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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169352
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】アライナーを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/08 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
A61C7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075332
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】317005642
【氏名又は名称】仮屋 聖子
(71)【出願人】
【識別番号】521183888
【氏名又は名称】パットキートス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島 文男
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052JJ10
4C052NN02
4C052NN03
4C052NN04
4C052NN15
(57)【要約】
【課題】患者の歯の種々の不正咬合を矯正し、また歯並びを綺麗に矯正できるアライナーを製造する方法を提供することにある。
【解決手段】アライナーを製造する方法は、患者の歯形の3次元データを検出する検出工程と、検出工程で得られる3次元データをコンピュータで処理して、歯列矯正された歯形の矯正3次元データを得る修正工程と、修正工程で得られる矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、3次元プリンタで患者の歯に被着して歯列矯正するアライナーを成形する成形工程とを含んでいる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の歯形の3次元データを検出する検出工程と、
前記検出工程で得られる前記3次元データをコンピュータで処理して、歯列矯正された歯形の矯正3次元データを得る修正工程と、
前記修正工程で得られる前記矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、前記3次元プリンタで患者の歯に被着して歯列矯正するアライナーを成形する成形工程と、
を含むことを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記検出工程において、
光学センサー又はコンピュータ断層撮影(CT)を使用して患者の歯形の前記3次元データを検出することを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項3】
請求項1に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記検出工程において、
光学センサーを使用して患者の歯形の前記3次元データを検出すると共に、
前記光学センサーにデジタルカメラと3Dレーザースキャナーのいずれかを使用することを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記修正工程において、
アライナーの各々の部位を成形する成形材を特定する位置-材料データを前記矯正3次元データに追加し、
前記成形工程において、
前記位置-材料データを含む前記矯正3次元データを前記3次元プリンタに入力して、
前記3次元プリンタでもって、アライナーの各々の部位を前記位置-材料データで特定された成形材で成形することを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項5】
請求項4に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記修正工程において、
患者の歯形の前記3次元データに基づいて、
アライナーの部位を、
歯列矯正されない非矯正歯を含む患者の複数の歯に脱着自在に被着される溝型に成形されてなるホルダー部と、
前記ホルダー部に一体構造であって矯正歯を含む領域に被着されて弾性復元力で矯正歯を矯正方向に押圧する矯正部とに区画して、
区画された前記ホルダー部と前記矯正部の成形材を特定する前記位置-材料データを前記矯正3次元データに追加することを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記修正工程において、
アライナーの各々の部位を成形する成形材の引張弾性率を特定する位置-弾性率データを前記矯正3次元データに追加し、
前記成形工程において、
前記位置-弾性率データを含む前記矯正3次元データを前記3次元プリンタに入力して、
前記3次元プリンタでもって、アライナーの各々の部位を前記位置-弾性率データで特定された引張弾性率の成形材で成形することを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項7】
請求項6に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記修正工程において、
患者の歯形の前記3次元データに基づいて、
アライナーの部位を、
歯列矯正されない非矯正歯を含む患者の複数の歯に脱着自在に被着される溝型に成形されてなるホルダー部と、
前記ホルダー部に一体構造であって矯正歯を含む領域に被着されて弾性復元力で矯正歯を矯正方向に押圧する矯正部とに区画して、
区画された前記ホルダー部と前記矯正部の成形材の引張弾性率を特定する前記位置-弾性率データを前記矯正3次元データに追加することを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記修正工程において、
アライナーの内面を成形する成形材を特定する内面-材料データを前記矯正3次元データに追加し、
前記成形工程において、
前記内面-材料データを含む前記矯正3次元データを前記3次元プリンタに入力して、
前記3次元プリンタでもって、アライナーの内面を前記内面-材料データで特定された成形材で成形することを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項9】
請求項8に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記修正工程において、
アライナーの内面を成形する成形材を、他の領域よりも引張弾性率の低い成形材とすることを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか一項に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記修正工程において、
アライナーの内面形状と外面形状を非相似形とする位置-膜厚データを前記矯正3次元データに追加し、
前記成形工程において、
前記位置-膜厚データを含む前記矯正3次元データを前記3次元プリンタに入力して、
前記3次元プリンタでもって、内面形状と外面形状を非相似形とするアライナーを成形することを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか一項に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記修正工程において、
アライナーの特定の領域と他の領域を異なる膜厚とする位置-膜厚データを矯正3次元データに追加し、
前記成形工程において、
前記位置-膜厚データを含む前記矯正3次元データを前記3次元プリンタに入力して、
前記3次元プリンタでもって、アライナーの特定の領域を他の領域と異なる膜厚とすることを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項12】
請求項11に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記修正工程において、
患者の歯形の前記3次元データに基づいて、
アライナーの部位を、
歯列矯正されない非矯正歯を含む患者の複数の歯に脱着自在に被着される溝型に成形されてなるホルダー部と、
前記ホルダー部に一体構造であって矯正歯を含む領域に被着されて弾性復元力で矯正歯を矯正方向に押圧する矯正部とに区画して、
区画された前記ホルダー部と前記矯正部とを異なる膜厚とする前記位置-膜厚データを前記矯正3次元データに追加することを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項13】
請求項1ない12のいずれか一項に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記修正工程において、
アライナーの特定の領域に弾性体を埋設する埋設データを前記矯正3次元データに追加し、
前記成形工程において、
前記埋設データを含む前記矯正3次元データを前記3次元プリンタに入力して、
前記3次元プリンタでもって、特定の領域に前記弾性体が埋設されたアライナーを製造することを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項14】
請求項13に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記修正工程において、
患者の歯形の前記3次元データに基づいて、
アライナーの部位を、
歯列矯正されない非矯正歯を含む患者の複数の歯に脱着自在に被着される溝型に成形されてなるホルダー部と、
前記ホルダー部に一体構造であって矯正歯を含む領域に被着されて弾性復元力で矯正歯を矯正方向に押圧する矯正部とに区画して、
前記矯正部に前記弾性体を埋設する前記埋設データを前記矯正3次元データに追加することを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項15】
請求項14に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記弾性体が、
弾性変形するプラスチックまたは弾性金属で、
前記矯正歯の表面に沿う板状ないしは線状で、
前記成形工程において、
前記弾性体を、アライナーの内部に完全に埋設し、あるいは一部をアライナーの表面に露出する状態に埋設することを特徴とするアライナーを製造する方法。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれか一項に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記3次元プリンタに、
インクジェット方式の3次元プリンタを使用してアライナーを製造する方法。
【請求項17】
請求項1ないし15のいずれか一項に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記3次元プリンタに、熱溶解積層方式の3次元プリンタを使用するアライナーを製造する方法。
【請求項18】
請求項1ないし15のいずれか一項に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記3次元プリンタに、粉末焼結積層造形方式の3次元プリンタを使用してアライナーを製造する方法。
【請求項19】
請求項1ないし15のいずれか一項に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記3次元プリンタに、光学造形方式の3次元プリンタを使用してアライナーを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の歯に脱着自在に被着して歯列を矯正するアライナーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の歯は不正咬合を解消し、また外観を綺麗にすることを目的として歯列矯正されている。歯列矯正は、矯正の必要な矯正歯を連続的に押圧して実現される。歯を支持している歯ぐきの中には、歯を支える歯槽骨があり、歯槽骨と歯の根の部分(歯根)の間には歯根膜がある。歯根膜は、歯にかかる衝撃を和らげるクッション作用のある緩衝膜である。矯正歯を弾性的に特定の方向に押圧すると、押圧される側の歯根膜は圧縮され、反対側の歯根膜は伸張する状態となる。圧縮された歯根膜は、元の形状に復元しようとして歯槽骨を溶かす細胞を作って溶かし、伸張された歯槽骨は歯を作る細胞を作って新しく歯槽骨を再生する。矯正歯が弾性的に連続して押圧されると、歯槽骨の溶解と再生が繰り返されて歯は押圧された方向に徐々に移動する。矯正歯を押圧して、1ヶ月に0.5mm~1mm程度の移動が可能である。
【0003】
患者の歯に被着して歯列矯正するアライナーは開発されている(特許文献1及び2参照)。従来のアライナーは、患者の歯形模型を修正した修正歯形模型の表面にプラスチックシートを加熱して密着する、真空成形方法で製作されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010-501247号公報
【特許文献2】特表2018-501059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
真空成形して製作されるプラスチックシートのアライナーは、患者の歯形から歯形模型を製作し、製作した歯形模型を歯列矯正して矯正された修正歯形模型を製作し、修正歯形模型の表面に加熱したプラスチックシートを吸着して製作される。真空成形に使用される修正歯形模型は、患者の口腔からとった、患者の歯形と同じ凹部の歯形陰型にペースト状の石膏を注入し、石膏を硬化して患者の歯形と同じ形状の歯形模型を製作し、この歯形模型を修正し加工して、歯列矯正された修正歯形模型とし、この修正歯形模型の表面に、加熱したプラスチックシートを吸着してアライナーを製作している。歯列矯正された歯形模型から製作されたアライナーは、患者の歯に被着されて患者の歯列を矯正できる。
【0006】
以上の方法は、患者の歯に被着して歯列矯正できるアライナーを製作できるが、このアライナーは、患者から取った印象を使用して、患者の歯形と同じ形状の歯形模型を製作し、この歯形模型を修正してアライナー成形用の修正歯形模型を製作し、この歯形模型に加熱して変形できるプラスチックシートを吸着して製造されるので、製造に手間がかかって製造コストが高くなる。さらに、1枚のプラスチックシートで製作されるので、厚さや材質を局部的に調整できず、不正咬合の歯列を理想的な状態で歯列矯正できない欠点がある。
【0007】
本発明は、以上の欠点を解消することを目的に開発されたもので、本発明の一目的は、製造コストを低減して能率よく高品質なアライナーを成形して、各々の患者の不正咬合の歯列を理想的な状態で矯正できるアライナーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明の一実施態様のアライナーを製造する方法は、患者の歯形の3次元データを検出する検出工程と、検出工程で得られる3次元データをコンピュータで処理して、歯列矯正された歯形の矯正3次元データを得る修正工程と、修正工程で得られる矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、3次元プリンタで患者の歯に被着して歯列矯正するアライナーを成形する成形工程とでアライナーを製造する。
【0009】
以上の製造方法は、製造コストを低減して能率よく高品質なアライナーを成形して、各々の患者の不正咬合などを理想的な状態で矯正できるアライナーを製造できる特長がある。それは、以上のアライナーの製造方法が、患者の歯形の3次元データを検出して、検出する3次元データからコンピュータでもって、歯列矯正された歯形の矯正3次元データを製作し、この矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、3次元プリンタで各々の患者の歯を矯正するアライナーを成形するからである。以上の製造方法は、患者の歯列を矯正する矯正3次元データをコンピュータで演算して3次元プリンタに入力して各々の患者に最適なアライナーを成形するので、従来のアライナーのように、歯形模型などを製作し、歯形模型にプラスチックシートを密着して製造することがなく、成形するまでの工程での形状誤差の発生がなく、各々の患者の歯列矯正に最適なアライナーを高い精度で成形できる。
【0010】
さらに、以上の製造方法は、従来のように、修正された歯形模型の表面に、加熱したプラスチックシートを密着して成形する真空成形方でアライナーを製造することなく、演算された矯正3次元データを3次元プリンタに入力して立体的なアライナーを高い精度で成形できるので、1枚のプラスチックシートで成形して製作されるアライナーの制約、たとえば、部分的に弾性や膜厚を変更できない欠点がなく、患者の矯正歯を理想的な状態で矯正できる最適な形状に成形できる特長がある。
【0011】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、検出工程において、光学センサー又はコンピュータ断層撮影(CT)を使用して患者の歯形の3次元データを検出できる。
【0012】
以上の製造方法は、従来のように歯形模型を製造する必要がないことはもちろん、患者に過大な負担を課すことなく、高精度で患者の歯形の3次元データを検出できる特長がある。患者の矯正歯を含む複数の歯に直接接触する必要がなく、短時間で、他の方法に比較して安価に、正確に患者の口腔内の歯形の3次元データを検出できるなどの特長がある。
【0013】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、検出工程において、光学センサーを使用して患者の歯形の3次元データを検出すると共に、光学センサーにデジタルカメラと3Dレーザースキャナーのいずれかを使用できる。
【0014】
以上の製造方法は、患者に過大な負担を課すことなく、高精度で患者の歯形の3次元データを検出できる特長がある。患者の矯正歯を含む複数の歯に直接接触する必要がなく、短時間で、他の方法に比較して安価に、正確に患者の口腔内の歯形の3次元データを検出できる特長がある。さらに放射線(X線)の不安を患者に与えることもない。
【0015】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、修正工程において、アライナーの各々の部位を成形する成形材を特定する位置-材料データを矯正3次元データに追加し、成形工程において、位置-材料データを含む矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、3次元プリンタでもって、アライナーの各々の部位を、位置-材料データで特定された成形材で成形できる。
【0016】
以上の製造方法は、アライナー全体を同じ成形材で成形することなく、特定の位置を特定の成形材で成形できるので、矯正歯を矯正方向に押圧する領域を好ましい成形材で成形して、矯正歯を矯正方向に押圧する押圧力を最適値として、矯正歯を効率よく矯正できる特長がある。とくに、以上の製造方法は、3次元プリンタでもって、アライナーを局所的に異なる成形材で成形できるので、歯列矯正において、矯正歯を局所的に異なる押圧力や方向としてより細かな調整が可能で、矯正歯をより好ましい状態で速やかに矯正できる特長がある。さらに以上の製造方法は、3次元プリンタでもって、異なる成形材を立体形状に成形してアライナーを製造するので、プラスチックシートを真空成形して製造される従来のアライナーのように、全体を同一成形材で成形する制約がなく、患者の歯に快適に被着できる成形材としながら、局所的には異なる成形材で成形することで、矯正歯を極めて効果的に矯正できる特長も実現する。
【0017】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、修正工程において、患者の歯形の3次元データに基づいて、アライナーの部位を、歯列矯正されない非矯正歯を含む患者の複数の歯に脱着自在に被着される溝型に成形されてなるホルダー部と、ホルダー部に一体構造であって矯正歯を含む領域に被着されて弾性復元力で矯正歯を矯正方向に押圧する矯正部とに区画して、区画されたホルダー部と矯正部の成形材を特定する位置-材料データを矯正3次元データに追加することができる。
【0018】
以上の製造方法で製造されるアライナーは、矯正歯を押圧する矯正部の成形材と、それ以外の領域を含むホルダー部を成形する成形材を特定する位置-材料データを矯正3次元データに追加してアライナーを成形するので、患者の不正咬合の程度や不正咬合の状態を考慮して種々の患者に最適なアライナーを製造できる。たとえば、不正咬合の程度が大きい患者用には、硬い成形材で矯正歯を成形して矯正する押圧力を強くし、敏感な患者には矯正歯を押圧する押圧力を弱くしてアライナーを製造するなど、不正咬合の程度、歯列状態、矯正歯を含む歯茎、さらには矯正期間、患者の要望などを考慮して患者に最適なアライナーを製造できる。
【0019】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、修正工程において、アライナーの各々の部位を成形する成形材の引張弾性率を特定する位置-弾性率データを矯正3次元データに追加し、成形工程において、位置-弾性率データを含む矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、3次元プリンタでもって、アライナーの各々の部位を、位置-弾性率データで特定された引張弾性率の成形材で成形できる。
【0020】
以上の製造方法は、アライナー全体を同じ引張弾性率の成形材で成形することなく、特定の部位を特定の引張弾性率の成形材で成形できるので、矯正歯を矯正方向に押圧する領域を好ましい引張弾性率の成形材で成形して、矯正歯を矯正方向に押圧する押圧力を最適値として、矯正歯を効率よく矯正できる特長がある。とくに、以上の製造方法は、3次元プリンタでもって、アライナーを局所的に異なる引張弾性率の成形材で成形できるので、歯列矯正において、矯正歯を局所的に異なる押圧力や方向としてより細かな調整が可能で、矯正歯をより好ましい状態で速やかに矯正できる特長がある。さらに以上の製造方法は、3次元プリンタでもって、異なる引張弾性率の成形材を立体形状に成形してアライナーを製造するので、プラスチックシートを真空成形して製造される従来のアライナーのように、全体を同一の引張弾性率の成形材で成形する制約がなく、患者の歯に快適に被着できる成形材としながら、局所的に異なる引張弾性率の成形材で成形することで、矯正歯を極めて効果的に矯正できる特長も実現する。
【0021】
また、以上の方法は、矯正歯の矯正部を引張弾性率の高い、あるいは低い成形材で成形して押圧力を調整できるので、アライナーの厚さを考慮することなく、必要に応じて矯正歯の押圧力を強く、あるいは柔軟にすることもできる。したがって、矯正歯を押圧する領域をそれ以外の領域よりも厚く、あるいは薄くすることなく、患者に最適な押圧力に設定できる特長もある。矯正歯の押圧部とそれ以外の領域とを実質的に同じ厚さとするアライナーは、患者が快適に被着して歯列矯正しながら、快適に使用できるできる特長がある。さらにまた、局所的に同じ種類で異なる引張弾性率の成形材で成形でき、あるいはまた局所的に異なる種類で異なる引張弾性率の成形材でも成形できるので、より細かな調整が可能となる特長もある。
【0022】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、修正工程において、患者の3次元データに基づいて、アライナーの部位を、歯列矯正されない非矯正歯を含む患者の複数の歯に脱着自在に被着される溝型に成形されてなるホルダー部と、ホルダー部に一体構造であって矯正歯を含む領域に被着されて弾性復元力で矯正歯を矯正方向に押圧する矯正部とに区画して、区画されたホルダー部と矯正部の成形材を特定する位置-弾性率データを矯正3次元データに追加することができる。
【0023】
以上の製造方法で製造されるアライナーは、矯正歯を押圧する矯正部を引張弾性率の高い、あるいは低い成形材で成形して押圧力を調整できるので、アライナーの厚さを考慮することなく、必要ならば矯正歯の押圧力を強く、あるいは柔軟にすることもできる。したがって、矯正歯を押圧する領域をそれ以外の領域よりも厚く、あるいは薄くすることなく、患者に最適な押圧力に設定できる特長もある。矯正歯を押圧する矯正部とそれ以外の領域と実質的に同じ厚さとするアライナーは、患者が快適に被着して歯列矯正しながら、快適に使用できるできる特長がある。
【0024】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、修正工程において、アライナーの内面を成形する成形材を特定する内面-材料データを矯正3次元データに追加し、成形工程において、内面-材料データを含む矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、3次元プリンタでもって、アライナーの内面を内面-材料データで特定された成形材で成形できる。
【0025】
以上の製造方法で製造されるアライナーは、アライナーの内面を患者の歯に快適に被着できる成形材で成形することで、歯列矯正しながら快適に使用できるできる特長がある。
【0026】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、修正工程において、アライナーの内面を成形する成形材を、他の領域よりも引張弾性率の低い成形材にできる。
【0027】
以上の製造方法で製造されるアライナーは、アライナーの内面を歯に違和感なく接触でき、またアライナーのフィット感を高めることができる。このアライナーは、患者が快適に被着して歯列矯正しながら、快適に使用できるできる特長がある。アライナーの内面を同じ種類で異なる引張弾性率の成形材で成形でき、あるいは異なる種類で異なる引張弾性率の成形材でも成形できるので、より細かな調整を行うこともできる特長がある。
【0028】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、修正工程において、アライナーの内面形状と外面形状を非相似形とする位置-膜厚データを矯正3次元データに追加し、成形工程において、位置-膜厚データを含む矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、3次元プリンタでもって、内面形状と外面形状を非相似形とするアライナーを成形できる。
【0029】
以上の製造方法で製造されるアライナーは、矯正歯の状態、歯列矯正の内容・程度、押圧力に応じて、また装着具合をも考慮して適切な内面形状と外面形状を選択できる。内面形状と外面形状を相似形状に限定する必要がなく、異なる形状にできる他、部分的に異なる膜厚にでき、矯正歯を矯正方向に押圧する押圧力やアライナーの装着具合など様々な調整が可能となる特長がある。
【0030】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、修正工程において、アライナーの特定の領域と他の領域を異なる膜厚とする位置-膜厚データを矯正3次元データに追加し、成形工程において、位置-膜厚データを含む矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、3次元プリンタでもって、アライナーの特定の領域を他の領域と異なる膜厚とするアライナーを製造できる。
【0031】
以上の製造方法で製造されるアライナーは、アライナー全体を同じ膜厚で成形することなく、特定の領域の膜厚を調整して、ある領域では他の領域よりも厚くあるいは薄くすることで、矯正歯の押圧力と方向を調整できるので、矯正歯を理想的な状態で歯列矯正できる特長がある。この製造方法で製造されるアライナーは、患者の不正咬合の程度や不正咬合の状態を考慮して種々の患者に最適な押圧力のアライナーを製造できる特長がある。たとえば、不正咬合の程度が大きい患者用には、矯正歯を押圧する領域を厚く成形して押圧力を強くし、敏感な患者には矯正歯の押圧部を薄く成形して押圧力を抑制して患者が快適に使用できるアライナーを製造できるなど、患者及び矯正歯を含めた歯茎、歯列状態、さらには矯正期間、患者の要望などに合わせて最適なアライナーを製造できる。さらに、以上の製造方法は、アライナーの局所的な膜厚で押圧力をコントロールするので、アライナー全体を同じ成形材で成形しながら、各々の患者に最適な押圧力のアライナーを能率よく製造できる特長がある。また、3次元プリンタが単一成形材でアライナーを成形するので、3次元プリンタの設備コストも低減して、アライナーの製造コストも低減できる特長がある。さらにまた、患者やアライナーの形状、材料、厚さなどによってはアライナー被着による違和感を感じ易い部分または違和感を感じる部分を他の領域と異なる膜厚にすることで違和感を軽減できる特長もある。
【0032】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、修正工程において、患者の歯形の3次元データに基づいて、アライナーの部位を、歯列矯正されない非矯正歯を含む患者の複数の歯に脱着自在に被着される溝型に成形されてなるホルダー部と、ホルダー部に一体構造であって矯正歯を含む領域に被着されて弾性復元力で矯正歯を矯正方向に押圧する矯正部とに区画して、区画されたホルダー部と矯正部とを異なる膜厚とする位置-膜厚データを矯正3次元データに追加することができる。
【0033】
以上の製造方法で製造されるアライナーは、矯正歯を押圧する領域の膜厚を調整して、矯正歯の押圧力を調整できるので、矯正歯を理想的な状態で歯列矯正できる特長がある。
【0034】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、修正工程において、アライナーの特定の領域に弾性体を埋設する埋設データを矯正3次元データに追加し、成形工程において、埋設データを含む矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、3次元プリンタでもって、特定の領域に弾性体が埋設されたアライナーを製造する。
【0035】
以上の製造方法は、アライナーの特定領域に弾性体を埋設してなるアライナーを3次元プリンタで製造するので、矯正歯を押圧して矯正する領域に弾性体を埋設して、矯正歯をより強い押圧力で押圧して効果的に矯正できるアライナーを製造できる特長がある。とくに、以上の製造方法は、3次元プリンタでもって弾性体を埋設するアライナーを製造するので、成形材のみだけの弾性力で矯正できない押圧力で、矯正歯を押圧して効果的に矯正できる特長がある。さらに以上の製造方法は、3次元プリンタでもって、弾性体を埋設するアライナーを製造するので、プラスチックシートを真空成形して製造される従来のアライナーのように厚さの制約がなく、患者の歯に理想的な状態で被着できる形状に成形しながら、弾性体で矯正歯を極めて効果的に矯正できる。さらにまた、この方法は、成形材に埋設する弾性体で矯正歯を押圧して矯正するので、歯に快適に被着できる柔軟な成形材を使用して矯正歯を効果的に矯正できる。さらに、製造されるアライナーが、弾性体を成形材に埋設しているので、弾性体で効果的に歯列矯正しながら、弾性体が外部に露出して、患者に被着された状態で外観を悪くなることがなく、さらにまた弾性体と成形材との間に隙間ができてここに異物が付着して不衛生な状態となる弊害も解消できる。
【0036】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、修正工程において、患者の歯形の3次元データに基づいて、アライナーの部位を、歯列矯正されない非矯正歯を含む患者の複数の歯に脱着自在に被着される溝型に成形されてなるホルダー部と、ホルダー部に一体構造であって矯正歯を含む領域に被着されて弾性復元力で矯正歯を矯正方向に押圧する矯正部とに区画して、矯正部に弾性体を埋設する埋設データを矯正3次元データに追加することができる。
【0037】
以上の製造方法で製造されるアライナーは、矯正歯を押圧する矯正部に弾性体を埋設するので、効果的に矯正歯を押圧して矯正できる特長がある。
【0038】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、弾性体が、弾性変形するプラスチックまたは弾性金属で、矯正歯の表面に沿う板状ないしは線状で、成形工程において、弾性体を、アライナーの内部に完全に埋設し、あるいは一部をアライナーの表面に露出する状態に埋設する。
【0039】
以上の製造方法によると、アライナーに埋設する弾性体の材質や形状、埋設状態を患者の不正咬合の程度や不正咬合の状態を考慮して調整することで、患者に最適なアライナーを製造できる。
【0040】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、3次元プリンタに、インクジェット方式の3次元プリンタを使用してアライナーを製造できる。
【0041】
以上のアライナーを製造する方法は、プリンタのヘッドから紫外線硬化性等の樹脂を噴射して、紫外線ランプで紫外線を照射して樹脂を硬化してホルダー部と矯正部とを一体構造に成形できるので、高い精度でアライナーを成形でき、さらに、アクリル樹脂やゴム状弾性の成形材でアライナーを成形して患者に最適なで形状に成形できる特長がある。
【0042】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、3次元プリンタに、熱溶解積層方式の3次元プリンタを使用してアライナーを製造できる。
【0043】
以上の製造方法は、ABS樹脂等の熱可塑性のプラスチックを、熱で溶かしノズルヘッドから噴射してホルダー部と矯正部とを一体構造に成形して、各々の患者に最適なアライナーを能率よく生産できる特長がある。
【0044】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、3次元プリンタに、粉末焼結積層造形方式の3次元プリンタを使用してアライナーを製造できる。
【0045】
以上の製造方法は、ナイロン樹脂等の粉末にレーザーを照射して焼結してアライナーを成形するので、高い精度で高品質なアライナーを能率よく生産できる特長がある。
【0046】
本発明の他の実施態様のアライナーを製造する方法は、3次元プリンタに、光学造形方式の3次元プリンタを使用してアライナーを製造できる。
【0047】
以上の製造方法は、エポキシ樹脂などの液体樹脂に紫外線レーザーを照射して、一層ごとに硬化してアライナーを成形して、高精度で高品質なアライナーを能率よく生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1図1は、本発明の一実施態様に係る方法で製造されたアライナーを装着する様子を示す概略分解斜視図である。
図2図2は、アライナーで患者の歯を矯正する代表的な例を示す概略断面図である。
図3図3は、装着したアライナーを示す概略水平断面図である。
図4図4は、矯正歯を平行移動して矯正するアライナーの一例を示す概略水平断面図である。
図5図5は、矯正歯を平行移動して矯正するアライナーの他の一例を示す概略水平断面図である。
図6図6は、矯正歯を回転して矯正するアライナーの一例を示す概略水平断面図である。
図7図7は、矯正歯を回転して矯正するアライナーの他の一例を示す概略水平断面図である。
図8図8は、矯正歯を正常な姿勢に傾動させるアライナーの一例を示す概略垂直断面図である。
図9図9は、矯正歯を正常な姿勢に傾動させるアライナーの他の一例を示す概略垂直断面図である。
図10図10は、特定の領域に弾性体を埋設したアライナーを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想の具体例を示すものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施形態、実施例において説明する内容は、他の実施形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0050】
[アライナーによる矯正]
図1は、後述する方法で製造された歯列矯正用のアライナー100を装着する様子を示す概略斜視図である。アライナー100は、非矯正歯4と矯正歯2からなる患者の複数の歯に脱着自在に被着されて矯正歯2を歯列矯正する。アライナー100は、好ましくは、図1に示すように、人体の上顎11と下顎12の両方の歯列に被着されて、上顎11と下顎12の歯列を矯正し、あるいは上顎11と下顎12のいずれか一方の歯列を矯正する。上顎11と下顎12の両方にアライナー100を被着して、両方の歯列を同時に矯正する一対のアライナー100は、上下の歯の噛み合わせを最適な状態としながら歯列矯正できる特長がある。以下において、主にアライナー100について記載するが、他のアライナーについても基本的に妥当する。
【0051】
図1に示す上顎11の歯列を矯正するアライナー100は、上顎11の全ての歯に被着されて矯正歯2を矯正し、下顎12の歯を矯正するアライナー100は、下顎12の全ての歯に被着されて矯正歯2を矯正する。上顎11又は下顎12の全ての歯に被着して、矯正歯2を矯正するアライナー100は、ホルダー部5を多数の非矯正歯4に被着して、安定に位置ずれなく定位置に配置して、矯正歯2を好ましい位置に矯正できる。ただし、本発明のアライナー100は、必ずしも上顎11又は下顎12の全ての歯に被着することなく、例えば矯正歯2と、その両側の非矯正歯4を含む歯に嵌合構造で被着されて、特定の矯正歯2を矯正することもできる。
【0052】
図1に示すように、上顎11又は下顎12の歯に被着されるアライナー100は、患者の矯正歯2と非矯正歯4に脱着自在に被着されるキャビティー1を内側に設けている溝型に成形されている。キャビティー1は、嵌合構造で非矯正歯4と矯正歯2とに被着される。ただし、キャビティー1は、好ましくは非矯正歯4と矯正歯2に嵌合構造で被着されるが、矯正歯2は必ずしも嵌合構造で矯正歯2に被着されない。それは、矯正部3は、矯正歯2をスムーズに移動できるように移動スペースを設けて、矯正歯2に被着される形状とすることがあるからである。嵌合構造で歯に被着されるキャビティー1は、内形を非矯正歯4と矯正歯2の外形にほぼ等しく、正確には患者の歯の外形よりもわずかに大きく、かつ被着された状態で位置ずれすることなく、矯正歯2を弾性的に押圧する形状としている。アライナー100は、患者の歯の表面のみを覆う形状に成形され、あるいは歯と歯ぐきの一部を覆う形状に成形される。
【0053】
アライナー100は、患者の歯に被着されて、正常な位置と姿勢にない歯を正常な位置と姿勢に矯正する。図2は患者の歯を矯正する代表的な例を示している。図において、アライナー100の外形線を太線で示している。図2Aは矯正歯2を平行移動して矯正する場合、図2Bは矯正歯2を回転して矯正する場合、図2Cは矯正歯2を正常な姿勢に傾動して矯正する場合を、それぞれ示している。矯正歯2は、図2Aないし図2Cに示すパターンを単独で、あるいは組み合わせることで正常な位置と姿勢に矯正される。これらの図はいずれの場合も矯正方向を限定するものではなく、実際の矯正歯2の状態に応じて最適な矯正方向が定められる。患者の歯に被着されたアライナー100は、それ自体の弾性復元力で矯正歯2を押圧して、正常な位置と姿勢にない矯正歯2を正常な位置と姿勢に矯正する。
【0054】
図3は、矯正歯2が歯列矯正される複数の歯に被着されるアライナー100の概略水平断面図を示している。図において、アライナー100の外形線を鎖線で示している。アライナー100は、歯列矯正されない非矯正歯4に被着されるホルダー部5と、矯正歯2に被着されて矯正歯2を矯正する矯正部3とを備える。矯正部3は、矯正歯2に被着されて矯正歯2を正常な位置と姿勢に移動させるので、矯正歯2に被着される領域からホルダー部5に伸びる領域で構成される。矯正部3が変形して矯正歯2を正常な位置と姿勢に移動させるからである。ホルダー部5と矯正部3は、人体の複数の歯に脱着自在に被着できるように、断面形状を溝型に成形している。
【0055】
矯正部3は、矯正歯2を含む領域に被着されて矯正歯2を矯正する部分である。図3などにおいて、矯正歯2を覆う領域を矯正部3とし、それ以外の矯正歯2に隣接する非矯正歯4を覆う領域をホルダー部5とする。ただし、矯正部3は、アライナー100が内側において矯正歯2に接触する部分のみに限定されるものではなく、矯正歯2の隣接歯、さらにはその周辺歯など、必要に応じて矯正歯2以外の歯を覆う領域に及び得る。アライナー100は、矯正部3の弾性復元力で矯正歯2を押圧して矯正するものであり、矯正部3の範囲は、弾性復元力による矯正歯2への押圧力を創出する領域を含めるものとする。また、例えば、矯正歯2を正常な位置に矯正するために移動先の十分なスペースがない場合に、矯正歯2に隣接する歯、さらにはその周辺の歯を含めて移動させて矯正歯2の移動先のスペースを確保する場合などもある。
【0056】
図3のアライナー100は、図において左側の中切歯を矯正歯2として歯列矯正するので、ホルダー部5は、左側の中切歯を除く右側の中切歯と、両側の側切歯と、両側の犬歯と、両側の臼歯を非矯正歯4として、これ等の非矯正歯4に脱着自在に被着される。図3に示すアライナー100は、全ての非矯正歯4にホルダー部5を被着して、矯正歯2を歯列矯正するので、ホルダー部5を位置ずれなく非矯正歯4に被着して、矯正歯2を正確に歯列矯正できる特長がある。ただし、アライナー100は、必ずしも全ての非矯正歯4にホルダー部5を被着することなく、ホルダー部5を一部の非矯正歯4に被着して矯正歯2を矯正することもできる。
【0057】
アライナー100は、特定の領域を他の領域と異なる材料の成形材で成形し、また特定の領域を他の領域と異なる引張弾性率の成形材で成形し、あるいはまた、特定の領域を他の領域と異なる膜厚となるように成形し、もしくはこれらのいずれかまたは複数の組み合わせにより成形することができる。例えば、矯正部3は、それ自体が弾性変形して矯正歯2を押圧して歯列矯正する領域であって、矯正部3の一部又は全体をホルダー部5と異なる材料の成形材とし、あるいは異なる引張弾性率の成形材とし、あるいはまた、異なる膜厚とし、もしくはこれらの組み合わせとすることができる。異なる引張弾性率の成形材とする場合、異なる組成の成形材のみならず、同じ組成の成形材で異なる引張弾性率とすることもできる。矯正部3はホルダー部5と一体構造であって、矯正歯2に被着されるキャビティー1を内側に設けている溝型で、それ自体の弾性復元力で矯正歯2を矯正方向に押圧して移動させる。
【0058】
図4は、矯正歯2を水平方向に平行移動して歯列矯正する例の概略水平断面図を示す。図4は、図3の要部拡大水平断面図であり、アライナー100の矯正部3とその両側部分を示す。図4はアライナー100をハッチングで示している。図4に示す矯正部3は、矯正歯2を矯正方向に押圧する押圧部3aと、それ自体の弾性復元力で押圧部3aを矯正歯2に押圧する弾性変形部3bと、矯正歯2の移動方向に移動スペース3eを設けている非接触領域3cとを備える。矯正部3は、前述のように、ひとつまたは複数の矯正歯2のみならず、その隣接歯さらにはその周辺歯を覆う領域を含める場合があり、押圧部3a、弾性変形部3b、非接触領域3cについても同様である。
【0059】
図4Aないし図4Cは、矯正歯2を少しずつ移動させて矯正する工程であって、異なる形状の第1のアライナー110及び第2のアライナー120を使用して矯正歯2を段階的に矯正する工程を示している。図4Aないし図4Cにおいて、実線が各工程における矯正歯2の位置を、一点鎖線が矯正前の矯正歯2の位置を、二点鎖線が第1のアライナー110により移動した矯正歯2の位置を、鎖線が新たな第2のアライナー120により矯正された正常な位置を、それぞれ示す。
【0060】
これらの図に示すように、図4Aの実線位置にある矯正歯2を、第1のアライナー110及び第2のアライナー120により、二点鎖線位置を経て鎖線位置(図4Cの実線位置)に移動して矯正する。その歯列矯正の過程を図4Aないし図4Cに、矯正方向を矢印にて示す。図4Aにおいて、第1のアライナー110は、図4Bに示す形状に成形されており、図4Aの実線位置にある矯正歯2と非矯正歯4に被着されて、図4Aの矢印で示すように、矯正歯2を二点鎖線の位置に近づけるように移動させる。図4Bに示す形状に成形された第1のアライナー110は、弾性変形して図4Aの実線位置にある歯に被着される。弾性変形して被着された第1のアライナー110は、弾性復元力で矯正歯2を二点鎖線に向けた矯正方向に移動させる。図4Bに示す形状の第1のアライナー110は、矯正歯2が図4Aの実線位置から図4Bの実線位置に移動するにしたがって、矯正方向の押圧力が低下して矯正作用も低下する。図4Bは、第1のアライナー110によって矯正歯2が一点鎖線位置から二点鎖線位置に移動して矯正された状態を示す。ここで矯正作用の低下した第1のアライナー110を、新しい第2のアライナー120に交換して、矯正歯2を正常な位置に移動させて矯正する。図4Bにおいて、新しい第2のアライナー120は、図4Cに示す形状に成形されており、図4Bの実線位置にある矯正歯2と非矯正歯4に被着されて、図4Bの矢印で示すように、矯正歯2を鎖線位置に向かって移動させる。最終的に、矯正歯2は、図4Cの実線位置で示す正常な位置まで移動して矯正される。図4Cは、第2のアライナー120により矯正歯2が二点鎖線の位置から実線位置に移動して矯正された状態を示す。
【0061】
図4において説明を単純化するために、図4Aの実線から二点鎖線を介して鎖線位置まで第1のアライナー110と新しい第2のアライナー120という2つのアライナー100で矯正歯2を矯正方向に移動させているが、好ましくは、形状の異なる複数のアライナー100を使用して段階的に矯正歯2を矯正方向に移動させる。形状の異なる複数のアライナー100は、移動距離、矯正の内容や程度、矯正期間、矯正歯2を含む口腔内の状態や患者の要望などにより最適な個数及び形状が選択される。図示しないが、図4において、形状の異なる複数のアライナー100を使用する場合、図4Aの実線位置にある矯正歯2と非矯正歯4にアライナー100が被着されることから始まり、矯正作用の低下したアライナー100の交換を繰り返し、図4Aの二点鎖線位置に近い形状のアライナー100に交換して、矯正歯2を図4Aの実線位置から二点鎖線位置に移動させる。さらに同様に、矯正作用の低下したアライナー100の交換を繰り返し、図4Bの鎖線位置に近い形状のアライナー100に交換して、矯正歯2を図4Bの実線位置から鎖線位置に移動させて、図4Cの実線位置で示す正常な位置まで最終的に移動して矯正する。
【0062】
歯列矯正は、好ましくは複数のアライナー100を使用して、アライナー100を次々と交換して歯に被着して、矯正歯2を適正な位置に移動する。矯正歯2に一度に過大な移動をさせる押圧力を加えることは、患者への負担が大きく、違和感や痛みの原因となるからである。歯列矯正するアライナー100の個数を多くすることは、ひとつのアライナー100の矯正距離を小さくして患者の負担を少なくできる。次々と交換して歯に被着して歯列矯正する複数のアライナー100は、キャビティー1の形状を、患者の歯形から歯列矯正された歯形に次第に近づく形状とする。患者は、ひとつのアライナー100で歯列矯正した後、次のアライナー100に交換して歯列矯正する工程を繰り返して矯正歯2を歯列矯正する。
【0063】
アライナー100は、患者の歯に被着されて矯正歯2を矯正方向に弾性復元力で押圧するので、キャビティー1の内形は被着される患者の歯形の外形と同一ではない。アライナー100は、患者の歯形から歯列矯正された方向に位置ずれした形状にキャビティー1を成形している。患者の歯形模型と同一のキャビティー1のアライナー100は、これを被着して矯正歯2を弾性的に押圧できないからである。これにより矯正歯2の状態、歯列矯正の内容・程度、押圧力に応じて、またアライナー100の被着具合をも考慮して適切な内面形状及び外面形状を各々選択できる。
【0064】
アライナー100の特定の領域を他の領域と異なる成形材とすることができる。またアライナー100の特定の領域を他の領域と異なる引張弾性率の成形材で成形することもできる。例えば、矯正歯2を押圧する矯正部3を引張弾性率の高い、あるいは低い成形材で成形して押圧力を調整できるので、必要ならば矯正歯2の押圧力を強く、あるいは柔軟にすることもできる。矯正部3をそれ以外の領域よりも厚く、あるいは薄くすることなく、患者に快適に装着しつつ、最適な押圧力に設定できる。また、異なる引張弾性率で成形する領域その他の領域を確実に接合しながら3次元プリンタで成形できる。
【0065】
図4は、太線で間隔の狭いハッチングで示す矯正部3の一部である弾性変形部3bを、ホルダー部5と異なる引張弾性率の成形材とする例を示す。図4のアライナー100は、矯正部3の弾性変形部3bをホルダー部5よりも引張弾性率を高くして、矯正部3の押圧力を強くして、矯正歯2を速やかに所定の位置に移動して矯正できる。ただし、矯正部3の弾性変形部3bをホルダー部5よりも引張弾性率を低くして、矯正部3が矯正歯2を押圧する押圧力を弱くして、患者の違和感を少なくして快適に歯列矯正することもできる。さらに、矯正部3を他の領域よりも引張弾性率の小さい成形材で成形しているアライナー100は、非矯正歯4に被着するホルダー部5を引張弾性率の高い成形材で成形して、ホルダー部5を患者の歯に位置ずれしないように被着できる特長がある。異なる引張弾性率の成形材は、異なる種類の成形材のみならず、同じ種類の成形材とすることもできる。
【0066】
図4において、例えば、太線で間隔の狭いハッチングで示す矯正部3の一部である弾性変形部3bは、引張弾性率の高いアクリル樹脂で成形し、その他の部分は引張弾性率の低いアクリル樹脂で成形する。矯正部3は、例えば、引張弾性率を3500MPa以上であって4200MPa以下とするアクリル樹脂で成形し、ホルダー部5を含むその他の領域は引張弾性率2800MPa以上であって3500MPa未満とするアクリル樹脂で成形する。
【0067】
このアライナー100は、引張弾性率が異なるアクリル樹脂で全体を成形しているが、アライナー100を成形する成形材は、アクリル樹脂に代わって、引張弾性率が異なるABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PRT、PETG)、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂などで全体を成形することができる。また、引張弾性率が異なる異種の成形材、たとえば、異なるプラスチック、エラストマー、ゴム状弾性体で矯正部3とホルダー部5とを成形することもできる。例えば、図4において、太線で間隔の狭いハッチングで示す矯正部3の一部は、引張弾性率の高いアクリル樹脂で成形し、その他の部分は引張弾性率の低い異なる成形材で成形することもできる。
【0068】
さらに、アライナー100は、矯正歯2の移動先である移動方向の前面に位置する非接触領域3c(図4Aにおいて矯正歯2の下に位置する)を、矯正部3の一部またはホルダー部5よりも引張弾性率の小さい成形材で成形することができる。このアライナー100は、矯正部3の一部をホルダー部5よりも高い引張弾性率の成形材で成形して、非接触領域3cをホルダー部5よりも低い引張弾性率の成形材で成形して製作できる。このアライナー100は、非接触領域3cが矯正歯2に接触ないし接近する形状に成形して、矯正歯2との間に移動スペース3eを設けることなく、あるいは移動スペース3eを狭くしつつ、矯正歯2の移動矯正の障害となることなく矯正歯2を速やかに矯正方向に移動できる。
【0069】
さらにまた、複数のアライナー100で段階的に歯列矯正する方法は同じ形状に成形して、引張弾性率が異なる複数のアライナー100とすることもできる。このアライナー100は、内形を歯列矯正の完了した患者の歯形と同じ形状とする。最初に患者の歯に被着されるアライナー100は、歯列矯正されない患者の歯に被着されるので、矯正歯2と、矯正歯2に被着されるキャビティー1の矯正歯2を押圧する押圧部3aを含めた矯正歯嵌合部1aとの相対的な位置の差が大きい。アライナー100は弾性変形するので、矯正されない患者の矯正歯2に被着できる。弾性変形するアライナー100は、矯正歯2と矯正後の歯との相対的な位置ずれが大きくなると、矯正歯2に作用する押圧力が大きくなる。アライナー100が矯正歯2を押圧する力が、フックの法則に従って移動に比例して大きくなるからである。最初のアライナー100として使用されるアライナー100を、段階的に交換して使用される他のアライナー100と同じ弾性率の成形材で成形すると、最初のアライナー100の矯正力が強すぎて患者の負担が大きくなる。この弊害を防止するために、最初に使用するアライナー100は、矯正部3を成形する成形材の引張弾性率を小さくして押圧力を抑制する。したがって、この方法に使用される同一形状のアライナー100は、最初に使用するアライナー100から最後に使用するアライナー100にしたがって、矯正部3を成形する成形材の弾性力を大きくする。最初に使用するアライナー100の引張弾性率を最後に使用するアライナー100よりも小さくして、最初のアライナー100の押圧力を抑制できる。
【0070】
以上の図4のアライナー100は矯正歯2を平行移動して矯正するが、図4と同様に矯正部3がその弾性復元力で矯正歯2を矯正方向に押圧することで、図6のアライナー100は矯正歯2を回転して矯正し、図8のアライナー100は矯正歯2を正常な姿勢に傾動して矯正する。
【0071】
図6の場合、矯正歯2を回転して矯正する。図6Aないし図6Cは、矯正歯2を少しずつ回転させて矯正する工程であって、異なる形状の第1のアライナー110及び第2のアライナー120を使用して矯正歯2を段階的に矯正する工程を示している。図6Aないし図6Cにおいて、実線が各工程における矯正歯2の位置を、一点鎖線が矯正前の矯正歯2の位置を、二点鎖線が第1のアライナー110により移動した矯正歯2の位置を、鎖線が第2のアライナー120により矯正された正常な位置を、それぞれ示す。
【0072】
図6Aは矯正前の矯正歯2に、図6Bに示す形状の第1のアライナー110を被着して、矢印で示すように、二点鎖線位置に向けて回転させて矯正する状態を、図6Bは第1のアライナー110による矯正が完了し、図46Cに示す形状の新しい第2のアライナー120が被着されて、矢印で示すように、鎖線位置に向けて回転させて矯正する状態を、図6Cは第2のアライナー120により矯正歯2が正常な位置に矯正された状態を、それぞれ示す。
【0073】
図6に示すように、矯正歯2を回転して矯正する場合、押圧方向が一定ではなく矯正段階により変化するため、矯正歯2を矯正方向に押圧する押圧部3aと、それ自体の弾性復元力で押圧部3aを矯正歯2に押圧する弾性変形部3bと、矯正歯2の移動方向に移動スペース3eを設けている非接触領域3cの位置及び位置関係が変化する点をも考慮して、特定の領域を異なる成形材とし、また特定の領域を異なる引張弾性率の成形材とし、またさらに形状の異なる複数のアライナー100を使用する必要がある。
【0074】
図8の場合、矯正歯2を正常な姿勢に傾動させて矯正する。図8A図8Bは、矯正歯2を傾動して正常な姿勢に矯正する工程を示している。図8A及び図8Bにおいて、実線が各工程における矯正歯2の位置を、一点鎖線が矯正前の矯正歯2の位置を、鎖線がアライナー100により矯正された正常な位置を、それぞれ示す。
【0075】
図8Aは矯正前の矯正歯2にアライナー100を被着して、矢印で示すように、鎖線位置に向けて矯正部2を傾動して矯正する状態を、図8Bはアライナー100により矯正歯2が正常な姿勢に矯正された状態を、それぞれ示す。
【0076】
矯正歯2を正常な姿勢に傾動させて矯正する場合、矯正部3は、図8Aに示すように、矯正歯2の一部(図において矯正歯2の右側の付け根部)の移動を阻止しながら、他の領域(図において矯正歯2の左側の上端)を押圧して矯正歯2を傾動して矯正することがある。このアライナー100の矯正部3は、矯正歯2を矯正方向に押圧する押圧部3aと、それ自体の弾性復元力で押圧部3aを矯正歯2に押圧する弾性変形部3bと、矯正歯2の移動方向に移動スペース3eを設けている非接触領域3cと、矯正歯2の移動を阻止するストッパ部3dとを備える。ストッパ部3dは、例えば図8Aに示すように、傾斜する姿勢の矯正歯2を垂直姿勢となるように傾動して歯列矯正する矯正部3に設けられる。図8Aの垂直断面図に示すアライナー100は、矯正部3の押圧部3aが矯正歯2の左側の上端を水平方向に右側に押圧して移動し、押圧される反対側の矯正歯2の右側の付け根部の移動をストッパ部3dが阻止して、矯正歯2を傾動するので、押圧部3aで矯正歯2の上端部を水平方向に押圧し、ストッパ部3dで矯正歯2の付け根部の移動を抑制又は阻止して、矯正歯2を傾動させる。
【0077】
本発明のアライナー100は、矯正歯2の矯正方向や矯正姿勢を特定するものでない。例えば、押圧部3aで局部的に押圧して矯正するが、歯列矯正において移動させない非移動部のある矯正歯2は、非移動部をストッパ部3dで移動させることなく歯列矯正する。ストッパ部3dは、矯正歯2の移動抑制、阻止や矯正歯2への接触態様に応じて、矯正歯2に1または複数で接触し、点状のみならず、線状または面状など適切な接触態様で矯正歯2の移動を抑制し阻止する。ただし、アライナー100が、矯正歯2の移動を局部的に阻止することなく矯正する矯正部3は、ストッパ部3dを設けることなく歯列矯正できる。また、矯正部3が弾性変形して矯正歯2の矯正を阻害しないで歯列矯正できるアライナー100は、矯正部3に必ずしも非接触領域3cを設けることなく歯列矯正することもできる。なお、ストッパ部3dは、矯正歯2を正常な姿勢に傾動させる場合に限らず、矯正歯2を平行移動する場合、矯正歯2を回転する場合、これらのいずれかまたは複数の組み合わせの場合も、必要に応じて設けることができる。さらに、例えば、アライナー100は、非接触領域3cで矯正歯2を所定の位置まで移動するよう導いて、ストッパ部3dが矯正歯2に接触してその所定の位置から移動させることなく歯列矯正することもできる。
【0078】
矯正歯2を正常な姿勢に傾動させて矯正する場合においても、矯正歯2を回転して矯正する場合と同様に、押圧方向が一定ではなく矯正段階により変化することがあり得、またストッパ部3dと押圧部3a、弾性変形部3b、非接触領域3cとの位置関係も含め、特定の領域を異なる成形材とし、また特定の領域を異なる引張弾性率の成形材とし、さらにまた形状の異なる複数のアライナー100を使用する必要がある。弾性変形部3bはそれ自体の弾性復元力で押圧部3aを矯正歯2に押圧するため、押圧部3aに隣接する周辺に設けられ、例えば図8Aに示される位置があるがこれに限定されるものではない。
【0079】
以上のアライナー100は、成形材の引張弾性率と、矯正歯2への矯正力を考慮して全体の厚さを最適値に設定するが、例えば、0.2mm~0.3mmとして、矯正部3とホルダー部5とを弾性率の異なる成形材で成形する。
【0080】
以上、アライナー100の膜厚がほぼ同じである場合について述べてきたが、後述するアライナー200のように、特定の領域を他の領域と異なる膜厚とすることができる。アライナーの特定の領域を異なる膜厚として歯列矯正する場合を、図5図7、及び図9に示す。図5は矯正歯2を平行移動して歯列矯正し、図7は矯正歯2を回転させて歯列矯正し、図9は矯正歯2を正常な姿勢に傾動させる。これらのアライナー200は、膜厚の厚い矯正部3の一部または全体の押圧力を強くして、矯正歯2を速やかに歯列矯正できる。ただし、図示しないが、矯正部3をホルダー部5よりも薄く成形するアライナー200により、矯正部3が矯正歯2を押圧する押圧力を弱くして、患者の違和感を少なくして快適に歯列矯正することもできる。
【0081】
図5図4と同様に、図7図6と同様に、実線が各工程における矯正歯2の位置を、一点鎖線が矯正前の矯正歯2の位置を、二点鎖線が第1のアライナー210により移動した矯正歯2の位置を、鎖線が第2のアライナー220により矯正された正常な位置を、それぞれ示す。図9図8と同様に、実線が各工程における矯正歯2の位置を、一点鎖線が矯正前の矯正歯2の位置を、鎖線がアライナー200により矯正された正常な位置を、それぞれ示す。
【0082】
図5Aないし図5Cに示す矯正工程では、図4Aないし図4Cと同様に、矯正前の矯正歯2に、図5Bに示す形状の第1のアライナー210を被着して、図5Aの矢印で示すように、二点鎖線位置に向けて矯正し、第1のアライナー210による矯正が完了すると、図5Cに示す形状の新しい第2のアライナー220を被着して、図5Bの矢印で示すように、鎖線位置に向けて矯正し、図5Cで示すように、第2のアライナー220により矯正歯2が正常な位置に矯正される。
【0083】
また、図7Aないし図7Cに示す矯正工程では、図6Aないし図6Cと同様に、矯正前の矯正歯2に、図7Bに示す形状の第1のアライナー210を被着して、図7Aの矢印で示すように、二点鎖線位置に向けて矯正し、第1のアライナー210による矯正が完了すると、図7Cに示す形状の新しい第2のアライナー220を被着して、図7Bの矢印で示すように、鎖線位置に向けて矯正し、図7Cで示すように、第2のアライナー220により矯正歯2が正常な位置に矯正される。
【0084】
図9A及び図9Bに示す矯正工程では、図8A及び図8Bと同様に、矯正前の矯正歯2にアライナー200を被着して、図9Aの矢印で示すように、鎖線位置に向けて矯正歯2を傾動させて、図9Bで示すように、アライナー200により矯正歯2が正常な姿勢に矯正される。
【0085】
図5図7、及び図9のアライナー200は、矯正部3とホルダー部5を成形材で一体構造として、矯正部3の一部をホルダー部5よりも厚く成形して、厚い矯正部3で矯正歯2を矯正方向に押圧して歯列矯正する。このアライナー200は、矯正部3をホルダー部5よりも厚くするので、全体を同じ引張弾性率の成形材で成形して、矯正歯2を強い押圧力で矯正方向に押圧できる。ただ、このアライナー200も、図4のアライナー100と同様に、矯正部3をホルダー部5よりも引張弾性率の高い成形材で成形することもできる。図示しないが、矯正部をホルダー部よりも引張弾性率の高い成形材で成形して、さらに厚く成形するアライナーは、矯正歯をより強い押圧力で矯正方向に押圧できる。また、このアライナーは、矯正部とホルダー部の厚さの差と、矯正部とホルダー部を成形する成形材の弾性力の差を小さくして、矯正部で矯正歯を所定の圧力で矯正方向に押圧できる。
【0086】
図5図7、及び図9のアライナー200は、図4と同様に、アクリル樹脂を成形材として製作できるが、これらのアライナー200も、図4と同様に、変形できる熱可塑性又は熱硬化性のプラスチックやエラストマーで成形することができる。矯正部3が矯正歯2を押圧する押圧力は、矯正部3をホルダー部5よりも厚くして強くできるので、矯正部3の厚さは、例えばホルダー部5よりも0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上厚くして、矯正歯2を矯正方向に押圧する。
【0087】
図示しないが、アライナーは、矯正部をホルダー部よりも引張弾性率の高い成形材で成形し、さらに、矯正部をホルダー部よりも厚く成形して、矯正部が矯正歯を矯正方向に押圧する力をより強くできる。
【0088】
さらに、後述するアライナー300のように特定の領域に他の領域よりも変形し難い弾性体6を埋設できる。図10のアライナー300は、矯正部3にホルダー部5よりも変形し難い弾性体6を埋設している。図10Aないし図10Cは、弾性体6を埋設してなるアライナー300の使用例の概略断面図を示している。図10Aは矯正歯2を平行移動して矯正する場合を、図10Bは矯正歯2を回転して矯正する場合を、図10Cは矯正歯2を正常な姿勢に傾動させる場合を、それぞれ示している。
【0089】
弾性体6は、矯正部3とホルダー部5のいずれかまたは両方を成形している成形材よりも変形し難い材料であって、例えば、弾性変形する硬質プラスチック板や弾性金属板とする。弾性体6は、特定の領域、例えば矯正部3の一部または全体に埋設することで、矯正部3の引張弾性率をホルダー部5よりも高くするなど引張弾性力を調整でき、また膜厚を厚くすることなく押圧力を大きくしたり、所定の押圧力の低減を防止したりできる。例えば、このアライナー300は、矯正部3に柔軟な成形材、好ましくはエラストマーを使用しつつ、埋設する弾性体6で矯正部3の押圧力を大きくできる。弾性体6は、歯の表面に沿う板状、ないしは線状で、好ましくは成形材の内部に完全に埋設するが、一部を成形材の表面に露出する状態に埋設することもできる。図10A及び図10Bに示すアライナー300のように、矯正歯2の弾性変形部3bを含む両側の歯に被着される領域まで伸びる範囲まで弾性体6を埋設することで、より効果的に押圧力を大きく、また所定の押圧力を維持できる。
【0090】
このアライナー300は、弾性体6の弾性力で矯正歯2を矯正方向に付勢できるので、矯正部3とホルダー部5に同じ引張弾性率の成形材を使用して成形でき、コスト削減を図ることができる。また、矯正部3とホルダー部5を同じ厚さとすることもでき、患者が違和感なく快適に被着できる。ただ、図示しないが、このアライナー300も、矯正部3をホルダー部5よりも厚く成形し、また引張弾性率の高い成形材で成形して、成形材の弾性で矯正歯2を矯正方向に押圧できるので、矯正部3に埋設する弾性体6の引張弾性率を小さくしながら、矯正部3が矯正歯2を押圧する力を強くできる。
【0091】
また、アライナー300は、矯正部3とホルダー部5を変形し易いエラストマーで成形して、弾性体6で矯正部3を付勢して、矯正歯2を矯正方向に押圧できる。また、このアライナー300は、弾性体6の内側面をエラストマーで被覆するように矯正部3を成形して、硬い弾性体6が患者の歯の表面に直接に接触するのを防止できる。このアライナー300は、弾性体6で矯正歯2を効果的に歯列矯正しながら、歯の表面には変形しやすいエラストマーを接触して、快適に被着できる特長がある。
【0092】
[アライナーの成形材]
アライナーは、矯正部3とホルダー部5を成形材で一体構造に成形して製作される。アライナーは、プラスチック、エラストマー、ゴム等を成形して製作できる。これ等のアライナーを成形する成形材は、アクリル樹脂、ABS樹脂、フッ素樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂等が使用できる。成形材は、矯正の内容程度、矯正歯2を含む口腔内の状態、患者の要望などに応じ、またアライナーの製造方法で最適な材料が選択される。
【0093】
アライナーは、3次元プリンタでホルダー部5と矯正部3を成形材で一体構造に成形して製作されるが、成形する3次元プリンタの方式に最適な成形材が選択される。例えば、インクジェット方式の3次元プリンタで一体構造に成形されるアライナーは、3次元プリンタのヘッドからアクリル樹脂などの紫外線硬化樹脂を噴射し、照射された紫外線硬化樹脂に紫外線を照射し、紫外線で樹脂を硬化して、ホルダー部5と矯正部3とを一体構造に成形して製作される。この方式の3次元プリンタは、ゴム状弾性の成形材を噴射してゴム状弾性体を成形することもできる。
【0094】
熱溶解積層方式の3次元プリンタでもって成形されるアライナーは、ABS樹脂等の熱可塑性のプラスチックを、熱で溶かしノズルヘッドから噴射してホルダー部5と矯正部3とを一体構造に成形できる。粉末焼結積層造形方式の3次元プリンタでもって成形されるアライナーは、ナイロン樹脂等の粉末にレーザーを照射して焼結して成形して製造できる。さらに、光学造形方式の3次元プリンタで成形されるアライナーは、エポキシ樹脂などの液体樹脂に紫外線レーザーを照射して製造できる。
【0095】
アライナー100、200、300は、ホルダー部5と矯正部3とを一体構造に成形して製作されるが、全体を同じ成形材で成形し、あるいは引張弾性率が異なる複数の成形材で全体を一体構造に成形することもできる。全体を同じ成形材で成形しているアライナー200は、矯正部3とホルダー部5を異なる厚さとして、矯正部3とホルダー部5の引張弾性率が異なる成形材とすることができる。異なる複数の成形材で成形するアライナー100は、矯正部3の一部あるいは全体を、ホルダー部5と引張弾性率が異なる成形材で成形することができる。さらに、アライナー300は、矯正部3に弾性体6を埋設して、矯正部3とホルダー部5とを異なる引張弾性率とすることもできる。弾性体6は、弾性変形する硬質プラスチック板や弾性金属板として、矯正部3の引張弾性率をホルダー部5よりも高くできる。弾性体6は、好ましくは成形材の内部に完全に埋設するが、一部を成形材の表面に露出する状態に埋設することもできる。
【0096】
引張弾性率が異なる複数の成形材で成形しているアライナー100は、矯正部3の一部あるいは全体を、ホルダー部5よりも引張弾性率の高い成形材で成形し、あるいはホルダー部5よりも引張弾性率の低い成形材で成形する。矯正部3をホルダー部5よりも高い引張弾性率の成形材で成形するアライナー100は、矯正部3で矯正歯2を強く押圧して効果的に矯正歯2を歯列矯正でき、矯正部3を低い引張弾性率の成形材で成形するアライナー100は、患者に与える違和感を少なくして、矯正歯2を歯列矯正できる。さらに、矯正部3に弾性体6を埋設するアライナー300は、弾性体6で矯正歯2を押圧して速やかに歯列矯正できる。
【0097】
矯正部3をホルダー部5よりも厚く成形して、矯正部3の引張弾性率をホルダー部5よりも高くしているアライナーは、厚い矯正部3の押圧力を強くして、矯正歯2を速やかに歯列矯正できる。矯正部3をホルダー部5よりも薄く成形しているアライナーは、矯正部3が矯正歯2を押圧する押圧力を弱くして、患者の違和感を少なくして快適に歯列矯正できる。
【0098】
アライナーは、アクリル樹脂などの透明の成形材、あるいは半透明の成形材で成形することができ、さらに、被着する歯に近似する色に着色することもできる。
【0099】
[アライナーの形状]
アライナー100は、上顎11又は下顎12のいずれか又は両方の歯に被着されて、ひとつ又は複数の矯正歯2を弾性的に押圧して歯列矯正する。アライナー100は、矯正歯2に被着するキャビティー1の内形を、患者の歯形から歯列矯正する方向にずれた形状に成形している。このアライナー100は、患者の歯に被着された状態で、矯正歯2を矯正方向に弾性的に押圧して歯列矯正するからである。アライナー100は、矯正歯2の表面に面接触状態に密着し、矯正歯2を面圧で弾性的に押圧して歯列矯正し、あるいは矯正歯2の表面を局所的に弾性的に押圧して歯列矯正する。矯正歯2の表面を面圧または局所的に押圧して歯列矯正するアライナー100は、矯正歯2の1か所または複数か所を押圧し、また面的な押圧と局所的な押圧を組合せて、またあるいは押圧する側と移動を阻止する側を組み合わせるなどにより、矯正歯2に最適な押圧力を加えることができる。
【0100】
アライナーは、好ましくは形状が異なる複数のアライナーを順番に交換して、矯正歯2を段階的に理想の矯正位置と姿勢に移動させる。このアライナーは、患者の負担を少なくして無理なく歯列矯正できる特長がある。複数のアライナーでの歯列矯正は、ひとつのアライナーで矯正歯2を矯正方向に移動させる矯正距離を、たとえば0.1mm~1mm、好ましくは0.2mm~0.8mm、さらに好ましくは0.2mm~0.5mmとする。ひとつのアライナーの矯正距離が大きすぎると、患者に被着した直後に、矯正歯2の押圧力が強すぎて違和感を感じ、反対に矯正距離が小さすぎると、矯正に使用するアライナーの個数が多くなり、また矯正に要する期間が長くなるので、歯列矯正の内容程度を考慮して、好ましくは以上の範囲に設定する。
【0101】
アライナーが矯正歯2を押圧して移動させる最適な押圧力は、例えば15g以上、好ましくは50g以上、さらに好ましくは70g以上とする。さらに、アライナーの押圧力が強すぎると違和感が強くなるので、たとえば150g以下、好ましくは100g以下、さらに好ましくは80g以下、最適には50g以下とする。さらに、矯正歯2が歯列矯正される状態、例えば矯正歯2を移動する状態、矯正歯2を回転する状態、矯正歯2を傾動させる状態、患者の体質なども考慮して最適な押圧力に調整される。
【0102】
さらに、ひとつのアライナーが矯正歯2を移動させる矯正距離は、患者の矯正歯2の位置ずれの程度、患者の口腔内の状態、患者の要望などを考慮して好ましくは前述の範囲で最適な距離に設定する。キャビティー1の内形が異なる複数のアライナーを使用して歯列矯正する方法は、たとえば、矯正歯2を2mm移動して歯列矯正できる患者には、矯正距離を0.4mmとする5組のアライナーを使用して、理想の矯正位置まで移動できる。このアライナーは、最初に患者の歯形をスキャンして検出し、検出する患者の歯形から5組のアライナーを製作できるので、経済的に歯列矯正できる特長がある。
【0103】
アライナーは、成形材の引張弾性率と、矯正歯2の押圧力を考慮して全体の厚さを最適値に設定するが、矯正部3で効率よく矯正歯2を矯正できるように、厚さを例えば0.2mm以上、好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上とする。アライナーは、厚すぎると違和感があるなどの弊害があるので、厚さを例えば3mm以下、好ましくは2mm以下、さらに好ましくは1mm以下とする。
【0104】
さらに、形状が異なる複数のアライナーでの歯列矯正は、患者に一定の期間、アライナーを被着した後、アライナーを外して患者の歯形を再スキャンして検出し、検出する歯形から次に被着するアライナーの形状を修正して、患者に最適なアライナーを製作して被着することもできる。このアライナーは、患者のその都度の矯正歯2及び歯列矯正の状態を把握しつつ、理想的な状態で移動して歯列矯正できる。アライナーで歯列矯正を行う場合、矯正歯2を特定の方向に押圧して矯正するため、患者がアライナーを装着する時間などが押圧力に影響し、例えば、矯正歯2の移動が予定よりも少ない場合、また逆に多い場合、予定と異なる方向に動く場合、予定と異なる動きをする場合など予定したシュミレーション通り矯正歯2が移動しない場合も起こりえる。このような場合においても、患者の歯形を再スキャンして検出することで、その現状を前提とした理想的な状態で矯正歯2を移動して矯正するアライナーを製造提供できる。患者の歯形のスキャンに歯科医が関与することで、患者からのヒアリングをしながら、歯科医からのアドバイスを受けることができ、患者は安心して歯科矯正を進めることができる。
【0105】
上顎11又は下顎12に被着するアライナー100は、好ましくは、患者の矯正歯2と非矯正歯4からなる全ての歯に被着する形状に成形される。上顎11に被着されて上顎11の矯正歯2を矯正するアライナー100は、上顎11の全ての歯に被着されるキャビティー1を内側に設けており、下顎12に被着されて下顎12の矯正歯2を矯正するアライナー100は、下顎12の全ての歯に被着されるキャビティー1を内側に設けている。このアライナー100は上顎11の歯、又は下顎12の歯に確実に安定して位置ずれなく連結して、矯正歯2を効果的に押圧して矯正できる。
【0106】
図1のアライナー100は、上顎11と下顎12の全ての歯に被着して歯列矯正するが、アライナー100は、必ずしも矯正しない全ての歯に嵌合構造で被着する必要はなく、たとえば矯正歯2とその両側の非矯正歯4を含む歯に嵌合構造で被着する形状とすることもできる。
【0107】
アライナーは、特定の領域を他の領域と異なる成形材とすることができる。またアライナーは、特定の領域を他の領域と異なる引張弾性の成形材で成形することもできる。また、アライナーは、特定の領域を他の領域と異なる膜厚とすることができる。さらにまた、これらを組み合わせることもできる。例えば、矯正歯2を押圧する矯正部3を引張弾性率の高い、あるいは低い成形材で成形して押圧力を調整できるので、必要ならば矯正歯2の押圧力を強く、あるいは柔軟にすることもできる。矯正部3をそれ以外の領域よりも厚く、あるいは薄くすることなく、患者に快適に装着しつつ、最適な押圧力に設定できる。異なる引張弾性率で成形する領域とその他の領域を確実に接合しながら3次元プリンタで成形できる。また、例えば、矯正部3の一部または全体を厚く成形して押圧力を強くし、また薄く成形して違和感を少なくして装着することもできる。
【0108】
さらに、臼歯に被着されるアライナーは、歯の噛み合い面を被覆する咬合部と、咬合部の両側に連結されて歯の両側面を被覆する対向壁とを有し、内側にキャビティーを形成している。特定の領域、例えば、矯正部をホルダー部よりも引張弾性率の高い成形材、あるいは厚く成形しているアライナーは、矯正部の咬合部と対向壁の両方を、または矯正部の咬合部のみを、またあるいは矯正部の対向壁のみをホルダー部よりも弾性力の高い成形材、あるいは厚く成形して、矯正部の強い押圧力で矯正歯を矯正することができる。
【0109】
[アライナーの製造方法]
本発明のアライナーの製造方法は、以下の工程でアライナーを成形するが、本発明は成形するアライナーを以下に示す特定の形状、構造、成形材に限定するものでなく、歯列矯正に使用する全てのアライナーを製造することができる。
【0110】
アライナーは、患者の歯形の3次元データをデジタル信号として検出する検出工程と、検出工程で得られる3次元データをコンピュータで処理して、患者の歯列矯正された歯形の矯正3次元データを得る修正工程と、修正工程で得られる矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、3次元プリンタで患者の歯に被着して歯列矯正するアライナーを成形する成形工程とで製造される。
【0111】
[検出工程]
この工程は、患者の歯形の3次元データを検出する。検出工程は、光学式の口腔スキャナーをはじめ患者の歯形をデジタル信号の3次元データとして検出できる全ての方法を使用できる。例えば、すでに市販されている光学センサーや、X線を照射して立体的な歯形を検出するコンピュータ断層撮影(CT)を使用して歯形の3次元データを検出することもできる。
【0112】
光学センサーは、デジタルカメラや3Dレーザースキャナー等で歯形の3次元データを検出する。デジタルカメラを3Dスキャナーなどを使用して歯形の3次元データを検出する方法は、すでに開発されている装置、あるいはこれから開発される装置を使用できる。デジタルカメラを使用して歯形の3次元データを検出する方法は、たとえば患者の口腔内にデジタルカメラを挿入し、デジタルカメラで歯形を複数の方向から撮影して、複数の撮影画像を演算処理して3次元データを検出する。この方法はデジタルカメラで患者の歯形の立体的な3次元データを検出できるので、他の方法に比較して安価な装置で3次元データを検出できる。3Dレーザースキャナーで患者の歯形を検出する方法は、たとえば患者の口腔内に照射するレーザービームを走査して、レーザービームの反射光を検出し三角測量して、歯形の立体的な3次元データを演算する。この方法は正確に患者の歯形の3次元データを検出できる。また、パターン投影カメラ方式などもある。本発明において、たとえば非接触式の口腔内スキャナー、3shape社のTRIOS3を使用して、歯形の3次元データを検出できる。
【0113】
さらに、患者の歯形の3次元データは、既に使用されているコンピュータ断層撮影(CT)で検出することもできる。この方法は、患者の外側から円軌道を移動するようにX線を照射して、X線画像から患者の歯形の3次元データを演算する。この方法は、患者の口腔内にセンサを挿入することなく、外部から3次元データを検出できる特長がある。
【0114】
[修正工程]
この工程は、検出工程で得られる患者の歯形の3次元データをコンピュータに入力し、コンピュータでもって歯列矯正された歯形の3次元データである矯正3次元データを演算する。アライナーによる歯列矯正は、歯列矯正の内容や程度を考慮して、好ましくは複数のアライナーを次々と交換して患者に被着して実現する。修正工程は、交換する各々のアライナーを成形する矯正3次元データを演算する。患者の矯正歯は、次々と形状が異なるアライナーを被着して、次第に正常な位置と姿勢に矯正される。歯列矯正の程度が大きい、すなわち矯正する距離が大きい患者には、使用するアライナーの個数を多くする。複数のアライナーで歯列矯正する方法は、各々のアライナーによる矯正距離を患者に無理のない距離として、各々のアライナーで次第に正常な位置に歯列矯正できる。矯正距離の小さい患者は使用するアライナーの個数を少なくして歯列矯正できる。各々のアライナーを成形するための矯正3次元データをこの工程で演算する。
【0115】
矯正3次元データは3次元プリンタに入力して立体形状のアライナーを成形するので、形状と膜厚のデータを含んでいる。修正工程は、技術者がコンピュータのモニタで患者の歯形から矯正歯を特定し、あるいは患者の意見をも考慮して矯正歯を特定して歯列矯正するアライナーの形状を特定して、特定されたアライナーを3次元プリンタに入力して成形できる矯正3次元データを演算する。修正工程は、技術者によらずコンピュータのソフトウエアで演算処理して、患者の歯形の3次元データから矯正3次元データを演算することもできる。この処理をするコンピュータは、歯列矯正された歯形を標準の3次元データとして記憶し、さらにアライナーで矯正する矯正距離を記憶しており、標準の3次元データと矯正距離に基づいて、患者の3次元データから矯正3次元データを演算する。さらに、修正工程は、多数の患者の歯列矯正結果をデータベースに蓄積し、蓄積するデータベースと、患者の歯列の3次元データから人工知能で矯正3次元データを演算することもできる。多数の患者の歯列矯正結果のデータは、歯列矯正する以前の歯形と矯正後の歯形の3次元データからなる。人工知能で矯正3次元データを演算するコンピュータは、患者の歯形の3次元データを、記憶している歯列矯正結果のデータに比較して、患者の歯形を歯列矯正するアライナーの矯正3次元データを演算する。この方法は多数の患者の歯列矯正結果のデータを収集して、各々の患者の歯形を歯列矯正する最適なアライナーを成形する矯正3次元データを演算できる。
【0116】
修正工程で演算される矯正3次元データで成形されるアライナーは、全体を同じ成形材で成形され、さらに部分的に膜厚を変更して成形され、さらにまた特定の領域を他の領域とを異なる成形材で成形し、あるいはまた部分的に引張弾性率の異なる成形材で成形し、または特定の領域に弾性体6を埋設して成形される。アライナーは、歯列矯正する矯正部3と、歯列矯正しないホルダー部5とを一体構造に成形しているが、このアライナーは、全体を同じ成形材で成形して安価に成形できる。同じ成形材で全体を成形しているアライナーは、例えば矯正部3とホルダー部5とを異なる膜厚とし、あるいは部分的に引張弾性率の異なる組成の成形材て成形して矯正歯の押圧力を強くできる。さらに、アライナーは、異なる複数の成形材で成形し、あるいは矯正部3に弾性体6を埋設して成形して矯正歯の押圧力を強くすることもできる。さらにアライナーは、全体を同じ成形材で成形しながら部分的に引張弾性率の異なる成形材で成形し、あるいは部分的に異なる成形材で成形しながら、部分的に膜厚が異なる形状に成形することもできる。
【0117】
アライナーは、全体を同じ成形材で成形して特定の領域を他の領域よりも厚く成形することができるが、このアライナーを成形する矯正3次元データは、位置によって膜厚を特定するための位置-膜厚データを含む。アライナーの部分的な膜厚は、アライナーの内面形状と外面形状から特定できるので、内面形状と外面形状を位置-膜厚データとすることもできる。この矯正3次元データで成形されるアライナーは、例えば、矯正歯2を弾性的に押圧する矯正部3を他の領域よりも厚く成形して、他の領域を薄く成形する。したがって、この矯正3次元データは、厚く成形する領域と、薄く成形する領域とを特定するための位置-膜厚データを含んでいる。
【0118】
また、アライナーの内面形状と外面形状を含む位置-膜厚データにおいては、アライナーの内面形状と外面形状を非相似形にできる。例えば、矯正歯や非矯正歯の湾曲された表面に沿って一定の膜厚となるように成形されたアライナーでは、内面形状に対して外面形状が一定の倍率の相似形状となるが、アライナーの内面形状と外面形状を非相似形とする位置-膜厚データを含む矯正3次元データでは、アライナーの膜厚を部分的に変化させることができる。この矯正3次元データで成形されるアライナーは、矯正歯2を弾性的に押圧する矯正部3の膜厚を局部的に厚くすることで、矯正歯2を押圧する押圧力や押圧方向が最適となるように調整できる。
【0119】
部分的に異なる膜厚とするアライナーは、例えば、矯正歯2を弾性的に押圧する矯正部3の一部または全体を他の領域よりも厚く成形して、他の領域を薄く成形することができる。このアライナーを成形する矯正3次元データは、矯正部3を厚く成形するデータと、他の領域を薄く成形するデータからなる位置-膜厚データを含んでいる。さらに、この矯正3次元データで成形されるアライナーは、好ましくは、厚く成形する領域と薄く成形する領域の境界領域を次第に膜厚が変化する形状に成形するので、このアライナーを成形する矯正3次元データの位置-膜厚データは境界領域の膜厚を特定するデータをも含んでいる。
【0120】
矯正部3とホルダー部5を異なる成形材で成形するアライナーの矯正3次元データは、矯正部3とホルダー部5を異なる成形材で成形するための位置-材料データを含む。この矯正3次元データで成形されるアライナーは、例えば、矯正歯2を弾性的に押圧する矯正部3を他の領域よりも引張弾性率の高い第1の成形材で成形して、他の領域を引張弾性率の低い第2の成形材で成形する。このアライナーを成形する矯正3次元データは、第1の成形材で成形する領域と、第2の成形材で成形する領域とを特定する位置-材料データを含んでいる。このアライナーは、例えば第1の成形材を引張弾性率の高いアクリル樹脂として、第2の成形材を引張弾性率の低いABS樹脂とすることができる。
【0121】
以上の矯正3次元データで成形されるアライナーは、例えば、矯正歯2を弾性的に押圧する矯正部3を他の領域よりも引張弾性率の高い第1の成形材で成形して、他の領域を引張弾性率の低い第2の成形材で成形するので、矯正3次元データは、第1の成形材で成形する領域と、第2の成形材で成形する領域とを特定する位置-材料データを含んでいる。
【0122】
特定の領域を他の領域よりも引張弾性率の大きい成形材で成形するアライナーの矯正3次元データは、位置で引張弾性率を特定する位置-弾性率データを含んでいる。この矯正3次元データは、全体を同じ種類の成形材であって引張弾性率の異なる成形材で成形し、あるいは引張弾性率が異なる、異なる種類の成形材で成形することができる。この矯正3次元データで成形されるアライナーは、同じ種類であるが引張弾性率を変更できる成形材で全体を成形して、特定の領域の引張弾性率を他の領域よりも高くする。この矯正3次元データは、組成で引張弾性率を変更できる成形材、例えば、引張弾性率を700MPaから2900MPaの範囲で調整できるABS樹脂でアライナー全体を成形して、矯正部3は引張弾性率が2900MPaのABS樹脂でを成形して、他の領域は700MPaないし2000MPaのABS樹脂で成形する。
【0123】
この矯正3次元データは、同じ種類としながら組成で引張弾性率を変更できる成形材を使用して全体を同じ成形材でアライナーを成形できるが、この成形材には、例えば、引張弾性率を2500MPaから3500MPaまで調整できるアクリル樹脂、1100MPaから2700MPaに変更できるナイロン樹脂、3200MPaから4200MPaに調整できるポリエチレン、2800MPaから3500MPaに変更できるポリスチレン樹脂、2500MPaから4200MPaまで変更できるポリ塩化ビニル等も使用できる。
【0124】
内面を他の領域と異なる成形材で成形するアライナーの矯正3次元データは内面-材料データを含む。ここで、アライナーの内面とは、アライナーに形成されたキャビティー1の内側面であって、少なくとも矯正歯2や非矯正歯4の表面の全体あるいは一部と接触する領域を意味するものとする。この矯正3次元データで成形されるアライナーは、内面を所定の厚さで柔軟な成形材で成形して、被着する患者のフィット感を向上できる。したがって、この矯正3次元データは、アライナー全体の膜厚と形状に加えて、内面の材料を特定する内面-材料データを含んでいる。内面-材料データは、内面の膜厚を特定するデータを含んでいるが、このデータは、内面全体を同じ膜厚とし、あるいは部分的に異なる膜厚とすることもできる。
【0125】
図10に示すように、矯正部3に弾性体6を埋設するアライナーを成形する矯正3次元データは、アライナー全体の膜厚や形状のデータに加えて、弾性体6を埋設する領域の形状を特定する埋設データを含んでいる。この矯正3次元データで成形されるアライナーは、例えば、弾性体6を嵌合構造で定位置に位置ずれしないように挿入する嵌合凹部を成形する埋設データを含むことができる。
【0126】
[成形工程]
この工程は、矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、3次元プリンタでアライナー全体を立体形状に成形する。3次元プリンタは、入力される矯正3次元データで、ホルダー部5と矯正部3を一体構造とする立体形状のアライナーを成形する。3次元プリンタは、矯正3次元データに基づいて、全体を同じ種類の成形材で成形し、あるいは特定の領域を他の領域と異なる種類の成形材で成形し、あるいはまた、特定の領域を他の領域と異なる引張弾性率の成形材で成形し、さらにまた、内面を軟質の成形材で成形し、さらにホルダー部5と矯正部3を異なる膜厚に成形する。
【0127】
さらに矯正部3に弾性体6を埋設しているアライナーを成形する3次元プリンタは、入力される矯正3次元データでもって、所定位置にあらかじめ弾性体6を嵌合構造で案内する形状にアライナーを成形する。弾性体6を埋設しているアライナーは、弾性体6を埋設する領域を成形する成形材と、他の領域を成形する成形材を一体構造に接合してアライナーを成形することもできる。
【0128】
成形工程は、アライナーに最適な3次元プリンタを選択してアライナーを成形することができる。この工程は、インクジェット方式の3次元プリンタでアライナーを成形することができる。この3次元プリンタは、プリンタのヘッドから紫外線硬化性等の樹脂を噴射し、噴射された樹脂に紫外線を照射して硬化させてアライナーを成形する。この3次元プリンタは、ホルダー部5と矯正部3とを一体構造とするアライナーを高い精度で成形できる。この3次元プリンタは、例えばアクリル樹脂やゴム状弾性の成形材でアライナーを成形することができる。
【0129】
成形工程は、熱溶解積層方式の3次元プリンタでアライナーを成形することができる。この3次元プリンタは、ABS樹脂等の熱可塑性のプラスチックを、熱で溶かしノズルヘッドから噴射して、ホルダー部5と矯正部3とを一体構造とするアライナーを成形できる。この方式の3次元プリンタは、各々の患者に最適なアライナーを能率よく生産できる。さらにこの方式の3次元プリンタは、マルチ素材の成形が可能であるので、ABSフィラメント、ポリエチレンフィラメント、エラストマーフィラメント等の異なる複数の種類の成形材を特定の領域に噴射してアライナーを成形でき、部分的に異なる種類や引張弾性率の成形材で成形するアライナーを低コストに成形できる特長がある。
【0130】
さらに成形工程は、粉末焼結積層造形方式の3次元プリンタでアライナーを成形することができる。この3次元プリンタは、ナイロン樹脂等の粉末にレーザーを照射し、焼結してアライナーを成形することができる。この3次元プリンタは、高い精度で高品質なアライナーを能率よく生産できる特長がある。
【0131】
さらにまた成形工程は、光学造形方式の3次元プリンタでアライナーを成形することができる。この3次元プリンタは、エポキシ樹脂などの液体樹脂に紫外線レーザーを照射して、一層ごとに硬化してアライナーを成形することができる。この3次元プリンタは、高精度で高品質なアライナーを能率よく生産できる特長がある。
【0132】
[アライナー100]
本発明の実施形態1に係る製造方法は、以下の工程でアライナー100を製造する。この実施形態1に係る製造方法は、特定の領域を他の領域と異なる種類の成形材で成形しているアライナー100を製造する。図1に示すように、アライナー100は、患者の全ての歯に被着されて矯正歯2を矯正する。アライナー100は、全体形状を、患者の全ての歯に被着されて矯正する溝型に成形される。ただし、アライナー100は、必ずしも全ての非矯正歯4にホルダー部5を被着することなく、ホルダー部5を一部の非矯正歯4に被着して矯正歯2を矯正することもできる。図2はアライナー100を使用して矯正する概略図を、図3は装着したアライナー100を示す概略水平断面図であり、図4はアライナー100の要部拡大水平断面図を示す。なお、アライナー100は一例であり、本発明の製造方法は、いずれも製造するアライナーを特定の形状や構造に限定するものではない。
【0133】
[検出工程]
3Dレーザースキャナーやデジタルカメラを使用して患者の歯形の3次元データを検出する。3Dレーザースキャナーを使用して歯形の3次元データを検出する検出工程は、患者の口腔内に照射するレーザービームを走査して、レーザービームの反射波を検出して、歯形の立体的な3次元データを演算する。3Dレーザースキャナーで患者の歯形を検出する方法は、正確に患者の歯形の3次元データを検出できる。デジタルカメラを使用する検出工程は、デジタルカメラの撮影部を患者の口腔内に挿入し、歯列の外側と内側に沿って移動して、複数の画像を撮影する。撮影した画像をコンピュータで演算処理して患者の3次元データを演算する。デジタルカメラと、デジタルカメラで撮影した画像データを演算処理して歯形の3次元データを演算する装置には、既に市販されている装置やこれから開発される装置が使用できる。本発明において、たとえば、非接触式の口腔内スキャナー、3shape社のTRIOS3を使用して、歯形の3次元データを検出できる。ただ、患者の歯形の3次元データは、前述した他の方法で検出することもできる。
【0134】
[修正工程]
検出工程で演算された患者の3次元データをコンピュータに入力し、コンピュータのモニターに患者の歯形を表示し、技工士が歯列矯正する歯形に修正するアライナー100の形状を特定し、特定された形状のアライナー100を3次元プリンタに入力して成形するための矯正3次元データを作成する。技工士は標準の歯列に基づいて患者の歯形を矯正して矯正3次元データを作成できる。図4のアライナー100は、矯正歯を効果的に押圧するために、特定の領域を他の領域と異なる種類の成形材で成形するので、矯正3次元データとして、位置で成形材を特定する位置-材料データを含むデータを作成する。この製造方法は、たとえば、特定の領域を引張弾性率の大きいABS樹脂で成形して、他の領域を引張弾性率の小さいポリエチレン樹脂とするアライナー100を製造する。したがって、修正工程においては、ABS樹脂で成形する領域と、ポリエチレン樹脂で成形する領域とを特定する位置-材料データを含む矯正3次元データを作成する。図4図6及び図8のアライナー100は、全体の膜厚を所定の範囲内のほぼ同じ膜厚とするので、内面形状と外面形状を特定して、膜厚を例えば約0.4mmに特定する矯正3次元データを作成する。
【0135】
[成形工程]
成形工程は、修正工程で演算された矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、図4に示すアライナー100を成形する。例えば成形工程は、熱溶解積層方式の3次元プリンタを使用し、ABSフィラメントとポリエチレンフィラメントと異なる種類の成形材を特定の領域に噴射してアライナー100を成形する。成形工程は矯正歯を弾性的に押圧するアライナー100の弾性変形部3bをABS樹脂で成形して、アライナー100の他の領域を引張弾性率の小さいポリエチレンで成形する(図4参照)。このアライナー100は、特定の領域を除くほとんどの領域を、引張弾性率の小さいポリエチレンで成形するので、患者に快適に被着しながら、引張弾性率の高いABS樹脂で効果的に矯正できる。ただし、弾性変形部3b及び押圧部3a、または非接触領域3cのみなど矯正部3の一部や、矯正部3の全体をホルダー部5と異なる成形材で成形することもできる。なお、前述した他の方式の3次元プリンタを使用してアライナー100を成形できる。
【0136】
以上の製造方法は、たとえば矯正歯2が約0.5mm矯正方向に移動した形状のアライナー100を製造できるが、このアライナー100を1ヶ月連続して(ただし食事時は除く)患者に被着して、矯正歯2を約0.3mmないし0.5mm矯正方向に移動できる。
【0137】
以上、特定の領域を他の領域と異なる種類の成形材で成形しているアライナー100は、矯正歯2を平行移動して矯正する場合(図4参照)の他、矯正歯2を回転して矯正する場合(図6参照)、矯正歯2を正常な姿勢に傾動させる場合(図8参照)、あるいはこれらを組み合わせて矯正する場合にも使用することができる。
[アライナー200]
【0138】
本発明の実施形態2に係る製造方法は、以下の工程でアライナー200を製造する。この実施形態2に係る製造方法は、特定の領域を他の領域と異なる膜厚に成形しているアライナー200を製造する。アライナー200は、特定の領域を他の領域よりも厚く、または薄く成形できる。
【0139】
検出工程は、実施形態1と同様の方法で、患者の歯形の3次元データを検出する。修正工程においては、実施形態1と同様の方法で矯正3次元データを作成するが、矯正3次元データは、特定の位置を特定の膜厚とする位置-膜厚データを含むデータとする。アライナー200は、矯正歯2を効果的に押圧するために、特定の領域を他の領域よりも厚く成形して、全体形状を患者の歯に被着できる溝型としている。アライナー200は、全体を同じ種類の成形材で成形でき、また実施形態1と同様に、異なる種類の成形材、異なる引張弾性率の成形材で成形することもできる。
【0140】
矯正3次元データは、例えば図5のアライナー200を成形するためのデータである。矯正3次元データは、特定の位置を特定の膜厚とする位置-膜厚データを含むデータであって、アライナー200の内面形状と外面形状を特定して特定の領域を厚く成形するデータである。内面形状と外面形状を特定する矯正3次元データは、アライナー200全体の各々の部位の膜厚も特定する。図5の要部拡大断面図に示すアライナー200は、それ自体の弾性復元力で矯正歯2を押圧する弾性変形部3bを厚く、例えばこの領域の膜厚を1mmとし、他の領域を弾性変形部3bよりも薄く、例えば0.3mmに成形している。修正工程は、アライナー200を以上の形状に成形するために、内面形状と外面形状を特定する矯正3次元データを演算する。
【0141】
成形工程は、修正工程で演算された矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、図5に示すアライナー200を成形する。成形工程は、熱溶解積層方式の3次元プリンタを使用し、成形材にABS樹脂を使用してアライナー200を成形する。ただ、前述した他の方式の3次元プリンタを使用してアライナー200を成形できる。
【0142】
以上の製造方法は、たとえば矯正歯2が約0.5mm矯正方向に移動した形状のアライナー200を製造できるが、このアライナー200を1ヶ月連続して(ただし食事時は除く)患者に被着して、アライナー100と同等に矯正歯2を矯正方向に移動できる。
【0143】
以上、特定の領域を他の領域よりも厚く成形しているアライナー200は、矯正歯2を平行移動して矯正する場合(図5参照)の他、矯正歯2を回転して矯正する場合(図7参照)、矯正歯2を正常な姿勢に傾動させる場合(図9参照)、あるいはこれらを組み合わせて矯正する場合にも使用することができる。
[アライナー300]
【0144】
この実施形態3に係る製造方法は、以下の工程で、全体を同じ種類の成形材であるが、特定の領域を他の領域を他の領域と異なる引張弾性率の成形材で成形しているアライナー300を製造する。アライナー300は、特定の領域を他の領域よりも引張弾性率の高い、または低い成形材で成形できる。アライナー100が、特定の領域を他の領域と異なる種類の成形材で成形するのに対し、アライナー300は、全体を同じ種類の成形材で成形しながら、特定の領域を他の領域と異なる引張弾性率の成形材で成形する点が異なる。
【0145】
検出工程は、実施形態1と同様の方法で患者の歯形の3次元データを検出する。修正工程においては、実施形態1と同様の方法で矯正3次元データを作成するが、特定の領域を他の領域と異なる引張弾性率の成形材で成形するために、位置-弾性率データを含む矯正3次元データを作成する。例えば、このアライナー300は、位置-弾性率データを含む矯正3次元データに基づいて、全体を同じ種類の成形材で成形しながら、特定の領域を引張弾性率の大きい成形材で成形して、他の領域は引張弾性率の小さい同じ種類の成形材で成形できる。
【0146】
同じ種類の成形材で引張弾性率を組成で変更できる成形材には、引張弾性率を700MPaから2900MPaの範囲で変更できるABS樹脂を使用する。ABS樹脂で成形するアライナー300は、弾性変形部3bとその他の領域を引張弾性率が異なるABS樹脂で成形する。このアライナー100は、弾性変形部3bを引張弾性率が2900MPaのABS樹脂で成形して、他の領域を引張弾性率が1500MPaのABS樹脂で成形する。このアライナー300を成形するために、修正工程においては、引張弾性率の大きいABS樹脂で成形する領域と、引張弾性率の小さいABS樹脂で成形する領域とを特定する位置-弾性率データを含む矯正3次元データを作成する。図4のアライナー300は、全体の膜厚を同じ膜厚とするので、内面形状と外面形状を特定して、膜厚を例えば0.4mmに特定する矯正3次元データを作成する。
【0147】
成形工程は、修正工程で演算された矯正3次元データを3次元プリンタに入力して、図3などに示すアライナー300を成形する。成形工程は、熱溶解積層方式の3次元プリンタを使用し、引張弾性率の高いABS樹脂と引張弾性率の低いABS樹脂を特定の領域に噴射して、部分的に引張弾性率が異なるアライナー300を成形する。成形工程は、矯正歯を弾性的に押圧するアライナー300の弾性変形部3bを引張弾性率の高いABS樹脂で成形して、他の領域を引張弾性率の小さいABS樹脂で成形する。このアライナー300は、特定の領域を除くほとんどの領域を、引張弾性率の低いABS樹脂で成形して、患者に快適に被着できるアライナー300となる。
【0148】
以上の製造方法は、たとえば矯正歯が約0.5mm矯正方向に移動した形状のアライナー300を製造して、このアライナー300を1ヶ月連続して(ただし食事時は除く)患者に被着して、アライナー100と同等に矯正歯2を矯正方向に移動できる。
【0149】
以上、特定の領域を他の領域と異なる引張弾性率の成形材で成形しているアライナー300は、矯正歯2を平行移動して矯正する場合(図4参照)の他、矯正歯2を回転して矯正する場合(図6参照)、矯正歯2を正常な姿勢に傾動させる場合(図8参照)、あるいはこれらの組み合わせて矯正する場合にも使用することができる。図4図6及び図8において、アライナー300は、アライナー100と同等に矯正歯2を矯正方向に矯正できる。例えばアライナー300は、図4及び図6の太線で間隔の狭いハッチングで示す矯正部3の一部である弾性変形部3bを、他の領域であるホルダー部5と異なる引張弾性率の成形材とすることができる。
[アライナー400]
【0150】
この実施形態4に係る製造方法は、以下の工程で特定の領域に他の領域よりも変形し難い弾性体6を埋設しているアライナー400を製造する。検出工程は、アライナー100と同様の方法で患者の歯形の3次元データを検出する。修正工程においては、アライナー100と同様の方法で矯正3次元データを作成するが、特定の領域に弾性体6を埋設するので、特定の領域に弾性体6を埋設する埋設データ含む矯正3次元データを作成する。弾性体6は、矯正歯2の表面に沿う板状、ないしは線状となるように形成されて、好ましくは、成形材の内部に完全に埋設する。ただ、一部を成形材の表面に露出する状態に埋設することもできる。
【0151】
このアライナー400の製造方法は、全体を同じ成形材で成形して、特定の領域において成形材に弾性体を埋設する。図示しないが、アライナー400は、矯正部3とホルダー部5とを異なる膜厚として矯正歯2の押圧力を調整できる。さらにまた、この製造方法は、異なる種類の成形材で成形してアライナー400を製造することを否定するものでない。すなわち、部分的に異なる種類であって引張弾性率の異なる組成の成形材て成形して矯正歯2の押圧力を調整することもできる。
【0152】
以上の製造方法は、たとえば矯正歯が約0.5mm矯正方向に移動した形状のアライナー300を製造して、このアライナー300を1ヶ月連続して(ただし食事時は除く)患者に被着して、アライナー100と同等に矯正歯2を矯正方向に移動できる。
【0153】
以上、特定の領域の成形材に弾性体6を埋設して成形しているアライナー300は、矯正歯2を平行移動して矯正する場合(図10A参照)の他、矯正歯2を回転して矯正する場合(図10B参照)、矯正歯2を正常な姿勢に傾動させる場合(図10C参照)、あるいはこれらの組み合わせて矯正する場合にも使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明のアライナーを製造する方法は、患者の歯の種々の不正咬合を矯正し、また歯並びを綺麗に矯正できるアライナーを製造する方法として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0155】
100、200、300、400…アライナー
110、210…第1のアライナー
120、220…第2のアライナー
1…キャビティー
1a…矯正歯嵌合部
2…矯正歯
3…矯正部
3a…押圧部
3b…弾性変形部
3c…非接触領域
3d…ストッパ部
3e…移動スペース
4…非矯正歯
5…ホルダー部
6…弾性体
11…上顎
12…下顎
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10