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特開2022-168903肉加工食品の製造方法、肉加工食品、成形剤および食感改良剤
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  • 特開-肉加工食品の製造方法、肉加工食品、成形剤および食感改良剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168903
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】肉加工食品の製造方法、肉加工食品、成形剤および食感改良剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/40 20160101AFI20221101BHJP
   A23L 13/70 20160101ALI20221101BHJP
   A23L 13/60 20160101ALI20221101BHJP
【FI】
A23L13/40
A23L13/70
A23L13/60 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074571
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503005917
【氏名又は名称】エア・ウォーターアグリ&フーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】平野 勝紹
(72)【発明者】
【氏名】栃尾 巧
(72)【発明者】
【氏名】操上 誠
(72)【発明者】
【氏名】荒木 多理愛
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC03
4B042AC09
4B042AC10
4B042AD04
4B042AD39
4B042AE03
4B042AG02
4B042AG03
4B042AH01
4B042AK07
4B042AK08
4B042AP07
4B042AP14
4B042AP17
4B042AP20
4B042AP21
(57)【要約】
【課題】 塩漬け加工肉の端材活用に用いることのできる、食感や肉の風味に優れた肉加工食品を簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】 下記(ア)~(ウ)の工程を有する肉加工食品の製造方法;(ア)還元水飴、エリスリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコール、水および細片状の塩漬け加工肉を混合することにより懸濁物を得る工程、(イ)前記懸濁物を成形して成形物を得る工程、(ウ)前記成形物を乾燥させる工程。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(ア)~(ウ)の工程を有する肉加工食品の製造方法;
(ア)還元水飴、エリスリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールと細片状の塩漬け加工肉とを混合することにより懸濁物を得る工程、
(イ)前記懸濁物を成形して成形物を得る工程、
(ウ)前記成形物を乾燥させる工程。
【請求項2】
前記還元水飴が、下記(a)または(b)である、請求項1に記載の製造方法;
(a)単糖を1~50質量%、二糖を6~50質量%、三糖を7~25質量%、四糖を1~10質量%および五糖以上を1~82質量%含有する糖組成である、還元水飴、
(b)デキストロース当量が14以上70以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項3】
前記還元水飴が、下記(c)~(e)のいずれかである、請求項1に記載の製造方法;
(c)単糖を30~50質量%、二糖を20~50質量%および三糖以上を25質量%以下含有する糖組成である、還元水飴、
(d)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴、
(e)五糖以上を50質量%以上含有する糖組成である、還元水飴。
【請求項4】
前記塩漬け加工肉が、加熱処理を行っていない塩漬け加工肉である、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
細片状の塩漬け加工肉を集合させた成形物であって、前記塩漬け加工肉の細片と細片との間に、還元水飴、エリスリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールが存在する肉加工食品。
【請求項6】
還元水飴、エリスリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールを有効成分とする、細片状の塩漬け加工肉を集合させた成形物をつくるための成形剤。
【請求項7】
還元水飴、エリスリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールを有効成分とする、細片状の塩漬け加工肉を集合させた成形物の食感を改良するための食感改良剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の糖アルコールと塩漬け加工肉とを用いる、肉加工食品の製造方法および肉加工食品、ならびに、所定の糖アルコールを有効成分とする成形剤および食感改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塩漬け加工肉は、塩漬け処理を経て製造された食肉製品をいう。代表的な塩漬け加工肉として、ハムが挙げられる。ハムは豚もも肉等の塊肉を塩漬けにしたものであり、煮沸等の加熱処理されるものと、加熱処理されないものとがある。日本国内においては、加熱処理されていないハムは特に「生ハム」と呼ばれることが多い。
【0003】
ハムは多くの場合、スライスした薄片状で販売や調理ないし食卓に供される。ここで、塊肉で製造されたハムの端は、スライスしても見栄えや調理等にあたっての使い勝手が悪いといった理由から、多くの場合、廉価販売あるいは廃棄されている。しかしながら、廉価販売は製品イメージの低下につながるといった問題がある。廃棄も資源の有効利用の観点から好ましくなく、また、処理費用がかかり環境への負荷も与えるといった問題がある。
【0004】
そこで、塩漬け加工肉の端材を活用する方法が求められている。この点、特許文献1には肉類の細片と澱粉を主成分とする粉体との混合物をエクストルージョン・クッキングにより成形する肉加工品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-271963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、加工品でない畜肉やレバーを用いた試験例が示されているのみであり、塩漬け加工肉の端材に適用可能か否かは不明である。また、エクストルーダーにより加熱・加圧して製造されるため、製造コストが嵩む懸念や肉の風味や食感が変化する懸念がある。すなわち、係る先行技術を鑑みても、塩漬け加工肉の端材を活用して、食感や肉の風味に優れた肉加工食品を簡便に製造する技術は十分に供給されている状況とはいえない。
【0007】
本発明は、係る課題を解決するためになされたものであって、塩漬け加工肉の端材活用に用いることのできる、食感や肉の風味に優れた肉加工食品を簡便に製造する方法、食感や肉の風味に優れた肉加工食品、当該肉加工食品をつくるための成形剤ならびに当該肉加工食品の食感を改良するための食感改良剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、還元水飴、エリスリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールと細片状の塩漬け加工肉とを混合した後、これを成形して乾燥させることにより、食感や風味に優れた肉加工食品を製造できることを見出した。また、前記所定の糖アルコールを細片状の塩漬け加工肉の集合物に添加することにより、優れた成形性が得られ、所望の形状の肉加工食品を製造できることを見出した。そこで、係る知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0009】
(1)本発明に係る肉加工食品の製造方法は、下記(ア)~(ウ)の工程を有する;
(ア)還元水飴、エリスリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールと細片状の塩漬け加工肉とを混合することにより懸濁物を得る工程、
(イ)前記懸濁物を成形して成形物を得る工程、
(ウ)前記成形物を乾燥させる工程。
【0010】
(2)本発明において、還元水飴は、下記(a)または(b)のものであってもよい;
(a)単糖を1~50質量%、二糖を6~50質量%、三糖を7~25質量%、四糖を1~10質量%および五糖以上を1~82質量%含有する糖組成である、還元水飴、
(b)デキストロース当量が14以上70以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【0011】
(3)本発明において、還元水飴は、下記(c)~(e)のいずれかであってもよい;
(c)単糖を30~50質量%、二糖を20~50質量%および三糖以上を25質量%以下含有する糖組成である、還元水飴、
(d)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴、
(e)五糖以上を50質量%以上含有する糖組成である、還元水飴。
【0012】
(4)本発明において、塩漬け加工肉は、加熱処理を行っていない塩漬け加工肉であってもよい。
【0013】
(5)本発明に係る肉加工食品は、細片状の塩漬け加工肉の集合物であって、前記塩漬け加工肉の細片と細片との間に、還元水飴、エリスリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールが存在する肉加工食品である。
【0014】
(6)本発明に係る成形剤は、細片状の塩漬け加工肉を集合させた成形物をつくるための成形剤であって、還元水飴、エリスリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールを有効成分とする。
【0015】
(7)本発明に係る食感改良剤は、細片状の塩漬け加工肉を集合させた成形物の食感を改良するための食感改良剤であって、還元水飴、エリスリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールを有効成分とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来、廉価販売や廃棄処理されていた塩漬け加工肉の端材を用いて、美味しい肉加工食品を製造することができる。よって、製品イメージの維持や未利用の食品資源の有効活用、廃棄コストの削減、環境負荷の低減に資することができる。
【0017】
本発明によれば、柔らかくて歯応えのある、あるいは、柔らかくてザクザクとした等の、特有の食感を有する肉加工食品を製造することができる。
【0018】
本発明において肉加工食品の製造に用いる糖アルコールは、良質な甘味を有し、その甘味度は砂糖より小さい。本発明によれば、塩漬け加工肉の他は比較的少量の当該糖アルコールと水とを用いて肉加工食品を製造できることから、肉の風味を生かした美味しい肉加工食品を得ることができる。
【0019】
本発明によれば、塩漬け加工肉の細片と糖アルコールとを混合し、成形および乾燥させるという簡便な方法により、肉加工食品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1の官能試験において、パネルが採点に用いた評価シートである。
図2】実施例1の官能試験における各パネルの評価点、評価点の平均値、および、その検定結果を示す表である。
図3】応力測定試験で得られる荷重の波形を模式的に示す図である。波形中に、最大荷重、破断荷重、もろさ荷重、破断歪率およびもろさ歪率の該当箇所を示す。
図4】各種の糖を用いて製造した肉加工食品(試料1~7)を応力測定試験に供して得られた荷重の波形である。
図5】各種の糖を用いて製造した肉加工食品(試料1~7)の最大応力(MPa)、破断応力(MPa)、もろさ応力(MPa)、破断歪率(%)およびもろさ歪率(%)を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
「肉加工食品」とは、食肉を主材として含む加工食品をいう。ここで、「主材として含む」とは、当該食品全体における含有割合(体積%もしくは質量%)が他の材料と比較して最も大きいこと、または、当該食品全体における含有割合が50体積%以上もしくは50質量%以上であることをいう。また、食肉とは、食用に供する肉をいう。本発明に係る肉加工食品は、細片状の塩漬け加工肉を集合させた成形物の形態を有する。
【0023】
本発明において、「塩漬け加工肉」とは、塩漬け処理を経て製造された食肉製品をいう。具体例としては、ハムや生ハム、ベーコン、生ベーコンなどを例示することができる。塩漬け加工肉は、塩漬け処理を経ている限り、他の処理の有無は問わない。すなわち、燻煙、ボイルやスチーム等の加熱、調味、熟成などを行っているものでもよく、行っていないものでもよい。また、塩漬け処理は、肉に塩を浸透させる処理をいい、一般的な方法としては、肉に塩を塗布ないし擦り付ける方法(乾塩法)や、塩水に漬け込む方法(塩水法)、肉に塩水を注射する方法(針注入法)などがあるが、そのいずれでもよい。また、塩漬け加工肉において肉の種類や部位は問わない。肉の種類としては豚、鳥、鶏、牛、馬、羊、ウサギ、熊やイノシシ、シカなどの野生鳥獣等を例示することができ、部位としてはもも、肩、ロース、バラ、ひれなどを例示することができるが、これらのいずれであってもよい。
【0024】
本発明において、糖アルコールは、還元水飴、エリスリトールおよびソルビトールから選択される1以上(以下、「所定の糖アルコール」という場合がある)を用いる。
【0025】
エリスリトール(エリトリトール)は、ブドウやナシなどの果実、味噌や醤油、清酒などの発酵食品にも元来含まれている糖アルコールである。化学名は1,2,3,4-Butaneterolで四炭糖の単糖アルコールである。エリスロース(エリトロース)の還元体であるが、工業的には発酵により得られる。
【0026】
ソルビトールは、ナナカマドの実やリンゴ、プルーンなどにも元来含まれている、六炭糖の単糖アルコールであり、グルコースの還元体である。
【0027】
還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールである。ここで、水飴は、デンプンを酸や酵素などで糖化して得られる物質であり、単糖(ブドウ糖)および多糖(オリゴ糖やデキストリンなど)の混合物である。よって、還元水飴もまた、単糖の糖アルコールおよび多糖(二糖、三糖、四糖または五糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。還元水飴の具体的な糖組成としては、例えば、単糖を1~50質量%、二糖を6~50質量%、三糖を7~25質量%、四糖を1~10質量%および五糖以上を1~82質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0028】
ここで、本発明において、糖組成とは、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。
【0029】
糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、還元水飴を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
《HPLCの条件》
カラム;MCI GEL CK04S(10mm ID x 200mm)
溶離液;高純水
流速;0.4mL/分
注入量;20μL
カラム温度;65℃
検出;示差屈折率検出器RI-10A(島津製作所)
【0030】
還元水飴は、水飴を還元して製造することから、還元水飴の糖化の程度は、水飴の糖化の程度に準じる。すなわち、原料水飴の糖化の程度が高いほど還元水飴の糖化の程度が高く、原料水飴の糖化の程度が低いほど還元水飴の糖化の程度は低い。
【0031】
水飴の糖化の程度の指標は、一般に、デキストロース当量(Dextrose Equivalent値;DE)が用いられる。DEは、試料中の還元糖をブドウ糖として測定したときの、当該還元糖の全固形分に対する割合(百分率)である。DEの最大値は100で、固形分の全てがブドウ糖であることを意味し、DEが小さくなるほど少糖類や多糖類が多いことを意味する。
【0032】
本発明において、還元水飴が原料とする水飴のDEは、肉加工食品の所望の食感あるいは風味に応じて適宜設定することができる。例えば、還元水飴は、DEが14以上70以下の水飴の還元物とすることができるほか、DEが50以上80以下、DEが37以上49以下、またはDEが10以上36以下の水飴の還元物としてもよい。
【0033】
なお、水飴のDEは、下記の方法により測定することができる。
《DEの測定方法》
試料2.5gを正確に量り、水で溶かして200mLとする。この液10mLを量り、1/25mol/L ヨウ素溶液(注1)10mLと1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液(注2)15mLを加えて20分間暗所に放置する。次に、2mol/L塩酸(注3)を5mL加えて混和した後、1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液(注4)で滴定する。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、デンプン指示薬(注5)2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とする。水を用いてブランク値を求め、次式1によりDEを求める。
(注1)1/25mol/L ヨウ素溶液:ヨウ化カリウム20.4gとヨウ素10.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注2)1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液:水酸化ナトリウム3.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注3)2mol/L 塩酸:水750mLに塩酸150mLをかき混ぜながら徐々に加える。
(注4)1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液:チオ硫酸ナトリウム20gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注5)デンプン指示薬:可溶性デンプン5gを水500mLに溶解し、これに塩化ナトリウム100gを溶解する。
【0034】
還元水飴は、糖化の程度により高糖化還元水飴(糖組成:単糖アルコール30~50質量%、二糖アルコール20~50質量%、三糖以上の糖アルコール25質量%以下)、中糖化還元水飴(糖組成:単糖アルコール30質量%未満かつ五糖以上の糖アルコール50質量%未満)、および低糖化還元水飴(糖組成:五糖以上の糖アルコール50質量%以上)に分けられる場合がある。本発明においては、これらのいずれも用いることができる。
【0035】
本発明において、糖アルコールとして高糖化還元水飴を用いれば、柔らかく、噛み切りやすいけれども、歯応えがある特徴的な食感を有し、肉の味を増強した肉加工食品を製造することができる。
【0036】
また、糖アルコールとして中糖化還元水飴を用いれば、柔らかく、口中で粗く崩れ、ザクザクとしていて口中に残る、特徴的な食感を有する肉加工食品を製造することができる。
【0037】
また、糖アルコールとして低糖化還元水飴を用いれば、柔らかく、顕著に口中で崩れやすく、口中で粗く崩れて顕著にザクザクとする、特徴的な食感を有する肉加工食品を製造することができる。
【0038】
また、糖アルコールとしてエリスリトールを用いれば、柔らかく、口中で粗く崩れる特徴的な食感を有する肉加工食品を製造することができる。
【0039】
また、糖アルコールとしてソルビトールを用いれば、柔らかく、噛み切りやすいけれども歯応えがある特徴的な食感を有する肉加工食品を製造することができる。
【0040】
すなわち、糖アルコールの種類は、肉加工食品の所望の食感に応じて適宜選択して用いることができる。換言すれば、所定の糖アルコールは、肉加工食品の食感を改良するための食感改良剤として用いることができる。ここで、食感を改良するとは、所定の糖アルコールを用いない肉加工食品と比較して、所定の糖アルコールを用いた肉加工食品の方が、好ましい食感の程度が大きくなるようにすることをいう。好ましい食感は糖アルコールの種類によって異なり、上述のとおりであるが、まとめると下記のように例示できる。
高糖化還元水飴:柔らかい。噛み切りやすい。歯応えがある。
中糖化還元水飴:柔らかい。口中で粗く崩れる。ザクザクとする。口中に残る。
低糖化還元水飴:柔らかい。顕著に口中で崩れやすい。口中で粗く崩れる。顕著にザクザクとする。
エリスリトール:柔らかい。口中で粗く崩れる。
ソルビトール:柔らかい。噛み切りやすい。歯応えがある。
【0041】
本発明において、糖アルコールは、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。ソルビトールおよび還元水飴の公知の製造方法としては、原料となるグルコースまたは水飴(原料糖)に水素を添加する還元反応を挙げることができる。エリスリトールの公知の製造法としては、発酵法を挙げることができる。
【0042】
本発明に係る肉加工食品の製造方法は、下記(ア)~(ウ)の工程を有する;
(ア)還元水飴、エリスリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールと細片状の塩漬け加工肉とを混合することにより懸濁物を得る工程、
(イ)前記懸濁物を成形して成形物を得る工程、
(ウ)前記成形物を乾燥させる工程。
【0043】
工程(ア)において、糖アルコールと塩漬け加工肉との混合は、例えば攪拌機等で行うことができる。このとき、糖アルコールおよび塩漬け加工肉以外の食材や調味料、水、食品添加物などを加えてもよい。水を添加すると混ざりやすくなるが、添加しなくても製造可能である。
【0044】
工程(ア)において、塩漬け加工肉は、予め細片状に破砕したものを用いてもよく、フードプロセッサー等を用いて、糖アルコールとの混合と同時に細片状にしてもよい。ここで、細片の大きさは、塩漬け加工肉の種類や肉加工食品における所望の食感などに応じて適宜設定することができ、例えば1~20mm×1~20mmの大きさ等とすることができる。
【0045】
工程(ア)の懸濁物において、糖アルコールの含有割合は、塩漬け加工肉の種類や肉加工食品における所望の食感・風味などに応じて適宜設定することができる。例えば、塩漬け加工肉100重量部に対して、糖アルコールを1~50重量部、1~30重量部、1~15重量部などとすることができる。
【0046】
工程(イ)において、成形物の形状は特に限定されない。肉加工食品における所望の食感や包装形態、製品コンセプトなどに応じて、板状や棒状、ロール状など適宜設定することができる。
【0047】
工程(ウ)の乾燥は、成形物に含まれる水分を全部除去する場合のほか、残存水分量が一定程度あるように部分的に除去する場合も含まれる。乾燥手法は、自然乾燥、熱風乾燥、低温乾燥、減圧乾燥、冷風乾燥、除湿乾燥、マイクロ波乾燥、凍結乾燥などいずれの方法でも行うことができる。例えば、45~55℃で36~60時間の低温乾燥を例示することができるが、これに限定されず、成形物の形状や水分量、塩漬け加工肉の種類(加熱か非加熱か等)、肉加工食品における所望の食感などに応じて、乾燥の手法、温度、時間などを適宜設定することができる。
【0048】
本方法は、本発明の特徴を損なわない限り他の工程を含むものであってもよい。係る工程としては、例えば、塩漬け加工肉の破砕工程、調味工程、殺菌工程、冷却工程、包装工程などを例示することができる。
【0049】
以上のとおり、所定の糖アルコールを細片状の塩漬け加工肉の集合物に添加した後、成形および乾燥することにより、所望の形状の肉加工食品を製造することができる。換言すれば、所定の糖アルコールは、細片状の塩漬け加工肉を集合させた成形物をつくるための成形剤として用いることができる。なお、成形剤とは、細片状の塩漬け加工肉の集合物を、一定の形状を保持した成形物に加工する用途で用いられる剤をいう。
【0050】
本発明に係る肉加工食品は、細片状の塩漬け加工肉を集合させた成形物であって、前記塩漬け加工肉の細片と細片との間に、還元水飴、エリスリトールおよびソルビトールから選択される1以上の糖アルコールが存在する肉加工食品である。本食品は、上述した製造方法により作ることができる。すなわち、本食品は、塩漬け加工肉の細片と細片との間に糖アルコールを介在させ、成形した後に、当該成形物から水分を一定程度除去して得られるものである。よって、本食品は、成形された一つのかたちを有する細片状の塩漬け加工肉の集合体であり、当該糖アルコールの少なくとも一部は、肉の細片と細片との間に存在しているものと考えられる。
【0051】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0052】
<試験方法>
(1)糖
糖は、表1に示す市販品を用いた。
【表1】
【0053】
(2)肉加工食品の製造
生ハムの端材100重量部に対して、各種の糖を固形分換算で10重量部、および、冷水を10重量となるよう加えてフードプロセッサーに供し、端材が均質な細片となり全体がよく混ざるまで破砕混合し、懸濁物を得た。懸濁物をキッチンペーパーに挟み、3mmの厚さとなるよう延ばして薄い板状に成形して成形物を得た。成形物を50℃で48時間置いて乾燥させることにより肉加工食品を製造し、これを試料2~7とした。対照として、糖を添加しないで同様に肉加工食品を製造し、これを試料1(糖無し)とした。試料1~7の配合を表2に示す。表2において、試料2~7のカッコ内に添加した糖の種類を示す。
【表2】
【0054】
<実施例1>成形性の評価
試験方法(2)に記載の方法により、試料3~7の肉加工食品を製造し、成形性を評価した。その結果、試料3~7は、塩漬け加工肉の細片が集合した状態で、崩れたり割れたりすることなく結着しており、シート状のしっかりとした成形物であった。試料3~7を指で一口大にちぎる際には、指に一定程度の力を入れてちぎる必要があった。この結果から、還元水飴、エリスリトールおよびソルビトールを添加すると、細片状の塩漬け加工肉を所望の形状を保持した成形物に加工できることが明らかになった。
【0055】
<実施例2>官能評価
試験方法(2)に記載の方法により、試料1~5の肉加工食品を製造した。これらについて、10名(A~J)の分析型パネルにより官能試験を行った。官能試験に用いた評価シートを図1に示す。図1に示すように、評価は「硬さ」、「ザクザク感」、「くちどけ(噛むごとの崩れ)」および「肉の味」の4項目について、試料1(糖無し)を基準の3点として、1~5点の5段階で各パネルが採点した。採点結果は、試料ごとに全パネルによる評点の平均値を求め、小数点第2位を四捨五入して評価点とした。評価点について、t検定(両側検定)により、試料1(糖無し)に対するp値および試料2(砂糖)に対するp値を算出し、p<0.05を「有意差あり」、0.05≦p<0.1を「傾向あり」とした。その結果を図2に示す。図2において「有意差あり」は実線の囲みで、「傾向あり」は点線の囲みで、それぞれ示す。
【0056】
図2に示すように、試料2(砂糖)は、試料1(糖無し)と比較して有意に「硬さ」が大きくなった一方で、「ザクザク感」、「くちどけ(噛むごとの崩れ)」および「肉の味」は有意な変化がなかった。この結果から、砂糖を添加して製造すると、肉加工食品は硬くなってしまうことが明らかになった。
【0057】
次に、試料3(高糖化還元水飴)は、試料2(砂糖)と比較して有意に「硬さ」が小さくなり、試料1(糖無し)および試料2と比較して有意にザクザク感が低くなり、試料1と比較して「肉の味」が高くなる傾向であった。一方、「くちどけ(噛むごとの崩れ)」は有意な変化がなかった。この結果から、高糖化還元水飴を添加すると、柔らかく、歯応えがある特有の食感で、肉の風味が増した加工食品を製造できることが明らかになった。
【0058】
次に、試料4(中糖化還元水飴)は、試料2(砂糖)と比較して有意に「硬さ」が小さくなり、試料1(糖無し)および試料2と比較して有意にザクザク感が高くなり、試料1および試料2と比較して有意に「くちどけ(噛むごとの崩れ)」が容易になった(口中で崩れやすくなった)。一方、「肉の味」は有意な変化がなかった。また、試料4は、ザクザクとしつつも口の中に残る感覚があった。この結果から、中糖化還元水飴を添加すると、柔らかく、ザクザクとして口の中で崩れやすくも口中に残る、特有の食感の肉加工食品を製造できることが明らかになった。
【0059】
最後に、試料5(低糖化還元水飴)は、試料1(糖無し)および試料2(砂糖)と比較して有意に「硬さ」が小さくなり、試料1および試料2と比較して有意にザクザク感が高くなり、試料1および試料2と比較して有意に「くちどけ(噛むごとの崩れ)」が容易になった(口中で崩れやすくなった)。一方、「肉の味」は有意な変化がなかった。この結果から、低糖化還元水飴を添加すると、柔らかく、顕著にザクザクとして、口の中で崩れやすい特有の食感の肉加工食品を製造できることが明らかになった。
【0060】
<実施例3>食感の評価:応力測定試験
試験方法(2)に記載の方法により、試料1および試料3~7の肉加工食品を製造した。試料1、3~7を、クリープメーターRE2-33005C(山電)のくさび型のプランジャーを用いて、圧縮速度1.0mm/秒で60体積%圧縮変形するまで圧縮し、荷重(N)を測定した。図3に模式的に示すように、測定した荷重の波形に基づいて最大荷重、破断荷重、もろさ荷重、破断歪率(%)およびもろさ歪率(%)を特定し、最大応力(MPa)、破断応力(MPa)およびもろさ応力(MPa)を算出した。各試料につき3検体を行い、各測定項目について平均値を算出した。測定した荷重の波形(代表例)を図4に、各測定項目の平均値を図5の棒グラフに、それぞれ示す。
【0061】
なお、各測定項目の値については、一般に、以下のように解釈することができる。
最大荷重[N]、最大応力[MPa]:荷重波形における最大の荷重。値が大きいほど試料が「かたい」といえる。値が小さいほど試料が「柔らかい」といえる。
破断荷重[N]、破断応力[MPa]:試料の破断に要する荷重。本試験では1つ目のピークトップを破断荷重とした。値が大きいほど試料が「かたい」あるいは「噛み切りにくい」といえる。値が小さいほど試料が「柔らかい」あるいは「噛み切りやすい」といえる。
もろさ荷重[N]、もろさ応力[MPa]:試料が破断した後の荷重の減少量。値が大きいほど試料が「細かく砕ける」といえる。値が小さいほど試料が「粗く砕ける」といえる。
破断歪率(%):破断が起こるまでの試料の変形量。値が大きいほど試料が「噛み切りにくい」といえる。値が小さいほど「少ない変形量で破断する」すなわち「ボロボロした物性である」といえる。
もろさ歪率(%):破断谷に達するまでの試料の変形量。値が大きいほど試料が「噛み切りにくい」といえる。値が小さいほど試料が「細かく砕ける」といえる。
【0062】
図4および図5に示すように、試料3(高糖化還元水飴)は、試料1(糖無し)と比較して、最大応力および破断応力が小さくなり、もろさ応力がやや大きくなり、もろさ歪率が顕著に大きくなった。破断歪率はほとんど変化がなかった。この結果から、高糖化還元水飴を添加して製造した肉加工食品は、柔らかく、噛み切りやすいが、歯応えがある特有の食感を有することが明らかになった。
【0063】
次に、試料4(中糖化還元水飴)は、試料1(糖無し)と比較して、最大応力、破断応力およびもろさ応力が小さくなった。破断歪率はやや小さくなり、もろさ歪率はやや大きくなった。この結果から、中糖化還元水飴を添加して製造した肉加工食品は、柔らかく、口中でやや崩れやすく、粗く崩れるザクザクとした特有の食感を有することが明らかになった。
【0064】
次に、試料5(低糖化還元水飴)は、試料1(糖無し)と比較して、最大応力、破断応力、もろさ応力およびもろさ歪率が、いずれも顕著に小さくなった。破断歪率はやや小さくなった。この結果から、低糖化還元水飴を添加して製造した肉加工食品は、顕著に柔らかく、口中で顕著に崩れやすく、粗く崩れるザクザクとした特有の食感を有することが明らかになった。
【0065】
次に、試料6(エリスリトール)は、試料1(糖無し)と比較して、最大応力およびもろさ応力が小さくなり、破断応力および破断歪率がやや小さくなった。もろさ歪率はやや大きくなった。この結果から、エリスリトールを添加して製造した肉加工食品は、柔らかく、口中で粗く崩れる特有の食感を有することが明らかになった。
【0066】
最後に、試料7(ソルビトール)は、試料1(糖無し)と比較して、最大応力および破断応力が顕著に小さくなり、もろさ応力が小さくなった。破断歪率はやや大きくなり、もろさ歪率は顕著に大きくなった。この結果から、ソルビトールを添加して製造した肉加工食品は、柔らかく、噛み切りやすいが、歯応えがある特有の食感を有することが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5