(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169483
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】多相電解質膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20221101BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20221101BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20221101BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20221101BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20221101BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/13
H01B1/06 A
H01B1/08
H01B1/10
H01B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072676
(22)【出願日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】63/180150
(32)【優先日】2021-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/365441
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】朱 韵▲とん▼
(72)【発明者】
【氏名】ヒンリチャー ジェシー
(72)【発明者】
【氏名】フッド ザカリー
(72)【発明者】
【氏名】ミアラ リンカーン
(72)【発明者】
【氏名】李 興燦
(72)【発明者】
【氏名】張 元碩
(72)【発明者】
【氏名】ラップ ジェニファー
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA05
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA28
5G301CD01
5G301CE01
5H029AJ03
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5H050AA08
5H050BA15
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5H050CB08
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5H050GA10
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】高エネルギー密度の固体電池用の改善された固体電解質に対して、依然ニーズがある。
【解決手段】多相電解質膜は、金属酸化物を含む第1の相であって、前記金属酸化物は、非晶質、結晶質、またはガラスである、第1の相と、空気中で200℃を超える分解温度を有するリチウム塩またはハロゲン化リチウムを含む第2の相と、を含む。第1の相は、第2の相に分散され、5から200nmの平均粒子直径を有する。また、電解質膜の製造方法について開示した。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相電解質膜であって、
金属酸化物を含む第1の相であって、前記金属酸化物は、非晶質、結晶質、またはガラスである、第1の相と、
空気中での分解温度が200℃を超えるリチウム塩またはハロゲン化リチウムを含む第2の相と、
を有し、
前記第2の相は、前記第1の相に分散され、5から200nmの平均粒子サイズを有する、多相電解質膜。
【請求項2】
前記膜は、固体基板上に配置される、請求項1に記載の多相電解質膜。
【請求項3】
前記リチウム塩は、LiNO3、Li2SO4、Li3PO4、LiF、LiCl、LiBr、LiOH、LiClO4、Li3N、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の多相電解質膜。
【請求項4】
前記第2の相は、さらに、LiN3を有する、請求項3に記載の多相電解質膜。
【請求項5】
前記金属酸化物は、非晶質である、請求項1に記載の多相電解質膜。
【請求項6】
前記金属酸化物は、La、Zr、Hf、Si、Ti、Ca、Mg、Y、Ta、Al、Ce、Ta、Ga、Nd、またはDyの1つ以上を含む、請求項1に記載の多相電解質膜。
【請求項7】
前記金属酸化物は、La、Zr、およびAlの非晶質酸化物である、請求項6に記載の多相電解質膜。
【請求項8】
前記膜は、30℃で0.1mS/cmを超えるリチウム伝導度を有する、請求項1に記載の多相電解質膜。
【請求項9】
前記第1の相は、La、Zr、およびAlの非晶質金属酸化物を有し、
前記第2の相は、20から100nmの平均結晶子サイズを有するLiNO3またはLi3Nを有し、
当該多相電解質膜は、30℃で0.1から0.5mS/cmを超えるリチウム伝導度を有する、請求項1に記載の多相電解質膜。
【請求項10】
前記膜は、1から50μmの厚さを有する、請求項1に記載の多相電解質膜。
【請求項11】
さらに、第3の相を有し、
該第3の相は、前記第2の相のリチウム塩、リチウム酸化物、またはその両方とは異なる、請求項1に記載の多相電解質膜。
【請求項12】
多相電解質膜を製造する方法であって、
当該方法は、
混合物を提供するステップであって、前記混合物は、
リチウム源、および
一つ以上の金属酸化物前駆体
を有する、ステップと、
150から500℃の温度で、固体基板上に前記混合物をスプレーし、前記多相電解質膜を提供するステップと、
を有し、
前記多相電解質膜は、
金属酸化物を含む第1の相であって、前記酸化物は、非晶質、結晶質、またはガラスである、第1の相と、
空気中での分解温度が200℃を超えるリチウム塩またはハロゲン化リチウムを含む第2の相と、
を有し、
前記第2の相は、前記第1の相に分散され、5から200nmの平均粒子サイズを有する、方法。
【請求項13】
前記リチウム源は、LiNO3、LiN3、Li2SO4、Li3PO4、LiF、LiCl、LiBr、LiOH、またはLiClO4の1つ以上である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化物前駆体は、La、Zr、Hf、Si、Ti、Ca、Mg、Y、Ta、Al、Ce、Ta、Ga、NdもしくはDyの1つ以上の硝酸塩または酢酸塩を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記固体基板は、ホウケイ酸塩、炭素、ポリイミド、金属、金属合金、または金属酸化物を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
多相電解質膜を製造する方法であって、
当該方法は、
1つ以上の金属酸化物前駆体および第1の溶媒を含む第1の前駆体混合物を提供するステップと、
リチウム源および第2の溶媒を含む第2の前駆体混合物を提供するステップと、
150から500℃の温度で、固体基板上に前記第1の前駆体混合物および前記第2の前駆体混合物をスプレーして、前記多相電解質膜を提供するステップと、
を有し、
前記多層電解質は、
金属酸化物を含む第1の相であって、前記酸化物は、非晶質、結晶質、またはガラスである、第1の相と、
空気中での分解温度が200℃を超えるリチウム塩またはハロゲン化リチウムを含む第2の相と、
を有し、
前記第2の相は、前記第1の相に分散され、5から200nmの平均粒子サイズを有する、方法。
【請求項17】
前記1つ以上の金属酸化物前駆体は、La、Zr、Hf、Si、Ti、Ca、Mg、Y、Ta、Al、Ce、Ta、Ga、NdもしくはDyの1つ以上の硝酸塩または酢酸塩を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記リチウム源は、LiNO3、LiN3、Li2SO4、Li3PO4、LiF、LiCl、LiBr、LiOH、またはLiClO4の1つ以上である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記固体基板は、ホウケイ酸塩、炭素、ポリイミド、金属、金属合金、または金属酸化物を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
電気化学セルであって、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極の間の電解質層と、
を有し、
前記正極、前記負極、または前記電解質層の少なくとも1つは、請求項1に記載の多相電解質膜を有する、電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、米国特許商標庁に2021年4月27日に出願された米国仮特許出願第63/180,150号、およびそれから生じる35U.S.C.119条に基づく全ての利益に対する優先権を主張するものであり、その内容は、参照によりその全体が本願に組み込まれる。
【0002】
本願は、多相電解質膜に関する。また、多相電解質膜、および該多相電解質膜を有する固体電気化学セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム電池は、改善された比エネルギーおよびエネルギー密度、改善された安全性、およびある構成では、改善された電力密度が潜在的に提供されるため、興味深い。固体リチウム電池のエネルギー密度を改善するため、負極としてリチウム金属を使用することが注目されている。しかしながら、利用可能な固体電解質のリチウム伝導度は、液体代替物よりもかなり低く、高いイオン伝導度(例えば、1ミリジーメンス/cmを超える)を有するものは、リチウム金属の存在下では、好適に安定ではない。また、改善された安全性を提供するため、空気に対して改善された安定性が提供される材料が望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高エネルギー密度の固体電池用の改善された固体電解質に対して、依然ニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
多相電解質膜、その製造方法、および多相電解質膜を含む電気化学セルが開示される。
【0006】
ある態様では、多相電解質は、金属酸化物を含む第1の相を有し、前記酸化物は、非晶質、結晶質、またはガラスであり、多相電解質は、空気中での分解温度が200℃を超えるリチウム塩、またはハロゲン化リチウムを含む第2の相を有し、前記第2の相は、第1の相に分散され、5から200nmの平均粒子径を有する。
【0007】
ある態様では、多相電解質膜を製造する方法は、
リチウム源と、1つ以上の金属酸化物前駆体と、を含む混合物を提供するステップと、
150から500℃の温度で、前記混合物を固体基板上にスプレーして、多相電解質膜を提供するステップと、を有し、
前記多相電解質膜は、金属酸化物を含む第1の相を有し、前記酸化物は、非晶質、結晶質、またはガラスであり、
前記多相電解質膜は、空気中での分解温度が200℃を超えるリチウム塩、またはハロゲン化リチウムを含む第2の相を有し、前記第2の相は、前記第1の相に分散され、5から200nmの平均粒子径を有する。
【0008】
ある態様では、電気化学セルは、正極、負極、および正極と負極との間の電解質層と、を有し、前記正極、前記負極、または前記電解質層の少なくとも1つは、前記多相電解質膜を有する。
【0009】
以下の図面および詳細な説明には、前述の特徴および他の特徴が例示される。
【0010】
以下の図面は、同様の要素が同様の符号で示されている例示的な態様である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】重量ロス(重量%、wt%)および熱流(ワット/グラム、W/g)と温度の間のグラフであり、合成空気下における、10℃/分の昇温速度での室温から1000℃までのLiNO
3の熱重量分析(TGA)、および示差走査熱量測定(DSC)の結果を示した図である。
【
図4】熱流(任意単位、a.u.)と温度(℃)の間のグラフであり、合成空気下における、10℃/分の昇温速度での室温から800℃までのas成膜(成膜まま)の膜の示差走査熱量測定分析(DSC)の結果を示したグラフである。
【
図5】強度(a.u.)と波数(cm
-1)の間のグラフであり、as成膜の膜、立方晶および正方晶の相のAlドープLi-ガーネット参照サンプル(Li
6.25Al
0.25La
3Zr
2O
12)、ならびにLa
2Zr
2O
7参照サンプルのラマンスペクトルを示した図である。as成膜の膜では、結晶相は観測されない。
【
図6】強度(a.u.)と結合エネルギー(電子ボルト、eV)の間のグラフであり、as成膜の膜(300℃で塗布)、および630℃でアニールした膜における、N
1s領域のX線光電子分光(XPS)分析の結果を示した図である。as成膜の膜の407.5電子ボルト(eV)におけるピークは、NO
3
-のN
1s結合エネルギーに対応する。
【
図7A】等温保持時間0.0秒(s)における、275℃でのLiNO
3の溶融、およびAl、La、およびZrの酸化物への浸透のin-situ高解像度透過電子顕微鏡(HR-TEM)分析の結果を示した図である。
【
図7B】等温保持時間3.7秒(s)における、275℃でのLiNO
3の溶融、およびAl、La、およびZrの酸化物への浸透のin-situ高解像度透過電子顕微鏡(HR-TEM)分析の結果を示した図である。
【
図7C】等温保持時間6.5秒(s)における、275℃でのLiNO
3の溶融、およびAl、La、およびZrの酸化物への浸透のin-situ高解像度透過電子顕微鏡(HR-TEM)分析の結果を示した図である。
【
図7D】等温保持時間7.5秒(s)における、275℃でのLiNO
3の溶融、およびAl、La、およびZrの酸化物への浸透のin-situ高解像度透過電子顕微鏡(HR-TEM)分析の結果を示した図である。
【
図7E】等温保持時間8.4秒(s)における、275℃でのLiNO
3の溶融、およびAl、La、およびZrの酸化物への浸透のin-situ高解像度透過電子顕微鏡(HR-TEM)分析の結果を示した図である。
【
図8】導電率×温度の自然対数(ln(σT)、ln(SKm
-1)の単位で記載)と温度(℃、上スケール)または温度の逆数(1000/ケルビン(K)、下スケール)のグラフであり、78℃、113℃、151℃、188℃、225℃および263℃で測定したリチウムイオン伝導度により、as成膜後の膜のアレニウス分析の結果を示した図である。
【
図9】、多孔質ガラス繊維基板上にLiN
3塩前駆体を有するas成膜の膜の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真を示した図である。
【
図10】重量ロス(重量%、wt%)、および熱流量(ワット/グラム、W/g)と温度の間のグラフであり、合成空気下、10℃/分の昇温速度での室温から800℃までのLiN
3前駆体のDSCおよびTGA分析の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
現在利用可能なリチウムイオン電池は、携帯型電子機器、電気推進、およびグリッドスケールのエネルギー貯蔵のための高エネルギー密度電池への適用を制限する、いくつかの技術的限界に直面している。
【0013】
これまでの研究では、「リチウムイオンを越える」電池用の高電圧カソードとリチウム金属アノードの組み合わせに焦点が当てられ、固体電解質は、それらの広い電気化学的安定窓、およびと改良された安全性のため有利である。一例では、リチウムリン酸窒化物(LIPON)は、非晶質ガラスであり、これは、Li-デンドライト形成なしで、10,000サイクルにわたって99.9%を超えるクーロン効率が実証されている。しかしながら、LIPONの低いリチウム伝導度(室温で10-8~10-6ジーメンス/センチメートル(S/cm))のため、充電速度は低い(例えば、0.1C)。また、ガーネット型Li7La3Zr2O12(LLZO)のようなセラミック酸化物系の材料が、それらの高いイオン伝導性(室温で10-4S/cm)のため、LIPONの代替材として探求されている。しかしながら、セラミック固体電解質の製造では、所望の高伝導相を達成するため、高温(例えば、700℃を超える温度)での1つ以上のアニーリングまたは焼結ステップが含まれ、これにより、商業的設定でのそれらの加工性が制限される。
【0014】
特性の所望の組み合わせを有する多相電解質膜が開示される。多相電解質膜は、ワンステップ(一段階)スプレー熱分解プロセスにより成膜でき、これは、前述の既存のセラミック電解質の限界に対処することができる。本願発明者らは、予想外のことに、金属酸化物を含む第1の相と、特定のリチウム塩を有する第2の相とを含む多相電解質膜が、有望なリチウムイオン伝導性を提供し得ることを見出した。理論に拘束されることを望むものではないが、リチウム塩の相は、三次元相互接続リチウム伝導経路を提供することができる一方、酸化物相は、膜にリチウム塩を閉じ込める構造的支持を提供できると考えられる。さらに、リチウム塩相と金属酸化物相との間の界面は、リチウム塩相における欠陥の導入を介して、リチウム伝導を促進すると考えられる。
【0015】
多相電解質膜は、10-4S/cmの高い室温伝導度を有し、代替固体電解質よりも有意に低い温度(例えば300℃)で処理することができる。開示された多相電解質膜の調製の間、500℃を超える温度は回避される。本開示の膜は、150から500℃、例えば、200から400℃、または300℃の温度で、湿式化学系のスプレー熱分解により提供することができ、追加の熱処理工程を必要としない。従って、開示されたリチウム固体電解質膜の処理温度は、大幅に低減される。対照的に、ガーネットセラミックリチウム伝導性膜の製造では、しばしば700℃を超える温度での熱処理工程が含まれる(例えば、湿式化学調製されたガーネット型立方相Li7La3Zr2O12膜の場合)。
【0016】
別の有利な特徴では、開示された多相電解質膜におけるリチウム塩および金属酸化物の選択は、製造の好適性または好適な材料特性に適合するように変更できる。
【0017】
開示の多相固体電解質では、高いリチウムイオン伝導性と低減された処理温度が提供され、従って、LIPONのような代替材料と有利に競合することができ、従って、高エネルギー密度の固体電池用の次世代電解質膜が示される。
【0018】
従って、本開示の一態様は、多相電解質膜である。本願で使用される「多相」と言う用語は、相分離された少なくとも2つの化合物を含む材料を表す。分離相は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)により観測でき、置換型固溶体または侵入型固溶体とは区別される。以下にさらに開示される態様では、リチウム塩が金属酸化物中に分散された2相材料が開示される。
【0019】
多相電解質は、金属酸化物を含む第1の相を有する。金属酸化物は、非晶質、結晶質、またはガラスであり得る。ある態様では、第1の相は、アモルファス金属酸化物を有し得る。金属酸化物は、例えば、La、Zr、Hf、Si、Ti、Ca、Mg、Y、Ta、Al、Ce、Ta、Ga、Nd、またはDyの1つ以上を含み得る。ある態様では、金属酸化物は、La、Zr、Ta、またはAlの1つ以上を含み得る。特定の態様では、金属酸化物は、La、Zr、およびAlを含む非晶質酸化物であり得る。本願で使用される非晶質とは、X線粉末回折分析により決定された際、金属酸化物が、金属酸化物の総重量に対して、15重量%(wt%)未満の結晶質含有量を有すること、例えば0.01から10 wt%、または0.1から5 wt%の結晶質含有量を有することを意味する。これとは別にまたはこれに加えて、アモルファス金属酸化物は、ラマン分光法により分析された際に、結晶質金属酸化物ピークを示さないことを意味する。
【0020】
さらに、多相電解質膜は、リチウム塩を含む第2の相を有する。第2の相は、第1の相中に分散される。従って、金属酸化物を含む第1の相は、「ホスト相」とも称され、リチウム塩を含む第2の相は、「ゲスト相」とも称される。第2の相のリチウム塩は、非晶質または結晶質である。第2の相、例えば、リチウム塩含有相は、5から200nmの平均粒子サイズまたは結晶子サイズを有し得る。この範囲内では、平均粒子サイズは、少なくとも10nm、少なくとも20nm、少なくとも50nm、または少なくとも100nmであり得る。また、この範囲内では、平均粒子サイズは、最大150nm、最大100nm、最大75nm、または最大50nmであり得る。第2の相の平均粒子サイズは、例えば、粉末X線回折(XRD)を用いた、例えばシェラー(Scherrer)分析により、または透過型電子顕微鏡(TEM)のような画像技術を用いて、決定することができる。理論に拘束されることを望むものではないが、金属酸化物相中に分散されたリチウム塩は、得られる多相電解質膜の改善された伝導性に寄与すると考えられる。例えば、リチウム塩相と金属酸化物相との界面から生じるリチウム塩相の欠陥は、改善された伝導性に寄与し得る。
【0021】
第2の相のリチウム塩は、空気中で400℃を超える分解温度を有することができ、ハロゲン化リチウムを含んでもよい。ある態様において、リチウム塩は、分解温度が、200℃超、300℃超、400℃超、450℃超、または500℃超である(例えば、空気中での標準圧力)。ある態様では、リチウム塩の分解温度は、800℃、700℃、600℃、500℃または400℃未満である。リチウム塩は、前述の上限と下限の任意の適当な組み合わせの間の分解温度を有してもよい。リチウム塩は、多相膜の形成に使用される処理温度で、顕著な分解が生じないように選択されてもよい。例えば、分解温度が400℃未満、300℃未満、または200℃未満のリチウム塩は、処理中に分解して低伝導性の結晶相を形成することがある。従って、特定の分解温度を有するリチウム塩を慎重に選択することにより、処理中の熱分解が最小限に抑制され、または回避された多相電解質膜を提供することができる。ある態様では、分解温度が400℃未満のリチウム塩が選定され、非晶質含有量が高められ、これにより、改善されたリチウム伝導性が提供されてもよい。
【0022】
ある態様では、第2の相のリチウム塩は、少なくとも一部が分解されたリチウム源から得ることができる。換言すれば、本開示の多相膜の調製に有用なリチウム源は、分解温度が400℃未満、300℃未満、または200℃未満であってもよく、リチウム源が150から500℃の温度で湿式化学系のスプレー熱分解に晒されると仮定した場合、分解生成物は、分解温度が200℃超、300℃超、または400℃超のリチウム塩である。例えば、アジ化リチウム(LiN3)がリチウム源として用いられてもよく、得られた第2の相のリチウム塩は、LiN3分解生成物、例えば、Li3Nを含んでもよい。また、残留(未分解)LiN3が残留してもよい。
【0023】
第2の相のリチウム塩は、例えば、LiNO3、Li3N、Li2SO4、Li3PO4、LiF、LiCl、LiBr、LiOH、LiClO4、LiN3、またはそれらの組み合わせを含むことができる。ある態様では、リチウム塩は、LiNO3、LiN3、またはLi3Nを含むことができる。
【0024】
ある態様では、第1の相は、La、Zr、およびAlの非晶質金属酸化物を含み、第2の相は、LiNO3、LiN3、またはLi3Nを含む。ある態様では、第1の相は、La、ZrおよびAlの非晶質金属酸化物を含み、第2の相は、LiNO3、LiN3またはLi3Nを含み、第2の相は、20から100nmの平均粒子サイズを有し得る。
【0025】
多相電解質膜は、改善された室温リチウム伝導性を有することができる。ある態様では、多相電解質膜は、30℃で、0.1ミリジーメンス/センチメートル(mS/cm)を超えるリチウム伝導度を有することができる。例えば、多相電解質膜は、各々30℃で、0.1から0.5mS/cm、0.1から0.4mS/cm、0.15から0.35mS/cm、または0.2から0.3mS/cmのリチウム伝導度を有することができる。イオン伝導度は、20℃での複素インピーダンス法により測定することができ、その詳細はJ.-M.Winandら、「固体電解質中のイオン伝導度の測定」、Europhysics Letters、vol.8,No.5、p.447-452、1989に記載されている。その内容は、全体が参照により本願に組み込まれている。ある態様では、多相電解質膜は、0.25電子ボルト(eV)未満の活性化エネルギーを有することができる。
【0026】
特定の態様では、第1の相は、La、Zr、およびAlの非晶質酸化物を含み、第2の相は、20から100nmの平均結晶サイズを有するLiNO3を含み、多相電解質膜は、30℃で0.1から0.5mS/cmより大きいリチウム導電度、および0.1から0.2eVの活性化エネルギーを有することができる。
【0027】
ある態様では、多相電解質膜は、第1の相および第2の相からなるジュアル相膜であってもよい。ある態様では、多相電解質膜は、必要な場合、さらに第3の相を有してもよい。存在する場合、第3の相は、第2の相のリチウム塩とは異なるリチウム塩を含むことができる。ある態様では、第3の相は、酸化リチウムを含むことができる。ある態様では、第3の相内に、第2の相のリチウム塩とは異なるリチウム塩、および酸化リチウムが存在してもよい。
【0028】
多相電解質膜は、基板上に配置することができる。基板は、固体または多孔質であり得る。例えば、基板は、ホウケイ酸塩、炭素、ポリイミド、金属、金属合金、または金属酸化物を含むことができる。また、基板は、任意の好適な形態を有することができ、固体膜、織布材料、または不織布材料の形態を有してもよい。
【0029】
多相電解質膜は、1から50マイクロメートル(μm)の厚さを有し得る。この範囲内では、厚さは、1から30μm、1から20μm、1から15μm、1から10μm、1から8μm、2から8μm、または1から5μmであり得る。
【0030】
本開示の多相電解質膜は、基板を加熱するステップと、リチウム源、1つ以上の金属酸化物前駆体、および溶媒を含む混合物を提供するステップと、加熱された基板を混合物と接触させて、多相電解質膜を提供するステップとを含む方法によって製造することができる。本開示の多相電解質膜は、「as成膜」状態(as-deposited)である。本願で使用される「as成膜」は、追加の処理ステップを含まない、基板上に成膜されたままの膜を表す。換言すれば、本開示の多相膜は、基板上での成膜後に、必ずしも任意のアニールまたは他の熱処理をさらされる必要はない。
【0031】
任意の好適な基板が使用されてもよい。例えば、前述のように、例示的な基板は、ホウケイ酸塩、炭素、ポリイミド、金属、金属合金、または金属酸化物を含むことができる。ある態様では、基板は、金属酸化物を含む。ある態様では、基板は、例えば、イットリウム安定化ジルコニア、酸化アルミニウム、陽極酸化された酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、または一般式SiOx、ここで0≦x≦2のケイ素酸化物の少なくとも1つであり得る。基板は、必要な場合、多孔質であってもよい。例えば、基板は、1から50ナノメートル(nm)、5から45nm、10から40nm、15から35nm、または20から30nmの平均ポア直径を有し得る。ある態様では、基板は、1から50マイクロメートル(μm)、1から30μm、1から25μm、1から15μm、または1から10μmの平均ポア直径を有することができる。
【0032】
基板の加熱は、150から500℃の温度で実施することができる。ある態様では、基板は、接触ステップ中に加熱されてもよい。基板の加熱は、150から450℃、250から500℃、250から450℃、250から400℃、250から350℃、275から325℃、または300から350℃の温度であってもよい。
【0033】
ある態様では、混合物は、リチウム源および1つ以上の金属酸化物前駆体を含む、単一の前駆体混合物を使用して提供され得る。リチウム源は、例えば、LiNO3、LiN3、Li2SO4、Li3PO4、LiF、LiCl、LiBr、LiOH、LiClO4、またはそれらの組み合わせであり得る。ある態様では、リチウム源は、LiNO3、LiN3、またはそれらの組み合わせを含むことができる。好適な金属酸化物前駆体には、例えば、金属酸化物、水酸化物、硝酸塩、アジ化物、炭酸塩、シュウ酸塩、過酸化物、酢酸塩、アセチルアセトネート、またはそれらの組み合わせが含まれる。ある態様では、金属酸化物前駆体は、ランタン前駆体、アルミニウム前駆体、およびジルコニウム前駆体を含み、ランタン前駆体、アルミニウム前駆体、およびジルコニウム前駆体の各々は、独立に、酸化物、水酸化物、硝酸塩、アジ化物、炭酸塩、シュウ酸塩、過酸化物、酢酸塩、またはアセチルアセトネートであり得る。
【0034】
あるいは、混合物は、第1の前駆体混合物と第2の前駆体混合物とを接触させることにより、提供され得る。第1の前駆体混合物は、金属酸化物前駆体、例えば酸化ランタン前駆体、酸化アルミニウム前駆体、酸化ジルコニウム前駆体、および第1の溶媒を含むことができる。酸化ランタン前駆体、酸化アルミニウム前駆体、および酸化ジルコニウム前駆体の各々は、独立に、酸化物、水酸化物、硝酸塩、アジ化物、炭酸塩、シュウ酸塩、過酸化物、酢酸塩、またはアセチルアセトネートであり得る。第2の前駆体混合物は、リチウム源および第2の溶媒を含み、第2の溶媒は、第1の溶媒と同じであっても、異なってもよい。リチウム源は、例えば、LiNO3、LiN3、Li2SO4、Li3PO4、LiF、LiCl、LiBr、LiOH、LiClO4、またはそれらの組み合わせであり得る。ある態様では、リチウム源は、LiNO3、LiN3、またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0035】
ランタンを含む代表的な金属酸化物前駆体化合物には、酸化ランタン、水酸化ランタン、硝酸ランタン、炭酸ランタン、シュウ酸ランタン、過酸化ランタン、酢酸ランタン、またはアセト酢酸ランタンが含まれる。
【0036】
ジルコニウムを含む代表的な金属酸化物前駆体化合物には、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、シュウ酸ジルコニウム、過酸化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、アセト酢酸ジルコニウム、または酸窒化ジルコニウムが含まれる。
【0037】
アルミニウムを含む代表的な金属酸化物前駆体化合物には、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、過酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、またはアセト酢酸アルミニウムが含まれる。
【0038】
多相電解質膜を形成するための混合物は、溶媒中のリチウム源と、1つ以上の金属酸化物前駆体とを含む、溶液または懸濁液であり得る。ある態様では、混合物は、溶媒中のリチウム源と、前駆体化合物との溶液である。懸濁液の使用も言及される。
【0039】
溶媒は、置換されたもしくは未置換のC1-20アルコール、置換されたもしくは未置換のC1-40エステル、置換されたもしくは未置換のC2-20炭酸塩、置換されたもしくは未置換のC1-20ケトン、水、またはそれらの組み合わせを有してもよい。置換されたもしくは未置換のアルコール、置換されたもしくは未置換のエステル、置換されたもしくは未置換の炭酸塩、置換されたもしくは未置換のケトン、またはそれらの組み合わせの使用が挙げられる。ある態様では、溶媒は、置換されたまたは非置換のC1-10アルコールおよびエステルを含む。ある態様では、第1の溶媒は、未置換アルコールであり、第2の溶媒は、置換されたアルコールであり、第3の溶媒は、置換されたもしくは未置換の炭酸塩、置換されたもしくは未置換のエステル、または置換されたもしくは未置換のケトンである。メタノール、置換プロパノール、および置換フタル酸エステルの使用が言及される。ある実施形態では、溶媒は、メタノール、置換プロパノール、例えば1-メトキシ-2-プロパノール、フタル酸塩、例えばフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0040】
溶媒は、0から150℃、5から125℃、10から100℃、20から80℃の沸点を有し得る。ある態様では、溶媒は、20から90℃の沸点を有する。
【0041】
各溶媒の量は、独立して選択されてもよい。例えば、溶媒がアルコールおよびフタル酸塩を含む場合、アルコールの量は、溶媒の全体積を基準に、1から99vol%、5から95vol%、10から90vol%、20から80vol%、または30から70vol%、40から60 vol%、または45から55vol%であり、フタル酸塩の量は、99から1 vol%、95から5vol%、90から10vol%、80から20vol%、70から30vol%、60から40vol%、または55から45vol%であってもよい。複数のアルコールが使用される態様では、各アルコールの量は、独立して選択されてもよく、各アルコールは、アルコールの全体積に基づいて、例えば、1から99vol%、5から95vol%、10から90vol%、20から80vol%、または30から70vol%の量で含有されてもよい。ある態様では、第1の溶媒、第2の溶媒、および第3の溶媒が使用されてもよい。第1の溶媒、第2の溶媒、および第3の溶媒の量は、独立して選択することができ、各々は、溶媒の全体積を基準として、1から99vol%、5から95vol%、10から90vol%、20から80vol%、30から70vol%、40から60vol%、または45から55vol%の量で含有されてもよい。ある態様では、第1の溶媒の含有量、第2の溶媒の含有量、および第3の溶媒の含有量は、各々独立に、溶媒の全体積に基づいて、1から50vol%、2から45vol%、5から40vol%、または10から35vol%である。
【0042】
溶媒中のリチウム源および金属酸化物前駆体の各々の濃度は、スプレー熱分解に適した濃度とすることができる。ある態様では、前駆体化合物の濃度は、0.001から1モル(M)、0.005から0.5M、0.01から0.1M、または0.02から0.08Mであり得る。
【0043】
前記接触ステップは、前記混合物のスプレー熱分解を用いて、前記基板の表面に多相電解質膜を形成するステップを含む。ある態様では、スプレー熱分解工程後の多相電解質膜の熱処理ステップ(例えば、アニーリング)は、省略される。例えば、本方法は、例えば300から1200℃の温度でのアニーリングステップが排除される。多相電解質膜は、「as成膜」の形態となり、従って、有利には、単一のステップで提供される。
【0044】
開示された方法では、所望の厚さ、イオン伝導性、およびリチウム金属に対する安定性を有する、固体状態の多相電解質膜が提供される。また開示の方法では、多相電解質膜を製造するコスト効率のある方法が提供できる。
【0045】
また、正極、負極、またはセパレータの少なくとも1つに多相電解質膜を有する電気化学セル(例えば、リチウム電池)も開示される。正極は、代替的にカソードとも称され、負極は、アノードと称され得ることが理解される。
【0046】
図1には、電気化学セルの概略図を示す。
図1に示すように、負極101は、正極110と組み合わせて使用され、正極と負極との間に電解質層120を設けることができる。
図1の電気化学セルは、本開示の多相電解質膜を有してもよい。負極101、正極110、または電解質層120は、それぞれ独立して、本開示の多相電解質膜を含むことができる。ここでは、多相電解質膜が配置された負極101の使用が示される。
【0047】
ある態様では、多相電解質層は、負極活物質保護層として有用であり得る。存在する場合、負極活物質保護層は、負極上に、固体電解質に隣接して配置され得る。例えば、
図2に示すように、電池200は、多相電解質膜を含む負極活物質保護層240に隣接する固体電解質230を有してもよい。また、
図2には、正極集電体210、正極活物質を含む正極220、負極250、および負極集電体260も示されている。
【0048】
正極は、集電体上に、正極活物質を含む正極活物質層を形成することにより調製できる。集電体は、例えば、アルミニウムを含んでもよい。
【0049】
正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物、リチウム遷移金属硫化物を含むことができる。例えば、正極活物質は、リチウムと、コバルト、マンガン、およびニッケルから選択される金属との複合酸化物を含むことができる。例えば、正極活物質は、以下の一般式のいずれかによって表される化合物であり得る:LiaAl-bMbD2、ここで0.90≦a≦1.8および0≦b≦0.5;LiaEl-bMbO2-cDc、ここで0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5および0≦c≦0.05;LiE2-bMbO4-cDc、ここで0≦b≦0.5および0≦c≦0.05;LiaNi1-b-cCobMcDα、ここで0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、および0<α≦2;LiaNi1-b-cCobMcO2-αXα、ここで0.90 a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05および0<α<2;LiaNi1-b-cCObMcO2-αX2、ここで0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、および0<α<2;LiaNi1-b-cMnbMcDα、ここで0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、および0<α≦2;LiaNi1-b-cMnbMcO2-αXα、ここで0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、および0<α<2;LiaNi1-b-cMnbMcO2-αX2、ここで0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、および0<α<2;LiaNibEcGdO2、ここで0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0.001≦d≦0.1;LiaNibCocMndGeO2、ここで、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0≦d≦0.5、0.001≦e≦0.1;LiaNiGbO2、ここで0.90≦a≦1.8、0.001≦b≦0.1;LiaCoGbO2、ここで0.90≦a≦1.8、0.001≦b≦0.1;LiaMnGbO2、ここで0.90≦a≦1.8、0.001≦b≦0.1;LiaMn2GbO4、ここで0.90≦a≦1.8、0.001≦b≦0.1;QO2;QS2;LiQS2;V2O5;LiV2O2;LiRO2;LiNiVO4;Li(3-f)J2(PO4)3(0≦f≦2);Li(3-f)Fe2(PO4)3、ここで0≦f≦2;ならびにLiFePO4、ここで、前記正極活物質Aは、Ni、Co、またはMnであり、Mは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、または希土類元素であり、Dは、O、F、S、またはPであり、Eは、CoまたはMnであり、Xは、F、S、またはPであり、Gは、Al、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、またはVであり、Qは、Ti、MoまたはMnであり、Rは、Cr、V、Fe、Sc、またはYであり、Jは、V、Cr、Mn、Co、Ni、またはCuである。正極活物質の例には、LiCoO2、LiMnxO2x、ここでxは1または2、LiNi1-xMnxO2x、ここで0<x<1、LiNi1-x-yCoxMnyO2、ここで0≦x≦0.5および0≦y≦0.5、LiFePO4、TiS2、FeS2、TiF3およびFeS3が含まれる。例えば、正極活物質は、リチウムと、コバルト、マンガン、およびニッケルから選択された金属との複合酸化物を含むことができる。NMC811(LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2)、NMC622(LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2)、NMC532(LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2)、およびNCA(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)が記載される。正極活物質は、前述のものに限定されず、任意の好適な正極活物質を使用することができる。
【0050】
正極活物質は、さらに、必要に応じて、導電剤およびバインダを含むことができる。任意の好適な導電剤または結合剤を使用することができる。
【0051】
バインダは、正極活物質および導体のような電極の成分の間の接着、および電極の集電体への接合を促進することができる。バインダの例には、ポリアクリル酸(PAA)、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンモノマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン-ブタジエン-ゴム、フッ素化ゴム、またはそれらのコポリマーの少なくとも1つが含まれてもよい。バインダの量は、正極活物質の総重量に基づき、約1重量部から約10重量部の範囲、例えば、約2重量部から約7重量部の範囲であり得る。バインダの量が上記の範囲、例えば、約1重量部から約10重量部の範囲にある場合、電極の集電体への接着性は、適切に強力となる。任意の好適なバインダを使用することができる。
【0052】
導電剤は、例えば、カーボンブラック、カーボンファイバ、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、またはそれらの組み合わせを含むことができる。カーボンブラックは、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、スーパーPカーボン、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、またはサーマルブラックであり得る。グラファイトは、天然グラファイトまたは人工グラファイトであり得る。前記導電剤の少なくとも1つを含む組合せを使用することができる。正極は、前述の炭素質導体以外の追加の導体を含むことができる。追加の導体は、金属繊維のような導電性ファイバ;フッ化炭素粉末、アルミニウム粉末、またはニッケル粉末のような金属粉末;酸化亜鉛またはチタン酸カリウムのような導電性ウィスカー;またはポリフェニレン誘導体であり得る。前記追加の導体の少なくとも1つを含む組み合わせを使用することができる。任意の好適な導電剤を使用することができる。
【0053】
正極活物質層は、スクリーン印刷法、スラリーキャスティング、または粉末圧縮法により調製することができる。しかしながら、方法は、これに限定されるものではなく、任意の好適な方法が使用されてもよい。
【0054】
負極は、負極活物質および任意で導電剤およびバインダを含む、負極活物質組成物から製造することができる。好適な負極活物質は、リチウムイオンを電気化学的に貯蔵し、放出することができる材料を含む。負極活物質は、リチウム金属またはリチウム金属合金を含むことができる。また、ハード炭素、ソフト炭素、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンファイバ、グラファイト、またはアモルファス炭素のような炭素も使用可能である。また、リチウム含有金属および合金、例えば、Si、Sn、Sb、Ge、またはそれらの組み合わせを含むリチウム合金も、使用可能である。リチウム含有金属酸化物、金属窒化物、および金属硫化物も有益であり、特に、金属は、Ti、Mo、Sn、Fe、Sb、Co、またはVの少なくとも1つであり得る。また、リン(P)またはリンドープ金属(例えばNiP3)も使用可能である。負極活物質は、前述のものに限定されず、任意の好適な負極活物質を使用することができる。ある態様では、負極活物質は、銅集電体のような集電体上に配置される。ある態様では、負極は、グラファイトを有する。ある態様では、負極は、リチウム金属またはリチウム金属合金を含む。リチウム金属の使用が言及される。
【0055】
前述のように、開示された多相電解質膜は、正極と負極との間に提供され、正極、負極、または例えば保護層として、それらの組み合わせに、含有されてもよい。ある態様では、多相電解質膜は、負極上に直接存在する。ある態様では、多相電解質膜は、正極と負極との間に配置され、固体電解質として機能し得る。ある態様では、多相電解質膜は、セパレータとして機能し、正極を負極から電気的に絶縁することができる。ある態様では、多相電解質膜は、基板上に配置され、電気化学セル内にセパレータを提供することができる。好適な基板には、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(テトラフルオロエチレン)、もしくはポリ塩化ビニルのようなポリマー、TiO2もしくはイットリア安定化ジルコニアのようなセラミック、またはホウケイ酸ガラスのようなガラスが含まれる。前述の少なくとも1つを含む組合せが使用されてもよい。また、基板は、任意の好適な形態を有しく、不織布または織布材料であってもよく、または膜の形態、例えばマイクロポーラス膜であってもよい。マイクロポーラスポリエチレン、マイクロポーラスポリプロピレン、またはそれらの複合体の使用が言及される。
【0056】
電気化学セルは、固体電解質、例えば無機固体電解質を含むことができる。固体電解質層内の固体電解質は、例えば、酸化物含有固体電解質または硫化物含有固体電解質の少なくとも1つであってもよい。
【0057】
酸化物含有固体電解質の例は、Li1+x+yAlxTi2-xSiyP3-yO12(ここで0<x<2および0≦y<3)、BaTiO3、Pb(ZraTi1-a)O3(PZT)(ここで、0≦a≦1)、Pb1-xLaxZr1-yTiyO3(PLZT)(ここで、0≦x<1および0≦y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3
-PbTiO3(PMN-PT)、HfO2、SrTiO3、SnO2、CeO2、Na2O、MgO、NiO、CaO、BaO、ZnO、ZrO2、Y2O3、Al2O3、TiO2、SiO2、Li3PO4、LixTiy(PO4)3(ここで、0<x<2および0<y<3)、LixAlyTiz(PO4)3(ここで、0<x<2、0<y<1、および0<z<3)、Li1+x+y(AlaGa1-a)x(TibGe1-b)2-x SiyP3-yO12(ここで、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦a≦1、および0≦b≦1)、LixLayTiO3(ここで、0<x<2および0<y<3)、Li2O、LiOH、Li2CO3、LiAlO2、Li2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2-GeO2、またはLi3+xLa3M2O12(ここでMは、Te、Nb、またはZr、および0≦x≦10)の少なくとも1つを含んでもよい。また、Li7La3Zr2O12(LLZO)、またはLi3+xLa3Zr2-aMaO12(MドープLLZO、ここでMは、Ga、W、Nb、Ta、またはAlであり、0≦x≦10および0≦a<2である)についても言及される。
【0058】
ある態様では、固体電解質は、硫化物含有固体電解質であってもよい。硫化物含有固体電解質の例には、Li2S-P2S5、Li2S2-P2S5-LiX(ここで、Xはハロゲン元素である)、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(ここで、mおよびnは、それぞれ正の数であり、Zは、Ge、ZnおよびGaのいずれかを表す)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2SiS2-LipMOq(ここで、pとqは、それぞれ正の値であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、またはInの少なくとも1つを表す)、Li7-xPS6-xClx、(ここで、0≦x≦2)、Li7-xPS6-xBrx(ここで、0≦x≦2)、またはLi7-xPS6-xIx(ここで、0≦x≦2)の少なくとも1つが含まれる。
【0059】
また、硫化物含有固体電解質は、硫化物含有固体電解質材料の中の成分元素として、少なくとも硫黄、リン、およびリチウムを含んでもよい。例えば、硫化物含有固体電解質は、Li2S-P2S5を含む材料であってもよい。ここで、Li2S-P2S5を含む材料を硫化物含有固体電解質材料として用いる場合、Li2 SとP2S5の混合モル比(Li2S:P2S5)は、例えば、約50:50から約90:10の範囲で選択されてもよい。
【0060】
例えば、硫化物含有固体電解質は、式2で表されるアルギロダイト型固体電解質を含んでもよい:
Li+
12-n-xAn+Q2-6-xX-x 式2
式2において、Aは、P、As、Ge、Ga、Sb、Si、Sn、Al、In、Ti、V、Nb、Taの少なくとも1つであり、Qは、S、Se、Teの少なくとも1つであり、Xは、Cl、Br、I、F、CN、OCN、SCN、N3の少なくとも1つであり、1≦n≦5、0≦x≦2である。
【0061】
硫化物含有固体電解質は、Li7-xPS6-xClx(ここで0≦x≦2)、Li7-xPS6-xBrx(ここで0≦x≦2)、またはLi7-xPS6-xIx(ここで0≦x≦2)の少なくとも1つを含む、アルギロダイト型化合物であってもよい。特に、固体電解質層中の硫化物含有固体電解質は、Li6PS5Cl、Li6PS5Br、またはLi6PS5Iの少なくとも1つを含むアルギロダイト型化合物であってもよい。
【0062】
固体電解質は、焼結法、出発物質(例えば、Li2SまたはP2S5)溶融および急冷法、または機械的粉砕によって調製されてもよい。固体電解質は、非晶質であってもまたは結晶質であってもよい。混合物が使用されてもよい。
【0063】
固体電解質層は、例えば、バインダを含んでもよい。固体電解質層中のバインダの例には、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、またはポリエチレンが含まれてもよいが、これに限られるものではなく、任意の好適なバインダが使用されてもよい。固体電解質のバインダは、カソード活物質層および第1のアノード活物質層のバインダと同じであっても、異なっていてもよい。
【0064】
酸化物含有固体電解質または硫化物含有固体電解質を含む固体電解質は、さらに、必要な場合、正極活物質層に含まれてもよい。
【0065】
ある態様では、液体電解質のような他の電解質は、本開示の電気化学セルから除外することができる。
【0066】
電気化学セルは、正極を提供するステップと、負極を提供するステップと、正極と負極との間に多相電解質膜を配置するステップと、により製造することができる。本方法は、任意に必要な場合、さらに、正極と負極の間にセパレータを設置するステップを有し得る。例えば、電気化学セルは、負極、多相電解質膜、および正極を順次積層し、積層構造を巻き取りまたは折りたたみ、その後、円筒状または矩形のバッテリーケースまたはパウチ内に、巻き取られまたは折りたたまれた構造を、密閉し、電気化学セルを提供することにより、製造することができる。
【0067】
本開示は、以下の実施例によってさらに説明されるが、これらは限定的なものではない。
【0068】
(実施例)
以下の例において、全ての化学物質は、さらに精製することなく、受領状態のまま使用した。硝酸リチウム(LiNO3)(≧99%)、ジルコニウム(IV)アセチルアセトネート(97%)、水中20wt%のアジ化リチウム(LiN3)溶液、および1-メトキシ-2-プロパノール(≧99.5%)を、Sigma-Aldrich社から購入した。Al(NO3)3・9H2O、La(NO3)3・6H2O(99.99%)、ビス(2-エチルヘキシル)フタル酸エステルを、Alfa Aesar社から購入した。メタノールは、VWRから購入した。研磨MgO(100)基板(10×10×0.5mm)をMTI社から購入した。ガラス繊維基板(厚さ0.7μm)を、Lab Safety Supply社から購入した。
【0069】
(スプレー溶液の合成)
実施例1では、LiNO3、ジルコニウム(IV)アセチルアセトネート、Al(NO3)3・9H2O、およびLa(NO3)3・6H2Oの前駆体塩を用いて、スプレー溶液を調製した。メタノール:1‐メトキシ‐2‐プロパノール:ビス(2‐エチルヘキシル)フタレート(33:33:33vol%)溶液中で、前駆体塩を、Li:La:Al:Zr=11:3:0.25:2の化学量論比で溶解した。調製したスプレー溶液の濃度は0.11 M(LiNO3換算)であった。
【0070】
実施例2では、2種類のスプレー溶液を調製した。第1の溶液では、水中20wt%のアジ化リチウム溶液を、メタノール:1-メトキシ-2-プロパノール:ジエチレンモノブチルエーテル(33:33:33vol%)溶液で希釈した。第1の溶液(Li前駆体を含む)の濃度は0.22M(Li塩換算)であった。第2の溶液では、メタノール:1-メトキシ-2-プロパノール:ビス(2-エチルヘキシル)フタル酸塩溶液(33:33:33 vol%)に、ジルコニウム(IV)アセチルアセトネート、Al(NO3)3・9H2O、およびLa(NO3)3・6H2Oを、La:Al:Zr=3:0.25:2の化学量論比で、溶解した。メタノール:1-メトキシ-2-プロパノール:ビス(2-エチルヘキシル)フタル酸塩(33:33:33 vol%)溶液中で、第2の溶液の濃度(La、Zr、およびAl前駆体を含む)は、0.06M(La塩換算)であった。
【0071】
調製したスプレー溶液を少なくとも12時間にわたり、一晩撹拌した。
【0072】
(多相複合薄膜電解質のスプレー手順)
スプレー溶液をポリプロピレンシリンジに装填し、5から10ミリリットル/時(mL/時)で、スプレーガン(DeVILBLISS、AG361)にポンプ注入した。スプレーガンには、0.3バールのアトマイザ圧力で、キャリアガスとして圧縮空気を使用した。加熱したステンレス鋼板(ホットプレートの表面)に、MgO基板を載置した。基板温度を300℃に保持し、基板とアトマイザとの間の距離は、24cmに設定した。スプレー熱分解は、各成膜の間、5から20ミリリットル(mL)の溶液の成膜で実施した。
【0073】
(特性)
インレンズSE検出器を用いて、3.0から10.0kVの間で操作されたZeiss Supra55VP電界放出走査電子顕微鏡で、走査型電子顕微鏡(SEM)像を採取した。試料をダイヤモンドブレードで断面切断し、炭素導電性テープを介して、特殊試料ステージに取り付けた。
【0074】
ラマン分光は、WiTecで完了し、スペクトル分解能は、10mWで0.7cm-1であり、波長は、532nmであり、低い浸透深さが得られる。
【0075】
Mettler Toledo DSC/TGAシステムを用い、室温から800℃まで10℃/分の昇温速度で、示差走査熱量測定(DSC)および熱重量分析(TGA)を実施した。MgOるつぼを用いて、るつぼとLi塩との間の相互拡散および反応を防止した。パージガスとして、合成乾燥空気(80%N2、20%O2)を使用し、DSC試験中、保護ガスとして、高純度Arを用いた。
【0076】
400μmのスポットサイズおよび0.1 eVの分解能を有するThermo K‐Alpha XPSシステムにおいて、薄膜(例えば、2から5μm)に対して、X線光電子分光(XPS)スペクトルを収集した。
【0077】
300kVで動作するGatan Image Filter Quantum‐865を装備した収差補正FEI Titan S 8‐300 TEM/STEMで、高分解能透過型電子顕微鏡(HR‐TEM)を操作した。STEMモードにおいて、5mmの開口を用いて、40 mradの分光器収集角、および0.3 eV/チャンネルの分散により、電子エネルギー損失分光(EELS)分析を実施した。試料は、MEMS系の加熱チップ(Protochips)に、50から80nmの厚さの膜をスプレーすることにより調製した。全てのin-situ加熱実験において、Protochips Aduro加熱ホルダーを使用した。試料を10℃/分の速度で加熱した。電子ビームによる膜への損傷を最小限に抑えるため、電子ビームは、注意深く調整した。
【0078】
電気化学インピーダンス分光法(Biologic)により、面内形状のスプレー薄膜のリチウムイオン伝導度を測定した。ステンレス鋼シャドウマスクを用いたスパッタリングにより、複合膜上に、長さ6mm、分離距離0.25mmの白金(Pt)ブロッキング電極を成膜した。測定は、Auブロッキング電極と接触する、Au被覆タングステンチップを用いて実施した。測定用の温度および雰囲気制御のステージとして、Linkam HFS-600Eを用いた。熱電対は、膜表面上に直接配置され、温度プロファイルが調整される。測定の際には、1MHzから0.1Hzの間の周波数走査により、100mVのAC振幅が印加された。測定精度を確保するため、各膜に対して、2分間の安定化時間で、100から350℃までの50℃毎に、インピーダンススペクトルを取得した。設定温度は、予備測定された温度検量線を介して、実際の温度に変換した。具体的には、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃、および350℃の設定温度を、実際の測定温度における78℃、113℃、151℃、188℃、225℃、および263℃に変換した。全てのインピーダンス測定は、乾燥合成空気の一定の流れの下で実施した。収集データはZView 3.4Fで解析した。
【0079】
(結果)
(例1:Li塩としての硝酸リチウム(LiNO
3))
DSCとTGAを用いて、LiNO
3の熱安定性を評価した。
図3において、LiNO
3の溶融に対応する250℃で、大きな吸熱ピークが観測された。温度がさらに上昇し550℃に達した際に、分解が始まり、これは、580℃付近の吸熱DSCピーク、およびTGAにおける大きな重量減少(80%)から同定された。その結果、LiNO
3の熱安定窓は、(固相状態で)最大250℃であることが示唆された。
【0080】
スプレー熱分解により、MgO基板上に多相電解質膜を成膜した。as成膜の膜におけるLiNO
3塩の安定性、相変態、および分解を把握するため、MgO基板から膜を剥離し、DSC評価用のMgOるつぼに移した。
図4において、
図3におけるLiNO
3前駆体のDSC結果と同様、250℃で吸熱DSCピークが示され、これは、複合膜中のLiNO
3塩の溶融に対応する。
【0081】
図5には、300℃でのスプレー熱分解によって成膜された多相膜のラマンスペクトルを示す。同様の化学組成を有する材料の参照スペクトルと比べて、複合膜のスペクトルには、主要ピークが認められず、LiNO
3塩の存在、および膜の酸化物相の非晶質性が示唆された。
【0082】
図6には、表面温度300℃でスプレー溶液を成膜した後においても、スプレー膜中に窒素が依然として存在することが示され、スプレー熱分解中にLi前駆体(LiNO
3)が分解せず、多相膜に硝酸塩として存在することが確認された。
【0083】
HR-TEMにより、as成膜の膜の相分離および多相構造を評価した(
図7Aから7E)。環状領域は、Li塩として同定され、これらは、非晶質La、Zr、Alの酸化物内に埋設される。TEMにおける275℃での等温保持により、硝酸リチウムの溶融と、膜への浸透が始まる。これは、275℃での速度論的に好ましい過程として示されており、わずか数秒で生じる。また、溶融プロセスは、
図3および
図4におけるDSC結果においても確認された。
【0084】
図8には、as成膜の膜のアレニウスプロットを示す。異なる温度での電気化学インピーダンス測定により、多相膜のLiイオン伝導度が得られた。78℃、188℃、263℃で測定された複合膜の伝導度は、それぞれ、7.11×10
-4S/cm、2.01×10
-2S/cm、および1.2×10
-2S/cmであった。温度が263℃まで上昇した際に、膜内のLiNO
3塩の溶融による伝導度の大きな増加が観測された。リチウム塩が固相に留まる250℃以下で測定されたデータ点を外挿することにより、室温(例えば、30℃)の伝導度が2.85×10
-4S/cmと予測された。計算されたLiイオン輸送の活性化エネルギーは、0.182 eVであり、これは、大部分のLi酸化物セラミック膜の活性化エネルギー(例えば、スプレーLi‐ガーネット膜(例えば、Li
6.25Al
0.25La
3Zr
2O
12)の場合、0.34 eV)に比べて、かなり小さい。小さな活性化エネルギーは、あるサイトから別のサイトにホッピングするLiイオンのエネルギー障壁が小さいことを示し、これは、周囲温度での固体電解質の適用に有利であり得る。
【0085】
(例2:リチウム塩としてのアジ化リチウム(LiN
3))
また多相膜構造は、前述の同様の一段階スプレー熱分解成膜法により、異なるLi塩および前駆体化学物質を用いて得ることができる。処理の必要性に基づいて、異なる基板を使用することもできる。例えば、
図9には、Li前駆体(例えば、Li源)としてLi-アジド(LiN
3)を含む一段階スプレー熱分解によって成膜された、複合Li伝導膜の表面微細構造を示す。膜は、クラックを有さず、緻密なミクロ構造を示し、多孔質基板上に完全な表面被覆が得られている。
【0086】
図10に示すように、DSCおよびTGAにより、LiN
3の熱安定性を評価した。300℃の成膜温度では、重量減少とともに大きな発熱DSCピークが現れ、これは、Liアジド(LiN
3)のLi窒化物(Li
3N)への分解が進行中であることが示唆される。従って、as成膜の複合体膜は、部分的に分解されたLiアジド(例えば、窒化リチウム、Li
3Nの形態)と、非晶質のLa、Zr、Alの酸化物とから構成される。
【0087】
まとめると、一段階スプレー熱分解を用いて、多相Li伝導性電解質膜を成膜した。追加の高温アニールまたは焼結ステップを行わずに、低温(例えば300℃)で新たな膜構造が得られた。提供された実施例では、異なる前駆体化学物質においても、各種Li前駆体塩で、同様の複合体膜構造が得られることが示されている。全体として、低温および還元処理において、高導電性多相固体電解質を製造する機会、例えば、単一ステップにおいて製造する機会が提供される。
【0088】
本開示は、以下の態様を含む。ただし、これらは、非限定的なものである。
【0089】
態様1:
多相電解質膜であって、
金属酸化物を含む第1の相であって、前記金属酸化物は、非晶質、結晶質、またはガラスである、第1の相と、
空気中での分解温度が200℃を超えるリチウム塩またはハロゲン化リチウムを含む第2の相と、
を有し、
前記第2の相は、前記第1の相に分散され、5から200nmの平均粒子サイズを有する、多相電解質膜。
【0090】
態様2:
前記膜は、固体基板上に配置される、態様1に記載の多相電解質膜。
【0091】
態様3:
前記リチウム塩は、LiNO3、Li2SO4、Li3PO4、LiF、LiCl、LiBr、LiOH、LiClO4、Li3N、またはそれらの組み合わせである、態様1または2に記載の多相電解質膜。
【0092】
態様4:
前記第2の相は、さらに、LiN3を有する、態様1乃至3のいずれか一つに記載の多相電解質膜。
【0093】
態様5:
前記金属酸化物は、非晶質である、態様1乃至4のいずれか一つに記載の多相電解質膜。
【0094】
態様6:
前記金属酸化物は、La、Zr、Hf、Si、Ti、Ca、Mg、Y、Ta、Al、Ce、Ta、Ga、Nd、またはDyの1つ以上を含む、態様1乃至5のいずれか一つに記載の多相電解質膜。
【0095】
態様7:
前記金属酸化物は、La、Zr、Ta、またはAlの1つ以上を有する、態様1乃至6のいずれか一つに記載の多相電解質膜。
【0096】
態様8:
前記金属酸化物は、La、Zr、およびAlの非晶質酸化物である、態様1乃至7のいずれか一つに記載の多相電解質膜。
【0097】
態様9:
前記第1の相は、La、Zr、およびAlの非晶質金属酸化物を有し、
前記第2の相は、20から100nmの平均結晶子サイズを有するLiNO3またはLi3Nを有する、態様1に記載の多相電解質膜。
【0098】
態様10:
前記膜は、30℃で0.1mS/cmを超えるリチウム伝導度を有する、態様1乃至9のいずれか一つに記載の多相電解質膜。
【0099】
態様11:
前記第1の相は、La、Zr、およびAlの非晶質金属酸化物を有し、
前記第2の相は、20から100nmの平均結晶子サイズを有するLiNO3またはLi3Nを有し、
当該多相電解質膜は、30℃で0.1から0.5mS/cmを超えるリチウム伝導度を有する、態様1に記載の多相電解質膜。
【0100】
態様12:
前記膜は、1から50μmの厚さを有する、態様1乃至11のいずれか一つに記載の多相電解質膜。
【0101】
態様13:
前記多相電解質膜は、前記第1の相と前記第2の相とからなるジュアル相電解質膜である、態様1乃至12のいずれか一つに記載の多相電解質膜。
【0102】
態様14:
さらに、第3の相を有し、
該第3の相は、前記第2の相のリチウム塩、リチウム酸化物、またはその両方とは異なる、態様1乃至12のいずれか一つに記載の多相電解質膜。
【0103】
態様15:
多相電解質膜を製造する方法であって、
当該方法は、
混合物を提供するステップであって、前記混合物は、
リチウム源、および
一つ以上の金属酸化物前駆体
を有する、ステップと、
150から500℃の温度で、固体基板上に前記混合物をスプレーし、前記多相電解質膜を提供するステップと、
を有し、
前記多相電解質膜は、
金属酸化物を含む第1の相であって、前記酸化物は、非晶質、結晶質、またはガラスである、第1の相と、
空気中での分解温度が200℃を超えるリチウム塩またはハロゲン化リチウムを含む第2の相と、
を有し、
前記第2の相は、前記第1の相に分散され、5から200nmの平均粒子サイズを有する、方法。
【0104】
態様16:
多相電解質膜を製造する方法であって、
当該方法は、
1つ以上の金属酸化物前駆体および第1の溶媒を含む第1の前駆体混合物を提供するステップと、
リチウム源および第2の溶媒を含む第2の前駆体混合物を提供するステップと、
150から500℃の温度で、固体基板上に前記第1の前駆体混合物および前記第2の前駆体混合物をスプレーして、前記多相電解質膜を提供するステップと、
を有し、
前記多層電解質は、
金属酸化物を含む第1の相であって、前記酸化物は、非晶質、結晶質、またはガラスである、第1の相と、
空気中での分解温度が200℃を超えるリチウム塩またはハロゲン化リチウムを含む第2の相と、
を有し、
前記第2の相は、前記第1の相に分散され、5から200nmの平均粒子サイズを有する、方法。
【0105】
態様17:
前記リチウム源は、LiNO3、LiN3、Li2SO4、Li3PO4、LiF、LiCl、LiBr、LiOH、またはLiClO4の1つ以上である、態様15または16に記載の方法。
【0106】
態様18:
前記酸化物前駆体は、La、Zr、Hf、Si、Ti、Ca、Mg、Y、Ta、Al、Ce、Ta、Ga、NdもしくはDyの1つ以上の硝酸塩または酢酸塩を含む、態様15乃至17のいずれか一つに記載の方法。
【0107】
態様19:
前記固体基板は、多孔質である、態様15乃至18のいずれか一つに記載の方法。
【0108】
態様20:
前記固体基板は、ホウケイ酸塩、炭素、ポリイミド、金属、金属合金、または金属酸化物を含む、態様15乃至19のいずれか一つに記載の方法。
【0109】
態様21:
電気化学セルであって、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極の間の電解質層と、
を有し、
前記正極、前記負極、または前記電解質層の少なくとも1つは、態様1乃至14のいずれか一つに記載の多相電解質膜を有する、電気化学セル。
【0110】
添付図面には、各種態様が示されている。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で実施されてもよく、記載の態様に限定されるものと解してはならない。むしろ、これらの態様は、本開示が全体にわたり完全であり、当業者に本発明の範囲を十分に伝達するように提供される。同様の参照番号は、全体を通して同様の素子を表す。
【0111】
素子が別の素子「上」にあると称される場合、これは、他の素子の上に直接存在してもよく、あるいはそれらの間に介在素子が存在してもよいことが理解される。一方、ある素子が別の素子の「直上」にあると称される場合、介在素子は、存在しない。
【0112】
「第1」、「第2」、「第3」などの用語は、各種素子、部材、領域、層、または区画を説明するために使用され、これらの素子、部材、領域、層、または区画は、これらの用語に限定されないことが理解される。これらの用語は、1つの素子、部材、領域、層、または区画を、別の素子、部材、領域、層、または区画から区別することにのみ使用される。従って、「第1の素子」、「構成部材」、「領域」、「層」または「区画」は、本願の示唆から逸脱することなく、第2の素子、構成部材、領域、層または区画と称され得る。
【0113】
本願で使用される用語は、単に特定の態様を記載するためのものであり、限定することを意図するものではない。本願で使用される、単数形の「a」、「an」および「the」は、内容が明確に別段の示唆を示さない限り、「少なくとも1つ」を含む複数の形を含むことを意図する。「少なくとも1つ」は、「a」または「an」として限定するものとは解してはならない。「または」は、「および/または」を意味する。さらに、本願明細書に使用される場合、「comprise」および/または「comprising」または「include」または「including」という用語は、記述された特徴、領域、整数、ステップ、動作、素子または構成部材の存在を特定するものの、それらの1つ以上の他の特徴、領域、整数、ステップ、動作、素子、構成部材、またはそれらの群の存在または追加を排除するものではないことが理解される。
【0114】
「下部」、「下方」、「下側」、「上側」、「上部」等の空間的に相対的な用語は、説明を容易にするために使用され、図に示されるような、ある素子または特徴物と、別の素子または特徴物との関係を説明するために使用される。空間的に相対的な用語は、図に記載の配向に加えて、使用中または動作中の装置の異なる配向を包含することが意図されることが理解される。例えば、図中の装置が反転された場合、他の素子または特徴物の「下側」または「下方」として記載された素子は、今度は、他の素子または特徴物の「上方」に配向される。従って、「下側」という例示的な用語は、上下の配向の両方を含むことができる。装置は、他に配向されてもよく(90度回転、または他の方向)、使用される空間的に相対的な記述は、それに従って解釈されてもよい。
【0115】
特段の定めがない限り、使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本開示が属する技術分野の当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。さらに、通常使用される辞書で定義されるような用語は、関連技術および本開示の文脈において、それらの意味と一致する意味を有するものとして解釈され、明確に定義されない限り、理想化された意味または過度に形式的な意味には解されないことが理解される。
【0116】
理想的な態様の概略図である断面図を参照して、例示的な態様が説明される。従って、例えば、製造技術および/または許容誤差の結果として、示された形状からの逸脱が予想される。従って、本願に記載の態様は、示された領域の特定の形状に限定されるものと解してはならず、例えば、製造から生じる形状の偏差を含むものと解される。例えば、平坦として示されまたは記載された領域は、通常、凹凸のある、および/または非線形の特徴を有してもよい。さらに、図示された鋭角は、丸められてもよい。従って、図に示された領域は、実質上概略的なものであり、それらの形状は、領域の正確な形状を示すことを意図するものではなく、本特許請求の範囲を限定することを意図するものでもない。
【0117】
特定の態様が記載されているが、出願人または当業者には、代替、修正、変形、改良、および現在予測されていないまたは予測されない、実質的な等価物が想定されてもよい。従って、出願時または補正後の添付の特許請求の範囲は、そのような全ての代替、修正、変形、改良、および実質的等価物を包含することが意図される。
【符号の説明】
【0118】
101 負極
110 正極
120 電解質層
200 電池
210 正極集電体
220 正極
230 固体電解質
240 保護層
250 負極
260 負極集電体