(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168935
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】アンモニア分解装置及び水素ガス製造システム
(51)【国際特許分類】
C01B 3/04 20060101AFI20221101BHJP
C01B 3/56 20060101ALI20221101BHJP
H01M 8/0656 20160101ALI20221101BHJP
【FI】
C01B3/04 B
C01B3/56 Z
H01M8/0656
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074632
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】大園 知宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐之輔
(72)【発明者】
【氏名】足立 成人
(72)【発明者】
【氏名】佐成 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】神原 信志
(72)【発明者】
【氏名】早川 幸男
【テーマコード(参考)】
4G140
5H127
【Fターム(参考)】
4G140FA02
4G140FB06
4G140FC01
5H127BA01
5H127BA11
5H127EE12
(57)【要約】
【課題】より高純度の水素ガスを回収する。
【解決手段】アンモニア分解装置4は、電極板10と、絶縁板20と、アンモニアガスを含むガスの流路が形成され、電極板10への電圧の印加によって発生したプラズマによりアンモニアガスG0を水素ガスG2に分解するアンモニア処理部40と、水素ガスG2を選択的に透過可能な水素ガス透過膜50と、水素ガス透過膜50の背面側に位置する背面部材62と、背面部材62の外周面の外側に設けられており水素ガス透過膜50を迂回して背面部材62に流入するガスを抑制するメタルガスケット64と、を備える。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマによりアンモニアガスを分解するアンモニア分解装置であって、
交流電源が接続された電極板と、
前記電極板に当接する絶縁板と、
前記絶縁板に当接すると共に前記アンモニアガスを含むガスの流路が形成され、前記電極板への電圧の印加によって前記流路内に発生したプラズマにより前記アンモニアガスを水素ガスに分解するアンモニア処理部と、
前記流路を流れるガスのうち前記水素ガスを選択的に透過可能な水素ガス透過膜と、
前記水素ガス透過膜のうち前記流路に対向する部分の背面側に位置し、前記水素ガスが通過可能な背面部材と、
前記背面部材の外側で、前記アンモニア処理部との間に前記水素ガス透過膜の外縁部を挟持し、前記アンモニア処理部から前記水素ガス透過膜を迂回して流れるガスの前記背面部材への流入を抑制するメタルガスケットと、
前記アンモニア処理部と、前記水素ガス透過膜と、前記背面部材と、前記メタルガスケットとを収容する収容部と、
前記押さえ部材を通過した前記水素ガスを回収する回収部と、を備える、アンモニア分解装置。
【請求項2】
前記メタルガスケットと前記水素ガス透過膜の間に、液状パッキンまたはグリースが位置している、請求項1に記載のアンモニア分解装置。
【請求項3】
前記収容部内に、前記メタルガスケットと前記収容部との間の隙間を塞ぐOリング、液状パッキンまたはグリースが位置している、請求項1または請求項2に記載のアンモニア分解装置。
【請求項4】
前記背面部材は、前記水素ガス透過膜の一方の面に当接する押さえ面を有する多孔質部により構成されている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアンモニア分解装置。
【請求項5】
前記絶縁板は、セラミックスで形成されると共に、前記電極板を内部に保持する、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のアンモニア分解装置。
【請求項6】
アンモニア供給源からアンモニアガスを受け入れ、触媒又はプラズマによりアンモニアガスを分解して水素ガスを生成する第1アンモニア分解装置と、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のアンモニア分解装置であって、前記第1アンモニア分解装置から排出されたアンモニアガスおよび水素ガスを含む混合ガスを受け入れ、アンモニアガスを分解して水素ガスをさらに生成するとともに水素ガスを回収する第2アンモニア分解装置と、を備える、水素ガス製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア分解装置及び水素ガス製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されているように、プラズマによりアンモニアを水素ガスと窒素ガスに分解する装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、水素生成装置を備えた燃料電池システムが記載されている。この水素生成装置は、原料ガス流路が形成された誘電体と、誘電体の裏面に対向するように配置された電極と、原料ガス流路の開口部を閉鎖する水素分離膜と、水素分離膜と燃料電池セルの燃料極との間に配置された枠状のスペーサとを備えている。この装置では、誘電体の原料ガス流路で誘電体バリア放電を発生させることによりアンモニアが大気圧非平衡プラズマとなり、当該大気圧非平衡プラズマから水素が発生する。そして、発生した水素が水素分離膜の中を拡散しながら通過して燃料電池セルの燃料極側の空間に到達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1における水素生成装置では、原料ガスのプラズマ化によって発生した水素ガスが、水素分離膜の一方の側から他方の側に導出される際に、原料ガスに含まれていた水素ガスもしくは水素ガスと同時に発生した水素ガス以外のガスが分離膜外周部から径方向に向かって漏れ込むことによって水素ガスの純度が下がるという課題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、より高純度の水素ガスを回収することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明に係るアンモニア分解装置は、プラズマによりアンモニアガスを分解するアンモニア分解装置であって、交流電源が接続された電極板と、前記電極板に当接する絶縁板と、前記絶縁板に当接すると共に前記アンモニアガスを含むガスの流路が形成され、前記電極板への電圧の印加によって前記流路内に発生したプラズマにより前記アンモニアガスを水素ガスに分解するアンモニア処理部と、前記流路を流れるガスのうち前記水素ガスを選択的に透過可能な水素ガス透過膜と、前記水素ガス透過膜のうち前記流路に対向する部分の背面側に位置し、前記水素ガスが通過可能な背面部材と、前記背面部材の外側で、前記アンモニア処理部との間に前記水素ガス透過膜の外縁部を挟持し、前記アンモニア処理部から前記水素ガス透過膜を迂回して流れるガスの前記背面部材への流入を抑制するメタルガスケットと、前記アンモニア処理部と、前記水素ガス透過膜と、前記背面部材と、前記メタルガスケットとを収容する収容部と、前記押さえ部材を通過した前記水素ガスを回収する回収部と、を備える。
【0008】
このように構成されたアンモニア分解装置によれば、アンモニア処理部から水素ガス透過膜を迂回して流れるガスが背面部材へ流入することを抑制することができる。これにより、水素ガス透過膜を通過した水素ガスに、水素ガス透過膜を迂回して流入したガスが混入することを抑制できるため、より高純度の水素ガスを回収することができる。
【0009】
前記アンモニア分解装置は、前記メタルガスケットと前記水素ガス透過膜の間に、液状パッキンまたはグリースが位置していてもよい。
【0010】
この態様では、液状パッキンまたはグリースによって、メタルガスケットと水素ガス透過膜の隙間から背面部材へのガスの漏出が抑制されるため、メタルガスケットのシール性を向上できる。
【0011】
前記アンモニア分解装置は、前記収容部内に、前記メタルガスケットと前記収容部との間の隙間を塞ぐOリング、液状パッキンまたはグリースが位置していてもよい。
【0012】
この態様では、Oリング、液状パッキンまたはグリースによって、メタルガスケットと収容部の隙間が塞がれるため、背面部材へのガスの漏出は抑制される。したがって、メタルガスケットのシール性を向上できる。
【0013】
前記背面部材は、前記水素ガス透過膜の一方の面に当接する押さえ面を有する多孔質部により構成されていてもよい。
【0014】
この態様では、背面部材を構成する多孔質部材が押さえ面を有しており、水素ガス透過膜のうちアンモニア処理部の流路に対向する部分を背面側から押さえることにより、水素ガスの通過に伴う水素分離膜の変形を抑制できる。これにより、水素分離膜が破れることを抑制しながら、水素分離膜に水素ガスを通過させることができる。
【0015】
前記絶縁板は、セラミックスで形成されていてもよく、前記電極板を内部に保持していてもよい。これにより、電極版の周囲における絶縁性をより確実に確保することができる。
【0016】
本発明に係る水素ガス製造システムは、アンモニア供給源からアンモニアガスを受け入れ、触媒又はプラズマによりアンモニアガスを分解して水素ガスを生成する第1アンモニア分解装置と、前記アンモニア分解装置であって、前記第1アンモニア分解装置から排出されたアンモニアガスおよび水素ガスを含む混合ガスを受け入れ、アンモニアガスを分解して水素ガスをさらに生成するとともに水素ガスを回収する第2アンモニア分解装置と、を備える。
【0017】
このように構成された水素ガス製造システムによれば、第1アンモニア分解装置にて触媒反応又はプラズマ分解によりアンモニアガスを分解し、その後、第2アンモニア分解装置にて、第1アンモニア分解装置から排出された混合ガスをプラズマ分解することができる。これにより、アンモニアガスの処理量を確保すると共に、水素ガスの純度を高めることができる
【発明の効果】
【0018】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、より高純度の水素ガスを回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態1に係る水素ガス製造システムの構成を模式的に示す図である。
【
図2A】本発明の実施形態1に係るアンモニア分解装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
【
図3】本発明の実施形態1におけるアンモニア処理部の構成を模式的に示す平面図である。
【
図6】本発明の実施形態2に係るアンモニア分解装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
【
図7】本発明の実施形態2に係るアンモニア分解装置における水素ガスの流れを説明するための模式図である。
【
図8】本発明の実施形態3に係るアンモニア分解装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
【
図9】本発明の実施形態4におけるアンモニア処理部の構成を模式的に示す平面図である。
【
図10】本発明のその他実施形態を説明するための模式図である。
【
図11】本発明のその他実施形態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。文中で「上」、「下」及び「左」、「右」といった方向指標が用いられるが、これらの方向指標は説明の明瞭化のみを目的としており、限定的に解釈されるべきでない。
【0021】
(実施形態1)
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係るアンモニア分解装置及び水素ガス製造システムを詳細に説明する。
【0022】
まず、本発明の実施形態1に係る水素ガス製造システム100の構成を、
図1に基づいて説明する。水素ガス製造システム100は、アンモニアガスG0を原料ガスとして水素ガスG2を製造するものである。水素ガスG2の用途としては、例えば燃料電池が挙げられるが、これに限定されない。
図1に示すように、水素ガス製造システム100は、第1アンモニア分解装置4と、第2アンモニア分解装置1とを主に備える。
【0023】
第1アンモニア分解装置4は、アンモニア供給源9からアンモニアガスG0を受け入れ、触媒によりアンモニアガスG0を分解して水素ガス及び窒素ガスを生成するものである。第1アンモニア分解装置4は、第1ガス供給ライン5を介してアンモニア供給源9に接続されると共に、第2ガス供給ライン6を介して第2アンモニア分解装置1に接続されている。未分解のアンモニアガス、水素ガス及び窒素ガスを含む混合ガスG1が第1アンモニア分解装置4から排出され、第2ガス供給ライン6を介して第2アンモニア分解装置1に供給される。
【0024】
第2アンモニア分解装置1は、第1アンモニア分解装置4から排出された混合ガスG1
を受け入れ、アンモニアガスを分解して水素ガスG2をさらに生成するとともに水素ガスG2を回収するものである。以下、第2アンモニア分解装置1(単に「アンモニア分解装置1」とも称する)の構成を詳細に説明する。
【0025】
アンモニア分解装置1は、プラズマによりアンモニアガスを水素ガスと窒素ガスに分解するものである。
図2Aは、アンモニア分解装置1の縦断面図である。
図2Aに示すように、アンモニア分解装置1は、電極板10と、絶縁板20と、フランジ30と、アンモニア処理部40と、水素ガス透過膜50と、背面部材62と、メタルガスケット64と、グリース80と、回収部70とを主に備える。
【0026】
電極板10は、単一の板部材からなり、交流電源11に電気的に接続されている。絶縁板20は、例えばAl2O3等のセラミックス(絶縁材料)で形成された板であり、上面22及び下面21を含む。絶縁板20は、電極板10に当接しており、本実施形態では、電極板10を内部に保持する。換言すると、電極板10は、絶縁板20の内部に埋め込まれており、当該電極板10の周囲全体が絶縁板20によって電気的に絶縁されている。
図2Aに示すように、電極板10は、上面22及び下面21と平行であり、径方向において絶縁板20の略中央に埋め込まれている。なお、絶縁板20は、セラミックス以外の絶縁材料からなるものでもよい。
【0027】
絶縁板20には、アンモニア処理部40に供給される混合ガスG1が流れる供給流路23が当該絶縁板20を厚さ方向に貫通するように形成されており、アンモニア処理部40から排出されるガスが流れる排出流路24が当該絶縁板20を厚さ方向に貫通するように形成されている。
図2Aに示すように、電極板10は、絶縁板20の径方向において供給流路23と排出流路24との間に位置している。
【0028】
フランジ30は、絶縁板20を挟持するものであり、上フランジ31と、下フランジ32とを含む。上フランジ31及び下フランジ32は、いずれもSUS製の板であり、絶縁板20よりも直径が小さい。絶縁板20は、上フランジ31と下フランジ32とによって厚さ方向に挟持されている。
【0029】
上フランジ31は、絶縁板20の上面22に当接する内面31Aと、当該内面31Aと反対側を向く外面31Bとを含む。内面31Aには、外面31B側に凹む環状溝が複数形成されており、O(オー)リング等のシール部材33が当該環状溝内に装着されている。これにより、絶縁板20の上面22と上フランジ31の内面31Aとの間の気密性が確保されている。
【0030】
上フランジ31には、アンモニア処理部40に供給される混合ガスG1が流れる供給流路36が当該上フランジ31を厚さ方向に貫通するように形成されており、アンモニア処理部40から排出されるガスが流れる排出流路37が当該上フランジ31を厚さ方向に貫通するように形成されている。
図2Aに示すように、上フランジ31の供給流路36は、シール部材33が収容される環状溝の間に形成されており、絶縁板20の供給流路23に連通している。同様に、上フランジ31の排出流路37は、シール部材33が収容される環状溝の間に形成されており、絶縁板20の排出流路24に連通している。供給流路36が外面31B側に開放された部分がガス入口36Aとなっており、排出流路37が外面31B側に開放された部分がガス出口37Aとなっている。
【0031】
下フランジ32は、絶縁板20の下面21に当接する内面32Aと、当該内面32Aと反対側を向く外面32Bとを含む。上フランジ31と同様に、内面32Aには、外面32B側に凹む環状溝が形成されており、O(オー)リング等のシール部材34が当該環状溝内に装着されている。これにより、絶縁板20の下面21と下フランジ32の内面32Aとの間の気密性が確保されている。本実施形態では下フランジ32が接地(グラウンド)されているが、接地する箇所はこれに限定されない。
【0032】
下フランジ32には、内面32Aから外面32B側に凹む空間である大径溝35と、当該大径溝35に連通すると共に大径溝35よりも小径の空間である小径溝35Aとが形成されている。小径溝35Aは、大径溝35と同心状で且つ大径溝35よりも外面32B側に形成されている。また大径溝35及び小径溝35Aは、いずれもシール部材34が収容される環状溝よりも径方向内側に形成されている。
【0033】
図2Aに示すように、大径溝35には、アンモニア処理部40、水素ガス透過膜50及び背面部材62が上から順に重なった状態で収容されている。背面部材62の外周面の外側には、背面部材62の外周面(側面)全体を覆うように形成された環状のメタルガスケット64が設けられている。メタルガスケット64は、アンモニア処理部40の外縁部との間で水素ガス透過膜50を挟持するようにして構成されている。大径溝35の内径は、メタルガスケット64の外径と略同じであり、メタルガスケット64の外周面は大径溝35の内周面に対向するように形成されている大径溝35が形成された下フランジ32は、アンモニア処理部40、水素ガス透過膜50、背面部材62及びメタルガスケット64を収容する収容部として機能する。
【0034】
下フランジ32には、大径溝35の内面と小径溝35Aの内面とを繋ぐ段差面39が設けられている。段差面39は内面32A及び外面32Bと平行な環状の平面であり、背面部材62外周部及びメタルガスケット64が当該段差面39上に載置されている。
【0035】
図2A内の領域IIBを拡大して示す
図2Bに示すように、段差面39には、外面32B側に凹む環状溝が形成されており、O(オー)リング等のシール部材38が当該環状溝内に装着されている。シール部材38は、メタルガスケット64に密着しており、これにより、メタルガスケット64の下面と段差面39との間の気密性が確保されている。
【0036】
さらに、水素ガス透過膜50の外縁部の下面とメタルガスケット64の上面との間には、全周に亘ってグリース80が設けられており、水素ガス透過膜50の外縁部の下面とメタルガスケット64の上面との間の気密性が確保されている。シール部材38及びグリース80により、アンモニアガスが水素ガス透過膜50の外周側から回り込んで後述の回収部70側へ漏れるのを抑制することができる。
【0037】
アンモニア処理部40は、絶縁板20の下面21に当接すると共にアンモニアガスの流路R1が形成されたものである。アンモニア処理部40は、電極板10への電圧の印加によって流路R1内に発生したプラズマによりアンモニアガスを水素ガスと窒素ガスに分解する。アンモニア処理部40は、例えばSUS等からなる厚さ1mm~2mm程度の金属板であり、絶縁板20の下面21に当接する上面40Aと、水素ガス透過膜50に当接する下面40Bとを含む。
【0038】
ここで、アンモニア処理部40の詳細な構成を、
図3~
図5に基づいて説明する。
図3は、アンモニア処理部40の平面図である。
図4は、
図3中の領域IVにおける拡大図である。
図5は、
図4中の線分V-Vに沿った断面図である。
【0039】
図3に示すように、アンモニアガスの流路R1は、ガス入口43とガス出口44とを繋ように形成されており、複数の貫通部41と複数の非貫通部42とを含む蛇行形状を有する。具体的には、貫通部41と非貫通部42が流路R1に沿って交互に形成されており、非貫通部42が流路R1の各屈曲部に設けられている。流路R1は、例えばエッチング処理、レーザ加工又は切削等の手法により形成されている。
【0040】
ガス入口43は、平面視半円形を有し、絶縁板20の供給流路23(
図2A)に連通している。ガス出口44は、ガス入口43と反対向きの平面視半円形を有し、絶縁板20の排出流路24(
図2A)に連通している。貫通部41は、平面視長方形を有し、当該貫通部41の長さ方向に直交する方向(
図3の横方向)に所定間隔を空けて複数形成されている。非貫通部42は、隣接する貫通部41の間に形成されている。
【0041】
ガス入口43、ガス出口44及び貫通部41は、いずれも金属板を厚さ方向に貫通するように形成されている。換言すると、ガス入口43、ガス出口44及び貫通部41は、アンモニア処理部40の上面40A側及び下面40B側(
図2A)のいずれにも開放されている。
【0042】
一方、非貫通部42は、金属板を厚さ方向に貫通せず、厚さ方向の一部を残すように当該金属板を加工することによって形成されている。具体的には、
図5に示すように、非貫通部42には、金属板の薄肉部42Aが残されている。このため、非貫通部42は、アンモニア処理部40の上面40A側に開放される一方、下面40B側には開放されていない。
【0043】
アンモニア処理部40は、プレート本体46と、複数の櫛部45とを含む。
図3に示すように、櫛部45は、貫通部41に平行な平面視長方形を有し、隣接する貫通部41の間に設けられている。櫛部45は、プレート本体46に直接繋がる基端45Bと、薄肉部42A(
図5)を介してプレート本体46に繋がる先端45Aとを含む。
【0044】
水素ガス透過膜50(
図2A)は、流路R1を流れるガスのうち水素ガスG2を選択的に透過可能なものであり、アンモニア処理部40の下面40Bに張り付けられている。水素ガス透過膜50は、例えばPd-Cu合金等からなり、流路R1の全体を覆う薄い金属箔である(
図3中の一点鎖線)。
図2Aに示すように、水素ガス透過膜50は、流路R1に対向する部分51(ガス入口43、ガス出口44及び貫通部41を下面40B側から塞ぐ部分)を含む。水素ガス透過膜50は、膜厚10μm~100μm程度に圧延された金属薄膜である。
【0045】
背面部材62は、水素ガス透過膜50のうち流路R1に対向する部分51を当該流路R1と反対の背面側から押さえる押さえ面61を有し、水素ガスG2が通過可能なものである。押さえ面61は、水素ガス透過膜50の下面(アンモニア処理部40と反対側の面)全体に面接触し、当該下面全体を略均等な力で上向きに押さえる。背面部材62には、平板状の多孔質部材が採用され、例えば、メッシュ状に加工された樹脂若しくは金属、パンチングメタル、多孔質金属又は多孔質セラミックス(例えば多孔質アルミナ)等を採用することができる。背面部材62が設けられることで、水素ガス透過膜50の強度が保たれる。メタルガスケット64は、厚さ1mm~10mm程度の水素ガスG2が透過しない緻密な金属部材(非多孔質部材)である。
【0046】
背面部材62とメタルガスケット64とから構成された部材は、アンモニア処理部40と略同径の板であり、平面視において流路R1の全体を覆う大きさを有する。すなわち、背面部材62の押さえ面61及びメタルガスケット64の上面は、水素ガス透過膜50を挟んで流路R1の全体(ガス入口43、ガス出口44、貫通部41及び非貫通部42を含む領域)と対向する。このため、背面部材62の押さえ面61及びメタルガスケット64の上面は、水素ガス透過膜50のうち流路R1に対向する部分51の全体を、当該流路R1と反対の背面側から押さえる。なお、
図2Aに示すように、背面部材62よりも下側には、隙間(小径溝35A)が空いた状態となる。
【0047】
回収部70は、背面部材62を通過した水素ガスG2を回収する部分である。
図2Aに示すように、回収部70は、下フランジ32の下側中央部に形成された貫通孔であり、小径溝35Aに連通している。
【0048】
次に、水素ガス製造システム100による水素ガスG2の製造プロセスを説明する。
【0049】
図1に示すように、まず、アンモニア供給源9から第1ガス供給ライン5を介して第1アンモニア分解装置4にアンモニアガスG0が供給される。第1アンモニア分解装置4では、触媒反応によりアンモニアガスG0の一部が水素ガスと窒素ガスに分解される。そして、水素ガス、窒素ガス及び未分解のアンモニアガスを含む混合ガスG1が、第2ガス供給ライン6を介して第2アンモニア分解装置1に供給される。
【0050】
図2Aに示すように、混合ガスG1は、ガス入口36Aからアンモニア分解装置1内に流入し、上フランジ31の供給流路36及び絶縁板20の供給流路23を順に流れた後、アンモニア処理部40内に供給される。混合ガスG1は、ガス入口43(
図3)から流路R1内に流入し、ガス出口44に向かって流路R1内を蛇行しつつ流れる。
【0051】
一方、交流電源11(
図2A)から電極板10に所定の電圧を印加することにより、流路R1内(電極板10と水素ガス透過膜50との間)にプラズマが発生する。このプラズマによって、混合ガスG1に含まれるアンモニアガスが水素ガスG2と窒素ガスに分解される。水素ガスG2の分圧は、例えば大気圧程度である。そして、流路R1を流れるガスのうち水素ガスG2のみが水素ガス透過膜50を透過し、さらに背面部材62を通過した後、回収部70からアンモニア分解装置1の外へ取り出される。一方、窒素ガス及び未分解のアンモニアガスは、ガス出口44(
図3)からアンモニア処理部40の外へ流出し、絶縁板20の排出流路24(
図2A)及び上フランジ31の排出流路37を順に流れた後、ガス出口37Aからアンモニア分解装置1の外へ取り出される(ガスG3)。
【0052】
次に、アンモニア分解装置1の効果について説明する。
【0053】
上述の通り、アンモニア処理部40でのプラズマ分解により発生した水素ガスG2は、水素ガス透過膜50を透過してアンモニア分解装置1の外へ取り出される。このとき、混合ガスG1の一部が、水素ガス透過膜50の径方向外側を通って漏れ出し、背面部材62に流入することが懸念される。これに対し、本実施形態に係るアンモニア分解装置1では、メタルガスケット64によって水素ガス透過膜50と下フランジ32の段差面39の間を塞ぎ、シール部材38によってメタルガスケット64と下フランジ32の間を塞ぎ、グリース80によって水素ガス透過膜50とメタルガスケット64の間を塞いでいる。このため、混合ガスG1が、アンモニア処理部40から水素ガス透過膜50の径方向外側を通って、背面部材62側に漏れ出すことを抑制できる。これにより、水素ガス透過膜50を通過した水素ガスG2に、水素ガス透過膜50を迂回して流入した混合ガスG1が混入することを抑制できるため、より高純度の水素ガスG2を回収できる。
【0054】
なお、水素ガス透過膜50の外縁部の下面とメタルガスケット64の上面との間には、全周に亘ってグリース80が設けられているが、これに代えて、気密性を確保するための液状パッキンが設けられていてもよい。
【0055】
また、段差面39上には環状溝及びシール部材38が設けれているが、これに代えて、段差面39とメタルガスケット64の下面との間に、気密性を確保するためのグリースまたは液状パッキンが設けられていてもよい。
【0056】
また、
図1に示す水素ガス製造システム100は、第1アンモニア分解装置4が触媒反応によりアンモニアガスの分解を行う構成となっているが、これに代えて、第1アンモニア分解装置4が、プラズマによりアンモニアガスを分解するように構成されていてもよい。この場合、アンモニア供給源9から供給されたアンモニアガスG0は、第1アンモニア分解装置4によってプラズマ分解されて混合ガスG1となり、第2ガス供給ライン6を介して第2アンモニア分解装置1に供給される。この場合、第1アンモニア分解装置4は、第2アンモニア分解装置1と同様に構成されてもよい。
【0057】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係るアンモニア分解装置2の構成を、
図6及び
図7に基づいて説明する。実施形態2に係るアンモニア分解装置2は、基本的に実施形態1に係るアンモニア分解装置1と同様の構成を備え且つ同様の効果を奏するものであるが、背面部材62の構成において異なっている。以下、実施形態1と異なる点についてのみ説明する。なお、
図6及び
図7において、実施形態1に対応する構成要素には同じ参照符号を付し、その説明を省略する。
【0058】
図6に示すように、実施形態2に係るアンモニア分解装置2は、水素ガス透過膜50と反対側から背面部材62を支持する弾性部材63をさらに備えている。弾性部材63は、例えばゴム製の板からなり、背面部材62を透過した水素ガスG2を回収部70に導く孔63A(流路)が径方向中央に形成されている。
図6に示すように、背面部材62及びメタルガスケット64は大径溝35内に収容されており、弾性部材63は小径溝35A内に収容されている。弾性部材63は厚さ方向に押し縮められており、その反力によって背面部材62が水素ガス透過膜50の下面に押し付けられている。また背面部材62の外面(メタルガスケット64の内面と対向する面)は、弾性部材63の外面と面一である。
【0059】
図7は、水素ガス透過膜50を透過した水素ガスG2が、背面部材62の内部を通過する様子を模式的に示している。
図7に示すように、水素ガス透過膜50を透過した水素ガスG2は、背面部材62の内部において径方向中央に向かって流れる。そして、背面部材62内の径方向中央に集まった水素ガスG2が、弾性部材63の孔63Aを通じてアンモニア分解装置2(
図6)の外へ取り出される。
【0060】
以上の通り、本実施形態に係るアンモニア分解装置2によれば、背面部材62の背面に弾性部材63を設けることにより、弾性部材63によって背面部材62を背面側から押さえることができる。これにより、水素ガス透過膜50のうち流路R1に対向する部分51を押さえ面61によってより確実に押さえることが可能になり、水素ガス透過膜50の破れをより確実に抑制することができる。なお、実施形態1に記載の通り、弾性部材は本発明のアンモニア分解装置において必須の構成要素ではない。実施形態1のように弾性部材を採用しない場合には、水素ガス透過膜50のうち流路R1に対向する部分51が押さえ面61によって確実に押さえられるように、背面部材62の厚さや大径溝35の深さ等を適宜調整することが好ましい。
【0061】
(実施形態3)
次に、本発明の実施形態3に係るアンモニア分解装置3の構成を、
図8に基づいて説明する。実施形態3に係るアンモニア分解装置3は、基本的に実施形態2に係るアンモニア分解装置2と同様の構成を備え且つ同様の効果を奏するものであるが、背面部材62の構成において異なっている。以下、実施形態2と異なる点についてのみ説明する。なお、
図8において、実施形態2に対応する構成要素には同じ参照符号を付し、その説明を省略する。
【0062】
実施形態3における弾性部材63Bは、バネにより構成されており、小径溝35Aにおいて圧縮された状態で配置されている。背面部材62は、弾性部材63Bのバネ力を受けて上向きに付勢されており、その結果、押さえ面61が水素ガス透過膜50のうち流路R1に対向する部分51の全体を上向きに押さえている。
【0063】
このように、実施形態3では、実施形態2のゴムに代えて、バネ等の部材全体に亘って水素ガスが通過可能な隙間を有する部材(孔を形成しなくても水素ガスが通過可能な部材)を弾性部材として採用することにより、背面部材62を通過後の水素ガスG2が回収部70までより流れ易くなる。このため、下フランジ32内での水素ガスG2の滞留を抑制することができる。なお、バネに代えて金属製の綿等が弾性部材63Bとして採用されてもよい。
【0064】
(実施形態4)
次に、本発明の実施形態4に係るアンモニア分解装置の構成を、
図9に基づいて説明する。実施形態4に係るアンモニア分解装置は、基本的に実施形態1に係るアンモニア分解装置1と同様の構成を備え且つ同様の効果を奏するものであるが、アンモニア処理部の構成において異なっている。以下、実施形態1と異なる点についてのみ説明する。なお、
図9において、実施形態1に対応する構成要素には同じ参照符号を付し、その説明を省略する。
【0065】
図9は、実施形態4におけるアンモニア処理部40の平面図である。アンモニア処理部40の流路R1は、ガス入口43と、ガス出口44と、ガス入口43とガス出口44とを繋ぐ複数(
図9の例では2つ)の微細流路R2とを含む。ガス入口43及びガス出口44は、いずれもアンモニア処理部40の金属板を厚さ方向に貫通する。
【0066】
微細流路R2は、貫通部47と非貫通部48とを含む蛇行形状を有し、互いに沿うように形成されている。貫通部47は金属板を厚さ方向に貫通するように形成されている一方、非貫通部48は当該金属板の厚さ方向の一部が残るように(薄肉部を含むように)形成されている。
図9に示すように、非貫通部48は、微細流路R2の両端(ガス入口43及びガス出口44に繋がる部分)と微細流路R2の各屈曲部に設けられているが、その他の部分にさらに設けられていてもよい。
【0067】
アンモニア処理部40は、プレート本体46と、蛇行部49とを含む。蛇行部49は、2つの微細流路R2により挟まれた部分であり、非貫通部48(薄肉部)を介してプレート本体46に繋がっている。
【0068】
本実施形態に係るアンモニア分解装置では、複数の微細流路R2を設けることにより、アンモニアガスの処理量をより多く確保することができる。そして、各微細流路R2に非貫通部48を設けることにより、微細流路R2により挟まれた蛇行部49をプレート本体46に対して安定に保持することができる。なお、実施形態2,3に係るアンモニア分解装置2,3において、複数の微細流路R2が設けられてもよい。
【0069】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。したがって、以下の実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0070】
実施形態1において、背面部材62は、多孔質部材であると共に弾性部材であってもよい。この場合、例えばスチールウールやスポンジ等を背面部材62の材料として採用することができる。
【0071】
下フランジ32に代えて水素ガス透過膜50が接地(グラウンド)されていてもよい。
【0072】
アンモニア処理部は金属板からなる場合に限定されず、例えばSiO2等の他の材料からなるものでもよい。しかし、金属板を用いることにより絶縁板20を薄くすることが可能となり、誘電損を抑制することができる。また流路R1は蛇行形状に限定されず、例えば直線状等の他の形状とすることも可能である。
【0073】
実施形態1において、非貫通部42が流路R1のうち屈曲部以外の部分にも設けられていてもよい。
【0074】
電極板10は、絶縁板20の内部に保持される場合に限定されず、
図10に示すように、電極板10が絶縁板20上に載置されていてもよい。この場合、例えば樹脂モールド等の方法により電極板10の周囲の絶縁性が確保される。
【0075】
図11に示すように、電極板10は、絶縁板20の内部において厚さ方向の中央よりもアンモニア処理部40側(下面21側)に位置していてもよい。これにより、電極板10に電圧を印加した際に、絶縁板20の上面22における放電の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0076】
1,2,3 アンモニア分解装置(第2アンモニア分解装置)
4 第1アンモニア分解装置
9 アンモニア供給源
10 電極板
11 交流電源
20 絶縁板
32 下フランジ
38 シール部材
40 アンモニア処理部
41,47 貫通部
42,48 非貫通部
43 ガス入口
44 ガス出口
50 水素ガス透過膜
61 押さえ面
62 背面部材
63,63B 弾性部材
63A 孔(流路)
64 メタルガスケット
70 回収部
80 グリース
100 水素ガス製造システム
G0 アンモニアガス
G1 混合ガス
G2 水素ガス
R1 流路
R2 微細流路