル
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、航空機や自動車など軽量化や耐クリープ性が求められる分野で注目されている構造材料です。一般に、CFRP構造体のマトリックス樹脂にはエポキシなどの熱硬化性樹脂が使用されているため、リワークやリサイクルが難しく、廃棄物処理の問題が顕在化している。
【0154】
そこで、実施例1のERDマトリックスを用いたCFRP構造体のリサイクルシステムについて検討した。
【0155】
炭素繊維強化構造体(CFRP)は、以下の手順で作製した。
【0156】
まず、ポリテトラフルオロエチレン製テープを貼ったアルミニウムプレートの上に炭素繊維布を置き、ガラスバイアル中にエポキシ樹脂モノマー(BGPDS)とジアミン硬化剤(DTDA)を分子比2:1になるように調製し、90℃で30分間混合した。混合後、この混合物を繊維布を張ったアルミ板に流し込み、ポリテトラフルオロエチレン製テープで覆われたもう一方のアルミニウムプレートで囲んだ。得られた試料と型を120℃で2時間、140℃で2時間、160℃で2時間のオーブン中で硬化させ、最終的にオーブン中で室温まで冷却した。
【0157】
そして、硬化したCFRP構造体を、水相と有機相(CHCl相)の二液中にクリップで固定した(図14(a)(b))。雰囲気下で24時間激しく撹拌することで、CFRP構造体のマトリックスであるERDは、CHCl相に分解された(図14(c))。マトリックス溶解後、水とアセトンで洗浄し、100℃で乾燥させることで炭素繊維を完全に回収することができた(図14(d))。一方、クロロホルム溶液に溶解した分解エポキシ残渣(エポキシ樹脂分解組成物)は、溶媒の蒸発により得られた(図14(e))。このエポキシ残渣は、ジスルフィド結合を形成することで、エポキシ樹脂ネットワークに簡単に移行することができた(図14(f))。
【産業上の利用可能性】
【0158】
以上のとおり、ジスルフィド結合を有するエポキシ樹脂のリワーク・リサイクルシステムを提案した。まず、動的なS-S結合を導入することで、リサイクル可能でリワーク可能なジスルフィド結合を有するエポキシ樹脂硬化物を得た。次に、チオール-ジスルフィド交換反応により、エポキシ樹脂中の動的ジスルフィド結合を切断し、グルタチオンなどの水溶性生体分子のS-H結合と交換することで、分解したエポキシ樹脂(分解組成物)残渣をクロロホルムに溶解させることができ、交換生成物はグルタチオンに親水性ペプチド基が存在することで水相中に分布することが確認された。最後に、SH結合を有するエポキシ残基を加熱し、ジスルフィドを含むエポキシ樹脂ネットワーク構造を有するリサイクルエポキシ樹脂硬化物を得た。このようにして得られたリサイクルエポキシ樹脂硬化物は、元のエポキシ樹脂の約90%の機械的強度を維持しているため、様々な用途に応用できる可能性を有している。また、この方法は、炭素繊維強化複合材料に実用化できる可能性があり、埋込物とマトリックス樹脂の両方の再利用の幅が広がる可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
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