(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169278
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】高分子アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H02N 11/00 20060101AFI20221101BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20221101BHJP
C08F 292/00 20060101ALI20221101BHJP
C08L 51/10 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H02N11/00 Z
C08L71/02
C08F292/00
C08L51/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075211
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋充
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏充
(72)【発明者】
【氏名】中井 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】石田 真
(72)【発明者】
【氏名】玉井 秀樹
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4J002BN192
4J002CH011
4J002DA016
4J002FA046
4J002FD016
4J002GQ00
4J026AA00
4J026BA30
4J026BA50
4J026BB01
4J026CA06
4J026DB03
4J026DB11
4J026DB30
4J026GA09
(57)【要約】
【課題】柔軟性(弾性率)を維持したまま、誘電率を向上させ、絶縁破壊(絶縁破壊電界強度の低下)を抑制した誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータを提供すること。
【解決手段】誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とを備えており、
前記誘電エラストマ層が、ポリロタキサンを含む樹脂成分と、ポリエチレングリコールを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーがカーボンナノチューブにグラフト重合により結合したものであり、かつ、凝集体の平均粒子径が0.1~10μmの範囲内にあるグラフト化カーボンナノチューブとを含有する組成物の硬化物からなるものであることを特徴とする高分子アクチュエータ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とを備えており、
前記誘電エラストマ層が、ポリロタキサンを含む樹脂成分と、ポリエチレングリコールを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーがカーボンナノチューブにグラフト重合により結合したものであり、かつ、凝集体の平均粒子径が0.1~10μmの範囲内にあるグラフト化カーボンナノチューブとを含有する組成物の硬化物からなるものであることを特徴とする高分子アクチュエータ。
【請求項2】
前記組成物中の前記グラフト化カーボンナノチューブの含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して0.01~5質量部の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項3】
前記組成物中の前記グラフト化カーボンナノチューブの含有量が、前記ポリロタキサン100質量部に対して0.1~20質量部の範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項4】
前記グラフト化カーボンナノチューブ中のカーボンナノチューブの含有量が1~50体積%の範囲内にあることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の高分子アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子アクチュエータに関し、より詳しくは、誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリロタキサンを含有する誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータは、変位の大きい高分子アクチュエータとして知られている(例えば、特開2017-66318号公報(特許文献1))。しかしながら、従来のポリロタキサンを含有する誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータにおいては、出力が必ずしも十分に高いものではなく、高出力化が求められていた。
【0003】
一般に、誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータを高出力化するためには、誘電エラストマ層の誘電率を向上させることが有効であると考えられている。そして、誘電エラストマ層の誘電率を向上させるためには、チタン酸バリウムやチタニア等の高誘電率フィラーを配合することが有効であると考えられる。しかしながら、高誘電率フィラーは、弾性率が高いセラミックスからなるものが多いため、このような高誘電率フィラーを誘電エラストマ層に配合すると、誘電エラストマ層の誘電率は向上するものの、弾性率が著しく高くなるため、動作時に高分子アクチュエータの変位量が小さくなるという問題があった。このため、誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータにおいて、誘電エラストマ層の柔軟性を維持しながら、誘電率を向上させる技術が求められてきた。
【0004】
一方、誘電エラストマ層に導電性フィラーであるカーボンナノチューブを配合すると、電場印加時に誘電エラストマ層内でカーボンナノチューブが分極するため、大きな誘電効果が期待できる。しかしながら、カーボンナノチューブは導電性であるため、誘電エラストマ層内で導電パスを形成しやすく、絶縁破壊が起こりやすい。このため、カーボンナノチューブの配合量は、誘電エラストマ層での絶縁破壊が起こらない程度に少なくする必要があり、誘電エラストマ層の誘電率を十分に向上させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、柔軟性(弾性率)を維持したまま、誘電率を向上させ、絶縁破壊(絶縁破壊電界強度の低下)を抑制した誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリロタキサンを含有する誘電エラストマ層に、ポリエチレングリコールを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーがカーボンナノチューブにグラフト重合により結合したグラフト化カーボンナノチューブを特定の大きさで配合することによって、誘電エラストマ層の柔軟性(弾性率)を維持したまま、誘電率を向上させ、絶縁破壊(絶縁破壊電界強度の低下)を抑制することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の高分子アクチュエータは、誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とを備えており、前記誘電エラストマ層が、ポリロタキサンを含む樹脂成分と、ポリエチレングリコールを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーがカーボンナノチューブにグラフト重合により結合したものであり、かつ、凝集体の平均粒子径が0.1~10μmの範囲内にあるグラフト化カーボンナノチューブとを含有する組成物の硬化物からなるものであることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の高分子アクチュエータにおいては、前記組成物中の前記グラフト化カーボンナノチューブの含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して0.01~5質量部の範囲内にあることが好ましく、前記ポリロタキサン100質量部に対して0.1~20質量部の範囲内にあることが好ましく、前記グラフト化カーボンナノチューブ中のカーボンナノチューブの含有量が1~50体積%の範囲内にあることが好ましい。
【0010】
なお、本発明によって、誘電エラストマ層の柔軟性(弾性率)を維持したまま、誘電率を向上させ、絶縁破壊(絶縁破壊電界強度の低下)を抑制することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、誘電エラストマ層に本発明にかかるグラフト化カーボンナノチューブを配合すると、電場印加時に誘電エラストマ層内でグラフト化カーボンナノチューブが分極するため、誘電率が向上すると考えられる。また、カーボンナノチューブが極細繊維状であるため、誘電エラストマ層の変形に比較的追従しやすく、誘電エラストマ層の柔軟性(弾性率)が維持されると推察される。さらに、本発明にかかるグラフト化カーボンナノチューブを配合した誘電エラストマ層においては、ポリエチレングリコールを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーによりグラフト層が形成され、このグラフト層が絶縁層となり、カーボンナノチューブ同士の接触が起こりにくくなるため、導電パスが形成されにくく、絶縁破壊(絶縁破壊電界強度の低下)が抑制されると推察される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、柔軟性(弾性率)を維持したまま、誘電率を向上させ、絶縁破壊(絶縁破壊電界強度の低下)を抑制した誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1で得られた硬化膜の光学顕微鏡写真である。
【
図2】実施例3で得られた硬化膜の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
本発明の高分子アクチュエータは、誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とを備えており、前記誘電エラストマ層は、ポリロタキサンを含む樹脂成分と、ポリエチレングリコールを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーがカーボンナノチューブにグラフト重合により結合したものであり、かつ、凝集体の平均粒子径が0.1~10μmであるグラフト化カーボンナノチューブとを含有する組成物の硬化物からなるものである。
【0015】
ポリロタキサンとは、環状の分子(リング状分子)の穴を棒状の分子(軸分子)が貫通し、棒状の分子の両末端に嵩高い部位(末端基)が結合した構造を有する分子集合体である。本発明においては、このようなポリロタキサンとして特に制限はなく、従来公知のポリロタキサンを用いることができる。
【0016】
前記リング状分子としては特に制限はなく、例えば、シクロデキストリン、クラウンエーテル、シクロファン、カリックスアレーン、ククルビットウリル、環状アミド等が挙げられる。これらのリング状分子は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このようなリング状分子は置換基や側鎖を有していてもよい。これらのリング状分子の中でも、適度な柔軟性と誘電率が得られるという観点から、グラフト鎖としてカプロラクトン鎖を有するシクロデキストリンが好ましい。
【0017】
また、前記軸分子としては特に制限はなく、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリ乳酸、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル等が挙げられる。これらの軸分子は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの軸分子の中でも、ガラス転移温度が低く、リング状分子がスムーズに移動できるという観点から、ポリエチレングリコールが好ましい。
【0018】
さらに、前記嵩高い末端基としては特に制限はなく、例えば、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン基、ピレン基、置換ベンゼン環、多環芳香族環、ステロイド基等が挙げられる。これらの末端基は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの末端基の中でも、軸分子の末端に導入しやすく、リング状分子が外れない程の嵩高さを有しているという観点から、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン基、ピレン基が好ましく、アダマンタン基がより好ましい。
【0019】
本発明に用いられるグラフト化カーボンナノチューブ(グラフト化CNT)は、ポリエチレングリコールを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーがカーボンナノチューブ(CNT)にグラフト重合により結合したものである。
【0020】
前記ポリエチレングリコールにおけるエチレングリコールの重合度としては、4~100が好ましく、4~80がより好ましく、4~50が更に好ましく、4~20が特に好ましい。エチレングリコールの重合度が前記下限未満になると、得られるグラフト化CNTが凝集しやすく、所望の大きさのグラフト化CNT凝集体を得ることが困難となり、グラフト化CNT凝集体が誘電エラストマ層内で均一に分散しないため、誘電率が十分に向上せず、また、絶縁破壊(絶縁破壊電界強度の低下)を十分に抑制できない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、グラフト化CNT中のCNT含有量が減少し、誘電率の向上効果を得るために必要なグラフト化CNTの量が増大する傾向にある。
【0021】
また、前記ポリエチレングリコールを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーにおける(メタ)アクリルモノマーの重合度としては、5~10万が好ましく、5~1万がより好ましく、5~1000が更に好ましく、5~100が特に好ましい。(メタ)アクリルモノマーの重合度が前記下限未満になると、グラフト化CNT凝集体が誘電エラストマ層内で均一に分散しないため、誘電率が十分に向上せず、また、絶縁破壊(絶縁破壊電界強度の低下)を十分に抑制できない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、グラフト化CNT中のCNT含有量が減少し、誘電率の向上効果を得るために必要なグラフト化CNTの量が増大する傾向にある。
【0022】
前記グラフト化CNTにおけるCNTの含有量としては、1~50体積%が好ましく、1~30体積%がより好ましい。グラフト化CNTにおけるCNTの含有量が前記下限未満になると、CNTによる効果が十分に得られず、例えば、誘電率が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、相対的にグラフト層(絶縁層)が少なくなるため、グラフト層による効果が十分に得られず、例えば、絶縁破壊(絶縁破壊電界強度の低下)を十分に抑制できない傾向にある。
【0023】
前記グラフト化CNT凝集体の平均粒子径は、0.1~10μmの範囲内にあることが必要であり、0.1~5μmの範囲内にあることが好ましい。グラフト化CNT凝集体の平均粒子径が前記下限未満になると、グラフト化CNTによる分極効果が十分に得られず、誘電率が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、グラフト化CNT凝集体が誘電エラストマ層内で均一に分散しないため、誘電率が十分に向上せず、また、絶縁破壊(絶縁破壊電界強度の低下)を十分に抑制できない傾向にある。
【0024】
また、前記誘電エラストマ層を形成するための組成物において、前記グラフト化CNTの含有量としては、前記誘電エラストマ層を形成するための樹脂成分100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.03~2質量部がより好ましい。グラフト化CNTの含有量が前記下限未満になると、CNTによる効果が十分に得られず、例えば、誘電率が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、グラフト化CNTが凝集しやすく、グラフト化CNT凝集体が誘電エラストマ層内で均一に分散しないため、誘電率が十分に向上せず、また、絶縁破壊(絶縁破壊電界強度の低下)を十分に抑制できない傾向にある。
【0025】
さらに、前記誘電エラストマ層を形成するための組成物において、前記グラフト化CNTの含有量としては、前記ポリロタキサン100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、0.2~10質量部がより好ましい。グラフト化CNTの含有量が前記下限未満になると、CNTによる効果が十分に得られず、例えば、誘電率が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、グラフト化CNTが凝集しやすく、グラフト化CNT凝集体が誘電エラストマ層内で均一に分散しないため、誘電率が十分に向上せず、また、絶縁破壊(絶縁破壊電界強度の低下)を十分に抑制できない傾向にある。
【0026】
このようなグラフト化CNTの合成方法としては特に制限はなく、例えば、以下のように、カーボンナノチューブに重合開始剤が結合した開始剤修飾カーボンナノチューブ(開始剤修飾CNT)にポリエチレングリコール(メタ)アクリレートモノマーをグラフト重合することによって合成することができる。
【0027】
すなわち、先ず、下記式(1):
【0028】
【0029】
に示すように、ジアミン(H2N-X-NH2)と塩酸(HCl)とを反応させて、重合開始剤であるジアゾニウム塩(ClN2-X-NH3Cl)を合成し、下記式(2):
【0030】
【0031】
に示すように、このジアゾニウム塩とカーボンナノチューブ(CNT)とを反応させて、アミノ化CNT(CNT-X-NH2)を合成し、さらに、下記式(3):
【0032】
【0033】
に示すように、このアミノ化CNT(CNT-X-NH2)と重合開始剤(Br-Y-Br))とを反応させて、開始剤修飾CNT(CNT-X-NH-Y-Br)を合成する。
【0034】
次に、下記式(4):
【0035】
【0036】
に示すように、開始剤修飾CNTにポリエチレングリコール(メタ)アクリレートモノマーをグラフト重合させることによって、本発明にかかるグラフト化CNTが得られる。
【0037】
前記ジアミンとしては、カーボンナノチューブにアミノ基を導入できるものであれば特に制限はない。前記重合開始剤としては、カーボンナノチューブに導入されたアミノ基と反応してカーボンナノチューブに重合開始剤を導入することができ、かつ、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートモノマーのグラフト重合の開始剤となるものであれば特に制限はない。
【0038】
また、前記グラフト化CNTの合成方法においては、アミノ基の代わりに他の官能基をカーボンナノチューブに導入して官能基含有CNTを合成し、この官能基含有CNTと重合開始剤とを反応させて開始剤修飾CNTを合成し、この開始剤修飾CNTにポリエチレングリコール(メタ)アクリレートモノマーをグラフト重合させてもよい。
【0039】
これらの合成方法における反応条件としては特に制限はなく、従来公知の反応条件を適宜採用することができ、また、最適化した反応条件を採用することが好ましい。
【0040】
前記誘電エラストマ層を形成するための組成物には、必要に応じて、ポリシロキサンを含有するブロック共重合体やポリシロキサンを含有しない重合体が含まれていてもよい。ポリシロキサンとしては特に制限はないが、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。ポリシロキサンを含有するブロック共重合体としては特に制限はないが、例えば、ポリカプロラクトン-ポリシロキサンブロック共重合体、ポリアジペート-ポリシロキサンブロック共重合体、ポリエチレングリコール-ポリシロキサンブロック共重合体等が挙げられる。ポリシロキサンを含有しない重合体としては特に制限はないが、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリカーボネート、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0041】
本発明にかかる誘電エラストマ層は、前記ポリロタキサンと前記グラフト化CNTとを少なくとも含有し、必要に応じて、ポリシロキサンを含有するブロック共重合体やポリシロキサンを含有しない重合体を含有する組成物を硬化させることによって形成することができる。したがって、前記組成物には、必要に応じて、架橋剤が含まれていることが好ましい。
【0042】
このような架橋剤は、前記組成物に含まれる、前記ポリロタキサン、前記ポリシロキサンを含有するブロック共重合体、前記ポリシロキサンを含有しない重合体等の樹脂成分に応じて適宜選択することができ、特に制限はなく、例えば、官能基を有する、脂肪族ポリオール、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリカーボネート、及びこれらのブロック共重合体が挙げられる。また、前記官能基としては、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基が挙げられる。
【0043】
前記誘電エラストマ層の形成方法としては特に制限はなく、例えば、前記組成物を、スピンコート法、スリットダイコータ法、スクリーンプリント法、インクジェット法等の公知の膜形成方法により塗膜を形成した後、硬化させる方法が挙げられる。
【0044】
本発明の高分子アクチュエータは、このような誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とからなる電極層付誘電体を備えるものであり、前記電極層付誘電体の形状としては特に制限はなく、例えば、渦巻き状に複数巻いて円筒状にしたもの、波状に湾曲させて折り畳んだカーテン状のもの等が挙げられる。
【0045】
前記電極としては特に制限はなく、従来のアクチュエータに用いられる公知の電極を用いることができ、例えば、貴金属(例えば、銀ナノワイヤ等)やカーボン(例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン等)といった導電性粒子が分散した、シリコーンや天然ゴム、樹脂等からなる導電性高分子膜等が挙げられる。
【実施例0046】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、グラフト化カーボンナノチューブ中のカーボンナノチューブの割合は、以下の方法により求めた。
【0047】
〔グラフト化カーボンナノチューブ中のカーボンナノチューブの割合〕
グラフト化カーボンナノチューブを白金パンに入れ、熱分析装置(株式会社リガク製「THERMO PLUS II」を用いて、窒素流通下、室温から1000℃まで10℃/分で昇温して熱重量分析を行い、室温から600℃までの間に減少した質量をグラフト成分の質量としてグラフト化カーボンナノチューブ中のカーボンナノチューブの重量分率を求め、さらに、グラフト成分の密度を1g/cm3、カーボンナノチューブの密度を2g/cm3として、グラフト化カーボンナノチューブ中のカーボンナノチューブの体積分率を求めた。
【0048】
(合成例1)
<開始剤の合成>
先ず、下記式(5):
【0049】
【0050】
で表される反応を行い、p-クロロメチルベンジルアルコールを合成した。すなわち、p-キシリレン-α、α’-ジオール41.5g、濃塩酸150ml及びトルエン600mlをフラスコ内で混合し、室温で8時間撹拌した。その後、トルエン層を100mlの水で4回洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。次いで、エバポレーションと真空乾燥により溶媒を除去し、得られた固形物を、酢酸エチルを用いて再結晶して、p-クロロメチルベンジルアルコールを得た(収量:29.0g、収率:62%)。
【0051】
次に、下記式(6):
【0052】
【0053】
で表される反応を行い、2-ブロモ-2-メチルプロパン酸p-クロロメチルベンジルを合成した。すなわち、前記p-クロロメチルベンジルアルコール20g、ピリジン10.8ml及び脱水エーテル100mlを窒素雰囲気下でフラスコに入れて混合して氷冷し、さらに、氷冷下で撹拌しながら、2-ブロモ-2-メチルプロパン酸ブロミド15.8mlを脱水エーテル30mlに溶解した溶液を滴下した。得られた溶液を室温に戻して2時間撹拌した。得られた反応液を20mlの水で3回洗浄した後、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。その後、エバポレーションと真空乾燥により溶媒を除去して、オイル状の2-ブロモ-2-メチルプロパン酸p-クロロメチルベンジルを得た(収量:39.0g、収率:100%)。このオイル状物について1H-NMR測定を行ったところ、不純物は確認されなかったため、そのまま、以下の反応に使用した。
【0054】
次に、下記式(7):
【0055】
【0056】
で表される反応を行い、2-ブロモ-2-メチルプロパン酸p-ブロモメチルベンジルを合成した。すなわち、前記2-ブロモ-2-メチルプロパン酸p-クロロメチルベンジル38.8g、臭化ナトリウム26.1g及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)100mlをフラスコに入れ、窒素雰囲気下、60℃で1時間撹拌し、析出した塩をろ過により除去した。その後、臭化ナトリウム3gを更に添加して、窒素雰囲気下、60℃で1時間撹拌し、析出した塩をろ過により除去した後、またさらに、臭化ナトリウム1gを添加して、窒素雰囲気下、60℃で1時間撹拌し、析出した塩をろ過により除去した。得られたろ液を70℃でエバポレーションして溶媒を除去した後、真空乾燥した。得られた混合物に水30mlを添加し、水層を50mlのクロロホルムで2回抽出した。さらに、クロロホルム層を50mlの水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。その後、エバポレーションと真空乾燥により溶媒を除去して、2-ブロモ-2-メチルプロパン酸p-ブロモメチルベンジルを得た(収量:41.7g、収率:94%)。
【0057】
(合成例2)
<開始剤修飾カーボンナノチューブの合成>
先ず、下記式(8):
【0058】
【0059】
で表される反応を行い、ジアゾニウム塩を合成した。すなわち、濃塩酸18mlを水180mlで希釈した溶液に4,4’-オキシジアニリン12.5gを混合して溶解し、撹拌しながら氷冷した。この溶液に、溶液の温度が5℃以下に保持されるように滴下速度を調節しながら、亜硝酸ナトリウム4.40gを水50mlに溶解した水溶液を滴下した。このとき、溶液は無色から黄色に変色した。その後、さらに、氷冷しながら30分間撹拌を継続して、ジアゾニウム塩水溶液を得た。
【0060】
次に、下記式(9):
【0061】
【0062】
で表される反応を行い、アミノ化カーボンナノチューブ(アミノ化CNT)を合成した。すなわち、カーボンナノチューブ(CNT、Nanocyl社製「ナノシル7000」)4.0g、DMF500ml及び水300mlを混合し、得られた混合液に前記ジアゾニウム塩水溶液を添加した。得られた分散液を、窒素雰囲気下、50℃に達するまで加熱した。得られた反応液をろ過し、ろ滓を500mlのDMFで洗浄し、さらに、DMFを添加して固体成分を分散させた後、トリエチルアミン1gを添加した。得られた分散液をろ過し、DMFを添加して固体成分を分散させた。この一連の操作(ろ過→DMF添加・分散)を3回繰り返して固体成分を洗浄し、その後、ろ過により得られた固体成分を80℃で10時間加熱した後、室温で12時間真空乾燥して、アミノ化CNTを得た(収量:5.91g)。
【0063】
次に、下記式(10):
【0064】
【0065】
で表される反応を行い、開始剤修飾カーボンナノチューブ(開始剤修飾CNT)を合成した。すなわち、前記アミノ化CNT5.85g、合成例1で得られた2-ブロモ-2-メチルプロパン酸p-ブロモメチルベンジル(開始剤)8g、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン0.98g及び脱水DMF350mlを混合し、得られた混合液に、窒素雰囲気下で18.5時間超音波処理を施した。得られた反応液を1.5Lのメタノールに投入した後、ろ過した。得られた固体成分を350mlのDMFに投入した後、超音波処理を施して分散させた。得られた分散液を1.5Lのメタノールに投入した後、ろ過した。この一連の操作(メタノール投入→ろ過)を2回繰り返した後、得られた固体成分を60℃で真空乾燥して、開始剤修飾CNTを得た(収量:5.95g)を得た。
【0066】
(合成例3)
<架橋剤の合成>
三口ナスフラスコに、ポリカプロラクトンがグラフトされたポリプロピレングリコール100gを入れ、窒素気流下、90℃のオイルバス中で撹拌した。得られた溶液に、1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン(三井化学株式会社製「タケネート600」)7.45gを1時間かけてゆっくりと滴下した後、さらに2時間撹拌して、オリゴマーを得た。
【0067】
三口ナスフラスコに、1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン(三井化学株式会社製「タケネート600」)16.66gを入れ、窒素気流下、90℃のオイルバス中で撹拌した。得られた溶液に、前記オリゴマー80gをトルエン80gに溶解した溶液を2時間かけてゆっくりと滴下した後、さらに2時間撹拌した。その後、液温を40℃まで低下させ、2-ブタノンオキシム(東京化成工業株式会社製)10.94gを、液温が60℃以上にならないように、ゆっくりと滴下した。滴下終了後、40℃で5時間撹拌して、末端ブロックイソシアネート基を有するポリプロピレングリコール(Mn:5422)からなる架橋剤を得た。この架橋剤を酢酸ブチルに添加して、濃度が50質量%の架橋剤溶液を調製した。
【0068】
(実施例1)
<グラフト化カーボンナノチューブの合成>
下記式(11):
【0069】
【0070】
で表される反応を行い、グラフト化カーボンナノチューブ(グラフト化CNT)を合成した。すなわち、合成例2で得られた開始剤修飾CNT0.38g、臭化銅(I)29mg及び脱水N,N-ジメチルアセトアミド(脱水DMAC)30mlを混合し、得られた混合液に、必要に応じて超音波処理を施しながら、メカニカルスターラーを用いて、窒素雰囲気下、35℃、400rpmの条件で2時間の撹拌処理を施した〔第一の撹拌処理〕。得られた分散液に、窒素雰囲気下で、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート(平均分子量:500、前記式(11)中、n=約9)(東京化成工業株式会社製)15ml及びN,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDATA)50μlを添加した後、脱気及び窒素導入を5回繰り返した。その後、必要に応じて超音波処理を施しながら、メカニカルスターラーを用いて、窒素雰囲気下、60℃、400rpmの条件で9時間の撹拌処理を施した〔第二の撹拌処理〕。得られた反応液をろ過し、固体成分を50mlのDMFに投入して分散させた後、0.2μmのメンブレンフィルターによりろ過した。得られた固体成分をメタノールで洗浄して真空乾燥し、グラフト化CNT(1)を得た(収量:0.56g)。このグラフト化CNT(1)におけるカーボンナノチューブの割合を前記方法に従って求めたところ、38体積%であった。
【0071】
<グラフト化CNT含有ポリエチレングリコールフィルムの作製>
合成例3で得られた架橋剤溶液(架橋剤濃度:50質量%)27.29g、カプロラクトン側鎖を有するポリロタキサン(株式会社ASM製「SH3400P」、リング状分子:カプロラクトン側鎖を有するシクロデキストリン、軸分子:ポリエチレングリコール(分子量:3.5万)。末端基:アダマンタン基)5.43g、ポリオキシプロピレンジオール(和光純薬工業株式会社製、ポリプロピレングリコール700、ジオール型、平均分子量:約700)1.27g、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル(シグマアルドリッチ社製、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル1K、モノオール、平均分子量:約1000)3.62g、シリコーン添加剤(Gelest社製「DBL-C31」、両末端アルコール変性シリコーン:カプロラクトン-ジメチルシロキサン-カプロラクトンブロックコポリマー、固形分濃度30質量%のトルエン溶液)0.40g、加水分解抑制剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトV-09GB」、濃度30質量%のトルエン溶液)0.80g、酸化防止剤(BASF社製「Irganox1726」、2,4-ビス(ドデシルチオメチル)-6-メチルフェノール)0.48g、及びジラウリン酸ジブチルスズを3質量%の濃度でトルエンに溶解した触媒溶液0.40gを、メチルセロソルブ9.60gに溶解して攪拌し、均一な溶液を得た。この溶液に、前記グラフト化CNT(1)をメチルセロソルブに分散させた分散液(濃度:5質量%)2.54gを添加して、前記グラフト化CNT(1)が分散した樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液に脱泡処理を施した後、スリットダイコータ法により前記樹脂溶液を基材フィルム上に塗布し、得られた塗膜を130℃のオーブン内で減圧条件下、5時間静置して硬化させた。その後、得られた硬化膜を基材フィルムから剥離した。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。また、この硬化膜における前記グラフト化CNT(1)の含有量を原料の仕込量から求めたところ、樹脂成分100質量部に対して0.527質量部であり、ポリロタキサン100質量部に対して2.34質量部であった。
【0072】
(実施例2)
<グラフト化カーボンナノチューブの合成>
第一の撹拌処理において、メカニカルスターラーの代わりに磁気撹拌子を用い、窒素雰囲気下、60℃、400rpmの条件で2時間の撹拌処理を行い、また、第二の撹拌処理において、メカニカルスターラーの代わりに1Tのマグネットを有するマグネチックスターラーを用い、窒素雰囲気下、60℃、400rpmの条件で9時間の撹拌処理を行った以外は実施例1と同様にして、グラフト化CNT(2)を得た(収量:0.50g)。このグラフト化CNT(2)におけるカーボンナノチューブの割合を前記方法に従って求めたところ、43体積%であった。
【0073】
<グラフト化CNT含有ポリエチレングリコールフィルムの作製>
合成例3で得られた架橋剤溶液(架橋剤濃度:50質量%)の量を40.94gに、カプロラクトン側鎖を有するポリロタキサンの量を8.15gに、ポリオキシプロピレンジオールの量を1.91gに、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテルの量を5.43gに、シリコーン添加剤の量を0.60gに、加水分解抑制剤の量を1.20gに、酸化防止剤の量を0.72gに変更し、前記グラフト化CNT(1)をメチルセロソルブに分散させた分散液の代わりに前記グラフト化CNT(2)をメチルセロソルブに分散させた分散液(濃度:0.1質量%)18.9gを用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ0.05mmの硬化膜を得た。この硬化膜における前記グラフト化CNT(2)の含有量を原料の仕込量から求めたところ、樹脂成分100質量部に対して0.0523質量部であり、ポリロタキサン100質量部に対して0.232質量部であった。
【0074】
(実施例3)
<グラフト化カーボンナノチューブの合成>
下記式(12):
【0075】
【0076】
で表される反応を行い、グラフト化カーボンナノチューブ(グラフト化CNT)を合成した。すなわち、合成例2で得られた開始剤修飾CNT0.38g、臭化銅(I)29mg及び脱水N,N-ジメチルアセトアミド(脱水DMAC)30mlを混合し、得られた混合液に、磁気撹拌子を用いて、窒素雰囲気下、60℃、400rpmの分散条件で2時間の分散処理を施した。得られた分散液に、窒素雰囲気下で、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(平均分子量:950、前記式(12)中、n=約19)(アルドリッチ社製)10ml及びN,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDATA)60μlを添加した後、脱気及び窒素導入を5回繰り返した。その後、1Tのマグネットを有するマグネチックスターラーを用いて、窒素雰囲気下、60℃、400rpmの撹拌条件で9時間撹拌した。得られた反応液を遠心分離(28000rpm、60分間)し、固体成分を50mlのアセトニトリルに投入して分散させた後、遠心分離(28000rpm、60分間)した。得られた固体成分を真空乾燥し、グラフト化CNT(3)を得た(収量:2.19g)。このグラフト化CNT(3)におけるカーボンナノチューブの割合を前記方法に従って求めたところ、13.8体積%であった。
【0077】
<グラフト化CNT含有ポリエチレングリコールフィルムの作製>
前記グラフト化CNT(1)をメチルセロソルブに分散させた分散液の代わりに前記グラフト化CNT(3)をメチルセロソルブに分散させた分散液(濃度:3.4質量%)10.26gを用いた以外は実施例1と同様にして、厚さ0.05mmの硬化膜を得た。この硬化膜における前記グラフト化CNT(3)の含有量を原料の仕込量から求めたところ、樹脂成分100質量部に対して1.45質量部であり、ポリロタキサン100質量部に対して6.42質量部であった。
【0078】
(比較例1)
<ポリエチレングリコールフィルムの作製>
グラフト化CNTを用いず、メチルセロソルブの量を10.80gに変更した以外は実施例1と同様にして、硬化膜を得た。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0079】
(比較例2)
<ポリエチレングリコールフィルムの作製>
前記グラフト化CNT(1)をメチルセロソルブに分散させた分散液の代わりに、カーボンナノチューブ(CNT、Nanocyl社製「ナノシル7000」)をメチルセロソルブに分散させた分散液(濃度:2.5質量%)2.54gを用いた以外は実施例1と同様にして、硬化膜を得た。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。また、この硬化膜における前記CNTの含有量を原料の仕込量から求めたところ、樹脂成分100質量部に対して0.264質量部であり、ポリロタキサン100質量部に対して1.17質量部であった。
【0080】
(比較例3)
<グラフト化カーボンナノチューブの合成>
ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(平均分子量:950、前記式(12)中、n=約19)の代わりに、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(平均分子量:230、前記式(12)中、n=約3)10mlを用いた以外は実施例3と同様にして、グラフト化CNT(4)を得た。このグラフト化CNT(4)は凝集が著しかった。
【0081】
<グラフト化CNT含有ポリエチレングリコールフィルムの作製>
前記グラフト化CNT(3)の代わりに、前記グラフト化CNT(4)を用いた以外は実施例3と同様にして、硬化膜を得た。しかしながら、この硬化膜においても、前記グラフト化CNT(4)は凝集が著しく、前記グラフト化CNT(4)の凝集体の平均粒子径を10μm以下にすることは困難であった。
【0082】
〔光学顕微鏡観察〕
得られた硬化膜の表面を光学顕微鏡により観察した。
図1及び
図2はそれぞれ実施例1及び実施例3で得られた硬化膜の光学顕微鏡写真である。
図1及び
図2に示したように、実施例1及び実施例3で得られた硬化膜においては、粒子径が10μm以下のグラフト化CNTが均一に分散していることが確認された。
【0083】
〔グラフト化カーボンナノチューブ凝集体の平均粒子径〕
硬化膜中のグラフト化CNT凝集体の平均粒子径は以下の方法により測定した。すなわち、硬化膜の光学顕微鏡写真において、粒子径が1μm以上のグラフト化CNT凝集体を無作為に20個抽出してこれらの粒子径を測定し、その平均値をグラフト化CNT凝集体の平均粒子径とした。その結果を表1に示す。
【0084】
〔初期弾性率〕
得られた硬化膜から、JIS K6251に従って、ダンベル状7号形試験片を作製し、この試験片について、引張試験機(株式会社島津製作所製「オートグラフAGS-X 10N」)を用いて、つかみ具間距離:20mm、引張速度:100mm/分の条件で引張試験を行い、応力-歪み曲線を得た。この応力-歪み曲線の1%~5%伸長時の範囲を線形近似し、その傾きを初期弾性率とした。その結果を表1に示す。
【0085】
〔比誘電率〕
得られた硬化膜の両面に、オートファインコータ(日本電子株式会社製「JEC-3000FC」)を用いて、金を蒸着させて電極膜(15mm径)を作製し、誘電率測定用プローブを用いてプレシジョン・インピーダンス・アナライザ(Agilent社製「4294A」)により静電容量を測定し、比誘電率を算出した。その結果を表1に示す。
【0086】
〔体積抵抗率〕
得られた硬化膜の両面に、オートファインコータ(日本電子株式会社製「JEC-3000FC」)を用いて、金を蒸着させて電極膜(8mm径)を作製し、微小電流計(日置電機株式会社製「超絶縁計SM7120」)を用いて、体積抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0087】
〔絶縁破壊電界強度〕
膜と電極との間に空気泡が極力残らないように留意しながら、得られた硬化膜を円板電極に貼り付け、円柱電極を硬化膜上に載せ、さらに、真空装置を用いて脱気処理を施した。これを絶縁破壊測定器にセットし、常温(20±15℃)常湿(65±20%)下、昇圧速度10V/0.1秒で電圧が上昇するように、電源装置を用いて電極間に電圧を印加した。その後、電流が実質的に流れない絶縁状態を経て、電流が1.2μA以上となった時点の電圧を測定し、絶縁破壊電界強度を算出した。その結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
表1に示したように、誘電エラストマ層に、本発明にかかるグラフト化カーボンナノチューブを添加した場合(実施例1~3)には、添加しなかった場合(比較例1)に比べて、初期弾性率は同程度であり、比誘電率は増大した。一方、本発明にかかるグラフト化カーボンナノチューブの代わりに、グラフト化していないカーボンナノチューブを添加した場合(比較例2)には、初期弾性率は同程度であったが、カーボンナノチューブによる短絡のため、比誘電率の測定は困難であった。
【0090】
また、グラフト化していないカーボンナノチューブを添加した場合(比較例2)には、添加しなかった場合(比較例1)に比べて、絶縁破壊電界強度が著しく低下することがわかった。一方、本発明にかかるグラフト化カーボンナノチューブを添加した場合(実施例1~3)には、グラフト化していないカーボンナノチューブを添加した場合(比較例2)に比べて、絶縁破壊電界強度の低下が抑制されることがわかった。
【0091】
以上の結果から、誘電エラストマ層に、ポリエチレングリコールを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーがカーボンナノチューブにグラフト重合により結合したものであり、かつ、凝集体の平均粒子径が0.1~10μmであるグラフト化カーボンナノチューブを添加することによって、初期弾性率を維持したまま、比誘電率を増大させ、絶縁破壊電界強度の低下を抑制することが可能であることがわかった。
以上説明したように、本発明によれば、柔軟性(弾性率)を維持したまま、誘電率を向上させ、絶縁破壊(絶縁破壊電界強度の低下)を抑制した誘電エラストマ層を形成することが可能となる。したがって、本発明の高分子アクチュエータは、このような誘電エラストマ層を備えているため、産業用や介護用ロボット、人工筋肉、センサ、ハプティクス等、様々な分野に利用することができる。