(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022168952
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】複数のPC鋼材の緊張定着装置および複数のPC鋼材の緊張定着方法
(51)【国際特許分類】
E04C 5/12 20060101AFI20221101BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
E04C5/12
E04G21/12 104C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074672
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】特許業務法人安田岡本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 諭司
(72)【発明者】
【氏名】神宮 剛史
(72)【発明者】
【氏名】松尾 淳
(72)【発明者】
【氏名】細居 清剛
(72)【発明者】
【氏名】武市 知大
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
【テーマコード(参考)】
2E164
【Fターム(参考)】
2E164DA01
2E164DA24
(57)【要約】
【課題】複数のPC鋼材を緊張させる場合において、PC鋼材間の緊張差を低減させる。
【解決手段】緊張定着装置1000は、緊張用ピストン1610と圧入用ロックオフピストン1620とを備えたジャッキ1600と、緊張用ピストン1610からの力を受けて複数の緊張用定着具1100に共通して作用する反力プレート1310と、反力プレート1310に設けられた複数の緊張用定着具1100と、構造物100の端面に当接する定着プレート1300と、定着プレート1300に設けられた複数の固定用定着具1200と、圧入用ロックオフピストン1620からの力を受けて複数のウェッジ1210に共通して作用する圧入プレート1500と、定着プレート1300の開放端側の端面およびジャッキ1600のノーズ1630に当接する緊張定着用チェア1400とで構成される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に圧縮力を付与する複数のPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着する複数のPC鋼材の緊張定着装置であって、
前記緊張用定着具および前記固定用定着具において、前記複数のPC鋼材のそれぞれをその内周で噛み込んで保持する複数のウェッジが、各前記PC鋼材が貫通する複数のスリーブの内周のテーパー面に前記ウェッジの外周のテーパー面が当接して各々固定され、
前記PC鋼材の開放端側に設けられた、緊張用ピストンと圧入用ロックオフピストンとを備えたジャッキと、
前記ジャッキの前記開放端側に、前記PC鋼材を引き伸ばす方向に作動する緊張用ピストンからの力を受けるように設けられた、複数の緊張用定着具に共通して作用する反力プレートと、
前記反力プレートの前記開放端側に設けられ、各前記PC鋼材を固定する複数の緊張用定着具と、
前記構造物の前記開放端側の端面に当接する定着プレートと、
前記定着プレートの前記開放端側の端面に当接するようにスリーブが固設され、各前記PC鋼材を固定する、前記PC鋼材と同数の複数の固定用定着具と、
前記固定用定着具のウェッジの前記開放端側の端面をスリーブ側へ押す方向に作動する圧入用ロックオフピストンからの力を受けるように設けられ、前記固定用定着具の複数のウェッジの前記開放端側の端面を押す、前記複数のウェッジに共通して作用する圧入プレートと、
前記定着プレートの前記開放端側の端面および前記ジャッキのノーズに当接するともに、前記圧入用ロックオフピストンが貫通する貫通孔を備えた緊張定着用チェアと、を含むことを特徴とする、複数のPC鋼材の緊張定着装置。
【請求項2】
前記緊張定着用チェアにおける前記PC鋼材の長手方向の長さが、前記長手方向における前記固定用定着具の長さと前記圧入プレートの長さとの和よりも少なくとも長い、請求項1に記載の緊張定着装置。
【請求項3】
前記緊張定着装置は、前記緊張用ピストンにより前記PC鋼材を引き伸ばしている緊張時において、前記固定用定着具のウェッジが前記固定用定着具のスリーブから抜け落ちることを防止する落下防止機構をさらに含む、請求項1または請求項2に記載の緊張定着装置。
【請求項4】
前記圧入プレートは、前記PC鋼材の長手方向に移動自在に前記固定用定着具に連結され、前記PC鋼材を挿通する穴および前記固定用定着具に連結する連結部材を挿通する穴とを備えた略平板状の部分を備え、
前記落下防止機構は、前記緊張時において、前記圧入プレートが前記ウェッジの前記開放端側の端面に当接することにより、前記スリーブから抜け落ちることを防止する、請求項3に記載の緊張定着装置。
【請求項5】
前記緊張定着装置は、前記圧入プレートと前記固定用定着具との間に、前記PC鋼材の長手方向に移動自在に前記固定用定着具に連結され、前記PC鋼材を挿通する穴および前記固定用定着具に連結する連結部材を挿通する穴とを備えた略平板状のウェッジ押さえ部材をさらに含み、
前記落下防止機構は、前記緊張時において、前記圧入プレートとは別の前記ウェッジ押さえ部材が前記ウェッジの前記開放端側の端面に当接することにより、前記スリーブから抜け落ちることを防止する、請求項3に記載の緊張定着装置。
【請求項6】
構造物に圧縮力を付与する複数のPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着する複数のPC鋼材の緊張定着方法であって、
前記緊張用定着具および前記固定用定着具において、前記複数のPC鋼材のそれぞれをその内周で噛み込んで保持する複数のウェッジが、各前記PC鋼材が貫通する複数のスリーブの内周のテーパー面に前記ウェッジの外周のテーパー面が当接して各々固定され、
前記構造物の前記PC鋼材の開放端側の端面に定着プレートを当接するように設けるステップと、
前記定着プレートの前記開放端側の端面にスリーブが当接するように、各前記PC鋼材を固定する複数の固定用定着具を前記定着プレートに設けるステップと、
前記PC鋼材の開放端側に、緊張用ピストンと圧入用ロックオフピストンとを備えたジャッキを設けるステップと、
前記固定用定着具のウェッジの前記開放端側の端面を押す方向に作動する圧入用ロックオフピストンからの力を受けて、前記複数のウェッジの前記開放端側の端面を押す、前記複数のウェッジに共通して作用する圧入プレートを設けるステップと、
前記定着プレートの前記開放端側の端面および前記ジャッキのノーズに当接するように、前記圧入用ロックオフピストンが貫通する貫通孔を備えた緊張定着用チェアを設けるステップと、
前記ジャッキの前記開放端側に、前記PC鋼材を引き伸ばす方向に作動する緊張用ピストンからの力を受けるとともに、複数の緊張用定着具に共通して作用する反力プレートを設けるステップと、
前記反力プレートの前記開放端側に、各前記PC鋼材を固定する複数の緊張用定着具を設けるステップと、
各前記ステップの後に、前記ジャッキの緊張用ピストンを作動させて、前記反力プレートおよび前記緊張用定着具を用いて、所定の荷重を載荷して前記複数のPC鋼材を緊張するステップと、
前記所定の荷重を載荷した状態で、前記圧入用ロックオフピストンを作動させて、前記圧入プレートを用いて、前記複数の固定用定着具のウェッジの前記開放端側の端面を押して、前記固定用定着具のスリーブにウェッジを圧入するステップと、
前記固定用定着具のスリーブにウェッジを圧入した後に、前記所定の荷重を開放して、前記定着プレートおよび前記固定用定着具以外を取り外して、必要な余長を残して前記PC鋼材を切断するステップと、を含むことを特徴とする、複数のPC鋼材の緊張定着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築分野におけるコンクリートに代表される構造物またはコンクリート以外の建築部材(たとえば木材)等の構造物にPC鋼材を配置してそのPC鋼材を緊張することにより、それらの構造物に圧縮力(プレストレス)をポストテンション方式で付与するPC鋼材の緊張定着装置およびPC鋼材の緊張定着方法に関し、特に、複数のPC鋼材を片引きまたは両引きしてPC鋼材を緊張させる場合において、PC鋼材間の緊張差を低減させて、圧縮力を構造物に可能な限り均等に付与することのできる技術に関する。
【0002】
なお、本発明において、PC鋼材(PC用鋼材と記載する場合がある)には、PC鋼線、PC鋼棒およびPC鋼より線(PC鋼撚線)ならびに外表面が(エポキシ等の)樹脂で被覆(コーティング)されたPC鋼材を含み、それらの異形タイプも含む。また、以下において、PC鋼線をその摩擦力により挟持(定着)する定着具(定着体、グリップ)は、オス側のくさび(楔体、楔、クサビ、ウェッジ、オスコーン等と記載する場合がある)と、メス側のスリーブ(メスコーン等と記載する場合がある)とが組み合わせられて緊張状態のPC鋼材を定着する。また、ウェッジは、PC鋼材の軸方向に垂直な面からみて複数のウェッジ片に分割(2分割(半割)、3分割さらにそれ以上)されているものがあり、以下の説明において、複数のウェッジと記載した場合には、2個(2分割)または3個(3分割)のウェッジ片が組み合わせられたウェッジが複数あることを意味する。そのため、4個のウェッジであれば、2分割(半割)であれば8個のウェッジ片があって、ウェッジ片が2個ずつ組み合わせられて1個のウェッジとして機能させているウェッジが4個ある。
【背景技術】
【0003】
PC鋼材の定着部(定着体、定着具、グリップ)は、PC鋼材を定着用ウェッジにより把持して、緊張されたPC鋼材の緊張力を構造物(代表的にはコンクリート)に伝達するための構成である。定着用ウェッジは、ウェッジ受け部材の孔に押し込まれることにより、PC鋼材を把持する。また、1の構造物に対して複数のPC鋼材を用いる緊張定着装置も公知である。
【0004】
このような1の構造物に対して複数のPC鋼材を用いた緊張定着装置を含めてジャッキを用いたウェッジの押し込みでは、PC鋼材を緊張させたときの緊張荷重よりも大きな力でウェッジをウェッジ受け部材(孔)に押し込むことができないという問題点に鑑みて、1の構造物に対して複数のPC鋼材を用いる緊張定着処理において、特開2011-252323号公報(特許文献1)は、簡素な構成でPC鋼材に与えられる緊張荷重よりも大きな力でウェッジを押し込むことができる緊張定着装置を開示する。この特許文献1に開示されたウェッジの押し込み装置は、複数のPC鋼材のそれぞれを把持するウェッジを、前記各PC鋼材が貫通するウェッジ受け部材の孔に押し込むためのウェッジの押し込み装置であって、前記複数のPC鋼材に対して緊張力を与えるとともに、前記ウェッジを前記孔に押し込む力を発生させる緊張ジャッキを有し、前記緊張ジャッキは、前記複数のPC鋼材のそれぞれを第1緊張力で緊張させた状態で、前記ウェッジを前記孔に押し込むとともに、前記複数のPC鋼材のうち、第1PC鋼材に対して、前記第1緊張力よりも小さい第2緊張力を与えたときの反力を用いて、前記第1PC鋼材とは異なる第2PC鋼材に対応する前記ウェッジを前記孔に再度、押し込む(請求項5)。
【0005】
この特許文献1に開示されたウェッジの押し込み装置によると、第1PC鋼材に与えた第2緊張力の反力を用いて、第1PC鋼材とは異なる第2PC鋼材に対応したウェッジを押し込む力を発生させることができる。これにより、ウェッジを押し込むための専用の部材を用いる必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたウェッジの押し込み技術においては、1の構造物に対して複数のPC鋼材を用いて緊張定着処理する場合において、複数のPC鋼材に対して緊張力を与えるとともにウェッジを孔に押し込む力を発生させる(緊張と圧入とを兼用する)緊張ジャッキが使用され、緊張用ピストンに加えてウェッジ圧入用のロックオフピストンとを備えたセンターホール型のPC鋼材の緊張定着処理に好適、かつ、通常用いられるジャッキを使用するものではない。さらに、第1PC鋼材と、第1PC鋼材とは別の第2PC鋼材とは、別々に緊張されるとともに、別々にウェッジが押し込まれる。ウェッジが押し込まれる力は、緊張ジャッキが他のPC鋼材を緊張している時の反力により発生させている。そのため、以下の課題が存在する。
【0008】
[課題1]
特許文献1においては、1の構造物に対して配置された複数のPC鋼材に対して複数の定着体を用いているものの、同時に緊張しているものでもなく、かつ、同時にウェッジを圧入しているものでもないために、複数のPC鋼材に対して緊張力を均一に導入することが困難である。
[課題2]
特許文献1においては、1の構造物に対して配置された複数のPC鋼材に対して複数の定着体を用いているものの、ウェッジが押し込まれる力は、緊張ジャッキが他のPC鋼材を緊張している時の反力により発生させている(すなわち、緊張対象のPC鋼材とウェッジ押し込み対象のPC鋼材との組合せが順次変わっていく)。このため、ウェッジを均一に圧入することが到底できないために、定着時のPC鋼材間でウェッジの入り込み量に差が生じて、緊張力を均一に導入することが困難である。
[課題3]
課題2と同じく、特許文献1においては、ウェッジを均一に圧入することが到底できないために、定着時にPC鋼材に定着する各ウェッジ間で段差が生じてスリップを引き起こす可能性がある。
【0009】
[課題4]
課題1に関連して、特許文献1においては、同時に緊張しているものでもなく、かつ、同時にウェッジを圧入しているものでもないことに加えて、緊張対象のPC鋼材とウェッジ押し込み対象のPC鋼材との組合せが順次変わっていく。第2PC鋼材の緊張されているときの反力で既に緊張済みの第1PC鋼材のウェッジが押し込まれ、第3PC鋼材の緊張されているときの反力で第2PC鋼材のウェッジが押し込まれ、という処理が順次繰り返される。PC鋼材を緊張させる緊張力はPC鋼材間で微小な差が発生することは明らかであり、このことは反力を用いたウェッジの押し込み力にも微小な差が発生することは明らかであることを意味する。このように、PC鋼材を緊張する緊張力およびその反力を用いて別のPC鋼材のウェッジを押し込む(圧入する)力に微小な差が発生することは避けることができず、構造物に均一に緊張力を導入することがやや難しい場合が発生し得る。
【0010】
[課題5]
また、1の構造物に対して1(シングル)のPC鋼材を用いる緊張定着方法であっても1の構造物に対して複数(マルチ)のPC鋼材を用いる緊張定着方法であっても(マルチのときにはウェッジ数が多いために問題がより大きい)、ウェッジの圧入作業の前に実施されるPC鋼材の緊張時を含めて、ウェッジがウェッジ受け部材(孔)から脱落する可能性がある。このような事態に陥ると、ウェッジ受け部材(孔)にウェッジを圧入する作業が実施できなくなる。
【0011】
本発明は、従来技術の上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、構造物に圧縮力を付与する複数のPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着する複数のPC鋼材の緊張定着する場合において、複数のPC鋼材間の緊張差を低減させて、圧縮力を構造物に可能な限り均等に付与することのできる複数のPC鋼材の緊張定着装置および複数のPC鋼材の緊張定着方法を提供することである。
【0012】
さらに、本発明の目的とするところは、構造物に圧縮力を付与する複数のPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着する複数のPC鋼材の緊張定着する場合において、ウェッジの圧入作業の前に実施されるPC鋼材の緊張時を含めて、ウェッジがウェッジ受け部材(孔)から脱落する可能性を低減させることのできる複数のPC鋼材の緊張定着装置および複数のPC鋼材の緊張定着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る複数のPC鋼材の緊張定着装置および複数のPC鋼材の緊張定着方法は、以下の技術的手段を備える。
すなわち、本発明のある局面に係る複数のPC鋼材の緊張定着装置は、構造物に圧縮力を付与する複数のPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着する複数のPC鋼材の緊張定着装置であって、前記緊張用定着具および前記固定用定着具において、前記複数のPC鋼材のそれぞれをその内周で噛み込んで保持する複数のウェッジが、各前記PC鋼材が貫通する複数のスリーブの内周のテーパー面に前記ウェッジの外周のテーパー面が当接して各々固定され、前記PC鋼材の開放端側に設けられた、緊張用ピストンと圧入用ロックオフピストンとを備えたジャッキと、前記ジャッキの前記開放端側に、前記PC鋼材を引き伸ばす方向に作動する緊張用ピストンからの力を受けるように設けられた、複数の緊張用定着具に共通して作用する反力プレートと、前記反力プレートの前記開放端側に設けられ、各前記PC鋼材を固定する複数の緊張用定着具と、前記構造物の前記開放端側の端面に当接する定着プレートと、前記定着プレートの前記開放端側の端面に当接するようにスリーブが固設され、各前記PC鋼材を固定する、前記PC鋼材と同数の複数の固定用定着具と、前記固定用定着具のウェッジの前記開放端側の端面をスリーブ側へ押す方向に作動する圧入用ロックオフピストンからの力を受けるように設けられ、前記固定用定着具の複数のウェッジの前記開放端側の端面を押す、前記複数のウェッジに共通して作用する圧入プレートと、前記定着プレートの前記開放端側の端面および前記ジャッキのノーズに当接するともに、前記圧入用ロックオフピストンが貫通する貫通孔を備えた緊張定着用チェアと、を含む。
【0014】
好ましくは、前記緊張定着用チェアにおける前記PC鋼材の長手方向の長さが、前記長手方向における前記固定用定着具の長さと前記圧入プレートの長さとの和よりも少なくとも長いように構成することができる。より具体的には、前記PC鋼材の長手方向の長さについて、前記緊張定着用チェアにおける脚長さが、前記固定用定着具の長さ(緊張前にウェッジの拡台側が出ている長さを含む)と前記圧入プレートの長さ(圧入用ロックオフピストンが押圧する平面の厚み)との和よりも少なくとも長いように構成することができる。
【0015】
さらに好ましくは、前記緊張定着装置は、前記緊張用ピストンにより前記PC鋼材を引き伸ばしている緊張時において、前記固定用定着具のウェッジが前記固定用定着具のスリーブから抜け落ちることを防止する落下防止機構をさらに含むように構成することができる。
さらに好ましくは、前記圧入プレートは、前記PC鋼材の長手方向に移動自在に前記固定用定着具に連結され、前記PC鋼材を挿通する穴および前記固定用定着具に連結する連結部材を挿通する穴とを備えた略平板状の部分を備え、前記落下防止機構は、前記緊張時において、前記圧入プレートが前記ウェッジの前記開放端側の端面に当接することにより、前記スリーブから抜け落ちることを防止するように構成することができる。
【0016】
さらに好ましくは、前記緊張定着装置は、前記圧入プレートと前記固定用定着具との間に、前記PC鋼材の長手方向に移動自在に前記固定用定着具に連結され、前記PC鋼材を挿通する穴および前記固定用定着具に連結する連結部材を挿通する穴とを備えた略平板状のウェッジ押さえ部材をさらに含み、前記落下防止機構は、前記緊張時において、前記圧入プレートとは別の前記ウェッジ押さえ部材が前記ウェッジの前記開放端側の端面に当接することにより、前記スリーブから抜け落ちることを防止するように構成することができる。
【0017】
また、本発明の別の局面に係る複数のPC鋼材の緊張定着方法は、構造物に圧縮力を付与する複数のPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着する複数のPC鋼材の緊張定着方法であって、前記緊張用定着具および前記固定用定着具において、前記複数のPC鋼材のそれぞれをその内周で噛み込んで保持する複数のウェッジが、各前記PC鋼材が貫通する複数のスリーブの内周のテーパー面に前記ウェッジの外周のテーパー面が当接して各々固定され、前記構造物の前記PC鋼材の開放端側の端面に定着プレートを当接するように設けるステップと、前記定着プレートの前記開放端側の端面にスリーブが当接するように、各前記PC鋼材を固定する複数の固定用定着具を前記定着プレートに設けるステップと、前記PC鋼材の開放端側に、緊張用ピストンと圧入用ロックオフピストンとを備えたジャッキを設けるステップと、前記固定用定着具のウェッジの前記開放端側の端面を押す方向に作動する圧入用ロックオフピストンからの力を受けて、前記複数のウェッジの前記開放端側の端面を押す、前記複数のウェッジに共通して作用する圧入プレートを設けるステップと、前記定着プレートの前記開放端側の端面および前記ジャッキのノーズに当接するように、前記圧入用ロックオフピストンが貫通する貫通孔を備えた緊張定着用チェアを設けるステップと、前記ジャッキの前記開放端側に、前記PC鋼材を引き伸ばす方向に作動する緊張用ピストンからの力を受けるとともに、複数の緊張用定着具に共通して作用する反力プレートを設けるステップと、前記反力プレートの前記開放端側に、各前記PC鋼材を固定する複数の緊張用定着具を設けるステップと、各前記ステップの後に、前記ジャッキの緊張用ピストンを作動させて、前記反力プレートおよび前記緊張用定着具を用いて、所定の荷重を載荷して前記複数のPC鋼材を緊張するステップと、前記所定の荷重を載荷した状態で、前記圧入用ロックオフピストンを作動させて、前記圧入プレートを用いて、前記複数の固定用定着具のウェッジの前記開放端側の端面を押して、前記固定用定着具のスリーブにウェッジを圧入するステップと、前記固定用定着具のスリーブにウェッジを圧入した後に、前記所定の荷重を開放して、前記定着プレートおよび前記固定用定着具以外を取り外して、必要な余長を残して前記PC鋼材を切断するステップと、を含むことを特徴とする、複数のPC鋼材の緊張定着を切断するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る複数のPC鋼材の緊張定着装置および複数のPC鋼材の緊張定着方法によると、構造物に圧縮力を付与する複数のPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着する複数のPC鋼材の緊張定着する場合において、複数のPC鋼材間の緊張差を低減させて、圧縮力を構造物に可能な限り均等に付与することができる。
【0019】
また、本発明に係る複数のPC鋼材の緊張定着装置および複数のPC鋼材の緊張定着方法によると、構造物に圧縮力を付与する複数のPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着する複数のPC鋼材の緊張定着する場合において、ウェッジの圧入作業の前に実施されるPC鋼材の緊張時を含めて、ウェッジがウェッジ受け部材(孔)から脱落する可能性を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態(第1の実施の形態および第2の実施の形態に共通)に係る複数のPC鋼材の緊張定着装置(以下において単に緊張定着装置を記載する場合がある)が適用されて圧縮力(プレストレス)が付与された構造物(コンクリート部材、木材)におけるPC鋼材の軸方向に垂直な面におけるPC鋼材の配置を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態(第1の実施の形態および第2の実施の形態に共通)に係る緊張定着装置を構成する緊張定着用チェア1400の三面図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係る緊張定着装置を構成する圧入プレート1500の(A)三面図および(B)
図3(A)の矢示3Bにおける断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態(第1の実施の形態および第2の実施の形態に共通)に係る緊張定着装置が設置(セットと記載する場合がある)される前の側面図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態に係る緊張定着装置1000をPC鋼材200に配置した(A)側面図であって、(B)
図5(A)の領域5Bの拡大図である。
【
図6】(A)
図5の矢示6Aから見た図であって、(B)
図5の矢示6Bから見た図である。
【
図7】
図5に示す緊張定着装置1000を用いた緊張定着方法におけるPC鋼材を緊張するステップを説明するための側面図である。
【
図8】
図5に示す緊張定着装置1000を用いた緊張定着方法におけるウェッジを圧入するステップを説明するための側面図である。
【
図9】
図8に示すウェッジを圧入するステップにおける(A)圧入前、(B)圧入中を説明するための図である。
【
図10】本発明の第2の実施の形態に係る緊張定着装置2000を構成する圧入プレート2500の(A)三面図および(B)
図10(A)の矢示10Bにおける断面図である。
【
図11】本発明の第2の実施の形態に係る緊張定着装置2000を構成するの二面図である。
【
図12】本発明の第2の実施の形態に係る緊張定着装置2000をPC鋼材200に配置した(A)側面図であって、(B)
図12(A)の領域12Bの拡大図であって、(C)
図12(B)の領域12Cの拡大図である。
【
図13】(A)
図12の矢示13Aから見た図であって、(B)
図12の矢示13Bから見た図であって、(C)
図12の矢示13Cから見た図である。
【
図14】
図12に示す緊張定着装置2000を用いた緊張定着方法におけるPC鋼材を緊張するステップを説明するための側面図である。
【
図15】
図12に示す緊張定着装置2000を用いた緊張定着方法におけるウェッジを圧入するステップを説明するための側面図である。
【
図16】
図15に示すウェッジを圧入するステップにおける(A)圧入前、(B)圧入中を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下において、本発明の実施の形態に係る、構造物に圧縮力を付与する複数のPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着する複数のPC鋼材の緊張定着装置(上述したように単に緊張定着装置と記載する場合がある)、および、その複数のPC鋼材の緊張定着装置を用いた緊張定着方法(単に緊張定着方法と記載する場合がある)について詳しく説明する。
【0022】
ここで、以下の説明において参照する図については、本発明の容易な理解のために、内部ではなく外形で表現すべき部分であっても内部を透視するように表現している場合があったり、外形ではなく断面で表現すべき部分を外形で表現している場合があったり、断面ではなく外形で表現すべき部分を断面で表現している場合があったり、断面であってもハッチングを付していない場合があったり、断面でないのにハッチングを付している場合があったり、詳細な構造を省略した場合があったり、詳細な構造を省略または変更したために同じ部材であっても図面間で一致しない場合があったりする。また、外形線が(一方は隠れ線で記載しなければならないのに)重なっている場合があったり、破断線が記載されていない場合があったりする。
【0023】
・第1の実施の形態
本発明の第1の実施の形態に係る複数のPC鋼材の緊張定着装置1000について、
図1~
図9を参照して、特徴的な構造を詳しく説明した後、この技術的な構造を備えた緊張定着装置1000を用いた複数のPC鋼材の緊張定着方法について詳しく説明する。ここで、PC鋼材の軸方向の開放端側を、単に開放端側と記載する場合がある。
【0024】
なお、
図1、
図2および
図4は、第1の実施の形態と第2の実施の形態とで共通する。また、第1の実施の形態に係る緊張定着装置1000と第2の実施の形態に係る緊張定着装置2000とでは、圧入プレート(第1の実施の形態における圧入プレート1500およびそれを固定用定着具1200のスリーブ1220に連結する連結ボルト1550、第
2の実施の形態における圧入プレート2500それを固定用定着具1200のスリーブ1220に連結する連結ボルト2550)の構造が細部で異なるとともに、緊張定着装置1000が備えないウェッジ押さえ部材2800を緊張定着装置2000が備えることが異なる。それ以外の構造であって第1の実施の形態と第2の実施の形態とで同じ構造については同じ符号を付している。それらについての第2の実施の形態における説明は、第1の実施の形態における説明と重複するために、第2の実施の形態において繰り返して説明しない。さらに、第1の実施の形態に係る緊張定着装置1000を用いた緊張定着方法と第2の実施の形態に係る緊張定着装置2000を用いた緊張定着方法とで共通する説明も、第1の実施の形態における説明と重複するために、第2の実施の形態において繰り返して説明しない。
【0025】
<緊張定着装置:構造>
図1~
図6に示すように、この緊張定着装置1000においては、緊張用定着具1100および固定用定着具1200において、複数のPC鋼材200のそれぞれをその内周で噛み込んで保持する複数のウェッジ1110およびウェッジ1210が、各PC鋼材200が貫通する複数のスリーブ1120およびスリーブ1220の内周のテーパー面にウェッジ1110およびウェッジ1210の外周のテーパー面が当接して各々固定される。具体的には、
図5(A)において固定用定着具1200に示すように、内周でPC鋼材200を噛み込んで保持するウェッジ1210の外周1212(ウェッジ外周はテーパー面を形成)がスリーブ1220の内周1222が(スリーブ内周はテーパー面を形成)当接して固定される。
【0026】
この緊張定着装置1000は、PC鋼材200の開放端側に設けられた、緊張用ピストン1610と圧入用ロックオフピストン1620とを備えたジャッキと1600と、ジャッキ1600の開放端側に、PC鋼材200を引き伸ばす方向に作動する緊張用ピストン1610からの力を受けるように設けられた、複数の緊張用定着具1100に共通して作用する反力プレート1310と、反力プレート1310の開放端側に設けられ、各PC鋼材200を固定する複数の緊張用定着具1100と、構造物100の開放端側の端面に当接する定着プレート1300と、定着プレート1300の開放端側の端面に当接するようにスリーブ1220が固設され、各PC鋼材200を固定する、PC鋼材200と同数の複数の固定用定着具1200と、固定用定着具1200のウェッジ1210の開放端側の端面をスリーブ1220側へ押す方向に作動する圧入用ロックオフピストン1620からの力を受けるように設けられ、固定用定着具1200の複数のウェッジ1210の開放端側の端面を押す、複数のウェッジ1210に共通して作用する圧入プレート1500と、定着プレート1300の開放端側の端面およびジャッキ1600のノーズ1630に当接するともに、圧入用ロックオフピストン1620が貫通する貫通孔1430を備えた緊張定着用チェア1400とで構成される。
【0027】
好ましくは、
図9に示すように、この緊張定着装置1000においては、緊張定着用チェア1400におけるPC鋼材200の長手方向の長さL(1)が、長手方向における固定用定着具1200の長さL(2)と圧入プレート1500の長さL(3)との和よりも少なくとも長い。より具体的には、PC鋼材200の長手方向の長さについて、緊張定着用チェア1400における脚部1410の長さL(1)が、固定用定着具1200の長さL(2)(緊張前にウェッジ1210の拡台側が出ている長さを含む)と圧入プレート1500の長さ(圧入用ロックオフピストン1620が押圧する平面部1510の厚み)L(3)との和よりも少なくとも長いように構成することができる。
【0028】
さらに好ましくは、この緊張定着装置1000は、緊張用ピストン1610によりPC鋼材200を引き伸ばしている緊張時において、固定用定着具1200のウェッジ1210が固定用定着具1200のスリーブ1220から抜け落ちることを防止する落下防止機構をさらに含む。
ここで、圧入プレート1500が落下防止機構として機能することも好ましい。圧入プレート1500は、PC鋼材200の長手方向に移動自在に固定用定着具1200に連結され、PC鋼材200を挿通する穴部1530および固定用定着具1200に連結する連
結部材(ここでは連結ボルト1550)を挿通する小穴部1540とを備えた略平板状の部分(平面部1510)を備え、上述した落下防止機構は、緊張時において、この圧入プレート1500がウェッジ1210の開放端側の端面に当接することにより、スリーブ1220から抜け落ちることを防止する。ここで、挿通または挿通状態とは、部材に設けられた穴部の径がその穴部に挿入される棒状部材等の径よりも大きく、棒状部材等が穴部を自由に通過できるような関係である。
【0029】
以下において、本実施の形態に係る緊張定着装置1000の構造について、さらに詳しく説明する。
緊張定着装置1000の構造についてのさらなる説明の前に、この緊張定着装置1000が適用されて圧縮力(プレストレス)が付与された構造物100(コンクリート部材、木材等)のPC鋼材200の軸方向に垂直な面におけるPC鋼材200の配置を示す
図1を参照して、構造物100におけるPC鋼材200の配置の一例について説明する。ここでは、構造物およびその端面に設けられる定着プレートのPC鋼材200の軸方向に垂直から見た形状が、略正方形の
図1(A)および
図1(B)と、略矩形(略長方形)の
図1(C)および
図1(D)について、説明する。なお、いずれの図においても固定用定着具1200のウェッジ1210は図示しているが(後述する)そのスリーブ1220は図示していない。
【0030】
図1(A)に示すように、端面形状が略正方形の構造物100に略正方形の定着プレート1300が設けられ、この定着プレート1300の中心1302を中心とした円周上に90度間隔で4本のPC鋼材200がウェッジ1210(およびこの図では図示しないスリーブ1220)により固定されている。また、
図1(B)に示すPC鋼材200の配置は、
図1(A)に示す配置と同じく90度間隔であるが、その位置が異なる。
【0031】
さらに、
図1(C)に示すように、端面形状が略矩形の構造物102に略矩形の定着プレート1301が設けられ、この定着プレート1301に対して対称(線対称および点対称:対象の軸および対称の中心を図示)になるように4本のPC鋼材200がウェッジ1210(およびこの図では図示しないスリーブ1220)により固定されている。また、
図1(D)に示すPC鋼材200の配置は、
図1(C)に示す配置と同じく対称(線対称および点対称)であるが、各位置において2本ずつ合計8本のPC鋼材200がウェッジ1210(および図示しないスリーブ)により固定されている。ここで、
図1(D)に示すウェッジ1210およびこのウェッジ1210に対応するスリーブは、
図1(A)~
図1(C)に示すウェッジ1210およびこのウェッジ1210に対応するスリーブと同じ形状を備え、
図1(D)に示すように、(ウェッジとスリーブとで1組として)2組ずつ並設(合計8組)されている。
【0032】
複数のPC鋼材の緊張定着装置という場合における複数とは、
図1(A)~
図1(C)に示す場合が4本で、
図1(D)に示す場合が8本である。以下における本実施の形態の説明においては、PC鋼材は4本でかつ
図1(A)に示すようにPC鋼材200が配置されているものとする。
ここで、これらの
図1(A)~
図1(D)に示した図は全て一例に過ぎず、本発明がこれらの
図1(A)~
図1(D)に限定されるものではない。
【0033】
図2を参照して、緊張定着用チェア1400について詳しく説明する。この緊張定着用チェア1400は、反力架台、反力チェア、チェアとも呼ばれるものであって、本実施の形態においては、概略的には、略正方形の平面を備えた平板状の平面部1420と、その平面部1420の四隅に脚部1410(この脚部1410のPC鋼材200の軸方向の長さをL(1)とする)を設けた、椅子(チェア)のような形状を備える。さらに詳細には、平面部1420の中央にはジャッキ1600のノーズ1630に当接する当接凹部1440および圧入用ロックオフピストン1620が貫通する貫通孔1430を備える。
【0034】
このような構造を備えるために、この緊張定着装置1000が緊張定着方法を実行するために設置されたときに、緊張定着用チェア1400の脚部1410の端面(平面部1420に連結されていない側の面)が定着プレート1300の開放端側の端面に当接するとともに、ジャッキ1600のノーズ1630が平面部1420の当接凹部1440に当接
するために、定着プレート1300とジャッキ1600との間に設けられて、ジャッキ1600の緊張用ピストン1610を作動させたときに反力架台として機能する。
【0035】
次に、
図3を参照して、圧入プレート1500について詳しく説明する。この圧入プレート1500は、概略的には、略正方形の平面を備えた平板状の平面部1510と、その平面部1510に2本設けられた補強用のリブ1520とを備え、平面部1510における緊張定着用チェア1400の4本の脚部1410が挿通される角穴1514が設けられている。ただし、この角穴1514は、圧入プレート1500が平板状の平面部1510を備える場合に圧入用ロックオフピストン1620から力を受けると固定用定着具1200の方向に圧入プレート1500が移動することができるために必要になるものであって、圧入プレート1500自体が緊張定着用チェア1400に干渉しないような形状(たとえば、平面部1510がその中央部に平面部を備えずその上下部分であって穴部1530および小穴部1540が設けられる上下部分のみで構成されリブ1520がその上下部分を連結している形状)をそもそも備える場合にはこのような角穴1514は必ずしも必要ではなく、緊張定着用チェア1400に干渉することなく圧入用ロックオフピストン1620から力を受けると固定用定着具1200の方向に圧入プレート1500が移動することができるような圧入プレート1500であれば(このような角穴1514を備えるものに)限定されるものではない。
【0036】
なお、この圧入プレート1500の厚みは、圧入用ロックオフピストン1620からの押圧を受けて、4個の固定用定着具1200のウェッジ1210をスリーブ1220に略等しい圧入量になるように圧入することができる程度以上の強度を備えれば特に限定されるものではないが、ここでは角穴1514を備える点で強度的に弱く、リブ1520で補強することに加えて適宜な厚みが設定される。
【0037】
さらに詳しくは、平面部1510の四隅のそれぞれには、PC鋼材200が挿通される穴部1530、および、その穴部1530よりも中央側(圧入用ロックオフピストン1620側)に上下2個で一対の、固定用定着具1200のスリーブ1220に設けられた雌ねじに螺合する連結ボルト1550の小穴部1540が設けられている。ここで、連結ボルト1550の頭部の径>小穴部1540の直径>連結ボルト1550のねじ部の直径であって、連結ボルト1550の頭部は穴部1530を通過できないが連結ボルト1550のねじ部は穴部1530を通過できる(挿通状態である)。また、この平面部1510の中央に、ジャッキ1600の圧入用ロックオフピストンが当接してこの圧入プレート1500を押圧する。このときの圧入用ロックオフピストン1620が当接する平面部1510の領域1512で示す。
【0038】
ここで、PC鋼材の緊張定着作業に用いられるジャッキとしては、通常のセンターホールジャッキに圧入用ロックアップピストンを備えたものが用いられ、本実施に形態においても、ジャッキ1600はセンターホール型であって、緊張用ピストン1610に加えて圧入用ロックオフピストン1620を備え、センターホール型であるために圧入用ロックオフピストン1620は中空円筒形状を備える。通常の緊張定着方法においては1台のジャッキで1本のPC鋼材を緊張定着するために、圧入用ロックオフピストン1620の中空円筒にPC鋼材が挿通されている。しかしながら、本実施の形態に係る緊張定着装置1000においては、同じロックオフピストン付きのセンターホール型のジャッキ1600を使うものの、ジャッキのセンターホールにも圧入用ロックオフピストン1620の中空円筒にもPC鋼材200が挿通されない。
【0039】
このような構造を備えるために、この緊張定着装置1000が緊張定着方法を実行するためにPC鋼材200に設置され、ジャッキ1600の圧入用ロックオフピストン1620を作動させたときに、圧入プレート1500は、圧入用ロックオフピストン1620からの力を平面部1510の領域1512で受けて、圧入プレート1500が、固定用定着具1200のウェッジ1210の開放端側の端面をスリーブ1220側へ押す方向に移動する。ここで、連結ボルト1550の頭部の径>小穴部1540の直径>連結ボルト1550のねじ部の直径であるために、圧入プレート1500が固定用定着具1200側へ移動するときに、連結ボルト1550は穴部1530を通過できないが連結ボルト1550のねじ部は穴部を通過できる(挿通状態である)。また、圧入プレート1500の平面部1510には、緊張定着用チェア1400の脚部1410が挿通する角穴1514を備える。
【0040】
これらにより、穴部1530に挿通されたPC鋼材200、角穴1514に挿通された緊張定着用チェア1400の脚部1410および小穴部1540に挿通された連結ボルト1550が、圧入用ロックオフピストン1620からの力を受けた圧入プレート1500のPC鋼材200の軸方向の移動を妨げることなく、圧入プレート1500が固定用定着具1200の方向へ移動できて、ウェッジ1210の開放端側の端面をスリーブ1220側へ押すことができる。この圧入プレート1500がウェッジ1210の開放端側の端面をスリーブ1220側へ押す領域を
図3に領域1532で示すとともに、圧入プレート1500がウェッジ1210の開放端側の端面をスリーブ1220側へ押す状態を
図5(B)に黒塗り矢示で示す。
【0041】
このように、複数(ここでは4個)の固定用定着具1200の複数(ここでは4個)のウェッジ1210の開放端側の端面を押してスリーブ1220に圧入する。このとき、複数のウェッジ1210に共通して圧入プレート1500が作用するために、上述した[課題1]~[課題4]を解決することができる。
ここで、圧入プレート1500は、落下防止機構として機能する。上述したように圧入プレート1500は固定用定着具1200のスリーブ1220に連結ボルト1550により連結されている。連結ボルト1550の頭部の径>圧入プレート1500小穴部1540の直径>連結ボルト1550のねじ部の直径であるために、圧入プレート1500はPC鋼材200の長手方向に移動自在に、固定用定着具1200のスリーブ1220に連結されていることになる。
【0042】
圧入プレート1500の平面部1510は、ジャッキ1600の緊張用ピストン1610を作動させた緊張時を含めてこの緊張定着装置1000をPC鋼材200にセットした場合において、この圧入プレート1500が(スリーブ1220から抜け落ちようとする)ウェッジ1210の開放端側の端面に当接することにより、スリーブ1220からウェッジ1210が抜け落ちることを防止する。より具体的には、
図5(B)に示すように、PC鋼材200の軸方向の長さ関係が、固定用定着具1200のウェッジ1210の開放側端面と圧入プレート1500との間隙長Xが固定用定着具1200のウェッジ1210の長さYよりも短いために、スリーブ1220からウェッジ1210が抜け落ちることを防止する。このY>Xの関係は、PC鋼材200の軸方向に移動自在な圧入プレート1500のPC鋼材200の軸方向の位置によらず成立するように設定されている。これにより、上述した[課題5]を解決することができる。
【0043】
上述したように、本実施の形態に係る緊張定着装置1000を構成するジャッキ1600は、ロックオフピストン付きのセンターホール型のジャッキであって、その他の部材自体は基本的には公知の部材であるために、ここでの詳細な説明は繰り返さない。ただし、その公知の部材であってもその配置等については公知ではない場合があるために、それらについては以下において説明する。
【0044】
次に、本実施の形態に係る緊張定着装置1000が設置(セット)される前の側面図を示す
図4および緊張定着装置1000が設置(セット)された後の
図5および
図6を参照して、緊張定着装置1000の構造を説明する。ここで、
図5(A)は緊張定着装置1000をPC鋼材200に配置した側面図であって、
図5(B)は
図5(A)の領域5Bの拡大図であって、
図6(A)は
図5の矢示6Aから見た図であって、
図6(B)は
図5の矢示6Bから見た図である。
【0045】
まず、
図4に示すように、構造物100の両端部には1個の定着プレート1300および4個の固定用定着具1200がそれぞれ設けられ、固定側も緊張側も、固定用定着具1200のスリーブ1220においてテーパー面を備えた内筒部以外の部位に設けられたPC鋼材200の軸方向に貫通する上下2個(PC鋼材200の軸から見て外側であってPC鋼材200の軸に垂直な面において軸からより離れる方の上下2個)の穴に挿通されるとともにその定着プレート1300に設けられた雌ねじ穴に螺合する固定ボルト1250により、定着プレート1300に固定用定着具1200が固設されている。
【0046】
本実施の形態においては、いわゆる両引きではなく片引きを採用したため、
図4に示すように、本実施の形態に係る緊張定着装置1000は、固定側には設置(セット)されないで緊張側にのみ設置(セット)される。
このような
図4に示す状態において、本実施の形態に係る緊張定着装置1000が緊張側のPC鋼材200に設置されて、
図5および
図6に示す状態になる。
【0047】
図5および
図6に示すように、反力プレート1310には
図1(A)に示すように複数(ここでは4本)のPC鋼材200が配置され、それらのPC鋼材200の配置に対応させて、反力プレート1310を用いてPC鋼材200を緊張する複数(ここでは4個)の緊張用定着具1100が、緊張用定着具1100のスリーブ1120においてテーパー面を備えた内筒部以外の部位に設けられたPC鋼材200の軸方向に貫通する上下2個(PC鋼材200の軸から見て外側であってPC鋼材200の軸に垂直な面において軸からより離れる方の上下2個)の穴に挿通されるとともにその反力プレート1310に設けられた雌ねじ穴に螺合する固定ボルト1150により、反力プレート1310に緊張用定着具1100が固設されている。その配置された複数(ここでは4個)の緊張用定着具1100と(PC鋼材の軸方向の位置を変えて)同じ配置で、定着プレート1300を用いてPC鋼材200を固定する複数(ここでは4個)の固定用定着具1200が、
図4を用いて説明したように、固定用定着具1200のスリーブ1220においてテーパー面を備えた内筒部以外の部位に設けられたPC鋼材200の軸方向に貫通する上下2個(PC鋼材200の軸から見て外側であってPC鋼材200の軸に垂直な面において軸からより離れる方の上下2個)の穴に挿通されるとともにその定着プレート1300に設けられた雌ねじ穴に螺合する固定ボルト1250により、定着プレート1300に固定用定着具1200が固設されている。
【0048】
そして、ジャッキ1600の緊張用ピストン1610が作動して、複数(ここでは4本)のPC鋼材200を緊張している場合には(緊張時においては)、1つの反力プレート1310により複数(ここでは4個)の緊張用定着具1100に作用させて、複数(ここでは4本)のPC鋼材200を、緊張力が略等しくなるように(緊張力が規定範囲内であって、構造物100に付与される圧縮力に問題が発生する差がないように)緊張させる。この場合において、1つの反力プレート1310を介して複数(ここでは4個)の緊張用定着具1100から複数(ここでは4本)のPC鋼材200を引き伸ばして緊張するために、複数(ここでは4本)のPC鋼材200間の緊張差を低減させて緊張させることができる。
【0049】
この緊張時において、圧入プレート1500は、PC鋼材200の長手方向に移動自在に、固定用定着具1200のスリーブ1220に連結されており、この緊張時においてPC鋼材200が引き伸ばされることにより固定用定着具1200のスリーブ1220から抜け落ちようとするウェッジ1210の開放端側の端面に、圧入プレート1500が当接することにより、スリーブ1220からウェッジ1210が抜け落ちることを防止することができる。
【0050】
その緊張後の圧入時においては、ジャッキ1600の圧入用ロックオフピストン1620が作動して、圧入用ロックオフピストン1620が圧入プレート1500を押圧して、押圧された圧入プレート1500が複数(ここでは4個)の固定用定着具1200のウェッジ1210の開放側の端部を(
図5(B)の黒塗り矢示の方向へ
図3(A)の領域1532の部分で)押圧して固定用定着具1200のスリーブ1220に圧入する。この場合において、1つの圧入プレート1500を介して複数(ここでは4個)の固定用定着具1200のウェッジ1210をスリーブ1220に圧入するために、複数(ここでは4個)のウェッジ1210の圧入量差を低減させて圧入することができる。
【0051】
<緊張定着方法>
上述した特徴的な構造を備えた緊張定着装置1000を用いた複数のPC鋼材の緊張定着方法について、
図5~
図9を参照して以下に詳しく説明する。この緊張定着方法は、上述した緊張定着装置1000を用いて、構造物に圧縮力を付与する複数のPC鋼材を、ウ
ェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着する複数のPC鋼材の緊張定着方法である。特に、複数のPC鋼材200間の緊張力差(この場合ロックオフピストンにより圧入差を含む)をできる限り少なくすることのできる緊張定着方法である。
【0052】
・定着プレート設置ステップ
構造物100の緊張側のPC鋼材200の開放端側の端面に定着プレート1300を設置する。本実施の形態においては、
図1(A)に示す構造物100および定着プレート1300が採用される。
・固定用定着具設置ステップ
定着プレート1300の開放端側の端面にスリーブ1220が当接するように、各PC鋼材200を(緊張定着して)固定する複数(ここでは4個)の固定用定着具1200を定着プレート1300に設置する。なお、固定用定着具1200においては、ウェッジ1210はスリーブ1220と必ず組み合わせられて使用されるために、このステップにおいて、定着プレート1300に固設されたスリーブ1220にPC鋼材200を噛み込むウェッジ1210を挿入する。
【0053】
より具体的には、固定用定着具1200のスリーブ1220においてテーパー面を備えた内筒部以外の部位に設けられたPC鋼材200の軸方向に貫通する上下2個(PC鋼材200の軸から見て外側であってPC鋼材200の軸に垂直な面において軸からより離れる方の上下2個)の穴に挿通されるとともにその定着プレート1300に設けられた雌ねじ穴に螺合する固定ボルト1250により、定着プレート1300に固定用定着具1200のスリーブ1220が固設される。その固設されたスリーブ1220の内周のテーパー面に、PC鋼材200を内周に噛み込むウェッジ1210の外周のテーパー面が当接するように、ウェッジ1210を、定着プレート1300に固設されたスリーブ1220にセットする。
【0054】
・ジャッキ設置ステップ
PC鋼材200の開放端側に、緊張用ピストン1610と圧入用ロックオフピストン1620とを備えたジャッキ1600を設置する。このとき、PC鋼材の緊張定着作業に最も用いられるセンターホール型のジャッキが採用されて、そのジャッキと同様に(ただし、1台のジャッキで複数(ここでは4個)のPC鋼材200に対応する点を除いて)PC鋼材200に対して設置される。このジャッキ1600と、緊張定着用チェア1400および圧入プレート1500等との位置関係については、緊張ステップの直前に記載する。
・圧入プレート設置ステップ
固定用定着具1200のウェッジ1210の開放端側の端面を押す方向に作動する圧入用ロックオフピストン1620からの力を受けて、複数のウェッジ1210の開放端側の端面を押す、複数のウェッジ1210に共通して作用する圧入プレート1500を設置する。
【0055】
より具体的には、固定用定着具1200のスリーブ1220においてテーパー面を備えた内筒部以外の部位に設けられたPC鋼材200の軸方向の途中までの貫通しない(貫通しても構わない)上下2個(PC鋼材200の軸から見て内側であってPC鋼材200の軸に垂直な面において軸により近い方の上下2個)の雌ねじ穴に螺合されるとともにその圧入プレート1500に設けられた小穴部1540に挿通された連結ボルト1550により、固定用定着具1200に圧入プレート1500がPC鋼材200の軸方向に移動自在に設置される。
・緊張定着用チェア設置ステップ
定着プレート1300の開放端側の端面およびジャッキ1600のノーズ1630に当接するように、圧入用ロックオフピストン1620が貫通する貫通孔1430を備えた緊張定着用チェア1400を設置する。
【0056】
・反力プレート設置ステップ
ジャッキ1600の開放端側に、PC鋼材200を引き伸ばす方向に作動する緊張用ピストン1610からの力を受けるとともに、複数の緊張用定着具1100に共通して作用
する反力プレート1310を(ジャッキ1600と一体化して)設置する。
・緊張用定着具設置ステップ
反力プレート1310の開放端側に、各PC鋼材200を(緊張定着して)固定する複数(ここでは4個)の緊張用定着具1100を反力プレート1310に設置する。なお、ここでも固定用定着具1200と同様に、緊張用定着具1100においても、ウェッジ1110はスリーブ1120と必ず組み合わせられて使用されるために、このステップにおいて、反力プレート1310に固設されたスリーブ1120にPC鋼材200を噛み込むウェッジ1110を挿入する。
【0057】
より具体的には、緊張用定着具1100のスリーブ1120においてテーパー面を備えた内筒部以外の部位に設けられたPC鋼材200の軸方向に貫通する上下2個(PC鋼材200の軸から見て外側であってPC鋼材200の軸に垂直な面において軸からより離れる方の上下2個)の穴に挿通されるとともにその反力プレート1310に設けられた雌ねじ穴に螺合する固定ボルト1150により、反力プレート1310に緊張用定着具1100のスリーブ1120が固設される。その固設されたスリーブ1120の内周のテーパー面に、PC鋼材200を内周に噛み込むウェッジ1110の外周のテーパー面が当接するように、ウェッジ1110を、反力プレート1310に固設されたスリーブ1120にセットする。
【0058】
ここまでのステップにより、
図5および
図6に示す状態で、複数(ここでは4本)のPC鋼材200に本実施の形態に係る緊張定着装置1000が設置される。このとき、構造物100に定着プレート1300が当接して設けられ、定着プレート1300に固定用定着具1200のスリーブ1220が(1個のスリーブ1220あたり2本の)固定ボルト1250により固設されスリーブ1220にウェッジ1210がセットされている。緊張定着用チェア1400の脚部1410の開放側端面が定着プレート1300に当接するとともに、緊張定着用チェア1400の平面部1420に設けられた当接凹部1440にジャッキ1600のノーズ1630が当接している。また、ジャッキ1600の圧入用ロックオフピストン1620は、緊張定着用チェア1400の平面部1420に設けられた貫通孔1430を貫通して、圧入プレート1500における
図3の領域1512が押圧することができる。
【0059】
固定用定着具1200と圧入プレート1500とを連結している連結ボルト1550が、連結ボルト1550の頭部の径>小穴部1540の直径>連結ボルト1550のねじ部の直径であることから、圧入プレート1500は、PC鋼材200の軸方向に移動自在に、かつ、圧入用ロックオフピストン1620により
図3の領域1512が押圧されることができ、圧入用ロックオフピストン1620により押圧された圧入プレート1500が複数(ここでは4個)の固定用定着具1200のウェッジ1210の開放側の端部を(
図5(B)の黒塗り矢示の方向へ
図3(A)の領域1532の部分で)押圧して固定用定着具1200のスリーブ1220に圧入することができる。
【0060】
また、反力プレート1310に複数(ここでは4個)の緊張用定着具1100が設置され(緊張用定着具1100のスリーブ1120が固定ボルト1150で反力プレート1310の雌ねじに螺合して固設され)、緊張用ピストン1610により1つの反力プレートを介して同時に複数(ここでは4個)の緊張用定着具1100を緊張定着して固定することができる。
【0061】
また、このように複数(ここでは4本)のPC鋼材200に本実施の形態に係る緊張定着装置1000が設置された状態においては、緊張定着用チェア1400と固定用定着具1200との間に挟まれるように設置された圧入プレート1500は、
図5(B)に示すように、PC鋼材200の軸方向の長さ関係が、固定用定着具1200のウェッジ1210の開放側端面と圧入プレート1500との間隙長Xが固定用定着具1200のウェッジ1210の長さYよりも短いために、スリーブ1220からウェッジ1210が抜け落ちることを防止することができる。
このように
図5および
図6に示すように設置された本実施の形態に係る緊張定着装置1000さらに以下のステップを実行する。
【0062】
・緊張ステップ
上述した各ステップの後に、ジャッキ1600の緊張用ピストン1610を作動させて、反力プレート1310および緊張用定着具1100を用いて、所定の荷重を載荷して複数(ここでは4本)のPC鋼材200を緊張する。
このとき、ジャッキ1600のノーズ1630は緊張定着用チェア1400の当接凹部1440に当接し、緊張定着用チェア1400の脚部1410の開放側端面が定着プレート1300に当接しているために、緊張用ピストン1610はジャッキ1600のノーズ1630を介して定着プレート1300と押し合っているので、緊張用ピストン1610が
図7の白抜き矢示方向に移動する。このとき、反力プレート1310に固設された緊張用定着具1100のウェッジ1110はPC鋼材200を噛み込んだ(把持した)状態でジャッキ1600と一体で移動するため、コンクリート内部からPC鋼材200が引き出されて伸ばされた状態となる。
ジャッキ1600のノーズ1630で緊張定着用チェア1400を介して構造物100側に反力を取っているため、PC鋼材200が引き延ばされることによって発生したPC鋼材200の引張力(緊張力)は、定着プレート1300を介して構造物100に伝わり、構造物100にプレストレスが導入される。
【0063】
・圧入ステップ
所定の荷重を載荷した状態で、圧入用ロックオフピストン1620を作動させて、圧入プレート1500を用いて、複数の固定用定着具1200のウェッジ1210の開放端側の端面を押して、固定用定着具1200のスリーブ1220にウェッジ1210を圧入する。
このとき、圧入用ロックオフピストン1620が
図8の白抜き矢示で示すように圧入プレート1500の
図3の領域1512の部分を押圧して、押圧された圧入プレート1500が
図8の黒塗り矢示で示すように、かつ、
図3の領域1532の部分で固定用定着具1200のウェッジ1210の開放側端部を押圧して、緊張ステップにてスリーブ1220から浮き出したウェッジ1210を圧入する。このとき、
図5(B)に示すように、PC鋼材200の軸方向の長さ関係が、固定用定着具1200のウェッジ1210の開放側端面と圧入プレート1500との間隙長Xが固定用定着具1200のウェッジ1210の長さYよりも短いために、スリーブ1220からウェッジ1210が抜け落ちることはないので、正常に圧入することができる。
【0064】
ここで、定着プレート1300、固定用定着具1200、緊張定着用チェア1400、圧入プレート1500およびジャッキ1600の圧入用ロックオフピストン1620について、
図7の拡大図である
図9(A)に圧入前の状態を、
図8の拡大図である
図9(B)に圧入中の状態を、それぞれ示す。
図9(A)および
図9(B)に示すように、圧入中においては圧入前に発生していなかった圧入用ロックオフピストン1620の押圧力が発生している。圧入用ロックオフピストン1620が
図9(B)の白抜き矢示で示すように圧入プレート1500の
図3の領域1512の部分を押圧して、押圧された圧入プレート1500が
図8の黒塗り矢示で示すように、かつ、
図3の領域1532の部分で固定用定着具1200のウェッジ1210の開放側端部を押圧して、緊張ステップにてスリーブ1220から浮き出したウェッジ1210を圧入する。
【0065】
この場合において、このように圧入用ロックオフピストン1620により固定用定着具1200のウェッジ1210をスリーブ1220に圧入するためには(圧入用ロックオフピストン1620による圧入プレート1500の押し代(しろ)を確保する必要があるので)、緊張定着用チェア1400におけるPC鋼材200の長手方向の長さが、長手方向における固定用定着具1200の長さと圧入プレート1500の長さとの和よりも少なくとも長いように構成する必要がある。より具体的には、
図9に示す、PC鋼材200の長手方向の長さについて、緊張定着用チェア1400における脚部1410の長さL(1)が、固定用定着具1200の長さ(緊張前にウェッジ1210の拡台側が出ている長さを含む)と圧入プレート1500の長さ(圧入用ロックオフピストンが押圧する平面部15
10の厚み)との和よりも少なくとも長いように構成する必要がある。
【0066】
・後処理ステップ
圧入ステップにて固定用定着具1200のスリーブ1220にウェッジ1210を圧入した後に、ジャッキ1600の所定の荷重を開放して、定着プレート1300および固定用定着具1200以外を取り外して、必要な余長を残してPC鋼材200を切断する。
以上のようにして、本実施の形態に係る複数のPC鋼材の緊張定着装置および複数のPC鋼材の緊張定着方法によると、構造物に圧縮力を付与する複数のPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着する複数のPC鋼材の緊張定着する場合において、複数のPC鋼材間の緊張差を低減させて、圧縮力を構造物に可能な限り均等に付与することができる。
【0067】
また、本実施の形態に係る複数のPC鋼材の緊張定着装置および複数のPC鋼材の緊張定着方法によると、構造物に圧縮力を付与する複数のPC鋼材を、ウェッジとスリーブとから構成される緊張用定着具および固定用定着具を用いて緊張および定着する複数のPC鋼材の緊張定着する場合において、ウェッジの圧入作業の前に実施されるPC鋼材の緊張時を含めて、ウェッジがウェッジ受け部材(孔)から脱落する可能性を低減させることができる。
【0068】
・第2の実施の形態
続いて、本発明の第2の実施の形態に係る複数のPC鋼材の緊張定着装置2000について、
図10~
図16を参照して、特徴的な構造を詳しく説明した後、この技術的な構造を備えた緊張定着装置2000を用いた複数のPC鋼材の緊張定着方法について詳しく説明する。なお、上述したように、第1の実施の形態と第2の実施の形態とで同じ構造については同じ符号を付してあり、それらについての第2の実施の形態における説明は、第1の実施の形態における説明と重複するために、第2の実施の形態において繰り返して説明しない。さらに、第1の実施の形態に係る緊張定着装置1000を用いた緊張定着方法と第2の実施の形態に係る緊張定着装置2000を用いた緊張定着方法とで共通する説明も、第1の実施の形態における説明と重複するために、第2の実施の形態において繰り返して説明しない。
【0069】
第2の実施の形態に係る緊張定着装置2000と第1の実施の形態に係る緊張定着装置1000とでは、圧入プレートの構造が細部で異なるとともに緊張定着装置1000が備えない
図11に示すウェッジ押さえ部材2800を備える。圧入プレートについては、第1の実施の形態において採用されていた
図3に示す圧入プレート1500に替えて、第2の実施の形態において
図10に示す圧入プレート2500が採用されている。
【0070】
ここで、圧入プレート1500とは別部材のウェッジ押さえ部材2800が落下防止機構として機能する。この緊張定着装置2000は、圧入プレート2500と固定用定着具1200との間に、PC鋼材200の長手方向に移動自在に固定用定着具1200に連結され、PC鋼材200を挿通する穴部2830および固定用定着具1200に連結する連結部材(ここでは連結ボルト2550)を挿通する小穴部2840とを備えた略平板状のウェッジ押さえ部材2800をさらに備える。落下防止機構は、緊張時において、圧入プレート2500とは別のこのウェッジ押さえ部材2800がウェッジ1210の開放端側の端面に当接することにより、スリーブ1220から抜け落ちることを防止する。
【0071】
以下において、
図10~
図16を参照して、本実施の形態に係る緊張定着装置2000の構造について、第1の実施の形態に係る緊張定着装置1000と異なる点のみを詳しく説明する。
まず、
図3に対応する
図10を参照して、圧入プレート2500について説明する。異なる点は、PC鋼材200が挿通される穴部1530よりも中央側(圧入用ロックオフピストン1620側)に上下2個で一対の、固定用定着具1200のスリーブ1220に設けられた雌ねじに螺合する連結ボルト2550の小穴部2540が設けられている。ここで、小穴部2540の直径>連結ボルト2550の頭部の径(>連結ボルト2550のねじ部の直径)であって、連結ボルト2550は頭部もねじ部も小穴部2540を通過できる(挿通状態である)。また、この緊張定着装置2000においては、圧入プレート15
00ではなく別部材のウェッジ押さえ部材2800が、固定用定着具1200のウェッジ1210をスリーブ1220に圧入するために(ウェッジ1210がスリーブ1220から落下することも防止するが)
図3の領域1532に対応する領域は
図10には記載されない。
【0072】
次に、
図11を参照して、緊張定着装置1000が備えないが本実施の形態に係る緊張定着装置2000が備えるウェッジ押さえ部材2800について説明する。このウェッジ押さえ部材2800は、ウェッジ1210がスリーブ1220から落下することを防止することに加えて、固定用定着具1200のウェッジ1210をスリーブ1220に圧入する。
【0073】
図11に示すように、このウェッジ押さえ部材2800は、幅(紙面における横方向長さ)が固定用定着具1200程度であって、高さ(紙面における縦方向長さ)が固定用定着具1200の1.2倍程度の6つの穴が開いた略平板形状を備える。なお、このウェッジ押さえ部材2800の厚みは、固定用定着具1200のウェッジ1210をスリーブ1220に圧入することができる程度以上の強度を備えれば特に限定されない。
【0074】
このウェッジ押さえ部材2800の平面部2810の両端のそれぞれには、PC鋼材200が挿通される穴部2830、および、その穴部2830よりも中央側(圧入用ロックオフピストン1620側)に上下2個で一対の、固定用定着具1200のスリーブ1220に設けられた雌ねじに螺合する連結ボルト2550の小穴部2840が設けられている。ここで、連結ボルト2550の頭部の径>小穴部2840の直径>連結ボルト2550のねじ部の直径であって、連結ボルト2550の頭部は小穴部2840を通過できないが連結ボルト2550のねじ部は小穴部2840を通過できる(挿通状態である)。
【0075】
なお、圧入ステップにおいて固定用定着具1200のウェッジ1210の開放側の端部を押圧する
図3(A)に示す領域1532は、
図11に示す領域2832に対応する。ただし、固定用定着具1200のウェッジ1210の開放側の端部を押圧する部材は、緊張定着装置1000においては圧入プレート1500であるが、緊張定着装置2000においてはウェッジ押さえ部材2800である。
【0076】
このウェッジ押さえ部材2800は、
図12および
図13に示すように、固定用定着具1200と圧入プレート1500の上下側の端部にそれぞれ設けられる(紙面上の奥側から手前側への方向がウェッジ押さえ部材2800の長手方向になるように上下2ヶ所に1個ずつ設けられる)。そして、連結ボルト2550のねじ部の直径<ウェッジ押さえ部材2800の小穴部2840の直径<連結ボルト2550の頭部の径<圧入プレート2500の小穴部2540の直径である。このため、圧入プレート2500を固定用定着具1200に固着させている(固定用定着具1200のスリーブの雌ねじ穴に螺合する)連結ボルト2550の頭部は、
【0077】
・圧入プレート2500の小穴部2540(の直径>連結ボルト2550の頭部の径)を通過(挿通)して圧入プレート2500の紙面右側まで移動することができるが、
・ウェッジ押さえ部材2800の小穴部2840(の直径<連結ボルト2550の頭部の径)を通過することができずウェッジ押さえ部材2800の紙面右側まで移動することができない(これができてしまうと、ウェッジ押さえ部材2800が落下する可能性がある)。
【0078】
ウェッジ押さえ部材2800の平面部2810は、ジャッキ1600の緊張用ピストン1610を作動させた緊張時を含めてこの緊張定着装置2000をPC鋼材200にセットした場合において、このウェッジ押さえ部材2800が(スリーブ1220から抜け落ちようとする)ウェッジ1210の開放端側の端面に当接することにより、スリーブ1220からウェッジ1210が抜け落ちることを防止する。より具体的には、
図12(B)に示すように、PC鋼材200の軸方向の長さ関係が、固定用定着具1200のウェッジ1210の開放側端面とウェッジ押さえ部材2800との間隙長Zが固定用定着具1200のウェッジ1210の長さYよりも短いために、スリーブ1220からウェッジ1210が抜け落ちることを防止する。
【0079】
上述した特徴的な構造を備えた緊張定着装置2000を用いた複数のPC鋼材の緊張定
着方法について、
図12~
図16を参照して、第1の実施の形態に係る緊張定着装置1000と異なる点のみを詳しく説明する。
なお、第1の実施の形態に係る緊張定着装置1000が備えないウェッジ押さえ部材2800は、上述した圧入ステップにおいて圧入プレート1500に替わる圧入プレート2500とともに設置すればよい。
【0080】
また、緊張ステップを説明する
図14および圧入前の状態を示す
図16(A)については、圧入プレート1500に替えて圧入プレート2500が記載され、連結ボルト1550に替えて連結ボルト2550が記載され、ウェッジ押さえ部材2800が新たに記載されていることを除けば、緊張ステップは
図7と同じであって、圧入前の状態は
図9(A)と同じである。
【0081】
・圧入ステップ
以下において、第1の実施の形態と異なる内容についてのみ説明する。
所定の荷重を載荷した状態で、圧入用ロックオフピストン1620を作動させて、圧入プレート1500およびウェッジ押さえ部材2800を用いて、複数の固定用定着具1200のウェッジ1210の開放端側の端面を押して、固定用定着具1200のスリーブ1220にウェッジ1210を圧入する。
【0082】
このとき、圧入用ロックオフピストン1620が
図15の白抜き矢示で示すように圧入プレート2500の
図10の領域1512の部分を押圧して、押圧された圧入プレート2500が
図15のグレー塗り矢示で示すようにウェッジ押さえ部材2800を押圧して、押圧されたウェッジ押さえ部材2800が
図15(より詳しくは
図12(C))の黒塗り矢示で示すように、かつ、
図11の領域2832の部分で固定用定着具1200のウェッジ1210の開放側端部を押圧して、緊張ステップにてスリーブ1220から浮き出したウェッジ1210を圧入する。このとき、
図12(B)に示すように、PC鋼材200の軸方向の長さ関係が、固定用定着具1200のウェッジ1210の開放側端面とウェッジ押さえ部材2800との間隙長Zが固定用定着具1200のウェッジ1210の長さYよりも短いために、スリーブ1220からウェッジ1210が抜け落ちることが防止されている。このY>Zの関係は、PC鋼材200の軸方向に移動自在な圧入プレート2500のPC鋼材200の軸方向の位置およびこの圧入プレート2500の小穴部2540を連結ボルト2550の頭部が通過すること(挿通状態であること)により結果的にPC鋼材200の軸方向に移動自在なウェッジ押さえ部材2800のPC鋼材200の軸方向の位置によらず成立するように設定されている。
【0083】
このように、ウェッジ押さえ部材2800により、固定用定着具1200のスリーブ1220からウェッジ1210が抜け落ちることが防止することができるとともに、ウェッジ押さえ部材2800により、固定用定着具1200のウェッジ1210の開放側端部を押圧して、緊張ステップにてスリーブ1220から浮き出したウェッジ1210を圧入する。
ここで、定着プレート1300、固定用定着具1200、緊張定着用チェア1400、ウェッジ押さえ部材2800、圧入プレート2500およびジャッキ1600の圧入用ロックオフピストン1620について、
図14の拡大図である
図16(A)に圧入前の状態を、
図15の拡大図である
図16(B)に圧入中の状態を、それぞれ示す。
【0084】
図16(A)および
図16(B)に示すように、圧入中においては圧入前に発生していなかった圧入用ロックオフピストン1620の押圧力が発生している。圧入用ロックオフピストン1620が
図15の白抜き矢示で示すように圧入プレート2500の
図10の領域1512の部分を押圧して、押圧された圧入プレート2500が
図15のグレー塗り矢示で示すようにウェッジ押さえ部材2800を押圧して、押圧されたウェッジ押さえ部材2800が
図15の黒塗り矢示で示すように、かつ、
図11の領域2832の部分で固定用定着具1200のウェッジ1210の開放側端部を押圧して、緊張ステップにてスリーブ1220から浮き出したウェッジ1210を圧入する。
【0085】
この場合において、このように圧入用ロックオフピストン1620により固定用定着具1200のウェッジ1210をスリーブ1220に圧入するためには(圧入用ロックオフ
ピストン1620による圧入プレート1500の押し代(しろ)を確保する必要があるので)、緊張定着用チェア1400におけるPC鋼材200の長手方向の長さが、長手方向における固定用定着具1200の長さと圧入プレート1500の長さとの和よりも少なくとも長いように構成する必要がある。より具体的には、PC鋼材200の長手方向の長さについて、緊張定着用チェア1400における脚部1410の長さL(1)が、固定用定着具1200の長さ(緊張前にウェッジ1210の拡台側が出ている長さを含む)と圧入プレート2500の長さ(圧入用ロックオフピストンが押圧する平面部2510の厚み)との和よりも少なくとも長いように構成する必要がある。
【0086】
以上のようにして、本実施の形態に係る複数のPC鋼材の緊張定着装置および複数のPC鋼材の緊張定着方法によっても、第1の実施の形態に係る複数のPC鋼材の緊張定着装置および複数のPC鋼材の緊張定着方法と同様に[課題1]~[課題5]を解決するという作用効果を奏することができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0087】
たとえば、このような変更の一例として、上述したいずれの実施の形態においても、定着プレート、固定用定着具、緊張定着用チェア、圧入プレート、ジャッキ、反力プレート、緊張用定着具は、全て別部材として記載して、定着プレートに固定用定着具をボルトにより連結して固設したり反力プレートに緊張用定着具をボルトにより連結して固設したりしていたが、これらの固設方法に替えて溶接することを含めて、たとえば、圧入用ロックオフピストンと圧入プレートとを溶接等により一体化されていることが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、構造物にPC鋼材を配置してそのPC鋼材を緊張することにより、それらの構造物に圧縮力を付与する技術に関し、特に、複数のPC鋼材を片引きまたは両引きしてPC鋼材を緊張させる場合においてPC鋼材間の緊張差を低減させて圧縮力を構造物に可能な限り均等に付与することのできる点で特に好ましい。
【符号の説明】
【0089】
100、 102 構造物
200 PC鋼材
1000、2000 緊張定着装置
1100 緊張用定着具
1200 固定用定着具
1300 定着プレート
1310 反力プレート
1400 緊張定着用チェア
1500、2500 圧入プレート
1600 ジャッキ(油圧ジャッキ)
2800 ウェッジ押さえ部材