(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168905
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20221101BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20221101BHJP
H01L 21/3205 20060101ALI20221101BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20221101BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01L21/60 301P
H01L21/302 104H
H01L21/88 T
H01L21/90 S
H01L23/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074574
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 裕也
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊介
(72)【発明者】
【氏名】望月 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】三村 智博
【テーマコード(参考)】
4M109
5F004
5F033
5F044
【Fターム(参考)】
4M109AA01
4M109BA03
4M109CA02
4M109EA02
4M109EA07
4M109EA10
4M109ED03
5F004AA16
5F004CA06
5F004DA26
5F004DB23
5F004EB02
5F033RR22
5F033SS21
5F033TT00
5F033TT03
5F033VV07
5F033WW00
5F033XX34
5F044AA02
5F044EE04
5F044EE06
5F044EE21
(57)【要約】
【課題】ポリアミド系樹脂を用いない場合でも、ポリイミド膜と封止樹脂との密着性を向上させ、ポリイミド膜と封止樹脂とで剥離を防ぐことができる半導体装置および半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体装置の製造方法では、半導体基板上に半導体素子20を形成する。次に、半導体素子20のおもて面に、半導体素子20に電気的に接続された電極層21を形成する。次に、電極層21上に、選択的にポリイミド膜22を形成する。次に、ポリイミド膜22の表面に、半導体基板と垂直に酸素イオンを照射する酸素プラズマアッシングにより凹凸26を形成する。次に、電極層21上の第1ポリイミド膜22以外の部分に、表面電極膜24を形成する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に半導体素子を形成する第1工程と、
前記半導体素子のおもて面に、前記半導体素子に電気的に接続された電極層を形成する第2工程と、
前記電極層上に、選択的にポリイミド膜を形成する第3工程と、
前記ポリイミド膜の表面に、前記半導体基板と垂直に酸素イオンを照射する酸素プラズマアッシングにより凹凸を形成する第4工程と、
前記電極層上の前記ポリイミド膜以外の部分に、表面電極膜を形成する第5工程と、
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第4工程では、前記ポリイミド膜の平均表面粗さを10nm以上70nm以下にすることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第4工程では、前記ポリイミド膜のエッチング量を0.25μm以上1μm以下にすることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第4工程は、前記電極層のプラズマクリーニングと同時に行うことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
半導体基板上に設けられた半導体素子と、
前記半導体素子のおもて面に設けられた、前記半導体素子に電気的に接続された電極層と、
前記電極層上に、選択的に設けられたポリイミド膜と、
前記電極層上の前記ポリイミド膜以外の部分に設けられた表面電極膜と、
を備え、
前記ポリイミド膜の平均表面粗さは、5nm以上25nm以下であることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体モジュールは、1つまたは複数のパワー半導体チップを内蔵して、直流と交流の変換、直流同士、または交流同士の電圧電流変換接続の一部または全体を構成し、かつ、パワー半導体チップと積層基板または金属基板との間が電気的に絶縁された構造を持つパワー半導体デバイスである。パワー半導体モジュールは、産業用途としてエレベータなどのモータ駆動制御インバータなどに使われている。さらに近年では、車載用モータ駆動制御インバータに広く用いられるようになっている。車載用インバータでは、燃費向上のため小型・軽量化や、エンジンルーム内の駆動用モータ近傍に配置されることから、高温動作での長期信頼性が求められる。
【0003】
ここで、車載用パワー半導体モジュールは、産業用パワー半導体モジュールに比べ、設置空間の制約から小型、軽量化が求められる。また、モータを駆動するための出力パワー密度が高くなるため、運転時における半導体チップ温度が高くなるとともに、高温動作時の長期信頼性の要求も高まってきている。このため、高温動作・長期信頼性を有したパワー半導体モジュール構造が要求されてきている。
【0004】
図11は、従来構造のパワー半導体モジュールの電極部の構成を示す断面図である。
図11に示すように、半導体基板上の半導体素子120上にソース電極となるAlSi(アルミニウムシリコン)電極121が設けられている。半導体基板上の半導体素子120は、半導体基板上にMOSゲート(金属-酸化膜-半導体からなる絶縁ゲート)構造(素子構造)が形成されている半導体素子である。
【0005】
半導体素子の電極周囲には、半導体素子内部へのイオンの拡散を防止し、半導体素子を絶縁するための保護膜として、AlSi電極121上にポリイミド膜(パッシベーション膜)122が成膜されている。従来、保護膜として、SiN(窒化シリコン)膜、無機材料が使用されているが、有機材料であるポリイミド膜が多く使用されている。ポリイミド膜122は、スピンコート法やインクジェット法などの湿式方式で成膜が行われ、無機材料の成膜よりもポリイミド膜122の成膜は簡易であるという効果がある。
【0006】
また、リードフレーム配線(不図示)をAlSi電極121にはんだ125で接合しやすくするためにNiP(ニッケルリン)の表面電極膜124が設けられる。ポリイミド膜122は、表面電極膜124をめっき法でNiP等を形成する際、表面電極膜124のめっきがAlSi電極121上に選択的に析出するよう、マスクとしての機能を有する。
【0007】
このようなパワー半導体モジュールは、封止樹脂108によってケース(不図示)内に封止される。この際、封止樹脂108とポリイミド膜から構成されるポリイミド膜122との間に接着剤として、ポリアミド系樹脂128をポリイミド膜122上に塗布している。ポリアミド系樹脂128により、ポリイミド膜と封止樹脂108との密着性を確保している。
【0008】
また、ポリイミド樹脂の層を300~350℃でキュアーした後、酸素プラズマによるアッシング処理を行い、ポリイミド樹脂層の表面には微小な凹凸を形成し、密着性の劣化が生じない半導体素子の実装方法が公知である(例えば、下記特許文献1参照)。
【0009】
また、プラズマクリーニング工程、脱脂工程、酸エッチング工程、ジンケート法によるNiめっき工程およびAuめっき工程を含む無電解Ni/Auめっき工程を追加した半導体チップの製造方法が公知である(例えば、下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5-166976号公報
【特許文献2】特許第4344560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、コスト削減のため、ポリアミド系樹脂128を用いない半導体装置の製造方法が提案されている。この製造方法では、0.1μm~0.2μmのポリイミド膜のポリイミド膜122を形成後、表面電極膜124形成前にAlSi電極121上のポリイミド膜122の有機物を除去するプラズマアッシング処理を行い、裏面保護のために保護テープを半導体素子120の裏面に貼り付け、表面電極膜124形成後、保護テープを除去している。
【0012】
この場合、ポリイミド膜122と封止樹脂108との間にポリアミド系樹脂128が設けられていないため、封止樹脂108とポリイミド膜122との間の密着強度が低下している。このため、封止樹脂108とポリイミド膜122との間に剥離が生じる場合がある。剥離が生じると、パワーサイクル試験で表面電極膜124上にはんだ125で接合されたAl(アルミニウム)ワイヤークラックが発生し、パワーサイクル試験が未達となる課題がある。
【0013】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、ポリアミド系樹脂を用いない場合でも、ポリイミド膜と封止樹脂との密着性を向上させ、ポリイミド膜と封止樹脂とで剥離を防ぐことができる半導体装置および半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、半導体基板上に半導体素子を形成する第1工程を行う。次に、前記半導体素子のおもて面に、前記半導体素子に電気的に接続された電極層を形成する第2工程を行う。次に、前記電極層上に、選択的にポリイミド膜を形成する第3工程を行う。次に、前記ポリイミド膜の表面に、前記半導体基板と垂直に酸素イオンを照射する酸素プラズマアッシングにより凹凸を形成する第4工程を行う。次に、前記電極層上の前記ポリイミド膜以外の部分に、表面電極膜を形成する第5工程を行う。
【0015】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第4工程では、前記ポリイミド膜の平均表面粗さを10nm以上70nm以下にすることを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第4工程では、前記ポリイミド膜のエッチング量を0.25μm以上1μm以下にすることを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第4工程は、前記電極層のプラズマクリーニングと同時に行うことを特徴とする。
【0018】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は、次の特徴を有する。半導体装置は、半導体基板上に設けられた半導体素子と、前記半導体素子のおもて面に設けられた、前記半導体素子に電気的に接続された電極層と、前記電極層上に、選択的に設けられたポリイミド膜と、前記電極層上の前記ポリイミド膜以外の部分に設けられた表面電極膜と、を備える。前記ポリイミド膜の平均表面粗さは、5nm以上25nm以下である。
【0019】
上述した発明によれば、ポリイミド膜に対し、エッチング量が0.25μm以上の酸素プラズマアッシングで行う。これにより、めっき処理を行った後、ポリイミド膜の表面粗さRaを5nm以上とすることができる。このため、ポリイミド膜と封止樹脂とで剥離が生じない密着力をポリイミド膜と封止樹脂との間で実現することができる。
【0020】
また、ポリイミド膜のエッチングは、ポリイミド膜のプラズマクリーニングと同時に行うことができるため、工数を増やすことなく、ポリイミド膜と封止樹脂との剥離を防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法によれば、ポリアミド系樹脂を用いない場合でも、ポリイミド膜と封止樹脂との密着性を向上させ、ポリイミド膜と封止樹脂とで剥離を防ぐことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【
図2】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールにおける、パワー半導体チップの電極部の構成を示す断面図である。
【
図3】ポリイミド表面粗さと密着力/バルク破壊率との関係を示すグラフである。
【
図4】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールのプリン試験を示す斜視図である。
【
図5】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの製造方法のフローチャートである(その1)。
【
図6】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの製造方法のフローチャートである(その2)。
【
図7】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの電極部の製造途中の状態を示す断面図である(その1)。
【
図8】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの電極部の製造途中の状態を示す断面図である(その2)。
【
図9】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの電極部の製造途中の状態を示す断面図である(その3)。
【
図10】ポリイミドエッチング量と表面粗さRaとの関係を示すグラフである。
【
図11】従来構造のパワー半導体モジュールの電極部の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
図1は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【0024】
(実施の形態)
図1に示すように、パワー半導体モジュール50は、パワー半導体チップ1と、絶縁基板2と、接合材3a、3b、3cと、電極パターン4と、金属基板5と、リードフレーム配線6と、樹脂ケース7と、封止樹脂8と、金属端子9と、金属ワイヤ10と、を備える。
【0025】
パワー半導体チップ1は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属-酸化膜-半導体の3層構造からなる絶縁ゲートを備えたMOS型電界効果トランジスタ)、あるいはダイオードチップ等の半導体素子である。パワー半導体チップ1は、チップの厚さ方向に主電流を流す縦型の半導体素子であってよい。絶縁性を確保するセラミック基板等の絶縁基板2のおもて面(パワー半導体チップ1側)および裏面(金属基板5側)には、銅(Cu)板などからなる電極パターン4が設けられている。なお、絶縁基板2の少なくとも片面に電極パターン4が設けられた基板を積層基板12とする。おもて面の電極パターン4上には、はんだなどの接合材3bにてパワー半導体チップ1が接合される。裏面の電極パターン4上には、はんだなどの接合材3cにて放熱フィン(不図示)が設けられた金属基板5が接合される。また、パワー半導体チップ1の上面(接合材3bと接する面と反対側の面)には、電気接続用の配線としてリードフレーム配線6の一端がはんだなどの接合材3aにて接合される。リードフレーム配線6の他端は、接合材3bにて電極パターン4と接合される。
【0026】
樹脂ケース7は、パワー半導体チップ1と積層基板12と金属基板5とが積層された積層組立体に組み合わされる。例えば、樹脂ケース7は、積層組立体とシリコーンなどの接着剤を介して接着されている。また、樹脂ケース7内部には、積層基板12上のパワー半導体チップ1を絶縁保護するため、エポキシなどの硬質樹脂等の封止樹脂8が充填されている。実施の形態では、封止樹脂8としてエポキシなどの硬質樹脂を用いており、蓋を使用していない。また、金属ワイヤ10がパワー半導体チップ1と金属端子9との間を接続している。金属端子9は樹脂ケース7を貫通して、外部に突き出ている。
【0027】
図2は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールにおける、パワー半導体チップ1の電極部の構成を示す断面図である。
図2は
図1の点線で囲まれた部分の拡大図である。
図2に示すように、半導体基板上の半導体素子20(
図1のパワー半導体チップ1に対応)上にエミッタ電極(半導体素子20がIGBTである場合)となるAlSi電極21が設けられている。AlSi電極21上にポリイミド膜22が成膜されている。NiPで構成された表面電極膜24上に、リードフレーム配線6(
図1参照)を接合するためのはんだ25(
図1の接合材3aに対応)が設けられ、封止樹脂8にて樹脂ケース7内に封止されている。また、
図2では、リードフレーム配線6の図示を省略している。
【0028】
ここで、実施の形態では、ポリイミド膜22の表面に高さhを制御した凹凸26を設けている。凹凸26は、封止樹脂8がポリイミド膜22と接触する部分に設けられている。ポリイミド膜22に凹凸26を設けることで、凹凸26の中に封止樹脂8が入り込み、ポリイミド膜22と封止樹脂8との接触面積が増加する。これにより、ポリイミド膜22と封止樹脂8とのアンカー効果を増大させる。ポリイミド膜22と封止樹脂8との密着性を向上させ、ポリイミド膜22と封止樹脂8とで剥離を防ぐことができる。ここでポリイミド膜22表面の凹凸26としては表面粗さを用いることができ、高さhとして例えばポリイミド膜22表面の算術平均粗さRaを用いることができる。
【0029】
図3は、ポリイミド表面粗さと密着力/バルク破壊率との関係を示すグラフである。
図3において、横軸は、ポリイミド表面粗さ(Ra:算術平均粗さ)を示し、単位は、nmである。また、左縦軸は密着強度を示し、単位はMPaである。右縦軸はバルク破壊率を示し、単位は%である。
図3では、黒丸が密着強度の測定値を示し、実線が黒丸を近似した直線であり、白丸がバルク破壊率の測定値を示し、点線が白丸を近似した直線である。
【0030】
また、
図3は、半導体装置の製造方法で詳細に説明する酸素プラズマアッシング処理の条件を変えて、Raが0~25nmのサンプルを作製し、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)でRaを測定して、Raを測定したチップでの密着力とバルク破壊率の測定結果である。
【0031】
ここで、密着強度は、プリン試験により密着強度を測定した。
図4は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールのプリン試験を示す斜視図である。プリン試験とは、板の上に、プリン型に成型した樹脂を接合させ、横方向、例えば、
図4の矢印Tの方向に一定の力で樹脂を押し、樹脂が取れるまたは破壊されるまでにかかった力(密着力)を測定する試験であって、板と樹脂との密着性(密着強度)を示すものである。密着性は密着力および単位面積当たりの密着力でも示される。測定された力が大きいほど密着性が高くなる。ここでは、板として、上記Raのサンプルを用いた。
【0032】
次に、バルク破壊率は、プリン試験で樹脂が取れたまたは破壊された後、板の破断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)で観察して、バルク破壊か界面破壊かを判断した。破断面に樹脂が残っている場合、バルク破壊と判断し、破断面に樹脂が残っていない場合、界面破壊であると判断した。界面破壊は、密着力が弱く、樹脂がサンプルから取れたことを示す。一方、バルク破壊は、樹脂とサンプルとの密着力が高く、樹脂が取れることなく、樹脂が破壊されたことを示し、バルク破壊のサンプルは、樹脂との密着力が高いことを示している。
【0033】
図3の結果では、Raが3nm以下と低い場合(
図3のS1)は界面破壊となり、Raが大きくなるにつれて、界面破壊が減り、バルク破壊が増えていく。Raが5nm以上になると、バルク破壊の場合が多くなり、Raが8nm以上と高い場合(
図3のS2)、すべての結果がバルク破壊となっている。このため、実施の形態では、ポリイミド膜22の表面の平均表面粗さRaを5nm以上、好ましくは8nm以上とすることで、ポリイミド膜22の凹凸26の高さhの平均を5nm以上、好ましくは8nm以上としている。これにより、ポリイミド膜22と封止樹脂8とで剥離が生じない密着力をポリイミド膜22と封止樹脂8との間で実現することができる。また、ポリイミド膜22の保護膜としての機能を維持するためには、表面の凹凸26の高さhの平均は25nm以下であることが好ましい。
【0034】
(実施の形態にかかる半導体装置の製造方法)
次に、実施の形態にかかる半導体装置の製造方法について、説明する。
図5、
図6は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの製造方法のフローチャートである。
図5は、裏面電極形成後にめっきを行う場合のフローチャートであり、
図6は、薄化工程前にめっきを行う場合のフローチャートである。
図7~
図9は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの電極部の製造途中の状態を示す断面図である。
【0035】
最初に、
図5のフローチャートの場合を説明する。まず、従来技術による半導体装置の製造方法と同様に、半導体基板上に表面構造を形成する(ステップS11:第1工程)。例えば、半導体装置がIGBTである場合、半導体基板上にエピタキシャル成長によりドリフト層、ベース層を形成し、イオン注入で不純物イオンを注入することによりおもて面にエミッタ領域を形成する。次に、おもて面に熱酸化等でゲート絶縁膜を選択的に形成する。
【0036】
次に、例えばスパッタ法により、半導体素子のエミッタ領域に電気的に接続された金属電極としてAlSi電極21(表電極ともいう)を形成する(第2工程)。なお、この電極はAlSiに限定されるものではない。次に、AlSi電極21上に選択的にポリイミド膜22を形成する(ステップS12:第3工程)。ここまでの状態が、
図7に記載される。上面から見ると、ポリイミド膜22はAlSi電極21(金属電極)を囲むように形成され、AlSi電極21の中央部分の領域が露出している。
【0037】
次に、半導体基板(半導体ウエハ)のおもて面を保護膜(不図示)で覆って保護した後、半導体基板を裏面側から研磨することで、半導体基板を薄化して製品厚さとする(ステップS13)。なお、ステップS12、ステップS13を逆にして、半導体基板を薄化した後に、ポリイミド膜22を形成してもよい。
【0038】
次に、半導体基板上に裏面構造を形成する(ステップS14)。例えば、半導体装置がIGBTである場合、イオン注入で不純物イオンを注入することにより裏面にコレクタ領域を形成する。次に、例えばスパッタリング等の物理気相成長法により、半導体基板の裏面の全面にニッケルやチタン(Ti)を形成した後、アニールすることで裏面電極を形成する(ステップS15)。この後、半導体基板のおもて面に形成した保護膜を除去する。
【0039】
次に、AlSi電極21上やポリイミド膜22上に残る有機物を除去するプラズマクリーニングを実施する(ステップS16:第4工程)。有機物としては残渣としておもて面に残る保護膜などである。プラズマクリーニングは、半導体基板と垂直に酸素イオン27を照射する酸素プラズマアッシングで行う。酸素プラズマアッシングにより、AlSi電極21上やポリイミド膜22上に残る有機物が除去される。実施の形態では、酸素イオン27を半導体基板と垂直に照射するような装置を用いことで、プラズマクリーニングと同時に、ポリイミド膜22の表面に凹凸26を同時に形成している。ここでは、プラズマクリーニングと凹凸26の形成を同時にしているが、別工程としてもよい。
【0040】
また、酸素プラズマアッシングでは必ずしも酸素100%で行う必要はなく、酸素と10~30vol%の窒素との混合ガスを用いてプラズマアッシングを用いてもかまわない。プラズマアッシングでは、例えば、13.56MHz程度の周波数を用い、半導体基板と垂直な方向にプラズマを発生させることで、半導体基板に酸素イオン27を照射して、ポリイミド膜22の表面に凹凸26を効率的に形成することができる。ポリイミド表面に均一に凹凸26を形成するため、上方向からプラズマが基板表面に照射される櫛型電極アッシャーを用いることが好ましい。例えば、酸素プラズマアッシング装置は、枚葉式であり、平衡平板型電極の装置を用いる。ここまでの状態が、
図8に記載される。
【0041】
以下に、実施の形態の酸素プラズマアッシングの詳細を説明する。
図10は、ポリイミドエッチング量と表面粗さRaとの関係を示すグラフである。
図10において、縦軸は表面粗さRaを示し、単位はnmである。横軸はポリイミド(PI)エッチング量を示し、単位はnmである。
図10では、酸素プラズマアッシングにおいて、RFパワーを1000Wに固定して、処理時間を変化させ、ポリイミドエッチング量を調節したサンプルを作製して、作製したサンプルの表面粗さRaを測定した。
【0042】
図10に示すように、ポリイミドエッチング量と表面粗さRaは比例関係にあり、ポリイミドのエッチング量が100nm~1000nmの範囲内では、表面粗さRaは、5nm~25nmの範囲内となる。
図10において、測定した結果の近似直線は、xをエッチング量、yを表面粗さRaとすると、y=0.025x-1.1795で表され、決定係数(R
2)は0.9706である。ここで、
図10の表面粗さRaは、めっき処理を行った後の測定結果である。めっき処理後は、めっき処理時の薬液の影響により、ポリイミド表面の凹凸は1/2~1/3に減少する。このため、酸素プラズマアッシング直後の表面粗さRaは、10nm~70nmの範囲内となる。
【0043】
上述したように、ポリイミド膜22と封止樹脂8との密着性を向上させ、ポリイミド膜22と封止樹脂8とで剥離を防ぐためには、表面粗さRa(凹凸26の高さhの平均)を5nm以上、好ましくは8nm以上とする必要がある。めっき処理を行った後に、表面粗さRaを5nm以上とするためには
図10より、ポリイミド膜22のエッチング量を0.25μm以上とすることが必要となる。また、めっき処理を行った後に、表面粗さRaを8nm以上とするためには
図10より、ポリイミド膜22のエッチング量を0.35μmとすることが必要となる。
【0044】
また、めっき処理を行った後に表面粗さRaは1/2~1/3に減少するため、めっき処理を行った後に5nm以上とするためには、めっき処理前の表面粗さRaは10nm以上とすることが必要となる。また、めっき処理を行った後に8nm以上とするためには、めっき処理前の表面粗さRaは20nm以上とすることが必要となる。また、めっき処理を行った後に25nm以下とするためには、めっき処理前の表面粗さRaは70nm以下とすることが必要となる。
【0045】
ここで、ポリイミド膜22が薄くなると、イオンの拡散防止性が低くなり、信頼性が低下するため、エッチング量は、1.0μm以下であることが好ましい。このとき、
図10から表面粗さRaは25nm以下となり、めっき処理前は70nm以下となる。このように、ポリイミド膜22のエッチング量を調整することで、めっき処理を行った後の表面粗さRaを5nm以上25nm以下より好ましくは8nm以上25nm以下とすることができる。
【0046】
ここでは、エッチング量の調節として、処理時間を用いたが、RFパワーを調節することにより調節してもよい。例えば、エッチング量を多くするため、RFパワーを大きくしてもよい。
【0047】
従来の半導体装置の製造方法でも、プラズマクリーニングを実施していたが、半導体基板と平行な方向にプラズマを発生させることで、半導体基板と平行な方向に酸素イオンが動くエッチング方式であったため、めっき処理を行った後のポリイミド膜122の表面粗さRaは2.3nm程度であった。このため、ポリイミド膜122と封止樹脂108との密着性は十分でなく、ポリイミド膜122と封止樹脂108とで剥離を防ぐことができなかった。
【0048】
これに対して、実施の形態の半導体装置の製造方法では、上方向からプラズマが基板表面に照射される櫛型電極アッシャーを用いて、プラズマクリーニングを酸素プラズマアッシングで実施している。この櫛型電極アッシャーを用いてプラズマクリーニングを行った結果、めっき処理を行った後のポリイミド膜22の表面粗さRaは9.0nm程度であった。このため、ポリイミド膜22と封止樹脂8との密着性が十分となり、ポリイミド膜22と封止樹脂8とで剥離を防ぐことができた。
【0049】
次に、裏面保護のために、半導体基板の裏面に保護膜を形成し、ポリイミド膜22をマスクとして用いて、AlSi電極21上の、ポリイミド膜22が設けられていない部分に、選択的に表面電極膜24を形成することで表面電極を形成する(ステップS17:第5工程)。表面電極膜24は、NiP(ニッケルリン)無電解めっきなどが用いられるが、ポリイミド膜22は絶縁体で、AlSi電極21は金属なので、表面電極膜24はポリイミド膜22には析出せずに、選択的にAlSi電極21の上に析出する。ここまでの状態が、
図9に記載される。めっき法は、安価で厚い膜(1から10μm)を金属電極上に選択的に形成できるので多く用いられる。また、NiまたはNiP(ニッケルリン)やNiB(ニッケルボロン)などのNi合金でもよく、銅やアルミニウムや金でもよい。また、これらの積層膜でもよい。また、Niめっき膜の上にさらにAuめっき膜を形成してもよい。Auめっき膜を形成することにより、Niめっき膜を含む電極部を酸化から防止することができ、また、はんだとの濡れ性も良いため好ましい。なお、表面電極膜24はめっき膜に限定されるものではなく、スパッタリングにより形成されてもよい。この場合はメタルマスクを用いて、金属電極の露出した個所に成膜する。次に、半導体基板の裏面の保護膜を除去した後、半導体基板をダイシング(切断)して個々のチップ状に個片化する(ステップS18)。
【0050】
次に、
図1のパワー半導体モジュールを組み立てる(ステップS19)。組み立て方法は、従来技術によるパワー半導体モジュールと同様である。例えば、まず、積層基板12にパワー半導体チップ1を実装し、パワー半導体チップ1と、絶縁基板2上に設けられた電極パターン4とを、はんだ25(接合材3b)を介して、リードフレーム配線6で電気的に接続する。次に、これらを金属基板5に接合して、パワー半導体チップ1、積層基板12および金属基板5からなる積層組立体を組み立てる。この積層組立体に樹脂ケース7をシリコーン系の接着剤などで接着する。
【0051】
次に、金属ワイヤ10でパワー半導体チップ1と金属端子9との間を接続し、樹脂ケース7内にエポキシ樹脂などの硬質樹脂等の封止樹脂8を充填する。これにより、
図1に示す実施の形態にかかるパワー半導体モジュールが完成する。なお、封止樹脂8がエポキシ樹脂等の硬質樹脂でない場合、封止樹脂8が外に漏れないようにするため、蓋を取り付けるようにする。封止樹脂8として、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂やポリイミド樹脂やポリアミド樹脂やマレイミド樹脂などを用いることができる。また、線膨張係数を他の部材と調整するためにシリカやアルミナなどの粒子をフィラーとして添加しても良い。また、シリコーンなどの軟質樹脂を用いることもできる。以上のようにして、
図1のパワー半導体モジュールが完成する。
【0052】
次に、
図6のフローチャートの場合を説明する。まず、
図5と同様に、半導体基板上に表面構造を形成し(ステップS21:第1工程)、AlSi電極21を形成し(第2工程)、ポリイミド膜22を形成する(ステップS22:第3工程)。次に、ポリイミド膜22に対してプラズマクリーニングを実施する(ステップS23:第4工程)。プラズマクリーニングの条件は、
図5と同じ条件にする。
【0053】
この後、表面電極を形成し(ステップS24)、半導体基板を薄化して製品厚さとし(ステップS25)、裏面電極を形成する(ステップS26:第5工程)。この後、個片化し(ステップS27)、パワー半導体モジュールを組み立てる(ステップS28)。以上のようにして、
図1のパワー半導体モジュールが完成する。なお、裏面構造がある場合、ステップS25の薄化工程より前に、裏面構造を形成する。
【0054】
以上、説明したように、実施の形態の半導体装置の製造方法によれば、ポリイミド膜に対し、エッチング量が0.25μm以上の酸素プラズマアッシングで行う。これにより、めっき処理を行った後、ポリイミド膜の表面粗さRaを5nm以上とすることができる。このため、ポリイミド膜と封止樹脂とで剥離が生じない密着力をポリイミド膜と封止樹脂との間で実現することができる。
【0055】
また、ポリイミド膜のエッチングは、ポリイミド膜のプラズマクリーニングと同時に行うことができるため、工数を増やすことなく、ポリイミド膜と封止樹脂との剥離を防止することができる。
【0056】
以上において本発明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上述した各実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、上述した各実施の形態では、半導体として、シリコン(Si)の他、炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ半導体にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上のように、本発明にかかる半導体装置の製造方法は、インバータなどの電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置や自動車のイグナイタなどに使用されるパワー半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 パワー半導体チップ
2 絶縁基板
3a、3b、3c 接合材
4 電極パターン
5 金属基板
6 リードフレーム配線
7 樹脂ケース
8、108 封止樹脂
9 金属端子
10 金属ワイヤ
12 積層基板
20、120 半導体基板上の半導体素子
21、121 AlSi電極
22、122 ポリイミド膜
24、124 表面電極膜
25、125 はんだ
26 凹凸
27 酸素イオン
50 パワー半導体モジュール
128 ポリアミド系樹脂