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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169052
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】捺染布帛及び捺染方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/28 20060101AFI20221101BHJP
   D06P 5/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
D06P5/28
D06P5/00 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074843
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁藤 謙
(72)【発明者】
【氏名】加藤 舞
【テーマコード(参考)】
4H157
【Fターム(参考)】
4H157AA01
4H157AA02
4H157BA12
4H157CB02
4H157CC01
4H157DA01
4H157DA24
4H157FA44
4H157GA05
4H157GA21
4H157HA01
4H157HA13
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、布帛に印捺された画像の耐熱性の向上と捺染の前後における布帛の風合いの変化の抑制を両立した捺染布帛及び捺染方法を提供することである。
【解決手段】本発明の捺染布帛は、分散性染料により染色された捺染布帛であって、布帛に染着可能な樹脂が付与され、前記樹脂が前記分散性染料により染色されており、前記分散性染料が、結晶化していることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散性染料により染色された捺染布帛であって、
布帛に染着可能な樹脂が付与され、前記樹脂が前記分散性染料により染色されており、
前記分散性染料が、結晶化していることを特徴とする捺染布帛。
【請求項2】
前記分散性染料が、昇華染料であることを特徴とする請求項1に記載の捺染布帛。
【請求項3】
前記樹脂が、ポリアルキレンオキサイド又はポリアルキレンオキサイド-ポリエステル共重合体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の捺染布帛。
【請求項4】
前記布帛が、セルロース繊維を含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の捺染布帛。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の捺染布帛を得るための布帛の捺染方法であって、
前記布帛に前記樹脂を付与する工程、
前記布帛に付与された前記樹脂を前記分散性染料により染色する染色工程、及び
前記染色工程後、前記分散性染料を結晶成長させる工程
を有することを特徴とする捺染方法。
【請求項6】
前記染色を昇華転写法で行うことを特徴とする請求項5に記載の捺染方法。
【請求項7】
前記結晶成長させる工程が、前記染色工程後の前記布帛を洗浄液で洗浄する工程を含むことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の捺染方法。
【請求項8】
前記洗浄を、前記染色工程後の前記布帛を水に浸漬することで行うことを特徴とする請求項7に記載の捺染方法。
【請求項9】
前記浸漬を行う浸漬時間が、30~120秒の範囲内であることを特徴とする請求項8に記載の捺染方法。
【請求項10】
前記浸漬時の浸漬温度が、30℃未満であることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の捺染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染布帛及び捺染方法に関する。より詳しくは、本発明は、布帛に印捺された画像の耐熱性の向上と捺染の前後における布帛の風合いの変化の抑制を両立した捺染布帛及び捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布帛に対し、分散性染料を含むインクを用いて所望の画像を印捺する捺染方法が知られている。そのような方法としては、分散性染料を含むインクを布帛に直接付与して印捺を行う方法(ダイレクト捺染法)や、分散性染料を含むインクを転写媒体に付与した後、当該転写媒体から当該インクを転写して印捺を行う方法(転写捺染法=昇華転写法)が知られている。インクの付与は、短時間で染色でき、生産効率が高い観点等から、通常、インクジェット方式で行われる。
【0003】
ところで、分散性染料は、一般的に疎水性を示すことから、疎水性を示すポリエステル繊維の布帛に対しては定着しやすく、適切に捺染を行いやすい。しかしながら、その他の素材の布帛、例えば天然繊維等の親水性繊維を含む布帛に対しては、分散性染料と布帛との極性差が大きいため、分散性染料の浸透および定着性が十分ではなく、適切に捺染を行うことが困難であった。そのため、ポリエステル繊維の布帛以外の布帛(特に天然繊維等の親水性繊維を含む布帛)に対しても、分散性染料を含むインクの定着性を高めるための検討がなされている。
【0004】
インクの定着性を高める方法としては、天然繊維等の布帛を前処理し、布帛に染着可能な樹脂等を付与する方法、捺染された布帛の表面に樹脂被覆層を設ける方法(例えば、特許文献1~4を参照)、及びこれらを組み合わせた方法(例えば、特許文献5、6を参照)等がある。
【0005】
しかしながら、これらの方法で得られる捺染布帛においては、布帛に印捺された画像の熱耐性に問題があり、特にアイロン時の移染が大きな問題であった。また、得られる捺染布帛の風合いが、印捺される前の布帛の風合いと異なる点が問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-70955号公報
【特許文献2】特開平7-316982号公報
【特許文献3】特開平7-173767号公報
【特許文献4】特開平7-70921号公報
【特許文献5】特開平7-216763号公報
【特許文献6】特開平7-3668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、布帛に印捺された画像の耐熱性の向上と捺染の前後における布帛の風合いの変化の抑制を両立した捺染布帛及び捺染方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、布帛に付与された染着可能な樹脂が分散性染料により染色された捺染布帛において、当該分散性染料を結晶化した状態とすることによって、布帛に印捺された画像の耐熱性が向上するとともに捺染前の布帛の風合いが維持された捺染布帛が得られることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.分散性染料により染色された捺染布帛であって、
布帛に染着可能な樹脂が付与され、前記樹脂が前記分散性染料により染色されており、
前記分散性染料が、結晶化していることを特徴とする捺染布帛。
【0010】
2.前記分散性染料が、昇華染料であることを特徴とする第1項に記載の捺染布帛。
【0011】
3.前記樹脂が、ポリアルキレンオキサイド又はポリアルキレンオキサイド-ポリエステル共重合体であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の捺染布帛。
【0012】
4.前記布帛が、セルロース繊維を含むことを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の捺染布帛。
【0013】
5.第1項から第4項までのいずれか一項に記載の捺染布帛を得るための布帛の捺染方法であって、
前記布帛に前記樹脂を付与する工程、
前記布帛に付与された前記樹脂を前記分散性染料により染色する染色工程、及び
前記染色工程後、前記分散性染料を結晶成長させる工程
を有することを特徴とする捺染方法。
【0014】
6.前記染色を昇華転写法で行うことを特徴とする第5項に記載の捺染方法。
【0015】
7.前記結晶成長させる工程が、前記染色工程後の前記布帛を洗浄液で洗浄する工程を含むことを特徴とする第5項又は第6項に記載の捺染方法。
【0016】
8.前記洗浄を、前記染色工程後の前記布帛を水に浸漬することで行うことを特徴とする第7項に記載の捺染方法。
【0017】
9.前記浸漬を行う浸漬時間が、30~120秒の範囲内であることを特徴とする第8項に記載の捺染方法。
【0018】
10.前記浸漬時の浸漬温度が、30℃未満であることを特徴とする第8項又は第9項に記載の捺染方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記手段により、布帛に印捺された画像の耐熱性の向上と捺染の前後における布帛の風合いの変化の抑制を両立した捺染布帛及び捺染方法を提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0020】
染着可能な樹脂が付与された布帛を分散性染料で染色する際には、分散性染料、特に昇華染料は、分子状態で樹脂中に拡散すると想定される。本発明の捺染布帛においては、分散性染料を、染色後に意図的に結晶成長させて結晶化させ、安定な結晶状態としている。
【0021】
捺染布帛中の結晶化した分散性染料が他の部材に移行するためには、分散性染料を再度分子状態にすることが必要とされ、相当の熱エネルギーが必要とされると考えられる。このような理由から、本発明の捺染布帛においては、熱エネルギーを付与された際に、分散性染料が他の部材へ移行する量が、従来の捺染布帛のように分散性染料が結晶化していない場合に比べて、低減すると考えられる。
【0022】
また、本発明の捺染布帛においては、上記のとおり分散性染料の結晶化により耐熱性を向上させており、それ以上の、例えば、樹脂被覆層のような、過度な保護機構を伴うことがないため、捺染前の風合いを損なうことは殆どない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の捺染布帛は、分散性染料により染色された捺染布帛であって、布帛に染着可能な樹脂が付与され、前記樹脂が前記分散性染料により染色されており、前記分散性染料が、結晶化していることを特徴とする。
この特徴は、下記各実施形態に共通又は対応する技術的特徴である。
【0024】
本発明の捺染布帛の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記分散性染料が、昇華染料であることが好ましい。また、前記樹脂が、ポリアルキレンオキサイド又はポリアルキレンオキサイド-ポリエステル共重合体であることが好ましい。また、前記布帛が、セルロース繊維を含むことが好ましい。
【0025】
本発明の捺染方法は、本発明の捺染布帛を得るための布帛の捺染方法であって、前記布帛に前記樹脂を付与する工程、前記布帛に付与された前記樹脂を前記分散性染料により染色する染色工程、及び前記染色工程後、前記分散性染料を結晶成長させる工程を有することを特徴とする。
【0026】
本発明の捺染方法により、布帛に印捺された画像の耐熱性が向上するとともに捺染前の布帛の風合いが維持された捺染布帛を製造することができる。
【0027】
本発明の捺染方法の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記染色を昇華転写法で行うことが好ましい。
【0028】
また、前記結晶成長させる工程が、前記染色工程後の前記布帛を洗浄液で洗浄する工程を含むことが好ましい。さらに、良好な結晶成長を行う観点から、前記洗浄を、前記染色工程後の前記布帛を水に浸漬することで行うことが好ましい。また、水に浸漬する際の条件として、浸漬時間を30~120秒の範囲内とする、浸漬時の浸漬温度を30℃未満とする等が好ましい。
【0029】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0030】
[捺染布帛]
本発明の捺染布帛は、分散性染料により染色された捺染布帛であって、布帛に染着可能な樹脂が付与され、前記樹脂が前記分散性染料により染色されており、前記分散性染料が、結晶化していることを特徴とする。
【0031】
本発明の捺染布帛は、染着可能な樹脂(以下、「樹脂(P)」ともいう。)が付与された布帛に、分散性染料を用いて画像を印捺して得られるものである。以下、樹脂(P)が付与された布帛を、「樹脂付き布帛」ともいう。樹脂付き布帛において、樹脂(P)は、例えば、布帛を構成する繊維の表面に付着して層状に存在する。典型的には、樹脂(P)は、個々の繊維の表面を被覆するとともに繊維間の隙間を埋めるように存在する。もしくは、樹脂(P)は、布帛を構成する繊維の内部に浸透し繊維を膨潤させ、当該膨潤された繊維の内部に存在する。
【0032】
このような樹脂付き布帛における樹脂(P)を分散性染料が染色することで、捺染布帛が得られる。分散性染料による樹脂(P)の染色において分散性染料は、布帛に付着した樹脂(P)のマトリックス内に存在する。本発明の捺染布帛においては、樹脂(P)のマトリックス中に分散性染料が結晶化した状態で含有されている。
【0033】
ここで、分散性染料により染色された捺染布帛において、分散性染料が結晶化しているか否かは、X線回折(XRD)の測定結果により判定することができる。
【0034】
具体的には、下記条件でX線回折の測定を行う。
・XRD測定
装置:X線回折装置 TTR-II(株式会社リガク製)
X線:50kV-300mA(15kW)
光学系:平行ビーム法(透過法)
スリット条件:発散スリット1.0mm、散乱スリット開放、受光スリット開放
測定条件:FT
走査範囲:5~45°(ステップ幅:0.02°)
係数時間:10s
試料作製:捺染布帛の20mm×20mmを試料ホルダーにセットして測定する。
【0035】
得られた測定結果において、XRDスペクトルにおいて、分散染料由来の結晶ピークが観察された場合、捺染布帛において、分散性染料が結晶化していると判定する。分散染料由来の結晶ピークが観察されなかった場合、結晶化していないと判定する。
【0036】
なお、XRDスペクトルにおける結晶ピークとは、半値幅が0.6以下であるピークをいう。
【0037】
なお、本発明の捺染布帛において、結晶化した分散性染料の結晶粒子の大きさは、平均粒子径として50nm以上であることが好ましく、100nm以上がより好ましく、150nm以上がさらに好ましい。分散性染料の結晶粒子の平均粒子径が50nm以上であることで、捺染布帛における印捺画像の耐熱性がより良好である。
【0038】
また、分散性染料の結晶粒子の大きさは、分散性染料(印捺画像)の変色を抑制する、分散性染料が脱落し印捺画像が濃度低下を引き起こすことを抑制する等の観点から、平均粒子径として10μm以下であることが好ましく、1μm以下がより好ましい。
【0039】
分散性染料の結晶粒子の平均粒子径は、例えば、捺染布帛の断面の電子顕微鏡写真から求めることができる。平均粒子径は、結晶粒子の最大径の10個の平均である。
【0040】
以下に、本発明の捺染布帛の構成部材を説明する。
【0041】
〔布帛〕
本発明に係る布帛を構成する繊維の材質は、特に制限されない。セルロース繊維(天然綿)、麻、羊毛、又は絹等の天然繊維(親水性繊維)、レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル又はアセテート等の化学繊維が挙げられる。
【0042】
布帛は、セルロース繊維、麻、羊毛、絹等の天然繊維を含むことが好ましく、本発明の効果を顕著に発現できることからセルロース繊維を含むことが特に好ましい。布帛は、天然繊維の1種からなってもよく、2種以上からなってもよい。布帛は、天然繊維を含む場合に、さらに、化学繊維の1種又は2種以上を含んでもよい。
【0043】
布帛は、これらの繊維を、織布、不織布、編布等、いずれの形態にしたものであってもよい。また、布帛は、2種類以上の繊維の混紡織布又は混紡不織布であってもよい。上記のとおり、布帛は、セルロース繊維を含むことが好ましい。布帛がセルロース繊維とセルロース繊維以外の他の繊維を含む場合、他の繊維としてはポリエステル繊維を含むことが好ましい。
【0044】
布帛を構成する繊維における天然繊維比率及び化学繊維比率は、布帛の全量(天然繊維と化学繊維の合計量)に対する含有する天然繊維の質量%及び化学繊維の質量%として示される。本発明に係る布帛が天然繊維と任意に化学繊維を含む場合、布帛における天然繊維比率が5~100質量%の範囲であり、化学繊維比率が0~95質量%の範囲であることが好ましい。例えば、布帛が、セルロース繊維とポリエステル繊維を含む場合、セルロース繊維比率が35~100質量%の範囲であり、ポリエステル繊維比率が0~65質量%の範囲であることが好ましい。
【0045】
〔染着可能な樹脂(樹脂(P)〕
樹脂(P)としては、後述する分散性染料によって染着可能な樹脂であることが好ましい。布帛の種類及び分散性染料の種類に応じて、例えば、疎水性樹脂、親水性樹脂、疎水性部位と親水性部位とを有する親水性/疎水性樹脂等が挙げられる。
【0046】
例えば、布帛を構成する繊維が化学繊維を含む場合、樹脂(P)としては、疎水性樹脂が好ましい。布帛を構成する繊維が天然繊維、例えば、セルロース繊維を含む場合、樹脂(P)としては、親水性樹脂又は親水性/疎水性樹脂が好ましく、ポリアルキレンオキサイド又はポリアルキレンオキサイド-ポリエステル共重合体が特に好ましい。
【0047】
(疎水性樹脂)
疎水性樹脂は、主として、布帛がポリエステル繊維等の疎水性の繊維を含む場合に用いられる。本発明に係る疎水性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、ポリイソブチレン、ポリエチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリラウリルメタクリレート、ポリステアリルメタクリレート、ポリイソボニルメタクリレート、ポリ-t-ブチルメタクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリメチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル樹脂、ポリ塩化ビニルが含まれる。中でも、ポリエステル樹脂が好ましい。なお、「(メタ)アクリル」は、メタクリル又はアクリルを意味する。
【0048】
ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸化合物)と、2価以上のアルコール(多価アルコール化合物)との重縮合反応によって得られる樹脂である。ジカルボン酸と、ジオールとを反応させて得られるポリエステル樹脂が好ましい。その場合、ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸に由来する重合単位と、ジオールに由来する重合単位とを含む。以下、重合単位を単に「単位」ともいう。
【0049】
《ジカルボン酸に由来する単位》
ジカルボン酸に由来する単位におけるジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸が特に制限なく使用できる。布帛が、ポリエステル繊維を含む場合には、布帛との親和性を高める観点から、ジカルボン酸は芳香族ジカルボン酸を含むことが好ましい。
【0050】
芳香族ジカルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸(オルトフタル酸)、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸等が含まれ、好ましくはテレフタル酸である。
【0051】
これらの芳香族ジカルボン酸は、アニオン性基(例えば、カルボキシ基、スルホニル基等)をさらに有してもよい。アニオン性基を有する芳香族ジカルボン酸の例には、トリメリット酸、スルホテレフタル酸、スルホイソフタル酸、スルホフタル酸等が含まれる。
【0052】
芳香族ジカルボン酸に由来する単位は、ジカルボン酸に由来する単位の総モル数に対して5~100モル%、好ましくは10~100モル%でありうる。
【0053】
ジカルボン酸に由来する単位は、必要に応じて上記以外の他のジカルボン酸に由来する単位をさらに含んでもよい。他のジカルボン酸の例には、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸が含まれる。
【0054】
《ジオールに由来する単位》
ジオールに由来する単位におけるジオールとしては、脂肪族ジオール、脂環式ジオール、芳香族ジオールが特に制限なく使用できる。布帛が、ポリエステル繊維を含む場合には、布帛との親和性を高める観点から、ジオールは脂肪族ジオールを含むことが好ましい。
【0055】
脂肪族ジオールは、炭素原子数が1~10、好ましくは1~4の脂肪族ジオールであることが好ましい。そのような脂肪族ジオールの例には、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等のアルキレンジオールが含まれ、好ましくはエチレングリコールである。
【0056】
脂肪族ジオールは、前述と同様に、アニオン性基をさらに有してもよい。アニオン性基を有する脂肪族ジオールの例には、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(CAS番号:10191-18-1)、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール等が含まれる。
【0057】
脂肪族ジオールに由来する単位は、ジオールに由来する単位の総モル数に対して5~100モル%、好ましくは10~100モル%でありうる。
【0058】
ジオールに由来する単位は、必要に応じて上記以外の他のジオールに由来する単位をさらに含んでもよい。他のジオールの例には、キシリレングリコール等の芳香族ジオールや、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオールが含まれる。
【0059】
疎水性樹脂の重量平均分子量は、特に制限されないが、500~10000の範囲内であることが好ましい。疎水性樹脂の重量平均分子量が500以上であると、疎水性樹脂の特性が発現しやすく、分散性染料との親和性をより高めやすい。疎水性樹脂の重量平均分子量が10000以下であると、布帛の風合いが損なわれにくい。
【0060】
また、後述するように、疎水性樹脂に由来する疎水性ブロックと親水性樹脂に由来する親水性ブロックのブロック共重合体として用いた場合に、その結晶性も高くなりすぎないため、発色工程(熱転写する工程)の加熱時の分散性染料の浸透性や染着性が損なわれにくい。同様の観点から、疎水性樹脂の重量平均分子量は、500~5000の範囲内であることがより好ましい。
【0061】
疎水性樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算して測定することができる。
【0062】
具体的には、高速液体クロマトグラフィー(日本Water社製の「Waters2695(本体)」及び「Waters2414(検出器)」)に、カラム(Shodex(登録商標)GPCKF-806L(排除限界分子量:2×107、分離範囲:100~2×107、理論段数:10000段/本、充填剤材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:10μm))を3本直列に配置し、測定することができる。
【0063】
疎水性樹脂は、親水性樹脂よりも結晶性が高いことが好ましく、親水性樹脂よりも高いガラス転移温度Tg又は融点Tmを有しうる。例えば、疎水性樹脂のTgは、50~110℃でありうる。親水性樹脂のTgの測定方法は、後述するブロック共重合体のTgの測定方法と同様としうる。
【0064】
(親水性樹脂)
親水性樹脂は、主として、布帛がセルロース繊維等の親水性の繊維を含む場合に用いられる。本発明に係る親水性樹脂としては、例えば、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン樹脂等が含まれ、好ましくはポリアルキレンオキサイドである。
【0065】
ポリアルキレンオキサイドは、アルキレンオキサイドが開環、付加重合した重合体であり、アルキレンオキサイドの炭素原子数は2~6であることが好ましい。ポリアルキレンオキサイドの例には、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリトリメチレンオキサイド、ポリテトラメチレンオキサイド、ポリヘキサメチレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体、ポリプロピレンオキサイドのエチレンオキシド付加物、及びエチレンオキサイドとテトラヒドロフランの共重合体が含まれる。中でも、セルロース繊維等の親水性繊維を含む布帛との親和性が高く、良好に結着させやすい観点では、PEOが好ましい。
【0066】
親水性樹脂の重量平均分子量は、特に制限されないが、500~6000の範囲内であることが好ましい。親水性樹脂の重量平均分子量が500以上であると、親水性樹脂の特性が発現しやすいため、後述するように、疎水性樹脂に由来する疎水性ブロックと親水性樹脂に由来する親水性ブロックのブロック共重合体として用いた場合に、例えばセルロース繊維等の親水性繊維を含む布帛に対して良好に結着させやすい。
【0067】
親水性樹脂の重量平均分子量が6000以下であると、布帛の風合いが損なわれにくい。同様の観点から、親水性樹脂の重量平均分子量は、500~5000の範囲内であることがより好ましい。親水性樹脂の重量平均分子量は、上記した疎水性樹脂の重量平均分子量と同様の方法で測定することができる。
【0068】
親水性樹脂は、上記のとおり、疎水性樹脂よりも結晶性が低いことが好ましく、疎水性樹脂よりも低いガラス転移温度Tg又は融点Tmを有しうる。例えば、親水性樹脂のTg又はTmは、-110~60℃でありうる。親水性樹脂は、非晶性樹脂であることが好ましく、実質的には、融点を有しないことが好ましい。
【0069】
(親水性/疎水性樹脂)
親水性/疎水性樹脂は、染着可能な樹脂に親水性及び疎水性の両方の性質が求められる場合に用いられる。親水性/疎水性樹脂は、例えば、分散性染料が疎水性であって、布帛がセルロース繊維等の親水性の繊維を含む場合に用いることが好ましい。
【0070】
親水性/疎水性樹脂は、上記疎水性樹脂に由来する疎水性ブロックと、上記親水性樹脂に由来する親水性ブロックとを有するブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体(A)」ともいう。)であることが好ましい。ブロック共重合体(A)における、疎水性ブロックはポリエステル樹脂に由来することが好ましく、親水性ブロックはポリアルキレンオキサイドに由来することが好ましい。ブロック共重合体(A)としては、特にポリアルキレンオキサイド-ポリエステル共重合体が好ましい。
【0071】
ブロック共重合体(A)において、親水性ブロックを構成する親水性樹脂のSP値(SPB)と、疎水性ブロックを構成する疎水性樹脂のSP値(SPA)の関係は、SPB>SPAであることが好ましい。さらに、SPBとSPAとの差ΔSP(SPB-SPA)は、1.0以上であることが好ましい。ΔSPが1.0以上であると、親水性ブロックは、天然繊維等の親水性繊維を含む布帛に対して高い親和性を有するため、ブロック共重合体(A)の布帛への結着性を高めやすい。また、疎水性ブロックは、疎水性を示す分散性染料に対して親和性を有するため、分散性染料を布帛に浸透及び定着させやすくしうる。同様の観点から、ΔSPは、2.0以上であることがより好ましい。
【0072】
SP値とは、溶解度パラメータ(Solubility Parameter)と呼ばれるものである。本発明における樹脂材料のSP値は、分子引力定数から求める方法、すなわち、樹脂分子を構成する各官能基又は原子団の分子引力定数(G)及びモル容積(V)から、SP値=ΣG/Vにより求める方法(D.A.Small,J.Appl.Chem.,3,71,(1953)、K.L.Hoy,J.PaintTechnol.,42,76(1970))により求めることができる。
【0073】
ブロック共重合体(A)としては、特に、SP値が11未満の疎水性樹脂に由来する疎水性ブロックと、SP値が11以上の親水性樹脂に由来する親水性ブロックとを有するブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体(A1)」ともいう。)が好ましい。
【0074】
ブロック共重合体(A1)に含まれる疎水性ブロックと親水性ブロックの少なくとも一方が2種類以上ある場合、ΔSP値は、SP値が11未満の疎水性ブロックのうちSP値が最大となる疎水性ブロックのSP値と、SP値が11以上の親水性ブロックのうちSP値が最小となる親水性ブロックのSP値との差を、ΔSP値とすることが好ましい。
【0075】
ブロック共重合体(A1)における疎水性ブロックは、SP値が11未満の疎水性樹脂に由来するブロックである。そのような疎水性ブロックは、分散性染料との親和性を有するため、分散性染料を(ブロック共重合体を介して)布帛に浸透及び定着させやすくしうる。
【0076】
SP値が11未満の疎水性樹脂は、分散性染料との親和性をさらに高める観点から、ΔSPが上記範囲を満たすだけでなく、分散性染料のSP値との差が一定以下(例えば、±2以下)であることが好ましい。例えば、疎水性ブロックを構成する疎水性樹脂のSP値は、8.7以上11未満であることが好ましく、9.5以上11未満であることがより好ましく、10.2以上11未満であることがさらに好ましい。
【0077】
また、SP値が11未満の疎水性樹脂は、親水性樹脂よりも結晶性が高い樹脂であることが好ましく、結晶性樹脂であることがより好ましい。結晶性樹脂は、通常、融点を有する。
【0078】
SP値が11未満の疎水性樹脂の例には、上記した疎水性樹脂のうち以下の疎水性樹脂が挙げられる。
【0079】
ポリエステル(ただし、SP値が11未満)、PTFE(SP値:6.2)、ポリイソブチレン(SP値:7.7)、ポリエチレン(SP値:8.1)、ポリイソプレン(SP値:8.15)、ポリラウリルメタクリレート(SP値:8.2)、ポリステアリルメタクリレート(SP値:8.2)、ポリイソボニルメタクリレート(SP値:8.2)、ポリ-t-ブチルメタクリレート(SP値:8.2)、ポリブタジエン(SP値:8.4)、ポリスチレン(SP値:9.1)、ポリエチルメタクリレート(SP値:9.1)、ポリエチルアクリレート(9.2)、ポリメチルメタクリレート(9.3)、ポリメチルアクリレート(SP値:9.7)、ポリ塩化ビニル(SP値:10.1)が含まれる。
【0080】
疎水性樹脂としては、中でも、ポリエステル(ただし、SP値が11未満)が好ましい。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)(SP値:10.7)等が好ましい。
【0081】
ブロック共重合体(A1)における親水性ブロックは、SP値が11以上の親水性樹脂に由来するブロックである。そのような親水性ブロックは、天然繊維等の親水性繊維を含む布帛との親和性が高いため、ブロック共重合体の布帛への結着性を高めうる。
【0082】
SP値が11以上の親水性樹脂は、SP値が11以上であり、かつ使用する布帛を構成する繊維、例えば親水性繊維のSP値±2以下であることが好ましく、±1.0以下であることがより好ましく、±0.5以下であることがさらに好ましい。布帛を構成する繊維が、SP値が15.7のセルロース繊維である場合、親水性ブロックを構成する親水性樹脂のSP値は、13.7~17.7であることが好ましく、14.7~16.7であることがより好ましく、15.2~16.2であることがさらに好ましい。
【0083】
また、SP値が11以上の親水性樹脂は、結晶性が疎水性樹脂よりも低い樹脂であることが好ましく、非晶性樹脂であることがより好ましい。親水性ブロックが非晶性樹脂であると、得られる画像形成物が硬くなりにくく、風合いが損なわれにくい。また、そのような親水性ブロックは、加熱により当該ブロックが軟化しやすく、自由体積が大きくなりやすいため、発色工程での加熱により分散性染料を布帛により浸透させやすい。非晶性樹脂は、実質的には、融点を有しない。
【0084】
SP値が11以上の親水性樹脂の例には、上記した親水性樹脂のうち以下の親水性樹脂が挙げられる。
【0085】
ポリアルキレンオキサイド(SP値:11.0~15.0)、ポリビニルアルコール(SP値:12.6)、ポリアミド(SP値:13.6)、ポリアクリロニトリル(SP値:14.8)、ポリビニルピロリドン等が含まれる。
【0086】
親水性樹脂としては、中でも、ポリアルキレンオキサイド(SP値:11.0~15.0)が好ましい。ポリアルキレンオキサイドとしては、PEO(SP値:15.0)、PPO(SP値:15.0)等が好ましい。
【0087】
ブロック共重合体(A)における疎水性ブロックの質量基準の含有量は、親水性ブロックの質量基準の含有量よりも少ないことが好ましい。具体的には、疎水性ブロック及び親水性ブロックの含有量は、疎水性ブロックと親水性ブロックの合計含有量に対して、それぞれ、5~40質量%及び60~95質量%であることが好ましい。
【0088】
疎水性ブロックの含有量が5質量%以上であると、(当該疎水性ブロックを介して)ブロック共重合体(A)が分散性染料とより親和しやすく、分散性染料の布帛への浸透性や定着性を高めやすい。また、親水性ブロックの含有量が95質量%以下であると、疎水性ブロックの含有量が少なくなりすぎないため、分散性染料との親和性が損なわれにくく、分散性染料の布帛への浸透性及び定着性が損なわれにくい。
【0089】
親水性ブロックの含有量が60質量%以上であると、ブロック共重合体(A)の天然繊維等の親水性繊維を含む布帛に対する結着性を高めやすい。疎水性ブロックの含有量が40質量%以下であると、親水性ブロックの含有量が少なくなりすぎないため、ブロック共重合体の布帛に対する結着性が損なわれにくい。
【0090】
同様の観点から、ブロック共重合体(A)における、疎水性ブロック及び親水性ブロックの含有量は、疎水性ブロックと親水性ブロックの合計含有量に対して、それぞれ、10~30質量%及び70~90質量%であることが好ましい。
【0091】
ブロック共重合体(A)は、上記の疎水性ブロックと親水性ブロックとを有するが、ウレタン結合を有しないことが好ましい。ウレタン結合を有する樹脂は、光劣化により布帛に対する定着性が損なわれやすいからである。
【0092】
ブロック共重合体(A)の重量平均分子量は、特に制限されないが、例えば1000~30000であることが好ましい。ブロック共重合体(A)の重量平均分子量が1000以上であると、ブロック共重合体(A)の布帛に対する結着性を高めやすく、30000以下であると、布帛が硬くなりにくく、風合いが損なわれにくい。同様の観点から、ブロック共重合体(A)の重量平均分子量は、2000~25000であることがさらに好ましい。
【0093】
ブロック共重合体(A)のガラス転移温度Tg又は融点Tmは、特に制限されないが、30℃未満であることが好ましい。Tg又はTmが30℃未満であるブロック共重合体(A)は、適度な柔軟性を有するため、樹脂付き布帛に分散性染料を含むインクを付与し、定着させる際に、分散性染料が樹脂付き布帛に浸透するのを妨げにくい。
【0094】
例えば、転写捺染では、転写媒体上のインクを、樹脂付き布帛の表面に載せて加熱圧着して転写するが、加熱圧着時の熱で、ブロック共重合体(A)が軟化しやすいため、分散性染料が樹脂付き布帛に入り込むのを妨げにくくしうる。それにより、分散性染料による染着性が高まり、定着性をさらに高めやすい。同様の観点から、ブロック共重合体(A)のTg又はTmは、-20℃以上25℃未満であることがより好ましく、0~20℃であることがさらに好ましい。
【0095】
ブロック共重合体(A)のTg又はTmは、DSC(示差走査熱量測定装置)を用いて-30~100℃の温度域で昇温速度10℃/分の条件で昇温させたときの吸熱ピークから、ガラス転移温度Tg又はTmを読み取ることによって特定することができる。
【0096】
ブロック共重合体(A)のTg又はTmは、例えば親水性ブロックと疎水性ブロックの含有比率等によって調整することができる。ブロック共重合体(A)のTg又はTmを低くするためには、親水性ブロックや疎水性ブロックを構成する樹脂の種類にもよるが、例えば親水性ブロックの含有比率を高くすることが好ましい。
【0097】
本発明の捺染布帛に係る樹脂付き布帛は、上記布帛に樹脂(P)が付与されてなる。布帛に樹脂(P)を付与する方法は、例えば、後述の本発明の捺染方法における布帛に樹脂(P)を付与する工程と同様にして行うことができる。樹脂付き布帛の形態は、上記のとおりである。
【0098】
布帛に対する樹脂(P)の付与量としては、例えば、1~40g/mの範囲が好ましく、3~30g/mの範囲がより好ましい。布帛に対する樹脂(P)の付与量が上記範囲内であれば、分散性染料による染色が十分に行われるとともに、布帛の風合いが損なわれるおそれも殆どない。
【0099】
(分散性染料)
分散性染料は、水に不溶又は難溶な染料である。分散性染料としては、水に不溶又は難溶であり、加熱により昇華する性質を有する昇華染料が好ましい。ここで、水に不溶又は難溶であるとは、25℃における水への溶解度が、10mg/L以下、好ましくは5mg/L以下、より好ましくは1mg/L以下であることを意味する。
【0100】
分散性染料の種類は、特に制限されず、アゾ系、アントラキノン系等が含まれる。具体的には、分散性染料のうち昇華染料の例には、以下の染料が含まれる。
【0101】
C.I.DisperseYellow3、4、5、7、9、13、24、30、33、34、42、44、49、50、51、54、56、58、60、63、64、66、68、71、74、76、79、82、83、85、86、88、90、91、93、98、99、100、104、114、116、118、119、122、124、126、135、140、141、149、160、162、163、164、165、179、180、182、183、186、192、198、199、202、204、210、211、215、216、218、224等、
【0102】
C.I.DisperseOrange1、3、5、7、11、13、17、20、21、25、29、30、31、32、33、37、38、42、43、44、45、47、48、49、50、53、54、55、56、57、58、59、61、66、71、73、76、78、80、89、90、91、93、96、97、119、127、130、139、142等、
【0103】
C.I.DisperseRed1、4、5、7、11、12、13、15、17、27、43、44、50、52、53、54、55、56、58、59、60、65、72、73、74、75、76、78、81、82、86、88、90、91、92、93、96、103、105、106、107、108、110、111、113、117、118、121、122、126、127、128、131、132、134、135、137、143、145、146、151、152、153、154、157、159、164、167、169、177、179、181、183、184、185、188、189、190、191、192、200、201、202、203、205、206、207、210、221、224、225、227、229、239、240、257、258、277、278、279、281、288、289、298、302、303、310、311、312、320、324、328等、
【0104】
C.I.DisperseViolet1、4、8、23、26、27、28、31、33、35、36、38、40、43、46、48、50、51、52、56、57、59、61、63、69、77等、
【0105】
C.I.DisperseGreen9等、
C.I.DisperseBrown1、2、4、9、13、19等、
【0106】
C.I.DisperseBlue3、7、9、14、16、19、20、26、27、35、43、44、54、55、56、58、60、62、64、71、72、73、75、79、81、82、83、87、91、93、94、95、96、102、106、108、112、113、115、118、120、122、125、128、130、139、141、142、143、146、148、149、153、154、158、165、167、171、173、174、176、181、183、185、186、187、189、197、198、200、201、205、207、211、214、224、225、257、259、267、268、270、284、285、287、288、291、293、295、297、301、315、330、333等、
C.I.DisperseBlack1、3、10、24等。
【0107】
分散性染料の分子量は、特に制限されないが、例えば、後述のようにして転写媒体上に付与したインクを樹脂付き布帛に転写して画像形成(昇華捺染)を行う場合、分散性染料を昇華させやすくする観点では、分子量は小さいこと(例えば、200~350)が好ましい。一方、布帛に浸透した分散性染料を抜けにくくする観点では、分子量は適度に大きいこと(例えば、350~500)が好ましい。
【0108】
本発明の捺染布帛において、分散性染料は、布帛に付着した樹脂(P)のマトリックス中に結晶化して存在する。分散性染料の結晶化の程度は、上記判定条件を満たせば、特に限定されない。分散性染料の結晶化の程度は、分散性染料の結晶粒子の大きさにより認識できる。分散性染料の結晶粒子の大きさは、上記範囲が好ましい。本発明の捺染布帛における分散性染料の量は、印捺される画像の色調に応じて適宜選択される。
【0109】
本発明の捺染布帛は、本発明の効果を損なわない限り、樹脂付き布帛の樹脂マトリックス中に分散性染料が結晶化して存在する構成以外に、他の部材を有してもよい。ただし、他の部材として、例えば、染色後の樹脂付き布帛を覆うように形成される樹脂被覆層を有しないことが好ましい。その理由は、捺染布帛が樹脂被覆層を有する場合、捺染前に布帛が有していた風合いを損なうおそれがあり、さらに、樹脂被覆層を形成する際に、結晶化した分散性染料が、融解又は昇華する可能性があるためである。
【0110】
以上説明したとおり、本発明の捺染布帛においては、所期の画像に対応して付与された分散性染料が、布帛に付与した樹脂(P)のマトリックス中で結晶化していることで、布帛に印捺された画像の耐熱性が向上している。また、本発明の捺染布帛においては、簡易な構成であることで、捺染の前後における布帛の風合いの変化が抑制されている。
【0111】
[捺染方法]
本発明の捺染方法は、本発明の捺染布帛を得るための布帛の捺染方法であって、以下の(1)~(3)の工程を有することを特徴とする。
(1)布帛に染着可能な樹脂(樹脂(P))を付与する工程(以下、「前処理工程」ともいう。)
(2)布帛に付与された樹脂(P)を分散性染料により染色する染色工程
(3)染色工程後、分散性染料を結晶成長させる工程(以下、「結晶成長工程」ともいう。)
以下、各工程について説明する。
【0112】
(1)前処理工程
前処理工程は、布帛に樹脂(P)を付与して、樹脂付き布帛を得る工程である。布帛への樹脂(P)の付与は、例えば、樹脂(P)と液状媒体を含有する前処理液を布帛に塗布することで行う。塗布後、布帛に塗布された前処理液の塗膜から液状媒体を除去することで樹脂付き布帛が得られる。
【0113】
<前処理液>
前処理液は、典型的には、樹脂(P)と液状媒体を含有する。
【0114】
(樹脂(P))
樹脂(P)は、上に説明したとおりである。前処理液における樹脂(P)の含有量は、特に限定されないが、前処理液に対して2~60質量%であることが好ましい。樹脂(P)の含有量が2質量%以上であると、樹脂(P)の付量(付着量)を十分な量としやすいため、画像濃度を高めやすく、60質量%以下であると、布帛への付量が多くなりすぎないため、布帛の風合いが損なわれにくい。同様の観点から樹脂(P)の含有量は、前処理液に対して5~20質量%であることがより好ましい。
【0115】
(液状媒体)
液状媒体としては、水が好ましい。水については、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、又は純水であり得る。前処理液における水の含有量は、40~98質量%であることが好ましく、80~95質量%がより好ましい。
【0116】
前処理液は、液状媒体として、水以外にその他の溶剤を含有していてもよい。その他の溶剤としては、特に制限されないが、保湿性や粘度調整等の観点から、水溶性有機溶剤が好ましい。特にインクジェット方式で前処理液を布帛に付与する場合、前処理液は、水溶性有機溶剤を含むことが好ましい。液状媒体が、水以外に水溶性有機溶剤を含有する場合、水と水溶性有機溶剤の合計含有量が、前処理液に対して、40~98質量%であることが好ましく、80~95質量%がより好ましい。
【0117】
水溶性有機溶剤の例には、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、下記式(1)で表される化合物)、多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル)、アミン類(例えば、エタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド)、複素環類(例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジン)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)、スルホン類(例えば、スルホラン)が含まれる。
【0118】
【化1】
【0119】
[式(1)中、R11は、いずれもエチレングリコール基又はプロピレングリコール基を表し、x、y及びzはいずれも正の整数であり、x+y+z=3~30である。]
【0120】
中でも、布帛がセルロース繊維のような親水性繊維を含む場合、前処理液の布帛への浸透を促進する観点から、親水性繊維との親和性が高い水溶性有機溶剤を含むことが好ましい。そのような水溶性有機溶剤は、分子量400以上1000以下の多価アルコール類、例えば分子量400以上1000以下のポリエチレングリコール、分子量400以上1000以下のポリプロピレングリコール、グリセリン、及び式(1)で表される化合物等であることが好ましく、グリセリンであることがより好ましい。
【0121】
上記の多価アルコール類の含有量は、水溶性有機溶剤に対して25~100質量%、好ましくは50~100質量%としうる。また、水溶性有機溶剤の含有量は、前処理液に対して10~50質量%、好ましくは20~40質量%としうる。
【0122】
(他の成分)
本発明に係る前処理液は、必要に応じて上記以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、防腐剤、pH調整剤等が含まれる。
【0123】
防腐剤の例には、芳香族ハロゲン化合物(例えば、PreventolCMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、PROXELGXL)等が含まれる。
【0124】
pH調整剤の例には、クエン酸、クエン酸ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウム等が含まれる。
【0125】
(前処理液の物性)
前処理液の、25℃における粘度は、布帛への付与方法にもよって適宜調整されうる。例えば、前処理液をインクジェット方式で付与する場合、前処理液の粘度は、4~20mPa・sであることが好ましい。前処理液の粘度は、E型粘度計により、25℃で測定することができる。
【0126】
<前処理液の塗布>
前処理工程においては、上記前処理液を布帛の少なくとも一部の表面に塗布する。布帛への前処理液の塗布は、布帛の表面全体に行ってもよいし、印捺される画像に応じて分散染料で染色する領域のみに選択的に行ってもよい。
【0127】
布帛に前処理液を塗布する方法としては、公知の方法が、特に制限なく使用できる。具体的には、スプレー法、マングル法(パッド法又はディッピング法)、コーティング法、インクジェット法等が挙げられる。例えば、後述する染色工程において、分散性染料を含有するインクの付与と連続的に行えるようにする観点では、インクジェット法が好ましく、短時間で所定量の前処理液を付与する観点では、マングル法やコーター法が好ましい。
【0128】
マングル法では、浴槽中に貯めた前処理液に、布帛を浸漬した後、絞りを行うことで前処理液の付量を調整する。前処理液の温度は、特に制限されないが、15~30℃としうる。インクジェット法における条件は、染色工程におけるインクの付与と同様とすることができる。
【0129】
前処理液の塗布量は、特に制限されず、前処理液中の樹脂(P)の含有量やインクの付与量などに応じて調整されうる。前処理液の塗布量は、例えば、樹脂(P)の付与量が、上記の範囲になるように設定される。
【0130】
<前処理液の乾燥>
前処理液を布帛に塗布した後、布帛に塗布した前処理液の塗膜から液状媒体を除去する、すなわち、乾燥することが好ましい。乾燥方法は、特に限定されず、温風、ホットプレート、又はヒートローラーによる加熱であることが好ましい。短時間で十分に液状媒体を除去する観点では、加熱乾燥がより好ましい。乾燥温度は、100~130℃の範囲内であることが好ましい。
【0131】
(2)染色工程
染色工程は、布帛に付与された樹脂(P)を分散性染料により染色する工程である。染色工程は、具体的には、上記で得られた樹脂付き布帛に、分散性染料と液状媒体を含有するインクを用いて行われる。
【0132】
(インク)
インクは、典型的には、分散性染料と液状媒体を含有する。
【0133】
分散性染料は、上に説明したとおりである。ただし、インクに含まれる分散性染料は、結晶化されていても、されていなくてもよい。インクを用いた染色方法としては、樹脂付き布帛の表面(前処理液で処理された処理面(前処理面))に、直接、インクを付与して行うダイレクト捺染法又は、転写媒体上にインクを付与した後、転写媒体からインクを樹脂付き布帛の表面(前処理面)に転写して印捺を行う転写捺染法(昇華転写法)が挙げられる。インクを対象物に付与する方法、例えば、塗布する方法としては、インクジェット法が挙げられ、インクジェット法を用いることで高精度な印捺が可能である。
【0134】
インク中の分散性染料の平均粒子径は、特に制限されないが、インクジェット方式による射出安定性の観点では、例えば300nm以下としうる。平均粒子径は、光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法等を用いた市販の粒径測定機により求めることができ、粒径測定装置としては、例えばマルバーン社製ゼータサイザー1000等を挙げることができる。
【0135】
インクにおける分散性染料の含有量は、特に制限されないが、インクに対して2~10質量%の範囲内であることが好ましい。分散性染料の含有量が2質量%以上であると、高濃度の画像を形成しやすく、10質量%以下であると、インクの粘度が高くなりすぎないため、射出安定性が損なわれにくい。分散性染料の含有量は、同様の観点から、インクに対して5~10質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0136】
(液状媒体)
液状媒体としては、水が好ましい。水は、イオン交換水、蒸留水、又は純水であり得る。前処理液における水の含有量は、90~98質量%であることが好ましく、90~95質量%がより好ましい。
【0137】
インクは、液状媒体として、水以外にその他の溶剤を含有していてもよい。その他の溶剤としては、特に制限されないが、好ましくは水溶性有機溶剤である。水溶性有機溶剤は、前処理液に用いられる水溶性有機溶剤と同様のものを用いることができる。液状媒体が、水以外に水溶性有機溶剤を含有する場合、水と水溶性有機溶剤の合計含有量が、インクに対して、90~98質量%であることが好ましく、90~95質量%がより好ましい。
【0138】
水溶性有機溶剤の中でも、インクを樹脂付き布帛の内部まで浸透させやすくする観点、インクジェット方式での射出安定性を損なわれにくくする観点では、インクが乾燥により増粘しにくいことが好ましい。したがって、インクは、沸点が200℃以上の高沸点溶剤を含むことが好ましい。
【0139】
沸点が200℃以上の高沸点溶剤は、沸点が200℃以上である水溶性有機溶剤であればよく、ポリオール類やポリアルキレンオキサイド類であることが好ましい。沸点が200℃以上のポリオール類の例には、1,3-ブタンジオール(沸点208℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点223℃)、ポリプロピレングリコール等の2価のアルコール類;グリセリン(沸点290℃)、トリメチロールプロパン(沸点295℃)等の3価以上のアルコール類が含まれる。沸点が200℃以上のポリアルキレンオキサイド類の例には、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点245℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点305℃)、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点256℃);及びポリプロピレングリコール等の2価のアルコール類のエーテルや、グリセリン(沸点290℃)、ヘキサントリオール等の3価以上のアルコール類のエーテルが含まれる。
【0140】
水溶性有機溶剤の含有量は、インクに対して20~70質量%の範囲内が好ましい。水溶性有機溶剤の含有量がインクに対して20質量%以上であると、分散性染料の分散性や射出性をより高めやすく、70質量%以下であると、インクの乾燥性が損なわれにくい。
【0141】
(他の成分)
インクは、必要に応じて他の成分をさらに含みうる。他の成分の例には、分散剤、防腐剤、pH調整剤等が含まれる。
【0142】
(分散剤)
分散剤は、分散性染料の種類に応じて選択することができる。分散剤の例には、クレオソート油スルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、クレゾールスルホン酸ナトリウムと2-ナフトール-6-スルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、クレゾールスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、フェノールスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、β-ナフトールスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、β-ナフタリンスルホン酸ナトリウム及びβ-ナフトールスルホン酸ナトリウムを含むホルマリン縮合物、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドを含むアルキレンオキシド、脂肪アルコール、脂肪アミン、脂肪酸、フェノール類、アルキルフェノール及びカルボン酸アミンを含むアルキル化可能な化合物、リグニンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸ナトリウム、α-オレフィンと無水マレイン酸の共重合物、ならびに公知のくし型ブロックポリマーが含まれる。
【0143】
くし型ブロックポリマーの例には、ビックケミー社製のDISPERBYK-190、DISPERBYK-194N、DISPERBYK-2010、DISPERBYK-2015、及びBYK-154(「DISPERBYK」及び「BYK」は同社の登録商標)が含まれる。
【0144】
分散剤の含有量は、特に制限されないが、分散性染料100質量部に対して、20~200質量部の範囲内が好ましい。分散剤の含有量が20質量部以上であると、分散性染料の分散性がより高まりやすく、200質量部以下であると、分散剤による射出性の低下を抑制しやすい。
【0145】
(防腐剤、pH調整剤)
防腐剤、pH調整剤は、前処理液に用いられうる防腐剤、pH調整剤と同様のものを使用できる。
【0146】
(インクの物性)
インクの25℃における粘度は、インクジェット方式による射出性が良好となる程度であればよく、特に制限されないが、3~20mPa・sの範囲内であることが好ましく、4~12mPa・sの範囲内であることがより好ましい。インクの粘度は、E型粘度計により、25℃で測定することができる。
【0147】
<染色>
染色工程における、上記インクを用いた染色方法としては、ダイレクト捺染法又は転写捺染法(昇華転写法)が挙げられ、本発明の効果発現の観点から、転写捺染法(昇華転写法)が好ましい。
【0148】
(ダイレクト捺染)
ダイレクト捺染では、樹脂付き布帛の表面(前処理面)に、公知のインク塗布方法、例えば、インクジェット方式で、印捺画像に応じて、インクを直接付与する。インクジェット方式では、具体的には、インクジェット記録装置を用いて、インクジェット記録ヘッドからインクの液滴を樹脂付き布帛の表面(前処理面)に向けて吐出させる。
【0149】
インクの液滴が着弾するときの樹脂付き布帛の表面(前処理面)の温度は、特に限定されないが、発色前の画像の滲み抑制などの観点から、35~70℃の範囲で加熱されてもよい。
【0150】
樹脂付き布帛の表面(前処理面)においては、布帛を構成する繊維の表面に樹脂(P)が層状に存在する。このような樹脂付き布帛の表面(前処理面)にインクが付与された場合、樹脂(P)の層上に印捺画像に応じたインク塗膜が形成される。そして、このインク塗膜を加熱することで、樹脂(P)に分散性染料を染着させて、発色させることで、布帛に所期の画像が印捺される。なお、この際、分散性染料は、略分子の状態で樹脂(P)のマトリックス中に拡散されている。
【0151】
加熱方法は、従来公知の方法でよく、インク、樹脂(P)及び布帛の種類に応じて適宜選択される。例えば、蒸気によるスチーミング;乾熱によるベーキング、サーモゾル;過熱蒸気によるHTスチーマー;熱プレスなどが含まれる。中でも、スチーミング方式、ベーキング方式、熱プレス方式が好ましい。
【0152】
加熱温度は、加熱方法にもよるが、樹脂付き布帛、具体的には、布帛に付与された樹脂(P)への分散性染料の染着を強固にする観点では、95℃以上220℃未満であることが好ましく、95~190℃であることがより好ましく、100~180℃であることがさらに好ましい。
【0153】
なお、ダイレクト捺染では、必要に応じて他の工程をさらに行ってもよい。例えば、上記インクの付与の後、加熱の前に樹脂付き布帛に付与したインクを乾燥させる予備乾燥工程を行ってもよい。
【0154】
(転写捺染)
転写捺染では、まず、転写媒体上に、公知のインク塗布方法、例えば、インクジェット方式でインクを付与した後、乾燥させて、印捺画像に対応するインク層(転写用画像)を形成する。なお、転写捺染では、分散性染料として昇華染料を含有するインクが用いられる。
【0155】
本発明で用いられる転写媒体としては、転写媒体の表面にインク層を形成でき、さらに、そのインク層を樹脂付き布帛に転写可能なもの、例えば、転写時に昇華染料の昇華を妨害しないもの、であれば特に制限されない。転写媒体としては、例えば、シリカなどの無機微粒子でインク受容層が表面上に形成されている紙が好ましく、インクジェット用の専用紙や転写紙が挙げられる。
【0156】
次いで、転写媒体上の転写用画像の表面を、樹脂付き布帛の表面(前処理面)と接触させて加熱(熱プレス)する。これにより、転写媒体上に形成された転写用画像中の分散性染料としての昇華染料を、樹脂付き布帛、具体的には、布帛に付与された樹脂(P)に対して昇華転写させて染色させることで、布帛に所期の画像が印捺される。なお、このようにして、樹脂(P)に対して昇華転写された分散性染料(昇華染料)は、略分子の状態で樹脂(P)のマトリックス中に拡散されている。
【0157】
転写温度(熱プレス温度)は、分散性染料としての昇華染料の昇華温度にもよるが、例えば、190~210℃の範囲内であることが好ましい。また、プレス圧力は、平型の場合は200~500g/cmの範囲内、連続式の場合は2~6kg/cmの範囲内であることが好ましい。
【0158】
(3)結晶成長工程
結晶成長工程は、染色工程後、樹脂(P)を染色した上記分散性染料を結晶成長させる工程である。上記のとおり、染色工程において、分散性染料は、樹脂付き布帛、具体的には、布帛に付与された樹脂(P)を染色する。そして、染色工程後の分散性染料は、略分子の状態で樹脂(P)のマトリックス中に拡散されている。結晶成長工程は、上記分子状態の分散性染料を樹脂(P)のマトリックス中で結晶成長させる工程である。
【0159】
このようにして、結晶成長工程で分散性染料を結晶成長させることで、布帛に付与された樹脂(P)を染色した分散染料が結晶化した上記本発明の捺染布帛が得られる。上記のとおり、本発明の捺染布帛は、分散染料が結晶化していることで布帛に印捺された画像は耐熱性に優れる。また、本発明の捺染布帛は、簡易な構成であることで、布帛の捺染前の風合いを殆ど損なうことがない。
【0160】
樹脂(P)のマトリックス中の分散性染料を結晶成長させる方法としては、分散性染料が結晶成長する方法であれば特に制限されない。なお、結晶成長工程において分散性染料が結晶成長されたか否か、すなわち、得られた捺染布帛において分散性染料が結晶化しているか否かは、上記本発明の捺染布帛と同様にXRD測定により判定することができる。分散性染料の結晶化の程度は、上記判定条件を満たせば、特に限定されない。分散性染料の結晶化の程度は、分散性染料の結晶粒子の大きさにより認識できる。分散性染料の結晶粒子の大きさは、上記範囲が好ましい。
【0161】
樹脂(P)のマトリックス中の分散性染料を結晶成長させる方法として、具体的には、上記染色工程後の布帛(以下、「捺染布帛前駆体」ともいう。)を洗浄液で洗浄する方法が挙げられる。
【0162】
捺染布帛前駆体の洗浄に用いる洗浄液としては、水を主成分とする洗浄液が好ましく、水以外の洗浄成分、例えば、界面活性剤を含まない水のみからなる洗浄液がより好ましい。すなわち、洗浄液としては、水が好ましい。水は、イオン交換水、蒸留水、又は純水であり得る。
【0163】
捺染布帛前駆体の洗浄方法としては、具体的には、洗浄液、好ましくは、水に捺染布帛前駆体を浸漬する方法が好ましい。捺染布帛前駆体を、洗浄液、好ましくは、水に浸漬する浸漬時間は、以下に説明する浸漬温度にもよるが、30~120秒の範囲内であることが好ましく、30~60秒がより好ましい。
【0164】
浸漬時間を上記範囲内にすることで、分散性染料の結晶成長を適度な範囲で行うことが可能であり好ましい。浸漬時間が30秒以上であれば、分散性染料の結晶成長が十分に行われ、得られる印捺画像の耐熱性が十分に向上する。また、浸漬時間が120秒以下であれば、印捺画像において、過度な結晶成長による変色の発生及び分散性染料が脱落し濃度低下を引き起こすことを抑制し易い。
【0165】
また、捺染布帛前駆体を洗浄液、好ましくは水に浸漬する際の浸漬温度は30℃未満が好ましく、15~25℃の範囲がより好ましく、20~25℃の範囲がさらに好ましい。浸漬温度が30℃未満であれば、分散性染料の結晶成長の制御が容易である。また、浸漬温度が15℃以上、さらには20℃以上であれば、生産効率が向上し好ましい。なお、浸漬温度は、浸漬時の捺染布帛前駆体の温度であり、洗浄液、好ましくは水の温度に相当する。
【0166】
浸漬処理における浸漬温度を上記範囲に維持するために、浸漬処理においては、浸漬前の捺染布帛前駆体の温度を、洗浄液、好ましくは水の温度と略同等にしておくことが好ましい。また、捺染布帛前駆体の量に対して十分な量の洗浄液、好ましくは水を用いることが好ましい。
【0167】
上記のようにして、捺染布帛前駆体を洗浄することで分散性染料の結晶成長を行い捺染布帛とする場合、洗浄後、捺染布帛を乾燥することが好ましい。乾燥方法は、特に限定されず、温風、ホットプレート、又はヒートローラーによる加熱であることが好ましい。短時間で十分に液状媒体を除去する観点では、加熱乾燥がより好ましい。乾燥温度は、110℃以下が好ましく、70~100℃の範囲がより好ましい。乾燥温度が110℃以下であれば、上記で得られた分散性染料の結晶の融解又は昇華が抑制され、結晶状態が十分に維持できる。
【0168】
本発明の捺染方法において、結晶成長工程後の捺染布帛に対して、上記同様の観点から110℃を超える加熱処理を行わないことが好ましい。このような、加熱処理として、例えば、結晶成長工程後の捺染布帛に対して樹脂被覆層を形成する際の加熱処理等が挙げられる。
【実施例0169】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0170】
[捺染布帛の製造]
以下の方法で、分散性染料と樹脂(P)を用いて布帛を印捺し、表IIに示す実施例又は比較例の捺染布帛を製造した。全ての例において、布帛としては、綿ブロード40、綿100%を用いた。
【0171】
(1)前処理工程
(1-1)前処理液の調製
樹脂(P)を含有する以下の市販品とイオン交換水を用いて、表Iに示す組成となるように各樹脂(P)の水溶液(分散液)を作製し、前処理液1~5とした。具体的には、各前処理液において樹脂(P)の固形分が20質量%又は30質量%(表I参照)となるように各成分の添加量を調整して、前処理液を作製した。
【0172】
<市販品>
・スーパーフレックス300(第一工業製薬社製);ポリウレタン樹脂の水分散液(樹脂固形分30質量%)
・SRN170C(クラリアント社製);ポリエチレングリコール-ポリエステル(PET)共重合体の水分散液(樹脂固形分70質量%)
・SRN260(クラリアント社製);ポリエチレングリコール-ポリエステル(PET)共重合体の水分散液(樹脂固形分60質量%)
・PEG6000(富士フイルム和光純薬社製);ポリエチレングリコール(樹脂固形分100質量%)
・PPG(富士フイルム和光純薬社製);ポリプロピレングリコール(樹脂固形分100質量%)
【表1】
【0173】
(1-2)前処理
各実施例及び比較例において、布帛に、表IIに示す前処理液を、表IIに示すとおりマングル法(ディッピング法)又はインクジェット法で付与した。
【0174】
マングル法は、布帛を、前処理液(温度は20~25℃)を満たした浴槽中に浸漬させた後、余分な前処理液をマングルロールで、ピックアップ率が80質量%(浸漬前の布帛に対する付着した前処理液の質量比率)となるように絞る方法とした。なお、前処理液の布帛への付量は80g/m(以下の乾燥後の樹脂(P)の付与量は16g/m)であった。
【0175】
インクジェット法は、インクジェット用ヘッド(コニカミノルタ社製KM1024iMAE)を有するインクジェットプリンターを用いて、布帛に、付量30g/m(以下の乾燥後の樹脂(P)の付与量は6g/m)となるように前処理液を付与した。
【0176】
各例において、前処理液の付与後、110℃で3分間乾燥させて、樹脂付き布帛を得た。
【0177】
(2)染色工程
樹脂付き布帛への、分散性染料を含有するインクを用いた染色の方法としては、転写捺染法(昇華転写法)を用いた。
【0178】
(2-1)インクの調製
分散剤としてDisperbyk-190(ビックケミー・ジャパン株式会社製、酸価10mgKOH/g)とイオン交換水とを均一になるまで撹拌混合した後、分散性染料として、昇華染料である、C.I.DisperseRed60を加えて、予備混合し、動的光散乱法によって測定されるZ-平均粒子径が150~200nmの範囲内になるまで分散させて、分散性染料濃度が20質量%の分散液を調製した。
【0179】
このとき、分散性染料の含有量が分散液の全質量に対して20質量%となり、分散剤の固形分の量が分散性染料の全質量に対して30質量%になるよう、分散剤、イオン交換水及び分散性染料の量を調整した。なお、動的光散乱法によるZ-平均粒子径の測定は、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーで、ゼータサイザー1000、Malvern社製(「ゼータサイザー」は同社の登録商標)を使用して行った。
【0180】
得られた分散液を30質量%、溶剤としてグリセリン10質量%、エチレングリコール25質量%、防腐剤としてプロキセルGXL0.1質量%およびpH調整剤としてクエン酸Na水和物を適量添加し、イオン交換水で合計100質量%となるように混合した後、1μmメッシュのフィルターでろ過して、マゼンタ分散インクを得た。
【0181】
(2-2)転写紙へのインクの付与
画像形成装置として、インクジェット用ヘッド(コニカミノルタ社製KM1024iMAE)を有するインクジェットプリンターを準備した。また、転写紙としてA4昇華転写紙糊付(システムグラフィ製)を準備した。
【0182】
上記で得られたマゼンタ分散インクを、インクジェット用ヘッドのノズルから吐出させて、転写紙上にベタ画像を形成した。具体的には、主走査540dpi×副走査720dpiにて、細線格子、諧調、およびベタ部を含んだ画像(全体で200mm×200mm)を形成した。dpiとは、2.54cm当たりのインク液滴(ドット)の数を表す。吐出周波数は、22.4kHzとした。その後、インクを付与した転写紙を、乾燥機にて50~80℃で30秒間乾燥させてインク層付きの転写紙を得た。全ての例において、このようにして得られたインク層付きの転写紙を用いた。
【0183】
(2-3)樹脂付き布帛へのインクの転写
各例において、樹脂付き布帛の表面(前処理面)に、上記で得られたインク層付きの転写紙を、インク層が上記表面(前処理面)と接するように重ね合わせた。これを、転写装置(ヒートプレス機)を用いて、200℃で60秒間、プレス圧300g/cmで熱圧着した。それにより、転写紙上のインク層を樹脂付き布帛上に転写させて、捺染布帛前駆体を得た。
【0184】
(3)結晶成長工程
各例で得られた捺染布帛前駆体を、25℃のイオン交換水を張った浴槽に、実施例1~8については、30~180秒間の範囲で、表IIに示す時間浸漬させ、取り出した後に110℃で完全に乾燥させて、捺染布帛を得た。比較例1~5については、結晶成長工程を行わず、上記で得られた捺染布帛前駆体をそのまま捺染布帛とした。
【0185】
また、比較例6については、上記で得られた捺染布帛前駆体を25℃のイオン交換水を張った浴槽に60秒間浸漬し(水洗処理)、取出し後に110℃で完全に乾燥させ、さらに、アクリル樹脂を20質量%含有する処理液を用いて上記同様のマングル法で処理した。その後、180℃で1分間加熱乾燥して、アクリル樹脂被覆層付きの捺染布帛を得た。
【0186】
各例における、前処理液の種類と付与方法、結晶成長工程の条件、及び樹脂被覆層の有無を表IIに示す。このようにして、表IIに示すとおり実施例1~8及び比較例1~6の捺染布帛を製造した。なお、比較例6については、以下の結晶成長の評価結果から、捺染布帛前駆体をイオン交換水に浸漬する処理を行った際には分散性染料は結晶化されているものの、その後の樹脂被覆層の作製時の加熱乾燥により分散性染料の結晶が融解又は昇華し、結晶ピークが観察されなかったものと想定される。比較例6では、最終的に得られた、捺染布帛において、分散性染料の結晶が存在しないことから、表IIにおいては、結晶成長工程処理時間の欄に「水洗処理」として、その処理時間を記載した。
【0187】
[評価]
各例で得られた捺染布帛について、以下の評価を行った。結果を表IIに示す。
【0188】
(1)結晶成長評価
上記した条件で捺染布帛のXRD測定を行い、得られたXRDスペクトルにおいて分散性染料の結晶ピークの有無を確認した。
【0189】
(2)発色性評価
画像濃度は、分光測色機(コニカミノルタ社製)により測定し、K/S値を算出した。なお、K/S値は、下記式で定義される表面色濃度の指数である。
Kubelka-Munk式:K/S=(1-R)/2S
(K:光の吸収係数、S:光の散乱係数、R:表面反射率)
【0190】
K/S値が大きいほど色濃度は高く、小さいほど色濃度は低いことを意味する。実施例について、結晶成長工程前後での、色濃度を比較したときの濃度低下率を算出し、以下の基準で評価した。
【0191】
濃度低下率(%)=(結晶成長工程前のK/S値-結晶成長工程後のK/S値)/(結晶成長工程前のK/S値)×100
【0192】
(評価基準)
5:濃度低下率が10%未満
4:濃度低下率が10%以上15%未満
3:濃度低下率が15%以上20%未満
2:濃度低下率が20%以上50%未満
1:濃度低下率が50%以上
【0193】
なお、比較例1~5は結晶成長工程を有しないため、発色性の評価を行っていない。また、比較例6については、水洗処理の前後及び樹脂被覆層形成の前後において、上記式に準じて濃度低下率を算出し、上記同様の評価基準で評価した。
【0194】
(3)耐熱性評価
捺染布帛に未加工の綿ブロード40(白布)を合わせて、ホットプレス機で200℃、15秒、プレス圧300g/cmのプレス操作を5回実施した。その都度白布を入れ替えて、5回目のプレス操作に用いたプレス後の白布の汚染度合いを、目視で、試験に用いた未加工の綿ブロード40(白布)と比較し、以下の基準で評価した。
【0195】
(評価基準)
5:汚染は確認できず、変わらない。
4:汚染がやっと判別できる程度で、実用上問題ないレベルである。
3:軽微な汚染があるが、実用上問題ないレベルである。
2:汚染があるが、実用上問題ないレベルである。
1:汚染が悪く、実用上問題となるレベルである。
(4)風合い評価
得られた捺染布帛と生地(未加工の綿ブロード40)の風合いを手指で触って、官能的に評価した。そして、以下の基準に基づいて評価した。
【0196】
(評価基準)
5:生地本来の柔らかさを維持しており、ほとんど(画像形成前と)変わらない。
4:画像形成前と比べてわずかに硬くなっているが、生地の風合いは損なわれておらず、実用上問題ないレベルである。
3:画像形成前と比べてわずかに硬くなっており、生地の風合いがわずかに変わっているが、実用上問題ないレベルである。
2:画像形成前と比べて少し硬くなっており、生地の風合いが少し変わっているが、実用上問題ないレベルである。
1:画像形成前と比べて硬くなっており、生地の風合いが顕著に損なわれており、実用上問題となるレベルである。
【0197】
【表2】
【0198】
本発明の捺染布帛においては、所期の画像に対応して付与された分散性染料が、布帛に付与した樹脂(P)のマトリックス中で結晶化していることで、布帛に印捺された画像の耐熱性が向上している。また、本発明の捺染布帛においては、捺染の前後における布帛の風合いの変化が抑制されている。比較例の捺染布帛においては、耐熱性と風合いの維持が両立しているものはない。比較例6の捺染布帛は、樹脂被覆層を備えることで、耐熱性を有するが、風合いは悪化している。ただし、比較例6の捺染布帛は、耐熱性についても、上記のとおり分散性染料が結晶状態では存在しないため、低いレベルである。