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特開2022-169256ロボット制御装置、ロボット制御方法、ロボット制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169256
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ロボット制御装置、ロボット制御方法、ロボット制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
B25J9/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075178
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 研太
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707AS12
3C707AS21
3C707AS35
3C707BS12
3C707CY15
3C707HS27
3C707KS23
3C707KS40
3C707KV04
3C707KX05
3C707LT13
(57)【要約】
【課題】固有振動の影響を効果的に低減できるロボット制御装置を提供する。
【解決手段】ロボット制御装置300は、ロボットアームのジョイント11~16に設けられる被駆動部220およびレーザ光照射部230の加速度を取得する加速度センサ211と、加速度センサ211で測定された加速度に対して少なくとも一回の積分処理を施して、ロボットアームの固有振動と反対方向に被駆動部220およびレーザ光照射部230を駆動する補正駆動信号を生成する補正駆動信号生成部340と、補正駆動信号生成部340における少なくとも一回の積分処理の前に、ロボットアームの固有振動数より低い周波数の信号を低減する低周波フィルタ341、343と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットの可動部に設けられる作業部の加速度を取得する加速度取得部と、
前記加速度に対して少なくとも一回の積分処理を施して、前記可動部の固有振動と反対方向に前記作業部を駆動する補正駆動信号を生成する補正駆動信号生成部と、
前記補正駆動信号生成部における少なくとも一回の積分処理の前に、前記可動部の固有振動数より低い周波数の信号を低減する低周波フィルタと、
を備えるロボット制御装置。
【請求項2】
前記補正駆動信号生成部は、前記加速度を積分して速度に変換する第1の積分処理と、前記速度を積分して位置に変換する第2の積分処理と、を施して、前記作業部の位置を補正する前記補正駆動信号を生成し、
前記低周波フィルタは、前記第1の積分処理の前に前記固有振動数より低い周波数の信号を低減する第1の低周波フィルタと、前記第1の積分処理の後で前記第2の積分処理の前に前記固有振動数より低い周波数の信号を低減する第2の低周波フィルタと、を含む、
請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項3】
前記低周波フィルタは、処理対象信号の所定時間に亘る移動平均を当該処理対象信号から減算する、請求項1または2に記載のロボット制御装置。
【請求項4】
ロボットの可動部に設けられる作業部の加速度を取得する加速度取得部と、
前記加速度に基づいて前記可動部の固有振動と反対方向に前記作業部を駆動する駆動力を表す補正駆動信号を生成する補正駆動信号生成部と、
を備えるロボット制御装置。
【請求項5】
前記加速度取得部は、静電容量方式の加速度センサによって構成される、請求項1から4のいずれかに記載のロボット制御装置。
【請求項6】
前記作業部の位置指令を取得する位置指令取得部と、
前記位置指令および前記補正駆動信号に応じて前記作業部を駆動するアクチュエータと、
を更に備える請求項1から5のいずれかに記載のロボット制御装置。
【請求項7】
前記作業部は、レーザ光によって加工対象を加工するレーザ加工部である、請求項1から6のいずれかに記載のロボット制御装置。
【請求項8】
ロボットの可動部に設けられる作業部の加速度を取得するステップと、
前記加速度に対して少なくとも一回の積分処理を施して、前記可動部の固有振動と反対方向に前記作業部を駆動する補正駆動信号を生成するステップと、
前記少なくとも一回の積分処理の前に、前記可動部の固有振動数より低い周波数の信号を低減するステップと、
を備えるロボット制御方法。
【請求項9】
ロボットの可動部に設けられる作業部の加速度を取得するステップと、
前記加速度に対して少なくとも一回の積分処理を施して、前記可動部の固有振動と反対方向に前記作業部を駆動する補正駆動信号を生成するステップと、
前記少なくとも一回の積分処理の前に、前記可動部の固有振動数より低い周波数の信号を低減するステップと、
をコンピュータに実行させるロボット制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
工場、物流倉庫、建設現場、病院等の産業現場において、人間の代わりに各種の作業を行うロボットが導入されている。ロボットアーム等のロボットの可動部の先端部には、作業目的に応じた形状や機能を持つエンドエフェクタと呼ばれる作業部が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-149247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロボットアームが位置を変えながらエンドエフェクタで作業を行う際、ロボットアームの移動直後にロボットアームの構造に基づく固有振動数の固有振動が残存することがある。固有振動が残存した状態ではエンドエフェクタの作業精度が低下するため、固有振動が十分に減衰するまで作業を中断する必要があり、作業効率の低下を招いていた。
【0005】
特許文献1には、固有振動の影響を低減するために、加速度センサで測定した作業部の加速度を2回積分して位置に変換し、固有振動に基づく作業部の位置の誤差を検出する技術が開示されている。しかし、この技術を独自に検討した結果、加速度センサがロボットアームの固有振動数より低い周波数の低周波ノイズの発生源となり得ることが判明した。低周波ノイズが存在した状態で加速度に対して積分処理を施すと、積算された低周波ノイズによって作業部の位置の誤差を適切に検出できない。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、固有振動の影響を効果的に低減できるロボット制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のロボット制御装置は、ロボットの可動部に設けられる作業部の加速度を取得する加速度取得部と、加速度に対して少なくとも一回の積分処理を施して、可動部の固有振動と反対方向に作業部を駆動する補正駆動信号を生成する補正駆動信号生成部と、補正駆動信号生成部における少なくとも一回の積分処理の前に、可動部の固有振動数より低い周波数の信号を低減する低周波フィルタと、を備える。この態様によれば、低周波フィルタが加速度取得部の低周波ノイズを低減するため、ロボットの可動部の固有振動の影響を効果的に低減できる。
【0008】
本発明の別の態様もまた、ロボット制御装置である。この装置は、ロボットの可動部に設けられる作業部の加速度を取得する加速度取得部と、加速度に基づいて可動部の固有振動と反対方向に作業部を駆動する駆動力を表す補正駆動信号を生成する補正駆動信号生成部と、を備える。この態様によれば、補正駆動信号生成部が加速度に対して積分処理を施さず、加速度取得部の低周波ノイズが積算されないため、ロボットの可動部の固有振動の影響を効果的に低減できる。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固有振動の影響を効果的に低減できるロボット制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ロボットアームの外観を示す。
図2】ロボットアームの先端部に設けられる加工ヘッドの構成を模式的に示す。
図3】ロボットアームの移動直後に残存する固有振動の例を示す。
図4】ロボット制御装置の第1の構成例を示す。
図5】加速度センサの低周波ノイズの具体例を示す。
図6】加速度センサの低周波ノイズの具体例を示す。
図7】低周波フィルタの効果を示す。
図8】ロボット制御装置の第2の構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、産業用ロボットの一例としてのロボットアーム100の外観を示す斜視図である。このロボットアーム100は、シリアルリンク機構による垂直多関節型のロボットアームである。本発明を適用可能なロボットアームは図示の構成のものに限られず、複数のリンク(人体における骨に相当)を相対運動可能に連結するジョイント(人体における関節に相当)を有する任意の構成のロボットアームでよい。また、シリアルリンク機構の代わりにパラレルリンク機構としてもよいし、垂直多関節型の代わりに水平多関節型としてもよい。なお、本発明はロボットアームに限られない任意のロボットに適用可能である。例えば、ワーク(作業対象物)が載置されるテーブル(作業部)を一または複数の駆動軸に沿って移動させるスライダ(可動部)を備えるテーブル駆動装置(ロボット)にも本発明は適用可能である。
【0014】
ロボットアーム100は、ロボットの可動部として、台座10に近い方から順に、第1ジョイント11、第2ジョイント12、第3ジョイント13、第4ジョイント14、第5ジョイント15、第6ジョイント16の六つの軸を有する。各ジョイントは人体の各関節に相当し、第1ジョイント11は腰、第2ジョイント12は肩、第3ジョイント13は肘、第4ジョイント14は腕(捻り)、第5ジョイント15は手首、第6ジョイント16は指先(捻り)に相当する。なお、各軸の方向はロボットアーム100の目的や用途に応じて適宜設計可能だが、本実施形態では台座10が水平面に置かれるとして、第1ジョイント11は鉛直方向(水平面である台座10に対して垂直)、第2ジョイント12および第3ジョイント13は水平方向(水平面である台座10に対して平行)、第4ジョイント14は第3ジョイント13に対して垂直方向、第5ジョイント15は水平方向、第6ジョイント16は第5ジョイント15に対して垂直方向を向く。
【0015】
ロボットアーム100の先端部にある第6ジョイント16には、作業目的に応じた形状や機能を持つエンドエフェクタまたはロボットハンドが取り付けられる。例えば、物を掴むためのグラップル状、物を掬うためのシャベル状、物を下から支えて運搬するためのフォーク状、物を引っ掛けて運搬するためのフック状、物を吊り上げて運搬するためのクレーン状といった各種のエンドエフェクタが利用可能である。本実施形態ではエンドエフェクタとして、レーザ光によって加工対象を加工するレーザ加工部としての加工ヘッドを用いる例を説明する。
【0016】
図2は、ロボットアーム100の先端部に設けられる加工ヘッド200の構成を模式的に示す。互いに直交するX軸、Y軸、Z軸によって定まるXYZ直交座標系において、図2(A)は鉛直面であるYZ平面を示す側面図であり、図2(B)は水平面であるXY平面を示す上面図である。加工ヘッド200は、ロボットアーム100の先端部にある第6ジョイント16に基端部(図2の-Y側の端部)が取り付けられるベース210と、ベース210の先端側(図2の+Y側)においてベース210に対してX軸、Y軸、Z軸の各方向に駆動される被駆動部220と、被駆動部220の先端側(図2の+Y側)に取り付けられて下方(図2の-Z方向)にある加工対象にレーザ光Lを照射する作業部としてのレーザ光照射部230を備える。
【0017】
ベース210の表面(図2の+Z側の面)には、加速度取得部としての加速度センサ211と、アクチュエータ212が実装される。加速度センサ211は、加工ヘッド200のX軸、Y軸、Z軸の各方向の加速度を測定可能な3軸加速度センサである。各軸の加速度に加えて各軸の周りの角速度や角加速度を測定可能な6軸慣性センサとして加速度センサ211を構成してもよい。後述するように、加速度センサ211は、ロボットアーム100の移動直後に残存する固有振動を検出し、それがレーザ光照射部230の加工作業に与える影響を低減するために設けられる。
【0018】
加速度センサ211は、ロボットアーム100の固有振動を検出できる任意の場所に設置可能であり、図示の例に限らず、ロボットアーム100自体に設置してもよいし、被駆動部220やレーザ光照射部230に設置してもよい。但し、図示の例では、ベース210の裏面(図2の-Z側の面)に被駆動部220が設けられるために存在する表面の空きスペースを利用して加速度センサ211およびアクチュエータ212を実装できるため、加工ヘッド200をコンパクトに形成できるというメリットがある。また、ベース210におけるレーザ光照射部230に近い側(図2の-Y側)で固有振動を検出できるため、それがレーザ光照射部230の加工作業に与える影響を効果的に低減できる。
【0019】
加速度センサ211の方式は限定されず、圧電素子(ピエゾ素子)を利用した圧電方式、機械的方式、光学的方式等の任意の方式を採用できるが、後述するように、ロボットアーム100の固有振動の影響を効果的に低減する上では静電容量方式の加速度センサとするのが好ましい。
【0020】
アクチュエータ212は、被駆動部220をベース210に対してX軸、Y軸、Z軸の各方向に駆動するX軸アクチュエータ、Y軸アクチュエータ、Z軸アクチュエータを備える。各軸のアクチュエータは、対応する軸に沿った直線動力を発生するリニアモータでもよいし、回転子を備えるモータが発生した回転動力を動力変換機構によって対応する軸に沿った直線動力に変換するものでもよい。以下、前者の場合のリニアモータが発生する直線動力または力と、後者の場合のモータが発生する回転動力またはトルクを、被駆動部220およびレーザ光照射部230を駆動する駆動力と総称する。
【0021】
アクチュエータ212によって被駆動部220と一体的に駆動されるレーザ光照射部230は、レーザ光Lを導入する光ファイバ231と、内部に収容したレンズ等の各種の光学部品によって光ファイバ231からのレーザ光Lを下方(図2の-Z方向)の加工対象に照射する光学部品ハウジング232を備える。光ファイバ231からレーザ光を導入する代わりに、レーザダイオード等の発光素子を光学部品ハウジング232に収容することで、光学部品ハウジング232の内部でレーザ光Lを生成してもよい。
【0022】
以上の構成において、ロボットアーム100の第1~6ジョイント11~16は広範囲(例えば100mm立方超)または大移動量(例えば100mm超)の駆動を主に担い、加工ヘッド200のアクチュエータ212は狭範囲(例えば100mm立方以内)または小移動量(例えば100mm以下)の駆動を主に担う。加工ヘッド200によって加工対象を加工する場合、典型的には、第1ステップとしてアクチュエータ212が停止した状態で第1~6ジョイント11~16の駆動によって加工ヘッド200が加工対象の近傍に移動し、続く第2ステップとして第1~6ジョイント11~16が停止した状態でアクチュエータ212の駆動によってレーザ光照射部230がレーザ光Lの照射位置を細かく変えながら加工対象に微細加工(微小な穴あけ加工等)を施す。
【0023】
このように、レーザ光照射部230による実際の加工処理の前には第1~6ジョイント11~16によるロボットアーム100の移動または運動が伴うことが多く、その直後に残存する固有振動が問題になる。なお、加工範囲が広い場合(例えば100mm立方超の場合)であって、求められる加工精度が低い場合は、ロボットアーム100の第1~6ジョイント11~16の駆動によってレーザ光照射部230がレーザ光Lの照射位置を変えながら加工対象を加工してもよい。この時、アクチュエータ212は停止した状態でもよいし、後述するようにロボットアーム100の移動に伴う固有振動の影響を低減するために駆動されてもよい。
【0024】
図3は、ロボットアーム100の移動直後に残存する固有振動の例を示す。ロボットアーム100がXYZの各軸の方向に等速で移動している状態から停止した際に各軸の方向に残存する固有振動が示される。ロボットアーム100が停止した時点のレーザ光照射部230のXYZの各座標(位置)を0とした場合、図3(A)はレーザ光照射部230のX軸方向の位置を表し、図3(B)はレーザ光照射部230のY軸方向の位置を表し、図3(C)はレーザ光照射部230のZ軸方向の位置を表す。各図に現れているように、各軸には略一定の固有振動数または共振周波数の固有振動が残存する。各軸の固有振動数はロボットアーム100の各軸に沿った構造に基づいて決まるが典型的には5Hzから20Hzの間である(実際のロボットアーム100を用いた試験の結果、7Hz, 10Hz, 15Hz, 20Hzの付近に固有振動数が確認された)。このような固有振動が残存した状態ではレーザ光照射部230の加工精度が低下するため、各軸の固有振動が十分に減衰するまで加工を中断するか、固有振動の影響を低減するための補正処理を施す必要がある。
【0025】
図4は、ロボットアーム100の固有振動の影響を低減するためのロボット制御装置300の第1の構成例を示す。ロボット制御装置300は、ロボットアーム100および加工ヘッド200の制御を担う全体制御装置310と、ロボットアーム100の駆動制御を担うロボットアーム駆動制御装置320と、加工ヘッド200の駆動制御を担う加工ヘッド駆動制御装置330と、ロボットアーム100の固有振動の影響を低減するための補正駆動信号を生成する補正駆動信号生成部340を備える。
【0026】
全体制御装置310は、ロボットアーム100および加工ヘッド200を操作するオペレータが入力する操作信号や、不図示のメモリに記憶されたコンピュータプログラムに含まれる一連の命令に応じて、ロボットアーム100および加工ヘッド200それぞれを駆動するための指令を生成する。
【0027】
ロボットアーム駆動制御装置320のロボットアーム制御部321は、全体制御装置310からのロボットアーム100の駆動指令を受けて、ロボットアーム100の各ジョイント11~16を回転駆動するための指令を生成する。具体的には、ロボットアーム制御部321は、各ジョイント11~16の角度(位置)を指定する位置指令を生成する。なお、ロボットアーム制御部321は、位置指令に加えてまたは代えて、各ジョイント11~16の角速度(速度)を指定する速度指令、各ジョイント11~16の角加速度(加速度)を指定する加速度指令、各ジョイント11~16を回転駆動するアクチュエータ323が発生するトルク(駆動力)を指定する駆動力指令を生成してもよい。
【0028】
ロボットアーム制御部321の後段に設けられるドライバ322は、ロボットアーム制御部321からの各ジョイント11~16の回転駆動指令を受けて、各ジョイント11~16を回転駆動するアクチュエータ323に対して駆動信号を印加する。アクチュエータ323が交流モータによって構成される場合、ドライバ322は駆動信号としての交流を生成するインバータによって構成される。
【0029】
加工ヘッド駆動制御装置330の加工ヘッド制御部331は、全体制御装置310からの加工ヘッド200の駆動指令を受けて、加工ヘッド200の被駆動部220(およびレーザ光照射部230)を駆動するための指令を生成する。具体的には、加工ヘッド制御部331は、被駆動部220のXYZの各座標(位置)を指定する位置指令を生成する。このように、加工ヘッド制御部331は、被駆動部220と一体的に駆動される作業部としてのレーザ光照射部230の位置指令を取得する位置指令取得部を構成する。なお、加工ヘッド制御部331は、位置指令に加えてまたは代えて、被駆動部220のXYZの各軸の方向の速度を指定する速度指令、被駆動部220のXYZの各軸の方向の加速度を指定する加速度指令、被駆動部220をXYZの各軸の方向に駆動するアクチュエータ212が発生する駆動力(力またはトルク)を指定する駆動力指令を生成してもよい。
【0030】
加工ヘッド制御部331の後段に設けられるドライバ332は、加工ヘッド制御部331からの被駆動部220の駆動指令を受けて、被駆動部220を駆動するアクチュエータ212に対して駆動信号を印加する。アクチュエータ212が交流モータによって構成される場合、ドライバ332は駆動信号としての交流を生成するインバータによって構成される。
【0031】
補正駆動信号生成部340は、第1の低周波フィルタ341と、第1の積分器342と、第2の低周波フィルタ343と、第2の積分器344と、補正駆動量演算部345を備える。補正駆動信号生成部340は、ロボットアーム100の移動直後(各ジョイント11~16の回転直後)に残存する固有振動の影響を低減するための補正駆動信号を生成するために設けられ、ロボットアーム100が指定位置に到達して停止したことを示すインポジション信号がロボットアーム制御部321から入力されたことをトリガーとして動作する。
【0032】
加速度センサ211はロボットアーム100の移動直後にXYZの各軸の方向に残存する固有振動(図3)を加速度として測定し、第1の積分器342は加速度センサ211で測定された加速度を積分して速度に変換する第1の積分処理を施し、第2の積分器344は第1の積分処理で得られた速度を積分して位置に変換する第2の積分処理を施す。このように、加速度センサ211で測定された加速度に対して二回の積分処理を施した結果、ロボットアーム100の移動直後に残存する固有振動をXYZの各軸の方向の位置情報として取得できる。
【0033】
補正駆動量演算部345は、この固有振動の位置情報に基づいて、固有振動と反対方向に被駆動部220(およびレーザ光照射部230)を駆動する補正駆動信号を生成する。具体的には、補正駆動量演算部345は、図3に示したような固有振動に起因するXYZの各軸の方向の基準位置(0)からの変位量(補正駆動量)を演算し、被駆動部220(およびレーザ光照射部230)の位置を補正する補正駆動信号として加工ヘッド制御部331に提供する。加工ヘッド制御部331は、全体制御装置310からの駆動指令を受けて自ら生成した被駆動部220の位置指令から、補正駆動信号生成部340からの補正駆動信号を減算する補正処理を実行する。この補正処理の結果、被駆動部220は加工ヘッド制御部331が自ら生成した位置指令に基づいてアクチュエータ212によって駆動されると同時に、補正駆動信号生成部340が生成した補正駆動信号に基づいて固有振動を打ち消すようにアクチュエータ212によって駆動される。このため、被駆動部220と一体的に駆動されるレーザ光照射部230に対する固有振動の影響を低減できる。
【0034】
補正駆動信号生成部340において、第1の積分器342における第1の積分処理の前にロボットアーム100の各軸の固有振動数より低い周波数の信号を低減する第1の低周波フィルタ341と、第1の積分処理の後で第2の積分器344における第2の積分処理の前にロボットアーム100の各軸の固有振動数より低い周波数の信号を低減する第2の低周波フィルタ343が設けられる。加速度センサ211によって固有振動を測定する図4の構成では、加速度センサ211がロボットアーム100の固有振動数より低い周波数の低周波ノイズの発生源となり得ることが判明した。低周波ノイズが存在した状態で加速度に対して積分処理を施すと、積算された低周波ノイズによって適切な補正駆動信号を生成できないため、各積分器342、344の前に低周波ノイズを除去するための各低周波フィルタ341、343が設けられる。なお、低周波フィルタはいずれか一方の積分器342、344の前に設けてもよいし、第2の積分器344の後に設けてもよい。
【0035】
図5は、加速度センサ211の低周波ノイズの具体例を示す。図5(A)は圧電方式の加速度センサ211が測定した加速度を、ロボットアーム100の固有振動(被駆動部220の変位)と共に示す。図5(B)は静電容量方式の加速度センサ211が測定した加速度を、ロボットアーム100の固有振動(被駆動部220の変位)と共に示す。
【0036】
圧電方式の加速度センサ211に関する図5(A)において、固有振動の振幅が0.1mm程度に減衰する約1.5秒以前では、加速度の振幅が固有振動の振幅より大きくなるオーバーシュートが観察され、固有振動が0.1mm程度に減衰した約1.5秒以降では、2Hz以下の低い周波数すなわち0.5秒以上の長い周期で加速度が緩やかに振動するうねりが観察される。圧電素子を利用した圧電方式の加速度センサ211では、加わった圧力によって圧電素子で発生した電圧が素早く低下する現象が発生し、ロボットアーム100の低周波数の動作への応答性を悪化させることから、上記のようなオーバーシュートやうねりが発生すると考えられる。
【0037】
一方、静電容量方式の加速度センサ211に関する図5(B)では、約1.5秒以前のオーバーシュートは観察されず、約1.5秒以降のうねりも大幅に低減されている。このように、ロボットアーム100の固有振動の影響を効果的に低減する上では、図5(A)の圧電方式よりも静電容量方式の方が好ましい。しかし、図6(A)に拡大して示すように加速度の低周波のうねりが完全に除去された訳ではなく、約1.5秒以降において2Hz以下の低い周波数すなわち0.5秒以上の長い周期で加速度が緩やかに振動する微小なうねりが残存する。図5(A)の圧電方式の加速度センサ211と同様に、静電容量方式の加速度センサ211でも、分解能未満の低周波数の動作がうねりとして現れると考えられる。
【0038】
図6(B)は、図6(A)の低周波のうねりが残存する加速度に対して、低周波フィルタ341、343を適用することなく、積分器342、344で二回の積分処理を施した結果を示す。二回の積分処理で低周波ノイズが積算された結果、約1.5秒以降の信号の波形が大きく歪んでいる。このような信号は、固有振動を除去するための補正駆動信号として役に立たないばかりでなく、加工ヘッド制御部331が生成する本来の位置指令を大きく歪ませるため、被駆動部220およびレーザ光照射部230の正確な駆動を阻害する。
【0039】
各低周波フィルタ341、343は各積分器342、344の積分処理の前に図5(A)や図6(A)に見られるような低周波のうねりを除去するハイパスフィルタである。具体的には、各低周波フィルタ341、343は、処理対象信号の所定時間に亘る移動平均を当該処理対象信号から減算することで、低周波ノイズを除去する。各低周波フィルタ341、343は、例えば以下のように設計する。
【0040】
まず、各低周波フィルタ341、343は、補正対象である固有振動を通過させて除去対象である低周波ノイズを通過させないために、固有振動数より小さく低周波ノイズより大きいカットオフ周波数を持つ必要がある。ロボットアーム100の固有振動数は典型的には5Hz以上であり、低周波ノイズの周波数は典型的には2Hz以下であるため、各低周波フィルタ341、343のカットオフ周波数は2Hzと5Hzの間とする必要があり、3Hzと4Hzの間とするのが好ましい。
【0041】
また、各低周波フィルタ341、343は、ロボットアーム制御部321からインポジション信号が入力されて動作を開始する際、所定時間に亘って処理対象信号を取得して移動平均を求める必要がある。移動平均を取る時間が長いほど高い低周波ノイズ除去効果が期待されるが、動作開始直後の待機時間が長くなってしまうため適切な長さに設定する必要がある。実際のロボットアーム100を用いた試験の結果、移動平均を取る時間は100msと200msの間とするのが好ましく、155msと170msの間とするのが更に好ましいことが見出された。
【0042】
図7は、低周波フィルタ341、343の効果を示す。図7(A)は、補正駆動信号によって補正される前の被駆動部220のX軸方向の変位と、補正駆動信号生成部340が低周波フィルタ341、343を適用して生成した補正駆動信号(補正駆動量)と、補正駆動信号によって補正された後の被駆動部220のX軸方向の変位を表す。固有振動が発生した約0.7秒から約1.0秒までの約0.3秒間に補正後の変位が現れないのは、前述の通り各低周波フィルタ341、343が移動平均を求める待機時間のためである。この約0.3秒の待機時間のうち、前半の約0.15秒では第1の低周波フィルタ341における移動平均の演算が行われ、後半の約0.15秒では第1の低周波フィルタ341の移動平均の演算結果を利用して第2の低周波フィルタ343における移動平均の演算が行われる。待機時間終了後の約1.0秒から現れる補正後の変位は最初から±0.1mm以内に収まっており、補正前より迅速に固有振動が減衰していることが分かる。補正前の変位が±0.1mmに収まるのは約1.4秒であるため、低周波フィルタ341、343によって固有振動の減衰において約0.4秒の改善が実現された、
【0043】
図7(B)は、低周波フィルタ341、343による加速度センサ211のオフセット除去の効果を示す。温度等の周囲の環境に応じて加速度センサ211の出力に略一定値のオフセットが現れることがある。また、静電容量方式の加速度センサ211は重力加速度も測定できるため、設置面の傾き等によって略一定値のオフセットが出力に現れる。このようなオフセットが存在した状態で加速度に対して積分処理を施すと、積算されたオフセットによって適切な補正駆動信号を生成できないが、低周波フィルタ341、343によってオフセットを除去できる。図7(B)に示されるように、元々の加速度センサ211の出力(電圧)に含まれていたオフセットが、第1の低周波フィルタ341を通過することで除去されていることが分かる。
【0044】
図8は、ロボットアーム100の固有振動の影響を低減するためのロボット制御装置300の第2の構成例を示す。第1の構成例との主な違いは、補正駆動信号生成部340が積分器を備えず、加速度センサ211で測定された加速度の次元のまま増幅や平均化等の処理を施して、ロボットアーム100の固有振動と反対方向に被駆動部220およびレーザ光照射部230を駆動する駆動力を表す補正駆動信号を生成する点である。ここで、駆動力を表す補正駆動信号とは、被駆動部220をXYZの各軸の方向に駆動するアクチュエータ212が発生する駆動力(力またはトルク)を指定または補正するものでもよいし、アクチュエータ212に印加される電流や電圧を指定または補正するものでもよい。本構成例によれば、補正駆動信号生成部340が加速度に対して積分処理を施さず、加速度センサ211の低周波ノイズが積算されないため、ロボットアーム100の固有振動の影響を効果的に低減できる。
【0045】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0046】
なお、実施形態で説明した各装置の機能構成はハードウェア資源またはソフトウェア資源により、あるいはハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により実現できる。ハードウェア資源としてプロセッサ、ROM、RAM、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0047】
100 ロボットアーム、200 加工ヘッド、210 ベース、211 加速度センサ、212 アクチュエータ、220 被駆動部、230 レーザ光照射部、300 ロボット制御装置、310 全体制御装置、320 ロボットアーム駆動制御装置、321 ロボットアーム制御部、330 加工ヘッド駆動制御装置、331 加工ヘッド制御部、340 補正駆動信号生成部、341 第1の低周波フィルタ、342 第1の積分器、343 第2の低周波フィルタ、344 第2の積分器、345 補正駆動量演算部。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8