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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169424
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】水性分散体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 255/02 20060101AFI20221101BHJP
   C08F 255/04 20060101ALI20221101BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20221101BHJP
   C08F 8/46 20060101ALI20221101BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20221101BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20221101BHJP
   C09D 123/10 20060101ALI20221101BHJP
   C09D 125/08 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C08F255/02
C08F255/04
C08F2/44 C
C08F8/46
C08L51/06
C09D5/02
C09D123/10
C09D125/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180707
(22)【出願日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2021074527
(32)【優先日】2021-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 秀人
(72)【発明者】
【氏名】森本 亮平
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J026
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BN031
4J002GH01
4J002HA07
4J011AA05
4J011BA04
4J011PA64
4J011PC02
4J011PC06
4J026AA12
4J026AA13
4J026AA54
4J026AC01
4J026AC15
4J026BA05
4J026BA07
4J026BA30
4J026BB01
4J026BB03
4J026CA04
4J026CA07
4J026DA02
4J026DA15
4J026DB04
4J026DB08
4J026DB12
4J026DB23
4J026DB24
4J026DB32
4J026GA10
4J038CB032
4J038CB091
4J038CB101
4J038CB112
4J038CC021
4J038CG022
4J038CG082
4J038MA10
4J038NA12
4J038PC08
4J100AA02Q
4J100AA03P
4J100CA04
4J100CA31
4J100HA57
4J100HC30
4J100HE17
4J100JA01
(57)【要約】
【課題】ポリプロピレン基材に対する密着性に優れ、強度にも優れる塗膜が得られ、また、粘度の経時変化の小さい、複合粒子の水性分散体を提供する。
【解決手段】オレフィン樹脂とビニル系樹脂とからなる複合粒子が水性媒体中に分散されてなる水性分散体であって、オレフィン樹脂が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、オレフィン成分が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)とを含有し、質量比(A/B)が60/40~99.5/0.5であり、不飽和カルボン酸成分の含有量が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)の合計100質量部に対して、0.1~10.0質量部であり、粒子径の変動係数(CV値)が5%以上であることを特徴とする水性分散体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン樹脂とビニル系樹脂とからなる複合粒子が水性媒体中に分散されてなる水性分散体であって、
オレフィン樹脂が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)とを含有し、質量比(A/B)が60/40~99.5/0.5であり、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)の合計100質量部に対して、0.1~10.0質量部であり、
水性分散体を動的光散乱法により測定して得られる粒子径の変動係数(CV値)が5%以上であることを特徴とする水性分散体。
【請求項2】
プロピレン以外のオレフィン(B)がエチレンであることを特徴とする請求項1に記載の水性分散体。
【請求項3】
界面活性剤および/または分散安定剤を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1または2に記載の水性分散体。
【請求項4】
ビニル系樹脂が、活性水素と反応する官能基を有していないことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の水性分散体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の水性分散体から形成されたものであることを特徴とする塗膜。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の水性分散体から形成されたものであることを特徴とする粉体。
【請求項7】
請求項1に記載の水性分散体を製造するための方法であって、以下の工程(I)(IIa)を含むことを特徴とする製造方法。
(I)オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)とを含有し、質量比(A/B)が60/40~99.5/0.5であり、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)の合計100質量部に対して、0.1~10.0質量部であるオレフィン樹脂を、
塩基性化合物および水性媒体と混合して、0.15MPa以上の加圧条件下で撹拌することにより、オレフィン樹脂を水性分散体化する工程。
(IIa)上記(I)で得られたオレフィン樹脂の水性分散体の存在下に、ビニル系単量体を分散重合して複合粒子の水性分散体を得る工程。
【請求項8】
請求項1に記載の水性分散体を製造するための方法であって、以下の工程(I)(IIb)を含むことを特徴とする製造方法。
(I)オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)とを含有し、質量比(A/B)が60/40~99.5/0.5であり、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)の合計100質量部に対して、0.1~10.0質量部であるオレフィン樹脂を、
塩基性化合物および水性媒体と混合して、0.15MPa以上の加圧条件下で撹拌することにより、オレフィン樹脂を水性分散体化する工程。
(IIb)上記(I)で得られたオレフィン樹脂の水性分散体の存在下に、ビニル系単量体を乳化重合して複合粒子の水性分散体を得る工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性分散体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン樹脂の水性分散体から得られる塗膜は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂基材に対する密着性に優れ、強靭性や耐薬品性に優れるものであるが、スチレン系樹脂やアクリル樹脂などからなる極性基材に対する密着性に乏しいという問題がある。
一方、スチレン系樹脂やアクリル系樹脂の水性分散体から得られる塗膜は、前記極性基材に対する密着力に優れるが、オレフィン系樹脂などからなる非極性基材に対する密着性に劣る。
したがって、オレフィン樹脂と、スチレン系樹脂またはアクリル系樹脂と、を複合あるいは混合して得られる塗膜は、互いの長所を両立させることが期待できる。そして、非極性基材への密着性の良さと、極性基材への密着性の良さを効率良く兼ね備えるには、これらの樹脂が、同一粒子に含有され、かつ、それぞれの樹脂が微小なドメインを構成していることが好ましいと推測される。
【0003】
特許文献1には、界面活性剤のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いて調製したアクリルモノマーエマルションを、オレフィン樹脂の水性分散体に加えて重合することにより作製された、オレフィン樹脂コアとアクリル系樹脂シェルから構成される複合粒子の水性分散体が開示されている。
特許文献2には、不飽和カルボン酸成分を含有する塩素化オレフィン樹脂の水性分散体に、界面活性剤と、水酸基を含有するアクリルモノマーとを添加して重合を開始することにより、オレフィン樹脂粒子上にアクリル系樹脂を生成させる手法が開示されている。
特許文献3には、ポリエーテル成分を含有するオレフィン系重合体中でラジカル重合体性単量体を重合してなる水性樹脂分散体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2019-532137号公報
【特許文献2】特開2002-308921号公報
【特許文献3】特開2018-199788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、複合粒子を構成するオレフィン樹脂が、エチレンを共重合成分として多く含有していることから、複合粒子の水性分散体から得られる塗膜は、ポリプロピレン基材に対する密着性が十分でないという問題があった。
また、特許文献2では、オレフィン樹脂粒子が、塩素含有率の大きいオレフィン樹脂からなることから、複合粒子の水性分散体は、粘度の経時変化が大きく、実用の観点から作業性の低下につながる懸念があった。
また、特許文献3では、オレフィン系重合体がポリエーテル成分を含有することから、得られる塗膜は、強度が十分でないという問題があった。
【0006】
本発明の課題は、これらの問題に鑑み、ポリプロピレン基材に対する密着性に優れ、また、スチレン系樹脂基材やアクリル系樹脂基材などの極性基材に対する密着性にも優れ、また強度にも優れる塗膜が得られ、また、粘度の経時変化の小さい、複合粒子の水性分散体を提供することであり、また、その複合粒子の水性分散体を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、次のとおりである。
【0008】
(1)オレフィン樹脂とビニル系樹脂とからなる複合粒子が水性媒体中に分散されてなる水性分散体であって、
オレフィン樹脂が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)とを含有し、質量比(A/B)が60/40~99.5/0.5であり、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)の合計100質量部に対して、0.1~10.0質量部であり、
水性分散体を動的光散乱法により測定して得られる粒子径の変動係数(CV値)が5%以上であることを特徴とする水性分散体。
(2)プロピレン以外のオレフィン(B)がエチレンであることを特徴とする(1)に記載の水性分散体。
(3)界面活性剤および/または分散安定剤を実質的に含有しないことを特徴とする(1)または(2)に記載の水性分散体。
(4)ビニル系樹脂が、活性水素と反応する官能基を有していないことを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の水性分散体。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の水性分散体から形成されたものであることを特徴とする塗膜。
(6)上記(1)~(4)のいずれかに記載の水性分散体から形成されたものであることを特徴とする粉体。
(7)上記(1)に記載の水性分散体を製造するための方法であって、以下の工程(I)(IIa)を含むことを特徴とする製造方法。
(I)オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)とを含有し、質量比(A/B)が60/40~99.5/0.5であり、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)の合計100質量部に対して、0.1~10.0質量部であるオレフィン樹脂を、
塩基性化合物および水性媒体と混合して、0.15MPa以上の加圧条件下で撹拌することにより、オレフィン樹脂を水性分散体化する工程。
(IIa)上記(I)で得られたオレフィン樹脂の水性分散体の存在下に、ビニル系単量体を分散重合して複合粒子の水性分散体を得る工程。
(8)上記(1)に記載の水性分散体を製造するための方法であって、以下の工程(I)(IIb)を含むことを特徴とする製造方法。
(I)オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)とを含有し、質量比(A/B)が60/40~99.5/0.5であり、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)の合計100質量部に対して、0.1~10.0質量部であるオレフィン樹脂を、
塩基性化合物および水性媒体と混合して、0.15MPa以上の加圧条件下で撹拌することにより、オレフィン樹脂を水性分散体化する工程。
(IIb)上記(I)で得られたオレフィン樹脂の水性分散体の存在下に、ビニル系単量体を乳化重合して複合粒子の水性分散体を得る工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性分散体によれば、室温近傍および高温条件においても粘度の経時変化が小さく、経時で凝集物の発生が抑制されており、ポリプロピレン基材への密着性や、スチレン系樹脂基材やアクリル系樹脂基材などの極性基材への密着性に優れ、また強度にも優れた塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例1の水性分散体の複合粒子の断面構造を示す図である。
図2】本発明の実施例4の水性分散体の複合粒子を示す図である。
図3】本発明の実施例5の水性分散体の複合粒子を示す図である。
図4】本発明の実施例1の水性分散体の複合粒子のDSCチャート(2nd Heating)を示す図である。
図5】本発明の実施例4の水性分散体の複合粒子のDSCチャート(2nd Heating)を示す図である。
図6】本発明の実施例5の水性分散体の複合粒子のDSCチャート(2nd Heating)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の水性分散体は、オレフィン樹脂とビニル系樹脂とからなる複合粒子が水性媒体に分散されたものである。
【0012】
<オレフィン樹脂>
本発明の水性分散体の複合粒子を構成するオレフィン樹脂は、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有するものである。
本発明において、オレフィン成分は、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)とを含有し、質量比(A/B)が60/40~99.5/0.5であることが必要である。オレフィン樹脂におけるプロピレン(A)の割合がこの範囲を下回ると、得られる塗膜は、ポリプロピレン基材に対する十分な密着性が得られにくくなり、上回ると、得られる水性分散体は、室温近傍および高温条件においても粘度の経時変化が大きく、また、経時で凝集物が発生することがあり、さらに、得られる塗膜は、ポリプロピレン基材への密着性に劣るという問題がある。
【0013】
プロピレン以外のオレフィン(B)としては、エチレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、ノルボルネン類等のアルケン類や、ブタジエンやイソプレン等のジエン類が挙げられる。中でも、樹脂製造のし易さ、水性分散化のし易さ、特に基材との密着性などの点から、エチレンが好ましい。
【0014】
本発明において、オレフィン樹脂は、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)の合計100質量部に対して、不飽和カルボン酸成分を0.1~10.0質量部含有することが必要である。オレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸成分の含有量がこの範囲を下回ると、水性分散化が困難となる。この範囲を上回ると、得られる水性分散体は、室温または高温条件下で保管した際の粘度変化が大きくなるので、作業性の観点から好ましくない。
【0015】
不飽和カルボン酸としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でも、後述する樹脂の水性分散化において、樹脂を安定的に分散するために、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸が特に好ましい。これらの不飽和カルボン酸は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に2種類以上含まれていてもよい。
【0016】
不飽和カルボン酸成分は、オレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されない。例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。なお、オレフィン樹脂に導入された酸無水物は、乾燥状態では酸無水物構造を取りやすく、後述する塩基性化合物を含有する水性媒体中では、その一部または全部が開環し、カルボン酸またはその塩となる傾向がある。
【0017】
不飽和カルボン酸成分を未変性オレフィン樹脂へ導入する方法は、特に限定されず、例えば、ラジカル発生剤存在下、未変性オレフィン樹脂と不飽和カルボン酸とを未変性オレフィン樹脂の融点以上に加熱溶融し、反応させる方法や、未変性オレフィン樹脂を有機溶剤に溶解した後、ラジカル発生剤の存在下で加熱、攪拌し反応させる方法等により、未変性オレフィン樹脂に不飽和カルボン酸をグラフト共重合することができる。特に操作が簡便である点から、前者の方法が好ましい。
グラフト共重合に使用するラジカル発生剤としては、例えば、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート、エチルエチルケトンパーオキサイド、ジ-tert-ブチルジパーフタレート等の過酸化物や2,2′-アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物が挙げられる。これらは、反応温度によって適宜、選択して使用すればよい。
【0018】
本発明におけるオレフィン樹脂は、重量平均分子量が、10,000以上、150,000未満であることが好ましく、15,000以上、100,000未満であることがより好ましく、20,000以上、60,000未満であることがさらに好ましい。オレフィン樹脂の重量平均分子量が10,000未満であると、得られる塗膜は、基材との密着性が低下する傾向がある。一方、重量平均分子量が150,000を超えると、得られる複合粒子の水性分散体は、分散安定性が低下し、凝集物が発生しやすくなる。
【0019】
本発明におけるオレフィン樹脂は、結晶性を有するものであることが好ましい。本発明において、結晶性を有するとは、DSC(示差走査熱量計)を用いて、JIS K 7121に準拠して測定した場合において、昇温時に結晶融点(以下、融点という)を有し、融解熱量が0.1J/g以上であることをいう。
【0020】
<ビニル系樹脂>
本発明において、ビニル系樹脂は、ビニル系単量体を重合することで得られる樹脂であり、オレフィン樹脂との複合粒子であることにより、得られる水性分散体は、非極性基材への密着性に優れた塗膜を形成することができ、また、高温条件下での分散安定性を向上させることができる。
【0021】
ビニル系単量体としては、公知のものを用いることができ、例えば、スチレン系単量体、(メタ)アクリル系単量体、ジエン系単量体などが挙げられる。
【0022】
スチレン系単量体としては、特に制限はないが、具体例としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0023】
(メタ)アクリル系単量体としては、特に制限はないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0024】
ジエン系単量体としては、特に制限はないが、例えば、ブタジエン、イソプレン、ファルネセン、ミルセン等が挙げられる。
【0025】
また、上記のビニル系単量体以外にも、N-メチロールアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等の窒素含有単量体、さらに、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有単量体、2-ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有単量体、2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート等のリン酸基含有単量体、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート等のフッ素含有単量体などを用いることもできる。
これらのビニル系単量体は、単独で、または2種類以上混合して用いることができる。
【0026】
本発明において、ビニル系樹脂は、活性水素と反応する官能基を有していないことが好ましい。活性水素とは、窒素、酸素、硫黄と結合していて、反応性の高い水素原子のことをいい、例えば、アミノ基には活性水素が2つ存在する。活性水素と反応する官能基として、具体的には、イソシアネート基、グリシジル基、アジリジン基、カルボジイミド基などが挙げられる。ビニル系樹脂がこれらの官能基のいずれか1種以上を含むと、複合粒子の水性分散体は、経時での粘度変化が大きいだけでなく、凝集物が生じやすい傾向がある。
【0027】
本発明において、ビニル系樹脂は、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項が0.5MPa1/2以上であることが好ましく、1.2MPa1/2以上であることがより好ましく、2MPa1/2以上であることがさらに好ましい。HSPの水素結合項が0.5MPa1/2未満である場合、オレフィン樹脂に含まれる不飽和カルボン酸とビニル樹脂との間に働く親水性相互作用が低下し、安定な複合粒子を形成しにくくなる。
【0028】
本発明において、ビニル樹脂のHSPの水素結合項は、例えば、ハンセンの溶解球を用いて算出することができる。HSPが既知である任意の溶媒を選択し、HSP座標の3次元空間にプロットしたとき、ビニル系樹脂を溶解する溶媒は似たところに集まり、その集まっている溶媒はハンセンの溶解球を構成する。そのハンセンの溶解球の中心点の座標から、ビニル系樹脂のHSPの水素結合項を知ることができる。
また、コンピュータソフトウェア(Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)ver.5.3.02を用い、DIYプログラムにおいて計算することもできる。
【0029】
<粒子径の変動係数(CV値)>
本発明の水性分散体は、動的光散乱法により測定して得られる粒子径の変動係数(CV値)が、5%以上であることが必要であり、6.5%以上であることが好ましく、8%以上であることがより好ましい。粒子径の変動係数(CV値)が5%未満である水性分散体を用いて形成された塗膜は、緻密性が損なわれ、強度が低下する傾向がある。
粒子径の変動係数(CV値)は、動的光散乱法により、水性分散体における粒子径分布の標準偏差、および数平均粒子径を測定し、以下の式によって算出することができる。
粒子径のCV値=(粒子径分布の標準偏差÷数平均粒子径)×100
【0030】
<水性分散体の製造方法>
本発明の水性分散体の製造方法は、オレフィン樹脂を水性分散化する工程(I)と、オレフィン樹脂の水性分散体の存在下に、ビニル系単量体を分散重合して複合粒子の水性分散体を得る工程(IIa)、または、ビニル系単量体を乳化重合して複合粒子の水性分散体を得る工程(IIb)とを含む。
【0031】
(工程(I))
工程(I)において、オレフィン樹脂として、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、オレフィン成分が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)とを含有し、質量比(A/B)が60/40~99.5/0.5であり、不飽和カルボン酸成分の含有量が、プロピレン(A)とプロピレン以外のオレフィン(B)の合計100質量部に対して、0.1~10.0質量部である樹脂を使用する。
【0032】
オレフィン樹脂の水性分散化は、上述のオレフィン樹脂を、塩基性化合物および水性媒体と混合して、0.15MPa以上の加圧条件下で撹拌して行われる。0.15MPa以上に加圧する方法は、特に限定されないが、例えば、密閉容器中で加熱する方法が挙げられる。
【0033】
オレフィン樹脂の水性分散化は、水性媒体として、水と有機溶剤の混合物を使用してもよく、有機溶剤の含有量は、水性媒体の50質量%以下であることが好ましく、1~45質量%であることがより好ましく、2~40質量%であることがさらに好ましく、3~35質量%であることが特に好ましい。有機溶剤の含有量が50質量%を超えると、使用する有機溶剤の種類によっては、オレフィン樹脂の分散安定性が低下することがある。
【0034】
オレフィン樹脂の水性分散化に使用する有機溶剤は、良好な水性分散体を得るという点から、20℃における水に対する溶解性が10g/L以上であることが好ましく、20g/L以上であることがより好ましく、50g/L以上であることがさらに好ましい。また、有機溶剤は、常圧時の沸点が250℃未満であることが好ましく、200℃未満であることがより好ましい。有機溶剤は、沸点が250℃を超えると、後述する脱溶剤工程において、除去が困難となることがある。
【0035】
有機溶剤の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、1,2-ジメチルグリセリン、1,3-ジメチルグリセリン、トリメチルグリセリン等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して用いられてもよい。
上記の有機溶剤の中でも、樹脂の水性分散化促進に効果が高いという点から、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルが好ましく、これらの中でも水酸基を分子内に1つ有する有機溶剤がより好ましく、少量の添加で樹脂を水性分散化できる点から、n-プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、エチレングリコールアルキルエーテル類がさらに好ましい。
【0036】
また、オレフィン樹脂の水性分散化に使用する塩基性化合物としては、アンモニア、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、イソブチルアミン、ジプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、n-ブチルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2,2-ジメトキシエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ピロール、ピリジン等が挙げられる。また、塩基性化合物として、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物も挙げられるが、後述するように、得られる塗膜は、金属元素に起因して、十分な絶縁性が得られない可能性がある。
【0037】
オレフィン樹脂の水性分散化を終えた後に、水性分散体中に含有される、有機溶剤の一部または全部を、必要に応じて、一般に「ストリッピング」と呼ばれる脱溶剤処理によって除去してもよい。脱溶剤処理は、加熱や減圧などの方法によって実施することができる。脱溶剤処理により、オレフィン樹脂の水性分散体中でビニル系単量体を重合する際、用いる媒体を所望の組成にすることが容易となる。
【0038】
(工程(II))
工程(II)においては、上記オレフィン樹脂の水性分散体の存在下、ビニル系単量体と重合開始剤を添加して、分散重合(工程(IIa))または乳化重合(工程(IIb))を行う。
【0039】
本発明において、分散重合とは、媒体にビニル系単量体を溶解させ、重合開始剤を添加して重合させる方法である。
オレフィン樹脂からなる粒子の存在下に、ビニル系単量体を分散重合して複合粒子の水性分散体を得る工程(IIa)においては、媒体として、オレフィン樹脂、および、重合により生成するビニル系樹脂を溶解せず、原料のビニル系単量体を溶解することのできるものを用いることが必要である。
分散重合に用いられる媒体としては、特に限定されないが、例えば、水、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノエチルエーテル、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピリジン等が挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
オレフィン樹脂からなる粒子の存在下に、ビニル系単量体の分散重合を行う場合、後述の界面活性剤および/または分散安定剤を用いることもできる。
【0041】
本発明において、乳化重合とは、媒体にビニル系単量体を混合し、重合開始剤を添加して重合させる方法である。
オレフィン樹脂からなる粒子の存在下に、ビニル系単量体を乳化重合して複合粒子の水性分散体を得る工程(IIb)においては、媒体として、原料のビニル系単量体を溶解し難いものを用いることが必要である。
乳化重合に用いられる媒体としては、一般的には水が用いられるが、他の媒体、または水と他の媒体との混合媒体を用いることもできる。水を除く媒体としては、特に限定されないが、例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノエチルエーテル、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピリジン等が挙げられる。
【0042】
オレフィン樹脂からなる粒子の存在下に、ビニル系単量体の乳化重合を行う場合、後述の界面活性剤および/または分散安定剤を用いることもできる。
【0043】
本発明において、ビニル系単量体を重合する目的で使用する重合開始剤は、特に限定されず、公知のアゾ系化合物や過酸化物が使用可能である。
例えば、アゾ系化合物としては、2,2′-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2′-アゾビス(2,3-ジメチルブチロニトリル)、2,2′-アゾビス-(2-メチルブチロニトリル)、2,2′-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2′-アゾビス(2,3,3-トリメチルブチロニトリル)、2,2′-アゾビス(2-イソプロピルブチロニトリル)、2,2′-アゾビス[N-(2-ヒドロキシエチル)-2-メチルプロパンアミド]、2,2′-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]四水和物、4,4′-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2′-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩等が挙げられる。
過酸化物としては、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、エチルエチルケトンパーオキサイド、ジ-tert-ブチルジパーフタレート、シクロヘキサノンパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、過酢酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0044】
ビニル系単量体の重合において、ビニル系単量体および重合開始剤を添加する方法は、特に限定されず、一括添加してもよく、複数回に分けて分割添加してもよく、滴下してもよい。
ビニル系単量体の重合雰囲気は、特に限定されないが、酸素による重合阻害を抑制する観点から、窒素等の不活性ガス雰囲気が好ましい。
ビニル系単量体の重合温度は、0~160℃が好ましく、5~120℃がより好ましい。重合温度が0℃を下回ると、重合速度が低下することがあり、生産性の観点から好ましくない。また、重合温度が160℃を超えると、得られるビニル系重合体は、分子量が小さくなる傾向があり、これに起因して、得られる塗膜は、基材との密着性が損なわれる可能性がある。
【0045】
本発明の水性分散体の製造方法において、界面活性剤および/または分散安定剤を用いることもできる。
界面活性剤および分散安定剤を用いる方法としては、水性分散体中に含ませる方法や、また、オレフィン樹脂および/またはビニル系樹脂と化学的に結合させる方法が挙げられる。界面活性剤と、オレフィン樹脂および/またはビニル系樹脂との結合の態様は、特に限定されないが、例えば、分子中にラジカル重合可能な不飽和結合をもつ、いわゆる反応性界面活性剤を、オレフィン樹脂および/またはビニル系樹脂に、ラジカル重合により共重合させた態様等が挙げられる。また、分散安定剤と、オレフィン樹脂および/またはビニル系樹脂との結合の態様も、特に限定されないが、例えば、分散安定剤を、オレフィン樹脂および/またはビニル系樹脂にグラフト共重合させた態様等が挙げられる。
しかし、形成される塗膜の強度、耐水性、および基材に対する密着性をより向上させるためには、界面活性剤および/または分散安定剤と、オレフィン樹脂および/またはビニル系樹脂との間に、化学的な結合が形成されているか否かに依らず、界面活性剤および分散安定剤を用いないで水性分散体を製造することが好ましい。
【0046】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルピリジニウムブロミド、イミダゾリニウムラウレートなどの四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0047】
分散安定剤としては、特に限定されるものではないが、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(ビニルピロリドン-酢酸ビニル)共重合体、ポリアクリル酸、デンプン、アラビアゴム、トラガントゴム、カゼイン、ゼラチン、デキストリン、カルボキシル化デンプン、カチオン化デンプン、デキストリン、エチルセルロース、カルボキシル化メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化セルロース等が挙げられる。
上述の分散安定剤のうち、特に、ポリエーテルは、オレフィン樹脂と化学的に結合していると、得られる塗膜の強度が低下する傾向がある。
【0048】
上記の界面活性剤および分散安定剤は単独で、または2種類以上混合して用いることができる。
【0049】
本発明において、界面活性剤および分散安定剤は、金属元素を含有しないことが好ましい。金属元素を含有する水性分散体を、電気・電子製品等の絶縁性が求められる用途に使用した際、得られる塗膜は、該金属元素に起因して、十分な絶縁性が得られない可能性がある。
上述の金属元素としては、具体的には、アニオン性界面活性剤中の金属成分、分散安定剤に含まれる重合開始剤由来の金属成分などが挙げられる。
【0050】
本発明の製造方法により、オレフィン樹脂とビニル系樹脂とからなる複合粒子が水性媒体中に分散されてなる水性分散体が得られるが、本発明の水性分散体は、オレフィン樹脂からなる単独粒子および/またはビニル樹脂からなる単独粒子を含有していてもよい。
上記水性分散体の製造方法において、オレフィン樹脂の水性分散体の存在下、ビニル系単量体の重合を行うと、オレフィン樹脂からなる粒子は、一部が、ビニル系樹脂との複合粒子を形成せずに残存する場合があり、得られる水性分散体は、オレフィン樹脂からなる単独粒子を含有することがある。また、ビニル系単量体は、重合を行っても、オレフィン樹脂からなる粒子との複合粒子を形成せずに、ビニル系樹脂からなる単独粒子を副生する場合があるので、得られる水性分散体は、ビニル系樹脂からなる単独粒子を含有することがある。
本発明の水性分散体は、目的に応じて、水性分散体を遠心分離に供することにより、上述の単独粒子のみを回収して、除去してもよい。
【0051】
<複合粒子の成分の単離>
本発明において、目的に応じて、オレフィン樹脂とビニル系樹脂とからなる複合粒子から、一方の樹脂のみを単離することができる。単離の方法は、特に限定されないが、水性分散体の乾燥物から有機溶媒を用いて一方の樹脂のみを抽出する方法が挙げられる。ビニル樹脂を抽出する場合、ジメチルホルムアミド等の、ビニル樹脂の良溶媒かつオレフィン樹脂の貧溶媒を用いることができる。また、分子量または構造に起因してビニル樹脂が不溶である場合、オルトジクロロベンゼンや1,1,2,2-テトラクロロエタン等、オレフィン樹脂の良溶媒を用いてオレフィン樹脂を抽出することができる。このように、複合樹脂を構成する樹脂の一方を単離することにより、複合樹脂を構成する樹脂の質量比を算出することができる。
【0052】
<塗膜>
本発明の塗膜は、上記水性分散体から形成されたものである。
塗膜の形成方法として、例えば、スプレーコート法、スピンコート法、バーコート法、カーテンフローコート法、ディッピング法、はけ塗り法等が挙げられる。これらの方法により、水性分散体を各種基材表面に均一に塗布し、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥および焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な塗膜を基材表面に密着させて形成することができる。加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや、赤外線ヒータなどが挙げられる。また、加熱温度や加熱時間は、基材の種類などにより適宜選択され、経済性を考慮した場合、加熱温度は、通常40~250℃であり、50~230℃が好ましく、60~200℃がより好ましい。加熱時間は、通常1秒~120分間であり、5秒~100分が好ましく、10秒~60分がより好ましい。
本発明の塗膜は、各種基材表面に、撥水性を付与することを目的とした用途に用いることができる。撥水性の指標は、特に限定されないが、塗膜表面の水に対する接触角を液滴法によって測定した際の接触角が105°以上であり、本発明の塗膜は、このような撥水性を基材に付与することができる。
【0053】
<粉体>
本発明の粉体は、上記水性分散体から形成されたものである。
粉体の形成方法として、例えば、水性分散体から媒体を除去する方法が挙げられる。水性分散体から媒体を除去する方法としては、特に限定されないが、風乾、熱風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥や凍結乾燥などが挙げられる。
本発明の粉体は、特に限定されないが、紙、布、光拡散フィルム(光学シート)、断熱フィルム、熱電変換材料、導光板インク、反射防止膜、光取出し膜等に用いられるコーティング剤(塗布用組成物)の添加剤や、光拡散板、導光板、断熱材、防音板、電気・電子部材等の成形体形成用のマスターペレットの添加剤や、化粧品の添加剤として用いることができる。
【実施例0054】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0055】
(1)オレフィン樹脂の組成
オルトジクロロベンゼン(d)中、140℃にてH-NMR、13C-NMR分析(日本電子社製の分析装置、500MHz)を行い、求めた。13C-NMR分析では、定量性を考慮したゲート付きデカップリング法を用いて測定した。
また、不飽和カルボン酸成分の含有量は、オレフィン樹脂の酸価、オレフィン樹脂1g当りの不飽和カルボン酸の質量を後述の手法によって測定し、その値から、次式によって求めた。
不飽和カルボン酸成分の含有量(質量%)=(不飽和カルボン酸の質量)/(原料オレフィン樹脂の質量)×100
≪オレフィン樹脂の酸価の測定法≫
オレフィン樹脂0.15gをテトラヒドロフラン(THF)20mL中で還流し、樹脂が完全に溶解したのを確認後、溶液を撹拌しながら温度を60℃に維持した。このオレフィン樹脂のTHF溶液にクレゾールレッド指示薬を数滴添加し、濃度0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定した。この滴定量からオレフィン樹脂の酸価を算出した。
≪オレフィン樹脂1g当りの不飽和カルボン酸の質量の算出≫
不飽和カルボン酸の質量(mg/g)=(オレフィン樹脂の酸価(mgKOH/g)/KOHの式量)×不飽和カルボン酸の分子量
不飽和カルボン酸成分がジカルボン酸またはその無水物の場合、分子量に1/2を乗じた値を採用する。)
【0056】
(2)粒子径の変動係数(CV値)
動的光散乱法による粒子径分布測定器(大塚電子社製、FPAR-1000)を用い、水性分散体の数平均粒子径および粒子径分布の標準偏差を測定した。それらの測定値を用い、以下の数式から粒子径の変動係数(CV値)を算出した。
粒子径の変動係数(CV値)=(粒子径分布の標準偏差÷数平均粒子径)×100
【0057】
(3)粘度、粘度の経時変化率
B型粘度計(BROOKFIELD ENGINEERING LABORATORIES,INC.製、BROOKFIELD DIAL VISCOMETER ModelLVT、スピンドル18番)を用いて、25℃にて粘度を測定した(粘度A)。
また、25℃にて7日静置した後の粘度(粘度B)、および、50℃にて7日静置した後の粘度(粘度C)も、それぞれ25℃にて測定した。
粘度A、B、および下記式により、粘度の経時変化率(25℃)を算出し、以下の基準で評価した。
粘度の経時変化率(25℃)={(粘度B/粘度A)-1}×100(%)
25℃における粘度の経時変化率の評価は、実用の観点から、△以上であることが好ましい。
◎:10%未満
○:10%以上、75%未満
△:75%以上、90%未満
×:90%以上、または保管後に分散体の流動性が失われた(ゲル化した)
また、粘度A、C、および下記式により、粘度の経時変化率(50℃)を算出し、以下の基準で評価した。
粘度の経時変化率(50℃)={(粘度C/粘度A)-1}×100(%)
50℃における粘度の経時変化率の評価は、実用の観点から、△以上であることが好ましい。
◎:25%未満
○:25%以上、90%未満
△:90%以上、95%未満
×:95%以上、または保管後に分散体の流動性が失われた(ゲル化した)
【0058】
(4)水性分散体の分散安定性
水性分散体を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.04mm、目開き0.045mm)を用いて凝集物をろ過し、ろ過後の水性分散体の固形分濃度(固形分濃度A)を測定した。また、温度25℃にて90日静置した水性分散体についても同様に凝集物をろ過し、固形分濃度(固形分濃度B)を測定した。
なお、固形分濃度は、水性分散体1gを150℃熱風乾燥機中で2時間乾燥させ、100×(乾燥後に得られた残渣の重量)/(乾燥前の水性分散体の重量)で計算し、n=2の平均値を採用した。
固形分濃度A、B、および下記式により、固形分濃度の変化率を算出し、以下の基準で水性分散体の分散安定性を評価した。
25℃における水性分散体の分散安定性の評価は、実用の観点から、△以上であることが好ましい。
固形分濃度の変化率={1-固形分濃度B(質量%)/固形分濃度A(質量%)}×100(%)
◎:0.1質量%未満
○:0.1質量%以上、0.5質量%未満
△:0.5質量%以上、1.0質量%未満
×:1.0質量%以上
××:水性分散体がゲル化していて、ろ過できない。
【0059】
(5)塗膜の密着性
ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ社製、OP U-1、厚み50μm)に、水性分散体をバーコーターで乾燥厚みが3μmとなるように塗布し、80℃、60秒間の条件で乾燥して、塗膜を形成した。
ポリプロピレンフィルム上に形成した塗膜について、JIS K5600記載のクロスカット法によるテープ剥離(碁盤目試験)をおこなった。すなわち、クロスカットにより、塗膜を100区間にカットし、テープ剥離後に、ポリプロピレンフィルム上に残留した塗膜の区間数で、以下の基準により、密着性を評価した。
塗膜の密着性の評価は、実用の観点から、△以上であることが好ましい。
○:100区間残留
△:90~99区間残留
×:89区間以下
上記と同様に、アクリル樹脂フィルム(三菱ケミカル社製、アクリプレンHBS006H、厚み53μm)を用いて密着性の評価を行った。
【0060】
(6)水接触角
スライドガラスに、水性分散体を乾燥厚みが3μmとなるように塗布し、室温で乾燥して塗膜を形成した。
スライドガラス上に形成した塗膜表面の水に対する接触角を液滴法によって測定した。すなわち、20℃、65%RH環境下で、協和界面科学社製接触角計CA-Dを用いて、純水が2.0μLの水滴を作るよう滴下し、2秒後の接触角を測定した。5回の測定の平均値を採用した。
【0061】
(7)DSC
水性分散体を遠心分離に供し、オレフィン樹脂からなる単独粒子とビニル樹脂からなる単独粒子とを除去した後、室温下で媒体を揮発させることにより、オレフィン樹脂とビニル系樹脂とからなる複合粒子の乾燥試料を得た。この試料を、示差走査型熱量計装置(日立製作所社製 DSC7000X)にセットし、窒素雰囲気下で-20℃から230℃まで10℃/分で昇温させ5分間保持した(1st Scan)後、230℃から-20℃まで10℃/分で冷却して5分間保持した。さらに-20℃から230℃まで10℃/分で再昇温させた過程(2nd Scan)でのガラス転移温度および結晶融解ピークのピークトップ温度(融点)を確認した。
【0062】
(8)塗膜の強度
テフロン(登録商標)製の容器に水性分散体を流し入れ、50℃で48時間、120℃で1分間加熱し、厚さ1mmの塗膜を得た。この塗膜をテフロン(登録商標)製の容器から分離し、一辺5cmの正方形型に切り出したものを試験片とした。
この試験片1枚を鋼板上に置き、高さ300mmから50gの鋼球を落下させた。落下後の塗膜を目視し、割れ、ヒビ等が見られないものを「合格」とした。20枚の試験片について試験を行い、合格した試験片の枚数が17枚以上である塗膜を、強度が優れるものとして評価した。
【0063】
下記、調製例1~6により、オレフィン樹脂「P-1」~「P-5」、「P-7」を得た。
調製例1
オレフィン樹脂「P-1」
プロピレン-エチレン共重合体(プロピレン/エチレン=97.9/2.1、質量比)280gを、4つ口フラスコ中において、窒素雰囲気下で加熱溶融させた。その後、系内温度を170℃に保って、撹拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸10.0gと、ラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド6.0gとを、それぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応生成物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して、オレフィン樹脂「P-1」を得た。
【0064】
調製例2
オレフィン樹脂「P-2」
プロピレン-ブテン-エチレン三元共重合体(プロピレン/ブテン/エチレン=64.8/23.9/11.3、質量比)280gを、4つ口フラスコ中において、窒素雰囲気下で加熱溶融させた。その後、系内温度を170℃に保って、撹拌下、無水マレイン酸32.0gと、ジクミルパーオキサイド6.0gとをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応生成物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して、オレフィン樹脂「P-2」を得た。
【0065】
調製例3
オレフィン樹脂「P-3」
プロピレン-エチレン共重合体(プロピレン/エチレン=97.9/2.1、質量比)280gを、4つ口フラスコ中において、窒素雰囲気下で加熱溶融させた。その後、系内温度を170℃に保って、攪拌下、無水マレイン酸35.0gと、ラジカル発生剤としてジ-t-ブチルパーオキサイド10.0gとをそれぞれ2時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応生成物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して、オレフィン樹脂「P-3」を得た。
【0066】
調製例4
オレフィン樹脂「P-4」
プロピレン-エチレン共重合体(プロピレン/エチレン=59.0/41.0、質量比)280gを、4つ口フラスコ中において、窒素雰囲気下で加熱溶融させた。その後、系内温度を170℃に保って、撹拌下、無水マレイン酸32.0gと、ジクミルパーオキサイド6.0gとをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応生成物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して、オレフィン樹脂「P-4」を得た。
【0067】
調製例5
オレフィン樹脂「P-5」
ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製、F-744NP、融点:140℃、プロピレン単位:96質量%)を、押出機(TUNG TAI MACHINE WORKS社製、SEG-09030)に供給して、溶融混練温度:235℃、水流温度:60℃、押出孔1つ当たりの押出速度:5kg/mm・時で、溶融混練して、水中カットにより造粒ペレット化して、オレフィン樹脂「P-5」を得た。
【0068】
調製例6
オレフィン樹脂「P-7」
プロピレン-ブテン共重合体(プロピレン/ブテン=68.1/31.9、質量比、重量平均分子量(Mw)250,000(ポリプロピレン換算)、分子量分布(Mw/Mn)2.2)の200kgと無水マレイン酸5kgをスーパーミキサーでドライブレンドした後、押出機(日本製鋼所社製、TEX54αII)を用い、プロピレン-ブテン共重合体100質量部に対して1質量部となるようにt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナートを液添ポンプで途中フィードしながら、ニーディング部のシリンダー温度200℃、スクリュー回転数125rpm、吐出量80kg/時間の条件下で混練し、ペレット状のオレフィン樹脂を得た。
還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、上述の工程により得られたペレット状のオレフィン樹脂100gとトルエン50gを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温した。昇温後、無水マレイン酸2.0gを加え、tert-ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート1gを加え、7時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、系を室温付近まで冷却し、オレフィン樹脂「P-7」のトルエン溶液を得た。
【0069】
下記、調製例7~12により、ポリオレフィン樹脂水性分散体「E-1」~「E-5」、「E-7」を得た。
調製例7
オレフィン樹脂水性分散体「E-1」
ヒーターおよび圧力計付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60gのオレフィン樹脂「P-1」、69gのテトラヒドロフラン、24gのイソプロピルアルコール、15gのシクロヘキサン、6gのトリエチルアミン、3gのN,N-ジメチルエタノールアミンおよび123gの蒸留水を、上記のガラス容器内に仕込んだ。そして、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこで、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を125℃に保ってさらに60分間撹拌した。この時、圧力計は0.55MPaを指し示していた。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却し、150gの蒸留水を追加した。この液を1Lナスフラスコに入れ、60℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、210gの水性媒体を留去した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.04mm、目開き0.045mm)で濾過し、乳白色の均一なオレフィン樹脂水性分散体「E-1」を得た。
【0070】
調製例8
オレフィン樹脂水性分散体「E-2」
ヒーターおよび圧力計付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、54gのオレフィン樹脂「P-2」、90gのテトラヒドロフラン、2.1gのシクロヘキサン、8.4gのN,N-ジメチルエタノールアミンおよび145.5gの蒸留水を、上記のガラス容器内に仕込んだ。そして、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこで、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を110℃に保ってさらに60分間撹拌した。この時、圧力計は0.52MPaを指し示していた。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却し、50gの蒸留水を追加した。この液を1Lナスフラスコに入れ、60℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、134gの水性媒体を留去した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.04mm、目開き0.045mm)で濾過し、乳白色の均一なオレフィン樹脂水性分散体「E-2」を得た。
【0071】
調製例9、10
オレフィン樹脂水性分散体「E-3」、「E-4」
オレフィン樹脂水性分散体「E-1」の調製方法と同様の方法で、オレフィン樹脂「P-3」の水性分散体「E-3」と、オレフィン樹脂「P-4」の水性分散体「E-4」とを、それぞれ作製した。調製例9、10ともに、圧力計は0.55MPaを指し示していた。
【0072】
調製例11
オレフィン樹脂水性分散体「E-5」
ヒーターおよび圧力計付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、ポリプロピレン系樹脂「P-5」64gを入れ、蒸留水160g、分散剤としてピロリン酸マグネシウム1.6g、分散剤と併用する界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.04gを加え、激しく攪拌して水性媒体中に懸濁させ、10分間保持し、その後60℃に昇温して、オレフィン樹脂水性分散体「E-5」とした。60℃に昇温した際、圧力計は0.02MPaを指し示していた。
【0073】
オレフィン樹脂水性分散体「E-6」として、エチレン-メタクリル酸共重合体(P-6)の水性分散体(三井化学社製、ケミパールS-650)を用いた。
【0074】
調製例12
オレフィン樹脂水性分散体「E-7」
上述の調製例6において得られたオレフィン樹脂「P-7」のトルエン溶液に、トルエン70gを加え、次いで、2-プロパノール90gに溶解したポリエーテルアミン(ハンツマン社製、ジェファーミンM-2005)を20g(オレフィン樹脂「P-7」100質量部に対し20質量部に相当)加え70℃で1時間反応させた。その後、2-プロパノール90gに溶解させたポリエーテルアミン(ハンツマン社製、ジェファーミンM-1000)を10g(オレフィン樹脂「P-7」100質量部に対し10質量部に相当)加え、70℃で1時間反応させた。その後、N,N-ジメチルエタノールアミン2g、水54gを加えて系内を中和した。得られた反応液の温度を45℃に保ち、加熱・撹拌し、水300gを滴下しながら、系内の減圧度を下げて固形分濃度30質量%になるまでトルエンと2-プロパノールを減圧留去することで、乳白色のオレフィン樹脂水性樹脂分散体「E-7」を得た。圧力計は0MPaのままであった。
【0075】
実施例1
ガラス管に、オレフィン樹脂水性分散体「E-1」2g、ビニル系単量体としてスチレン(St)0.5g、重合開始剤として2,2′-アゾビス[N-(2-ヒドロキシエチル)-2-メチルプロパンアミド](富士フイルム和光純薬社製、VA-086)2.6mg、蒸留水10.5gを仕込み、窒素置換してから、ガラス管を密封し、90℃のオイルバスを備えた振盪器で、100サイクル/分で振盪させながら、24時間、乳化重合を行った。重合後、常温まで冷却し、水性分散体を得た。
【0076】
実施例2
ビニル系単量体を、スチレン(St)0.35gとメタクリル酸グリシジル(GMA)0.15gに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、水性分散体を得た。
【0077】
実施例3
ガラス管に、オレフィン樹脂水性分散体「E-1」g、スチレン(St)0.45g、ジビニルベンゼン(DVB)0.05g、VA-086 2.6mg、蒸留水10.5gを仕込み、窒素置換してから、ガラス管を密封し、50℃のオイルバスを備えた振盪器で、80サイクル/分で振盪させながら、10時間保持した。続いて、オイルバスを90℃に昇温し、100サイクル/分で振盪させながら、24時間、乳化重合を行った。重合後、常温まで冷却し、水性分散体を得た。
【0078】
実施例4
ガラス管に、オレフィン樹脂水性分散体「E-1」2.8g、メタクリル酸ベンジル(BzMA)0.3g、重合開始剤として2,2′-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)12mg、エタノール8.6g、蒸留水0.05gを仕込み、窒素置換してから、ガラス管を密封し、60℃のオイルバスを備えた振盪器で、80サイクル/分で振盪させながら、24時間、分散重合を行った。重合後、常温まで冷却し、水性分散体を得た。
【0079】
実施例5
ガラス管に、オレフィン樹脂水性分散体「E-1」2.8g、スチレン(St)0.21g、メタクリル酸メチル(MMA)0.09g、AIBN12mg、エタノール8.6g、蒸留水0.05gを仕込み、窒素置換してから、ガラス管を密封し、60℃のオイルバスを備えた振盪器で、80サイクル/分で振盪させながら、24時間、分散重合を行った。重合後、常温まで冷却し、水性分散体を得た。
【0080】
実施例6
ガラス管に、オレフィン樹脂水性分散体「E-1」2.0g、ビニル系単量体としてスチレン(St)0.5g、重合開始剤として2,2′-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(富士フイルム和光純薬社製、VA-044)2.9mg、蒸留水10.5gを仕込み、窒素置換してから、ガラス管を密封し、40℃のオイルバスを備えた振盪器で、100サイクル/分で振盪させながら、48時間、乳化重合を行った。重合後、常温まで冷却し、水性分散体を得た。
【0081】
実施例7、比較例1~2、4
オレフィン樹脂水性分散体を「E-2」、「E-3」、「E-4」、「E-6」に変更すること以外は、実施例1と同様の操作を行い、それぞれ、水性分散体を得た。
【0082】
比較例3
ポリプロピレン系樹脂の水性分散体「E-5」を60℃に保持し、重合開始剤であるジクミルパーオキサイド(日油社製、パークミルD)0.056gを溶解させたスチレン27.2gを30分で滴下した。滴下後30分保持し、ポリプロピレン系樹脂粒子にスチレンを吸収させた。
反応系を135℃に昇温して2時間保持し、スチレンをポリプロピレン系樹脂粒子中で重合(第1重合段階)させた。
第1重合段階の反応液を125℃にして、この懸濁液中に、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.24gを加えた後、パークミルD0.288gを溶解したスチレン68.8gを4.25時間かけて滴下し、スチレンをポリプロピレン系樹脂粒子に吸収させながら重合を行った。そして、滴下終了後、125℃で1時間保持した後に140℃に昇温し、3時間保持して重合を完結した(第2重合段階)。この反応液を常温まで冷却し、水性分散体を得た。
【0083】
比較例5
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置を備えたフラスコに、オレフィン樹脂水性分散体「E-7」を333質量部、蒸留水を119.6質量部仕込み、30℃で保管した。
次いで、ビニル系単量体として、MMA100質量部を入れ、50℃で1時間保管した。
開始剤としてパーブチルH69(日油社製、tert-ブチルハイドロパーオキサイドの69質量%水溶液)0.02質量部及び、蒸留水を1.0質量部、硫酸鉄・7水和物0.002質量部、エチレンジアミン四酢酸0.00027質量部、エリソルビン酸ナトリウム0.08質量部を投入し、乳化重合を開始した。
重合の発熱ピークを検出後、パーブチルH69 0.03質量部及び、蒸留水10.0質量部を15分間かけて、滴下を行った。
滴下終了後、60℃で30分間熟成し、平均粒径80nmの水性分散体を得た。
【0084】
表1に、用いたオレフィン樹脂の組成、得られた水性分散体の特性を示す。
【0085】
【表1】
【0086】
実施例1~7で得られた本発明の水性分散体は、室温近傍および高温条件においても粘度変化が小さく、経時で凝集物の発生が抑制されており、さらに、ポリプロピレン基材への密着性に優れるものであった。
実施例1、4、5の水性分散体を遠心分離に供し、単独粒子を除去した後、常温下で乾燥し、走査型電子顕微鏡観察を行った(図1~3)。
実施例1の水性分散体の複合粒子の断面は、図1に示す構造を有していた。同試料を四酸化ルテニウム蒸気により染色後、超薄切片とし、透過型電子顕微鏡によって断面観察を行った結果、ビニル系樹脂の粒子を、オレフィン樹脂の壁で囲む構造であることが分かった。
実施例4の水性分散体の複合粒子は、図2に示す構造を有していた。同試料を四酸化ルテニウム蒸気により染色後、超薄切片とし、透過型電子顕微鏡によって断面観察を行った結果、ビニル系樹脂の粒子の周囲にオレフィン樹脂の粒子が付着した構造であることが分かった。
実施例5の水性分散体の複合粒子は、図3に示す構造を有していた。同試料を四酸化ルテニウム蒸気により染色後、超薄切片とし、透過型電子顕微鏡によって断面観察を行った結果、ビニル系樹脂の粒子の周囲にオレフィン樹脂の粒子が付着した構造であることが分かった。
【0087】
なお、実施例1、4および5にて得られた水性分散体の複合粒子のDSCチャートを、それぞれ図4~6に示す。
【0088】
実施例6にて得られた水性分散体の複合粒子について、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製:FT/IR-6200)を用い、KBr法にてFT-IR測定を行った。3060cm-1付近、3030cm-1付近、1600cm-1付近、1490cm-1付近、730~780cm-1付近、700cm-1付近に、それぞれポリスチレン中の芳香族由来ピークの出現を確認した。また、1710cm-1付近に、それぞれオレフィン樹脂P-1中のC=O構造由来ピークの出現を確認した。さらに、1460cm-1付近、1380cm-1付近、1170cm-1付近、970cm-1付近、840cm-1付近に、それぞれオレフィン樹脂P-1中のプロピレン-エチレン共重合体由来ピークの出現を確認した。
【0089】
比較例1の水性分散体は、オレフィン樹脂中の不飽和カルボン酸の含有量が過多であったため、高温環境下における粘度変化が大きく、粘度を測定することができなかった。
比較例2の水性分散体は、オレフィン樹脂中のプロピレンの含有量が過少であったため、ポリプロピレン基材への密着性に劣っていた。
比較例3の水性分散体は、オレフィン樹脂が不飽和カルボン酸成分を含有しないものであったため、分散安定性に劣っていた。
比較例4の水性分散体は、オレフィン樹脂中のオレフィン成分がエチレンのみであり、プロピレンを含有しなったため、ポリプロピレン基材への密着性に劣っており、また、不飽和カルボン酸成分の含有量が多いため、室温近傍および高温条件において粘度変化が大きいものであった。
比較例5の水性分散体は、オレフィン樹脂にポリエーテル成分を含有するため、得られた塗膜は強度に劣っていた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6