(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169287
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ロックアップダンパ
(51)【国際特許分類】
F16H 45/02 20060101AFI20221101BHJP
F16F 15/134 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
F16H45/02 Y
F16F15/134 B
F16F15/134 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075229
(22)【出願日】2021-04-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】519225255
【氏名又は名称】ヴァレオ、カペック、カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】VALEO KAPEC CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100106655
【弁理士】
【氏名又は名称】森 秀行
(72)【発明者】
【氏名】水田 吉昭
(72)【発明者】
【氏名】石川 耕成
(57)【要約】
【課題】低コストで製造できる簡潔なストッパ構造を備えたロックアップダンパの提供
【解決手段】ロックアップダンパは、その回転軸線の周りに相対回転可能に設けられた第1及び第2リテーナプレート(プレート)と、第1及び第2プレートの相対回転に抗する複数の第1スプリングとを備える。第1及び第2プレートの一方が入力側プレートであり、他方が、出力側プレートである。第1プレートは第1スプリングを保持する第1スプリング保持部を有し、第1スプリング保持部は、対応する第1スプリングの周囲に倣うように湾曲して延びて第1スプリングの少なくとも部分的に包囲し、第1スプリングの少なくとも第1方向への脱落を防止する。第1及び第2プレートを第1相対回転角度だけ相対回転させたときに、スプリング保持部の先端部が第2プレートの一部に衝突して、第1及び第2プレートの第1相対回転角度を超えた相対回転が不能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロックアップダンパであって、
前記ロックアップダンパの回転軸線の周りに相対回転可能に設けられた第1リテーナプレートおよび第2リテーナプレートと、
前記第1リテーナプレートと前記第2リテーナプレートとの間に介在して、前記第1リテーナプレートおよび前記第2リテーナプレートの相対回転に抗するよう作用する複数の第1スプリングと、
を備え、
前記第1リテーナプレートおよび前記第2リテーナプレートの一方が、ロックアップクラッチの出力部に相対回転不能に連結される入力側リテーナプレートであり、他方が、トルクコンバータのタービンに相対回転不能に連結される出力側リテーナプレートであり、
前記第1リテーナプレートは、前記複数の第1スプリングの各々を保持する複数の第1スプリング保持部を有し、前記各第1スプリング保持部は、対応する前記第1スプリングの周囲に倣うように湾曲して延びて当該第1スプリングの少なくとも部分的に包囲し、当該第1スプリングの少なくとも第1方向への脱落を防止するように構成されており、
前記第1リテーナプレートと前記第2リテーナプレートとを第1相対回転角度だけ相対回転させたときに、前記第1スプリング保持部の先端部が前記第2リテーナプレートの一部に衝突して、前記第1リテーナプレートと前記第2リテーナプレートとの前記第1相対回転角度を超えた相対回転が不能となるように構成されている、ロックアップダンパ。
【請求項2】
前記第1リテーナプレートと前記第2リテーナプレートとの間に介在して、前記第1リテーナプレートおよび前記第2リテーナプレートの相対回転に抗するよう作用する複数の第2スプリングをさらに備え、
前記第1リテーナプレートと前記第2リテーナプレートとの間の相対回転角度が、前記第1相対回転角度より小さい第2相対回転角度より小さいときに、前記第2スプリングが前記第1リテーナプレートおよび前記第2リテーナプレートの相対回転に抗するよう作用し、
前記第1リテーナプレートと前記第2リテーナプレートとの間の相対回転角度が、第2相対回転角度以上でかつ第1相対回転角度以下のときに前記第1スプリングおよび前記第2スプリングの両方が前記第1リテーナプレートおよび前記第2リテーナプレートの相対回転に抗するよう作用する、請求項1記載のロックアップダンパ。
【請求項3】
前記第2リテーナプレートは、円周方向に延びる複数の窓を有し、前記複数の窓の各々に前記第1スプリング保持部および前記第1スプリングが1つずつ位置し、前記第1リテーナプレートと前記第2リテーナプレートとを第1相対回転角度だけ相対回転させたときに、前記第1スプリング保持部の先端部が前記窓の縁に衝突するように構成されている、請求項1記載のロックアップダンパ。
【請求項4】
前記第1リテーナプレートは、メインリテーナプレートとサブリテーナプレートとを含み、前記メインリテーナプレートおよび前記サブリテーナプレートの各々は、少なくとも1つのスプリング保持部を有し、前記メインリテーナプレートのスプリング保持部の先端は、前記回転軸線の方向に沿って前記第2リテーナプレートの一部と重なる部分を有している、請求項1記載のロックアップダンパ。
【請求項5】
前記第1リテーナプレートは、メインリテーナプレートとサブリテーナプレートとを含み、前記メインリテーナプレートおよび前記サブリテーナプレートの各々は、少なくとも1つのスプリング保持部を有し、前記サブリテーナプレートのスプリング保持部の先端は、前記回転軸線の方向に沿って前記第2リテーナプレートの一部と重なる部分を有している、請求項1記載のロックアップダンパ。
【請求項6】
前記サブリテーナプレートは、前記回転軸線の方向に沿って前記メインリテーナプレートよりもエンジンに近い位置に配置されている、請求項4または5記載のロックアップダンパ。
【請求項7】
前記第2リテーナプレートが少なくとも1つのアームを有し、
前記少なくとも1つのアームが、前記回転軸線の方向に沿って前記メインリテーナプレートと前記サブリテーナプレートとの間に配置されており、
前記第1リテーナプレートと前記第2リテーナプレートとを前記第1相対回転角度だけ相対回転させたときに、前記メインリテーナプレートの前記スプリング保持部の先端が前記少なくとも1つのアームに衝突する、請求項4に記載のロックアップダンパ。
【請求項8】
前記第2リテーナプレートが少なくとも1つのアームを有し、
前記少なくとも1つのアームが、前記回転軸線の方向に沿って前記メインリテーナプレートと前記サブリテーナプレートとの間に配置されており、
前記第1リテーナプレートと前記第2リテーナプレートとを前記第1相対回転角度だけ相対回転させたときに、前記サブリテーナプレートの前記スプリング保持部の先端が前記少なくとも1つのアームに衝突する、請求項5に記載のロックアップダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータ用のロックアップダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用トルクコンバータの多くには、トルクをカバーからタービンに直接伝達するためのロックアップ装置が付設されており、ロックアップ装置は、ロックアップクラッチと、ロックアップ時の振動減衰のためのロックアップダンパを有している。ロックアップダンパは、ロックアップクラッチに相対回転不能に接続された入力側プレートと、タービンに相対回転不能に接続された出力側プレートと、入力側プレートと出力側プレートとの間に介在された1組以上のスプリングを有している。
【0003】
ロックアップクラッチが係合すると、ロックアップクラッチを介してカバーとロックアップダンパの入力側プレートが相対回転不能に接続され、カバーの回転トルクが、入力側プレート、スプリング、出力側プレートを順次介してタービンに伝達される。このとき、スプリングに過剰な負荷がかかることを防止するため、入力側プレートと出力側プレートとの相対回転角度が所定の閾値を超えたときに入力側プレートと出力側プレートとのそれ以上の相対回転を防止するためにストッパ構造が設けられている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低コストで製造できる簡潔なストッパ構造を備えたロックアップダンパを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、ロックアップダンパであって、前記ロックアップダンパの回転軸線の周りに相対回転可能に設けられた第1リテーナプレートおよび第2リテーナプレートと、前記第1リテーナプレートと前記第2リテーナプレートとの間に介在して、前記第1リテーナプレートおよび前記第2リテーナプレートの相対回転に抗するよう作用する複数の第1スプリングと、を備え、前記第1リテーナプレートおよび前記第2リテーナプレートの一方が、ロックアップクラッチの出力部に相対回転不能に連結される入力側リテーナプレートであり、他方が、トルクコンバータのタービンに相対回転不能に連結される出力側リテーナプレートであり、前記第1リテーナプレートは、前記複数の第1スプリングの各々を保持する複数の第1スプリング保持部を有し、前記各第1スプリング保持部は、対応する前記第1スプリングの周囲に倣うように湾曲して延びて当該第1スプリングの少なくとも部分的に包囲し、当該第1スプリングの少なくとも第1方向への脱落を防止するように構成されており、前記第1リテーナプレートと前記第2リテーナプレートとを第1相対回転角度だけ相対回転させたときに、前記第1スプリング保持部の先端部が前記第2リテーナプレートの一部に衝突して、前記第1リテーナプレートと前記第2リテーナプレートとの前記第1相対回転角度を超えた相対回転が不能となるように構成されている、ロックアップダンパが提供される。
【発明の効果】
【0007】
上記の実施形態によれば、低コストで製造できる簡潔なストッパ構造を備えたロックアップダンパを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】自動車用の動力伝達装置のトルクコンバータおよびロックアップ装置の周辺の構造を抜き出して示す軸線方向断面図である。
【
図2A】エンジン側から見たロックアップダンパの斜視図である。
【
図2B】
図2Aに示された部品のうち補助リテーナプレートのみを塗り潰して示した図である。
【
図2C】
図2Aに示された部品のうちロックアップクラッチのプレート保持部のみを塗り潰して示した図である。
【
図3A】
図2Aに示したロックアップダンパから補助リテーナプレートおよびプレート保持部を取り除いた状態を示す斜視図である。
【
図3B】
図3Aに示された部品のうち入力側リテーナプレートのみを塗り潰して示した図である。
【
図4A】
図3Aに示したロックアップダンパからさらに入力側リテーナプレートを取り除いた状態を示す斜視図である。
【
図4B】
図4Aに示された部品のうち出力側リテーナプレートのみを塗り潰して示した図である。
【
図5A】
図4Aに示したロックアップダンパからさらに出力側リテーナプレートを取り除いた状態を示す斜視図である。
【
図5B】
図5Aに示された部品のうち外リテーナプレートのみを塗り潰して示した図である。
【
図6】出力側リテーナプレートのスプリング保持部およびその近傍を、副スプリングを取り除いた状態で示した拡大斜視図である。
【
図7】出力側リテーナプレートのスプリング保持部、副スプリングおよびその近傍を示した拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
【0010】
図1は、自動車の動力伝達装置のトルクコンバータ10およびロックアップ装置30の周辺の構造を抜き出して示す軸線方向断面図である。本明細書において「軸線方向」という用語は、特別な断り書きが無い限り、トルクコンバータおよびロックアップ装置の回転軸の方向を意味している。本明細書において「半径方向」という用語は、特別な断り書きが無い限り、トルクコンバータおよびロックアップ装置の回転軸の中心軸Axと直交する方向を意味している。本明細書において「円周」、「円周方向」という用語は、特別な断り書きが無い限り、トルクコンバータおよびロックアップ装置の回転軸の中心軸Axを中心とする円の円周あるいはその方向を意味している。
【0011】
トルクコンバータ10は、カバー(入力側カバー)11と、インペラー12と、タービン13とステータ14とを有している。カバー11は、センターボス15に、溶接等の手段により相対回転不能に結合されている。カバー11には、ドライブプレート取付ボス11Aが設けられている。ドライブプレート取付ボス11Aには、内燃エンジンのクランクシャフト(図示せず)に固定されたドライブプレート(図示せず)が取り付けられている。このドライブプレートを介して、トルクコンバータ10のカバー11に内燃エンジンから回転トルクが入力される。
【0012】
インペラー12の周囲をインペラーシェル16が覆っている。インペラーシェル16は、カバー11に、溶接等の手段により相対回転不能に結合されている。ステータ14は、ワンウエイクラッチ17を介して、固定シャフト18に固定されている。
【0013】
ロックアップ装置30が解放されているとき(ロックアップされていないとき)には、カバー11に入力された回転トルクは、インペラー12、タービン13およびタービンハブ19を介して図示しない変速機(例えば遊星歯車式変速機)の入力軸20に伝達される。このときのインペラー12、タービン13およびステータ14の作用は当該技術分野において周知のため詳細な説明は省略する。
【0014】
なお、
図1における参照符号「ENG」は、その付近にエンジンがあることを意味しており、参照符号「TM」は、その付近に変速機があることを意味している。
【0015】
ロックアップ装置30は、ロックアップクラッチ31と、ロックアップダンパ32とを有している。
【0016】
ロックアップダンパ32は、入力側リテーナプレート40と、出力側リテーナプレート50と、補助リテーナプレート60と、外リテーナプレート70とを有している。
【0017】
各プレート(40,50,60,70)は、単一の金属板材をプレス加工等の金属塑性加工技術により成形することにより形成されている。
【0018】
ロックアップダンパ32は、さらに入力側リテーナプレート40と、出力側リテーナプレート50との間の相対回転に抗するように作用する複数の主スプリング33および複数の副スプリング34を有している。
【0019】
図示された実施形態では、主スプリング33は副スプリング34よりも大きく、ばね定数は小さい。
【0020】
出力側リテーナプレート50、補助リテーナプレート60およびタービン13は、リベット35などの締結部材を介して、タービンハブ19に取り付けられている。従って、出力側リテーナプレート50、補助リテーナプレート60およびタービン13は、互いに相対回転不能である。
【0021】
ロックアップクラッチ31は、カバー11に相対回転不能に結合された入力部311と、入力側リテーナプレート42に相対回転不能に結合された出力部312と、入力部311と出力部312とを互いに押し付けて摩擦係合させる油圧ピストン313と、リターンスプリング314とを有している。ロックアップクラッチ31の動作機序は、当該技術分野において周知であり、説明は省略する。
【0022】
入力部311と出力部312とが摩擦係合すると(ロックアップ状態になると)、カバー11に入力された回転トルクは、ロックアップクラッチ31、入力側リテーナプレート40、主スプリング33、出力側リテーナプレート50およびタービンハブ19を順次経て、変速機(図示せず)の入力軸20に伝達される。
【0023】
エンジンの出力変動あるいは変速機側からのバックトルクの変動に伴い、入力側リテーナプレート40と出力側リテーナプレート50との間の伝達トルクが変動する。主スプリング33は伝達トルクの変動に応じて伸縮し、入力側リテーナプレート40と出力側リテーナプレート50との間に主スプリング33の伸縮量に相応する相対回転が生じる。主スプリング33が伸縮することにより、伝達トルクの変動に伴う動力伝達系の振動が抑制される。
【0024】
主スプリング33が過剰に縮むと、主スプリング33が損傷するおそれがある。このため、入力側リテーナプレート40と出力側リテーナプレート50との間の相対回転角度を制限するためのストッパ構造(詳細後述)が設けられている。
【0025】
次に、ロックアップ装置30の構成について詳述する。
図2A~
図2Cは、
図1の右側(エンジン側)からロックアップ装置30を見た斜視図である。
図2Bおよび
図2Cは、
図2Aに対して特定部品が塗りつぶされている点のみが異なる。
【0026】
図2Aにおいて符号315で示す部材は、ロックアップクラッチ31の出力部312を構成するプレート保持部である。
図2Cでは、プレート保持部315が塗りつぶされて表示されている。プレート保持部315には、クラッチプレートを軸線方向に案内するスプライン状の凹凸が形成されている。
【0027】
図2Bでは、補助リテーナプレート60が、塗りつぶされて表示されている。
【0028】
補助リテーナプレート60の最外周部には、円周を4等分した位置に4つのスプリング保持部61が形成されている(
図1も参照)。各スプリング保持部61に1つの副スプリング34が保持されている。スプリング保持部61は、副スプリング34がエンジン側(軸線方向)および半径方向内側に脱落しないように、副スプリング34の外周の少なくとも一部を包囲している。
【0029】
スプリング保持部61は、プレス加工、詳細には、切り曲げ加工、あるいは、曲げ部穴抜きおよび/または輪郭穴抜きと曲げ加工の組み合わせ等の加工技術により形成することができる。図示例では、曲げ部穴抜きおよび輪郭穴抜きの後に曲げ加工を行うことによりスプリング保持部61が形成されている。
【0030】
図3Aおよび
図3Bは、
図2Aの状態からプレート保持部315および補助リテーナプレート60を除去したロックアップ装置30の状態を示す斜視図である。
図3Bは入力側リテーナプレート40が塗りつぶされている点のみが、
図3Aと異なる。
【0031】
入力側リテーナプレート40は、内側リング部分41と、外側リング部分42と、複数(4つ)のアーム部分43とを有する。アーム部分43は、円周を4等分した位置にそれぞれ設けられている。アーム部分43は、半径方向に延びて内側リング部分41と外側リング部分42とを連結している。円周方向に隣接する2つのアーム部分43の間に窓44が形成されている。窓44は4つある。2つのアーム部分43は、1つの窓44の縁となる。アーム部分43は、前述したストッパ構造の一部をなす。
【0032】
図1に示すように、入力側リテーナプレート40の内側リング部分41の内周縁は、補助リテーナプレート60により支持されている(但し固定されてはいない)。
【0033】
入力側リテーナプレート40の外側リング部分42は、円周を4等分した位置にそれぞれ設けられた4つのスプリング保持部421と、円周を4等分した位置にそれぞれ設けられた4つのスプリング受け部422とを有している。
【0034】
各スプリング保持部421は、2つの主スプリング33を保持している。各スプリング保持部421は、2つの主スプリング33が半径方向内側およびエンジン側に脱落しないように当該2つの主スプリング33を部分的に包囲している。
【0035】
各スプリング受け部422の両端面423は、当該スプリング受け部422の円周方向両側にある主スプリング33を受けるスプリングシート(ばね座)となっている。
【0036】
図4Aおよび
図4Bは、
図3Aの状態から入力側リテーナプレート40を除去したロックアップ装置30の状態を示す斜視図である。
図4Bは出力側リテーナプレート50が塗りつぶされている点のみが、
図4Aと異なる。
【0037】
出力側リテーナプレート50の半径方向略中央部には、円周を4等分した位置に4つのスプリング保持部51が形成されている。スプリング保持部51は、副スプリング34が半径方向外側および内側および変速機側(第1の軸線方向)に脱落しないように、副スプリング34の外周の少なくとも一部を包囲している。
【0038】
スプリング保持部51は、プレス加工、詳細には、切り曲げ加工、あるいは、曲げ部穴抜きおよび/または輪郭穴抜きと曲げ加工の組み合わせ等の加工技術により形成することができる。
【0039】
図6および
図7にはスプリング保持部51が拡大して示されており、当業者であれば、曲げ部穴抜きおよび輪郭穴抜きの後に曲げ加工を行うことによりスプリング保持部51が形成されていることを理解することができる。
【0040】
スプリング保持部51を形成した結果として、出力側リテーナプレート50には窓52が形成されており、窓52の半径方向に延びる縁53は、副スプリング34の両端を受けるスプリングシートとなっている。
【0041】
出力側リテーナプレート50の半径方向外周部には、円周を4等分した位置に4つのスプリング受け部54が形成されている。各スプリング受け部54の円周方向両端は、その円周方向両側にある主スプリング33を受けるスプリングシート541となっている。
【0042】
図5Aおよび
図5Bは、
図4Aの状態から出力側リテーナプレート50を除去したロックアップ装置30の状態を示す斜視図である。
図5Bは外リテーナプレート70が塗りつぶされている点のみが、
図5Aと異なる。
【0043】
外リテーナプレート70は、
図1において参照符号46で示すところで入力側リテーナプレート40により支持されており、入力側リテーナプレート40対して回転可能である。外リテーナプレート70は、外リテーナプレート70の全周に亘って延びるスプリング保持部71と、円周を4等分した位置にそれぞれ設けられた4つのスプリング受け部72とを有している。
【0044】
スプリング保持部71は、主スプリング33が半径方向外側、エンジン側(軸線方向)および変速機側(軸線方向)に脱落しないように、主スプリング33の外周の少なくとも一部を包囲している。
【0045】
各スプリング受け部72は、入力側リテーナプレート40の互いに円周方向に隣接する2つのスプリング受け部422の中間地点に位置している。各スプリング受け部72の円周方向両端は、その円周方向両側にある主スプリング33を受けるスプリングシート721となっている。
【0046】
次にロックアップ装置30の作用について説明する。
【0047】
前述したようにロックアップ装置30の入力側から出力側に伝達されるトルクが増大すると、入力側リテーナプレート40と出力側リテーナプレート50との間の相対変位角度が増大する。出力側から入力側に逆トルクが伝達された場合も同様である。このとき、円周方向に隣接する2つのスプリング受け部(一方は入力側リテーナプレート40のスプリング受け部422、他方は出力側リテーナプレート50のスプリング受け部54)の間で、2つの主スプリング33が圧縮されてゆく。このとき、円周方向に隣接する2つのスプリング受け部422の間にある外リテーナプレート70のスプリング受け部72が2つの主スプリング33が均一に同じ量だけ圧縮されることを補助する。
【0048】
入力側リテーナプレート40と出力側リテーナプレート50との間の相対変位角度が増大してゆくと、出力側リテーナプレート50のスプリング保持部51の先端部55が入力側リテーナプレート40のアーム部分43(すなわち窓44の縁)と衝突する(これについては特に
図3Bにおける矢印Rを参照されたい)。これにより、入力側リテーナプレート40と出力側リテーナプレート50との間の相対回転が停止する。つまり、先端部55およびアーム部分43は、入力側リテーナプレート40と出力側リテーナプレート50との間の相対回転角度を制限するためのストッパ構造として機能する。このストッパ構造により、主スプリング33の過剰変位による損傷を防止することができる。
【0049】
なお、出力側リテーナプレート50のスプリング保持部51の円周方向長さは副スプリング34の長さより短い(
図7を参照)。また、スプリング保持部51により保持されているときの副スプリング34の長さは、対向する縁53同士の距離と同じである。副スプリング34はわずかに圧縮された状態で対向する縁53同士の間にはめ込まれているか、あるいは副スプリング34の自由長が対向する縁53同士の距離と実質的に同じである。
【0050】
このため、出力側リテーナプレート50のスプリング保持部51の先端部55が入力側リテーナプレート40のアーム部分43に衝突する直前に、副スプリング34が入力側リテーナプレート40のアーム部分43に接触する。つまり、副スプリング34がやや圧縮された後に先端部55とアーム部分43とが衝突するようになっている。すなわち、衝突直前において、副スプリング34も、入力側リテーナプレート40および出力側リテーナプレート50の相対回転に抗するよう作用する。
【0051】
衝突直前に副スプリング34が圧縮されることにより、衝突直前における入力側リテーナプレート40と出力側リテーナプレート50との間に介在する弾性体のばね定数が大きく増大したことと同じ効果が得られる。これにより、先端部55とアーム部分43との衝突が穏やかになり、先端部55またはアーム部分43の損傷が防止される。副スプリング34のばね定数は、主スプリング33のばね定数よりも十分に大きいことが好ましい。
【0052】
上記実施形態によれば、入力側リテーナプレート40の一部であるアーム部分43と、出力側リテーナプレート50の一部であるスプリング保持部51の先端部55とが、ストッパ構造を構成している。つまり、ストッパ構造を構成するために、入力側リテーナプレート40および出力側リテーナプレート50とは別個の部材を入力側リテーナプレート40および出力側リテーナプレート50に接合していない。このため、ストッパ構造を廉価に形成することができる。
【0053】
また、出力側リテーナプレート50側のストッパ構造が、スプリング保持部51の先端部55により構成されている。つまり、スプリング保持部51を形成するための曲げ加工(プレス加工)により、ストッパ構造を形成することができる。スプリング保持部51を形成するための工程と、ストッパ構造を形成するための工程とを別工程にする必要がない。この観点からも、ストッパ構造を廉価に形成することができる。
【0054】
図示された実施形態では、出力側リテーナプレート50にスプリング保持部兼ストッパ構造(51,55)が設けられていたが、これに代えて、補助リテーナプレート60にスプリング保持部兼ストッパ構造が設けてもよい。この場合、
図1に示すスプリング保持部51の先端部を入力側リテーナプレート40のアーム部分34に重ならないように短くし、その代わりに、補助リテーナプレート60のスプリング保持部61を小スプリング43の外周に倣わせつつ先端部がアーム部分34に重なる位置まで延長すればよい。
【0055】
なお、図示された構造において、リベット35により相対変位不能に結合された出力側リテーナプレート50および補助リテーナプレート60の組立体を一つのリテーナプレート(リテーナプレート組立体)と見なし、当該一つのリテーナプレート(50+60)の出力側リテーナプレート50をメインリテーナプレート(メインリテーナプレート部分)、補助リテーナプレート60をサブリテーナプレート(サブリテーナプレート部分)と見なしてもよい。
【0056】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。スプリングの外周を部分的に包囲するスプリング保持部の先端部によりストッパ構造を形成する構成は、大スプリング用のスプリング保持部に対しても適用可能であるし、1種類のスプリングしか用いられないロックアップダンパにおけるスプリング用のスプリング保持部に対しても適用可能である。これらの場合も、ストッパ構造を廉価に形成することができる。
【0057】
上記実施形態においては、ロックアップダンパ32は幾何学的に実質的に4回対称の回転対称の構造を有しているが、これに限定されるものではなく、4回対称以外のn回対称(360/n度回転させる度に自らと重なる構造を意味する。但しnは2以上の自然数である。)の構造を有していてもよい。
【符号の説明】
【0058】
32 ロックアップダンパ
33 第2スプリング(主スプリング)
34 第1スプリング(副スプリング)
40 リテーナプレート(入力側)
43 アーム部分43(窓44の縁)
50 リテーナプレート(出力側)、メインリテーナプレート
51 スプリング保持部
55 スプリング保持部の先端部
60 リテーナプレート(出力側)、サブリテーナプレート
61 スプリング保持部