(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169258
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】野菜・果実加工品の退色抑制剤及び野菜・果実加工品の退色を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20221101BHJP
【FI】
A23L19/00 Z
A23L19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075182
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】591014097
【氏名又は名称】サンエイ糖化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】林 佳奈子
(72)【発明者】
【氏名】深見 健
【テーマコード(参考)】
4B016
【Fターム(参考)】
4B016LC03
4B016LG01
4B016LG05
4B016LG06
4B016LG10
4B016LK01
4B016LK04
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4B016LP03
4B016LP06
4B016LP08
4B016LP11
4B016LP13
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、野菜・果実加工品の退色を抑制することができる野菜・果実加工品の退色抑制剤、及び野菜・果実加工品の退色を抑制する方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、マルトビオン酸及びマルトビオン酸塩から選択される少なくとも1つ以上の成分を含む、野菜・果実加工品の退色抑制剤、及び野菜・果実加工品の退色抑制剤を野菜又は果実に配合する工程を含む、野菜・果実加工品の退色を抑制する方法を提供する。前記マルトビオン酸塩は、マルトビオン酸カルシウムやマルトビオン酸マグネシウムであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルトビオン酸及びマルトビオン酸塩から選択される少なくとも1つ以上の成分を含む、野菜・果実加工品の退色抑制剤。
【請求項2】
前記マルトビオン酸塩が、マルトビオン酸カルシウム又はマルトビオン酸マグネシウムである、請求項1に記載の野菜・果実加工品の退色抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の野菜・果実加工品の退色抑制剤を野菜又は果実に配合する工程を含む、野菜・果実加工品の退色を抑制する方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の野菜・果実加工品の退色抑制剤を含む、野菜・果実加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜・果実加工品の退色抑制剤及び野菜・果実加工品の退色を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜や果実等の農産物は、調味や保存の目的で種々加工がなされているが、加熱や乾燥等の加工(処理)によって、素材の色は容易に退色する。食品の色は、嗜好性に大きく関与するため、着色料等を用いて、好ましい色に調整される場合もあるが、近年の健康志向では着色料等の添加物を避ける消費者も存在する。このため、野菜・果実加工品の退色を抑制する方法について、種々の検討がなされてきた。
【0003】
例えば、野菜の色調を改良する方法として、クロロフィル含有野菜をフェルラ酸含有水溶液及びカルシウム含有水溶液に浸漬する方法(特許文献1参照)や、ナスにポリフェノール含有物や米糠酵素分解物を添加する方法(特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-165712号公報
【特許文献2】特開2008-259488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、野菜・果実加工品の退色を抑制して、より商品価値を高めることができる、その他の方法が望まれる。
【0006】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、野菜・果実加工品の退色を抑制することができる野菜・果実加工品の退色抑制剤、及び、野菜・果実加工品の退色を抑制する方法、並びに、野菜・果実加工品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、マルトビオン酸やマルトビオン酸塩が、野菜・果実加工品の退色を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1) マルトビオン酸及びマルトビオン酸塩から選択される少なくとも1つ以上の成分を含む、野菜・果実加工品の退色抑制剤。
【0009】
(2) 前記マルトビオン酸塩が、マルトビオン酸カルシウム又はマルトビオン酸マグネシウムである、(1)に記載の野菜・果実加工品の退色抑制剤。
【0010】
(3) (1)又は(2)に記載の野菜・果実加工品の退色抑制剤を野菜又は果実品に配合する工程を含む、野菜・果実加工品の退色を抑制する方法。
【0011】
(4) (1)又は(2)に記載の野菜・果実加工品の退色抑制剤を含む、野菜・果実加工品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、野菜・果実加工品の退色を抑制することができる野菜・果実加工品の退色抑制剤、及び、野菜・果実加工品の退色を抑制する方法、並びに退色が抑制された野菜・果実加工品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0014】
<野菜・果実加工品の退色抑制剤>
本発明の野菜・果実加工品の退色抑制剤(以下、「本発明の退色抑制剤」ともいう。)は、マルトビオン酸及びマルトビオン酸塩から選択される少なくとも1つ以上の成分を含む。
野菜・果実加工品とは、野菜を加工した野菜加工品又は果実を加工した果実加工品である。加工としては、カット(切断)、加熱、冷凍、乾燥、浸漬液等への漬け込みや、これらの組み合わせが挙げられる。
【0015】
加熱としては、茹でる、炊く、煮る等が挙げられる。
加熱条件は特に限定されないが、加熱温度の下限値は、例えば80℃、好ましくは85℃、より好ましくは95℃である。また、加熱温度の上限値は、例えば130℃、好ましくは120℃、より好ましくは110℃である。
加熱時間の下限値は、例えば2分、好ましくは4分、より好ましくは8分である。加熱時間の上限値は、例えば40分、好ましくは30分、より好ましくは20分である。
【0016】
乾燥条件は特に限定されず、乾燥を加熱せずに行ってもよいが、乾燥を加熱と共に行ってもよい。加熱する場合、乾燥温度の下限値は、例えば40℃、好ましくは55℃、より好ましくは70℃である。また、乾燥温度の上限値は、例えば100℃、好ましくは90℃、より好ましくは80℃である。
乾燥時間の下限値は、例えば30分、好ましくは1時間、より好ましくは3時間である。また、乾燥時間の上限値は、例えば10時間、好ましくは8時間、より好ましくは6時間である。
【0017】
冷凍条件は特に限定されないが、冷凍温度の下限値は、例えば-40℃、好ましくは-35℃、より好ましくは-30℃である。また、冷凍温度の上限値は、例えば-5℃、好ましくは-10℃、より好ましくは-20℃である。
冷凍時間の下限値は、例えば30分、好ましくは1時間、より好ましくは3時間である。また、冷凍時間の上限値は、例えば10時間、好ましくは8時間、より好ましくは6時間である。
【0018】
浸漬液への浸漬条件は特に限定されないが、浸漬時間の下限値は、例えば15分、好ましくは1時間、より好ましくは1日間である。浸漬時間の上限値は、例えば20日間、好ましくは15日間、より好ましくは10日間である。
【0019】
本発明の退色抑制剤が退色を抑制する野菜・果実加工品の具体例としては、カットフルーツ等のように生の状態で提供されるもの、煮物、ジャム、ピューレ、茹で野菜、炊き込みご飯(例えばサツマイモご飯)等のように加熱加工するもの、ブランチング野菜のように加熱後冷凍保管されるもの、ドライフルーツ等のように熱風乾燥あるいはフリーズドライするものや、漬け物等のように長期間漬け込むもの等が挙げられる。
【0020】
野菜・果実加工品の原材料である野菜や果実(すなわち、加工される対象である野菜や果実)としては、特に限定されないが、ポリフェノール、カロテノイド、又はクロロフィルを含む野菜や果実が挙げられる。ポリフェノールとしては、フラボノイドが挙げられる。野菜・果実加工品の原材料である野菜や果実の具体例としては、キャベツ、紫キャベツ、レタス、小松菜、ホウレンソウ、ケール、春菊、ニラ、サンチュ、パセリ、バジル、あさつき、さやえんどう、枝豆、ししとうがらし、ズッキーニ、ブロッコリー、カリフラワー、ニンジン、オクラ、苦瓜、かぼちゃ、えだまめ、アボガド、パプリカ、ピーマン、水菜、青梗菜、ケール、パクチー、スプラウト、トウミョウ、大葉、エゴマ、紫いも、赤カブ、ラデッシュ、玉ねぎ、アスパラガス、セロリ、エンドウ、インゲン、茄子、サツマイモ、ジャガイモ、トマト、黒豆、小豆、リンゴ、ナシ、イチゴ、ぶどう、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリー、ビルベリー、プルーン、アサイー、カシス、ハスカップ、桃、サクランボ、みかん、オレンジ、いよかん、柿、メロン、バナナ、キウイフルーツ、ザクロ、柚子、栗、プルーン等が挙げられる。
【0021】
(マルトビオン酸及びその塩)
本発明の退色抑制剤は、マルトビオン酸及びマルトビオン酸塩から選択される少なくとも1つ以上の成分を含む。これらは、単独で使用してよく、2種以上を併用してもよい。
このように、マルトビオン酸やマルトビオン酸塩を含むことにより、後述する実施例に示されるように、加熱や乾燥等の加工時や、保管時における、果実・野菜加工品の退色を抑制することができる。なお、本明細書において、「退色」は、色が薄くなる(色があせる)ことや、変色することを意味する。
【0022】
(野菜退色の原理)
本発明の退色抑制効果は、マルトビオン酸やマルトビオン酸塩が、野菜・果実に含まれるポリフェノール、カロテノイドや、クロロフィルの働きを制限したり、安定化させることに起因すると推測される。ポリフェノールとしては、大豆やきなこに含まれるイソフラボン、たまねぎやリンゴやエシャレットに含まれるケルセチン、赤ワイン、ブルーベリーや黒豆に含まれるアントシアン(例えばアントシアニン)、ゴマに含まれるセサミン、紅茶に含まれるテアフラビン、柚子、温州ミカンやレモンに含まれるヘスペリジン、ピーマン、春菊やセロリに含まれるルテオリン、グレープフルーツやはっさくに含まれるナリンギン、レンコンに含まれるタンニン、プルーン、プラム、ゴボウやコーヒーに含まれるクロロゲン酸、梅に含まれるムメフラール等が挙げられる。カロテノイドとしては、リコペン、α-カロテン、β-カロテン、ルテイン、ゼアキサンチン、β-クリプトキサンチン等が挙げられる。クロロフィルとしては、クロロフィルa、クロロフィルb、クロロフィルc、クロロフィルd等が挙げられる。
【0023】
野菜・果実の退色は、熱や光による色素の不安定化や酵素反応等によって生じる。例えば、キャベツ等の緑色の色素であるクロロフィルは、マグネシウム等の金属イオンと結びついて安定化しているが、加熱等の加工工程で金属イオンが遊離すると退色が生じる。また、カットリンゴ等、生で提供される野菜・果実加工品においては、ポリフェノール類と酵素による著しい褐変反応が生じる。さらに、サツマイモ等に含まれるクロロゲン酸等のポリフェノール類は、鉄イオンと結びつくことで黒変を生じる。
一方、マルトビオン酸やマルトビオン酸の塩類は、金属イオンの溶解安定性を高める効果を持つ。これは、マルトビオン酸が1つのカルボキシ基と複数のヒドロキシ基を持ち、金属イオンと相互作用するためと考えられる。
このため、マルトビオン酸やマルトビオン酸塩が、野菜・果実に含まれるポリフェノール、カロテノイドやクロロフィルの働きを制限したり安定化させて、野菜・果実加工品中の金属イオンの反応性(例えば鉄イオンと結びつくこと)を抑えたり、色素からの金属イオン流出(遊離)を抑えたりすることで、退色抑制効果を奏すると推測される。
【0024】
例えば、野菜・果実加工品が、カットした果実を本発明の退色抑制剤を含む液に浸漬処理して得られるカットフルーツである場合、本発明の退色抑制剤を用いることにより、常温で24時間保管後の色調は、本発明の退色抑制剤を含む液に浸漬処理しない場合(マルトビオン酸やマルトビオン酸塩無添加)を基準としてΔEab
*が5以上となる。色調(ΔEab
*)は実施例に示した方法で特定される。
【0025】
また、野菜を加熱すると、野菜が軟化して食感が劣化するが、本発明の退色抑制剤により、加熱による野菜の軟化を抑制することもできる。
【0026】
また、従来知られる退色抑制剤は、果汁風味や甘味等を付与してしまう可能性があるが、本発明の退色抑制剤が退色抑制成分として含むマルトビオン酸及びマルトビオン酸塩は、自身の味強度が弱いため、本発明の退色抑制剤は、果汁風味や甘味等の余計な味を付与せずに又はほとんど付与することなく、野菜・果実加工品の退色を抑制することができる。
【0027】
マルトビオン酸塩としては、マルトビオン酸のミネラル塩が挙げられる。ミネラルとしては、食品に配合され得るものであれば特に限定されない。マルトビオン酸塩の具体例としては、マルトビオン酸カルシウム、マルトビオン酸マグネシウム、マルトビオン酸ナトリウム、マルトビオン酸カリウム、マルトビオン酸鉄等が挙げられる。
【0028】
マルトビオン酸及びマルトビオン酸塩の形態は、マルトオリゴ糖酸化物、水飴酸化物、粉飴酸化物又はデキストリン酸化物の形態であってもよい。
【0029】
マルトビオン酸及びマルトビオン酸塩の形態は、液体(シロップ等)であっても粉末であってもよい。
【0030】
(マルトビオン酸及びその塩の製造方法)
マルトビオン酸及びマルトビオン酸塩は、常法に従って製造することができる。
マルトビオン酸の製造方法としては、例えば、(1)澱粉分解物を化学的な酸化反応により酸化する方法、(2)澱粉分解物に対し、オリゴ糖酸化能を有する微生物又は酸化酵素を作用させる反応による方法等が挙げられる。
上記のうち、(2)の方法としては、例えば、Acremonium chrysogenum等の、オリゴ糖酸化能を有する微生物から酸化酵素を抽出し、該酵素を作用させる方法等が挙げられる。
【0031】
マルトビオン酸と2価のミネラルとの塩は、例えば、マルトビオン酸にミネラル(塩類)を添加することで製造することができる。
例えば、マルトビオン酸カルシウムを製造する場合、マルトビオン酸溶液に炭酸カルシウム等のカルシウム源を2:1のモル比となるように添加し、溶解させることで、マルトビオン酸カルシウムを調製することができる。この際に使用されるカルシウム源は、可食性のカルシウムであれば特に限定されず、例えば、天然素材(卵殻粉末、サンゴ粉末、骨粉末、貝殻粉末等)、化学合成品(炭酸カルシウム、塩化カルシウム等)のいずれであってもよい。
【0032】
(その他の成分)
本発明の野菜・果実加工品の退色抑制剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の成分を含んでいてもよい。このような任意の成分としては、例えば、水、香料、増粘剤、甘味料(砂糖、異性化糖、ぶどう糖、果糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖、はちみつ、水飴、粉飴、マルトデキストリン、ソルビトール、マルチトール、還元水飴、マルトース、トレハロース、黒糖等)、食物繊維、タンパク質(乳、豆、ビーフエキス、チキンエキス、ポークエキス、魚肉エキス、ゼラチン等)、酸味料(クエン酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸)、ミネラル類(カルシウム、マグネシウム、鉄、カリウム、亜鉛、銅等)、アミノ酸類(アルギニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等)、香辛料(ニンニク、ショウガ、ごま、唐辛子、わさび、山椒、ミョウガ等)、乳化剤、酵素、機能性成分、保存料、安定剤、酸化防止剤、ビタミン類等が挙げられる。これらの成分の添加量は、得ようとする効果に応じて適宜調整できる。
【0033】
本発明の退色抑制剤は野菜・果実加工品の退色を十分に抑制することができるため、本発明の退色抑制剤は、従来知られる野菜・果実加工品の退色抑制剤や着色料含んでいなくともよいが、含んでいてもよい。従来知られる野菜・果実加工品の退色抑制剤としては、アスコルビン酸、ミョウバン等が挙げられる。
【0034】
本発明の野菜・果実加工品の退色抑制剤は、従来知られる野菜・果実加工品の製造方法で用いられる成分を含んでいてもよく、含んでいなくともよい。このような成分として、pH調整剤、有機酸等が挙げられる。
【0035】
(使用方法)
本発明の退色抑制剤の使用方法は、特に限定されず、野菜・果実加工品の種類等に応じて適宜選択できる。例えば、以下の方法により、本発明の退色抑制剤を、野菜又は果実の加工時、加工前又は加工後に、野菜又は果実に接触させる。
野菜・果実加工品が茹で野菜、ブランチング野菜やフリーズドライ野菜等の場合は、本発明の退色抑制剤を添加した水で、野菜を茹でる又は加熱する。
野菜・果実加工品が煮物、ジャム、ピューレや炊き込みご飯等の場合は、本発明の退色抑制剤を、野菜・果実と混合する。
野菜・果実加工品が漬け物等の場合は、本発明の退色抑制剤を漬物液に添加する。
野菜・果実加工品がカットフルーツや乾燥フルーツ等の場合は、カットしたフルーツを本発明の退色抑制剤を添加した水に浸漬する。
【0036】
本発明の退色抑制剤の使用量は、退色抑制効果を発揮できる量であれば限定されない。例えば、野菜又は果実100質量部に対して、マルトビオン酸及びマルトビオン酸塩の合計が、好ましくは0.05質量部以上になるように、より好ましくは3質量部以上になるように、本発明の退色抑制剤を使用する。また、野菜又は果実100質量部に対して、マルトビオン酸及びマルトビオン酸塩の合計が、好ましくは70重量部以下となるように、より好ましくは40質量部以下となるように、本発明の退色抑制剤を配合する。0.05重量部以上であると野菜・果実加工品の退色抑制効果が得られやすく、70重量部以下であると、野菜・果実加工品の退色抑制効果が適度となる。
なお、煮物、ジャム、ピューレや炊き込みご飯等、使用した退色抑制剤を除去する工程を含まない製造方法で得られる野菜・果実加工品の場合は、使用したマルトビオン酸やマルトビオン酸塩の全量が、製造される野菜・果実加工品に含まれ得る。
【0037】
本発明の退色抑制剤を使用して製造された野菜・果実加工品は、必要に応じて殺菌処理や容器詰めしてもよい。殺菌処理や容器詰めの方法や順序は特に限定されない。
【0038】
本発明の退色抑制剤を使用して製造された野菜・果実加工品を容器詰めする場合、容器としては、ポリエチレンテレフタラート(PET)等の樹脂製品(レトルトパウチ容器、プラスチックボトル等)、スチールやアルミ等の金属製品(缶等)、紙パック等が挙げられる。
【0039】
<野菜・果実加工品の退色を抑制する方法>
本発明の野菜・果実加工品の退色を抑制する方法(以下、「本発明の退色抑制方法」ともいう。)は、上述した本発明の野菜・果実加工品の退色抑制剤を野菜又は果実に配合する工程を含む。
【0040】
本発明の退色抑制方法において、本発明の退色抑制剤を野菜や果実に配合するタイミングや使用量は、食品の種類や、実現しようとする退色抑制の程度に応じて適宜選択でき、特に限定されない。例えば、上記<野菜・果実加工品の退色抑制剤>の項で挙げた条件を採用できる。
【0041】
<野菜・果実加工品の退色抑制剤を含む、野菜・果実加工品>
本発明の野菜・果実加工品は、上述した本発明の野菜・果実加工品の退色抑制剤を用いて加工された野菜・果実加工品であって、本発明の野菜・果実加工品の退色抑制剤を含む。
本発明の野菜・果実加工品は、本発明の野菜・果実加工品の退色抑制剤を用いて加工されているため、加熱や乾燥等の野菜や果実の加工時の退色が抑制される。また、本発明の野菜・果実加工品は、本発明の野菜・果実加工品の退色抑制剤を含むため、野菜・果実加工品の保管時の変色が抑制される。
したがって、本発明の野菜・果実加工品は、加工時から保管後に亘って、好ましい外観を維持することができる。例えば、退色が生じやすい常温や密封されない状態で、20時間以上保管しても変色が抑制される。
また、本発明の退色抑制剤が退色抑制成分として含むマルトビオン酸やマルトビオン酸塩は、自身の味強度が弱いため、退色抑制剤による果汁風味や甘味等の余計な味を有さない又はほとんど有さない野菜・果実加工品とすることができる。
【0042】
野菜・果実加工品に含まれる本発明の退色抑制剤の量は特に限定されず、野菜・果実加工品の種類や、実現しようとする色調等に応じて適宜選択される。
【0043】
マルトビオン酸やマルトビオン酸塩の含有量は、HPAED-PAD法(パルスドアンペロメトリー検出器、CarboPac PA1カラム)により算出可能である。
HPAED-PAD法の測定条件は以下のとおりである。
溶出:35℃、1.0ml/min
水酸化ナトリウム濃度:100mM
酢酸ナトリウム濃度:0分-0mM、5分-0mM、55分-40mM
【実施例0044】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
<試験1:茹で野菜 ブロッコリー>
以下の材料を用いて茹で野菜を調製し、色調を評価した。
【0046】
(材料)
マルトビオン酸シロップ(マルトビオン酸70質量%、水30質量%):サンエイ糖化(株)製
マルトビオン酸カルシウム(粉末):サンエイ糖化製(株)製
食塩:(財)塩事業センター製
炭酸カルシウム:三共精粉(株)製
【0047】
(茹で野菜の調製)
市販のブロッコリーを用い、以下の方法でブランチング野菜を調製した。
(1)表1に記載した質量の水に、表1に記載した量のマルトビオン酸シロップ、マルトビオン酸カルシウム、食塩、炭酸カルシウムをそれぞれ添加し、火にかけて沸騰させた。
(2)小房に分けたブロッコリーを沸騰水中に投入し、10分間加熱後に取り出し、ただちに氷水で1分間冷却した。
(3)水気を切った後、色調について、目視と、下記ΔEab
*とにより、評価した。
【0048】
また、加熱時間を10分間とする代わりに3分間としたことの他は、(1)~(3)と同様にして調製したブランチング野菜についても、色調を評価した。
【0049】
(色調評価)
色差計(小型色彩計・白色度計 NW-12 日本電色工業)を用いて、各サンプルのL*、a*、b*を測定した。そして、比較例1-1の加熱時間3分での測定値を基準として、色差ΔL*、Δa*、Δb*を算出した。すなわち、各サンプルのL*、a*、b*値から、比較例1-1の加熱時間3分での測定値を差し引いたものをそれぞれΔL*、Δa*、Δb*とした。ΔL*、Δa*、Δb*を用いて、下記式1によりΔEab
*を算出し、基準との色調差を数値化した。なお、L*は明度をa*及びb*は色度を表す。
(式1)ΔEab
*=((Δa*)2+(Δb*)2+(ΔL*)2)1/2
本試験では退色の無い区分を基準(比較例1―1の加熱時間3分)としたため、ΔEab
*の値が小さいほど退色が抑制されていることを示す。ΔEab
*が5以上のとき、目視でもはっきりと退色が確認できたため、ΔEab
*の値が5より小さいものを退色抑制効果ありとした。
【0050】
【0051】
表1に示されるとおり、加熱時間が3分間の場合は、実施例及び比較例のいずれも鮮やかな緑色を維持していたが、加熱時間の延長に伴って退色に変化が観察された。色止めとして用いられる食塩を添加した場合(比較例1-2)や、炭酸カルシウムを添加した場合(比較例1-3)には、加熱10分後には退色が確認され、また、無添加(比較例1-1)よりも軟化が進行した。一方、マルトビオン酸シロップやマルトビオン酸カルシウムを添加した場合(実施例)には、退色が抑制され、また、軟化も抑えられた。
【0052】
<試験2:ナス浅漬けA>
以下の材料を用いてナスの塩漬けを調製し、色調を評価した。
【0053】
(材料)
マルトビオン酸カルシウム(粉末):サンエイ糖化(株)製
食塩:(財)塩事業センター製
乳酸カルシウム:扶桑化学工業(株)製
【0054】
(ナス浅漬けの調製)
市販のナスを用い、以下の方法でナス浅漬けを調製した。
(1)ナスを縦に4等分し、3cm幅にカットした。
(2)表2に記載した質量の食塩水、マルトビオン酸カルシウムや乳酸カルシウムを混合し、浸漬液を調製した。
(3)カットしたナスを(2)の浸漬液に投入し、冷蔵庫(4℃)で1週間保存した。
(4)1週間後に取り出し、色調を評価した。
【0055】
比較例2-1を基準として、上記の(色調評価)と同様にして、各サンプルのΔEab
*を算出し、基準との色調差を数値化した。本検討では、退色が確認されている比較例2-1を基準としているため、ΔEab
*が大きいほど退色が抑制されていることを示す。
【0056】
【0057】
表2に示されるとおり、マルトビオン酸カルシウムは漬け物のように長期間水分と接触させる加工品においても、退色を抑制できることが確認された。
【0058】
<試験3:ナス浅漬けB>
以下の材料を用いてナスの塩漬けを調製し、色調を評価した。
【0059】
(材料)
マルトビオン酸シロップ(マルトビオン酸70質量%、水30質量%):サンエイ糖化(株)製
マルトビオン酸マグネシウム(粉末):サンエイ糖化(株)製
食塩:(財)塩事業センター製
マルトース一水和物:富士フィルム和光純薬工業(株)製
炭酸カルシウム:三共精粉(株)製
【0060】
上記の(ナス浅漬けの調製)と同様にしてナスの浅漬けを調製した。
【0061】
比較例2-1を基準として、上記の(色調評価)と同様にして、各サンプルのΔEab
*を算出し、基準との色調差を数値化した。本検討では、退色が確認されている比較例2-1を基準としているため、ΔEab
*が大きいほど退色が抑制されていることを示す。
【0062】
【0063】
表3に示されるとおり、マルトビオン酸や、マルトビオン酸マグネシウムを用いた場合も退色抑制効果が確認された。また、炭酸Caのように他のミネラルを含む原料と組み合わせた場合も退色抑制効果が確認された。なお、マルトビオン酸と同じく二糖類であるマルトースを添加した場合には退色抑制効果は見られず、退色抑制効果はマルトビオン酸やマルトビオン酸塩に特有の効果であることが示された。
【0064】
<試験4:加熱処理 サツマイモ>
以下の材料を用いて加熱処理したサツマイモを調製し、色調を評価した。
【0065】
(材料)
マルトビオン酸シロップ(マルトビオン酸70質量%、水30質量%):サンエイ糖化(株)製
マルトビオン酸カルシウム(粉末):サンエイ糖化(株)製
クエン酸(無水):扶桑化学工業(株)製
乳酸カルシウム:扶桑化学工業(株)製
【0066】
(加熱処理サツマイモ調製)
市販のサツマイモを用い、以下の方法で加熱処理したサツマイモを調製した。
(1)サツマイモを1cm角にカットし、水にさらしておいた。
(2)1000gの水を火にかけて沸騰させ、カットしたサツマイモ200gを添加して2分間加熱し、ブランチング処理した。
(3)表4に記載した質量の、マルトビオン酸シロップ、マルトビオン酸カルシウム、クエン酸、乳酸カルシウムの各種水溶液とブランチング処理したサツマイモ(ブランチング済サツマイモ)を混合し、真空パックした。
(4)(3)をスチームコンベクションオーブン(TANICO)で100℃30分スチーム加熱した後、直ちに氷水で20分冷却し、一か月間冷凍(-25℃)保管した。
(5)(4)を常温解凍し、色調を評価した。
【0067】
比較例4-1を基準として、上記の(色調評価)と同様にして、各サンプルのΔEab
*を算出し、基準との色調差を数値化した。本検討では、退色が確認されている比較例4-1を基準としているため、ΔEab
*が大きいほど退色が抑制されていることを示す。
【0068】
【0069】
表4に示されるとおり、無添加、クエン酸、乳酸カルシウム添加では黒っぽく変色することが確認された。一方、マルトビオン酸やマルトビオン酸カルシウムを添加した場合は、変色が抑制され、鮮やかな黄色を維持していた。
【0070】
<試験5:サツマイモご飯>
以下の材料を用いてサツマイモご飯を調製し、色調を評価した。
【0071】
(材料)
マルトビオン酸カルシウム(粉末):サンエイ糖化(株)製
酒:キング醸造(株)製
みりん:キッコーマン(株)製
食塩:(財)塩事業センター製
【0072】
(サツマイモご飯の調製)
市販のサツマイモと精白米(あきたこまち)を用い、以下の方法でサツマイモご飯を調製した。
(1)サツマイモを1cm角にカットし、水にさらしておいた。
(2)生米150gを研いで炊飯窯に移し、表5に記載した質量の酒、みりん、塩の調味料、マルトビオン酸カルシウム、水を加えて軽くかき混ぜた後、炊飯器で炊飯した。
(3)炊飯終了後しゃもじで軽くまぜ、保温を切った状態で1時間蒸らした後、色調を評価した。
【0073】
比較例5-1を基準として、上記の(色調評価)と同様にして、各サンプルのΔEab
*を算出し、基準との色調差を数値化した。本検討では、比較例5-1を退色した基準としているため、ΔEab
*が大きいほど退色が抑制されていることを示す。
【0074】
【0075】
表5に示されるとおり、マルトビオン酸カルシウムを添加することにより、サツマイモご飯中のサツマイモの黒変が抑えられ、鮮やかな黄色が維持されていた。
【0076】
<試験6:カットリンゴ>
以下の材料を用いてカットリンゴを調製し、色調を評価した。
【0077】
(材料)
マルトビオン酸カルシウム(粉末):サンエイ糖化(株)製
【0078】
(カットリンゴの調製)
市販のリンゴを用い、以下の方法でカットリンゴを調製した。
(1)リンゴを5mm厚のイチョウ切りにした。
(2)表6に記載した質量のマルトビオン酸カルシウムと水を混合した後、(1)のリンゴを投入し、30分浸漬した。
(3)液切の後、常温で24時間保管後の色調を評価した。
【0079】
比較例6-1を基準として、上記の(色調評価)と同様にして、各サンプルのΔEab
*を算出し、基準との色調差を数値化した。本検討では、変色が確認されている比較例6-1を基準としているため、ΔEab
*が大きいほど退色が抑制されていることを示す。
【0080】
【0081】
表6に示されるとおり、マルトビオン酸カルシウムを添加することにより、カットリンゴの褐変を抑えることが確認された。このことより、マルトビオン酸やマルトビオン酸塩は酵素が関わる色調の変化も制御できることが示された。
【0082】
<試験7:乾燥リンゴ>
以下の材料を用いて乾燥リンゴを調製し、色調を評価した。
【0083】
(材料)
マルトビオン酸カルシウム(粉末):サンエイ糖化(株)製
【0084】
(乾燥リンゴの調製)
市販のリンゴを用い、以下の方法で乾燥リンゴを調製した。
(1)リンゴを5mm厚のイチョウ切りにした。
(2)表6に記載した質量のマルトビオン酸カルシウムと水を混合した後、(1)のリンゴを投入し、30分浸漬した。
(3)液切の後、75℃5時間熱風乾燥後の色調を評価した。
【0085】
比較例7-1を基準として、上記の(色調評価)と同様にして、各サンプルのΔEab
*を算出し、基準との色調差を数値化した。本検討では、変色が確認されている比較例7-1を基準としているため、ΔEab
*が大きいほど退色が抑制されていることを示す。
【0086】
【0087】
表7に示されるとおり、マルトビオン酸カルシウムを添加することにより、乾燥リンゴの褐変を抑えることが確認された。
【0088】
<試験8:茹でキャベツ>
以下の材料を用いて茹でキャベツを調製し、色調を評価した。
【0089】
(材料)
マルトビオン酸カルシウム(粉末):サンエイ糖化(株)製
【0090】
(茹でキャベツの調製)
市販のキャベツを用い、以下の方法で茹でキャベツを調製した。
(1)キャベツを2cm角にカットした。
(2)表7に記載した質量のマルトビオン酸カルシウムと水を混合した後、火にかけて沸騰させた。
(3)(2)にカットしたキャベツを投入して4分間加熱後、氷水で2分間冷却した。
(4)水気を切った後、色調評価した。
【0091】
比較例8-1を基準として、上記の(色調評価)と同様にして、各サンプルのΔEab
*を算出し、基準との色調差を数値化した。本検討では、変色が確認されている比較例8-1を基準としているため、ΔEab
*が大きいほど退色が抑制されていることを示す。
【0092】
【0093】
表8に示されるとおり、マルトビオン酸カルシウムを添加することにより、茹でキャベツの退色が抑制され、鮮やかな緑を維持していた。
【0094】
<試験9:フリーズドライキャベツ>
以下の材料を用いてフリーズドライキャベツを調製し、色調を評価した。
【0095】
(材料)
マルトビオン酸カルシウム(粉末):サンエイ糖化(株)製
【0096】
(フリーズドライキャベツの調製)
試験8の茹でキャベツを用い、以下の方法でフリーズドライキャベツを調製した。
(1)茹でキャベツを冷凍の後、フリーズドライした。
(2)フリーズドライ後のキャベツに等量の湯(90℃)を注ぎ、3分間湯戻しした。
(3)水気切った後、色調評価した。
【0097】
比較例9-1を基準として、上記の(色調評価)と同様にして、各サンプルのΔEab
*を算出し、基準との色調差を数値化した。本検討では、変色が確認されている比較例9-1を基準としているため、ΔEab
*が大きいほど退色が抑制されていることを示す。
【0098】
【0099】
表9に示されるとおり、マルトビオン酸カルシウムを添加することにより、フリーズドライキャベツにおいても鮮やかな緑を維持することが確認された。