(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168856
(43)【公開日】2022-11-08
(54)【発明の名称】場所打ち鋼管コンクリート杭の応力伝達構造
(51)【国際特許分類】
E02D 5/34 20060101AFI20221031BHJP
E02D 5/30 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
E02D5/34 A
E02D5/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071777
(22)【出願日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2021074156
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】595067442
【氏名又は名称】システム計測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 豊
(72)【発明者】
【氏名】小林 由春
(72)【発明者】
【氏名】兼平 雄吉
(72)【発明者】
【氏名】中西 義隆
(72)【発明者】
【氏名】藤田 峻也
(72)【発明者】
【氏名】坪川 建太郎
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA03
2D041BA02
2D041BA17
2D041BA44
2D041DA03
2D041DB02
2D041EB10
(57)【要約】
【課題】簡単に製作できてブリージングの影響が生じないうえに、応力伝達性能に優れた場所打ち鋼管コンクリート杭の応力伝達構造を提供する。
【解決手段】鋼管とコンクリートとによって形成される場所打ち鋼管コンクリート杭1の応力伝達構造である。
そして、周囲及び内部にコンクリートが充填される円筒形の鋼管21の端部21aに、周方向に間隔を置いて複数の側面視略円形の貫通穴22が設けられていることを特徴とす。ここで、貫通穴は、鋼管サイズに応じて周方向に等間隔で4箇所から32箇所が設けられる構成とすることができる。また、貫通穴は、鋼管の軸方向に間隔を置いて1段から10段の任意の段数が設けられる構成とすることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管とコンクリートとによって形成される場所打ち鋼管コンクリート杭の応力伝達構造であって、
周囲及び内部にコンクリートが充填される円筒形の鋼管の端部に、周方向に間隔を置いて複数の側面視略円形又は側面視で上側に頂点が形成される多角形の貫通穴が設けられていることを特徴とする場所打ち鋼管コンクリート杭の応力伝達構造。
【請求項2】
前記貫通穴は、鋼管サイズに応じて周方向に等間隔で4箇所から32箇所が設けられることを特徴とする請求項1に記載の場所打ち鋼管コンクリート杭の応力伝達構造。
【請求項3】
前記鋼管の端部は、鋼管コンクリート部と鉄筋コンクリート部との境界付近に配置されるものであって、
前記貫通穴は、前記鋼管と前記鉄筋コンクリート部の鉄筋との応力伝達性能を高めるために、前記鋼管の軸方向に間隔を置いて1段から5段の任意の段数が設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の場所打ち鋼管コンクリート杭の応力伝達構造。
【請求項4】
前記鋼管の端部は、拡底杭の拡底部又は中間拡径杭の拡径部に配置されるるものであって、
前記貫通穴は、前記拡底部又は前記拡径部の引抜き耐力を前記鋼管に伝達させるために、前記鋼管の軸方向に間隔を置いて1段から10段の任意の段数が設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の場所打ち鋼管コンクリート杭の応力伝達構造。
【請求項5】
前記貫通穴に対して、前記鋼管の外周側及び内部に突出する補強管が挿入されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の場所打ち鋼管コンクリート杭の応力伝達構造。
【請求項6】
前記貫通穴の周囲に鋼材を溶接することで開口補強部を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の場所打ち鋼管コンクリート杭の応力伝達構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管とコンクリートとによって形成される場所打ち鋼管コンクリート杭の応力伝達構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
杭の上部を鋼管コンクリート杭にし、下部を場所打ちコンクリート杭にした場所打ち鋼管コンクリート杭が知られている(特許文献1-3など参照)。このような複合構造の杭では、鋼管コンクリート部と鉄筋コンクリート部との境界に継手部が発生する。
【0003】
通常、杭には鉛直荷重が主に作用することになり、継手部が存在しても鉛直荷重に対しては支障をきたすことはない。しかしながら、地震時において、杭頭に大きな水平力が作用すると、杭に曲げモーメント及びせん断力が作用し、継手部が弱部となるおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1-3では、鋼管コンクリート部と鉄筋コンクリート部との継手部を補強するための継手構造を設けている。すなわち、鋼管の内空に充填するコンクリートとの付着力(摩擦抵抗)を大きくするために、鋼管の内周面に凸部を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5717118号公報
【特許文献2】特開2006-138095号公報
【特許文献3】特公平5-62171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、鋼管の内周面に凸部を設けるのは、製作作業が困難で手間がかかる場合がある。一方、特許文献3には、鋼管の外周にもコンクリートを回り込ませることができるように、鋼管の周壁に側面視長方形の開口を設けた構造が記載されている。
【0007】
側面視長方形の開口は、鋼管の外側から穿孔作業ができるため、鋼管の内周面に凸部を設けるよりは作業性がよいが、四辺を切断することになるので1開口当たりの工数が多く、複数の開口を設けるには、それなりに手間がかかる。
【0008】
また、長方形の開口の隅角部には、コンクリートのブリージングが溜まりやすく、硬化後のコンクリート部に空洞ができやすいという課題もある。こうした空洞がコンクリート部にできないようにするためには、特殊な添加剤を充填するコンクリートに混入させるなどの対策が必要になる。
【0009】
そこで、本発明は、簡単に製作できてブリージングの影響が生じないうえに、応力伝達性能に優れた場所打ち鋼管コンクリート杭の応力伝達構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の場所打ち鋼管コンクリート杭の応力伝達構造は、鋼管とコンクリートとによって形成される場所打ち鋼管コンクリート杭の応力伝達構造であって、周囲及び内部にコンクリートが充填される円筒形の鋼管の端部に、周方向に間隔を置いて複数の側面視略円形又は側面視で上側に頂点が形成される多角形の貫通穴が設けられていることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記貫通穴は、鋼管サイズに応じて周方向に等間隔で4箇所から32箇所が設けられる構成とすることができる。また、前記貫通穴は、前記鋼管の軸方向に間隔を置いて1段から10段の任意の段数が設けられる構成とすることができる。
【0012】
さらに、こうした場所打ち鋼管コンクリート杭における前記鋼管の端部は、鋼管コンクリート部と鉄筋コンクリート部との境界付近、拡底杭の拡底部又は中間拡径杭の拡径部のいずれかに配置されることが好ましい。
【0013】
また、前記貫通穴に対して、前記鋼管の外周側及び内部に突出する補強管が挿入されている構成とすることができる。もしくは、前記貫通穴の周囲に鋼材を溶接することで開口補強部を設けた構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された本発明の場所打ち鋼管コンクリート杭の応力伝達構造は、周囲及び内部にコンクリートが充填される円筒形の鋼管の端部に、周方向に間隔を置いて複数の側面視略円形又は側面視で上側に頂点が形成される多角形の貫通穴が設けられている。
【0015】
側面視略円形又は側面視で上側に頂点が形成される多角形の貫通穴は、鋼管の外側から簡単な作業で穿孔できるうえに、円形又は上側に頂点が形成される多角形の貫通穴の周りにコンクリートが充填されても、ブリージングが溜まってしまうことがない。さらに、鋼管の内外のコンクリートが貫通穴を通して繋がることで、鋼管とコンクリートとの付着力を増大させることができる。
【0016】
また、鋼管サイズに応じて周方向に等間隔で4箇所から32箇所の貫通穴を設けるのであれば、杭の周方向に偏りがない状態で付着力が得られるようになるうえに、鋼管21の耐力の低下も許容範囲内に抑えることができる。
【0017】
そして、貫通穴が設けられた鋼管の端部が、鋼管コンクリート部と鉄筋コンクリート部との境界付近に配置されることで、鉄筋コンクリート部の鉄筋の引張力を鋼管コンクリート部の鋼管に効果的に伝達させることが可能になり、応力伝達性能を高めることができる。
【0018】
一方、貫通穴が設けられた鋼管の端部が、拡底杭の拡底部や中間拡径杭の拡径部に配置されることで、拡幅されて地盤に接する傾斜部分の引抜き耐力を、鋼管コンクリート部の鋼管に効果的に伝達させることができるようになる。
【0019】
また、貫通穴に対して、鋼管の外周側及び内部に突出する補強管が挿入されていれば、貫通穴の穿孔による鋼管の耐力低下を抑えることができるうえに、支圧抵抗を増加させることができるようになる。ここで、貫通穴の周囲に鋼材を溶接することで開口補強部を設けることでも、鋼管の耐力低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施の形態の場所打ち鋼管コンクリート杭の全体構成を示した説明図である。
【
図2A】場所打ち鋼管コンクリート杭の鋼管コンクリート部の構成を示した説明図である。
【
図2B】
図2Aとは貫通穴の数が異なる鋼管コンクリート部の構成を例示した説明図である。
【
図3】実施例1の拡底杭の拡底部付近の構成を示した説明図である。
【
図4】貫通穴を設けたことによる効果を確認した模型実験の供試体を説明する図であって、(a)は直杭の供試体の説明図、(b)は拡底杭の供試体の説明図である。
【
図5】実験結果を変位と荷重との関係で示したグラフである。
【
図6】実験結果を貫通穴の広さ(窓総面積)と最大荷重との関係で示したグラフである。
【
図7】実験結果を貫通穴の広さ(窓総面積)とせん断応力との関係で示したグラフである。
【
図8】実施例2の中間拡径杭の拡径部付近の構成を示した説明図である。
【
図9】実施例2の別の中間拡径杭の全体構成を示した説明図である。
【
図10】実施例3の鋼管の貫通穴に補強管が挿入された構成を示した説明図である。
【
図11】実施例3の補強管の作用を概念的に示した説明図である。
【
図12】拡底杭の場合の補強管の作用を概念的に示した説明図である。
【
図13A】補強管のない貫通穴の作用を概念的に示した説明図である。
【
図13B】拡底杭の場合の補強管のない貫通穴の作用を概念的に示した説明図である。
【
図14】実施例4の鋼管の貫通穴の周囲に開口補強部を設けた構成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の場所打ち鋼管コンクリート杭1の全体構成を示した説明図である。また、
図2Aは、場所打ち鋼管コンクリート杭1の鋼管コンクリート部2の構成を示した説明図である。
【0022】
まず、全体構成から説明すると、場所打ち鋼管コンクリート杭1は、
図1に示すように、上部に形成される鋼管コンクリート部2と、下部に形成される鉄筋コンクリート部3とを備えている。また、本実施の形態で説明する場所打ち鋼管コンクリート杭1は、鉄筋コンクリート部3の下端に截頭円錐状の拡底部11が設けられる拡底杭である。
【0023】
そして、場所打ち鋼管コンクリート杭1の頭部は、鉄筋コンクリート製のフーチング6に接続される。建物などの基礎に作用する上載荷重は、このフーチング6を介して場所打ち鋼管コンクリート杭1に伝達される。
【0024】
このフーチング6の下方に形成される鋼管コンクリート部2は、円筒形の鋼管21と、その内空及び外周に充填されるコンクリート4とによって主に構成される。ここで、鋼管21には、例えば直径が600mm-2500mm程度の鋼製の管材が使用できる。
【0025】
また、この鋼管21の上端の外周面には、複数の杭頭定着筋12が溶接などによって取り付けられる。この鋼管21から上方に向けて突出された杭頭定着筋12は、フーチング6内に埋設される。
【0026】
一方、地震時には、このフーチング6が杭下部より大きく水平移動することによって、鋼管コンクリート部2と鉄筋コンクリート部3との接合部(継手部)に、曲げモーメントやせん断力が作用することになる。
【0027】
そこで、このような力に対抗させるために、鋼管21の下側の端部21a付近に、コンクリート4との付着耐力を増加させるための貫通穴22を穿孔する。この貫通穴22は、側面視略円形で、鋼管21の周方向に間隔を置いて複数が設けられる。
【0028】
貫通穴22の直径は、コンクリート4の通過のしやすさや、1箇所で得られる付着力の大きさとの関係などを考慮して、コンクリート4の最大骨材径の3倍以上に設定することが好ましい。目安としては、直径75mm-250mm程度、例えば直径150mm程度の貫通穴22を設けることができる。
【0029】
さらに、周方向に間隔を置いて複数が設けられる貫通穴22を1段とすると、鋼管21の軸方向(杭軸方向)に間隔を置いて、1段から5段の任意の段数で、鋼管21の端部21aに設けることができる。
図1は、鋼管21の下側の端部21aに、3段の貫通穴22が設けられた例を図示している。
【0030】
また
図2Aに示すように、貫通穴22は、周方向に等間隔で設けられる。この図では、周方向に等間隔で4箇所に貫通穴22を設けた例を図示している。貫通穴22を設ける数はこれに限定されるものではない。例えば
図2Bに示すように、鋼管21Aの下側の端部21aに、周方向に等間隔で8箇所の貫通穴22を設けることもできる。
【0031】
すなわち貫通穴22は、鋼管サイズに応じて4箇所から32箇所の任意の数を、周方向に等間隔で設けることができる。等間隔で貫通穴22を設けることで、杭の周方向で得られる付着力を偏りがない状態にすることができる。例えば、直径が600mmの鋼管21であれば4箇所、直径が2500mmの鋼管21であれば24箇所の貫通穴22を、1段あたりに設けることができる。通常は、4箇所から8箇所程度の貫通穴22が、周方向に等間隔で設けられる。
【0032】
一方、場所打ち鋼管コンクリート杭1の下部に形成される鉄筋コンクリート部3は、
図1に示すように、軸方向に延設される鉄筋籠31と、その周囲に充填されるコンクリート4とを備えている。
【0033】
この鉄筋籠31は、円筒状に製作されるもので、
図2Aに示すように周方向に間隔を置いて配置される複数の主鉄筋31bと、
図1に示すように杭軸方向に間隔を置いて配置される環状の帯鉄筋31cとによって主に構成される。
【0034】
また、鉄筋籠31の上端部31aは、鋼管21の内部に収容される。この鋼管21の下部(端部21a)に収容された上端部31aは、
図1に示すように、3段の貫通穴22が設けられた範囲と略同じ範囲に配置されることによって、ラップされたことになる。
【0035】
例えば主鉄筋31bの直径をdとすると、貫通穴22が設けられる鋼管21の端部21aの軸方向の範囲(長さ)は、40d-45d程度の範囲とすることができる。なお、貫通穴22の直径については、鋼管21の直径(鋼管サイズ)によって、鋼管21の耐力を損なうことなく適切に設けることができる大きさを考慮して設定することもできる。また、必要に応じて、後述するように貫通穴22の周囲を補強することもできる。
【0036】
そして、鉄筋籠31の上端部31aを、貫通穴22が設けられた範囲と略同じ範囲に配置してラップさせることで、主鉄筋31bの引張力を鋼管21に効果的に伝達させることができるようになる。
【0037】
さらに、
図1に示すように、鋼管21の上側の端部21bを鉄筋コンクリート部と接続する場合も、貫通穴22を設けて鉄筋との応力伝達性能を高めることができる。詳細には、上部がフーチング6に埋設される杭頭補強筋121の下部を、鋼管21の上側の端部21bの内空に挿入して、貫通穴22が設けられた範囲にラップさせる。こうすることで、杭頭補強筋121の引張力を、鋼管21に効果的に伝達させることができるようになる。
【0038】
また、
図1には、鋼管21の上側の端部21bに3段の貫通穴22を設ける場合を図示したが、貫通穴22の穿孔による鋼管21の耐力低下が懸念される場合は、貫通穴22の周囲に環状の鋼板を溶接するなどして開口補強部23を設けることで、端部21bの耐力低下を抑えることができる。この開口補強部23は、鋼管21の外周面又は内周面のいずれか一方に環状の鋼板を固定する、又は鋼管21の外周面及び内周面の両方に環状の鋼板を固定するなどして設けることができる。
【0039】
次に、本実施の形態の場所打ち鋼管コンクリート杭1の構築方法について説明する。
まず施工前に、鋼管21の下側となる端部21a付近に、側面視略円形となる貫通穴22を、設計した数と間隔で穿孔する。
【0040】
側面視略円形の貫通穴22は、鋼管21の外周面に円の中心となる目印だけ付ければ、その中心点にポンチを打ち込んでガス切断機を自動的に回転させることで、簡単に穿孔することができる。
【0041】
一方、施工箇所においては、地盤Gにアースドリル工法やリバース工法などによって、杭孔5を掘削する。そして、クレーンによって杭孔5の上方に鋼管21を吊り上げ、杭孔5の上部に鋼管21を建て込む。この段階では、鋼管21の内側は、空洞又は掘削用の安定液で満たされた状態となっている。
【0042】
続いて、杭孔5の上方に鉄筋籠31を吊り上げ、鋼管21の中に鉄筋籠31を挿入し、沈降させる。ここで、図示していないが、鉄筋籠31の上端部31aには、鋼管21より長い吊り筋が接続されており、この吊り筋を介して鉄筋籠31を吊り下げることによって、鉄筋籠31を
図1に示す位置まで沈降させることができる。
【0043】
そして、吊り筋の杭孔5からの突出量を計測することで、鉄筋籠31の上端部31aを、鋼管21の端部21aの貫通穴22を設けた範囲に合せることができる。このように鋼管21と鉄筋籠31を杭孔5の所定の位置に配置した後に、杭孔5にトレミー管を建て込んで、トレミー管を使ってコンクリート4を打設する。コンクリート4は、孔底から鋼管21の上端まで連続して打ち上げる。
【0044】
そして、このコンクリート4の打設によって、鉄筋コンクリート部3と鋼管コンクリート部2とを備え、鋼管21の端部21aに穿孔された貫通穴22を介して、コンクリート4と鋼管21との付着力の耐力が確保される場所打ち鋼管コンクリート杭1の応力伝達構造が構築される。
【0045】
次に、本実施の形態の場所打ち鋼管コンクリート杭1の応力伝達構造の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の場所打ち鋼管コンクリート杭1の応力伝達構造は、周囲及び内部にコンクリート4が充填される円筒形の鋼管21の端部21aに、周方向に間隔を置いて複数の側面視略円形の貫通穴22が設けられている。
【0046】
側面視略円形の貫通穴22は、ガス切断機などを使って、鋼管21の外側から少ない工数の簡単な作業で、穿孔することができる。また、円形の貫通穴22の周りにコンクリート4が充填されても、その周囲にブリージングが溜まることはできず、コンクリート4に空洞が生じるのを防ぐことができる。
【0047】
そして、鋼管21の内外のコンクリート4が、貫通穴22を通して繋がることで、鋼管21とコンクリート4との付着力を増大させることができる。すなわち、鋼管21の端部21aが鉄筋コンクリート部3と鋼管コンクリート部2との境界付近に配置されることで、鉄筋籠31の主鉄筋31bの引張力を、鋼管コンクリート部2の鋼管21に効果的に伝達させることが可能になり、応力伝達性能を高めることができる。
【0048】
また、鋼管サイズに応じて鋼管21の周方向に等間隔で4箇所から32箇所の貫通穴22を設けるのであれば、杭の周方向に偏りがない状態で付着力が得られるようになるうえに、貫通穴22を穿孔したことによる鋼管21の耐力の低下も許容範囲内に抑えることができる。
【実施例0049】
以下、前記した実施の形態の場所打ち鋼管コンクリート杭1とは別の実施形態の場所打ち鋼管コンクリート杭について、
図3を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0050】
この実施例1では、場所打ち鋼管コンクリート杭としての拡底杭1Aについて説明する。本実施例1の拡底杭1Aは、上部に形成される鋼管コンクリート部2Aと、下部に形成される截頭円錐状の拡底部11Aとを備えている。
【0051】
鋼管コンクリート部2Aは、円筒形の鋼管21と、その内空に充填されるコンクリート4とによって主に構成される。ここで、鋼管21には、例えば直径が600mm-2500mm程度の鋼製の管材が使用できる。
【0052】
そして、鋼管21の下側の端部21a付近には、拡底部11Aの拡底傾斜部の引抜き耐力を、コンクリート4を介して鋼管21に伝達させるための貫通穴22が穿孔される。この貫通穴22は、側面視略円形で、鋼管21の周方向に間隔を置いて複数が設けられる。
【0053】
本実施例1では、拡底部11Aの内部に埋設させた鋼管21の端部21aに、周方向に間隔を置いて複数が設けられる貫通穴22を1段として、鋼管21の軸方向に間隔を置いて6段の貫通穴22が設けられている。
【0054】
このような構成となる拡底杭1Aの応力伝達構造であれば、貫通穴22が設けられた鋼管21の端部21aが拡底杭1Aの拡底部11Aに配置されることで、拡底部11Aの傾斜部分の引抜き耐力を鋼管21に効果的に伝達させることができるようになる。
【0055】
すなわち、杭孔5にトレミー管などを使って打設されるコンクリート4が、下から打ちあがってくる際に、貫通穴22を通って鋼管21の内外に充填されるとともに、地盤Gに接する拡底部11Aの傾斜部分にも一体となるコンクリート4が充填されることで、引抜き耐力が鋼管21に確実に伝達される構造にすることができる。
【0056】
ここで、拡底部11Aの引抜き耐力を鋼管21に効果的に伝達させるには、鋼管21の端部21aを拡底部11Aの下部まで埋設させ、通常は3段から5段程度、場合によっては10段程度の貫通穴22を設ける。
【0057】
以下では、前記実施の形態で説明した場所打ち鋼管コンクリート杭1及び本実施例1の拡底杭1Aにおける貫通穴22の効果を確認するために行った実験について、
図4-
図7を参照しながら説明する。
【0058】
図4は、前記実施の形態の場所打ち鋼管コンクリート杭1の鋼管コンクリート部2(直杭)と、本実施例1の拡底杭1Aを模した、実験で使用した供試体を説明する図である。
図4(a)は、4つの直杭の供試体を示している。これらの供試体は、実物の杭を1/10程度の大きさに縮尺した模型大の試験体である。
【0059】
図4(a)の左端の「直-10」の供試体は、直径101.6mmの鋼管21を直径125.0mmの円柱状のコンクリート4に埋設させた供試体であって、鋼管21の下縁から軸方向に23.0mm上方の位置に、直径15.0mmの貫通穴22が穿孔されている。貫通穴22は、周方向に等間隔で8箇所(8方向)が設けられており、1段の貫通穴22が設けられた構成となっている。
【0060】
一方、「直-10」の右隣の供試体「直-11」は、最下段の貫通穴22から軸方向に65.0mm間隔で、さらに2段、合計3段の貫通穴22が設けられた構成となっている。それ以外の構成は、「直-10」と同じである。
【0061】
また、「直-12」の供試体は、最下段の貫通穴22から軸方向に32.0mm間隔で、さらに4段、合計5段の貫通穴22が設けられた構成となっている。それ以外の構成は、「直-10」と同じである。これに対して、「直-13」の供試体は、貫通穴22が周方向に等間隔で4箇所(4方向)が設けられた構成となっており、それ以外の構成は、「直-12」と同じである。
【0062】
そして、
図4(b)の「拡-4」の供試体は、直径101.6mmの鋼管21の下部を、底面の直径265.0mm、高さ145.0mmの截頭円錐状の拡底部11Aのコンクリート4に埋設させた、拡底杭1Aを模した試験体である。
【0063】
この拡底部11Aの下端には、高さ25.0mmの円盤状の底部が設けられている。この拡底部11Aに埋設された鋼管21の下縁から軸方向に23.0mm上方の位置から、軸方向に32.0mm間隔で、合計5段の貫通穴22が設けられている。また、各段においては、貫通穴22は、周方向に等間隔で8箇所(8方向)が設けられている。
【0064】
これらの供試体を使って、圧縮試験と純曲げ試験を行った。圧縮試験を行った理由は、供試体の形状からして、付着力の確認は圧縮力を加えた方が不利になるためである。純曲げ試験では、所要の付着力を有していれば、鉄筋コンクリート部3で破壊するため、破壊形式の確認を行った。
【0065】
図5は、各供試体を使った純曲げ試験の実験結果を、変位と荷重との関係でまとめて示したグラフである。これらの結果を見ると、いずれの供試体においても、降伏耐力が認められる。そして、直杭の中では、貫通穴22の数が最も多い「直-12」で、最も大きな降伏耐力が得られることがわかった。さらに、拡底杭1Aの供試体「拡-4」については、「直-12」よりもさらに大きな降伏耐力が得られることがわかった。
【0066】
一方、
図6及び
図7では、圧縮試験の結果を、貫通穴22の総開口面積である窓総面積(mm
2)を横軸にしてまとめた。すなわち
図6は、窓総面積ΣW
Aと最大荷重P
max(kN)との関係で実験結果を示したグラフである。また、
図7は、窓総面積ΣW
Aとせん断応力τ
max(mm
2)との関係で実験結果を示したグラフである。
【0067】
図6のグラフを見ると、直杭の中では、窓総面積の増加と最大荷重の増加とが直線的な比例関係にあることがわかる。また、拡底杭(「拡-4」)となると、直杭の比例関係より大きな最大荷重が得られることがわかる。
【0068】
また、
図7のグラフを見ると、直杭の中では、窓総面積が増加すると、せん断応力が減少する傾向にあることがわかる。ただし、拡底杭(「拡-4」)については、直杭よりもかなり大きなせん断応力が得られることがわかる。
【0069】
このように、場所打ち鋼管コンクリート杭1であっても、拡底杭1Aであっても、コンクリート4に埋設する鋼管21の端部21aに貫通穴22を設けることによって、付着耐力や引抜き耐力の増加が見込めることが確認できた。
【0070】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
すなわち、直杭状の鋼管コンクリート部2Bと鉄筋コンクリート部3Bとの間に、拡幅された拡径部13が設けられる。この拡径部13は、鋼管コンクリート部2Bに接続される上部は截頭円錐状に形成され、下部は鉄筋コンクリート部3Bの直径に向けて漸減する形状に形成される。
鋼管コンクリート部2Bは、円筒形の鋼管21と、その内空に充填されるコンクリート4とによって主に構成される。ここで、鋼管21には、例えば直径が600mm-2500mm程度の鋼製の管材が使用できる。
そして、鋼管21の下側の端部21a付近には、拡径部13の拡径傾斜部の引抜き耐力を、コンクリート4を介して鋼管21に伝達させるための貫通穴22が穿孔される。この貫通穴22は、側面視略円形で、鋼管21の周方向に間隔を置いて複数が設けられる。
本実施例2の中間拡径杭1Bでは、拡径部13の内部に埋設させた鋼管21の端部21aに、周方向に間隔を置いて複数が設けられる貫通穴22を1段として、鋼管21の軸方向に間隔を置いて4段の貫通穴22が設けられている。
そして、鋼管コンクリート部2Cの鋼管21の端部21a付近には、拡径部13の拡径傾斜部の引抜き耐力を、コンクリート4を介して鋼管21に伝達させるための貫通穴22が穿孔される。この貫通穴22は、側面視略円形で、鋼管21の周方向に間隔を置いて複数が設けられる。
本実施例2の中間拡径杭1Cでは、拡径部13の内部に埋設させた鋼管21の端部21aに、周方向に間隔を置いて複数が設けられる貫通穴22を1段として、鋼管21の軸方向に間隔を置いて4段の貫通穴22が設けられている。
このような構成となる中間拡径杭1B,1Cの応力伝達構造であれば、貫通穴22が設けられた鋼管21の端部21aが中間拡径杭1B,1Cの拡径部13に配置されることで、地盤Gに接する拡径部13の傾斜部分の引抜き耐力を、鋼管21に効果的に伝達させることができるようになる。
また、鉄筋コンクリート部3B,3Cの鉄筋籠31の上端部31aが、貫通穴22が設けられた鋼管21の端部21aとラップしていれば、主鉄筋31bの引張力を、鋼管コンクリート部2B,2Cの鋼管21に効果的に伝達させることができるようになる。