(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169295
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】音源位置推定装置及び音源位置推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/52 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
G01S7/52 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075240
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】小柳 慎一郎
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA05
5J083AB20
5J083AC32
5J083AD02
5J083AE06
5J083BC10
5J083BE21
5J083CA10
(57)【要約】
【課題】複数の音圧測定装置を要することなく、音源の位置を推定することができる音源位置推定装置及び音源位置推定プログラムを得る。
【解決手段】音源位置推定装置10は、音源の位置の推定対象とする室の内部の形状を示す形状情報、及び当該内部の任意の位置における音圧を示す音圧情報を取得する取得部11Aと、取得部11Aによって取得された形状情報を室の境界を示す境界情報として用い、かつ、室の内部の設定された位置に存在する音源による音圧を推定するための演算式により得られた音圧である推定音圧、及び取得部11Aによって取得された音圧情報が示す音圧である取得音圧の各音圧の差分を用いて、室の内部における実際の音源の仮の位置を推定する推定部11Bと、予め定められた条件に応じて、推定部11Bによって推定された仮の位置から実際の音源の最終的な推定位置を決定する決定部11Cと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源の位置の推定対象とする室の内部の形状を示す形状情報、及び当該内部の任意の位置における音圧を示す音圧情報を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記形状情報を前記室の境界を示す境界情報として用い、かつ、前記室の内部の設定された位置に存在する音源による音圧を推定するための演算式により得られた音圧である推定音圧、及び前記取得部によって取得された前記音圧情報が示す音圧である取得音圧の各音圧の差分を用いて、前記室の内部における実際の音源の仮の位置を推定する推定部と、
予め定められた条件に応じて、前記推定部によって推定された前記仮の位置から前記実際の音源の最終的な推定位置を決定する決定部と、
を備えた音源位置推定装置。
【請求項2】
前記予め定められた条件は、前記差分が予め定められた閾値以下になったとの条件、及び前記推定部による前記仮の位置の推定が予め定められた回数実行されたとの条件の少なくとも一方の条件である、
請求項1に記載の音源位置推定装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記音圧情報として、前記内部の複数の位置における情報を取得し、
前記推定部は、前記推定を前記複数の位置における音圧情報の各々について行う、
請求項1又は請求項2に記載の音源位置推定装置。
【請求項4】
音源の位置の推定対象とする室の内部の形状を示す形状情報、及び当該内部の任意の位置における音圧を示す音圧情報を取得し、
取得した前記形状情報を前記室の境界を示す境界情報として用い、かつ、前記室の内部の設定された位置に存在する音源による音圧を推定するための演算式により得られた音圧である推定音圧、及び取得した前記音圧情報が示す音圧である取得音圧の各音圧の差分を用いて、前記室の内部における実際の音源の仮の位置を推定し、
予め定められた条件に応じて、推定した前記仮の位置から前記実際の音源の最終的な推定位置を決定する、
処理をコンピュータに実行させるための音源位置推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音源位置推定装置及び音源位置推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
騒音や異音等への対策を行う場合、問題となる音源の位置を特定する必要があるが、この音源の位置を特定するために適用することのできる従来の技術として、次の技術があった。
【0003】
特許文献1には、MUSIC法を用いて音源の位置を探査する音源探査装置が開示されている。この音源探査装置は、複数のマイクロホンからなるマイクロホンアレイと、前記複数のマイクロホンから音源信号を受け付け、MUSICアルゴリズムにより音源の到来方向を推定する信号処理部と、を備えている。そして、この音源探査装置は、前記マイクロホンが、半径の異なる複数の同心円上に各々配置されており、前記同心円が、中心軸の方向に中心点をずらしていることを特徴とする。
【0004】
また、特許文献2には、監視対象領域内における対象物の位置を探査する位置探査システムが開示されている。この位置探査システムは、前記対象物と一体的に設けられた音源と、間隔を置いて配置された複数のマイクを有するマイクアレイと、前記監視対象領域を撮影範囲に含むカメラと、を備えている。そして、この位置探査システムは、前記マイクアレイで収音された音に基づいて、前記カメラで撮影された画像上における前記音源の位置を特定する位置特定部と、前記位置特定部で特定された前記音源の位置を継続的に記録する記録部と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-151306号公報
【特許文献2】特開2020-118554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の技術では、音源の位置を特定するために、マイクロホン等の音圧測定装置を複数要する、という問題点があった。
【0007】
本開示は、以上の事情を鑑みて成されたものであり、複数の音圧測定装置を要することなく、音源の位置を推定することができる音源位置推定装置及び音源位置推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の本発明に係る音源位置推定装置は、音源の位置の推定対象とする室の内部の形状を示す形状情報、及び当該内部の任意の位置における音圧を示す音圧情報を取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記形状情報を前記室の境界を示す境界情報として用い、かつ、前記室の内部の設定された位置に存在する音源による音圧を推定するための演算式により得られた音圧である推定音圧、及び前記取得部によって取得された前記音圧情報が示す音圧である取得音圧の各音圧の差分を用いて、前記室の内部における実際の音源の仮の位置を推定する推定部と、予め定められた条件に応じて、前記推定部によって推定された前記仮の位置から前記実際の音源の最終的な推定位置を決定する決定部と、を備える。
【0009】
請求項1に記載の本発明に係る音源位置推定装置によれば、音源の位置の推定対象とする室の内部の形状を示す形状情報、及び当該内部の任意の位置における音圧を示す音圧情報を取得し、取得した形状情報を室の境界を示す境界情報として用い、かつ、室の内部の設定された位置に存在する音源による音圧を推定するための演算式により得られた音圧である推定音圧、及び取得した音圧情報が示す音圧である取得音圧の各音圧の差分を用いて、室の内部における実際の音源の仮の位置を推定し、予め定められた条件に応じて、推定した仮の位置から実際の音源の最終的な推定位置を決定することで、複数の音圧測定装置を要することなく、音源の位置を推定することができる。
【0010】
請求項2に記載の本発明に係る音源位置推定装置は、請求項1に記載の音源位置推定装置であって、前記予め定められた条件を、前記差分が予め定められた閾値以下になったとの条件、及び前記推定部による前記仮の位置の推定が予め定められた回数実行されたとの条件の少なくとも一方の条件とするものである。
【0011】
請求項2に記載の本発明に係る音源位置推定装置によれば、上記予め定められた条件を、上記差分が予め定められた閾値以下になったとの条件、及び上記仮の位置の推定が予め定められた回数実行されたとの条件の少なくとも一方の条件とすることで、適用した条件に応じて、音源の位置を推定することができる。
【0012】
請求項3に記載の本発明に係る音源位置推定装置は、請求項1又は請求項2に記載の音源位置推定装置であって、前記取得部が、前記音圧情報として、前記内部の複数の位置における情報を取得し、前記推定部が、前記推定を前記複数の位置における音圧情報の各々について行う、ものである。
【0013】
請求項3に記載の本発明に係る音源位置推定装置によれば、音圧情報として、上記内部の複数の位置における情報を取得し、上記推定を当該複数の位置における音圧情報の各々について行うことで、より高精度に音源の位置を推定することができる。
【0014】
請求項4に記載の本発明に係る音源位置推定プログラムは、音源の位置の推定対象とする室の内部の形状を示す形状情報、及び当該内部の任意の位置における音圧を示す音圧情報を取得し、取得した前記形状情報を前記室の境界を示す境界情報として用い、かつ、前記室の内部の設定された位置に存在する音源による音圧を推定するための演算式により得られた音圧である推定音圧、及び取得した前記音圧情報が示す音圧である取得音圧の各音圧の差分を用いて、前記室の内部における実際の音源の仮の位置を推定し、予め定められた条件に応じて、推定した前記仮の位置から前記実際の音源の最終的な推定位置を決定する、処理をコンピュータに実行させる。
【0015】
請求項4に記載の本発明に係る音源位置推定プログラムによれば、音源の位置の推定対象とする室の内部の形状を示す形状情報、及び当該内部の任意の位置における音圧を示す音圧情報を取得し、取得した形状情報を室の境界を示す境界情報として用い、かつ、室の内部の設定された位置に存在する音源による音圧を推定するための演算式により得られた音圧である推定音圧、及び取得した音圧情報が示す音圧である取得音圧の各音圧の差分を用いて、室の内部における実際の音源の仮の位置を推定し、予め定められた条件に応じて、推定した仮の位置から実際の音源の最終的な推定位置を決定することで、複数の音圧測定装置を要することなく、音源の位置を推定することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、複数の音圧測定装置を要することなく、音源の位置を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る音源位置推定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係る音源位置推定装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係る音源位置推定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】実施形態に係る推定結果表示画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図5】実施形態に係る音源位置推定処理による音源位置の推定結果の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態例を詳細に説明する。なお、本実施形態では、本発明をスマートフォンに適用した場合について説明するが、これに限るものではない。例えば、本発明は、携帯情報端末、ノートブック型パーソナルコンピュータ等の他のモバイル型の情報処理装置に適用してもよいし、サーバコンピュータ等の据え置き型の情報処理装置に適用してもよい。
【0019】
まず、
図1及び
図2を参照して、本実施形態に係る音源位置推定装置10の構成を説明する。
図1は、本実施形態に係る音源位置推定装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。また、
図2は、本実施形態に係る音源位置推定装置10の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係る音源位置推定装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、一時記憶領域としてのメモリ12、不揮発性の記憶部13、タッチパネル等の入力部14、液晶ディスプレイ等の表示部15、及び媒体読み書き装置(R/W)16を備えている。また、音源位置推定装置10は、対象とする室の形状を測定する形状測定部18、周囲の音圧を測定する音圧測定部19、及び無線通信部20を備えている。CPU11、メモリ12、記憶部13、入力部14、表示部15、媒体読み書き装置16、形状測定部18、音圧測定部19、及び無線通信部20はバスBを介して互いに接続されている。媒体読み書き装置16は、記録媒体17に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体17への情報の書き込みを行う。
【0021】
記憶部13はHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部13には、音源位置推定プログラム13Aが記憶されている。音源位置推定プログラム13Aは、音源位置推定プログラム13Aが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの音源位置推定プログラム13Aの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶される。CPU11は、音源位置推定プログラム13Aを記憶部13から読み出してメモリ12に展開し、音源位置推定プログラム13Aが有するプロセスを順次実行する。
【0022】
なお、本実施形態に係る音源位置推定装置10では、形状測定部18として、LiDAR(Light Detection and Ranging)センサ等の3次元センサを適用しているが、これに限るものではない。例えば、3次元スキャナ等のLiDARセンサを除く3次元測定器を形状測定部18として適用する形態としてもよい。また、本実施形態に係る音源位置推定装置10では、音圧測定部19として、無指向性(全指向性)型のマイクロホンを適用しているが、これに限るものではない。例えば、単一指向性型や双指向性型のマイクロホン等を音圧測定部19として適用する形態としてもよい。
【0023】
次に、
図2を参照して、本実施形態に係る音源位置推定装置10の機能的な構成について説明する。
図2に示すように、音源位置推定装置10は、取得部11A、推定部11B、及び決定部11Cを含む。音源位置推定装置10のCPU11が音源位置推定プログラム13Aを実行することで、取得部11A、推定部11B、及び決定部11Cとして機能する。
【0024】
本実施形態に係る取得部11Aは、音源の位置の推定対象とする室(以下、「対象室」という。)の内部の形状を示す形状情報、及び当該内部の任意の位置における音圧を示す音圧情報を取得する。
【0025】
また、本実施形態に係る推定部11Bは、取得部11Aにより取得された形状情報を対象室の境界を示す境界情報として用い、かつ、対象室の内部の設定された位置に存在する音源による音圧を推定するための演算式を用いて、対象室内の音源の仮の位置を推定する。より具体的には、推定部11Bは、上記演算式により得られた音圧である推定音圧、及び取得部11Aによって取得された音圧情報が示す音圧である取得音圧の各音圧の差分を用いて、対象室の内部における実際の音源の仮の位置を推定する。
【0026】
そして、本実施形態に係る決定部11Cは、予め定められた条件に応じて、推定部11Bによって推定された仮の位置から実際の音源の最終的な推定位置を決定する。
【0027】
本実施形態では、上記予め定められた条件として、上記推定音圧及び上記取得音圧の差分が予め定められた閾値以下になったとの条件を適用している。より具体的には、本実施形態では、詳細を後述する、上記推定音圧及び上記取得音圧の差分を用いた評価関数Jが閾値TH以下になったとの条件(以下、「第1条件」という。)を適用している。
【0028】
また、本実施形態では、上記予め定められた条件として、推定部11Bによる仮の位置の推定が予め定められた回数実行されたとの条件(以下、「第2条件」という。)も適用している。但し、この形態に限るものではなく、第1条件及び第2条件の何れか一方のみを上記予め定められた条件として適用する形態としてもよい。
【0029】
また、本実施形態では、取得部11Aが、音圧情報として、対象室の内部の複数の位置における情報を取得し、推定部11Bが、上記推定を当該複数の位置における音圧情報の各々について行う。但し、この形態に限るものではなく、取得部11Aにより、対象室の内部の1箇所における音圧情報のみを取得して、推定部11Bにより、当該1箇所における単一の音圧情報を用いて上記推定を行う形態としてもよい。
【0030】
ここで、本実施形態に係る音源位置推定装置10による音源位置の推定手法について説明する。
【0031】
本実施形態に係る音源位置推定装置10では、非特許文献「矢田部浩平,及川靖広,“レーザを用いた音場測定への逆解析の導入”,平成25年秋季日本音響学会講演論文集,p.1323-1326, 2013.9.」に記載されている手法を参考として、閉空間内に音源が存する場合の音場内の音圧を推定する。
【0032】
ある領域V内に単位強さの点音源が点rsに位置するとして、観測点rpにおける音圧p(境界上は除く)は、領域Vの境界S上における点rmを用いて、以下の式(1)で表される。
【0033】
【0034】
ここに、Gはグリーン関数、∂/∂nは閉空間の領域に対して外向きの法線方向の微分、Smは境界を分割した各要素を表す。式(1)の右辺の第1項は音源による寄与を表し、右辺の第2項は領域境界からの寄与を表す。グリーン関数Gは3次元空間であれば式(2)、2次元空間であれば式(3)のように表される。
【0035】
【0036】
【0037】
ここに、iは虚数、kは波数、式(3)のH0
(1)は0次第1種ハンケル関数を表す。
【0038】
本実施形態では、式(1)の右辺の第1項の音源による寄与により、音源の位置を推定する。そのため、左辺と右辺の第2項を予め明らかにしておく必要がある。左辺の音圧分布は測定により取得可能である。右辺の第2項は、ある領域の境界の形状と領域内の音圧を測定により求めることで、領域の境界上の音圧と音圧勾配の逆推定により求める。以下、逆推定の方法について記載する。
【0039】
まず、計算のために∂f/∂nをf’と略記し、境界Sの上の音圧勾配と音圧(式(4))、観測点rpにおける音圧(式(5))、境界上から観測点に関するグリーン関数(式(6))、音場内の音源から観測点に関するグリーン関数(式(7))を以下のようにベクトル、行列表示する。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
ここに、Nは観測点の総数、Mは境界要素の総数、Iは音源の総数である。以上より、式(1)は式(8)のように表すことができる。
【0045】
【0046】
実際の音源位置の推定計算の際は音源位置が未知であり、仮の音源位置を設定する必要がある。そのため、式(7)のGsは仮設定した音源位置と観測点の位置関係より推定された^Gsに置き換えられる。
【0047】
式(8)より、グリーン関数の行列Gの一般化逆行列を用いて、境界S上の音圧及び音圧勾配は式(9)のように推定される。
【0048】
【0049】
推定された境界上の音圧及び音圧勾配である^psより、領域内の音圧は式(10)のように推定することができる。
【0050】
【0051】
最終的に測定によって得られた音圧piと同一点における推定音圧^piの差異が小さくなるように探索することで音源の位置の推定が可能である。
【0052】
次に、
図3~
図4を参照して、本実施形態に係る音源位置推定装置10の作用を説明する。
図3は、本実施形態に係る音源位置推定処理の一例を示すフローチャートである。
【0053】
ユーザによって音源位置推定プログラム13Aの実行を開始する指示入力が入力部14を介して行われた場合に、音源位置推定装置10のCPU11が当該音源位置推定プログラム13Aを実行することにより、
図3に示す音源位置推定処理が実行される。なお、ここでは、錯綜を回避するために、対象室における平面視の2次元空間における音源の位置を推定する場合について説明する。
【0054】
ユーザは音源位置推定処理の実行に際し、音源位置推定装置10の形状測定部18及び音圧測定部19によって対象室の形状、及び音圧を測定可能な位置に静止する。この状態において、ユーザは、音源位置推定プログラム13Aの実行を開始する指示入力を行う。
【0055】
図3のステップ100で、CPU11は、形状測定部18を用いて、上述した形状情報を取得する。ここで取得した形状情報は、式(1)における境界Sを示す境界情報として用いる。
【0056】
ステップ102で、CPU11は、音圧測定部19を用いて、対象室の任意の複数の位置における上述した音圧情報を取得する。ここで取得した複数の位置における音圧情報が示す音圧は、上述した取得音圧に相当し、式(1)における音圧p(rp)として用いる。
【0057】
ステップ104で、CPU11は、音源を対象室の内部の仮の位置に設定し、取得した形状情報を対象室の境界Sを示す境界情報として用い、かつ、取得した任意の点における音圧情報を用いて、上述したように、対象室の内部の音源の位置を推定する。
【0058】
ステップ106で、以下に示す式(11)を用いて評価関数値Jを算出する。
【0059】
【0060】
ステップ108で、CPU11は、評価関数値Jが予め定められた閾値TH以下となったか否か(以下、「第1判定」という。)、又はステップ104における音源の位置の推定回数が予め定められた回数実行されたか否か(以下、「第2判定」という。)を判定する。そして、CPU11は、第1判定及び第2判定の双方の判定が否定判定となった場合はステップ104に戻る一方、少なくとも一方の判定が肯定判定となった場合はステップ110に移行する。本実施形態では、閾値THとして、評価関数値Jが当該値以下であれば、推定された音源の位置の実際の位置とのずれ量が許容される範囲内に収まると見なすことができる値として、予め実験やコンピュータ・シミュレーション等によって得られた値を適用している。但し、これに限るものではなく、例えば、音源位置推定装置10に要求される音源の位置の推定精度等に応じて閾値THをユーザに予め入力させる形態としてもよい。なお、CPU11は、ステップ104~ステップ108の処理を繰り返し実行する場合に、ステップ104で設定する仮の位置を、それまでに設定していない位置とする。
【0061】
本実施形態では、ステップ104~ステップ108による音源の位置の探索の手法として、最適計算の解法の1つである遺伝的アルゴリズムを用いた反復計算を適用し、最大世代数まで反復計算を実行したか否かの判定を上述した第2判定として行っているが、これに限るものではない。例えば、シミュレーテッド・アニーリング(焼きなまし法)、タブー・サーチ、ニューラル・ネットワークを用いた手法等、大域的な最適化手法であれば、上記音源の位置の探索として適用することができる。
【0062】
ステップ110で、CPU11は、評価関数値Jが最小値となる上記仮の位置を最終的な音源の推定位置として決定する。ステップ112で、CPU11は、決定した音源の推定位置を用いて、予め定められた構成とされた推定結果表示画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ114で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0063】
図4には、本実施形態に係る推定結果表示画面の一例が示されている。
図4に示すように、本実施形態に係る推定結果表示画面では、ユーザの位置、及び推定した音源の位置が、対象室の平面
図50に対してマッピングする形で表示される。従って、ユーザは、推定結果表示画面を参照することで、対象室における音源の推定位置を容易に把握することができる。
【0064】
一例として
図4に示す推定結果表示画面が表示部15に表示されると、ユーザは、表示されている音源の推定位置を把握した後に、入力部14を介して終了ボタン15Eを指定する。これに応じて、ステップ114が肯定判定となって、本音源位置推定処理が終了する。
【0065】
本発明の発明者らは、本発明の有効性を確認するためにパーソナルコンピュータを用いた数値シミュレーションによる検討を行った。なお、ここでは、3×4m2の2次元音場を検討対象とし、初めに境界要素法により観測点における音圧を求めた。境界要素法の計算パラメータは表1に示した通りである。
【0066】
【0067】
境界情報は正確に取得していると仮定して、境界情報と算出された観測点の音圧のデータを基に上述した手法より、音源の位置を推定した。本検討における遺伝的アルゴリズムのパラメータは表2に示した通りである。
【0068】
【0069】
音源の位置の推定結果を表3及び
図5に示す。この結果より、音源の位置の推定精度は概ね良好と考えられる。
【0070】
【0071】
なお、本検討では、計算の容易さから2次元音場での検討を実施したが、3次元音場で音源位置の推定を行う場合は、計算に用いるグリーン関数を入れ替えるだけでよい。
【0072】
以上説明したように、本実施形態によれば、音源の位置の推定対象とする室の内部の形状を示す形状情報、及び当該内部の任意の位置における音圧を示す音圧情報を取得する取得部11Aと、取得部11Aによって取得された形状情報を室の境界を示す境界情報として用い、かつ、室の内部の設定された位置に存在する音源による音圧を推定するための演算式により得られた音圧である推定音圧、及び取得部11Aによって取得された音圧情報が示す音圧である取得音圧の各音圧の差分を用いて、上記室の内部における実際の音源の仮の位置を推定する推定部11Bと、予め定められた条件に応じて、推定部11Bによって推定された仮の位置から実際の音源の最終的な推定位置を決定する決定部11Cと、を備えている。従って、複数の音圧測定装置を要することなく、音源の位置を推定することができる。
【0073】
また、本実施形態によれば、上記予め定められた条件を、上記差分が予め定められた閾値以下になったとの条件、及び上記仮の位置の推定が予め定められた回数実行されたとの条件の少なくとも一方の条件としている。従って、適用した条件に応じて、音源の位置を推定することができる。
【0074】
更に、本実施形態によれば、音圧情報として、上記内部の複数の位置における情報を取得し、上記推定を当該複数の位置における音圧情報の各々について行う。従って、より高精度に音源の位置を推定することができる。
【0075】
なお、上記実施形態では、本発明を単体構成とされたスマートフォンに適用した場合について説明したが、これに限定されない。例えば、形状情報及び音圧情報を取得する機能を有するスマートフォンと、これらの情報を当該スマートフォンから取得して、上述した音源位置推定処理を実行するサーバコンピュータと、を含むシステムにより本発明の音源位置推定装置を構成する形態としてもよい。
【0076】
また、上記実施形態で適用した各種数式(式(1)~式(11))は一例であり、例示したものに限定されるものでないことは言うまでもない。
【0077】
また、上記実施形態で適用した推定結果表示画面の構成も一例であり、例示したものに限定されるものでないことは言うまでもない。
【0078】
また、上記実施形態において、例えば、取得部11A、推定部11B、及び決定部11Cの各処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、前述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0079】
処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせや、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0080】
処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0081】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【符号の説明】
【0082】
10 音源位置推定装置
11 CPU
11A 取得部
11B 推定部
11C 決定部
12 メモリ
13 記憶部
13A 音源位置推定プログラム
14 入力部
15 表示部
15E 終了ボタン
16 媒体読み書き装置
17 記録媒体
18 形状測定部
19 音圧測定部
20 無線通信部