(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169353
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】歯列矯正用のアライナーの製造方法およびアライナー
(51)【国際特許分類】
A61C 7/08 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
A61C7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075333
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】317005642
【氏名又は名称】仮屋 聖子
(71)【出願人】
【識別番号】521183888
【氏名又は名称】パットキートス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島 文男
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052JJ10
4C052LL08
4C052NN02
4C052NN03
4C052NN04
4C052NN15
(57)【要約】
【課題】簡単かつ容易に、しかも低コストにアライナーを製造する方法及びこの方法で製造されるアライナーを提供することにある。
【解決手段】患者の歯に脱着自在に被着される断面形状を溝型とする歯列矯正用のアライナーを製造する方法であって、患者の歯形模型を製作する模型製作工程と、模型製作工程で製作された歯形模型の表面の一部を局所的に切除して成形凹部6aを設けて、歯形模型を矯正歯形モデル12に加工する加工工程と、加工工程で成形凹部6aを設けてなる矯正歯形モデル12の表面に、加熱されて軟化したプラスチックプレート10を吸着して、プラスチックプレート10を成形凹部6a内に挿入する形状に成形して、アライナーの内面に矯正歯2を矯正方向に押圧する矯正突起4を設ける真空成形工程とを含む、歯列矯正用のアライナーを製造する方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の歯に脱着自在に被着される断面形状を溝型とする歯列矯正用のアライナーを製造する方法であって、
患者の歯形模型を製作する模型製作工程と、
前記模型製作工程で製作された前記歯形模型の表面の一部を局所的に切除して成形凹部を設けて、
前記歯形模型を矯正歯形モデルに加工する加工工程と、
前記加工工程で前記成形凹部を設けてなる前記矯正歯形モデルの表面に、
加熱されて軟化したプラスチックプレートを吸着して、
前記プラスチックプレートを前記成形凹部内に挿入する形状に成形して、
アライナーの内面に矯正歯を矯正方向に押圧する矯正突起を設ける真空成形工程とを含む、
歯列矯正用のアライナーを製造する方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアライナーを製造する方法であって、
前記加工工程において、
ドリルを使用して、
前記歯形模型の表面を局所的に穿孔して前記成形凹部を設けて矯正歯形モデルに加工する歯列矯正用のアライナーを製造する方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歯列矯正用のアライナーを製造する方法であって、
前記加工工程において、
前記歯形模型の一方の表面に前記成形凹部を設けて、他方の表面には突出部を設け、
前記真空成形工程において、
前記成形凹部と前記突出部を設けてなる前記矯正歯形モデルの表面に、
前記プラスチックプレートを吸着して、
前記成形凹部で前記矯正突起を成形して、前記突出部でへこみ部を成形する歯列矯正用のアライナーを製造する方法。
【請求項4】
患者の歯に脱着自在に被着される断面形状を溝型とする歯列矯正用のアライナーを製造する方法であって、
患者の歯形模型を製作する模型製作工程と、
前記歯形模型の表面に、
加熱して軟化したプラスチックプレートを吸着して、
内形を歯形模型とする非矯正アライナーを製作する真空成形工程と、
前記真空成形工程で製作した前記非矯正アライナーの表面を加熱状態で局所的に押圧して、
矯正歯を矯正方向に押圧する矯正突起を設ける修正工程とを含む歯列矯正用のアライナーを製造する方法。
【請求項5】
患者の歯に脱着自在に被着される断面形状を溝型とする歯列矯正用のアライナーを製造する方法であって、
患者の歯形模型を製作する模型製作工程と、
前記歯形模型の表面に、
加熱して軟化したプラスチックプレートを吸着して、
内形を歯形模型とする非矯正アライナーを製作する真空成形工程と、
前記真空成形工程で製作した非矯正アライナーの内面にクッション材を接合して、
前記クッション材でもって、矯正歯を矯正方向に押圧する矯正突起を設ける修正工程とを含む歯列矯正用のアライナーを製造する方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーを製造する方法であって、
前記プラスチックプレートに熱可塑性のプラスチックプレートを使用する歯列矯正用のアライナーを製造する方法。
【請求項7】
患者の歯に脱着自在に被着される断面形状を溝型とする歯列矯正用のアライナーであって、
歯列矯正される患者の矯正歯を内側に案内する矯正部と、
患者の歯に嵌合構造で脱着自在に被着されるホルダー部とを備え、
前記矯正部と前記ホルダー部が、真空成形されたプラスチックプレートからなり、
前記矯正部の内面に突出して、
矯正歯の表面を矯正方向に押圧する矯正突起が局所的に配置されてなり、前記矯正突起が患者の矯正歯を局所的に押圧して歯列矯正する歯列矯正用のアライナー。
【請求項8】
患者の歯に脱着自在に被着される断面形状を溝型とする歯列矯正用のアライナーであって、
歯列矯正される患者の矯正歯を内側に案内する矯正部と、
患者の歯に嵌合構造で脱着自在に被着されるホルダー部とを備え、
前記矯正部と前記ホルダー部が、真空成形されたプラスチックプレートからなり、
前記矯正部の内面にクッション材が接合されてなり、
前記クッション材でもって、矯正歯を矯正方向に押圧する矯正突起を設けてなる歯列矯正用のアライナー。
【請求項9】
請求項7または8に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正突起が円筒状である歯列矯正用のアライナー。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正部の内面に、
ひとつ又は複数の矯正突起が配置されてなる歯列矯正用のアライナー。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正突起の先端面が湾曲面である歯列矯正用のアライナー。
【請求項12】
請求項7ないし11のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正突起の先端部の膜厚が外周部の膜厚よりも厚い歯列矯正用のアライナー。
【請求項13】
請求項7ないし12のいずれか一項に記載の歯列矯正用のアライナーであって、
前記矯正部の表面又は内面に弾性体が接合されてなる歯列矯正用のアライナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の歯に脱着自在に被着して歯列を矯正するアライナーの製造方法とアライナーに関する。
【背景技術】
【0002】
歯列矯正は、矯正の必要な矯正歯を弾性的に押圧して実現する。歯を支持している歯ぐきの中には、歯を支える歯槽骨があり、歯槽骨と歯の根の部分(歯根)の間には歯根膜がある。歯根膜は、歯にかかる衝撃を和らげるクッション作用のある緩衝膜である。矯正歯を弾性的に特定の方向に押圧すると、押圧される側の歯根膜は圧縮され、反対側の歯根膜は伸張する状態となる。圧縮された歯根膜は、元の形状に復元しようとして歯槽骨を溶かす細胞を作って溶かし、伸張された歯槽骨は歯を作る細胞を作って新しく歯槽骨を再生する。矯正歯が弾性的に連続して押圧されると、歯槽骨の溶解と再生が繰り返されて歯は押圧された方向に徐々に移動する。矯正歯を押圧して、1ヶ月に0.5mm~1mm程度の移動が可能である。
【0003】
矯正歯を一定の方向に押して歯列矯正するアライナーは開発されている(特許文献1)。この公報のアライナーは、プラスチックプレートを真空成形して製作される。プラスチックプレートは、加熱して軟化状態で、矯正歯形モデルの表面に吸着してアライナーに成形される。矯正歯形モデルは、患者の歯形の3次元データを検出し、この3次元データをコンピュータに入力し、コンピュータでもって歯形の矯正された矯正歯形モデルの3次元データを作成し、3次元データを3次元プリンターに入力して成形される。矯正歯形モデルは、患者の矯正された歯形とするので、表面に吸着して成形されるアライナーは、内形が患者の矯正された歯形と同じ形状となる。内形を患者の矯正歯形とするアライナーが、患者の矯正されていない歯列に被着されると、アライナーは弾性変形するので、弾性復元力で矯正歯を矯正方向に押圧して矯正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のアライナーは、製造に手間がかかって製造コストが高くなる欠点がある。それは、以上のアライナーが、患者の歯列の3次元データを検出し、検出する3次元データをコンピュータで矯正された歯形の3次元データを作成し、さらこの矯正された歯形の3次元データを3次元プリンターに入力して、3次元プリンターで患者の矯正歯形モデルを製作し、この矯正歯形モデルの表面に加熱して軟化したプラスチックプレートを吸着して製作されるからである。さらに以上のアライナーは、患者の歯形の3次元データを検出する装置と、この3次元データから患者の矯正された歯形の3次元データを作成するコンピュータと、さらにこのコンピュータで作成した3次元データから矯正歯形モデルを成形する3次元プリンターとを必要とするので、アライナーの製造に高価な装置を必要とし、さらにコンピュータで患者の歯列の矯正された矯正3次元データを作成するための専門の技術も必要として、製造コストはさらに高価となる。
【0006】
本発明は、以上の欠点を解消することを目的に開発されたもので、本発明の一目的は、簡単かつ容易に、しかも低コストに製造できる方法とこの方法で製造されるアライナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明の一実施態様の歯列矯正用のアライナーを製造する方法は、患者の歯に脱着自在に被着される断面形状を溝型とする歯列矯正用のアライナーを製造する方法であって、患者の歯形模型を製作する模型製作工程と、模型製作工程で製作された歯形模型の表面の一部を局所的に切除して成形凹部を設けて、歯形模型を矯正歯形モデルに加工する加工工程と、加工工程で成形凹部を設けてなる矯正歯形モデルの表面に、加熱されて軟化したプラスチックプレートを吸着して、プラスチックプレートを成形凹部内に挿入する形状に成形して、アライナーの内面に矯正歯を矯正方向に押圧する矯正突起を設ける真空成形工程とを含む。
【0008】
以上の製造方法は、歯列矯正するアライナーを簡単かつ容易に、しかも低コストで製造でき、さらに歯形模型を切除して設ける成形凹部の深さや大きさや個数を変更して、矯正突起の高さや大きさを自由に調整して、矯正歯の矯正力を患者に最適な押圧力に設定できる。それは、以上の製造方法が、患者の歯形模型を製作し、歯形模型の表面の一部を局所的に切除して成形凹部のある矯正歯形モデルとし、この矯正歯形モデルにプラスチックプレートを吸着して、矯正歯を矯正する矯正突起のあるアライナーを製造できるからである。
【0009】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーを製造する方法は、加工工程において、ドリルを使用して、歯形模型の表面を局所的に穿孔して成形凹部を設けて矯正歯形モデルに加工する。
【0010】
以上の製造方法は、ドリルの太さを選択し、さらにドリルで穿孔する成形凹部の深さを自由に選択して、成形凹部の形状や深さを調整できるので、簡単かつ容易に、しかも能率よく最適な成形凹部を設けて、患者に最適なアライナーを製造できる。
【0011】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーを製造する方法は、加工工程において、歯形模型の一方の表面に成形凹部を設けて、他方の表面には突出部を設け、真空成形工程において、成形凹部と突出部を設けてなる矯正歯形モデルの表面に、プラスチックプレートを吸着して、成形凹部で矯正突起を成形して、突出部でへこみ部を成形する。
【0012】
以上の製造方法は、矯正歯をより速やかに矯正できるアライナーを製造できる特長がある。それは、矯正突起で矯正歯を押圧して、矯正歯の移動方向にはアライナーの内面にへこみ部があって、矯正歯の移動を抑制することなく矯正できるからである。
【0013】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーを製造する方法は、患者の歯に脱着自在に被着される断面形状を溝型とする歯列矯正用のアライナーを製造する方法であって、患者の歯形模型を製作する模型製作工程と、歯形模型の表面に、加熱して軟化したプラスチックプレートを吸着して、内形を歯形模型とする非矯正アライナーを製作する真空成形工程と、真空成形工程で製作した非矯正アライナーの表面を加熱状態で局所的に押圧して、矯正歯を矯正方向に押圧する矯正突起を設ける修正工程とを含む。
【0014】
以上の製造方法は、歯列矯正するアライナーを簡単に製造できることに加えて、歯形模型と同じ形状に成形している非矯正アライナーの一部を加熱状態で押圧して成形する矯正突起の高さや大きさを自由にコントロールして、矯正歯の矯正力を患者に最適な押圧力に調整できる特長がある。とくに、この製造方法は、患者の歯形模型と同じ内形のアライナーを成形して、このアライナーを局所的に加熱状態で押圧して矯正突起を設けるので、矯正歯を矯正する矯正突起の高さや大きさを確認しながら、各々の患者に最適な矯正突起のあるアライナーを製造できる特長がある。
【0015】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーを製造する方法は、患者の歯に脱着自在に被着される断面形状を溝型とする歯列矯正用のアライナーを製造する方法であって、患者の歯形模型を製作する模型製作工程と、歯形模型の表面に、加熱して軟化したプラスチックプレートを吸着して、内形を歯形模型とする非矯正アライナーを製作する真空成形工程と、真空成形工程で製作した非矯正アライナーの内面にクッション材を接合して、クッション材でもって、矯正歯を矯正方向に押圧する矯正突起を設ける修正工程とを含む。
【0016】
以上の製造方法は、歯列矯正するアライナーを簡単に製造できることに加えて、歯形模型と同じ形状に成形している非矯正アライナーの内面にクッション材を接合して矯正突起を設けるので、クッション材の厚さ、大きさ、弾性率を変更して矯正歯を矯正する押圧力を各々の患者に最適な押圧力に調整できる特長がある。とくに、この製造方法は、患者の歯形模型と同じ内形のアライナーを成形して、このアライナーの内面に、クッション材を接合してクッション材で矯正突起を設けるので、矯正突起の高さや大きさや硬さなどを確認しながら、各々の患者に最適な矯正突起のアライナーを製造できる特長がある。
【0017】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーを製造する方法は、プラスチックプレートに熱可塑性のプラスチックプレートを使用する。
【0018】
以上の方法は、プラスチックプレートを加熱して全体を成形しやすい状態とし、成形した後は冷却して硬化できるので、能率よくプラスチックプレートをアライナーや非矯正アライナーに成形できる。
【0019】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、患者の歯に脱着自在に被着される断面形状を溝型とする歯列矯正用のアライナーであって、歯列矯正される患者の矯正歯を内側に案内する矯正部と、患者の歯に嵌合構造で脱着自在に被着されるホルダー部とを備えている。矯正部とホルダー部が、真空成形されたプラスチックプレートからなり、矯正部の内面に突出して、矯正歯の表面を矯正方向に押圧する矯正突起が局所的に配置されてなり、矯正突起が患者の矯正歯を局所的に押圧して歯列矯正する。
【0020】
以上のアライナーは、簡単かつ容易に製造できることに加えて、アライナーの内面に局所的に配置している矯正突起の突出量や大きさを調整して、矯正力を各々の患者に最適な押圧力に調整して矯正できる特長がある。とくに、以上のアライナーは、溝型に成形しているアライナーの内面に突出して、矯正歯の表面を矯正方向に押圧する矯正突起を局所的に配置しているので、矯正突起の形状を各々の患者の矯正歯の矯正に最適な形状として、歯列矯正できる特長がある。
【0021】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、患者の歯に脱着自在に被着される断面形状を溝型とする歯列矯正用のアライナーであって、歯列矯正される患者の矯正歯を内側に案内する矯正部と、患者の歯に嵌合構造で脱着自在に被着されるホルダー部とを備えている。矯正部とホルダー部が、真空成形されたプラスチックプレートからなり、矯正部の内面にクッション材が接合されてなり、クッション材でもって、矯正歯を矯正方向に押圧する矯正突起を設けてなる。
【0022】
以上のアライナーは、患者の歯形模型の内面に真空成形して製造されたアライナーの内面に、クッション材を接合して製造できるので、簡単かつ容易に製造できることに加えて、アライナーの内面に接合するクッション材の厚さや大きさを調整して、矯正力を各々の患者に最適な押圧力に調整して矯正できる特長がある。とくに、以上のアライナーは、患者の歯形模型に密着する形状に成形しているアライナーの内面にクッション材を接合して、矯正歯の表面を矯正方向に押圧する矯正突起を局所的に配置できるので、クッション材の形状でもって矯正突起の形状を各々の患者の矯正歯の矯正に最適な形状として、歯列矯正できる特長がある。
【0023】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正突起が円筒状である。
【0024】
以上のアライナーは、円筒状である矯正突起の直径と高さを変更して、矯正突起が矯正歯を押圧する押圧力を患者に最適な押圧力として、各々の患者に最適な押圧力で矯正歯を押圧して矯正できる特長がある。
【0025】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正部の内面に、ひとつ又は複数の矯正突起が配置されてなる。
【0026】
以上のアライナーは、矯正突起の直径と高さに加えて、個数も変更して、矯正突起が矯正歯を押圧する押圧力を患者に最適な押圧力として、各々の患者に最適な押圧力で矯正歯を押圧して矯正できる特長がある。
【0027】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正突起の先端面が湾曲面である。
【0028】
以上のアライナーは、矯正歯の押圧力の変化をより好ましい状態として矯正できる特長がある。アライナーの矯正突起が矯正歯を押圧して矯正する押圧力は、患者にセットした直後に最も強く、次第に低下するが、最初の押圧力が強すぎると、患者にセットした直後の違和感が強くなる。先端面を湾曲面とする矯正突起は、湾曲面自体が弾性変形することで、患者にセットした直後の押圧力を抑制する。このため、このアライナーは、患者にセットした直後の押圧力を抑制してセット時の違和感を緩和して、患者に快適な状態でセットして矯正できる。
【0029】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正突起の先端部の膜厚が外周部の膜厚よりも厚い。
【0030】
以上のアライナーは、矯正突起の先端部の膜厚により弾性変形を調整できる。矯正突起の先端部の膜厚を外周部よりも厚くし、また先端部をより滑らかな湾曲面にして、矯正歯への接触面積を大きくし、患者にセットした直後の押圧力を調整してセット時の違和感を緩和して、患者に快適な状態でセットして矯正できる。
【0031】
本発明の他の実施態様の歯列矯正用のアライナーは、矯正部の表面又は内面に弾性体が接合されてなる。
【0032】
以上のアライナーは、矯正突起の表面や内面に接合している弾性体で矯正歯の押圧力をコントロールできるので、より快適に患者にセットして有効に矯正できる。とくに、弾性体はそれ自体の弾性復元力で矯正歯を押圧し、また、弾性率を変更して押圧力をコントロールできるので、各々患者により最適な押圧力で矯正歯を矯正できる。さらにまた、アライナー自体と弾性体の異なる弾性復元力で矯正歯を押圧することで、各々の弾性率を最適値に設定することで、より快適な押圧力で患者の矯正歯を矯正できる。このため、患者の違和感を少なくしながら、快適に効率よく矯正できるアライナーとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、真空成形装置を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、真空成形された状態のアライナーを示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、アライナーを患者の歯に被着する様子を示す概略斜視図である。
【
図4】
図4は、矯正突起の例を示す概略垂直断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の他の実施形態に係る歯列矯正用のアライナーの使用例を示す概略垂直断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の他の実施形態に係る歯列矯正用のアライナーの使用例を示す概略水平断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の他の実施形態に係る歯列矯正用のアライナーの使用例を示す概略水平断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の他の実施形態に係る歯列矯正用のアライナーの使用例を示す概略垂直断面図である。
【
図10】
図10は、アライナーに弾性体を設けた例を示す垂直断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の他の実施形態に係る歯列矯正用のアライナーの使用例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想の具体例を示すものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施形態、実施例において説明する内容は、他の実施形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
[アライナーの製造方法]
【0035】
本発明におけるアライナーは、患者の歯に脱着自在に被着される断面形状を溝型とする歯列矯正用のアライナーであって、アライナーは実施形態1ないし3の製造方法で製造する。アライナーは、真空成形されたプラスチックプレート10からなり、矯正歯2を矯正方向に押圧する矯正突起4を設けてなる。
【0036】
このアライナーは1枚のプラスチックプレート10を真空成形して成形する。真空成形に使用するプラスチックプレート10には、熱可塑性のプラスチックプレート10で、熱可塑性のプラスチックには、好ましくはアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂等を使用する。プラスチックプレート10の厚さは、プラスチックの弾性率と、矯正歯2の押圧力を考慮して最適値に設定するが、矯正突起4で効率よく矯正歯2を押圧して矯正できるように、例えば、0.2mm以上、好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上とする。ただし、プラスチックプレート10に使用する熱可塑性プラスチックは、プラスチックの種類によって弾性率が異なるので、弾性率の高いプラスチック製のプラスチックプレート10は薄い板材とし、弾性率の低いプラスチック製のプラスチックプレート10は厚い板材として矯正突起4の押圧力を矯正歯2の矯正に最適な押圧力に調整できる。
【0037】
矯正突起4は、アライナーの内面から局所的に突出して、矯正歯2を弾性復元力で局所的に押圧する。アライナーは、矯正突起4の形状、大きさ、個数、位置などは、押圧力、押圧方向、押圧位置及び矯正歯2の状態、形状などに合わせて最適に定められる。アライナーの内面に突出する矯正突起4は、例えば、外径を0.5mm以上であって10mm以下、好ましくは1mm以上であって8mm以下とし、突出高さを0.3mm以上であって5mm以下、好ましくは0.5mm以上であって3mm以下とする。
【0038】
矯正突起4は、高さ/外径で特定するアスペクト比が大きすぎると座屈して好ましい状態で矯正歯2を押圧できなくなるので、アスペクト比は、好ましくは1以下、さらに好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.6以下とする。特に、クッション材8を内面に接合して設ける矯正突起4は、アスペクト比を好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下とする。
【0039】
アライナーの成形に使用するプラスチックプレート10は、厚すぎると患者に被着して違和感があるなどの弊害が発生するので、厚さを例えば3mm以下、好ましくし2mm以下、さらに好ましくは1mm以下とする。プラスチックプレート10は、実施形態1ないし3の製造方法でアライナーに成形できる。アライナーは、好ましくは透明又は半透明のプラスチックプレート10で成形し、あるいは被着する歯に近似する色に着色することができる。
【0040】
アライナーは、矯正突起4が矯正歯2を矯正方向に押圧する押圧力を、プラスチックプレート10の弾性率と厚さと、矯正突起4の弾性力、形状及び厚みで最適値に設定するが、この押圧力は、例えば10g以上、好ましくは20g以上、さらに好ましくは40g以上とするように、プラスチックプレート10の弾性率と、矯正突起4の突出高さとを設定する。矯正突起4の押圧力が強すぎると患者の違和感が強くなるので、矯正突起4が矯正歯2を押圧する押圧力は、たとえば150g以下、好ましくは130g以下、さらに好ましくは100g以下とする。矯正突起4の押圧力は、矯正歯2を歯列矯正する態様に合わせて最適値に設定する。例えば矯正歯2を移動する場合、矯正歯2を回転する場合、矯正歯2を傾動させる場合、またはこれらの組み合わせにおいて、さらに患者の体質なども考慮して矯正歯2の押圧力を最適値に設定する。
【0041】
歯列矯正は、好ましくは形状が異なる複数のアライナーを使用して、矯正歯2を段階的に理想の矯正位置に移動させる。このアライナーは、患者の負担を少なくして無理なく歯列矯正できる特長がある。複数のアライナーでの歯列矯正は、ひとつのアライナーで矯正歯2を矯正方向に移動させる矯正距離を、例えば、0.1mm~1mm、好ましくは0.2mm~0.8mm、さらに好ましくは0.2mm~0.5mmとする。ひとつのアライナーの矯正距離が大きすぎると、患者に被着した状態で、矯正歯2に作用する押圧力が強すぎて違和感を感じ、反対に矯正距離が小さすぎると、矯正に使用するアライナーの個数が多くなり、また矯正に要する期間が長くなる。ひとつのアライナーが矯正歯2を移動させる矯正距離は、患者の矯正歯2の位置ずれの程度を考慮して前述の範囲で最適な距離に設定する。矯正突起4の形状が異なる複数のアライナーを使用して歯列矯正する方法は、たとえば、矯正歯2を2mm移動して歯列矯正できる患者には、矯正距離を0.4mmとする5組のアライナーを使用して、理想の矯正位置まで移動できる。このアライナーは、最初に患者の歯形をスキャンして検出し、検出する患者の歯形から5組のアライナーを製作できるので、経済的に歯列矯正できる特長がある。
【0042】
さらに、複数のアライナーで行う歯列矯正は、患者に一定の期間被着したアライナーを被着した後、アライナーを外して患者の歯形模型を制作し、歯形模型から次に被着するアライナーの矯正突起4の形状や高さなどを変更して、患者に最適なアライナーを製作して被着することもできる。このアライナーは、患者の矯正歯2をその都度の状態を把握しつつ、理想的な状態で移動して歯列矯正できる。アライナーは、矯正歯2を押圧して矯正するが、患者の個人差で矯正状態は一定でない。矯正歯2の移動が予定よりも少ない場合、また逆に多い場合、予定と異なる方向に動く場合など、予定したシュミレーション通り矯正歯2が移動しない場合も起こりえる。次々と交換して患者の歯に被着するアライナーを、アライナーを成形する毎に患者の歯形模型を制作して、歯形模型からから成形する矯正方法は、すべてのアライナーで理想的な状態で矯正歯2を矯正できる。さらに、歯形模型から成形するアライナーを制作する毎に、歯科医が患者からの希望をヒアリングをしながらアライナーを成形してより理想的なアライナーを制作できる。
【0043】
なお、本発明は、内面に局所的に突出する矯正突起4のあるアライナーとその製造方法にかかるもので、矯正突起4の形状などを特定するものでない。アライナーの矯正突起4が矯正歯2を押圧する押圧力や押圧方向は、歯列矯正を専門とする技術者が矯正歯2の状態や他の要因を考慮して特定するものであって、本発明の目的とすることでない。したがって、以下にアライナーの好ましい形状を記載するが、本発明はアライナーを以下の形状に特定するものでなく、アライナーの形状は、専門の技術者が患者の最適な形状に特定する。
[実施形態1の製造方法]
【0044】
実施形態1のアライナー100の製造方法は、患者の歯形模型を製作する模型製作工程と、模型製作工程で製作された患者の歯形模型を歯列矯正された矯正歯形モデル12に修正する加工工程と、加工工程で修正された矯正歯形モデル12を成形型としてプラスチックプレート10を真空成形して患者の歯形を矯正するアライナー100の形状に成形する真空成形工程とで製作される。
[模型製作工程]
【0045】
模型製作工程は、患者の口腔からとった印象に基づいて歯形模型を成形する。歯形模型は底面を平面状に成形する。歯形模型は一般的には石膏で成形されるが、プラスチックや金属などで成形することもできる。石膏の歯形模型は、患者の印象にペースト状の石膏を注入し、硬化して製作できる。プラスチック製の歯形模型は、患者の歯形の3次元データを検出して、検出する3次元データを3次元プリンターに入力して製作できる。この方法は、プラスチック製の歯形模型の成形に適している。3次元プリンターに入力する患者の歯形の3次元データは、光学式の口腔スキャナーのみでなく、患者の歯形をデジタル信号の3次元データとして検出できる全ての方法を使用できる。例えば、すでに市販されている光学センサーや、X線を照射して立体的な歯形を検出するコンピュータ断層撮影(CT)を使用して歯形の3次元データを検出することもできる。金属製の歯形模型は、患者の歯形の3次元データを金属の加工機に入力して金属を切削加工して製作できる。
【0046】
光学センサーは、デジタルカメラや3Dレーザースキャナー等で歯形の3次元データを検出する。デジタルカメラを3Dスキャナーなどを使用して歯形の3次元データを検出する方法は、すでに開発されている装置、あるいはこれから開発される装置を使用できる。デジタルカメラを使用して歯形の3次元データを検出する方法は、たとえば患者の口腔内にデジタルカメラを挿入し、デジタルカメラで歯形を複数の方向から撮影して、複数の撮影画像を演算処理して3次元データを検出する。この方法はデジタルカメラで患者の歯形の立体的な3次元データを検出できるので、他の方法に比較して安価な装置で3次元データを検出できる。3Dレーザースキャナーで患者の歯形を検出する方法は、たとえば患者の口腔内に照射するレーザービームを走査して、レーザービームの反射光を検出し三角測量して、歯形の立体的な3次元データを演算する。この方法は正確に患者の歯形の3次元データを検出できる。また、パターン投影カメラ方式などもある。本発明において、たとえば非接触式の口腔内スキャナー、3shape社のTRIOS3を使用して、歯形の3次元データを検出できる。
【0047】
さらに、患者の歯形の3次元データは、既に使用されているコンピュータ断層撮影(CT)で検出することもできる。この方法は、患者の外側から円軌道を移動するようにX線を照射して、X線画像から患者の歯形の3次元データを演算する。この方法は、患者の口腔内にセンサを挿入することなく、外部から3次元データを検出できる特長がある。
[加工工程]
【0048】
加工工程は、歯形模型の表面の特定位置に成形凹部6aを設けて矯正歯形モデル12とする。つまり、患者の歯形模型を加工して、プラスチックプレート10を吸着してアライナー100を成形する矯正歯形モデル12に修正する。矯正歯形モデル12の成形凹部6aは、内面にプラスチックプレート10を密着して矯正歯2の矯正突起4を成形するので、矯正歯2を押圧する位置に設けられる。この工程は、歯形模型の一部を局所的に切除して成形凹部6aを設けて、歯形模型を矯正歯形モデル12に加工する。この工程は、ドリルを使用して、歯形模型の表面の特定位置を局所的に穿孔して成形凹部6aを設けることができる。歯形模型は、石膏やプラスチックで成形されるので、ドリル刃で簡単に穿孔できる。ドリル刃は金属製の歯形模型にも穿孔して成形凹部6aを設けることができる。
【0049】
この方法は、ドリル刃の太さ、すなわち外径を変更して成形凹部6aの内径を調整できる。ドリル刃で穿孔する深さで成形凹部6aの深さを調整できる。ドリル刃は、歯形模型を穿孔して円柱状の成形凹部6aを設けることができる。ドリル刃は、先端を円錐状としているので、ドリル刃による成形凹部6aは、底部の中心が深くなる円柱状となる。成形凹部6aの深さは、矯正突起4の高さを特定し、成形凹部6aの内径は、真空成形で成形される矯正突起4の外形を特定する。したがって、矯正突起4の先端面は、成形凹部6aの底面形状となる。先端面を湾曲面とする矯正突起4を成形する成形凹部6aは、底面を湾曲面とする。この成形凹部6aは、先端を湾曲面とするドリル刃で成形凹部6aの底面を湾曲面に加工できる。
【0050】
成形凹部6aの内径と深さは矯正突起4の外形を特定し、矯正突起4の外形は矯正歯2の押圧力を特定するので、例えば、回転するドリル刃で凹部を設ける方法は、太さを5mmφとするドリル刃で深さを3mmとする凹部を設ける。ただし、ドリル刃の太さと深さによる成形凹部6aの内径と深さで、矯正突起4の外径と突出高さを調整できる。矯正突起4の外径と突出高さは、プラスチックプレート10の厚さと硬さを考慮して、矯正歯2を最適な押圧力で押圧して矯正できる寸法に設定される。矯正歯2をひとつの矯正突起4で押圧して矯正するアライナー100は、矯正歯形モデル12の表面にひとつの成形凹部6aを設けて矯正歯形モデル12とする。
【0051】
加工工程は、歯形模型の表面にひとつ又は複数の成形凹部6aを設けて、歯形模型を矯正歯形モデル12に加工する。矯正歯形モデル12にプラスチックプレート10を吸着して真空成形されることで、ひとつ又は複数の矯正突起4が内面に設けられたアライナー100が製造される。この加工工程は、歯形模型の表面にひとつ又は複数の成形凹部6aを設けて、各々の成形凹部6aで成形する矯正突起4で特定の矯正歯2を押圧して矯正する。複数の矯正突起4でひとつの矯正歯2を矯正するアライナーは、ひとつの矯正突起4を設けるアライナーに比較して、各々の矯正突起4を小さくする。このアライナーは、各々の矯正突起4が矯正歯2を押圧することで、矯正突起4のトータルの押圧力を大きくして矯正歯2を矯正できる。複数の矯正突起4で特定の矯正歯2を押圧して矯正するアライナーは、各々の矯正突起4の高さや大きさを変更して、矯正歯2を押圧する圧力分布を最適な状態に調整できる。たとえば、中央部の矯正突起4を高く、外周部に配置する矯正突起4を低くして、矯正歯2の押圧力を、中央部で強くその周囲で弱くすることができる。アライナー100の内面に複数の矯正突起4を設けることができる。
【0052】
加工工程は、歯形模型の一方の表面に成形凹部6aを設けて、他方の表面には突出部6bを設けて矯正歯形モデル12とすることができる。この工程で製作される矯正歯形モデル12は、真空成形工程において、成形凹部6aで矯正突起4を成形して、突出部6bでへこみ部7を成形する。矯正突起4とへこみ部7は、アライナー100の対向する内面に配置される。この矯正歯形モデル12で成形されるアライナー100は、矯正突起4の対向面にへこみ部7を設けているので、矯正突起4で押圧される矯正歯2をへこみ部7に向かってよりスムーズに移動して矯正できる特長がある。
[真空成形工程]
【0053】
真空成形工程は、加工工程で修正された矯正歯形モデル12を成形型としてプラスチックプレート10を真空成形して患者の歯形を矯正するアライナー100の形状に成形する。この工程は、プラスチックプレート10を加熱し、軟化させて、自由に変形できる状態として、加工工程で成形凹部6aを設けている矯正歯形モデル12の表面に吸着して、プラスチックプレート10を成形凹部6a内に密着する形状に成形して、アライナー100の内面に矯正歯2を矯正方向に押圧する矯正突起4を設けるようアライナー100を成形する。矯正歯形モデル12の表面に吸着して成形されるプラスチックプレート10は、内形が矯正歯形モデル12の外形と同じ形状となる。矯正歯形モデル12は、表面に局所的に成形凹部6aを設けているので、矯正歯形モデル12の表面に吸着して成形されるアライナー100は、成形凹部6aに軟化したプラスチックプレート10の一部が侵入して成形された領域で矯正突起4が成形される。
【0054】
以上の工程で製作されたアライナー100は、患者の歯列に被着されて、矯正歯2を面状に押圧する従来のアライナーと同様に、矯正突起4が矯正歯2を押圧して矯正する。従来のアライナーは、内面形状を患者の矯正された歯列の外形に成形しているので、患者の歯に被着した状態で、矯正歯2に面接触状態で押圧して矯正するが、実施形態1のアライナー100は、内面に局所的に突起する矯正突起4が、矯正歯2を表面を局所的に押圧して矯正する。
【0055】
図1は、真空成形装置20の概略断面図を示している。この図の真空成形装置20は、プラスチックプレート10を水平姿勢に張設する上方開口の気密ケース21と、気密ケース21に張設していプラスチックプレート10を上から加熱して軟化するヒーター22と、矯正歯形モデル12を通過して気密ケース21内の空気を排気する排気ポンプ23と、矯正歯形モデル12を上面にセットして、プラスチックプレート10に向かって上昇する上下台24とを備えている。上下台24は、上面を水平姿勢の平面状として、底面を平面状とする矯正歯形モデル12をセットして、矯正歯形モデル12の下面との対抗位置に排気用の排気穴25を開口して、排気穴25を排気ポンプ23に連結している。矯正歯形モデル12の下面と上下台24の上面は平面状としているが、上下台24に矯正歯形モデル12をセットした状態では、矯正歯形モデル12と上下台24との間に空気が通過できる空気層26ができる状態としている。空気層26から気密ケース21内の空気を排気ポンプ23で排気する。図示しないが、空気層26は、矯正歯形モデル12の下面と、上下台24の上面の両方、または一方を梨地状に加工して実現でき、また、いずれか一方の面に微細な無数の突起を設けて実現できる。さらにまた、金属製の粒状のペレットなどの上に矯正歯形モデル12をセットしたり、金属製の粒状のペレットなどに矯正歯形モデル12を埋め込んでセットすることで空気層26を設けることもできる。
【0056】
図1の装置は、ヒーター22でプラスチックプレート10を加熱して軟化させた状態で、上下台24をプラスチックプレート10の下面に接触する位置まで上昇した後、排気ポンプ23で気密ケース21内の空気を排気して、プラスチックプレート10を矯正歯形モデル12の表面に吸着させてアライナー100を成形する。上下台24に設けている排気穴25から排気される空気は、軟化したプラスチックプレート10と矯正歯形モデル12の表面との間の空気を強制的に排気して、プラスチックプレート10を矯正歯形モデル12の表面に密着して、内形を矯正歯形モデル12の外形とするアライナー100を成形する。矯正歯形モデル12は、成形凹部6aの内面に下面に連通する微細な空気穴27を設けて、気密ケース21内の空気を速やかに排気して、プラスチックプレート10を確実に成形凹部6a内に吸引して、極めて正確な形状の矯正突起4を成形することもできる。ただし、成形凹部6aの内面に空気穴27を設けることなく、軟化したプラスチックプレート10を矯正歯形モデル12の表面に密着して、成形凹部6aに突出する矯正突起4のあるアライナー100を成形することもできる。
図2は、真空成形されたアライナー100を示す概略断面図である。
図2に示す真空成形工程を経たアライナー100は、矯正歯形モデル12の表面に設けられた成形凹部6aにより矯正突起4を成形し、また矯正歯形モデル12の表面に設けられた突出部6bによりへこみ部7を成形する。患者の歯に被着されたアライナー100の矯正部4が、矯正歯2の表面を矯正方向に押圧する。また、アライナー100のへこみ部7が、矯正歯2の移動矯正の障害とならないように、矯正歯2の移動先の空間を確保して、矯正歯2を速やかに矯正方向に移動できる。ただし、矯正部3が弾性変形して矯正歯2を歯列矯正するアライナーにおいて、矯正部3にへこみ部7を設けることなく歯列矯正することもできる。
【0057】
矯正歯形モデル12の表面にプラスチックプレート10を吸着させてアライナー100を成形するが、プラスチックプレート10は、真空成形して中央部にアライナー100を成形する。アライナー100の外側と内側には、上下台24の上面で真空成形されたプラスチックプレート10が残るため、アライナー100による歯列矯正に必要な部分を残してアライナー100の外側と内側を切断することで、アライナー100が完成する。アライナー100の切断において、ホルダー部1が患者の歯に嵌合構造で脱着自在に被着して安定的に位置ずれなく所定の位置に配置でき、かつ、矯正部3の押圧力を矯正歯2に適切に加えて、矯正歯2を好ましい位置、姿勢に矯正できる十分な幅を確保する必要がある。また、切断された部分が患者の歯や歯茎に接触して違和感や痛みを与えることがないよう配慮して切断の位置や形状とする必要がある。
[アライナー100]
【0058】
アライナー100は、実施形態1の製造方法で製造される。模型製作工程で患者の歯形模型を制作し、加工工程で患者の歯形模型の表面に成形凹部6aを設けて矯正歯形モデル12とし、真空成形工程で、たとえば厚さを0.8mmとするアクリル樹脂製のプラスチックプレート10を矯正歯形モデル12の表面に密着してアライナー100は製作される。アライナー100は、
図3に示すように患者の歯に被着されて矯正歯2の位置や姿勢を矯正する。
図3は、アライナー100を患者の歯に被着する様子を示す。患者の歯は、歯列矯正される矯正歯2と、矯正歯2以外の非矯正歯5に分けられる。アライナー100は、矯正歯2と非矯正歯5からなる患者の複数の歯に脱着自在に被着されて矯正歯2を矯正する。アライナー100は、好ましくは、
図3に示すように、人体の上顎31と下顎32の両方の歯列に被着されて、上顎31と下顎32の歯列を矯正し、あるいは上顎31と下顎32のいずれか一方の歯列を矯正する。上顎31と下顎32の両方にアライナー100を被着して、両方の歯列を同時に矯正する一対のアライナー100は、上下の歯の噛み合わせを最適な状態としながら歯列矯正できる特長がある。
【0059】
図3に示す上顎31の歯列を矯正するアライナー100は、上顎31の全ての歯に被着されて矯正歯2を矯正し、下顎32の歯を矯正するアライナー100は、下顎32の全ての歯に被着されて矯正歯2を矯正する。上顎31又は下顎32の全ての歯に被着して、矯正歯2を矯正するアライナー100は、ホルダー部1を多数の非矯正歯5に被着して、安定的に位置ずれなく定位置に配置して、ひとつ又は複数の矯正歯2を好ましい位置に矯正できる。ただし、本発明のアライナー100は、必ずしも上顎31又は下顎32の全ての歯に被着することなく、例えば矯正歯2と、その両側の非矯正歯5を含む歯に嵌合構造で被着されて、特定の矯正歯2を矯正することもできる。
【0060】
図3に示すように、患者の歯に被着されるアライナー100は、内側に、歯列矯正される患者の矯正歯2を案内する矯正部3と、患者の歯に嵌合構造で脱着自在に被着されるホルダー部1とを備え、矯正部3とホルダー部1が真空成形されたプラスチックプレート10からなり、矯正部3の内面に突出して、矯正歯2の表面を矯正方向に押圧する矯正突起4が局所的に配置されてなり、矯正突起4が患者の矯正歯2を局所的に押圧して歯列矯正する。
[ホルダー部1]
【0061】
図3に示すように、アライナー100は、患者の矯正歯2と非矯正歯5に脱着自在に被着されるホルダー部1を内側に設けている溝型に成形されている。ホルダー部1は嵌合構造で、非矯正歯5と矯正歯2とに被着される。ただし、ホルダー部1は、好ましくは非矯正歯5と矯正歯2に嵌合構造で被着されるが、矯正歯2は必ずしも嵌合構造で矯正歯2に被着されない。それは、矯正部3は、矯正歯2をスムーズに移動できるように移動スペースを設けて、矯正歯2に被着される形状とすることができるからである。嵌合構造で歯に被着されるホルダー部1は、内形を非矯正歯5と矯正歯2の外形にほぼ等しく、正確には患者の歯の外形よりもわずかに大きく、あるいは小さく成形して、被着された状態で位置ずれすることなく、矯正歯2を弾性的に押圧する形状としている。アライナー100は、患者の歯の表面のみを覆う形状に成形され、あるいは歯と歯ぐきの一部を覆う形状に成形される。
[矯正部3]
【0062】
アライナー100の内側に、患者の矯正歯2を矯正位置に案内する矯正部3が設けられる。矯正部3は、アライナー100が内側において矯正歯2に接触する部分のみに限定されるものではなく、必要に応じてその隣接歯、周辺歯など矯正歯2以外の歯に及び得る。アライナー100は、矯正部3の弾性復元力で矯正歯2を押圧して矯正するものであり、矯正部3の範囲は、弾性復元力による矯正歯2への押圧力を創出する領域を含めるものとする。
[矯正突起4]
【0063】
アライナー100の矯正部3は、矯正突起4で矯正歯2で押圧して矯正するので、アライナー100は、矯正歯2を押圧する領域に矯正突起4を設けている。アライナー100は、弾性復元力で矯正歯2を矯正方向に押圧する矯正突起4を矯正部3の内面に突出して設けている。患者の歯に被着されたアライナー100は、矯正部3自体の弾性復元力で矯正歯2を局所的に押圧し、さらに矯正部3の内面に突出した矯正突起4の弾性復元力で矯正歯2の表面を矯正方向に押圧して、正常な位置や姿勢にない矯正歯2を正常な位置と姿勢に矯正する。
【0064】
図4に様々な矯正突起4の例を示す。矯正突起4は、特定の形状に限定されるものではなく、例えば、円筒状(
図4A)、円柱状、半球状(
図4B)など様々な断面形状にできる。また、ドリルを使用して歯形模型の表面の一部を局所的に切除して成形凹部6aを設けて矯正歯形モデル12に加工した上で、加熱軟化したプラスチックプレート10で真空成形して製造するアライナー100の場合、矯正突起4を円筒状にできる。後述する非矯正アライナーの内面にクッション材8を接合して矯正突起4とする場合は、円筒状を含め様々な断面形状にできる。また、矯正突起4を点状(円筒状または円柱状など)に設けることができる他、線状、面状、またはこれらを組み合わせた形状として、矯正歯2に接触して押圧できる。
【0065】
図4Aないし
図4Dに示すように、矯正突起4の先端面は、湾曲面にすることが好ましい。湾曲面とは、断面形状において弓なりに曲げられたアーチ状の曲面を示す。矯正突起4の先端面を湾曲面にすることで、曲面でない部分が矯正歯2と接触して違和感や痛みを生じることがなく、また、湾曲面自体が弾性変形することで押圧力を抑制できる。このアライナー100は、患者にセットした直後の押圧力を抑制してセット時の違和感を緩和して、患者に快適な状態でセットしつつ矯正できる。矯正突起4の先端面は、例えば、先端を湾曲面とするドリル刃を使用して歯形模型の表面の一部を局所的に切除して成形凹部6aを設けた矯正歯形モデル12をもとにアライナー100を製造することで、容易に湾曲面にできる。
図4B及び
図4Cに示すように、矯正突起4の先端部の膜厚S1が、外周部の膜厚S2よりも厚くできる。矯正突起4の膜厚の違いにより弾性変形を調整して、患者に快適な状態でセットしつつ、矯正歯2を押圧できる。また後述するが、アライナー100は、矯正部3の内面に、2以上の複数の矯正突起4を設けることができる。異なる形状、長さ、大きさ、太さ、厚みの複数の矯正突起4を設けることもできる。例えば、
図4Dに示すように、中央部の矯正突起4を高く、外周部に配置する矯正突起4を低くして、矯正歯2の押圧力を、中央部で強くその周囲で弱くすることができる。また、高さを徐々に変更することで矯正歯2の押圧力を逓増または低減して調整できる。矯正突起4の個数及び矯正歯2との接触面積でも押圧力を調整できる。ひとつ又は2以上の矯正突起4は、点的、面的または線的に矯正歯2に接触して押圧できる。
[実施形態2の製造方法]
【0066】
実施形態2のアライナーの製造方法は、患者の歯形模型を製作する模型製作工程と、歯形模型の表面に加熱して軟化したプラスチックプレート10を吸着して、内形を歯形模型とする非矯正アライナーを製作する真空成形工程と、真空成形工程で製作した非矯正アライナーの表面を加熱状態で局所的に押圧して、矯正歯2を矯正方向に押圧する矯正突起4を設ける修正工程とでアライナーを製造する。この製造方法は、模型製作工程を実施形態1の製造方法と同じ方法で患者の歯形模型を制作する。実施形態2の製造方法は、実施形態1と同じようにプラスチックプレートを使用してアライナーに成形する。実施形態1の製造方法が、患者の歯形模型を歯列矯正された矯正歯形モデル12に修正する加工工程を経た後に、プラスチックプレート10を真空成形してアライナー100を製造する。これに対し、実施形態2の製造方法は、先に歯形模型でプラスチックプレート10を真空成形して真空成形工程で非矯正アライナーを製作し、その後に修正工程で矯正突起4を設け、アライナーを製造する点が異なる。
[真空成形工程]
【0067】
この工程は、実施形態1の製造方法と同様に、プラスチックプレート10を加熱し、軟化させて、自由に変形できる状態として、真空成形する。実施形態2の真空成形工程においては、患者の歯形模型の表面に吸着して非矯正アライナーを成形する。
[修正工程]
【0068】
真空成形工程で患者の歯形模型に吸着して成形される非矯正アライナーは、内形が患者の歯形模型と同じ形状となるので、患者の歯に被着して矯正歯2を矯正できない。矯正歯2を矯正できる形状とするために、この修正工程で、非矯正アライナーの表面を局所的に、成形領域を部分的に加熱し、軟化して変形できる状態で押圧して、内面に突出する矯正突起4を設ける。この工程は、先端を矯正突起4の形状とする加熱されたロッドで非矯正アライナーの表面を加熱しながら押圧して矯正突起4を設けることができる。加熱ロッドは、非矯正アライナーの熱可塑性プラスチックを加熱し、成形できる状態まで加熱する温度で、非矯正アライナーの表面を加熱しながら押圧して矯正突起4を設ける。矯正突起4の形状は、加熱ロッドの先端部の形状で特定され、矯正突起4の突出量は、加熱ロッドの押圧位置で特定される。加熱ロッドの先端部の形状と押圧位置で矯正突起4の形状と突出量を調整できる。修正工程は、実施形態1の製造方法で制作されるアライナー100と同じ形状の矯正突起4にできる。
【0069】
以上の工程で製作されたアライナーは、実施形態1の方法で成形したアライナー100と同様に、患者の歯列に被着されて、矯正歯を面状に押圧する従来のアライナーと同様に矯正突起4が矯正歯を押圧して矯正する。この実施形態のアライナーも、実施形態1と同様に、プラスチックプレートをアクリル樹脂製を使用するが、プラスチックプレートには他の熱可塑性プラスチック、たとえばポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂を使用できる。
【0070】
この実施形態2の製造方法は、形状が異なる複数のアライナーを次々と患者の歯に被着して、矯正歯2を段階的に理想の矯正位置に移動させる場合において、先に患者の歯に被着したアライナーで、矯正歯2を矯正方向に移動した患者の歯形模型を製作して、真空成形工程で非矯正アライナーを成形することもできる。また、先に患者の歯に被着したアライナーを洗浄した上で非矯正アライナーとすることもできる。後述する実施形態3の製造方法においても同様である。
[実施形態3の製造方法]
【0071】
実施形態3のアライナーの製造方法は、この製造方法は、患者の歯形模型を製作する模型製作工程と、歯形模型の表面に加熱して軟化したプラスチックプレート10を吸着して、内形を歯形模型とする非矯正アライナーを製作する真空成形工程と、真空成形工程で製作した非矯正アライナーの内面にクッション材8を接合して、クッション材8で矯正歯2を矯正方向に押圧する矯正突起4を設ける修正工程とでアライナーを製造する。実施形態3の製造方法は、実施形態2と同様の模型製作工程と真空成形工程とで、患者の歯形模型と同じ形状の非矯正アライナーを成形する。実施形態2の製造方法が、非矯正アライナーの表面を加熱状態で局所的に押圧して矯正突起4を設けるのに対して、実施形態3の製造方法は、非矯正アライナーの内面にクッション材8を接合して矯正突起4を設ける点が異なる。
[修正工程]
【0072】
修正工程は、非矯正アライナーの内面にクッション材8を接合して矯正突起4を設ける。クッション材8には、弾性復元力で矯正歯2を押圧して矯正する弾性率の弾性体を使用する。クッション材8には、エスラストマーやゴムなどのゴム状弾性体やプラスチック発泡体が使用できる。プラスチック発泡体は、例えば、外径を4mm、厚さを1mmとする独立気泡を有するプラスチック発泡体、例えばを軟質ウレタン発泡体を使用する。独立気泡のプラスチック発泡体は、気泡内の圧縮された空気の反発力による優れた弾性復元力で矯正歯2を押圧して矯正できる。プラスチック発泡体には、連続気泡を有するプラスチック発泡体も使用できる。連続気泡のプラスチック発泡体は、気泡内に殺菌材や消臭材を含浸して使用できる。また、矯正歯2の移動位置からクッション材8を付着する位置を変更して矯正歯2をより最適な状態で矯正することもできる。
【0073】
クッション材8は、内面に接着し、あるいは両面接着テープなどを介して非矯正アライナーの内面に接合する。例えば、両面接着テープでクッション材8を接合しているアライナーは、次第に厚いクッション材8に張り替えて患者に被着して、患者の矯正歯を正常な位置に矯正できる。このアライナーは、非矯正アライナーを繰り返し再使用して、患者の歯を所定の位置に矯正できる。このアライナーは、たとえば、クッション材8に独立気泡を有する軟質ウレタン発泡体を使用し、クッション材8の外径を3mm、厚さを1mmとして患者の矯正歯を好ましい押圧力で押圧して矯正できる。このアライナーは、患者が一定期間使用して矯正歯の押圧力が低下した後、1mmのクッション材8を1.5mmのクッション材8に張り替えて、患者の歯に被着して再使用し、さらにこのクッション材8の押圧力が低下すると2mmのクッション材8に張り替えて、矯正歯の矯正に繰り返し使用できる。
【0074】
実施形態3の製造方法で製造されたアライナーは、歯列矯正される患者の矯正歯2を内側に案内する矯正部3と、患者の歯に嵌合構造で脱着自在に被着されるホルダー部1とを備え、矯正部3とホルダー部1が、真空成形されたプラスチックプレート10からなり、矯正部3の内面にクッション材8が接合されてなり、クッション材8でもって、矯正歯2を矯正方向に押圧する矯正突起4を設けてなる。
【0075】
実施形態3の製造方法で製造されたアライナーは、患者の歯形模型の内面に真空成形して製造されたアライナーの内面に、クッション材8を接合して製造できるので、簡単かつ容易に製造できることに加えて、アライナーの内面に接合するクッション材8の厚さ、大きさ、形状、弾性率などを変更調整して、矯正力を各々の患者に最適な押圧力に調整して矯正できる。実施形態1または2の製造方法で製造されたアライナーと同様の厚み、大きさ、形状にできる。とくに、このアライナーは、患者の歯形模型に密着する形状に成形しているアライナーの内面にクッション材8を接合して、矯正歯2の表面を矯正方向に押圧する矯正突起4を局所的に配置できるので、矯正突起4の高さや大きさや硬さなどを確認しながら、各々の患者に最適な矯正突起4のアライナーを製造できる。クッション材8は、シート状、スポンジ状、テープ状などにできる。
[クッション材8]
【0076】
クッション材8の材質は、例えば樹脂系、ゴム系などを使用できる。アライナーとは異なる弾性率の素材を使用することもでき、装着前または実際に押圧力を調整し、アライナーの被着時の違和感を軽減できる。クッション材8には、異なる材質を2以上積層したり、部分的に異なる素材、形状、大きさ、厚みにしたり、使用する場所、クッション材8の素材、形状、大きさ、矯正歯2との接触状況、矯正歯2を含めた患者の歯の状態、必要とされる押圧力、押圧方向に合わせて複数の材質、異なる材質、形状、大きさ、厚みなどのクッション材8を調整して使用できる。また、クッション材8自体を後述する弾性体9として、クッション材8を弾性体9と兼用することもでき、または、クッション材8と別途に弾性体9を設けることもできる。
【0077】
実施形態1ないし3の製造方法で一旦製造されたアライナーに、クッション材8を接合して矯正突起4の形状を微調整することもできる。例えば、ドリルで穿孔した後においても、容易にアライナーの内面にクッション材8を接合して矯正突起4の形状を微調整できる。また例えば、何らかの理由により患者が違和感を感じる、アライナーが患者の歯にフィットしない場合などにおいても、クッション材8の接合は容易になし得、クッション材8の厚さ、大きさ、形状、材質、硬さなどにより細かな調整が可能となる。クッション材8を追加するのみならず、取り外す、削る、交換なども可能である。
[実施形態4]
【0078】
図5に示す実施形態4のアライナー400は、矯正部3の内面に、複数の矯正突起4が配置されてなる。複数の矯正突起4で矯正するアライナー400は、各々の矯正突起4の直径と高さに加えて、個数も変更して、矯正突起4が矯正歯2を押圧する押圧力と押圧方向を調整して、各々の患者に最適な押圧力で矯正歯2を押圧して矯正できる。以下において、主に実施形態1の製造方法で製造したアライナー100を用いて、複数の矯正突起4が矯正部3に設けられたアライナー400で矯正歯2を矯正する場合を説明するが、実施形態2または3の製造方法で製造したアライナー200、300を用いることもできる。以下の実施形態においても同様である。
【0079】
図5は、複数の矯正突起4が矯正部3の内面に設けられたアライナー400で矯正歯2を移動して歯列矯正する例を示す。アライナー400は、矯正歯2の左側に位置する複数の矯正突起4で、矯正歯2を矢印の矯正方向(図において右側)に押圧して歯列矯正する。さらに、アライナー400は、図において右側に、矯正歯2の移動先にへこみ部7を設けて、矯正歯2の移動が妨げられないようにして、速やかに矯正歯2を矯正する。図示しないが、アライナー400は、矯正歯2を移動する場合に限らず、矯正歯2を回転、傾動する場合に、またこれらを組み合わせる場合に使用できる。複数の矯正突起4でひとつの矯正歯2を矯正するアライナー400は、ひとつの矯正突起4を設けるアライナーに比較して、各々の矯正突起4を小さくしながら、押圧力をはじめ、矯正突起4が矯正歯2に接触する位置、面積を細かく調整できる。アライナー400は、各々の矯正突起4が矯正歯2を押圧することで、矯正突起4のトータルの押圧力を大きくして矯正歯2を矯正できる。また、矯正突起4が矯正歯2に接触する位置及び面積を広くして、局所的にアライナーの被着による痛みや違和感を緩和できる。
【0080】
複数の矯正突起4で特定の矯正歯2を押圧して矯正するアライナー400は、各々の矯正突起4の高さや大きさを変更調整して、矯正歯2を押圧する圧力分布を最適な状態に調整することができる。前述した
図4に様々な矯正突起4の断面形状の例を示す。たとえば、
図4Dに示すように、中央部の矯正突起4を高く、外周部に配置する矯正突起4を低くして、矯正歯2の押圧力を、中央部で強くその周囲で弱くすることができる。また、高さを徐々に変更することで矯正歯2の押圧力を逓増または低減して調整できる。矯正突起4の個数及び矯正歯2との接触面積でも押圧力を調整できる。複数の矯正突起4を点状(円筒状または円柱状など)に設けることができる他、線状、面状、またはこれらを組み合わせた形状として、矯正歯2に接触して押圧できる。また、複数の矯正突起4の各々が、異なる形状、長さ、大きさ、太さ、厚みとすることで様々な組み合わせが可能となる。
【0081】
患者の歯に被着された直後のアライナーは、歯列矯正されていない患者の歯に被着されるので、矯正歯2と、矯正歯2を押圧する矯正突起4を含めた矯正部3との相対的な位置の差が大きい。アライナーは、弾性変形するので矯正歯2に被着できるが、矯正歯2と矯正後の歯との相対的な位置ずれが大きくなると、矯正歯2に作用する押圧力が大きくなる。アライナーが矯正歯2を押圧する力が、フックの法則に従って移動に比例して大きくなるからである。そこで、矯正突起4の個数、形状、大きさ、厚みなどを調整して、例えば、複数の矯正突起4を配置する、矯正突起4を円筒状とする、矯正突起4の先端面を湾曲面とする、矯正突起4の先端部の膜厚が外周部の膜厚よりも厚くする、またいずれかを組み合わせるなどにより、局所的な押圧力を抑制して矯正力が強すぎて患者の負担が大きくなることのないよう、また矯正歯2との接触部分において痛みや違和感が可及的に生じないよう調整することで、患者がアライナーの被着具合の快適性を向上させて、矯正歯2を矯正できる。以上のことは、他の実施形態のアライナーにおいても同様にあてはまり、いずれの実施形態においても、ひとつ又は2以上の複数の矯正突起4を設けることができ、また矯正突起4を異なる形状、高さ、大きさなどにして押圧力を調整できる。
[実施形態5]
【0082】
図6及び
図7に示す実施形態5のアライナー500は、矯正歯2を移動して矯正する例を示す。
図6は、矯正歯2が歯列矯正されて水平方向(図において右側)に移動する例であり、アライナー500全体の概略水平断面図を示す。
図7は、
図6の要部拡大水平断面図であり、アライナー500の矯正部3とその両側部分を示す。
図7はアライナー500をハッチングで、矯正歯2を矯正方向に案内する側の矯正部3を太線かつ間隔の狭いハッチングで示している。
図7に示すように、弾性復元力で矯正歯2を押圧する矯正部3の範囲は、矯正する矯正歯2に接触する部分のみに限定されず、必要に応じてその隣接歯、周辺歯など矯正歯2以外の歯に及び得る。
【0083】
図6は、患者の複数の歯に被着されるアライナー500の外形線が鎖線で示される。矯正歯2を左側の中切歯として矢印の方向(図において右側)に歯列矯正する。
図6のホルダー部1は、左側の中切歯を除く右側の中切歯と、両側の側切歯と、両側の犬歯と、両側の臼歯の非矯正歯5に嵌合構造で脱着自在に被着される。多数の歯に嵌合構造でホルダー部1を被着して矯正歯2を歯列矯正することで、アライナー500が位置ずれなくで患者の歯に被着されて、矯正歯2を正確に歯列矯正できる。ただし、アライナー500は、必ずしも全ての非矯正歯5にホルダー部1を被着することなく、ホルダー部1を一部の非矯正歯5に被着して矯正歯2を矯正することもできる。
【0084】
図7Aないし
図7Cは、矯正歯2を少しずつ移動させて矯正する工程であって、異なる形状の第1のアライナー510及び第2のアライナー520を使用して矯正歯2を段階的に矯正する。
図7Aないし
図7Cにおいて、実線が各工程における矯正歯2の位置を、一点鎖線が矯正前の矯正歯2の位置を、二点鎖線が第1のアライナー510により移動した矯正歯2の位置を、鎖線が新たな第2のアライナー520により矯正された正常な位置を、それぞれ示す。
【0085】
これらの図に示すように、
図7Aの実線位置にある矯正歯2を、第1のアライナー510及び第2のアライナー520により、二点鎖線位置を経て、鎖線位置まで移動して矯正する。
図7Aないし
図7Cはその歯列矯正の過程を、矢印は矯正方向を示す。第1のアライナー510は、
図7Bに示す形状に成形されており、
図7Aの実線位置にある矯正歯2と非矯正歯5に被着されて、
図7Aの矢印で示すように、矯正歯2を下方向に二点鎖線の位置に近づけるように移動させる。すなわち、
図7Bに示す形状に成形された第1のアライナー510は、弾性変形して
図7Aの実線位置にある歯に被着される。弾性変形して被着された第1のアライナー510は、弾性復元力で矯正歯2を二点鎖線に向けた矯正方向に移動させる。
図7Bに示す形状の第1のアライナー510は、矯正歯2が
図7Aの実線位置から
図7Bの実線位置に移動するにしたがって、矯正方向の押圧力が低下して矯正作用も低下する。
図7Bは、第1のアライナー510によって矯正歯2が一点鎖線位置から二点鎖線位置に移動して矯正された状態を示す。ここで矯正作用の低下した第1のアライナー510を、新しい第2のアライナー520に交換して、引き続き矯正歯2を正常な位置に移動させて矯正する。新しい第2のアライナー520は、
図7Cに示す形状に成形されており、
図7Bの実線位置にある矯正歯2と非矯正歯5に被着されて、
図7Bの矢印で示すように、矯正歯2を下方向に鎖線位置に向かって移動させる。最終的に、矯正歯2は、
図7Cの実線位置で示す正常な位置まで移動して矯正される。
図7Cは、第2のアライナー520により矯正歯2が二点鎖線の位置から実線位置に移動して矯正された状態を示す。
【0086】
図7において説明を単純化するために、第1のアライナー510及び第2のアライナー520というの2つのアライナーを使用して、
図7Aの実線から二点鎖線を介して鎖線位置まで矯正歯2を矯正方向に移動させる。ただし図示しないが、矯正距離や態様、患者の矯正歯2及び口腔内の状態などに応じて、形状の異なるより多くの個数の複数のアライナーを次々と交換して歯に被着して、段階的に矯正歯2を矯正方向に移動させることが好ましい。歯列矯正するアライナーの個数を多くすることは、ひとつのアライナーの矯正距離を小さくして患者の負担を少なくできる。次々と交換して歯に被着して歯列矯正する複数のアライナーは、矯正部3の形状を、患者の歯形から歯列矯正された歯形に次第に近づく形状とする。患者は、ひとつのアライナーで歯列矯正した後、次のアライナーに交換して歯列矯正する工程を繰り返して矯正歯2を歯列矯正する。形状の異なる複数のアライナーは、移動距離、矯正の内容や程度、矯正期間、矯正歯2を含む口腔内の状態や患者の要望などにより最適な個数及び形状が選択される。例えば、
図7において、形状の異なる複数のアライナーを使用する場合、矯正作用の低下したアライナーの交換を繰り返し、
図7Aの二点鎖線位置に近い形状のアライナーに交換して、矯正歯2を
図7Aの実線位置から二点鎖線位置に移動させる。さらに同様に、矯正作用の低下したアライナーの交換を繰り返し、
図7Bの鎖線位置に近い形状のアライナーに交換して、矯正歯2を
図7Bの実線位置から鎖線位置に移動させて、
図7Cの実線位置で示す正常な位置まで最終的に移動して矯正する。以上のことは、他の実施形態においても同様である。
【0087】
アライナー500は、患者の歯に被着されて矯正歯2を矯正方向に弾性復元力で押圧するので、矯正突起4を含めた矯正部3の内形は被着される患者の歯形の外形と同一ではない。アライナー500は、患者の歯形から歯列矯正された方向に位置ずれした形状に矯正部3を成形している。患者の歯形模型と同一形状の矯正部3のアライナー500は、これを被着して矯正歯2を弾性的に押圧できないからである。これにより矯正歯2の状態、歯列矯正の内容・程度、押圧力に応じて、またアライナー500の被着具合をも考慮して適切な内面形状及び外面形状を各々選択できる。
【0088】
さらに、アライナー510、520は、矯正歯2の移動先である移動方向の前面に位置するへこみ部7を設ける。
図7A及び
図7Bにおいて、いずれも矢印で示す下方向に矯正歯2を水平移動するため、アライナー510、520は、いずれもへこみ部7を矯正歯2の移動先、図において矯正歯2の下側に設けることで、矯正歯2が移動矯正される際に障害となることなく矯正歯2を速やかに矯正方向に移動できる。ただし、他の実施形態においても同様であるが、矯正部3が弾性変形して矯正歯2を歯列矯正するアライナーにおいて、へこみ部7を設けることなく歯列矯正することもできる。
【0089】
以上のように矯正歯2を移動して矯正する場合の一例として、1つの矯正歯2を水平方向の移動する場合について記載説明した。ただしこの他、複数の矯正歯2を同時に移動矯正する場合、ある矯正歯2を移動矯正するために必要な移動先の空間を確保するために矯正歯2の隣の歯または周辺の歯など矯正歯2以外の歯を移動する場合、矯正歯2を斜め方向など水平方向以外の方向に移動する場合、後述する矯正歯2を回転させる場合及び矯正歯2を傾動させる場合、これらを必要に応じて組み合わせる場合など患者の矯正歯2及び口腔内の状況に合わせて、アライナー500で矯正歯2を移動して矯正できる。この実施形態を含め、いずれの実施形態のアライナーにおいても、矯正歯2の矯正方向や矯正姿勢を特定するものではない。
[実施形態6]
【0090】
図8に示す実施形態6のアライナー600は、矯正歯2を回転して矯正する。
図8Aないし
図8Cは、矯正歯2を少しずつ回転させて矯正する工程を示し、異なる形状の第1のアライナー610及び第2のアライナー620を使用して矯正歯2を段階的に矯正する。
図8Aないし
図8Cにおいて、実線が各工程における矯正歯2の位置を、一点鎖線が矯正前の矯正歯2の位置を、二点鎖線が第1のアライナー610により移動した矯正歯2の位置を、鎖線が第2のアライナー620により矯正された正常な位置を、それぞれ示す。
【0091】
図8Aは矯正前の矯正歯2に第1のアライナー610を被着して、矢印で示すように、二点鎖線位置に向けて回転させて矯正する状態を、
図8Bは第1のアライナー610による矯正が完了し、新しい第2のアライナー620が被着されて、矢印で示すように、鎖線位置に向けて回転させて矯正する状態を、
図8Cは第2のアライナー620により矯正歯2が正常な位置に矯正された状態を、それぞれ示す。
【0092】
図8は説明を単純化するため、第1のアライナー610及び第2のアライナー620というの2つのアライナー600を使用するが、実施形態5と同様に、実際には矯正距離や態様、患者の矯正歯2、口腔内の状態などに応じて、形状の異なるより多くの個数の複数のアライナーを使用して矯正することが好ましい。
【0093】
図示しないが、アライナー600は、実施形態5のアライナー500と同様に、複数の矯正歯2を同時に矯正できる。また、歯列矯正は、矯正歯2移動するだけでなく、矯正歯2の移動に加えて回転させて矯正する場合があり、実施形態5を実施形態4と組み合わせたアライナーにより矯正歯2を矯正できる。
【0094】
図8に示すように、矯正歯2を回転して矯正する場合、押圧方向と押圧力が一定ではなく矯正段階により変化し得る。矯正部3と、矯正歯2を矯正方向に押圧する矯正突起4と、矯正歯2の移動先の移動スペースであるへこみ部7のそれぞれの位置及び位置関係が変化する点をも考慮して、形状の異なる複数のアライナー600を使用し、またその都度、矯正歯2を適切に押圧できるよう最適な押圧方向と押圧力とする必要がある。以上のことは、矯正歯2を回転して矯正する場合に限らず、矯正歯2を移動する場合、後述する矯正歯2を傾動する場合、またこれらを2以上組み合わせた場合などいずれの場合においても、必要に応じて考慮する必要がある。
[実施形態7]
【0095】
図9に示す実施形態7のアライナー700は、矯正歯2を正常な姿勢に傾動して矯正する。
図9Aと
図9Bは、矯正歯2を傾動して正常な姿勢に矯正する工程を示している。
図9Aは矯正前の矯正歯2にアライナー700を被着して、矢印(図において右方向)の鎖線位置に向けて矯正部3を傾動して矯正する状態を、
図9Bはアライナー700により矯正歯2が正常な姿勢に矯正された状態を、それぞれ示す。
図9A及び
図9Bにおいて、実線が各工程における矯正歯2の位置を、一点鎖線が矯正前の矯正歯2の位置を、鎖線がアライナー700により矯正された正常な位置を、それぞれ示す。
【0096】
図9Aのアライナー700の矯正歯2を案内する矯正部3が、矯正歯2を矯正方向に押圧する矯正突起4と、矯正歯2の移動を阻止するストッパ部4aとを備える。図に示すアライナー700は、まず、矯正歯2の左側上部に矯正突起4を備える。矯正突起4及び矯正部3の弾性復元力により、傾斜する矯正歯2を押圧して垂直姿勢に矯正する。アライナー700の矯正突起4が、矯正歯2の左側の上部を矢印(図において右方向)の矯正方向に押圧する。
【0097】
図に示すアライナー700は、さらに、押圧される反対側の矯正歯2の右側の付け根部において、矯正歯2の移動を阻止するストッパ部4aを備える。矯正歯2を正常な姿勢に傾動させて矯正する場合、矯正部3は、矯正歯2の一部の移動を阻止しながら、他の領域を押圧して矯正歯2を傾動して矯正することがある。
図9Aに示すアライナー700は、矯正歯2の左上側において矯正突起4で矯正歯2を矢印の右方向に押圧して上部を起こす方向に移動させると同時に、矯正歯2の右下側の付け根部においてストッパ部4aで矯正歯2の移動を阻止して位置ずれを抑制することで、傾斜する矯正歯2を垂直姿勢に矯正する。矯正歯2を案内する矯正部3が、矯正突起4と別に矯正歯2の移動を阻止するストッパ部4aを備えることで、矯正歯2を移動させる部分とそうでない部分とを組み合わせて、より効率的に歯列矯正を行える。矯正突起4側の押圧力で矯正歯2が全体的または部分的に位置ずれすると、適切な方向や移動位置に矯正できず、また押圧力が適切に伝わらない場合が生じ得るからである。ストッパ部4aは、矯正歯2に接触しホールドして移動を阻止できる形状が好ましい。ストッパ部4aは、矯正歯2を押圧して移動するものではないが、ストッパ部4aの形状を、例えば
図4で示す矯正突起4と同様に突起状にできる。ストッパ部4aの形状、大きさ、個数などは、矯正歯2の移動や位置ずれを制限阻止の程度、方向、接触態様などの応じて最適に定められる。例えば、ストッパ部4aの形状を、点状、線状、面状、またはこれらの組み合わせにより矯正歯2に接触させ、さらにまた、複数の突起を設け、異なる形状の突起を組み合わせることもできる。ストッパ部4aを設ける位置は、押圧される反対側が効率的で好ましいが、これに限定されない。図示しないが、例えば、へこみ部7をストッパ部4aに利用することで、矯正歯2をへこみ部7の位置まで移動させて、それ以上の移動を制限し阻止できる。また、曲面などガイドを伴うストッパ部4aで矯正歯2の移動を阻止する所定の位置まで矯正歯2を導き案内した上でそれ以上の移動を制限し阻止することもできる。
【0098】
歯列矯正において移動させない非移動部のある矯正歯2は、ストッパ部4aで非移動部を移動させることなく歯列矯正できる。他方で、アライナーが、矯正歯2の移動を局部的に阻止することなく矯正できる場合は、ストッパ部4aを設けることなく歯列矯正できる。なお、ストッパ部4aは、矯正歯2を正常な姿勢に傾動させる場合に限定されず、矯正歯2を移動する場合、矯正歯2を回転する場合、これらのいずれかまたは複数の組み合わせの場合も、必要に応じて設けることができる。
【0099】
図9は説明を単純化するため1つアライナー700を使用するが、矯正距離や態様、患者の矯正歯2、口腔内の状態などに応じて、形状の異なる複数のアライナーを使用して矯正歯2を正常な姿勢に傾動させて矯正することが好ましい。形状の異なる複数のアライナーを使用する場合、矯正歯2を回転して矯正する場合と同様に、矯正段階により押圧方向や押圧力が一定ではなく変化することがあり得る。矯正突起4とへこみ部7、さらにストッパ部4aとの位置関係も含め考慮して最適な押圧力及び押圧方向とする必要がある。
【0100】
以上の実施形態5ないし7に矯正歯2を移動、回転、傾動して歯列矯正する例を示したが、歯列矯正は、これらを単独で、あるいは組み合わせることで正常な位置と姿勢に矯正する。例えば、傾斜する矯正歯2を移動しながら垂直姿勢に矯正したり、傾斜する矯正歯2を回転させながら垂直姿勢に矯正したり、また、同時並行的に複数の歯を移動させたり、矯正歯2が移動する先の隙間を確保するために矯正歯2以外の歯を移動させたり傾動させたりする場合など様々なケースがあり、いずれの場合も患者の歯列状態及び矯正過程の必要に応じた歯列矯正が必要となる。いずれの図も矯正歯2を矯正する例であって、いずれの場合も矯正する方向や態様を限定するものではなく、実際の矯正歯2の状態に応じて最適な矯正方向や矯正態様が定められる。
[実施形態8]
【0101】
図10及び
図11に示す実施形態8のアライナー800は、矯正部3の表面又は内面に弾性体9が接合されてなる。
図10はアライナー800に弾性体9を設けた例を、
図11はアライナー800で矯正歯2を矯正する使用例を、それぞれ示す。アライナー800は、矯正突起4の表面や内面に接合された弾性体9で矯正歯2の押圧力をコントロールできるので、より快適に患者にセットして有効に矯正できる。とくに、弾性体9はそれ自体の弾性復元力で矯正歯2を押圧し、また、弾性率を調整変更して押圧力をコントロールでき、各々患者により最適な押圧力で矯正歯2を矯正できる。さらにまた、アライナー800自体の弾性復元力と異なる弾性体9の弾性復元力で矯正歯2を押圧することで、各々の弾性率を調整して最適値に設定することで、より快適な押圧力で患者の矯正歯2を矯正できる。このため、アライナー800は患者の違和感を少なくして快適に被着しながら、効率よく矯正することもできる。
【0102】
図10Aないし
図10Eに様々な弾性体9の例を示す。ただし、弾性体9の形状、大きさ、接合方法や態様などはこれらの図で示す例に限定されるものではない。
図10Aは、矯正突起4の先端面に沿って弾性体9を設ける。
図10Bは、矯正突起4の先端部に弾性体9を設ける。
図10Cは、矯正突起4の円筒状内及び外周部に沿って弾性体9を設ける。
図10A及び
図10Cのように、弾性体9に曲面やT字形状を設けることで押圧力をより向上、維持できる。
図10Dは、
図10Aと同様に弾性体9を設けた上に、クッション材8を接合している。
図10A~
図10Cのように、アライナー800は矯正部3の表面に弾性体9を接合でき、また、例えば
図10Dのように、矯正部3の内面に弾性体9を接合できる。矯正部3の内面に弾性体9を接合することで、例えば、弾性体9による押圧力を大きくしながらアライナー800の被着による痛みや違和感を軽減したり、弾性体9が目視されないようにできる。
図10Dにおいて、弾性体9とクッション材8を先に接合して積層させた上で、矯正突起4に接合することもできる。
図10Dのように、弾性体9とは別にクッション材8とを設けることができる。弾性体9とクッション材8の形状、大きさ、態様などは様々に調整可能であり、例えば、弾性体9を平面として、クッション材8を矯正突起4の形状にしたり、また、弾性体9をクッション材8で覆う、クッション材8に弾性体9を差し込むなど態様にできる。また、弾性体9をクッション材8自体として兼用することもできる。
図10Eは、弾性体9とクッション材8を兼用する例を示す。
【0103】
矯正部3に弾性体9を設けるアライナー800は、弾性体9により矯正部3の押圧力を強くして、矯正歯2を速やかに歯列矯正できる。そこで、
図10で示すように、弾性体9は矯正突起4に合わせて接合されることが効果的である。ただし、例えば、矯正部3の一部に弾性体9を設けて、弾性体9を設けた矯正部3は弾性体9による押圧力が加わり、弾性部9を設けない矯正部3よりも押圧力を強くできる。弾性体9により、矯正部3において押圧力の差を設けたり、部分的に調整できる。また、弾性体9の大きさ、形状、厚み、接合方法により押圧力を調整変化させることもできる。複数の弾性体9を設け、接合する位置に応じて異なる形状、長さ、大きさ、厚みにすることもできる。さらに、弾性体9を設けない領域においては、矯正部3が矯正歯2を押圧する押圧力を弱くして、患者の違和感を少なくして歯列矯正できる。弾性体9を設けた領域は押圧力を強くし、または押圧力を長期間保持しつつ、弾性体9が設けない領域は快適にアライナー800を被着することもできる。弾性体9でアライナー800の厚みを調整できる。弾性体9で所定の押圧力を有しながら、プラスチックプレート10を薄くしつつ被着による違和感の生じにくいアライナー800とすることもできる。さらにまた、これ以外にも、ストッパ部4a側やへこみ部7側に弾性体9を設けることで、効果的に矯正歯2の移動や位置ずれを制限し阻止することもできる。
【0104】
図11Aないし
図11Cは、アライナー800で矯正歯2を矯正する使用例を示す。
図11Aは矯正歯2を平行移動して矯正する場合を、
図11Bは矯正歯2を回転して矯正する場合を、
図11Cは矯正歯2を正常な姿勢に傾動して矯正する場合を、それぞれ示している。図示しないが、アライナー800はこれらの組み合わせて、例えば、矯正歯2を移動しながら回転させたり、矯正歯2を移動しながら正常な姿勢に傾動させることもでき、患者の矯正歯2及び口腔内の状況を含めた症例に合わせた歯列矯正を行うことができる。
【0105】
弾性体9は、アライナー800を成形するプラスチックプレート10と異なる弾性率として押圧力を調整する。弾性体9は、アライナー800を成形している成形材であるプラスチックプレート10よりも変形し難い材料であって、例えば、弾性変形する硬質プラスチック板や弾性金属板を使用できる。
【0106】
弾性体9は、矯正部3の一部または全体の表面又は内面の特定の領域に接合される。矯正突起4の表面または内面に接合することもできる。矯正部3の弾性復元力を調整でき、また押圧力を大きくできる。例えば、弾性体9を矯正部3に接合することで、矯正部3の弾性復元力を他の領域よりも高くしたり、所定の押圧力の低減を防止したりできる。プラスチックプレート10を変更したり、部分的に異なる材料を使用したり、膜厚を厚くすることなく、弾性体9を設けることで矯正部3の押圧力を調整できる。また例えば、アライナー800は、矯正部3に柔軟なプラスチックプレートを使用しつつ、接合する弾性体9で矯正部3の押圧力を大きくでき、患者の違和感を少なくして快適に被着しながら、効率よく矯正することもできる。
【0107】
弾性体9は、押圧力を効率良く大きくし、また押圧力の減少を抑えて所定の押圧力を維持するために、矯正歯2の表面に沿う板状、ないしは線状や面状となるように形成することが好ましい。
図10は、円筒状の矯正突起4に合わせて接合された弾性体9の形状、接合方法を示すが、これらの図に限定されない。弾性体9の形状は、整形のみならず不整形にでき、アライナー800と矯正歯2の接合面の形状に合わせた矯正歯2の表面に沿う形状とする。弾性体9の素材のみならず、形状、大きさ、厚みなどで押圧力を調整できる。弾性体9は、アライナー800の内部に完全に埋設して、装着時の痛みや違和感を軽減できる。ただ、表面に接合したり、一部を表面に露出する状態に接合できる。
図11A及び
図11Bに示すアライナー800のように、矯正歯2の両側の歯の領域まで弾性体9を接合することで、より効果的に押圧力を大きく、また所定の押圧力を維持できる。
【0108】
このアライナー800は、弾性体9の弾性力で矯正歯2を矯正方向に付勢できるので、矯正部3及びホルダー部1が同じ引張弾性率の1枚のプラスチックプレート10を真空成形でき、異なる引張弾性率の素材を使用する場合に比べ、低コストで製造できる。アライナー800は弾性体9で部分的に異なる厚みとしたり、アライナー800を全体的に薄くしながら弾性体9で押圧力を強くできるなど、患者が違和感なく快適に被着できる。
【0109】
図示しないが、アライナー800は、矯正部3とホルダー部1を変形し易いプラスチックプレートで成形して、弾性体9で矯正部3を付勢して、矯正歯2を矯正方向に押圧できる。また、このアライナー800は、弾性体9の内側面をエラストマーなどで被覆するように矯正部3を成形して、硬い弾性体9が患者の歯の表面に直接に接触するのを防止できる。このアライナー800は、弾性体9で矯正歯2を効果的に歯列矯正しながら、歯の表面には変形しやすいエラストマーなどを接触して、快適に被着できる特長がある。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のアライナーの製造方法及びアライナーは、簡単かつ容易に、しかも低コストに製造できる方法及びアライナーとして好適に使用できる。
【符号の説明】
【0111】
100、400、500、600、700、800…アライナー
510、610…第1のアライナー
520、620…第2のアライナー
1…ホルダー部
2…矯正歯
3…矯正部
4…矯正突起
4a…ストッパ部
5…非矯正歯
6a…成形凹部
6b…突出部
7…へこみ部
8…クッション材
9…弾性体
10…プラスチックプレート
12…矯正歯形モデル
20…真空成形装置
21…気密ケース
22…ヒーター
23…排気ポンプ
24…上下台
25…排気穴
26…空気層
27…空気穴
31…上顎
32…下顎