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特開2022-169267金属インゴットを製造するための装置、方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169267
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】金属インゴットを製造するための装置、方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/22 20060101AFI20221101BHJP
   B22D 7/10 20060101ALI20221101BHJP
   B22D 7/12 20060101ALI20221101BHJP
   B22D 9/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C22B9/22
B22D7/10 101
B22D7/12 Z
B22D9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075196
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤本 大雅
(72)【発明者】
【氏名】諸富 圭介
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA13
4K001AA17
4K001AA19
4K001AA25
4K001AA27
4K001AA29
4K001AA31
4K001BA23
4K001FA12
4K001FA13
(57)【要約】
【課題】溶解鋳造法を適用して金属インゴットを高品質で製造するための装置を提供する。
【解決手段】
この装置は、溶解炉および制御装置を含む。溶解炉は、ハース、第1の熱源、鋳型、第2の熱源、および撮像装置を備える。ハースは、金属を含む原料を受け取るように構成される。第1の熱源は、ハース上の原料を溶解するように構成される。鋳型は、溶解した原料が注入されるように構成される。第2の熱源は、鋳型と鋳型の内側に熱エネルギーを供給するように構成される。撮像装置は、制御装置に接続され、マトリクス状に配置される複数のデータポイントとして鋳型の上面の画像を取得するように構成される。制御装置は、画像に基づいて鋳付きを検出するように構成される。第2の熱源はさらに、鋳付きに電子ビームを照射するように構成される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解炉および制御装置を含み、
前記溶解炉は、
金属を含む原料を受け取るためのハース、
前記ハース上の前記原料を溶解するための第1の熱源、
溶解した前記原料が注入される鋳型、
前記鋳型と前記鋳型の内側に熱エネルギーを供給するように構成される第2の熱源、および
前記制御装置に接続され、マトリクス状に配置される複数のデータポイントとして前記鋳型の上面の画像を取得するように構成される撮像装置を備え、
前記制御装置は、前記画像に基づいて鋳付きを検出するように構成され、
前記第2の熱源はさらに、前記鋳付きに熱エネルギーを供給するように構成される、金属インゴットを製造するための装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記画像から、少なくとも前記鋳型の一部と前記鋳型の内側の一部を含む評価領域を選択すること、
前記評価領域を、それぞれ複数の前記データポイントを含む行を少なくとも一つ含む第1から第nのサブ領域に分割すること、
前記第1から第nのサブ領域の各々において、臨界データポイントを決定すること、
前記第1から第nのサブ領域の前記臨界データポイントに対する近似線を作成すること、および
前記鋳型の側壁に垂直な方向における前記近似線から前記臨界データポイントまでの距離を算出すること、
を含む工程を実行するように構成され、
nは1よりも大きい自然数であり、
前記第1から第nのサブ領域の各々において、前記臨界データポイントは、前記行に含まれる前記複数のデータポイントを前記鋳型の内部側から選択し、隣接するデータポイント間の階調差が最初に閾値階調を越えるデータポイントである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記工程の後、前記距離が閾値距離を越えた場合に前記鋳付きが生成したと判断するように構成される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記工程をk回繰り返し、かつ、
連続する(k+1)回の前記工程のいずれにおいても前記距離が閾値距離を越えた場合に前記鋳付きが生成したと判断するように構成され、
kは1以上の自然数である、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
溶解炉内で金属を含む原料を溶解して溶湯を形成して鋳型に注入すること、
前記溶解炉に備えられる撮像装置を用いて前記鋳型の上面の画像をマトリクス状に配置される複数のデータポイントとして取得すること、
前記画像に基づき、前記撮像装置に接続される制御装置によって鋳付きを検出すること、および
前記鋳付きに対して電子ビームを照射することを含む、金属インゴットの製造方法。
【請求項6】
前記画像から、少なくとも前記鋳型の一部と前記鋳型の内側の一部を含む評価領域を選択すること、
前記評価領域を、それぞれ複数の前記データポイントを含む行を少なくとも一つ含む第1から第nのサブ領域に分割すること、
前記第1から第nのサブ領域の各々において、臨界データポイントを決定すること、
前記第1から第nのサブ領域の前記臨界データポイントに対する近似線を作成すること、および
前記鋳型の側壁に垂直な方向における前記近似線から前記臨界データポイントまでの距離を算出することをさらに含み、
nは1よりも大きい自然数であり、
前記第1から第nのサブ領域の各々において、前記臨界データポイントは、前記行に含まれる前記複数のデータポイントを前記鋳型の内部側から選択し、隣接するデータポイント間の階調差が最初に閾値階調を越えるデータポイントである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記距離が閾値距離を越えた場合に前記鋳付きが生成したと判断することをさらに含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記画像の前記取得から前記距離の前記算出を含む一連の工程をk回繰り返すこと、および
連続する(k+1)回の前記工程のいずれにおいても前記距離が閾値距離を越えた場合に鋳付きが生成したと判断することをさらに含み、
kは1以上の自然数である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記鋳付きに対する前記電子ビームの前記照射は、前記距離が前記閾値距離を越えたときに行われる、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
金属の溶湯を鋳型に注入して金属インゴットを製造するための溶解炉に備えられる撮像装置に接続される制御装置に、
前記撮像装置を介し、マトリクス状に配置される複数のデータポイントとして前記鋳型の上面の画像を取得すること、
前記画像に基づいて鋳付きを検出すること、および
前記鋳付きを検出したときに、前記溶解炉に備えられる熱源を用いて前記鋳付きに対して熱エネルギーを供給すること
を含む工程を実行させるプログラム。
【請求項11】
前記工程はさらに、
前記画像から、少なくとも前記鋳型の一部と前記鋳型の内側の一部を含む評価領域を選択すること、
前記評価領域を、それぞれ複数の前記データポイントを含む行を少なくとも一つ含む第1から第nのサブ領域に分割すること、
前記第1から第nのサブ領域の各々において、臨界データポイントを決定すること、
前記第1から第nのサブ領域の複数の前記臨界データポイントに対する近似線を作成すること、および
前記鋳型の側壁に垂直な方向における前記近似線から前記臨界データポイントまでの距離を算出することを含み、
nは1よりも大きい自然数であり、
前記第1から第nのサブ領域の各々において、前記臨界データポイントは前記行に含まれる複数のデータポイントを前記鋳型の内部側から選択し、隣接するデータポイント間の階調差が最初に閾値階調を越えるデータポイントである、請求項10に記載のプログラム。
【請求項12】
前記工程の後、前記距離が閾値距離を越えた場合に鋳付きが生成したと判断することを前記制御装置にさらに実行させる、請求項11に記載のプログラム。
【請求項13】
前記工程をk回繰り返すこと、および
連続する(k+1)回の前記工程のいずれにおいても前記距離が閾値距離を越えた場合に鋳付きが生成したと判断することを前記制御装置にさらに実行させる、請求項11に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、チタンなどの金属のインゴット(鋳塊)を製造するための装置、方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属インゴットを製造する方法の一つとして、溶解鋳造法が挙げられる。この方法では、原料となる金属の粉体、ペレット、ワイヤー、スポンジ、ブリケット、プレート、またはビレットなどを溶解することで得られる液体状態の金属(溶湯)を鋳型に注入し、凝固することで鋳型の形状を反映した金属インゴットが得られる。例えば特許文献1では、原料であるチタンブリケットに電子ビームを照射して溶湯を形成し、溶湯を円筒状の鋳型に注入・冷却することで円柱形状を有するチタンインゴットが製造できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-22976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、金属インゴットを製造するための新規な装置と方法、およびこの方法を実行するためのプログラムを提供することを課題の一つとする。例えば、本発明の実施形態の一つは、溶解鋳造法を適用し、チタンインゴットに例示される金属インゴットを高品質で、および/または歩留まり良く製造するための装置と方法、およびこの方法を実行するためのプログラムを提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る実施形態の一つは、金属インゴットを製造するための装置である。この装置は、溶解炉および制御装置を含む。溶解炉は、ハース、第1の熱源、鋳型、第2の熱源、および撮像装置を備える。ハースは、金属を含む原料を受け取るように構成される。第1の熱源は、ハース上の原料を溶解するように構成される。鋳型は、溶解した原料が注入されるように構成される。第2の熱源は、鋳型と鋳型の内側に熱エネルギーを供給するように構成される。撮像装置は、制御装置に接続され、マトリクス状に配置される複数のデータポイントとして鋳型の上面の画像を取得するように構成される。制御装置は、画像に基づいて鋳付きを検出するように構成される。第2の熱源はさらに、鋳付きに電子ビームを照射するように構成される。
【0006】
本発明に係る実施形態の一つは、金属インゴットの製造方法である。この製造方法は、溶解炉内で金属を含む原料を溶解して溶湯を形成して鋳型に注入すること、溶解炉に備えられる撮像装置を用いて鋳型の上面の画像をマトリクス状に配置される複数のデータポイントとして取得すること、上記画像に基づき、撮像装置に接続される制御装置によって鋳付きを検出すること、および鋳付きに対して電子ビームを照射することを含む。
【0007】
本発明に係る実施形態の一つは、制御プログラムである。この制御プログラムは、金属の溶湯を鋳型に注入して金属インゴットを製造するための溶解炉に備えられる撮像装置に接続される制御装置に、以下の工程を実行させるように構成される。この工程は、撮像装置を介し、マトリクス状に配置される複数のデータポイントとして鋳型の上面の画像を取得すること、画像に基づいて鋳付きを検出すること、および前記鋳付きを検出したときに、前記溶解炉に備えられる熱源を用いて前記鋳付きに対して熱エネルギーを供給することを含む。
【0008】
本発明に係る実施形態の一つは、上記制御プログラムが記録されたコンピュータ可読記憶媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造装置のブロック図。
図2】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造装置の模式的端面図、および製造装置の一部の上面図。
図3】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造装置の一部の模式的端面図と上面図。
図4】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を示すフローチャート。
図5】溶解鋳造法における鋳付きの発生を説明する模式的上面図、および本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を説明する模式的端面図。
図6】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を説明する模式図。
図7】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を説明する模式図。
図8】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を説明する模式図。
図9】本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法を説明する模式図。
図10】実施例(A)と比較例(B)の結果を示すチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0011】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。符号が付された要素の一部を表記する際には、符号に小文字のアルファベットが添えられる。同一または類似の構造を有する複数の要素をそれぞれ区別して表記する際には、符号の後にハイフンと自然数を付す。同一または類似の構造を有する複数の要素を纏めて表記する際には、符号のみを用いる。
【0012】
ここで、溶解とは液体に気体、液体、固体が混合して均一な液相を形成する現象であるが、以下の記載においては、固体が液体へ変化する現象である溶融を包含する用語として使用する。
【0013】
1.金属インゴットの製造装置
まず、本発明の実施形態の一つに係る製造装置100について説明する。製造装置100は溶解鋳造法で金属インゴットを製造するための装置であり、金属(0価の金属)を含む原料に対して熱エネルギーを供給することによって加熱・溶解し、溶解状態の金属(溶湯)を鋳型に注入するように構成される。溶湯が鋳型内で冷却されることで、金属インゴットが得られる。原料の加熱は熱源を用いて行われる。熱源としては、電子銃やプラズマトーチが挙げられる。前者を用いる場合には、電子銃から放出される電子ビームにより、後者を用いる場合にはプラズマトーチから放出されるアーク放電により熱エネルギーが供給される。前者の方法は電子ビーム溶解鋳造法と呼ばれ、後者の方法はプラズマアーク溶解鋳造法と呼ばれる。以下、熱源として電子銃を用いる電子ビーム溶解鋳造法について記述するが、本発明の実施形態の一つは、熱源としてプラズマトーチを用いるプラズマアーク溶解鋳造法にも適用することができる。
【0014】
製造装置100で使用可能な金属に制約はなく、チタン、銅、ニッケル、アルミニウム、ジルコニウム、ハフニウム、タングステン、モリブデン、タンタル、またはこれらの金属から選択される金属を含む合金など、様々な金属を含む原料を取り扱うことができる。原料の形状にも制約はなく、粉体状、ペレット状、棒状、ワイヤー状、プレート状の原料だけでなく、例えば金属を切削加工する際に副生し、様々な形状の原料が混在する金属屑を原料として用いてもよい。原料の密度も任意であり、例えばチタンを含む原料を用いる場合には、クロール法またはハンター法などに例示される四塩化チタンの還元で生じるスポンジチタンを用いてもよく、これにより、チタンを含む金属のインゴットを製造することができる。なお、チタンを含む金属は、チタン単体だけでなく、チタン-アルミニウム合金などのチタン合金を含む。
【0015】
図1は製造装置100のブロック図であり、図2(A)は製造装置100の模式的な端面図である。図1に示すように、製造装置100は、溶解炉110と制御装置180を含む。制御装置180は、図示しないアプリケーションプログラミングインターフェースを介して溶解炉110、または溶解炉110に設けられる少なくとも一つの構成(後述)に接続され、溶解炉110の機能の全てまたは一部を制御する。
【0016】
1-1.溶解炉
図2(A)に示すように、溶解炉110は、原料を溶解、凝固するための空間を提供するチャンバー112を有し、チャンバー112には金属を含む原料102が充填されたドラムフィーダなどのフィーダ116や、チャンバー112内を減圧するための排気装置(真空ポンプ)114が設置される。排気装置114により、チャンバー112内を0.01Pa以下の減圧雰囲気にすることができる。これにより、活性の高い金属、例えば溶解状態で容易に酸素や窒素と反応するチタンなどの金属を取り扱うことができる。
【0017】
チャンバー112内にはさらに、金属を溶解するための容器として機能するハース120、フィーダ116から供給される原料102をハース120へ輸送するためのホッパー118、ハース120上で原料102を溶解するために必要な熱エネルギーを供給する熱源として機能する一つまたは複数の電子銃150が備えられる。ホッパー118は、ハース120側がフィーダ116側よりも低くなるように設けられ、図示しない振動装置に連結される。このため、例えばフィーダ116を回転させて原料102をホッパー118へ供給し、ホッパー118を振動させることで原料102をハース120に搬送することができる。
【0018】
ハース120は、原料102と溶湯を保持し、溶湯を鋳型124(後述)に供給するように構成される。このため、図示しないが、ハース120には溶湯104を鋳型124に注ぐための注ぎ口が鋳型124と重なるように設けられる。また、図示しないが、ハース120は、その上方で溶解された原料を受け取ることもある。なお、ハース120上には、予め原料に含まれる金属を溶解・凝固することで得られるスカル122が形成されていてもよい。スカル122は溶湯104の流路としても機能するが、一部を再溶解して溶湯104の供給源として機能させてもよい。
【0019】
電子銃150は、ハース120上の原料102に対して電子ビーム(EB)を照射するように構成される。図示しないが、電子銃150は、熱電子を発生させるためのフィラメント、および電子ビームを偏向させるための磁石を基本構成として備える。磁石の磁界を制御することで電子ビームの照射方向が制御され、電子ビームをハース120上で走査することができる。電子ビームによって供給されるエネルギーによって原料102に含まれる金属が溶解し、溶湯104が形成される。
【0020】
チャンバー112内にはさらに、溶湯104が注入される鋳型124が一つまたは複数設けられる。鋳型124は、ハース120の注ぎ口の下に配置される。鋳型124は、例えば銅などの熱伝導率の高い金属を用いて構成される。任意の構成として、鋳型124は鋳型124を冷却するための流路126を有していてもよい。流路126に水、エチレングリコールやプロピレングリコールなどのグリコール類、エタノールやイソプロパノールなどのアルコール類、テトラデカフルオロヘキサンやパーフルオロ2-ブチルテトラヒドロフランなどのフッ素含有化合物、シリコンオイル、ビフェニルとジフェニルエーテルの混合物などの常温で固体の芳香族化合物などに例示される冷却媒体を環流させることで、鋳型124に注入された溶湯104を効果的に冷却することができる。
【0021】
鋳型124の形状に制約はない。例えば図2(B)に示すように、鋳型124の水平断面の形状、より詳細には水平断面における内壁の形状は矩形などの多角形でもよく、あるいは図2(C)に示すように、円であってもよい。水平断面が矩形や円の内壁を有する鋳型124を用いることで、それぞれ直方体と円柱の金属インゴット106が得られる。図示しないが、鋳型124の内壁の水平断面は楕円でもよく、あるいは直線と曲線によって構成されていてもよい。鋳型124の大きさにも制約はなく、例えば水平断面の面積が1500cm以上15000cm以下になるように適宜設定すればよい。鋳型124の数に制約はない。すなわち、鋳型124は一つでもよいし、二つ以上の複数であってもよい。
【0022】
鋳型124の底部には、底蓋として機能するダブテール128が設けられており、ダブテール128には後述する引き抜き機構130が接続される。ダブテール128上にはスタブとも呼ばれるスターティングブロック108が形成されてよい。スターティングブロック108は、鋳造に供される原料102に含まれる金属を含み、ダブテール128上に溶湯104を流し込み、その後凝固させることで形成される。
【0023】
スターティングブロック108には、直接、またはダブテール128を介して引き抜き機構130が接続されてよい。引き抜き機構130は、例えばシャフト132、シャフト132をスライドさせるためのモータ134、およびモータ134の回転力をシャフト132に伝達するためのベルト136などによって構成することができる。引き抜き機構130の構成はこれに限られず、例えばベルト136に替わってチェーンやギアを用いてもよい。シャフト132は、例えばラックと呼ばれるロッド状のギアでもよく、あるいはシャフトねじでもよい。モータ134の回転力を利用してシャフト132を回転させる、あるいはシャフト132に嵌合するギアを回転させることで、シャフト132を上下にスライドさせることができる。鋳型124に注入された溶湯104はスターティングブロック108側から凝固を開始するため、引き抜き機構130を利用してシャフト132を介してダブテール128および/またはスターティングブロック108を鋳型124から引き抜くことで、溶湯104が鋳型124内で凝固した部分を金属インゴット106として得ることができる。なお、スターティングブロック108は、溶湯104が凝固する際に一体化され、金属インゴット106の一部を構成してもよい。
【0024】
任意の構成として、溶解炉110は金属インゴット106を冷却するための冷却管138を備えてもよい。冷却管138はシャフト132を囲むように設けられる。鋳型124と同様、冷却管138も熱伝導率の高い銅などの金属を含むことが好ましい。冷却管138にも冷却媒体を環流させるための流路140を設けてもよい。
【0025】
溶解炉110にはさらに、鋳型124および鋳型124の内側に熱エネルギーを供給する熱源として機能する一つまたは複数の電子銃152が設けられる。電子銃150と異なり、電子銃152は鋳型124の内側に電子ビームを照射するように配置されるため、溶湯104の表面にも電子ビームを照射することができる。このため、溶湯104の温度を調整し、凝固速度を制御することができる。さらに、電子銃152は鋳型124に対しても電子ビームを照射するように構成されるため、後述するように、鋳型124の上面や内壁などに付着した鋳付きに対して電子ビームを照射し、鋳付きを溶解または蒸発させて取り除くことができる。電子銃150と同様、電子銃152もフィラメントと磁石を備え、磁石の磁界を制御することで電子ビームを溶湯104上で走査することができるとともに、任意の位置に電子ビームを選択的に照射することが可能となる。
【0026】
図2に示すように、溶解炉110には、チャンバー112の外側に撮像装置160がさらに備えられる。撮像装置160は、鋳型124の上面の画像を取得できるように配置される。撮像装置160としては、例えば電荷結合素子(CCD)または相補性金属酸化膜半導体(CMOS)素子を含む撮像装置などが例示される。撮像装置160を用いることで、鋳型124とその中に注入された溶湯104の画像を取得することができる。
【0027】
図3(A)に、撮像装置160とその近傍の模式的な端面図を示す。チャンバー112には開口部が設けられ、窓162が開口部を塞ぐように設けられる。窓162は、ガラス、石英ガラス、および鉛ガラスのうち一つまたは複数を含み、例えば石英ガラスと鉛ガラスの積層でもよい。撮像装置160は、窓162を介して鋳型124の上面の画像を取得できるように配置される。
【0028】
開口部が設けられる位置は任意に設定することができる。ただし、チャンバー112内を減圧して原料102を溶解させると、金属の種類によっては一部が蒸発し、その結果、チャンバー112の内壁や窓162の内側に金属が堆積することがある。特に鉛直方向で鋳型124と重なる位置は溶湯から蒸発する金属が堆積しやすい。このため、図2(A)に示すように、開口部を鋳型124やハース120などと重ならない位置に設け、開口部を通して鋳型124に対して斜めの方向から撮像することが好ましい。
【0029】
また、任意の構成として、窓162と重なる防着板164をチャンバー112内に設けてもよい。防着板164はほぼ円形の形状を有する金属板である。防着板164を設けることで、金属の蒸気が窓162に付着することが抑制され、その結果、金属の堆積が防止され、窓162の透明度を維持することができる。撮像装置160による鋳型124の撮像を可能にするため、防着板164に一つまたは複数の開口164aを設け、図示しないモータなどによって回転させてもよい。開口164aの形状も任意であり、開口164aと撮像装置160が重なる際に鋳型124を撮像できるように形成すればよい。例えば開口164aは円形でもよく、矩形でもよい。開口164aを複数設ける場合、その配置は任意であり、例えば防着板164の中心に対して対称に配置すればよい。また、防着板164の回転方向に沿って等間隔に複数の開口164aを配置してもよい。撮像装置160は、開口164aが撮像装置160と重なる時に画像を取得するように構成される。
【0030】
なお、任意の構成として、防着板164とともに、あるいは防着板164に替わり、窓162の内側にアルゴンやヘリウムなどの不活性ガスを吹き付けるためのノズル166をチャンバー112に設けてもよい(図2(A))。ノズル166はチャンバー112外に設けられる不活性ガス供給源(図示しない)と接続される。原料を溶解する際、不活性ガス供給源から不活性ガスを窓162の内側へ供給することで、金属蒸気の窓162への付着が抑制されるため、窓162の透明度が維持される。
【0031】
図示しないが、チャンバー112内に不活性ガスを導入することは可能である。このためのガス導入口をさらに設けてもよい。ガス導入口にも不活性ガス供給源が接続される。
【0032】
1-2.制御装置
制御装置180は通信機能と計算機能を有するコンピュータであり、ノート型、または据え置き型のコンピュータでもよく、あるいはタブレットコンピュータなどの携帯型通信端末でもよい。制御装置180は、インターネットのような外部ネットワーク、あるいはLAN(Local Area Network)などの内部ネットワークを介して溶解炉110、または溶解炉110に設けられる構成の全て若しくは一部(例えば電子銃152や撮像装置160など)と接続される。
【0033】
制御装置180には、制御装置180の動作を制御する制御部182に加え、制御部182によって制御される入力部184、出力部186、送受信部188、記憶部190、音声出力部192などが設けられる。記憶部190には、制御装置180を動作させるための基本アプリケーションプログラムとともに、後述する金属インゴットの製造方法を実施するための制御プログラムが格納される。制御部182は中央演算ユニット(CPU)などのプロセッサを備え、記憶部190に格納される基本アプリケーションプログラムや上記制御プログラムを動作させて制御装置180で実行される各種処理を制御する。入力部184は制御装置180に命令や情報を入力する際に用いられるユーザインターフェースであり、典型的にはキーボードやタッチパネル、マウス、またはこれらの組み合わせが挙げられる。出力部186は記憶部190に格納された各種データを画像や印刷物として提供するものであり、液晶ディスプレイや有機電界発光ディスプレイなどのディスプレイ、あるいはプリンタなどの出力デバイスである。送受信部188は、ネットワークを介して溶解炉110との通信を行う機能を有する。例えば送受信部188は、撮像装置160で取得された画像を受信するとともに、電子銃152など、溶解炉110に設けられる構成に対して信号を送信する。音声出力部192は種々の音を発生する機能を有するスピーカーである。
【0034】
図1のブロック図では、溶解炉110に備えられる排気装置114やフィーダ116、ホッパー118、引き抜き機構130、電子銃150と152、および撮像装置160の全てが制御装置180によって制御される例が示されている。しかしながら、制御装置180はこれらの構成の全てを制御する必要は無く、例えば撮像装置160のみ、あるいは撮像装置160と電子銃152を制御・操作するように構成されてもよい。この場合には、他の構成、例えばフィーダ116やホッパー118、引き抜き機構130、電子銃150などは制御装置180から独立した制御システムによって制御・操作すればよい。
【0035】
以下に詳述するように、鋳型124とその内部に注入される溶湯104の画像を取得する撮像装置160、および鋳型124や溶湯104に対して電子ビームを照射できるように構成される電子銃152を用いることで、鋳型124に付着する鋳付きの発生を検知し、適時に除去することができる。このため、金属インゴットに鋳付きが混入することに起因する品質や歩留まりの低下を防止することができ、高品質な金属インゴットを歩留まり良く製造することが可能となる。
【0036】
2.金属インゴットの製造方法
以下、製造装置100を用いる金属インゴットの製造方法について説明する。図4は、本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0037】
2-1.原料からの溶湯の生成
まず、チャンバー112内の雰囲気を適宜調整する。例えば排気装置114を用い、チャンバー112内を減圧状態にしてもよい。チタンなどの溶解状態で高い反応性を示す金属を含む原料102を用いる場合には、チャンバー112内を0.001Pa~0.005Paの圧力に調整することが好ましい。溶解状態における反応性が低い金属を含む原料102を用いる場合には、チャンバー112内の雰囲気は空気でもよい。
【0038】
引き続き、フィーダ116からホッパー118へ原料102を導入する(S1)。例えばフィーダ116として原料102が充填されたドラムフィーダを用い、ドラムフィーダを回転させて原料102をホッパー118へ落下させればよい。ホッパー118には図示しない振動装置が設けられ、ホッパー118の振動により原料102がハース120側へ移動し、最終的にハース120内に供給される。
【0039】
この後、一つまたは複数の電子銃150を用い、原料102に電子ビームが照射されるよう、電子ビームをハース120上で走査する。これにより、原料102に含まれる金属が溶解し、溶湯104が形成される(S2)。溶湯104が一定量貯まるとハース120から溶湯104が流出し、鋳型124へ供給される(S3)。鋳型124への溶湯104の供給速度は、原料102の供給量と電子ビームの強度を適宜制御することで調節することができる。なお、溶湯104を鋳型124に注入する前に鋳型124の底部には予めダブテール128を配置してもよい。あるいは、ダブテール128とその上に形成されたスターティングブロック108を配置してもよく(図2参照)、ダブテール128に替わってスターティングブロック108のみを単独で配置してもよい。スターティングブロック108が配置される場合、溶湯104は凝固する際にスターティングブロック108と一体化し金属インゴット106が形成される。
【0040】
鋳型124に供給された溶湯104の表面にも電子銃152から射出される電子ビームを走査してもよい。電子銃152からの電子ビームの強度や走査速度を適宜制御することで、凝固速度を調節することができる。
【0041】
溶湯104の注入後、引き抜き機構130を用いてシャフト132を徐々にスライドし、ダブテール128とその上に形成されるスターティングブロック108を鋳型124から引き出す。引出速度は、例えば0.5t/hから4t/hの範囲から適宜設定すればよい。これにより、スターティングブロック108と一体化した金属インゴット106を得ることができる。
【0042】
2-2.鋳付きの検出と除去
熱源を用いる溶解鋳造法では原料の溶解や原料の溶融状態の維持の際に蒸気が発生するので、図5(A)に示すように、比較的小さな金属の塊である鋳付き125が鋳型124の内壁などに付着することがある。鋳付き125は、鋳型124内の溶湯104に照射される電子ビームによって溶湯104の一部が弾き飛ばされて鋳型124の上面や内壁に付着・凝固することでも生成すると考えられている。なお、原料102としてクロール法で製造したスポンジチタンを使用した場合、塩化マグネシウムなどの塩化物が不純物として原料102に不可避的に混入し、この塩化物が鋳型124内の溶湯表面から離脱する際にスプラッシュが生じて鋳型124に付着し、鋳付き125が生じやすくなる。
【0043】
鋳付き125が極めて小さい場合や、鋳付き125が溶湯104に落下して再度完全に溶解する場合には、鋳付き125による影響は無視できる。しかしながら、鋳付き125は金属インゴット106自体と比較すると低密度であることから、大型化した鋳付き125が再溶解せずに金属インゴット106に混入すると、金属インゴット106、または金属インゴット106を加工して得られる圧延材などの金属素材に欠陥が発生することがある。また、金属インゴット106や金属素材の表面の疵の原因にもなる。さらに、電子ビームが鋳付き125によって遮蔽されると、鋳型124内の溶湯に電子ビームを十分に照射することができず、凝固速度が不均一となる。実際、鋳付き125の混入は金属インゴット106の表面観察では判断できないことが多く、圧延を行うことで初めて検出されることもある。したがって、溶解鋳造時に鋳付き125の発生を抑制することが品質向上の鍵となる。
【0044】
本発明の実施形態の一つに係る金属インゴットの製造方法では、製造装置100を用いることで鋳付き125を検出し、速やかにまたは適時に除去することができる。このため、金属インゴット中での鋳付き残留が回避され、高品質な金属インゴットを歩留まり良く製造することができる。以下、この方法を具体的に説明する。
【0045】
(1)鋳型と溶湯の撮像
溶湯104の鋳型124への供給を開始した後、上述した制御装置180を介して撮像装置160を操作し、鋳型124とその中に供給される溶湯104の画像を取得する(S4)。画像の情報は、複数の列と複数の行で構成されるマトリクス形状に配置されるデータポイントのそれぞれの階調データとして取得される。各データポイントは、第0階調から第255階調の合計256の階調から選択される階調として表現される。なお、この画像を表示装置上で表示する場合には、各データポイントは画素に対応し、その階調が輝度として表現される。すなわち、256段階の異なる輝度を与える画素の集合体として鋳型124や溶湯104の画像が表示装置上で視認される。得られる画像情報は、制御装置180の送受信部188を介して記憶部190に恒久的にまたは一時的に格納される。
【0046】
なお、各データポイントが色情報、すなわち、赤、緑、または青から選択される色の情報を含む場合には、色情報を無視して各データポイントの階調のみを階調データとして用いてもよい。あるいは、連続する赤、緑、青の色情報を含む三つのデータポイントを一つのデータポイントとして認識し、これらの最大階調、最低階調、または平均階調を階調データとして採用してもよい。
【0047】
(2)前処理
任意の構成として、得られる画像情報に対して前処理を行ってもよい(S5)。後述するように、画像情報に基づいて鋳付き125の有無の判定や大きさの算出が行われるが、前処理を行うことにより、その精度を向上させることができる。画像の前処理に特に制約はないが、例えばノイズの除去やコントラストの増大のための処理が挙げられる。
【0048】
ノイズ除去のための前処理としては、メディアンフィルタ処理や平均値フィルタ処理、重み付き平均値フィルタ処理(ガウシャンフィルタ処理)、空間フィルタ処理などが挙げられる。例えばメディアンフィルタ処理では、3×3の九つのデータポイントを一つの処理対象とし、真中のデータポイントの階調が処理対象中の九つのデータポイントの中間値に置換される。本発明の実施形態の一つに係る製造方法では、上述した処理に加え、その他の公知のアルゴリズムを利用するノイズ除去処理を一つまたは複数適用することができる。
【0049】
コントラスト増大のための処理においても、公知のアルゴリズムを適宜適用して行うことができる。例えば、線形変換による濃淡変換、二次曲線や対数関数、べき乗関数などのトーンカーブを用いる非線形変換による濃淡変換、ヒストグラム平坦化、ウィンドウイングなどの処理が挙げられる。本発明の実施形態の一つに係る製造方法では、上述した処理に加え、その他の公知のアルゴリズムを利用するコントラスト増大処理を一つまたは複数適用することができる。
【0050】
(3)基準線の作成
本発明の実施形態の一つに係る製造方法では、鋳付き125の有無の判定やその大きさの算出は、基準線を作成することで行われる(S6)。以下、この詳細を説明する。
【0051】
(3-1)矩形の鋳型の場合
図6(A)に、撮像装置160によって取得される画像の例とその一部の拡大図を模式的に示す。まず、画像全体から評価領域を選択する。鋳付き125は鋳型124の内壁に生成しやすいため、水平断面が矩形の内壁を有する鋳型124の場合では、一つの側壁とその近傍の溶湯104を評価領域Rとすればよい。より具体的には、一つの側壁、およびその側壁から鋳型124の内部に向かって距離Dまでの範囲を評価領域Rとすればよい。距離Dは、鋳型124の大きさや金属インゴット106に求められる品質によって適宜設定することができ、たとえば30mmよりも大きく100mm以下の範囲から適宜選択すればよい。なお、後述するように、評価領域Rから得られる情報を用いて鋳付き125の発生が判断されるため、距離Dは生成する鋳付き125の大きさを考慮して決定することが好ましい。例えば距離Dは閾値距離dth(後述)の2倍以上10倍以下または3倍以上5倍以下とすることができる。図6(A)では評価領域Rは一つだけが示されているが、評価領域Rは複数でも良い。例えば、一つの評価領域Rに含まれる側壁に対向する側壁とその近傍の溶湯104も評価領域としてもよい。側壁は、鋳型124の長手方向に沿った側壁でもよく、長手方向に垂直な側壁でもよい。
【0052】
次に、評価領域Rをn個のサブ領域B、すなわち、第1のサブ領域Bから第nのサブ領域Bに分割する。nは1よりも大きい自然数から任意に選択することができるが、好ましくは、一つのサブ領域Bに含まれる側壁の長さが0mmより大きく10mm以下となるように評価領域Rを分割することが好ましい。作成する金属インゴットの大きさや、後述する基準線の正確性を考慮すると、nは200以上であることが好ましい。nの上限としては、例えば1500、1300、または1100とすればよい。第1のサブ領域Bから第nのサブ領域Bはこの順に配列し、図6(A)に示すように、各サブ領域Bは複数のデータポイント170を含む。各サブ領域Bでは、データポイント170は、サブ領域Bの配列方向(図6(A)における点線矢印の方向)に平行な複数の列に配置され、データポイント170の行は1つまたは複数である。各行に含まれるデータポイント170の数は任意であり、距離Dや画像の解像度によって決定すればよい。図6(A)に示された例では、各サブ領域Bは4行9列のマトリクス状に配置された複数のデータポイント170を含む。したがって、各サブ領域Bの各行に含まれる複数のデータポイント170のうち、一部は溶湯104に対応し、一部は鋳型124の側壁に対応する。なお、図6(A)において、mは1以上(n-2)以下の自然数から選択される変数である。ただし、nが2の場合、mは1であり、第3のサブ領域Bは存在しない。
【0053】
図6(A)に示すように、溶湯104は鋳型124よりも明るいため、高階調のデータポイント170-1で表される。一方、鋳型124は低階調のデータポイント170-2で表される。したがって、データポイント170-1と170-2の階調差は大きく、溶湯104と鋳型124の境界を明確に確認することができる。
【0054】
次に、第1のサブ領域Bから第nのサブ領域Bの各々において、臨界データポイントCPを決定する。具体的には、図6(B)に示すように、各サブ領域Bにおいてデータポイント170の行を一つ選択する。各サブ領域Bに含まれるデータポイントの行数が複数の場合、全てのサブ領域Bにおいて同一番目の行を選択してもよい。あるいは、各サブ領域Bの複数の行を一つの行に収束変換してもよい。この場合、各サブ領域Bにおいて、各データポイント170の階調として、そのデータポイント170を含む列に位置するデータポイント170の平均値を採用すればよい。図6(B)に示す例では、各サブ領域Bにおいて17のデータポイント170を含む行がj個あり、二行目に位置するデータポイント170が選択されている。ここで、jは2以上の自然数である。
【0055】
次に、選択された(あるいは収束変換された)行において、溶湯104側(鋳型124の内部側)のデータポイント170から一つずつ選択し、選択されたデータポイント170に対して鋳型124の側壁側に隣接するデータポイント170と階調を比較し、その階調差ΔGを算出する。この階調差ΔGの絶対値が一定の値(閾値階調)を最初に越えたデータポイント170を臨界データポイントCPとして決定する。この操作を各サブ領域Bにおいて行うことで、サブ領域Bと同数の複数の臨界データポイントCPが得られる。
【0056】
臨界データポイントCPを決定するための閾値は任意に設定することができる。データポイント170の階調が256の場合、閾値階調としては、例えば50以上255以下、100以上255以下、または150以上255以下の範囲から選択してもよい。あるいは、各サブ領域Bの選択された(あるいは収束変換された)行において、隣接するデータポイント170の全ての組み合わせの階調差ΔG中の最大階調差ΔGmaxの絶対値に対する所定の割合を閾値階調としてもよい。所定の割合は、50%以上100%以下の範囲から選択すればよく、例えば70%でもよい。
【0057】
なお、臨界データポイントCPの決定方法はこれに限られず、例えば選択された(あるいは収束変換された)行において上記階調差が最も大きくなるデータポイントの対(すなわち、上記最大階調差ΔGmaxを与えるデータポイントの対)のうち一方を臨界データポイントCPとして決定してもよい。例えば、図6(B)に示された例では、溶湯104側には高い階調を有する複数のデータポイント170-1が連続する。一方、鋳型124の側壁側には低い階調を有する複数のデータポイント170-2が連続する。したがって、データポイント170-1のうち最も側壁側のデータポイント170-1aと、データポイント170-2のうち最も溶湯104側のデータポイント170-2aの階調差ΔGは、他の隣接する一対のデータポイント間の階調差ΔGよりも大きい。よって、データポイント170-1aまたはデータポイント170-2aを臨界データポイントCPとして決定する。なお、この方法でデータポイント170-2aを選択することは、上述した最大階調差ΔGmaxの絶対値に対する所定の割合を100%に設定したときに相当する。
【0058】
引き続き、複数の臨界データポイントCPに対する近似線を基準線として作成する。近似線の作成では任意のアルゴリズムを使用すればよく、例えば最小二乗法を用いればよい。近似線は一次直線でもよく、一次以外の次数の曲線でもよい。あるいは、近似線は直線と曲線で構成されていてもよい。鋳付き125が発生していない場合には、臨界データポイントCPは溶湯104と鋳型124との境界に相当するデータポイントとなり、臨界データポイントCPを繋げることで、内壁と略重なる直線が得られる。したがって、基準線172は実質的に内壁と重なる。しかしながら、図7に示すように、鋳付き125が内壁に発生した場合、複数の臨界データポイントCPを繋げると、一部が鋳型124から溶湯104へ突出した曲線を与える。このため、基準線172は内壁とは完全に重ならず、側壁から少なくとも一部が離れた直線、曲線、またはこれらの組み合わせとなる。本発明の実施形態に係る製造方法では、基準線172から溶湯側に位置する臨界データポイントCPを検出することで、この臨界データポイントCPに相当する位置に鋳付き125が発生したと判断することができる。このため、容易に鋳付き125の発生を検知し、その位置を特定することができる。
【0059】
基準線172から溶湯側に臨界データポイントCPが検出された全ての場合に鋳付き125が発生したと判断すると、金属インゴット106の特性に影響を与えないような小さな鋳付き125も検知することになる。したがって、基準線172からそれぞれの臨界データポイントCPの距離dを算出し(図7参照)、距離dを利用して除去すべき鋳付き125の生成を判断してもよい。距離dは、基準線172を中心とし、溶湯104側を正、鋳型124側を負とすればよい。この距離dは鋳付き125の大きさに依存するため、距離dを算出することで鋳付き125の大きさを見積もることができる。これにより、除去すべき鋳付き125が発生したことを判断できるとともに、除去すべき鋳付き125の優先順位を決定することもできる。例えば、距離dが所定の値、すなわち閾値距離dthを越えた場合に鋳付き125が発生したと判断すればよい。閾値距離dthは、鋳型124の大きさや金属インゴット106に求められる品質によって適宜決定すればよく、例えば2mm以上30mm以下の範囲から選択すればよい。この閾値距離dthは、例えば、電子ビームを照射する必要がある鋳付き125の大きさであるとともに、溶湯104に落下しても溶湯104中で溶解できる鋳付き125の大きさとして設定されることが好ましい。
【0060】
距離dが閾値距離dth以下である場合、すなわち、鋳付き125が大きく生成していないと判断された場合には、再度S4からS6までの処理が繰り返される。S4の処理を開始した後、再度S4の処理を開始するまでの時間は任意に設定すればよく、例えば0.01秒以上1分以下、0.01秒以上10秒以下、または0.01秒以上1秒以下の範囲から選択すればよい。
【0061】
上述したように、金属インゴット106の製造時、連続的にまたは断続的に電子銃152から溶湯104に対して電子ビームが照射される。したがって、電子ビームの照射のタイミングと撮像のタイミングによっては、ハレーションなどによって得られる画像が乱れることがある。この場合、正確に臨界データポイントCPを決定することができず、基準線172や距離dを正確に作成、算出することができない。したがって、画像の乱れによる影響を排除するため、S4からS6の一連の処理工程を複数回(例えばk回、kは1以上の自然数)繰り返し、連続する複数回(例えば(k+1)回)の処理工程のいずれにおいても距離dが閾値距離dthを越えた場合に鋳付き125が生成したと判断してもよい。kは、例えば5から30の範囲から適宜選択すればよい。なお、一つの操作をk回繰り返す場合、その操作は(k+1)回行われることになる。
【0062】
(3-1)円形の鋳型の場合
鋳型124の内壁の水平断面が円の場合にも、基準線172を作成して鋳付き125の検出やその大きさを算出することができる。具体的には、まず、鋳型124の側壁、およびその近傍の溶湯104を評価領域Rとして設定する(図8(A)参照)。より具体的には、側壁と側壁から円の中心に向かって距離Dまでの範囲を評価領域Rとすればよい。したがって、評価領域Rは、半径が異なる二つの同心円に挟まれた領域となる。距離Dは、鋳型124の大きさや金属インゴット106に求められる品質によって適宜設定することができ、たとえば30mmよりも大きく100mm以下の範囲から適宜選択すればよい。
【0063】
次に、鋳型124の水平断面の円の中心から放射状に延伸する複数の直線Lnを設定する。複数の直線Lnは、隣接する直線間の角度θが同一となるように、すなわち、均等な角度で放射状に延伸するように設定することが好ましい。
【0064】
引き続き、各直線Lnについて、臨界データポイントCPを決定する。具体的には、図8(B)に示すように、直線Lnと重なり、かつ、評価領域Rに含まれる複数のデータポイント170を評価対象データポイント170-3(図8(B)においてハッチングが施されたデータポイント)として選択する。その後、評価対象データポイント170-3から、臨界データポイントCPを決定する。すなわち、評価対象データポイント170-3のうち、溶湯104側(鋳型124の内部側)のデータポイントから一つずつ選択し、選択されたデータポイントに対して鋳型124の側壁側に隣接するデータポイント170と階調を比較し、その差を算出する。この差が閾値階調を最初に越えるデータポイント170を臨界データポイントCPとして採用する。あるいは、階調差が最も大きくなるデータポイントの対のうち一方を臨界データポイントCPとして決定してもよい。この操作を各直線Lnと重なるデータポイント170に対して行うことで直線Lnと同数の臨界データポイントCPが得られる。
【0065】
引き続き、複数の臨界データポイントCPに対する近似円を基準線172として作成する。この近似円は、水平断面における内壁と同心円となるように作成される。例えば全ての臨界データポイントCPに対して最小二乗法などのアルゴリズムを適宜用いて近似円を作成すればよい。鋳付き125が発生していない場合には、臨界データポイントCPは溶湯104と側壁との境界に相当するデータポイントとなり、臨界データポイントCPを繋げることで、内壁と略重なる円が得られる。したがって、基準線172も実質的に内壁と重なる円となる。しかしながら、図9に示すように、鋳付き125が発生した場合、複数の臨界データポイントCPを繋げると、一部が鋳型124から溶湯104へ突出した曲線を与える。このため、基準線172は内壁とは重ならず、側壁から離れた円となる。本発明の実施形態に係る製造方法では、基準線172から溶湯側に位置する臨界データポイントCPを検出することで、この臨界データポイントCPに相当する位置に鋳付き125が発生したと判断することができる。このため、容易に鋳付き125の発生を検知し、その位置を特定することができる。
【0066】
水平断面が矩形の内壁を有する鋳型124を用いる場合と同様、基準線172からそれぞれの臨界データポイントCPの距離、すなわち、水平断面における内壁の半径方向における基準線172から臨界データポイントCPまでの距離dに基づいて鋳付き125の発生を判断してもよい。この距離dも、基準線172を中心とし、溶湯104側を正、鋳型124側を負とすればよい。距離dは、鋳付き125の大きさに依存するため、距離dを算出することで除去すべき鋳付き125の発生を検知することができるとともに、鋳付き125の大きさを見積もることができる。さらに、鋳付き125を除去する優先順位も決定することができる。例えば、距離dが閾値距離dthを越えた場合に除去すべき鋳付き125が発生したと判断すればよい。閾値距離dthとしては、例えば2mm以上30mm以下の範囲から選択すればよい。この閾値距離dthは、例えば、電子ビームを照射する必要がある鋳付き125の大きさであるとともに、溶湯104に落下しても溶湯104中で溶解できる鋳付き125の大きさとして設定されることが好ましい。
【0067】
鋳型124の形状を問わず、任意の構成として、距離dが閾値距離dthを越えた場合に、音声出力部192を用いて音(警告音)を発生するよう、制御装置180を構成してもよい。例えば、S4からS6の一連の処理工程において距離dが閾値距離dthを越える毎に警告音を発生するように制御装置180を構成してもよく、あるいは連続する複数回の処理工程の全てで距離dが閾値距離dthを越えた場合に警告音を発生するように制御装置180を構成してもよい。同様に、距離dが閾値距離dth以下の値を回復した場合、警告音を停止するように制御装置180を構成してもよい。
【0068】
さらに任意の構成として、画像を出力部186のディスプレイ上に表示し、距離dが閾値距離dthを越えた場合に鋳付き125の発生場所をディスプレイ上に示すように制御装置180を構成してもよい。例えば、距離dが閾値距離dthを越える臨界データポイントCPを示す矢印や、この臨界データポイントCPを囲む図形をディスプレイ上に表示してもよい。あるいは、基準線172から溶湯104側に最も離れた臨界データポイントCPを選択し、これを中心とする円をディスプレイ上に表示してもよい。同様に、距離dが閾値距離dth以下の値を回復した場合、円や矢印の表示を停止するように制御装置180を構成してもよい。
【0069】
(4)鋳付きの除去
距離dが閾値距離dthを越えることで除去すべき鋳付き125が生成したと判断された場合、電子銃152を用いて鋳付き125に電子ビームを照射し、例えば鋳付き125を溶解および/または蒸発させる(S7)。これにより、一定の大きさに成長し、さらに成長すると金属インゴットの品質低下の原因となり得る鋳付き125に対して電子ビーム照射を選択的に実施することができる(図5(B)参照)。すなわち、無視可能な程度に小さい鋳付き125を電子ビーム照射の対象から除外して作業を簡素化させ、また、鋳付き125が過度に大きくなる前に鋳付き125を除去できる。ただし、電子ビームの照射により鋳付き125が溶解するまたは蒸発せずに溶湯104中に落下することもある。この場合、落下した鋳付き125が溶解せずに金属インゴット106に残留することを防ぐために、溶湯104中で溶解できる程度の大きさの段階で鋳付き125に電子ビームを照射することが好ましい。鋳付き125への電子ビームの照射につき、具体的には、制御部182を介し、距離dが閾値距離dthを越えた臨界データポイントCPの座標を求め、この座標に対応する位置を中心に電子ビームを照射するように電子銃152を制御・操作すればよい。この操作は制御装置180によって自動的に行われてもよく、あるいは入力部184を用いて照射すべき座標を特定するとともに、この座標に対応する位置を中心に電子ビームを照射するように電子銃152を操作してもよい。なお、チャンバー112内に複数の電子銃152を設け、これらのうち一部を用いて連続的または断続的に溶湯104に電子ビームを照射し、他の一部を用いて鋳付き125への電子ビーム照射を行ってもよい。
【0070】
上述したS4からS7を含む一連の処理工程は、溶解鋳造が完了するまで反復される。本製造方法では、金属インゴット106が引き出される速度と比較して処理工程の間隔が短いため、得られる金属インゴット106の全体に亘って鋳付き125の混入を防止することができる。その結果、高品質な金属インゴットを製造することができる。
【0071】
3.制御プログラム
本発明の実施形態の一つに係る製造方法は、上述した製造装置100、およびその制御装置180に搭載される制御プログラムによって実施することができる。よって、本発明に係る実施形態の一つは、溶解鋳造法によって金属インゴットを製造するため上記S1からS7の処理の一部または全てを制御装置180に実行させるための制御プログラムである。
【0072】
また、制御プログラムが記録されたコンピュータ可読記録媒体も本発明に係る実施形態の一つである。コンピュータ可読記録媒体の例としては、ハードディスク、フレキシブルディスク、および磁気テープのような磁気媒体、CD-ROM、DVDのような光媒体、フロプティカルディスク(floptical disk)のような光磁気媒体、およびROM、RAM、フラッシュメモリなどのような、制御プログラムを格納して実行するように構成されたハードウェア装置が含まれる。制御プログラムは、コンパイラによって生成されるもののような機械語コードだけではなく、インタプリタなどを使用してサーバによって実行される高級言語コードを含む。制御プログラムは、コンピュータ可読媒体から記憶部190にインストールされる。なお、制御プログラムは、ネットワークから記憶部190にダウンロード可能であってもよい。
【実施例0073】
本実施例では、本発明の実施形態の一つに係る製造方法を用いて試験的にチタンインゴットを製造した結果について述べる。
【0074】
本実施例では、図2に模式的に示された構成を備える溶解炉110を含む製造装置100を用いた。ハース120に対し、ホッパー118を介してフィーダ116からスポンジチタンを含む金属片を約3t/hの速度で連続的に供給した。この後、溶湯照射用の電子銃150(アルデンヌ社製、型式EH-800V)を用い、ハース120の上から電子ビームを照射した。二つの鋳型124(内壁の水平断面が縦1360mm×横250mm)に対して得られた溶湯104の供給を開始するとともに、鋳型の上側に配置した電子銃152(アルデンヌ社製、型式EH-800V)を用いて溶湯104に対する電子ビーム照射を開始した。さらに、引き抜き機構130を用いてダブテール128を約1.5t/hの速度で降下させた。
【0075】
上記操作の間、制御装置180を用いて上述したS4からS7に至る一連の処理工程を反復実施した。画像の取得は、防着板164を回転させながらCMOSカメラ(キーエンス社製、型式CA-H500C)を撮像装置160として用い、窓162を介して行った。なお、得られた画像のうち、長手方向の側壁とその近傍の溶湯104、および当該側壁に対向する側壁とその近傍の溶湯104をそれぞれ評価領域Rとして設定した。制御プログラムの設定条件は以下の通りである。
処理工程の間隔:0.1秒
評価領域Rにおける距離D(図6(A)参照):50mm
ノイズ低減:メディアン処理
コントラスト増大:コントラスト拡張処理
サブ領域Bの数:860
各サブ領域Bに含まれるデータポイント170の行数:1
閾値距離dth:12mm
鋳付き125の発生を判断するための連続する処理工程数:10
【0076】
臨界データポイントの求め方は以下の通りであった。サブ領域B中の隣接するデータポイント170の全ての組み合わせの階調差ΔG中の最大階調差ΔGmaxを得て、サブ領域B中の溶湯側から最大階調差ΔGmaxに対する階調差ΔGの割合を順次求め、最大階調差ΔGmaxに対して70%を越える階調差ΔGを初めて示すデータポイントを臨界データポイントCPとした。
【0077】
制御装置180にインストールされた制御プログラムは、連続する合計10回の処理工程のいずれにおいても臨界データポイントCPから基準線172までの距離dが閾値距離dthを越える場合に除去すべき鋳付き125が発生したと判断し、音声出力部192に警告音を出力させるとともに、基準線172から溶湯104側に最も離れた臨界データポイントCPを中心とする円を出力部186のディスプレイ上に表示させるように設定した。さらにこの制御プログラムは、警告音を出力している状態で距離dが閾値距離dth以下に回復すると警告音を停止するように設定した。
【0078】
鋳付き125が発生したと判断された際、入力部184を用いて鋳付き125に対応する臨界データポイントCPの座標を指定し、電子銃152を用いて当該座標に対応する位置に電子ビームを照射した。電子ビームの照射は、警告音が停止するまで、すなわち、距離dが閾値距離dth以下に回復するまで行った。
【0079】
比較例として、目視によって鋳付き125の生成を判断し、電子銃152を用いて鋳付き125を除去した。具体的には、音声出力部192に警告音を出力させず、距離dが閾値距離dthを越えてもディスプレイ上に何ら表示を行わないように制御プログラムを設定変更し、実施例と同様の操作を行った。
【0080】
実施例と比較例の結果をそれぞれ図10(A)、図10(B)に示す。両方のチャートにおいて、横軸は原料の溶解開始からの時間(秒)であり、実施例と比較例において、溶解開始から終了までの時間は、それぞれ約2時間20分、2時間であった。縦軸は、鋳型124の側壁から臨界データポイントCPまでの距離d(単位mm)であり、鋳付き125の大きさに相当する。図10(A)のチャートに示すように、本発明の実施形態である製造方法を用いることで、距離dが小さいとともに、その変動が大幅に抑制できることが分かる。具体的には、溶融開始から終了までの間、距離dは最大でも18mmであり、20mm以下に抑えることができる。このことは、当該製造方法により、鋳付き125が発生しても大きく成長する前に検出し、速やかに鋳付き125を除去することができることを示唆している。一方、図10(B)のチャートから理解されるように、目視による操作では、距離dが大きく変動し、最大で30mm近くに達することが分かる。このことは、目視による操作では鋳付き125の検知が遅れ、その結果、大型化する前に適時に鋳付き125を除去することが困難であることを示唆している。
【0081】
以上の結果は、本発明の実施形態の一つに係る製造装置、製造方法を適用することにより、鋳付き125が金属インゴット106に混入する確率を大幅に低減できることを意味している。この効果は、高い歩留りで高品質の金属インゴット106の製造に寄与する。なお、実施例で製造した金属インゴットより長尺であっても、問題なく対応可能である。
【0082】
本発明の実施形態として上述した実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったもの、または工程の追加、省略もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0083】
100:製造装置、102:原料、104:溶湯、106:金属インゴット、108:スターティングブロック、110:溶解炉、112:チャンバー、114:排気装置、116:フィーダ、118:ホッパー、120:ハース、122:スカル、124:鋳型、125:鋳付き、126:流路、128:ダブテール、130:引き抜き機構、132:シャフト、134:モータ、136:ベルト、138:冷却管、140:流路、150:電子銃、152:電子銃、160:撮像装置、162:窓、164:防着板、164a:開口、170:データポイント、170-1:データポイント、170-1a:データポイント、170-2:データポイント、170-2a:データポイント、170-3:評価対象データポイント、172:基準線、180:制御装置、182:制御部、184:入力部、186:出力部、188:送受信部、190:記憶部、192:音声出力部
図1
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図8
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図10