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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169674
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】デザイン評価の方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20221101BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2022131641
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】721010858
【氏名又は名称】関家 直樹
(72)【発明者】
【氏名】関家 直樹
(57)【要約】
【課題】
デザイン評価において、(1)何が美であるかという定義が曖昧となっている、(2)コンセプトがよいかどうか、他に比べて優位性があるかどうか、身体的に心地よいかどうか、といった評価軸が複数存在する場合、総合評価が曖昧であり、(3)対象が美的に整っているかどうかのみの評価が埋もれやすく、(4)機械装置を用いてデザイン要素を計測し評価することが困難である、という課題がある。
【解決手段】
「何らかの具体的な対象ではなく、個々人の、何が美的であるかの認識において自由な美的認識と、対象がどのようなものであるかの認識において自由な言語的認識とにより、『絶対性/普遍性が要求されたもの』として認識された対象」として、「美であるとされるところの対象」を定義し、ものの外観や動きが美的に整っているかどうかについての一貫した単一の評価ができるデザインの評価方法及び装置。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象が美的に構成されているかどうかを評価するデザイン評価において、
(1)「対象が何で(どう)あるべきか」への認識また感情として定義する倫理的即ち美的認識及び感情
(2)「対象が何で(どう)あるか」の認識への認識として定義する言語的認識
(3)かたち、順序などの物的対象への認識及びその大小多少への欲求として定義する動物的認識及び欲求
の 3 つの認識及び感情の体系に基づき、
(1)「そうあるべきもの」という絶対性/普遍性が要求される対象として自由に選択されたその他コンセプトに基づく評価
(2)序列等の概念又は物体についての、より多い、より大きいといった量的差異への評価
(3)見やすさといった身体的な快不快に基づく評価
の3つの要素を除外した上で、ある評価要素と当該評価要素の周囲の要素が、延長、平行、整数比、対称、相似、その他の関係において合致又は概合致するかどうかをもって、当該評価要素が何らかの絶対性/普遍性に基づき構成されているかどうかを評価するデザイン評価方法。
【請求項2】
評価対象が美的に構成されているかどうかを評価するデザイン評価において、
(1)「対象が何で(どう)あるべきか」への認識また感情として定義する倫理的即ち美的認識及び感情
(2)「対象が何で(どう)あるか」の認識への認識として定義する言語的認識
(3)かたち、順序などの物的対象への認識及びその大小多少への欲求として定義する動物的認識及び欲求
の 3 つの認識及び感情の体系に基づき、
(1) 「そうあるべきもの」という絶対性/普遍性が要求される対象として自由に選択されたその他コンセプトに基づく評価
(2)序列等の概念又は物体についての、より多い、より大きいといった量的差異への評価
(3)見やすさといった身体的な快不快に基づく評価
の3つの要素を除外した上で、ある評価要素と当該評価要素の周囲の要素が、延長、平行、整数比、対称、相似、その他の関係において合致又は概合致するかどうかをもって、当該評価要素が何らかの絶対性/普遍性に基づき構成されているかどうかを評価するデザイン評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デザイン評価の方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの事業者や技術者によって、デザインを評価する方法及び装置の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2021―181544(PCT/JP2022/007429)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デザイン評価を行うにあたり、何が美しいとされるか、即ち美的感覚の原理と、その本質的対象がなんであるかが特定され、直接測定できることが望ましい。
【0005】
先行文献においては、何が美しいとされるか、即ち美的感覚の原理とその本質的対象が何であるかは特定されていない。
【0006】
感情の原因について、James=Langeの末梢起源説や、Cannon=Bardの中枢起源説などがあるが、これらの説は、言語の成立において、意味と、身体反応などを用いる記号の結びつけが自由であり、さらには事物が何であるかの意味内容をどのようなものにするかということも、意味内容に結び付ける身体反応などを用いる記号をどのようなものにするかということ自体も自由であるという事実に反する。
【0007】
SchachterとSingerの、アドレナリンを用いたときの高揚が、喜ばしい話題を振った時には喜ばしさが原因とされ、怒りを誘発する話題を振った時には怒りが原因とされたという実験については、むしろ喜びや怒りの原因がアドレナリンとは関係がないということを示唆している。
【0008】
Russellは快-不快の軸と、覚醒-非覚醒の軸により感情を分析している。感情が発露した時の一般的状態が示されているとしても、それぞれの状態に至るための原因となる対象を特定し直接的に計測するためには、そもそも快又は不快の諸原因が何であるかという点について、さらに追及する必要がある。
また、言語上の判断はそもそも覚醒しているかどうかに関係がない。言語上の認識は、何かしらの外部からの影響があるとしても、本来的また最終的には、身体の状態に対して含みあらゆることに対して完全に自由に構築されるからである。また興奮すれか、又は興奮が収まるかもまた、言語認識上で、美的感覚に基づきなされる美醜の判断に関係がない。
そのため、感情が発露した時の、特に身体状態に関する一般的状態としてRussellの理論を検討することがあったとしても、美的判断における原因となる対象については、別途特定する必要がある。
【0009】
Maslowの欲求五段階説においてもまた、言語における個々の事物の意味内容の決定そのものに自由がある事実からすれば、すべての人の絶対的な認知規則とすることはあり得ない。即ち、「生理的欲求」以外の欲求は、認識するか自体が自由な言語上の認識であって、さらには意味内容による分類であっても、認知の諸原理による分類ではない。個人が「自己実現欲求」、「承認欲求」、「社会的欲求」、「安全欲求」をそれぞれ認識するかまたそこに絶対性や普遍性を要求するかはその個人の自由である。「生理的欲求」についてすら、言語上の認識に限るならば、認識するかまたそこに絶対性や普遍性を要求するかは個人の自由である。加えて、そもそも美的対象への感性、美的対象への感性のない単純な言語運用、量の差への欲求、身体反応の原理毎の区別となっていない。即ち、「自己実現欲求」、「承認欲求」、「社会的欲求」、「安全欲求」、また言語上の認識に限る場合の「生理的欲求」において、「あるべき何か」への絶対性や普遍性の要求がある又はない場合、量の差への欲求がある又はない場合がそれぞれ考えられる。そのため、美への感性、即ち何らかの「そうあるべきところのもの」の絶対性や普遍性の完全性、純度への感性を単体で抽出し記述した理論とは言い難い。
【0010】
上記の従来の説に加えて、特許文献1で述べられるように、個人が何をもって美とするか自体は、絶対性や普遍性が要求される「そうあるべきところのもの」とその個人に認識されるものが何であるか、という点で共通ではある一方、その「そうあるべきところのもの」を何とするかの選択が自由であるために、機械的なコンセプト評価がほぼ不可能であるという点が、デザイン評価の課題として挙げられる。ここにさらに言語の恣意性が加わり、個々人の認識する意味と記号の結びつき及び記号と結びつける意味の内容もばらばらとなるため、いよいよ何らかのデザインコンセプト評価の機械的計測は困難を極める。例えば印象派の絵画表現に用いられたぼかした線を基準に評価しようとしても、美は「絶対性や普遍性が要求されていること」が前提であるのだから、何らかの「印象派的表現」という、印象派絵画の場合の絶対性や普遍性が要求されるところの対象であるという前提と切り離した時点で、そのぼやけた線はただのぼやけた線でしかなくなる。美的判断における本質的対象は、「絶対性や普遍性の要求される対象」であって、ぼやけた線やかっちりした線といった、何らかの特定の対象ではないからである。さらにはそもそも、印象派的表現が何らかの絵画のテーマとして採用されるかどうかも、個々人の自由による。即ち、あらかじめ「印象派的絵画の平均的なぼやけた線に合致するかどうか」といった機械的計測前提を設定でき、かつ評価者全員がその線こそが美であるという共通認識を有しているような場合にのみ、機械的なデザインコンセプト評価が可能となるが、実際には、そのような線が万人にとって「美とされるところの線」とされる保証はできない。
【0011】
即ち、デザインの評価が困難となる要因として、美と認識するところの要因が、個々人の認識において共通して、本質的に、事物の絶対性や普遍性を認識するところにあるとはいえ、何が絶対的、普遍的であるか、という点においては個々人が自由に認識するところのものであるために、美とされる対象が様々となる点が挙げられる。即ち、何に絶対性、普遍性を要求するかという点が自由である一方で、ある人が「柔らかいイメージが美しい」と言えば、柔らかいイメージの対象を収集し測定し、あるいは「強いイメージが美しい」と言えば、同様に強いイメージの対象を収集し測定するが、別の人にとっては柔らかいイメージであろうと、あるいは強いイメージであろうと、美しくも何とも思わないため、結局何が美であるか結論が得られないという事態が生じる。これは、何が美であるかは、本質的には「絶対性や普遍性が要求されたもの」であって、何らかの柔らかいものや強いものといった、具体的対象ではないためである。
【0012】
このため、何らかの柔らかいものや強いものといった具体例をもって何が美とされるかを特定しようとする試みは失敗に終わる。というのも、例えば柔らかいものが美とされたとしても、それ以外のものもまた美とされ得るからであり、また極端な話、「醜さ」もまた美術等のテーマになるように、個々人の自由に反するからである。
【0013】
これは、美とされるものが、何らかの具体的な対象ではなく、「絶対性や普遍性が要求された、事物のそうあるべきところのもの」であり、その上、どの事物にどのような絶対性や普遍性を要求するかが個々人にとって自由であるためである。
【0014】
そのため、線や点群の構成が整っているかどうかについて機械によっても一貫したデザイン評価を行うことを念頭に置く場合には、自由に選択されるその他コンセプトを評価軸とする評価を、適切にその他の評価軸と区別する必要がある。
【0015】
さらには、特許文献1にて記載されるように、人が物事を評価するにあたり、それが美であるかどうかだけでなく、その量的側面、すなわち人より背が高い、人より地位が高い、人より力が強い、人より足が速い、人より何かを多く所有している、といった量の大小の関係そのものの評価も行われる。そのため、対象が美的であるかどうかのみを評価する場合には、対象が美的であるかどうかの評価と、量の大小の関係そのものの評価とを区別し分離する必要がある。
【0016】
さらには、人が物事を評価するにあたり、それが美であるかどうかだけでなく、純粋に身体的に快か不快の評価も行われる。例えば温度が心地よい、よく温まる又はよく冷えている等温度が気持ちよい、マッサージが気持ちよい、よいにおいがする、食物がおいしい、といった感覚が挙げられる。そのため、対象が美的であるかどうかのみを評価する場合には、対象が美的であるかどうかの評価と、純粋に身体的に快であるかどうかの評価とも区別し分離する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明においては、特許文献1に記載されるところの美的感覚を含む認識と感情の原理に基づき、(1)自由に選択されるコンセプトに基づく評価、(2)量的差異への評価、(3)身体的な快不快に基づく評価と区別可能な、単純に線や点の構成が整っているかどうかのデザイン評価の方法及び装置を提供する。
【0018】
即ち、本発明のデザイン評価においては、美的判断の原因となる対象を「絶対性/普遍性の要求対象」として定義し、これを評価対象から抽出し、その絶対性、普遍性の成立具合を定量化する方法を用いるととも、計測対象を線、点群、色等の幾何的側面(延長、比率、平行、対称等)に限定する。尚、考え方は、特許文献1の特願2021―181544(PCT/JP2022/007429)に基づく。
【0019】
ここでの「絶対性/普遍性」又は「絶対/普遍」という呼称は便宜上のものであって、「対象が何で(どう)あるべきか」への認識また感情として定義する倫理的即ち美的認識における、「そうあるべきところのもの」と言い換えることができる。「そうあるべきところのもの」の側面として、絶対性や普遍性があるが、他の側面として「目的性」「本質性」「不変性」「法則性」等がある。これらは「そうあるべきところのもの」のどの側面を切り取って言及するかという点で異なるが、根幹となる対象は事物の「そうあるべきところのもの」であって共通である。より詳しい説明は、特許文献1の特願2021―181544(PCT/JP2022/007429)を参照されたい。
【0020】
即ち、本発明における美的判断の原因となる対象としての「絶対性/普遍性の要求対象」は、線や点群の幾何的側面(延長、比率、平行、対称等)である。その線や点群の、長さ、幅、位置関係等は、絶対/普遍であれと要求されるものと仮定する。即ち、その線、点群、色等は、周囲の他の線、点群、色等の長さ、幅、位置関係と、延長、一定比率、平行、対称等の関係において、一致するべきものとして評価される。
【0021】
個々の線、点群、色等の、延長、一定比率、平行、対称等の絶対/普遍の関係における一致又はその程度の是非は、端点や曲線の頂点の傾きから引いた仮想線との一致、1:1、1:2といった整数比等の何らかの法則性のある比率(より正確には、人が見てそこに何らかの絶対性/普遍性があると感じられる比率)における位置関係との一致、端点、頂点、重心をもって中心、半径、辺の長さ等が定義される円や多角形の仮想線との一致、又はその他一般的な幾何学的手法により、個々の線、点群、色等の各側面を絶対/普遍とした際に想定され得る関係との一致の程度により評価される。
【0022】
上記における個々の線、点群、色等の各側面を絶対/普遍とした際に想定され得る関係との一致の程度は、どの程度一致しているか、あるいはどの程度破綻しているかによって定量化され、統計される。
【0023】
以下、上記の単純に線や点の構成が整っているかどうかの評価から、自由に選択されるコンセプトによる評価を除くことを説明する。
【0024】
評価対象の美醜を判断するにあたっての課題として、何を美とするかがそもそも自由に選択される、という点が上記にて挙げられた。そのため、万人にある程度共通する評価を行うためには、評価が個人によって大きく異なるような対象のコンセプトに関する評価、即ち強い線が好ましい、優しい線が好ましい、といった評価基準を除く必要がある。なぜならば、美的判断の良し悪しは、「好ましく思うコンセプトは個人それぞれ」という言葉によって、非常にしばしば曖昧にされ、また実際に個人それぞれであるため、計測が不可能になるためである。ここで、例えば線や点の構成といった物的要素が整っているかどうかといった要素のみを計測対象として抽出し限定することにより、例えば計測装置等を用いて、万人にとってより客観的なデザイン評価をすることができる。無論この場合も、「整っているものなど嫌いだ」「今回の美術のテーマは『カオス的様態』とするため、あえて整っていない線や点をもって表現する」といった、美とするところのものを何とするかという、コンセプトの自由選択による美醜の判断の影響を逃れることはない。一方、そうした「自由なコンセプトによる判断を除く」という前提においては、単純に線や点が整っているかどうか、即ちひとつひとつの線や点が何らかの絶対性や普遍性に適っているかどうか、という純粋かつ一貫した評価指標によるデザイン評価が可能となる。別の言い方をするなら、何であれ、絶対性/普遍性が成立しているものが美と認識されるのであるから、「美的なものは美しいと思わない」という自由な認識がある場合においてさえ、何らかの絶対性/普遍性に基づき構成された線や点は、美的であると認識される。さらには、例えば建築物や自動車の外装や内装のように、ひとつひとつの線や点が整っていることが一般的に要求される場合がある。
【0025】
即ち、線、点群、ひいては色、素材等が描写されるにあたり、それらの線、点群、色、素材等の長さ、幅、角度、位置等が「そうあるべきである」とするところの、周囲の他の線、点群、色、素材等との延長、平行、対称、整数比率等の規則的配分、類似、相似等における一致又は概一致の関係を抽出し、評価することにより、線、点群、色、素材等の構成が美的であるかどうかの評価ができる。ここにおいて、個々人がそれぞれ自由に要求する「柔らかいイメージがよい」「強いイメージがよい」といった、評価が困難なコンセプト評価を避け、単純に線や点群の構成が整っているかどうかという観点で美的かどうかを評価することができるため、「人の評価はそれぞれ」というような個々人により自由に設定される基準ではなく、あらゆる線や点群の配置に共通する評価方法を提供することができる。
【0026】
建築物や自動車の内装や外装は、一般的に美的であるべきとされるために、その線や点群のひとつひとつの要素が、それぞれ何らかの絶対性や普遍性に基づくものであると要求され得ると仮定し、万人に共通する対象を設定するとともに、その「何らかの絶対性や普遍性」を線や点群の構成関係に求めることにより、単純に線、点群、色、素材の配置が整っているかどうかという、一つの共通基準を得ることができる。
【0027】
即ち、異なる複数の評価基準を混ぜると一貫した単一の評価軸による評価ができないおそれがあるため、ある文化で美とされる対象や、デザイナーにより設定される条件といった個々人によって評価するかどうかが自由なコンセプトによる評価は、本発明における、単純に線や点の構成が整っているかどうかの評価と区別する。
【0028】
以下、上記の単純に線や点の構成が整っているかどうかの評価から、量の差への欲求に基づく評価を除くことを説明する。
【0029】
装飾の数等のデザインの要素の量的側面がよいとされる場合がある。序列等のランクや何かの所有量のスコアといった概念含め、量の大小への欲求は、本質的に、何らかの絶対性や普遍性に適うかどうかという美的感覚とは異なるものである。しかしながら、何に絶対性や普遍性を要求するかが自由であるために、装飾量やその序列が量的に大であるか又は小であるかといった量的差異のあり方にも、絶対性/普遍性が要求され得る。
【0030】
量の大小への欲求は、絶対性や普遍性の要求による美的感性とは全く異なるものであるために、当然ながら、量がより大であるか又は小であるかという点に絶対性や普遍性が要求されていなかったとしても、独立して評価されるものである。
【0031】
こうした量の大小への差異は、単に純粋な物的対象に限らない。言語上では言語化された概念は記号によって物的対象として扱われ、数的側面も付与され得るため、言語上の認識対象もまた、量の大小への欲求の対象となる。
【0032】
即ち、特許文献1にて言及されるように、量の大小への欲求の対象は、純粋に物的な力の強さや縄張りや獲物の物的獲得量といった、眼前の量に制限のある、実体のある物的対象だけでなく、言語上の認識である地位、領土、金銭所有量といった、物的、身体的な量の制約のない概念的対象にも及ぶ。こうした欲求は、倫理的、美的な感性と区別される場合には、所謂俗な欲求とされる。
【0033】
「装飾等の量が大であるかどうか」「装飾等の序列が大であるかどうか」は、美的であるかどうかの評価軸とするかどうか、欲求するかどうかが自由に選択されるコンセプトの範疇でもある。
【0034】
対象によっては定量的に測定可能なものとして取り扱うこともできるが、単に線や点が整っているかどうかのみの基準をもってデザインを評価しようとする際に、別の基準を混ぜては正しく評価できないおそれがある。
【0035】
そのため、本発明においては、量の差への欲求対象を「そうあるべきもの」として絶対性や普遍性を要求し、美的対象として扱う際の評価を含め、量の差への欲求に基づく評価を、単純に線や点が整っているかどうかの評価と区別するものとする。
【0036】
ところで、評価軸を一貫した単一のものとするという同様の理由により、上記の自由なコンセプトの選択に基づく評価と、量の差への欲求に基づく評価を除くことに加えて、上記の単純に線や点の構成が整っているかどうかの評価から、身体的な快不快に基づく評価もまた区別する。
【0037】
即ち、見やすさであるとか、色合いの心理的影響であるとかいった評価を、本発明においては評価の一貫性と単一性を保つために除くものとする。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、「人の好みはそれぞれ」といった曖昧な結論を除外し、万人に一般に共通するところの、純粋に線や点群、ひいては色や質感等の構成が整っているかどうかへの評価を行うことができるとともに、その評価を定量化し統計できる、デザイン評価の方法又は装置を提供することができる。
【0039】
本発明においては、自由に選択されるコンセプトを評価軸とする評価を除外する。その除外されるコンセプト評価には、「整ったもの、綺麗なものは嫌いだ」といった恣意的なコンセプトの評価を含める。そのため、人の自由な価値観に左右されず、純粋に線や点の構成が美的に整っているかどうかの評価ができる。
【0040】
加えて、本発明においては、量の差への欲求に基づく評価を除くため、「もっと大きく」「もっと多く」「もっと威勢よく」といった所謂俗な欲求に左右されず、評価軸を一貫して保ち、純粋に線や点の構成が美的に整っているかどうかの評価ができる。尚、人が絶対性/普遍性を要求する対象が自由であるために、「もっと大きく」「もっと多く」「もっと威勢よく」といった、量的差異への欲求に絶対性/普遍性が要求され得る。そのため、自由に絶対性/普遍性の要求対象として選択されるコンセプトに基づく美的であるかどうかの評価と、量的差異の評価が合わさった評価もあるが、こうした評価も本発明から除外することで、一貫して線や点群の構成が美的であるかどうかのみを評価できる。
【0041】
加えて、本発明においては、身体的な快不快に基づく評価を除外するため、「目線の動きからして見やすいかどうか」「色による心理的影響はどうか」といった評価に左右されず、一貫して線や点の構成が美的であるかどうかのみを評価できる。
【0042】
即ち、工業製品や人の動き等が基本的に美的であるかどうかを、一貫した単一の評価軸で機械的に計測し評価する方法と装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例0043】
本発明の実施例を示す。
【0044】
本発明では、美的判断の原因となる対象を「絶対性/普遍性の要求対象」として定義するとともに、評価対象となるデザインの何らかの線、点群、色等の、長さ、幅、位置関係等は、絶対/普遍であれと要求されるものと仮定し、周囲の他の線、点群、色等の長さ、幅、位置関係等と延長、一定比率、平行、対称等の何らかの絶対/普遍の関係において一致するべきものとして、その一致又は一致の破綻の程度を定量的に評価し、評価結果を統計する。
【0045】
個々の線、点群、色等の、延長、一定比率、平行、対称等の何らかの絶対/普遍の関係における一致又は破綻の程度を調べる方法として、図1のように、端点から引いた仮想線との一致の程度を見る方法が挙げられる。
【0046】
上記の端点から引いた仮想線は、図2のように、一定の滑らかな曲率範囲内で設定することもできる。
【0047】
また、図3のように、曲線の頂点の傾きから引いた仮想線との一致の程度を見る方法が挙げられる。
【0048】
また、上記の端点や曲線の頂点の傾きから引いた仮想線は、例えば各線間の概一致の程度を測るため、図4のように、ある線の一定の範囲の平均の傾き、又は複数の隣り合う線の平均の傾きから引くこともできる。
【0049】
また、個々の線、点群、色等の、延長、一定比率、平行、対称等の何らかの絶対/普遍の関係における一致又は破綻の程度を調べる方法として、図5のように、評価する線に平行になるように引いた仮想線との一致の程度を見る方法が挙げられる。
【0050】
また、個々の線、点群、色等の、延長、一定比率、平行、対称等の何らかの絶対/普遍の関係における一致又は破綻の程度を調べる方法として、図6のように、1:1、1:2等の何らかの法則性のある比率における位置関係との一致の程度を見る方法が挙げられる。
【0051】
また、個々の線、点群、色等の、延長、一定比率、平行、対称等の何らかの絶対/普遍の関係における一致又は破綻の程度を調べる方法として、図7のように、評価する線に対称になるように引いた仮想線との一致の程度を見る方法が挙げられる。
【0052】
また、個々の線、点群、色等の、延長、一定比率、平行、対称等の何らかの絶対/普遍の関係における一致又は破綻の程度を調べる方法として、図8のように、相似又は類似の関係にある仮想線との一致の程度を見る方法が挙げられる。
【0053】
また、図9のように、何らかの端点、頂点、重心をもって中心、半径、辺の長さ等が定義される円や角形の仮想線との一致の程度を見る方法が挙げられる。
【0054】
その他、角度、曲線のR、ある頂点への一致と結合、二つ以上の点に共通する接線との一致等において、何らかの絶対性/普遍性を有する仮想線との一致の程度を見る方法が挙げられる。
【0055】
また、上記に限らず、個々の線、点群、色等の、延長、一定比率、平行、対称等の何らかの絶対/普遍の関係における一致又は破綻の程度を調べる方法として、その他の幾何学的定義あるいは別の定義をもって、ある絶対性/普遍性が要求されかつ成立していると認知され得る何らかの基準を設定することができる。
【0056】
また、厳密に幾何的法則に則り仮想線を設定するよりも、コンセプト評価となり得る懸念はあるが、人間にとって「線が一致するなどして整っている」と何らかの錯覚等によって認識される場合も考慮することできる。
【0057】
絶対性/普遍性の評価にあたり、絶対性/普遍性が要求される複数の対象については、それぞれ絶対性ひいては単一性、純粋性が求められているため、何らかの共通の要素は何らかの一致があり、何らかの異なる要素は明確に区別されなければならないと考えられる傾向にある。そのため、色、幅、質感、素材による強調等による区別又は一致の表現があるかどうかを、評価に加味することができる。
【0058】
また、絶対性/普遍性の評価にあたり、絶対性/普遍性が要求される対象は、周囲の障害物やカオス要素に対して影響を受けないという表現によってもその絶対性/普遍性が強調される傾向にある。そのため、周囲の障害物やカオス要素による強調表現があるかどうかを、評価に加味することができる。
【0059】
また、絶対性/普遍性の評価にあたり、破断、区別のなさ、要素の不連続等があれば、要素毎にゼロ点評価又はマイナス評価を行う等の評価をすることができる。
【0060】
評価の数値化方法については、評価箇所をあらかじめ設定し、上記で述べた延長仮想線との一致や行仮想線との一致といった要素がある箇所がいくつあるかを定量化する方法や、何らかの絶対性/普遍性に基づいているため整っていると評価された線の長さやその周囲の面積によって定量化する方法、その他一般的に考えられ得る定量化の方法を適用する。個別に定量化した数値は、あらかじめ採点方法を共通にして、例えば自動車の内装又は外装のベンチマークに用いる等のために集計することもできる。
【0061】
評価範囲としては、視線の動きの範囲、視点を中心とする範囲、視覚範囲と視覚範囲内の要素に関係する視覚外範囲、例えば運転席視点等のある角度から見た場合を切り取った視覚情報範囲、又はCADやVR空間の範囲、等を設定し、評価対象の全体又は一部の評価をすることができる。
【0062】
本発明は、色、質感、素材等をもってひとつの線や点群のまとまりと見なして活用することができる。
【0063】
本発明は、上記に限らず、平面高さ、三次元ベクトル、要素組合せ、及びその他の絶対性/普遍性が要求され得る物的位置関係全般に適用する事ができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上により、本発明によるデザイン評価の方法によれば、ものの外観や動きがきれいであるかどうかという、一貫した単一の評価軸での評価ができるという効果が得られるため、例えば、建築物や、家電、自動車といった工業製品の内装及び外装の外観評価とベンチマーク、ダンスにおける動きの綺麗さや、音楽と合わせたときの動き-時間グラフへの適用による動作と音楽の一致是非における音楽性評価、その他の整っていることが望ましいとされる何らかの位置関係全般の評価において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】本発明における、端点から引いた仮想線との一致の程度を見る方法の例である。
図2】本発明における、一定の滑らかな曲率範囲内で仮想線を設定する例である。
図3】本発明における、曲線の頂点の傾きから引いた仮想線との一致の程度を見る方法の例である。
図4】本発明における、ある線の一定の範囲の平均の傾き、又は複数の隣り合う線の平均の傾きから仮想線を引く例である。
図5】本発明における、評価する線に平行になるように引いた仮想線との一致の程度を見る方法の例である。
図6】本発明における、1:1、1:2等の何らかの法則性のある比率における位置関係との一致の程度を見る方法の例である。
図7】本発明における、評価する線に対称になるように引いた仮想線との一致の程度を見る方法の例である。
図8】本発明における、相似又は類似の関係にある仮想線との一致の程度を見る方法の例である。
図9】本発明における、何らかの端点、頂点、重心をもって中心、半径、辺の長さ等が定義される円や角形の仮想線との一致の程度を見る方法の例である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9