(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169316
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】自動変速機用制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20221101BHJP
F16H 59/40 20060101ALI20221101BHJP
F16H 59/48 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/40
F16H59/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075280
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】服部 太
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA02
3J552RA03
3J552SA07
3J552VA34W
3J552VB01W
3J552VB02W
3J552VB03W
3J552VB04W
(57)【要約】
【課題】ホイルスピン状態で変速が実行される場合に、摩擦係合要素にかかる負荷を自動変速機の制御のみに基づいて効率的に低減させることが可能な自動変速機用制御装置を提供すること。
【解決手段】自動変速機(10)の変速動作を制御する自動変速機用制御装置(100)は、駆動輪(2)がグリップ状態であるかホイルスピン状態であるか検出する検出部(102)と、駆動輪がホイルスピン状態であると検出された際に摩擦係合要素(C1、C2、C3、B1、B2)の切替えを伴う変速が実行される場合、解放状態から係合状態へと切替えられる一の摩擦係合要素の切替えのために供給されるホイルスピン時油圧量を、グリップ状態での切替えのために供給される基準油圧量に、ホイルスピン状態における車両の走行状況に関連する少なくとも一つの車両走行情報に基づいて演算される補正油圧量を加算して決定するホイルスピン時油圧量決定部(103)と、を具備する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪がグリップ状態であるかホイルスピン状態であるか検出する検出部と、
前記検出部によって前記駆動輪が前記ホイルスピン状態であると検出された際に少なくとも1つの摩擦係合要素の切替えを伴う変速が実行される場合、前記ホイルスピン状態での前記変速に伴って解放状態から係合状態へと切替えられる一の摩擦係合要素の切替えのために供給されるホイルスピン時油圧量を、前記グリップ状態での前記変速に伴って解放状態から係合状態へと前記一の摩擦係合要素の切替えのために供給される基準油圧量に、前記ホイルスピン状態における車両の走行状況に関連する少なくとも一つの車両走行情報に基づいて演算される補正油圧量を加算して決定するホイルスピン時油圧量決定部と、
を具備する、自動変速機の変速動作を制御する自動変速機用制御装置。
【請求項2】
前記変速は、アップ変速である、請求項1に記載の自動変速機用制御装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記駆動輪の回転数と被駆動輪の回転数との回転数差が閾値以上である場合に、前記ホイルスピン状態であると検出する、請求項1又は2に記載の自動変速機用制御装置。
【請求項4】
前記検出部は、前記車両の車体の加速度と前記駆動輪の加速度との加速度差が閾値以上である場合に、前記ホイルスピン状態であると検出する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の自動変速機用制御装置。
【請求項5】
前記ホイルスピン時油圧量決定部は、前記ホイルスピン状態における前記駆動輪の回転数と被駆動輪の回転数との回転数差を前記車両走行情報とし、前記回転数差の値に応じて前記補正油圧量を演算する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の自動変速機用制御装置。
【請求項6】
前記ホイルスピン時油圧量決定部は、前記ホイルスピン状態における前記変速時に前記一の摩擦係合要素の入力側に伝達される入力トルクの大きさを前記車両走行情報とし、前記入力トルクの値に応じて前記補正油圧量を演算する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の自動変速機用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動変速機用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンから伝達される動力を車輪(駆動輪)に出力するに際し、複数の歯車機構を用いて達成される複数のギヤ段を適宜に変速させる自動変速機が知られている。自動変速機の変速は、所定のギヤ段を成立させるために少なくとも1つの摩擦係合要素の切替え、つまり、或る摩擦係合要素の解放状態から係合状態への切替え、又は或る摩擦係合要素の係合状態から解放状態への切替え、に基づいて実行される。
【0003】
一方、車両の走行状態としては、おおまかにいえば、車輪が路面にしっかりグリップしているグリップ状態と、車輪が路面に対して滑る(スリップする)状態であるホイルスピン状態に分けられる。ここで、ホイルスピン状態時に自動変速機で変速、とりわけアップ変速が実行される場合、或る摩擦係合要素を解放状態から係合状態へと切替えるに際し、当該或る摩擦係合要素の入力側と出力側との回転数差がグリップ状態時に比して大きくなり、当該或る摩擦係合要素に大きな負荷がかかってしまう(摩擦係合要素にて発生する熱量が大きくなってしまう)という問題がある。
【0004】
この問題に対し、特許文献1には、摩擦係合要素に通常の変速中よりも大きな負荷が発生することを判定する負荷発生判定手段を備え、負荷発生判定手段によって大きな負荷が発生すると判定されると、駆動源の出力トルクを抑制するトルクダウン信号出力手段を設ける旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される技術においては、トランスミッション、つまり自動変速機内で上記問題を解決するものではなく、エンジン等の駆動源との協調制御が必要となってしまう点で課題がある。具体的には、特許文献1に開示される技術は、エンジン等の駆動源からの出力トルクを抑制するものであることから、車両挙動に影響を及ぼしてしまうという課題がある。
【0007】
そこで、様々な実施形態により、ホイルスピン状態で変速が実行される場合に、摩擦係合要素にかかる負荷を自動変速機の制御のみに基づいて効率的に低減させることが可能な自動変速機用制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様に係る自動変速機用制御装置は、車両の駆動輪がグリップ状態であるかホイルスピン状態であるか検出する検出部と、前記検出部によって前記駆動輪が前記ホイルスピン状態であると検出された際に少なくとも1つの摩擦係合要素の切替えを伴う変速が実行される場合、前記ホイルスピン状態での前記変速に伴って解放状態から係合状態へと切替えられる一の摩擦係合要素の切替えのために供給されるホイルスピン時油圧量を、前記グリップ状態での前記変速に伴って解放状態から係合状態へと前記一の摩擦係合要素の切替えのために供給される基準油圧量に、前記ホイルスピン状態における車両の走行状況に関連する少なくとも一つの車両走行情報に基づいて演算される補正油圧量を加算して決定するホイルスピン時油圧量決定部と、を具備する。
【0009】
この構成の自動変速機用制御装置によれば、ホイルスピン状態で変速が実行される場合に、エンジン等の駆動源の出力トルクを抑制することなく、解放状態から係合状態へと切り替えられる一の摩擦係合要素にかかる負荷を効率的に低減させることが可能となる(当該一の摩擦係合要素にて発生する熱量を低減させることが可能となる)。
【0010】
また、一態様に係る前記自動変速機用制御装置において、前記変速は、アップ変速である。
【0011】
この構成とすることにより、ホイルスピン状態でアップ変速が実行される場合に、解放状態から係合状態へと切り替えられる一の摩擦係合要素にかかる負荷を効率的に低減させることが可能となる(当該一の摩擦係合要素にて発生する熱量を低減させることが可能となる)。
【0012】
また、一態様に係る前記自動変速機用制御装置において、前記検出部は、前記駆動輪の回転数と被駆動輪の回転数との回転数差が閾値以上である場合に、前記ホイルスピン状態であると検出する。
【0013】
この構成とすることにより、検出部は、駆動輪がホイルスピン状態であるか否かを確実に検出することができる。
【0014】
また、一態様に係る前記自動変速機用制御装置において、前記検出部は、前記車両の車体の加速度と前記駆動輪の加速度との加速度差が閾値以上である場合に、前記ホイルスピン状態であると検出する。
【0015】
この構成とすることにより、検出部は、駆動輪がホイルスピン状態であるか否かを確実に検出することができる。
【0016】
また、一態様に係る前記自動変速機用制御装置において、前記ホイルスピン時油圧量決定部は、前記ホイルスピン状態における前記駆動輪の回転数と被駆動輪の回転数との回転数差を前記車両走行情報とし、前記回転数差の値に応じて前記補正油圧量を演算する。
【0017】
この構成とすることにより、ホイルスピン時油圧量決定部は、補正油圧量及びホイルスピン時油圧量を確実に演算することができる。
【0018】
また、一態様に係る前記自動変速機用制御装置において、前記ホイルスピン時油圧量決定部は、前記ホイルスピン状態における前記変速時に前記一の摩擦係合要素の入力側に伝達される入力トルクの大きさを前記車両走行情報とし、前記入力トルクの値に応じて前記補正油圧量を演算する。
【0019】
この構成とすることにより、ホイルスピン時油圧量決定部は、補正油圧量及びホイルスピン時油圧量を確実に演算することができる。
【発明の効果】
【0020】
様々な実施形態によれば、ホイルスピン状態で変速が実行される場合に、摩擦係合要素にかかる負荷を自動変速機の制御のみに基づいて効率的に低減させることが可能な自動変速機用制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態に係る自動変速機用制御装置を含む車両の構成を模式的に示す概略図である。
【
図2】一実施形態に係る自動変速機用制御装置が制御する自動変速機の係合表である。
【
図3】一実施形態に係る自動変速機用制御装置の機能の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図4】一実施形態に係る自動変速機用制御装置によって或る摩擦係合要素を解放状態から係合状態へと切り替えられる場合を模式的に示すタイムチャートである。
【
図5】一実施形態に係る自動変速機用制御装置において行われる摩擦係合要素の切替制御に係る動作の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の様々な実施形態を説明する。なお、図面において共通した構成要件には同一の参照符号が付されている。また、或る図面に表現された構成要素が、説明の便宜上、別の図面においては省略されていることがある点に留意されたい。さらにまた、添付した図面が必ずしも正確な縮尺で記載されている訳ではないということに注意されたい。
【0023】
1.自動変速機用制御装置を含む車両の構成
一実施形態に係る自動変速機用制御装置を含む車両の全体構成の概要、当該車両に含まれる自動変速機の概要、及び一実施形態に係る自動変速機用制御装置の概要について、
図1乃至
図4を参照しつつ説明する。
図1は、一実施形態に係る自動変速機用制御装置100を含む車両1の構成を模式的に示す概略図である。
図2は、一実施形態に係る自動変速機用制御装置100が制御する自動変速機10の係合表である。
図3は、一実施形態に係る自動変速機用制御装置100の機能の一例を模式的に示すブロック図である。
図4は、一実施形態に係る自動変速機用制御装置100によって或る摩擦係合要素を解放状態から係合状態へと切り替えられる場合を模式的に示すタイムチャートである。
【0024】
一実施形態に係る自動変速機用制御装置100を含む車両1は、例えば、エンジン3を駆動源とするFR(フロントエンジン・リアドライブ)型の車両とすることができるが、これに限定されず、例えばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型の車両であってもよい。
【0025】
車両1がエンジン3を駆動源とする場合、当該車両1は、主に、エンジン3、トルクコンバータ5、自動変速機10、ドライバによってシフト操作がなされるシフト操作装置30、自動変速機10の出力軸10xに接続され駆動輪2へと動力を伝達する伝達機構50、自動変速機10の動作を制御する自動変速機用制御装置100、等を含むことができる。なお、図面の便宜上、
図1に示される各要素の位置等は正確ではない点に留意されたい。
【0026】
エンジン3は、従来から公知のエンジンを用いることができ、エンジン3の出力軸であるクランクシャフト3xがトルクコンバータ5に連結されている。これにより、エンジン3からの動力が、トルクコンバータ5、自動変速機10、及び伝達機構50を経由して左右の駆動輪2へと伝達される。
【0027】
トルクコンバータ5は、
図1に示すように、主に、インペラ、タービンランナ、ステータ、ワンウェイクラッチ、等を有する公知のものを用いることができる。なお、トルクコンバータ5には、ロックアップクラッチ5cが設けられている。
【0028】
1-1.自動変速機10
自動変速機10は、エンジン3等の駆動源からの動力を、出力軸10xから動力伝達経路上の下流側である伝達機構50を介して駆動輪2へと伝達することができる。なお、伝達機構50とは、主に、出力軸10xに接続されるプロペラシャフト51、プロペラシャフト51に接続しプロペラシャフト51から伝達される動力を左右の車輪2へと分配するディファレンシャルギヤ52、ディファレンシャルギヤ52と駆動輪2とを連結させるドライブシャフト53を含む。
【0029】
自動変速機10は、一例として
図1に示すように、軸方向に平行に配置される複数の遊星歯車機構と、パーキング機構13と、クラッチC1乃至C3と、ブレーキB1及びB2と、切替機構15と、を主に備えることができ、前進6段、後進1段のギヤ段が成立可能となっている。複数の遊星歯車機構と、パーキング機構13と、クラッチC1乃至C3と、ブレーキB1及びB2は、ケース11内に収容されている。なお、自動変速機10のギヤ段数は前進6段に限定されるものではなく、例えば、4段、5段、7段以上であってもよい。
【0030】
自動変速機10における遊星歯車機構、複数のクラッチ(例えば、クラッチC1乃至C3)、及び複数のブレーキ(例えば、ブレーキB1及びB2)の構成は、
図1に示される構成に特に限定されるものではなく、所定のギヤ段が成立するように、サンギヤ、リングギヤ、ピニオンギヤ、キャリア、複数のクラッチ、複数のブレーキ等を公知の構成に基づいて適宜に配置させればよい。
【0031】
クラッチC1乃至C3、ブレーキB1、及びブレーキB2は、油圧回路等を含む切替機構15によって係合状態又は解放状態のいずれかの状態とされる摩擦係合要素である。
【0032】
切替機構15は、シフト操作装置30に対するドライバのシフト操作によって選択されるシフトポジション(例えば「P」、「N」、「D」の各ポジション)のシフトレンジが成立するように、後述する自動変速機用制御装置100からの指令に基づき、自動変速機10に含まれる摩擦係合要素(
図1の場合においては、クラッチC1乃至C3、ブレーキB1、及びブレーキB2)の各々を、当該シフトポジションに対応する予め決められた係合状態又は解放状態に切り替えるものである。なお、シフト操作装置30においてドライブシフトポジション(「D」)が選択されている場合、切替機構15は、車両の走行状態に応じた所定のギヤ段が成立するように、自動変速機用制御装置100からの指令に基づき、摩擦係合要素の各々を、当該所定のギヤ段に応じて係合状態又は解放状態のいずれかの状態とするものである。
【0033】
さらに、切替機構15は、シフト操作装置30に対するドライバのシフト操作によって選択されるシフトポジションのシフトレンジが成立するように、自動変速機用制御装置100からの指令に基づき、パーキングポール13yをパーキングギヤ13xに対して進退させてパーキングロック状態又はパーキングアンロック状態にパーキング機構13を切り替えることができる。なお、パーキングギヤ13xは、自動変速機10の出力軸10x上に設けられ、出力軸10xと一体回転可能に設けられている。
【0034】
切替機構15は、主に、アクチュエータと、油圧回路とを備える従来から公知のものを用いることができる。アクチュエータと油圧回路は、複数の摩擦係合要素(
図1の場合においては、クラッチC1乃至C3、ブレーキB1、及びブレーキB2)の各々を、係合状態又は解放状態のいずれかの状態とすることができるよう構成されている。
【0035】
図2は、前進6段及び後進1段を実現する自動変速機10の各ギヤ段を成立させるためのクラッチC1乃至C3、ブレーキB1、及びブレーキB2の係合状態又は解放状態を示す係合表である。
図2において、「〇」は係合状態、「×」は解放状態を示す。
【0036】
例えば、
図2に係る係合表に基づけば、「1速」を実現させる場合においては、自動変速機用制御装置100からの指令に基づき、切替機構15がクラッチC1及びブレーキB2を係合状態とするようにアクチュエータを作動させることとなる。
【0037】
1-2.自動変速機用制御装置100
一実施形態に係る自動変速機用制御装置100は、いわゆるECU(Electronic Control Unit)であって、シフト操作装置30に対するドライバのシフト操作によって選択されるシフトポジションに関する信号を取得すると、前述にて説明したように切替機構15の動作を制御する。また、シフト操作装置30においてドライブシフトポジション(「D」)が選択されている場合、自動変速機用制御装置100は、車両の走行状態に応じた所定のギヤ段が成立するように、摩擦係合要素の各々を当該所定のギヤ段に応じて係合状態又は解放状態のいずれかの状態とするように切替機構15を作動させる。自動変速機用制御装置100が有する前述の機能は従来から公知のものであるため、より詳細な説明は省略する。
【0038】
一実施形態に係る自動変速機用制御装置100は、従来から公知の機能に加えて、主に車両1の駆動輪2がホイルスピン状態である場合に変速(ギヤ段を変更)するに際して特有な制御を実行することができるように、
図3に示すように、通信部101と、検出部102と、ホイルスピン時油圧量決定部103と、を含むことができる。
【0039】
通信部101は、車両に配置される様々なセンサから、種々の情報を受信することができる。通信部101は、例えば、駆動輪2(右駆動輪2a及び左駆動輪2b)の回転数を取得する第1回転数センサ(図示せず)から駆動輪2の回転数に関する信号を、被駆動輪(図示せず)の回転数を取得する第2回転数センサ(図示せず)から被駆動輪の回転数に関する信号を、それぞれ受信することができる。
【0040】
また、通信部101は、車両の車体(図示せず)の加速度を取得する第1加速度センサ(図示せず)から車体の加速度に関する信号を、駆動輪2(右駆動輪2a及び左駆動輪2b)の加速度を取得する第2加速度センサ(図示せず)から駆動輪2の加速度に関する信号を、それぞれ受信することができる。
【0041】
通信部101は、その他、エンジン3等の駆動源から自動変速機10に入力される入力トルクに関する信号等をさらに受信することができる。通信部101は、前述のとおり受信する様々な信号を、検出部102及び/又はホイルスピン時油圧量決定部103へと適宜送信することができる。また、通信部101は、ホイルスピン時油圧決定部103が決定したホイルスピン時油圧量に基づく信号を、切替機構15に送信することで、切替機構15のアクチュエータを作動させる。
【0042】
検出部102は、通信部101から受信する各種の信号に基づいて、車両1の駆動輪2がグリップ状態(通常状態)であるかホイルスピン状態であるかを検出する。具体的に、検出部102が、通信部101を介して駆動輪2及び被駆動輪の回転数に関する信号を受信する場合について説明する。この場合、検出部102は、右駆動輪2aの回転数と左駆動輪2bの回転数との平均値に基づいて駆動輪2の回転数を算出し、右被駆動輪の回転数と左被駆動輪の回転数との平均値に基づいて被駆動輪の回転数を算出した上で、駆動輪2の回転数と被駆動輪の回転数との回転数差を算出し、この回転数差が第1閾値以上である場合に、駆動輪2がホイルスピン状態であると検出することができる。
【0043】
また、検出部102が、通信部101を介して車体及び駆動輪2の加速度に関する信号を受信する場合について説明する。この場合、検出部102は、右駆動輪2aの加速度と左駆動輪2bの加速度との平均値に基づいて駆動輪2の加速度を算出した上で、車体の加速度と駆動輪2の加速度との加速度差が第2閾値以上である場合に、駆動輪2がホイルスピン状態であると検出することができる。
【0044】
ホイルスピン時油圧量決定部103は、検出部102によって駆動輪2がホイルスピン状態であると検出された際に自動変速機10においてアップ変速(ギヤ段の変更に係る摩擦係合要素の切替え)が実行される場合に、解放状態から係合状態へと切替えられる一の摩擦係合要素の切替えのために供給される油圧量(本明細書においては、「ホイルスピン時油圧量」ともいう。)を決定する。
【0045】
このホイルスピン時油圧量は、具体的には、当該一の摩擦係合要素をグリップ状態(通常状態)でのアップ変速時において解放状態から係合状態へと切替えるために供給される油圧量(本明細書においては、「基準油圧量」ともいう。)に、ホイルスピン状態における車両1の走行状況に関連する少なくとも一つの車両走行情報に基づいて演算される補正油圧量を加算して決定される。
【0046】
ここで、基準油圧量は、自動変速機用制御装置100が、グリップ状態での変速時において、一の摩擦係合要素の切替えのために供給されるものとして予め決められているものであり、従来から公知の方法にて決定されればよい。
【0047】
他方、ホイルスピン時油圧量決定部103は、通信部101を介して駆動輪2及び被駆動輪の回転数に関する信号を受信する場合、右駆動輪2aの回転数と左駆動輪2bの回転数との平均値に基づいて駆動輪2の回転数を算出し、右被駆動輪の回転数と左被駆動輪の回転数との平均値に基づいて被駆動輪の回転数を算出した上で、駆動輪2の回転数と被駆動輪の回転数との回転数差を前述の車両走行情報として補正油圧量を演算することができる。つまり、ホイルスピン時油圧量決定部103は、予め以下式1に示すような相関式を記憶しておき、前述のとおり演算した回転数差を以下式1に代入することで補正油圧量を演算することができる。なお、式1におけるαは適合試験等により予め決定される係数である。
【0048】
【0049】
また、ホイルスピン時油圧量決定部103は、通信部101を介して自動変速機10に入力される入力トルクに関する信号を受信する場合、ホイルスピン状態における変速時に自動変速機10に入力される入力トルクの大きさ(つまり、前述の一の摩擦係合要素の入力側に伝達される入力トルクの大きさ)を前述の車両走行情報として、補正油圧量を演算することもできる。この場合の補正油圧量の演算に際しては、前述の回転数差を用いる場合に代えて、又は前述の回転数差を用いる場合とともに、以下式2又は式3に基づいて補正油圧量を演算することができる。なお、式2におけるβ及び式3におけるγは、式1のαと同様、適合試験等により予め決定される係数である。
【0050】
【0051】
【0052】
ここで、以上のとおり説明した検出部102及びホイルスピン時油圧量決定部103の機能について、
図4を参照しつつ、さらに具体的に説明する。
【0053】
一例として、自動変速機10が
図2に示される係合表に基づくギヤ段が設定されている場合において、例えば、「1速」から「2速」へのアップ変速が実行される場面を想定されたい。この場合のアップ変速においては、摩擦係合要素としてブレーキB1が解放状態(1速時において解放状態)から係合状態(2速時において係合状態)へと切替えられることとなる。したがって、この場合のアップ変速においては、
図4における「一の摩擦係合要素」を「ブレーキB1」に読み替えることができる。なお、この際、ブレーキB2が、係合状態から解放状態へと切り替えられる。ここで、
図4において、ブレーキB2を、便宜上「別の摩擦係合要素」と称し、
図4における二点破線は、ブレーキB2に対応する油圧量の変遷を示すものである。
【0054】
この場合において、一実施形態に係る自動変速機用制御装置100は、エンジン3の回転数、アクセル開度等の車両に関する種々の情報を、車両に配置される様々なセンサから通信部101を介して受信して、これらの種々の情報を基に変速制御(摩擦係合要素の切替制御)を開始するか否かを決定する。この変速制御の開始に係る具体的な決定方法については、従来から公知の方法を用いることができるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0055】
一実施形態に係る自動変速機用制御装置100は、時間T0において変速制御を開始する旨を決定すると、一の摩擦係合要素としてのブレーキB1をトルク伝達可能(少なくとも部分的な係合状態としての半係合状態)となる位置に向かって移動するように所定の油圧量を供給させる。つまり、トルク非伝達の状態における、いわゆる遊びの範囲内においてブレーキB1の状態を移行させる。また、自動変速機用制御装置100は、時間T0において係合状態であった別の摩擦係合要素としてのブレーキB2をトルク非伝達(少なくとも部分的な解放状態としての半係合状態)となる位置に向かって移動するように油圧量を減少させる。つまり、トルク伝達可能な状態における、いわゆる遊びの範囲内においてブレーキB2の状態が移行する。
【0056】
次に、時間T1において、ブレーキB1がトルク伝達可能な状態(実質的には、トルクを部分的に伝達する半係合状態)に移行すると、その検出部102が、車両1の駆動輪2がグリップ状態(通常状態)であるかホイルスピン状態であるかを前述のとおり検出する。つまり、検出部102は、一例として、時間T1における駆動輪2の回転数と被駆動輪の回転数との回転数差Wを算出し、回転数差Wが予め設定される第1閾値以上である場合に、駆動輪2がホイルスピン状態であると検出することができる。ここで、時間T1において、検出部102が、グリップ状態であると検出すると、自動変速機用制御装置100は、ブレーキB1を完全な係合状態へと切替えるために通常の切替制御、つまり、基準油圧量が供給されることとなる。
【0057】
他方、時間T1において、検出部102が、駆動輪2がホイルスピン状態であると検出すると、ホイルスピン時油圧量決定部103が、前述のとおり補正油圧量を演算したうえでホイルスピン時補正量を決定する。これにより、時間T1以降、ブレーキB1に対して、基準油圧量に補正油圧量が加算されたホイルスピン時油圧量が供給されることとなる。
【0058】
ところで、
図4の時間T0~T1のブレーキB1の入力側と出力側との間の相対回転数に着目すると、時間T0~T1においては、前述のとおり、ブレーキB1はトルク伝達可能な係合状態とはなっておらず、トルク非伝達の状態におけるいわゆる遊びの範囲内にあり、依然として解放状態となっている。したがって、ブレーキB1の入力側は自動変速機10の入力軸と一体的に回転しているのに対し、ブレーキB1の出力側は解放状態であるため回転が発生しておらず、結果として入力側と出力側との間で相応の回転数差(相対回転)が発生している。
【0059】
時間T1以降、ブレーキB1に対して、基準油圧量に補正油圧量が加算されたホイルスピン時油圧量が供給されると同時に、ブレーキB2を完全な解放状態へと次第に切替えていくと、時間T2において、内部慣性が変化するイナーシャ相に移行する。この場合、自動変速機10の入力軸の回転数は、時間T2以降、アップ変速の場合においては通常下降していくが、ブレーキB1が(完全な)係合状態となるための油圧量の増加と、ブレーキB2が(完全な)解放状態となるための油圧量の減少との間にズレが生じると、自動変速機10の入力軸の回転数は一旦上昇するような場合がある(
図4参照)。とりわけ、駆動輪2がホイルスピン状態である場合におけるアップ変速では、ギヤ比の変化に伴って駆動輪2のホイルスピン状態が解消(つまりグリップ状態に復帰)しやすくなるため、自動変速機10の入力軸の負荷が上がり、ブレーキB1への供給油圧量が不足してエンジンの吹き上がりが生じやすい。
図4に示されるように、一実施形態においては、前述のとおり、基準油圧量に補正油圧量が加算されたホイルスピン時油圧量がブレーキB1に供給されるため、エンジンの吹き上がりの発生を抑制することができ、仮に、エンジンの吹き上がりが発生したとしても、その吹き上がり量を抑制することができる。なお、
図4においては、時間T2を起点として駆動輪2の回転数が低下し始める旨が示されている。さらに、
図4においては、エンジンの吹き上がりが生じた場合が示されており、点線で示す場合(基準油圧量のみが供給される場合)に比して、実線で示す場合(ホイルスピン時油圧量が供給される場合)の方が、エンジンの吹き上がりを抑制している旨が示されている。
【0060】
さらに、時間T2を起点として、自動変速機10の入力軸の回転数が吹き上がることと、駆動輪2の回転数が低下し始めることにより、
図4に示すように、ブレーキB1の入力側(自動変速機10の入力軸側)と出力側(駆動輪2に直結する自動変速機10の出力軸10x側)との間の相対回転数(回転数差)が増加していく。
【0061】
その後、ブレーキB1に供給される油圧量が上昇して、ブレーキB1の係合状態が徐々に完全な係合状態に近づいてくると、時間T3を起点にして、自動変速機10の入力軸の回転数は次第に減少し始める。これにより、時間T3以降、ブレーキB1の入力側と出力側との間の相対回転数(回転数差)は減少していく。また、時間T3以降、駆動輪2へのトルク伝達が復帰するため、駆動輪2がホイルスピン状態となりやすくなり、駆動輪2の回転数も次第に漸増し始める。
【0062】
その後、さらにホイルスピン時油圧量が供給され続けると、時間T4において、ブレーキB1の入力側と出力側との間の相対回転数(回転数差)がなくなり(つまり、両者の回転数が一致し)、ブレーキB1が(完全な)係合状態となる。なお、
図4における時間T0~T1までの駆動輪2の回転数に比して、時間T4以降における駆動輪2の回転数が低くなっているが、これは時間T0~T1までの駆動輪2の回転数は1速の回転数であり、時間T4以降における駆動輪2の回転数は2速の回転数であることに起因している。つまり、ギヤ比分だけ回転数が減少している。
【0063】
以上のとおり、時間T1~時間T4にかけてホイルスピン時油圧量が供給されることにより、ブレーキB1が解放状態から係合状態へと切り替えられる。同時に、ブレーキB2が係合状態から解放状態へと切り替えられる。
【0064】
なお、
図4中に示される点線は、時間T1において検出部102がホイルスピン状態であると検出したにもかかわらず、ブレーキB1に対して、グリップ状態でのアップ変速時において供給される基準油圧量が供給される場合における、自動変速機10の入力軸の回転数、駆動輪2の回転数、及びブレーキB1の入力側と出力側との間の相対回転数を示すものである。
【0065】
この場合、ホイルスピン状態であるにも関わらず、ブレーキB1に供給される油圧量に補正油圧量が加算されていないため、その油圧量はホイルスピン時油圧量よりも少ない。したがって、ブレーキB1が解放状態から半係合状態となるタイミングが、時間T3よりも後の時間T3‘となってしまう。このため、前述にて説明したホイルスピン時油圧量が供給される場合に比べて、自動変速機10の入力軸の回転数の吹き上がりと、駆動輪2の回転数の低下が著しく進行してしまう結果、ブレーキB1の入力側と出力側との間の相対回転数が大きくなってしまう。
【0066】
さらに、ブレーキB1が係合状態となるタイミングも、時間T4よりも後の時間T4‘となってしまう。
【0067】
以上のことから、ホイルスピン状態においてブレーキB1を解放状態から係合状態へと切り替えるに際し、前述のとおり説明したホイルスピン時油圧量を供給することは、基準油圧量を供給する場合に比して、その切替時間を短縮できるとともに、ブレーキB1の入力側と出力側との間の相対回転数の増加を抑制することが可能となる。このため、ブレーキB1にかかる負荷(ブレーキB1にて発生する熱量)を効率的に低減させることが可能となる。
【0068】
2.自動変速機用制御装置100の動作
次に、一実施形態に係る自動変速機用制御装置100において実行される摩擦係合要素の切替制御に係る動作について、
図5を参照して説明する。
図5は、一実施形態に係る自動変速機用制御装置100において行われる摩擦係合要素(例えば、上記の場合におけるブレーキB1)の切替制御に係る動作の一例を示すフロー図である。
【0069】
まず、ステップ(以下、「ST」という。)200において、自動変速機用制御装置100は、エンジン回転数、アクセル開度等の様々な情報を基に、アップ変速に係る摩擦係合要素の切替制御(変速制御)を開始するか否かを決定する。切替制御を開始すると決定(ST200において「YES」と判定)すると、ST201へと移行する。一方、切替制御を開始しないと決定(ST200において「NO」と判定)すると、切替制御は終了する。
【0070】
次に、ST201において、自動変速機用制御装置100の検出部102は、前述のとおりの方法で、車両1の駆動輪2がグリップ状態(通常状態)であるかホイルスピン状態であるかを検出する。駆動輪2がホイルスピン状態であると検出(ST201において「YES」と判定)すると、ST202へと移行する。一方、駆動輪2がグリップ状態であると検出(ST201において「NO」と判定)すると、自動変速機用制御装置100は、通常の切替制御を実行するべく基準油圧量に係る信号を切換機構15に出力する。
【0071】
次に、ST202において、自動変速機用制御装置100のホイルスピン時油圧量決定部103は、前述のとおりの方法で、補正油圧量を演算する。
【0072】
次に、ST203において、自動変速機用制御装置100のホイルスピン時油圧量決定部103は、ST202にて演算した補正油圧量に、予め設定されている基準油圧量を加算してホイルスピン時油圧量を決定する。
【0073】
次に、ST204において、自動変速機用制御装置100の通信部101は、ホイルスピン時油圧量決定部103によって決定されたホイルスピン時油圧量に関する信号を、切替機構15へ出力する。これにより、自動変速機用制御装置100における切替制御を終了する。
【0074】
なお、自動変速機用制御装置100の通信部101からホイルスピン時油圧量に関する信号を受信した切替機構15が、当該信号に基づくホイルスピン時油圧量を一の摩擦係合要素(例えば、ブレーキB1)に対して供給するようアクチュエータを作動させる。
【0075】
以上、前述のとおり、様々な実施形態を例示したが、上記実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数等は適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 車両
2 駆動輪
10 自動変速機
10x 自動変速機の出力軸
15 切替機構
100 自動変速機用制御装置
102 検出部
103 ホイルスピン時油圧量決定部
C1、C2、C3、B1、B2 摩擦係合要素