(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022016915
(43)【公開日】2022-01-25
(54)【発明の名称】薄板ミラー構造体およびその製造方法、ならびに望遠鏡
(51)【国際特許分類】
G02B 5/08 20060101AFI20220118BHJP
G02B 7/00 20210101ALI20220118BHJP
B29C 65/02 20060101ALI20220118BHJP
B29C 65/40 20060101ALI20220118BHJP
B29C 65/50 20060101ALI20220118BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20220118BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20220118BHJP
【FI】
G02B5/08 A
G02B7/00 F
B29C65/02
B29C65/40
B29C65/50
B32B5/28 Z
B32B7/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020119908
(22)【出願日】2020-07-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日本天文学会2019年秋季年会 令和元年9月12日 The 15th Symposium of Japanese Research Community on X-ray Imaging Optics 令和元年10月25日
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】粟木 久光
【テーマコード(参考)】
2H042
2H043
4F100
4F211
【Fターム(参考)】
2H042DA05
2H042DA11
2H042DA12
2H042DA14
2H042DC07
2H042DE00
2H043AE02
2H043CA02
4F100AB24A
4F100AB25A
4F100AD11B
4F100AG00A
4F100AR00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CB05C
4F100DG01B
4F100DH02B
4F100EH66A
4F100GB90
4F100JN06A
4F100YY00A
4F211AH78
4F211TA01
4F211TA04
4F211TA05
4F211TJ30
(57)【要約】
【課題】大型化しても強度を維持しつつ重量の増加が抑制されるとともに、反射面の平滑化が図られる薄板ミラー構造体およびその製造方法、ならびに望遠鏡を提供する。
【解決手段】ミラー構造体10は、鏡面層11、基板12および接合シート層13を備える。鏡面層11は、一方の面に反射面14を有する。基板12は、炭素繊維強化プラスチックで形成され、鏡面層11を支持する。接合シート層13は、鏡面層11と基板12との間に設けられ、粘着シートで形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に反射面を有する鏡面層と、
炭素繊維強化プラスチックで形成され、前記鏡面層を支持する基板と、
前記鏡面層と前記基板との間に設けられ、粘着シートで形成されている接合シート層と、
を備える薄板ミラー構造体。
【請求項2】
前記鏡面層は、厚さが100μm以下のガラスの薄板である請求項1記載の薄板ミラー構造体。
【請求項3】
前記接合シート層は、前記鏡面層と前記基板とが対向する面の全体に設けられている請求項1または2記載の薄板ミラー構造体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項記載の薄板ミラー構造体と、
前記ミラー構造体の前記鏡面層で反射した電磁波が光学系を通して導入される検出部と、
を備える望遠鏡。
【請求項5】
基板を準備する基板準備工程と、
前記基板に積層される鏡面層を準備する鏡面層準備工程と、
前記準備工程で準備された前記基板と前記鏡面層準備工程で準備された鏡面層との間に、接合シート層を挟み込んで、前記接合シート層を用いて前記樹脂フィルムと前記鏡面層とを接合する接合工程と、
前記接合工程で接合された前記基板と前記鏡面層とを加熱する加熱工程と、
を含むミラー構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板ミラー構造体およびその製造方法、ならびに望遠鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、反射式の望遠鏡に用いられるミラー構造体は、繊維強化プラスチック(FRP)などの基板に反射膜を備える構成が知られている。反射膜は、例えばAuやPtなどの金属が蒸着された蒸着膜や蒸着フィルムが用いられ、基板に取り付けられている。FRP製の基板は、表面に微小な凹凸が存在する。そのため、ミラー構造体は、基板の表面の凹凸が鏡面を形成する反射膜に影響しないことが求められる。そこで、特許文献1では、反射面を有する鏡面層と基板との間に、樹脂フィルムを挟み込むとともに、鏡面層と樹脂フィルム、および樹脂フィルムと基板とを接着剤層によって接着している。これにより、基板の表面の凹凸が反射面を有する鏡面層に与える影響を低減している。
【0003】
しかしながら、近年、さらなる解像度の向上の要求から、ミラー構造体の大型化が求められている。ミラー構造体が大型化すると、重量の増加を招き、強度の向上も必要となるという問題がある。また、これまでにも炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いたミラー構造体が提案されている。このCFRPを用いたミラー構造体は、接着剤を用いて平滑面を形成する手法が提案されている。しかし、接着剤を用いる場合、硬化時の収縮による鏡面の変形が解像度の向上を阻害するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、大型化しても強度を維持しつつ重量の増加が抑制されるとともに、反射面の平滑化が図られる薄板ミラー構造体およびその製造方法、ならびに望遠鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態によるミラー構造体は、鏡面層と、CFRP製の基板を備えている。CFRP製の基板は、成形の自由度が高い。そのため、解像度の向上のために大型化しても、形状精度の高い基板が形成される。そして、CFRP製の基板は、軽量かつ強度が高いことから、大型化によって強度を高める必要が生じても、基板を薄板化することで重量の増加を抑えることができる。
一方、CFRP製の基板は、その性質上、従来のFRPに比較して表面が粗く凹凸が大きいという問題がある。そこで、本実施形態のミラー構造体は、鏡面層と基板との間に接合シート層を設けている。接合シート層は、硬化時の収縮が生じにくい粘着剤によって構成されている。鏡面層と基板との間に接合シート層を挟み込むことにより、基板の表面の凹凸はこの接合シート層で吸収され、鏡面層の反射面への影響が低減される。また、この接合シート層で鏡面層と基板との間を接合するとき熱を加えることにより、CFRP製の基板の表面を軟化させ、接合シート層とともに基板の表面の凹凸を吸収することも有効である。この結果、鏡面層が有する反射面は、基板の表面における凹凸の影響が低減される。したがって、大型化しても強度を維持しつつ重量の増加を抑制することができるとともに、反射面の平滑化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態によるミラー構造体の構成を示す模式図
【
図2】一実施形態によるミラー構造体に用いる接合シート層の構成を示す模式図
【
図3】一実施形態によるミラー構造体の構成を示す模式的な斜視図
【
図4】一実施形態によるミラー構造体の構成を示す模式的な斜視図
【
図5】一実施形態によるミラー構造体を適用した望遠鏡を示す模式図
【
図6】一実施形態によるミラー構造体の製造工程を説明するための模式的な斜視図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、一実施形態による薄板ミラー構造体(以下、「ミラー構造体」と省略する。)を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、ミラー構造体10は、鏡面層11、基板12、および接合シート層13を備える。鏡面層11は、一方の面に反射面14を有している。本実施形態の場合、薄板化のために、鏡面層11は、ガラスの薄板で形成されている。具体的には、鏡面層11は、基板12の形状に沿って柔軟に形状が変化する100μm以下のガラスの薄板である。この鏡面層11を形成するガラスの薄板は、表面の粗さσがσ=0.1~1.0nm程度である。本実施形態の場合、鏡面層11に使用したガラスの薄板の表面粗さσは、σ=0.4nmである。また、本実施形態の場合、鏡面層11は、ガラスの薄板の基板12と反対側の面に反射面14を有している。反射面14は、ガラスの薄板に、例えばPt、Auなどの金属を成膜することによって形成される。
【0009】
基板12は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で形成されている。この基板12は、鏡面層11を支持する。基板12は、鏡面層11とは別体として、例えば炭素繊維を含むプリプレグを用いて、適用する望遠鏡にあわせた形状に成形される。このとき、基板12の厚みは、1mm以下である。基板12は、積層したプリプレグを加熱することにより、例えば双曲面や球面などの曲面または平面など予め設定された任意の形状に成形される。
【0010】
接合シート層13は、
図2に示すように基材15および粘着剤16を有している。基材15は、薄いシート状に形成されている。このように、基材15を薄いシート状に形成することにより、接合シート層13は粘着剤16とともに薄く均一な厚さに形成される。これにより、鏡面層11と基板12とは、接合シート層13によって高い寸法精度で接合される。なお、接合シート層13は、粘着剤16をシート状に形成することにより、基材15を有していないいわゆる基材レスの粘着シートを用いてもよい。粘着剤16は、シート状の基材15の厚さ方向で両方の端面にそれぞれ設けられている。すなわち、接合シート層13は、両面粘着シートであり、いわゆる両面テープである。接合シート層13は、厚さが10μm以下の極めて薄いものが好ましい。本実施形態の場合、接合シート層13は、その厚さが5μmである。また、本実施形態の場合、接合シート層13の基材15は加熱によって軟化しやすいポリエステル製のフィルムであり、粘着剤はアクリル系の粘着剤16である。接合シート層13は、両面粘着シートを用いる場合、粘着剤16を覆う剥離層17を有している。剥離層17は、粘着剤16を保護するとともに、鏡面層11または基板12への貼り付け時に除去される。
【0011】
接合シート層13は、
図1に示すように鏡面層11と基板12との間に設けられている。これにより、鏡面層11と基板12とは、接合シート層13によって一体に接合されている。具体的には、鏡面層11は、基板12の反射面14側において基板12に積層され、接合シート層13によって基板12と接合されている。接合シート層13は、鏡面層11と基板12とが対向している部分において、
図3に示すように全体に設けてもよく、
図4に示すように一部に設けてもよい。本実施形態の場合、接合シート層13は、
図3に示すように鏡面層11と基板12とが対向している面の全体に設けられている。接合シート層13を鏡面層11と基板12とが対向している面の全体に設けることにより、一部に設ける場合と比較して、基板12に対する鏡面層11の浮きなどによる形状精度の低下が抑えられる。そのため、接合シート層13を対向する鏡面層11と基板12との間の全体に設ける場合、反射面14で反射した像の解像度は向上する。
【0012】
図1に示すようなミラー構造体10は、
図5に示すように望遠鏡20に適用される。一例として
図5に示す望遠鏡20は、ウォルター型のX線望遠鏡である。望遠鏡20は、筒状に形成されたミラー構造体10および検出部21を備えている。望遠鏡20は、対象となる物体から放射される電磁波が入射する。入射した電磁波は、ミラー構造体10を含む光学系22を経由して検出部21に到達する。検出部21は、例えば図示しないカメラなどの撮像装置を有している。ミラー構造体10を含む光学系22を経由して検出部21に到達した電磁波は、この検出部21において結像する。望遠鏡20で観測される対象となる電磁波は、X線に限らず、例えば赤外線、可視光線、紫外線など、任意の波長の電磁波であってもよい。
【0013】
次に、上記の構成によるミラー構造体10の製造方法について説明する。
図6に示すように基板12は、炭素繊維を含むCFRPのプリプレグを用いて用意される。CFRPのプリプレグは、適用する望遠鏡20で要求されるミラー構造体10の構造にあわせて成形される。基板12は、例えばミラー構造体10を反射式の望遠鏡20の反射鏡に用いる場合、反射面14が形成される内周側が凹となる双曲面に形成される。プリプレグは、一般的なCFRPと同様に加熱することにより成形される。鏡面層11は、ガラスの薄板から成形後の基板12の形状にあわせて用意される。鏡面層11は、予め金属膜を蒸着することにより反射面14を形成してもよく、基板12と接合した後に金属膜を蒸着して反射面14を形成してもよい。
【0014】
用意された鏡面層11と基板12とは、接合シート層13で接合される。具体的には、接合シート層13は、鏡面層11と基板12との間に設けられる。本実施形態の場合、接合シート層13は、鏡面層11の一方の端面つまり鏡面層11と対向する側の面に貼付けられる。接合シート層13は、基板12側の剥離層17を除去した後に基板12に貼付けられる。基板12に貼付けられた接合シート層13は、基板12と反対側の剥離層17が除去された後、鏡面層11が貼付けられる。これにより、基板12と鏡面層11とは、これらの間に設けられた接合シート層13によって貼付けられる。
【0015】
鏡面層11と基板12とを接合シート層13で貼付けた後に加熱することにより、加熱された基板12および接合シート層13は軟化する。基板12および接合シート層13が軟化することにより、基板12と接合シート層13との間にはなじみが生じる。このとき、積層した鏡面層11および基板12は、所望の形状に加工された図示しない成型金型に載置し、この成形金型に押し付けられる。このなじみによって、基板12の端面つまり基板12の鏡面層11側に形成されている凹凸は、軟化した基板12および接合シート層13のなじみによって成形金型の形状に沿って変形するとともに、表面の凹凸が吸収される。これにより、基板12の鏡面層11側の形成される凹凸が接合シート層13とともに平滑化され、基板12の凹凸が鏡面層11となるガラスの薄板の形状に与える影響が低減される。その結果、鏡面層11の反射面14は、CFRP製の基板12に由来する特有の凹凸がある場合でも、平滑化が図られ、光学的な精度が向上する。
【0016】
以上説明した一実施形態によるミラー構造体10は、鏡面層11と、CFRP製の基板12とを備えている。CFRP製の基板12は、成形の自由度が高い。そのため、解像度の向上のために大型化しても、形状精度の高い基板12が形成される。そして、CFRP製の基板12は、軽量かつ強度が高いことから、大型化によって強度を高める必要が生じても、重量の増加を抑えることができる。
【0017】
一方、CFRP製の基板12は、その性質上、従来のFRPに比較して表面が粗く凹凸が大きいという問題がある。そこで、本実施形態のミラー構造体10は、鏡面層11と基板12との間に接合シート層13を設けている。接合シート層13は、基材15の両面に粘着剤16が塗布されている両面粘着シートである。鏡面層11と基板12との間に接合シート層13を挟み込むことにより、基板12の表面の凹凸はこの接合シート層13で吸収され、鏡面層11の反射面14へ反映されにくくなる。そして、この接合シート層13で鏡面層11と基板12との間を接合するときに加熱することにより、CFRP製の基板12の表面が軟化するとともに、成型金型にあてがわれることにより、接合シート層13の基材15および粘着剤16の軟化によって基板12の表面の凹凸を吸収すると同時に成型金型の形状にあわせられたミラー構造体10を成形可能である。これらの結果、鏡面層11にガラスの薄板を用いる場合でも、鏡面層11が有する反射面14は、基板12の表面における凹凸の影響が低減される。したがって、大型化しても強度を維持しつつ重量の増加を抑制することができるとともに、反射面14の平滑化を図ることができる。
【0018】
また、一実施形態によるミラー構造体10の製造方法では、鏡面層11と基板12とを接合シート層13で仮に貼付けた後に加熱している。これにより、基板12および接合シート層13が軟化し、双方の間になじみが生じる。また、加熱時に成型金型に押し付けることにより、CFRP製の基板12が軟化し、成形金型にあわせられた形状となる。そのため、ミラー構造体10は、薄板の構造体であっても、形状精度が向上する。これらのなじみは、CFRP製の基板12に特有の凹凸を吸収する。さらに、硬化時の収縮が生じにくい接合シート層13を用いることにより、鏡面層11と基板12との接合時における変形が低減される。そのため、鏡面層11は、形状精度が向上する。したがって、凹凸を有するCFRP製の基板12を用いる場合でも、反射面14の平滑化を図ることができ、光学特性を向上することができる。
【0019】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0020】
図面中、10はミラー構造体、11は鏡面層、12は基板、13は接合シート層、14は反射面、15は基材、16は粘着剤、20は望遠鏡、21は検出部、22は光学系を示す。