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  • 特開-切削工具用硬質皮膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168833
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】切削工具用硬質皮膜
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20221031BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20221031BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C23C14/06 A
B23B27/14 A
B23C5/16
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050572
(22)【出願日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2021074007
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000115120
【氏名又は名称】ユニオンツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰
【テーマコード(参考)】
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C046FF03
3C046FF09
3C046FF10
3C046FF13
3C046FF16
3C046FF19
3C046FF25
4K029AA02
4K029BA58
4K029BD05
4K029CA03
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性に優れた切削工具用硬質皮膜を提供する。
【解決手段】被削材と接する第1皮膜層を含み、この第1皮膜層は、AlとCrとからなり不可避不純物を含む窒化物層A及びAlとCrとCuとからなり不可避不純物を含む窒化物層Bの少なくとも一方と、AlとTi,Nb,Cr,V,Ta,Zr,Bから選択される4~7種類の元素とからなり不可避不純物を含む窒化物層Cとが積層してなるもので、さらに、前記窒化物層Cは、Alの量が30モル%以上60モル%以下、且つ、Al以外の前記各元素の量が等量±5モル%(ただし、等量=(100-前記窒化物層C中のAlの量)/(前記窒化物層C中のAl以外の前記元素の種類の数))である切削工具用硬質皮膜。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成された切削工具用硬質皮膜であって、被削材と接する第1皮膜層を含み、この第1皮膜層は、AlとCrとからなり不可避不純物を含む窒化物層A及びAlとCrとCuとからなり不可避不純物を含む窒化物層Bの少なくとも一方と、AlとTi,Nb,Cr,V,Ta,Zr,Bから選択される4~7種類の元素とからなり不可避不純物を含む窒化物層Cとが積層してなるもので、さらに、前記窒化物層Cは、Alの量が30モル%以上60モル%以下、且つ、Al以外の前記各元素の量が等量±5モル%(ただし、等量=(100-前記窒化物層C中のAlの量)/(前記窒化物層C中のAl以外の前記元素の種類の数))であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項2】
請求項1記載の切削工具用硬質皮膜において、前記窒化物層C中のAl以外の元素はTi,Nb,Cr,V,Ta,Zr,Bから選択される4~6種類であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記窒化物層C中の前記Al以外の元素はTi,Nb,Cr,V,Ta,Zr,Bから選択される4種類であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第1皮膜層は、前記窒化物層A及び前記窒化物層Cが複数積層してなることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項5】
請求項1~3いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第1皮膜層は、前記窒化物層B及び前記窒化物層Cが複数積層してなることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項6】
請求項1~3いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第1皮膜層は、前記窒化物層A、前記窒化物層B及び前記窒化物層Cが複数積層してなることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項7】
請求項1~3,5,6いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記窒化物層Bは、Cuの量が5モル%以下であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項8】
請求項1~7いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第1皮膜層と、この第1皮膜層の下方に設けられる第2皮膜層とからなり、前記第2皮膜層は、AlとCrとからなり不可避不純物を含む窒化物層D若しくはAlとCrとCuとからなり不可避不純物を含む窒化物層Eであることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項9】
請求項8記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第2皮膜層は、前記窒化物層Dであり、また、この窒化物層Dは、Crの量が30モル%以上50モル%以下であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項10】
請求項8,9いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記窒化物層Dは、前記窒化物層Aと同一組成であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項11】
請求項8記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第2皮膜層は、前記窒化物層Eであり、この窒化物層Eは、Crの量が30モル%以上50モル%以下であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項12】
請求項8,11いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記窒化物層Eは、前記窒化物層Bと同一組成であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項13】
請求項1~7いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第1皮膜層と、この第1皮膜層の下方に設けられる第2皮膜層とからなり、前記第2皮膜層は、AlとCrとからなり不可避不純物を含む窒化物層DとAlとCrとCuとからなり不可避不純物を含む窒化物層Eとが積層してなることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項14】
請求項13記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第2皮膜層は、前記窒化物層Dと前記窒化物層Eの各層のCrの量の平均値が約30モル%以上50モル%以下であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項15】
請求項13,14いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記窒化物層Dは前記窒化物層Aと同一組成であり、また、前記窒化物層Eは前記窒化物層Bと同一組成であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項16】
請求項13~15いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第2皮膜層は、前記窒化物層Dと前記窒化物層Eとが複数積層してなることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項17】
請求項8,11~16いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記窒化物層Eは、Cuの量が5モル%以下であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項18】
請求項1記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第1皮膜層は、前記窒化物層A、前記窒化物層B及び前記窒化物層Cが積層してなるもので、前記窒化物層Aは、金属成分がモル%でAl70Cr30と表され、非金属元素として少なくともNを含み不可避不純物を含む(Al70Cr30)Nであり、前記窒化物層Bは、金属成分がモル%でAl49.5Cr49.5Cu1と表され、非金属元素として少なくともNを含み不可避不純物を含む(Al49.5Cr49.5Cu1)Nであり、前記窒化物層Cは、金属成分がモル%でAl40Ti15Nb15Cr1515と表され、非金属元素として少なくともNを含み不可避不純物を含む(Al40Ti15Nb15Cr1515)Nであることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項19】
請求項18記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第1皮膜層と、この第1皮膜層の下方に設けられる第2皮膜層とからなり、前記第2皮膜層は、AlとCrとからなり不可避不純物を含む窒化物層D及びAlとCrとCuとからなり不可避不純物を含む窒化物層Eとが積層してなるもので、前記窒化物層Dは、前記窒化物層Aと同一組成であり、また、前記Eは、前記窒化物層Bと同一組成であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【請求項20】
請求項1~19いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記基材の直上に形成される下地層を有し、この下地層はTiの窒化物若しくは炭窒化物からなることを特徴とする切削工具用硬質皮膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドミルやドリル等の切削工具に被覆される切削工具用硬質皮膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンドミルやドリル等の切削工具に被覆される切削工具用硬質皮膜に関し、耐摩耗性に優れる皮膜として、例えば特許文献1に開示されるようなAlCrNが知られている。
【0003】
このAlCrNは、耐熱性にも優れることから、切削工具用硬質皮膜として幅広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-25566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、上記のような耐摩耗性、耐熱性に優れた切削工具用硬質皮膜について、更なる研究、開発を進め、AlCrN単層膜からなる従来の切削工具用硬質皮膜(以下、「従来例」という。)よりも優れた耐摩耗性を発揮する画期的な切削工具用硬質皮膜を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨を説明する。
【0007】
基材上に形成された切削工具用硬質皮膜であって、被削材と接する第1皮膜層を含み、この第1皮膜層は、AlとCrとからなり不可避不純物を含む窒化物層A及びAlとCrとCuとからなり不可避不純物を含む窒化物層Bの少なくとも一方と、AlとTi,Nb,Cr,V,Ta,Zr,Bから選択される4~7種類の元素とからなり不可避不純物を含む窒化物層Cとが積層してなるもので、さらに、前記窒化物層Cは、Alの量が30モル%以上60モル%以下、且つ、Al以外の前記各元素の量が等量±5モル%(ただし、等量=(100-前記窒化物層C中のAlの量)/(前記窒化物層C中のAl以外の前記元素の種類の数))であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0008】
また、請求項1記載の切削工具用硬質皮膜において、前記窒化物層C中のAl以外の元素はTi,Nb,Cr,V,Ta,Zr,Bから選択される4~6種類であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0009】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記窒化物層C中の前記Al以外の元素はTi,Nb,Cr,V,Ta,Zr,Bから選択される4種類であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0010】
また、請求項1~3いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第1皮膜層は、前記窒化物層A及び前記窒化物層Cが複数積層してなることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0011】
また、請求項1~3いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第1皮膜層は、前記窒化物層B及び前記窒化物層Cが複数積層してなることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0012】
また、請求項1~3いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第1皮膜層は、前記窒化物層A、前記窒化物層B及び前記窒化物層Cが複数積層してなることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0013】
また、請求項1~3,5,6いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記窒化物層Bは、Cuの量が5モル%以下であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0014】
また、請求項1~7いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第1皮膜層と、この第1皮膜層の下方に設けられる第2皮膜層とからなり、前記第2皮膜層は、AlとCrとからなり不可避不純物を含む窒化物層D若しくはAlとCrとCuとからなり不可避不純物を含む窒化物層Eであることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0015】
また、請求項8記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第2皮膜層は、前記窒化物層Dであり、また、この窒化物層Dは、Crの量が30モル%以上50モル%以下であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0016】
また、請求項8,9いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記窒化物層Dは、前記窒化物層Aと同一組成であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0017】
また、請求項8記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第2皮膜層は、前記窒化物層Eであり、この窒化物層Eは、Crの量が30モル%以上50モル%以下であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0018】
また、請求項8,11いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記窒化物層Eは、前記窒化物層Bと同一組成であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0019】
また、請求項1~7いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第1皮膜層と、この第1皮膜層の下方に設けられる第2皮膜層とからなり、前記第2皮膜層は、AlとCrとからなり不可避不純物を含む窒化物層DとAlとCrとCuとからなり不可避不純物を含む窒化物層Eとが積層してなることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0020】
また、請求項13記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第2皮膜層は、前記窒化物層Dと前記窒化物層Eの各層のCrの量の平均値が約30モル%以上50モル%以下であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0021】
また、請求項13,14いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記窒化物層Dは前記窒化物層Aと同一組成であり、また、前記窒化物層Eは前記窒化物層Bと同一組成であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0022】
また、請求項13~15いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第2皮膜層は、前記窒化物層Dと前記窒化物層Eとが複数積層してなることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0023】
また、請求項8,11~16いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記窒化物層Eは、Cuの量が5モル%以下であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0024】
また、請求項1記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第1皮膜層は、前記窒化物層A、前記窒化物層B及び前記窒化物層Cが積層してなるもので、前記窒化物層Aは、金属成分がモル%でAl70Cr30と表され、非金属元素として少なくともNを含み不可避不純物を含む(Al70Cr30)Nであり、前記窒化物層Bは、金属成分がモル%でAl49.5Cr49.5Cu1と表され、非金属元素として少なくともNを含み不可避不純物を含む(Al49.5Cr49.5Cu1)Nであり、前記窒化物層Cは、金属成分がモル%でAl40Ti15Nb15Cr1515と表され、非金属元素として少なくともNを含み不可避不純物を含む(Al40Ti15Nb15Cr1515)Nであることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0025】
また、請求項18記載の切削工具用硬質皮膜において、前記第1皮膜層と、この第1皮膜層の下方に設けられる第2皮膜層とからなり、前記第2皮膜層は、AlとCrとからなり不可避不純物を含む窒化物層D及びAlとCrとCuとからなり不可避不純物を含む窒化物層Eとが積層してなるもので、前記窒化物層Dは、前記窒化物層Aと同一組成であり、また、前記Eは、前記窒化物層Bと同一組成であることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【0026】
また、請求項1~19いずれか1項に記載の切削工具用硬質皮膜において、前記基材の直上に形成される下地層を有し、この下地層はTiの窒化物若しくは炭窒化物からなることを特徴とする切削工具用硬質皮膜に係るものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明は上述のように構成したから、従来例よりも優れた耐摩耗性を発揮する切削工具用硬質皮膜となる。
【0028】
したがって、本発明の切削工具用硬質皮膜を切削工具の基材上に被覆することにより、従来例を被覆した場合に比べて切削工具の損傷が抑制され、工具寿命が延命化される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】(A)は本発明の窒化物層Cの一具体例(AlTiNbCrVN)の結晶組織図(反射電子像)であり、(B)は従来例(AlCrN)の結晶組織図(反射電子像)である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0031】
図1の(A)は本発明の窒化物層Cの一具体例(Ti,Nb,Cr,V,Ta,Zr及びBからTi,Nb,Cr,Vの4種を選択しAlTiNbCrVNとした場合)の結晶組織図(反射電子像)であり、(B)は従来例の結晶組織図(反射電子像)である。
【0032】
本発明の窒化物層Cは、図1の(A)に示すように、(B)の従来例に比べ、結晶粒が小さいため、結晶粒界での亀裂の伸展の抑制やホールペッチ効果に伴う硬度の上昇等の効果が期待でき、優れた耐摩耗性を得ることができる(これは、本発明の窒化物層Cが、複数種の金属元素を含むことで、高エントロピー合金と同様、混合エントロピーが高くなり、ハイエントロピー効果や格子歪み効果、低拡散性が発揮されるためと考える。)。なお、本明細書中においては、前記金属元素は半金属元素も含むものとする。
【0033】
本発明は、被削材と接する第1皮膜層に、前記窒化物層Cが含まれているから、AlCrNよりも優れた耐摩耗性を発揮する切削工具用硬質皮膜となり、従来例を被覆した場合に比べて切削工具の損傷が抑制され、工具寿命が延命化される。
【実施例0034】
本発明の具体的な実施例1について説明する。
【0035】
本実施例は、基材上に形成された切削工具用硬質皮膜であって、被削材と接する第1皮膜層が、Al及びCrからなり不可避不純物を含む窒化物層A(以下、単に「窒化物層A」という。)及びAl、Cr及びCuからなり不可避不純物を含む窒化物層B(以下、単に「窒化物層B」という。)の少なくとも一方と、AlとTi,Nb,Cr,V,Ta,Zr,Bから選択される4種類の金属元素からなり不可避不純物を含む窒化物層C(以下、単に「窒化物層C」という。)とが積層してなるものである。
【0036】
具体的には、本実施例は、前記第1皮膜層(最表層)と、この第1皮膜層の直下に設けられ、Al及びCrからなり不可避不純物を含む窒化物層D(以下、単に「窒化物層D」という。)とAl、Cr及びCuからなり不可避不純物を含む窒化物層E(以下、単に「窒化物層E」という。)とが積層してなる第2皮膜層(中間層)と、この第2皮膜層の直下にして基材の直上に設けられ、Tiを主成分とする窒化物若しくは炭窒化物からなる下地層(密着層)とからなる切削工具用硬質皮膜である。
【0037】
以下、本実施例に係る構成各部について詳述する。
【0038】
本実施例の第1皮膜層は、窒化物層A、窒化物層B及び窒化物層Cが積層してなるものである。
【0039】
具体的には、窒化物層Aは、金属成分がモル%でAl(m)Cr(n)(ただし、m+n=100)で表され、非金属元素として少なくともNを含み不可避不純物を含むAlCrNからなるものである。
【0040】
より具体的には本実施例の窒化物層Aは、(Al70Cr30)Nからなるものであり、厚さ0.01μm~0.02μmに設定されている。
【0041】
なお、窒化物層Aは、前記(Al70Cr30)Nに限定されるものではなく、例えば、(Al60Cr40)N、(Al50Cr50)N、(Al40Cr60)Nとしても良い。
【0042】
また、窒化物層Bは、金属成分がモル%でAl(x)Cr(y)Cu(z)(ただし、x+y+z=100、且つ、0<z≦5)で表され、非金属元素として少なくともNを含み不可避不純物を含むAlCrCuNからなるものである。
【0043】
具体的には、本実施例の窒化物層Bは、(Al49.5Cr49.5Cu1)Nからなるものであり、厚さ0.01μm~0.02μmに設定されている。
【0044】
なお、窒化物層Bにおいては、前記のとおり、Cu含有量が0<z≦5(モル%)の範囲で適用可能であり、したがって、窒化物層Bは、前記(Al49.5Cr49.5Cu1)Nに限定されるものではなく、例えば、(Al49.5Cr49.5Cu1)N、(Al49Cr49Cu2)N、(Al47.5Cr47.5Cu5)Nとしても良い。
【0045】
また、窒化物層Cは、Al以外の4種類の金属元素(Ti,Nb,Cr,V,Ta,Zr,Bから選択される4つの金属元素)をX1,X2,X3,X4とした場合、金属成分がモル%でAl(a)X1(b1)X2(b2)X3(b3)X4(b4)(ただし、a+b1+b2+b3+b4=100、30モル%≦a≦60モル%、b1=b±5モル%、b2=b±5モル%、b3=b±5モル%、b4=b±5モル%、b=(100-a)/4)で表され、非金属元素として少なくともNを含み不可避不純物を含むAlX1X2X3X4N(ただし、X1,X2,X3,X4はTi,Nb,Cr,V,Ta,Zr,Bから選択される4種類の金属元素)からなるものである。
【0046】
具体的には、本実施例の窒化物層Cは、Al以外の4種類の金属元素として、Ti,Nb,Cr,Vが選択されたものであり、金属成分がモル%でAl(a)Ti(b1)Nb(b2)Cr(b3)(b4)(ただし、a+b1+b2+b3+b4=100、30≦a≦60、b1=b±5、b2=b±5、b3=b±5、b4=b±5、b=(100-a)/4))で表され、非金属元素として少なくともNを含み不可避不純物を含むAlTiNbCrVNからなるものである。
【0047】
より具体的には、本実施例の窒化物層Cは、(Al40Ti15Nb15Cr1515)Nからなるものであり、厚さ0.01μm~0.02μmに設定されている。
【0048】
なお、窒化物層Cにおいては、前記のとおり、Alの含有量が30≦a≦60(モル%)の範囲で適用可能であり、したがって、窒化物層Cは、前記(Al40Ti15Nb15Cr1515)Nに限定されるものではなく、例えば、(Al30Ti17.5Nb17.5Cr17.517.5)N、(Al50Ti12.5Nb12.5Cr12.512.5)N、(Al60Ti10Nb10Cr1010)Nとしても良い。
【0049】
また、窒化物層Cにおいては、Al以外の金属成分は等量である方が好ましいが、前記のとおり、等量値から5モル%以下のズレ量の範囲で適用可能であり、したがって、例えば、(Al40Ti20Nb10Cr1515)N、(Al40Ti10Nb20Cr1515)N、(Al40Ti15Nb15Cr1020)Nとしても良い。
【0050】
また、さらに、窒化物層Cは、Al以外の4種類の金属元素として、Ti,Nb,Cr,V以外の組み合わせの組成としても良い。すなわち、例えば、AlTiNbCrTaN(VをTaに置き換え)、AlTiNbCrZrN(VをZrに置き換え)、AlTiNbCrBN(VをBに置き換え)、AlTiCrZrBN(NbとVをZrとBに置き換え)、AlNbCrTaBN(TiとVをTaとBに置き換え)、AlTiNbZrBN(CrとVをZrとBに置き換え)としても良い。
【0051】
本実施例の第1皮膜層は、これらの層が交互に(順に)複数積層してなるものであり、本実施例においては、窒化物層A/窒化物層C/窒化物層B、すなわち、(Al70Cr30)N/(Al40Ti15Nb15Cr1515)N/(Al49.5Cr49.5Cu1)Nの積層層が繰り返し形成された構成となっている。なお、第1皮膜層においては、最表層が窒化物層A、窒化物層B、窒化物層Cのいずれの層であっても良い。
【0052】
また、前記第1皮膜層の直下に設けられ、本実施例の中間層となる第2皮膜層は、窒化物層D及び窒化物層Eが積層してなるものである。
【0053】
具体的には、窒化物層Dは、金属成分がモル%でAl(m)Cr(n)(ただし、m+n=100)で表され、非金属元素として少なくともNを含み不可避不純物を含むAlCrNからなるものである。
【0054】
より具体的には本実施例の窒化物層Dは、(Al70Cr30)Nからなるものであり、厚さ0.01μm~0.02μmに設定されている。
【0055】
また、窒化物層Eは、金属成分がモル%でAl(x)Cr(y)Cu(z)(ただし、x+y+z=100、且つ、0<z≦5)で表され、非金属元素として少なくともNを含み不可避不純物を含むAlCrCuNからなるものである。
【0056】
具体的には、本実施例の窒化物層Eは、(Al49.5Cr49.5Cu1)Nからなるものであり、厚さ0.01μm~0.02μmに設定されている。
【0057】
すなわち、本実施例においては、第2皮膜層の窒化物層Dは、第1皮膜層の窒化物層Aと同一組成であり、また、第2皮膜層の窒化物層Eは、第1皮膜層の窒化物層Bと同一組成となっている。
【0058】
本実施例の第2皮膜層は、これらの層が交互に(順に)複数積層してなるものであり、具体的には、窒化物層D/窒化物層E、すなわち、(Al70Cr30)N/(Al49.5Cr49.5Cu1)Nの積層層が繰り返し形成された構成となっている。なお、この第2皮膜層においては、最表層、すなわち、第1皮膜層との境界層が窒化物層D、窒化物層Eのいずれの層であっても良い。また、本実施例の第2皮膜層においては前記のように、窒化物層Dは第1皮膜層の窒化物層Aと、窒化物層Eは第1皮膜層の窒化物層Bと同一組成比の窒化物層を採用しているが、窒化物層D及び窒化物層Eはそれぞれ第1皮膜層の窒化物層A及び窒化物層Bと異なる組成としても良い。
【0059】
また、第2皮膜層においては、窒化物層D中のCrの量と窒化物層E中のCrの量との平均値が約30モル%以上50モル%以下(好ましくは40モル%以上50モル%以下)となるように、窒化物層D中のCrの量、窒化物層E中のCrの量がそれぞれ設定されている。
【0060】
言い換えると、第2皮膜層においては、窒化物層D中のCrの量と窒化物層E中のCrの量との平均値が約30モル%以上50モル%以下であれば、良好な耐摩耗性が発揮されるものとなる。
【0061】
したがって、第2皮膜層においては、前記(Al70Cr30)N/(Al49.5Cr49.5Cu1)Nの層構成に限定されるものではなく、例えば、(Al50Cr50)N/(Al49.5Cr49.5Cu1)N、(Al60Cr40)N/(Al49.5Cr49.5Cu1)N、(Al70Cr30)N/(Al39.6Cr59.4Cu1)N、(Al70Cr30)N/(Al59.4Cr39.6Cu1)N、(Al40Cr60)N/(Al59.4Cr39.6Cu1)N、(Al70Cr30)N/(Al69.5Cr29.5Cu1)Nとしても良い。
【0062】
また、前記第2皮膜層の直下にして基材の直上に設けられ、本実施例の密着層となる下地層は、TiNからなるものである。この下地層は、基材と第2皮膜層との密着性を向上させるためのものであり、厚さが薄すぎると密着性向上作用が低下し、また、厚さが厚すぎると切削工具用硬質皮膜全体の硬度が低下してしまうため、適宜な厚さ(本実施例においては、0.1μm~0.5μm)で形成することが望ましい。
【0063】
なお、この下地層としては、Tiの代わりにCrを主成分とする窒化物若しくは炭窒化物を採用しても良い。
【0064】
また、本実施例の切削工具用硬質皮膜に関し、上述した第1皮膜層と第2皮膜層とを交互に複数積層した多層積層膜とした構成としても良い。すなわち、例えば、第1皮膜層/第2皮膜層を積層した積層層を1セットとし、これを複数セット(例えば4セット)積層した構成としても良い。
【0065】
次に、本実施例において、第1皮膜層を前記構成とした理由を以下に説明する。
【0066】
本実施例の第1皮膜層は、種々の実験、検討を重ね、下表1に示すA1~A24の切削工具用硬質皮膜について、耐摩耗性を確認すべく下記実験1を行い、この実験1の結果に基づき、決定したものである。
【0067】
<実験1>
各切削工具の基材(WC(タングステンカーバイト)とCo(コバルト)を含有する超硬合金製)上にアークイオンプレーティング法により表1のA1~A24に示す層構成の第1皮膜層を形成し、夫々の切削工具において、被削材(炭素鋼)を下記切削加工条件Aで切削加工した際の逃げ面における切削工具用硬質皮膜の摩耗幅を測定した。なお、本実験では、基材の直上に下地層としてTiNを形成し、このTiN上に第1皮膜層を形成した。
【0068】
<切削加工条件A>
工具:超硬合金製2枚刃ボールエンドミル
工具径:3.0mm
クーラント:水溶性切削油
回転速度:20000min-1
送り速度:2.0m/min
軸方向切込み量:0.32mm
半径方向切込み量:0.9mm
加工方法:ポケット加工(縦195mm×横45mm×深さ2.0mm)
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、従来例(A1及びA2)と比較し、A17、A20、A23及びA24において摩耗幅が同等若しくはそれ以上となる結果が得られた。これらのうち、A20、A23及びA24は従来例よりも摩耗幅が小さい(耐摩耗性が良い)結果であったが、A20及びA23においては、ドロップレットの発生が、従来例を含むその他実施例と比較し多く確認された(Ta起因と考える。)。
【0071】
以上より、本実施例においては、摩耗幅が小さく、また、ドロップレットの懸念も少ないA24に示す構成、すなわち、窒化物層Aとして(Al70Cr30)N、窒化物層Bとして(Al49.5Cr49.5Cu1)N、窒化物層Cとして(Al40Ti15Nb15Cr1515)Nを採用した、(Al70Cr30)N/(Al40Ti15Nb15Cr1515)N/(Al49.5Cr49.5Cu1)Nの多層構造皮膜層を第1皮膜層として採用した。
【0072】
次に、本実施例の第1皮膜層において、(Al70Cr30)N)/(Al40Ti15Nb15Cr1515)N/((Al49.5Cr49.5Cu1)N以外の前記に示した構成の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0073】
<実験2>
実験2は、第1皮膜層の窒化物層C中のAlの量の適正範囲を確認するための実験である。
【0074】
具体的には、実験2では、窒化物層C中のAlの量を変更した下表2に示すA25~A27の切削工具用硬質皮膜について、前記実験1と同様の実験方法(切削加工条件も同様)にて、摩耗幅を測定した。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示すように、実験1のA24の摩耗幅:59μmと比較し、A25及びA26において摩耗幅が同等若しくはそれ以下となる結果が得られた。
【0077】
以上より、第1皮膜層の窒化物層C中のAlの量の適正範囲は、30モル%以上60モル%以下であり、窒化物層CのAlの量がこの範囲内であれば、良好な耐摩耗性が発揮されるものとなることが確認された。
【0078】
<実験3>
実験3は、第1皮膜層の窒化物層C中のAl以外の金属成分の量の適正範囲を確認するための実験である。
【0079】
具体的には、実験3では、窒化物層C中のAl以外の金属成分の量を変更した(Al以外の金属成分の量を非等量とした)下表3に示すA28~A36の切削工具用硬質皮膜について、前記実験1と同様の実験方法(切削加工条件も同様)にて、摩耗幅を測定した。
【0080】
【表3】
【0081】
表3に示すように、実験AのA24の摩耗幅:59μmと比較し、A24よりも良好な摩耗幅となるものはなかったものの、A28、A29及びA36において摩耗幅がA24とほぼ同等となる結果が得られた。
【0082】
以上より、第1皮膜層は、窒化物層CのAl以外の金属成分は等量である方が好ましいが、等量値から5モル%以下のズレ量の範囲であれば、良好な耐摩耗性が発揮されるものとなることが確認された。
【0083】
<実験4>
実験4は、第1皮膜層の窒化物層C中のAl以外の4種類の金属元素として、Ti,Nb,Cr,V以外の組み合わせを選択した場合の耐摩耗性を確認するための実験である。
【0084】
具体的には、実験4では、窒化物層C中のAl以外の4種類の金属元素の組み合わせを変更した下表4に示すA37~A43の切削工具用硬質皮膜について、前記実験1と同様の実験方法(切削加工条件も同様)にて、摩耗幅を測定した。
【0085】
【表4】
【0086】
表4に示すように、実験AのA24の摩耗幅:59μmと比較し、A24よりも良好な摩耗幅となるものはなかったものの、A38~A42において摩耗幅がA24とほぼ同等となる結果が得られた。
【0087】
以上より、第1皮膜層は、窒化物層CのAl以外の金属元素Ti,Nb,Cr,Vの一部を、Ta,Zr,Bに置き換えても、良好な耐摩耗性が発揮されるものとなることが確認された。
【0088】
また、本実施例において、第2皮膜層を前記構成とした理由を以下に説明する。
【0089】
本実施例の第2皮膜層は、第1皮膜層同様、種々の実験、検討を重ね、最終的に下表5に示すB2~B6の切削工具用硬質皮膜について、耐摩耗性を確認すべく下記実験5を行い、この実験5の結果に基づき、決定したものである。
【0090】
<実験5>
切削工具の基材(WC(タングステンカーバイト)とCo(コバルト)を含有する超硬合金製)上にアークイオンプレーティング法により表5のB2~B6に示す組成の第2皮膜層を形成し、この第2皮膜層上に実験1により決定した(Al70Cr30)N/(Al40Ti15Nb15Cr1515)N/(Al49.5Cr49.5Cu1)Nを第1皮膜層として形成し、各切削工具を用いて被削材(プリハードン鋼)を下記切削加工条件Bで切削加工した際の逃げ面における切削工具用硬質皮膜の摩耗幅を測定した。なお、B1は、実験1のA1と同構成の従来例である。また、本実験では、基材の直上に下地層(密着層)としてTiNを形成し、このTiN上に、B1は第1皮膜層を、B2~B6は第2皮膜層を形成した。
【0091】
また、本実験において、第1皮膜層の厚さは約1.2μm、第2皮膜層の厚さは約2.4μmとした。
【0092】
<切削加工条件B>
工具:超硬合金製2枚刃ボールエンドミル
工具径:3.0mm
クーラント:水溶性切削油
回転速度:20000min-1
送り速度:2.0m/min
軸方向切込み量:0.32mm
半径方向切込み量:0.9mm
加工方法:ポケット加工(縦195mm×横30mm×深さ3.0mm)
【0093】
【表5】
【0094】
表5に示すように、従来例(B1)と比較した場合、第1皮膜層の下に第2皮膜層を設けたB2~B6の全ての切削工具用硬質皮膜が従来例よりも摩耗幅が小さくなる(耐摩耗性が向上する)結果が得られた。その中でも、第2皮膜層を(Al70Cr30)Nと(Al49.5Cr49.5Cu1)Nとの積層構造としたB4が、最も摩耗幅が小さい(耐摩耗性が良い)結果であった。
【0095】
以上より、本実施例においては、摩耗幅が小さくなる(耐摩耗性が向上する)B4に示す構成、すなわち、窒化物層Dとして(Al70Cr30)N、窒化物層Eとして(Al49.5Cr49.5Cu1)Nを採用した、(Al70Cr30)N/(Al49.5Cr49.5Cu1)Nの多層構造皮膜層を第2皮膜層として採用した。
【0096】
次に、本実施例の第2皮膜層において、(Al70Cr30)N/(Al49.5Cr49.5Cu1)N以外の前記に示した構成の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0097】
<実験6>
実験6は、第1皮膜層の窒化物層B及び第2皮膜層の窒化物層Eのそれぞれの窒化物層中のCuの量の適正範囲を確認するための実験である。
【0098】
具体的には、実験6では、第1皮膜層の窒化物層B及び第2皮膜層の窒化物層Eのそれぞれの窒化物層中のCuの量を変更した下表6に示すB7~B10の切削工具用硬質皮膜について、前記実験5と同様の実験方法(切削加工条件も同様)にて、摩耗幅を測定した。
【0099】
【表6】
【0100】
表6に示すように、従来例(実験5のB1)の摩耗幅:50.2μmと比較し、B7~B9において摩耗幅が小さくなる(耐摩耗性が向上する)結果が得られ、その中でも、B8,B9の摩耗幅が実験5のB3とほぼ同等となる結果であった。
【0101】
以上より、実験5の結果も踏まえ、第1皮膜層の窒化物層B及び第2皮膜層の窒化物層Eの各Cuの量が、0より大きく5モル%以下であれば、良好な耐摩耗性が発揮されるものとなることが確認された。
【0102】
<実験7>
実験7は、第2皮膜層の窒化物層D及び窒化物層Eのそれぞれの窒化物層中のCrの量の適正範囲を確認するための実験である。
【0103】
具体的には、実験6では、第2皮膜層の窒化物層D及び窒化物層Eのそれぞれの窒化物層中のCrの量を変更した下表7に示すB11~B17の切削工具用硬質皮膜について、前記実験5と同様の実験方法(切削加工条件も同様)にて、摩耗幅を測定した。
【0104】
【表7】
【0105】
表7に示すように、従来例(実験5のB1)の摩耗幅:50.2μmと比較し、B12以外は全て摩耗幅が小さくなる(耐摩耗性が向上する)結果が得られた。
【0106】
B12は、窒化物層D中のCrの量と窒化物層E中のCrの量の平均値が50モル%よりも大きい(約55モル%)ものであり、また、このB12以外は、窒化物層D中のCrの量と窒化物層E中のCrの量の平均値が約30モル%以上50モル%以下である。
【0107】
以上より、第2皮膜層においては、窒化物層D中のCrの量と窒化物層E中のCrの量との平均値が約30モル%以上50モル%以下(好ましくは40モル%以上50モル%以下)であれば、良好な耐摩耗性が発揮されるものとなることが確認された。
【0108】
<実験8>
実験8は、前記実験2並びに第1皮膜層に関する前記実験2及び前記実験4の結果を踏まえ、第1皮膜層の窒化物層Cの組成比、具体的には、Alの量を変更した場合(本実験ではAlの量を40モル%→60モル%とした場合)、及び、窒化物層C中のAl以外の4種類の金属元素として、Ti,Nb,Cr,V以外の組み合わせの組成とした場合(本実験では、Ti,Nb,Cr,Bを選択した場合(VをBに置き換えた場合))の耐摩耗性を確認するための実験である。
【0109】
具体的には、実験8では、下表8に示すB18,19の切削工具用硬質皮膜について、前記実験5と同様の実験方法(切削加工条件も同様)にて、摩耗幅を測定した。
【0110】
【表8】
【0111】
表8に示すように、従来例(実験5のB1)の摩耗幅:50.2μmと比較し、B18,19のいずれにおいても摩耗幅が小さくなる(耐摩耗性が向上する)結果が得られた。
【0112】
以上より、第1皮膜層においては、窒化物層CのAlの量が、30モル%以上60モル%以下であれば、また、窒化物層CのAl以外の金属元素Ti,Nb,Cr,Vの一部を、Ta,Zr,Bに置き換えても、良好な耐摩耗性が発揮されるものとなることが確認された。
【実施例0113】
本発明の具体的な実施例2について説明する。
【0114】
本実施例は、実施例1と第1皮膜層の窒化物層Cの構成(組成)が異なる場合である。
【0115】
具体的には、本実施例は、第1皮膜層の窒化物層Cが、AlとTi,Nb,Cr,V,Ta,Zr,Bから選択される5~6種類の金属元素からなり不可避不純物を含む窒化物層からなる場合である。
【0116】
以下、本実施例について詳述するが、本実施例においては、第1皮膜層の窒化物層C以外は実施例1と同様であるため、窒化物層C以外の説明は省略する。
【0117】
本実施例の窒化物層Cは、Al以外の金属元素をTi,Nb,Cr,V,Ta,Zr,Bから選択される5つの金属元素(X1,X2,X3,X4,X5)とした場合、金属成分がモル%でAl(a)X1(b1)X2(b2)X3(b3)X4(b4)X5(b5)(ただし、a+b1+b2+b3+b4+b5=100、30モル%≦a≦60モル%、b1=b±5モル%、b2=b±5モル%、b3=b±5モル%、b4=b±5モル%、b5=b±5モル%、b=(100-a)/5)で表され、また、Al以外の金属元素をTi,Nb,Cr,V,Ta,Zr,Bから選択される6つの金属元素(X1,X2,X3,X4,X5,X6)とした場合、金属成分がモル%でAl(a)X1(b1)X2(b2)X3(b3)X4(b4)X5(b5)X6(b6)(ただし、a+b1+b2+b3+b4+b5+b6=100、30モル%≦a≦60モル%、b1=b±5モル%、b2=b±5モル%、b3=b±5モル%、b4=b±5モル%、b5=b±5モル%、b6=b±5モル%、b=(100-a)/6)で表される。
【0118】
具体的には、本実施例の窒化物層Cは、Al以外の5種類の金属元素として、Ti,Nb,Cr,V,Bが選択されたものであり、金属成分がモル%でAl(a)Ti(b1)Nb(b2)Cr(b3)(b4)(b5)(ただし、a+b1+b2+b3+b4+b5=100、30≦a≦60、b1=b±5、b2=b±5、b3=b±5、b4=b±5、b5=b±5モル%、b=(100-a)/5))で表され、非金属元素として少なくともNを含み不可避不純物を含むAlTiNbCrVBNからなるものである。
【0119】
より具体的には、本実施例の窒化物層Cは、(Al40Ti12Nb12Cr121212)Nからなるものであり、厚さ0.01μm~0.02μmに設定されている。
【0120】
なお、窒化物層Cは、前記組成に限定されるものでなく、例えば、Bの代わりにTa若しくはZrを選択(BをTa若しくはZrに置き換え)しても良く、また、前記のように1種類の置き換えではなく、複数種類の金属元素を置き換えても良い。また、さらに、Al以外の金属元素をTi,Nb,Cr,V,Ta,Zr,Bから選択される6つの金属元素からなるものとしても良い(例えば、AlTiNbZrCrVBNなど)。
【0121】
次に、本実施例の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0122】
<実験9>
各切削工具の基材(WC(タングステンカーバイト)とCo(コバルト)を含有する超硬合金製)上にアークイオンプレーティング法により表9のC1,C2に示す層構成の第1皮膜層を形成し、それぞれの切削工具において、被削材(炭素鋼)を下記切削加工条件Cで切削加工した際の逃げ面における切削工具用硬質皮膜の摩耗幅を測定した。なお、本実験では、基材の直上に下地層としてTiNを形成し、このTiN上に第1皮膜層を形成した。
【0123】
<切削加工条件C>
工具:超硬合金製2枚刃ボールエンドミル
工具径:3.0mm
クーラント:水溶性切削油
回転速度:20000min-1
送り速度:2.0m/min
軸方向切込み量:0.32mm
半径方向切込み量:0.9mm
加工方法:ポケット加工(縦195mm×横45mm×深さ2.0mm)
【0124】
【表9】
【0125】
表9に示すように、従来例(実施例1の実験AのA1及びA2)と比較し、いずれも摩耗幅が同等若しくはそれ以下となる結果が得られ、また、実施例1の実験1のA24と比較しても、同レベルの摩耗幅(耐摩耗性)が得られることが確認された。
【0126】
<実験10>
切削工具の基材(WC(タングステンカーバイト)とCo(コバルト)を含有する超硬合金製)上にアークイオンプレーティング法により表10のC3に示す組成の第2皮膜層及び第1皮膜層を形成し、この切削工具を用いて被削材(プリハードン鋼)を下記切削加工条件Dで切削加工した際の逃げ面における切削工具用硬質皮膜の摩耗幅を測定した。
【0127】
なお、本実験では、基材の直上に下地層(密着層)としてTiNを形成し、このTiN上に第2皮膜層を形成した。また、本実験において、第1皮膜層の厚さは約1.2μm、第2皮膜層の厚さは約2.4μmとした。
【0128】
<切削加工条件D>
工具:超硬合金製2枚刃ボールエンドミル
工具径:3.0mm
クーラント:水溶性切削油
回転速度:20000min-1
送り速度:2.0m/min
軸方向切込み量:0.32mm
半径方向切込み量:0.9mm
加工方法:ポケット加工(縦195mm×横30mm×深さ3.0mm)
【0129】
【表10】
【0130】
表10に示すように、従来例(実施例1の実験5のB1)の摩耗幅:50.2μmと比較し、摩耗幅が小さくなる(耐摩耗性が向上する)結果が得られ、また、実施例1の実験5のB3と比較しても、同レベルの摩耗幅(耐摩耗性)が得られることが確認された。
【0131】
なお、本発明は、実施例1,2に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
図1
【手続補正書】
【提出日】2022-10-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0081
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0081】
表3に示すように、実験1のA24の摩耗幅:59μmと比較し、A24よりも良好な摩耗幅となるものはなかったものの、A28、A29及びA36において摩耗幅がA24とほぼ同等となる結果が得られた。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0086
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0086】
表4に示すように、実験1のA24の摩耗幅:59μmと比較し、A24よりも良好な摩耗幅となるものはなかったものの、A38~A42において摩耗幅がA24とほぼ同等となる結果が得られた。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0103
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0103】
具体的には、実験7では、第2皮膜層の窒化物層D及び窒化物層Eのそれぞれの窒化物層中のCrの量を変更した下表7に示すB11~B17の切削工具用硬質皮膜について、前記実験5と同様の実験方法(切削加工条件も同様)にて、摩耗幅を測定した。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0108
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0108】
実験8は、前記実験5並びに第1皮膜層に関する前記実験2及び前記実験4の結果を踏まえ、第1皮膜層の窒化物層Cの組成比、具体的には、Alの量を変更した場合(本実験ではAlの量を40モル%→60モル%とした場合)、及び、窒化物層C中のAl以外の4種類の金属元素として、Ti,Nb,Cr,V以外の組み合わせの組成とした場合(本実験では、Ti,Nb,Cr,Bを選択した場合(VをBに置き換えた場合))の耐摩耗性を確認するための実験である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0125
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0125】
表9に示すように、従来例(実施例1の実験1のA1及びA2)と比較し、いずれも摩耗幅が同等若しくはそれ以下となる結果が得られ、また、実施例1の実験1のA24と比較しても、同レベルの摩耗幅(耐摩耗性)が得られることが確認された。