(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169517
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】計測装置および微粒子測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 15/12 20060101AFI20221101BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G01N15/12 F
G01N27/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116568
(22)【出願日】2022-07-21
(62)【分割の表示】P 2018140616の分割
【原出願日】2018-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】鷲津 信栄
(57)【要約】
【課題】電流波形を正確に測定可能な測定装置を提供する。
【解決手段】ナノポアデバイス100は、細孔104および電極対106,108を有するナノポアデバイス100に流れる電流信号Isを測定する。トランスインピーダンスアンプ210は、電流信号Isを電圧信号Vsに変換する。電圧源220は、通常の測定時において電極対106,108の間に直流のバイアス電圧Vbを印加し、キャリブレーション時に電極対106,108の間に交流成分を含む校正用電圧Vcalを印加可能である。キャリブレーション時に、トランスインピーダンスアンプ210の出力信号Vsと、校正用電圧Vcalにもとづいて、計測装置200の少なくともひとつの回路定数を補正可能に構成される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的検知帯法を利用した計測装置に使用され、電極対の間に流れる電流信号を測定する計測装置であって、
前記電流信号を電圧信号に変換するトランスインピーダンスアンプを備え、
前記トランスインピーダンスアンプは、
反転入力端子が前記電極対の第1電極と接続され、非反転入力端子に基準電圧を受けるアンプと、
前記アンプの前記反転入力端子と前記アンプの出力端子と間に直列に接続される第1抵抗および第2抵抗と、
前記第1抵抗と並列に設けられる第1キャパシタと、
前記アンプの前記出力端子と接続される第2キャパシタと、
を含むことを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記第2抵抗の抵抗値と前記第2キャパシタの少なくとも一方が可変であることを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記アンプのゲインが可変であることを特徴とする請求項1または2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記第1抵抗と前記第1キャパシタの少なくとも一方が可変であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の計測装置。
【請求項5】
通常の測定時において前記電極対の間に直流のバイアス電圧を印加し、キャリブレーション時に前記電極対の間に交流成分を含む校正用電圧を印加可能な電圧源をさらに備え、
前記キャリブレーション時に、前記トランスインピーダンスアンプの出力信号と、前記校正用電圧にもとづいて、前記計測装置の少なくともひとつの回路定数を補正可能に構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の計測装置。
【請求項6】
前記電圧源と前記電極対の第2電極の間に設けられる抵抗およびキャパシタと、
をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の計測装置。
【請求項7】
前記抵抗およびキャパシタの時定数が調節可能であることを特徴とする請求項6に記載の計測装置。
【請求項8】
前記トランスインピーダンスアンプの出力電圧をデジタルデータに変換するデジタイザと、
前記デジタイザの出力を外部に伝送可能なインタフェースと、
をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の計測装置。
【請求項9】
請求項8に記載の計測装置と、
前記計測装置の前記インタフェースと接続されるデータ処理装置と、
を備えることを特徴とする微粒子測定システム。
【請求項10】
前記計測装置の少なくともひとつの回路定数を補正するための処理の少なくとも一部は、前記データ処理装置において実行されることを特徴とする請求項9に記載の微粒子測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的検知帯法を用いた計測に関する。
【背景技術】
【0002】
電気的検知帯法(コールター原理)と呼ばれる粒度分布測定法が知られている。この測定法では、粒子を含む電界液を、ナノポアと称される細孔を通過させる。粒子が細孔を通過するとき、細孔中の電解液は粒子の体積に相当する量だけ減少し、細孔の電気抵抗を増加させる。したがって細孔の電気抵抗を測定することで、粒子より細孔の厚みの方が大きい場合には通過する粒子の体積を測定することができ、粒子より細孔の厚みの方が十分に小さい場合、通過している粒子の断面積(すなわち径)を測定することができる。
【0003】
図1は、電気的検知帯法を用いた微粒子測定システム1Rのブロック図である。微粒子測定システム1Rは、ナノポアデバイス100、計測装置200Rおよびデータ処理装置300を備える。
【0004】
ナノポアデバイス100の内部は、検出対象の粒子4を含む電解液2が満たされる。ナノポアデバイス100の内部は、ナノポアチップ102によって2つの空間に隔てられており、2つの空間には電極106と電極108が設けられる。電極106と電極108の間に電位差を発生させると、電極間にイオン電流が流れ、また電気泳動によって粒子4が細孔104を経由して、一方の空間から他方の空間に移動する。
【0005】
計測装置200Rは、電極対106,108の間に電位差を発生させるとともに、電極対の間の抵抗値Rpと相関を有する情報を取得する。計測装置200Rは、トランスインピーダンスアンプ210、電圧源220、デジタイザ230を含む。電圧源220は電極対106,108の間に電位差Vbを発生させる。この電位差Vbは、電気泳動の駆動源であるとともに、抵抗値Rpを測定するためのバイアス信号となる。
【0006】
電極対106,108の間には、細孔104の抵抗に反比例する微小電流Isが流れる。
Is=Vb/Rp …(1)
【0007】
トランスインピーダンスアンプ210は、微小電流Isを電圧信号Vsに変換する。変換ゲインをrとするとき、以下の式が成り立つ。
Vs=r×Is …(2)
式(1)を式(2)に代入すると、式(3)が得られる。
Vs=Vb×r/Rp …(3)
デジタイザ230は、電圧信号VsをデジタルデータDsに変換する。このように計測装置200Rにより、細孔104の抵抗値Rpに反比例する電圧信号Vsを得ることができる。
【0008】
図2は、計測装置200Rにより測定される例示的な微小電流Isの波形図である。なお本明細書において参照する波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化され、あるいは誇張もしくは強調されている。
【0009】
粒子が通過する短い期間、細孔104の抵抗値Rpが増大する。したがって、粒子が通過するごとに電流Isはパルス状に減少する。電流Isの変化量は、粒径と相関を有する。データ処理装置300は、デジタルデータDsを処理し、電解液2に含まれる粒子4の個数や粒径分布などを解析する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011-513739号公報
【特許文献2】特開平4-040373号公報
【特許文献3】特表平7-504989号公報
【特許文献4】特開2004-510980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の電気的検知帯法では、事前に、既知の粒径(体積)を有する校正用の標準粒子を対象として測定を行い、標準粒子の粒径とデジタルデータDsの相関を取得する。そして、任意の粒径を有する粒子を測定してデジタルデータDsを取得し、事前に得た相関にもとづいて、粒径を取得する。したがって従来の電気的検知帯法で得られる情報は、粒子の個数、あるいは粒径(体積)に限定されており、粒子の形状などより詳細な特徴量を取得することはできていない。
【0012】
この原因として、本発明者は、微粒子測定システム1の応答速度(帯域)に着目した。すなわち微粒子測定システム1が十分に高速であれば、デジタルデータDsの波形は、粒子の形状と相関を有するであろう。ところが、従来の微粒子測定システム1では、以下の理由から広帯域化が困難であった。
【0013】
図3は、ナノポアデバイス100およびトランスインピーダンスアンプ210の等価回路図である。
【0014】
細孔104の径を小さくするほどRpが大きくなり微小電流領域になる。このとき、要求を満たすS/N比を得ようとすると、Rfとして100MΩ~1GΩが必要となる。ここで抵抗Rfは、計測器用の高精度リード抵抗、あるいはチップ抵抗にて実装することになるが、抵抗器には数百fFオーダーの無視できない寄生容量Cfが存在する。この寄生容量Cfはアンプの帯域を格段に狭め(数k~数十kHz程度)、粒子4の詳細な特徴量を取得するための波形情報を得ることが難しくなる。
【0015】
ナノポアデバイス100の等価回路は、細孔104の抵抗値Rpと、寄生容量Cpの並列接続で表される。この寄生容量Cpは、電圧Vsの出力波形にオーバーシュートやアンダーシュートを発生させ、トランスインピーダンスアンプ210の安定性を低下させる。この波形を改善しようとすると、ナノポアデバイス100側Rp×Cpの積に、トランスインピーダンスアンプ210側のRf*Cfの積を合わせる必要があるが、これはCfをさらに増加させることを意味する。すなわちトランスインピーダンスアンプ210を広帯域化と安定性にはトレードオフの関係がある。
【0016】
また、ナノポアデバイス100の個体バラつき、人手による試薬操作により、Rp,Cpが変化するため、出力波形が安定しない問題もある。
【0017】
本発明は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、電流波形を正確に測定可能な測定装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のある態様は、細孔および電極対を有するナノポアデバイスに流れる電流信号を測定する計測装置に関する。計測装置は、電流信号を電圧信号に変換するトランスインピーダンスアンプと、通常の測定時において電極対の間に直流のバイアス電圧を印加し、キャリブレーション時に電極対の間に交流成分を含む校正用電圧を印加可能な電圧源と、を備える。キャリブレーション時に、トランスインピーダンスアンプの出力信号と、校正用電圧にもとづいて、計測装置の少なくともひとつの回路定数を補正可能に構成される。
【0019】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置などの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のある態様によれば、電流波形を正確に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】電気的検知帯法を用いた微粒子測定システムのブロック図である。
【
図2】計測装置により測定される例示的な微小電流Isの波形図である。
【
図3】ナノポアデバイスおよびトランスインピーダンスアンプの等価回路図である。
【
図4】実施の形態に係る微粒子測定システムのブロック図である。
【
図6】一実施例に係る微粒子測定システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0023】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0024】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0025】
(基本構成)
図4は、実施の形態に係る微粒子測定システム1のブロック図である。微粒子測定システム1は、ナノポアデバイス100、計測装置200、データ処理装置300を備える。
【0026】
ナノポアデバイス100については、
図1を参照して説明した通りであり、細孔104が設けられたナノポアチップ102と、電極対106,108を備える。ナノポアチップ102の内部は、KCl(塩化カリウム)やPBS(リン酸緩衝生理食塩水)などの電解液で満たされる。
【0027】
計測装置200は、電極対106,108に電圧を印加し、細孔104に流れる電流Isを測定可能に構成される。計測装置200は、トランスインピーダンスアンプ210、電圧源220、デジタイザ230、インタフェース240、キャリブレーションコントローラ250を備える。
【0028】
データ処理装置300は、ユーザとのインタフェースであり、また微粒子測定システム1を統合的に制御し、測定結果を取得、保存、表示する機能を備える。データ処理装置300は、汎用的なコンピュータやワークステーションであってもよいし、微粒子測定システム1専用に設計されたハードウェアであってもよい。
【0029】
計測装置200は、通常測定モードと校正モードが切り替え可能である。データ処理装置300は、ユーザ(オペレータ)の操作に応じて、計測装置200の動作モードを切り替える。
【0030】
通常測定モードにおける動作は、
図1の計測装置200Rと同様である。電圧源220は、通常測定モードにおいて、電極対106,108の間に直流のバイアス電圧Vbを印加する。トランスインピーダンスアンプ210は、ナノポアデバイス100に流れる電流Isを電圧信号Vsに変換する。デジタイザ230は電圧信号VsをデジタルデータDsに変換する。インタフェース240は、デジタルデータDsをデータ処理装置300に送信する。デジタルデータDsの時系列データは電流波形を表す。データ処理装置300は、通常測定モードで得られたデジタルデータDsを処理し、電解液2に含まれる粒子4の個数や粒径を取得する。さらには、以下で説明する校正モードにより電流波形の測定精度が高まることにより、データ処理装置300は、電流波形にもとづいて粒子の形状をはじめとする詳細な特徴量の取得が可能となる。
【0031】
続いて校正モードについて説明する。インタフェース240がデータ処理装置300から所定の制御データを受信すると、計測装置200が校正モードにセットされる。キャリブレーションコントローラ250は、校正モードにおいて、計測装置200の動作を制御する。
【0032】
キャリブレーションコントローラ250は、電圧源220に校正用の電圧信号を発生させる。具体的には電圧源220は、電極対106,108の間に交流成分を含む校正用電圧Vcalを印加可能に構成される。
【0033】
たとえばトランスインピーダンスアンプ210の入力端子、すなわち電極106は仮想的に接地されている。電極108に交流成分を含む校正用電圧Vcalを印加することで、2つの電極間の電位差が変化する。校正用電圧Vcalの波形をVcal(t)と表す。
【0034】
キャリブレーションモードに際して、ナノポアデバイス100の中には、粒子4を含まない電解液2が満たされる。したがって電極対106,108の間の抵抗値Rpは一定である。したがってトランスインピーダンスアンプ210の出力端子には、校正用電圧Vcalの波形Vcal(t)に応じた電圧信号Vs(t)が現れる。
【0035】
計測装置200は、トランスインピーダンスアンプ210の出力信号Vsと校正用電圧Vcalの関係にもとづいて、少なくともひとつの回路定数が補正可能に構成される。続いて回路定数の最適化の処理について説明する。
【0036】
電圧源220の出力から、トランスインピーダンスアンプ210の出力ノードまでの伝達関数をH(s)と表記する。電圧信号Vs(t)のスペクトルをvs(ω)、校正用電圧Vcal(t)のスペクトルをvcal(ω)と表すと、以下の式が成り立つ。
vs(ω)=H(ω)×vcal(ω)
【0037】
計測装置200の回路定数を変化させることは、伝達関数H(ω)を変化させることに他ならない。したがって周波数ドメインでみたときに、測定される電圧信号Vsのスペクトルvcal(ω)が、校正用電圧Vcalのスペクトルvcal(ω)に近づくように、回路定数を最適化すればよい。
【0038】
時間ドメインで見た場合、測定される電圧信号Vsの時間波形Vs(t)が、校正用電圧Vcalの時間波形Vcal(t)に近づくように、回路定数を最適化すればよい。
【0039】
この回路定数の最適化を含む校正処理は、データ処理装置300において実行してもよい。たとえばデータ処理装置300が、校正用電圧Vcal(t)の波形データDcalを生成し、インタフェース240に送信してもよい。電圧源220はキャリブレーションコントローラ250が受信した波形データをアナログの校正用電圧Vs(t)に変換してもよい。データ処理装置300は、電圧信号Vsの波形を示すデジタルデータDsと、波形データDcalの波形が一致するように、回路定数を変化させてもよい。
【0040】
あるいはデータ処理装置300が、デジタルデータDsと波形データDcalをフーリエ変換により周波数ドメインに変換し、周波数ドメインにおいてそれらが近づくように回路定数を変化させてもよい。
【0041】
あるいはデータ処理装置300が、デジタルデータDsと波形データDcalをフーリエ変換により周波数ドメインに変換し、それらの比である伝達関数H(s)を計算してもよい。そして、伝達関数H(s)が理想とする特性に近づくように回路定数を変化させてもよい。
【0042】
回路定数の最適化処理の一部に、オペレータが介在してもよい。たとえばデータ処理装置300は、校正用電圧の波形と、測定された電圧信号の波形(あるいはスペクトル)を比較可能な態様でディスプレイに表示してもよい。オペレータは、2つの波形(スペクトル)を視覚的に比較してそれらが近づくように、回路定数を選択してもよい。
【0043】
なお校正処理は、データ処理装置300に代えてキャリブレーションコントローラ250が実行してもよいし、データ処理装置300とキャリブレーションコントローラ250が分担して行ってもよい。
【0044】
以上が微粒子測定システム1の構成である。
図5は、校正処理の一例を示す図である。この例では、校正用電圧Vs(t)として矩形波を用いている。
図5には、計測装置200の回路定数を変化させたときの電圧信号の波形Vs(t)が変化する様子が示される。(i)は、応答速度が遅い、したがって帯域が狭い状態を示す。反対に(ii)は、高周波成分のゲインが高いため応答速度は速いが、位相余裕が小さく発振しやすい状態を示す。回路定数を最適化することにより、(iii)に示すように、高速性と安定性を両立することができる。
【0045】
校正モードにより最適化された微粒子測定システム1は、さらに以下の利点を有する。従来では、電圧信号Vsの波形なまりが大きかったため、粒子4の形状に関する情報(特徴量)を抽出することは難しかった。これに対して実施の形態に係る微粒子測定システム1によれば、電圧信号Vsの波形なまりが低減されているため、電圧波形は、粒子の高さ方向の径分布と強い相関を有する。したがって、微粒子測定システム1によれば、粒子4の形状に関する情報(特徴量)を抽出することができる。
【0046】
実施の形態に係る微粒子測定システム1によれば、ナノポアデバイス100の製造ばらつきや、試薬操作のばらつきに起因する抵抗Rpのばらつきの影響をキャンセルできる。またナノポアデバイス100の製造ばらつきに起因するキャパシタCpのばらつきの影響をキャンセルできる。
【0047】
さらに言えば、細孔104の径の設計値、電極対106,108の距離の設計値が異なる複数のナノポアデバイス100を、同じ計測装置200によって測定することが可能となる。
【0048】
本発明は、
図4のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0049】
図6は、一実施例に係る微粒子測定システム1Aのブロック図である。ナノポアデバイス100は、抵抗Rp1とキャパシタCp1の並列接続回路で表される。ナノポアデバイス100に含まれるRp1×Cp1積の変化を吸収できるように、計測装置200Aには、追加の抵抗やキャパシタが設けられる。
【0050】
トランスインピーダンスアンプ210Aは、アンプ212、キャパシタCf1、Cf2、抵抗Rf1、Rf2を含む。アンプ212の反転入力端子は、ナノポアデバイス100の電極106と接続され、その非反転入力端子には基準電圧が印加される。基準電圧は接地電圧であってもよいし、その他の電圧であってもよい。
【0051】
第1抵抗Rf1および第2抵抗Rf2は、アンプ212の出力端子と反転入力端子と間に直列に接続される。第1キャパシタCf1は、第1抵抗Rf1と並列に接続される。第2キャパシタCf2はアンプ212の出力と接続される。第1キャパシタCf1は、第1抵抗Rf1の寄生容量とは別に、明示的かつ意図的に追加されたキャパシタである。
【0052】
キャリブレーションコントローラ250Aは、データ処理装置300からの制御データに応じて、計測装置200Aの回路定数を変更可能である。この実施例において、校正モードにおける回路定数の最適化処理は、データ処理装置300によって行われるものとし、最終的な回路定数が、データ処理装置300からインタフェース240に送信される。
【0053】
図6において、第2抵抗Rf2は可変抵抗であり、調節可能な回路定数である。キャリブレーションコントローラ250の抵抗値制御部252およびデコーダ254は、データ処理装置300からの制御指令に応じて、第2抵抗Rf2の抵抗値をセットする。第2抵抗Rf2としては、デジタルポテンシオメータを用いることができる。
【0054】
アンプ212として、可変ゲインフィードバック方式を採用し、一般的なトランスインピーダンスアンプによりも高速化が図られ、また帯域制御が可能となっている。アンプ212のゲインをGとして示す。このゲインGも、変更可能な回路定数であり得る。データ処理装置300の校正処理により得られたゲインGが、ゲイン制御部256及びデコーダ258によってアンプ212にセットされる。
【0055】
計測装置200Aはさらに、第3キャパシタCp2および第3抵抗Rp2を備えてもよい。Cp2,Rp2の少なくとも一方は、調節可能な回路定数であり得る。この例では第3抵抗Rp2がデジタルポテンシオメータなどの可変抵抗である。抵抗値制御部260およびデコーダ262は、データ処理装置300が決定した抵抗値を第3抵抗Rp2にセットする。
【0056】
電圧源220は、波形発生器222、D/Aコンバータ224、ドライバ226を含む。波形発生器222は校正モードにおいて、校正用電圧Vcal(t)の波形データを生成する。D/Aコンバータ224は波形データをアナログの波形信号に変換する。ドライバ226は、D/Aコンバータ224の出力を受け、電極対106,108の間に校正用電圧Vcal(t)を印加する。
【0057】
図7は、アンプ212の構成例を示す回路図である。微小電流計測用に商品化されているオペアンプは、入力のバイアス電流を低く抑えるためにFET(Field Effect Transistor)、JFET(Junction Field Effect Transistor)により構成されているが、Bi-CMOSなどによる高速オペアンプに比べると帯域は狭い。そこでアンプ212を、2段以上のオペアンプの構成を取り、初段には微小電流計測用のオペアンプを採用し、2段目以降に高速アンプを採用することにより、単一アンプで構成するトランスインピーダンスに比して広帯域化を図ることができる。
【0058】
具体的には、アンプ212は、第1オペアンプOA1、第2オペアンプOA2抵抗Ri1,Ri2を含む。初段の第1オペアンプOA1はFETあるいはJEFTで構成される。第2オペアンプOA2および差動アンプ218は、Bi-CMOSで構成された高速アンプである。
【0059】
初段の第1オペアンプOA1はボルテージフォロアを構成する。第2オペアンプOA2および抵抗Ri1,Ri2は、反転アンプ216を構成する。第2オペアンプOA2の非反転入力端子が、
図6のアンプ212の非反転入力端子に対応付けられ、第2オペアンプOA2の出力が、
図6のアンプ212の出力端子に対応付けられる。アンプ212のゲインは、反転アンプ216のゲインとみなすことができ、G=Ri2/Ri1で表される。したがって、ゲインGを可変とする場合、抵抗Ri1,Ri2の少なくとも一方を可変抵抗で構成すればよい。
【0060】
アンプ212の後段には、差動アンプ(減算器)218が設けられる。差動アンプ218は、初段のボルテージフォロア214の出力と、2段目の反転アンプ216の出力と、を受け、それらの差分を電圧信号Vs’として出力する。差動アンプ218によって、1段目と2段目のオペアンプOA1,OA2のコモンモードノイズを除去することができる。
【0061】
ナノポアデバイス100の周囲は、金属製のシールドケース110で覆われる。ガードアンプ270は、電極106と同電位の信号をドライビングガードとして出力し、シールドケース110に印加する。これによりノイズの影響を遮断できる。電極106とアンプ212の間を同軸ケーブル112で接続し、同軸ケーブル112の外部導体を、ガードアンプ270によって駆動してもよい。これにより、電極106と対接地の寄生容量Csの影響を最小限にすることができ、信号の歪とアンプの帯域を改善できる。
【0062】
続いて、微粒子測定システム1Aにおけるキャリブレーションについて説明する。トランスインピーダンスアンプ210Aに追加するキャパシタCf1は、ナノポアデバイス100側のRC積とのバランスを取るために大きな容量が選択される。
【0063】
そして、抵抗Rf2およびキャパシタCf2を追加し、Rf1×Cf1=Rf2×Cf2を満たすように回路定数を調節すると、フィードバック回路の伝達関数上、見かけCf1をキャンセルできる。これにより抵抗Rf1の寄生容量のみが存在している回路よりも格段に広帯域化できる。
【0064】
さら
図7に示すように、アンプ212を多段に構成して内部ゲインを上げておくと抵抗Rf1が100MΩの条件において1MHzの帯域を実現できる。抵抗Rf2にデジタルポテンシオメータなどの可変抵抗器を使用することで、寄生容量など不確定の要素の影響を排除できる。
【0065】
さらに、ナノポアデバイス100側において電圧源220とナノポアデバイス100の間に抵抗Rp2およびキャパシタCp2を追加し、非固定のRp1×Cp1積に対して、Rp1×Cp1=Rp2×Cp2を満たすように回路定数が調節されると、アンプ側から見てキャパシタCp1をキャンセルできる。
【0066】
この機能により、トランスインピーダンスアンプ210Aとしては最大限に広帯域化でき、かつ、不確定要素の多いナノポアデバイス100に対して安定的な動作が可能となる。
【0067】
また、可変抵抗器にデジタルポテンシオメータを採用し、その制御をオンラインで行うことで、ユーザビリティを向上させることができる。
【0068】
(第1変形例)
図7では、アンプ212を2段で構成したが、ネガティブフィードバックを取り入れた3段もしくは4段以上の構成を採用してもよい。
【0069】
(第2変形例)
図7では、初段のアンプをゲインg=1のボルテージフォロアで構成したがその限りでなく、ゲインgを1より大きくしてもよい。この場合、ガードアンプ270は、ゲイン1/g倍のアンプで構成すればよい。
【0070】
(第3変形例)
実施の形態では、いくつかの可変抵抗としてデジタル制御可能なポテンシオメータを用いたが、それらの一部あるいは全部を手動の可変抵抗器を採用してもよい。この場合、ユーザが、校正用電圧波形と測定された電圧波形にもとづいて、手動で抵抗値を調節してもよい。
【0071】
(第4変形例)
図7において、対接地容量Csの影響が無視できる場合、ドライビングガード(270,110)を省略してもよい。
【0072】
(第5変形例)
図7において、2個のオペアンプOA1,OA2簡のコモンモードノイズの影響を無視できる場合、最終段の差動アンプ218を省略してもよい。
【0073】
(第6変形例)
実施の形態で説明した調節可能な回路定数の組み合わせは例示に過ぎず、その中の任意の組み合わせを採用してもよいし、ここに例示しない回路定数を調節可能としてもよい。
【0074】
(第7変形例)
本明細書では微粒子計測装置について説明したが本発明の用途はそれに限定されず、DNAシーケンサをはじめとするナノポアデバイスを用いた微小電流計測を伴う計測器に広く用いることができる。
【0075】
(第8変形例)
実施の形態では、校正用電圧Vcalとして矩形波を用いたがその限りでなく、マルチトーン信号やスイープ正弦波信号、インパルス信号などを用いてもよい。
【0076】
実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0077】
1 微粒子測定システム
2 電解液
4 粒子
100 ナノポアデバイス
102 ナノポアチップ
104 細孔
106,108 電極
110 シールドケース
200 計測装置
210 トランスインピーダンスアンプ
212 アンプ
214 ボルテージフォロア
216 反転アンプ
218 差動アンプ
220 電圧源
222 波形発生器
224 D/Aコンバータ
226 ドライバ
230 デジタイザ
240 インタフェース
250 キャリブレーションコントローラ
270 ガードアンプ
300 データ処理装置
OA1 第1オペアンプ
Ri1,Ri2 抵抗
Cf1 第1キャパシタ
Rf1 第1抵抗
OA2 第2オペアンプ
Cf2 第2キャパシタ
Rf2 第2抵抗