(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169238
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】内部検査装置及び内部検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 22/02 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
G01N22/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075143
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】593179808
【氏名又は名称】八光オートメーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500372717
【氏名又は名称】学校法人福岡工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】是枝 雄一
(72)【発明者】
【氏名】森田 浩暉
(72)【発明者】
【氏名】松川 真吾
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 淳
(72)【発明者】
【氏名】近木 祐一郎
(57)【要約】
【課題】被検査物体の内部の構造や欠陥の形状を高分解能で検査可能な内部検査装置及び内部検査方法を提供する。
【解決手段】被検査物体1に向けてミリ波を放射し、そこからの反射波を受信するミリ波送受信アンテナ2と、それに接続されたミリ波送受信回路3と、被検査物体1を移動する移動手段である電動ステージ4とを備え、被検査物体1とミリ波送受信アンテナ2との間の複数の相対的に異なる位置に対して受信した複数のミリ波信号と、それらの複数の相対的に異なる位置を示す位置データを用いて合成開口処理を行う合成開口処理手段をパーソナルコンピュータ5に備えている。予め設定した移動間隔で被検査物体1から反射するミリ波信号を受信し、合成開口処理手段により被検査物体1の内部の構造又は内部の欠陥の形状を求め、表示部6に表示する
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物体に向けてミリ波を放射し、前記被検査物体から反射するミリ波信号を受信するミリ波送受信アンテナと、
前記ミリ波送受信アンテナに接続されたミリ波送受信回路と、
前記ミリ波送受信アンテナ又は前記被検査物体の少なくとも一方を移動させる手段、又は複数の前記ミリ波送受信アンテナを備える手段、の少なくとも一方の手段を備えることにより、前記被検査物体と前記ミリ波送受信アンテナとの間の複数の相対的に異なる位置で前記ミリ波を放射して前記反射するミリ波信号を受信する手段と、
前記受信した複数のミリ波信号と、前記複数の相対的に異なる位置を示す位置データとを用いて合成開口処理を行う合成開口処理手段と、
表示手段と、
を有し、
予め設定した前記複数の相対的に異なる位置で前記被検査物体から反射するミリ波信号を受信し、前記合成開口処理手段により前記被検査物体の内部の構造又は内部の欠陥の形状を求め、前記表示手段に表示することを特徴とする内部検査装置。
【請求項2】
前記の予め設定した位置毎に得られるミリ波信号によるデータに基づいて前記設定位置の間で得られるミリ波信号によるデータを推定して補間する補間処理手段を有し、
前記の設定位置毎に得られるデータと前記補間されたデータに基づいて前記内部の構造又は内部の欠陥の形状を求めることを特徴とする請求項1に記載の内部検査装置。
【請求項3】
前記被検査物体は、略直方体の形状を有し、
前記ミリ波は前記被検査物体の1つの表面に対してほぼ垂直に照射され、
前記被検査物体又は前記ミリ波送受信アンテナの少なくとも一方を前記表面に平行な面内で移動させる手段、又は前記複数のミリ波送受信アンテナを備え、該複数のミリ波送受信アンテナを前記表面に平行な面内に配置する手段、の少なくとも一方の手段を有することにより、前記被検査物体の異なる部位が前記ミリ波送受信アンテナのミリ波の放射方向に順次位置するように設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の内部検査装置。
【請求項4】
前記被検査物体は、略板状の形状を有し、
前記ミリ波は前記被検査物体の1つの表面に対して斜めに照射され、
前記被検査物体又は前記ミリ波送受信アンテナの少なくとも一方を前記表面に平行な面内で、前記ミリ波の放射方向に対して略垂直な方向に移動させる手段、又は前記複数のミリ波送受信アンテナを備え、該複数のミリ波送受信アンテナを前記表面に平行な面内で、前記ミリ波の放射方向に対して略垂直な方向に配置する手段、の少なくとも一方の手段を有することにより、前記被検査物体の異なる部位が前記ミリ波の放射方向に順次位置するように設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の内部検査装置。
【請求項5】
前記被検査物体を回転させるか、又は前記ミリ波送受信アンテナの角度を変化させる手段、又は前記複数のミリ波送受信アンテナを備え、該複数のミリ波送受信アンテナを前記被検査物体に対して互いに異なる角度で配置する手段、の少なくとも一方の手段を有することにより、前記被検査物体に入射するミリ波の入射角度を変化させて反射波を受信し、スポットライトモードによる合成開口処理を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の内部検査装置。
【請求項6】
前記被検査物体を、前記ミリ波送受信アンテナより放射されるミリ波の入射方向を含む面内で360度回転させることにより、前記被検査物体に入射するミリ波の入射角度を360度回転させて反射波を受信することを特徴とする請求項5に記載の内部検査装置。
【請求項7】
前記360度回転の回転中心から離れた位置からの反射波により生じる合成開口処理における焦点のずれを、前記回転中心の周囲の所定の領域内で、受信したミリ波信号の位相補正を行うことにより補正することを特徴とする請求項6に記載の内部検査装置。
【請求項8】
前記被検査物体は、円柱、円筒又は球体の形状を有し、
前記ミリ波は前記被検査物体の中心軸に対してほぼ垂直に照射され、
前記被検査物体を前記中心軸に対して回転させ、前記被検査物体又は前記ミリ波送受信アンテナを前記中心軸に平行な方向に移動させることにより、前記被検査物体の異なる部位が前記ミリ波送受信アンテナのミリ波の放射方向に順次位置するように設定することを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の内部検査装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の内部検査装置を用いた内部検査方法であって、
前記被検査物体が配置される領域内、又は前記領域に近接した領域内の所定の位置に前記ミリ波に対して反射波を生ずる反射物体を設置して予め前記反射物体による前記ミリ波の反射波を受信し、
該受信信号を用いて、前記ミリ波送受信アンテナ及び前記ミリ波送受信回路により生ずる前記被検査物体からの反射波の受信信号の歪の補正を行うことを特徴とする内部検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波を用いて非破壊により被検査物体の内部の構造又は内部の欠陥の形状を求める内部検査装置及び内部検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体の内部の欠陥などを非破壊で検出する方法や装置として、例えば、特許文献1~3に記載された方法や装置が知られている。特許文献1に記載の検査装置は、マイクロ波などの電磁波を測定対象となるコンクリート構造物に向けて照射し、そこからの反射波の強度や位相を検出することにより、その構造物の内部に生じたクラックや剥離などの欠陥を検出するものであり、電磁波の照射・検知手段を測定対象物上で走査することにより検出結果を画像データとして出力するものである。
【0003】
特許文献2に記載の装置は、主として小型の部品等の内部の欠陥などを非破壊で測定する装置であり、検出を容易に、かつ高精度に行うことを目的として、送受信アンテナを用いて構成したマイクロ波の共振系の中に被測定物を配置し、欠陥によるマイクロ波の透過波又は反射波の振幅の変化を検出する構成となっている。特許文献3に記載の装置では、物体内部の層状の欠陥検出において、入射マイクロ波と被検査物体の内部の欠陥等からの反射波の偏波方向が異なることを利用してノイズ信号成分を除去することにより高い検出精度を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-350365号公報
【特許文献2】特開2004-156987号公報
【特許文献3】特開2014-219238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
様々な製品の製造過程における欠陥部材の検出や故障解析等のため、物体の内部を非破壊で検査可能な装置が必要であり、内部の構造や欠陥の形状を高分解能で検出可能な検査装置に対する要求が高まっている。従来、上記の特許文献に記載のように、マイクロ波を用いて物体の内部の欠陥の有無等の検出は可能であったが、欠陥の形状や詳細な内部構造まで検出可能な検査装置は得られていない。
【0006】
そこで、本発明は、係る問題を解決するためになされたものであり、被検査物体の内部の構造や欠陥の形状を高分解能で検査可能な内部検査装置及び内部検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の観点では、本発明の内部検査装置は、被検査物体に向けてミリ波を放射し、前記被検査物体から反射するミリ波を受信するミリ波送受信アンテナと、前記ミリ波送受信アンテナに接続されたミリ波送受信回路と、前記ミリ波送受信アンテナ又は前記被検査物体の少なくとも一方を移動させる手段、又は複数の前記ミリ波送受信アンテナを備える手段、の少なくとも一方の手段を備えることにより、前記被検査物体と前記ミリ波送受信アンテナとの間の複数の相対的に異なる位置で前記ミリ波を放射して前記反射するミリ波信号を受信する手段と、前記受信した複数のミリ波信号と、前記複数の相対的に異なる位置を示す位置データとを用いて合成開口処理を行う合成開口処理手段と、表示手段と、を有し、予め設定した前記複数の相対的に異なる位置で前記被検査物体から反射するミリ波信号を受信し、前記合成開口処理手段により前記被検査物体の内部の構造又は内部の欠陥の形状を求め、前記表示手段に表示することを特徴とする。
【0008】
本発明においては、上記のように、被検査物体に対し相対的に異なる位置のミリ波送受信アンテナにおいてそれぞれ受信した複数のミリ波信号を用いて合成開口処理を行うことにより、被検査物体の内部の構造や欠陥の形状を求める。これにより、単にミリ波の反射波の強度や位相の分布からそれらの形状を求める場合に比べて、大幅に高い分解能での検出を可能としている。なお、合成開口処理を行うため、使用するミリ波送受信アンテナのミリ波の放射角度はある程度広いことが必要であり、例えばプローブアンテナやパッチアンテナ、ホーンアンテナ等が使用可能である。
【0009】
本発明においては、被検査物体とミリ波送受信アンテナとの間の相対的に異なる位置のミリ波信号が必要であるが、複数の相対的に異なる位置のミリ波送受信アンテナから被検査物体に対してミリ波を放射して反射波を受信する手段として、ミリ波送受信アンテナ又は被検査物体の少なくとも一方を移動させる手段、又は複数のミリ波送受信アンテナを備える手段、のいずれか一方の手段を備えるか、又は両方の手段を備えてもよい。すなわち、被検査物体とミリ波送受信アンテナのいずれか一方又は両方を移動させるか、若しくは複数のミリ波送受信アンテナを配置させてもよく、必要な検査領域全体にミリ波が照射されるようにすればよい。なお、本発明において使用するミリ波とは、20~300GHzの周波数の電磁波を指すものとする。
【0010】
合成開口処理においては、例えばレンジ方向はFM-CWレーダ方式等を用いて反射位置を把握することができる。この場合、被検査物体が配置される場所の基準となる位置に、予めミリ波の反射板を設置してミリ波の反射信号を取得しておき、その信号を参照することにより、より正確に被検査物体内の反射位置を把握でき、高分解能化が図れる。また、アジマス方向の合成開口処理の一例としては、レンジマイグレーション補正を行い、各レンジ位置で伝達関数の複素共役を計測条件から解析的に生成し、それを2次元又は1次元の参照信号として計測データと相関処理を行うことで合成開口処理データを得ることができる。
【0011】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点の内部検査装置において、前記の予め設定した位置毎に得られるミリ波信号によるデータに基づいて前記設定位置の間で得られるミリ波信号によるデータを推定して補間する補間処理手段を有し、前記の設定位置毎に得られるデータと前記補間されたデータに基づいて前記内部の構造又は内部の欠陥の形状を求めることを特徴とする。
【0012】
本観点の発明においては、予め設定した複数の相対的に異なる位置でのミリ波信号の測定により得られるデータを使用して、上記の設定位置の間での測定により得られると推定される補間データを計算により求め、その補間データを実際にミリ波信号により得られたデータに加えて被検査物体の内部の構造又は内部の欠陥の形状を求めるものである。これにより、さらに高い分解能での内部構造や欠陥形状の把握が可能となる。また、補間位置で実際の測定を行うことなく、計算による補間処理を行うことにより、測定及び測定結果の処理に要する時間の大幅な短縮が可能となる。
【0013】
第3の観点では、本発明は、前記第1又は第2の観点の内部検査装置において、前記被検査物体は、略直方体の形状を有し、前記ミリ波は前記被検査物体の1つの表面に対してほぼ垂直に照射され、前記被検査物体又は前記ミリ波送受信アンテナの少なくとも一方を前記表面に平行な面内で移動させる手段、又は前記複数のミリ波送受信アンテナを備え、該複数のミリ波送受信アンテナを前記表面に平行な面内に配置する手段、の少なくとも一方の手段を有することにより、前記被検査物体の異なる部位が前記ミリ波送受信アンテナのミリ波の放射方向に順次位置するように設定することを特徴とする。
【0014】
本観点の発明においては、被測定物体は略直方体の形状を有し、ミリ波はその1つの表面に対してほぼ垂直に照射される。さらに、移動手段を備える場合は、被検査物体又は送受信アンテナの少なくとも一方をその照射表面に平行な面内で移動させる。このとき、例えば、ミリ波を照射する表面の幅方向をX軸、長さ方向をY軸とする場合、あるYの座標に対してX方向の測定をすべて終了してからY座標を移動させてもよい。又は、Y方向の移動速度に対してX方向の移動速度を大きくしてXY同時に移動させることにより照射表面全体に対して測定を行ってもよい。この場合、測定操作及び測定結果の処理が連続的に行われ、検査に要する時間の短縮が可能となる。また、複数のミリ波送受信アンテナを照射表面に平行な面内に配置することにより、上記の必要な移動量を小さくすることが可能である。さらに、移動手段を備えていなくても、被検査物体が小さければ、複数のミリ波送受信アンテナの配置だけで合成開口処理に必要なデータが得られる場合もある。
【0015】
第4の観点では、本発明は、前記第1又は第2の観点の内部検査装置において、前記被検査物体は、略板状の形状を有し、前記ミリ波は前記被検査物体の1つの表面に対して斜めに照射され、前記被検査物体又は前記ミリ波送受信アンテナの少なくとも一方を前記表面に平行な面内で、前記ミリ波の放射方向に対して略垂直な方向に移動させる手段、又は前記複数のミリ波送受信アンテナを備え、該複数のミリ波送受信アンテナを前記表面に平行な面内で、前記ミリ波の放射方向に対して略垂直な方向に配置する手段、の少なくとも一方の手段を有することにより、前記被検査物体の異なる部位が前記ミリ波の放射方向に順次位置するように設定することを特徴とする。
【0016】
本観点の発明においては、板状の被検査物体に対してミリ波は斜めに、例えば、表面に対して30度~60度の角度で入射される。ミリ波送受信アンテナの放射角度は広いので、これにより、移動方向に垂直な幅方向の広い領域が検出でき、被検査物体によっては、一方向のみの移動でも検査が可能となる。また、複数のミリ波送受信アンテナを配置することにより必要な移動量を小さくすることが可能であり、被検査物体が小さければ、複数のミリ波送受信アンテナの配置だけで合成開口処理に必要なデータが得られる場合もある。
【0017】
第5の観点では、本発明は、前記第1又は第2の観点の内部検査装置において、前記被検査物体を回転させるか、又は前記ミリ波送受信アンテナの角度を変化させる手段、又は前記複数のミリ波送受信アンテナを備え、該複数のミリ波送受信アンテナを前記被検査物体に対して互いに異なる角度で配置する手段、の少なくとも一方の手段を有することにより、前記被検査物体に入射するミリ波の入射角度を変化させて反射波を受信し、スポットライトモードによる合成開口処理を行うことを特徴とする。本観点の発明は、ミリ波を被検査物体中の検査の基準となる位置に常に向けて放射し、その反射波を受信するスポットライトモードの合成開口処理を行うことにより、非検査物体の内部の構造や欠陥の形状を求めるものである。このスポットライトモードを用いることにより、アジマス方向の解像度を向上させることができる。また、本発明におけるスポットライトモードの合成開口処理においては、取得した反射信号を波数空間に展開し、2次元の逆フーリエ変換により、反射位置を得ることができる。
【0018】
第6の観点では、本発明は、前記第5の観点の内部検査装置において、前記被検査物体を、前記ミリ波送受信アンテナより放射されるミリ波の入射方向を含む面内で360度回転させることにより、前記被検査物体に入射するミリ波の入射角度を360度回転させて反射波を受信することを特徴とする。このように、被検査物体に対し360度の方向からミリ波を放射して反射波を計測できるように、被検査物体を回転し、波数空間のデータを360度に拡張してスポットライトモードの合成開口処理、すなわち2次元の逆フーリエ変換を行うことで、測定方向に関係なく高分解能化が図れる。また、本発明の内部検査装置においては、被検査物体とミリ波送受信アンテナの配置を自由に選択でき、同一平面内で360度回転させてミリ波を照射できるので、一般的な斜め上方からのミリ波照射の場合に比べて、合成開口処理における解析が容易となる。
【0019】
第7の観点では、本発明は、前記第6の観点の内部検査装置において、前記360度回転の回転中心から離れた位置からの反射波により生じる合成開口処理における焦点のずれを、前記回転中心の周囲の所定の領域内で、受信したミリ波信号の位相補正を行うことにより補正することを特徴とする。被検査物体に入射するミリ波の入射角度を360度回転させて反射波を受信する場合、合成開口処理データは回転中心軸付近で焦点があっており、前記中心軸から離れた場所では処理された画像において焦点ずれによるぼけが生じるが、受信したミリ波信号の位相補正を行うことで任意の場所で焦点を合わせることができ、処理画像の鮮明化が図れる。
【0020】
第8の観点では、本発明は、前記第5乃至第7の観点の内部検査装置において、前記被検査物体は、円柱、円筒又は球体の形状を有し、前記ミリ波は前記被検査物体の中心軸に対してほぼ垂直に照射され、前記被検査物体を前記中心軸に対して回転させ、前記被検査物体又は前記送受信アンテナを前記中心軸に平行な方向に移動させることにより、前記被検査物体の異なる部位が前記送受信アンテナのミリ波の放射方向に順次位置するように設定することを特徴とする。被検査物体が中心軸に対して回転対称な物体である場合には、被検査物体の全体を検査する方法としては、被検査物体を回転させながら、送受信アンテナを中心軸方向に沿って移動させて中心軸に垂直にミリ波を照射する方法が効率的である。このとき、例えば、被検査物体を中心軸に対して回転させ、360度の回転を終了してから、被検査物体又は送受信アンテナを中心軸に平行な方向に移動させてもよい。又は、被検査物体を中心軸に対して回転させると同時に被検査物体又は送受信アンテナを中心軸に平行な方向に移動させる、すなわち、スパイラル状に移動させてもよい。
【0021】
第9の観点では、本発明の内部検査方法は、前記第1乃至第8の観点の内部検査装置を用いた内部検査方法であって、前記被検査物体が配置される領域内、又は前記領域に近接した領域内の所定の位置に前記ミリ波に対して反射波を生ずる反射物体を設置して予め前記反射物体による前記ミリ波の反射波を受信し、該受信信号を用いて、前記ミリ波送受信アンテナ及び前記ミリ波送受信回路により生ずる前記被検査物体からの反射波の受信信号の歪の補正を行うことを特徴とする。
【0022】
一般的に、ミリ波の送受信システムでは、ミリ波の送信回路で所望の周波数のミリ波を生成してミリ波送受信アンテナを通して放射し、到達するミリ波を受信している。しかし、この場合、ミリ波送受信アンテナ及びミリ波送受信回路を通して放射されるミリ波送信信号及び受信されるミリ波受信信号は、ミリ波送受信アンテナ及びミリ波送受信回路が完全ではないため、それらを通過する際に何らかの歪成分を有してしまう。通常の合成開口処理においては、入力するミリ波信号の周波数及び解析距離から参照信号を作成し、その参照信号により受信信号に対して相関処理等を行っている。しかし、この場合、実際にミリ波送受信アンテナから放射されるミリ波信号及び受信するミリ波信号が歪により異なってしまうと、合成開口処理により求めた形状には誤差が生じてしまう。本観点の発明では、例えば、予め反射係数がわかっている反射物体を設定した位置に設置してそのミリ波の反射波を受信信号として受信し、その受信信号を用いて処理を行い、設定した反射物体の正しい反射係数と正しい位置を導けるように補正することができる。この反射物体からの受信信号を用いて被検査物体からの反射波の受信信号を補正し、合成開口処理に用いることにより、送受信システムの系全体の歪を補償して、誤差の少ないデータを得ることができる。スポットライトモードの場合も同様に、反射物体の信号を参照することにより、より正確に被検査物体内の反射位置を把握でき、高分解能化が図れる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の内部検査装置及び内部検査方法によれば、被検査物体の内部の構造や欠陥の形状を高分解能で検査することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の内部検査装置及び内部検査方法の実施例1に係る内部検査装置のブロック構成図。
【
図2】実施例1の検査手順のフローチャートの一例を示す図。
【
図3】実施例1の内部検査装置を用いた実験結果の一例を示す図。
【
図4】本発明の実施例2に係る内部検査装置のブロック構成図。
【
図5】実施例2の内部検査装置を用いた実験結果の一例を示す図。
【
図6】実施例3に係る内部検査装置のミリ波送受信アンテナと被検査物体の配置を示す模式的な構成図。
【
図7】実施例4に係る内部検査装置のミリ波送受信アンテナと被検査物体の配置を示す模式的な構成図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の内部検査装置及び内部検査方法を実施例により詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、その重複した説明を省略する。
【実施例0026】
図1は、本発明の内部検査装置及び内部検査方法の実施例1に係る内部検査装置のブロック構成図である。
図1において、本実施例の内部検査装置10は、被検査物体1に向けてミリ波を放射し、被検査物体1から反射するミリ波を受信するミリ波送受信アンテナ2と、ミリ波送受信アンテナ2に接続されたミリ波送受信回路3と、被検査物体1を搭載して被検査物体1を移動させる移動手段として電動ステージ4を備えている。ここで、被検査物体1は、直方体の形状を有し、ミリ波送受信アンテナ2から放射されるミリ波は被検査物体1の表面1aに対してほぼ垂直に放射される。電動ステージ4は、被検査物体1を表面1aに平行な面内、すなわちxy面内で移動させ、被検査物体1の異なる部位がミリ波送受信アンテナ2のミリ波の放射方向に順次位置するように設定する。本実施例では、ミリ波送受信アンテナ2としてプローブアンテナを用いている。
【0027】
また、内部検査装置10は、被検査物体1とミリ波送受信アンテナ2との間の複数の相対的に異なる位置に対して受信した複数のミリ波信号と、それらの複数の相対的に異なる位置を示す位置データを用いて合成開口処理を行う合成開口処理手段を備え、その合成開口処理手段はパーソナルコンピュータ5におけるソフトウェアの1つとして備えている。具体的には、被検査物体1の移動に伴って、予め設定した移動間隔、例えば0.5~5.0mm程度毎に被検査物体1から反射するミリ波信号を受信し、それぞれの移動位置で受信した複数のミリ波信号と、それぞれの受信位置におけるミリ波送受信アンテナ2に対する被検査物体1の位置を示す位置データを用いて合成開口処理を行う。この合成開口処理手段により被検査物体1の内部の構造又は内部の欠陥の形状を求め、それらの内部構造や欠陥の形状はパーソナルコンピュータ5の表示部6に表示される。
【0028】
電動ステージ4はコントローラ7により制御され、コントローラ7はパーソナルコンピュータ5からの制御信号11により制御される。また、コントローラ7からは、移動に伴って、パーソナルコンピュータ5には受信信号取り込みのため、ミリ波送受信回路3には送信信号の送出のため、トリガー信号12が送られる。
【0029】
本実施例の内部検査装置10による内部検査方法の検査手順について以下に説明する。
図2は、本実施例の検査手順のフローチャートの一例を示す図である。先ず、最初に計測条件の設定を行う。具体例としては、レンジ方向、すなわち、
図1において被検査物体1の内部のz方向の反射位置を求めるためにFM-CWレーダ方式を用いる場合、ミリ波送受信アンテナ2から放射するミリ波の周波数を周期的に直線的に変化させたチャープ信号を用いるので、その場合の周波数及びその変化幅及び周期等を設定する。この設定された条件に基づいて、ミリ波送信信号が作成され、ミリ波送受信アンテナ2に供給される。なお、ミリ波の周波数の一例としては、77GHz~81GHzの間で掃引することができる。
【0030】
次に、設定された移動位置に被検査物体1が到達したとき、受信データ処理として、被検査物体1からの反射波をミリ波送受信アンテナ2により受信し、その受信ミリ波の周波数を低周波数領域に変換し、ADコンバータによる電圧値の変換等を行いレンジ方向の受信信号の生データとして出力する。次に、レンジ方向、すなわち
図1における被検査物体1の深さz方向の相関処理を行う。具体的には、送信信号に基づいて参照信号を作成し、受信信号と参照信号にフーリエ変換処理を行い、周波数領域で乗算する相関処理を行う。その後、相関処理後のデータに対して逆フーリエ変換処理を行ってレンジ圧縮データを得る。
【0031】
但し、本実施例においては、このレンジ方向の相関処理においては、被検査物体1が配置される領域内の所定の位置、例えば、被検査物体1の表面1aの位置に放射されるミリ波に対して反射波を生ずる反射物体、例えば金属板を設置して予めその金属板によるミリ波の反射波を受信し、その受信データを用いてミリ波送受信アンテナ2及びミリ波送受信回路3による測定系全体の補正を行う。具体的には、金属板による反射波の受信信号を用いて上記の相関処理を行い、その結果として金属板を正しく示すデータが出力するように参照信号を補正し、相関処理を行うものである。この補正を行うことにより、送受信システムの系全体の歪を補償して、誤差の少ないデータを得ることができる。
【0032】
次に、レンジ方向の距離の変化による歪を補正するため、レンジ圧縮データに対してレンジマイグレーション補正を行い、アジマス方向、すなわち
図1において被検査物体1の移動方向の相関処理を行う。アジマス方向の参照信号は送信信号に基づいて、解析的に各レンジ位置での伝達関数の複素共役を求めて作成される。相関処理はレンジ方向の相関処理と同様な処理を行い、移動方向の複数の受信データにより一般的な合成開口処理と同様な手順によって合成開口処理データが得られる。被検査物体1を移動させながら、予め設定した領域の全体にわたって合成開口処理を行った後、得られた合成開口処理データを用いて被検査物体1の内部構造等が表示部6に表示される。
【0033】
但し、本実施例においては、設定した移動間隔毎の反射ミリ波の受信信号により得られるデータを使用して、移動間隔の間での測定により得られると推定される補間データを計算により求め、その補間データを実際にミリ波信号により得られたデータに加えて被検査物体の内部の構造又は内部の欠陥の形状を求めている。具体的には、受信信号のデータが得られる位置のみではなく、それらの間の補間位置においてもアジマス方向の参照信号を作成し、受信信号のデータと相関処理を行ってその補間位置における合成開口処理データを求め、その補間処理データを追加して被検査物体1の内部構造等の形状を求めている。例えば、受信信号を得る移動間隔に対し、5分の1の間隔で補間処理のための参照信号を作成し、得られている受信信号と相関処理を行う。このように、補間位置で実際の測定を行うことなく、計算による補間処理を行うことにより、測定及び測定結果の処理に要する時間の大幅な短縮が可能となり、測定される内部形状の分解能も大幅に向上することが確認されている。
【0034】
図3は本実施例の内部検査装置10を用いた実験結果の一例を示す図であり、パッケージ内に梱包されたスマートフォンの有無を検出した画像である。
図3(a)はスマートフォンが内蔵されている場合、
図3(b)はスマートフォンが欠損している場合の画像を示す。
図3(a)においては、パッケージ内のスマートフォンの反射画像が明確に確認された。
また、内部検査装置20は、パーソナルコンピュータ5と表示部6を備え、実施例1と同様な合成開口処理を行う。被検査物体21のy方向への移動に伴って、予め設定した移動間隔、例えば0.5~5.0mm程度毎に被検査物体1から反射するミリ波信号を受信し、それぞれの移動位置で受信した複数のミリ波信号と、それぞれの受信位置におけるミリ波送受信アンテナ2に対する被検査物体21の位置を示す位置データを用いて合成開口処理を行う。この合成開口処理手段により被検査物体21の内部の構造又は内部の欠陥の形状を求め、それらの内部構造や欠陥の形状はパーソナルコンピュータ5の表示部6に表示される。
本実施例における内部検査装置20の検査手順は実施例1と同様であり、被検査物体21の表面21aの位置に金属板を設置して予めその金属板によるミリ波の反射波を受信し、その受信データを用いてミリ波送受信アンテナ2及びミリ波送受信回路3による測定系全体の補正を行う。また、受信信号のデータが得られる位置の間の補間位置においてもアジマス方向の参照信号を作成し、受信信号のデータとの相関処理を行ってその補間位置における合成開口処理データをもとめ、それを加えて被検査物体21の内部の構造又は内部の欠陥の形状を求めている。