(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169613
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】酸化スズ上に担持された貴金属酸化物を含む電極触媒組成物
(51)【国際特許分類】
B01J 23/62 20060101AFI20221101BHJP
B01J 37/03 20060101ALI20221101BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20221101BHJP
B01J 23/644 20060101ALI20221101BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20221101BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20221101BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20221101BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20221101BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20221101BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20221101BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20221101BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20221101BHJP
C25B 11/093 20210101ALI20221101BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20221101BHJP
【FI】
B01J23/62 M
B01J37/03 A
B01J37/08
B01J23/644 M
B01J35/10 301J
H01M4/90 X
H01M4/88 K
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/052
C25B11/077
C25B11/081
C25B11/093
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022126438
(22)【出願日】2022-08-08
(62)【分割の表示】P 2019522293の分割
【原出願日】2017-10-24
(31)【優先権主張番号】16196291.5
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ハース,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】バイアー,ドムニク
(72)【発明者】
【氏名】リンコン-オバージェス,ロサルバ アドリアナ
(72)【発明者】
【氏名】コール,マルクス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水電解による酸素発生反応のための効率的な電極触媒であり、高腐食性条件下(例えばPEM水電解槽またはPEM燃料電池中)で高い安定性を示す触媒組成物、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】酸化スズ粒子を含む触媒組成物であって、酸化スズが少なくとも1種の金属ドーパントで任意にドープされており、酸化スズ粒子の各々が貴金属酸化物層により被覆されており、貴金属酸化物が酸化イリジウムまたは酸化イリジウム-ルテニウムであり、スズがコア中に存在すると共にイリジウムがシェル中に存在しており、前記組成物が、10wt%から38wt%の合計量でイリジウムおよびルテニウムを含有し、全てのイリジウムおよびルテニウムが酸化されており、5から95m2/gのBET表面積を有し、25℃で少なくとも7S/cmの電気伝導率を有する、触媒組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化スズ粒子を含む触媒組成物であって、前記酸化スズが少なくとも1種の金属ドーパントで任意にドープされており、前記酸化スズ粒子が貴金属酸化物層により少なくとも部分的に被覆されており、前記貴金属酸化物が酸化イリジウムまたは酸化イリジウム-ルテニウムであり、
前記組成物が、
10wt%から38wt%の合計量でイリジウムおよびルテニウムを含有し、全てのイリジウムおよびルテニウムが酸化されており、
5から95m2/gのBET表面積を有し、
25℃で少なくとも7S/cmの電気伝導率を有する、
触媒組成物。
【請求項2】
前記酸化スズがノンドープの酸化スズであるか、あるいは前記酸化スズが、Sb、Nb、Ta、Bi、WもしくはIn、またはこれらのドーパントのうち少なくとも2種の任意の組み合わせから選択される少なくとも1種の金属ドーパントでドープされており、前記1種または複数の金属ドーパントが好ましくは、スズおよび金属ドーパント原子の合計量に対して、2.5at%から20at%、より好ましくは2.5at%から10.0at%の量で前記酸化スズ中に存在する、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記触媒組成物中のイリジウムおよびルテニウムの合計量が15から35wt%、より好ましくは20から28wt%である、請求項1または2に記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記触媒組成物中に存在する全てのイリジウムおよびルテニウムが、酸化状態+IIIおよび/または+IVである、請求項1から3のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【請求項5】
5m2/gから90m2/g、より好ましくは10m2/gから80m2/gのBET表面積を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【請求項6】
少なくとも10S/cm、より好ましくは少なくとも12S/cmの電気伝導率を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【請求項7】
前記酸化スズがノンドープの酸化スズであり、前記組成物中のイリジウムの量が15から35wt%、より好ましくは20から28wt%の範囲内であり、残りが前記酸化スズ粒子および前記酸化イリジウム層の酸素であり、前記組成物のBET表面積が5m2/gから35m2/gであり、前記組成物の電気伝導率が10から50S/cm、より好ましくは12から40S/cmである、請求項1から6のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【請求項8】
前記酸化スズが2.5at%から20at%、より好ましくは2.5at%から10.0at%の量のアンチモンでドープされ、前記組成物中のイリジウムの量が15から35wt%、より好ましくは20から28wt%の範囲内であり、残りが前記酸化スズ粒子および前記酸化イリジウム層の酸素であり、前記組成物のBET表面積が15m2/gから90m2/g、より好ましくは30m2/gから80m2/gであり、前記組成物の電気伝導率が10から50S/cm、より好ましくは12から40S/cmである、請求項1から6のいずれか一項に記載の触媒組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の触媒組成物を製造する方法であって、
水性媒体中に酸化スズ粒子を分散し、貴金属含有前駆体化合物を溶解する工程であって、前記貴金属がイリジウムもしくはルテニウムまたはそれらの混合物である、工程、
前記水性媒体のpHを5~10に調整し、任意に前記水性媒体を50℃から95℃の温度に加熱し、それによって貴金属種を前記酸化スズ粒子上に堆積させる工程、
前記酸化スズ粒子を前記水性媒体から分離し、前記酸化スズ粒子を300℃から800℃の温度で熱処理にかけ、それによって貴金属酸化物層を前記酸化スズ粒子上に形成する工程
を含む方法。
【請求項10】
前記水性媒体中に分散した前記酸化スズ粒子が、10から100m2/gのBET表面積を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記貴金属含有前駆体化合物が、貴金属塩または貴金属含有酸である、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記熱処理が500℃から700℃の温度で行われる、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から8のいずれか一項に記載の触媒組成物を含む電気化学デバイス。
【請求項14】
水電解槽または燃料電池である、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
酸素発生反応用触媒として、請求項1から8のいずれか一項に記載の触媒組成物を使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属酸化物層により少なくとも部分的に被覆されている酸化スズ粒子を含む触媒組成物、および電極触媒として(例えば、水電解槽または燃料電池において)前記組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、種々の技術により生成できる前途有望なクリーンエネルギーキャリアである。現在、水素は主に、天然ガスの水蒸気改質により生成されている。しかしながら、化石燃料の水蒸気改質により生成する水素は低純度である。
【0003】
高品質の水素は、水電解により生成することができる。当業者に公知のように、水電解槽(すなわち、水電解が行われるデバイス)は、酸素発生反応(OER)が生じる少なくとも1個のアノード含有ハーフセル、および水素発生反応(HER)が生じる少なくとも1個のカソード含有ハーフセルを含有する。2個以上のセルを連結すると、積層構造が得られる。したがって、積層構造を有する水電解槽は、少なくとも2個のアノード含有ハーフセルおよび/または少なくとも2個のカソード含有ハーフセルを含有する。
【0004】
様々なタイプの水電解槽が公知である。
【0005】
アルカリ水電解槽において、電極はアルカリ電解液(例えば、20~30%KOH水溶液)中に浸漬される。これら2個の電極は隔膜により分離され、この隔膜は、生成ガスを互いに離れたままにするが、水酸化物イオンおよび水分子は透過することができる。以下の反応スキームは、アルカリ水電解槽のアノード含有ハーフセル中のアノードの表面で生じる酸素発生反応を示す。
【0006】
4OH-→O2+2H2O+4e-
【0007】
高分子電解質膜(PEM)水電解槽(「プロトン交換膜」(PEM)水電解槽とも称する)においては固体高分子電解質が使用され、これは、電極を互いに電気的に絶縁しながらアノードからカソードへプロトン移動させ、かつ生成ガスを分離する役割を担う。以下の反応スキームは、PEM水電解槽のアノード含有ハーフセル中のアノードの表面で生じる酸素発生反応を示す。
【0008】
2H2O→4H++O2+4e-
【0009】
酸素発生反応は複雑なので反応速度論が遅く、このことが、妥当な速度で酸素を生成するためには、アノード側で著しい過電圧が必要な理由である。典型的には、PEM水電解槽は約1.5から2V(対RHE(「可逆水素電極」))の電圧で操作される。
【0010】
非常に酸性が強いpHであり(PEM:2未満のpH)、高い過電圧を印加しなければならないので、PEM水電解槽のアノード側に存在する材料は非常に高い耐食性を必要とする。
【0011】
典型的には、水電解槽のアノードは、酸素発生反応のための触媒(OER電極触媒)を含む。適切なOER電極触媒は、当業者に公知であり、例えばM.Carmoら、「A comprehensive review on PEM water electrolysis」、International Journal of Hydrogen Energy、38巻、2013年、4901~4934ページ、およびH.Dauら、「The Mechanism of Water Oxidation:From Electrolysis via Homogeneous to Biological Catalysis」、ChemCatChem、2010年、2、724~761ページにより記載されている。
【0012】
S.P.JiangおよびY.Cheng、Progress in Natural Science:Materials International、25(2015年)、545~553ページは、水電解における酸素発生反応のための電極触媒の概説を提供している。
【0013】
イリジウムもしくはルテニウムまたはそれらの酸化物は、酸素発生反応のための効率のよい触媒であることが知られている。イリジウムおよびルテニウムは高価であるため、イリジウムおよび/またはルテニウムが少量であっても十分に高い触媒活性を有し、PEM水電解槽および燃料電池の高腐食性の操作条件下で、周囲の電解質へのこれらの金属の溶解度が非常に小さいことが望ましい。
【0014】
バルク触媒は、電気化学的活性のための表面積が限られている。触媒活性表面積を増大させるために、担体上に触媒を適用することが一般に知られている。
【0015】
P.Strasserら、Chem.Sci.、2015年、6、3321~3328ページは、金属イリジウムナノデンドライトの製造を記載しており、これは次いで263m2/gのBET表面積を有するアンチモンドープ酸化スズ(典型的には「ATO」と称する)上に堆積される。酸素発生反応における触媒として試験する前に、金属イリジウムナノデンドライトの表面は、酸性媒体中で電気化学的に酸化される。しかしながら、金属イリジウムを酸性条件下で電気化学的酸化にかけることにより、いくらかのイリジウムが周囲の電解質に溶解するおそれがある。類似したアプローチが、Angew.Chem.,Int.Ed.、2015年、54、2975~2979ページにおいてP.Strasserらにより記載されている。酸化物担持IrNiOxコア-シェル粒子は、電気化学的Ni浸出および金属イリジウムの電気化学的酸化を使用してバイメタルIrNix前駆体合金から製造される。J.Am.Chem.Soc.、2016年、138(38)、12552~12563ページにおいてP.Strasserらにより論じられているように、金属イリジウムナノ粒子の電気化学的酸化は、粒子表面上に酸化イリジウムを生じる一方で、コアは依然として金属イリジウム(すなわち酸化状態0のイリジウム)を含有する。
【0016】
V.K.Puthiyapuraら、Journal of Power Sources、269(2014年)、451~460ページは、いわゆるAdams融解法によるATO担持IrO
2触媒の製造を記載しており、ここでは、H
2IrCl
6およびNaNO
3をアンチモンドープ酸化スズ(ATO)粒子の水性分散体に添加する。溶媒を蒸発させ、得られた混合物を乾燥させ、500℃で焼成する。このAdams融解法により、前記刊行物の
図6により示されるように、比較的低い電気伝導率の組成物が得られる。Emma Oaktonら、New J.Chem.、2016年、40、1834~1838ページは、水中にTi塩、Ir塩およびNaNO
3を溶解し、水を蒸発させ、混合物を乾燥し、続いて350℃で焼成することによる、Adams融解法による高表面積酸化イリジウム/酸化チタン組成物の製造を記載している。前記刊行物の
図4により示されるように、比較的低い電気伝導率の組成物が得られる。
【0017】
EP2608297A1は、30から200m2/gの範囲のBET表面積を有し、無機酸化物が触媒の合計質量に対して25から70wt%の量で存在し、触媒の電気伝導率が>0.01S/cmである、酸化イリジウムおよび高表面積の無機酸化物を含む、水電解用触媒組成物を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】M.Carmoら、「A comprehensive review on PEM water electrolysis」、International Journal of Hydrogen Energy、38巻、2013年、4901~4934ページ
【非特許文献2】H.Dauら、「The Mechanism of Water Oxidation:From Electrolysis via Homogeneous to Biological Catalysis」、ChemCatChem、2010年、2、724~761ページ
【非特許文献3】S.P.JiangおよびY.Cheng、Progress in Natural Science:Materials International、25(2015年)、545~553ページ
【非特許文献4】P.Strasserら、Chem.Sci.、2015年、6、3321~3328ページ
【非特許文献5】P.Strasserら、Angew.Chem.,Int.Ed.、2015年、54、2975~2979ページ
【非特許文献6】P.Strasserら、J.Am.Chem.Soc.、2016年、138(38)、12552~12563ページ
【非特許文献7】V.K.Puthiyapuraら、Journal of Power Sources、269(2014年)、451~460ページ
【非特許文献8】Emma Oaktonら、New J.Chem.、2016年、40、1834~1838ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、とりわけ酸素発生反応のための、効果的な電極触媒であり、非常に高腐食性の条件下(例えばPEM水電解槽またはPEM燃料電池中)で高い安定性を示し、経済的観点から実用的である、組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本目的は、酸化スズ粒子を含む触媒組成物であって、酸化スズが少なくとも1種の金属ドーパントで任意にドープされており、酸化スズ粒子が貴金属酸化物層により少なくとも部分的に被覆されており、貴金属酸化物が酸化イリジウムまたは酸化イリジウム-ルテニウムであり、
組成物が、
- 10wt%から38wt%の合計量でイリジウムおよびルテニウムを含有し、全てのイリジウムおよびルテニウムが酸化されており、
- 5から95m2/gのBET表面積を有し、
- 25℃で少なくとも7S/cmの電気伝導率を有する、
触媒組成物により解決される。
【0022】
これらの特徴を満たす組成物は、酸素発生反応に対し驚くほどに高い触媒活性を示し、高腐食性条件下で非常に安定である。さらに、イリジウムおよび、存在すればルテニウムの合計量は、比較的低いレベルで維持されるため、非常に費用効果の高い触媒組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1aおよび1bはEDXSマッピングした走査型透過電子顕微鏡写真を示す。
【
図2】
図2aおよび2bはEDXSマッピングした走査型透過電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
酸化スズ粒子は、貴金属酸化物のキャリアとして作用する。粒子は、ノンドープの酸化スズから作製されてもよい(すなわち、粒子は酸化スズおよび不可避の不純物からなってもよい。)別法として、キャリア粒子の電気伝導率を改善するために、酸化スズは、少なくとも1種の金属ドーパントでドープされてもよい。適切な金属ドーパントは、例えばSb、Nb、Ta、Bi、W、もしくはIn、またはこれらのドーパントのうち少なくとも2種の任意の組み合わせである。1種または複数の金属ドーパントは好ましくは、スズおよび金属ドーパント原子の合計量に対して、2.5at%から20at%の量で酸化スズ粒子中に存在する。1種または複数の金属ドーパントの量が、スズおよび金属ドーパント原子の合計量に対して、2.5at%から10.0at%、さらにより好ましくは5.0at%から9.0at%の範囲に限定されるならば、周囲の腐食媒体への金属ドーパントの溶解は改善され得る。
【0025】
好ましい実施形態において、酸化スズは、唯一の金属ドーパントとしてのSbでドープされる。したがって、この好ましい実施形態において、酸化スズ粒子はSbドープ酸化スズ(すなわち「ATO」)および不可避の不純物からなる。唯一の金属ドーパントとしてのSbは、好ましくは既に上記で詳述した量で存在する。典型的には、Sbは酸化状態+VのSb原子および酸化状態+IIIのSb原子を含有する混合原子価状態である。酸化状態+VのSb原子対酸化状態+IIIのSb原子の原子比は、好ましくは3.0から9.0、より好ましくは4.0から8.0の範囲である。
【0026】
以下でさらに詳細に論じられるように、貴金属酸化物は、pH誘起による貴金属種の沈殿を通して、酸化スズ粒子上に適用され、続いて高温で熱処理される。本方法により、被覆なしの酸化スズ出発材料のBET表面積より低いBET表面積を有する触媒組成物が、典型的に得られる。したがって、5から95m2/gのBET表面積を有する触媒組成物を提供するために、わずかに高いBET表面積を有する酸化スズ(ドープまたはノンドープどちらでも)は、典型的に貴金属酸化物堆積処理にかけられる。酸化スズ出発材料は、例えば10m2/gから100m2/gのBET表面積を有し得る。
【0027】
上記で示したように、酸化スズ粒子の各々は、貴金属酸化物層により少なくとも部分的に被覆されており、貴金属酸化物は酸化イリジウムまたは酸化イリジウム-ルテニウムである。
【0028】
酸化スズ粒子上の貴金属酸化物層の形成は、比較的少量の貴金属(担体表面に分布した個別の酸化物粒子の形成の代わりに)であっても、下記のような製造方法を適用することによりもたらされる(すなわち、水性媒体からのpH誘発沈殿、続いて高温での焼成)。酸化スズ粒子上に貴金属酸化物被覆層が存在することにより、触媒組成物の電気伝導率の改善が補助され、このことが触媒反応中の電子移動効率を改善する。少なくとも7S/cmの電気伝導率を得るのに、キャリア粒子を部分的に被覆している貴金属酸化物層は、十分であり得る。しかしながら、本発明において、酸化スズ粒子は、貴金属酸化物層により完全に被覆されていてもよい。
【0029】
層により少なくとも部分的に被覆されている粒子は、コア-シェル粒子として知られている。したがって、貴金属酸化物(シェル)層により少なくとも部分的に被覆されている本発明の酸化スズ粒子は、コア-シェル粒子と称することができる。
【0030】
上記で示したように、触媒組成物は、10wt%から38wt%の合計量でイリジウムおよびルテニウムを含有し、全てのイリジウムおよびルテニウムは酸化されている。酸化されたイリジウムは、酸化状態>0のイリジウムを意味する。同様のことが、酸化されたルテニウムに当てはまる。したがって、触媒組成物は、酸化状態0のイリジウムおよびルテニウムを含まない(すなわち、金属イリジウムおよびルテニウムを含まない)。イリジウムおよびルテニウムの酸化状態は、X線光電子分光法(XPS)により確認することができる。
【0031】
好ましくは、組成物中のイリジウムおよびルテニウムの合計量は15から35wt%、より好ましくは20から28wt%の範囲内である。
【0032】
もちろん、貴金属酸化物が酸化イリジウムであり、触媒組成物がルテニウムを含まないならば、上記で示した範囲は、総イリジウム含有量のみに当てはまる。
【0033】
本発明の製造方法において、Ir(III)および/もしくはIr(IV)塩(ならびに/またはRu(III)および/もしくはRu(IV)塩)は、出発材料として使用され、これらの塩を金属イリジウムまたはルテニウムに還元し得る条件は、製造中に典型的には適用されず、空気中(または類似した酸化性雰囲気)での最後の焼成工程が、典型的には適用される。本製造方法により、触媒組成物中に存在している全てのイリジウムおよびルテニウムは、酸化されたイリジウムおよびルテニウムである。
【0034】
金属イリジウムおよびルテニウムは最終触媒中に存在しないか、または製造プロセスにどのようにも関与しないので、高腐食性条件下での周囲の電解質への金属イリジウムまたはルテニウムの溶解が回避される。
【0035】
好ましくは、触媒組成物中に存在する全てのイリジウムおよびルテニウムは、酸化状態+IIIおよび/または+IVである。
【0036】
好ましくは、少なくとも80at%、より好ましくは少なくとも90at%、さらにより好ましくは少なくとも95at%の酸化されたイリジウムおよびルテニウムは、酸化状態+IVである。好ましい実施形態において、触媒組成物中に存在する全てのイリジウムおよびルテニウムは、酸化状態+IVである。
【0037】
触媒組成物がイリジウムおよびルテニウムの両方を含有するならば、原子比は幅広い範囲にわたって変化し得る。典型的には、イリジウムおよびルテニウムの間の原子比は、70/30から99/1、より好ましくは80/20から97/3の範囲内である。
【0038】
しかしながら、触媒組成物はルテニウムを含まないことも可能である。
【0039】
触媒組成物は、酸化スズ粒子(上記で詳述した1種または複数の金属ドーパントで任意にドープされている酸化スズ)を、例えば57wt%から88wt%、より好ましくは59wt%から82wt%、または67wt%から76wt%の量で含有してもよい。
【0040】
好ましくは、触媒組成物は、イリジウムおよびルテニウムを上記で詳述した合計量で含有し、残りは酸化スズ粒子ならびに酸化イリジウムおよび/または酸化ルテニウム層の酸素である。
【0041】
好ましくは、組成物の全てのイリジウムおよびルテニウムは、酸化スズ粒子を少なくとも部分的に被覆している酸化物層中に存在する。
【0042】
上記で示したように、本発明の触媒組成物は、5から95m2/gのBET表面積を有する。BET表面積を適度なレベルに維持することにより、酸化スズ粒子は、比較的少量の貴金属であっても貴金属酸化物層により効率的に被覆される。
【0043】
好ましくは、組成物のBET表面積は、5m2/gから90m2/g、より好ましくは10m2/gから80m2/gである。たとえ組成物のBET表面積が5m2/gから60m2/g、または5m2/gから50m2/gの範囲内であっても、触媒組成物は依然として驚くほど高い触媒活性を示す。別の好ましい実施形態において、具体的には酸化スズがノンドープであれば、組成物のBET表面積は、5m2/gから35m2/gである。
【0044】
上記で示したように、触媒組成物は、25℃で少なくとも7S/cmの電気伝導率を有する。高い電気伝導率は、触媒反応中、反応物への電子移動を促進する。
【0045】
好ましくは、組成物の電気伝導率は、少なくとも10S/cm、より好ましくは少なくとも12S/cmである。適切な範囲は、例えば7から60S/cm、より好ましくは10から50S/cm、または12から40S/cmである。
【0046】
好ましくは、組成物のBET表面積(m2/g)対組成物中のイリジウムおよびルテニウムの合計量(wt%)の比は、6.0から0.75、より好ましくは4.0から1.0の範囲内である。
【0047】
好ましい実施形態において、酸化スズは、2.5at%から20at%、より好ましくは2.5at%から10.0at%の量のアンチモンでドープされ、組成物中のイリジウムの量は15から35wt%、より好ましくは20から28wt%の範囲内であり、残りは酸化スズ粒子および酸化イリジウム層の酸素であり、組成物のBET表面積は15m2/gから90m2/g、より好ましくは30m2/gから80m2/gであり、組成物の電気伝導率は少なくとも10S/cm、より好ましくは少なくとも12S/cm(例えば10から50S/cmまたは12から40S/cm)である。
【0048】
別の好ましい実施形態において、酸化スズはノンドープの酸化スズであり、組成物中のイリジウムの量は15から35wt%、より好ましくは20から28wt%の範囲内であり、残りは酸化スズ粒子および酸化イリジウム層の酸素であり、組成物のBET表面積は5m2/gから35m2/gであり、組成物の電気伝導率は少なくとも10S/cm、より好ましくは少なくとも12S/cm(例えば10から50S/cmまたは12から40S/cm)である。
【0049】
さらに、本発明は、上記の触媒組成物を製造する方法であって、
- 水性媒体中に酸化スズ粒子を分散し、貴金属含有前駆体化合物を溶解する工程であって、貴金属がイリジウムもしくはルテニウムまたはそれらの混合物である、工程、
- 水性媒体のpHを5~10に調整し、任意に水性媒体を50℃から95℃の温度に加熱し、それによって貴金属種を酸化スズ粒子上に堆積させる工程、
- Ir化合物で被覆されている酸化スズ粒子を水性媒体から分離し、酸化スズ粒子を300℃から800℃の温度で熱処理にかけ、それによって貴金属酸化物層を酸化スズ粒子上に形成する工程
を含む方法に関する。
【0050】
(ドープまたはノンドープ)酸化スズ粒子の好ましい特性に関しては、上記で提供された陳述を参照することができる。
【0051】
貴金属酸化物は、pH誘起による貴金属種の沈殿を通して、酸化スズ粒子上に適用され、続いて高温で熱処理される。本方法により、被覆なしの酸化スズ出発材料のBET表面積より低いBET表面積を有する触媒組成物が、典型的には得られる。したがって、5から95m2/gのBET表面積を有する触媒組成物を提供するために、わずかに高いBET表面積を有する酸化スズ(ドープまたはノンドープどちらでも)は、典型的には貴金属酸化物堆積処理にかけられる。貴金属酸化物で被覆される酸化スズ粒子は、例えば10m2/gから100m2/gのBET表面積を有し得る。
【0052】
当業者に公知のように、貴金属塩および貴金属含有酸などの貴金属含有前駆体化合物は、水性媒体中で加水分解され、水酸基含有種を形成し、次いでこれがキャリア粒子上に堆積し得る。
【0053】
上記で詳述されたBET表面積を有するドープまたはノンドープの酸化スズから作製される粒子は、商業的に入手可能であるか、または一般的に知られている方法により製造することができる。
【0054】
金属ドープ酸化スズを製造する例示的な方法を、以下に記載する。
【0055】
金属ドープ酸化スズ(例えばアンチモンドープ酸化スズATO)は、
- スズ含有分子前駆体化合物および金属ドーパント含有分子前駆体化合物を含む反応混合物から、湿式化学合成により金属ドープ前駆体固体を製造し、
- 金属ドープ前駆体固体を熱処理にかける
方法により製造することができる。
【0056】
無機固体、とりわけ水性および非水溶媒中に微細分散した無機粉末を製造するための湿式化学合成法は、当業者に公知である。
【0057】
使用できる湿式化学合成法は、例えばゾルゲル法、化学的沈殿法、水熱合成法、噴霧乾燥法、またはそれらの任意の組み合わせである。
【0058】
好ましくは、スズ含有分子前駆体化合物および金属ドーパント含有分子前駆体化合物を含む反応混合物を、化学的沈殿法またはゾルゲル法にかける。
【0059】
これらの湿式化学合成法に対して、pHおよび反応温度などの適切な反応条件は当業者に公知である。
【0060】
単なる一例として、スズ含有分子前駆体化合物および金属ドーパント含有分子前駆体化合物は、酸性pH(例示的な酸:HClなどの鉱酸、酢酸などのカルボン酸)で混合することができ、次に、金属ドープ前駆体固体が沈殿するまで塩基(例えばアンモニア水などの水性塩基)を加えることにより、pHを上昇させる。沈殿固体は反応混合物から除去することができ(例えばろ過により)、熱処理にかけることができる。
【0061】
湿式化学合成を行うための適切な溶媒は、一般的に知られている。原則として、非水または水性溶媒を使用できる。例示的な非水溶媒には、メタノール、エタノール、プロパノールまたはブタノールなどのアルコールが含まれる。
【0062】
典型的には、スズ含有分子前駆体化合物は、スズ(IV)化合物である。しかしながら、スズ(II)化合物、またはスズ(IV)化合物とスズ(II)化合物の混合物を使用することも可能である。スズ含有分子前駆体化合物は、ハロゲン化スズ(例えばSnCl4)もしくは硝酸スズなどのスズ塩、またはスズアルコキシド、あるいはそれらの混合物であってもよい。
【0063】
金属ドーパント含有分子前駆体化合物は、例えばハロゲン化金属もしくはアルコキシド金属、またはそれらの混合物であってもよい。
【0064】
金属ドーパントがSbであるならば、Sb含有分子前駆体化合物は、Sb(III)化合物(例えばハロゲン化Sb(III)、カルボン酸Sb(III)、もしくはSb(III)アルコキシド)、Sb(V)化合物(例えばハロゲン化Sb(V)、カルボン酸Sb(V)、もしくはSb(V)アルコキシド)、またはそれらの混合物であってもよい。
【0065】
金属ドープ酸化スズの湿式化学合成は、少なくとも40m2/gのBET表面積を有する固体添加剤の存在下で行うことができる。
【0066】
固体添加剤は、湿式化学合成(例えば沈殿またはゾルゲル法)の開始前および/または実行中に、反応混合物に加えることができる。
【0067】
好ましい固体添加剤は、カーボンブラックまたは活性炭などの炭素である。当業者に公知のように、カーボンブラックは炭化水素化合物の熱分解または不完全燃焼により作製され、様々な等級(BET表面積が異なる)で商業的に入手可能である。さらに、当業者に公知のように、活性炭は、その吸着特性を増大するために炭化前、炭化中または炭化後に気体と反応させた多孔質炭素材料である。好ましくは、固体添加剤は、少なくとも200m2/g、より好ましくは少なくとも500m2/g、またはさらに少なくとも750m2/g、例えば200m2/gから2500m2/g、より好ましくは500m2/gから2000m2/g、さらにより好ましくは750m2/gから1800m2/gのBET表面積を有する。固体添加剤は、マイクロポーラスおよび/またはメソポーラスであり得る。しかしながら、そのBET表面積が少なくとも40m2/gである限り、固体添加剤は非多孔質であることも可能である。
【0068】
湿式化学合成前および/または合成中に反応混合物に加えることができる他の添加剤には、例えば界面活性剤、乳化剤、分散剤、pH調整剤、および/またはアミノ酸(例えばアラニン)が含まれる。
【0069】
湿式化学合成により得られる金属ドープ酸化スズ前駆体固体を、熱処理にかける。熱処理は、湿式化学合成から残存溶媒を除去するためだけに、比較的低い温度で行ってもよい。しかしながら、好ましい実施形態において、熱処理は、400から800℃、より好ましくは500から700℃の範囲内の温度に加熱することを含む。炭素などの固体添加剤を反応混合物に加えたならば、前記固体添加剤は、比較的高い温度での熱処理によって、気体分解生成物へ燃焼または分解することができる。
【0070】
しかしながら、貴金属酸化物層で被覆される金属ドープ酸化スズは、他の製造方法によっても同様に得ることができる。
【0071】
上記で示したように、貴金属含有前駆体化合物は、酸化スズ粒子と接触させるために、水性媒体に溶解する。
【0072】
適切な貴金属含有前駆体化合物は、例えば貴金属塩および貴金属含有酸である。典型的には、貴金属含有前駆体化合物中のイリジウムおよび/またはルテニウムの酸化状態は、+IIIまたは+IVである。イリジウムまたはルテニウムの塩は、例えばハロゲン化塩、クロロ錯体、硝酸塩、または酢酸塩である。貴金属含有酸は、例えばH2IrCl6である。
【0073】
水性媒体中の酸化スズ粒子の濃度は、幅広い範囲にわたって変化し得る。典型的には、酸化スズ粒子は0.05から50wt%、より好ましくは0.1から20wt%の濃度で水性媒体中に存在する。貴金属含有前駆体化合物を、最終組成物において所望のイリジウムおよびルテニウム含有量を得るのに十分な量で加える。
【0074】
典型的には、アルカリ金属水酸化物(例えばKOHまたはNaOH)などの適切な塩基を加えることにより、水性媒体のpHは5~10、より好ましくは6~8に調整される。
【0075】
当業者に公知のように、溶解したイリジウムまたはルテニウムの塩または酸は、pHを増加させることにより、水性媒体中で加水分解され、水酸基含有種(例えばコロイド状、ナノサイズ粒子の形態)を形成する。キャリア粒子の存在下で、イリジウムおよび/またはルテニウム種(オキシ水酸化イリジウムまたはオキシ水酸化ルテニウム)が、前記粒子上に堆積する。
【0076】
任意に、酸化スズ粒子上でのイリジウムおよび/またはルテニウム種の堆積を、50℃から95℃、より好ましくは60℃から90℃の温度まで水性媒体を加熱することにより促進できる。
【0077】
イリジウムおよび/またはルテニウム種の堆積の後、酸化スズ粒子を水性媒体から分離し、300℃から800℃の温度で熱処理にかけ、それによって酸化スズ粒子上に貴金属酸化物層を形成する。
【0078】
典型的には、熱処理は、空気などの酸化性雰囲気中で行われる。原則的に、不活性雰囲気も使用できる。
【0079】
好ましい実施形態において、熱処理は500℃から700℃、より好ましくは550℃から700℃の温度で行われる。
【0080】
電極または触媒で被覆された膜を作製するために、触媒組成物は、好適な溶媒を加えることにより、インクまたはペーストに加工できる。触媒インクを、一般的に知られている堆積方法により、ガス拡散層(GDL)、集電装置、膜、またはセパレータプレート上に堆積させてもよい。
【0081】
本発明はまた、上記の触媒組成物を含有する電気化学デバイスに関する。
【0082】
電気化学デバイスは、電解槽、具体的にはPEM(「プロトン交換膜」)水電解槽などの水電解槽、またはPEM燃料電池などの燃料電池であってもよい。触媒組成物が、炭素担持触媒と共にPEM燃料電池中に存在するならば、それは前記炭素担体の腐食安定性を改善できる。PEM燃料電池は、再生PEM燃料電池であることも可能である。
【0083】
任意の水電解槽のように、酸素発生反応が起こる少なくとも1個のアノード含有ハーフセル、および水素発生反応が起こる少なくとも1個のカソード含有ハーフセルは、本発明のPEM水電解槽中に存在する。触媒組成物は、アノード含有ハーフセル中に存在する。
【0084】
さらなる態様によると、本発明は、酸素発生反応のための触媒として(例えば、電解槽または再生燃料電池または他の電気化学デバイス中で)上記の触媒組成物を使用する方法に関する。
【0085】
次に本発明を、以下の実施例によりさらに詳細に記載する。
【実施例0086】
別段の指示がなければ、本発明において言及されるパラメーターは以下の測定方法に従って決定される。
【0087】
BET表面積
BET表面積は、77.35Kで、N2吸着物質を用い、Micromeritics ASAP 2420 Surface Area and Porosity Analyzerを使用したガス吸着分析により決定した。測定の前に、試料を一晩真空中で、200℃で乾燥した。比表面積を、マルチポイント法(ISO9227:2010)を使用したBET理論により決定した。
【0088】
電気伝導率
電気伝導率を測定するために、酸化物粉末をペレットに圧縮し、伝導率を二点探針法により25℃で決定した。初めに、1gの粉末試料を、測定セルのステンレス鋼下部(電極)を持つテフロン(登録商標)チューブに挿入した。充填が完了した後、第2のステンレス鋼電極を上部に挿入し、充填試験セルを圧力計の間に挿入する。圧力を40MPaまで増加させ、抵抗を前記圧力でAgilent 3458Aマルチメータで二点法によって測定する。測定した抵抗R(オーム)から、電気伝導率を
伝導率=d/(RA)
d:2電極の距離
R:測定した抵抗
A:電極面積(0.5cm2)
に従って計算する。
【0089】
抵抗は以下の寄与、すなわち電極接触抵抗、粒内(バルク)抵抗および粒間抵抗の合計である。
【0090】
本発明において、電気伝導率を40MPaの圧力で決定する。
【0091】
イリジウム、ルテニウム、スズおよび任意の金属ドーパントの量
イリジウム、ルテニウム、金属ドーパントおよびスズの量を、元素分析により以下の方法に従って決定する。0.04から0.5gの試料を、84%Li2B4O7、1%LiBrおよび15%NaNO3の10gの混合物と混合する。Claisse Fluxer M4を使用して、混合ペレットを形成する。室温まで冷却後、波長分散型蛍光X線を使用して元素組成を決定する。
【0092】
イリジウム、ルテニウムおよび任意の金属ドーパントの酸化状態、Ir(+IV)およびRu(+IV)の相対量、Sb(+V)対Sb(+III)の原子比
イリジウム、ルテニウムおよび任意の金属ドーパント(Sbなど)の酸化状態を、X線光電子分光法(XPS)により決定する。酸化状態+IVにおけるイリジウムおよびルテニウムの相対量、ならびにSb(+V)対Sb(+III)の原子比も、XPSにより決定する。
【0093】
XPS分析を、単色化AlKα線(49W)およびPhi帯電中和システムを使用して、Phi Versa Probe 5000分光計で行った。計器の仕事関数は、金属金のAu 4f7/2線に対して84.00eVの結合エネルギー(BE)となるように校正し、分光計散乱は、金属銅のCu2p3/2線に対して932.62eVのBEとなるように調整した。100×1400μm2の面積の分析スポットを、23.5eVの通過エネルギーで分析した。
【0094】
金属ドーパントが例えばSbであるならば、Sb 3dおよびO 1sスペクトルは重なり、528~542.5eV結合エネルギーのエネルギー領域においてShirleyバックグラウンド除去を使用した、CasaXPSソフトウェアバージョン2.3.17を使用して分析した。アンチモンの寄与を、3種類の異なる成分、すなわち529.7および539.1eVでのSb(III)-二重線、530.9および540.3eVでのSb(V)-二重線、531.9および541.5eVでのプラズモンでフィッティングした。加えて、3種の酸素の寄与を、フィッティングのために使用した。計器製造業者により提供された相対感度係数を、定量のために使用した。
【0095】
イリジウム酸化状態は、61.4eVおよび64.4eVでの金属イリジウムの非対称ピークの二重線(SGL(10)T(0.9))でIr 4fシグナルから得、金属ピークから1.8eV離れた対称ピークの二重線により、酸化イリジウムIrO2の寄与をフィッティングした。
【0096】
最も強いルテニウムシグナルであるRu 3dは、典型的には炭素1sシグナルと重なる。284.5eVから290.2eVの範囲における炭素の寄与に加えて、Ru(0)、RuO2、RuO2水和物およびRuO3の二重線を、ピークフィットのために使用した。これらのピークの全ては、高い度合の非対称性を示し、したがってRuO3およびRuO2の場合はLF(0.6、1、200、900)のピーク形状、またはRuO2水和物の場合はLF(0.25、1、45、280)により記載した。相対シグナル位置およびピーク形状を添付の表に示す。
【0097】
【0098】
粒子形態学、酸化スズ粒子上の貴金属酸化物層の存在
酸化スズ粒子を少なくとも部分的に被覆している酸化イリジウムまたは酸化イリジウム-ルテニウム層の存在を、エネルギー分散型X線分光法と組み合わせた走査型透過電子顕微鏡法(「EDXSマッピング」)により確認した。
【0099】
発明例1
発明例1において、触媒組成物を以下のように製造した。
【0100】
ノンドープの酸化スズ粉末を、貴金属酸化物により被覆される担体材料として使用した。酸化スズ粉末は、25m2/gのBET表面積を有した。
【0101】
2gのSnO2粉末を、400gの水に分散させ、続いて3.83gのIrCl4を加えた。次に、水性媒体を80℃まで加熱し、KOHをpH=7まで加えた。pHを約7で維持するために、時おりさらなるKOHを加えた。
【0102】
約1時間撹拌した後、水性媒体を室温まで冷却し、ろ過によりSnO2粉末を水性媒体から分離し、水で洗浄し、空気中600℃で約60分間焼成した。
【0103】
最終触媒組成物は、21m2/gのBET表面積、25S/cmの電気伝導率、および25wt%のイリジウム含有量を有した。全てのイリジウムは酸化状態+IVであった。
【0104】
図1aおよび1bはEDXSマッピングした走査型透過電子顕微鏡写真を示す。
図1aにおいて、EDXSはSnをはっきり検出している一方、
図1bにおいてはIrがEDXSによりはっきり検出される。いずれの写真も、同じ粒子を示す。
図1aおよび1bにより示されるように、イリジウム(酸化イリジウムの形態)が、酸化スズコアを少なくとも部分的に被覆している外層(シェル)中に存在する一方、スズ(酸化スズの形態)は各粒子のコア中に存在する。
【0105】
発明例2
発明例2において、触媒組成物を以下のように製造した。
【0106】
アンチモンドープ酸化スズ(ATO)粉末を、貴金属酸化物により被覆される担体材料として使用した。ATO粉末は、5.7wt%のSb含有量および56m2/gのBET表面積を有した。
【0107】
2gのATO粉末を、400gの水に分散させ、続いて3.83gのIrCl4を加えた。
【0108】
次に、水性媒体を80℃まで加熱し、KOHをpH=7まで加えた。pHを約7で維持するために、時おりさらなるKOHを加えた。
【0109】
約1時間撹拌した後、水性媒体を室温まで冷却し、ろ過によりATO粉末を水性媒体から分離し、水で洗浄し、空気中600℃で約60分間焼成した。
【0110】
最終触媒組成物は、38m2/gのBET表面積、>7S/cmの電気伝導率、および33wt%のイリジウム含有量を有した。全てのイリジウムは酸化状態+IVであった。
【0111】
図2aおよび2bはEDXSマッピングした走査型透過電子顕微鏡写真を示す。
図2aにおいて、EDXSはSnをはっきり検出している一方、
図2bにおいてはIrがEDXSによりはっきり検出される。いずれの写真も、同じ粒子を示す。
図2aおよび2bにより示されるように、イリジウム(酸化イリジウムの形態)が、ATOコアを少なくとも部分的に被覆している外層(シェル)中に存在する一方、スズ(アンチモンドープ酸化スズATOの形態)は各粒子のコア中に存在する。
【0112】
発明例3
発明例3において、触媒組成物を以下のように製造した。
【0113】
アンチモンドープ酸化スズ(ATO)粉末を、貴金属酸化物により被覆される担体材料として使用した。ATO粉末は、5.5wt%のSb含有量および87m2/gのBET表面積を有した。
【0114】
1.4gのATO粉末を、280gの水に分散させ、続いて2.68gのIrCl4を加えた。次に、水性媒体を80℃まで加熱し、KOHをpH=7まで加えた。pHを約7で維持するために、時おりさらなるKOHを加えた。
【0115】
約1時間撹拌した後、水性媒体を室温まで冷却し、ろ過によりATO粉末を水性媒体から分離し、水で洗浄し、空気中600℃で約60分間焼成した。
【0116】
最終触媒組成物は、>7S/cmの電気伝導率、および24wt%のイリジウム含有量を有した。全てのイリジウムは酸化状態+IVであった。酸化スズ粒子(コアを表す)は、酸化イリジウム層(シェルを表す)により少なくとも部分的に被覆されている。
【0117】
発明例4
発明例4において、触媒組成物を以下のように製造した。
【0118】
アンチモンドープ酸化スズ(ATO)粉末を、貴金属酸化物により被覆される担体材料として使用した。ATO粉末は、11.8wt%のSb含有量および95m2/gのBET表面積を有した。
【0119】
2.5gのATO粉末を、125gの水に分散させ、続いて1.61gのIrCl4を加えた。次に、水性媒体を80℃まで加熱し、KOHをpH=7まで加えた。pHを約7で維持するために、時おりさらなるKOHを加えた。
【0120】
約1時間撹拌した後、水性媒体を室温まで冷却し、ろ過によりATO粉末を水性媒体から分離し、水で洗浄し、空気中600℃で約60分間焼成した。
【0121】
最終触媒組成物は、>7S/cmの電気伝導率、83m2/gのBET表面積、および17wt%のイリジウム含有量を有した。全てのイリジウムは酸化状態+IVであった。酸化スズ粒子(コアを表す)は、酸化イリジウム層(シェルを表す)により少なくとも部分的に被覆されている。
【0122】
発明例5
発明例5において、触媒組成物を以下のように製造した。
【0123】
アンチモンドープ酸化スズ(ATO)粉末を、貴金属酸化物により被覆される担体材料として使用した。ATO粉末は、5.48wt%のSb含有量および71m2/gのBET表面積を有した。
【0124】
6gのATO粉末を、1200gの水に分散させ、続いて11.5gのIrCl4を加えた。次に、水性媒体を80℃まで加熱し、KOHをpH=7まで加えた。pHを約7で維持するために、時おりさらなるKOHを加えた。
【0125】
約1時間撹拌した後、水性媒体を室温まで冷却し、ろ過によりATO粉末を水性媒体から分離し、水で洗浄し、空気中600℃で約60分間焼成した。
【0126】
最終触媒組成物は、18S/cmの電気伝導率、52m2/gのBET表面積、および38wt%のイリジウム含有量を有した。全てのイリジウムは酸化状態+IVであった。酸化スズ粒子(コアを表す)は、酸化イリジウム層(シェルを表す)により少なくとも部分的に被覆されている。
【0127】
電気化学的性能および腐食安定性の試験
発明例1から5の触媒組成物を、高腐食性条件下でそれらの電気化学的性能および腐食安定性について試験した。
【0128】
比較目的のために、以下の試料を同様に試験した。
【0129】
比較例1
非担持金属イリジウム黒色粉末、BET表面積:60m2/g。
【0130】
比較例2
非担持酸化イリジウム(IV)粉末、BET表面積:25m2/g。
【0131】
適量の触媒組成物粉末を水、イソプロパノールおよびNafion(バインダー)の溶液中で分散させることによって、全ての試料(すなわち、発明例1から5および比較例1~2の試料)についてインクを製造し、6μg/μLの合計触媒濃度とした。インクを金箔集電装置上にキャストし、120μgcat/cm2(幾何学的表面積)の電極添加量とした。触媒組成物を、0.5MのH2SO4電解質中で試験した。コンディショニング工程は、電位を非OER域で50サイクル、サイクルすることにより実行した。次にリニアスイープボルタモグラムを、1mV/sで記録した。3連続のLSVの後、触媒組成物を「ストレス試験」にかけるために、RHEに対し2Vでのクロノアンペロメトリー工程を20時間適用した。その後、電気化学的特性決定の後に電解質を収集し、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)により分析し、溶解によりイリジウム痕跡量が存在するかどうかを決定した。
【0132】
触媒活性を評価するために、RHEに対し1.9Vでの質量正規化電流密度j[A/gIr]を決定した。
【0133】
結果を表1にまとめる。
【0134】
【0135】
全ての発明例は、高い活性(質量正規化電流密度)を示し、イリジウム活性中心の非常に効率的な利用を実証している。さらに、周囲の電解質中に溶解したイリジウムの含有量が無視できる量であることにより示されるように、発明例は非常に高い腐食安定性を示す。
【0136】
金属イリジウム粉末(比較例1)をベースとした触媒組成物を使用すると、高い活性を達成できる。しかしながら、腐食安定性は悪影響を受ける。
【0137】
非担持IrO2粉末(CE2)をベースとした触媒組成物を使用すると、活性は著しく低い。
【0138】
したがって、発明例は、触媒活性と腐食安定性のバランスの改善を示す。
前記酸化スズがノンドープの酸化スズであるか、あるいは前記酸化スズが、Sb、Nb、Ta、Bi、WもしくはIn、またはこれらのドーパントのうち少なくとも2種の任意の組み合わせから選択される少なくとも1種の金属ドーパントでドープされており、前記1種または複数の金属ドーパントが好ましくは、スズおよび金属ドーパント原子の合計量に対して、2.5at%から20at%、より好ましくは2.5at%から10.0at%の量で前記酸化スズ中に存在する、請求項1に記載の触媒組成物。
前記触媒組成物中に存在する全てのイリジウムおよびルテニウムが、酸化状態+IIIおよび/または+IVである、請求項1から3のいずれか一項に記載の触媒組成物。
前記酸化スズがノンドープの酸化スズであり、前記組成物中のイリジウムの量が15から35wt%、より好ましくは20から28wt%の範囲内であり、残りが前記酸化スズ粒子および前記酸化イリジウム層の酸素であり、前記組成物のBET表面積が5m2/gから35m2/gであり、前記組成物の電気伝導率が10から50S/cm、より好ましくは12から40S/cmである、請求項1から6のいずれか一項に記載の触媒組成物。
前記酸化スズが2.5at%から20at%、より好ましくは2.5at%から10.0at%の量のアンチモンでドープされ、前記組成物中のイリジウムの量が15から35wt%、より好ましくは20から28wt%の範囲内であり、残りが前記酸化スズ粒子および前記酸化イリジウム層の酸素であり、前記組成物のBET表面積が15m2/gから90m2/g、より好ましくは30m2/gから80m2/gであり、前記組成物の電気伝導率が10から50S/cm、より好ましくは12から40S/cmである、請求項1から6のいずれか一項に記載の触媒組成物。