(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169218
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】W/O/W液滴の製造方法、W/O/W液滴の製造装置及びW/O/W液滴
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20221101BHJP
A61K 9/113 20060101ALI20221101BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20221101BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20221101BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20221101BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20221101BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B01J19/00 N
B01J19/00 321
A61K9/113
A61K47/10
A61K47/24
A61K47/34
A61K8/06
A61K8/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075103
(22)【出願日】2021-04-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.牛山 諒太、鈴木 宏明が、2020年10月26日付で、第11回マイクロ・ナノ工学シンポジウムにおいて、出願に係る発明の内容を公開。 2.牛山 諒太、鈴木 宏明が、2020年12月23日付で、第7回サイボウニクス研究会(2020)において、出願に係る発明の内容を公開。 3.牛山 諒太、鈴木 宏明が、2021年1月25日付でMEMS 2021 Onlineにおいて、出願に係る発明の内容を公開。
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏明
(72)【発明者】
【氏名】牛山 諒太
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4G075
【Fターム(参考)】
4C076AA18
4C076BB01
4C076BB31
4C076CC18
4C076DD37
4C076DD63
4C076EE23
4C076FF70
4C076GG41
4C083AC071
4C083AD051
4C083AD571
4C083DD34
4C083FF04
4G075AA13
4G075AA25
4G075AA39
4G075BB05
4G075DA02
4G075EB50
4G075FA12
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、収率よく簡易に脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴を製造する方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴の製造方法は、W/O(Water in Oil)液滴を、水相と油相との界面を通過させて、前記油相から前記水相へ移行させる、界面通過工程を含み、前記界面が炭素数5~20のアルコール、脂質及び界面活性因子を含むことを特徴としている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
W/O(Water in Oil)液滴を、水相と油相との界面を通過させて、前記油相から前記水相へ移行させる、界面通過工程を含み、
前記界面が炭素数5~20のアルコール、脂質及び界面活性因子を含む
ことを特徴とする、脂質二重膜構造を有するW/O/W(Water in Oil in Water)液滴の製造方法。
【請求項2】
前記油相100体積%に対する、前記油相に含まれる炭素数5~20の前記アルコールの体積割合が、10~30体積%である、請求項1に記載のW/O/W液滴の製造方法。
【請求項3】
前記水相50体積%と前記油相50体積%との合計体積中の、前記水相及び前記油相中に含まれる前記界面活性因子のモルの濃度が、0.01mM以上である、請求項1又は2に記載のW/O/W液滴の製造方法。
【請求項4】
前記界面において、前記水相と前記油相とが同じ方向に流れている、請求項1~3のいずれか一項に記載のW/O/W液滴の製造方法。
【請求項5】
炭素数5~20の前記アルコールがオクタノールである、請求項1~4のいずれか一項に記載のW/O/W液滴の製造方法。
【請求項6】
前記脂質がホスファチジルコリンである、請求項1~5のいずれか一項に記載のW/O/W液滴の製造方法。
【請求項7】
前記界面活性因子が1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)のPEG誘導体化物又はポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体である、請求項1~6のいずれか一項に記載のW/O/W液滴の製造方法。
【請求項8】
油相が流れるマイクロ流路に内側水相を押し出す内側水相押出部と、
前記マイクロ流路の前記内側水相押出部の下流に外側水相を流入する外側水相流入部と、
を備え、
前記マイクロ流路の前記外側水相流入部の下流に、前記外側水相と前記油相との界面であって、炭素数5~20のアルコール、脂質及び界面活性因子を含む界面があることを特徴とする、脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴の製造装置。
【請求項9】
炭素数5~20のアルコール、脂質及び界面活性因子を含む脂質二重膜で水相が内包されることを特徴とする、W/O/W液滴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴の製造方法、W/O/W液滴の製造装置及びW/O/W液滴に関する。
【背景技術】
【0002】
人工脂質小胞は、生化学反応や生化学合成のための細胞を模擬したマイクロリアクターや薬物送達のカプセルとして用いられる。このような人工脂質小胞としては、小胞内の物質の量を均一化し、反応量や合成量を制御する観点から、小胞のサイズを均一にすることが求められている。
このような人工脂質小胞の製造方法として、油中水型液滴(W/O液滴)作製後にW-O界面を通過させる方法が知られている(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】S.Matosevic et al.、Journal of the American Chemical Society、2011年、133、2798-2800
【非特許文献2】L.Liu et al.、Lab Chip、2015年、15、3591-3599
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1、2等に記載の方法では、W-O界面通過率が低く、人工脂質小胞の前駆体としての水中油中水型液滴(W/O/W液滴)を収率よく製造する方法が求められているのが現状である。また、手作りのガラスキャピラリ等の特別な道具を使用したり、流路の内面に特別な処理をしたりすることなく、簡易な方法が求められている。
【0005】
従って、本発明の目的は、収率よく簡易に、脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
W/O(Water in Oil)液滴を、水相と油相との界面を通過させて、前記油相から前記水相へ移行させる、界面通過工程を含み、
前記界面が炭素数5~20のアルコール、脂質及び界面活性因子を含む
ことを特徴とする、脂質二重膜構造を有するW/O/W(Water in Oil in Water)液滴の製造方法。
[2]
前記油相100体積%に対する、前記油相に含まれる炭素数5~20の前記アルコールの体積割合が、10~30体積%である、[1]に記載のW/O/W液滴の製造方法。
[3]
前記水相50体積%と前記油相50体積%との合計体積中の、前記水相及び前記油相中に含まれる前記界面活性因子の合計モルの濃度が、0.25~1mMである、[1]又は[2]に記載のW/O/W液滴の製造方法。
[4]
前記界面において、前記水相と前記油相とが同じ方向に流れている、
[1]~[3]のいずれかに記載のW/O/W液滴の製造方法。
[5]
炭素数5~20の前記アルコールがオクタノールである、[1]~[4]のいずれかに記載のW/O/W液滴の製造方法。
[6]
前記脂質がホスファチジルコリンである、[1]~[5]のいずれかに記載のW/O/W液滴の製造方法。
[7]
前記界面活性因子が1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)のPEG誘導体化物又はポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体である、[1]~[6]のいずれかに記載のW/O/W液滴の製造方法。
[8]
油相が流れるマイクロ流路に内側水相を押し出す内側水相押出部と、
前記マイクロ流路の前記内側水相押出部の下流に外側水相を流入する外側水相流入部と、
を備え、
前記マイクロ流路の前記外側水相流入部の下流に、前記外側水相と前記油相との界面であって、炭素数5~20のアルコール、脂質及び界面活性因子を含む界面があることを特徴とする、脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴の製造装置。
[9]
炭素数5~20のアルコール、脂質及び界面活性因子を含む脂質二重膜で水相が内包されることを特徴とする、W/O/W液滴。
【発明の効果】
【0007】
本発明のW/O/W液滴の製造方法は、上記構成を有するため、収率よく簡易に、脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のW/O/W液滴の製造方法又は本発明のW/O/W液滴の製造装置の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明のW/O/W液滴の製造方法又は本発明のW/O/W液滴の製造装置の一例の写真である。
【
図3】実施例1のW/O/W液滴の製造時の連続写真である。
【
図4】実験例のW/O/W液滴の製造を示す写真である。
【
図5】実施例1~5及び比較例1~2の界面通過率を示す図である。
【
図6】実施例1及び実施例6で得られたW/O/W液滴の直径分布である。
【
図7】実施例1のDewetting工程後の写真及び模式図である。
【
図8】実施例で用いたW/O/W液滴の製造装置の模式図である。(a)は装置全体の概略図であり、(b)は油相(O)と外側水相(W)とが層流する流路の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0010】
本発明のW/O/W液滴の製造方法は、W/O(Water in Oil)液滴を、水相と油相との界面を通過させて、上記油相から上記水相へ移行させる、界面通過工程を含む方法である。上記界面は、炭素数5~20のアルコール、脂質及び界面活性因子を含む。
【0011】
図1は、本発明のW/O/W液滴の製造方法の一例を示す説明図である。
本実施形態の製造方法において、界面通過工程前に、W/O液滴22及び油相21と外側水相31とのW-O界面33が形成されている。W/O液滴22及びW-O界面33が形成される順は特に限定されないが、W/O液滴22を生成する工程(W/O液滴生成工程)、外側水相31と油相21との界面33を形成する工程(W-O界面形成工程)、及び上記界面通過工程をこの順に含む方法であることが好ましく、上記界面通過工程後にW/O/W液滴35から油成分を除去する工程(Dewetting工程)を含む方法がより好ましい。
なお、本明細書において、「W/O液滴」とは油相中に内側水相の水型液滴がある油中水型液滴(Water in Oil)をいい、「W/O/W液滴」とは外側水相中に油中水型液滴がある水中油中水型液滴(Water in Oil in Water)をいう。また、本明細書において、上記W/O液滴生成工程における水相及び上記W/O/W液滴の脂質二重膜内の内側の水相を「内側水相」、上記W-O界面形成工程及び上記界面通過工程における水相並びに上記W/O/W液滴の脂質二重膜の外側の水相を「外側水相」と称する場合がある。
【0012】
[W/O液滴生成工程]
上記W/O液滴生成工程は、油相21中に水型液滴(例えば、脂質23及び炭素数5~20のアルコールを含む脂質一重膜で内側水相11を内包するW/O液滴22)を生成する工程である。W/O液滴22の生成方法としては、特に限定されないが、例えば、油相21の流れ中に内側水相11を押し出して油相の流れ中に水型滴を形成する方法(
図1)、油相中に内側水相を添加して高速懸濁したり超音波照射したりする方法、等が挙げられる。中でも、形状や液滴径が均一なW/O液滴が得られやすい観点から、油相21の流れ中に内側水相11を押し出して油相の流れ中に水型滴を形成する方法(本明細書において、単に「W/O液滴生成方法A」と称する場合がある。)が好ましい。
上記W/O液滴生成方法Aとしては、例えば、
図1に示す、上下からの油相21の流れの合流点に、内側水相11を押し出し、油相中に水型滴を生成して、下流にW/O液滴22を流す方法があげられる。
【0013】
上記W/O液滴生成工程Aにおいて、上記油相はマイクロ流路24内を流れる。
上記マイクロ流路24としては、油相中の水型滴の流れが安定する観点から、内壁表面が、PDMS(ジメチルポリシロキサン)等の疎水性の樹脂であるマイクロ流路が好ましい。
【0014】
上記W/O液滴生成方法Aにおいて、マイクロ流路24内を流れる油相21中に、内側水相押出部12から内側水相11を押し出すことができる。上記内側水相押出部12としては、ガラスキャピラリ、マイクロ流路(好ましくは、内壁表面がPDMSでコーティングされたマイクロ流路)等が挙げられる。中でも、油相中に水滴を安定して供給でき、かつW-O界面33が安定する観点、及び汎用性、再現性の観点から、マイクロ流路を通して押し出すことが好ましく、内壁がPDMS(ジメチルポリシロキサン)等の疎水性の樹脂であるマイクロ流路を通して押し出すことがより好ましい。
【0015】
上記W/O液滴生成方法Aにおいて、油相21中に、水型滴を連続して生成してよい。
【0016】
上記W/O液滴22の液滴直径としては、1~200μmであることが好ましく、より好ましくは10~60μm、さらに好ましくは20~40μmである。
【0017】
油相中に生成された水型滴は、連続して次工程に用いられてもよいし、一定期間保存した後に次工程に用いられてもよい。
【0018】
以下、W/O液滴生成工程に用いられる原料について説明する。
【0019】
<内側水相>
上記W/O液滴生成工程における内側水相11は、水を少なくとも含み、さらに他の成分を含んでいてもよい。
上記内側水相11は、W-O界面に含まれる上記炭素数5~20のアルコール、及び上記界面活性因子を含まないことが好ましい。
【0020】
(水)
上記水は、精製された水であることが好ましい。上記精製された水としては、当業者に公知の任意の適当な方法、例えば、逆浸透、脱イオン化、蒸留、ろ過、限外濾過等の方法によって精製された水等が挙げられ、イオン交換水、純水、超純水が好ましい。
【0021】
(他の成分)
上記W/O液滴生成工程における内側水相に含まれる上記他の成分は、親水性であってもよいし疎水性であってもよい。また、内側水相中に溶解していてもよいし、溶解していなくてもよい。
上記他の成分としては、例えば、抗体や酵素等のタンパク質、DNA、RNA、PCR試薬、シークエンス用試薬、バイオマーカー、蛍光化合物等の標識化合物、薬剤、細胞小器官、pH調整剤、イオン調整剤、糖類、各種ビーズ、細胞等が挙げられる。
上記他の成分は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
<油相>
上記W/O液滴生成工程における上記油相21は、油性成分、炭素数5~20のアルコール、脂質23、及び他の成分を含んでいてもよい。上記炭素数5~20のアルコール、及び上記脂質23は、W/O液滴22の脂質一重膜に含まれていてよく、該脂質一重膜にはさらに上記界面活性因子が含まれていてよい。
【0023】
(油性成分)
上記油性成分としては、20℃で液状の油性成分であることが好ましい。
上記油性成分としては、例えば、炭化水素油、エステル油、ジアルキルエーテル、油脂、機能性油剤、脂肪酸、植物油等が挙げられる。
上記油性成分は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
上記炭化水素油としては、例えば、液体パラフィン;スクアレン;ヘキサデカン、デカン等の各種アルカン;等が挙げられ、W/O液滴の界面通過率が高くW/O/W液滴の生成効率に優れ、かつ粘性が比較的小さく送液が容易であることから、スクアレンが好ましい。
上記炭化水素油は、直鎖状であってもよいし分岐鎖状であってもよいが、粘度が小さく流体操作がしやすい観点から、分岐状であることが好ましく、炭素数1~3である短鎖分枝を有する分岐状であることがより好ましい。
上記炭化水素油は、飽和炭化水素であってもよいし不飽和炭化水素であってもよいが、粘度が小さく流体操作がしやすい観点から、不飽和炭化水素であることが好ましい。
上記炭化水素油の炭素数は、粘度が小さく流体操作がしやすい観点から、8~40であることが好ましい。
【0025】
上記エステル油としては、例えば、ネオペンチルグリコールジ脂肪酸エステル、エチレングリコールジ脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、脂肪酸ジグリセライド、脂肪酸トリグリセライド等の脂肪酸グリセライド等が挙げられる。
【0026】
ジアルキルエーテルとしては、例えば、飽和若しくは不飽和の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基(好ましい炭素数は8以上22以下)を有するエーテル等が挙げられる。
【0027】
上記油脂としては、例えば、大豆油、ヤシ油、パーム核油、アマニ油、綿実油、ナタネ油、キリ油、ヒマシ油、オリーブ油等の植物油等が挙げられる。
【0028】
上記機能性油剤としては、例えば、液体のセラミド、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル等の有機紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0029】
上記油相100体積%に対する上記油性成分の体積割合としては、50~99体積%であることが好ましく、より好ましくは60~90体積%、さらに好ましくは70~90体積%である。
【0030】
(炭素数5~20のアルコール)
炭素数5~20の上記アルコールは、環状、直鎖状、分岐鎖状の何れであってもよく、また不飽和であっても飽和であってもよいが、界面張力を低下させ界面を安定させるという観点から、直鎖状飽和アルコールであることが好ましい。
炭素数5~20の上記アルコールとしては、界面張力を低下させ界面を安定させるという観点から、1価のアルコールであることが好ましい。また、炭素数5~20の上記アルコールとしては、第1級アルコールであることが好ましい。
炭素数5~20の上記アルコールは、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
炭素数5~20の上記アルコールの炭素数としては、界面を安定させるという観点から、7~18であることが好ましい。
【0032】
炭素数5~20の上記アルコールとしては、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セタノール、1-ヘプタデカノール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール等の直鎖状飽和アルコール;2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-ヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソステアリルアルコール等の分岐鎖状飽和アルコール;パルミトレイルアルコール、エライジルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、エライドリノレイルアルコール、リノレニルアルコール、エライドリノレニルアルコール、リシノレイルアルコール等の不飽和アルコール;等が挙げられ、中でも直鎖状飽和アルコールが好ましく、より好ましくは1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、さらに好ましくは1-オクタノールである。
【0033】
上記油相100体積%に対する、上記油相に含まれる炭素数5~20の上記アルコールの体積割合としては、1~40体積%であることが好ましく、より好ましくは5~35体積%、さらに好ましくは10~30体積%である。
また、上記油相の溶媒100体積%に対する炭素数5~20の上記アルコールの体積割合としては、W-O界面を安定させる観点から、1~40体積%であることが好ましく、より好ましくは5~35体積%、さらに好ましくは10~30体積%である。ここで、油相の溶媒としては、油性成分と炭素数5~20の上記アルコールのみからなる混合溶媒であってよい。
上記炭素数5~20のアルコールは、上記油相21のみに含まれ、他の相に含まれないことが好ましい。
【0034】
(脂質)
上記脂質としては、リン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質等が挙げられる。中でも、W/O液滴とW-O界面とが接触する際に膜が壊れにくくなり安定する観点、及びW/O/W液滴の生成効率に優れる観点から、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質等のリン脂質が好ましく、より好ましくはグリセロリン脂質、さらに好ましくはホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルコリンエタノールアミン、さらに好ましくはホスファチジルコリン、特に好ましくはPOホスファチジルコリン、DOホスファチジルコリンである。
上記脂質は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上記油相中の上記脂質のモル濃度としては、0.1~10mMであることが好ましく、より好ましくは0.5~5mM、さらに好ましくは1~3mMである。
【0036】
(界面活性因子)
上記界面活性因子としては、親水性を示す部位と疎水性を示す部位とを有する界面活性剤等が挙げられる。中でも、W/O/W液滴の生成効率に優れる観点から、HLB値の大きな高分子系の界面活性剤が好ましく、より好ましくは1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)のPEG誘導体化物(DSPE-PEG)(例えば、商品名「DSPE-PEG2000」日油株式会社製)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体(例えば、Pluronic F-68)である。
上記界面活性因子は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
上記油相中の上記界面活性因子のモル濃度としては、好ましくは0.5~2.0mMである。例えば、上記油相中のDSPE-PEGの濃度は0.5~2mMであることが好ましく、外側水相中のPluronic系界面活性剤の濃度は0.1~1.2wt%であることが好ましく、より好ましくは0.6~1.0wt%である。
【0038】
(他の成分)
上記油相中に含まれる上記他の成分としては、脂溶性成分等が挙げられる。
【0039】
上記脂溶性成分としては、膜タンパク質、脂溶性ペプチド、ステロール類、脂肪酸類、脂溶性の抗酸化剤等の脂質二重膜に取り込まれ得る成分が挙げられる。
上記ステロール類としては、例えば、コレステロール、ジヒドロコレステロール、コレステロールコハク酸、コレスタノール、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール等の動物由来ステロール;シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等の植物由来ステロール;チモステロール、エルゴステロール等が挙げられる。
上記脂肪酸類としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸;パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0040】
[W-O界面形成工程]
上記W-O界面形成工程は、外側水相31と油相21とのW-O界面33を形成する工程であり、マイクロ流路24内を流れる上記油相21に、外側水相流入部32から外側水相31を流入させ、外側水相31と油相21とがW-O界面33を介して二層に分かれる工程(
図1)が好ましい。
上記W-O界面形成工程以降、排出されるまで、上記外側水相31と上記油相21とは、W-O界面33を介して二層に分離して同じ方向に流れることが好ましい。
上記油相21は、W/O液滴22を含んでいてよい(
図1)。
【0041】
上記外側水相流入部32は、油相21が流れるマイクロ流路24に、複数か所設けてもよいし一か所設けてもよい。
【0042】
上記油相21は、上記W/O液滴生成工程から連続して、マイクロ流路24内を流れることが好ましい(
図1)。上記マイクロ流路24としては、上述のW/O液滴生成工程におけるマイクロ流路と同様のものが挙げられ、同様のものが好ましい。中でも、上述のW/O液滴生成工程におけるマイクロ流路と同じ組成の流路であることが好ましい。
【0043】
上記外側水相流入部32は、マイクロ流路であることが好ましい。中でも、外側水相と油相のW-O界面が安定して形成される観点から、内壁がPDMS(ジメチルポリシロキサン)、またはその他の疎水性樹脂であるマイクロ流路が好ましく、上記油相のマイクロ流路と同じ組成の内壁のマイクロ流路がより好ましい。
【0044】
上記油相21は、上流から、下流のW/O/W液滴35が生成される場所に向かって一方向に流れることが好ましい。
上記油相21の流れは、上記W/O液滴生成工程から連続した流れであることが好ましい。
【0045】
上記W-O界面33は、少なくとも炭素数5~20のアルコール、脂質23及び界面活性因子を含み、上記油相21及び/又は上記外側水相31に含まれる他の成分を含んでいてよい。
上記油相21及び/又は上記外側水相31に含まれる界面活性因子は、2つの相の流れが合流して形成されたW-O界面へ移動し、W-O界面に存在するようになる。
【0046】
以下、W-O界面形成工程に用いられる原料について説明する。
【0047】
<外側水相>
上記外側水相は、水を少なくとも含み、さらに上記界面活性因子、他の成分を含んでいてもよい。上記外側水相31は、W-O界面に含まれる上記炭素数5~20のアルコール、及び上記脂質を含まないことが好ましい。
【0048】
(水)
上記外側水相の水としては、上述の内側水相における上記水と同様の水が挙げられ、同様の水が好ましい。上記内側水相の水と上記外側水相の水とは、同じであってもよいし異なっていてもよい。
上記外側水相は、水を主成分とすること(例えば、外側水相100体積%に対して水の体積割合が80体積%以上、好ましくは90体積%以上であること)が好ましい。
【0049】
(界面活性因子)
上記外側水相の界面活性因子としては、上述の油相における上記界面活性因子と同様のものが挙げられ、同様のものが好ましい。
上記界面活性因子は、油相と外側水相との両相に含まれていてもよいし、油相のみに含まれていてもよいし、外側水相のみに含まれていてもよい。上記PEGの誘導体化物は油相に含まれることが好ましく、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体は外側水相に含まれることが好ましい。上記油相と上記外側水相との両相に界面活性因子が含まれる場合、油相の界面活性因子と外側水相の界面活性因子とは、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0050】
上記外側水相中の上記界面活性因子のモル濃度としては、W/O/W液滴の生成効率に優れる観点から、好ましくは0.6~1.2mMである。
【0051】
本実施形態の製造方法において、W-O界面に存在する界面活性因子の割合を特定の範囲としてW/O/W液滴の生成効率を向上させる観点から、上記外側水相50体積%と上記油相50体積%との合計体積中の、上記外側水相及び上記油相に含まれる上記界面活性因子の合計モルの濃度が、0.01mM以上であることが好ましく、より好ましくは0.01~3mM、さらに好ましくは0.05~2mM、さらに好ましくは0.1~1mM、特に好ましくは0.3~0.6mMである。
【0052】
(他の成分)
上記外側水相の他の成分としては、糖類、蛍光化合物等の標識化合物、緩衝剤,電解質、高分子増粘剤等が挙げられる。
【0053】
<油相>
上記油相は、上述のW/O液滴生成工程の上記油相と同じであることが好ましく、上記W/O液滴生成工程から連続して流れる油相を用いることが好ましい。
【0054】
[界面通過工程]
上記界面通過工程は、W/O液滴22を含む油相21と外側水相31とがW-O界面33を介して二相に分離して流れている状態で、該W/O液滴22がW-O界面33を通過して油相21から外側水相31へと移行し、油相で内側水相11が内包されたW/O/W液滴35を形成する工程であることが好ましい(
図1)。
【0055】
上記界面通過工程は、マイクロ流路24内で行われることが好ましい。
上記マイクロ流路としては、上述のW/O液滴生成工程又はW-O界面形成工程におけるマイクロ流路と同様のものが挙げられ、同様のものが好ましい。中でも、上述のW/O生成工程及びW-O界面形成工程におけるマイクロ流路と同じ組成の流路であることが好ましい。
【0056】
上記界面通過工程は、W/O液滴22がW-O界面33に接着して、脂質一重膜の一部が脂質二重膜となり(
図1中の34)、外側水相31へ完全に通過することで脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴35を形成できる(
図1の35)。
W-O界面33を通過させる方法としては、例えば、外側水相31と油相21とが流れる流路を狭くして油相中のW/O液滴22をW-O界面33に押し付けて通過させる方法(
図1)、外側水相31と油相21とが流れる流路を屈曲又は湾曲させて遠心力によって油相中のW/O液滴22をW-O界面33に押し付けて通過させる方法(
図1)、油相21側の流路中に突起を設けて油相中のW/O液滴22を突起に当てて外側水相31側にW-O界面33に押し付けて通過させる方法、これらを組み合わせた方法、等が挙げられる。中でも、W/O/W液滴の生成効率に優れる観点から、外側水相31と油相21とが流れる流路を狭く且つ湾曲させて油相中のW/O液滴22をW-O界面33に押し付けて通過させる方法が好ましい。
【0057】
上記流路を狭くする方法としては、流路の断面積を、W-O界面形成工程における流路の断面積に対して1/4~3/4にする方法(好ましくは1/2にする方法)が挙げられ、具体的には、W-O界面形成工程における流路が幅200μm高さ30μmの長方形状の断面形状である場合、幅50~150μm(好ましくは幅100μm)の長方形状にする方法が挙げられる。
【0058】
上記流路を湾曲させる方法としては、曲率半径300~800μm(好ましくは400~600μm)の湾曲部を設ける方法等が挙げられる。具体的には、断面が幅100μmの流路に曲率半径300~800μm(好ましくは400~600μm)の湾曲部を設けてよい。
【0059】
上記界面通過工程において、上記油相の流量に対する上記外側水相の流量の割合(外側水相の流量/油相の流量)としては、30~70であることが好ましく、より好ましくは40~60である。
【0060】
炭素数5~20のアルコールにおけるヒドロキシル基の親水性と炭化水素基の疎水性とが水相-油相の界面張力を低下させるため、W-O界面33がマイクロ流路内壁の一点に固定されずに内壁上を動きやすくなり、W-O界面33を安定して形成することができる。また、W/O液滴22生成時に、内側水相11が油相21内にドリッピングしやすくなる。また、液滴直径のばらつきが少ない、単分散性のW/O/W液滴を得ることができる。
炭素数5~20の上記アルコールに加えて上記界面活性因子がW-O界面33にあると、W/O液滴22がW-O界面33に接着して移行する際、W/O/W液滴のオイル層が外側水相へ拡張しやすく、且つ脂質二重膜が破損しにくくなり、W/O/W液滴の生産効率が向上する。特に、DSPEのPEG誘導体化物、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体は、疎水性と親水性とのバランスが良好なためか、W/O/W液滴の生産効率に優れる。
【0061】
上記界面通過工程後、油相21は油相排出部36から排出される。また、W/O/W液滴35を含む外側水相31は外側水相回収部37から回収され、外側水相中に油相で内側水相を内包したW/O/W液滴35を得ることができる。
外側水相中のW/O/W液滴の密度を高くする観点から、外側水相回収部37は、W/O/W液滴を含まない外側水相を排出する部位と、W/O/W液滴を含む外側水相を回収する部位との二手に分かれていてもよい(
図1)。
【0062】
上記W/O/W液滴35の直径としては、1~200μmであることが好ましく、より好ましくは10~60μm、さらに好ましくは20~40μmである。
【0063】
[Dewetting工程]
上記界面通過工程で得られたW/O/W液滴35は、脂質二重膜間に油成分(例えば、上記油性成分)を含むことがある。二重膜間に油成分を含むと、W/O/W液滴の外部から内部へ、又は内部から外部へ水溶性成分が透過しにくくなる。
上記Dewetting工程は、W/O/W液滴の水溶性成分透過性を向上させる観点から、脂質二重膜間の油成分を除去し、油成分が存在しない(又は油成分が少ない)脂質二重膜とする工程である(
図1)。
【0064】
上記Dewetting工程は、W/O/W液滴が外側水相中を流れる最中に行ってもよいし、外側水相の流れからW/O/W液滴を回収した後に行ってもよい。
上記Dewetting工程としては、例えば、常温の外側水相31中にW/O/W液滴35を静置(例えば、3~240分間静置)する方法、油相が外側水相に溶け込む方法等が挙げられる。
本実施形態の製造方法によれば、Dewetting工程後のW/O/W液滴が安定して維持される。
【0065】
本実施形態の製造方法を行う温度は、水相及び油相が流れる温度であればよく、界面の脂質の流動性が向上し膜が安定する観点から、温度30~38℃で実施されることが好ましい。
【0066】
本実施形態の製造方法において、界面通過率は、50%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上であり、100%以下であってよい。なお、界面通過率は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0067】
[W/O/W液滴の製造装置]
本実施形態のW/O/W液滴の製造装置は、油相21が流れるマイクロ流路24に内側水相11を押し出す内側水相押出部12と、上記マイクロ流路24の上記内側水相押出部12の下流に外側水相31を流入する外側水相流入部32と、を備え、上記マイクロ流路24の上記外側水相流入部32の下流に、上記外側水相31と上記油相21との界面33であって、炭素数5~20のアルコール、脂質及び界面活性因子を含む界面33がある装置である(
図1、
図8)。
上記製造装置は、上述の本実施形態のW/O/W液滴の製造方法で用いられる装置であることが好ましい。
【0068】
図1、2、8は、本実施形態の製造装置の一例である。
上記内側水相押出部12は、油相21が流れるマイクロ流路24に接して設けられる。上記内側水相押出部12は、一か所であってもよいし複数個所であってもよい。上記内側水相押出部12は、ごみや凝集体の侵入を防ぐ観点から、フィルター機能が設けられていてよい。
【0069】
上記外側水相流入部32は、油相21が流れるマイクロ流路24に接して設けられる。上記外側水相流入部32は、一か所であってもよいし複数個所であってもよい。上記外側水相流入部32は、ごみや凝集体の侵入を防ぐ観点から、フィルター機能が設けられていてよい。
【0070】
上記外側水相流入部32の下流のW-O界面33は、油相排出部36又は外側水相回収部37まで連続して存在することが好ましい。
【0071】
上記外側水相流入部32の下流であって、上記界面がある流路内に、流路が狭くなる箇所(
図1、2)、流路が屈曲又は湾曲する箇所(
図1、2)、流路中に突起が設けられる箇所、等が設けられていてよい。
例えば、流路が狭くなる箇所がある場合、狭くなる前の流路としては、断面が幅100~500μm、高さ20~50μmの長方形状であってよい。また、狭くなった後の流路としては、狭くなる前の流路よりも幅が狭い流路であることが好ましく、断面が幅70~370μm、高さ20~50μmの長方形状であってよい。
例えば、湾曲する箇所がある場合、湾曲部は、曲率半径が300~800μm(好ましくは400~600μm)の湾曲部を有していてよい。
【0072】
本実施形態の装置は、内壁がPDMS(ジメチルポリシロキサン)等の疎水性の樹脂であることが好ましい。本手法では、装置の内壁表面に親水性又は疎水性成分でコーティングする必要がないため、簡易に装置を製造できる。また、本実施形態の装置を用いることで、簡易に、収率よく脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴を製造することができる。
本実施形態の装置は、例えば、スライドガラス上にPDMS等をスピンコートし、流路形状のくぼみを有するPDMS成形片をかぶせて接着させて製造することができる。スピンコートしたPDMSとPDMS成形片とは、例えば、酸素プラズマ処理等により接着させることができる。
【0073】
[W/O/W液滴]
本実施形態のW/O/W液滴は、外側水相中に存在する、炭素数5~20のアルコール、脂質及び界面活性因子を含む脂質二重膜で水相(例えば、上記内側水相11)が内包される液滴である。
本実施形態のW/O/W液滴は、上述の本実施形態のW/O/W液滴の製造方法により製造された液滴であって良い。また、本実施形態のW/O/W液滴は、上述の本実施形態のW/O/W液滴の製造装置を用いて製造された液滴であって良く、上述の本実施形態のW/O/W液滴の製造装置を用いて、上述の本実施形態のW/O/W液滴の製造方法により製造された液滴であって良い。
【0074】
上記W/O/W液滴の脂質二重膜には、二重膜間に油成分の相を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。
【0075】
上記W/O/W液滴は、例えば、医薬品、食品、化粧品等の種々の分野において利用することができる。例えば、細胞、化合物、タンパク質等を封入することで、封入物質の解析や液滴内部での反応を行うことができる。具体的には、バイオマーカーやコピー数多型の検出、病原体の検出、環境モニタリング、遺伝子発現定量解析、食品検査、シークエンス、等を行うことができる。
【実施例0076】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
以下の方法で、W/O/W液滴の製造装置を作製した。
フォトリソグラフィプロセスにより、SU-8(商品名「SU-8 3025」、Microchem社製)を用いて、鋳型を作製し、PDMS(商品名「SILPOT 184」、東レ・ダウコーニング社製)を用いて流路の高さ30μmの断面形状の成形体を作製した。スライドガラス上に、PDMSをスピンコーティングして薄膜を形成し、PDMS成形体とスライドガラス上のPDMSコーティング面とを酸素プラズマ処理によって接着させ、
図8(b)に示す流路断面を有する製造装置を作製した(
図8(a))。なお、
図8(b)は、外側水相流入部32下流の外側水相(W)と油相(O)とがW-O界面を介して二層に分かれて流れる流路の断面である。内側水相押出部にはフィルター機能を設けた。
次に、上記製造装置を用いて、以下の条件でW/O/W液滴を製造した。
内側水相は、超純水中に、カルセイン(商品名「Calcein」、同仁化学研究所社製)100μMを含む溶液を用いた。
油相は、スクアレン(商品名「スクアレン」、和光純薬工業株式会社社製)80体積%と1-オクタノール(商品名「1-オクタノール」、和光純薬工業株式会社社製)20体積%との混合溶液中に、POホスファチジルコリン(商品名「16:0-18:1 PC(POPC)」、Avanti Polar Lipids社製)2.6mM、DSPE-PEG2000(商品名「DSPE-PEG(2000)アミン」、Avanti Polar Lipids社製)1.0mM、Rhodamine-PE(LissamineRhodamineB1,2-Dihexadecanoyl-sn-Glyro-3-Phosphoethanolamine、Molecular Probes社製)1.5μMを含む溶液を用いた。
外側水相は、超純水を用いた。
流速1.10mm/sの油相の流れに、内側水相押出部から内側水相を押し出し、5滴/秒の割合でW/O液滴を生成した。
その後、外側水相流入部より外側水相を流し、W-O界面を形成した。流路断面を幅200μmから幅100μmに狭くし(流路の高さは一定)、且つ曲率半径550μmの屈曲した箇所において、外側水相の平均流速は58.1mm/s、油相の平均流速は11.0mm/sであった。また、油相の流量に対する外側水相の流量の割合は52であった。
なお、内側水相、油相、及び外側水相は、38℃として流した。
外側水相回収部から外側水相を回収し、脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴が得られたことを確認した。
図3にW/O/W液滴製造時の連続写真を示す。流路の屈曲部において、W/O液滴が外側水相中に完全に移行し、脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴が得られる。
また、界面通過率は97.1%であった(
図5)。なお、界面通過率とは、生成したW/O液滴の数に対する、W-O界面を通過してW/O/W液滴になった数の割合(%)を示す。W/O/W液滴の液滴直径は40.0±1.4μm(平均値±標準偏差)であり、ばらつきが小さい単分散性の液滴であった(
図6)。
また、回収したW/O/W液滴を含む外側水相を、5分間静置したところ、脂質二重膜中の油相が一か所に集まり(Oil drop)、dewettingして油相の含有が非常に少ない脂質二重膜からなるW/O/W液滴が得られた(
図7)。また、Dewetting後のW/O/W液滴は再度油相を取り込むことなく、24時間後も油相を含まない脂質二重膜を維持していた。
【0078】
(実施例2)
油相中のDSPE-PEG2000のモル濃度を0.5mMとしたこと以外は、実施例1と同様にして脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴を製造した。
界面通過率は81.5%であった(
図5)。
【0079】
(実施例3)
油相中のDSPE-PEG2000のモル濃度を2mMとしたこと以外は、実施例1と同様にして脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴を製造した。
界面通過率は100%であった(
図5)。
【0080】
(比較例1)
油相にDSPE-PEG2000を入れなかったこと以外は、実施例1と同様にして実施した。
W/O/W液滴は製造されず、界面通過率は0%であった。
【0081】
(実施例4)
内側水相、油相、外側水相として以下を用いたこと以外は、実施例1と同様にして脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴を製造した。
内側水相は、超純水中に、スクロース(商品名「スクロース」、和光純薬工業株式会社社製)600mM、カルセイン(商品名「Calcein」、同仁化学研究所社製)100μMを含む溶液を用いた。
油相は、スクアレン(商品名「スクアレン」、和光純薬工業株式会社社製)80体積%と1-オクタノール(商品名「1-オクタノール」、和光純薬工業株式会社社製)20体積%との混合溶液中に、DOホスファチジルコリン(商品名「18:1(Δ9-Cis)PC(DOPC)」、Avanti Polar Lipids社製)2.6mM、Rhodamine-PE(商品名「LissamineRhodamineB1,2-Dihexadecanoyl-sn-Glyro-3-Phosphoethanolamine」、Molecular Probes社製)1.5μMを含む溶液を用いた。
外側水相は、超純水中に、グルコール(商品名「グルコース」、和光純薬工業株式会社社製)600mM、Pluronic F-68(gibco社製)1体積%を含む溶液を用いた。
界面通過率は99.3%であった(
図5)。
【0082】
(実施例5)
外側水相中のPluronic F-68のモル濃度を0.5体積%としたこと以外は、実施例4と同様にして脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴を製造した。
界面通過率は86.0%であった(
図5)。
【0083】
(比較例2)
外側水相にPluronic F-68を入れなかったこと以外は、実施例4と同様にして実施した。
W/O/W液滴は製造されず、界面通過率は0%であった。
【0084】
(実験例)
油相の溶媒として、スクアレンのみ(
図4最上段)、スクアレン90体積%と1-オクタノール10体積%との混合溶液(
図4上から2つ目)、スクアレン80体積%と1-オクタノール20体積%との混合溶液(実施例1と同一、
図4上から3つ目)、スクアレン70体積%と1-オクタノール30体積%との混合溶液(
図4下から2つ目)、スクアレン60体積%と1-オクタノール40体積%との混合溶液(
図4最下段)、をそれぞれ用いて、実施例1と同様にして脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴を製造した。
1-オクタノールを10~30体積%含む溶媒を用いた場合、W/O/W液滴が良好に形成された。溶媒がスクアレンのみの場合は、W-O界面を形成できなかった。また、1-オクタノール40体積%の溶媒の場合は、W/O液滴があまり外側水相に移行しなかった。
【0085】
(実施例6)
実施例1の条件において、流路断面を幅200μmから幅100μmに狭くし(流路の高さは一定)、且つ曲率半径550μmの屈曲した箇所における、外側水相の流量を672.0pL/sとしたこと以外は、実施例1と同様にしてW/O/W液滴を製造した。
W/O/W液滴の液滴直径は35.1μm(平均値)であり、ばらつきが小さい単分散性の液滴であった(
図6)。
本発明のW/O/W液滴の製造方法では、簡易に、収率よく脂質二重膜構造を有するW/O/W液滴を製造することができ、製造されたW/O/W液滴は、化学・生化学反応のリアクター、医薬品、食品、化粧品等の種々の分野において利用することができる。