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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169186
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H02G 3/04 20060101AFI20221101BHJP
   H02G 3/03 20060101ALI20221101BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H02G3/04 062
H02G3/03
H01B7/00 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075054
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北原 裕太
【テーマコード(参考)】
5G309
5G357
【Fターム(参考)】
5G309AA10
5G357DA03
5G357DB03
5G357DD01
5G357DE08
(57)【要約】
【課題】放熱性を向上させる。
【解決手段】ワイヤーハーネスW1は、可撓性を有する筒状の外装部材15と、外装部材15内に挿通された電線10とを備え、外装部材15の内部が大気圧よりも低圧とされることによって、外装部材15が電線10に対して近接又は密着している。外装部材15の少なくとも一部が電線10に密着しているので、電線10と外装部材15との間に介在して熱抵抗となる空気の量が極少となる。これにより、電線10から外装部材15への熱伝達効率が良好となるので、放熱性に優れている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する筒状の外装部材と、
前記外装部材内に挿通された電線とを備え、
前記外装部材の内部が大気圧よりも低圧とされることによって、前記外装部材が前記電線に対して近接又は密着しているワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記外装部材は、前記外装部材内の空気の流出を可能とし、前記外装部材内への空気の流入を規制する逆止弁を備えている請求項1に記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記逆止弁は、隣り合う2本の前記電線の間の谷間に臨むように配置されている請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記外装部材内を気密状に保持する気密保持部材を備えており、
前記逆止弁は、前記電線の軸線方向において2つの前記気密保持部材の中間領域に配置されている請求項2又は請求項3に記載のワイヤーハーネス。
【請求項5】
前記外装部材内を気密状に保持する気密保持部材を備えており、
前記気密保持部材は、ジェル状樹脂材料を硬化したシール材である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項6】
前記外装部材内を気密状に保持する気密保持部材を備えており、
前記気密保持部材は、
前記電線を気密状に貫通させる電線保持部材と、
前記電線保持部材の外周面との間で前記外装部材を気密状に挟み付ける挟圧部材とを備えて構成されている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高圧バッテリに接続された高圧電線を含む複数本の電線と、複数本の電線をまとめて包囲する筒状の外装材とを備えたワイヤーハーネスが開示されている。電線は通電によって発熱し、電線が発生する熱は、外装材に伝達され、外装材の外周面から大気中に放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-101510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のワイヤーハーネスは、外装材が金属パイプからなるため、電線の外周面と外装材の内周面との間には空気が存在する。空気は熱伝導率が小さいため、電線と外装材との間の熱抵抗が大きく、外装材の内部に熱が籠もってしまう。特に、防水性を有するワイヤーハーネスの場合は、外装材の内部が液密状に封止されているため、外装材内の高温の空気を大気中に流出させることができず、熱が籠もり易い。
【0005】
本開示のワイヤーハーネスは、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、放熱性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のワイヤーハーネスは、
可撓性を有する筒状の外装部材と、
前記外装部材内に挿通された電線とを備え、
前記外装部材の内部が大気圧よりも低圧とされることによって、前記外装部材が前記電線に対して近接又は密着している。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、放熱性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例1のワイヤーハーネスにおいて外装部材の内部を真空引きした状態をあらわす一部切欠平面図である。
図2図2は、実施例1のワイヤーハーネスにおいて外装部材の内部を真空引きする前の状態をあらわす一部切欠平面図である。
図3図3は、図1のA-A線拡大断面図である。
図4図4は、図1のB-B線拡大断面図である。
図5図5は、図1のC-C線拡大断面図である。
図6図6は、図2のD-D線拡大断面図である。
図7図7は、実施例2のワイヤーハーネスにおいて外装部材の内部を真空引きする前の状態をあらわす断面図である。
図8図8は、実施例2のワイヤーハーネスにおいて外装部材の内部を真空引きした後の状態をあらわす断面図である。
図9図9は、実施例2のワイヤーハーネスにおいて逆止弁を電線の間の谷間に配置した状態をあらわす断面図である。
図10図10は、実施例3のワイヤーハーネスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示のワイヤーハーネスは、
(1)可撓性を有する筒状の外装部材と、前記外装部材内に挿通された電線とを備え、前記外装部材の内部が大気圧よりも低圧とされることによって、前記外装部材の内部が大気圧よりも低圧とされることによって、前記外装部材が前記電線に対して近接又は密着している。本開示の構成によれば、外装部材が電線に対して近接又は密着しているので、電線と外装部材との間に介在して熱抵抗となる空気の量が極少となる。これにより、電線から外装部材への熱伝達効率が良好となるので、放熱性に優れている。
【0010】
(2)前記外装部材は、前記外装部材内の空気の流出を可能とし、前記外装部材内への空気の流入を規制する逆止弁を備えていることが好ましい。この構成によれば、逆止弁を介して真空引きすることによって、外装部材内を大気圧よりも低圧にすることができる。気密空間の圧力が高まっても、逆止弁を介して真空引きすることによって、外装部材内を大気圧よりも低圧の状態に戻すことができる。
【0011】
(3)(2)において、前記逆止弁は、隣り合う2本の前記電線の間の谷間に臨むように配置されていることが好ましい。この構成によれば、真空引きの過程では、外装部材内の空気が隣り合う電線の間の谷間に向かって流れ、谷間から遠い側から外装部材が電線の外周に接近していく。逆止弁が谷間に臨むように配置されているので、谷間以外の領域に空気溜まりが生じることを防止できる。
【0012】
(4)(2)又は(3)において、前記外装部材内を気密状に保持する気密保持部材を備えており、前記逆止弁は、前記電線の軸線方向において2つの前記気密保持部材の中間領域に配置されていることが好ましい。逆止弁を一方の気密保持部材の近傍に配置した場合には、他方の気密保持部材から逆止弁に至る真空引きの排気経路が長くなるが、逆止弁を2つの気密保持部材の中間領域に配置したので、気密保持部材から逆止弁に至る排気経路が短くなる。
【0013】
(5)(1)~(4)において、前記外装部材内を気密状に保持する気密保持部材を備えており、前記気密保持部材は、ジェル状樹脂材料を硬化したシール材であることが好ましい。この構成によれば、電線の外周面と外装部材の内周面との間に、例えば編組線のような細かい凹凸を有する部材が介在しても、外装部材内を気密状態に保持することができる。
【0014】
(6)(1)~(4)において、前記外装部材内を気密状に保持する気密保持部材を備えており、前記気密保持部材は、前記電線を気密状に貫通させる電線保持部材と、前記電線保持部材の外周面との間で前記外装部材を気密状に挟み付ける挟圧部材とを備えて構成されていることが好ましい。この構成によれば、外装部材内の気密状態を機械的に保持することができるので、接着剤を使用する場合のように、熱処理や硬化のための養生が不要である。
【0015】
[本開示の実施形態の詳細]
[実施例1]
本開示のワイヤーハーネスを具体化した実施例1を、図1図6を参照して説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明において、ワイヤーハーネスW1に関する長さ方向と軸線方向を同義の文言として用いる。また、断面は、ワイヤーハーネスW1の長さ方向と直角に切断したときの切断面を意味する。
【0016】
本実施例1のワイヤーハーネスW1は、図1に示すように、2本の電線10と、筒状のシールド部材13と、一対のコネクタハウジング14と、筒状の外装部材15と、一対の気密保持部材16と、1つの逆止弁18とを備えたシールドタイプの導電路である。尚、図1~6において、シールド部材13、外装部材15及び気密保持部材16の厚さは、誇張して描いている。
【0017】
2本の電線10は、導体11を筒状の絶縁被覆12で包囲した非シールドタイプの被覆電線である。図3~6に示すように、電線10を軸線と直角に切断したときの、各電線10の外周面形状は円形である。2本の電線10の外径寸法は同じである。2本の電線10は、互いに平行をなして並ぶように配索される。
【0018】
シールド部材13は、複数本の金属素線を網状に編み込んだ筒状の編組線からなる。シールド部材13は、断面形状を自在に変化させるような可撓性を有している。シールド部材13は、2本の電線10をまとめて包囲している。一対のコネクタハウジング14は、ワイヤーハーネスW1の長さ方向における両端部に配置されている。各コネクタハウジング14内には、電線10の端部に接続された2つの端子金具(図示省略)と、1つのシールドシェル(図示省略)とが収容されている。シールド部材13の両端部はシールドシェルに接続されている。
【0019】
外装部材15は、合成樹脂等の可撓性を有する材料からなる筒状の部材である。外装部材15は、2本の電線10とシールド部材13をまとめて包囲している。外装部材15は、電線10のうち一対のコネクタハウジング14の間で露出している大部分の領域を包囲している。
【0020】
一対の気密保持部材16は、外装部材15の長さ方向における両端部の2カ所のみに配置されている。気密保持部材16は、熱硬化性のジェル状樹脂材料を硬化させたシール材からなる。気密保持部材16は、電線10の外周面と外装部材15の内周面との隙間、及び2本の電線10間の隙間を気密状に封止する。電線10の外周面と外装部材15の内周面との間には、多数の細かい隙間を有する編組線からなるシールド部材13が介在する。ジェル状樹脂材料は編組線の隙間に充填されるので、電線10の外装部材15との隙間は、確実に気密が保たれる。外装部材15の内部空間のうち一対の気密保持部材16の間の領域は、外装部材15の外部から遮断された気密空間17となっている。
【0021】
逆止弁18は、外装部材15の長さ方向において一対の気密保持部材16の間に配置されている。具体的な逆止弁18の取付け位置は、外装部材15の長さ方向中央部、又は外装部材15の長さ方向中央よりもいずれか一方の端部寄りの位置である。逆止弁18は、外装部材15に対し外装部材15の外周面側から内周面側へ貫通した状態で取り付けられている。外装部材15における逆止弁18の貫通部分は、図示しない接着材やシール材等によって気密が保たれている。逆止弁18は、常には閉弁状態を保つ常閉式の弁部材である。逆止弁18は、外装部材15の内部(気密空間17)から外部への流体の流出を可能とするが、外装部材15の外部から内部(気密空間17)への流体の流入を不能とする。
【0022】
ワイヤーハーネスW1の製造工程を説明する。外装部材15内にシールド部材13と2本の電線10を挿通し、電線10の端部に固着した端子金具(図示省略)をコネクタハウジング14内に挿入し、シールド部材13をシールドシェル(図示省略)に接続する。また、逆止弁18が2本の電線10の間に位置するように、外装部材15と2本の電線10を周方向に位置決めしておく。
【0023】
外装部材15と電線10を位置決めした状態で、ジェル状樹脂材料を、外装部材15の両端部内周面とシールド部材13の外周面のうち一方の周面又は両方の周面に塗布する。外装部材15のうちジェル状樹脂材料が塗布されている部位を、2本の電線10の外周面に押し付ける。これにより、ジェル状樹脂材料を、シールド部材13の編組線の隙間に充填するとともに、2本の電線10の外周面に密着させ、2本の電線10の隙間に充填する。この状態で、ジェル状樹脂材料を加熱して硬化させ、気密保持部材16を形成する。気密保持部材16は、外装部材15の内周面と電線10の外周面との隙間、シールド部材13の編組線の隙間、及び2本の電線10間の隙間を気密状にシールする。気密保持部材16が形成されると、外装部材15の内部空間のうち一対の気密保持部材16の間の領域には、大気中に対して気密状にシールされた気密空間17が形成される。
【0024】
気密保持部材16によって外装部材15内を封止した直後の状態では、図2,6に示すように、気密空間17内には空気が閉じ込められており、この空気は電線10の外周面と外装部材15の内周面との間に介在する。気密空間17内の空気の圧力は、大気圧と同じである。気密空間17内に空気が存在している状態で、逆止弁18に真空ポンプ(図示省略)を接続し、真空引きによって気密空間17内の空気を排出する。真空引きした後は、逆止弁18から真空ポンプを外し、外装部材15の外周面に粘着テープ19を巻き付けて、外装部材15を膨まないように保持する。
【0025】
真空引きを行うと、気密空間17内の空気が大気圧よりも低圧になるので、外装部材15は、大気圧によって電線10側へ押圧され、シールド部材13を電線10側へ押圧する。外装部材15に押されたシールド部材13の大部分(少なくとも一部)は、電線10の外周面に密着し、2本の電線10を密着させる。外装部材15の大部分(少なくとも一部)はシールド部材13の外周面に密着する。これにより、外装部材15の大部分(少なくとも一部)が、2本の電線10との間でシールド部材13を挟み付けた状態で、2本の電線10に対して近接する。気密空間17内に残存する空気の量は、ごく僅かとなる。
【0026】
電線10が通電によって発熱したときに、電線10の熱は、シールド部材13に直接伝達され、シールド部材13から外装部材15に直接伝達され、外装部材15の外周面から大気中に放出される。電線10から外装部材15に至る伝熱経路に存在する空気は、ごく僅かであるから、放熱効率に優れている。なお、電線10の外周形状は円形なので、隣り合う電線10の間には、奥に向かって幅狭となる谷間10Vが生じる。この谷間10Vの奥部においては、シールド部材13が電線10に密着できないので、外装部材15と電線10との間に空気が残存する。しかし、谷間10Vの奥の容積、つまり電線10の外周面と外装部材15の内周面との間の容積は、非常に小さいので、谷間10Vに残存する空気の量は僅かである。したがって、伝熱効率に大きな影響はない。
【0027】
本実施例1のワイヤーハーネスW1は、可撓性を有する筒状の外装部材15と、外装部材15内に挿通された2本の電線10とを備えている。外装部材15の内部の気密空間17が大気圧よりも低圧とされることによって、外装部材15が電線10に対して近接した状態となっている。外装部材15が電線10に近接しているので、電線10と外装部材15との間に介在して熱抵抗となる空気の量が極少(僅か)となる。これにより、電線10から外装部材15への熱伝達効率が良好となるので、放熱性に優れている。
【0028】
外装部材15は、外装部材15内の空気の大気中への流出を可能とし、大気中から外装部材15内への空気の流入を規制する逆止弁18を備えている。逆止弁18を介して真空引きすることによって、外装部材15内を大気圧よりも低圧にすることができる。外装部材15内の圧力が高まっても、再度、逆止弁18を介して真空引きすることによって、外装部材15内を大気圧よりも低圧の状態に戻すことができる。
【0029】
逆止弁18は、隣り合う2本の電線10の間の谷間10Vに臨むように配置されている。真空引きの過程では、外装部材15内(気密空間17)の空気が隣り合う電線10の間の谷間10Vに向かって流れ、谷間10Vから遠い側から外装部材15が電線10の外周に接近していく。逆止弁18が谷間10Vに臨むように配置されているので、谷間10V以外の領域に空気溜まりが生じることを防止できる。
【0030】
ワイヤーハーネスW1は、外装部材15内を気密状に保持された気密空間17を形成する気密保持部材16を備えている。逆止弁18は、電線10の軸線方向において2つの気密保持部材16の中間領域に配置されている。逆止弁18を一方の気密保持部材16の近傍に配置した場合には、他方の気密保持部材16から逆止弁18に至る真空引きの排気経路が長くなるが、逆止弁18を2つの気密保持部材16の中間領域に配置したので、気密保持部材16から逆止弁18に至る排気経路が短くなる。
【0031】
ワイヤーハーネスW1においては、電線10の外周面と外装部材15の内周面との間に、細かい凹凸を有する編組線が介在している。外装部材15と電線10との隙間をシールするために、ジェル状樹脂材料を硬化したシール材を気密保持部材16として用いている。これにより、外装部材15内を気密状態に保持することができる。
【0032】
[実施例2]
本開示のワイヤーハーネスを具体化した実施例2を、図7図9を参照して説明する。本実施例2のワイヤーハーネスW2は、実施例1のワイヤーハーネスW1とは異なり、シールド部材13を有していない非シールドタイプの導電路である。ワイヤーハーネスW2は、2本の電線10と、一対のコネクタハウジング(図示省略)と、筒状の外装部材20と、一対の気密保持部材(図示省略)と、1つの逆止弁18とを備えている。電線10とコネクタハウジングと気密保持部材と逆止弁18は、いずれも、実施例1のものと同一の部材である。
【0033】
外装部材20の材質は実施例1の外装部材15と同様、可撓性を有する樹脂材料である。外装部材20を軸線方向と直角に切断した断面において、外装部材20の周長は実施例1の外装部材15の周長よりも長く設定されている。図7に示すように、2本電線10の並び方向である幅方向において、逆止弁18は、2本の電線10から外れた位置に配置されている。逆止弁18に真空ポンプ(図示省略)を接続して、外装部材20の内部空間(気密空間17)内の空気を排出すると、図8に示すように、外装部材20の一部が、2本の電線10の外周面のうち2本の電線10間の谷間10V以外の領域に密着する。同時に、外装部材20のうち電線10への密着部位から幅方向に外れた部位が、真空引きによって密着折返部21を形成する。密着折返部21は、外装部材20のうち逆止弁18が取り付けられている部位を含む。
【0034】
気密空間17内の空気を排出した後、図9に示すように、密着折返部21を電線10側へ反転させ、逆止弁18の一部を、外装部材20の外周面のうち電線10間の谷間10Vに沿った凹部22に収容する。その後、密着折返部21と外装部材20の外周に粘着テープ19を巻き付けて、外装部材20が膨らむことを防止するとともに、密着折返部21が戻らないように保持する。粘着テープ19の巻き付けによって、逆止弁18が密着折返部21で覆われた状態に保持されるので、逆止弁18に対する異物の干渉を防止できる。上記以外の構成については上記実施例1と同じであるため、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0035】
[実施例3]
本開示のワイヤーハーネスを具体化した実施例3を、図10を参照して説明する。本実施例3のワイヤーハーネスW3は、実施例2のワイヤーハーネスW2と同様、シールド部材13を有していない非シールドタイプの導電路である。ワイヤーハーネスW3は、2本の電線10と、一対のコネクタハウジング(図示省略)と、筒状の外装部材15と、一対の気密保持部材30と、1つの逆止弁(図示省略)とを備えている。電線10とコネクタハウジングと外装部材15と逆止弁は、いずれも、実施例1のものと同一の部材である。
【0036】
本実施例3の気密保持部材30は、電線保持部材31と、挟圧部材33とを備えて構成されている。電線保持部材31は、ゴム等の弾性を有する単一部品である。電線保持部材31をワイヤーハーネスW3の軸線と平行に見たときの外形は、幅方向に長い長円形である。電線保持部材31には、電線保持部材31を軸線方向に貫通する2つのシール孔32が形成されている。2つのシール孔32は互いに独立した孔部である。シール孔32の開口形状は円形であり、シール孔32の内径は電線10の外形寸法と同じか、それよりも僅かに小さい寸法である。
【0037】
挟圧部材33は、一対の半割部材34と、2組の締結部材38とから構成されている。一対の半割部材34は、金属や硬質合成樹脂等の剛性の高い材料からなり、軸線方向に見たときに対称な形状をなす。半割部材34は、長円形を半分に分割した形状の板状挟圧部35と、板状挟圧部35の幅方向両端部から突出した一対の板状取付部36とを有する。板状取付部36には板厚方向に貫通した取付孔37が形成されている。
【0038】
気密保持部材30を組み付ける際には、まず、気密保持部材30の2つのシール孔32に、2本の電線10を個別に挿通し、気密保持部材30の外周面に外装部材15の両端部を被せる。外装部材15は電線保持部材31と2本の電線10を包囲した状態となる。この状態で、一対の半割部材34の板状挟圧部35を、外装部材15のうち電線保持部材31を包囲している部位に外嵌し、板状取付部36を重ねた状態にする。そして、取付孔37に締結部材38であるボルト39を貫通させ、締結部材38であるナット40をボルト39にねじ込んで締め付ける。
【0039】
締結部材38の締付けによって、一対の半割部材34が合体状態に保持される。これと同時に、一対の板状挟圧部35が、外装部材15を介して電線保持部材31に外周面を全周にわたって押圧する。この押圧作用によって、外装部材15の内周面と電線保持部材31の外周面との間が気密状態に保持されるとともに、シール孔32の内周面と電線10の外周面との間が気密状態に保持される。以上によって、外装部材15の内部のうち一対の気密保持部材30の間の領域に、気密空間(図示省略)が形成される。
【0040】
本実施例3のワイヤーハーネスW3は、外装部材15内を気密状に保持する気密保持部材30を備えている。気密保持部材30は、電線10を気密状に貫通させる電線保持部材31と、電線保持部材31の外周面との間で外装部材15を気密状に挟み付ける挟圧部材33とを備えて構成されている。外装部材15内(気密空間)の気密状態を機械的に保持することができるので、接着剤を使用する場合のように、熱処理や硬化のための養生が不要である。上記以外の構成については上記実施例1と同じであるため、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0041】
[他の実施例]
本発明は、上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される。本発明には、特許請求の範囲と均等の意味及び特許請求の範囲内でのすべての変更が含まれ、下記のような実施形態も含まれることが意図される。
上記実施例1~3では、1つのワイヤーハーネスを構成する電線の本数が2本であるが、1つのワイヤーハーネスを構成する電線の本数は3本以上であってもよい。この場合、複数本の電線が横並び状に並列配置されていてもよく、束ねた状態で配置されていてもよい。
上記実施例1~3では、1つのワイヤーハーネスを構成する複数本の電線の外径寸法を同じ寸法としたが、外径寸法が異なる複数本の電線によって1つのワイヤーハーネスが構成されていてもよい。
上記実施例1~3では、電線の断面形状が円形であるが、断面形状が非円形である電線によってワイヤーハーネスが構成されていてもよい。
上記実施例1~3では、外装部材内が、外装部材の両端部に気密保持部材を配置することによって気密状態に保持されているが、外装部材内の空間は、内部が気密状態に保たれたコネクタハウジングと連通させてもよい。この場合、逆止弁をコネクタハウジングに設けてもよい。また、電線と外装部材との間に編組線等のシールド部材が介在し、シールド部材の端末部をコネクタハウジング内のシールドシェルに接続する場合は、コネクタハウジングの内部をポッティング剤等で気密状状態に保持すればよい。
上記実施例1~3では、逆止弁を2つの気密保持部材の中間領域に配置したが、逆止弁を一方の気密保持部材の近傍に配置してもよい。
上記実施例1~3において、外装部材内を真空引きした後に、逆止弁を接着剤や熱溶着等によって開弁不能に封止してもよい。
上記実施例1~3において、電線と外装部材との間に全長にわたって接着剤を塗布してもよい。このようにすれば、外装部材にピンホールが空いたり、逆止弁のシール機能が低下しても、外装部材が電線の外周面から離隔することがないので、外装部材内に外気が侵入することを防止できる。
【0042】
上記実施例1では、逆止弁を隣り合う電線間の谷間に臨むように配置したが、逆止弁は、電線間の谷間以外の領域に臨むように配置してもよい。
上記実施例1では、電線と外装部材との間に編組線が介在しているが、実施例1の構造は編組線を有しないワイヤーハーネスにも適用できる。
上記実施例2では、電線と外装部材との間に編組線が介在していないが、実施例2のように真空引きした後に密着折返部を外装部材の外周面に重ねて、逆止弁を電線間の谷間に収容する構造は、編組線を有するワイヤーハーネスにも適用できる。
上記実施例2において、外装部材内を真空引きした後に、接着剤によって密着折返部を開かないように接着し、密着折返部を接着部分において切断して電線及び外装部材から切り離してもよい。
上記実施例2において、電線と外装部材を接着剤によって固着してもよい。
【符号の説明】
【0043】
W1…ワイヤーハーネス
W2…ワイヤーハーネス
W3…ワイヤーハーネス
10…電線
10V:電線の谷間
11…導体
12…絶縁被覆
13…シールド部材
14…コネクタハウジング
15…外装部材
16…気密保持部材
17…気密空間
18…逆止弁
19…粘着テープ
20…外装部材
21…密着折返部
22…凹部
30…気密保持部材
31…電線保持部材
32…シール孔
33…挟圧部材
34…半割部材
35…板状挟圧部
36…板状取付部
37…取付孔
38…締結部材
39…ボルト
40…ナット
図1
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