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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169305
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】異種材接合方法および複合部材
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
B23K20/12 364
B23K20/12 360
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075256
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】502245118
【氏名又は名称】学校法人国士舘
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】大橋 隆弘
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA06
4E167AA07
4E167AA08
4E167AA13
4E167AA27
4E167AA29
4E167BG06
4E167BG26
4E167DC02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】接合用素材の厚みや形成する継手部の高さに関わらず、接合用素材に対して一方向からのアクセス(シングルサイドアクセス)によって、接合用素材と被接合材とを優れた接合強度で接合することができる新しい異種材接合方法と、これによる複合部材を提供すること。
【解決手段】被接合材2の一面に接合用素材3を当接させた状態において、摩擦撹拌工具1を回転させながら、その先端側を被接合材2の他面側から貫通穴21を通じて接合用素材3に圧入して摩擦撹拌し、貫通穴21を形成する被接合材2の内周縁部と摩擦撹拌工具1との間の隙間を通じて、接合用素材3の一部を被接合材2の他面側に流動させて、被接合材2の内周縁部と噛合する継手部31を形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦撹拌工具を用いて、被接合材と接合用素材とを接合する異種材接合方法であって、
前記被接合材は、前記摩擦撹拌工具の先端を挿入可能な貫通穴を備えた板状であり、
以下の工程:
前記被接合材の一面に前記接合用素材を当接させた状態において、前記摩擦撹拌工具を回転させながら、その先端側を前記被接合材の他面側から前記貫通穴を通じて前記接合用素材に圧入して摩擦撹拌し、前記貫通穴を形成する前記被接合材の内周縁部と前記摩擦撹拌工具との間の隙間を通じて、前記接合用素材の一部を前記被接合材の前記他面側に流動させて、前記被接合材の前記内周縁部と噛合する継手部を形成する摩擦撹拌工程
を含むことを特徴とする異種材接合方法。
【請求項2】
前記被接合材の前記貫通穴を、パンチとダイを用いた穴抜き加工によって形成する穴抜き工程を含み、
前記穴抜き工程において、前記貫通穴の前記内周縁部には、だれまたは傾斜する破断面が形成され、
前記摩擦撹拌工程において、前記継手部は、前記だれまたは前記破断面を介して前記内周縁部と噛合することを特徴とする請求項1の異種材接合方法。
【請求項3】
前記摩擦撹拌工程において、前記被接合材の他面側に位置する前記貫通穴の周囲に、連通孔を備えたブランクホルダーを配置し、この連通孔に摩擦撹拌工具を挿入して摩擦撹拌することを特徴とする請求項1または2のいずれかの異種材接合方法。
【請求項4】
前記摩擦撹拌工具は、略円柱形状の本体部と、前記本体部の一端に位置する平坦なショルダー部と、前記ショルダー部から突出する突起部とを備え、
前記ブランクホルダーの前記連通孔は、前記摩擦撹拌工具の前記本体部の外径より大きく、
前記摩擦撹拌工程において、前記摩擦撹拌工具を前記連通孔に挿入し、前記ショルダー部と前記被接合材とを離間させた状態で、前記突起部を前記貫通穴を通じて前記接合用素材に圧入して摩擦撹拌することで、前記被接合材と前記ショルダー部との間に前記接合用素材の一部を流動させて前記継手部の頭部を形成することを特徴とする請求項3の異種材接合方法。
【請求項5】
前記摩擦撹拌工具は、略円柱形状の先端部を備え、
前記ブランクホルダーの前記連通孔は、前記摩擦撹拌工具の前記先端部の外径より大きく、
前記ブランクホルダーは、前記被接合材側に位置する前記連通孔の端部側に、前記連通孔の内面よりも外側に拡がり、かつ、前記被接合材の前記貫通穴の径よりも大きい頭部形成空間を備え、
前記摩擦撹拌工程において、前記摩擦撹拌工具を前記連通孔に挿入し、前記突起部を前記貫通穴を通じて前記接合用素材に圧入して摩擦撹拌することで、前記頭部形成空間に前記接合用素材の一部を流動させて前記継手部の頭部を形成することを特徴とする請求項3の異種材接合方法。
【請求項6】
前記摩擦撹拌工程において、
前記被接合材の前記他面側に、前記摩擦撹拌工具の先端の外径より大きい径を有する開口部を備えた頭部抑え板を当接させるとともに、前記開口部および前記被接合材の前記貫通穴を一致させ、
前記開口部および前記貫通穴を通じて前記摩擦撹拌工具を前記接合用素材に挿入することで、流動化した接合用素材を前記貫通穴に充満させ、
前記頭部頭抑え板を所定の位置まで上方へ移動させ、前記摩擦撹拌工具を前記接合用素材にさらに挿入することで、前記頭部頭抑え板によって、流動した前記接合用素材の上方への移動を規制しつつ側方に移動させて、前記継手部の頭部を形成することを特徴とする請求項1または2の異種材接合方法。
【請求項7】
被接合材と接合用素材とが接合した複合部材であって、
前記被接合材は、貫通穴を備えた板状であり、
前記被接合材の一面に前記接合用素材が当接しており、
前記接合用素材の一部が、少なくとも前記貫通穴を形成する前記被接合材の内周縁部と噛合した継手部が形成されており、
前記貫通穴の内側に位置する前記継手部には、前記被接合材の他面側に、摩擦攪拌工具の圧入痕としての略円柱状の凹部が形成されていることを特徴とする複合部材。
【請求項8】
前記被接合材の前記他面側に位置する前記貫通穴の周囲には、前記被接合材の前記一面側から前記接合用素材の一部が回りこんで形成された前記継手部の頭部を有することを特徴とする請求項7の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌成形を利用した異種材接合方法および複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば自動車や航空機などの軽量化のため、今後20年間で部品のマルチマテリアル化が急激に進行することが予想されており、接合強度・外観に優れ、重量増のない異種材(異種金属)接合技術の確立が求められている。
【0003】
異種材接合については、従来より、被接合材を選ばない機械的な接合方法と、抵抗スポット溶接などのような冶金的な接合方法とが知られている。
【0004】
機械的接合法として、ねじ、慣用リベットによるもののほか、セルフピアシングリベットやブラインドリベットなどよる接合が従来から行われているが、ファスナー(リベット)が重量増の原因になるという問題がある。
【0005】
また、冶金的な異種材接合方法として、近年、摩擦攪拌接合(FSW)・摩擦攪拌スポット溶接(FSSW)を異種材接合に用いる研究が行われているが、接合強度を低下させる被接合材間の界面の金属間化合物層の厚さを抑制するための熱的条件に制約があるという問題がある。
【0006】
加えて、摩擦攪拌接合は、異種材の重ね接合時に比較的低融点の接合用素材側から摩擦攪拌工具を圧入しなくてはならない制約がある。そのため、板素材同士の接合には適しているものの、厚肉のアルミニウム合金鋳物部品やアルミニウム合金型材と鋼板の接合に関しては、アルミニウム合金鋳物部品やアルミニウム合金押出形材の背面構造や大きな厚みが邪魔になって適用することが難しい。
【0007】
一方、本発明者は、摩擦攪拌成形(FSF) を利用した異種材接合方法について提案している(特許文献1)。具体的には、特許文献1の接合方法は、円柱形状の先端ショルダー部に突起部を有する摩擦攪拌工具を用いて、(a)下穴をあけた板状の被接合材の上面に板状の接合用素材を、また下面には成形金型を当接させ、(b)接合用素材に対して摩擦攪拌工具を回転させながら、下降させ、所定の水平方向へ送りつつ、圧入して摩擦攪拌する。これにより、流動させた接合用素材を成形金型のキャビティ部に変形充満させてリベット状の継手部の膨出を形成して、板状の被接合材に接合用素材を機械的に接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018‐51606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の接合方法においても、接合用素材側から摩擦攪拌工具を圧入しなくてはならない制約があるため、接合用素材の裏面構造が邪魔になる場合や厚みが大きい場合、リベット状の継手部を形成することは必ずしも容易ではない。
【0010】
また、特許文献1の接合方法においては、板状の被接合材の上面に板状の接合用素材を配置し、下面に成形金型を配置し、接合用素材側から摩擦攪拌工具を圧入する必要がある。すなわち、特許文献1の接合方法の場合、接合用素材の表裏二方向からのアクセス(ダブルサイドアクセス)が要求されるため、例えば、産業ロボットアームなどへの実装が難しいことが改善すべき点として考えられた。
【0011】
さらに、特許文献1の接合方法においては、リベット状の継手部の高さを大きく形成しようとする場合、接合用素材に対して摩擦攪拌工具を深く圧入する必要がある。この場合、摩擦攪拌工具の圧入痕の底とリベット状の継手部の根元付近が近接することで、継手強度が低下するおそれがあることが改善すべき点として考えられた。
【0012】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、接合用素材の背面構造および厚みや、形成する継手部の高さに関わらず、接合用素材に対して一方向からのアクセス(シングルサイドアクセス)によって、接合用素材と被接合材とを優れた接合強度で接合することができる新しい異種材接合方法と、これによる複合部材を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明の異種材接合方法は、摩擦撹拌工具を用いて、被接合材と接合用素材とを接合する異種材接合方法であって、
前記被接合材は、前記摩擦撹拌工具の先端を挿入可能な貫通穴を備えた板状であり、
以下の工程:
前記被接合材の一面に前記接合用素材を当接させた状態において、前記摩擦撹拌工具を回転させながら、その先端側を前記被接合材の他面側から前記貫通穴を通じて前記接合用素材に圧入して摩擦撹拌し、前記貫通穴を形成する前記被接合材の内周縁部と前記摩擦撹拌工具との間の隙間を通じて、前記接合用素材の一部を前記被接合材の前記他面側に流動させて、前記被接合材の前記内周縁部と噛合する継手部を形成する摩擦撹拌工程
を含むことを特徴としている。
【0014】
本発明の複合部材は、被接合材と接合用素材とが接合した複合部材であって、
前記被接合材は、貫通穴を備えた板状であり、
前記被接合材の一面に前記接合用素材が当接しており、
前記接合用素材の一部が、少なくとも前記貫通穴を形成する前記被接合材の内周縁部と噛合した継手部が形成されており、
前記貫通穴の内側に位置する前記継手部には、前記被接合材の他面側に、摩擦攪拌工具の圧入痕としての略円柱状の凹部が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の異種材接合方法は、接合用素材の厚みや形成する継手部の高さに関わらず、接合用素材に対して一方向からのアクセス(シングルサイドアクセス)によって、接合用素材と被接合材とを優れた接合強度で接合することができる。また、本発明の複合部材は、優れた接合強度を有している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(A)(B)は、本発明の異種材接合方法の第1実施形態を例示した概要図である。
図2】(A)は、パンチとダイを用いた穴抜き加工(プレスせん断加工)によって貫通穴が形成されるメカニズムを示した概要図である。(B)は、貫通穴の内面に形成されるだれと破断面を示した概要図である。
図3】本発明の異種材接合方法の第3実施形態を例示した概要図である。接合用素材としてアルミニウム合金を例示している。
図4】本発明の異種材接合方法の第4実施形態を例示した概要図である。接合用素材としてアルミニウム合金を例示している。
図5】ブランクホルダーの連通孔の形状にについて、正面視で星状の形態を例示した正面図および断面図である。
図6】本発明の異種材接合方法の別の実施形態を例示した概要図である。
図7】十字引張強度(CTS)およびせん断引張強度(TSS)に使用した試験片を示した正面図である。
図8】実施例において成形された継手部の外観と断面マクロ組織写真を示す図である。
図9】継手部と被接合材との接合部分の拡大写真である。
図10】CTS、TSS 評価時に破壊された継手部の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の異種材接合方法の第1実施形態について説明する。図1(A)(B)は、それぞれ本発明の異種材接合方法の第1実施形態を例示した断面図である。
【0018】
本発明の異種材接合方法は、摩擦撹拌工具1を用いて、被接合材2と接合用素材3とを接合するものである。
【0019】
摩擦撹拌工具1は、摩擦攪拌成形(FSF)に利用されるものであればよく、具体的な形態は限定されないが、例えば、特許文献1に記載の摩擦撹拌工具1を例示することができる。具体的には、図1(A)(B)に例示したように、摩擦撹拌工具1は、略円柱形状の本体部11と、本体部11の先端に位置するショルダー部12と、ショルダー部12から突出する突起部13とを備えていることが好ましい。
【0020】
また、摩擦撹拌工具1は、硬質で耐熱性の高い耐熱合金等によって形成することが好ましい。
【0021】
突起部13の形状は特に限定されず、円板状、円柱状、円錐状、半球状、ねじ状などの形状を例示することができる。図1に例示した実施形態では、摩擦撹拌工具1は、円柱状の突起部13を備えている。
【0022】
突起部13の高さや体積は特に限定されず、後述する実施形態を考慮して適宜設定することができる。
【0023】
ショルダー部12については、必要に応じて全体として、あるいは部分的に、例えば45°以内程度に摩擦撹拌工具1の回転軸中心方向へ向かって深く傾斜する傾斜角θを設けることができる。この傾斜角θの大きさについては、回転軸に対して側方への接合用素材3の流動状況、ばりの発生や美観の状況などを考慮して定めることが好ましい。
【0024】
被接合材2は、摩擦撹拌工具1の先端(突起部13)を挿入可能な貫通穴21を備えた板状である。
【0025】
被接合材2の材料も特に限定されず、例えば、例えば硬質の鋼板やチタン、ガラス、CFRPなどを例示することができる。
【0026】
被接合材2に形成する貫通穴21の数は1または2以上であってよく、2以上の場合、それぞれの貫通穴21の大きさは同じ径であっても異なる径であってもよい。
【0027】
貫通穴21の形状は、特に限定されず、正面視で円形状、矩形状、多角形状、略長孔状、スリット状、曲線孔形状などであってよい。図1に例示した実施形態では、被接合材2に円形状の貫通穴21が形成されている。
【0028】
被接合材2の厚さについては特に限定されず、貫通穴21の断面面積、接合用素材3が流動化する条件、摩擦撹拌工具1の設計と操作条件などを考慮して設計することができる。具体的には、例えば、被接合材2の厚さをt、接合用素材3に摩擦撹拌工具1の先端が圧入された深さをhp [mm] 、突起部13の直径をd [mm] 、貫通穴21の直径をD [mm] 、接合用素材3のせん断強さτ[MPa]とした場合、塑性変形の体積一定則から、
【数1】
を満たし、なおかつ、継手に求められる十字引張強度をPCTS [N] 、継手に求められるせん断引張強度をPTSS [N]に関し以下の式を満足するように設計する。
【数2】
【数3】
【0029】
なお、上記各設計値は、施工時の摩擦撹拌工具1と貫通穴21の間の位置誤差や接合用素材3の熱影響軟化によるばらつきに対応するため,裕度をもって設計することが望ましいことは言うまでもない。
【0030】
また、圧入した摩擦撹拌工具1の先端が接合用素材3の裏面に接近しすぎると、接合用素材3が引けて割れることがあるため、割れを防止するため接合用素材3の材質および温度にもよるが、hpは接合用素材3の厚さの90%以内程度の範囲を好ましい目安として例示することができる。
【0031】
接合用素材3の材料も特に限定されず、例えば、アルミニウムおよびその合金、マグネシウム合金、銅およびその合金、チタンおよびその合金、鋼などであってよいが、なかでも、アルミニウムを好ましく例示することができる。
【0032】
本発明の異種材接合方法は、摩擦撹拌工程を含む。
【0033】
摩擦撹拌工程では、被接合材2の一面2Aに接合用素材3を当接させた状態において、摩擦撹拌工具1を回転させながら、その先端(突起部13)側を被接合材2の他面2B側から貫通穴21を通じて接合用素材3に圧入して摩擦撹拌する。これにより、貫通穴21を形成する被接合材2の内周縁部22と摩擦撹拌工具1(突起部13)との間の隙間を通じて、接合用素材3の一部を被接合材2の他面2B側(摩擦撹拌工具1側)に流動させて、被接合材2の内周縁部22と接合する継手部31を形成する。
【0034】
より具体的には、この実施形態では、ショルダー部12と被接合材2とが離間した状態において、突起部13は、被接合材2の一面2A側に位置する接合用素材3に到達する高さに設計されている。ショルダー部12と被接合材2とを離間させた状態で、突起部13を貫通穴21を通じて接合用素材3に圧入して摩擦撹拌することで、被接合材2の一面2A側から、他面2B側に位置する被接合材2とショルダー部との間に接合用素材3の一部を流動させて継手部31の頭部31aを形成することができる。
【0035】
本発明の異種材接合方法は、接合用素材3に対して被接合材2側の一方向からのアクセス(シングルサイドアクセス)することができる。このため、接合用素材3の厚みや形成する継手部31の高さに関わらず、接合用素材3と被接合材2とを優れた接合強度で接合することができる。
【0036】
また、この実施形態では、複合部材は、被接合材2の他面2B側に位置する貫通穴21の周囲には、被接合材2の一面2A側の接合用素材3の一部が回りこんで形成されたフランジ状の頭部31aにより噛合することで機械的接合を形成している。さらに望ましくは,この実施形態の異種材接合方法で得られる被接合材2と接合用素材3とが接合した複合部材においては、継手部31は、接合用素材3の一部が、貫通穴21を形成する被接合材2の内周縁部22と冶金的に接合することによって強度を向上させることができる。また、貫通穴21の内側に位置する領域に、被接合材2の他面2B側から略円柱状に窪む凹部(摩擦攪拌工具1の圧入痕)が形成されている。さらに、この実施形態では、複合部材は、被接合材2の他面2B側に位置する貫通穴21の周囲には、被接合材2の一面2A側の接合用素材3の一部が回りこんで形成されたフランジ状の頭部31aを有している。
【0037】
また、貫通穴21の側面に、被接合材2の他面2B側(摩擦撹拌工具1側)に向かって外側に広がる傾斜を設けることで、リベット状の継手部31の引き抜き方向に関しせん断面積を増大させてより優れた接合強度を得ることができる。またその場合、ショルダー部12を被接合材2の他面2Bに当接させることにより、リベット状の継手部31が被接合材2の面2B側に突出しないように形成することができる。
【0038】
本発明の複合部材においては、リベット状の継手部31の構造は、フランジ状の頭部31aを介して接合用素材3と繋がって強度を保持しているため、摩擦攪拌工具1をより深く圧入し、凹部の底が薄くなっても優れた接合強度を維持することができる。
【0039】
なお、摩擦撹拌工具1の設計、操作条件などは、例えば特許文献1の記載を考慮することができる。
【0040】
具体的には、例えば、回転する摩擦撹拌工具1のショルダー部の面積、突起部の体積、回転速度、水平方向への移動距離および移動速度、圧入する際の押圧力および圧入量などについては、
1)接合用素材3の種類(軟化温度)と厚さ、
2)被接合材2の厚さ、貫通穴21の径、
3)摩擦撹拌工具1の外縁と接合用素材3の接触部に生じるばりの生成状況
などを考慮して、接合用素材3が流動化する条件を定めることができる。
【0041】
本発明の異種材接合方法の第2実施形態について説明する。
【0042】
本発明の異種材接合方法は、被接合材2の貫通穴21を、パンチとダイを用いた穴抜き加工によって形成する穴抜き工程を含むことができる。
【0043】
図2は、パンチとダイを用いた穴抜き加工(プレスせん断加工)によって貫通穴21が形成されるメカニズムを示した概要図である。
【0044】
穴抜き加工においては、ダイ4の肩部41とパンチ5の縁部51に接触する部分から材料内にせん断亀裂が生じ、それらが繋がることで貫通穴21が形成される。このため、貫通穴21の内周縁部22には、パンチ5の外径とダイ4の内径の差(クリアランス)に起因する傾斜する破断面21aがせん断方向に形成される。また、クリアランスの条件により、だれ21bも形成される。
【0045】
この実施形態の異種材接合方法では、摩擦撹拌工程において、継手部31は、だれまたは破断面を介して内周縁部22と接合する。このため、この実施形態の継手部31は、頭部を形成しなくとも、優れた接合強度を実現することができる。
【0046】
この実施形態の異種材接合方法で得られる複合部材は、継手部31の頭部を形成しない場合は、継手部31と被接合材2の他面2B側とを平坦に形成することができる(摩擦攪拌工具1の圧入痕による凹部を除く)。
【0047】
また、例えば、上記パンチとして、面打ちパンチを用いて、図1の被接合材2の他面2B側の貫通穴21周辺に段または傾斜を設けてより優れた接合強度を実現することもできる。
【0048】
本発明の異種材接合方法の第3実施形態について説明する。
【0049】
図3は、本発明の異種材接合方法の一実施形態を例示した概要図である。
【0050】
本発明の異種材接合方法では、摩擦撹拌工程において、被接合材2の他面2B側に位置する貫通穴21の周囲に、連通孔61を備えたブランクホルダー6を配置し、この連通孔61に摩擦撹拌工具1を挿入して摩擦撹拌することができる。
【0051】
図3に例示した実施形態では、摩擦撹拌工具1は、略円柱形状の本体部11と、本体部11の一端に位置する平坦なショルダー部12と、ショルダー部12から突出する突起部13とを備えている。
【0052】
そして、ブランクホルダー6の連通孔61は上下方向に連通する略円柱状であり、連通孔61の径Dは、摩擦撹拌工具1の本体部の外径D’よりわずかに大きく形成されている。また、連通孔61の径Dは、貫通穴21の径よりも大きく形成されているとともに、連通孔61の中心と貫通穴21の中心とは上下方向に略一致している。ブランクホルダー6の材料は特に限定されず、各種の金属などで構成することができる。
【0053】
この実施形態では、摩擦撹拌工程において、摩擦撹拌工具1の先端側(本体部11、ショルダー部12、突起部13)を連通孔61に挿入し、ショルダー部12と被接合材2とを離間させた状態で、突起部を貫通穴21を通じて接合用素材3に圧入して摩擦撹拌する。この際、連通孔61を形成するブランクホルダー6の内周面と摩擦撹拌工具1の本体部11の外周面は、ほとんど隙間がない状態で近接対峙している。摩擦撹拌によって接合用素材3の一部を流動させ、被接合材2とショルダー部12との間に充満させることで継手部31の頭部31aを形成することができる。
【0054】
この実施形態の異種材接合方法においても、接合用素材3に対して被接合材2側の一方向からのアクセス(シングルサイドアクセス)することができる。このため、接合用素材3の厚みや形成する継手部31の高さに関わらず、接合用素材3と被接合材2とを優れた接合強度で接合することができる。
【0055】
また、ブランクホルダー6による密閉構造として、接合用素材3の横方向への流動範囲が規制されているため、より高さのある継手部31を安定して得ることができる。さらに、このようなブランクホルダー6を配設することで、被接合材2の上方への浮き上がりや変形を抑制することができる。
【0056】
したがって、被接合材2とショルダー部12との間の距離Hは、継手部31の頭部31aの厚みによる接合強度などを考慮して適宜設定することができる。また、突起部13の高さや圧入深さ(被接合材2の一面2Aから突起部13先端までの距離hp)については、所望の継手部31の大きさや強度を考慮して適宜設計することができる。
【0057】
本発明の異種材接合方法の第4実施形態について説明する。図4は、本発明の異種材接合方法の一実施形態を例示した概要図である。
【0058】
図4に例示した実施形態では、摩擦撹拌工具1は、略円柱形状の先端部14を備えている。また、ブランクホルダー6の連通孔61は上下方向に連通する略円柱状であり、連通孔61の径d’は、摩擦撹拌工具1の先端部14の径dよりもわずかに大きく形成されている。連通孔61の径d’は、貫通穴21の径と略等しく形成されている。
【0059】
ブランクホルダー6は、被接合材2側に位置する連通孔61の端部に、連通孔61を形成する内周面よりも外側に拡がる頭部形成空間62を備えている。この実施形態では、頭部形成空間62は、円盤状に形成されており、その径Dは、連通孔61の径d’および貫通穴21の径よりも大きく設計されている。
【0060】
この実施形態では、摩擦撹拌工程において、摩擦撹拌工具1の先端部14を連通孔61に挿入し、頭部形成空間62を通過させ、貫通穴21を通じて接合用素材3に圧入して摩擦撹拌する。この際、連通孔61を形成するブランクホルダー6の内周面と摩擦撹拌工具1の先端部14の外周面は、ほとんど隙間がない状態で近接対峙している。摩擦撹拌によって接合用素材3の一部を流動させて、頭部形成空間62に接合用素材3の一部を充満させることで継手部31の頭部31aを形成することができる。
【0061】
この実施形態の異種材接合方法においても、接合用素材3に対して被接合材2側の一方向からのアクセス(シングルサイドアクセス)することができる。このため、接合用素材3の厚みや形成する継手部31の高さに関わらず、接合用素材3と被接合材2とを優れた接合強度で接合することができる。
【0062】
また、ブランクホルダー6による密閉構造として、接合用素材3の横方向への流動範囲が規制されているため、より高さのある継手部31を安定して得ることができる。さらに、このようなブランクホルダー6を配設することで、被接合材2が上方への浮き上がりや変形を抑制することもできる。
【0063】
したがって、頭部形成空間62の高さHは、継手部31の頭部31aの厚みによる接合強度などを考慮して適宜設定することができる。また、摩擦撹拌工具1の先端部14の圧入深さ(被接合材2の一面2Aから先端部14の先端までの距離hp)については、所望の継手部31の大きさや強度を考慮して適宜設計することができる。
【0064】
本発明の異種材接合方法および複合部材は、以上の実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下の実施形態も含まれる。
【0065】
(A)接合用素材の厚みが薄い場合は、接合用素材に当て板を設けることもできる。
【0066】
(B)リベット状の継手部の頭部の外周形状を決定するブランクホルダーの連通孔61の形状に関しては、丸穴の他、様々な形でもよいが、被接合材2の変形を防止するため、例えば、図5に例示したような正面視で星状とするなど、被接合材2の貫通穴に接近する爪部63を有するものとすることも好ましい。この場合、爪部63の内側方向の先端を結ぶ仮想の接円Cは、被接合材2の貫通穴と同じ径であることがより好ましいが、確保するべき継手強度を考慮して大きくても小さくてもよい。
【0067】
(C)摩擦撹拌工具の先端部(図1における突起部13および図4における工具14のうち先端の材料3に圧入された範囲)の形状は、接合用素材が上方へ流動しやすくなるように適宜設計することができるが、外面にねじ状の溝を設けることで、接合用素材を巻き上げることができ、より効率的に接合用素材が上方へ流動させることができる。
【0068】
(D)摩擦撹拌工具の側面が被接合材の貫通穴の側面に当接するように、円形軌道で回転工具を運動させることも好ましい。これにより、被接合材表面の酸化被膜を除去し、リベット状構造による機械的接合の形成と同時に、被接合材側面の冶金的接合を達成しやすくなる。
【0069】
(E)偏心した突起部を設けた摩擦撹拌工具を用い、突起部を被接合材の貫通穴の側面に当接させて工具を回転させることも好ましい。これにより、上記同様、被接合材の表面の酸化被膜を除去し、リベット状構造による機械的接合の形成と同時に、被接合材(硬質材)側面の冶金的接合を達成しやすくなる。
【0070】
(F)図6は、本発明の異種材接合方法の別の実施形態を例示した概要図である。図6に例示したように、開口部71を有する頭部抑え板7と、先端に突起部を有していない円筒状の摩擦撹拌工具1とを使用する形態を例示することができる。
【0071】
具体的には、図6(A)に例示したように、頭部抑え板7の開口部71は、摩擦撹拌工具1の径とよりわずかに大きい径を有している。頭部抑え板7は、被接合材2の他面2B側に当接して配置されており、貫通穴21の中心と開口部71の中心とは上下方向に略一致している。また、開口部71の径は、貫通穴21の径よりも一回り小さく設計されている。
【0072】
図6(B)に例示したように、頭部抑え板7によって、被接合材4が浮き上がらないように押さえながら、開口部71および貫通穴21を通じて摩擦撹拌工具1を接合用素材3に挿入する。この時、摩擦撹拌工具1と貫通穴21との間には隙間が形成されているのに対し、摩擦撹拌工具1と開口部71を形成する頭部抑え板7の内周面とは互いに近接対峙している。そして、摩擦撹拌工具1の挿入により接合用素材3は流動化し、貫通穴21に充満した状態となる。
【0073】
図6(C)に例示したように、その後、頭部頭抑え板7を所定の位置まで上方へ移動させ、さらに摩擦撹拌工具1を挿入することで、流動化した接合用素材3が貫通穴21を通じてさらに上昇する。そして、流動化した接合用素材3は、頭部抑え板7に上方から抑えられることで、流動化した接合用素材3の上方への移動を規制しつつ側方に移動させて、被接合材2の内周縁部22付近と、頭部31aを有するリベット状の継手部3とによる機械的接合を形成することができる。
【0074】
この実施形態においても、接合用素材3の厚みや形成する継手部31の高さに関わらず、接合用素材3に対して一方向からのアクセス(シングルサイドアクセス)によって、接合用素材3と被接合材2とを優れた接合強度で接合することができる。また、頭部頭抑え板7の位置を調整することで、継手部31の頭部31a高さや径などを容易に調整することができる。
【0075】
なお、被接合材2の変形が大きくないときは、頭部抑え板7を可動とすることなく図6(C)の所定の位置に固定したままとし、頭部抑え板7による被接合材4の押さえを省略してもよい。
【実施例0076】
以下、実施例とともに、本発明の異種材接合方法および複合部材についてさらに詳しく説明するが、本発明の異種材接合方法および複合部材は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0077】
<実施例1>継手部の成形
直径10 mm のキリ穴をあけた1 mm 厚SPCE 鋼板(被接合材)と3 mm 厚A5083-O アルミニウム合金板(接合用素材)を接合した。具体的には、図3に示したように、被接合材の上を内径13.5 mm の貫通穴を有するブランクホルダー(板押さえ)で押さえ、その貫通穴中に、図3に示したSKD61のツールを侵入させて摩擦攪拌成形を行い、ブランクホルダーの連通孔とツールのショルダー部で構成されるインプレッション内にアルミニウム合金を完全に充満させた。なお。成形に際しては離型剤・潤滑剤は用いなかった。
【0078】
<実施例2>継手強度の試験
図6に示す試験片を用いて十字引張強度(CTS)、せん断引張強度(TSS)を評価した。試験装置としてSHIMADZU AUTOGRAPH AG-10TB(RX)を用い、クロスヘッド速度は1 mm/min とした。
【0079】
<実施例3>結果
図7に成形された継手部の外観と断面マクロ組織写真を示す。アルミニウム合金板の底の材料がひけて裏面が深さ0.6 mm 程度の凹部となっていることが観察された.アルミニウム合金が鋼板の上側に回り込んでインターロックを形成していることが確認された。スターゾーンは、ツールとの接触面近傍に観察され,プローブの根元部近くで顕著であるものの、局所的であった。熱影響のため、ビッカース硬さは全体的に成形前の母材(107 Hv)より軟化していた(図8)。
【0080】
また、貫通穴周辺の鋼板はアルミニウム合金の流動に伴い変形した。そのため、継手強度の評価試験時に破壊されるアルミニウム合金のせん断面面積は、鋼板の変形がないと想定した場合より、実際は小さくなる。
【0081】
図9に、CTS、TSS 評価時に破壊された継手の様子を示す。いずれも,アルミニウム合金から形成されたリベット状構造の頭部が破壊されている。
【0082】
CTS は2.03 kN(N=5,1σ=214 N)、TSS は4.12 kN(N=5, 1σ=431 N)であり、優れた接合強度を有していることが確認された。
【0083】
したがって、本発明の異種材接合方法によれば、接合用素材の厚みや形成する継手部の高さに関わらず、接合用素材に対して一方向からのアクセス(シングルサイドアクセス)によって、接合用素材と被接合材とを優れた接合強度で接合することができることが確認された。
【符号の説明】
【0084】
1 摩擦撹拌工具
2 被接合材
2A 第1面部
2B 第2面部
21 貫通穴
22 内周縁部
3 接合用素材
31 継手部
31a 頭部
4 ダイ
5 パンチ
6 ブランクホルダー
61 連通孔
62 頭部形成空間
7 頭部抑え板
71 開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10