(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169351
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】歯列矯正用のアライナー
(51)【国際特許分類】
A61C 7/08 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
A61C7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075331
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】317005642
【氏名又は名称】仮屋 聖子
(71)【出願人】
【識別番号】521183888
【氏名又は名称】パットキートス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島 文男
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052JJ01
(57)【要約】
【課題】患者の歯の種々の不正咬合を矯正し、また歯並びを綺麗に矯正できるアライナーを提供する。
【解決手段】歯列矯正用のアライナー100は、歯列矯正されない非矯正歯4を含む患者の複数の歯に脱着自在に被着される溝型に成形されてなるホルダー部5と、一部又は全体がホルダー部5と異なる引張弾性率であって、ホルダー部5に一体構造であって矯正歯2を含む領域に被着されて、弾性復元力で矯正歯2を矯正方向に押圧する矯正部3とを備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯列矯正されない非矯正歯を含む患者の複数の歯に脱着自在に被着される溝型に成形されてなるホルダー部と、
一部又は全体が前記ホルダー部と異なる引張弾性率であって、前記ホルダー部に一体構造であって矯正歯を含む領域に被着されて、弾性復元力で矯正歯を矯正方向に押圧する矯正部と、
を備える歯列矯正用のアライナー。
【請求項2】
請求項1に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記ホルダー部が、
矯正歯の両側に位置する非矯正歯に被着される溝型である歯列矯正用のアライナー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記ホルダー部が、
矯正歯を除く臼歯と犬歯と切歯に被着される溝型であることを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正部が、
矯正歯を押圧して矯正方向に移動させる押圧部を有することを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項5】
請求項4に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正部が、
それ自体が弾性変形して、前記押圧部を矯正歯に押圧する弾性変形部を有することを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項6】
請求項5に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記弾性変形部が、
前記ホルダー部と異なる成形材で成形されてなることを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記弾性変形部の膜厚が、
前記ホルダー部と異なる膜厚であることを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項8】
請求項7に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記弾性変形部の膜厚が、
前記ホルダー部よりも厚いことを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正部が、
歯列矯正される矯正歯の移動しない非移動部に接して、移動を抑制するストッパ部を有することを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正部が、
矯正歯との間に移動スペースを有する非接触領域を備えることを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正部の一部又は全体が、
前記ホルダー部と異なる成形材で成形されて前記ホルダー部と引張弾性率が異なることを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正部の一部又は全体の膜厚が、
前記ホルダー部と異なる膜厚であることを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正部は、
弾性体が埋設されて、前記ホルダー部と異なる引張弾性率としてなることを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項14】
請求項13に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記弾性体が、弾性変形するプラスチックまたは弾性金属で、
前記矯正歯の表面に沿う板状ないしは線状として、前記矯正部に埋設されてなることを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正部が、
矯正歯である切歯に被着されて歯列矯正する溝型であることを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項16】
請求項1ないし14のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正部が、
矯正歯である臼歯に被着されて歯列矯正する溝型であることを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記ホルダー部及び前記矯正部が、
上下の歯の咬合面を被覆する咬合部と、
前記咬合部の両側に連結されて歯の両側面を被覆する一対の対向壁とを備え、
前記矯正部の前記対向壁と前記咬合部のいずれか又は両方が、
前記ホルダー部の前記対向壁と前記咬合部と異なる引張弾性率であることを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項18】
請求項1ないし17のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正部と前記ホルダー部が、
熱可塑性のプラスチックとエラストマーの何れか又は両方で成形されてなることを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【請求項19】
請求項1ないし18のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
内面にクッション層を有することを特徴とする歯列矯正用のアライナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の歯に脱着自在に被着して歯列を矯正するアライナーに関する。
【背景技術】
【0002】
人体の歯は不正咬合を解消し、また外観を綺麗にすることを目的として歯列矯正されている。歯列矯正は、矯正の必要な矯正歯を弾性的に押圧して実現される。歯を支持している歯ぐきの中には、歯を支える歯槽骨があり、歯槽骨と歯の根の部分(歯根)の間には歯根膜がある。歯根膜は、歯にかかる衝撃を和らげるクッション作用のある緩衝膜である。矯正歯を弾性的に特定の方向に押圧すると、押圧される側の歯根膜は圧縮され、反対側の歯根膜は伸張する状態となる。圧縮された歯根膜は、元の形状に復元しようとして歯槽骨を溶かす細胞を作って溶かし、伸張された歯槽骨は歯を作る細胞を作って新しく歯槽骨を再生する。矯正歯が弾性的に連続して押圧されると、歯槽骨の溶解と再生が繰り返されて歯は押圧された方向に徐々に移動する。矯正歯を押圧して、1ヶ月に0.5mm~1mm程度の移動が可能である。
【0003】
矯正歯を一定の方向に押して歯列矯正するアライナーが開発されている(特許文献1及び2参照)。従来のアライナーは、患者の歯に脱着自在に被着できる形状にプラスチックシートを真空成形したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010-501247号公報
【特許文献2】特表2018-501059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラスチックシートを真空成形して製作している従来のアライナーは、患者の歯形と同じ形状の歯形模型を石膏などで製作し、この歯形模型を使用して、患者の矯正歯を正常な位置に矯正して修正歯形模型を製作し、この修正歯形模型の表面に加熱したプラスチックシートを吸着して製作される。
【0006】
以上のアライナーは、患者の歯に被着して歯列矯正はできるが、患者に最適な矯正力で矯正歯を押圧して矯正するのが難しい。とくに、1枚のプラスチックシートを真空成形して製作するので、矯正歯を弾性的に押して矯正する矯正力のコントロールが難しく、各々の患者に最適な矯正力で矯正することができない。
【0007】
本発明は、以上の欠点を解消することを目的に開発されたもので、本発明の一目的は、矯正する歯を患者に最適な力で押圧して歯列矯正できるアライナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明の一実施態様の歯列矯正用のアライナーは、歯列矯正されない非矯正歯を含む患者の複数の歯に脱着自在に被着される溝型に成形されてなるホルダー部と、一部又は全体がホルダー部と異なる引張弾性率であって、ホルダー部に一体構造であって矯正歯を含む領域に被着されて、弾性復元力で矯正歯を矯正方向に押圧する矯正部とを備えている。
【0009】
以上のアライナーは、矯正のために歯を押圧する力を患者に最適な力として有効に矯正できる特長がある。それは、以上のアライナーが、非矯正歯を含む歯に被着されるホルダー部と、矯正歯を含む歯に被着される矯正部とを一体構造に成形して、矯正部とホルダー部と異なる引張弾性率とするので、矯正部とホルダー部の各々を最適な引張弾性率、すなわち最適な硬さとして、矯正部でもって矯正歯を有効に矯正できるからである。アライナーは、矯正部が強く矯正歯を押圧する構造、すなわち矯正部の引張弾性率を高くして、矯正歯を速やかに矯正できるが、患者の歯に被着した状態での不快感が強くなる。反対に矯正部の引張弾性率を小さくして矯正力を弱くすると、装着された患者の不快感を少なくして快適に矯正できるが、矯正に時間がかかる弊害がある。以上のアライナーは、矯正部とホルダー部の引張弾性率を別々に最適な引張弾性率に設定できるので、ホルダー部の引張弾性率は、非矯正歯に位置ずれなく被着できる最適な引張弾性率とし、矯正部の引張弾性率は、敏感な患者にあっては小さくして被着する患者の不快感を少なくでき、反対に強靱な患者の歯に被着されるアライナーにあっては、ホルダー部の引張弾性率に比較して矯正部の引張弾性率を高くして、速やかに歯列矯正できる構造に調整できる。したがって、敏感な患者から強靱な患者の各々に、最適な状態で歯列矯正できる特長がある。さらに、矯正部の全体のみならず、一部をホルダー部と異なる引張弾性率とすることで、より細かく押圧力を調整できる特長もある。
【0010】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、ホルダー部が、矯正歯の両側に位置する非矯正歯に被着される溝型である。
【0011】
以上のアライナーは、矯正歯の両側に位置する非矯正歯に位置ずれなく被着することで、矯正部と一体構造のホルダー部が矯正部による最適な押圧力を支えることができる特長がある。
【0012】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、ホルダー部が、矯正歯を除く臼歯と犬歯と切歯に被着される溝型である。
【0013】
以上のアライナーは、ホルダー部が形状、位置、役割の異なる複数の歯に安定的に被着できる特長がある。
【0014】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正部が、矯正歯を押圧して矯正方向に移動させる押圧部を有する。
【0015】
以上のアライナーは、押圧部により矯正歯を最適な力で押圧して歯列矯正できる特長がある。
【0016】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正部が、それ自体が弾性変形して、押圧部を矯正歯に押圧する弾性変形部を有する。
【0017】
以上のアライナーは、押圧部と共に弾性変形部により最適な力で矯正歯を押圧して歯列矯正できる特長がある。
【0018】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、弾性変形部を、ホルダー部と異なる成形材で成形している。
【0019】
以上のアライナーは、弾性変形部をホルダー部と異なる成形材で成形するので、ホルダー部を患者に快適に被着できる硬さとしながら、弾性変形部の弾性復元力を矯正に最適な矯正力に調整して歯列矯正できる特長がある。
【0020】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、弾性変形部の膜厚を、ホルダー部と異なる膜厚としている。
【0021】
以上のアライナーは、弾性変形部の膜厚を調整して押圧部が矯正歯を押圧する力を最適にできるので、各々の患者の矯正歯を最適な矯正力で矯正できる特長がある。
【0022】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、弾性変形部の膜厚を、ホルダー部よりも厚くしている。
【0023】
以上のアライナーは、弾性変形部の膜厚をホルダー部よりも厚くするので、弾性変形部の弾性復元力による矯正歯の矯正力を強くして、患者の矯正歯を速やかに矯正できる特長がある。
【0024】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正部が、歯列矯正される矯正歯の移動しない非移動部に接して、移動を抑制するストッパ部を有する。
【0025】
以上のアライナーは、ストッパ部で非移動部の移動を抑制しながら矯正歯の矯正できるので、例えば傾斜姿勢の矯正歯を正常な姿勢に傾動して有効に矯正できる特長がある。
【0026】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正部が、矯正歯のとの間に移動スペースを形成する非接触領域を備える。
【0027】
以上のアライナーは、矯正歯との間に移動スペースを形成する非接触領域を矯正部に設けているので、矯正歯の移動を妨げることなくスムーズに移動させて効率よく矯正できる特長がある。
【0028】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正部の一部又は全体が、ホルダー部と異なる成形材で成形されてホルダー部と引張弾性率が異なる。
【0029】
以上のアライナーは、ホルダー部と矯正部を異なる成形材で成形するので、ホルダー部は快適に患者の歯に被着できる硬さとしながら、矯正部は確実に矯正歯を押圧して患者に最適な状態で歯列矯正できる特長がある。
【0030】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正部の一部又は全体の膜厚が、ホルダー部と異なる膜厚である。
【0031】
以上のアライナーは、矯正部の膜厚を調整して最適な押圧力で矯正歯を押圧できるので、患者に最適な矯正力で歯列矯正できる特長がある。
【0032】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正部に弾性体を埋設して、ホルダー部と異なる引張弾性率としている。
【0033】
以上のアライナーは、矯正歯を押圧する矯正部に弾性体を埋設してホルダー部と異なる引張弾性率とするので、矯正歯をより強い押圧力で押圧して効果的に矯正できる特長がある。とくに、このアライナーは、成形材の弾性力だけでは実現できない押圧力を弾性体で実現できるので、矯正歯を効果的に押圧できる特長がある。さらに、このアライナーは、成形材に埋設する弾性体で矯正歯を押圧して矯正するので、歯に快適に被着できる柔軟な成形材を使用することができ、被着時における違和感や不快感を低減できる。
【0034】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、弾性体が弾性変形するプラスチックまたは弾性金属で、矯正歯の表面に沿う板状ないしは線状として、矯正部に埋設している。
【0035】
以上のアライナーは、埋設する弾性体の材質や形状、埋設状態を患者の不正咬合の程度や不正咬合の状態を考慮して調整することで、患者に最適な状態で歯列矯正できる特長がある。
【0036】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正部を、矯正歯である切歯に被着されて歯列矯正する溝型としている。
【0037】
以上のアライナーは、不正咬合、歯並びの外観に影響の大きい切歯を最適な力で押圧して歯列矯正できる特長がある。
【0038】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正部を、矯正歯である臼歯に被着されて歯列矯正する溝型としている。
【0039】
以上のアライナーは、上下の歯の噛み合わせに影響の大きい臼歯を最適な力で押圧して歯列矯正できる特長がある。
【0040】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、ホルダー部及び矯正部が、上下の歯の咬合面を被覆する咬合部と、咬合部の両側に連結されて歯の両側面を被覆する一対の対向壁とを備え、矯正部の対向壁と咬合部のいずれか又は両方が、ホルダー部の対向壁と咬合部と異なる引張弾性率である。
【0041】
以上のアライナーは、矯正部の対向壁と咬合部のいずれか又は両方を、ホルダー部の対向壁や咬合部と異なる引張弾性率となるように成形するので、ホルダー部は快適に患者の歯に被着できる硬さとしながら、矯正部は矯正歯を最適な押圧力で押圧できる構造として、患者に最適な状態で歯列矯正できる特長がある。
【0042】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正部とホルダー部を、熱可塑性のプラスチックとエラストマーの何れか又は両方で成形している。
【0043】
以上のアライナーは、矯正部やホルダー部の素材として、熱可塑性のプラスチックを使用することで簡単にアライナーを製造でき、エラストマーと使用することで違和感なく快適に患者の歯に被着できる。
【0044】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、内面にクッション層を有する。
【0045】
以上のアライナーは、ホルダー部は快適に患者の歯に被着できるとともに、アライナーと歯との間の浮きをなくしアライナーをしっかり所定の位置まで装着できる特長がある。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】
図1は、本発明の一実施態様に係るアライナーを装着する様子を示す概略斜視図である。
【
図2】
図2は、アライナーで患者の歯を矯正する代表的な例を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、歯に装着したアライナーを示す概略水平断面図である。
【
図4】
図4は、矯正歯を平行移動して矯正するアライナーの一例を示す概略水平断面図である。
【
図5】
図5は、矯正歯を平行移動して矯正するアライナーの他の一例を示す概略水平断面図である。
【
図6】
図6は、矯正歯を回転して矯正するアライナーの一例を示す概略水平断面図である。
【
図7】
図7は、矯正歯を回転して矯正するアライナーの他の一例を示す概略水平断面図である。
【
図8】
図8は、矯正歯を正常な姿勢に傾動させるアライナーの一例を示す概略垂直断面図である。
【
図9】
図9は、矯正歯を正常な姿勢に傾動させるアライナーの他の一例を示す概略垂直断面図である。
【
図10】
図10は、特定の領域に弾性体を埋設したアライナーを示す概略断面図である。
【
図11】
図11は、歯に装着したアライナーの他の一例を示す概略垂直断面図である。
【
図12】
図12は、歯に装着したアライナーの他の一例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想の具体例を示すものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施形態、実施例において説明する内容は、他の実施形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
[アライナーによる矯正]
【0048】
図1は、本発明の実施形態1に係る歯列矯正用のアライナー100を装着する様子を示す概略斜視図である。アライナー100は、非矯正歯4と矯正歯2からなる患者の複数の歯に脱着自在に被着されて矯正歯2を歯列矯正する。アライナー100は、好ましくは、
図1に示すように、人体の上顎11と下顎12の両方の歯列に被着されて、上顎11と下顎12の歯列を矯正し、あるいは上顎11と下顎12のいずれか一方の歯列を矯正する。上顎11と下顎12の両方にアライナー100を被着して、両方の歯列を同時に矯正する一対のアライナー100は、上下の歯の噛み合わせを最適な状態としながら歯列矯正できる特長がある。
【0049】
図1に示す上顎11の歯列を矯正するアライナー100は、上顎11の全ての歯に被着されて矯正歯2を矯正し、下顎12の歯を矯正するアライナー100は、下顎12の全ての歯に被着されて矯正歯2を矯正する。上顎11又は下顎12の全ての歯に被着して、矯正歯2を矯正するアライナー100は、ホルダー部5を多数の非矯正歯4に被着して、安定に位置ずれなく定位置に配置して、矯正歯2を好ましい位置に矯正できる。ただし、本発明のアライナー100は、必ずしも上顎11又は下顎12の全ての歯に被着することなく、例えば、矯正歯2とその両側の非矯正歯4を含む歯に嵌合構造で被着されて、特定の矯正歯2を矯正することもできる。
【0050】
図1に示すように、上顎11又は下顎12の歯に被着されるアライナー100は、患者の矯正歯2と非矯正歯4に脱着自在に被着されるキャビティー1を内側に設けている溝型に成形されている。キャビティー1は、嵌合構造で非矯正歯4と矯正歯2とに被着される。ただし、キャビティー1は、好ましくは非矯正歯4と矯正歯2に嵌合構造で被着されるが、矯正歯2は必ずしも嵌合構造で矯正歯2に被着されない。それは、矯正部3は、矯正歯2をスムーズに移動できるように移動スペース3eを設けて、矯正歯2に被着される形状とすることがあるからである。嵌合構造で歯に被着されるキャビティー1は、内形を非矯正歯4と矯正歯2の外形にほぼ等しく、正確には患者の歯の外形よりもわずかに大きく、かつ被着された状態で位置ずれすることなく、矯正歯2を弾性的に押圧する形状としている。アライナー100は、患者の歯の表面のみを覆う形状に成形され、あるいは歯と歯ぐきの一部を覆う形状に成形される。
【0051】
矯正部3は、矯正歯2を含む領域に被着されて、弾性復元力で矯正歯2を矯正方向に押圧する。
図1などにおいて、矯正歯2を覆う領域を矯正部3とし、それ以外の矯正歯2に隣接する非矯正歯4を覆う領域をホルダー部5とする。ただし、矯正部3は、アライナー100が内側において矯正歯2に接触する部分のみに限定されるものではなく、必要に応じて矯正歯2の隣接歯など矯正歯2以外の歯を覆う領域に及び得る。アライナー100は、矯正部3の弾性復元力で矯正歯2を押圧して矯正するものであり、矯正部3の範囲は、弾性復元力による矯正歯2への押圧力を創出する領域を含めるものとする。また、例えば、矯正歯2を正常な位置に矯正するために移動先の十分なスペースがない場合、矯正歯2に隣接する歯、さらにはその周辺の歯を含めて移動させて矯正歯2の移動先のスペースを確保する場合などもある。
【0052】
アライナー100は、患者の歯に被着されて、正常な位置と姿勢にない歯を正常な位置と姿勢に矯正する。
図2は、患者の歯を矯正する代表的な例を示している。
図2において、アライナー100の外形線を太線で示している。
図2Aは矯正歯2を平行移動して矯正する場合、
図2Bは矯正歯2を回転して矯正する場合、
図2Cは矯正歯2を正常な姿勢に傾動して矯正する場合を、それぞれ示している。矯正歯2は、
図2Aないし
図2Cに示すパターンを単独で、あるいは組み合わせることで正常な位置と姿勢に矯正される。これらの図は歯列矯正の例であり、いずれの場合も矯正方向を限定するものではなく、実際の矯正歯2の状態に応じて最適な矯正方向が定められる。患者の歯に被着されたアライナー100は、それ自体の弾性復元力で矯正歯2を押圧して、正常な位置と姿勢にない矯正歯2を正常な位置と姿勢に矯正する。
【0053】
図3は、矯正歯2が歯列矯正される複数の歯に被着されるアライナー100の概略水平断面図を示している。図において、アライナー100の外形線を鎖線で示している。アライナー100は、歯列矯正されない非矯正歯4に被着されるホルダー部5と、矯正歯2に被着されて矯正歯2を矯正する矯正部3とを備える。矯正部3は、矯正歯2に被着されて矯正歯2を正常な位置と姿勢に移動させるので、矯正歯2に被着される領域からホルダー部5に伸びる領域で構成される。矯正部3が変形して矯正歯2を正常な位置と姿勢に移動させるからである。ホルダー部5と矯正部3は、患者の複数の歯に脱着自在に被着できるように、断面形状を溝型に成形している。
【0054】
なお、矯正部3は矯正歯2を含む領域に被着されて矯正歯2を矯正する部分である。矯正部3は矯正歯2のみならず、その隣接歯、さらにはその周辺歯を含めて矯正する場合は、これらが被着される部分も含めて矯正部3とする。例えば、矯正歯2を正常な位置に矯正するために移動先の十分なスペースがない場合、矯正歯2に隣接する歯、さらにはその周辺の歯を含めて移動させて矯正歯2の移動先のスペースを確保することがある。また、ある矯正歯2の矯正に伴い矯正歯2に隣接する歯、さらにはその周辺の歯を含めて不必要な移動を阻止する場合も同様である。
【0055】
図3のアライナー100は、図において左側の中切歯を矯正歯2として歯列矯正するので、ホルダー部5は、左側の中切歯を除く右側の中切歯と、両側の側切歯と、両側の犬歯と、両側の臼歯を非矯正歯4として、これ等の非矯正歯4に脱着自在に被着される。
図3に示すアライナー100は、全ての非矯正歯4にホルダー部5を被着して、矯正歯2を歯列矯正するので、ホルダー部5を位置ずれなく非矯正歯4に被着して、矯正歯2を正確に歯列矯正できる特長がある。ただし、アライナー100は、必ずしも全ての非矯正歯4にホルダー部5を被着することなく、ホルダー部5を一部の非矯正歯4に被着して矯正歯2を矯正することもできる。
【0056】
アライナー100は、特定の領域を他の領域と異なる材料の成形材で成形し、また特定の領域を他の領域と異なる引張弾性率の成形材で成形する。例えば、矯正部3は、それ自体が弾性変形して矯正歯2を押圧して歯列矯正する領域であって、矯正部3の一部又は全体をホルダー部5と異なる材料の成形材とし、あるいは異なる引張弾性率の成形材できる。異なる引張弾性率の成形材とする場合、異なる組成の成形材のみならず、同じ組成の成形材で異なる引張弾性率とすることもできる。矯正部3はホルダー部5と一体構造であって、矯正歯2に被着されるキャビティー1を内側に設けている溝型で、それ自体の弾性復元力で矯正歯2を矯正方向に押圧して移動させる。
【0057】
図4ないし
図11に矯正歯2を矯正するアライナー100、200、300、400の例を示し、後述する実施形態1ないし4に詳細を記載する。
図4及び
図5は矯正歯2を平行移動して矯正する場合を、
図6及び
図7は矯正歯2を回転して矯正する場合を、
図8及び
図9は矯正歯2を正常な姿勢に傾動して矯正する場合を、
図10は変形し難い弾性体6を埋設して矯正する場合を、それぞれ示している。また、
図11は内面にクッション層7を備えるアライナー400を示している。
[アライナーの成形材]
【0058】
アライナーは、矯正部3とホルダー部5を成形材で一体構造に成形して製作される。アライナーは、プラスチック、エラストマー、ゴム等を成形して製作できる。これ等のアライナーを成形する成形材は、アクリル樹脂、ABS樹脂、フッ素樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂等が使用できる。成形材は、矯正の内容程度、矯正歯2を含む口腔内の状態、患者の要望などに応じ、またアライナーの製造方法で最適な材料を選択することができる。
【0059】
アライナーは、好ましくは3次元プリンタでホルダー部5と矯正部3を成形材で一体構造に成形して製作されるが、成形する3次元プリンタの方式に最適な成形材を選択して成形することができる。例えば、インクジェット方式の3次元プリンタで一体構造に成形されるアライナーは、3次元プリンタのヘッドからアクリル樹脂などの紫外線硬化樹脂を噴射し、照射された紫外線硬化樹脂に紫外線を照射し、紫外線で樹脂を硬化して、ホルダー部5と矯正部3とを一体構造に成形して製作される。この方式の3次元プリンタは、ゴム状弾性の成形材を噴射してゴム状弾性体を成形することもできる。
【0060】
熱溶解積層方式の3次元プリンタでもって成形されるアライナーは、ABS樹脂等の熱可塑性のプラスチックを、熱で溶かしノズルヘッドから噴射してホルダー部5と矯正部3とを一体構造に成形できる。粉末焼結積層造形方式の3次元プリンタでもって成形されるアライナーは、ナイロン樹脂等の粉末にレーザーを照射して焼結して成形して製造できる。さらに、光学造形方式の3次元プリンタで成形されるアライナーは、エポキシ樹脂などの液体樹脂に紫外線レーザーを照射して製造できる。
【0061】
さらに、アライナーは成形型に、未硬化状態でペースト状の樹脂やゴム等を注入して成形することもできる。この方法で製造されるアライナーは、熱可塑性、又は熱硬化性のプラスチック、未硬化状態でペースト状ないし液状のエラストマー、ゴム原料などを成形型に注入し、硬化して成形して製作できる。
【0062】
アライナーは、ホルダー部5と矯正部3とを一体構造に成形して製作されるが、同じ種類で同じ引張弾性率の成形材で成形し、あるいは同じ種類であるが引張弾性率の異なる成形材で成形し、あるいはまた異なる種類の成形材で一体構造に成形することもできる。詳細は後述するが、全体を同じ成形材で成形しているアライナー200は、矯正部3とホルダー部5を異なる厚さとして、矯正部3とホルダー部5を引張弾性率が異なる成形材にできる。異なる種類の成形材で成形するアライナー100は、矯正部3の一部あるいは全体を、ホルダー部5と引張弾性率が異なる成形材で成形することができる。さらに、アライナー300は、矯正部3に弾性体6を埋設して、矯正部3とホルダー部5とを異なる引張弾性率とすることもできる。弾性体6は、弾性変形する硬質プラスチック板や弾性金属板として、矯正部3の引張弾性率をホルダー部5よりも高くできる。弾性体6は、好ましくは成形材の内部に完全に埋設するが、一部を成形材の表面に露出する状態に埋設することもできる。
【0063】
同じ種類で引張弾性率が異なる成形材で成形し、あるいは異なる種類で引張弾性率が異なる成形材で成形しているアライナー100は、矯正部3の一部あるいは全体を、ホルダー部5よりも引張弾性率の高い成形材で成形し、あるいはホルダー部5よりも引張弾性率の低い成形材で成形する。矯正部3をホルダー部5よりも高い引張弾性率の成形材で成形するアライナーは、矯正部3で矯正歯2を強く押圧して効果的に矯正歯2を歯列矯正でき、矯正部3を低い引張弾性率の成形材で成形するアライナーは、患者に与える不快感を少なくして、矯正歯2を歯列矯正できる。さらに、矯正部3に弾性体6を埋設するアライナー300は、弾性体6で矯正歯2を押圧して速やかに歯列矯正できる。
【0064】
矯正部3をホルダー部5よりも厚く成形して、矯正部3の引張弾性率をホルダー部5よりも高くしているアライナー200は、厚い矯正部3の矯正力を強くして、矯正歯2を速やかに歯列矯正できる。矯正部3をホルダー部5よりも薄く成形しているアライナー200は、矯正部3が矯正歯2を押圧する矯正力を弱くして、患者の違和感を少なくして快適に歯列矯正できる。
【0065】
アライナーは、好ましくはアクリル樹脂などの透明の成形材、あるいは半透明の成形材で成形し、あるいは被着する歯に近似する色に着色することもできる。
[アライナーの形状]
【0066】
アライナー100は、上顎11又は下顎12のいずれか又は両方の歯に被着されて、ひとつ又は複数の矯正歯2を弾性的に押圧して歯列矯正する。アライナー100は、矯正歯2に被着するキャビティー1の内形を、患者の歯形から歯列矯正する方向にずれた形状に成形している。このアライナー100は、患者の歯に被着された状態で、矯正歯2を矯正方向に弾性的に押圧して歯列矯正するからである。アライナー100は、矯正歯2の表面に面接触状態に密着し、矯正歯2を面圧で弾性的に押圧して歯列矯正し、あるいは矯正歯2の表面を局所的に弾性的に押圧して歯列矯正する。矯正歯2の表面を面的または局所的に押圧して歯列矯正するアライナー100は、矯正歯2を1か所または複数か所を押圧し、また面的な押圧と局所的な押圧を組合せて、またあるいは押圧する側と移動を阻止する側を組み合わせるなどにより、矯正歯2に最適な押圧力を加えることができる。
【0067】
アライナーは、好ましくは形状が異なる複数のアライナーを順番に交換して、矯正歯2を段階的に理想の矯正位置と姿勢に移動させる。このアライナーは、患者の負担を少なくして無理なく歯列矯正できる。次々と交換して歯に被着して歯列矯正する複数のアライナーは、キャビティー1の形状を、患者の歯形から歯列矯正された歯形に次第に近づく形状とする。患者は、ひとつのアライナーで歯列矯正した後、次のアライナーに交換して歯列矯正する工程を繰り返して矯正歯2を歯列矯正する。複数のアライナーでの歯列矯正は、ひとつのアライナーで矯正歯2を矯正方向に移動させる矯正距離を、たとえば0.1mm~1mm、好ましくは0.2mm~0.8mm、さらに好ましくは0.2mm~0.5mmとする。ひとつのアライナーの矯正距離が大きすぎると、患者に被着した直後に、矯正歯2の押圧力が強すぎて違和感を感じ、反対に矯正距離が小さすぎると、矯正に使用するアライナーの個数が多くなり、また矯正に要する期間が長くなるので、歯列矯正の内容程度を考慮して、好ましくは以上の範囲に設定する。
【0068】
アライナーが矯正歯2を押圧して移動させる最適な押圧力は、例えば15g以上、好ましくは50g以上、さらに好ましくは70g以上とする。さらに、アライナーの押圧力が強すぎると違和感が強くなるので、たとえば150g以下、好ましくは100g以下、さらに好ましくは80g以下、最適には50g以下とする。さらに、矯正歯2が歯列矯正される状態、例えば矯正歯2を移動する状態、矯正歯2を回転する状態、矯正歯2を傾動させる状態、患者の体質なども考慮して最適な押圧力に調整される。
【0069】
さらに、ひとつのアライナーが矯正歯2を移動させる矯正距離は、患者の矯正歯2の位置ずれの程度、患者の口腔内の状態、患者の要望などを考慮して好ましくは前述の範囲で最適な距離に設定する。キャビティー1の内形が異なる複数のアライナーを使用して歯列矯正する方法は、たとえば、矯正歯2を2mm移動して歯列矯正できる患者には、矯正距離を0.4mmとする5組のアライナーを使用して、理想の矯正位置まで移動できる。このアライナーは、最初に患者の歯形をスキャンして検出し、検出する患者の歯形から5組のアライナーを製作できるので、経済的に歯列矯正できる特長がある。
【0070】
アライナーは、成形材の引張弾性率と、矯正歯2の押圧力を考慮して全体の厚さを最適値に設定するが、矯正部3で効率よく矯正歯2を矯正できるように、厚さを例えば0.2mm以上、好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上とする。アライナーは、厚すぎると違和感があるなどの弊害があるので、厚さを例えば3mm以下、好ましくし2mm以下、さらに好ましくは1mm以下とする。
【0071】
さらに、形状が異なる複数のアライナーでの歯列矯正は、患者に一定の期間、アライナーを被着した後、アライナーを外して患者の歯形を再スキャンして検出し、検出する歯形から次に被着するアライナーの形状を修正して、患者に最適なアライナーを製作して被着することもできる。このアライナーは、患者のその都度の矯正歯2及び歯列矯正の状態を把握しつつ、理想的な状態で移動して歯列矯正できる。アライナーは、矯正歯2を特定の方向に押圧して矯正するが、患者の個人差やアライナーの装着時間などで矯正状態が変化する。例えば、矯正歯2の移動が予定よりも少なく又は多く、あるいは、想定された方向と異なる方向となるなど、アライナーによる矯正が、あらかじめ想定したシュミレーションと異なることがある。患者の歯形の3次元データを再検出して、再検出した3次元データに基づいて、次に患者に被着するアライナーの形状を特定する方法は、全てのアライナーで患者の矯正歯2を理想的な状態で矯正できる特長がある。さらに、この方法は、患者の歯形を再検出して次のアライナーの形状を特定するときに、患者や歯科医、技工士の意見を参考にして、さらに患者に最適なアライナーの形状を特定できる。患者の歯形のスキャンに歯科医が関与することで患者からのヒアリングが可能となり、患者は歯科医からのアドバイスを受けることができ、患者は安心して歯科矯正を進めることができる。
[アライナーの製造方法]
【0072】
アライナーは、好ましくは、患者の歯形模型を製作することなく、患者の歯形の3次元データを検出し、検出する3次元データを修正してアライナーを成形する矯正3次元データを作成し、矯正3次元データを3次元プリンタに入力してアライナーを成形する方法で製造できる。以上の製造方法は、患者の歯形の3次元データを検出する検出工程と、検出工程で検出した患者の3次元データを修正して3次元プリンタで成形するアライナーの形状を特定する矯正3次元データを作成する修正工程と、修正工程で作成した矯正3次元データを3次元プリンタに入力してアライナーを成形する成形工程でアライナーを製造する。ただし、患者の歯形模型を製作して、あるいは患者の入歯などからアライナーを成形することもできる。
【0073】
以上の方法は、以下の工程でアライナーを製造する。アライナーは各々の患者に専用の形状に製造されて、患者の歯列を矯正をするので、最初に患者の歯形の3次元データを検出し、検出する3次元データに基づいて、歯列矯正するアライナーの形状を特定する矯正3次元データをする。歯形の3次元データは、口腔スキャナーを使用して検出できる。口腔スキャナーには、すでに市販されている光学式の口腔スキャナーが使用できる。患者の歯形の3次元データは、X線を照射して立体的な歯形を検出するコンピュータ断層撮影(CT)で検出することもできる。検出された患者の歯形の3次元データに基づいて、歯列矯正するアライナーの形状を特定する修正3次元データに修正する。この工程は、患者の3次元データをモニタに表示し、モニタに表示された歯形を技工士が矯正して矯正3次元データを作成する。矯正3次元データは、このデータで作成されたアライナーを患者の歯に被着して歯列矯正できる形状に作成される。歯列矯正は、好ましくは複数のアライナーを次々と交換して患者に被着して実現するので、矯正3次元データは患者に被着して歯列矯正できるデータに矯正する。矯正3次元データは、コンピュータで演算処理して作成することもできる。この処理をするコンピュータは、歯列矯正された標準の3次元データと、ひとつのアライナーで矯正できる矯正距離を記憶しており、標準の3次元データと矯正距離に基づいて、患者の3次元データから矯正3次元データを演算する。
【0074】
矯正3次元データは、このデータで作成されたアライナーを患者に被着して歯列矯正できるデータを含んでいる。アライナーは、矯正歯2を効率よく歯列矯正するために、矯正歯2を押圧して矯正する矯正部3を他の領域であるホルダー部5よりも変形し難い成形材で成形し、あるいは矯正部3をホルダー部5よりも厚くし、あるいは又矯正部3に変形し難い弾性体6を埋設しているので、矯正3次元データは、矯正部3を変形し難いプラスチックで成形し、あるいは厚く成形し、あるいは又弾性体6を埋設するデータを含んでいる。
【0075】
矯正3次元データに基づいて、3次元プリンタでアライナーを製作する。3次元プリンタは入力される矯正3次元データでもって、ホルダー部5と矯正部3を一体構造とする立体的なアライナーを製作する。ホルダー部5と矯正部3を異なる引張弾性率の成形材とするアライナーは、部分的に引張弾性率が異なる成形材で成形できる3次元プリンタを使用して製作される。矯正部3に弾性体6を埋設しているアライナーは、3次元プリンタの定位置にあらかじめ弾性体6を配置し、成形材を供給してアライナーを成形することができる。
【0076】
3次元プリンタでアライナーを直接に製作する方法は、能率よく高い精度でアライナーを製作できるが、アライナーは、必ずしも3次元プリンタで直接に製作することなく、たとえば矯正3次元データで矯正歯形模型を製作し、この矯正歯形模型でアライナーを製作することもできる。この製造方法は、矯正歯形模型の表面に、未硬化でペースト状のプラスチック、たとえばウレタン樹脂やエポキシ樹脂を付着してアライナーを製作することができる。この方法は、矯正歯形模型の表面に付着するプラスチックの膜厚を厚くして矯正部3を形成し、あるいは付着するプラスチックの引張弾性率を高くして矯正部3を成形し、あるいは矯正歯形模型の表示に弾性体6を付着して成形材を塗布して、矯正部3をホルダー部5よりも硬く、あるいは厚く、あるいは又弾性体6を埋設しているアライナーを製作できる。
【0077】
さらにアライナーは、患者の歯形模型を修正してアライナーを製作することもできる。この製造方法は、患者の歯形と同じ形状の歯形模型を石膏などで製作し、歯形模型を修正して、修正歯形模型とし、修正歯形模型の表面に未硬化でペースト状のプラスチックを付着してアライナーを製作できる。修正歯形模型は、表面にプラスチックを付着して成形するアライナーが歯列矯正できる形状に、患者の歯形模型を修正したものである。
【0078】
以上のアライナーは、好ましくは3次元プリンタで全体を成形材で成形して製作するが、他の方法で製造することもできる。たとえば、成形型に未硬化状態でペースト状のプラスチックを注入し、これを硬化して製作することもできる。この方法は、成形型の成形チャンバーに部分的に異なる引張弾性率の成形材で注入して、矯正部と他の領域を異なる引張弾性率のアライナーを製作できる。この方法に使用する成形型は、成形チャンバーに複数の注入孔を設けている。成形型は、引張弾性率の高い成形で成形する領域と、他の領域を成形する領域とに別々の注入孔を設けて、各々の注液穴から引張弾性率が異なる成形材を注入して特定の領域を引張弾性率の高い成形材で成形するアライナーを製造する。
[実施形態1]
【0079】
本発明の実施形態1に係るアライナー100は、特定の領域を他の領域と異なる引張弾性率、あるいは異なる種類の成形材で成形する。このアライナー100は、特定の領域を他の領域よりも引張弾性率が大きく、または小さく、またあるいは異なる種類の成形材で成形する。本発明のアライナー100は、形状や構造を特定するものでない。アライナー100で歯列矯正する例を、
図4、
図6、
図8に示す。
図4は矯正歯2を移動して矯正する場合を、
図6は矯正歯2を回転して矯正する場合を、
図8は矯正歯2を正常な姿勢に傾動して矯正する場合を、それぞれ示している。
【0080】
まず、
図4に示すアライナー100で矯正歯2を移動して矯正する例で説明する。
図4は、矯正歯2を移動して矯正する例として、矯正歯2を水平方向に平行移動して歯列矯正する概略水平断面図を示す。
図4は、
図3の要部拡大水平断面図であり、アライナー100の矯正部3とその両側部分を示す。
図4はアライナー100をハッチングで示している。
【0081】
図4(
図3)のアライナー100は、
図1に示すアライナー100のように、下顎12又は上顎11の全ての歯に被着されて歯列矯正する形状に成形している。したがって、このアライナー100は、
図1に示すように、全体形状を患者の歯列に被着されて矯正する溝型に成形され、患者の歯に位置ずれしない状態で被着されるキャビティー1を内側に設けている溝形に成形している。アライナー100は、歯列矯正されない非矯正歯4に被着されるホルダー部5と矯正歯2に被着されて矯正歯2を矯正する矯正部3とを成形材で一体構造に成形している。ただし、アライナー100は、必ずしも全ての非矯正歯4にホルダー部5を被着することなく、ホルダー部5を一部の非矯正歯4に被着して矯正歯2を矯正することもできる。
【0082】
図4に示す矯正部3は、矯正歯2を矯正方向に押圧する押圧部3aと、それ自体の弾性復元力で押圧部3aを矯正歯2に押圧する弾性変形部3bと、矯正歯2の移動方向に移動スペース3eを設けている非接触領域3cとを備える。矯正部3は、前述のように、ひとつまたは複数の矯正歯2を含む領域に被着される。矯正部3の領域は、アライナー100が内側において矯正歯2に接触する部分のみに限定されるものではなく、必要に応じて矯正歯2の隣接歯など矯正歯2以外の歯を覆う領域を含み得る。アライナー100は、矯正部3の弾性復元力で矯正歯2を押圧して矯正するからである。押圧部3a、弾性変形部3b、非接触領域3cについても同様である。図で示すように、弾性変形部3bはそれ自体の弾性復元力で押圧部3aを矯正歯2に押圧するため、矯正歯2の隣接歯などを覆う領域まで広がることでより効率的に押圧できる。非接触領域3cは矯正歯2の移動方向に移動スペース3eを設けるため、矯正方向、移動先によって、矯正歯2の隣接歯などを覆う領域まで広がり得る。
【0083】
アライナー100は、被着した状態で、押圧部3aが矯正歯2を矯正方向に弾性的に押圧する。押圧の態様は、好ましくは押圧部3aの矯正歯2への接触面に対して直角に押圧することが好ましいが、矯正方向との兼ね合いで矯正歯2の押圧部3aが接触する状態、接触面積、矯正歯2と押圧部3aの表面形状、矯正歯2の状態、押圧力などを考慮して最適な押圧の態様を選択できる。例えば、押圧の態様として、ひとつ又は複数の押圧部3aを設け、面的、局所的に押圧し、複数の合力により押圧し、2以上または面的に押圧部3aで挟んで、また形状や引張弾性率の違いで矯正方向に導くなど、さらにはこれらの組み合わせなどがある。
【0084】
図4Aないし
図4Cは、矯正歯2を少しずつ移動させて矯正する工程であって、異なる形状の第1のアライナー110及び第2のアライナー120を使用して矯正歯2を段階的に矯正する工程を示している。
図4Aないし
図4Cにおいて、実線が各工程における矯正歯2の位置を、一点鎖線が矯正前の矯正歯2の位置を、二点鎖線が第1のアライナー110により移動した矯正歯2の位置を、鎖線が新たな第2のアライナー120により矯正された正常な位置を、それぞれ示す。
【0085】
これらの図に示すように、
図4Aの実線位置にある矯正歯2を、第1のアライナー110及び第2のアライナー120により、二点鎖線位置を経て鎖線位置に移動して矯正する。その歯列矯正の過程を
図4Aないし
図4Cに、矯正方向を矢印にて示す。第1のアライナー110は、
図4Bに示す形状に成形されており、
図4Aの実線位置にある矯正歯2と非矯正歯4に被着されて、
図4Aの矢印で示すように、矯正歯2を二点鎖線の位置に近づけるように移動させる。
図4Bに示す形状に成形された第1のアライナー110は、弾性変形して
図4Aの実線位置にある歯に被着される。弾性変形して被着された第1のアライナー110は、弾性復元力で矯正歯2を二点鎖線に向けた矯正方向に移動させる。
図4Bに示す形状の第1のアライナー110は、矯正歯2が
図4Aの実線位置から
図4Bの実線位置に移動するにしたがって、矯正方向の押圧力が低下して矯正作用も低下する。
図4Bは、第1のアライナー110によって矯正歯2が一点鎖線位置から二点鎖線位置に移動して矯正された状態を示す。ここで矯正作用の低下した第1のアライナー110を、新しい第2のアライナー120に交換して、矯正歯2を鎖線で示す正常な位置に移動させて矯正する。新しい第2のアライナー120は、
図4Cに示す形状に成形されており、
図4Bの実線位置にある矯正歯2と非矯正歯4に被着されて、
図4Bの矢印で示すように、矯正歯2を鎖線位置に向かって移動させる。最終的に、矯正歯2は、
図4Cの実線位置で示す正常な位置まで移動して矯正される。
図4Cは、第2のアライナー120により矯正歯2が二点鎖線の位置から実線位置に移動して矯正された状態を示す。
【0086】
図4において説明を単純化するために、
図4Aの実線位置から二点鎖線を経て鎖線位置まで第1のアライナー110と新しい第2のアライナー120という2つのアライナーで矯正歯2を矯正方向に移動させているが、通常、形状の異なる複数のアライナー100を使用して段階的に矯正歯2を矯正方向に移動させることになる。形状の異なる複数のアライナー100は、移動距離、矯正の内容や程度、矯正期間、矯正歯2を含む口腔内の状態や患者の要望などにより最適な個数及び形状が選択される。
図4において、形状の異なる複数のアライナー100を使用する場合、矯正作用の低下したアライナー100の交換を繰り返し、
図4Aの二点鎖線位置に近い形状のアライナー100に交換して、矯正歯2を
図4Aの実線位置から二点鎖線位置に移動させる。さらに同様に、矯正作用の低下したアライナー100の交換を繰り返し、
図4Bの鎖線位置に近い形状のアライナー100に交換して、矯正歯2を
図4Bの実線位置から鎖線位置に移動させて、
図4Cの実線位置で示す正常な位置まで最終的に移動して矯正する。
【0087】
歯列矯正は、好ましくは複数のアライナー100を使用して、アライナー100を次々と交換して歯に被着して、矯正歯2を適正な位置に移動する。歯列矯正するアライナー100の個数を多くすることは、ひとつのアライナー100の矯正距離を小さくして患者の負担を少なくできる。次々と交換して歯に被着して歯列矯正する複数のアライナー100は、キャビティー1の形状を、患者の歯形から歯列矯正された歯形に次第に近づく形状とする。患者は、ひとつのアライナー100で歯列矯正した後、次のアライナー100に交換して歯列矯正する工程を繰り返して矯正歯2を歯列矯正する。
【0088】
アライナー100は、患者の歯に被着されて矯正歯2を矯正方向に弾性復元力で押圧するので、キャビティー1の内形は被着される患者の歯形の外形と同一ではない。アライナー100は、患者の歯形から歯列矯正された方向に位置ずれした形状にキャビティー1を成形している。患者の歯形模型と同一のキャビティー1のアライナー100は、これを被着して矯正歯2を弾性的に押圧できないからである。これにより矯正歯2の状態、歯列矯正の内容・程度、押圧力に応じて、またアライナー100の被着具合をも考慮して適切な内面形状及び外面形状を各々選択できる。
【0089】
アライナー100の特定の領域を他の領域と異なる引張弾性率の成形材で成形する。特定の領域を異なる素材の成形材とし、または同じ素材の成形材としながら、異なる引張弾性率の成形材にできる。例えば、矯正歯2を押圧する矯正部3の一部又は全部を、ホルダー部5よりも引張弾性率の高い、あるいは低い成形材で成形して押圧力を調整できるので、必要ならば矯正歯2の押圧力を強く、あるいは弱くできる。矯正部3をそれ以外の領域よりも厚く、あるいは薄くすることなく、同じ厚みで患者に快適に装着しつつ、最適な押圧力に設定できる。また、異なる引張弾性率で成形する領域その他の領域を確実に接合しながら3次元プリンタで成形できる。
【0090】
図4は、矯正部3の一部である弾性変形部3b(
図4において、太線及び間隔の狭いハッチングで示す)を、ホルダー部5と異なる引張弾性率の成形材とする例を示す。
図4のアライナー100は、矯正部3の弾性変形部3bをホルダー部5よりも引張弾性率を高くして、矯正部3の押圧力を強くして、矯正歯2を速やかに所定の位置に移動して矯正できる。ただし、矯正部3の弾性変形部3bをホルダー部5よりも引張弾性率を低くして、矯正部3が矯正歯2を押圧する押圧力を弱くして、患者の違和感を少なくして快適に歯列矯正することもできる。さらに、矯正部3を他の領域よりも引張弾性率の小さい成形材で成形しているアライナー100は、非接触領域3cをホルダー部5よりも引張弾性率を低くして、矯正歯2の移動矯正を阻害しないようにできる。また、非矯正歯4に被着するホルダー部5を引張弾性率の高い成形材で成形して、ホルダー部5を患者の歯に位置ずれしないように被着できる特長がある。異なる引張弾性率の成形材は、異なる種類の成形材のみならず、同じ種類の成形材とすることもできる。
【0091】
図4において、例えば、太線で間隔の狭いハッチングで示す矯正部3の一部である弾性変形部3bは、引張弾性率の高いアクリル樹脂で成形し、その他の部分は引張弾性率の低いアクリル樹脂で成形できる。矯正部3は、例えば、引張弾性率を3500MPa以上であって4200MPa以下とするアクリル樹脂で成形し、ホルダー部5を含むその他の領域は引張弾性率2800MPa以上であって3500MPa未満とするアクリル樹脂で成形する。
【0092】
このアライナー100は、引張弾性率が異なるアクリル樹脂で全体を成形しているが、アライナー100を成形する成形材は、アクリル樹脂に代わって、引張弾性率が異なるABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PRT、PETG)、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂などで全体を成形することができる。また、引張弾性率が異なる異種の成形材、たとえば、異なるプラスチック、エラストマー、ゴム状弾性体で矯正部3とホルダー部5とを成形することもできる。例えば、
図4において、太線で間隔の狭いハッチングで示す矯正部3の一部は、引張弾性率の高いアクリル樹脂で成形し、その他の部分は引張弾性率の低い異なる成形材で成形することもできる。
【0093】
さらに、アライナー100は、矯正歯2の移動先である移動方向の前面に位置する非接触領域3c(
図4Aにおいて矯正歯2の下に位置する)を、矯正部3の一部またはホルダー部5よりも引張弾性率の小さい成形材で成形することができる。このアライナー100は、矯正部3の一部をホルダー部5よりも高い引張弾性率の成形材で成形して、非接触領域3cをホルダー部5よりも低い引張弾性率の成形材で成形して製作できる。このアライナー100は、非接触領域3cが矯正歯2に接触ないし接近する形状に成形して、矯正歯2との間に移動スペース3eを設けることなく、あるいは移動スペース3eを狭くしつつ、矯正歯2の移動矯正の障害となることなく矯正歯2を速やかに矯正方向に移動できる。
【0094】
さらにまた、複数のアライナー100で段階的に歯列矯正する方法は同じ形状に成形して、引張弾性率が異なる複数のアライナー100とすることもできる。このアライナー100は、内形を歯列矯正の完了した患者の歯形と同じ形状とする。最初に患者の歯に被着されるアライナー100は、歯列矯正されない患者の歯に被着されるので、矯正歯2と、矯正歯2に被着されるキャビティー1の矯正歯2を押圧する押圧部3aを含めた矯正歯嵌合部1aとの相対的な位置の差が大きい。アライナー100は弾性変形するので、矯正されない患者の矯正歯2に被着できる。弾性変形するアライナー100は、矯正歯2と矯正後の歯との相対的な位置ずれが大きくなると、矯正歯2に作用する押圧力が大きくなる。アライナー100が矯正歯2を押圧する力が、フックの法則に従って移動に比例して大きくなるからである。最初のアライナー100として使用されるアライナー100を、段階的に交換して使用される他のアライナー100と同じ弾性率の成形材で成形すると、最初のアライナー100の矯正力が強すぎて患者の負担が大きくなる。この弊害を防止するために、最初に使用するアライナー100は、矯正部3を成形する成形材の引張弾性率を小さくして押圧力を抑制する。したがって、この方法に使用される同一形状のアライナー100は、最初に使用するアライナー100から最後に使用するアライナー100にしたがって、矯正部3を成形する成形材の弾性力を大きくする。最初に使用するアライナー100の引張弾性率を最後に使用するアライナー100よりも小さくして、最初のアライナー100の押圧力を抑制できる。また、この方法は、歯列矯正する途中の位置を段階的に区切って、アライナー100の内形を段階的に区切られた途中の位置での患者の歯形と同じ形状とすることもできる。
【0095】
以上の
図4のアライナー100は矯正歯2を平行移動して矯正するが、
図4と同様に、
図6のアライナー100は矯正歯2を回転して矯正し、
図8のアライナー100は矯正歯2を正常な姿勢に傾動して矯正する。
【0096】
図6は、矯正歯2を回転して矯正する。
図6Aないし
図6Cは、矯正歯2を少しずつ回転させて矯正する工程であって、異なる形状の第1のアライナー110及び第2のアライナー120を使用して矯正歯2を段階的に矯正する工程を示している。
図6Aないし
図6Cにおいて、実線が各工程における矯正歯2の位置を、一点鎖線が矯正前の矯正歯2の位置を、二点鎖線が第1のアライナー110により移動した矯正歯2の位置を、鎖線が第2のアライナー120により矯正された正常な位置を、それぞれ示す。これらの図に示すように、
図6Aの実線位置にある矯正歯2を、第1のアライナー110及び第2のアライナー120により、二点鎖線位置を経て鎖線位置に回転して矯正する。
図6Bに示す形状に成形された第1のアライナー110が、
図6Aの実線位置にある矯正歯2と非矯正歯4に被着されて、
図6Aの矢印で示す方向に、矯正歯2を二点鎖線の位置に近づけるように回転させる。第1のアライナー110は、矯正歯2が
図6Aの実線位置から
図6Bの実線位置に回転するにしたがって、矯正方向の押圧力が低下するため、
図4Cに示す形状に成形された新しい第2のアライナー120に交換して、最終的に、矯正歯2は、
図6Cの実線位置で示す正常な位置に回転され矯正される。
【0097】
図6に示すように、矯正歯2を回転して矯正する場合、押圧方向が一定ではなく矯正段階により変化するため、矯正歯2を矯正方向に押圧する押圧部3aと、それ自体の弾性復元力で押圧部3aを矯正歯2に押圧する弾性変形部3bと、矯正歯2の移動方向に移動スペース3eを設けている非接触領域3cの位置及び位置関係が変化する点をも考慮して、特定の領域を異なる成形材とし、また特定の領域を異なる引張弾性率の成形材とし、またさらに形状の異なる複数のアライナー100を使用する必要がある。なお、このことは、矯正歯2を回転する場合に限らず、矯正歯2を移転する場合、後述する矯正歯2の姿勢を傾動する場合、これらのいずれかまたは複数の組み合わせの場合にも起こり得る。
【0098】
図8は、矯正歯2を正常な姿勢に傾動させて矯正する。
図8Aと
図8Bは、矯正歯2を傾動して正常な姿勢に矯正する工程を示している。
図8A及び
図8Bにおいて、実線が各工程における矯正歯2の位置を、一点鎖線が矯正前の矯正歯2の位置を、鎖線がアライナー100により矯正された正常な位置を、それぞれ示す。
【0099】
図8Aは矯正前の矯正歯2にアライナー100を被着して、矢印で示すように、鎖線位置に向けて矯正部2を傾動して矯正する状態を、
図8Bはアライナー100により矯正歯2が正常な姿勢に矯正された状態を、それぞれ示す。
図8A及び
図8Bに示す矯正工程において、
図8Aの矯正前の矯正歯2に、
図8Bに示す形状に成形されたアライナー100を被着して、
図8Aの矢印で示すように、鎖線位置に向けて矯正歯2を傾動させて、
図8Bで示すように、アライナー100により矯正歯2が正常な姿勢に矯正される。
【0100】
矯正歯2を正常な姿勢に傾動させて矯正する場合、矯正部3は、
図8Aに示すように、矯正歯2の一部(図において矯正歯2の右側の付け根部)の移動を阻止しながら、他の領域(図において矯正歯2の左側の上端)を押圧して矯正歯2を傾動して矯正することがある。このアライナー100の矯正部3は、矯正歯2を矯正方向に押圧する押圧部3aと、それ自体の弾性復元力で押圧部3aを矯正歯2に押圧する弾性変形部3bと、矯正歯2の移動方向に移動スペース3eを設けている非接触領域3cと、さらに、矯正歯2の移動を阻止するストッパ部3dとを備える。ストッパ部3dは、例えば、
図8Aに示すように、傾斜する姿勢の矯正歯2を垂直姿勢となるように傾動して歯列矯正する矯正部3に設けられる。
図8Aの垂直断面図に示すアライナー100は、矯正部3の押圧部3aが矯正歯2の左側の上部を水平方向に右側に押圧して移動し、押圧される反対側の矯正歯2の右側の付け根部の移動をストッパ部3dが阻止して、矯正歯2を傾動するので、押圧部3aで矯正歯2の上部を水平方向に押圧し、ストッパ部3dで矯正歯2の付け根部の移動を抑制又は阻止して、矯正歯2を傾動させる。
【0101】
本発明のアライナー100は、いずれも矯正歯2の矯正方向や矯正姿勢を特定するものでない。例えば、アライナー100は、押圧部3aで局部的に押圧して矯正するが、歯列矯正において移動させない非移動部のある矯正歯2は、非移動部をストッパ部3dで移動させることなく歯列矯正する。アライナー100が、矯正歯2の移動を局部的に阻止することなく矯正する矯正部3は、ストッパ部3dを設けることなく歯列矯正できる。また、矯正部3が弾性変形して矯正歯2を歯列矯正するアライナー100は、矯正部3に必ずしも非接触領域3cを設けることなく歯列矯正することもできる。なお、ストッパ部3dは、矯正歯2を正常な姿勢に傾動させる場合に限らず、矯正歯2を移動する場合、矯正歯2を回転する場合、これらのいずれかまたは複数の組み合わせの場合も、必要に応じて設けることができる。
【0102】
矯正歯2を正常な姿勢に傾動させて矯正する場合においても、矯正歯2を回転して矯正する場合と同様に、押圧方向が一定ではなく矯正段階により変化することがあり得、またストッパ部3dと押圧部3a、弾性変形部3b、非接触領域3cとの位置関係も含め、特定の領域を異なる成形材とし、また特定の領域を異なる引張弾性率の成形材とし、さらにまた形状の異なる複数のアライナー100を使用する必要がある。弾性変形部3bはそれ自体の弾性復元力で押圧部3aを矯正歯2に押圧するため、押圧部3aに隣接する周辺に設けられ、例えば
図8Aに示される位置があるがこれに限定されるものではない。
【0103】
アライナー100は、成形材の引張弾性率と、矯正歯2への矯正力を考慮して全体の厚さを最適値に設定するが、例えば、0.2mm~0.3mmとして、矯正部3とホルダー部5とを弾性率の異なる成形材で成形する。
[実施形態2]
【0104】
本発明の実施形態2に係るアライナー200は、特定の領域を他の領域と異なる膜厚として歯列矯正する。このアライナー200は、特定の領域を他の領域よりも厚く、または薄く成形する。アライナー200は、矯正部3の一部である弾性変形部3bの膜厚をホルダー部5よりも厚くするなど、ホルダー部5と異なる膜厚にできる。この実施形態2に係るアライナー200を
図5、
図7及び
図9に示す。
図5は矯正歯2を平行移動して矯正する場合を、
図7は矯正歯2を回転して矯正する場合を、
図9は矯正歯2を正常な姿勢に傾動して矯正する場合を、それぞれ示している。これらのアライナー200は、膜厚の厚い矯正部3の一部または全体の押圧力を強くして、矯正歯2を速やかに歯列矯正できる。ただし、図示しないが、矯正部3をホルダー部5よりも薄く成形するアライナー200により、矯正部3が矯正歯2を押圧する押圧力を弱くして、患者の違和感を少なくして快適に歯列矯正することもできる。
【0105】
図5は
図4と同様に、
図7は
図6と同様に、実線が各工程における矯正歯2の位置を、一点鎖線が矯正前の矯正歯2の位置を、二点鎖線が第1のアライナー210により移動した矯正歯2の位置を、鎖線が第2のアライナー220により矯正された正常な位置を、それぞれ示す。
図9は
図8と同様に、実線が各工程における矯正歯2の位置を、一点鎖線が矯正前の矯正歯2の位置を、鎖線がアライナー200により矯正された正常な位置を、それぞれ示す。
【0106】
図5Aないし
図5Cに示す矯正工程では、
図4Aないし
図4Cと同様に、
図5Aの矯正前の矯正歯2に、
図5Bに示す形状に成形された第1のアライナー210を被着して、
図5Aの矢印で示すように、二点鎖線位置に向けて矯正し、第1のアライナー210による矯正が完了すると、
図5Cに示す形状に成形された新しい第2のアライナー220を被着して、
図5Bの矢印で示すように、鎖線位置に向けて矯正し、
図5Cで示すように、第2のアライナー220により矯正歯2が正常な位置に矯正される。
【0107】
図7Aないし
図7Cに示す矯正工程では、
図6Aないし
図6Cと同様に、
図7Aの矯正前の矯正歯2に、
図7Bに示す形状に成形された第1のアライナー210を被着して、
図6Aの矢印で示すように、二点鎖線位置に向けて矯正し、第1のアライナー210による矯正が完了すると、
図7Cに示す形状に成形された新しい第2のアライナー220を被着して、
図6Bの矢印で示すように、鎖線位置に向けて矯正し、
図7Cで示すように、第2のアライナー220により矯正歯2が正常な位置に矯正される。
【0108】
図9A及び
図9Bに示す矯正工程では、
図8A及び
図8Bと同様に、
図9Aの矯正前の矯正歯2に、
図9Bに示す形状に成形されたアライナー200を被着して、
図9Aの矢印で示すように、鎖線位置に向けて矯正歯2を傾動させて、
図9Bで示すように、アライナー200により矯正歯2が正常な姿勢に矯正される。
【0109】
図5、
図7、及び
図9のアライナー200は、矯正部3とホルダー部5を成形材で一体構造として、矯正部3の一部をホルダー部5よりも厚く成形して、厚い矯正部3で矯正歯2を矯正方向に押圧して歯列矯正する。このアライナー200は、矯正部3をホルダー部5よりも厚くするので、全体を同じ引張弾性率の成形材で成形して、矯正歯2を強い押圧力で矯正方向に押圧できる。ただ、このアライナー200も、
図4のアライナー100と同様に、矯正部3をホルダー部5よりも引張弾性率の高い成形材で成形することもできる。図示しないが、例えば、矯正部3をホルダー部5よりも厚く成形して、さらに、矯正部3をホルダー部5よりも引張弾性率の高い成形材で成形するアライナーは、矯正歯2をより強い押圧力で矯正方向に押圧できる。また、このアライナーは、矯正部とホルダー部の厚さの差と、矯正部とホルダー部を成形する成形材の弾性力の差を小さくして、矯正部で矯正歯を所定の圧力で矯正方向に押圧できる。
【0110】
図5、
図7、及び
図9のアライナー200は、実施形態1のアライナー100と同様に、アクリル樹脂を成形材として製作できるが、これらのアライナー200も、実施形態1と同様に、変形できる熱可塑性又は熱硬化性のプラスチックやエラストマーで成形することができる。矯正部3が矯正歯2を押圧する押圧力は、矯正部3をホルダー部5よりも厚くして強くできるので、矯正部3の厚さは、例えばホルダー部5よりも0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上厚くして、矯正歯2を矯正方向に押圧する。
[実施形態3]
【0111】
さらに、アライナーの特定の領域に他の領域よりも変形し難い弾性体6を埋設できる。
図10のアライナー300は、矯正部3にホルダー部5よりも変形し難い弾性体6を埋設する。
図10Aないし
図10Cは、弾性体6を埋設してなるアライナー300の使用例の概略断面図を示している。
図10Aは矯正歯2を平行移動して矯正する場合を、
図10Bは矯正歯2を回転して矯正する場合を、
図10Cは矯正歯2を正常な姿勢に傾動させる場合を、それぞれ示している。
【0112】
弾性体6は、矯正部3とホルダー部5のいずれかまたは両方を成形している成形材よりも変形し難い材料であって、例えば、弾性変形する硬質プラスチック板や弾性金属板とする。弾性体6は、特定の領域、例えば矯正部3の一部または全体に埋設することで、矯正部3の引張弾性率をホルダー部5よりも高くするなど引張弾性力を調整でき、また膜厚を厚くすることなく押圧力を大きくしたり、所定の押圧力の低減を防止したりできる。例えば、このアライナー300は、矯正部3に柔軟な成形材、好ましくはエラストマーを使用しつつ、埋設する弾性体6で矯正部3の押圧力を大きくできる。弾性体6は、歯の表面に沿う板状、ないしは線状で、好ましくは成形材の内部に完全に埋設するが、一部を成形材の表面に露出する状態に埋設することもできる。
図10A及び
図10Bに示すアライナー300のように、矯正歯2の弾性変形部3bを含む両側の歯に被着される領域まで伸びる範囲まで弾性体6を埋設することで、より効果的に押圧力を大きく、また所定の押圧力を維持できる。
【0113】
このアライナー300は、弾性体6の弾性力で矯正歯2を矯正方向に付勢できるので、矯正部3とホルダー部5に同じ引張弾性率の成形材を使用して成形でき、コスト削減を図ることができる。また、矯正部3とホルダー部5を同じ厚さとすることもでき、患者が違和感なく快適に被着できる。ただ、図示しないが、このアライナー300も、矯正部3をホルダー部5よりも厚く成形し、また引張弾性率の高い成形材で成形して、成形材の弾性で矯正歯2を矯正方向に押圧できるので、矯正部3に埋設する弾性体6の引張弾性率を小さくしながら、矯正部3が矯正歯2を押圧する力を強くできる。
【0114】
また、アライナー300は、矯正部3とホルダー部5を変形し易いエラストマーで成形して、弾性体6で矯正部3を付勢して、矯正歯2を矯正方向に押圧できる。また、このアライナー300は、弾性体6の内側面をエラストマーで被覆するように矯正部3を成形して、硬い弾性体6が患者の歯の表面に直接に接触するのを防止できる。このアライナー300は、弾性体6で矯正歯2を効果的に歯列矯正しながら、歯の表面には変形しやすいエラストマーを接触して、快適に被着できる特長がある。
[実施形態4]
【0115】
さらに、
図11に示すアライナー400は、溝形に形成されたキャビティー1の内面にクッション層7を設けている。このアライナー400は、内面を成形する成形材を、他の領域を成形する成形材と異なる成形材で成形して、内面にクッション層7を設けている。
図11は、アライナー400の矯正部3を示しており、
図8のアライナー100と同様に、矯正歯2を矯正方向に押圧する押圧部3aと、それ自体の弾性復元力で押圧部3aを矯正歯2に押圧する弾性変形部3bと、矯正歯2の移動方向に移動スペース3eを設けている非接触領域3cと、矯正歯2の移動を阻止するストッパ部3dとを備えている。さらに、図のアライナー400は、矯正部3の内面側を形成する成形材を、外面側を形成する成形材よりも引張弾性率の低い成形材としてクッション層7を設けている。図のアライナー400は、押圧部3a側及び非接触領域3c側にクッション層7を設けているが、押圧部3a側と非接触領域3c側いずれか一方にクッション層7を設けることができる。クッション層7を部分的に異なる引張弾性率にすることもできる。
図11のアライナー400は、矯正部3の内面にクッション層7を設ける一例を示しているが、アライナーは、これと同様にしてホルダー部5の内面にクッション層7を設けることもできる。
【0116】
アライナー400は、成形材自体の弾性力に加えて、クッション層7によって歯に接触接近する部分に緩衝的効果を付与できる。このアライナー400は、内面を成形する成形材を、他の領域を成形する成形材と異なる成形材で成形して、内面にクッション層7を設ける。アライナー400の内面を成形する成形材を、他の領域よりも引張弾性率の低い成形材としてクッション層7を設けることができるが、さらに、アライナー400は、キャビティー1の内面に空間、凹凸を設けるなどの方法で、クッション層7を設けることもできる。
【0117】
以上のように、矯正部3やホルダー部の内面にクッション層7が設けられたアライナー400は、アライナー400と歯との接触具合及びアライナー400の装着具合を調整でき、例えば、アライナー400を快適に患者の歯に被着でき、あるいは位置ずれが生じ難くでき、またあるいはアライナー400と歯との間の浮きをなくして、アライナー400をしっかり所定の位置まで装着できるなどの特長がある。なお、アライナー400の内面とは、アライナー400の内側表面のみならず、アライナー400に少なくとも一部が埋設された成形材の内部をも含むものとする。
[実施形態5]
【0118】
以上の実施形態1ないし4は、矯正歯2を切歯として歯列矯正するアライナー100、200、300、400の例を示している。ただ、本発明のアライナーは、矯正歯を切歯に限定せず、臼歯や犬歯を矯正歯として歯列矯正することもできる。
図12と
図13は、矯正歯2を臼歯とするアライナー500の一例を示している。
【0119】
図12は、矯正歯2である臼歯を歯列矯正するために複数の歯に被着されるアライナー500の概略平面図を示している。図において、矯正前の矯正歯2及び非矯正歯4の外形線を鎖線で示し、矯正後の矯正歯2の位置を二点鎖線で示している。アライナー500は、歯列矯正されない非矯正歯4に被着されるホルダー部5と、矯正歯2に被着されて矯正歯2を矯正する矯正部3とを一体成形している。臼歯に被着されるアライナー500は、ホルダー部5及び矯正部3が、歯の咬合面4A、2Aを被覆する咬合部5A、3Aと、咬合部5A、3Aの両側に連結されて歯の両側面を被覆する一対の対向壁5B、3Bとを備えており、内側にキャビティー1を形成している。ホルダー部5と矯正部3は、
図13の拡大断面図に示すように、臼歯に脱着自在に被着できるように、断面形状を略コ字状の溝型に成形している。
【0120】
このアライナー500は、矯正部3を矯正歯2に被着した状態で、矯正歯2を正常な位置と姿勢に移動させるために、矯正部3の一部又は全体をホルダー部5と異なる引張弾性率となるように成形して、弾性復元力で矯正歯2を矯正方向に押圧する構造としている。このアライナー500も、前述のアライナーと同様に、特定の領域を他の領域と異なる材料の成形材で成形し、あるいは特定の領域を他の領域と異なる引張弾性率の成形材で成形し、あるいはまた、特定の領域を他の領域と異なる膜厚となるように成形し、さらにまた、矯正部に弾性体を埋設して、矯正部3とホルダー部5とを異なる引張弾性率とすることができる。
【0121】
アライナー500は、特定の領域を異なる引張弾性率の成形材で成形する場合、例えば、矯正部3をホルダー部5よりも引張弾性率の高い成形材で成形する場合には、矯正部3の咬合部3Aと対向壁3Bの両方を、または矯正部3の咬合部3Aのみを、またあるいは矯正部3の対向壁3Bのみをホルダー部5よりも引張弾性率の高い成形材で成形して、矯正部3の強い押圧力で矯正歯2を矯正することができる。また、特定の領域を異なる膜厚に成形する場合、例えば、矯正部3をホルダー部5よりも厚い成形材で成形する場合には、矯正部3の咬合部3Aと対向壁3Bの両方を、または矯正部3の咬合部3Aのみを、またあるいは矯正部3の対向壁3Bのみをホルダー部5よりも厚く成形して、矯正部3の強い押圧力で矯正歯2を矯正できる。
【0122】
矯正部3を他の領域よりも引張弾性率の高い成形材で成形しているアライナー500は、好ましくは、矯正部3の咬合部3Aと対向壁3Bの両方を、ホルダー部5よりも引張弾性率の高い成形材で成形して、矯正部3の強い矯正力で矯正歯2を矯正できる。ただ、アライナー500は、矯正部3の咬合部3Aのみをホルダー部5よりも引張弾性率の高い成形材で成形して、矯正部3の対向壁3Bはホルダー部5とで同じ引張弾性率の成形材で成形することもできる。このアライナー500は、矯正部3の対向壁3Bをホルダー部5と同じ成形材で成形して、矯正部3の咬合部3Aのみを、ホルダー部5よりも引張弾性率の高い成形材で成形する。また、アライナー500は、矯正部3の対向壁3Bのみをホルダー部5よりも引張弾性率の高い成形材で成形して、矯正部3の咬合部3Aはホルダー部5と同じ成形材で成形することもできる。このアライナー500は、矯正部3の咬合部3Aをホルダー部5と同じ成形材で成形して、矯正部3の対向壁3Bのみを、ホルダー部5よりも引張弾性率の高い成形材で成形する。
【0123】
矯正部3をホルダー部5よりも厚くしているアライナーは、好ましくは、矯正部3の咬合部3Aと対向壁3Bの両方を、ホルダー部5よりも厚くして、矯正部3がより強い矯正力で矯正歯2を押圧する。ただ、アライナーは、矯正部3の咬合部3Aのみをホルダー部5よりも厚くして、対向壁3Bは矯正部3とホルダー部5とで同じ厚さに成形することもできる。このアライナーは、矯正部3の対向壁3Bをホルダー部5と同じ厚さに成形して、矯正部3の咬合部3Aのみを、ホルダー部5よりも厚くする。また、アライナーは、矯正部3の対向壁3Bのみをホルダー部5よりも厚くして、咬合部3Aはホルダー部5と同じ厚さとすることもできる。このアライナーは、矯正部3の咬合部3Aをホルダー部5と同じ厚さに成形して、矯正部3の対向壁3Bのみを、ホルダー部5よりも厚く成形する。
【0124】
また、矯正部3に弾性体を埋設して、矯正部とホルダー部とを異なる引張弾性率とするアライナーにおいては、アライナーの咬合部3Aと対向壁3Bのいずれか一方、または両方、もしくはこれらの一部に弾性体を埋設して、矯正部3を矯正方向に付勢できる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の歯列矯正用のアライナーは、矯正する歯を最適な力で押圧して有効な歯列矯正を可能とするアライナーとして好適に使用できる。
【符号の説明】
【0126】
100、200、300、400、500…アライナー
110、210…第1のアライナー
120、220…第2のアライナー
1…キャビティー
1a…矯正歯嵌合部
2…矯正歯
2A…咬合面
3…矯正部
3a…押圧部
3b…弾性変形部
3c…非接触領域
3d…ストッパ部
3e…移動スペース
3A…咬合部
3B…対向壁
4…非矯正歯
4A…咬合面
5…ホルダー部
5A…咬合部
5B…対向壁
6…弾性体
7…クッション層
11…上顎
12…下顎