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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169469
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ヘルメット
(51)【国際特許分類】
   A42B 3/12 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
A42B3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071661
(22)【出願日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2021075061
(32)【優先日】2021-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592244789
【氏名又は名称】株式会社オージーケーカブト
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】特許業務法人安田岡本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】上辻 友美
(72)【発明者】
【氏名】小山 由朗
【テーマコード(参考)】
3B107
【Fターム(参考)】
3B107AA01
3B107CA02
3B107DA03
(57)【要約】
【課題】ヘルメットにおいて使用者の頭部に面する帽体の内側の防汚性を良好なものとする。
【解決手段】本発明のヘルメット1は、使用者の頭部を保護する帽体2を備えたヘルメット1であって、帽体2は、硬質合成樹脂で形成されたアウターシェル層5と、アウターシェル層5の内側に配備されると共にアウターシェル層5より厚肉に発泡樹脂で形成された衝撃吸収層6と、衝撃吸収層6の内側に配備されると共に衝撃吸収層6よりも薄肉に形成されたインナーシェル層7と、を備え、最外から最内までの間に、アウターシェル層5、衝撃吸収層6、及びインナーシェル層7を含む3以上の層が積層されており、インナーシェル層7が難接着性樹脂で形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の頭部を保護する帽体を備えたヘルメットであって、
前記帽体は、
硬質合成樹脂で形成されたアウターシェル層と、
前記アウターシェル層の内側に配備されると共に前記アウターシェル層より厚肉に発泡樹脂で形成された衝撃吸収層と、
前記衝撃吸収層の内側に配備されると共に前記衝撃吸収層よりも薄肉に形成されたインナーシェル層と、を備え、
最外から最内までの間に、前記アウターシェル層、衝撃吸収層、及びインナーシェル層を含む3以上の層が積層されており、
前記インナーシェル層が難接着性樹脂で形成されていることを特徴とするヘルメット。
【請求項2】
前記衝撃吸収層とインナーシェル層との間に、接着剤が硬化した接着剤層がさらに形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のヘルメット。
【請求項3】
前記難接着性樹脂が、防汚性を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のヘルメット。
【請求項4】
前記難接着性樹脂が、耐候性を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のヘルメット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性に優れると共に内側に良好な防汚性を備え、さらには、前述の衝撃吸収性の経年劣化を可及的に防止可能なヘルメットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自転車に乗車する使用者の頭部を保護する目的で自転車用またはサイクリング用のヘルメットが用いられている。これらのヘルメットは、硬質なポリカーボネートやABS樹脂などで形成された最外層の内側に、EPSやEPOなどの発泡樹脂層を設けており、これらの複合層により衝撃から使用者の頭部を保護可能となっている。
例えば、特許文献1には、グラスファイバーなどの硬質樹脂のシェルの内側に発泡スチロールで形成された発泡スチロール層を設け、発泡スチロール層の内側に弾性突起を有するライナーを設けたヘルメットが開示されている。このライナーは、ゴムや低密度ポリエチレンで形成されており、突起先端が頭髪の間を通り抜け頭皮に粘着することで、頭髪の乱れを防止しつつ使用者の頭部を保護可能となっている。
【0003】
また、特許文献2には、半硬質の発泡スチロール層2を薄く内貼した硬質のポリカーボネート層1からなる椀状帽芯Aの外側面に椀状被覆3、内側面に周縁部4及び弧形頂部5をそれぞれ接着し、被覆3、周縁部4および頂部5を悉くエチレン酢酸ビニル共重合体の混合材による均密な発泡成型層Bによって形成したヘルメットが開示されている。この特許文献2のヘルメットも、硬質のポリカーボネート層と、エチレン酢酸ビニル共重合体の発泡層との複合層により使用者の頭部を保護可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63-64729号公報
【特許文献2】実開昭49-52725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年は、自転車のみならず、さまざまなアウトドアスポーツに上述したヘルメットが用いられるようになっている。
例えば、岩壁を登攀するロッククライミング、急流をカヌーやゴムボートで下るラフティング、ライフジャケットを着用したまま滝などを下り降りるキャニオリングなどの各種アウトドアスポーツ、またパラグライダー、ハングライダー、バンジージャンプ、さらには「ゾービング」や「ジップライン」などのさまざまな屋外型のアクティビティなどにも、上述したヘルメットは用いられる。
【0006】
このようなアウトドアスポーツでヘルメットを用いる場合、従来とは異なりヘルメットが泥などで汚れる機会が多い。また、自転車の場合でも、ぬかるんだアウトドアコースをマウンテンバイクで走行するオフロード型のサイクリングスポーツでは、転倒などをした際にはヘルメットが汚れる可能性は大きい。
ここで、従来のヘルメットの外側は、ポリカーボネートなどで形成されており、泥などの汚れがつきにくい。しかし、頭部に面する内側は、発泡素材が剥き出しとされている場合が多く、良好な防汚性を備えていない場合がほとんどであり、一旦汚れが付着すると落ち難く、アウトドアスポーツでの使用に求められる防汚性を満足できないことが多い。
【0007】
例えば、特許文献1のヘルメットは、スポンジのような多孔質部材やマクロな凹凸構造
が使用者の頭部に面する内側に露出状態で設けられており、付着した汚れが落ちにくく、明らかに防汚性が良くないと考えられる。
また、特許文献2のヘルメットも、エチレン酢酸ビニル共重合体の発泡層が使用者の頭部に面する内側に露出状態で設けられており、汚れが付きやすく、取れにくい構造となっている。
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、使用者の頭部に面する内側の防汚性が良好なヘルメットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のヘルメットは以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明のヘルメットは、使用者の頭部を保護する帽体を備えたヘルメットであって、前記帽体は、硬質合成樹脂で形成されたアウターシェル層と、前記アウターシェル層の内側に配備されると共に前記アウターシェル層より厚肉に発泡樹脂で形成された衝撃吸収層と、前記衝撃吸収層の内側に配備されると共に前記衝撃吸収層よりも薄肉に形成されたインナーシェル層と、を備え、最外から最内までの間に、前記アウターシェル層、衝撃吸収層、及びインナーシェル層を含む3以上の層が積層されており、前記インナーシェル層が難接着性樹脂で形成されていることを特徴とする。
【0010】
なお、好ましくは、前記衝撃吸収層とインナーシェル層との間に、接着剤が硬化した接着剤層が形成されているとよい。
なお、好ましくは、前記難接着性樹脂が、防汚性を備えているとよい。
なお、好ましくは、前記難接着性樹脂が、耐候性を備えているとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、使用者の頭部に面する内の防汚性が良好であって、さらに、衝撃吸収性の経年劣化を可及的に防止可能なヘルメットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の帽体を備えたヘルメットを示した斜視図である。
図2図1のヘルメットを前後方向に沿って上下に切断した場合の断面図である。
図3図2のA部分を拡大した拡大断面図である。
図4】耐候試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のヘルメット1の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1は、本実施形態のヘルメット1を模式的に示したものである。
図1に示すように、本実施形態のヘルメット1は、自転車に乗車する使用者の頭部に装着されて、衝撃から使用者の頭部を保護する機能を備えている。また、本実施形態のヘルメット1は、内側の防汚性に優れた特性を利用して、泥などの汚れが付着しやすいアウトドアスポーツ、例えばロッククライミング、ラフティング、キャニオリング、パラグライダー、ハングライダーなどのアウトドアスポーツや、バンジージャンプ、「ゾービング」や「ジップライン」などのアウトドア型のアクティビティなどに使用される。
【0014】
具体的には、本実施形態のヘルメット1は、使用者の頭部を保護する帽体2と、帽体2の両側に設けられて使用者の両耳をそれぞれ保護する左右一対の耳あて3、3と、を備えている。
上述した帽体2は、上方に向かって膨出した略半球状に形成されており、使用者の頭部を被覆可能となっている。具体的には、本実施形態のヘルメット1の帽体2は、額から頭頂を経由して後頭部までの領域であって、左耳のすぐ上側の側頭部から、頭頂を経由して
右耳のすぐ上側の側頭部までの領域を被覆可能となっている。
【0015】
また、帽体2の左右両側の端縁は、両耳を回避するように上方に向かって膨らむように緩やかに湾曲しており、この湾曲した部分に顎紐と耳あて3とが取り付けられている。
さらに、帽体2は、後述するアウターシェル層5、衝撃吸収層6、及びインナーシェル層7を含む3以上の層が積層された積層構造を備えている。なお、この積層構造については、後述する。
【0016】
上述した帽体2の左右両側の端縁には、顎紐を連結可能なジョイント8が設けられている。このジョイント8は、前部と後部とに1個ずつ、合わせて左側に2個、右側に2個設けられている。これらの前後の1組のジョイント8、8で、二俣状に分岐した顎紐の端部をそれぞれ固定可能となっている。
顎紐は、図示を省略するが、ポリエステルなどの合成樹脂でテープ状に形成されており、帽体2の左側の端縁と、帽体2の右側の端縁と、を左右方向に結んでいる。顎紐の左右方向の中途側には、左右の顎紐、4を着脱自在に連結する顎紐バックルが設けられており、連結を解除してヘルメット1の着用時や脱離時に便利なようになっている。
【0017】
上述した顎紐の二俣状に分岐した端部には、使用者の耳を保護する耳あて3が取り付けられている。耳あて3は、スナップボタン10を用いて顎紐に着脱自在に取り付けられており、左右両側の使用者の耳殻(耳介)をそれぞれ外側から覆えるようになっている。具体的には、耳あて3は、内側から見ると、中央が左右方向の外側に向かって凹んだ略円盤状の部材であり、凹んだ部分に耳殻(耳介)を差し込むようにして、使用者の耳を保護可能となっている。耳あて3は、硬質な樹脂で形成された外側のハードカバー11と、ハードカバー11の内側に配備された軟質な樹脂で形成されたクッション材12と、を有している。このようなハードカバー11を設けることで、耳をケガから保護することが可能となる。また、クッション材12を耳殻の周囲を取り囲むように設けることで、耳殻が接触しても耳殻が痛くならないようなソフトな付け心地を実現可能となっている。
【0018】
ところで、本発明のヘルメット1は、上述した帽体2が、硬質合成樹脂で形成されたアウターシェル層5と、アウターシェル層5の内側に配備されると共にアウターシェル層5より厚肉に発泡体で形成された衝撃吸収層6と、衝撃吸収層6の内側に配備されると共に衝撃吸収層6よりも薄肉に形成されたインナーシェル層7と、を備えていることを特徴としている。さらに、本発明のヘルメット1は、帽体2における最外から最内までの間に、アウターシェル層5、衝撃吸収層6、及びインナーシェル層7を含む3以上の層が積層された構造となっており、その中でもインナーシェル層7が難接着性樹脂で形成されていることを特徴している。
【0019】
具体的には、上述したアウターシェル層5は、硬質の合成樹脂で上方に向かって膨出する半球状に形成されている。アウターシェル層5を構成する硬質の合成樹脂としては、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂などを用いることができる。アウターシェル層5にはデザイン性を高めるために適宜印刷や塗装が施されており、また0.3mm~5.0mm程度の厚みに形成されている。
【0020】
なお、帽体2の左右方向の中間には、前後方向に等間隔をあけて通気部13が4つ設けられている。この通気部13は、上述したアウターシェル層5から、衝撃吸収層6を貫通して、インナーシェル層7に達するように形成された孔部であり、ヘルメット内にこもった熱気や湿気などを外部に放出して、ヘルメット1を快適に着用できるようになっている。そして、上述したアウターシェル層5は、通気部13の開口縁に沿って内側に湾曲するように折り曲げられており、開口縁で手指が傷ついたり物が切れたりすることがないように配慮されている。
【0021】
衝撃吸収層6は、アウターシェル層5の内側に、ポリスチレン樹脂の発泡体(EPS)、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂の発泡体(EPO)、ポリウレタン樹脂の発泡体(EPU)などで形成されている。衝撃吸収層6を上述した発泡体で形成すれば、衝撃によりアウターシェル層5が破損して帽体2の内側に衝撃が及んだ場合も、発泡体が衝撃を吸収して使用者の頭部に大きな衝撃が及ばないようになっている。
【0022】
また、衝撃吸収層6は、通気部13を除く帽体2のほぼすべての場所で均一な厚みに形成されている場合が多いが、損傷しやすい前側や、より厳重な保護が必要な後側の厚みが厚くされていてもよい。図例の衝撃吸収層6の場合であれば、前側が他の箇所よりもやや厚く形成されている。
さらに、衝撃吸収層6は、JIS 8134(2017年)「自転車用ヘルメット」に規定された「衝撃吸収性」の性能で、衝撃吸収性の評価が合格になるように、10mm~50mm程度の厚みに形成されており、使用者の頭部に対する衝撃を確実に吸収できるようになっている。
【0023】
インナーシェル層7は、衝撃吸収層6の内側に配備された部材であり、薄い膜状またはシート状に形成されている。インナーシェル層7は、通気部13を除く帽体2の内側全面を被覆するように形成されており、難接着性樹脂、つまり泥、砂、土、皮脂(油脂)、植物の樹液などの異物(汚れ)が付着し難い防汚性に優れる合成樹脂で形成されている。
なお、この難接着性樹脂には、防汚性以外にも、使用者の頭部が触れても不快感を与えないような柔軟性、さまざまな使用環境で使用しても変質しないような耐薬品性、特に好ましくは屋外の使用でも性質が落ちにくい耐候性などが従来の樹脂よりも優れる樹脂を用いるのが良い。このような難接着性樹脂の例として、例えばTPO(熱可塑性オレフィン系エラストマー)を用いることができる。TPOは、防汚性や撥水性に富み上述した汚れが付着しにくい。また、耐薬品性や耐候性にも優れるため長期間に亘って使用しても変質しにくい。加えて、衝撃吸収層6の内側の表面を被覆することで衝撃吸収層6の経年劣化も抑制するので、ヘルメット1の衝撃吸収性の経年劣化を防止するができる。
【0024】
上述したインナーシェル層7をTPOなどの難接着性樹脂を用いて形成すると、内側の衝撃吸収層6に対しても接着性が低下する。そのため、本発明のヘルメット1では、インナーシェル層7と衝撃吸収層6との間に両層を高強度で接合させる接合手段を設けるのが好ましい。
なお、上述した難接着性樹脂としては、TPO(熱可塑性オレフィン系エラストマー)以外にも、オレフィン系以外の熱可塑性エラストマー、PC(ポリカーボネート)、ABS(アクリルニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)、熱可塑性エラストマーフォームなどを用いても良い。
【0025】
このような接合手段としては、インナーシェル層7と衝撃吸収層6との間に物理的な凹凸構造を形成し、嵌合させる手段などを考えることができる。また、マジックテープ(登録商標)、スナップボタン、ボルトなどを用いて両層を接合する手段などを考えることもできる。しかし、最も好ましい接合手段としては、接着剤層を1層または2層設ける手段を挙げることができる。このような接着剤層を1層または2層設ける接合手段は、インナーシェル層7と衝撃吸収層6とを射出成形で一度に作るのに合わせて設けることができるため、加工の手間を考えた場合に最も効果的であるからである。
【0026】
ところで、本願発明のヘルメット1が奏する作用効果として「衝撃吸収層6の内側の表面をインナーシェル層7にて被覆することで、衝撃吸収層6の経年劣化を抑制するので、ヘルメット1の衝撃吸収性の経年劣化を防止するができる」ことが挙げられる。出願人は
、この作用効果に関して試験を行っている。その結果(試験結果)について述べる。
前述した通りであるが、インナーシェル層7は、衝撃吸収層6の内側に配備された部材であり、薄い膜状またはシート状に形成されている。インナーシェル層7は、通気部13を除く帽体2の内側全面を被覆するように形成されており、難接着性樹脂、つまり泥、砂、土、皮脂や油脂、植物の樹液などの汚れが付着し難い防汚性に優れる合成樹脂で形成されている。
【0027】
この難接着性樹脂には、防汚性以外にも、屋外の使用でも性質が落ちにくい耐候性などが従来の樹脂よりも優れる樹脂を用いるのがよい。このような難接着性樹脂として、TPO(熱可塑性オレフィン系エラストマー)を用いることができる。TPOは耐薬品性や耐候性にも優れるため、長期間に亘って使用しても変質しにくい。加えて、衝撃吸収層6の内側の表面を被覆することで衝撃吸収層6の経年劣化も抑制するので、ヘルメット1の衝撃吸収性の経年劣化を防止するができる。
【0028】
上記のことを明らかにする試験として、衝撃吸収性比較試験(耐候性試験前後での衝撃吸収性比較試験)を行った。
試験片としては、以下の4つを準備した。すなわち、試験片(1)~試験片(4)を用意した。
・試験片(1):衝撃吸収層6にインナーシェル層7を配備した部材(EPS+TPO、耐候性試験前)
・試験片(2):衝撃吸収層6にインナーシェル層7が無配備の部材(EPS、耐候性試験前)
・試験片(3):衝撃吸収層6にインナーシェル層7を配備した部材(EPS+TPO、耐候性試験後)
・試験片(4):衝撃吸収層6にインナーシェル層7が無配備の部材(EPS、耐候性試験後)
全ての試験片の大きさは、縦60mm×横100mm×厚み20mmである。
実施した衝撃吸収性比較試験、それに先立ち行う耐候性試験は、以下の通りである。
まず、前処理として行う耐候性試験は、表1に示すような条件下で行った。
【0029】
【表1】

図4は、耐候性試験後における試験片の表面状態を撮影した写真である。図4下図に示す比較例(試験片(4))から明らかなように、衝撃吸収層6にインナーシェル層7を配備していない試験片は、耐候性試験を経て、衝撃吸収層6の表面が荒れた状態となり、明らかに劣化が進んでいることが確認できる。
一方で、図4上図に示す実施例から明らかなように、衝撃吸収層6にインナーシェル層7を配備した試験片(試験片(3))は、表面の状態は殆ど変わっておらず、劣化しずらく耐候性に富んでいることがわかる。
【0030】
前処理後は、試験片(1)~試験片(4)に対し、衝撃吸収性比較試験を行った。衝撃吸収性比較試験の条件は、次の通りである。
・試験片サイズは、縦60mm×横100mm×厚み20mm(前述の通り)
・試験片は、前述の4種類(試験片(1)~試験片(4))
・試験設備はJIS T8134-2018(自転車用ヘルメット)の7.3.5に規定されるガイドワイヤ誘導落下装置を使用した。
・試験片を人頭を模した重錘に取り付け、鋼製半球形アンビル(半径50±2mm)上に落下させ、重錘の重心での衝撃加速度を比較した。
・落下高さは1.0m、試験回数は1回とした。
結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

試験片(2)に対して試験片(4)の衝撃吸収性能は下がっており、その低下率は24.6%である。試験片(1)に対して試験片(3)の衝撃吸収性能は下がっているものの、その低下率は7.4%である。すなわち、耐候試験後はどちらの試験片も衝撃吸収性能が下がっているが、本発明の構成を備えた試験片(インナーシェル層7ありの試験片)の方が、衝撃吸収性能の下げ幅が小さいことは明らかである。
つまり、本発明のヘルメットでは、「衝撃吸収層6の内側の表面をインナーシェル層7にて被覆することで、衝撃吸収層6の経年劣化を抑制するので、ヘルメット1の衝撃吸収性の経年劣化を防止するができる」といった効果が十分奏されることが明らかとなった。
【0032】
なお、衝撃加速度の値自体に着目すれば、試験片(2)、試験片(4)で300G付近の数値が出るが、試験片(1)、試験片(3)では、270G付近の数値であって30Gほど衝撃加速度の数値が低いものとなっている。これは、インナーシェル層7による底づき防止効果(インナーシェル層7が衝撃吸収層6を保護する効果)によるものと推測される。
【0033】
以上述べたように、本発明のヘルメット1は、使用者の頭部を保護する帽体2を備え、この帽体2は、硬質合成樹脂で形成されたアウターシェル層5と、アウターシェル層5の内側に配備されると共にアウターシェル層5より厚肉に発泡樹脂で形成された衝撃吸収層6と、衝撃吸収層6の内側に配備されると共に衝撃吸収層6よりも薄肉に形成されたインナーシェル層7とを備えた構成となっている。このように、衝撃吸収層6の内側の表面をインナーシェル層7にて被覆することで、衝撃吸収層6の耐候性が上がるため、ヘルメット1の衝撃吸収性の経年劣化を抑制することが可能となっている。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0034】
例えば、上述した実施形態では自転車用やアウトドアスポーツ用のヘルメットを例に挙
げて本発明のヘルメット1を説明した。しかし、本発明のヘルメット1は、オートバイなどの自動二輪用のヘルメットであっても良いし、カーレースなどで自動車に乗る場合に用いる自動車用のヘルメットものであっても良い。
【符号の説明】
【0035】
1 ヘルメット
2 帽体
3 耳あて
5 アウターシェル層
6 衝撃吸収層
7 インナーシェル層
8 バックル
10 スナップボタン
11 ハードカバー
12 クッション材
13 通気部
図1
図2
図3
図4