(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169293
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】堆肥の製造方法
(51)【国際特許分類】
C05F 7/00 20060101AFI20221101BHJP
C05F 17/10 20200101ALI20221101BHJP
C02F 11/02 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C05F7/00 ZAB
C05F17/10
C02F11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075235
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】521183752
【氏名又は名称】双葉三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】中祖 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】酒井 二三男
【テーマコード(参考)】
4D059
4H061
【Fターム(参考)】
4D059AA03
4D059AA07
4D059AA08
4D059AA10
4D059BA08
4D059BA60
4D059BK11
4D059CC01
4D059EB01
4D059EB15
4D059EB20
4H061AA02
4H061CC51
4H061EE03
4H061EE66
4H061GG41
4H061GG43
4H061GG49
4H061LL30
(57)【要約】
【課題】簡易でありながら均一に発酵を進行可能な堆肥の製造方法を実現する。
【解決手段】堆肥の製造方法であって、下水汚泥を含む原料と、好気性微生物を含む微生物含有物とを混合して混合物(10)を得た後、当該混合物の外表面を透湿性シート(20)により覆う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥を含む原料と、好気性微生物を含む微生物含有物とを混合して混合物を得た後、当該混合物の外表面を透湿性シートにより覆うことを特徴とする、堆肥の製造方法。
【請求項2】
前記原料の少なくとも50重量部が下水汚泥であり、
前記微生物含有物は、前記混合物が65重量%以下の含水率となるまで発酵した戻し堆肥であり、
前記混合物は、前記原料と前記戻し堆肥との重量比率が1:1から1:8の間であることを特徴とする、請求項1に記載の堆肥の製造方法。
【請求項3】
前記透湿性シートは、厚さ0.1mm以上10mm未満、初期透湿速度3000g/m2・24h以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の堆肥の製造方法。
【請求項4】
前記混合物を、体積が5000cm3以下である複数の塊状物への分割を行い、
前記分割は、前記塊状物全体の50重量部以上について、体積が100cm3以上となるように行うことを特徴とする、請求項1から3の何れか1項に記載の堆肥の製造方法。
【請求項5】
前記混合物1m3に対して、0.01m3/min以上1.0m3/min未満となるように空気を供給することを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載の堆肥の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透湿性シートを用いた堆肥の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃棄物の堆肥化は、廃棄物の資源化、減容化および安定化等が可能となる重要な廃棄物処理技術である。有機性廃棄物の中で下水汚泥は、有機物および水を含む泥状の物質であり、下水処理の過程で発生する。下水汚泥は、従来から焼却または埋め立てによる廃棄処理が行われてきたが、作物の育成に必要な養分を豊富に含んでいることから、堆肥として再利用するための提案が多くなされている。
【0003】
有機性廃棄物は、好気性の条件下で微生物により分解される。しかし、空気量が不足した場合には嫌気性の発酵が進行し、分解効率が悪くなるだけでなくアンモニアが大量に生じて悪臭の原因となる。そのため、有機性廃棄物の下部から空気を供給する操作および切り返しと呼ばれる撹拌操作を頻繁に行い、有機性廃棄物と空気との接触を促す必要がある。
【0004】
また、微生物による分解を効率的に進めるため、微生物が多く含まれる、発酵が十分に進んだ堆肥を戻し堆肥として利用する方法が採用されることも多い。すなわち、下水汚泥と戻し堆肥とを混合した混合物を発酵させることで、新たな堆肥を効率的に製造できる。
【0005】
下水汚泥の排出量は、近年の下水処理量の増加に伴って増えてきている。下水汚泥が増加するにしたがって、これまでよりも短期間で効率的に、安定した品質の堆肥を製造する技術が求められている。
【0006】
下水汚泥を好気発酵させる技術としては、特許文献1には、有機性廃棄物の堆積物を撹拌して、特定の空間率を有する状態で発酵させる有機性廃棄物の処理方法が開示されている。また特許文献2には、堆肥原料の外表面を高通気性の保湿材で覆い、堆肥原料の下部または内部に空気を供給する堆肥の製造方法が開示されている。さらに、特許文献3には、堆積された堆肥原料の下部から空気を供給し、上部側に通気させる有機質材料発酵処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-284608号公報
【特許文献2】特開2006-1770号公報
【特許文献3】特開2012-20024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
下水汚泥の堆肥化では、汚泥由来の雑草、害虫または病原菌の発生および増殖を防ぐために、堆肥化時の発酵温度について60℃以上を少なくとも2日以上維持する必要がある。一般財団法人日本土壌協会の食品リサイクル肥料認証制度実施要項では、「製造時に表面から30cm層の温度が60℃以上を連続する7日間以上保持されて製造されたものであること、または肥料製造時に発酵設備内混合物の温度が65℃以上で48時間以上保持されて製造されたものであること」と規定されている。
【0009】
また、下水汚泥の堆肥化では、好気的な条件下で均一に発酵を進行させるために空気を連続供給することがある。その場合、空気の送風量、下水汚泥に含まれる栄養素および水の量ならびに発酵温度等の条件を最適化することが必要である。水分量および含有物が一定ではない下水汚泥について、特許文献1に記載されているような特定の空間率を得るための条件設定は、極めて難しい。
【0010】
また、特許文献2に記載の方法では、保温材として使用される発泡スチロールビーズ等を、切り返しの実施時または製造後の堆肥から分離する必要があり、特許文献3に記載の方法では、特殊な発酵処理装置が必要になる。
【0011】
本発明の一態様は、簡易でありながら、均一に発酵を進行可能な堆肥の製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る堆肥の製造方法は、下水汚泥を含む原料と、好気性微生物を含む微生物含有物とを混合して混合物を得た後、当該混合物の外表面を透湿性シートにより覆う。
【0013】
本発明の一態様に係る堆肥の製造方法は、前記原料の少なくとも50重量部が下水汚泥であり、前記微生物含有物は、前記混合物が65重量%以下の含水率となるまで発酵した戻し堆肥であり、前記混合物は、前記原料と前記戻し堆肥との重量比率が1:1から1:8の間であってもよい。
【0014】
本発明の一態様に係る堆肥の製造方法は、前記透湿性シートは、厚さ0.1mm以上10mm未満、初期透湿速度3000g/m2・24h以上であってもよい。
【0015】
本発明の一態様に係る堆肥の製造方法は、前記混合物を、体積が5000cm3以下である複数の塊状物への分割を行い、前記分割は、前記塊状物全体の50重量部以上について、体積が100cm3以上となるように行ってもよい。
【0016】
本発明の一態様に係る堆肥の製造方法は、前記混合物1m3に対して、0.01m3/min以上1.0m3/min未満となるように空気を供給してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、簡易でありながら、均一に発酵を進行可能な堆肥の製造方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態に係る堆肥の製造方法において、原料混合物に透湿性シートが覆いかぶさっている状態を模式的に示す断面図である。
【
図2】一実施形態に係る堆肥の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】比較例における、発酵温度の経時的な変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔本発明の概要〕
本発明の一実施形態に係る堆肥の製造方法は、透湿性シートにより、下水汚泥を含む堆肥原料(原料)と微生物含有物との混合物である原料混合物を覆う工程を含む。本発明者らは、鋭意研究の結果、下水汚泥を含む堆肥原料の堆肥化において既存の設備の変更または手直しの必要がなく、発酵中の堆肥原料の含水率および温度を最適な条件に制御して、簡易かつ効率的に発酵を進める方法を見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明の一実施形態は、堆肥原料を発酵させることにより堆肥を製造する方法において、原料混合物の外表面を透湿性シートで覆った状態で、原料混合物の発酵を進行させることを特徴とする。
【0020】
このような堆肥の製造方法によれば、原料混合物の全体で発酵が均一に進みやすく、部分ごとの発酵の進捗の差による腐熟度のばらつきの少ない堆肥を製造できる。透湿性シートは、発酵槽に堆積した原料混合物または山積みした原料混合物の上からかけて覆うだけでよい。また、原料混合物の発酵が進んだ後は、透湿性シートを原料混合物の上から容易に取り外すことができる。使用後の透湿性シートは再利用できる。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、特別な設備を必要とせずに効率的な堆肥の製造が可能になり、さらに埋め立てられる廃棄物の削減、土地の劣化の抑制に貢献する。これにより、本発明の一実施形態は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
【0022】
以下に、このような本発明の一実施形態に係る堆肥の製造方法について、
図1および
図2を参照して説明する。
【0023】
〔堆肥の製造方法〕
図1は、原料混合物10に透湿性シート20が覆いかぶさっている状態を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る堆肥の製造方法では、発酵槽1に堆積した原料混合物10の外表面を透湿性シート20により覆った状態で、原料混合物10を発酵させる。
【0024】
(発酵槽)
発酵槽1は、原料混合物10の発酵を行うための、開放型の発酵槽である。発酵槽1は、上部が開放している。また、側面における一面は開放しており、側面の他の部分には側壁が設けられている。
図1は、側面における開放した一面と平行な断面を示している。発酵槽1では、上部または開放した一面から原料混合物の投入、切り返しおよび搬出等を行ってよい。「切り返し」とは、発酵槽1に堆積した原料混合物10を、ショベルまたは重機等を用いて、攪拌または別の発酵槽への移動等を行うことで、原料混合物10と空気との接触を促進する操作である。
【0025】
発酵槽1の床部には、原料混合物10に空気を供給する給気パイプ30が設置されている。
図1では、3本の給気パイプ30がそれぞれ、紙面向かって手前側から奥側に向かって延びている。給気パイプ30は、例えばプラスチック製のパイプである。給気パイプ30の側面には、空気を通す貫通孔が複数形成されている。給気パイプ30は給気ブロア(不図示)と接続しており、給気ブロアから供給される空気を、前記貫通孔を通じて原料混合物10に供給する。
【0026】
給気パイプ30は、発酵槽1の床部または側壁の少なくともいずれかに設置されていることが好ましい。すなわち、給気パイプ30は、発酵槽1において原料混合物10と接する位置に設置されていることが好ましい。また、給気パイプ30はその一部が、発酵槽1の床部または側壁から突出するように設置されていてもよい。この場合、給気パイプ30の突出した部分から原料混合物10の内部に空気を供給できる。
【0027】
なお、原料混合物10に空気を供給するのは、給気パイプ30に限定されない。例えば、発酵槽1の床部または側壁の一部に通気可能な部分が形成されており、当該部分から原料混合物10に空気が供給されてもよい。通気可能な部分とは、例えば、貫通孔であってもよく、メッシュ状の部分であってもよい。
【0028】
また、原料混合物10の発酵が行われるのは、発酵槽1に限定されない。原料混合物10の発酵は、例えば、平地に山積みした状態で行われてもよい。
【0029】
(原料混合物)
原料混合物10は、下水汚泥を含む原料である堆肥原料と、微生物含有物との混合物である。堆肥原料は、下水汚泥を50重量部以上含むものであってよい。例えば、堆肥原料は、下水汚泥に加えて、茶かす、食品汚泥、食品残渣、動植物性残渣および廃油等の有機性廃棄物を含んでいてもよい。
【0030】
下水汚泥は一般的に、含水率が70重量%以上98重量%以下程度である。このような下水汚泥を含む堆肥原料は、微生物含有物と混合されて発酵が行われることで、含水率が減少していく。含水率が高い下水汚泥を含む堆肥原料を透湿性シート20により覆っても、水分の放散には問題なく含水率の減少が十分に進行することは、本発明者らによる新規な知見である。
【0031】
原料混合物10の発酵では、含水率が少なすぎると好気性微生物の活性が低下し、多すぎると嫌気発酵が進行しやすくなる。嫌気発酵が優位となることは、悪臭等の原因となるため好ましくない。発酵後の原料混合物10である堆肥は、含水率が65重量%以下であり、より好ましくは含水率が45重量%以下である。
【0032】
微生物含有物は、堆肥原料の好気発酵を行う好気性微生物が含まれる。好気性微生物の種類は特に限定されないが、例えば、酵母菌、子嚢菌、バチラス族桿菌、連鎖球菌、ブドウ状球菌およびセルロース分解菌等の細菌ならびにワムシ等の原生動物等が挙げられる。微生物含有物には、このような好気性微生物が複数種類含まれていることが好ましいが、単一の好気性微生物のみが含まれていてもよい。
【0033】
微生物含有物としては、原料混合物10の発酵により得られる戻し堆肥を用いることが好ましい。戻し堆肥は、原料混合物10の発酵が完了した製造後の堆肥であってもよく、堆肥化が進行中の原料混合物10であってもよい。戻し堆肥として、堆肥化が進行中の原料混合物10を用いる場合、当該原料混合物10は、含水率が65重量%以下となるまで発酵が進行した状態であることが好ましい。このような状態の原料混合物10としては、1週間以上発酵を行った原料混合物10であることが好ましい。
【0034】
また、微生物含有物は、下水汚泥を含まない原料に由来する堆肥または実験室で培養した好気性微生物を含む培地等であってもよい。
【0035】
微生物含有物として戻し堆肥を用いる場合、原料混合物10は、堆肥原料と戻し堆肥との重量比率が、1:1から1:8の間であることが好ましく、1:2から1:6の間であることがより好ましい。原料混合物10における戻し堆肥の重量比率が少なすぎる(例えば、堆肥原料よりも少ない)場合、発酵が進行しにくい。原料混合物10に、発酵に好適な量の好気性微生物が含まれないためである。また、原料混合物10における戻し堆肥の重量比率が多すぎる(例えば、堆肥原料の8倍を超える)場合も、やはり発酵が進行しにくい。発酵の進行により発生する発酵熱は、堆肥原料から発生する。しかし、原料混合物10における堆肥原料の重量比率が過度に低いと、十分な発酵熱の発生が困難となる。また、堆肥原料の堆肥化効率が低下してしまうため、堆肥の製造性の観点からも好ましくない。
【0036】
なお、微生物含有物として戻し堆肥以外を用いる場合に、堆肥原料と微生物含有物との重量比率は、発酵に好適な量の好気性微生物が得られるように適宜最適な値を選択してよい。微生物含有物の種類ごとに、堆肥原料と微生物含有物との好適な重量比率は、当業者であれば簡易な予備検討により容易に決定可能である。
【0037】
(透湿性シート)
透湿性シート20は、原料混合物10を覆うためのシート部材である。透湿性シート20は、防水性および透湿性を有している。
【0038】
透湿性シート20は、初期透湿速度が3000g/m2・24h以上であることが好ましく、6000g/m2・24h以上であることがより好ましく、7000g/m2・24h以上であることがより好ましい。ここでいう初期透湿速度とは、JIS L 1099(B-1法)に記載の方法で測定した、使用前のシートの透湿速度である。初期透湿速度が3000g/m2・24hよりも低い場合には、発酵時に発生する水蒸気が透湿性シート20の内面に残って、再凝集による結露によって含水率が低下しにくくなることで発酵が阻害される。
【0039】
透湿性シート20は、通気性を有していてもよい。透湿性シート20の通気性が低い場合、原料混合物10が好気発酵しにくくなり、嫌気発酵が優位となる場合がある。また、通気性が高すぎると、保温効果が低減してしまい、発酵熱が外気温により冷却されてしまう。
【0040】
透湿性シート20は、初期耐水圧が2000mmH2O(20kPa)以上であることが好ましく、5000mmH2O(49kPa)以上であることがより好ましく、10000mmH2O(98kPa)以上であることがより好ましい。ここでいう初期耐水圧とは、JIS L1092Bに記載の方法で測定した、使用前のシートの耐水圧である。
【0041】
このような透湿性シート20であれば、透湿性シート20の外側からの、原料混合物10への雨水等の浸入を防止できる。したがって、発酵槽1に屋根等を設けなくても、堆肥の製造が可能となる。また、発酵槽1に屋根を設ける場合でも、当該屋根と発酵槽1との間に、開放窓等の開放部を広く設けることができる。このような開放部から風雨が吹き込んだとしても、透湿性シート20により、原料混合物10への雨水の浸入を防止できるためである。したがって、原料混合物10を、十分に風通しが良好な条件下で発酵させることができる。
【0042】
透湿性シート20は、厚さが0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることがより好ましい。このような厚さであれば、透湿性シート20による原料混合物10の保温効果が得られる。ここで、透湿性シート20による「保温効果」とは、(1)透湿性シート20が覆う原料混合物10の熱を逃さない効果、および(2)外気温の影響を透湿性シート20が覆う原料混合物10に及ぼさない効果、の両方を示す。
【0043】
透湿性シート20の厚さが薄くなりすぎる場合、保温効果が十分に得られない。また、透湿性シート20により原料混合物10を覆う作業中または取り除く作業中に、透湿性シート20が破損しやすくなる。破損した透湿性シート20は再利用が困難であるため、好ましくない。
【0044】
透湿性シート20の操作性の観点から、透湿性シート20の厚さは、10mm未満であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、2.5mm以下であることがより好ましい。このような厚さであれば、透湿性シート20の重量による操作性の低減を防止できる。透湿性シート20が過度に厚くないことは、重量が上述の初期透湿速度および通気性を十分に確保する観点からも好ましい。
【0045】
上述の特性を有する透湿性シート20は、例えば、一般的に市販されているものを使用してよい。
【0046】
(製造方法の一例)
以下に、本実施形態に係る堆肥の製造方法の一例について、
図2を用いて説明する。
図2に示すように、まず、堆肥原料と戻し堆肥とを混合して、原料混合物10を得る(S1)。次に、原料混合物10を、破砕機等を用いて、体積が5000cm
3以下である複数の塊状物となるように破砕(分割)する(S2)。
【0047】
このように、原料混合物10を破砕することで、堆肥原料と戻し堆肥との混合が促進され、混合状態をより均一にできる。また、後の切り返し等の作業性が向上する。さらに、各塊状物の間には空間が形成される。当該空間により原料混合物10の内部まで空気が入りやすくなるため、好気発酵が進行しやすい状態とすることができる。また、体積が5000cm3以下となるように破砕を行うため、過度に大きな塊状物が残存しない。したがって、原料混合物10全体でおおよそ均一に、好気発酵が進行しやすい状態とすることができる。
【0048】
また破砕は、破砕後に得られる塊状物全体の50重量部以上について、体積が100cm3となるように行うことが好ましい。このような構成によれば、破砕後の原料混合物10には、微小な塊状物が多く含まれることがない。そのため、各塊状物の間の空間が適度に形成されるため、好気発酵が進行しやすい状態となりやすい。
【0049】
なお、原料混合物10を複数の塊状物に分割する方法は破砕に限られず、例えば、ペレット状に成型することで行われてもよい。また、原料混合物10に大きな凝集物が存在しない場合等、原料混合物10の状態によっては、塊状物への分割は行われなくてもよい。
【0050】
次に、原料混合物10の外表面を透湿性シート20により覆う(S3)。原料混合物10の外表面とは、発酵槽1に原料混合物10を堆積させた状態において、発酵槽1の側壁および床部と接触していない表面である。したがって、例えば、発酵槽1に堆積した原料混合物10の上から、原料混合物10を覆うことが可能な大きさの透湿性シート20をかぶせればよい。また、透湿性シート20は、原料混合物10を直接覆うだけでなく、発酵槽1に蓋をするように被せて使用してもよい。
【0051】
次に、原料混合物10を静置した状態で、空気を供給しながら好ましくは1週間以上の発酵を行う(S4)。原料混合物10の外表面を透湿性シート20で覆ってから、24時間から72時間程度で、発酵熱によって原料混合物10の温度が上昇を始める。食品リサイクル肥料認証基準では、安全に使用可能な堆肥と認められるには、発酵中の堆肥原料を60℃以上で7日間以上または65℃以上で48時間以上保持することが求められている。これによれば、堆肥原料に含まれる病原菌、害虫および雑草の種等が死滅する。発酵による堆肥原料の温度が十分に上昇しない場合、雑菌および害虫の発生等が生じるため、堆肥として使用できなくなる。本実施形態に係る堆肥の製造方法においても、原則、原料混合物10の温度が発酵によって60℃以上になる。
【0052】
また、原料混合物10の好気発酵には空気の存在が重要である。そのため、原料混合物10の下部または内部より空気を供給することが好ましい。発酵槽1では、床部に設置した複数の給気パイプ30から、原料混合物10に空気を供給する。原料混合物10への空気の供給量は、原料混合物1m3に対して0.01m3/min以上1.0m3/min未満とすることが好ましく、0.05m3/min以上0.5m3/min以下とすることがより好ましい。空気の供給量が少なすぎると嫌気発酵が優位となってしまい、多すぎると原料混合物10の温度が低下して発酵が遅くなってしまう。
【0053】
なお、空気の供給量は外気温によって調整することが好ましい。冬場等、外気温が低いと供給する空気の温度も低くなるため、空気の供給量が多いほど原料混合物10の温度が下がって発酵が遅くなってしまう。なお、供給する空気を予め温める等、空気の供給量ではなく、温度を調整してもよい。
【0054】
また、従来の堆肥の製造方法では、堆肥原料または原料混合物の切り返しを、数日間隔で実施するのが一般的である。本実施形態に係る堆肥の製造方法によれば、原料混合物10を透湿性シート20により覆った後は、少なくとも1週間は切り返しを実施しなくてもよい。透湿性シート20で原料混合物1を覆うことによって、空気が片流れを起こしにくく原料混合物10全体に行き渡り、発生する蒸気の効果的な放散と保温効果とが両立する。これにより、原料混合物10の発酵が全体で均一に進みやすいためである。
【0055】
原料混合物10の温度が65℃以上となってから48時間以上経過後に温度が降下したら、透湿性シート20を原料混合物10から取り外してよい。この場合、透湿性シート20をかぶせてから1週間が経過していなくてもよい。また、原料混合物10の温度が65℃以上で48時間維持されなかった場合でも、60℃以上で7日間維持されればよい。また、温度の降下が遅れた場合であっても、透湿性シート20をかぶせてから2週間経過した時点で、透湿性シート20を原料混合物10から取り外してよい。透湿性シート20を取り外すことで、発酵が進行した原料混合物10の乾燥を促進できる。
【0056】
透湿性シートを取り外した後は、切り返しを行い、さらに原料混合物10の腐熟度を上げるための熟成である二次発酵を継続することが好ましい(S5)。また、二次発酵の開始後も1週間に1度程度は、切り返しを行うのが好ましい(S6)。二次発酵以降の熟成は通常1週間から2週間程度で完了し、新しい堆肥が得られる。発酵の進行度合いが遅い原料混合物10を二次発酵によって熟成させる場合には、4週間程度の時間が必要となってもよい。
【0057】
原料混合物10の熟成が完了したか否かは、例えば、原料混合物10の含水率が45重量%以下となるか、または、温度が40℃以上に上がらなくなるか等の指標により判断してよい。なお、S1の工程で堆肥原料と混合する戻し堆肥としては、S4の工程が完了した時点の原料混合物10を用いてもよいし、S5またはS6の工程中の原料混合物10または熟成完了後の堆肥を用いてもよい。
【実施例0058】
本発明の一実施例について以下に説明するが、本発明の範囲は以下に示す各実施例に限定されるものではない。
【0059】
<実製造規模での検討>
(条件)
下記表1に、実施例1~8および比較例1~4の実験条件を示す。いずれの条件でも、堆肥原料として下水汚泥を用い、これを戻し堆肥とを混合して原料混合物を調製した。戻し堆肥としては、本発明の一実施形態に係る堆肥の製造方法により製造された堆肥を用いた。
【0060】
原料混合物における下水汚泥と戻し堆肥との重量比率は、複数の条件を設定した。実施例1~8および比較例1、2、4については、堆肥原料と戻し堆肥との重量比率を1:1から1:8の間としたのに対し、比較例3については当該重量比率を1:10とした。得られた各原料混合物について、それぞれ仕込み量15~18トンの実製造規模により発酵実験を行った。
【0061】
実施例1~8および比較例3では、JIS L 1099(B-1法)に記載の方法で測定した初期透湿速度が3000g/m2・24h以上の、市販の透湿性シートにより原料混合物の外表面を覆った。比較例1では、原料混合物をシートで被わずに、外表面が露出した状態で発酵を行った。比較例2では、非透湿性のポリエチレン製シートにより原料混合物の外表面を覆った。比較例4では、初期透湿速度が2000g/m2・24hの、市販の透湿性シートにより原料混合物の外表面を覆った。これらのシートについてはいずれも、厚さが0.1mm以上10mm未満であり、2000mmH2O(20kPa)以上の初期耐水圧を有するものを用いた。
【0062】
実施例1~8および比較例3、4では、発酵槽の下部から空気を供給した。供給する空気量は、0.01m3/min以上1.0m3/min未満の範囲で変更した。
【0063】
原料混合物は、実施例4では平地に直置きで山積みした状態で、発酵実験を行った。その他の実施例および比較例はいずれも、発酵槽を用いて発酵実験を行った。
【0064】
【0065】
(結果)
各条件で、堆積または山積みした原料混合物に温度計を差し込み、原料混合物の中心部の温度を毎日測定した。発酵開始から1週間の間に到達した最高温度(最高到達温度)が65℃以上となった場合に、発酵が良好に進行していると評価した。
【0066】
本発明の一実施形態に係る方法を採用した、実施例1~8の条件ではいずれも、最高到達温度が65℃以上となった。すなわち、各実施例に係る製造条件は、堆肥の製造に好適であることが示された。
【0067】
一方、比較例1~4の条件では、最高到達温度が60℃未満であった。比較例1では、透湿性シートにより原料混合物を覆っていなかったため、発酵が均一に進行できなかったと考えられる。比較例2は、非透湿性のシートにより原料混合物を覆ったため、原料混合物から水分が十分に蒸発できなかったと考えられる。比較例3は、原料混合物中における堆肥原料の割合が少なすぎるため、発酵熱が十分に発生しなかったと考えられる。比較例4では、シートの透湿性が十分ではないため、比較例2と同様に原料混合物から水分が十分に蒸発できなかったと考えられる。
【0068】
<小規模での検討>
実製造規模の検討に加え、植木鉢を用いた小規模での検討を比較例5として実施した。小規模での検討により、経時的な温度測定の頻度を増やして、透湿性シートがない状態での原料混合物の温度変化を観察することを目的とした。
【0069】
比較例5では、27Lの植木鉢に下水汚泥0.4kgと戻し堆肥2.4kgとを混合した原料混合物を仕込んだ。原料混合物をシートにより覆わずに、1週間発酵を行った。植木鉢は2つ準備し、n=2により実験を行った。
【0070】
図3に、原料混合物の中心部における温度の経時的な測定結果を示す。
図3に示すように、2つの植木鉢のいずれにおいても、最高到達温度は60℃に留まっていた。また、60℃に達した状態は48時間続かず、60℃到達後速やかに温度が降下していた。食品リサイクル肥料認証基準における、発酵中の温度が65℃以上で48時間以上保持されるという基準には遠く及ばない結果であった。
【0071】
なお、実製造規模での検討において示した通り、透湿性シートを用いた場合には、各実施例に示すように最高到達温度は70℃以上となる。このように、本発明の一実施形態に係る製造方法は、透湿性シートにより原料混合物を覆うという極めて簡便な方法であるにも関わらず、食品リサイクル肥料認証基準を満たす優良な堆肥の製造に、極めて大きな効果を発揮することが示された。
【0072】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態または実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。