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  • 特開-塵埃抑制処理剤組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168909
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】塵埃抑制処理剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/22 20060101AFI20221101BHJP
   C08L 1/28 20060101ALI20221101BHJP
   C08L 1/26 20060101ALI20221101BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C09K3/22 E
C08L1/28
C08L1/26
C08L27/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074588
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】麦沢 正輝
(72)【発明者】
【氏名】江頭 厳
(72)【発明者】
【氏名】早川 修
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB032
4J002BD151
4J002FD310
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】優れた塵埃抑制効果を有すると共に、長期間静置された後の塵埃抑制処理剤組成物中の固形分であるPTFE粒子の再分散性に優れ、環境性能にも優れた塵埃抑制処理剤組成物を提供する。
【解決手段】発塵性物質の塵埃を抑制するための塵埃抑制処理剤組成物であって、メチル基(-CH)、ヒドロキシプロピル基(-CHCHOHCH)、およびヒドロキシエチル基(-CHCHOH)から選択される少なくとも1種を含有する水溶性セルロース誘導体から選択される少なくとも1種、及びポリテトラフルオロエチレン水性分散液を含有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチル基(-CH)、ヒドロキシプロピル基(-CHCHOHCH)、およびヒドロキシエチル基(-CHCHOH)から選択される少なくとも1種を含有する水溶性セルロース誘導体から選択される少なくとも1種、及びポリテトラフルオロエチレン水性分散液からなることを特徴とする発塵性物質の塵埃抑制処理剤組成物。
【請求項2】
前記水溶性セルロース誘導体が、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロースから選択される少なくとも1種を含有する請求項1に記載の塵埃抑制処理剤組成物。
【請求項3】
前記水溶性セルロース誘導体として、225~230℃の融点を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースを少なくとも含有する請求項1または2に記載の塵埃抑制処理剤組成物。
【請求項4】
前記水溶性セルロース誘導体を、0.01~1.00質量%の量で含有する請求項1~3の何れかに記載の塵埃抑制処理剤組成物。
【請求項5】
前記ポリテトラフルオロエチレン水性分散液が、ポリテトラフルオロエチレンを1~80質量%の量で含有する請求項1~4の何れかに記載の塵埃抑制処理剤組成物。
【請求項6】
前記発塵性物質が、発塵性粉末状物質である請求項1~5の何れかに記載の塵埃抑制処理剤組成物。
【請求項7】
下記式で示される沈降率が1.0未満である請求項1~6のいずれかに記載の塵埃抑制処理剤組成物。
沈降率=X/X<1.0
式中、
:前記水溶性セルロース誘導体を含まないポリテトラフルオロエチレン水性分散液10gを、温度20℃、回転速度3000rpmにて30分間、遠心分離機により遠心分離した際の下記式で示される固形分沈降割合(%)
:前記塵埃抑制処理剤組成物10gを、温度20℃、回転速度3000rpmにて30分間、遠心分離機により遠心分離した際の下記式で示される固形分沈降割合(%)
固形分沈降割合(%)=(遠心分離後の固形分沈降量)/(遠心分離前の固形分量)×100
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発塵性物質の塵埃を抑制する性能に優れ、再分散性にも優れた塵埃抑制処理剤組成物に関し、より詳細には、メチル基(-CH)、ヒドロキシプロピル基(-CHCHOHCH)、およびヒドロキシエチル基(-CHCHOH)から選択される少なくとも1種を含有する水溶性セルロース誘導体から選択される少なくとも1種、及びPTFE水性分散液からなる塵埃抑制処理剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塵埃を出す物質の塵埃を抑制する技術は、健康上、安全上、環境上その他の要請から、生活のためにまた産業のために重要な技術である。
このような塵埃抑制技術としては、下記特許文献1において、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を粉末状物質と混合し、該混合物に約20~200℃の温度で圧縮-剪断作用を施すことによりPTFEをフィブリル化して粉末状物質の塵埃発生を抑制する方法が提案されている。
【0003】
上記特許文献1に記載されているPTFEは、組成としてはテトラフルオロエチレンのホモポリマーで形態としてはファインパウダー又はエマルジョンであるテフロン(登録商標)6又はテフロン(登録商標)30、並びに組成としてはテトラフルオロエチレンの変性ポリマーで形態としてはファインパウダーであるテフロン(登録商標)6Cなどである。
【0004】
また、下記特許文献2には、PTFEに対して1.0質量%以上の炭化水素系アニオン界面活性剤を含有する水性エマルジョンを使用する安定性のよい塵埃抑制方法が提案されており、粉末状物質について塵埃抑制効果があることが示されている。この特許文献2によれば、PTFEの粒子は、下記特許文献3に開示されている乳化重合法、即ちテトラフルオロエチレンを水溶性重合開始剤及びフルオロアルキル基を疎水基とするアニオン系界面活性剤(以下、含フッ素乳化剤という)を乳化剤として含む水性媒体中に圧入、重合させることにより、水性エマルジョンの形態で製造されるが、安定性を増すためにさらに乳化安定剤が添加されている。
【0005】
更に、下記特許文献4には、含フッ素乳化剤の含有率が5 0ppm以下である含フッ素重合体水性分散液からなる塵埃抑制処理剤組成物を用いることにより、塵埃抑制効果があって、環境への影響を懸念することなく塵埃を抑制できる方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、これらの方法に塵埃抑制処理剤組成物として用いられるPTFEは高分子量であり、その水性分散液は長期間静置された場合には沈降し易く、一度沈降したPTFEは強固に固まり再分散し難いという問題があることに加え、PTFE水性分散液中のPTFE濃度の低下を引き起こすなど、使用条件によっては本来PTFEが備えている塵埃抑制効果を十分に発揮できなくなるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭52-32877号公報
【特許文献2】特開平8-20767号公報
【特許文献3】米国特許第2,559,752号公報
【特許文献4】国際公開公報WO2007/000812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
すなわち本発明は、優れた塵埃抑制効果を有すると共に、長期間静置された後の塵埃抑制処理剤組成物中の固形分であるPTFE粒子の再分散性にも優れ、且つ、環境性能にも優れた塵埃抑制処理剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、メチル基(-CH)、ヒドロキシプロピル基(-CHCHOHCH)、およびヒドロキシエチル基(-CHCHOH)から選択される少なくとも1種を含有する水溶性セルロース誘導体から選択される少なくとも1種、及びポリテトラフルオロエチレン水性分散液からなることを特徴とする発塵性物質の塵埃抑制処理剤組成物を提供する。
【0010】
前記水溶性セルロース誘導体が、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロースから選択される少なくとも1種であることは、本発明の好適な態様である。
【0011】
前記水溶性セルロース誘導体が、225~230℃の融点を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースであることは、本発明の好適な態様である。
【0012】
前記水溶性セルロース誘導体が、前記塵埃抑制処理剤組成物中に0.01~1.00質量%の量で含有されていることは、本発明の好適な態様である。
【0013】
前記PTFE水性分散液が、PTFEを1~80質量%の量で含有していることは、本発明の好適な態様である。
【0014】
前記発塵性物質が、粉末状の発塵性物質であることは、本発明の好適な態様である。
【0015】
前記塵埃抑制処理剤組成物の下記式(1)で示される沈降率が1.0未満であることは、本発明の好適な態様である。
沈降率=X/X<1.0 ・・・(1)
式中、X:前記水溶性セルロース誘導体を含まないPTFE水性分散液10gを、温度20℃、回転速度3000rpmにて30分間、遠心分離機により遠心分離した際の下記式(2)で示される固形分沈降割合(%)である。
:前記塵埃抑制処理剤組成物10gを、温度20℃、回転速度3000rpmにて30分間、遠心分離機により遠心分離した際の下記式(2)で示される固形分沈降割合(%)である。
固形分沈降割合(%)=(遠心分離後の固形分沈降量)/(遠心分離前の固形分量)×100 ・・・(2)
【発明の効果】
【0016】
本発明により、優れた発塵性物質の塵埃を抑制する性能に加え、長期間静置後であっても塵埃抑制処理剤組成物中の固形分であるPTFE粒子の再分散性に優れると共に、環境性能に優れた発塵性物質の塵埃抑制処理剤組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1及び2、並びに比較例1の静置沈降試験及び静置沈降再分散試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の発塵性物質の塵埃抑制処理剤組成物は、メチル基(-CH)、ヒドロキシプロピル基(-CHCHOHCH)、およびヒドロキシエチル基(-CHCHOH)から選択される少なくとも1種を含有する水溶性セルロース誘導体、及びPTFEの水性分散液からなることが重要な特徴である。本発明の塵埃抑制処理剤組成物を発塵性物質と混合し、該混合物に約20~200℃の温度で圧縮-剪断作用を施すことにより、PTFEをフィブリル化して発塵性物質の塵埃の発生を抑制することが可能である。
前述した通り、塵埃抑制処理剤組成物中の固形分であるPTFE粒子は沈降し易いため、PTFE水性分散液が長期間静置された場合には、PTFE粒子が沈降し、沈降したPTFE粒子が強固に固まり攪拌等で再分散させることが困難であるが、本発明の塵埃抑制処理剤組成物においては、上記水溶性セルロース誘導体を含有することにより、沈降したPTFE粒子が強固に固まることを抑制し、PTFE粒子の再分散性を顕著に向上することが可能となる。その結果、少量の塵埃抑制処理剤組成物を均一に発塵性物質と混合することができるため、発塵性物質の塵埃の発生を効率よく抑制することが可能となる。
【0019】
本発明で用いる塵埃抑制処理剤組成物が、塵埃を抑制する性能及び再分散性に優れていることは、後述する実施例の静置沈降試験及び静置沈降再分散試験、遠心分離沈降試験、遠心分離再分散試験及び落下粉塵量試験の結果からも明らかである。
すなわち、静置沈降試験及び静置沈降再分散試験の結果を表す図1からも明らかなように、水溶性セルロース誘導体が配合された塵埃抑制処理剤組成物は、水溶性セルロース誘導体が配合されていないPTFE水性分散液に比して沈降量が低減されている。また後述する実施例3~6に示すように、本発明の塵埃抑制処理剤組成物は、塵埃抑制処理剤組成物中のPTFE粒子の再分散性を示す、上記式(1)で示す沈降率が1.0未満、好ましくは0.9以下、好適には0.8以下であることにより、良好に再分散できることが明らかである。さらに、下記式(3)で示す再分散後の沈降率が1.0未満、好ましくは0.9以下、好適には0.8以下である場合には、遠心分離後においても良好に再分散可能であることが明らかである。
すなわち、上記式(1)で示される沈降率が1.0以上の場合には、沈降したPTFE粒子が強固に固まり、再分散が困難になる。また固形分であるPTFE粒子が沈降した結果、塵埃抑制処理剤組成物中に分散しているPTFE粒子が減少し、沈降前と同等の発塵性物質の塵埃を抑制する性能を維持するためには、より多くのPTFE水性分散液が必要となる。更に強固に固まったPTFEは、塵埃抑制処理剤として利用することができないため、廃棄しなければならず、有用な資源であるPTFEの多くを無駄にしてしまうと共に、廃棄コストが発生する等、経済性の点からも好ましくない。
【0020】
(水溶性セルロース誘導体)
本発明の塵埃抑制処理剤組成物に含有される水溶性セルロース誘導体は、メチル基(-CH)、ヒドロキシプロピル基(-CHCHOHCH)、およびヒドロキシエチル基(-CHCHOH)から選択される少なくとも1種を含有する水溶性セルロース誘導体であることが好ましい。より好ましくは、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロースから選択される少なくとも1種であり、更に好ましくは、225~230℃の融点を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースであることが望ましい。
【0021】
前記水溶性セルロース誘導体は、塵埃抑制処理剤組成物中に、0.01~1.00質量%、好ましくは0.01~0.05質量%、より好ましくは0.01~0.03質量%の量で含有されることが好ましい。水溶性セルロース誘導体の含有量が0.01質量%未満の場合には、上記範囲にある場合に比して沈降したPTFE粒子の再分散性が劣り、その一方1.00質量%を超える場合には、上記範囲にある場合に比してPTFEのフィブリル化を阻害し、その結果、塵埃を抑制する性能の低下を生じることに加え、塵埃抑制処理剤組成物の粘度が上昇し、著しいハンドリング性の低下も生じるおそれがある。塵埃抑制処理剤組成物の粘度の上昇は、塵埃抑制処理剤組成物を水で希釈して用いることも困難にするため好ましくない。
本発明においては、塵埃抑制処理剤組成物中の固形分であるPTFE粒子が、輸送・保管時の静置により沈降した場合でも、水溶性セルロース誘導体を含有することにより、攪拌・転動等の作用によるPTFE粒子の再分散が容易であることから(再分散性の向上)、塵埃抑制処理剤組成物を効率よく使用することが可能となる。
【0022】
(PTFE水性分散液)
本発明に用いるPTFE水性分散液において、PTFEは、ホモポリマーと呼ばれるテトラフルオロエチレン(TFE)の単独重合体(PTFE)と、変性ポリマーと呼ばれる1%以下のコモノマーを含むテトラフルオロエチレンの共重合体(変性PTFE)の何れであってもよいが、TFEのホモポリマーであるPTFEであることが特に好ましい。
変性PTFE水性分散液からなる塵埃抑制処理剤組成物は、PTFE水性分散液からなる塵埃抑制処理剤組成物に比べ塵埃抑制効果が低く、同じ塵埃抑制効果を出すためにしばしば50%以上多い量の処理剤を使用しなければならないことがある。
【0023】
PTFE水性分散液中のPTFEは、平均粒径0.1~0.5μm、好ましくは0.1~0.3μmのコロイド粒子であることが望ましい。上記範囲よりも平均粒径が小さい場合には、上記範囲にある場合に比して、発塵性物質の塵埃を抑制する効果が低くなるおそれがあり、一方上記範囲よりも平均粒径が大きい場合には、上記範囲にある場合に比してコロイド粒子の分散安定性が低いおそれがある。
また、PTFEの比重(SSG)は2.27以下、好ましくは2.22以下、より好ましくは2.20以下であることが望ましい。PTFEの比重(SSG)が上記範囲よりも大きい場合には、上記範囲にある場合に比して発塵性物質の塵埃を抑制する効果が劣るおそれがある。
【0024】
本発明において、PTFE水性分散液中のPTFE濃度は特に限定されないが、10~80質量%、好ましくは15~80質量%、より好ましくは20~80質量%の範囲にある。
発塵性物質へのPTFEの分散効果を高めるためには、PTFE濃度は低いほど好ましいが、PTFE濃度が高いと、PTFE水性分散液の分散安定性が損なわれるおそれがある。その一方、PTFE水性分散液を輸送する際には、その濃度が高いほど輸送コストを節約できる。従って、本発明の塵埃抑制処理剤組成物中のPTFE濃度が、10質量%以上、特に20~80質量%の範囲であることが好ましく、発塵性物質へ混合する際には、PTFEの分散効果を高めるため、PTFE濃度が5質量%以下となるように上記塵埃抑制処理剤組成物を水で希釈して使用することも可能である。
【0025】
本発明に用いるPTFE水性分散液には、乳化剤として含フッ素乳化剤(界面活性剤)が少量含有されていてもよい。含フッ素乳化剤は、重合における反応不活性の故に不可欠のものではあるが、難分解性で環境への影響が懸念されるため、その含有率は低いことが望まれており、50ppm以下であることが好ましい。PTFE水性分散液中の含フッ素乳化剤濃度は、PTFE水性分散液を-20℃の冷凍庫に入れて凍らせ、PTFEを凝集させて水と分離した後、ポリエチレン容器の中身を全てソックスレーの抽出器に移し、約80mlのメタノールで7時間抽出し、メスアップしたサンプル液を液体クロマトグラフで測定してPTFE水性分散液中の含フッ素乳化剤濃度を算出することが出来る。
【0026】
含フッ素乳化剤の含有率が50ppm以下であるPTFE水性分散液を調製する方法は特に制限がないが、以下の方法を例示できる。
例えば、前述した特許文献3に開示されているような乳化重合法により得られたPTFE水性分散液、即ちTFEを水溶性重合開始剤及び乳化剤としてフルオロアルキル基を疎水基とするアニオン系界面活性剤(含フッ素乳化剤)を含む水性媒体中に圧入、重合して得られる、含フッ素乳化剤(アンモニウム塩及び/又はアルカリ塩の形のパーフルオロオクタン酸)を含フッ素重合体の重量に対し約0.02~1質量%含むPTFE水性分散液から、例えば有効量の陰イオン交換体と接触させて分離して除去する方法(特表2005-501956号公報及び特表2002-532583号公報)、或いは含フッ素重合体水性分散液の限外ろ過により除去する方法(米国特許第4,369,226号)等、公知の含フッ素乳化剤の除去方法によって、含フッ素乳化剤を除去することにより得ることができる。尚、含フッ素乳化剤の除去方法は上記方法に限定されるものではない。
また含フッ素乳化剤は高価であるため、上記方法により除去された含フッ素乳化剤は回収して再利用されることが望ましい。
【0027】
本発明に用いるPTFE水性分散液を調製する乳化重合法においては、乳化剤として上述した特許文献3に開示されている乳化剤を使用することができるが、本発明の目的のためには、特に非テロゲン性乳化剤と呼ばれることがある乳化剤を好適に使用することができる。非テロゲン性乳化剤としては、たとえば炭素数6~20程度、好ましくは炭素数6~12程度のF(CF)n(CH)mCOOH(m:0または1、n:6~20)で表されるフッ素含有アルカン酸またはその塩、フッ素含有アルキルスルホン酸またはその塩などを挙げることができる。塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などを挙げることができる。具体的には、パーフルオロヘプタン酸、パーフルオロオクタン酸、及びそれらの塩、2-パーフルオロヘキシルエタンスルホン酸及びその塩などを挙げることができるがこれに限られるものではない。
【0028】
更に、本発明に用いるPTFE水性分散液は、PTFE水性分散液の安定性を高めるため乳化安定剤を含んでいてもよい。乳化安定剤としては、炭化水素系アニオン系界面活性剤が好ましい。この界面活性剤は本質的に土中成分であるカルシウム、アルミニウム及び鉄分と水に不溶性又は難溶性の塩を形成するため、界面活性剤に起因する河川、湖沼及び地下水汚染を回避することが出来る。
【0029】
このような炭化水素系アニオン系界面活性剤としては、高級脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、脂肪族アルコールリン酸エステル塩類、二塩基性脂肪酸エステルスルホン酸塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類などがあるが、特にポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルエチレンスルホン酸(ポリオキシエチレンのnは1~6、アルキルの炭素数は8~11)、アルキルベンゼンスルホン酸(アルキルの炭素数は10~12)、ジアルキルスルホコハク酸エステル(アルキルの炭素数は8~10)などのNa,K,Li及びNH塩は、PTFE水性分散液に高い機械的安定性を付与可能であり、高速攪拌等によりPTFE粒子が凝集すること等が防止されるため、好ましいものとして例示することができる。
【0030】
(塵埃抑制処理方法)
本発明の塵埃抑制処理剤組成物を用いた塵埃抑制処理方法は、本発明の塵埃抑制処理剤組成物を発塵性物質と混合し、該混合物に20~200℃、好ましくは50~150℃の温度で圧縮-剪断作用を施し該組成物中のPTFEをフィブリル化することにより、発塵性物質の塵埃の発生を抑制することができる。
すなわち、特定のPTFEは、上記したような適度な条件下で圧縮-剪断作用を施すとフィブリル化したクモの巣状に超微細繊維化するため、本発明の塵埃抑制処理剤組成物を用いて処理された塵埃抑制処理物は、発塵性物質がクモの巣状の微細繊維に捕捉凝集されて塵埃抑制されていると考えられる。
【0031】
本発明の塵埃抑制処理剤組成物を用いて塵埃抑制処理される発塵性物質は、無機及び/または有機の発塵性物質であって、物質、形状などには特に限定はない。本発明は、発塵性物質として発塵性粉末状物質にも効果的に適用できる。特に好適に処理可能な発塵性物質としては、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメントなどのセメント類、消石灰、生石灰粉末、炭酸カルシウム、ドロマイト、マグネサイト、タルク、珪石、蛍石などの鉱産物粉末、カオリン、ベントナイト等の粘土鉱物粉、鉄鋼等の金属、非鉄金属の製造工程で副生されるスラグ粉末、石炭、ゴミ等の燃焼灰粉末、石膏粉末、粉末状金属、カーボンブラック、活性炭粉、金属酸化物等のセラミックス粉、顔料等が挙げられ、すなわち固体粒子状物質が空気中に飛散し浮遊し、塵埃を発生する全ての発塵性物質が挙げられる。
【0032】
本発明の塵埃抑制処理剤組成物の発塵性物質への添加量は、発塵性物質の種類、粒度分布、比重(真比重、見掛け比重)、塵埃抑制処理温度、施す圧縮-剪断作用の度合い、得られる塵埃抑制処理物の塵埃抑制の程度等によって適宜設定することができる。
なお、添加量の目安としては、例えば、発塵性粉末状物質に対して塵埃抑制処理剤組成物をPTFE樹脂固形分換算で0.001~1.0質量%、好ましくは0.005~0.5質量%の範囲で添加することにより、発塵性粉末状物質から発生する塵埃を抑制することができる。
【実施例0033】
以下に本発明を、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、この説明が本発明を限定するものではない。
本発明において各物性の測定は、下記の方法によって行った。
【0034】
(1)PTFE粒子の平均粒子径
PTFE粒子の平均粒径は、マイクロトラックUPA150 Model No.9340(日機装社製)を用いて測定した。
(2)発塵性粉体の粒子径
(株)堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定器にて、エタノールを分散媒として測定した。
【0035】
(3)PTFEの標準比重(SSG)
ASTM D-4894により測定した。
乳化重合により得られるPTFE水性分散体を、純水を用いて15質量%濃度に調整する。その後ポリエチレン容器(1000ml容量)に約750ml入れ、手で激しく振蕩して重合体を凝集させる。水から分離した重合体のパウダーを150℃で16時間乾燥する。乾燥した樹脂粉末12.0gを直径2.85cmの円筒形型中に入れてならし、30秒後に最終圧力が350kg/cmとなるよう圧力を次第に増加し、350kg/cmの最終圧力で2分間保持する。このようにして得られた予備成形体を30分間380℃の空気炉中で焼成した後、1分間1℃の割合で294℃まで冷却し、294℃で1分間保持した後、空気炉中から取り出し室温(23±1℃)で冷却して標準試料とする。室温(23℃±1℃)における同体積の水の重量に対する標準試料の重量比を標準比重とする。
この標準比重は平均分子量の目安となり、一般に標準比重が低い程分子量は大きい。
【0036】
(4)静置沈降性試験
表1に示すように、18.0gの塵埃抑制処理剤組成物またはPTFE水性分散液を試験管に入れ、パラフィルムで試験管の口を閉じた後に、上下反転を20回繰り返して混合した。その後、30日間及び60日間、各々室温にて静置した。30日間または60日間静置後、パラフィルムを取り、沈降している固形分以外(液部分:上澄み及び塵埃抑制処理剤組成物)を除去し、その重量(試験管の重量と試験管の底に沈降した固形分量の合計)を測定し、静置後の固形分量を算出した。
【0037】
(5)静置沈降再分散試験
上記(4)において静置した試験管の重量を測定し、該試験管に10gの純水を加え、パラフィルムで試験管の口を閉じた後に、上下反転を20回繰り返して混合した。その後、試験管の底に沈降している固形分以外(液部分:上澄み及び塵埃抑制処理剤組成物)を除去し、その重量(試験管の重量と試験管の底に沈降した固形分量の合計)を測定し、再分散後の固形分量を算出した。
【0038】
(6)遠心分離沈降試験
表2に示す組成の塵埃抑制処理剤組成物またはPTFE水性分散液10gを、遠沈管(コーニング株式会社製、15ml遠沈管)に入れ、遠心分離機(クボタ株式会社製、テーブルトップ冷却遠心機5500、アングルローター RA508)を用い、温度20℃、回転数3000rpmにて30分間遠心分離を行った。遠心分離後の遠沈管から遠沈管の底に沈降した固形分以外(液部分:上澄み及び塵埃抑制処理剤組成物)を除去し、遠沈管を逆さの状態で30分間静置し液部分を更に除去して、その重量(遠沈管の重量と遠沈管の底に沈降した固形分量の合計)を測定し、上述した式(2)から固形分沈降割合、及び上述した式(1)から沈降率を算出した。
【0039】
(7)遠心分離再分散試験
上記(6)において液部分を除去した遠沈管の重量を測定し、該遠沈管に10gの純水を加え、遠沈管の底に沈降した固形分を、38kHzにて1分間超音波分散した後、遠沈管の底に沈降した固形分以外(液部分)を除去し、遠沈管を逆さの状態で30分間静置し液部分を更に除去して、その重量(遠沈管の重量と遠沈管の底に沈降した固形分量の合計)を測定し、下記式(4)から再分散固形分沈降割合、及び下記式(3)から再分散沈降率を算出した。
【0040】
再分散沈降率=X/X ・・・(3)
式中、
:前記水溶性セルロース誘導体を含まないPTFE水性分散液10gを、温度20℃、回転速度3000rpmにて30分間、遠心分離機により遠心分離した後、再分散させた際の下記式(4)で示される固形分沈降割合(%)である。
:前記塵埃抑制処理剤組成物10gを、温度20℃、回転速度3000rpmにて30分間、遠心分離機により遠心分離した後、再分散させた際の下記式(4)で示される固形分沈降割合(%)である。
再分散後の固形分沈降割合(%)
=(再分散後の固形分沈降量)/(遠心分離前の固形分量)×100 ・・・(4)
【0041】
(8)落下粉塵量
内径39cm、高さ59cmの円筒容器の頂部投入口より試料(塵埃処理物)200gを自然落下させ、底面より高さ45cmの位置の容器内の浮遊粉塵量(相対濃度(CPM:Count per Minute)を散乱光式デジタル粉塵計により測定する。浮遊粉塵量の測定は、試料投入後1分間計測を連続し5回行い、試料投入前の測定値(ダークカウント)を差し引いた値の幾何平均値を当該試料の「落下粉塵量」とする。幾何平均値xは下記式(5)により求める。
【0042】
Log x=1/5×Σlog(xi‐d) ・・・(5)
式中、xi:個々の浮遊粉塵量、d:ダークカウントである。
【0043】
(実施例1及び2)
乳化重合法により得られた樹脂固形分濃度30質量%のPTFE水性分散液(平均粒径0.2μm、含フッ素乳化剤含有量21ppm、比重(SSG)2.19、アニオン系界面活性剤をPTFEの重量に対して3.0質量%含む)、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(信越化学工業社製 メトローズ(登録商標)65SH)を表1に記載した量で用い、塵埃抑制処理剤組成物を調製した。
得られた塵埃抑制処理剤組成物について、静置沈降性試験、静置沈降再分散試験を行った。結果を表1及び図1に示す。
【0044】
(比較例1)
実施例1で用いた樹脂固形分濃度30質量%のPTFE水性分散液を用い、実施例1と同様にして静置沈降性試験、静置沈降再分散試験を行った。結果を表1及び図1に示す。
【0045】
(実施例3~5)
実施例1で用いた樹脂固形分濃度30質量%のPTFE水性分散液及びHPMCを用い、表2に示す組成の塵埃抑制処理剤組成物を調製した。得られた塵埃抑制処理剤組成物について、遠心分離沈降性試験、遠心分離再分散試験を行った。結果を表2に示す。
【0046】
(比較例2)
実施例1で用いた樹脂固形分濃度30質量%のPTFE水性分散液を用い、実施例3と同様にして遠心分離沈降性試験、遠心分離再分散試験を行った。結果を表2に示す。
【0047】
(実施例6)
実施例1で用いた樹脂固形分濃度30質量%のPTFE水性分散液200gを、冷蔵庫(1~3℃)で40時間静置し、樹脂相と上澄み相に分離させた後、上澄み相を回収し、樹脂固形分濃度66.6質量%、界面活性剤濃度2.6質量%のPTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液に回収した上澄み相を添加し、樹脂固形分濃度60.0質量%に調整した。この樹脂固形分濃度60.0質量%のPTFE水性分散液、及び実施例1で用いたHPMCを用い、表2に示すように、HPMCが0.18質量%、総重量が15.0gの塵埃抑制処理剤組成物を調製した。得られた塵埃抑制処理剤組成物について、遠心分離沈降性試験、遠心分離再分散試験を行った。結果を表2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
(実施例7)
CaOを92.3%及びMgOを1.1%含有する粉末生石灰(2.0mmの標準網フルイを全通、600μmの標準網フルイ残分6.69%、300μmの標準網フルイ残分23.07%、150μmの標準網フルイ残分20.00%、150μmの標準網フルイ通過分50.24%の粉末生石灰)1,000gを容積5リットルの小型ソイルミキサーに投入し、回転数140r.p.m.で攪拌しながら、実施例5で調製した塵埃抑制処理剤組成物をPTFEが樹脂固形分換算で0.1g(生石灰に対しPTFE樹脂固形分で0.01質量%)に相当する質量を秤量し、塵埃抑制処理剤組成物に含まれる水分と清水との合計が100gになるように清水で希釈して、該組成物を分散させた分散液を徐々に投入した。
投入開始より約1分後には生石灰の水和反応熱による水蒸気を発生し始め、その後約2分で水分のすべてが生石灰の水和による消石灰の生成のため使用され尽くし、水蒸気の発生が無くなった。攪拌開始より3分後にミキサーの攪拌を止めた。このときの温度を温度計で計測すると116℃であった。この塵埃抑制処理された生石灰は、水和反応により新たに生成した消石灰約30%を含む生石灰と消石灰の混合物であった。得られた塵埃抑制処理物の落下粉塵量を測定した。結果を表3に示す。
【0051】
(実施例8、比較例3)
実施例6、比較例1で調製した塵埃抑制処理剤組成物を用いて、実施例7と同様にして塵埃抑制処理された生石灰と消石灰の混合物を得た。得られた塵埃抑制処理物の落下粉塵量を測定した。結果を表3に示す。
【0052】
(実施例9)
実施例5で調製した塵埃抑制処理剤組成物を、PTFEが樹脂固形分換算で0.2g(生石灰に対しPTFE樹脂固形分で0.02質量%)に相当する質量を秤量し、塵埃抑制処理剤組成物に含まれる水分と清水との合計が100gになるように清水で希釈して、該組成物を分散させた分散液を使用した以外は、実施例7と同様にして塵埃抑制処理された生石灰と消石灰の混合物を得た。得られた塵埃抑制処理物の落下粉塵量を測定した。結果を表3に示す。
【0053】
(実施例10、比較例4)
実施例6、比較例1で用いた塵埃抑制処理剤組成物について、実施例9と同様にして塵埃抑制処理された生石灰と消石灰の混合物を得た。得られた塵埃抑制処理物の落下粉塵量を測定した。結果を表3に示す。
【0054】
(比較例5)
塵埃抑制処理剤組成物を使用せず清水100gを用いた以外は、実施例7と同様にして得られた生石灰と消石灰の混合物の落下粉塵量を測定した。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の塵埃抑制処理剤組成物は、建材分野、土壌安定材分野、固化材分野、肥料分野、焼却灰又は有害物質の埋立処分分野、防爆分野、化粧品分野、各種プラスチックス類への充填材分野等において、発塵性物質を塵埃抑制処理して発塵性物質の塵埃抑制処理物を得るのに好適に用いる。
図1