(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169404
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】製紙用ベルトおよび製紙用ベルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
D21F 7/08 20060101AFI20221101BHJP
D21F 3/02 20060101ALI20221101BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20221101BHJP
C08G 18/83 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
D21F7/08 Z
D21F3/02 Z
C08G18/00 C
C08G18/83 030
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021075447
(22)【出願日】2021-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000180597
【氏名又は名称】イチカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168572
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 仁志
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 滋人
(72)【発明者】
【氏名】高森 裕也
(72)【発明者】
【氏名】坂井 太一
【テーマコード(参考)】
4J034
4L055
【Fターム(参考)】
4J034CA02
4J034CA03
4J034CA04
4J034CA05
4J034CA15
4J034CA22
4J034CB03
4J034CB04
4J034CB05
4J034CB07
4J034CB08
4J034CC03
4J034CC08
4J034CC12
4J034CC13
4J034CC52
4J034CC54
4J034CC65
4J034CC67
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4J034CD09
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4J034CE03
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4J034DF01
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4J034DG02
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4J034DG04
4J034DG30
4J034DM01
4J034DP19
4J034GA06
4J034HA01
4J034HA02
4J034HA06
4J034HA07
4J034HC03
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4J034HC13
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC54
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC65
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA30
4J034LA16
4J034QC03
4J034QC05
4J034RA05
4J034RA09
4J034RA11
4L055CE36
4L055CE79
4L055EA40
4L055FA30
(57)【要約】
【課題】
使用時における樹脂層表面の性質の変化が抑制された製紙用ベルトおよび当該製紙用ベルトの製造方法を提供する。
【解決手段】
樹脂を含む少なくとも1層の樹脂層を有し、70±5℃の温水浴中において、表面粗さ0.10μm以下の金属板に対し100±3Kg/cm
2の圧力で20時間、前記樹脂層の表面を当接させた後の表面粗さが、当接前の前記樹脂層の表面の表面粗さに対し40%以上である、抄紙機に使用される製紙用ベルト。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含む少なくとも1層の樹脂層を有し、
70±5℃の温水浴中において、表面粗さ0.10μm以下の金属板に対し100±3Kg/cm2の圧力で20時間、前記樹脂層の表面を当接させた後の表面粗さが、当接前の前記樹脂層の表面の表面粗さに対し40%以上である、抄紙機に使用される製紙用ベルト。
【請求項2】
前記樹脂層の少なくとも表面付近の樹脂は、ポリカルボジイミドにより架橋されている、請求項1に記載の製紙用ベルト。
【請求項3】
樹脂を含む少なくとも1層の樹脂層を有し、
前記樹脂層の少なくとも表面付近の樹脂は、ポリカルボジイミドにより架橋されている、抄紙機に使用される製紙用ベルト。
【請求項4】
前記樹脂層の表面の湿潤状態における表面粗さは、0.3μm以上20μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製紙用ベルト。
【請求項5】
前記樹脂層の少なくとも表面付近の樹脂は、N-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製紙用ベルト。
【請求項6】
前記樹脂層は、ウレタン樹脂を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の製紙用ベルト。
【請求項7】
前記ウレタン樹脂は、水系ウレタン樹脂を含む、請求項6に記載の製紙用ベルト。
【請求項8】
前記樹脂層の表面は、湿紙接触表面を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の製紙用ベルト。
【請求項9】
湿紙搬送ベルトである、請求項1~8のいずれか一項に記載の製紙用ベルト。
【請求項10】
シュープレスベルトである、請求項1~8のいずれか一項に記載の製紙用ベルト。
【請求項11】
少なくとも一層の樹脂層を形成する工程を有し、
前記工程において、形成する前記樹脂層の少なくとも表面付近の樹脂をポリカルボジイミドにより架橋する、製紙用ベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用ベルトおよび製紙用ベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙の原料から水分を除去する抄紙機は、一般的にワイヤーパートとプレスパートとドライヤーパートとを備えている。これらワイヤーパート、プレスパートおよびドライヤーパートは、湿紙の搬送方向に沿ってこの順番に配置されている。
【0003】
このような抄紙機の各パートにおいては、湿紙の搬送や湿紙の圧搾等を目的として、各種の製紙用ベルトが用いられている。このような製紙用ベルトとしては、例えば、湿紙の搬送および受渡しを行うための湿紙搬送ベルト(トランスファーベルト)、シュープレス機構において用いられるシュープレスベルト等が挙げられる。
【0004】
プレスパートにおける湿紙搬送ベルトを用いた湿紙の受渡しに関し、現在、抄紙機としては、クローズドドローにて湿紙の受渡しを行うクローズドドロー抄紙機が知られている。クローズドドロー抄紙機のプレスパートでは、湿紙が抄紙用フェルトまたは湿紙搬送ベルトに載置された状態で搬送されるため、湿紙が単独で走行する箇所が存在せず、紙切れの発生が防止されている。このため、クローズドドロー抄紙機は、高速運転適性および操業の安定性に関し、優れている。
【0005】
一方で、クローズドドロー抄紙機における湿紙の受渡しを適切に行うためには、湿紙搬送ベルトには、湿紙を貼り付けた状態で搬送する機能(湿紙密着性)と、後段へ湿紙を受け渡す際に、湿紙をスムースに離脱する機能(湿紙剥離性)とが要求される。したがって、このような相反する機能を実現するためには、湿紙搬送ベルトの湿紙担持表面の湿紙に対する密着性は重要な要素である。
【0006】
特許文献1および2には、湿紙を担持する樹脂層の湿紙接触表面が湿紙の原紙坪量および樹脂層を構成する樹脂の水に対する膨潤率に応じて所定の範囲内の算術表面粗さを有する湿紙搬送ベルトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-62337号公報
【特許文献2】特開2014-62338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、抄紙機においては、湿紙は高速で、例えば1000m/分以上の速度で連続して搬送される。このような過酷な環境下では、製紙用ベルトは、湿紙搬送ベルトにおいては、走行に伴って摩耗したり、プレス機構において押圧されたりすることにより、その表面の性質が変化してしまう。また、製紙用ベルトは、使用に伴い汚れが付着する。この結果製紙用ベルトの湿紙密着性および湿紙剥離性が当初のものから変化してしまう。この場合、長期にわたって湿紙搬送ベルトを使用すると湿紙の受け渡しが適切に行われない問題が生じうる。従来の製紙用ベルトにおいては、この点につきさらなる改良の余地がある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、使用時における樹脂層表面の性質の変化が抑制された製紙用ベルトおよび当該製紙用ベルトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、製紙用ベルトが抄紙機内において湿潤状態で使用されることに着目した。そして、本発明者らは、製紙用ベルトの湿潤状態における樹脂層の表面粗さの変化量が、樹脂層表面の性質の変化に関連していることを見出した。さらに、製紙用ベルトの湿潤状態における樹脂層の表面粗さを保持するためにポリカルボジイミドを用いることが有効なことを見出し、さらに検討を進めた結果、本発明に至った。
【0011】
本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 樹脂を含む少なくとも1層の樹脂層を有し、
70±5℃の温水浴中において、表面粗さ0.10μm以下の金属板に対し100±3Kg/cm2の圧力で20時間、前記樹脂層の表面を当接させた後の表面粗さが、当接前の前記樹脂層の表面の表面粗さに対し40%以上である、抄紙機に使用される製紙用ベルト。
[2] 前記樹脂層の少なくとも表面付近の樹脂は、ポリカルボジイミドにより架橋されている、[1]に記載の製紙用ベルト。
[3] 樹脂を含む少なくとも1層の樹脂層を有し、
前記樹脂層の少なくとも表面付近の樹脂は、ポリカルボジイミドにより架橋されている、抄紙機に使用される製紙用ベルト。
[4] 前記樹脂層の表面の湿潤状態における表面粗さは、0.3μm以上20μm以下である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の製紙用ベルト。
[5] 前記樹脂層の少なくとも表面付近の樹脂は、N-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の製紙用ベルト。
[6] 前記樹脂層は、ウレタン樹脂を含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載の製紙用ベルト。
[7] 前記ウレタン樹脂は、水系ウレタン樹脂を含む、[6]に記載の製紙用ベルト。
[8] 前記樹脂層の表面は、湿紙接触表面を含む、[1]~[7]のいずれか一項に記載の製紙用ベルト。
[9] 湿紙搬送ベルトである、[1]~[8]のいずれか一項に記載の製紙用ベルト。
[10] シュープレスベルトである、[1]~[8]のいずれか一項に記載の製紙用ベルト。
[11] 少なくとも一層の樹脂層を形成する工程を有し、
前記工程において、形成する前記樹脂層の少なくとも表面付近の樹脂をポリカルボジイミドにより架橋する、製紙用ベルトの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
以上の構成により、使用時における樹脂層表面の性質の変化が抑制された製紙用ベルトおよび当該製紙用ベルトの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る製紙用ベルトを示す機械横断方向断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る製紙用ベルトの製造方法の好適な実施形態を説明するための概略図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る製紙用ベルトの製造方法の好適な実施形態を説明するための概略図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る製紙用ベルトの製造方法の好適な実施形態を説明するための概略図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る製紙用ベルトの製造方法の好適な実施形態を説明するための概略図である。
【
図6】
図6は、本発明に係る製紙用ベルトが適用される抄紙機の一例を説明するための概略図である。
【
図7】
図7は、樹脂層表面の粗さ保持率を測定する際の当接処理を説明するための概略図である。
【
図8】
図8は、湿紙搬送ベルトの湿紙搬送性を評価するための装置を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る製紙用ベルトおよび製紙用ベルトの製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
<1.製紙用ベルト>
まず、本発明の好適な実施形態に係る製紙用ベルトについて説明する。
図1は、本発明の好適な実施形態に係る製紙用ベルトの一例を示す機械横断方向断面図である。なお、図中、各部材は、説明の容易化のため適宜大きさが強調されており、実際の各部材の比率及び大きさが示されているものではない。ここで、上記機械横断方向(Cross Machine Direction)については、「CMD」ともいい、また、機械方向(Machine Direction)については、「MD」ともいう。また、本実施形態においては、製紙用ベルトの一例として湿紙搬送ベルトについて説明するが、本発明の製紙用ベルトはこれに限定されるものではない。
【0016】
図1に示す湿紙搬送ベルト(製紙用ベルト)1は、抄紙機のプレスパートにおいて、湿紙Wの搬送、受け渡しに用いられるものである。湿紙搬送ベルト1は、無端状の帯状体をなしている。すなわち、湿紙搬送ベルト1は、環状のベルトである。そして、湿紙搬送ベルト1は、通常、その周方向が抄紙システムの機械方向(MD)に沿うようにして配置されるものである。
【0017】
湿紙搬送ベルト1は、補強繊維基材層13と、補強繊維基材層13の外表面側にある一方の主面に設けられた第1の樹脂層(湿紙担持側樹脂層)11と、補強繊維基材層13の内表面側にある他方の主面に設けられた第2の樹脂層(ロール側樹脂層)15とを有し、これらの層が積層されて形成されている。また、第1の樹脂層は、湿紙搬送ベルト1が形成する環の外側表面(外周面)を形成する層である。
【0018】
第1の樹脂層11は、補強繊維基材層13の一方の主面に設けられた、主として樹脂113で構成される層である。
第1の樹脂層11は、補強繊維基材層1に接合する主面とは反対側の主面において、湿紙と接触し、また湿紙Wを坦持するための湿紙担持表面111を構成している。すなわち、湿紙搬送ベルト1は、第1の樹脂層11の湿紙担持表面111に湿紙Wを坦持して、湿紙Wを搬送することができる。
【0019】
ここで、本実施形態においては、70℃±5の温水浴中において、表面粗さ0.10μm以下の金属板に対し100±3Kg/cm2の圧力で20時間、第1の樹脂層11の湿紙担持表面111を当接させた後の湿紙担持表面111の表面粗さが、当接前の第1の樹脂層11の湿紙担持表面111の表面粗さに対し40%以上である。以下、当接前の第1の樹脂層11の湿紙担持表面111の表面粗さに対する第1の樹脂層11の湿紙担持表面111を当接させた後の湿紙担持表面111の表面粗さの比率を粗さ保持率という。本発明者らは、このように湿潤状態における湿紙担持表面111の粗さ保持率が、湿紙担持表面111の性質の変化に関連していることおよび、粗さ保持率が40%以上であれば湿紙搬送ベルト1の湿紙担持表面111の性質の変化を抑制できることを見出した。
【0020】
具体的には、湿紙担持表面111の表面粗さは、湿紙を貼り付けた状態で搬送する機能(湿紙密着性)、後段へ湿紙を受け渡す際に、湿紙をスムースに離脱する機能(湿紙剥離性)等に影響を及ぼす。一方で、一般的には、湿紙担持表面111の表面粗さは、製造直後かつ湿潤前に測定される。本発明者らは、このような湿潤前の湿紙担持表面111の表面粗さは実際に湿紙搬送ベルト1が使用される湿潤状態における湿紙担持表面111の表面粗さと同一視できないこと、および使用時において湿紙担持表面111の表面粗さが経時的に変化することを見出し、これに着目した。そして、使用時における湿紙担持表面111の性質の変化、具体的には、湿紙密着性および湿紙剥離性の変化を、上述したような湿潤状態における湿紙担持表面111の粗さ保持率を指標として把握できることを見出した。そして、湿潤状態における湿紙担持表面111の粗さ保持率を40%以上とすることにより、湿紙搬送ベルト1の湿紙密着性および湿紙剥離性の変化を抑制することができ、長期にわたり安定して湿紙の受け渡しが可能となることを見出した。
【0021】
湿紙搬送ベルト1の湿紙担持表面111の粗さ保持率は、以下のようにして得ることができる。
まず、後述する当接処理前の湿紙搬送ベルト1の湿紙担持表面111の表面粗さ(算術平均粗さRa)を測定する。当接処理前の湿紙搬送ベルト1の湿紙担持表面111の表面粗さは、湿潤状態で測定する。まず、70±5℃の恒温水槽に湿紙搬送ベルト1のサンプルを30分間浸漬する。次いで、湿潤状態の湿紙担持表面111の表面粗さを測定する。表面粗さの測定は、接触式粗さ計、原子力間顕微鏡等を用いた接触式の測定および白色干渉計、レーザー顕微鏡等を用いた非接触式の測定等、任意の方法を用いてもよい。ただし、接触式の測定を採用することが好ましい。なお、恒温水槽の温度は、70℃から±5℃以内であればよい。
【0022】
次に、70±5℃の温水浴中において、表面粗さ0.10μm以下の金属板に対し100±3Kg/cm2の圧力で20時間、第1の樹脂層11の湿紙担持表面111を当接させる。なお、温水浴の温度は、70℃から±5℃以内であればよい。また、金属板の表面粗さも、0.10μm以下であればよく、金属板の材質も特に限定されるものではない。
【0023】
次いで、当接処理後の湿紙搬送ベルト1の湿紙担持表面111の表面粗さを測定する。この測定は、上述した当接処理前の湿紙搬送ベルト1の湿紙担持表面111の表面粗さの測定と同様にして行うことができる。すなわち、70±5℃の恒温水槽に湿紙搬送ベルト1のサンプルを30分間浸漬し、その後表面粗さの測定を行う。
【0024】
粗さの保持率は、以下の式を用いて算出することができる。
粗さ保持率(%)=(当接処理後の湿紙担持表面111の表面粗さ)/(接処理前の湿紙担持表面111の表面粗さ)×100
【0025】
湿紙搬送ベルト1の湿紙担持表面111の粗さ保持率は、40%以上であればよいが、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上である。これにより、湿紙搬送ベルト1の湿紙密着性および湿紙剥離性の変化をより一層抑制することができ、より一層長期にわたり安定して湿紙の受け渡しが可能となる。
【0026】
また、湿潤状態における湿紙担持表面111のJIS B0601に基づく算術平均粗さRaは、特に限定されないが、0.3~20μmであることが好ましく、0.5~12.0μmであることがより好ましく、1~10μmであることがさらに好ましい。これにより、湿紙搬送ベルト1についての上述した湿紙Wの密着性および剥離性がより確実に優れたものとなる。
【0027】
第1の樹脂層11を構成する樹脂113の材料としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂、またはポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂等を1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができ、好適にはウレタン樹脂を使用することができる。
【0028】
第1の樹脂層11を構成する樹脂113に用いられるウレタン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリイソシアネート化合物とポリオールとを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、活性水素基を有する硬化剤とともに硬化させて得られるウレタン樹脂とすることができる。また、アニオン系、ノニオン系、カチオン系の自己乳化型、あるいは強制乳化型の水系ウレタン樹脂を使用することができる。
【0029】
上述した中でも、第1の樹脂層11を構成する樹脂113は、水系ウレタン樹脂を用いることが好ましい。水系ウレタン樹脂は、ウレタン樹脂の水分散液を用いて形成される樹脂である。このような水系ウレタン樹脂によって第1の樹脂層11の湿紙担持表面111が構成されることにより、湿紙担持表面111は親水性を有することとなり、湿紙担持表面111への湿紙Wの密着性が向上する。これにより、湿紙担持表面111の表面粗さを調節して凹凸を制御することにより湿紙Wの密着性および剥離性を制御することがより容易になる。また、第1の樹脂層11の湿紙担持表面111が親水性を有することとなるため、湿紙搬送ベルト1の使用時において、汚れが付着しにくくなり、湿紙搬送ベルト1の湿紙担持表面111の性状の変化がより一層抑制される。
【0030】
また、本実施形態においては、第1の樹脂層11を構成する樹脂113は、ポリカルボジイミドを含む架橋剤により架橋されている。このように、ポリカルボジイミドを含む架橋剤を用いて湿紙担持表面111付近の樹脂を架橋することにより、湿紙担持表面111の耐水性、耐久性を向上させることができ、上述した湿紙担持表面111の粗さ保持率を容易に達成することができる。
以下、ウレタン樹脂およびこれに用いるポリカルボジイミドを含む架橋剤について詳細に説明する。
【0031】
上述したように、ウレタン樹脂は、例えば水系ウレタン樹脂および/またはポリイソシアネート化合物とポリオールとを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、活性水素基を有する硬化剤とともに硬化させて得られるウレタン樹脂を含む。なお、いずれのウレタン樹脂もポリイソシアネート化合物、ポリオールおよび必要に応じて硬化剤を用いて形成される。したがって、以下、ウレタン樹脂を構成するポリイソシアネート化合物、ポリオールおよび硬化剤について説明する。
【0032】
ポリイソシアネート化合物として、芳香族ポリイソシアネート化合物および脂肪族ポリイソシアネート化合物が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、2,4-トリレン-ジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トリレン-ジイソシアネート(2,6-TDI)、4,4’-メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)、p-フェニレン-ジイソシアネート(PPDI)、ジメチルビフェニレンジイソシアネート(TODI)、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート(NDI)、4,4-ジベンジルジイソシアネート(DBDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレン-ジイソシアネート(TMXDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)等が挙げられる。脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、特に限定されないが、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート等の鎖状脂肪族ポリイソシアネートや、1-イソシアネート-3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(H12MDI)、1,3-シクロヘキシルジイソシアネート、1,4-シクロヘキシルジイソシアネート(CHDI)および1,4-ビス-(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(H6XDI)等の脂環式ポリイソシアネートが挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
なお、水系ウレタン樹脂は、一般には、脂肪族ポリイソシアネート化合物を含んで構成される。上述した中でも、ウレタン樹脂は、好ましくは1-イソシアネート-3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(H12MDI)および1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)からなる群から選択される1種以上を含む。
【0034】
ポリオール化合物としては、特に限定されず、長鎖ポリオール化合物、例えば、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエチレンアジペート等のポリエステルポリオール、ポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)等のポリエーテルポリオール、ポリカーボーネートジオール等のポリカーボネートポリオール、ポリエーテルカーボーネートジオール、トリメチロールプロパン、ポリブタジエンポリオール、パーフルオロポリエーテルポリオール、シリコンジオール等のシリコンポリオールが挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
なお、ポリカーボネートポリオールとしては、特に限定されないが、例えばポリカーボネートポリオール原料ポリオールとポリカーボネート源から合成されたポリカーボネートポリオールが挙げられる。またポリカーボネートポリオール原料ポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数が2以上20以下の直鎖または分岐鎖アルキレングリコール、炭素数が2以上20以下の水酸基含有環式炭化水素等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記直鎖アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ウンデカンジオール、ドデカンジオール等が挙げられる。上記分岐鎖アルキレングリコールとしては、例えば2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等が挙げられる。上記水酸基含有環式炭化水素としては、例えば、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の水酸基含有脂環式アルカンが挙げられる。
【0036】
活性水素基を有する硬化剤としては、特に限定されず、ポリオール化合物およびポリアミンからなる群から選択された1種または2種以上の化合物を使用することができる。
【0037】
硬化剤に含まれ得るポリオール化合物としては、上述した長鎖ポリオール化合物に加え、各種脂肪族ポリオール化合物および各種脂環式もしくは芳香族ポリオール化合物を用いることができる。
【0038】
脂肪族ポリオール化合物としては、特に限定されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,20-イコサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等のアルキレングリコール化合物や、グリセリン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールプロパン(TMP)、ペンタエリスリトール、ジヒドロキシメチルプロピオン酸(DHPA)等が挙げられる。
【0039】
脂環式ポリオール化合物としては、特に限定されず、例えば、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等が挙げられる。
芳香族ポリオール化合物としては、特に限定されず、例えば、ハイドロキノンビス-β-ヒドロキシエチルエーテル(HQEE)、ヒドロキシフェニルエーテルレゾルシノール(HER)、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシベンゼン)、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシベンゼン)、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、ビスフェノールS、ビスフェノールSのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0040】
ポリアミンとしては、特に限定されず、ヒドラジン、エチレンジアミン、4,4’-メチレン-ビス-(2-クロロアニリン)(MOCA)、ジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)、トリメチレングリコールジ(p-アミノベンゾエート)(TMAB)、4,4’-メチレン-ビス-(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)(MCDEA)、4,4’-メチレン-ビス-(2,6-ジエチルアニリン)(MDEA)、トリイソプロパノールアミン(TIPA)、p-ビス(アミノシクロヘキシル)メタン(PACM)、ナフタレン-1,5-ジアミン、キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、トルエン-2,4-ジアミン、t-ブチルトルエンジアミン、1,2-ビス(2-アミノフェニルチオエタン)、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール等が挙げられる。
【0041】
なお、上述したイソシアネート化合物、ポリオールおよび/または硬化剤は、1または2以上の親水性基により置換されていてもよい。すなわち、ウレタン樹脂は、1または2以上の親水性基を有してもよい。これにより、水中において自己分散することが容易となり、水系ウレタン樹脂を得ることが容易となる。また、ウレタン樹脂が親水性基を有することにより、湿紙搬送ベルト1の湿紙担持表面111の親水性を向上させ、湿紙の密着性を向上させることができる。このような、親水性基としては、特に限定されないが、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、水酸基、フェノール性水酸基、アミノ基等が挙げられる。これらの親水性基のうち1種が置換していてもよいし、2種以上が置換していてもよい。また、2種以上の化合物が親水性基により置換されていてもよいし、この場合、置換する親水性基は、これらの化合物において同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0042】
また、上述した中でも、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、水酸基、フェノール性水酸基、アミノ基等は、後述するポリカルボジイミドと反応するための架橋点となることができ、粗さ保持率の向上および第1の樹脂層11の耐水性および耐久性の向上に寄与する。したがって、イソシアネート化合物、ポリオールおよび/または硬化剤は、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、水酸基、フェノール性水酸基、およびアミノ基からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0043】
架橋剤は、ウレタン樹脂中のポリウレタン高分子同士を架橋し、第1の樹脂層11の耐水性および耐久性を向上させる。本実施形態においては、架橋剤は、ポリカルボジイミドを含む。ポリカルボジイミドにより樹脂113中の高分子同士を架橋することにより、湿紙担持表面111の耐水性、耐久性を向上させることができ、上述した湿紙担持表面111の粗さ保持率を容易に達成することができる。
【0044】
ポリカルボジイミドは、複数のカルボジイミド結合を含み、同カルボジイミド結合が水酸基や、カルボキシル基等の官能基と反応することにより、周囲の樹脂と結合することができる。ポリカルボジイミドは、複数のカルボジイミド結合を含むものであればよいが、例えば以下の式(1)で示されるような構造を有する化合物が挙げられる。
【0045】
【0046】
上記式(1)中、R1は、出現毎に独立して、炭素数1以上20以下の置換もしくは非置換の2価の炭化水素基であり、nは、数平均で2.0以上の数である。
【0047】
このような、式(1)で表されるポリカルボジイミドは、多数のカルボジイミド結合を有し、これらがそれぞれ周囲の樹脂の高分子の官能基と反応することができる。上記式(1)の構造を有するポリカルボジイミドは、例えば樹脂の高分子中に含まれる水酸基と反応してイソウレア結合を形成し、イソウレア結合を介して樹脂の高分子とポリカルボジイミドとが結合する。また、上記式(1)の構造を有するポリカルボジイミドは、例えば樹脂の高分子中に含まれるカルボキシル基と反応してN-アシルウレア結合を形成し、N-アシルウレア結合を介して樹脂の高分子とポリカルボジイミドとが結合する。したがって、上記式(1)で表されるポリカルボジイミドを用いた場合、第1の樹脂層11の樹脂113を強固に架橋して、耐水性および耐久性を十分に向上させることができる。また、湿紙担持表面111の粗さ保持率を十分に高いものとすることができる。
【0048】
上述した式(1)中R1は、具体的には直鎖、分岐もしくは環状の置換もしくは非置換のアルキレン基または置換もしくは非置換のアリーレン基あるいは、これらの2種以上の組み合わせの基であることができる。
【0049】
直鎖アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-へキシレン基、n-ヘプチレン基およびn-オクチレン基、n-ノニレン基、n-デシレン基、n-ウンデシレン基、n-ドデシレン基、n-トリデシレン基、n-テトラデシレン基、n-ペンタデシレン基、n-ヘキサデシレン基、n-ヘプタデシレン基、n-オクタデシレン基、n-ノナデシレン基およびn-イコシレン基等が挙げられる。分岐アルキレン基としては、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、1,1-ジメチルプロピレン基、1,2-ジメチルプロピレン基、1,3-ジメチルプロピレン基、2,2-ジメチルプロピレン基、1,2,3-トリメチルプロピレン基、1,1,2-トリメチルプロピレン基、1,2,2-トリメチルプロピレン基、1,1,3-トリメチルプロピレン基、1-メチルブチレン基、2-メチルブチレン基、1,1-ジメチルブチレン基、1,2-ジメチルブチレン基、1,3-ジメチルブチレン基、1,4-ジメチルブチレン基、2,2-ジメチルブチレン基、2,3-ジメチルブチレン基、1,2,3-トリメチルブチレン基、1,2,4-トリメチルブチレン基、1,1,2-トリメチルブチレン基、1,2,2-トリメチルブチレン基、1,3,3-トリメチルブチレン基、1-メチルペンチレン基、2-メチルペンチレン基、3-メチルペンチレン基、1-メチルへキシレン基、2-メチルへキシレン基および3-メチルへキシレン基等が挙げられる。環状のアルキレン基としては、特に限定されないが、例えばシクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環またはシクロオクタン環等の脂環式基を有する基であることができる。R1は、脂環式基から直接または脂環式基に置換された炭素数1~3のアルキレン基を介して隣接する酸素原子と結合していてもよい。このような環状アルキレン基としては、例えば1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレン基が挙げられる。アリーレン基としては、フェニレン基等の単環式芳香族基、ナフチレン基等の縮合多環式芳香族基、ビフェニレン基等の非縮合多環式芳香族基等が挙げられる。
【0050】
なお、上述したような式(1)で表される構造を有する化合物は、ポリイソシアネート化合物を重合することにより得ることができる。したがって、R1は、ポリイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた残基であってもよい。このような場合、R1は、例えば、上述したポリイソシアネート化合物の残基、具体的には、2,4-トリレン-ジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トリレン-ジイソシアネート(2,6-TDI)、4,4’-メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(H12MDI)、1-イソシアネート-3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(IPDI)、テトラメチルキシリレン-ジイソシアネート(TMXDI)、トリイソプロピリデンフェニルジイソシアネート等のからイソシアネート基を除いた残基であることができる。具体的には、このようなR1としては、1-メチルベンゼン-2,4-ジイル、1-メチルベンゼン-2,6-ジイル、ジフェニルメタン-4,4’-ジイル、1,6-ヘキシレン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイル、3,5,5-トリメチル-3-メチレンシクロヘキサン-1-イル、ベンゼン-1,3-ジメチレン、トリイソプロピリデンフェル-ジイル等が挙げられる。
【0051】
R1の置換基としては、特に限定されず、例えば、炭素数1~10の直鎖もしくは分岐アルキル基、直鎖もしくは分岐ヒドロキシアルキル基、芳香族基、後述する親水性基等が挙げられる。直鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基およびn-ノニル基等が挙げられる。分岐アルキル基としては、i-プロピル基、t-ブチル基、i-ブチル基等が挙げられる。ヒドロキシアルキル基としては、例えば、上述した直鎖アルキル基、分岐アルキル基の1以上の水素が水酸基に置換したものが挙げられる。芳香族基としては、フェニル基が挙げられる。
【0052】
また、式中nは、数平均で2.0以上の数であればよいが、数平均で例えば2.0以上20.0以下、好ましくは3.0以上15.0以下である。
【0053】
また、上述した式(1)で示される構造を有するポリカルボジイミド化合物の末端構造は、特に限定されない。例えば、ポリイソシアネート化合物の重合によって製造される場合、末端構造は、ポリイソシアネート化合物の残基、(-R1-N=C=Oまたは-N=C=O)、あるいはこれらに由来するウレタン結合基、ウレア結合基、アミド結合基等であることができる。
【0054】
また、式(1)で表されるポリカルボジイミド化合物は、親水性基を有してもよい。このような、親水性基としては、特に限定されないが、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、水酸基、フェノール性水酸基、アミノ基等が挙げられる。これらの親水性基のうち1種が置換していてもよいし、2種以上が置換していてもよい。また、上述したR1の一部が親水性基により置換されていてもよいし、末端構造の一部が親水性基により置換されていてもよい。
あるいは、ポリカルボジイミド化合物は、疎水性基を有していてもよい。上述したR1の一部が疎水性基により置換されていてもよいし、末端構造の一部が疎水性基により置換されていてもよい。
【0055】
なお、上記の説明では、直鎖状のポリカルボジイミド化合物について中心に説明したが、本実施形態において用いることのできるポリカルボジイミド化合物は、これに限定されるものではなく、例えば分岐鎖を有するポリカルボジイミド化合物も用いることができる。
【0056】
また、樹脂113に対するポリカルボジイミドの使用量は、特に限定されないが、樹脂100質量部に対して、例えば0.3質量部以上90質量部以下、好ましくは0.6質量部以上80質量部以下、より好ましくは1.0質量部以上30質量部以下である。
【0057】
また、架橋剤は、メラミン系、エポキシ系、イソシアネート系等の架橋剤をさらに含んでいてもよい。さらに、架橋剤は、溶媒、分散剤、界面活性剤等を含んだ架橋剤組成物であってもよく、液体(例えば溶液、ディスパージョン、エマルジョン)であってもよい。また、架橋剤が溶液状である場合、架橋剤は水溶液であってもよい。
【0058】
上記の架橋剤は、ウレタン樹脂を構成するための材料、例えばウレタンプレポリマーおよび硬化剤とともに混合して使用されてもよいし、水系ウレタン樹脂の分散液と混合して使用されてもよい。あるいは、第1の樹脂層11を形成後に架橋剤の溶液を湿紙担持表面111上に塗布して反応させることにより使用されてもよい。
【0059】
また、第1の樹脂層11を構成する樹脂113に、酸化チタン、カオリン、クレー、タルク、珪藻土、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、シリカ、マイカなどの、無機充填剤を1種または2種以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0060】
なお、第1の樹脂層11中における樹脂材料および無機充填剤の組成および種類は、第1の樹脂層11中の部位ごとに異なるものであってもよいし、同一であってもよい。
また、第1の樹脂層11は、水を透過しない性質を有することが好ましい。すなわち、第1の樹脂層11は、水不透過性であることが好ましい。
【0061】
補強繊維基材層13は、補強繊維基材131と、樹脂133とによって構成されている。樹脂133は、補強繊維基材131中の繊維の間隙を埋めるように補強繊維基材層13中に存在している。すなわち、樹脂133の一部は、補強繊維基材131に含浸しており、一方で、補強繊維基材131は、樹脂133中に埋設されている。
【0062】
補強繊維基材131としては、特に限定されないが、例えば、経糸と緯糸とを織機等により製織した織物が一般的に使用される。また、製織せずに、経糸列と緯糸列の重ね合わせによる格子状素材を使用することもできる。
補強繊維基材131を構成する繊維の繊度は、特に限定されないが、例えば、300~10000dtex、好ましくは、500~6000dtexとすることができる。
また、補強繊維基材131を構成する繊維の繊度は、その繊維を用いる部位によって異なっていてもよい。例えば、補強繊維基材131の経糸と緯糸とでそれらの繊度が異なっていてもよい。
【0063】
補強繊維基材131の素材としては、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、脂肪族ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612等)、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、羊毛、綿、金属等を1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
樹脂133の材料としては、特に限定されず、例えば上述した第1の樹脂層11の樹脂113に用いることのできる各種樹脂を1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。樹脂133は、第1の樹脂層11を構成する樹脂113と、種類および組成について、同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0065】
なお、補強繊維基材層13中における樹脂133の組成および種類は、補強繊維基材層13中の部位ごとに異なるものであってもよいし、同一であってもよい。
【0066】
第2の樹脂層(ロール面側樹脂層)15は、補強繊維基材層13の一方の主面に設けられた、主として樹脂153で構成される層である。
第2の樹脂層15は、補強繊維基材層13に接合する主面とは反対側の主面において、後述するロールと接触するためのロール接触表面151を構成している。湿紙搬送ベルト1は、使用時において、ロール接触表面151がロールと接触することにより、ロールより湿紙の搬送のための動力を得ることができる。
【0067】
第2の樹脂層15を構成する樹脂153としては、上述したような第1の樹脂層11に用いることのできる樹脂材料を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。第2の樹脂層15を構成する樹脂153は、第1の樹脂層11を構成する樹脂113または補強繊維基材層13を構成する樹脂133と、種類および組成について、同一であっても異なるものであってもよい。
【0068】
特に、第2の樹脂層15を構成する樹脂153としては、機械特性、耐摩耗性、柔軟性の観点から、ウレタン樹脂が好ましい。
また、第2の樹脂層15は、第1の樹脂層11と同様に無機充填剤を1種または2種以上含むものであってもよい。
なお、第2の樹脂層15中における樹脂材料および無機充填剤の組成および種類は、第2の樹脂層15中の部位ごとに異なるものであってもよいし、同一であってもよい。
【0069】
上述したような湿紙搬送ベルト1の寸法は、特に限定されず、その用途に合わせて適宜設定することができる。
例えば、湿紙搬送ベルト1の巾は、特に限定されないが、700~13500mm、好ましくは、2500~12500mmとすることができる。
また例えば、湿紙搬送ベルト1の長さ(周長)は、特に限定されないが、4~35m、好ましくは、10~30mとすることができる。
【0070】
また、湿紙搬送ベルト1の厚さは、特に限定されないが、例えば、1.5~7.0mm、好ましくは、2.0~6.0mmとすることができる。
また、湿紙搬送ベルト1は、部位ごとにそれぞれ厚さが異なっていてもよいし、同一であってもよい。
【0071】
以上のような湿紙搬送ベルト1は、例えば、後述する本実施形態に係る湿紙搬送ベルトの製造方法により製造可能である。
【0072】
以上、本実施形態に係る湿紙搬送ベルト1は、湿潤状態における湿紙担持表面111の粗さ保持率を40%以上とすることにより、湿紙搬送ベルト1の湿紙密着性および湿紙剥離性の変化を抑制することができ、長期にわたり安定して湿紙の受け渡しが可能となる。すなわち、湿紙搬送ベルト1は、使用時における湿紙担持表面111の性質の変化が抑制されている。
【0073】
上述した湿紙搬送ベルト1の変形例として、補強繊維基材131の湿紙担持側および/またはロール側にバット繊維をニードリングし、このバット繊維に上述した樹脂材料が含浸した層を有する態様が挙げられる。なお、バット繊維の素材としては、補強繊維基材131に用いることのできる素材を1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0074】
<2.製紙用ベルトの製造方法>
次に、上述した本発明の製紙用ベルトの製造方法の好適な実施形態の一例について説明する。
図2~5は、本発明の製紙用ベルトの製造方法の好適な実施形態の一例を示す概略図である。
【0075】
本発明の製紙用ベルトの製造方法は、少なくとも一層の樹脂層を形成する工程を有し、
前記工程において、形成する前記樹脂層の少なくとも表面付近の樹脂をポリカルボジイミドにより架橋する。以下、製紙用ベルトの一例として、上述した湿紙搬送ベルト1を例に説明する。したがって、本実施形態の湿紙搬送ベルト1の製造方法は、第2の樹脂層(ロール側樹脂層)15を最内層とし、第1の樹脂層(湿紙担持側樹脂層)11を最外層として有する環状の積層体1’を形成する工程(積層工程)を有し、積層工程において第1の樹脂層11の少なくとも湿紙担持表面111付近の樹脂113をポリカルボジイミドにより架橋する。
【0076】
この積層工程においては、第2の樹脂層15を最内層とし、第1の樹脂層の前駆体11’を最外層として有する環状かつ帯状の積層体1’を形成する。積層体1’の形成はいかなる方法であってもよいが、本実施態様においては、まず、第2の樹脂層15の樹脂材料が補強繊維基材131を貫通するように補強繊維基材131に対して樹脂材料を塗布することにより、補強繊維基材層13を形成し、さらに同時に補強繊維基材層13の内側に第2の樹脂層15を形成する。次に形成された補強繊維基材層13の外表面に、湿紙担持側樹脂層11の樹脂材料を塗布することにより、湿紙担持側樹脂層の前駆体11’を形成する。
【0077】
具体的には、
図2に示すように、環状かつ帯状の補強繊維基材131を、2本の平行に配置されたロール21に接触するように掛け入れる。
次に、
図3に示すように、補強繊維基材131の外表面に第2の樹脂層15の樹脂材料を付与する。樹脂材料の付与はいかなる方法で行うものであってもよいが、本実施態様においては、補強繊維基材131をロール21により回転させつつ樹脂吐出口25から樹脂材料を吐出して、補強繊維基材131に樹脂材料を付与することにより行う。また、同時に付与された樹脂材料をコーターバー23を用いて補強繊維基材131に均一に塗布する。この際に塗布された樹脂材料は、補強繊維基材131を貫通することができる。したがって、本実施態様においては、補強繊維基材131に含まれる樹脂133のみならず、第2の樹脂層15を構成する樹脂153を形成することが可能で、補強繊維基材層13と第2の樹脂層15を同時に形成することが可能である。
【0078】
次に、
図4に示すように、形成された補強繊維基材層13の外表面に、第1の樹脂層11の樹脂材料を付与する。樹脂材料の付与はいかなる方法で行うものであってもよいが、本実施態様においては、形成された補強繊維基材層13と第2の樹脂層15をロール21により回転させつつ樹脂吐出口25から樹脂材料を吐出して、補強繊維基材層13の外表面に樹脂材料を付与することにより行う。また、同時に付与された樹脂材料をコーターバー23を用いて均一に塗布する。なお、各層を構成する樹脂材料は、上述した無機充填剤との混合物として付与されるものであってもよい。
【0079】
なお、上述したように、本実施形態においては、本工程において第1の樹脂層11の少なくとも湿紙担持表面111付近の樹脂113をポリカルボジイミドにより架橋する。樹脂113のポリカルボジイミドによる架橋は、例えば、第1の樹脂層11を形成するための樹脂材料(樹脂組成物)にポリカルボジイミドを含む架橋剤を含め、後述する乾燥とともに架橋を行うことが簡便かつ確実であり好ましい。例えば、第1の樹脂層11を形成するための樹脂組成物が水系ウレタン樹脂を含む場合、水系ウレタン樹脂の水分散液中に架橋剤を混合する。そして、
図4に示すように、補強繊維基材層13の外表面に、第1の樹脂層11の樹脂材料を付与する。
【0080】
あるいは、形成後の第1の樹脂層の前駆体11’上に架橋剤を付与し、後述する乾燥により架橋させてもよい。例えば、第1の樹脂層11を構成するための樹脂材料に架橋剤を混合することが難しい場合には、本方法を採用することができる。
【0081】
次に、塗布した樹脂材料を乾燥・架橋させる。これにより、第1の樹脂層の前駆体11’と、補強繊維基材層13と、第2の樹脂層15とが、外表面からこの順で積層した積層体1’を得る。樹脂材料の乾燥・架橋方法は、特に限定されないが、例えば、加熱、紫外線照射等により行うことができる。
【0082】
また、加熱により樹脂材料を乾燥・架橋する場合、例えば、遠赤外線ヒーター、熱風等の方法を用いることができる。
また、加熱により樹脂材料を乾燥・架橋する場合、樹脂材料の加熱温度は、60~150℃であることが好ましく、90~140℃であることがより好ましい。また、加熱時間は、例えば、0.5~30時間、好ましくは1~25時間とすることができる。
【0083】
次に、湿紙担持側樹脂層の前駆体11’の外表面の表面粗さを調整して湿紙担持表面111を有する湿紙担持側樹脂層11を形成する(粗さ調整工程)。これにより、湿紙担持表面111が形成された、製紙用ベルトとしての湿紙搬送ベルト1を得る。
【0084】
外表面の表面粗さは、例えば、研磨加工および/またはバフ加工を行うことにより調整できる。具体的には、
図3に示すように、2本のロール21に掛け入れられた状態の積層体1’に対し、研磨装置27またはバフ加工装置(図示せず)を当接することにより行う。これにより、湿紙担持表面111の算術平均粗さを所望のものとすることができる。
なお、研磨加工またはバフ加工前に湿紙搬送ベルト1の湿紙担持表面111が所望の状態となっている際には、研磨加工および/またはバフ加工は省略可能である。
【0085】
なお、上記製紙用ベルトの製造方法では、補強繊維基材131の外表面からロール側樹脂材料を貫通させて、内表面に第2の樹脂層15を形成した(貫通製法)。しかしながら補強繊維基材131の外表面に第2の樹脂層15を構成する樹脂材料を付与し、補強繊維基材層13と外表面に積層された第2の樹脂層15を形成した後、これを表裏反転して、補強繊維基材層13の外表面(表裏反転前は内表面)に第1の樹脂層11の樹脂材料を塗布することにより、第1の樹脂層の前駆体11’を形成することもできる(反転製法)。
【0086】
更に、上記の製紙用ベルトの製造方法の変形態様としては、上記の補強繊維基材131に代えて、補強繊維基材の湿紙担持側および/またはロール側にバット繊維をニードリングさせた補強繊維基材を用いる態様がある。これにより、上述したバット繊維層に樹脂材料が含浸した第1の樹脂層および/または第2の樹脂層を有する湿紙搬送ベルト(製紙用ベルト)を得ることができる。
【0087】
<3.抄紙機>
次に、本発明の製紙用ベルトが適用された抄紙機の一例について説明する。
図6は、本発明に係る製紙用ベルトが適用される抄紙機の一例を説明するための概略図である。
図6に示す抄紙機は、ワイヤーパート30と、プレスパート40と、ドライヤーパート50とを備えている。そして、図において、破線で示される湿紙Wは、ワイヤーパート30からプレスパート40そしてドライヤーパート50の順に搬送され、搬送される過程で脱水、搾水、乾燥されて紙となる。また、以下の抄紙機は、いわゆるクローズドロー抄紙機である。したがって、プレスパート40の湿紙Wの受け渡しにおいては、プレスフェルト41、42、43、湿紙搬送ベルト1のいずれかに担持されて、湿紙Wが単独で走行する箇所が存在しない。
【0088】
ワイヤーパート30は、パルプスラリーをワイヤー31上に保持するとともに脱水を行い、シート状の湿紙Wを形成する。ワイヤーパート30は、公知の構成であり、その主要部分の説明を省略する。ワイヤーパート30で脱水された湿紙Wは、ガイドロール33により支持されたワイヤー31により、搬送されてプレスパート40のプレスフェルト41に受け渡される。
【0089】
プレスパート40は、ロールプレスセクション40Aとシュープレスセクション40Bとにより構成される。ロールプレスセクション40Aは、主に、プレスフェルト41、42と、プレスロール44A、44Bと、サクションロール45A、45Bと、ガイドロール48とを含んで構成されている。
【0090】
プレスフェルト41、42は、湿紙Wを担持して搬送する無端状の帯状体である。プレスフェルト41、42は、プレスロール44A、44Bの間を通過するように配置され、複数のガイドロール48およびサクションロール45A、45Bに支持される。サクションロール45Aは、湿紙Wの搬送方向(流れ方向)手前側に支持するプレスフェルト41がワイヤー31と当接するように配置されている。サクションロール45Aにより湿紙Wが吸引されることにより、ワイヤー31からプレスフェルト41へ湿紙Wが受け渡される。
【0091】
プレスロール44A、44Bは、ロールプレス機構44を構成し、プレスフェルト41、42とともに湿紙Wをプレスし、湿紙Wの搾水を行う。サクションロール45Bは、湿紙Wの搬送方向(流れ方向)奥側において、プレスフェルト42を支持するように配置され、プレスフェルト41、42に担持された湿紙Wを吸引して、プレスフェルト41から剥離するとともにプレスフェルト42のみに担持させる。
【0092】
シュープレスセクション40Bは、主に、湿紙搬送ベルト1と、プレスフェルト43と、シュープレス機構46と、サクションロール47と、ガイドロール48とを含んで構成されている。湿紙搬送ベルト1は、上述した通りである。プレスフェルト43は、湿紙Wを担持して搬送する無端状の帯状体である。湿紙搬送ベルト1およびプレスフェルト43は、シュープレス機構46を通過するように配置され、複数のガイドロール48およびサクションロール47に支持される。
【0093】
サクションロール47は、湿紙Wの搬送方向(流れ方向)手前側において、支持するプレスフェルト43がプレスフェルト42と当接するように配置されている。そして、サクションロール47により湿紙Wが吸引されることにより、プレスフェルト42からプレスフェルト43へ湿紙Wが受け渡される。
【0094】
シュープレス機構46は、プレスロール46Aと、シュー46Bと、シュープレスベルト46Cとを有している。シュー46Bは、プレスロール46Aの形状に対応した凹部を有し、シュープレスベルト46Cを介してプレスロール46Aとともに、湿紙搬送ベルト1およびプレスフェルト43に担持された湿紙Wを圧搾する。ここで、プレスフェルト43に担持されてシュープレス機構46に搬入された湿紙Wは、シュープレス機構46の通過後に湿紙搬送ベルト1に担持されるように構成されている。
【0095】
ドライヤーパート50においては、湿紙Wが乾燥される。ドライヤーパート50は、公知の構成であり、その主要部分の説明を省略する。ドライヤーパート50のドライヤーファブリック53は、サクションロール51に支持されて湿紙搬送ベルト1に当接する。そして、サクションロール51により湿紙Wが吸引されることにより、湿紙搬送ベルト1からドライヤーファブリック53へ湿紙Wが受け渡される。
【0096】
ここで、上記の抄紙機における湿紙Wの走行状況を説明する。なお、当然ではあるが湿紙Wは連続する構成であるため、湿紙Wにおける一部分の移動状況について説明する。
まず、湿紙Wは、ワイヤーパート30のワイヤー31、プレスパート40のプレスフェルト41、ロールプレス機構44を順次通過し、プレスフェルト42からプレスフェルト43へ受け渡される。そして、プレスフェルト43により、シュープレス機構46に搬送される。シュープレス機構46において、湿紙Wは、プレスフェルト43と湿紙搬送ベルト1とにより挟持された状態で、シュープレスベルト46Cを介したシュー46Bと、プレスロール46Aとにより加圧される。
【0097】
この際、プレスフェルト43は透水性が高く、湿紙搬送ベルト1は透水性が非常に低く構成されている。よって、シュープレス機構46において、湿紙Wからの水分は、プレスフェルト43に移行する。
シュープレス機構46を脱した直後においては、急激に圧力から解放されるため、プレスフェルト43、湿紙W、湿紙搬送ベルト1の体積が膨張する。この膨張と、湿紙Wを構成するパルプ繊維の毛細管現象とにより、プレスフェルト43内の一部の水分が、湿紙WWへと移行してしまう、いわゆる、再湿現象が生じる。
【0098】
しかし、前述のように、湿紙搬送ベルト1は、透水性が非常に低く構成されているので、その内部に水分を保持することはない。よって、湿紙搬送ベルト1から再湿現象はほとんど発生せず、湿紙搬送ベルト1は、湿紙の搾水効率向上に寄与する。なお、シュープレス機構46を脱した湿紙Wは、湿紙搬送ベルト1により搬送される。そして、湿紙Wは、サクションロール51により吸着され、ドライヤーファブリック53によりドライヤーパート50へと搬送される。
【0099】
ここで、湿紙搬送ベルト1は、湿紙担持側樹脂層の湿紙担持表面(外周面)において、シュープレス機構46を脱した後に、湿紙Wを貼り付けた状態で搬送する機能(湿紙密着性)と、次パートへ湿紙Wを受け渡す際に、湿紙をスムースに離脱する機能(湿紙剥離性)とが要求される。このように、湿紙搬送ベルト1には相反する機能が要求されており、湿紙搬送ベルト1の湿紙担持表面111の湿紙Wに対する密着性を厳密に制御する必要がある。
【0100】
一方で、湿紙搬送ベルト1は、長期にわたる連続走行において摩擦やシュープレス機構46におけるプレス圧により劣化する。また、湿紙搬送ベルト1の湿紙担持表面111等の外表面には、サイズ剤や填料等、及びそれらの反応物等の湿紙Wに含まれる汚れ成分が付着、蓄積する。このように、湿紙搬送ベルト1は、長期にわたる連続走行においてその湿紙担持表面111の性質を維持することが容易ではない。しかしながら、本実施形態に係る湿紙搬送ベルト1は、湿紙担持表面111の粗さ保持率を所定以上とすることにより、性質の変化が抑制されており、湿紙密着性および湿紙剥離性の変化が抑制されている。
【0101】
以上、本発明について好適な実施態様に基づき詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することも出来る。
【0102】
また、上述した説明では、製紙用ベルトとして湿紙搬送ベルトを例に説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明の製紙用ベルトは、シュープレスベルトであってもよいし、他の製紙用ベルトであってもよい。
また、上述した説明では、湿紙搬送ベルト1の湿紙担持表面111は、ポリカルボジイミドにより架橋されているものとして説明したが、本発明の製紙用ベルトはこれに限定されず、所定の粗さ保持率を有する限りポリカルボジイミドにより架橋されていなくてもよい。
【実施例0103】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0104】
1.湿紙搬送ベルトの製造
まず、以下の構成により、実施例1~6、比較例1~2の湿紙搬送ベルトを製造した。
<補強繊維基材>
実施例1~6、比較例1、2の湿紙搬送ベルトの補強繊維基材は以下のものを使用した。
上経糸:ポリアミド6からなる2000dtexのツイストモノフィラメント
下経糸:ポリアミド6からなる2000dtexのツイストモノフィラメント
緯糸:ポリアミド6からなる1400dtexのツイストモノフィラメント
組織:上・下経糸40本/5cm、緯糸40本/5cm、経2重組織
【0105】
<積層体の形成>
繊維補強基材を2本のロールに掛け入れ、次いで、各ロール側樹脂層を構成する樹脂材料を、各補強繊維基材の外表面に付与し、含浸、積層させ、補強繊維基材層とロール側樹脂層を形成した。次に、形成された各補強繊維基材層の外表面に、各湿紙担持側樹脂層の樹脂材料を付与し、湿紙担持側樹脂層を積層させた。この最外層から順に、湿紙担持側樹脂層、補強繊維基材層、ロール側樹脂層となる積層体を加熱・乾燥させ湿紙搬送ベルトの半製品を得た。
【0106】
なお、実施例1~6、比較例1、2の各層を構成するための樹脂材料としては、表1、2に示すものをそれぞれ使用した。
表中、「PU1」は、ポリウレタン水分散液(「ETERNACOLL(登録商標) UW-1005D-C1」、宇部興産株式会社製)、「PU2」は、ポリウレタン水分散液(「ETERNACOLL(登録商標) UW-1005E」、宇部興産株式会社製)、「PU3」は、ポリウレタン水分散液(「ETERNACOLL UW-1005A」、宇部興産株式会社製)、「PU4」は、ポリウレタン水分散液(「Bayhydrol(登録商標) 124」、COVESTRO製)を示す。いずれも、脂肪族ポリイソシアネート化合物、ポリイソシアネートジオールを用いて製造されたウレタン樹脂である。また、表中、「CI1」は、ポリカルボジイミド水溶液(「カルボジライトV-02-L2」、日清紡ケミカル株式会社製)、「CI2」は、ポリカルボジイミド水溶液(「カルボジライトSV-02」、日清紡ケミカル株式会社製)、「MF」は、メラミンホルムアルデヒド樹脂(「Resimene(登録商標) 747」、INEOS Melamines LLC製)を示す。
【0107】
また、表中の各材料の含有量は、対象とする化合物のみの固形分を記載した。例えば、ポリウレタン水分散液の場合、当該水分散液中の水や添加物の量は考慮せず、ポリウレタン樹脂の固形分量を記載した。樹脂材料の残部は、基本的には水であるが、同残部にはレベリング剤、消泡剤、PH調整剤、増粘剤や、各材料由来の有機溶媒が含まれている。
【0108】
<研磨加工、バフ加工>
実施例1~6、比較例1、2の湿紙搬送ベルト(半製品)の湿紙担持表面について、#80~#600の研磨布紙を研磨装置に適宜セットし研磨した。また、湿紙接触表面の表面粗さを調整するために適宜バフ加工を施し、各例の湿紙搬送ベルトの湿紙担持表面の算術平均粗さを0.3~20μmとした。こうして湿紙搬送ベルトを完成させた。
なお、製作寸法は、丈20.5m、巾900mmとした。
【0109】
2.湿紙搬送ベルトの評価
2.1. 粗さ保持率、表面粗さ
実施例1~6、比較例1、2の湿紙搬送ベルトの湿紙担持表面について粗さ保持率を測定した。粗さ保持率の評価は、以下のようにして行った。
まず、後述する当接処理前の湿紙搬送ベルトの湿紙担持表面の表面粗さ(算術平均粗さ)を測定した。当接処理前の湿紙搬送ベルトの湿紙担持表面の表面粗さは、湿潤状態で測定した。具体的にはまず、70℃の恒温水槽に湿紙搬送ベルトのサンプル(直径80mmの円板状)を20時間浸漬した。次いで、湿潤状態の湿紙担持表面の表面粗さを以下の条件で測定した。なお、湿潤状態の湿紙担持表面の表面粗さは、任意の5点について表面粗さを測定し、これを平均したものとした。
【0110】
試験機:SURFCOM 480A(株式会社東京精密製)
測定条件:走査速度 0.6m/秒
試長 8.0mm
カットオフ値 2.5mm
【0111】
次いで、湿紙搬送ベルトのサンプルについて、当接処理を行った。当接処理は、
図7に示す装置を用いて行った。
図7に示すように、プレス盤61、62の間にステンレス製のバット63を配置し、金属バット63中に70℃±5の温水66を満たして温度を保った。次いで、湿紙搬送ベルト1のサンプルを湿紙担持表面111が金属容器63の底面に当接するように配置し、上からステンレス板64および8枚の新聞紙65を介してプレス盤61によりプレス処理を行った。プレス条件は、以下のとおりである。
【0112】
プレス圧力: 100±3Kg/cm2
プレス時間: 20時間
プレス温度: 70±5℃
金属容器63底面の表面粗さ: 0.05μm
【0113】
次いで、当接処理後の湿紙搬送ベルトの湿紙担持表面の表面粗さを、当接処理前のサンプルと同様に測定した。結果を表1、2に示す。
【0114】
2.2. 湿紙搬送性評価
実施例1、比較例2の湿紙搬送ベルトについて、長時間運転を行い、湿紙搬送性の変化について評価した。
図8に示す湿紙搬送用ベルトの評価装置を用いて、以下の条件で、湿紙Wをプレスニップ12を通過させ、湿紙搬送ベルトについての湿紙Wの密着性および剥離性について、評価した。なお、
図8に示す評価装置は、シュープレスセクション40B’を備えたプレスパート40’およびドライヤーパート50’を備えている。また、プレスパート40’は、
図6に示すプレスパート40から、ロールプレスセクション40Aを省略した構成とほぼ同様である。また、プレス条件、プレスフェルト43の構成および湿紙の構成については、以下の通りとした。また、湿紙搬送ベルト1’’は、実施例1または比較例2に係る湿紙搬送ベルトである。
【0115】
<プレス条件>
抄速:1200m/min
プレス圧:1050kN/m
【0116】
<プレスフェルト43の構成>
プレスフェルト43については、基布の両面にバット繊維をニードリングして、中層バット繊維層(外周側)および裏層バット繊維層(内周側)を形成し、さらに、中層バット繊維層の外周側にバット繊維をニードリングして表層バット繊維層を形成したものを用いた。なお、基布の構成および各バット繊維層の形成条件は、以下のとおりである。また、プレスフェルト43としては、3種類の表層バット繊維の繊度が異なるフェルトを用意した。各プレスフェルトの表層バット繊維の繊度は、3.3dtex、6.6dtexまたは11dtexである。
【0117】
(基布:ラミネート基布)
上布基布
経糸:ナイロン6からなる1400dtexのモノフィラメント
緯糸:ナイロン6からなる500dtexのモノフィラメント
組織:経糸50本/5cm、緯糸40本/5cm、1/1平組織
【0118】
下布基布
経糸:ナイロン6からなる2000dtexのツイストモノフィラメント
緯糸:ナイロン6からなる1400dtexのツイストモノフィラメント
組織:経糸40本/5cm、緯糸40本/5cm、3/1崩し組織
【0119】
(基布にニードリングしたバット繊維)
表層バット繊維:ナイロン6からなるバット繊維200g/m2
中層バット繊維:ナイロン6なる20dtexのバット繊維300g/m2
裏層バット繊維:ナイロン6なる20dtexのバット繊維100g/m2
【0120】
なお、評価時においては、シャワーおよびサクションボックス(いずれも図示せず)を用いて、フェルト43の水分量を以下のように設定した。
フェルト水分:フェルト水分重量/(フェルト水分重量+フェルト目付)=30%調整
【0121】
<湿紙(手抄きシート)>
パルプ:LBKP100% csf450mL
坪量:60g/m2
プレス前湿紙水分:プレス前湿紙水分重量/(プレス前湿紙水分重量+湿紙絶乾重量)=60%調整(ろ紙を挟んで水分調整実施)
湿紙サイズ:タテ200mm×ヨコ200mm
【0122】
<密着性判定>
以上の条件の下、湿紙搬送ベルト1’’の密着性の評価は、湿紙Wがシュープレス機構46のプレスニップを通過した際に、湿紙搬送ベルト1’’に湿紙Wが密着しているか否かで判断した。なお、湿紙搬送ベルト1’’の密着性の評価に際し、表層バット繊維の繊度が異なるプレスフェルト43を用い、以下の基準で評価を行った。また、湿紙搬送ベルト1’’の密着性の評価は、湿紙搬送ベルト1’’の掛け入れ直後と、水を補給しつつ7日間評価装置を運転した後とに行った。
【0123】
<剥離性判定>
湿紙搬送ベルト1’’の剥離性の評価は、湿紙搬送ベルト1’’に担持された湿紙Wがドライヤーファブリック53へ移行するか否かで判断した。なお、評価に際し、サクションロール51の真空度を-20kPa、-30kPa、-40kPaと変えて、それぞれの真空度において湿紙Wのドライヤーファブリック53への移行の有無を確認し、以下の基準で評価を行った。また、湿紙搬送ベルト1’’の剥離性の評価は、湿紙搬送ベルト1’’の掛け入れ直後と、水を補給しつつ7日間評価装置を運転した後とに行った。
【0124】
<評価>
A:プレスフェルト43の表層バット繊維の繊度がいずれの繊度の場合であっても、湿紙Wが湿紙搬送ベルト1’に密着した。また、サクションロール51の真空度がいずれの場合であっても、湿紙Wがドライヤーファブリック53に移行した。
B:プレスフェルト43の表層バット繊維の繊度が6.6dtex、11dtexの場合、湿紙Wが湿紙搬送ベルト1’’に密着し、一方で表層バット繊維の繊度が3.3dtexの場合、湿紙Wが湿紙搬送ベルト1’’に密着しなかった。また、サクションロール51の真空度が-30kPa、-40kPaの場合、湿紙Wがドライヤーファブリック53に移行し、一方でサクションロール51の真空度が-20kPaの場合、湿紙Wがドライヤーファブリック53に移行しなかった。
C:プレスフェルト43の表層バット繊維の繊度が11dtexの場合、湿紙Wが湿紙搬送ベルト1’に密着し、一方で表層バット繊維の繊度が3.3dtex、6.6dtexの場合、湿紙Wが湿紙搬送ベルト1’’に密着しなかった。また、サクションロール51の真空度が-40kPaの場合、湿紙Wがドライヤーファブリック53に移行し、一方でサクションロール51の真空度が-20kPa、-30kPaの場合、湿紙Wがドライヤーファブリック53に移行しなかった。
D:プレスフェルト43の表層バット繊維の繊度がいずれの繊度の場合であっても、湿紙Wが湿紙搬送ベルト1’’に密着しなかった。
【0125】
なお、上記評価のうちA~Bであれば、湿紙搬送性が良好であるといえる。そして、7日運転後の評価において、上記評価の低下が少ないほど湿紙搬送性低下が小さいといえ、A~Bであれば、長期使用での湿紙搬送ベルト1’’についての湿紙搬送性は安定しているといえる。
【0126】
【0127】
【0128】
表1に示すように、実施例1~6に係る湿紙搬送ベルトは、湿紙担持表面の粗さ保持率が40%以上であり、湿紙担持表面の性状の変化が抑制され、長期にわたって安定して使用できることがわかる。これに対し、架橋剤を用いなかった比較例1に係る湿紙搬送ベルトおよび架橋剤としてメラミンホルムアルデヒド樹脂を用いた比較例2に係る湿紙搬送ベルトでは、湿紙担持表面の粗さ保持率が40%未満であり、湿紙担持表面の性状の変化が抑制されておらず、長期にわたっては安定して使用できないことがわかる。
【0129】
現に実施例1、比較例2の湿紙搬送ベルトについて湿紙搬送性を評価したところ、実施例1に係る湿紙搬送ベルトは、7日間連続運転を行った後でも湿紙搬送性が低下せず、良好であった。これに対し、比較例2に係る湿紙搬送ベルトは、7日間連続運転を行った後でも湿紙搬送性が低下し、長期にわたって使用することが困難であった。