(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169441
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】析出硬化ステンレス鋼合金
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20221101BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20221101BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20221101BHJP
C21D 9/00 20060101ALN20221101BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/60
C21D6/00 102T
C21D9/00 A
C21D9/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022052054
(22)【出願日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】17/241,154
(32)【優先日】2021-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(72)【発明者】
【氏名】セオドア・フランシス・マイカ
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA25
4K042BA01
4K042BA02
4K042BA06
4K042CA04
4K042CA05
4K042CA07
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA11
4K042CA12
4K042CA13
4K042CA16
4K042DA05
4K042DC02
4K042DC03
(57)【要約】
【課題】析出硬化ステンレス鋼合金を提供する。
【解決手段】重量で、14.0~16.0%のCr、6.0~7.0%のNi、1.25~1.75%のCu、0.5~1.0%のMo、0.40~0.85%のNb、0.025~0.05%のC、最大1.0%のMn、最大1.0%のSi、最大0.1%のV、最大0.1%のCo、最大0.1%のSn、最大0.02%のN、最大0.025%のP、最大0.05%のAl、最大0.008%のS、最大0.005%のAg、最大0.005%のPb、最大0.1%のAs、最大0.01%のSb、および残部のFeを含む、析出硬化ステンレス鋼合金が開示される。合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の比を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
析出硬化ステンレス鋼合金であって、重量で、
14.0~16.0%のCr、
6.0~7.0%のNi、
1.25~1.75%のCu、
0.5~1.0%のMo、
0.40~0.85%のNb、
0.025~0.05%のC、
最大1.0%のMn、
最大1.0%のSi、
最大0.1%のV、
最大0.1%のCo、
最大0.1%のSn、
最大0.02%のN、
最大0.025%のP、
最大0.05%のAl、
最大0.008%のS、
最大0.005%のAg、
最大0.005%のPb、
最大0.1%のAs、
最大0.01%のSb、および
残部のFe
を含み、
前記合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の比を有する、
析出硬化ステンレス鋼合金。
【請求項2】
重量で、0.03~0.05%のCを含む、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
重量で、最大0.01%のNを含む、請求項1に記載の合金。
【請求項4】
重量で、
14.0~16.0%のCr、
6.0~7.0%のNi、
1.25~1.75%のCu、
0.5~1.0%のMo、
0.40~0.85%のNb、
0.025~0.05%のC、
最大1.0%のMn、
最大1.0%のSi、
最大0.1%のV、
最大0.1%のCo、
最大0.1%のSn、
最大0.02%のN、
最大0.025%のP、
最大0.05%のAl、
最大0.008%のS、
最大0.005%のAg、
最大0.005%のPb、
最大0.1%のAs、
最大0.01%のSb、
最大0.5%の追加元素の不可避不純物、および
残部のFe
からなり、
前記合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の前記比を有する、
請求項1に記載の合金。
【請求項5】
重量で、
14.0~16.0%のCr、
6.0~7.0%のNi、
1.25~1.75%のCu、
0.5~1.0%のMo、
0.40~0.85%のNb、
0.025~0.05%のC、
最大1.0%のMn、
最大1.0%のSi、
最大0.1%のV、
最大0.1%のCo、
最大0.1%のSn、
最大0.02%のN、
最大0.025%のP、
最大0.05%のAl、
最大0.008%のS、
最大0.005%のAg、
最大0.005%のPb、
最大0.1%のAs、
最大0.01%のSb、および
残部のFe
からなり、
前記合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の前記比を有する、
請求項4に記載の合金。
【請求項6】
重量で、
0.025~0.045%のC、
0.2~0.5%のMn、
0.2~0.5%のSi、
最大0.05%のV、
最大0.01%のSn、
最大0.01%のN、
最大0.01%のP、
最大0.005%のS、
最大0.01%のAs、および
最大0.002%のSb
を含む、請求項1に記載の合金。
【請求項7】
重量で、
14.0~16.0%のCr、
6.0~7.0%のNi、
1.25~1.75%のCu、
0.5~1.0%のMo、
0.40~0.85%のNb、
0.025~0.045%のC、
0.2~0.5%のMn、
0.2~0.5%のSi、
最大0.05%のV、
最大0.1%のCo、
最大0.01%のSn、
最大0.01%のN、
最大0.01%のP、
最大0.05%のAl、
最大0.005%のS、
最大0.005%のAg、
最大0.005%のPb、
最大0.01%のAs、
最大0.002%のSb、
最大0.5%の追加元素の不可避不純物、および
残部のFe
からなり、
前記合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の前記比を有する、
請求項6に記載の合金。
【請求項8】
重量で、
14.0~16.0%のCr、
6.0~7.0%のNi、
1.25~1.75%のCu、
0.5~1.0%のMo、
0.40~0.85%のNb、
0.025~0.045%のC、
0.2~0.5%のMn、
0.2~0.5%のSi、
最大0.05%のV、
最大0.1%のCo、
最大0.01%のSn、
最大0.01%のN、
最大0.01%のP、
最大0.05%のAl、
最大0.005%のS、
最大0.005%のAg、
最大0.005%のPb、
最大0.01%のAs、
最大0.002%のSb、および
残部のFe
からなり、
前記合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の前記比を有する、
請求項7に記載の合金。
【請求項9】
前記合金は、0.045%超のC、0.5%超のMn、0.5%超のSi、0.05%超のV、0.01%超のSn、0.01%超のN、0.01%超のP、0.005%超のS、0.01%超のAs、0.002%超のSb、またはそれらの組み合わせを有する他の点では同一の比較合金と比較して、脆化が低減されており、破壊外観転移温度が低い、請求項6に記載の合金。
【請求項10】
前記合金は、15:1未満のNb:(C+N)の比較比を有する他の点では同一の比較合金と比較して、粒界に隣接する逆オーステナイトについての粒間腐食に対する感受性が低減されており、熱処理中にほとんど逆オーステナイトを形成しない、請求項1に記載の合金。
【請求項11】
前記合金は、577℃で500分間の熱処理後に15:1未満のNb:(C+N)の比較比を有する他の点では同一の比較合金よりも、577℃で500分間の熱処理後に少なくとも25%少ない逆オーステナイトを有する、請求項1に記載の合金。
【請求項12】
前記合金は、577℃で500分間の熱処理後、16%未満の逆オーステナイトを含む、請求項1に記載の合金。
【請求項13】
前記合金中のすべてのCおよびNの少なくとも90%は、Nb-C、Nb-N、およびNb-C-N種として隔離されている、請求項1に記載の合金。
【請求項14】
Nb:(C+N)の前記比は、15:1~34:1である、請求項1に記載の合金。
【請求項15】
Nb:(C+N)の前記比は、15:1~18:1である、請求項14に記載の合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、析出硬化ステンレス鋼合金に関する。より詳細には、本開示は、少なくとも15:1のニオブ対炭素と窒素の合計比を有する析出硬化ステンレス鋼合金に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの回転構成要素、特に回転ブレード(バケット)および固定ベーン(ノズル)を含む圧縮機翼形部など、厳しい動作条件に曝される構成要素に使用される金属合金は、これらの機械の必須の動作性質を提供するために、高い強度、靭性、耐疲労性、ならびに他の物理的および機械的特性の組み合わせを必要とする場合がある。加えて、使用される合金はまた、塩化物、硫酸塩、窒化物、および他の腐食種を含む様々なイオン反応種への曝露など、タービンが動作する極端な環境から生じる腐食損傷に対して十分な耐性を有さなければならない。腐食はまた、タービンの動作に関連する周期的な熱応力および動作応力の下で伝播する表面亀裂の発生による高いサイクル疲労強度などの他の物理的および機械的性質を低下させる可能性がある。
【0003】
これらおよび他の要件を満たすために、特にそれらの広範な使用を可能にするコストで、様々な高強度ステンレス鋼合金が提案されている。例えば、米国特許第3574601号明細書は、現在はCarpenter Custom 450として商業的に知られている析出硬化性の本質的にマルテンサイト系のステンレス鋼合金の組成および他の特性を開示しており、この合金の耐食性および機械的性質に焦点を当てている。Custom 450合金は、クロム、ニッケル、モリブデン、および銅、ならびに炭素およびニオブ(コロンビウム)などの他の潜在的な合金成分を含有し、10%未満の残留オーステナイトおよび1~2%以下のデルタフェライトの少量を有する本質的にマルテンサイト系の微細構造を生じる。ニオブは、炭素が0.03重量パーセントを超える量で存在する場合、炭素に対して最大10倍の重量比で添加され得る。
【0004】
さらなる例では、米国特許第6743305号明細書は、化学的性質、焼戻し温度、および粒径について特定の範囲を有する結果として高い強度と靭性の両方を示す、回転蒸気タービン構成要素での使用に適した改良されたステンレス鋼合金を記載している。米国特許第7985306号明細書は、炭素量の20倍超~25倍未満の量のニオブを有する、回転ガスタービン構成要素、特に圧縮機翼形部での使用に適した改良されたステンレス鋼合金を記載している。米国特許第8663403号明細書は、炭素量の20倍を超える量のニオブを有する、回転ガスタービン構成要素、特に圧縮機翼形部での使用に適した改良されたステンレス鋼合金を記載している。
【0005】
上述の析出硬化マルテンサイト系ステンレス鋼は、回転蒸気タービン構成要素での使用に適した耐食性、機械的強度、および破壊靭性性質を提供しているが、これらの合金は、粒間腐食を受けやすく、または合金の他の性質に悪影響を及ぼし得る望ましくない量の個々の元素を有する合金組成を有し得る。
【発明の概要】
【0006】
例示的な実施形態では、析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、14.0~16.0%のCr、6.0~7.0%のNi、1.25~1.75%のCu、0.5~1.0%のMo、0.40~0.85%のNb、0.025~0.05%のC、最大1.0%のMn、最大1.0%のSi、最大0.1%のV、最大0.1%のCo、最大0.1%のSn、最大0.02%のN、最大0.025%のP、最大0.05%のAl、最大0.008%のS、最大0.005%のAg、最大0.005%のPb、最大0.1%のAs、最大0.01%のSb、および残部のFeを含む。合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の比を有する。
【0007】
本開示の主題のさらなる態様は、以下の条項によって提供される。
【0008】
析出硬化ステンレス鋼合金であって、重量で、14.0~16.0%のCr、6.0~7.0%のNi、1.25~1.75%のCu、0.5~1.0%のMo、0.40~0.85%のNb、0.025~0.05%のC、最大1.0%のMn、最大1.0%のSi、最大0.1%のV、最大0.1%のCo、最大0.1%のSn、最大0.02%のN、最大0.025%のP、最大0.05%のAl、最大0.008%のS、最大0.005%のAg、最大0.005%のPb、最大0.1%のAs、最大0.01%のSb、および残部のFeを含み、前記合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の比を有する、析出硬化ステンレス鋼合金。
【0009】
重量で、0.03~0.05%のCを含む、前述の条項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0010】
重量で、最大0.01%のNを含む、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0011】
重量で、14.0~16.0%のCr、6.0~7.0%のNi、1.25~1.75%のCu、0.5~1.0%のMo、0.40~0.85%のNb、0.025~0.05%のC、最大1.0%のMn、最大1.0%のSi、最大0.1%のV、最大0.1%のCo、最大0.1%のSn、最大0.02%のN、最大0.025%のP、最大0.05%のAl、最大0.008%のS、最大0.005%のAg、最大0.005%のPb、最大0.1%のAs、最大0.01%のSb、最大0.5%の追加元素の不可避不純物、および残部のFeからなり、前記合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の前記比を有する、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0012】
重量で、14.0~16.0%のCr、6.0~7.0%のNi、1.25~1.75%のCu、0.5~1.0%のMo、0.40~0.85%のNb、0.025~0.05%のC、最大1.0%のMn、最大1.0%のSi、最大0.1%のV、最大0.1%のCo、最大0.1%のSn、最大0.02%のN、最大0.025%のP、最大0.05%のAl、最大0.008%のS、最大0.005%のAg、最大0.005%のPb、最大0.1%のAs、最大0.01%のSb、および残部のFeからなり、前記合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の前記比を有する、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0013】
重量で、0.025~0.045%のC、0.2~0.5%のMn、0.2~0.5%のSi、最大0.05%のV、最大0.01%のSn、最大0.01%のN、最大0.01%のP、最大0.005%のS、最大0.01%のAs、および最大0.002%のSbを含む、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0014】
重量で、14.0~16.0%のCr、6.0~7.0%のNi、1.25~1.75%のCu、0.5~1.0%のMo、0.40~0.85%のNb、0.025~0.045%のC、0.2~0.5%のMn、0.2~0.5%のSi、最大0.05%のV、最大0.1%のCo、最大0.01%のSn、最大0.01%のN、最大0.01%のP、最大0.05%のAl、最大0.005%のS、最大0.005%のAg、最大0.005%のPb、最大0.01%のAs、最大0.002%のSb、最大0.5%の追加元素の不可避不純物、および残部のFeからなり、前記合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の前記比を有する、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0015】
重量で、14.0~16.0%のCr、6.0~7.0%のNi、1.25~1.75%のCu、0.5~1.0%のMo、0.40~0.85%のNb、0.025~0.045%のC、0.2~0.5%のMn、0.2~0.5%のSi、最大0.05%のV、最大0.1%のCo、最大0.01%のSn、最大0.01%のN、最大0.01%のP、最大0.05%のAl、最大0.005%のS、最大0.005%のAg、最大0.005%のPb、最大0.01%のAs、最大0.002%のSb、および残部のFeからなり、前記合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の前記比を有する、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0016】
前記合金は、0.045%超のC、0.5%超のMn、0.5%超のSi、0.05%超のV、0.01%超のSn、0.01%超のN、0.01%超のP、0.005%超のS、0.01%超のAs、0.002%超のSb、またはそれらの組み合わせを有する他の点では同一の比較合金(otherwise identical comparative alloy)と比較して、脆化が低減されている、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0017】
前記合金は、0.045%超のC、0.5%超のMn、0.5%超のSi、0.05%超のV、0.01%超のSn、0.01%超のN、0.01%超のP、0.005%超のS、0.01%超のAs、0.002%超のSb、またはそれらの組み合わせを有する他の点では同一の比較合金と比較して、破壊外観転移温度が低い、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0018】
前記合金は、15:1未満のNb:(C+N)の比較比を有する他の点では同一の比較合金と比較して、粒界に隣接する逆オーステナイトについての粒間腐食に対する感受性が低減されている、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0019】
前記合金は、15:1未満のNb:(C+N)の比較比を有する他の点では同一の比較合金と比較して、熱処理中にほとんど逆オーステナイトを形成しない、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0020】
前記合金は、577℃で500分間の熱処理後に15:1未満のNb:(C+N)の比較比を有する他の点では同一の比較合金よりも、577℃で500分間の熱処理後に少なくとも25%少ない逆オーステナイトを有する、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0021】
前記合金は、577℃で500分間の熱処理後、16%未満の逆オーステナイトを含む、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0022】
前記合金は、577℃で1000分間の熱処理後、25%未満の逆オーステナイトを含む、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0023】
前記合金は、577℃で3000分間の熱処理後、35%未満の逆オーステナイトを含む、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0024】
前記合金中のすべてのCおよびNの少なくとも90%は、Nb-C、Nb-N、およびNb-C-N種として隔離されている、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0025】
前記合金中のすべてのCおよびNの少なくとも99%は、Nb-C、Nb-N、およびNb-C-N種として隔離されている、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0026】
Nb:(C+N)の前記比は、15:1~34:1である、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0027】
Nb:(C+N)の前記比は、15:1~28:1である、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0028】
Nb:(C+N)の前記比は、15:1~18:1である、前述の条項のいずれか一項に記載の析出硬化ステンレス鋼合金。
【0029】
本主題のこれらおよび他の特徴、態様、および利点は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読むと、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】唯一の図は、GTD450ステンレス鋼合金中の0.001%のN含有量および0.03%のN含有量での577℃における時間に対する逆オーステナイト形成を比較するJMaProソフトウェアシミュレーションである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
例示的な析出硬化ステンレス鋼合金が提供される。本開示の実施形態は、本明細書に開示される1つまたは複数の特徴を利用しない析出硬化ステンレス鋼合金と比較して、粒間腐食に対する感受性が低下され、逆オーステナイトの形成が低下され、脆化が低減され、破壊外観転移温度が低く、炭素と窒素の隔離が増加され、またはそれらの組み合わせを有する。
【0032】
一実施形態では、析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、14.0~16.0%のCr、6.0~7.0%のNi、1.25~1.75%のCu、0.5~1.0%のMo、0.40~0.85%のNb、0.025~0.05%のC、最大1.0%のMn、最大1.0%のSi、最大0.1%のV、最大0.1%のCo、最大0.1%のSn、最大0.02%のN、最大0.025%のP、最大0.05%のAl、最大0.008%のS、最大0.005%のAg、最大0.005%のPb、最大0.1%のAs、最大0.01%のSb、および残部のFeを含み、合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の比を有する。
【0033】
さらなる実施形態では、析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、14.0~16.0%のCr、6.0~7.0%のNi、1.25~1.75%のCu、0.5~1.0%のMo、0.40~0.85%のNb、0.025~0.05%のC、最大1.0%のMn、最大1.0%のSi、最大0.1%のV、最大0.1%のCo、最大0.1%のSn、最大0.02%のN、最大0.025%のP、最大0.05%のAl、最大0.008%のS、最大0.005%のAg、最大0.005%のPb、最大0.1%のAs、最大0.01%のSb、最大0.5%の追加元素の不可避不純物、あるいは最大0.4%の追加元素の不可避不純物、あるいは最大0.3%の追加元素の不可避不純物、あるいは最大0.2%の追加元素の不可避不純物、あるいは最大0.1%の追加元素の不可避不純物、あるいは最大0.05%の追加元素の不可避不純物、あるいは最大0.01%の追加元素の不可避不純物、および残部のFeからなり、合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の比を有する。追加元素の不可避不純物は、限定はしないが、チタンを含み得る。
【0034】
なおさらなる実施形態では、析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、14.0~16.0%のCr、6.0~7.0%のNi、1.25~1.75%のCu、0.5~1.0%のMo、0.40~0.85%のNb、0.025~0.05%のC、最大1.0%のMn、最大1.0%のSi、最大0.1%のV、最大0.1%のCo、最大0.1%のSn、最大0.02%のN、最大0.025%のP、最大0.05%のAl、最大0.008%のS、最大0.005%のAg、最大0.005%のPb、最大0.1%のAs、最大0.01%のSb、および残部のFeからなり、合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の比を有する。
【0035】
前述の実施形態のいずれかの場合のNb:(C+N)の比は、少なくとも15:1、例えば、限定はしないが、15:1~34:1の比、あるいは15:1~32:1の比、あるいは15:1~30:1の比、あるいは15:1~28:1の比、あるいは15:1~26:1の比、あるいは15:1~24:1の比、あるいは15:1~22:1の比、あるいは15:1~20:1の比、あるいは15:1~18:1の比、あるいは15:1~17:1の比、あるいは15:1~16:1の比、あるいは16:1~18:1の比、あるいは17:1~19:1の比、あるいは18:1~20:1の比、またはそれらの任意の部分範囲もしくは組み合わせの任意の適切な比であってもよい。
【0036】
オーステナイトは、本開示の析出硬化ステンレス鋼合金中、残留オーステナイトおよび逆オーステナイトの2つの形態で存在し得る。残留オーステナイトは、析出硬化ステンレス鋼合金の形成に耐え、形成過程でマルテンサイトに変換しないオーステナイトである。残留オーステナイトは、析出硬化ステンレス鋼合金の形成中の熱処理における適切な注意によって、または形成後極低温熱処理によって、析出硬化ステンレス鋼合金から低減または排除され得る。残留オーステナイトは、望ましくないが、それ自体を従来の方法によって対処することができる。しかし、逆オーステナイトは、熱処理中または析出硬化ステンレス鋼合金の初期形成後の熱への他の曝露中にマルテンサイトから形成され、形成後、冷却時にマルテンサイトに戻らないオーステナイトである。極低温処理および他の既知の方法は、合金を完全に再溶解することなく、逆オーステナイト含有量を首尾よく軽減しない。理論によって束縛されるものではないが、逆オーステナイトは合金中の炭素および窒素の存在によって安定化され、それによって逆オーステナイトがマルテンサイトに変換するのを防止すると考えられる。特に粒界に隣接する逆オーステナイトの形成は、粒間腐食に対する析出硬化ステンレス鋼合金の感受性を増加させる可能性がある。
【0037】
析出硬化ステンレス鋼合金は、15:1未満のNb:(C+N)の比較比を有する他の点では同一の比較合金と比較して、粒界に隣接する逆オーステナイトについての粒間腐食に対する感受性が低減され得る。析出硬化ステンレス鋼合金は、15:1未満のNb:(C+N)の比較比を有する他の点では同一の比較合金と比較して、熱処理中にほとんど逆オーステナイトを形成しないものであり得る。析出硬化ステンレス鋼合金中のCおよびNの少なくとも90%、あるいは少なくとも95%、あるいは少なくとも98%、あるいは少なくとも99%、あるいは少なくとも99.5%、あるいは少なくとも99.9%、あるいはすべては、Nb-C、Nb-N、およびNb-C-N種として隔離されていてもよい。
【0038】
図を参照すると、一実施形態では、析出硬化ステンレス鋼合金は、577℃で500分間の熱処理後に15:1未満のNb:(C+N)の比較比を有する他の点では同一の比較合金よりも、577℃で500分間の熱処理後に少なくとも25%少ない逆オーステナイトを有する。析出硬化ステンレス鋼合金は、577℃で500分間の熱処理後、16%未満の逆オーステナイトを含み、577℃で1000分間の熱処理後、25%未満の逆オーステナイトを含み、577℃で3000分間の熱処理後、35%未満の逆オーステナイトを含む。
【0039】
前述の実施形態のいずれかの析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、最大0.018%のN、あるいは最大0.016%のN、あるいは最大0.015%のN、あるいは最大0.014%のN、あるいは最大0.012%のN、あるいは最大0.010%のN、あるいは最大0.010%のN、あるいは最大0.008%のN、あるいは最大0.005%のN、またはそれらの任意の部分範囲もしくは組み合わせを有してもよい。
【0040】
前述の実施形態のいずれかの析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、0.03~0.05%のC、あるいは0.025~0.045%のC、あるいは0.03~0.045%のC、あるいは0.035~0.05%のC、あるいは0.035~0.045%のC、あるいは0.04~0.05%のC、あるいは0.04~0.045%のC、あるいは0.045~0.05%のC、またはそれらの任意の部分範囲もしくは組み合わせを有してもよい。
【0041】
前述の実施形態のいずれかの析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、最大0.9%のMn、あるいは最大0.8%のMn、あるいは最大0.7%のMn、あるいは最大0.6%のMn、あるいは最大0.5%のMn、あるいは最大0.4%のMn、あるいは最大0.3%のMn、あるいは0.2~0.5%のMn、あるいは0.2~0.3%のMn、あるいは0.3~0.4%のMn、あるいは0.4~0.5%のMn、またはそれらの任意の部分範囲もしくは組み合わせを有してもよい。
【0042】
前述の実施形態のいずれかの析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、最大0.9%のSi、あるいは最大0.8%のSi、あるいは最大0.7%のSi、あるいは最大0.6%のSi、あるいは最大0.5%のSi、あるいは最大0.4%のSi、あるいは最大0.3%のSi、あるいは0.2~0.5%のSi、あるいは0.2~0.3%のSi、あるいは0.3~0.4%のSi、あるいは0.4~0.5%のSi、またはそれらの任意の部分範囲もしくは組み合わせを有してもよい。
【0043】
前述の実施形態のいずれかの析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、最大0.09%のV、あるいは最大0.08%のV、あるいは最大0.07%のV、あるいは最大0.06%のV、あるいは最大0.05%のV、あるいは最大0.04%のV、あるいは最大0.03%のV、あるいは最大0.02%のV、あるいは最大0.01%のV、またはそれらの任意の部分範囲もしくは組み合わせを有してもよい。
【0044】
前述の実施形態のいずれかの析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、最大0.09%のSn、あるいは最大0.08%のSn、あるいは最大0.07%のSn、あるいは最大0.06%のSn、あるいは最大0.05%のSn、あるいは最大0.04%のSn、あるいは最大0.03%のSn、あるいは最大0.02%のSn、あるいは最大0.01%のSn、あるいは最大0.005%のSn、あるいは最大0.001%のSn、またはそれらの任意の部分範囲もしくは組み合わせを有してもよい。
【0045】
前述の実施形態のいずれかの析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、最大0.025%のP、あるいは最大0.02%のP、あるいは最大0.015%のP、あるいは最大0.01%のP、あるいは最大0.005%のP、あるいは最大0.001%のP、またはそれらの任意の部分範囲もしくは組み合わせを有してもよい。
【0046】
前述の実施形態のいずれかの析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、最大0.007%のS、あるいは最大0.006%のS、あるいは最大0.005%のS、あるいは最大0.004%のS、あるいは最大0.003%のS、あるいは最大0.002%のS、あるいは最大0.001%のS、またはそれらの任意の部分範囲もしくは組み合わせを有してもよい。
【0047】
前述の実施形態のいずれかの析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、最大0.09%のAs、あるいは最大0.08%のAs、あるいは最大0.07%のAs、あるいは最大0.06%のAs、あるいは最大0.05%のAs、あるいは最大0.04%のAs、あるいは最大0.03%のAs、あるいは最大0.02%のAs、あるいは最大0.01%のAs、あるいは最大0.005%のAs、あるいは最大0.001%のAs、またはそれらの任意の部分範囲もしくは組み合わせを有してもよい。
【0048】
前述の実施形態のいずれかの析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、最大0.009%のSb、あるいは最大0.008%のSb、あるいは最大0.007%のSb、あるいは最大0.006%のSb、あるいは最大0.005%のSb、あるいは最大0.004%のSb、あるいは最大0.003%のSb、あるいは最大0.002%のSb、あるいは最大0.0015%のSb、あるいは最大0.001%のSb、またはそれらの任意の部分範囲もしくは組み合わせを有してもよい。
【0049】
本明細書に開示されるC、Mn、Si、V、Sn、N、P、S、As、およびSbの狭い範囲のいずれかは、任意の組み合わせでこれらの元素の他の狭い範囲と組み合わせることができ、得られた範囲の組み合わせは、本明細書に開示される析出硬化ステンレス鋼合金の実施形態のいずれにも適用することができることが具体的に開示される。
【0050】
本開示の範囲を限定するものではないが、1つの例示的な析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、14.0~16.0%のCr、6.0~7.0%のNi、1.25~1.75%のCu、0.5~1.0%のMo、0.40~0.85%のNb、0.025~0.045%のC、あるいは0.030~0.045%のC、0.2~0.5%のMn、0.2~0.5%のSi、最大0.05%のV、最大0.1%のCo、最大0.01%のSn、最大0.01%のN、最大0.01%のP、最大0.05%のAl、最大0.005%のS、最大0.005%のAg、最大0.005%のPb、最大0.1%のAs、最大0.01%のSb、および残部のFeを含み、合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の比を有する。別の例示的な析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、14.0~16.0%のCr、6.0~7.0%のNi、1.25~1.75%のCu、0.5~1.0%のMo、0.40~0.85%のNb、0.025~0.045%のC、あるいは0.030~0.045%のC、0.2~0.5%のMn、0.2~0.5%のSi、最大0.05%のV、最大0.1%のCo、最大0.01%のSn、最大0.01%のN、最大0.01%のP、最大0.05%のAl、最大0.005%のS、最大0.005%のAg、最大0.005%のPb、最大0.1%のAs、最大0.01%のSb、最大0.5%の追加元素の不可避不純物、あるいは最大0.4%の追加元素の不可避不純物、あるいは最大0.3%の追加元素の不可避不純物、あるいは最大0.2%の追加元素の不可避不純物、あるいは最大0.1%の追加元素の不可避不純物、あるいは最大0.05%の追加元素の不可避不純物、あるいは最大0.01%の追加元素の不可避不純物、および残部のFeからなり、合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の比を有する。さらに別の例示的な析出硬化ステンレス鋼合金は、重量で、14.0~16.0%のCr、6.0~7.0%のNi、1.25~1.75%のCu、0.5~1.0%のMo、0.40~0.85%のNb、0.025~0.045%のC、あるいは0.030~0.045%のC、0.2~0.5%のMn、0.2~0.5%のSi、最大0.05%のV、最大0.1%のCo、最大0.01%のSn、最大0.01%のN、最大0.01%のP、最大0.05%のAl、最大0.005%のS、最大0.005%のAg、最大0.005%のPb、最大0.1%のAs、最大0.01%のSb、および残部のFeからなり、合金は、少なくとも15:1のNb:(C+N)の比を有する。
【0051】
一実施形態では、析出硬化ステンレス鋼合金は、最大0.045%のC、最大0.5%のMn、最大0.5%のSi、最大0.05%のV、最大0.01%のSn、最大0.01%のN、最大0.01%のP、最大0.005%のS、最大0.01%のAs、および最大0.002%のSbを含み、合金は、0.045%超のC、0.5%超のMn、0.5%超のSi、0.05%超のV、0.01%超のSn、0.01%超のN、0.01%超のP、0.005%超のS、0.01%超のAs、0.002%超のSb、またはそれらの組み合わせを有する他の点では同一の比較合金と比較して、脆化が低減されている。
【0052】
一実施形態では、析出硬化ステンレス鋼合金は、最大0.045%のC、最大0.5%のMn、最大0.5%のSi、最大0.05%のV、最大0.01%のSn、最大0.01%のN、最大0.01%のP、最大0.005%のS、最大0.01%のAs、および最大0.002%のSbを含み、合金は、0.045%超のC、0.5%超のMn、0.5%超のSi、0.05%超のV、0.01%超のSn、0.01%超のN、0.01%超のP、0.005%超のS、0.01%超のAs、0.002%超のSb、またはそれらの組み合わせを有する他の点では同一の比較合金と比較して、破壊外観転移温度が低い。
【0053】
析出硬化ステンレス鋼合金について好ましい実施形態を参照して説明してきたが、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、またその要素を等価物で置き換えることができることは、当業者には理解されるであろう。加えて、本開示の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本開示の教示に適応させるために、多くの修正を行うことができる。したがって、本開示は、本技術を実施するために企図される最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示は、添付の特許請求の範囲内に入るすべての実施形態を含むことが意図されている。
【外国語明細書】