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特開2022-169601パルプペーパーミルに併設されたナノセルロースの製造
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  • 特開-パルプペーパーミルに併設されたナノセルロースの製造 図1
  • 特開-パルプペーパーミルに併設されたナノセルロースの製造 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169601
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】パルプペーパーミルに併設されたナノセルロースの製造
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/08 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
C08B15/08
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022125386
(22)【出願日】2022-08-05
(62)【分割の表示】P 2018510372の分割
【原出願日】2016-08-29
(31)【優先権主張番号】62/210,736
(32)【優先日】2015-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515143614
【氏名又は名称】グランバイオ インテレクチュアル プロパティー ホールディングス,リミテッド ライアビリティー カンパニー
【氏名又は名称原語表記】GranBio Intellectual Property Holdings,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ネルソン,キンバリー
(72)【発明者】
【氏名】レツィーナ,テオドラ
(72)【発明者】
【氏名】ピュルッカネン,ヴェサ
(72)【発明者】
【氏名】ヤーコウレフ ミハイール
(57)【要約】      (修正有)
【課題】より低いエネルギーコストでバイオマスからナノセルロースを製造するための改善されたプロセスを提供する。
【解決手段】ナノセルロース材料を製造するプロセスにおいて、(a)未漂白パルプ材料を含むバイオマス供給原料を提供するステップと、(b)酸、リグニン用溶媒および水の存在下で前記供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースおよびリグニンを含有する液体を生成するステップと、(c)前記セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも60%の結晶化度を有するナノセルロース材料を生成するステップと、(d)前記ナノセルロース材料を回収するステップと、を含むことを特徴とするプロセスである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノセルロース材料を製造するプロセスにおいて、
(a)未漂白パルプ材料を含むバイオマス供給原料を提供するステップと、
(b)酸、リグニン用溶媒および水の存在下で前記供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースおよびリグニンを含有する液体を生成するステップと、
(c)前記セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも60%の結晶化度を有するナノセルロース材料を生成するステップと、
(d)前記ナノセルロース材料を回収するステップと、
を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項2】
請求項1に記載のプロセスにおいて、前記パルプ材料が化学パルプ、機械パルプ、化学機械パルプ、熱機械パルプ、化学熱機械パルプまたはその組み合せであることを特徴とするプロセス。
【請求項3】
請求項2に記載のプロセスにおいて、前記パルプ材料がクラフトパルプ、亜硫酸パルプ、ソーダパルプまたはその組み合せからなる化学パルプであることを特徴とするプロセス。
【請求項4】
請求項1に記載のプロセスにおいて、前記パルプ材料がパルプペーパーミルからのリサイクルパルプであることを特徴とするプロセス。
【請求項5】
請求項1に記載のプロセスにおいて、前記パルプ材料が紙製品からのリサイクルパルプであることを特徴とするプロセス。
【請求項6】
請求項1に記載のプロセスにおいて、前記酸が硫黄含有酸であることを特徴とするプロセス。
【請求項7】
請求項6に記載のプロセスにおいて、前記硫黄含有酸が酸化硫黄、亜硫酸、三酸化硫黄、硫酸、スルホン酸、リグノスルホン酸およびその組み合せからなる群から選択されることを特徴とするプロセス。
【請求項8】
請求項1に記載のプロセスにおいて、前記リグニン用溶媒が脂肪族アルコールであることを特徴とするプロセス。
【請求項9】
請求項8に記載のプロセスにおいて、前記脂肪族アルコールがエタノールであることを特徴とするプロセス。
【請求項10】
請求項1に記載のプロセスにおいて、前記プロセスが前記パルプ材料を生成するプロセスに併設されていることを特徴とするプロセス。
【請求項11】
ナノセルロース材料を製造するプロセスにおいて、
(a)漂白パルプ材料を含むバイオマス供給原料を提供するステップと、
(b)酸および水ならびに任意選択により溶媒の存在下で供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースおよびリグニンを含有する液体を生成するステップと、
(c)前記セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも60%の結晶化度を有するナノセルロース材料を生成するステップと、
(d)前記ナノセルロース材料を回収するステップと、
を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項12】
請求項11に記載のプロセスにおいて、前記パルプ材料が化学パルプ、機械パルプ、化学機械パルプ、熱機械パルプ、化学熱機械パルプまたはその組み合せであることを特徴とするプロセス。
【請求項13】
請求項12に記載のプロセスにおいて、前記パルプ材料がクラフトパルプ、亜硫酸パルプ、ソーダパルプまたはその組み合せからなる化学パルプであることを特徴とするプロセス。
【請求項14】
請求項11に記載のプロセスにおいて、前記パルプ材料がパルプペーパーミルからのリサイクルパルプであることを特徴とするプロセス。
【請求項15】
請求項11に記載のプロセスにおいて、前記パルプ材料が紙製品からのリサイクルパルプであることを特徴とするプロセス。
【請求項16】
請求項11に記載のプロセスにおいて、前記酸が硫黄含有酸であることを特徴とするプロセス。
【請求項17】
請求項16に記載のプロセスにおいて、前記硫黄含有酸が酸化硫黄、亜硫酸、三酸化硫黄、硫酸、スルホン酸、リグノスルホン酸およびその組み合せからなる群から選択されることを特徴とするプロセス。
【請求項18】
請求項11に記載のプロセスにおいて、前記溶媒が存在し、脂肪族アルコールであることを特徴とするプロセス。
【請求項19】
請求項18に記載のプロセスにおいて、前記脂肪族アルコールがエタノールであることを特徴とするプロセス。
【請求項20】
請求項11に記載のプロセスにおいて、前記プロセスが前記パルプ材料を生成するプロセスに併設されていることを特徴とするプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本国際特許出願は、参照により本明細書に組み入れられている、2015年8月27日出願の米国仮特許出願第62/210,736号明細書の優先権を主張する非仮出願である。
【0002】
本発明は一般に、リグノセルロース系バイオマスを分画し、セルロース画分をさらに処理することによって製造される、ナノセルロースおよび関連材料に関する。
【背景技術】
【0003】
バイオマス精製(またはバイオ精製)は、産業界において普及してきた。セルロース繊維および糖類、ヘミセルロース糖類、リグニン、合成ガスならびにこれらの中間体の誘導体は、化学物質および燃料の製造に利用されている。実際に我々は今や、製油精製装置が現在、原油を処理するのとほぼ同様に、納入されるバイオマスを処理可能である一体型バイオ精製装置の商業化に注目している。有効利用されていないリグノセルロース系バイオマス供給原料は、炭素基準で石油よりもはるかに安価となると共に、環境ライフサイクルの観点からはるかに良好となる見込みがある。
【0004】
リグノセルロース系バイオマスは、地球で最も豊富な再生可能材料であり、化学物質、燃料および材料を製造するための可能性を秘めた供給原料であると長く認識されている。リグノセルロース系バイオマスは通常、主にセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンからなる。セルロースおよびヘミセルロースは天然の糖類のポリマーであり、リグニンはバイオマス網目全体を強化する芳香族/脂肪族炭化水素ポリマーである。バイオマスのいくつかの形態(例えばリサイクル材料)は、ヘミセルロースを含有しない。
【0005】
地球上で最も入手し易い天然ポリマーであるにも拘わらず、セルロースがナノ結晶性セルロース(NCC)、ナノフィブリルセルロース(NFC)およびバクテリアセルロース(BC)の形態で、ナノ構造化材料として注目を集めるようになったのは最近のことに過ぎない。ナノセルロースは、ポリマー強化、抗菌性フィルム、生分解性食品用包装材、印刷用紙、顔料およびインク、紙およびボール紙梱包材、バリアフィルム、接着剤、バイオ複合材、創傷治癒、医薬品および薬剤送達、布地、水溶性ポリマー、構造材料、輸送産業向けリサイクル可能なインテリアおよび構造部品、レオロジー改質剤、低カロリー食品添加物、化粧品増粘剤、製薬用錠剤結合剤、バイオアクティブペーパー、エマルションおよび粒子安定化フォーム用のピッカリング安定剤、塗料配合物、光学的スイッチング用フィルムならびに洗剤などの広範囲の用途で使用するために開発されつつある。ナノセルロースの非毒性および優れた機械的特性などの主要な利点にも拘わらず、ナノセルロースの使用はこれまでのところ、ニッチ用途にとどまっている。NFCは、その感湿性、親油性ポリマーとの非相溶性および製造に要する高いエネルギー消費量のために、これまで普通紙またはプラスチックなどの量産品との競争が妨げられてきた。「THE GLOBAL MARKET FOR NANOCELLULOSE TO 2017」,FUTURE MARKETS INC.TECHNOLOGY REPORT No.60,SECOND EDITION(October 2012)を参照のこと。
【0006】
バイオマス由来パルプは、機械処理によってナノセルロースに変換され得る。このプロセスは簡単であり得るが、欠点としては、高いエネルギー消費量、強力な機械処理による繊維および粒子への損傷ならびにフィブリルの直径および長さの分布が広いことが挙げられる。
【0007】
バイオマス由来パルプは、化学処理によってナノセルロースに変換され得る。例えばパルプを2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)で処理して、ナノセルロースを製造してよい。このような技法は、機械処理と比較してエネルギー消費量を低減し、粒径をより均一にするが、このプロセスは経済的に実現可能とは思われない。
【0008】
より低いエネルギーコストでバイオマスからナノセルロースを製造するための改善プロセスが、当技術分野で必要とされている。ナノセルロース製造のための改善出発材料(即ちバイオマス由来パルプ)も、当技術分野で望まれている。新規プロセスは、ナノフィブリルおよびナノ結晶のいずれかまたは両方を製造するために、ならびに糖類、リグニンおよび他の副産物も副生するために、供給原料についての柔軟性およびプロセスについての柔軟性を有することが特に望ましい。いくつかの用途では、ナノセルロースまたはナノセルロースを含有する複合材の良好な機械的特性をもたらす、結晶性の高いナノセルロースを製造することが望ましい。ある用途では、ナノセルロースの疎水性を向上させることが有益である。
【発明の概要】
【0009】
本発明のいくつかの変形は、
(a)未漂白パルプ材料を含むバイオマス供給原料を提供するステップと、
(b)酸、リグニン用溶媒および水の存在下で供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースおよびリグニンを含有する液体を生成するステップと、
(c)セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも60%の結晶化度を有するナノセルロース材料を生成するステップと、
(d)ナノセルロース材料を回収するステップと、
を含む、ナノセルロース材料を製造するプロセスを提供する。
【0010】
いくつかの変形は、
(a)漂白パルプ材料を含むバイオマス供給原料を提供するステップと、
(b)酸(例えば二酸化硫黄)および水ならびに任意選択により溶媒(例えばエタノール)の存在下で供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースおよびリグニンを含有する液体を生成するステップと、
(c)セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも60%の結晶化度を有するナノセルロース材料を生成するステップと、
(d)ナノセルロース材料を回収するステップと、
を含む、ナノセルロース材料を製造するプロセスを提供する。
【0011】
いくつかの実施形態において、パルプ材料は化学パルプ、機械パルプ、化学機械パルプ、熱機械パルプ、化学熱機械パルプまたはその組み合せである。ある実施形態において、パルプ材料は、クラフトパルプ、亜硫酸パルプ、ソーダパルプまたはその組み合せからなる化学パルプである。いくつかの実施形態において、パルプ材料は、パルプ製紙工場からのリサイクルパルプもしくは紙製品からのリサイクルパルプまたはその組み合せである。
【0012】
いくつかの実施形態において、酸は、硫黄含有酸、例えば二酸化硫黄、亜硫酸、三酸化硫黄、硫酸、スルホン酸、リグノスルホン酸およびその組み合せからなる群から選択される酸である。いくつかの実施形態において、リグニン用溶媒は、脂肪族アルコール、例えばエタノールである。
【0013】
このプロセスは、(漂白または未漂白に拘わらず)パルプ材料を生成するプロセスに併設または隣接してよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明のいくつかの実施形態による、漂白または未漂白パルプからのナノセルロース材料の製造を示す。
図2図2は、本発明のいくつかの実施形態による、漂白または未漂白パルプからのナノセルロース材料の製造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この説明は、当業者が本発明を実施し、使用できるようにし、本発明の複数の実施形態、適合、変形、代替および使用について記載する。本発明のこれらおよび他の実施形態、特徴および利点は、以下の本発明の詳細な記載を任意の添付図面と併せて参照すれば、当業者にさらに明らかとなる。
【0016】
本明細書および添付された請求項で使用する場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が別途明確に指摘しない限り、複数の指示対象を含む。別途定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって普通に理解されているのと同じ意味を有する。パーセンテージに基づくすべての組成数および範囲は、別途指摘しない限り、重量パーセンテージである。数または条件のすべての範囲は、任意の好適な小数点に丸めた、範囲内に含まれる任意の特定の値を含むことを意図する。
【0017】
別途指摘しない限り、明細書および請求項において使用するパラメータ、反応条件、成分の濃度などを表すすべての数は、すべての例において「約」という用語によって修飾されることが理解されるべきである。したがって、逆に指摘されていない限り、以下の明細書および添付請求項で述べる数値パラメータは、少なくとも特定の分析技法に応じて変化し得る概数である。
【0018】
用語「含む(including)」、「含有する(containing)」または「特徴とする(characterized by)」と同義である、「含む(comprising)」は、包括的またはオープンエンドであり、追加の列挙されていない要素または方法ステップを排除しない。「含む(Comprising)」は、示した請求項要素が必須であるが、他の請求項要素が追加され、請求項の範囲内で構成物をなお形成し得ることを意味する、請求項の記載で使用される技術用語である。
【0019】
本明細書で使用する場合、「からなる(consisting of)」という語句は、請求項で規定されていない要素、ステップまたは成分をいずれも排除する。「からなる」(またはその変形)という語句が、プリアンブルの直後ではなくむしろ請求項の本体の項に出現する場合、これはその項において示された要素のみを限定し、他の要素はこの請求項全体から排除されない。本明細書で使用する場合、「から本質的になる」という語句は、請求項の範囲を、規定された要素または方法ステップに加えて、請求された対象の主成分または新規な特徴に実質的に影響しないものに限定する。
【0020】
「含む(comprising)」、「からなる(consisting of)」および「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語に関して、これら3つの用語の1つを本明細書で使用する場合、本発明で開示および請求された対象は、他の2つの用語のどちらかの使用も含み得る。したがって、別途明示的に列挙されないいくつかの実施形態において、「含む(comprising)」のいずれの例も、「からなる(consisting of)」またあるいは「から本質的になる(consisting essentially of)」によって置き換えられ得る。
【0021】
一般に、主要な画分(セルロース、ヘミセルロースおよびリグニン)を効果的に相互から分離する方法でバイオマスを処理することは有益である。セルロースをさらなる処理に供して、ナノセルロースを製造することができる。リグノセルロース誘導体の分画によって、セルロース繊維が解離され、セルロースミクロフィブリル間のリグニンおよびヘミセルロースが溶解されて細胞壁構造が開く。繊維は、ナノフィブリルまたはナノ結晶により変換されやすくなる。ヘミセルロース糖類を発酵させて多様な生成物、例えばエタノールとすること、または他の化学物質に変換することができる。バイオマス由来のリグニンは、固体燃料として、液体燃料、合成ガスまたは水素を製造するエネルギー供給原料として、多様なポリマー系化合物を作製するための中間体としても価値を有する。さらにタンパク質または希少糖などの少量成分を抽出して、特製品用途向けに精製することができる。
【0022】
本開示は、任意のリグノセルロース系バイオマスを、その主要な多量成分(セルロース、リグニンおよび存在する場合はヘミセルロース)に、それぞれが潜在的に異なるプロセスで使用できるように効率的に分画するプロセスおよび装置について記載する。このプロセスの利点は、セルロースに富む固体を製造しながら、高収率のヘミセルロース糖類およびリグニンの両者を含有する液相と、少量のリグニンおよびヘミセルロースの分解生成物とを同時に製造することである。柔軟な分画技法により、生成物について複数の用途がもたらされる。セルロースは、本明細書で記載するように、ナノセルロースを製造するための有利な前駆体である。
【0023】
本発明は、いくつかの変形において、ナノセルロースおよび関連材料が、AVAP(登録商標)プロセスと関連するプロセス条件およびステップを含むある条件下で製造できるという発見を利用する。驚くべきことに、非晶質セルロースを加水分解するための酵素処理または別の酸処理ステップを必要とせずに、ナノ繊維またはナノ結晶の形成中に非常に高い結晶化度の生成および維持が可能であることが見出された。高い結晶化度は、例えば複合材、強化ポリマーおよび高強度紡糸繊維および布地にとって有利である、機械的に強い繊維または良好な物理的強化特性と言い換えることができる。
【0024】
セルロースナノフィブリル(CNF)の製造にとっての重大な技術的経済的障壁は、高いエネルギー消費量および高いコストである。二酸化硫黄(SO)およびエタノール(または他の溶媒)を使用すると、本明細書で開示する前処理により、バイオマスからヘミセルロースおよびリグニンだけでなく、セルロースの非晶質領域も効果的に除去されて、CNFへの変換に必要な機械的エネルギーが最小となる、無類の高結晶性セルロース生成物が得られる。機械的エネルギーに対する要求が低いのは、セルロースの非晶質領域の除去の際の化学的前処理中に形成されたフィブリル化セルロース網目に起因する。
【0025】
本明細書で意図する場合、「ナノセルロース」は、ミクロフィブリル化セルロース、ナノフィブリル化セルロース、微結晶性セルロース、ナノ結晶性セルロースおよび粒状化またはフィブリル化溶解パルプを含むが、これらに限定されない、一連のセルロース系材料を含むとして広く定義される。通例、本明細書において規定されるナノセルロースは、ナノメートル規模の少なくとも1つの長さ寸法(例えば直径)を有する粒子を含む。
【0026】
「ナノフィブリル化セルロース」、即ち「セルロースナノフィブリル」は、ナノメートルサイズの粒子もしくは繊維またはミクロンサイズおよびナノメートルサイズの粒子または繊維の両方を含有する、セルロース繊維またはセルロース領域を意味する。「ナノ結晶性セルロース」、即ち「セルロースナノ結晶」は、ナノメートルサイズのドメインまたはミクロンサイズおよびナノメートルサイズのドメインの両方を含有するセルロース粒子、セルロース領域またはセルロース結晶を意味する。「ミクロンサイズの」は、1μmから100μmを含み、「ナノメートルサイズの」は、0.01nmから1000nm(1μm)を含む。より大きいドメイン(長繊維を含む)も、これらの材料中に存在してよい。
【0027】
本発明のある例示的な実施形態について説明する。これらの実施形態は、請求される本発明の範囲を限定するものではない。ステップの順序は変更してよく、いくつかのステップは省略してよく、および/または他のステップを追加してよい。第1ステップ、第2ステップなどの本明細書における呼び方は、いくつかの実施形態を例示するために過ぎない。
【0028】
いくつかの変形において、本発明は、AVAP(登録商標)ナノセルロース製造プラントを既存のパルプミル(クラフト、亜硫酸など)を追加することに関する。パルプミルからAVAPプラントへの供給原料は、例えば30~50重量%の固形分でAVAP蒸煮器に送達される、ネバードライ漂白パルプ(漂白ナノセルロースグレード用)またはネバードライ褐色パルプ(リグニンコート・ナノセルロース・グレード用)であってよい。スクリュープレスを設置してパルプを約30重量%固形分まで取り込んでよく、スクリュープレスはAVAP蒸煮器のプラグ・スクリュー・フィーダに直接供給を行う。別の実施形態は、パルプマシンのプレスラインからの50重量%固形分のパルプを、蒸煮器への供給材料として使用することである。これには、AVAP蒸煮器への供給前に「ウェットラップ」パルプシートの細断/破砕(例えばハンマーミルを使用)および粉塵捕集が必要となる。
【0029】
既存のパルプミルに追加のAVAPナノセルロースプラントを加える利点としては、以下が挙げられる。
・ AVAPへの供給原料の高いセルロース含有率。漂白グレードでは、セルロース含有率は通常90重量%を超える。褐色グレードでは、セルロース含有率は通例70~90重量%である。このように、AVAPプラントは、溶解リグニンおよびヘミセルロースを処理する必要がなく、AVAPプラントからのナノセルロース収率は、セルロースがわずか約50重量%であるバイオマスから出発するよりも著しく高い。
・ 蒸煮器、洗浄および化学物質回収の資本コストは、バイオマスが供給される独立型AVAPプラントよりも低くなる。
・ 液体回収は簡易化され、操作が容易である。大量のリグニン、樹脂、溶解ヘミセルロースによって汚染されるおそれが低い。
・ 約4000~5000DPのパルプ繊維からナノスケール(例えばフィブリルでは1200DP、結晶では250DP)への、AVAPを使用した化学的分解によって、個々のナノ粒子の遊離に必要な機械的エネルギー量が著しく低減される。
・ AVAPプロセスによって、漂白グレードおよび未漂白グレードの両方としての、ナノフィブリル、ナノ結晶および/またはナノフィブリル/ナノ結晶の混合物の調節可能な製造ができる。既存ミルへの他の追加のナノセルロースプロセスは、1つの製品を製造可能にするだけである(精製からフィブリルおよび硫酸法から結晶)。
【0030】
漂白広葉樹クラフトドライラップのAVAPパルプ化の例示的な条件は、12重量%のSO、44重量%のエタノールおよび44重量%の水を含む液体、ナノフィブリルを作製する場合は蒸煮器温度80~105℃で25~45分またはナノ結晶を作製する場合は100~110℃で45~75分である。一般に、ある実施形態において、0~75重量%のエタノールと共に70~170℃の温度が用いられ得る。
【0031】
漂白パルプを供給材料として使用する場合、任意選択により、エタノール(またはリグニン用の他の溶媒)の非存在下で蒸解を行ってよい。しかし、漂白(低リグニン)供給原料を利用する場合でも、溶媒(エタノールなど)は、セルロースの結晶化度を維持する緩衝能力を与えることがある。
【0032】
本開示において、「リグノセルロース系バイオマス供給原料」とは、これに限定されるわけではないが、種々のパルプ材料、例えば化学パルプ、機械パルプ、化学機械パルプ、熱機械パルプ、化学熱機械パルプまたはその組み合せを含むことを意味する。パルプ材料は漂白されていても、または未漂白であってもよく、ネバードライであることが好ましいが、少なくともある程度まで乾燥させることができる。いくつかの実施形態において、パルプ材料は、クラフトパルプ、亜硫酸パルプ、ソーダパルプまたはその組み合せである。いくつかの実施形態において、パルプ材料は、例えばペーパーパルプミルからのリサイクルパルプまたは紙製品からのリサイクルパルプである。
【0033】
いくつかの変形において、ナノセルロース材料を製造するプロセスは、
(a)リグノセルロース系バイオマス供給原料を提供するステップと、
(b)酸、リグニン用溶媒および水の存在下で供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースおよびリグニンを含有する液体を生成するステップと、
(c)セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも60%の結晶化度(即ちセルロース結晶化度)を有するナノセルロース材料を生成するステップと、
(d)ナノセルロース材料を回収するステップと、
を含む。
【0034】
いくつかの実施形態において、酸は、二酸化硫黄、亜硫酸、三酸化硫黄、硫酸、リグノスルホン酸およびその組み合せからなる群から選択される。詳細な実施形態において、酸は二酸化硫黄である。
【0035】
バイオマス供給原料は、広葉樹、針葉樹、森林残渣、ユーカリ、産業廃棄物、パルプおよび紙廃棄物、家庭廃棄物、セルロースを含有するリサイクル材料、綿またはその組み合せから選択され得る。いくつかの実施形態は、食用作物、一年草、エネルギー作物または他の毎年再生可能な供給原料と関連するリグノセルロース系バイオマスを含む農業残渣を利用する。例示的な農業残渣としては、これに限定されるわけではないが、トウモロコシ茎葉、トウモロコシ繊維、コムギ藁、サトウキビバガス、サトウキビ藁、コメ藁、エンバク藁、オオムギ藁、ススキ、エネルギー用サトウキビの藁/残渣またはその組み合せが挙げられる。本明細書で開示するプロセスは、供給原料の柔軟性から恩恵を受ける。このことは多種多様のセルロース含有供給原料にとって有効である。
【0036】
本明細書で使用する場合、「リグノセルロース系バイオマス」は、セルロースおよびリグニンを含有するいずれの材料も意味する。リグノセルロース系バイオマスはヘミセルロースも含有し得る。1種以上のバイオマスの混合物を使用できる。いくつかの実施形態において、バイオマス供給原料は、スクロース含有成分(例えばサトウキビまたはエネルギー用サトウキビ)および/またはデンプン成分(例えばトウモロコシ、コムギ、コメなど)に加えて、リグノセルロース系成分(上記のものなど)をどちらも含む。種々の水分レベルを出発バイオマスに関連付けることができる。バイオマス供給原料は、必要ではないが、比較的乾燥していてよい。一般に、バイオマスは粒状またはチップの形態であるが、本発明では粒径は重要ではない。
【0037】
いくつかの実施形態において、ステップ(c)の間に、セルロースに富む固体は、セルロースに富む固体1トンにつき約5000キロワット時未満の、例えばセルロースに富む固体1トンにつき約4000、3000、2000、1000、900、850、800、750、700、650、600、550または500キロワット時未満の総機械的エネルギーを用いて処理される。エネルギー消費量は、他のいずれの好適な単位で測定してもよい。機械処理デバイスを駆動するモータによって消費される電流を測定する電流計は、総機械的エネルギーの推定値を得る1つの手段である。
【0038】
ステップ(c)における機械処理では、1種以上の既知の技法、例えば、決してこれに限定されるわけではないが、粉砕、破砕、打砕、超音波処理またはセルロース中のナノフィブリルおよび/もしくはナノ結晶を形成するまたは解離させる任意の他の手段などを用いてよい。本質的に、繊維を物理的に分離するいずれの種類のミルまたはデバイスも利用してよい。このようなミルは当産業において周知であり、制限なく、バレービーター、シングルディスク精製機、ダブルディスク精製機、広角および挟角の両方を含む円錐状精製機、円筒状精製機、ホモジナイザ、マイクロフルイダイザならびに他の類似の粉砕または破砕装置を含む。例えばSmook,Handbook for Pulp & Paper Technologists,Tappi Press,1992;およびHubbe et al.,“Cellulose Nanocomposites:A Review,”BioResources 3(3),929-980(2008)を参照のこと。
【0039】
機械処理の程度は、プロセス中に数種の手段のいずれによって監視してもよい。ある光学装置は、どちらも機械処理ステップの終点を決定するために使用され得る、繊維長分布および微細度(%)に関する連続したデータを提供することができる。時間、温度および圧力を機械処理の間に変化させてよい。例えば、いくつかの実施形態において、約5分~2時間の時間にわたる、周囲温度および圧力での超音波処理を利用してよい。
【0040】
いくつかの実施形態において、セルロースに富む固体の一部はナノフィブリルに変換されるが、セルロースに富む固体の残余はフィブリル化されない。種々の実施形態において、セルロースに富む固体の約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%または実質的にすべてがフィブリル化されてナノフィブリルとなる。
【0041】
いくつかの実施形態において、ナノフィブリルの一部はナノ結晶に変換されるが、ナノフィブリルの残余はナノ結晶に変換されない。種々の実施形態において、ナノフィブリルの約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%または実質的にすべてがナノ結晶に変換される。乾燥の間、少量のナノ結晶が再び集結して、ナノフィブリルを形成することが可能である。
【0042】
機械処理の後、ナノセルロース材料を粒径によって分級してよい。材料の一部を酵素加水分解などの分離プロセスに供してグルコースを製造してもよい。このような材料は例えば良好な結晶化度を有し得るが、所望の粒径または重合度を有さないことがある。
【0043】
ステップ(c)は、セルロースに富む固体を1種以上の酵素または1種以上の酸によって処理することをさらに含み得る。酸を用いる場合、酸は、二酸化硫黄、亜硫酸、リグノスルホン酸、酢酸、ギ酸およびその組み合せからなる群から選択され得る。酢酸またはウロン酸などの、ヘミセルロースに関連する酸を単独でまたは他の酸と併せて用いてもよい。ステップ(c)は、熱によるセルロースに富む固体の処理も含み得る。いくつかの実施形態において、ステップ(c)は、いずれの酵素または酸も用いない。
【0044】
ステップ(c)において、酸を用いる場合、酸は例えば硫酸、硝酸またはリン酸などの強酸であり得る。より弱い酸は、より過酷な温度および/または時間にて用いられ得る。セルロース(即ちセルラーゼ)およびおそらくヘミセルロース(即ちヘミセルラーゼ活性を有する)を加水分解する酵素は、ステップ(c)において、酸の代わりに、または場合によっては、酸性加水分解の前もしくは後の順序構成でのいずれかで用いてよい。
【0045】
いくつかの実施形態において、プロセスは、セルロースに富む固体を酵素処理して、非晶質セルロースを加水分解することを含む。他の実施形態において、または酵素処理の前もしくは後に連続して、プロセスは、セルロースに富む固体を酸処理して非晶質セルロースを加水分解することを含み得る。
【0046】
いくつかの実施形態において、プロセスは、ナノ結晶性セルロースを酵素処理することをさらに含む。他の実施形態において、または酵素処理の前もしくは後に連続して、プロセスは、ナノ結晶性セルロースを酸処理処理することをさらに含む。
【0047】
所望ならば、酵素処理を機械処理の前にまたはおそらく機械処理と同時に用いてよい。しかし、好ましい実施形態において、ナノ繊維の単離前の非晶質セルロースの加水分解または繊維壁の構造の脆弱化には、酵素処理は必要ない。
【0048】
機械処理の後、ナノセルロースを回収してよい。セルロースナノフィブリルおよび/またはナノ結晶の分離は、ナノフィブリルの完全性を保全しながら細胞壁の超構造を崩壊させることができる装置を使用して実施され得る。例えばホモジナイザを用いてよい。いくつかの実施形態において、幅1~100nmの範囲内の成分フィブリルを有するセルロース凝集フィブリルが回収され、このフィブリルは相互から完全には分離されていない。
【0049】
プロセスは、ステップ(c)の前におよび/またはステップ(c)の一部として、セルロースに富む固体を漂白することをさらに含み得る。あるいはまたは加えて、プロセスは、ステップ(c)の間におよび/またはステップ(c)の後にナノセルロース材料を漂白することをさらに含み得る。酵素漂白を含む、既知の漂白技術またはシーケンスを用いてよい。
【0050】
ナノセルロース材料は、ナノフィブリル化セルロースを含み得るか、またはナノフィブリル化セルロースから本質的になり得る。ナノセルロース材料は、ナノ結晶性セルロースを含み得るか、またはナノ結晶性セルロースから本質的になり得る。いくつかの実施形態において、ナノセルロース材料は、ナノフィブリル化セルロースおよびナノ結晶性セルロースを含み得るか、またはナノフィブリル化セルロースおよびナノ結晶性セルロースから本質的になり得る。
【0051】
いくつかの実施形態において、セルロースに富む固体(即ちナノセルロース前駆体材料)の結晶化度は、少なくとも60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%またはそれ以上である。これらまたは他の実施形態において、ナノセルロース材料の結晶化度は、少なくとも60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%またはそれ以上である。結晶化度はいずれの既知の技法を使用して測定してもよい。例えば、X線回折および固体13C核磁気共鳴が利用され得る。
【0052】
ナノセルロース前駆体材料が一般に機械強度に寄与する高い結晶化度を有し、さらに、ナノセルロース前駆体材料を破壊してナノフィブリルおよびナノ結晶にするために必要な機械的エネルギー消費量が非常に低いことは、注目に値する。機械的エネルギー入力が低いため、高い結晶化度が最終生成物にて本質的に維持されると考えられる。
【0053】
いくつかの実施形態において、ナノセルロース材料は、約100~約1500、例えば約125、150、175、200、225、250、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300または1400の平均重合度を特徴とする。ナノセルロース材料は、例えば約300~約700または約150~約250の平均重合度を特徴とし得る。ナノセルロース材料は、ナノ結晶形態である場合、100未満、例えば約75、50、25または10の重合度を有し得る。材料の一部は、1500より高い、例えば約2000、3000、4000または5000の重合度を有し得る。
【0054】
いくつかの実施形態において、ナノセルロース材料は、単一ピークを有する重合度分布を特徴とする。他の実施形態において、ナノセルロース材料は、2つのピーク、例えば150~250の範囲に中心がある1つのピークおよび300~700の範囲に中心があるもう1つのピークを有する重合度分布を特徴とする。
【0055】
いくつかの実施形態において、ナノセルロース材料は、約10~約1000、例えば約15、20、25、35、50、75、100、150、200、250、300、400または500の、粒子の平均長さ-幅アスペクト比を特徴とする。ナノフィブリルは一般に、ナノ結晶よりも高いアスペクト比に関連付けられる。ナノ結晶は例えば、約100nm~500nmの長さ範囲および約4nmの直径、即ち25~125のアスペクト比を有し得る。ナノフィブリルは、約2000nmの長さおよび5~50nmの直径範囲、即ち40~400のアスペクト比を有し得る。いくつかの実施形態において、アスペクト比は50未満、45未満、40未満、35未満、30未満、25未満、20未満、15未満または10未満である。
【0056】
任意選択により、プロセスは、ステップ(b)および/またはステップ(c)において非晶質セルロースを加水分解してグルコースとし、グルコースを回収し、グルコースを発酵させて発酵生成物とすることをさらに含む。任意選択により、プロセスは、ヘミセルロースから誘導されたヘミセルロース系糖類を回収、発酵またはさらに処理することをさらに含む。任意選択により、プロセスは、リグニンを回収、燃焼またはさらに処理することをさらに含む。
【0057】
非晶質セルロースの加水分解から生成されるグルコースを、エタノールまたは別の発酵副産物を製造する包括的プロセスに組み入れてよい。このため、いくつかの実施形態において、プロセスは、ステップ(b)および/またはステップ(c)において、非晶質セルロースを加水分解してグルコースとし、グルコース回収することをさらに含む。このグルコースを精製および販売してよい。またはグルコースを発酵させて、これに限定されるわけではないが、エタノールなどの発酵生成物としてよい。グルコースまたは発酵生成物は、所望ならば、ヘミセルロース糖処理などの前段階までリサイクルしてよい。
【0058】
ヘミセルロース系糖類を回収して発酵させる場合、これらを発酵させてモノマーまたはその前駆体を製造してよい。モノマーを重合してポリマーを製造してよく、ポリマーを次いで、ナノセルロース材料と化合させてポリマー-ナノセルロース複合材を形成してよい。
【0059】
いくつかの実施形態において、ナノセルロース材料は、ステップ(b)の間にセルロースに富む固体の表面にリグニンの少なくとも一部が堆積することにより、少なくとも部分的に疎水性である。これらまたは他の実施形態において、ナノセルロース材料は、ステップ(c)またはステップ(d)の間にナノセルロース材料の表面にリグニンの少なくとも一部が堆積することにより、少なくとも部分的に疎水性である。
【0060】
いくつかの実施形態において、プロセスは、ナノセルロース材料を1種以上のナノセルロース誘導体に化学変換することをさらに含む。ナノセルロース誘導体は、例えばナノセルロースエステル、ナノセルロースエーテル、ナノセルロースエーテルエステル、アルキル化ナノセルロース化合物、架橋ナノセルロース化合物、酸官能化ナノセルロース化合物、塩基官能化ナノセルロース化合物およびその組み合せからなる群から選択され得る。
【0061】
種々の種類のナノセルロース官能化または誘導体化、例えばポリマーを使用する官能化、化学表面改質、ナノ粒子(即ちナノセルロース以外の他のナノ粒子)を使用する官能化、無機物もしくは界面活性剤による改質または生化学改質を用いてよい。
【0062】
ある変形は、
(a)リグノセルロース系バイオマス供給原料を提供するステップと、
(b)二酸化硫黄、リグニン用溶媒および水の存在下で供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースオリゴマーおよびリグニンを含有する液体を生成するステップであって、セルロースに富む固体の結晶化度が少なくとも70%であり、SO濃度が約10重量%~約50重量%であり、分画温度が約130℃~約200℃、分画時間が約30分~約4時間であるステップと、
(c)セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも70%の結晶化度を有するナノセルロース材料を生成するステップと、
(d)ナノセルロース材料を回収するステップと、
を含む、ナノセルロース材料を製造するプロセスを提供する。
【0063】
いくつかの実施形態において、SO濃度は約12重量%~約30重量%である。いくつかの実施形態において、分画温度は約140℃~約170℃である。いくつかの実施形態において、分画時間は約1時間~約2時間である。ステップ(b)の間に、可溶化リグニンの一部がセルロースに富む固体の表面上に意図的に再び堆積されて、セルロースに富む固体が少なくとも部分的に疎水性となるように、プロセスを制御してよい。
【0064】
複合材における強度向上軽量ナノセルロースの用途を制限する主な要因は、セルロースに固有の親水性である。疎水性ポリマーマトリックス中に均一に分散できるようにするために疎水性を付与する、ナノセルロース表面の表面改質は、活発な研究領域である。本明細書に記載したプロセスを使用してナノセルロースを調製するときに、リグニンが、ある条件下においてはパルプ上に凝縮して、カッパー価を上昇させ、褐色または黒色材料の生成をもたらし得ることが見出されている。リグニンは、ナノセルロース前駆体材料の疎水性を上昇させ、漂白または他のステップによってリグニンが除去されない限り、疎水性は機械処理中維持される(例えば、リグニン含有率の調整またはある種のリグニンへの攻撃のいずれかのために、多少の漂白はなお行ってよい)。
【0065】
いくつかの実施形態において、本発明は、
(a)リグノセルロース系バイオマス供給原料を提供するステップと、
(b)酸、リグニン用溶媒および水の存在下で供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースおよびリグニンを含有する液体を生成するステップであって、リグニンの一部がセルロースに富む固体の表面上に堆積して、セルロースに富む固体を少なくとも部分的に疎水性にするステップと、
(c)セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも60%の結晶化度を有する疎水性ナノセルロース材料を生成するステップと、
(d)疎水性ナノセルロース材料を回収するステップと、
を含む、疎水性ナノセルロース材料を製造するプロセスを提供する。
【0066】
いくつかの実施形態において、酸は、二酸化硫黄、亜硫酸、三酸化硫黄、硫酸、リグノスルホン酸およびその組み合せからなる群から選択される。
【0067】
いくつかの実施形態において、ステップ(c)の間に、セルロースに富む固体は、セルロースに富む固体1トンにつき約1000キロワット時未満の、例えばセルロースに富む固体1トンにつき約500キロワット時未満の総機械的エネルギーを用いて処理される。
【0068】
種々の実施形態において、ナノセルロース材料の結晶化度は、少なくとも70%または少なくとも80%である。
【0069】
ナノセルロース材料は、ナノフィブリル化セルロース、ナノ結晶性セルロースまたはナノフィブリル化ナノセルロースおよびナノ結晶性セルロースの両方を含み得る。ナノセルロース材料は、約100~約1500、例えば約300~約700または例えば約150~約250の平均重合度を(制限なく)特徴とし得る。
【0070】
ステップ(b)は、繊維へのリグニンの堆積を促進する傾向のある、時間および/もしくは温度の拡張、またはリグニン用溶媒の濃度の低下などのプロセス条件を含み得る。あるいはまたは加えて、ステップ(b)は、初期分画中に可溶化されたリグニンの少なくとも一部を堆積させるのに適した1回以上の洗浄ステップを含み得る。1つの手法は、水および溶媒の溶液よりもむしろ、水で洗浄することである。リグニンは一般に水に不溶性であるため、析出を開始する。任意選択により、分画、洗浄または他のステップの間に、pHおよび温度などの他の条件を変化させて、表面に堆積するリグニンの量を最適化してよい。リグニンの表面濃度をバルク濃度より高くするために、リグニンを最初に溶液中に導入して次いで再堆積させる必要があり、内部のリグニン(ナノセルロースの粒子内)は、同様に疎水性を上昇させないことに留意する。
【0071】
任意選択により、疎水性ナノセルロース材料を製造するプロセスは、リグニンを化学改質して、ナノセルロース材料の疎水性を上昇させることをさらに含み得る。リグニンの化学改質は、ステップ(b)、ステップ(c)、ステップ(d)の間に、ステップ(d)の後に、またはいくつかの組み合せで行ってよい。
【0072】
リグニンの高い添加率は、熱可塑性樹脂において実現されている。リグニンの周知の改質により、より高い添加レベルさえ得られる。十分な量のリグニンを含有する有用なポリマー系材料の調製は、30年を超えて研究の対象であった。通例、リグニンは、機械的特性を満足させながら、押出によってポリオレフィンまたはポリエステル中に25~40重量%まで配合され得る。リグニンと他の疎水性ポリマーとの相溶性を上昇させるために、様々な手法が使用されている。リグニンの化学改質は、例えば長鎖脂肪酸によるエステル化によって実現され得る。
【0073】
本発明の実施形態によって提供されるリグニンコートナノセルロース材料の疎水性性質をさらに向上させるために、リグニンに任意の既知の化学改質を行ってもよい。
【0074】
本発明は、いくつかの変形において、
(a)リグノセルロース系バイオマス供給原料を提供するステップと、
(b)酸、リグニン用溶媒および水の存在下で供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースおよびリグニンを含有する液体を生成するステップと、
(c)セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも60%の結晶化度を有するナノセルロース材料を生成するステップと、
(d)ナノセルロース材料の少なくとも一部をナノセルロース含有生成物中に包含させるステップと、
を含む、ナノセルロース含有生成物を製造するプロセスも提供する。
【0075】
ナノセルロース含有生成物は、ナノセルロース材料またはその処理形態を含む。いくつかの実施形態において、ナノセルロース含有生成物は、ナノセルロース材料から本質的になる。
【0076】
いくつかの実施形態において、ステップ(d)は、ナノセルロース材料またはその誘導体を含む構造物を形成することを含む。
【0077】
いくつかの実施形態において、ステップ(d)は、ナノセルロース材料またはその誘導体を含むフォームまたはエアロゲルを形成することを含む。
【0078】
いくつかの実施形態において、ステップ(d)は、ナノセルロース材料またはその誘導体を1種以上の他の材料と組み合せて複合材を形成することを含む。例えば他の材料は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミドまたはその組み合せから選択されるポリマーを含み得る。あるいはまたは加えて、他の材料は種々の形態の炭素を含み得る。
【0079】
ナノセルロース含有生成物中に包含されるナノセルロース材料は、ステップ(b)の間にセルロースに富む固体の表面にリグニンの少なくとも一部が堆積することにより、少なくとも部分的に疎水性であり得る。また、ナノセルロース材料は、ステップ(c)またはステップ(d)の間にナノセルロース材料の表面にリグニンの少なくとも一部が堆積することにより、少なくとも部分的に疎水性であり得る。
【0080】
いくつかの実施形態において、ステップ(d)は、ナノセルロース材料またはその誘導体を含むフィルムを形成することを含む。フィルムは、ある実施形態において、任意選択により光学的に透明で可撓性である。
【0081】
いくつかの実施形態において、ステップ(d)は、ナノセルロース材料またはその誘導体を含むコーティングまたはコーティング前駆体を形成することを含む。いくつかの実施形態において、ナノセルロース含有生成物は紙コーティングである。
【0082】
いくつかの実施形態において、ナノセルロース含有生成物は、触媒、触媒基材または共触媒として構成される。いくつかの実施形態において、ナノセルロース含有生成物は、電流または電圧を輸送または蓄積するために電気化学的に構成される。
【0083】
いくつかの実施形態において、ナノセルロース含有生成物は、フィルタ、メンブレンまたは他の分離デバイス内に包含される。
【0084】
いくつかの実施形態において、ナノセルロース含有生成物は、コーティング、塗料または接着剤中に包含される。いくつかの実施形態において、ナノセルロース含有生成物は、セメント添加剤として包含される。
【0085】
いくつかの実施形態において、ナノセルロース含有生成物は、増粘剤またはレオロジー改質剤として包含される。例えば、ナノセルロース含有生成物は、掘削流体、例えば(これに限定されるわけではないが)油回収流体および/またはガス回収流体における添加剤であり得る。
【0086】
本発明は、ナノセルロース組成物も提供する。いくつかの変形において、ナノセルロース組成物は、約70%以上のセルロース結晶化度を有するナノフィブリル化セルロースを含む。ナノセルロース組成物は、リグニンおよび硫黄を含み得る。
【0087】
ナノセルロース材料は、バイオマス蒸煮中にSO(分画において酸として使用する場合)とのスルホン化反応から誘導される、多少のスルホン化リグニンをさらに含有し得る。スルホン化リグニンの量は、約0.1重量%(またはそれ以下)、0.2重量%、0.5重量%、0.8重量%、1重量%またはそれ以上であり得る。また、いずれの理論にも限定されないが、いくつかの実施形態において、少量の硫黄がセルロース自体と化学反応し得ることが推測される。
【0088】
いくつかの変形において、ナノセルロース組成物はナノフィブリル化セルロースおよびナノ結晶性セルロースを含み、ナノセルロース組成物は、約70%以上の全セルロース結晶化度を特徴とする。ナノセルロース組成物は、リグニンおよび硫黄を含み得る。
【0089】
いくつかの変形において、ナノセルロース組成物は、約80%以上のセルロース結晶化度を有するナノ結晶性セルロースを含み、ナノセルロース組成物はリグニンおよび硫黄を含む。
【0090】
いくつかの実施形態において、セルロース結晶化度は約75%以上、例えば約80%以上または約85%以上である。種々の実施形態において、ナノセルロース組成物は、被嚢類に由来しない。
【0091】
いくつかの実施形態のナノセルロース組成物は、約100~約1000、例えば約300~約700または約150~約250の平均セルロース重合度を特徴とする。ある実施形態において、ナノセルロース組成物は、単一ピークを有するセルロース重合度分布を特徴とする。ある実施形態において、ナノセルロース組成物は酵素を含まない。
【0092】
他の変形は、約70%以上のセルロース結晶化度を有する疎水性ナノセルロース組成物であって、ナノセルロース粒子がリグニンのバルク(内部粒子)濃度より高いリグニンの表面濃度を有するナノセルロース組成物を提供する。いくつかの実施形態において、ナノセルロース粒子にはコーティングまたは薄膜があるが、コーティングまたは薄膜は均一である必要はない。
【0093】
疎水性ナノセルロース組成物は、約75%以上、約80%以上または約85%以上のセルロース結晶化度を有し得る。疎水性ナノセルロース組成物は、さらに硫黄を含み得る。
【0094】
疎水性ナノセルロース組成物は、被嚢類に由来してもしなくてもよい。疎水性ナノセルロース組成物は、酵素を含まなくてよい。
【0095】
いくつかの実施形態において、疎水性ナノセルロース組成物は、約100~約1500、例えば約300~約700または約150~約250の平均セルロース重合度を特徴とする。ナノセルロース組成物は、単一ピークを有するセルロース重合度分布を特徴とする。
【0096】
ナノセルロース含有生成物は、開示したナノセルロース組成物のいずれを含んでもよい。多くのナノセルロース含有生成物が考えられる。例えばナノセルロース含有生成物は、構造物、フォーム、エアロゲル、ポリマー複合材、炭素複合材、フィルム、コーティング、コーティング前駆体、電流または電圧キャリア、フィルタ、メンブレン、触媒、触媒基材、コーティング添加剤、塗料添加剤、接着剤添加剤、セメント添加剤、紙コーティング、増粘剤、レオロジー改質剤、掘削流体用添加剤およびその組み合せまたは誘導体からなる群から選択され得る。
【0097】
いくつかの変形は、
(a)リグノセルロース系バイオマス供給原料を提供するステップと、
(b)酸、リグニン用溶媒および水の存在下で供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースおよびリグニンを含有する液体を生成するステップと、
(c)セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも60%の結晶化度を有するナノセルロース材料を生成するステップと、
(d)ナノセルロース材料を回収するステップと、
を含むプロセスによって製造される、ナノセルロース材料を提供する。
【0098】
いくつかの実施形態は、
(a)リグノセルロース系バイオマス供給原料を提供するステップと、
(b)酸、リグニン用溶媒および水の存在下で供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースおよびリグニンを含有する液体を生成するステップと、
(c)セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも60%の結晶化度を有するナノセルロース材料を生成するステップと、
(d)ナノセルロース材料を回収するステップと、
(e)ヘミセルロースから誘導されたヘミセルロース系糖類を発酵させて、そのモノマーまたは前駆体を製造するステップと、
(f)モノマーを重合してポリマーを製造するステップと、
(g)ポリマーおよびナノセルロース材料を組み合せてポリマー-ナノセルロース複合材を形成するステップと、
を含むプロセスによって製造される、ポリマー-ナノセルロース複合材料を提供する。
【0099】
いくつかの変形は、
(a)リグノセルロース系バイオマス供給原料を提供するステップと、
(b)二酸化硫黄、リグニン用溶媒および水の存在下で供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースオリゴマーおよびリグニンを含有する液体を生成するステップであって、セルロースに富む固体の結晶化度が少なくとも70%であり、SO濃度が約10重量%~約50重量%であり、分画温度が約130℃~約200℃、分画時間が約30分~約4時間であるステップと、
(c)セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも70%の結晶化度を有するナノセルロース材料を生成するステップと、
(d)ナノセルロース材料を回収するステップと、
を含むプロセスによって製造される、ナノセルロース材料を提供する。
【0100】
いくつかの変形は、
(a)リグノセルロース系バイオマス供給原料を提供するステップと、
(b)酸、リグニン用溶媒および水の存在下で供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースおよびリグニンを含有する液体を生成するステップであって、リグニンの一部がセルロースに富む固体の表面上に堆積して、セルロースに富む固体を少なくとも部分的に疎水性にするステップと、
(c)セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも60%の結晶化度を有する疎水性ナノセルロース材料を生成するステップと、
(d)疎水性ナノセルロース材料を回収するステップと、
を含むプロセスによって製造される、疎水性ナノセルロース材料を提供する。
【0101】
いくつかの変形は、
(a)リグノセルロース系バイオマス供給原料を提供するステップと、
(b)酸、リグニン用溶媒および水の存在下で供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースおよびリグニンを含有する液体を生成するステップと、
(c)セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも60%の結晶化度を有するナノセルロース材料を生成するステップと、
(d)ナノセルロース材料の少なくとも一部をナノセルロース含有生成物中に包含させるステップと、
を含むプロセスによって製造される、ナノセルロース含有生成物を提供する。
【0102】
ナノセルロース材料を含有するナノセルロース含有生成物は、構造物、フォーム、エアロゲル、ポリマー複合材、炭素複合材、フィルム、コーティング、コーティング前駆体、電流または電圧キャリア、フィルタ、メンブレン、触媒、触媒基材、コーティング添加剤、塗料添加剤、接着剤添加剤、セメント添加剤、紙コーティング、増粘剤、レオロジー改質剤、掘削流体用添加剤およびその組み合せまたは誘導体からなる群から選択され得る。
【0103】
種々の実施形態を、本発明の範囲に関して制限なく、ここでさらに説明する。これらの実施形態は、本質的に例示である。
【0104】
いくつかの実施形態において、第1のプロセスステップは、3種のリグノセルロース系材料成分(セルロース、ヘミセルロースおよびリグニン)を分画して下流での除去を容易にする、「蒸解」(同等には「蒸煮」)である。詳細には、ヘミセルロースを溶解させて、50%超を完全に加水分解する。セルロースは分離されるが、なお加水分解されにくい。リグニン部分はスルホン化されて、水溶性リグノスルホネートとなる。
【0105】
リグノセルロース系材料は、脂肪族アルコール(任意選択)、水および二酸化硫黄の溶液(蒸解液)で処理される。蒸解液は、溶媒を含有し得ないか、または少なくとも10重量%、例えば少なくとも20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%もしくは75重量%のリグニン用溶媒を含有し得る。例えば、蒸解液は約30~80重量%の溶媒、例えば約50重量%の溶媒を含有し得る。リグニン用溶媒は、脂肪族アルコール、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノールまたはシクロヘキサノールであり得る。リグニン用溶媒は、芳香族アルコール、例えばフェノールまたはクレゾールであり得る。他のリグニン溶媒、例えば(これに限定されるわけではないが)グリセロール、メチルエチルケトンまたはジエチルエーテルも可能である。1種を超える溶媒の組み合せを用いてよい。
【0106】
出発材料中に存在するリグニンを溶解させる抽出剤混合物中に、十分な溶媒が含まれていることが好ましい。リグニン用溶媒は、水と完全に混和性、部分的に混和性、または非混和性であってよく、したがって1を超える液相があり得る。潜在的なプロセスの利点は、溶媒が水と混和性である場合と、溶媒が水と非混和性である場合にも生じる。溶媒が水混和性である場合には、単一の液相が形成されるので、リグニンおよびヘミセルロースの抽出が強化され、下流のプロセスが処理する必要があるのは1つの液流のみである。溶媒が水と非混和性である場合、抽出剤混合物はただちに分離して複数の液相を形成するため、別個の分離ステップを回避または簡略化することができる。1つの液相がリグニンの大部分を含有し、他の液相がヘミセルロース糖類の大部分を含有する場合、リグニンのヘミセルロース糖類からの回収が容易になるため、このことは有利であり得る。
【0107】
蒸解液は、二酸化硫黄および/または亜硫酸(HSO)を含有することが好ましい。蒸解液は、SOを溶解形態または反応形態で、少なくとも3重量%、好ましくは少なくとも6重量%、より好ましくは少なくとも8重量%、例えば約9重量%、10重量%、11重量%、12重量%、13重量%、14重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%またはそれ以上の濃度で含有することが好ましい。蒸解液は、pHを調整するために、SOとは別に1つ以上の種も含有し得る。蒸解液のpHは通例、約4以下である。
【0108】
二酸化硫黄は、加水分解後の溶液から容易に回収できるため、好ましい酸触媒である。加水分解物からのSOの大部分は、ストリッピングおよびリサイクルされて反応器に戻され得る。回収およびリサイクルによって、同程度の硫酸の中和と比べて、必要な石灰がより少なく、廃棄する固体がより少なく、分離装置がより小型になる。二酸化硫黄の固有の性質による効率の向上は、要求される酸または他の触媒の総量がより少なくなり得ることを意味する。硫酸は高価であり得るため、このことはコスト上の利点を有する。加えて、極めて重大には、酸の使用量がより少ないと、下流操作のための、加水分解後にpHを上昇させるための塩基(例えば石灰)のコストの低下にもつながる。さらに、酸および塩基がより少ないことは、さもなければ処分が必要になり得る廃棄塩(例えば石膏)の発生が実質的により少ないことも意味する。
【0109】
いくつかの実施形態において、セルロース粘度を上昇させるために、約0.1重量%~10重量%またはそれ以上の量で添加剤が含まれてよい。例示的な添加剤としては、アンモニア、水酸化アンモニウム、尿素、アントラキノン、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウムおよびその誘導体が挙げられる。
【0110】
蒸解は、バッチ式または連続式蒸煮器を使用して、1以上の段階で行われる。固体および液体は、並流もしくは向流で、または所望の分画を実現する任意の他のフローパターンで通過され得る。蒸解反応装置は、所望ならば内部撹拌され得る。
【0111】
処理されるリグノセルロース系材料に応じて、蒸解条件は、液相または気相において、約65℃~190℃、例えば70℃、75℃、85℃、95℃、105℃、115℃、125℃、130℃、135℃、140℃、145℃、150℃、155℃、165℃または170℃の温度および約1気圧~約15気圧の対応する気圧で変化する。1以上の段階の蒸解時間は、約15分~約720分、例えば約30、45、60、90、120、140、160、180、250、300、360、450、550、600または700分から選択され得る。一般に、蒸煮ステップで使用する温度と、バイオマスをその構成要素部分へ良好に分画するために要する時間との間には、逆相関がある。
【0112】
蒸解液のリグノセルロース系材料に対する比は、約1~約10、例えば約2、3、4、5または6から選択され得る。いくつかの実施形態において、バイオマスは少量の液を含む加圧容器内で蒸煮される(蒸解液のリグノセルロース系材料に対する比が低い)ので、蒸解空間が水分と平衡状態にあるエタノールおよび二酸化硫黄蒸気によって充填される。蒸解バイオマスをアルコールに富む溶液で溶解してリグニンと溶解ヘミセルロースを回収し、その間に残存するパルプをさらに処理する。いくつかの実施形態において、リグノセルロース系材料の分画プロセスは、脂肪族アルコール(または他のリグニン用溶媒)、水および二酸化硫黄を用いたリグノセルロース系材料の気相蒸解を含む。例えば、参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第8,038,842号明細書および第8,268,125号明細書を参照のこと。
【0113】
二酸化硫黄の一部または全部は、抽出液中に亜硫酸として存在し得る。ある実施形態において、二酸化硫黄は、亜硫酸、亜硫酸イオン、重亜硫酸イオン、その組み合せまたは上記のいずれかの塩を導入することにより、その場で生成される。加水分解後の過剰な二酸化硫黄は、回収および再使用され得る。いくつかの実施形態において、二酸化硫黄は、第1の温度にて水中で(または水溶液、任意選択によりアルコールによって)飽和され、次いで第2の、一般により高い温度にて加水分解が行われる。いくつかの実施形態において、二酸化硫黄は亜飽和である。いくつかの実施形態において、二酸化硫黄は過飽和である。いくつかの実施形態において、二酸化硫黄濃度は、あるリグニンスルホン化度、例えば1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%または10%の硫黄含有率を得るように選択される。SOは、リグニンと化学的に反応して、固相および液相の両方で存在し得る、安定なリグノスルホン酸を形成する。
【0114】
溶液中の二酸化硫黄、添加剤および脂肪族アルコール(または他の溶媒)の濃度ならびに蒸解時間を変化させると、パルプ中のセルロースおよびヘミセルロースの収率が制御され得る。二酸化硫黄の濃度および蒸解の時間を変化させると、加水分解物中のリグノスルホネートに対するリグニンの収率が制御され得る。いくつかの実施形態において、二酸化硫黄の濃度、蒸解の温度および時間を変化させると、発酵性糖類の収率が制御され得る。
【0115】
固相からヘミセルロースおよびリグニンの両方の所望の分画量が得られたら、液相および固相を分離する。分離条件は、抽出されたリグニンの固相への再析出を最小化にするように、または増大するように選択され得る。リグニン再析出の最小化には、少なくともリグニンのガラス転移温度(約120℃)の温度において分離または洗浄を実施することが有利に作用する。反対に、リグニン再析出の向上には、リグニンのガラス転移温度未満の温度での分離または洗浄を実施することが有利に作用する。
【0116】
物理的分離は、混合物全体を分離および洗浄を実施することができるデバイスに移すこと、または反応装置からの相の一方のみを取り出して、他方の相を所定の位置で維持することのどちらかによって行うことができる。固相は、液体が通過ができる適切なサイズのふるいによって物理的に保持することができる。固体は、ふるいに保持され、後続の固体洗浄サイクルのためにふるいに維持することができる。あるいは、遠心力または固体をスラリーから効果的に移動することができる他の力を用いて、液体は保持され得て、固相は反応区域から押し出され得る。連続系において、固体および液体の向流フローによって、物理的分離を行うことができる。
【0117】
回収された固体は、通常、多量のリグニンおよび糖類を含有し、その一部は洗浄により容易に除去することができる。洗浄液の組成は、分画の間に使用した液の組成と同じであるまたは異なることが可能である。複数回の洗浄を行って効果を向上させてよい。好ましくは、1回または2回以上の洗浄を、リグニン用溶媒を含む組成物を用いて行い、固体から追加のリグニンを除去し、続いて水により1回以上洗浄を行い、残留溶媒および糖類を固体から取り除く。溶媒回収操作からなどのリサイクル流は、固体の洗浄に使用され得る。
【0118】
記載したように分離および洗浄した後、固相および少なくとも1つの液相が得られる。固相は実質的に蒸解されなかったセルロースを含有する。単一の液相が得られるのは、通例、存在する相対的比率で溶媒と水が混和性である場合である。その場合、液相は、当初より出発原料のリグノセルロース系材料中にあるリグニンの大部分、ならびに存在し得た任意のヘミセルロースの加水分解で形成された可溶性の単糖類およびオリゴ糖類を、溶解形態で含有する。溶媒および水が全体的にまたは部分的に非混和性である場合に、複数の液相が形成される傾向がある。リグニンは、溶媒の大部分を含有する液相中に含有される傾向がある。ヘミセルロース加水分解生成物は、水の大部分を含有する液相中に存在する傾向がある。
【0119】
いくつかの実施形態において、蒸解ステップによる加水分解物は減圧に供される。減圧は、例えばバッチ蒸煮器における蒸解の終了時に、または連続蒸煮器からの抽出後の外部フラッシュタンク内で行ってよい。減圧によるフラッシュ蒸気は、蒸解液生成容器内に収集され得る。フラッシュ蒸気は、新しい蒸解液中に直接溶解され得る、実質的にすべての未反応二酸化硫黄を含有する。次いで、セルロースを除去して洗浄し、要望通りさらに処理する。
【0120】
プロセス洗浄ステップは、セルロースから加水分解物を回収する。洗浄したセルロースは、種々の目的(例えば、紙またはナノセルロースの製造)に使用され得るパルプである。洗浄装置からの弱加水分解物は、最終反応ステップまで存続する。この弱加水分解物は、連続蒸煮器にて外部フラッシュタンクからの抽出加水分解物と合せてよい。いくつかの実施形態において、加水分解物およびセルロースに富む固体の洗浄および/または分離は、少なくとも約100℃、110℃または120℃の温度にて行う。洗浄セルロースは、酵素または酸を用いたセルロース加水分解によるグルコース製造にも使用され得る。
【0121】
別の反応ステップにおいて、加水分解物は、オリゴマーを加水分解してモノマーにする、1つまたは複数のステップでさらに処理され得る。このステップは、溶媒および二酸化硫黄の除去前、除去中または除去後に行ってよい。溶液は、残留溶媒(例えばアルコール)を含有しても含有しなくてもよい。いくつかの実施形態において、二酸化硫黄をこのステップに添加するか、またはこのステップに通過させて、加水分解を補助する。これらまたは他の実施形態において、亜硫酸または硫酸などの酸を導入して、加水分解を補助する。いくつかの実施形態において、加水分解物は、圧力下での加熱によって自己加水分解される。いくつかの実施形態において、追加の酸は導入されないが、初期蒸解の間に製造されたリグノスルホン酸は、ヘミセルロースオリゴマーのモノマーへの加水分解を触媒するのに有効である。種々の実施形態において、このステップは、二酸化硫黄、亜硫酸、硫酸を約0.01重量%~30重量%、例えば約0.05重量%、0.1重量%、0.2重量%、0.5重量%、1重量%、2重量%、5重量%、10重量%または20重量%の濃度で利用する。このステップは、約100℃~220℃、例えば約110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃、190℃、200℃または210℃の温度にて行ってよい。選択した温度に達するための加熱は、直接でも間接でもよい。
【0122】
反応ステップによって発酵性糖類を製造し、発酵性糖類を次いで蒸発によって濃縮して、発酵供給原料とすることができる。蒸発による濃縮は、オリゴマーを加水分解する処理の前、間または後に行ってよい。最終反応ステップの後に、任意選択により二酸化硫黄およびアルコールを除去および回収し、潜在的な発酵阻害副生物を除去するための、生じた加水分解物のスチームストリッピングを行ってよい。蒸発プロセスは、真空下または約-0.1気圧~約10気圧、例えば約0.1気圧、0.3気圧、0.5気圧、1.0気圧、1.5気圧、2気圧、4気圧、6気圧もしくは8気圧の圧力下であってよい。
【0123】
二酸化硫黄の回収およびリサイクルは、これに限定されるわけではないが、蒸気-液体離脱(例えばフラッシング)、スチームストリッピング、抽出またはこれの組み合せまたは複数の段階などの分離を利用してよい。種々のリサイクル比、例えば約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.95またはそれ以上が実施され得る。いくつかの実施形態において、最初に添加したSOの約90~99%は、液相から蒸留によってただちに回収され、SOの残りの1~10%(例えば約3~5%)は、溶解したリグニンにリグノスルホネートの形態で主に結合する。
【0124】
好ましい実施形態において、蒸発ステップは、一体型アルコールストリッピング装置および蒸発装置を利用する。蒸発した蒸気流は、別々の蒸発流中で有機化合物が別々の濃度を有するように隔離され得る。蒸発装置の濃縮液流は、別々の濃縮液流中で有機化合物が別々の濃度を有するように隔離され得る。排出された蒸気を濃縮して、蒸解ステップで蒸解液生成容器に戻すことによって、アルコールが蒸発プロセスから回収され得る。蒸発プロセスからの清浄な濃縮液は洗浄ステップで使用され得る。
【0125】
いくつかの実施形態において、一体型アルコールストリッピング装置および蒸発装置システムであって、脂肪族アルコールを蒸気ストリッピングによって除去し、生じたストリッピング装置生成物流を、この生成物流から水を蒸発させることによって濃縮し、蒸気圧縮を使用して蒸発させた蒸気を圧縮し、再使用して熱エネルギーを提供するシステムが用いられる。
【0126】
蒸発および最終反応ステップからの加水分解物は、主に発酵性糖類を含有するが、全体のプロセス構成におけるリグニン分離の位置に応じて、リグニンも含有し得る。加水分解物は、約5重量%~約60重量%の固体の濃度、例えば約10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%または55重量%の固体の濃度まで濃縮され得る。加水分解物は、発酵性糖類を含有する。
【0127】
発酵性糖類は、セルロース、ガラクトグルコマンナン、グルコマンナン、アラビノグルクロノキシラン、アラビノガラクタンおよびグルクロノキシランの、そのそれぞれの短鎖オリゴマーおよびモノマー生成物への加水分解生成物、即ちグルコース、マンノース、ガラクトース、キシロースおよびアラビノースとして定義される。発酵性糖類は精製形態で、例えば糖スラリーまたは乾燥糖固体として回収され得る。いずれの既知の技法も、糖類のスラリーを回収するために、または溶液を脱水して乾燥糖固体を製造するために用いられ得る。
【0128】
いくつかの実施形態において、発酵性糖類を発酵させて、バイオ化学物質またはバイオ燃料、例えば(決してこれに限定されるわけではないが)、エタノール、イソプロパノール、アセトン、1-ブタノール、イソブタノール、乳酸、コハク酸または任意の他の発酵生成物などを製造する。発酵生成物の一部の量は、所望であれば回収され得る、微生物または酵素であってよい。
【0129】
発酵にクロストリジウム属(Clostridia)細菌などの細菌を用いる場合、加水分解物をさらに処理および調節してpHを上昇させ、残留SOおよび他の発酵阻害剤を除去することが好ましい。残留SO(即ち、ストリッピングによりその大部分を除去した後の)は、触媒的に酸化して、酸化により残留亜硫酸イオンを硫酸イオンに変換してよい。この酸化は、亜硫酸イオンを酸化して硫酸イオンとする、FeSO・7HOなどの酸化触媒を添加することによって行われ得て、これはアセトン/ブタノール/エタノール(ABE)に発酵させるための周知の手法である。好ましくは、残留SOは、約100ppm、50ppm、25ppm、10ppm、5ppmまたは1ppm未満まで低減される。
【0130】
いくつかの実施形態において、プロセスは、リグニンを副産物として回収することをさらに含む。スルホン化リグニンも副産物として回収され得る。ある実施形態において、プロセスは、スルホン化リグニンを燃焼またはガス化させ、回収された二酸化硫黄を含むガス流中のスルホン化リグニンに含有される硫黄を回収し、次いで回収された二酸化硫黄を再使用のためにリサイクルすることをさらに含む。
【0131】
プロセスのリグニン分離ステップは、加水分解物からリグニンを分離するためであり、最終反応ステップおよび蒸発の前または後に配置することができる。後に配置すると、蒸発ステップにおいてアルコールが除去されているため、ここでリグニンが加水分解物から析出する。残りの水溶性リグノスルホネートは、例えばアルカリ土類酸化物、好ましくは酸化カルシウム(石灰)を使用して、加水分解物をアルカリ性条件(7より高いpH)に変換することによって析出し得る。合せたリグニンおよびリグノスルホネート析出物は濾過され得る。リグニンおよびリグノスルホネート濾過ケーキは、副産物として乾燥され得るか、またはエネルギー製造のために燃焼もしくはガス化され得る。濾過からの加水分解物は、回収され、濃縮糖溶液生成物として販売され得るか、または後続の発酵もしくは他の反応ステップでさらに処理され得る。
【0132】
未処理(非スルホン化)リグニンは疎水性であるが、リグノスルホネートは親水性である。親水性リグノスルホネートは、塊状化、凝集および表面への粘着を生じる傾向がより低くなり得る。多少濃縮されて、分子量が増加するリグノスルホネートでさえ、溶解度(親水性)に多少寄与するHSO基をなお有する。
【0133】
いくつかの実施形態において、溶媒が蒸発ステップにて除去された後に、溶解性リグニンは加水分解物から析出する。いくつかの実施形態において、脂肪族アルコールの存在下で過剰な石灰(または他の塩基、例えばアンモニア)を使用して、反応性リグノスルホネートを加水分解物から選択的に析出させる。いくつかの実施形態において、水和石灰を使用してリグノスルホネートを析出させる。いくつかの実施形態において、リグニンの一部を反応性形態で析出させて、残りのリグニンを水溶性形態でスルホン化する。
【0134】
プロセスの発酵ステップおよび蒸留ステップは、発酵生成物、例えばアルコールまたは有機酸の製造を目的とする。蒸解化学物質およびリグニンの除去ならびにさらなる処理(オリゴマー加水分解)の後、加水分解物は、いずれの発酵阻害剤も好ましくは除去または中和されている水溶液中に、発酵性糖類を主に含有する。加水分解物を発酵させて、濃度が1重量%~20重量%の希アルコールまたは有機酸を製造する。当技術分野で既知であるように、希生成物を蒸留またはさもなければ精製する。
【0135】
アルコール、例えばエタノールを製造する場合、その一部をプロセス蒸解ステップの蒸解液生成に使用してよい。また、いくつかの実施形態において、蒸発装置濃縮液を含むまたは含まない蒸留カラム流、例えば塔底液を再使用してセルロースを洗浄してよい。いくつかの実施形態において、石灰を使用して生成物アルコールが脱水され得る。副生物は加水分解物から除去および回収され得る。これらの副生物は、最終反応ステップからのベントおよび/または蒸発ステップからの濃縮液を処理することによって単離され得る。副生物としては、例えばフルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)、メタノール、酢酸およびリグニン由来化合物が挙げられる。
【0136】
グルコースは発酵してアルコール、有機酸または別の発酵生成物となり得る。グルコースは、甘味剤として使用され得るか、または異性体化されてそのフルクトース含有率を上昇させ得る。グルコースは、パン酵母を製造するために使用され得る。グルコースは、種々の有機酸および他の材料に触媒または熱により変換され得る。
【0137】
ヘミセルロースが出発バイオマス中に存在する場合、液相の全部または一部がヘミセルロース糖類および溶解性オリゴマーを含有する。上記のように液体からリグニンの大部分を除去して、水、おそらくリグニン用溶媒の一部、ヘミセルロース糖類および蒸煮プロセスからの種々の少量成分を含有する発酵ブロスを製造することが好ましい。この発酵ブロスは直接もしくは1種以上の他の発酵流と組み合せて使用すること、またはさらに処理することが可能である。さらなる処理としては、蒸発による糖の濃縮、グルコースまたは他の糖類(任意選択によりセルロースの糖化により得られる)の添加、種々の栄養素、例えば塩、ビタミンまたは微量元素などの添加、pH調節ならびに酢酸およびフェノール性化合物などの発酵阻害剤の除去を挙げることができる。調整ステップは、対象生成物および使用される微生物について特異的に選択すべきである。
【0138】
いくつかの実施形態において、ヘミセルロース糖類は、発酵せずに、むしろ回収および精製、貯蔵、販売されるか、または特製品に変換される。キシロースは、例えばキシリトールに変換することができる。
【0139】
リグニン生成物を、複数の方法の1つ以上を使用して、液相からただちに得ることができる。1つの簡単な技法は、すべての液体を蒸発除去し、固体リグニンに富む残渣を生じさせることである。この技法は、リグニン用溶媒が水と非混和性であれば、特に有利である。別の方法は、リグニンを溶液から析出させることである。リグニンを析出させる方法のいくつかとして、(1)例えば、リグニンがもはや溶解しなくなるまで、溶媒を液相から選択的に蒸発させることにより、水ではなくリグニン用溶媒を液相から除去すること、(2)リグニンがもはや溶解しなくなるまで液相を水で希釈すること、ならびに(3)液相の温度および/またはpHを調節することが挙げられる。次いで、遠心分離などの方法を使用して、リグニンを捕捉することができる。リグニンを除去するまた別の技法は、リグニンを液相から選択的に除去する連続液液抽出と、後続の抽出溶媒を除去して比較的純粋なリグニンを回収することである。
【0140】
本発明に従って製造されたリグニンは、燃料として使用することができる。リグニンは、固体燃料として、エネルギー含有率が石炭と同程度である。リグニンは、液体燃料中で酸素化された成分として作用し、再生可能燃料としての基準を満足しながら、オクタン価を上昇させることができる。本明細書で製造したリグニンは、ポリマー性材料として、およびリグニン誘導体を製造するための化学的前駆体として使用することもできる。スルホン化リグニンは、リグノスルホネート生成物として販売するか、または燃料価のために燃焼させることができる。
【0141】
本発明は、開示されたプロセスを実施するために構成されたシステム、およびそれから製造された組成物も提供する。開示されたプロセスによるいずれの生成流も、部分的にもしくは完全に回収し、精製し、またはさらに処理して、および/または上市もしくは販売することができる
【0142】
あるナノセルロース含有生成物は、例えば高い透明性、優れた機械的強度および/または向上したガス(例えばOまたはCO)バリア特性を提供する。本明細書で提供する疎水性ナノセルロース材料を含有する、あるナノセルロース含有生成物は、例えば湿潤防止および氷結防止コーティングとして有用であり得る。
【0143】
機械的エネルギー入力が低いため、本明細書で提供するナノセルロース含有生成物は、強力な機械処理の結果として通常生ずる欠陥がより少ないことを特徴とし得る。
【0144】
いくつかの実施形態により、センサー、触媒、抗菌材料、電流輸送およびエネルギー貯蔵機能向けの用途を有する、ナノセルロース含有生成物が提供される。セルロースナノ結晶は、金属性および半導性ナノ粒子鎖の合成を補助する能力を有する。
【0145】
いくつかの実施形態により、ナノセルロースおよび炭素含有材料、例えば(これに限定されるわけではないが)リグニン、グラファイト、グラフェンまたは炭素エアロゲルなどを含有する複合材が提供される。
【0146】
セルロースナノ結晶は、界面活性剤の安定化特性と組み合されて、種々の半導性材料のナノアーキテクチャを製作するために活用され得る。
【0147】
ナノセルロースにおける-OH側鎖基の反応性表面によって、化学種のグラフトが促進されて、各種の表面特性が得られる。表面官能化により、自己アセンブリを促進にする粒子表面の化学的性質の調整、広範囲のマトリックスポリマー内の分散の制御ならびに粒子-粒子および粒子-マトリックスの結合強度の両方の制御が可能になる。複合材は、透明であり、鋳鉄より大きい引張強度を有し、非常に低い熱膨張係数を有し得る。潜在的な用途として、これに限定されるわけではないがバリアフィルム、抗菌フィルム、透明フィルム、可撓性ディスプレイ、ポリマー用強化充填剤、生医学インプラント、医薬品、薬剤送達、繊維および布地、電子部品用テンプレート、分離膜、バッテリ、スーパーキャパシタ、電気活性ポリマーならびに他の多くが挙げられる。
【0148】
本発明に好適なナノセルロースの他の用途としては、強化ポリマー、高強度紡糸繊維および布地、高度複合材料、バリアおよび他の特性のためのフィルム、コーティング、塗料、ラッカーおよび接着剤用の添加物、スイッチャブル光学デバイス、医薬品および薬剤送達システム、骨置換および歯の修復、改良紙、包装および建築用製品、食品および化粧品用添加物、触媒ならびにハイドロゲルが挙げられる。
【0149】
航空宇宙および輸送用複合材は、高い結晶化度から恩恵がもたらされ得る。自動車用途として、ポリプロピレン、ポリアミド(例えばナイロン)またはポリエステル(例えばPBT)とのナノセルロース複合材が挙げられる。
【0150】
本明細書で提供するナノセルロース材料は、再生可能および生分解性複合材向けの強度増強添加物として好適である。セルロース系ナノフィブリル構造は、包装、構造材料、器具および再生可能繊維における用途向けの破裂靱性の改善および亀裂形成の防止のための、2つの有機相間の結合剤として機能し得る。
【0151】
本明細書で提供するナノセルロース材料は、透明な寸法安定性強度増強添加物ならびに可撓性ディスプレイ、可撓性回路、プリンタブル電子機器回路および可撓性ソーラーパネルにおける用途向けの基材として好適である。ナノセルロースは基材シート内に包含され、基材シートは、例えば真空濾過により形成され、加圧下で乾燥されてカレンダー加工される。シート構造において、ナノセルロースは、充填材凝集体間の接着剤として機能する。形成されたカレンダー加工シートは、平滑で可撓性である
【0152】
本明細書で提供するナノセルロース材料は、亀裂を減少させ、靱性および強度を向上させる、複合体材ならびセメント添加物に好適である。発泡した気泡ナノセルロース-コンクリートハイブリッド材料は、亀裂が減少され、強度が向上した軽量構造を可能にする。
【0153】
ナノセルロースを用いる強度の向上により、水分量が増加し、酸素バリア性が向上した、高強度で、嵩高く、充填材含有率が高い紙およびボール紙における用途では、結合面積および結合強度の両方が増大する。特にパルプおよび製紙産業は、本明細書で提供するナノセルロース材料から恩恵を受け得る。
【0154】
ナノフィブリル化セルロースナノペーパーは、従来の紙より高い密度および高い引張機械強度を有する。ナノフィブリル化セルロースナノペーパーは、光学的に透明で、可撓性でもあり得て、低い熱膨張および優れた酸素バリア特性を有する。ナノペーパーの機能性は、カーボンナノチューブ、ナノクレイまたは導電性ポリマーコーティングなどの他の要素を包含することによって、さらに拡張することができる。
【0155】
多孔性ナノセルロースは、気泡バイオプラスチック、絶縁体およびプラスチックならびに生物活性膜およびフィルタとして使用され得る。高多孔性ナノセルロース材料は一般に、例えば濾過媒体の製造ならびに生医学用途、例えば透析膜で高い関心を集めている。
【0156】
本明細書で提供するナノセルロース材料は、それらが食品包装および印刷用紙における用途で高い酸素バリアおよび木質繊維に対する親和性を有することで期待されるため、コーティング材料として好適である。
【0157】
本明細書で提供するナノセルロース材料は、UV照射によって引き起こされる減耗に対する塗料、保護塗料およびワニスの耐久性を改善するための添加物として好適である。
【0158】
本明細書で提供するナノセルロース材料は、食品および化粧品における増粘剤として好適である。ナノセルロースは、チキソトロピー性、生分解性、寸法安定性の(温度および塩添加に対して安定な)増粘剤として使用することができる。本明細書で提供するナノセルロース材料は、エマルションおよび粒子安定化フォーム用のピッカリング安定剤として好適である。
【0159】
これらのナノセルロース材料の大きな表面積はその生分解性と組み合されることにより、ナノセルロース材料が高多孔性の機械的に安定なエアロゲル向けの魅力的な材料となる。ナノセルロースのエアロゲルは、95%以上の多孔率を示し、延性かつ可撓性である。
【0160】
穿孔流体は、天然ガスおよび石油産業、ならびに大型穿孔機器を使用する他の産業における穿孔に使用される流体である。穿孔流体は、潤滑を行い、静水圧を提供し、ドリルを低温に維持し、穿孔切削の孔を可能な限り清浄に維持するために使用される。本明細書で提供するナノセルロース材料は、これらの穿孔流体への添加物として好適である。
【0161】
この詳細な記載において、本発明を理解および実施可能な方法に関して、本発明の複数の実施形態および非限定的例を参照した。本明細書で示した特徴および利点のすべてを提供するわけではない他の実施形態も、本発明の要旨および範囲から逸脱することなく利用してよい。本発明は、慣例的な実験ならびに本明細書に記載した方法およびシステムの最適化を含む。このような改変および変形は、請求項によって定義される本発明の範囲内であるとみなされる。
【0162】
本明細書で引用したすべての刊行物、特許および特許出願は、各刊行物、特許または特許出願が具体的かつ個別に本明細書で示されるかのように、その全体が参照により本明細書に組み入れられている。
【0163】
上に記載した方法およびステップが、ある順序で行われるある事象を示す場合、当業者は、あるステップの順序が変更され得て、そのような変更が本発明の変形に従うことを認識するであろう。さらに、ステップのあるものは、可能ならば並列プロセスで同時に実施してよく、ならびに連続して実施してよい。
【0164】
したがって、本開示の要旨の範囲内にあり、または添付請求項に見出される本発明に等価である、本発明の変形が存在する限り、本特許はこれらの変形も同様に含むことが意図される。本発明は、請求される事物によってのみ限定されるものとする。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-09-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノセルロース材料を製造するプロセスにおいて、
(a)未漂白パルプ材料を含むバイオマス供給原料を提供するステップと、
(b)酸、リグニン用溶媒および水の存在下で前記供給原料を分画して、セルロースに富む固体ならびにヘミセルロースおよびリグニンを含有する液体を生成するステップと、
(c)前記セルロースに富む固体を機械処理してセルロースフィブリルおよび/またはセルロース結晶を形成し、それにより少なくとも60%の結晶化度を有するナノセルロース材料を生成するステップと、
(d)前記ナノセルロース材料を回収するステップと、
を含むことを特徴とするプロセス。
【外国語明細書】