(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022169705
(43)【公開日】2022-11-09
(54)【発明の名称】初代免疫細胞における逐次遺伝子編集
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20221101BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221101BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20221101BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20221101BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20221101BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221101BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N15/86 Z
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61P35/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133783
(22)【出願日】2022-08-25
(62)【分割の表示】P 2018568746の分割
【原出願日】2017-06-30
(31)【優先権主張番号】PA201670503
(32)【優先日】2016-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(71)【出願人】
【識別番号】512213549
【氏名又は名称】セレクティス
【氏名又は名称原語表記】CELLECTIS
【住所又は居所原語表記】8 rue de la Croix Jarry, 75013 Paris, France
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カバニオル ジャン-ピエール
(72)【発明者】
【氏名】エピナット ジャン-チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥシャトー フィリップ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】異なる遺伝子座において初代免疫細胞を遺伝子改変するための方法であって、いくつかの特異的エンドヌクレアーゼ試薬を一緒に用いる場合の、転座および細胞死の発生を減少させる方法を提供する。
【解決手段】方法は、(a)初代免疫細胞を第1のエレクトロポレーション段階に供して、少なくとも第1の配列特異的試薬を該免疫細胞に導入する段階、
(b)該初代免疫細胞を培養し、それによって該第1の配列特異的試薬が第1の遺伝子座においてそのゲノムを改変できるようにする段階、
(c)該初代免疫を少なくとも第2のエレクトロポレーション段階に供して、少なくとも第2の配列特異的試薬を該細胞に導入する段階、
(d)該初代免疫を培養しかつ増大させ、それによって該第2の配列特異的試薬が該第2の遺伝子座においてそのゲノムを改変できるようにする段階
の逐次段階を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
初代免疫細胞の異なる複数の遺伝子座において遺伝子改変を導入するための方法であって、
(a)該初代免疫細胞を第1のエレクトロポレーション段階に供して、少なくとも第1の配列特異的試薬を該免疫細胞に導入する段階、
(b)該初代免疫細胞を培養し、それによって該第1の配列特異的試薬が第1の遺伝子座においてそのゲノムを改変できるようにする段階、
(c)該初代免疫を少なくとも第2のエレクトロポレーション段階に供して、少なくとも第2の配列特異的試薬を該細胞に導入する段階、
(d)該初代免疫を培養しかつ増大させ、それによって該第2の配列特異的試薬が該第2の遺伝子座においてそのゲノムを改変できるようにする段階
の逐次段階を含む、方法。
【請求項2】
前記初代免疫細胞が、段階(b)において12~72時間、好ましくは24~48時間培養される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
少なくとも前記第1の遺伝子座において改変された遺伝子の発現または欠失によって生じた産物に依存して、精製段階が、段階(b)と(c)の間に行われる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
段階(a)~(d)が240時間以内に、好ましくは120時間以内に、より好ましくは96時間以内に、さらにより好ましくは72時間以内に行われる、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記初代免疫細胞を第3のエレクトロポレーション段階に移して、少なくとも第3の配列特異的試薬を該細胞に導入する、少なくとも1つのさらなる段階
を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
第1および/または第2の配列特異的試薬が、レアカットエンドヌクレアーゼ、そのサブユニットをコードするポリヌクレオチドもしくはポリペプチド、またはポリヌクレオチドおよびポリペプチドの両方の複合物である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
第1および/または第2の配列特異的試薬が、プログラム可能なRNAもしくはDNAガイドエンドヌクレアーゼ、TALEN、ZFN、megaTAL、またはホーミングエンドヌクレアーゼより選択されるレアカットエンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドまたはポリペプチドである、請求項2記載の方法。
【請求項8】
第1および/または第2の配列特異的試薬が、RNAガイドとCas9またはCpf1ポリペプチドの複合物である、請求項3記載の方法。
【請求項9】
第1および/または第2の配列特異的試薬が、干渉RNA (RNAi) またはそれをコードするポリヌクレオチドである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
形質導入段階が、ウイルスベクターと共に(b)と(c)の間に導入される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
形質導入段階が、導入遺伝子の安定発現のための組込みレンチウイルスまたはレトロウイルスベクターを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
導入遺伝子がキメラ抗原受容体 (CAR) をコードする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
形質導入段階が非組込みウイルスベクターを含む、請求項10記載の方法。
【請求項14】
非組込みウイルスベクターが、免疫細胞のゲノム中に前記導入遺伝子を相同組換えまたはNHEJ組込みするための鋳型として用いられる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
第1の配列特異的試薬が、形質導入段階を促進するゲノム配列に作用する、請求項10記載の方法。
【請求項16】
第1の配列特異的試薬が、段階(d)の遺伝子改変を促進するゲノム配列に作用する、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
段階(b)が35℃未満、好ましくは約30℃で行われる、請求項1~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
免疫細胞がT細胞である、請求項1~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
初代T細胞をシグナル伝達によって活性化する予備段階を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
第1の配列特異的試薬が、初代T細胞によるTCRの発現を永続的に減少させるかまたは妨げる、請求項18または19記載の方法。
【請求項21】
第1または第2の配列特異的試薬が、免疫チェックポイントをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を永続的に減少させるかまたは妨げる、請求項1~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
免疫チェックポイントをコードする少なくとも1つの遺伝子が、PD1、CTLA4、PPP2CA、PPP2CB、PTPN6、PTPN22、PDCD1、LAG3、HAVCR2、BTLA、CD160、TIGIT、CD96、CRTAM、LAIR1、SIGLEC7、SIGLEC9、CD244、TNFRSF10B、TNFRSF10A、CASP8、CASP10、CASP3、CASP6、CASP7、FADD、FAS、TGFBRII、TGFRBRI、SMAD2、SMAD3、SMAD4、SMAD10、SKI、SKIL、TGIF1、IL10RA、IL10RB、HMOX2、IL6R、IL6ST、EIF2AK4、CSK、PAG1、SIT1、FOXP3、PRDM1、BATF、GUCY1A2、GUCY1A3、GUCY1B2、GUCY1B3より選択される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
第1または第2の配列特異的試薬が、薬物または免疫枯渇剤に対する前記初代免疫細胞の耐性を永続的に与える、請求項1~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
CD52、dCK、GGH、またはHPRTを発現する遺伝子を不活性化することによって、前記耐性が与えられる、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記第1および/または第2および/または第3の遺伝子座において改変された1つの遺伝子の発現または欠失によって生じた少なくとも1つの産物に依存して、精製の最終段階が行われる、請求項1~24のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
・TCR陰性かつPD1陰性、
・TCR陰性かつCD52陰性、
・TCR陰性かつCTLA4陰性、
・TCR陰性かつdCK陰性、
・TCR陰性かつGGH陰性、
・TCR陰性かつHPRT陰性、および
・TCR陰性かつβ2m陰性
より選択されるT細胞の少なくとも2つの亜集団を含む、請求項1~25のいずれか一項記載の方法に従って得ることができる、単一ドナーに由来する初代TCR陰性T細胞の集団。
【請求項27】
単一ドナーに由来する初代TCR陰性T細胞の集団であって、該集団中の細胞の少なくとも20%、好ましくは30%、より好ましくは50%が、少なくとも3つの異なる遺伝子座において、配列特異的試薬を用いて改変されている、集団。
【請求項28】
請求項26または27のいずれか一項記載の初代T細胞の集団を含む、薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、適応細胞免疫療法の分野に関する。本発明は、異なる遺伝子座において初代免疫細胞を遺伝子改変するためにいくつかの特異的エンドヌクレアーゼ試薬を一緒に用いる場合の、転座および細胞死の発生を減少させることを目的とする。本発明の方法によって、単一のドナーまたは患者に由来する細胞の集団または亜集団から、治療処置において後に使用するための、三重または四重遺伝子不活性化細胞などの、いくつかの遺伝子改変を有するより安全な免疫初代細胞をもたらすことが可能になる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
様々な治療法における、特に免疫細胞をエクスビボで遺伝子改変し、次いで患者に再導入することができる細胞療法の分野における、遺伝子編集の可能性が、例えばUS 8921332(特許文献1)において既に記載されているように、本出願者 (WO2004067753(特許文献2)) によって長い間想定されてきた。
【0003】
最初にメガヌクレアーゼ [Smith et al. (2006) A combinatorial approach to create artificial homing endonucleases cleaving chosen sequences. Nucl. Acids Res. 34 (22):e149(非特許文献1)] と称された、最初のプログラム可能な配列特異的試薬が、今世紀の到来時までに出現して以来、エンドヌクレアーゼ試薬が急速に発展し、特異性、安全性、および信頼性を提供している。具体的には、TALE結合ドメインと切断触媒ドメインとの融合物であるTALE-ヌクレアーゼが (WO2011072246(特許文献3))、初代免疫細胞、具体的には末梢血単核細胞 (PBMC) 由来のT細胞への適用に成功している。TALEN(登録商標)という名称で販売されているそのようなTALE-ヌクレアーゼは、現在、ドナー由来のT細胞において遺伝子配列を同時に不活性化するために、具体的にはTCR(T細胞受容体)およびCD52をコードする遺伝子が破壊された同種治療用T細胞を生成するために用いられている。がん患者を処置するために、これらの細胞にキメラ抗原受容体 (CAR) または組換えTCRを付与することができる (US2013/0315884(特許文献4))。TALE-ヌクレアーゼは、必須のヘテロ二量体型の対によりDNAと結合して、切断ドメインFok-1の二量体化を得ることが必要であるため、非常に特異的な試薬である。左側および右側のヘテロ二量体メンバーはそれぞれ、合わせて30~50 bpの全体的特異性の標的配列に及ぶ、約14~20 bpの異なる核酸配列を認識する。
【0004】
ごく最近、細菌化膿性連鎖球菌 (S. pyogenes) のII型原核生物CRISPR (Clustered Regularly Interspaced Short palindromic Repeat) 適応免疫系の成分に基づいて、さらなるエンドヌクレアーゼ試薬が開発された。RNAガイドヌクレアーゼ系と称されるこの多成分系は [Gasiunas, Barrangou et al. (2012) Cas9-crRNA ribonucleoprotein complex mediates specific DNA cleavage for adaptive immunity in bacteria; PNAS 109(39):E2579-E2586(非特許文献2)];Doudna, J. Charpentier E. (2014) The new frontier of genome engineering with CRISPR-Cas9 Science 346 (6213):1258096(非特許文献3)]、Cas9またはCpf1 [Zetsche et al. (2015). Cpf1 is a single RNA-guided endonuclease that provides immunity in bacteria and can be adapted for genome editing in mammalian cells. Cell 163:759-771(非特許文献4)] エンドヌクレアーゼファミリーのメンバーと、該ヌクレアーゼをいくつかの特定のゲノム配列に誘導する能力を有するガイドRNA分子を含む。切断特異性はRNAガイドの配列によって決定され、RNAガイドは容易に設計され、かつ安価で生成され得るため、そのようなプログラム可能なRNAガイドエンドヌクレアーゼは、生成が容易である。しかしながら、CRISPR/Cas9の特異性は、約10 pbというTAL-ヌクレアーゼよりも短い配列に依存し、これは標的とする遺伝子配列において特定のモチーフ (PAM) の近傍に位置しなければならない。
【0005】
TAL-ヌクレアーゼ(例えば:MegaTAL)またはジンクフィンガーヌクレアーゼと組み合わせた、またはそれらを伴わない、ホーミングエンドヌクレアーゼ(例えば:I-OnuIまたはI-CreI)に由来するその他のエンドヌクレアーゼ系もまた、特異性が証明されているが、これまでのところ効率は低い。
【0006】
上記の特異的エンドヌクレアーゼ試薬の効率および安全性の概念の様々な証拠が、インビトロまたはエクスビボのヒト細胞において報告されているが、異なる遺伝子座に作用する配列特異的試薬の同一細胞への同時送達はなお、オフサイト変異、大規模なゲノム欠失、およびDNA修復機構に固有の転座の潜在的要因として、慎重に考慮されなければならない (Poirot et al. (2015) Multiplex Genome-Edited T-cell Manufacturing Platform for “Off-the-Shelf” Adoptive T-cell Immunotherapies Cancer Res. 75: 3853-64(非特許文献5))。
【0007】
並行して、トランスジェニックT細胞受容体またはいわゆるキメラ抗原受容体 (CAR) の遺伝子導入を通して、新規な特異性が免疫細胞に与えられている (Jena et al. (2010) Redirecting T-cell specificity by introducing a tumor-specific chimeric antigen receptor. Blood. 116:1035-1044(非特許文献6))。CARは、1つまたは複数のシグナル伝達ドメインと会合している標的化部分を単一の融合分子中に含む組換え受容体である。概してCARの結合部分は、可動性リンカーによって連結されたモノクローナル抗体の軽鎖可変断片および重鎖可変断片を含む一本鎖抗体 (scFv) の抗原結合ドメインからなる。受容体またはリガンドドメインに基づく結合部分もまた、使用に成功している。第一世代CARのためのシグナル伝達ドメインは、CD3ζまたはFc受容体γ鎖の細胞質領域に由来する。第一世代CARは、T細胞の細胞傷害性を首尾良く方向づけ直すことが示されているが、インビボで長期増大および抗腫瘍活性を提供することはできなかった。CAR改変T細胞の生存を向上させ、増殖を増加させるために、CD28、OX-40 (CD134)、ICOS、および4-1BB (CD137) を含む共刺激分子に由来するシグナル伝達ドメインが、単独で(第二世代)または組み合わせて(第三世代)付加されている。CAR、および組換えTCRの発現により、リンパ腫および固形腫瘍を含む様々な悪性腫瘍に由来する腫瘍細胞によって発現される抗原に対してT細胞を方向づけ直すことが首尾良く可能になった。
【0008】
TALE-ヌクレアーゼを用いてT細胞受容体 (TCR) が破壊され、CD19悪性抗原を標的とするキメラ抗原受容体 (CAR) が付与された、最近操作されたT細胞は、「UCART19」産物と称され、難治性白血病を患う少なくとも2名の乳児において治療の可能性を示した (Leukaemia success heralds wave of gene-editing therapies (2015) Nature 527:146-147(非特許文献7))。そのようなUCART19細胞を得るためには、TCR遺伝子破壊を起こすために、キャッピングmRNAのエレクトロポレーションによって、細胞中でのTALE-ヌクレアーゼの一過性発現が行われ、その一方で、レトロウイルスベクターを用いて、キメラ抗原受容体 (CAR CD19) をコードするカセットがゲノム中にランダムに導入された。
【0009】
この後者のアプローチにおいて、遺伝子不活性化の段階およびキメラ抗原受容体を発現させる段階は、「エクスビボで」T細胞の活性化を誘導した後に独立して行われる。
【0010】
しかしながら、初代免疫細胞の操作は、そのような細胞の成長/生理機能に何も影響を及ぼさないわけではない。具体的には、1つの主要な課題は、それらの免疫反応および寿命を顕著に低下させる、細胞の疲弊/アネルギーを回避することである。これは、患者に注入する前に細胞が人為的に活性化される場合に起こる可能性が高い。過度に反応性が高いCARが細胞に付与される場合も同様である。
【0011】
組換え受容体を発現するポリヌクレオチドのそれらの細胞への導入は、ウイルス形質導入という独立した段階ではあるものの、やはり全体的な生成過程に影響を及ぼす。
【0012】
本発明者らは、初代細胞が (1) 異なる遺伝子座において改変され、(2) あまりに多くの転座を有することなく、(3) 少なくとも患者100名の処置を可能にするのに十分な数で生成され、かつ (4) 細胞の疲弊を回避するために30日未満という限定された時間枠内で生成されるという必要条件を伴って、エンドヌクレアーゼ試薬を該細胞中にエクスビボ送達するための、より安全な手段を探索した。本発明者らは、多重化遺伝子編集の代わりに逐次遺伝子編集を行うという、本明細書に記載される発明を考え出した。驚くべきことに、これは、細胞に対する破壊性がより低くなるように行われ、より質の高い初代免疫細胞をもたらした。
【0013】
本発明は、標準的でかつ手頃な価格の養子免疫細胞療法処置への道を開く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】US 8921332
【特許文献2】WO2004067753
【特許文献3】WO2011072246
【特許文献4】US2013/0315884
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Smith et al. (2006) A combinatorial approach to create artificial homing endonucleases cleaving chosen sequences. Nucl. Acids Res. 34 (22):e149
【非特許文献2】Gasiunas, Barrangou et al. (2012) Cas9-crRNA ribonucleoprotein complex mediates specific DNA cleavage for adaptive immunity in bacteria; PNAS 109(39):E2579-E2586
【非特許文献3】Doudna, J. Charpentier E. (2014) The new frontier of genome engineering with CRISPR-Cas9 Science 346 (6213):1258096
【非特許文献4】Zetsche et al. (2015). Cpf1 is a single RNA-guided endonuclease that provides immunity in bacteria and can be adapted for genome editing in mammalian cells. Cell 163:759-771
【非特許文献5】Poirot et al. (2015) Multiplex Genome-Edited T-cell Manufacturing Platform for “Off-the-Shelf” Adoptive T-cell Immunotherapies Cancer Res. 75: 3853-64
【非特許文献6】Jena et al. (2010) Redirecting T-cell specificity by introducing a tumor-specific chimeric antigen receptor. Blood. 116:1035-1044
【非特許文献7】Leukaemia success heralds wave of gene-editing therapies (2015) Nature 527:146-147
【発明の概要】
【0016】
本発明は、初代ヒト細胞、特に個々のドナーまたは患者に由来する免疫細胞の遺伝子改変を改善することを目的とした逐次遺伝子編集の方法に注目する。
【0017】
初代免疫細胞、具体的にはT細胞またはNK細胞は、寿命が限られており、当技術分野で公知の方法によってエクスビボで増大させ活性化することができるものの [Rasmussen A.M. et al. (2010) Ex-vivo expansion protocol for human tumor specific T cells for adoptive T cell therapy. Journal of Immunological Methods 355:52-60]、それらの免疫反応性は時間と共に低下する傾向がある。それらはまた、ドナーから採取した時点から、悪性細胞または感染細胞を追跡し排除するために患者のインビボに再導入する時点までに、疲弊し得る。
【0018】
レアカット(rare-cutting)エンドヌクレアーゼなどのヌクレオチド配列特異的試薬を用いる遺伝子編集技法は、初代細胞に遺伝子改変を導入するための最先端技術となっている。しかしながら、そのようなエンドヌクレアーゼが、異なる遺伝子座の標的配列を同時に切断するために用いられる場合、染色体間または染色体内の転座が起こるリスクが有意に増加し、それと同時に望ましくない遺伝子組み換えまたはオフサイト変異のリスクも高まる。
【0019】
この欠点を克服し、かつ有害なゲノム効果を最小限にするために、本発明者らは、具体的にはエレクトロポレーションのいくつかのラウンドを介して、遺伝子編集を逐次的に適用するという、より安全なアプローチを適用した。驚いたことには、逐次遺伝子編集により、多重化遺伝子編集(すなわち、異なる遺伝子座において同時に行われる遺伝子編集)と比較して、より質の高い細胞が生じ、さらには異なる遺伝子座で改変された操作細胞の収率が増加した。
【0020】
したがって本発明は主に
・末梢血単核細胞 (PBMC) 由来などの、培養物または血液試料由来の少なくとも1つの初代免疫細胞を提供する段階;
・該細胞を遺伝子編集の段階に供する段階であって、配列特異的試薬の第1セットを該細胞に導入する段階;
・該細胞を培養して、該第1の配列特異的試薬が第1の遺伝子座においてそのゲノムを安定に改変できるようにする段階、
・該細胞を少なくとも第2の遺伝子編集段階に供して、配列特異的試薬の少なくとも第2セットを該細胞に導入する段階、および任意に
・該細胞を培養して、該第2の配列特異的試薬が該第2の遺伝子座においてそのゲノムを安定に改変できるようにする段階
のうちの1つまたはいくつかの段階を含む方法に関係する。
【0021】
好ましい態様によると、第1、第2、および任意のその後の配列特異的試薬は、エレクトロポレーションによって前記細胞に導入され、したがって本発明の方法は、
(a)免疫細胞を第1のエレクトロポレーションに供して、少なくとも第1の配列特異的試薬を該免疫細胞に導入する段階、
(b)該免疫細胞を培養して、該第1の配列特異的試薬が第1の遺伝子座においてそのゲノムを改変できるようにする段階、
(c)該細胞を少なくとも第2のエレクトロポレーションに移して、少なくとも第2の配列特異的試薬を該細胞に導入する段階、および任意に
(d)該免疫細胞を培養して、該第2の配列特異的試薬が該第2の遺伝子座においてそのゲノムを改変できるようにする段階
を含む。
【0022】
より高い回収率、より優れた活性化、持続性、または治療効率を伴った免疫細胞を得るために、本発明の逐次遺伝子編集を適用する場合には、いくつかの戦略を適用することができる。一例として、細胞がより良く増大するか、またはその後の改変段階をより許容するような方法で、遺伝子の編集または改変を考慮して、第1のエレクトロポレーション段階を行うことができる。
【0023】
別の例として、TCRなどの受容体または表面タンパク質に対して、遺伝子編集の第1段階を行うことができる。この第1段階によって得られたTCR陰性細胞を、TCR陽性のままの細胞を除去することによって精製し、そうして該TCR陰性細胞を培養し、次いで遺伝子編集の第2段階に供して、例えば化学療法薬に対して耐性にすることができる。第2の遺伝子編集が達成された結果として生じた細胞集団を、次いで、該化学療法薬を含有する培地中で培養することにより、TCR陰性薬物耐性細胞について濃縮することができる。
【0024】
より破壊的に見えるにもかかわらず、連続的遺伝子編集段階が、驚くべきことに、操作された免疫細胞の収率および治療可能性の改善に寄与することを示す、いくつかの実施例が本明細書において展開された。
【0025】
本発明は、本方法に注目するばかりでなく、これらの方法によって得ることができる新たな遺伝子編集細胞、特に新たな三重および四重遺伝子不活性化免疫細胞、ならびに治療用組成物の調製に有用である、それらによる細胞集団にも注目する。
【0026】
本発明は、以下の項目によってさらに要約することができる:
(1)
初代免疫細胞の異なる複数の遺伝子座において遺伝子改変を導入するための方法であって、
(a)該初代免疫細胞を第1のエレクトロポレーション段階に供して、少なくとも第1の配列特異的試薬を該免疫細胞に導入する段階、
(b)該初代免疫細胞を培養し、それによって該第1の配列特異的試薬が第1の遺伝子座においてそのゲノムを改変できるようにする段階、
(c)該初代免疫を少なくとも第2のエレクトロポレーション段階に供して、少なくとも第2の配列特異的試薬を該細胞に導入する段階、
(d)該初代免疫を培養しかつ増大させ、それによって該第2の配列特異的試薬が該第2の遺伝子座においてそのゲノムを改変できるようにする段階
の逐次段階を含む、方法。
(2)
前記初代免疫細胞が、段階(b)において12~72時間、好ましくは24~48時間培養される、項目1記載の方法。
(3)
少なくとも前記第1の遺伝子座において改変された遺伝子の発現または欠失によって生じた産物に依存して、精製段階が、段階(b)と(c)の間に行われる、項目1記載の方法。
(4)
段階(a)~(d)が240時間以内に、好ましくは120時間以内に、より好ましくは96時間以内に、さらにより好ましくは72時間以内に行われる、項目1~3のいずれか一項記載の方法。
(5)
前記初代免疫細胞を第3のエレクトロポレーション段階に移して、少なくとも第3の配列特異的試薬を該細胞に導入する、少なくとも1つのさらなる段階
を含む、項目1~4のいずれか一項記載の方法。
(6)
第1および/または第2の配列特異的試薬が、レアカットエンドヌクレアーゼ、そのサブユニットをコードするポリヌクレオチドもしくはポリペプチド、またはポリヌクレオチドおよびポリペプチドの両方の複合物である、項目1記載の方法。
(7)
第1および/または第2の配列特異的試薬が、プログラム可能なRNAもしくはDNAガイドエンドヌクレアーゼ、TALEN、ZFN、またはホーミングエンドヌクレアーゼより選択されるレアカットエンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドまたはポリペプチドである、項目2記載の方法。
(8)
第1および/または第2の配列特異的試薬が、RNAガイドとCas9またはCpf1ポリペプチドの複合物である、項目3記載の方法。
(9)
第1および/または第2の配列特異的試薬が、干渉RNA (RNAi) またはそれをコードするポリヌクレオチドである、項目1記載の方法。
(10)
形質導入段階が、レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターと共に(b)と(c)の間に導入される、項目1記載の方法。
(11)
形質導入段階が、導入遺伝子の安定発現のための組込みレンチウイルスまたはレトロウイルスベクターを含む、項目10記載の方法。
(12)
導入遺伝子がキメラ抗原受容体 (CAR) をコードする、項目11記載の方法。
(13)
形質導入段階が非組込みウイルスベクターを含む、項目10記載の方法。
(14)
非組込みウイルスベクターが、免疫細胞のゲノム中に前記導入遺伝子を相同組換えまたはNHEJ組込みするための鋳型として用いられる、項目13記載の方法。
(15)
第1の配列特異的試薬が、形質導入段階を促進するゲノム配列に作用する、項目10記載の方法。
(16)
第1の配列特異的試薬が、段階(d)の遺伝子改変を促進するゲノム配列に作用する、項目1~15のいずれか一項記載の方法。
(17)
段階(b)が35℃未満、好ましくは約30℃で行われる、項目1~16のいずれか一項記載の方法。
(18)
免疫細胞がT細胞である、項目1~17のいずれか一項記載の方法。
(19)
初代T細胞をシグナル伝達によって活性化する予備段階を含む、項目18記載の方法。
(20)
第1の配列特異的試薬が、初代T細胞によるTCRの発現を永続的に減少させるかまたは妨げる、項目18または19記載の方法。
(21)
第1または第2の配列特異的試薬が、免疫チェックポイントをコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を永続的に減少させるかまたは妨げる、項目1~20のいずれか一項記載の方法。
(22)
免疫チェックポイントをコードする少なくとも1つの遺伝子が、PD1、CTLA4、PPP2CA、PPP2CB、PTPN6、PTPN22、PDCD1、LAG3、HAVCR2、BTLA、CD160、TIGIT、CD96、CRTAM、LAIR1、SIGLEC7、SIGLEC9、CD244、TNFRSF10B、TNFRSF10A、CASP8、CASP10、CASP3、CASP6、CASP7、FADD、FAS、TGFBRII、TGFRBRI、SMAD2、SMAD3、SMAD4、SMAD10、SKI、SKIL、TGIF1、IL10RA、IL10RB、HMOX2、IL6R、IL6ST、EIF2AK4、CSK、PAG1、SIT1、FOXP3、PRDM1、BATF、GUCY1A2、GUCY1A3、GUCY1B2、GUCY1B3より選択される、項目21記載の方法。
(23)
第1または第2の配列特異的試薬が、薬物または免疫枯渇剤に対する前記初代免疫細胞の耐性を永続的に与える、項目1~20のいずれか一項記載の方法。
(24)
CD52、dCK、GGH、またはHPRTを発現する遺伝子を不活性化することによって、前記耐性が与えられる、項目23記載の方法。
(25)
前記第1および/または第2および/または第3の遺伝子座において改変された1つの遺伝子の発現または欠失によって生じた少なくとも1つの産物に依存して、精製の最終段階が行われる、項目1~24のいずれか一項記載の方法。
(26)
・TCR陰性かつPD1陰性、
・TCR陰性かつCD52陰性、
・TCR陰性かつCTLA4陰性、
・TCR陰性かつdCK陰性、
・TCR陰性かつGGH陰性、
・TCR陰性かつHPRT陰性、および
・TCR陰性かつβ2m陰性
より選択されるT細胞の少なくとも2つの亜集団を含む、項目1~25のいずれか一項記載の方法に従って得ることができる、単一ドナーに由来する初代TCR陰性T細胞の集団。
(27)
単一ドナーに由来する初代TCR陰性T細胞の集団であって、該集団中の細胞の少なくとも20%、好ましくは30%、より好ましくは50%が、少なくとも3つの異なる遺伝子座において、配列特異的試薬を用いて改変されている、集団。
(28)
項目26または27のいずれか一項記載の初代T細胞の集団を含む、薬学的組成物。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】操作された同種初代免疫T細胞生成するために、本発明の方法に従って遺伝子編集することにより逐次的に改変され得る遺伝子および細胞機能の例。細胞内の矢印は、T細胞に導入された配列特異的ヌクレアーゼ試薬によって不活性化され得る様々な遺伝子座を表す。
【
図2】TCR、PD1、およびDCKをコードする遺伝子などの、3つの異なる遺伝子座において変異を積み重ねていく初代免疫細胞の生成に関する、本発明による逐次遺伝子編集 対 先行技術による多重化遺伝子編集の理論的根拠。本発明の方法は最終的に、少なくとも80%の細胞が三重変異体である免疫細胞の集団をもたらす。一方、同じ試薬効率で、同時遺伝子編集では約50%の三重変異体に達する。細胞増大時に、この比率は集団内で、減少はしないにせよ、大して増加しないはずである。
【
図3】ウイルス形質導入段階が2つのエレクトロポレーション遺伝子編集段階の間に行われる、本発明による方法の1つの態様の概略図。ウイルス形質導入は好ましくは、1回目の遺伝子編集改変によって改変された細胞が精製される細胞選別段階の後に行われる。この細胞選別段階により、細胞の総数が減少し、それによってウイルス形質導入に用いられるべきウイルス粒子の数が減少する。これは、例えば、TCRを最初に不活性化し、引き続いて安定なウイルス形質導入およびCARの発現を行う場合に有利であり得る。次いでその後の遺伝子編集段階を実施して、細胞を薬物に対して耐性にすることができる。そのような状況では、薬物を含有する培地中で細胞を培養するかまたは増大させることにより、治療用途を考慮して、TCR陰性でありかつ薬物耐性である細胞の選択が可能になる。
【
図4】細胞選別段階が2つのエレクトロポレーション遺伝子編集段階の間に行われる、本発明の方法の1態様の概略図。
【
図5】細胞選別段階およびウイルス形質導入が2つのエレクトロポレーション遺伝子編集段階の間に行われる、本発明の方法の1態様の概略図。
【
図6】1回目の遺伝子改変により化合物に対して耐性とされた細胞を選択するために、選択培地中での培養段階が2つのエレクトロポレーション遺伝子編集段階の間に行われる、本発明による方法の1つの態様の概略図。この培養段階により、最終的に第2の遺伝子編集段階後に複数の遺伝子座において改変される細胞の数が増加する。このアプローチは、特に、T細胞(例えば:腫瘍浸潤リンパ球 (TIL))が患者から採取され、操作され、かつ該患者に再注入される自家処置との関連において、薬物耐性CAR陽性細胞を生成するために適用することができ、このT細胞は、より活性を有するようにさらに遺伝子編集される(PD1および/またはCTLA4などの、T細胞活性化/細胞傷害性を阻害する遺伝子座の不活性化)。
【
図7】表面抗原をコードするかまたはその発現を調節する遺伝子において第1の遺伝子編集段階が行われ、かつ表面抗原ではない産物をコードするかまたはその発現を調節する遺伝子において第2の遺伝子編集段階が行われる、本発明による方法の1つの態様の概略図。細胞分離段階が2つの遺伝子編集段階の間に行われて、第2の遺伝子編集段階への通過が許可される細胞が濃縮される。任意に、第2の遺伝子編集段階の後に、2つ目の遺伝子編集を有する細胞の増大を支持/選択するための選択培地中で培養段階が行われる。
【
図8】免疫細胞のサブタイプ、例えばCD4+細胞およびCD8+細胞に基づく細胞選別が、第1の遺伝子編集段階(例えば:TCR不活性化)の後かつ第2の遺伝子編集段階の前に行われる、1つの態様の概略図。この態様によると、例えばCD4+細胞におけるFOXP3の不活性化およびCD8+細胞におけるPD1の不活性化のように、異なる遺伝子編集をそれぞれ異なるサブタイプに対して適用することができる。別々のバッチ(例えば:CD8+およびCD4+)からの遺伝子編集細胞をそれぞれ所定の比率(例えば:1対1)で混合して、より活性のある治療組成物を生成することができる。
【
図9】同時遺伝子編集(TALEN CD52およびTCRを一緒に)後の、TCR陰性、CD52陰性、ならびにTCRおよびCD52の両方が陰性の細胞の%数を示す図表(実施例1を参照されたい)。対照はトランスフェクトしていない細胞であり、その結果を図表の左欄に示す。
【
図10】異なるエレクトロポレーション戦略:同時および本発明による逐次(2つのCD52遺伝子編集段階とTCR遺伝子編集段階の間に6、20、および40h間隔‐実施例1を参照されたい)の後に観察されたT細胞成長曲線。
【
図11】TRACおよびPD-1 TALEN(登録商標)の同時または逐次エレクトロポレーション後の、5つのオフサイト標的(OFS1、OFS2、OFS3、OFS4、およびOFS5)ならびにTRACおよびPD-1オンサイト標的に関する挿入-欠失 (Indel)の頻度。赤い星印により、本発明に従った方法によるオフサイト3 (OFS3) 標的切断の抑止を強調する(実施例2を参照されたい)。
【
図12】実施例3および表2に詳述される異なる遺伝子編集戦略に関する、融解後5日目 (D5) ~15日目 (D15)の期間に伴う、操作された細胞集団の成長を示す図表。
【
図13】実施例4において実施されたような三重KO CAR T細胞の作製に関するワークフローの概略図。
【
図14】実施例4において説明されるように、TRAC、β2m、およびPD-1 TALEN(登録商標)をコードするmRNAの表示の用量を用いて、それらを同時に (Sim.) または逐次的に (Seq.) エレクトロポレーションし、ドナーに由来する[TCR]
neg[β2M]
neg[PD1]
negの治療有効数の細胞をもたらした、2名の異なるドナーにおける三重KO有効性(TCR/B2MおよびPD1陰性細胞の%数)を示す図表。
【
図15】TALEN(登録商標)試薬がトランスフェクトされていない(WT:黒色)、または逐次的にTALEN(登録商標)がトランスフェクトされた(濃灰色)、または同時にTALEN(登録商標)がトランスフェクトされた(薄灰色)CD22 CAR-T細胞の、異なるエフェクター対標的比 (E:T) における、Raji細胞への細胞傷害活性を示す図表。
【0028】
(表1)免疫細胞阻害経路に関与する遺伝子のリスト。
(表2)実施例3に示されるような、本発明による様々な逐次遺伝子編集戦略の遺伝子編集効率(CD38、TCR、および/またはCD52陰性細胞の数に基づく遺伝子編集細胞の割合;D4、D5、およびD6は、凍結初代細胞を融解した後の日数である)。
(表3)実験で使用されたTALEN(登録商標)の配列。
(表4)T細胞の表面上に発現していることが見出された様々ながんの抗原マーカーの選択。特に、操作された免疫細胞に、まさにこれらの抗原を標的とするキメラ抗原受容体が付与される場合に、これらの抗原マーカーをコードする遺伝子の不活性化が、本発明による遺伝子編集段階の1つの1つの一部として提案される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
本明細書で特に定義されない限り、本明細書で用いられる専門用語および科学用語はすべて、遺伝子治療、生化学、遺伝学、および分子生物学の分野の当業者によって一般に理解されている意味と同じ意味を有する。
【0030】
本発明の実施または試験において、本明細書に記載される方法および材料と類似または同等の方法および材料をすべて用いることができるが、適切な方法および材料は本明細書において記載されるものである。本明細書で言及される出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献はすべて、全体として参照により組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含め、本明細書を優先する。さらに、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、他に明記されない限り、制限を意図するものではない。
【0031】
本発明の実施は、他に指示のない限り、当技術分野の技能の範囲内にある、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来技法を用いる。そのような技法は、文献において十分に説明されている。例えば、Current Protocols in Molecular Biology (Frederick M. AUSUBEL, 2000, Wiley and son Inc, Library of Congress, USA);Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, (Sambrook et al, 2001, Cold Spring Harbor, New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press);Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait ed., 1984);Mullisら、米国特許第4,683,195号;Nucleic Acid Hybridization (B. D. Harries & S. J. Higgins eds. 1984);Transcription And Translation (B. D. Hames & S. J. Higgins eds. 1984);Culture Of Animal Cells (R. I. Freshney, Alan R. Liss, Inc., 1987);Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press, 1986);B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984);Methods In ENZYMOLOGY (J. Abelson and M. Simon, eds.-in-chief, Academic Press, Inc., New York) のシリーズ、特にVol. 154および155 (Wu et al. eds.) ならびにVol. 185, "Gene Expression Technology" (D. Goeddel, ed.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (J. H. Miller and M. P. Calos eds., 1987, Cold Spring Harbor Laboratory);Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987);Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV (D. M. Weir and C. C. Blackwell, eds., 1986);ならびにManipulating the Mouse Embryo, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1986) を参照されたい。
【0032】
概略的な局面において、本発明は、細胞培養期、選別期、および/または増大期によって間隔があけられた逐次エレクトロポレーション段階を介して、初代細胞の複数の遺伝子座においてゲノム改変を行うための方法に関する。
【0033】
具体的には、これらの方法は、
(a)初代免疫細胞を第1のエレクトロポレーションに供して、少なくとも第1の配列特異的試薬を該免疫細胞に導入する段階、
(b)該初代免疫細胞を培養し、それによって該第1の配列特異的試薬が第1の遺伝子座においてそのゲノムを改変できるようにする段階、
(c)該初代免疫を少なくとも第2のエレクトロポレーションに供して、少なくとも第2の配列特異的試薬を該細胞に導入する段階、
(d)該初代免疫を培養して増大させ、それによって該第2の配列特異的試薬が該第2の遺伝子座においてそのゲノムを改変できるようにする段階
を含む。
【0034】
「初代細胞(「primary cell」または「primary cells」)とは、生存組織(例えば、生検材料)から直接採取され、限られた期間にわたるインビトロでの成長のために確立された細胞を意図し、このことは、それらが集団倍加を受け得る回数が限られていることを意味する。初代細胞は、持続的な腫瘍形成性の細胞株または人為的に不死化された細胞株とは対照的である。そのような細胞株の非限定的な例は、CHO-K1細胞;HEK293細胞;Caco2細胞;U2-OS 細胞;NIH 3T3細胞;NSO細胞;SP2細胞;CHO-S細胞;DG44細胞;K-562細胞、U-937細胞;MRC5細胞;IMR90細胞;ジャーカット細胞;HepG2細胞;HeLa細胞;HT-1080細胞;HCT-116細胞;Hu-h7細胞;Huvec細胞;Molt 4細胞である。初代細胞は、より機能的でありかつ腫瘍形成性が低いと見なされるため、細胞療法において一般に用いられている。
【0035】
一般に、初代免疫細胞は、例えばSchwartz J.ら (Guidelines on the use of therapeutic apheresis in clinical practice-evidence-based approach from the Writing Committee of the American Society for Apheresis: the sixth special issue (2013) J Clin Apher. 28(3):145-284) によって概説されている白血球アフェレーシス技法によるなど、当技術分野で公知の種々の方法を介して、ドナーまたは患者から提供される。本発明による初代免疫細胞は、臍帯血幹細胞、前駆細胞、骨髄幹細胞、造血幹細胞 (HSC) 、および人工多能性幹細胞 (iPS) などの幹細胞から分化させることもできる。
【0036】
「免疫細胞」とは、典型的にはCD3またはCD4陽性細胞などの、自然免疫応答および/または適応免疫応答の開始および/または実行に機能的に関与する造血系起源の細胞を意味する。本発明による免疫細胞は、樹状細胞、キラー樹状細胞、肥満細胞、NK細胞、B細胞、または炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、制御性Tリンパ球、もしくはヘルパーTリンパ球からなる群より選択されるT細胞であってよい。細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位に由来する組織、腹水、胸水、脾臓組織、および腫瘍(例えば腫瘍浸潤リンパ球の場合)を含む、多数の非限定的な供給源から得ることができる。いくつかの態様において、該免疫細胞は、健常ドナー、がんと診断された患者、または感染症と診断された患者に由来し得る。別の態様において、該細胞は、CD4陽性細胞、CD8陽性細胞、およびCD56陽性細胞を含むような、異なる表現型的特徴を提示する免疫細胞の混合集団の一部である。
【0037】
「エンドヌクレアーゼ試薬」とは、それ自体でまたは複合体のサブユニットとして、標的細胞においてエンドヌクレアーゼ触媒反応に寄与し、好ましくは核酸配列標的の切断をもたらす核酸分子を意味する。本発明のエンドヌクレアーゼ試薬は概して配列特異的試薬であり、このことは、それらが細胞内で、ひいては「遺伝子標的」と称される所定の遺伝子座においてDNA切断を誘導し得ることを意味する。配列特異的試薬によって認識される核酸配列は、「標的配列」と称される。該標的配列は通常、ソフトウェア、およびhttp://www.ensembl.org/index.htmlなどのヒトゲノムデータベースから入手可能なデータを用いて決定され得るように、細胞のゲノム中で、およびより広範にはヒトゲノム中で、稀であるかまたはユニークであるように選択される。
【0038】
「レアカットエンドヌクレアーゼ」は、それらの認識配列が一般に10~50の連続塩基対、好ましくは12~30 bp、およびより好ましくは14~20 bpである限りにおいて、最適な配列特異的エンドヌクレアーゼ試薬である。
【0039】
本発明の好ましい局面によると、エンドヌクレアーゼ試薬は細胞中で一過性に発現され、このことは、RNA、より具体的にはmRNA、タンパク質、またはタンパク質と核酸を混合した複合体(例えば:リボ核タンパク質)の場合のように、該試薬がゲノム中に組み込まれないか、または長期間にわたって持続しないはずであることを意味する。概して、80%のエンドヌクレアーゼ試薬は、トランスフェクション後30時間までに、好ましくは24時間までに、より好ましくは20時間までに分解される。
【0040】
本発明の好ましい局面によると、前記エンドヌクレアーゼ試薬は、例えばArnould S.ら (WO2004067736) によって記載されるホーミングエンドヌクレアーゼ、例えばUrnov F.ら (Highly efficient endogenous human gene correction using designed zinc-finger nucleases (2005) Nature 435:646-651) によって記載されるジンクフィンガーヌクレアーゼ (ZFN)、例えばMussolinoら (A novel TALE nuclease scaffold enables high genome editing activity in combination with low toxicity (2011) Nucl. Acids Res. 39(21):9283-9293) によって記載されるTALE-ヌクレアーゼ、または例えばBoisselら (MegaTALs: a rare-cleaving nuclease architecture for therapeutic genome engineering (2013) Nucleic Acids Research 42 (4):2591-2601) によって記載されるMegaTALヌクレアーゼなどの、「操作された」または「プログラム可能な」レアカットエンドヌクレアーゼをコードする核酸である。
【0041】
本発明によると、エンドヌクレアーゼ試薬は、標的細胞中での該試薬の一過性エンドヌクレアーゼ活性が可能となり、カプセル全体がインビボで生分解性となるように、好ましくはRNA型である。さらにより好ましくは、エンドヌクレアーゼ試薬は、レアカットエンドヌクレアーゼを細胞中で発現させるためのmRNAの形態である。mRNA型のエンドヌクレアーゼは、好ましくは、例えばKore A.L.ら. (Locked nucleic acid (LNA)-modified dinucleotide mRNA cap analogue: synthesis, enzymatic incorporation, and utilization (2009) J Am Chem Soc. 131(18):6364-5) によって記載されるように、当技術分野で周知の技法に従って、その安定性を強化するためにキャップを伴って合成される。
【0042】
TALE-ヌクレアーゼは、例えばMussolinoら (TALEN(登録商標)facilitate targeted genome editing in human cells with high specificity and low cytotoxicity (2014) Nucl. Acids Res. 42(10): 6762-6773) によって報告されているように、特にヘテロ二量体型で、すなわち「右側」単量体(「5'」または「フォワード」とも称される)および「左側」単量体(「3'」または「リバース」とも称される)による対で働いて、その特異性が高いために、治療適用に特に適していることが証明されている。
【0043】
別の態様によると、エンドヌクレアーゼ試薬は、とりわけ、参照により本明細書に組み入れられるDoudna, J.およびChapentier, E. (The new frontier of genome engineering with CRISPR-Cas9 (2014) Science 346 (6213):1077) による教示のように、Cas9またはCpf1などのRNAガイドエンドヌクレアーゼと組み合わせて用いられるRNAガイドである。
【0044】
しかしながら、操作されたレアカットエンドヌクレアーゼは、配列特異的なユニークな試薬であるため、特にいくつかの遺伝子座が同一細胞内で切断される必要がある場合に、場合によっては、それらがいくらかの染色体再編成を促進または誘導し得るということは排除され得ない。
【0045】
再編成は、例えば、複数の切断部位が同一染色体上で同時に切断される場合、または当初は共に働くように設計されていないヘテロ二量体の予期せぬ組み合わせから偽切断部位が出現した場合に、より起こりやすい。
【0046】
本発明者らは、より具体的には、上記のエンドヌクレアーゼ試薬のいずれかで処理した場合の、操作された細胞の収率を減少させることなく、このリスクを低下させようと(すなわち、高い遺伝子KO効力および高い細胞生存率を維持しようと)努めた。
【0047】
治療等級の操作された初代免疫細胞のバッチを生成するための逐次段階
したがって本発明は、望ましくないゲノムの欠失または転座を妨げながら、哺乳動物細胞において遺伝子編集を積み重ねることを可能にする方法を提供する。
【0048】
「遺伝子編集」とは、本明細書の全体を通して、少なくともポリヌクレオチド鎖内のホスホジエステル結合を切断する酵素を用いることにより、ゲノム配列が、選択された遺伝子座における挿入、欠失、または置換によって改変される任意の方法を意味する。
【0049】
本発明の方法は、具体的には外因性遺伝子配列の一過性発現のための、ナノ粒子を用いるウイルス形質導入またはトランスフェクションなどの、遺伝子形質転換の物理的手段を伴う他の方法と関連させることができる。
【0050】
本発明は、トランスフェクション段階(好ましくはエレクトロポレーションによる)と培養段階を交互に行うことによって、ヒト免疫細胞、具体的には活性化T細胞に適用することができる。そのようなサイクルの例を、例として以下に示す:
・(TNx → h → TNx) × n
・(TNx/TNx → h → TNx) × n
・(TNx → h → TNx/TNx) × n
・(TNx/TNx → h → TNx/TNx) × n
この場合、TNxは特異的エンドヌクレアーゼ試薬Nのトランスフェクション (T) であり (x≧1)、
hは時間表示による時間間隔であり、および (h≧1)、
nはその後のトランフェクションの回数である (n≧1)。
【0051】
上記のサイクルは、逐次的に使用されるべき異なるエンドヌクレアーゼ試薬の数に応じて、互いに組み合わせてもよい。
【0052】
好ましくは、各遺伝子編集段階は、1度に1つの遺伝子座を標的とする。
【0053】
その一方で、配列特異的エンドヌクレアーゼ試薬の使用は、レトロウイルス形質導入などの、配列特異的エンドヌクレアーゼ試薬を伴わない他の種類の細胞形質転換と組み合わせることができる。これは、例えば、キメラ抗原受容体 (CAR) または組換えTCRなどの組換え受容体を発現する初代免疫細胞の生成のために、特に興味深い。そのようなキメラ抗原受容体は概して、ウイルスベクター、具体的にはレンチウイルスベクターによって細胞に導入される外因性配列によってコードされる。したがって、
図3、5、6、および7に図示されるように、本発明の逐次遺伝子編集段階とウイルス形質導入段階を組み合わせることが有利である。
【0054】
逐次遺伝子編集段階と形質導入段階の組み合わせの例を以下に示す:
・形質導入 → h →(TNx → h →TNx) × n;
・形質導入 → h →(TNx/TNx → h → TNx) × n;
・形質導入 → h →(TNx → h → TNx/TNx) × n;
・形質導入 → h →(TNx/TNx → h → TNx/TNx) × n;
・(TNx → h → TNx) × n → h → 形質導入)× n;
・(TNx/TNx → h → TNx) × n → h → 形質導入)× n;
・(TNx → h → TNx/TNx) × n → h → 形質導入;
・(TNx/TNx → h → TNx/TNx) × n → h → 形質導入;
・(TNx → h → 形質導入 → h → TNx)× n;
・(TNx/TNx → h → 形質導入 → h → TNx)× n;
・(TNx → h → 形質導入 → h → TNx/TNx)× n;
・(TNx/TNx → h → 形質導入 → h → TNx/TNx)× n。
【0055】
例えば、ベクターが鋳型DNAを初代細胞に導入して、それがその後の遺伝子編集段階中にある遺伝子座に組み込まれる場合には、形質導入段階を遺伝子編集段階の前に行ってもよい。次いで、該遺伝子座における該外因性DNAの組込みを促進するために、配列特異的エンドヌクレアーゼ試薬を細胞に導入する。1つの好ましい局面は、第1の遺伝子編集段階、次の、所定の遺伝子座において組み込まれるべき外因性配列を含むAAVベクターを伴う形質導入段階、その後の、AAVベクター中に含まれる外因性DNAが該所定の遺伝子座において組み込まれる第2の遺伝子編集段階を含む、本発明の方法である。
【0056】
本発明の1つの局面によると、逐次遺伝子編集方法では、単一の遺伝子編集段階 (TNx) と多重化遺伝子編集段階 (TNx/ TNx) を組み合わせてもよい。多重化遺伝子編集段階の間には、異なるエンドヌクレアーゼ試薬が、異なる/複数の遺伝子座において共に使用され得る。エンドヌクレアーゼは、異なる種類の切断特性を有する:それらのうちのいくつかは、CRISPRのように「平滑末端」を生じることができ、ジンクフィンガーヌクレアーゼもしくはTALE-ヌクレアーゼのように5'「付着末端」を生じることができ、またはホーミングエンドヌクレアーゼを用いることにより3'「付着末端」を生じることができる。求められる切断の種類に基づいて、エンドヌクレアーゼ試薬を組み合わせることができる。例えば、付着末端は、例えば平滑末端よりも外因性DNAの組込みに適している。本発明の1つの好ましい局面は、異なる遺伝子編集遺伝子座において/またはそれらの間で起こる欠失または転座を減少させるために、異なる種類の切断特性を生じるエンドヌクレアーゼ試薬を併用することである。
【0057】
本発明の好ましい態様によると、初代免疫細胞は、10時間超、好ましくは12~72時間、およびより好ましくは12~48時間である、上記の時間間隔 (h) にわたって培養される。
【0058】
本発明の特定の態様によると、
図4、7、および13にも図示されるように、精製段階を概略的段階(b)と(c)の間に行うことができる。
【0059】
この精製段階は、純度の目的で、当技術分野で公知の任意の標準的な方法によって行うことができる。この場合、精製段階は、段階(a)で実現される遺伝子編集を受けた細胞の選択に役立ち得る。したがって精製は、前記第1の遺伝子座における遺伝子配列の改変もしくは挿入によって生じた産物などの、第1の遺伝子編集反応によって生じた産物、またはそのような遺伝子配列の欠失の場合には遺伝子産物の非存在に依存し得る。好ましい態様において、第1の遺伝子編集段階は受容体または膜タンパク質の発現に役立ち得、これによって免疫細胞は第2の遺伝子編集段階をより受けやすくなる。ウイルス形質転換に関与する遺伝子が、第2の遺伝子編集の前に改変される場合、細胞はまたウイルスベクター形質導入をより受けやすくなり得る。
【0060】
第1の遺伝子編集段階の一部として標的とされ得る遺伝子は、その改変が、ウイルス形質導入、または第2の遺伝子編集段階または任意のその後の形質導入もしくはトランスフェクション段階の認識を促進する遺伝子であってよい。そのような遺伝子は、例えば、TRIM5a (Uniprot Q9C035)、APOBECタンパク質ファミリー(アポリポタンパク質B mRNA編集酵素)、およびSAMHD1 (Uniprot Q9Y3Z3) などの細胞制限因子をコードする遺伝子であってよい。「細胞制限因子」とは、ウイルス感染性の顕著な低下を直接かつ優位に引き起こす分子を意味する。例えばTRIM5aは、免疫細胞中へのHIVなどのレンチウイルスの侵入を媒介/阻害することが公知である (Stremlau M, et al. "Specific recognition and accelerated uncoating of retroviral capsids by the TRIM5alpha restriction factor" (2006) PNAS 103(14): 5514-9)。本発明の遺伝子編集段階の1つの一部としてのTRIM5a、SAMHD1、またはAPOBECファミリーのタンパク質の不活性化は、その後の形質導入段階中の、ウイルスベクターに対する初代細胞の感染性を増大させ得る。
【0061】
好ましい態様によると、本発明は、概略的方法の段階(a)~(d)が240時間以内に、好ましくは120時間以内に、より好ましくは96時間以内に、さらにより好ましくは72時間以内に行われることを提供する。この限定された期間により、初代免疫細胞のより良い回収率が可能となり、かつそれらの疲弊が限定される。疲弊の限定は、Wherry, J.A. (T cell exhaustion (2011) Nature Immunology 12:492-499) によって概説されるような特異的疲弊マーカーを用いることにより、当業者によってその過程中の異なる段階において制御され得る。
【0062】
本発明の好ましい態様によると、先に記載された概略的方法における段階(a)および(c)などのトランスフェクション段階T、ならびに任意のさらなる段階TN(Nは遺伝子編集段階の回数である)は、好ましくはエレクトロポレーションによって行われる。
【0063】
驚くべきことに、連続的エレクトロポレーション段階は、1回のショットで様々なエンドヌクレアーゼ試薬がトランスフェクトされる多重遺伝子編集を行う任意の他の方法よりも、初代細胞に対して破壊性が低く、かつ/または遺伝毒性が低いことが判明した。
【0064】
本発明による方法は、初代免疫細胞を第3のエレクトロポレーションに移して、少なくとも第3の配列特異的試薬を該細胞に導入する、少なくとも1つのさらなる段階を含み得る。
【0065】
そのようなエレクトロポレーション段階は典型的に、参照により組み入れられるWO/2004/083379の特に23ページ25行目~29ページ11行目に記載されているように、平行板電極間に、処理容積全体にわたって実質的に均一である100ボルト/cm超かつ5,000ボルト/cm未満のパルス電場を生じる平行板電極を含む密閉チャンバー内で行われる。1つのそのようなエレクトロポレーションチャンバーは好ましくは、電極ギャップの2乗 (cm2) をチャンバー容積 (cm3) で除した商によって定義される形態係数 (cm-1) を有し、この形態係数は0.1 cm-1以下であり、細胞および配列特異的試薬の懸濁液は、0.01~1.0ミリジーメンスにわたる範囲内の伝導率を有するように調節された培地中に存在する。概して細胞の懸濁液は、1つまたは複数のパルス電場を受ける。本方法では、懸濁液の処理容積は拡大縮小可能であり、チャンバー内の細胞の処理時間は実質的に均一である。
【0066】
本発明の好ましい態様によると、配列特異的試薬は、核酸の形態、より好ましくはDNAまたRNA型である。そのような形態において、核酸は、ポリペプチド、典型的にはレアカットエンドヌクレアーゼ、そのサブユニット、またはポリヌクレオチドおよびポリペプチド両方の複合物のいずれかをコードし得る。試薬はまた、それぞれZetsche, B.ら (Cpf1 Is a Single RNA-Guided Endonuclease of a Class 2 CRISPR-Cas System (2015) Cell 163(3): 759-771) およびGao F.ら (DNA-guided genome editing using the Natronobacterium gregoryi Argonaute (2016) Nature Biotech) によって最近記載されたCas9もしくはCpf1(RNAガイドエンドヌクレアーゼ)またはArgonaute(DNAガイドエンドヌクレアーゼ)などのガイドエンドヌクレアーゼを方向づけるRNAまだはDNAガイドの形態であってもよい。最も好ましい態様によると、配列特異的試薬は、mRNA型であり、プログラム可能なRNAもしくはDNAガイドエンドヌクレアーゼ、TALE-ヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ (ZFN)、megaTAL、またはホーミングエンドヌクレアーゼより選択されるレアカットエンドヌクレアーゼをコードする。
【0067】
本発明の別の局面によると、前記第1および/または第2の配列特異的試薬は、干渉RNA (RNAi) またはそれをコードするポリヌクレオチドである。
【0068】
先に言及されたように、形質導入段階、特に導入遺伝子の安定発現のための組込みレンチウイルスまたはレトロウイルスベクターは、概略的方法の段階(b)と(c)の間に導入することができる。これは、本発明のように改変された初代免疫細胞の表面においてキメラ抗原受容体 (CAR) を発現させるのに特に適合している。同種初代細胞においてCARを発現させるためのそのような方法は、例えばWO2013176915に記載されている。同様にWO2015028683において本出願者により記載されているように、非組込みウイルスベクターを使用することもできる。非組込みウイルスベクターは、とりわけ、本発明による第2の遺伝子編集段階の一部として、免疫細胞のゲノム中に導入遺伝子を相同組換えまたはNHEJ組込みするための鋳型またはドナーDNAとして使用することができる。
【0069】
本方法の段階は概して、哺乳動物細胞の生理的温度(ヒト細胞の場合には37℃)で行われるが、本方法のある特定の段階は、30~37℃、またはさらにより低い25~35℃という非生理的温度で、30分~12時間、好ましくは1~10時間、より好ましくは1~5時間、およびさらにより好ましくは30分~2時間という限られた期間行われ得る。例えば、エレクトロポレーション段階をより低い温度、例えば約30℃などの約35℃未満で行うことは、トランスフェクション効率に好都合であることが認められている。
【0070】
本明細書においてさらに説明されるように、本方法は具体的には、細胞療法におけるその後の使用のために、特に遺伝子編集によって複数の遺伝子座において遺伝子改変された免疫細胞、好ましくは初代免疫細胞を生成することを目的とする。
【0071】
そのような免疫細胞には概して、悪性細胞または感染細胞に対するより高い特異性をそれらに与える、CARまたは組換えTCRなどの組換え受容体が付与される。これらの組換え受容体は概して、先に言及された形質導入段階の1つにより、ウイルスベクターを用いて細胞中に導入される外因性ポリヌクレオチドによってコードされる。
【0072】
これらの細胞によって発現されるCARは、悪性細胞または感染細胞の表面における抗原マーカーを特異的に標的とし、これはさらに、Sadelain M.ら [“The basic principles of chimeric antigen receptor design” (2013) Cancer Discov. 3(4):388-98] によって概説されるように、該免疫細胞がインビボでこれらの細胞を破壊するのに役立つ。
【0073】
概して、CARポリペプチドは、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、ならびに共刺激ドメインおよび/または一次シグナル伝達ドメインを含む細胞内ドメインを含み、該抗原結合ドメインは、疾患と関連した腫瘍抗原に結合する。
【0074】
本方法を実行するために使用することができ、以下より選択されるものと同様に多様な腫瘍抗原と結合し得る多くのCARが、当技術分野において記載されている:CD19分子 (CD19);膜貫通4ドメインA1(MS4A1、CD20としても公知);CD22 分子 (CD22);CD24分子 (CD24);CD248分子 (CD248);CD276分子(CD276、またはB7H3);CD33分子 (CD33);CD38分子 (CD38);CD44v6;CD70分子 (CD70);CD72;CD79a;CD79b;インターロイキン3受容体サブユニットα(IL3RA、CD123としても公知);TNF受容体スーパーファミリーメンバー8(TNFRSF8、CD30しても公知);KITがん原遺伝子受容体チロシンキナーゼ (CD117);VセットプレB細胞代替軽鎖1(VPREB1、またはCD179a);接着Gタンパク質共役受容体E5(ADGRE5、またはCD97);TNF受容体スーパーファミリーメンバー17(TNFRSF17、BCMAとしても公知);SLAMファミリーメンバー7(SLAMF7、CS1としても公知);L1細胞接着分子 (L1CAM);C型レクチンドメインファミリー12メンバーA(CLEC12A、CLL-1としても公知);上皮増殖因子受容体の腫瘍特異的変種 (EGFRvIII);甲状腺刺激ホルモン受容体 (TSHR);Fms関連チロシンキナーゼ3 (FLT3);ガングリオシドGD3 (GD3);Tn抗原 (Tn Ag);リンパ球抗原6ファミリーメンバーG6D (LY6G6D);デルタ様カノニカルNotchリガンド3 (DLL3);インターロイキン13受容体サブユニットα2 (IL-13RA2);インターロイキン11受容体サブユニットα (IL11RA);メソテリン (MSLN);受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1 (ROR1);前立腺幹細胞抗原 (PSCA);erb-b2受容体チロシンキナーゼ2(ERBB2、またはHer2/neu);プロテアーゼセリン21 (PRSS21);キナーゼ挿入ドメイン受容体(KDR、VEGFR2としても公知);ルイスy抗原(ルイスY);溶質輸送体ファミリー39メンバー6 (SLC39A6);線維芽細胞活性化タンパク質α (FAP);Hsp70ファミリーシャペロン (HSP70);血小板由来増殖因子受容体β (PDGFR-β);コリン作動性受容体ニコチン性α2サブユニット (CHRNA2);ステージ特異的胎児抗原4 (SSEA-4);ムチン1、細胞表面結合性 (MUC1);ムチン16、細胞表面結合性 (MUC16);クローディン18 (CLDN18);クローディン6 (CLDN6);上皮増殖因子受容体 (EGFR);メラノーマ優先発現抗原 (PRAME);神経細胞接着分子 (NCAM);ADAMメタロペプチダーゼドメイン10(ADAM10);葉酸受容体1 (FOLR1);葉酸受容体β (FOLR2);炭酸脱水酵素IX (CA9);プロテアソームサブユニットβ9(PSMB9、またはLMP2);エフリン受容体A2 (EphA2);テトラスパニン10 (TSPAN10);フコシルGM1 (Fuc-GM1);シアリルルイス接着分子 (sLe);TGS5;高分子量メラノーマ関連抗原 (HMWMAA);o-アセチル-GD2-ガングリオシド (OAcGD2);腫瘍内皮マーカー7関連 (TEM7R);Gタンパク質共役受容体クラスC群5、メンバーD (GPRC5D);染色体Xオープンリーディングフレーム61 (CXORF61);;;ALK受容体チロシンキナーゼ (ALK);ポリシアル酸;胎盤特異的1 (PLAC1);globoHグリコセラミドの六糖部分 (GloboH);NY-BR-1抗原;ウロプラキン2 (UPK2);A型肝炎ウイルス細胞受容体1 (HAVCR1);アドレナリン受容体β3 (ADRB3);パンネキシン3 (PANX3);Gタンパク質共役受容体20 (GPR20);リンパ球抗原6ファミリーメンバーK (LY6K);嗅覚受容体ファミリー51サブファミリーEメンバー2 (OR51E2);TCRγ代替リーディングフレームタンパク質 (TARP);ウィルムス腫瘍タンパク質 (WT1);12;21染色体転座によるETV6-AML1融合タンパク質 (ETV6-AML1);精子自己抗原タンパク質17 (SPA17);X抗原ファミリー、メンバー1E (XAGE1E);TEK受容体チロシンキナーゼ (Tie2);メラノーマがん精巣抗原1 (MAD-CT-1);メラノーマがん精巣抗原2 (MAD-CT-2);Fos関連抗原1;p53変異体;ヒトテロメラーゼ逆転写酵素 (hTERT);肉腫転座切断点;アポトーシスのメラノーマ阻害因子 (ML-IAP);ERG(膜貫通プロテアーゼ、セリン2 (TMPRSS2) ETS融合遺伝子);N-アセチルグルコサミニル-トランスフェラーゼV (NA17);ペアードボックスタンパク質Pax-3 (PAX3);アンドロゲン受容体;サイクリンB 1;v-mycトリ骨髄球腫症ウイルスがん遺伝子神経芽腫由来ホモログ (MYCN);RasホモログファミリーメンバーC (RhoC);チトクロムP450 1B 1 (CYP1B 1);CCCTC結合因子(ジンクフィンガータンパク質)様 (BORIS);T細胞により認識される扁平上皮がん抗原3 (SART3);ペアードボックスタンパク質Pax-5 (PAX5);プロアクロシン結合タンパク質sp32 (OY-TES 1);リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ (LCK);Aキナーゼアンカータンパク質4 (AKAP-4);滑膜肉腫、X切断点2 (SSX2);白血球関連免疫グロブリン様受容体1 (LAIR1);IgA受容体のFc断片 (FCAR);白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーAメンバー2 (LILRA2);CD300分子様ファミリーメンバーf (CD300LF);;骨髄間質細胞抗原2 (BST2);EGF様モジュール含有ムチン様ホルモン受容体様2 (EMR2);リンパ球抗原75 (LY75);グリピカン3 (GPC3);Fc受容体様5 (FCRL5);および免疫グロブリンλ様ポリペプチド1 (IGLL1)。
【0075】
本発明によるより好ましいCARは、実施例に記載されているものであり、より好ましくは、CD19、CD22、CD33、5T4、ROR1、CD38、CD52、CD123、CS1、BCMA、Flt3、CD70、EGFRvIII、WT1、HSP-70、およびCCL1より選択される1つの抗原に対する細胞外結合ドメインを含む。CD22、CD38、5T4、CD123、CS1、HSP-70、およびCCL1に対するCARが、さらにより好ましい。そのようなCARは、好ましくはWO2016120216に記載されているような1つの構造を有する。
【0076】
免疫細胞はまた、組換えT細胞受容体を発現し得る。T細胞は、TCRの対形成されたα鎖およびβ鎖を介して、標的細胞上のMHC-ペプチド複合物を認識する。この対形成が、免疫細胞の抗原特異性を与える。1つの遺伝子治療アプローチは、最適な抗原に特異的であることが公知であるTCR遺伝子の分子クローニングを伴っている。次いでこれらの鎖は、通常CARの場合と同様の方法でレトロウイルスベクターによって、T細胞に導入される。その結果として、クローニングされたTCRα遺伝子およびTCRβ遺伝子の発現により、これらの新たな遺伝子の対形成によって決定される機能的特異性が、形質導入された免疫細胞に付与される。TCRは、MHC上に提示されたプロセシングされたペプチドを認識するため、標的となる抗原は、細胞内タンパク質を含む、腫瘍細胞の全タンパク質組成物に由来し得るが、CARは概して、標的細胞の表面上に発現される分子を認識するように設計される。この品質によって、TCRが、ウイルス感染細胞、ならびに肝炎関連肝細胞がん、パピローマウイルス関連子宮頸がん、およびエプスタイン・バーウイルス関連悪性腫瘍などのウイルス感染に関連した腫瘍の、多数の非表面抗原を標的とすることも可能になる (Spear, T. et al. (2016). Strategies to genetically engineer T cells for cancer immunotherapy. Cancer Immunology Immunotherapy: 65(6):631-649)。
【0077】
本発明において使用されるべき好ましい組換えTCRは、MART-1、MAGE-1、MAGE-2、MAGE-3 MAGE-12、BAGE、GAGE、NY-ESO-1のように、がん細胞に特異的であるか、またはa-フェトプロテイン、テロメラーゼ触媒タンパク質、G-250、MUC-1、がん胎児抗原 (CEA)、p53、Her-2/Neu、およびWT1のように、がん細胞において過剰発現される抗原に対するものである [Rosenberg S.A., (2001) Progress in human tumour immunology and immunotherapy Nature. 411(6835):380-4]。
【0078】
組換え受容体をコードする外因性ポリヌクレオチド配列は概して、形質導入段階によって導入され、これは、レンチウイルスベクターなどのウイルスベクターを用いることにより、例えば
図4、7、および13において示されるように本発明の過程において行われ得る。
【0079】
あるいは、または遺伝子編集段階の一部として、NHEJまたは相同組換えにより、望ましい遺伝子座において、組換え受容体をコードする前記ポリヌクレオチド配列を遺伝子標的化挿入するためのDNA鋳型として、AAVベクターを使用することもできる。
【0080】
挿入遺伝子座は、以前に記載されたようなTCRの成分またはβ2mをコードする遺伝子などの、この遺伝子座に存在する内因性遺伝子を破壊するように選択され得る。
【0081】
同様に前記外因性ポリヌクレオチド配列は、本発明の編集段階の一部として、好ましくはTCR、HLA、β2m、HLA、PD1、またはCTLA4をコードする遺伝子座において組み込まれ得る。
【0082】
具体的には、本発明者らは、AAV6ファミリー由来のAAVベクターを用いることにより、ヒト細胞への遺伝子標的化挿入の比率を顕著に改善した。
【0083】
好ましい態様によると、本発明の方法はしたがって、
・前記外因性核酸配列、および標的となる内因性DNA配列と相同的な配列を含むAAVベクターを前記細胞に形質導入する段階、ならびに任意に、
・配列特異的エンドヌクレアーゼ試薬の発現を誘導して、挿入の遺伝子座において該内因性配列を切断する段階
からなる段階を含み得る。
【0084】
次いで、得られた外因性核酸配列の挿入によって、より好ましくはその遺伝子座において内因性遺伝子配列に関して「インフレーム」である、遺伝物質の導入、内因性配列の補正または置換が生じ得る。
【0085】
・免疫細胞の同種反応性および/または生着:
本発明による方法は、同種治療用途のための初代免疫細胞を調製するのに特に適合している。「同種治療用途」とは、細胞が、異なるハプロタイプを有する患者に注入されることを考慮して、ドナーに由来することを意味する。実際に、本発明は、宿主-移植片の相互作用および認識に関与する様々な遺伝子座位において遺伝子編集され得る初代細胞を得るための効率的な方法を提供する。他の遺伝子座もまた、操作された初代細胞の活性、生存、または寿命を改善することを考慮して編集され得る。そのような操作された免疫細胞は、好ましくは初代T細胞である。
【0086】
図1は、操作された免疫細胞の効率を改善するために、本発明による遺伝子編集によって改変され得る主な細胞機能を描いたものである。各機能の下に列挙された任意の遺伝子不活性化は、免疫細胞の全体的な治療能に及ぼす相乗効果を得るために、互いに組み合わせることができる。
【0087】
本方法は、免疫療法用の操作された非同種反応性T細胞を開発するのに特に有用であり、より具体的には、好ましくは特異的なレアカットエンドヌクレアーゼを用いて、自己/非自己認識に関わる遺伝子を、好ましくは永続的に不活性化する少なくとも1つの段階を進めることにより、同種免疫細胞の持続および/または生着を増加させるための方法に有用である。
【0088】
本発明の好ましい局面によると、遺伝子編集段階の1つは、レシピエント患者に同種細胞が導入された際の宿主対移植片病 (GVHD) 反応また免疫拒絶反応を低下させることを目的とする。例えば、本方法で用いられる配列特異的試薬の1つは、TCRαまたはTCRβをコードする遺伝子などの、初代T細胞におけるTCRの発現を減少させ得るかまたは妨げ得る。
【0089】
別の好ましい局面として、1つの遺伝子編集段階は、β2mタンパク質、および/またはC2TA (Uniprot P33076) などの、その調節に関与するか、もしくはHLAタンパク質などの、MHC認識に関与する別のタンパク質の発現を減少させるかまたは妨げるためのものである。これにより、操作された免疫細胞は、患者に注入された場合に同種反応性がより低くなり得る。
【0090】
T細胞またはその前駆細胞への、本発明の逐次遺伝子編集方法の一部としてのTCRおよびβ2mの両方の遺伝子編集が最も好ましく、その方法は、より好ましくはTCRαまたはTCRβ遺伝子座において、先に言及されたCARまたは組換えTCRなどの組換え受容体をコードする外因性ポリヌクレオチドを導入する段階を含み得る。
【0091】
・チェックポイント受容体および免疫細胞阻害経路の阻害:
本発明の好ましい局面によると、遺伝子編集段階の1つは、免疫細胞阻害経路に関するタンパク質、具体的には文献中で「免疫チェックポイント」と称されるものの発現を中断させることを目的とする (Pardoll, D.M. (2012) The blockade of immune checkpoints in cancer immunotherapy, Nature Reviews Cancer, 12:252-264)。本発明の意味において、「免疫細胞阻害経路」とは、悪性細胞または感染細胞に対するリンパ球の細胞傷害活性の減少をもたらす、免疫細胞における任意の遺伝子発現を意味する。これは、例えば、T細胞に対するTregの活性(T細胞活性を緩和する)を駆動することが公知であるFOXP3の発現に関与する遺伝子であってよい。
【0092】
「免疫チェックポイント」は、免疫細胞の活性化のシグナルを強めるか(共刺激分子)または弱めるかのいずれかの、免疫系における分子である、本発明によると、免疫チェックポイントはより具体的には、T細胞と、抗原に対するT細胞応答(T細胞受容体 (TCR) によって認識されるペプチド-主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) 分子複合体によって媒介される)を調節する抗原提示細胞 (APC) との間のリガンド-受容体相互作用に関与する表面タンパク質を呼ぶ。これらの相互作用は、リンパ節における(この場合、主要なAPCは樹状細胞である)、または末梢組織もしくは腫瘍における(この場合、エフェクター応答が調節される)、T細胞応答の開始時に起こり得る。共刺激受容体および抑制性受容体の両方と結合する膜結合型リガンドの1つの重要なファミリーは、B7ファミリーである。B7ファミリーメンバーおよびそれらの公知のリガンドのすべてが、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する。より最近同定されたB7ファミリーメンバーに対する受容体の多くは、未だに同定されていない。同族の腫瘍壊死因子 (TNF) 受容体ファミリー分子に結合するTNFファミリーメンバーは、調節性リガンド-受容体対の第2のファミリーである。これらの受容体は主に、同族リガンドによって結合された場合に、共刺激シグナルを送達する。T細胞の活性化を調節するシグナルの別の主要なカテゴリーは、微小環境中の可溶性サイトカインに由来する。その他の場合には、活性化T細胞が、APC上の同族受容体と結合する、CD40Lなどのリガンドを上方制御する。A2aR、アデノシンA2a受容体;B7RP1、B7関連タンパク質1;BTLA、BおよびTリンパ球アテニュエーター; GAL9、ガレクチン9;HVEM、ヘルペスウイルス侵入メディエーター;ICOS、誘導性T細胞共刺激分子;IL、インターロイキン;KIR、キラー細胞免疫グロブリン様受容体;LAG3、リンパ球活性化遺伝子3;PD1、プログラム細胞死1タンパク質1;PDL、PD1リガンド;TGFβ、トランスフォーミング増殖因子β;TIM3、T細胞膜タンパク質3。
【0093】
本発明による操作された免疫細胞における活性を強めるために、その発現が減少または抑制され得るさらなる遺伝子の例は、表1に列挙される。
【0094】
例えば、本方法において用いられる配列特異的試薬の1つは、PD1 (Uniprot Q15116)、CTLA4 (Uniprot P16410)、PPP2CA (Uniprot P67775)、PPP2CB (Uniprot P62714)、PTPN6 (Uniprot P29350)、PTPN22 (Uniprot Q9Y2R2)、LAG3 (Uniprot P18627)、HAVCR2 (Uniprot Q8TDQ0)、BTLA (Uniprot Q7Z6A9)、CD160 (Uniprot O95971)、TIGIT (Uniprot Q495A1)、CD96 (Uniprot P40200)、CRTAM (Uniprot O95727)、LAIR1 (Uniprot Q6GTX8)、SIGLEC7 (Uniprot Q9Y286)、SIGLEC9 (Uniprot Q9Y336)、CD244 (Uniprot Q9BZW8)、TNFRSF10B (Uniprot O14763)、TNFRSF10A (Uniprot O00220)、CASP8 (Uniprot Q14790)、CASP10 (Uniprot Q92851)、CASP3 (Uniprot P42574)、CASP6 (Uniprot P55212)、CASP7 (Uniprot P55210)、FADD (Uniprot Q13158)、FAS (Uniprot P25445)、TGFBRII (Uniprot P37173)、TGFRBRI (Uniprot Q15582)、SMAD2 (Uniprot Q15796)、SMAD3 (Uniprot P84022)、SMAD4 (Uniprot Q13485)、SMAD10 (Uniprot B7ZSB5)、SKI (Uniprot P12755)、SKIL (Uniprot P12757)、TGIF1 (Uniprot Q15583)、IL10RA (Uniprot Q13651)、IL10RB (Uniprot Q08334)、HMOX2 (Uniprot P30519)、IL6R (Uniprot P08887)、IL6ST (Uniprot P40189)、EIF2AK4 (Uniprot Q9P2K8)、CSK (Uniprot P41240)、PAG1 (Uniprot Q9NWQ8)、SIT1 (Uniprot Q9Y3P8)、FOXP3 (Uniprot Q9BZS1)、PRDM1 (Uniprot Q60636)、BATF (Uniprot Q16520)、GUCY1A2 (Uniprot P33402)、GUCY1A3 (Uniprot Q02108)、GUCY1B2 (Uniprot Q8BXH3)、およびGUCY1B3 (Uniprot Q02153) より選択される少なくとも1つのタンパク質の、免疫細胞による発現を減少させ得るかまたは妨げ得る。上記のタンパク質をコードする遺伝子中に導入された遺伝子編集は好ましくは、CAR T細胞においてTCRの不活性化と組み合わせられる。
【0095】
TCRと組み合わせた、PD1およびCTLA4の不活性化が優先される。
【0096】
本発明による操作された細胞の効率を改善するために、配列特異的エンドヌクレアーゼ試薬を用いる本方法の段階の後に、該操作された免疫細胞を、PD-L1リガンドおよび/またはCTLA-4 Igなどの、少なくとも1つの非内因性免疫抑制ポリペプチドと接触させる段階を行うことができる。
【0097】
【0098】
好ましくはこれらのタンパク質の発現を阻害するかまたは不活性化することによる、少なくとも
・TCR、PD1、およびLAG3;
・TCR、PD1、およびFOXP3;
・TCR、CTLA4、およびLAG3;
・TCR、CTLA4、およびFOXP3
をコードする遺伝子への遺伝子編集を組み合わせた免疫細胞の生成、
ならびにさらにより好ましくは、少なくとも
・TCR、β2m、およびPD1
・TCR、β2m、およびCTLA4
・TCR、β2m、およびLAG3
・TCR、β2m、およびFOXP3
をコードする遺伝子への遺伝子編集段階を組み合わせた免疫細胞の生成が優先される。
【0099】
・抑制性サイトカイン/代謝物の阻害
本発明の別の局面によると、遺伝子編集段階は、抑制性サイトカインまたはその代謝物もしくは受容体をコードするかまたは正に調節する遺伝子、具体的にはTGFβ (Uniprot P01137)、IL10R (Uniprot Q13651および/またはQ08334)、A2aR (Uniprot P29274)、GCN2 (Uniprot P15442)、ならびにPRDM1 (Uniprot O75626) に関わる。
【0100】
好ましくはこれらのタンパク質の発現を阻害するかまたは不活性化することによる、少なくとも
・TCR、PD1、およびTGFβ;
・TCR、CTLA4、およびTGFβ;
・TCR、PD1、およびIL10R;
・TCR、CTLA4、およびIL10R;
・TCR、PD1、およびTGFβ;
・TCR、CTLA4、およびTGFβ;
・TCR、PD1、およびGCN2;
・TCR、CTLA4、およびGCN2;
・TCR、PD1、およびA2aR;
・TCR、CTLA4、およびA2aR;
・TCR、PD1、およびPRDM1;
・TCR、CTLA4、およびPRDM1
をコードする遺伝子への遺伝子編集を組み合わせた免疫細胞の生成が優先される。
【0101】
・化学療法薬に対する耐性
本方法の好ましい態様として、1つの遺伝子編集段階は、化学療法において通常用いられる薬物プリンヌクレオチド類似体 (PNA) または6-メルカプトプリン (6MP) および 6チオグアニン (6TG) などの、がんまたは感染症の標準治療処置で用いられる化合物に対する免疫細胞の感受性を担う遺伝子座について行われる。そのような化合物の作用様式に関与する遺伝子(「薬剤感作遺伝子」と称される)の減少または不活性化によって、該化合物に対する免疫細胞の耐性が改善される。
【0102】
薬剤感作遺伝子の例は、クロロファラビン (clorofarabine) およびフルダラビンなどのPNAの活性に関するDCK (Uniprot P27707)、6MPおよび6TGなどのプリン代謝拮抗薬の活性に関するHPRT (Uniprot P00492)、ならびに葉酸代謝拮抗薬、具体的にはメトトレキサートの活性に関するGGH (Uniprot Q92820) をコードする遺伝子である。
【0103】
別の局面によると、薬物に対する耐性は、逐次遺伝子編集の本方法の付加的な任意の段階として薬物耐性遺伝子を過剰発現させることによって、免疫細胞に与えることができる。ジヒドロ葉酸還元酵素 (DHFR) (Uniprot P00374)、イノシン一リン酸脱水素酵素2 (IMPDH2) (Uniprot P12268)、カルシニューリン (Uniprot Q96LZ3、P63098 P48454、P16298、およびQ08209)、またはメチルグアニントランスフェラーゼ (MGMT) (Uniprot P16455) などのいくつかの遺伝子の変種対立遺伝子の発現が、本発明による細胞に薬物耐性を与えることが同定されている。
【0104】
本発明の別の局面によると、操作免疫細胞は、遺伝子編集段階の一部として、クロロファラビンおよびフルダラビンなどの、薬物プリンヌクレオチド類似体 (PNA) 化学療法薬に対して耐性とされる。これによって、この細胞を、従来の抗がん化学療法の後にまたはそれと組み合わせて使用することが可能となる。
【0105】
本発明によると、第1の遺伝子編集段階は好ましくは、表面抗原をコードするかまたは調節する遺伝子座において行われ、その結果として、操作された細胞の選別を該表面抗原の存在/非存在に基づいて行うことができ、第2または最終の遺伝子編集段階は、化合物、好ましくは化学療法薬または免疫抑制剤に対する細胞の耐性を与えるものであってよい。そのようにすることによって、第2または最終の遺伝子編集段階後に行われる培養段階により、二重または三重遺伝子編集細胞が選択され、濃縮され得る。同様に、本方法は、T細胞受容体 (TCR) 成分、具体的にはTCRα (Uniprot P01848)およびTCRβ (Uniprot P01850) をコードする少なくとも1つの遺伝子への第1の遺伝子編集段階、ならびに逐次的に、それぞれPNA化合物、プリン代謝拮抗薬、および抗葉酸化合物に対する耐性を与えるための、DCK、HPRT、またはGGHを発現する遺伝子への第2の遺伝子編集段階を提供する。
【0106】
結果として、治療処置のために三重遺伝子編集細胞のかなりの集団を得ることができ、該細胞は、
・TCR;β2m;DCK;
・TCR;PD1;DCK;
・TCR、CTLA4、DCK;
・TCR、LAG3、DCK
の発現を減少させるかまたは不活性化するために改変された遺伝子座を有する。
【0107】
・免疫抑制処置に対する耐性
本発明の別の局面によると、操作免疫細胞は、グルココルチコイドまたは免疫細胞表面タンパク質に対する抗体を含むような免疫枯渇処置に対して耐性にされる。一例として、抗体アレムツズマブは、多くの事前がん処置におけるように、CD52陽性免疫細胞を枯渇するために用いられる。
【0108】
本発明の方法はまた、任意に、TCRの不活性化の減少を引き起こす遺伝子編集段階と組み合わせた、CD52 (Uniprot P31358) および/または GR(グルココルチコイド受容体、NR3C1とも称される - Uniprot P04150)をコードするかまたはその発現を調節する遺伝子に関する遺伝子編集段階を含み得る。このアプローチはPoirot, L.ら (Multiplex Genome-Edited T-cell Manufacturing Platform for “Off-the-Shelf” Adoptive T-cell Immunotherapies (2013) Cancer. Res. 75:3853) によって以前に記載されたが、異なる遺伝子座が同時に遺伝子編集される方法の一部であった。
【0109】
好ましい操作された免疫細胞は、CD52およびまたはGRが付加的に不活性化されている、本明細書において詳述される三重または四重遺伝子編集細胞である。
【0110】
・CAR陽性免疫細胞の活性および生存の改善
前述されたように、本方法によって、免疫初代細胞のその後の増大に及ぼす遺伝子編集段階の影響を限定する時間枠内で、すなわち生成収率を顕著に減少させることなく、これらの細胞に連続的遺伝子編集改変を導入することが可能になる。
【0111】
実施例において示されるように、本発明は、キメラ抗原受容体 (CAR) などの組換え受容体を発現し、三重に遺伝子編集されている免疫細胞を生成することの問題を解決する。本発明に従って得ることができるそのような細胞の代表例は、以下の表現型を示す。
【0112】
[TCR]negは、TCRβまたはTCRαなどのT細胞受容体の成分の発現が減少しているかまたは損なわれている細胞を示す。
【0113】
本発明の1つの好ましい局面はさらに、まさに免疫細胞の表面にも存在する表面分子を標的化するキメラ抗原受容体 (CAR) を発現する該免疫細胞の問題にも関わる。そのような細胞は典型的に以下のように記載される:
・[抗X CAR]陽性 (+またはpos) [X] 陽性 (+またはpos)
この場合、Xは、例えば表4中に列挙される抗原のいずれかであってよい。
【0114】
例えば、抗原CS1、CD38、またはCD22を発現し、それを標的とするCARが付与されたT細胞:[抗CS1 CAR]pos、[CS1]pos、[抗CD38 CAR]pos [CD38]pos、または[抗CD70 CAR]pos [CD70]posに関して、負の影響が認められた。CAR陽性初代免疫細胞は、互いに攻撃して、免疫細胞枯渇を招き得る。これは、そのような細胞がTCR陰性[TCR]negである場合でさえ観察される。
【0115】
本発明は、以下に概説されるように遺伝子編集段階が逐次的に行われる方法を提供することによって、この問題への技術的解決法を提供する:
・第1の遺伝子編集段階を行って、表面分子Xの発現を不活性化する;
・好ましくはウイルス形質導入によって、該表面分子Xを標的とするCARを発現させる;および
・第2の遺伝子編集段階を行って、TCRの発現を不活性化する;
・任意に、第3の遺伝子編集段階を行って、PD1またはCTLA4などの免疫チェックポイント遺伝子の発現を不活性化する。
【0116】
本方法によって、操作された[抗原X CAR]
pos[抗原X]
neg[TCR]
neg免疫細胞の集団がもたらされる。好ましい操作された免疫初代細胞は、以下のような三重遺伝子編集細胞である。
【0117】
T細胞の活性化および増大
遺伝子改変の前であるか後であるかにかかわらず、たとえ本発明による免疫細胞が抗原結合機構とは独立して活性化または増殖することができるとしても、それらを活性化または増大させることができる。T細胞は具体的には、例えば米国特許第6,352,694号;第6,534,055号;第6,905,680号;第6,692,964号;第5,858,358号;第6,887,466号;第6,905,681号;第7,144,575号;第7,067,318号;第7,172,869号;第7,232,566号;第7,175,843号;第5,883,223号;第6,905,874号;第6,797,514号;第6,867,041号;および米国特許出願公開第20060121005号に記載される方法を用いて、活性化および増大させることができる。T細胞は、インビトロまたはインビボで増大させることができる。T細胞は概して、CD3 TCR複合体およびT細胞の表面上にある共刺激分子を刺激してT細胞に対する活性化シグナルを生じる薬剤と接触させることによって、増大させる。例えば、カルシウムイオノフォアA23187、ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)、またはフィトヘムアグルチニン (PHA) のような分裂促進レクチンなどの化学物質を、T細胞に対する活性化シグナルの生成に使用することができる。
【0118】
非限定的な例として、T細胞集団は、表面上に固定化された抗CD3抗体もしくはその抗原結合断片または抗CD2抗体との接触、またはプロテインキナーゼC活性化因子(例えば、ブリオスタチン)とカルシウムイオノフォアとの接触などによって、インビトロで刺激され得る。T細胞の表面上にあるアクセサリー分子を同時刺激するために、アクセサリー分子と結合するリガンドが用いられる。例えば、T細胞の増殖を刺激するのに適した条件下で、T細胞の集団を抗CD3抗体および抗CD28抗体と接触させることができる。T細胞培養に適した条件には、血清(例えば、胎仔ウシ血清ウシまたは胎児ヒト血清)、インターロイキン-2 (IL-2)、インスリン、IFN-g、IL-4、IL-7、GM-CSF、IL-10、IL-12、IL-15、TGFp、およびTNF-、または当業者に公知である細胞の成長のための任意の他の添加物を含む、増殖および生存能に必要な因子を含有し得る適切な培地(例えば、最小必須培地またはRPMI培地1640またはX-vivo 5(Lonza))が含まれる。細胞の成長のための他の添加物には、界面活性剤、プラスマネート (plasmanate)、ならびにN-アセチル-システインおよび2-メルカプトエタノールなどの還元剤が含まれるが、これらに限定されない。培地には、アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、およびビタミンが添加され、無血清の、あるいは適量の血清(もしくは血漿)、または規定されたホルモンセット、ならびに/またはT細胞の成長および増大に十分な量のサイトカインが補充された、RPMI 1640、A1M-V、DMEM、MEM、a-MEM、F-12、X-Vivo 1、およびX-Vivo 20、Optimizerが含まれ得る。抗生物質、例えばペニシリンおよびストレプトマイシンは実験用培養物にのみ含まれ、対象に注入される細胞の培養物には含まれない。標的細胞は、成長を支持するのに必要な条件下で、例えば適切な温度(例えば、37℃)および雰囲気(例えば、空気 + 5% CO2)の下で維持される。異なる刺激時間に曝露されたT細胞は、異なる特徴を示し得る。
【0119】
別の特定の態様において、前記細胞は、組織または細胞と共培養することによって増大させることもできる。該細胞はまた、インビボで、例えば該細胞を対象に投与した後に対象の血液中で増大させることもできる。
【0120】
治療組成物および適用
上記の本発明の方法により、操作された初代免疫細胞を、それらが特にその細胞傷害活性に関して完全な免疫治療可能性を維持するように、約15~30日、好ましくは15~20日、および最も好ましくは18~20日という限定された時間枠内で生成することが可能になる。
【0121】
これらの細胞は、細胞集団を形成し得るかまたはそのメンバーであってよく、その集団は好ましくは単一のドナーまたは患者に由来する。これらの細胞集団は、最も高い製造規範要件に従うよう閉鎖培養レシピエント下で増大させることができ、患者に注入する前に凍結することができ、それによって「既製品」または「すぐに使える」治療組成物を提供する。
【0122】
本発明によると、同一の白血球アフェレーシスに由来するかなりの数の細胞を得ることができ、このことは患者を処置するのに十分な用量を得るために重要である。様々なドナーに由来する細胞集団間の変動が認められ得るが、白血球アフェレーシスによって得られる免疫細胞の数は概して、PBMC約108~1010個細胞である。PBMCはいくつかの細胞型:顆粒球、単球、およびリンパ球を含み、そのうちの30~60%がT細胞であり、これは概してドナー1名からの初代T細胞108~109個を意味する。本発明の方法は概して最終的に、一般的には約108個超のT細胞、より一般的には約109個超のT細胞、さらにより一般的には約1010個超のT細胞、および通常は1011個超のT細胞に到達する、操作された細胞の集団をもたらす。概してT細胞は、少なくとも2つの異なる遺伝子座において遺伝子編集される。
【0123】
そのような組成物または細胞集団はしたがって、それを必要とする患者における、特にがんを処置するための、具体的にはリンパ腫の処置のための、しかしまたメラノーマ、神経芽細胞腫、神経膠腫、または肺腫瘍、乳房腫瘍、結腸腫瘍、前立腺腫瘍、もしくは卵巣腫瘍などのがん腫といった固形腫瘍のための医薬品として使用することができる。
【0124】
本発明はより具体的には、単一ドナーに由来する初代TCR陰性T細胞の集団に注目し、この場合、該集団中の細胞の少なくとも20%、好ましくは30%、より好ましくは50%が、少なくとも2つ、好ましくは3つの異なる遺伝子座において、配列特異的試薬を用いて改変されている。
【0125】
別の局面において、本発明は、以下の段階のうちの少なくとも1つを含む、それを必要とする患者を処置する方法に依存する:
(a) 患者の腫瘍生検試料の表面に存在する特異的抗原マーカーを決定する段階;
(b) 先に記載された本発明の方法の1つによって操作された、該特異的抗原マーカーに対するCARを発現する、操作された初代免疫細胞の集団を提供する段階;
(c) 操作された初代免疫細胞の該操作された集団を該患者に投与する段階。
【0126】
概して前記細胞集団は主に、T細胞などのCD4およびCD8陽性免疫細胞を含み、これは頑強なインビボT細胞増大を起こすことができ、インビトロおよびインビボにおいて長期間にわたり存続し得る。
【0127】
本発明による操作された初代免疫細胞を含む処置は、寛解的、治癒的、または予防的であってよい。それは自家免疫療法の一環であってもよく、または同種免疫療法処置の一環であってもよい。自家とは、患者の処置に用いられる細胞、細胞株、または細胞集団が、該患者またはヒト白血球抗原 (HLA) 適合ドナーに由来することを意味する。同種とは、患者の処置に用いられる細胞または細胞集団が該患者に由来せず、ドナーに由来することを意味する。
【0128】
別の態様において、本発明による前記の単離された細胞または該単離された細胞に由来する細胞株は、液性腫瘍、および好ましくはT細胞急性リンパ性白血病の処置に使用することができる。
【0129】
成人腫瘍/がんおよび小児腫瘍/がんもまた含まれる。
【0130】
本発明による操作された免疫細胞を用いた処置は、抗体療法、化学療法、サイトカイン療法、樹状細胞療法、遺伝子治療、ホルモン療法、レーザー光療法、および放射線療法の群より選択される、がんに対する1種または複数種の治療と併用することができる。
【0131】
本発明の好ましい態様によると、前記処置は、免疫抑制処置を受けている患者に施行することができる。実際に、本発明は好ましくは、そのような免疫抑制剤の受容体をコードする遺伝子の不活性化に起因して、少なくとも1種の免疫抑制剤に対して耐性にされた細胞または細胞集団に依存する。この局面において、免疫抑制処置は、患者における本発明によるT細胞の選択および増大を支援するはずである。
【0132】
本発明による細胞または細胞集団の投与は、エアロゾル吸入、注射、内服、輸液、植え込み、または移植を含む、任意の簡便な様式で実施され得る。本明細書に記載される組成物は、患者の皮下、皮内、腫瘍内、結節内、髄内、筋肉内に、静脈内もしくはリンパ内注射によって患者に、または患者の腹腔内に投与され得る。1つの態様において、本発明の細胞組成物は、好ましくは静脈内注射によって投与される。
【0133】
細胞または細胞集団の投与は、これらの範囲内の細胞数のすべての整数値を含む、体重1 kg当たり104~109個の細胞、好ましくは105~106個の細胞/kg体重の投与からなり得る。したがって本発明は、単一のドナーまたは患者の試料採取に由来する、106~108個の遺伝子編集細胞を含む、10回超、一般的には50回超、より一般的には100回超、および通常は1000回超の用量を提供し得る。
【0134】
細胞または細胞集団は、1回または複数回の用量で投与され得る。別の態様では、前記有効量の細胞が単一用量として投与される。別の態様では、該有効量の細胞が、ある期間にわたり2回以上の用量として投与される。投与のタイミングは、管理する医師の判断内にあり、患者の臨床状態に依存する。細胞または細胞集団は、血液バンクまたはドナーなどの任意の供給源から入手することができる。個々のニーズは異なるが、特定の疾患または状態に対する所与の細胞型の有効量の最適範囲の決定は、当技術分野の技術の範囲内である。有効量とは、治療的または予防的な利益をもたらす量を意味する。投与される投薬量は、レシピエントの年齢、健康状態、および体重、もしあれば併用処置の種類、処置の頻度、ならびに望ましい効果の性質に依存する。
【0135】
別の態様において、前記有効量の細胞またはそのような細胞を含む組成物は、非経口投与される。該投与は静脈内投与であってよい。該投与は、腫瘍内への注射により直接行うこともできる。
【0136】
本発明のある特定の態様において、細胞は、抗ウイルス療法、シドホビル、およびインターロイキン2、シタラビン(ARA-Cとしても公知)などの薬剤による処置、またはMS患者のためのナタリジマブ (nataliziimab) 処置、または乾癬患者のためのエファリズチマブ (efaliztimab) 処置、またはPML患者のためのその他の処置を含むがこれらに限定されない、多数の関連する処置様式と併せて(例えば、その前に、それと同時に、またはその後に)、患者に投与される。さらなる態様において、本発明のT細胞は、化学療法、放射線照射、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸、およびFK506など、抗体、またはその他の免疫除去 (immunoablative) 剤、例えばCAMPATH、抗CD3抗体、もしくはその他の抗体療法など、サイトキシン (cytoxin)、フルダリビン (fludaribine)、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコプリノール酸 (mycoplienolic acid)、ステロイド、FR901228、サイトカイン、ならびに照射と併用され得る。これらの薬物は、カルシウム依存性ホスファターゼカルシニューリンを阻害するか(シクロスポリンおよびFK506)、または増殖因子誘導性シグナル伝達に重要であるp70S6キナーゼを阻害する(ラパマイシン)(Henderson, Naya et al. 1991;Liu, Albers et al. 1992;Bierer, Hollander et al. 1993)。さらなる態様において、本発明の細胞組成物は、骨髄移植、フルダラビンなどの化学療法剤、外照射療法 (XRT)、シクロホスファミド、またはOKT3もしくはCAMPATHなどの抗体のいずれかを使用したT細胞除去療法と併せて(例えば、その前に、それと同時に、またはその後に)、患者に投与される。別の態様において、本発明の細胞組成物は、CD20と反応する薬剤、例えばリツキサンなどのB細胞除去療法の後に投与される。例えば、1つの態様において、対象は、高用量化学療法による標準的処置を受けた後に、末梢血幹細胞移植を受けることができる。ある特定の態様において、移植の後、対象は、増大させた本発明の免疫細胞の注入を受ける。付加的な態様において、増大させた細胞は、手術の前または後に投与される。
【0137】
T細胞の少なくとも2つの亜集団を含む併用療法
本発明は、先行技術の方法によって得られ得なかった、本明細書において説明されるもののいずれをも含む、治療用途に現在利用可能である二重、三重、または四重遺伝子編集細胞の全範囲を包含する。特に、そのような細胞は、異なる遺伝子編集座位における望ましくない組換えまたは転座のリスクを減らして操作され、それらの細胞は治療用途のためにより安全なものとなる。
【0138】
逐次遺伝子編集の本方法のさらなる利点としてはまた、単一のドナーまたは患者に由来する最初の集団から、異なる遺伝子座において遺伝子編集された初代免疫細胞の亜集団を生成できるという可能性がある。
【0139】
一例として、ドナーまたは患者からの初代免疫細胞は、TCR遺伝子、または自己/非自己認識に関わる任意の遺伝子に対して第1の遺伝子編集段階を行うことによって、同種反応性を弱めることができ、次いで増大段階の後に、その集団を2つの亜集団に分割することができ、それらはそれぞれ該亜集団において異なる遺伝子座を標的とする第2の遺伝子編集段階を受ける。典型的には、CD4+陽性免疫細胞およびCD8+陽性免疫細胞を別々に処理した後に、治療組成物の効力を高めるために所望の比率で共にプールすることができる(
図8を参照されたい)。この方法によって、必ずしも同じではない特性を示す、操作された初代免疫細胞の亜集団が生じる。したがって、本発明はまた、T細胞の少なくとも2つの亜集団を含む、単一ドナーに由来する初代TCR陰性T細胞の集団の組成物にも注目し、該亜集団は例えば、遺伝子編集された異なる免疫チェックポイント遺伝子を含む。細胞のそのような亜集団は、例えば、
・TCR陰性かつPD1陰性、
・TCR陰性かつCD52陰性、
・TCR陰性かつCTLA4陰性、
・TCR陰性かつdCK陰性、
・TCR陰性かつGR陰性、
・TCR陰性かつGGH陰性、
・TCR陰性かつHPRT陰性、
・TCR陰性かつβ2m陰性
より選択され得る。
【0140】
結果として得られた細胞を、キメラ抗原受容体を発現するように任意に形質転換して、具体的には、それぞれ異なる表面分子に対するキメラ受容体を発現する亜集団の一部として、様々な特異性を備えた同種CAR T細胞を提供することができる。
【0141】
そのような亜集団は、細胞の単一集団について先に記載されたのと同じ方法で、別々にまたは互いに組み合わせて治療処置のための組成物に使用することができる。
【0142】
その他の定義
ポリペプチド配列中のアミノ酸残基は、本明細書では1文字コードに従って指定され、例えば、QはGlnまたはグルタミン残基を意味し、RはArgまたはアルギニン残基を意味し、およびDはAspまたはアスパラギン酸残基を意味する。
【0143】
アミノ酸置換は、1つのアミノ酸残基を別のアミノ酸残基で置き換えることを意味し、例えば、ペプチド配列中でアルギニン残基をグルタミン残基で置き換えることは、アミノ酸置換である。
【0144】
ヌクレオチドは以下のように指定される:ヌクレオシドの塩基を指定するために、1文字コードが使用され:aはアデニンであり、tはチミンであり、cはシトシンであり、およびgはグアニンである。縮重ヌクレオチドに関しては、rはgまたはa(プリンヌクレオチド)を表し、kはgまたはtを表し、sはgまたはcを表し、wはaまたはtを表し、mはaまたはcを表し、yはtまたはc(ピリミジンヌクレオチド)を表し、dはg、a、またはtを表し、vはg、a、またはcを表し、bはg、t、またはcを表し、hはa、t、またはcを表し、およびnはg、a、t、またはcを表す。
【0145】
本明細書で用いられる場合、「核酸」または「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチド、および/またはデオキシリボ核酸 (DNA) もしくはリボ核酸 (RNA) などのポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) によって生成された断片、ならびに連結、切断、エンドヌクレアーゼ作用、およびエキソヌクレアーゼ作用のいずれかによって生成された断片を指す。核酸分子は、天然に存在するヌクレオチド(DNAおよびRNAなど)もしくは天然に存在するヌクレオチドの類似体(例えば、天然に存在するヌクレオチドの鏡像異性体)である単量体、またはその両方の組み合わせから構成され得る。修飾ヌクレオチドは、糖部分および/またはピリミジンもしくはプリン塩基部分に変化を有し得る。糖修飾には、例えば、1つまたは複数のヒドロキシル基のハロゲン、アルキル基、アミン、およびアジド基での置き換えが含まれ、または糖はエーテルまたはエステルとして官能化され得る。さらに、糖部分の全体が、アザ糖および炭素環式糖類似体などの、立体的かつ電子的に類似した構造で置き換えられ得る。塩基部分における修飾の例には、アルキル化プリンおよびピリミジン、アシル化プリンもしくはピリミジン、またはその他の周知の複素環式置換基が含まれる。核酸単量体は、ホスホジエステル結合またはそのような結合に類似したものによって連結され得る。核酸は、一本鎖または二本鎖のいずれかであってよい。
【0146】
キメラ抗原受容体 (CAR) とは、特異的な抗標的細胞免疫活性を示すキメラタンパク質を生成するために、標的細胞上に存在する成分に対する成分に対する細胞外結合ドメイン、例えば所望の抗原(例えば、腫瘍抗原)に対する抗体に基づく特異性を、T細胞受容体を活性化する細胞内ドメインと組み合わせた分子を包含する用語である。概してCARは、可動性リンカーによって連結された標的抗原特異的モノクローナル抗体の軽鎖可変断片 (VL) および重鎖可変断片 (VH) を含む細胞外一本鎖抗体 (scFv) が、T細胞抗原受容体複合体ζ鎖の細胞内シグナル伝達ドメインに融合されたものからなり、免疫エフェクター細胞において発現された場合に、モノクローナル抗体の特異性に基づき、抗原認識を方向づけ直す能力を有する。CARは、一本鎖、またはWO2014039523に記載されるような複数鎖であってよい。非限定的な例として、ラクダ科動物もしくはサメ類 (VNAR) 単一ドメイン抗体断片、または血管内皮増殖因子ポリペプチド、インテグリン結合ペプチド、ヘレグリン、もしくはIL-13突然変異タンパク質のような受容体リガンド、抗体結合ドメイン、抗体超可変ループ、もしくはCDRなどの、scFv以外の結合ドメインもまた、リンパ球の所定の標的化に使用され得る。
【0147】
「組換えTCR」とは、天然へテロ二量体TCRと同様にMHC-ペプチド複合体に結合する、好ましくは単一アミノ酸鎖からなる人工ポリペプチド構築物である。組換えTCRは好ましくは、Stone J.D,ら [A novel T cell receptor single-chain signaling complex mediates antigen-specific T cell activity and tumor control (2014) Cancer Immunol. Immunother. 63(11):1163-76] によって記載されるような一本鎖ポリペプチドである。そのような一本鎖TCRは概して、
・ヒトTCRα鎖定常領域細胞外配列のN末端に融合されたヒトTCRα鎖可変領域配列によって構成されるαセグメント、
・ヒトTCRβ鎖定常領域細胞外配列のN末端に融合されたヒトTCRβ鎖可変領域配列によって構成されるβセグメント、および
・αセグメントのC末端をβセグメントのN末端にまたはその逆に連結するリンカー配列
を含み、αセグメントおよびβセグメントの定常領域細胞外配列はジスルフィド結合によって連結され、リンカー配列の長さおよびジスルフィド結合の位置は、αセグメントおよびβセグメントの可変領域配列が天然のαβT細胞受容体中と実質的に同様に相互に配向するような長さまたは位置である。
【0148】
「エンドヌクレアーゼ」という用語は、DNAまたはRNA分子、好ましくはDNA分子内の核酸間の結合の加水分解(切断)を触媒することができる、任意の野生型または変種酵素を指す。エンドヌクレアーゼは、その配列に関係なくDNAまたはRNA分子を切断するのではなく、さらには「標的配列」または「標的部位」と称される特異的なポリヌクレオチド配列においてDNAまたはRNA分子を認識し切断する。エンドヌクレアーゼは、典型的には、10塩基対 (bp) よりも長い、より好ましくは14~55 bpのポリヌクレオチド認識部位を有する場合に、レアカットエンドヌクレアーゼとして分類され得る。レアカットヌクレアーゼは、規定された遺伝子座におけるDNA二本鎖切断 (DSB) を誘導することによって、相同組換えを顕著に増加させ、それによって遺伝子修復または遺伝子挿入療法が可能になる (Pingoud, A. and G. H. Silva (2007). Precision genome surgery. Nat. Biotechnol. 25(7): 743-4.)。
【0149】
「DNA標的」、「DNA標的配列」、「標的DNA配列」、「核酸標的配列」、「標的配列」、または「プロセシング部位」とは、本発明によるレアカットエンドヌクレアーゼによって標的とされ処理され得るポリヌクレオチド配列を意図する。これらの用語は、細胞内の特定のDNAの位置、好ましくはゲノムの位置だけでなく、非限定的な例として、プラスミド、エピソーム、ウイルス、トランスポゾン、またはミトコンドリアのような細胞小器官内の遺伝物質などの、遺伝物質の本体とは独立して存在し得る遺伝物質の部分も指す。RNAガイド標的配列の非限定的な例として、RNAガイドエンドヌクレアーゼを所望の遺伝子座に方向づけるガイドRNAとハイブリダイズし得るゲノム配列がある。
【0150】
「変異」とは、ポリヌクレオチド(cDNA、遺伝子)またはポリペプチド配列における1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、20個、25個、30個、40個、50個まで、またはそれ以上のヌクレオチド/アミノ酸の置換、欠失、挿入を意図する。変異は、遺伝子のコード配列またはその調節配列に影響を及ぼし得る。変異はまた、ゲノム配列の構造またはコードされたmRNAの構造/安定性に影響を及ぼす場合もある。
【0151】
「変種」とは、本発明によるエンドヌクレアーゼ試薬の触媒活性変異体を意図する。
【0152】
「遺伝子座」という用語は、ゲノム中のDNA配列(例えば、遺伝子)の特定の物理的位置である。「遺伝子座」という用語は、染色体上または感染体ゲノム配列上のレアカットエンドヌクレアーゼ標的配列の特定の物理的位置を指し得る。そのような遺伝子座は、本発明による配列特異的エンドヌクレアーゼによって認識および/または切断される標的配列を含み得る。本発明の関心対象の遺伝子座は、細胞の遺伝物質の本体(すなわち、染色体)に存在する核酸配列だけでなく、非限定的な例として、プラスミド、エピソーム、ウイルス、トランスポゾン、またはミトコンドリアのような細胞小器官内の遺伝物質などの、遺伝物質の該本体とは独立して存在し得る遺伝物質の部分にも当てはまることが理解される。
【0153】
-「切断」という用語は、ポリヌクレオチドの共有結合骨格の破壊を指す。切断は、ホスホジエステル結合の酵素的または化学的な加水分解を含むがこれらに限定されない、種々の方法によって開始され得る。一本鎖切断および二本鎖切断の両方が可能であり、二本鎖切断は、2つの異なる一本鎖切断事象の結果とし起こり得る。二本鎖のDNA、RNA、またはDNA/RNAハイブリッドの切断は、平滑末端または付着末端 (staggered end) のいずれかの生成をもたらし得る。
【0154】
-「同一性」は、2つの核酸分子またはポリペプチド間の配列同一性を指す。同一性は、比較のために整列され得る各配列中の位置を比較することによって決定され得る。比較された配列中のある位置が同一の塩基によって占有される場合、それらの分子はその位置において同一である。核酸またはアミノ酸配列間の類似性または同一性の程度は、核酸配列によって共有される位置における同一のまたは一致するヌクレオチドの数の関数である。2つの配列間の同一性を算出するには、GCG配列解析パッケージ(University of Wisconsin、Madison, Wis.)の一部として利用可能であるFASTAまたはBLASTを含む、様々な整列アルゴリズムおよび/またはプログラムを使用することができ、それらは例えばデフォルト設定で使用することができる。例えば、本明細書に記載される特定のポリペプチドとの少なくとも70%、85%、90%、95%、98%、または99%の同一性を有し、かつ好ましくは実質的に同一の機能を示すポリペプチド、およびそのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが企図される。
【0155】
本明細書で用いられる「対象」または「患者」という用語は、非ヒト霊長類およびヒトを含む動物界の全メンバーを含む。
【0156】
本発明の上記の説明は、当技術分野のいかなる当業者も本発明を作製し使用することができるように、それを作製し使用する様式および過程を提供しており、この実施可能性は、具体的には、当初明細書の一部を構成する添付の特許請求の範囲の主題のために提供される。
【0157】
数値的な限界または範囲が本明細書において記載される場合には、終点が含まれる。また、数値的な限界または範囲内の値および部分範囲はすべて、あたかも明確に書き出されたかのように、具体的に含まれる。
【0158】
本発明を概略的に説明してきたが、さらなる理解は、ある特定の具体例を参照することにより得ることができ、これらの具体例は、単なる例示のために本明細書において提供され、特許請求される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例0159】
実施例1:T細胞へのTRACおよびCD52 TALE-ヌクレアーゼの同時 対 逐次エレクトロポレーション
TALE-ヌクレアーゼ試薬の逐次エレクトロポレーションがT細胞の全体的な生存および遺伝子ノックアウト効率に及ぼす影響を解析するために、本発明者らは、以下の実験手順に従って、単一ドナー試料からの活性化初代ヒトT細胞を、TRAC遺伝子(TCRα鎖)に特異的なTALEN(登録商標)試薬(Cellectis、Paris, France)を用いることによるエレクトロポレーションに提示した。本実験で用いられる様々なTALEN(登録商標)ヘテロ二量体のアミノ酸配列を表3に示す。
【0160】
簡潔に説明すると、凍結ヒトPBMC (AllCells) を融解し、抗CD3抗体および抗CD28抗体コーティングビーズ(Dynabeads、Life Technologies、Carlsbad, California, United States)を用いて3日間活性化した。磁気ビーズを除去した後(4日目)、AgilePulseエレクトロポレーター(BTX Instrument Division、Harvard Apparatus, Inc.、Holliston, MA 01746-1388)プロトコールを用いて、5x106個の活性化T細胞に、TALENをコードする両方のmRNA 10μgを同時に、または6時間、20時間、もしくは40時間間隔で逐次的にトランスフェクトした。エレクトロポレーションされたT細胞を、組織培養容器にプレーティングし直し、5%ヒトAB血清およびrIL2 (100 UI/ml) を補充したXvivo造血培地(Lonza、CH-4002 Basel, Switzerland)中で合計12日間置いた。細胞は、計数および培地更新のために2日または3日ごとに継代した。
【0161】
活性化後のD10において、TCRおよびCD52タンパク質の表面発現を、特異的モノクローナル抗体およびMacsquantサイトメーター (Miltenyi) を用いてサイトメトリーによって測定した。さらに、T細胞の成長を、トリパンブルー排除細胞計数によってD4からD12までモニターした。
【0162】
図9に、エレクトロポレーションスケジュールに従って、エレクトロポレーションの6日後に測定されたTCR+細胞、CD52+細胞、二重陽性TCR/CD52+細胞、および二重陰性TCR/CD52細胞の割合を示す。データから、逐次的かまたは同時か、たとえどのようなエレクトロポレーション条件であっても、TCR KOの70~80%およびCD52 KOの65~75%が達成可能であることが示される。さらに、二重陰性細胞の割合は、試験されたすべての条件について同等である。これにより、逐次エレクトロポレーションが遺伝子編集の成功率を低下させないという知見が検証される。
【0163】
逐次エレクトロポレーションがTALE-ヌクレアーゼ媒介性の遺伝子ノックアウトの効率に影響を及ぼさないことが示されたため、本発明者らは、エレクトロポレーション条件、細胞、および成長をモニターすることにより、細胞が24時間または48時間間隔内に2回エレクトロポレーションされた場合に、細胞の成長が損なわれるかどうかを確かめようとした。
【0164】
図10に示されるデータから、試験されたすべての条件について細胞の成長は同様であり、40時間間隔で逐次的にトランスフェクトされたT細胞が有利であることが示された。
【0165】
まとめると、これらのデータから、逐次エレクトロポレーションがKO効率および細胞の成長に影響を及ぼさないことが実証された。
【0166】
実施例2:T細胞への、TRACおよびPD1 TALE-ヌクレアーゼをコードするmRNAの同時または逐次エレクトロポレーション
Poirotら (Multiplex Genome-Edited T-cell Manufacturing Platform for “Off-the-Shelf” Adoptive T-cell Immunotherapies (2015) Cancer Res. 75: 3853-64) において、同時遺伝子ノックアウトを行うためには、2つのTALE-ヌクレアーゼヘテロ二量体の同時エレクトロポレーションが高効率であることが見出された。しかしながら、オフサイト切断または転座などの望ましくない事象が場合によって起こることが見出された。例えば、TRAC TALEN(登録商標)をコードするmRNAおよびPD1 TALEN(登録商標)をコードするmRNAの同時トランスフェクションにより、TRAC TALEN左アームとPD1 TALEN左アームとの対形成に起因して、オフサイト切断活性が生じる。オフサイト切断(およびオンサイト切断)の頻度は、エンドヌクレアーゼ切断および切断末端の忠実でない再連結の後に生成される変異配列(ヌクレオチドの欠失または付加のいずれか)の頻度によって規定される。本実験で用いられる、TRAC(SEQ ID NO.1および2)ならびにPD1(SEQ ID NO. 5および6)に関する様々なTALEN(登録商標)ヘテロ二量体をコードするアミノ酸配列を表3に示す。
【0167】
潜在的オフサイトヒットは、TALE-ヌクレアーゼDNA結合配列、ミスマッチの数、およびそれらの位置、2つの結合ドメイン間のスペーサーの長さを主に含むいくつかのパラメータに従うアルゴリズムを用いて、インシリコで同定することができる。このコンピュータ検索に従って、TRAC TALEN(登録商標)とPD1 TALEN(登録商標)の組み合わせについて、ヒトゲノム中に多数の潜在的オフサイト標的が同定された。最も高いスコアを有する上位15の標的配列が、PCRおよびディープシーケンシングによって実験的に検証された。T細胞にTRAC TALEN(登録商標)およびPD1 TALEN(登録商標)を同時にトランスフェクトした場合に、約1%の変異誘発事象(または挿入/欠失、InDel事象)が観察されたという理由で、15のうちの1つ、「オフサイト3」が真のオフサイト標的であることが見出された。
【0168】
実施例1に示されたデータから、TALENの逐次エレクトロポレーションがKO効率および細胞増大に影響を及ぼさないことが実証されたため、本発明者らは、この逐次トランスフェクション戦略が「オフサイト3」への切断を無効にし得るかどうかを判定しようとした。
【0169】
簡潔に説明すると、凍結ヒトPBMC (AllCells) を融解し、抗CD3抗体および抗CD28抗体コーティングビーズ(Dynabeads、Life Tech)を用いて3日間活性化した。AgilePulseエレクトロポレーター(BTX Instrument Division、Harvard Apparatus, Inc.、Holliston, MA 01746-1388)プロトコールを用いて、5x106個の活性化T細胞に、両方のTALEN mRNA 10μgを同時に、または6時間、20時間、もしくは40時間間隔で逐次的にトランスフェクトした。エレクトロポレーションされたT細胞を、組織培養容器にプレーティングし直し、5%ヒトAB血清およびrIL2 (100 UI/ml) を補充したXvivo (Lonza) 培地中で合計6日間置いた。細胞は、計数および培地更新のために2日または3日ごとに継代した。6日間の終了時に、トランスフェクトされたT細胞からゲノムDNAを抽出し、TRACおよびPD1の「オンサイト」ゲノム標的、ならびに「オフサイト3」を含む5つの「オフサイト」標的の増幅を可能にする特異的プライマーを用いるPCR増幅に供した。次いでPCR産物を精製し、Illumina技術を用いるその後のディープシーケンシング解析のために修飾した。各試料につき約80,000個のリードをコンピュータ処理した。
【0170】
データを
図11に示す。以前に観察されたように、T細胞にTRAC TALEN(登録商標)およびPD-1 TALEN(登録商標)を同時にトランスフェクトすると、それぞれTRACおよびPD-1のオンサイト標的において高レベルのindelが誘導される。「オフサイト3」標的においても約1%のindelが観察されるのに対して、その他の予測されるオフサイト標的OF1、OF2、OF4、およびOF5については、有意な変異誘発事象は観察されない。最初にTRAC TALENおよび24時間後または40時間後にPD-1 TALENという逐次トランスフェクションは、オンサイトTRACおよびオンサイトPD-1における変異誘発のレベルに全くまたはほとんど影響を及ぼさない。しかしながら、本発明者らは、24時間 (0.4%) および40時間 (0,04%) において、OF3についてindelの%が有意に減少することを観察した。これらのデータから、TALENの逐次エレクトロポレーションによって、KO効率に影響を及ぼすことなく、オフサイト切断などの望ましくない事象の抑止が可能になることが示される。
【0171】
実施例3:T細胞へのCD38、TRAC,およびCD52 TALENの同時または逐次エレクトロポレーション
逐次TALENエレクトロポレーションがT細胞の全体的な生存および遺伝子ノックアウト効率に及ぼす影響を解析するために、本発明者らは、以下の実験手順に従って、活性化ヒトT細胞に、TRAC遺伝子(TCRα鎖)、CD52、およびCD38に特異的なTALEN(アミノ酸配列を表3に示す)をトランスフェクトした。
【0172】
簡潔に説明すると、凍結ヒトPBMC (AllCells) を融解し、抗CD3抗体および抗CD28抗体コーティングビーズ(TransAct、Miltenyi)を用いて3日間活性化した。融解後の4日目に、Cellectis所有権のAgilePulseエレクトロポレーターおよびプロトコールを用いて、10x106個の活性化T細胞に、両方のTALEN mRNA 10μgを同時に、または24時間(5日目)もしくは48時間(6日目)間隔で逐次的にトランスフェクトした。以下の条件を試験し、KO効率および細胞成長に関して比較した。
【0173】
【0174】
エレクトロポレーションされたT細胞を、組織培養容器にプレーティングし直し、5%ヒトAB血清およびrIL2 (100 UI/ml) を補充したXvivo (Lonza) 培地中で合計15日間置いた。細胞は、計数および培地更新のために2日または3日ごとに継代した。
【0175】
融解後のD13において、TCR、CD38、およびCD52タンパク質の表面発現を、特異的抗体およびCanto10サイトメーター (Becton-Dickinson) を用いてサイトメトリーによって測定した。さらに、T細胞の成長を、トリパンブルー排除細胞計数によって5日目から15日目までモニターした。
【0176】
表2は、エレクトロポレーションスケジュールに従って、単一陰性T細胞(CD38-、TCR-、およびCD52-)の割合ならびに三重陰性T細胞 (CD38-TCR-CD52-) の割合を示す。これらのデータから、TCR KOは65~74%であり、CD52 KOは57~70%であり、したがって条件間で同等であることが示される。CD52 TALENトランスフェクションの48時間前にCD38およびTRAC TALENがトランスフェクトされる場合に、最良の結果が得られる(表2、E列および
図12、E列)。TCRおよびCD52に関しては、CD52 TALENトランスフェクションの48時間前にCD38およびTRAC TALENがトランスフェクトされる場合に、最良の結果が得られる(表4、E列および
図12、E列)。しかしながら、試験されたすべての条件が、三重陰性T細胞の%において変動をほとんど示さず、それは27%~40%の範囲である。さらに、三重ノックアウト効率の最良の割合は、CD52 TALENの48時間前にCD38およびTRAC TALENという逐次エレクトロポレーションを用いて得られる。
【0177】
逐次エレクトロポレーションがTALEN媒介性の遺伝子ノックアウトの有効性に影響を及ぼさないことが検証されたため、本発明者らは、細胞が24時間または48時間間隔内に2回のエレクトロポレーションショックに供された場合に、細胞の成長が損なわれるかどうかを確かめようとした。エレクトロポレーション条件に従って、細胞成長を融解後の5日目から13日目まで測定する(
図12)。
【0178】
3つのTALENを同時にエレクトロポレーションした場合に、15日目において最良の成長率が観察される。すべての逐次エレクトロポレーション条件に関してT細胞成長曲線は同等であり、2回のエレクトロポレーションショック間に48時間の間隔が設けられる条件で最良の結果が得られる(表4および
図12の条件C、E、およびG)。
【0179】
これらのデータにより、試験されたすべての逐次条件について細胞の成長は同様であり、48時間間隔で逐次的にトランスフェクトされたT細胞が有利であることが示される。
【0180】
まとめると、これらのデータから、逐次エレクトロポレーションがKO効率および細胞の成長に影響を及ぼさないことが実証される。
【0181】
実施例4:三重KO (TCR/PD-1/B2M) CAR CD22 T細胞の作製
CD22抗原に対するCARが付与された[TCR]neg[PD1]neg[B2M]neg治療用免疫細胞を生成するために、実施例1に記載されるように、T細胞をPBMCから培養し活性化した。
【0182】
さらに、逐次TALENエレクトロポレーションが遺伝子ノックアウト効率および三重KO CAR T細胞活性に及ぼす影響を解析するために、細胞を、TRAC遺伝子(SEQ ID NO. 1および2)、PD-1(SEQ ID NO. 9および6)、ならびにB2M(β2ミクログロブリン、SEQ ID NO.10および11)に特異的なTALENを用いて同時にまたは逐次的に編集した。逐次プロトコールを
図13に図示する。いずれの場合にも、抗原CD22を標的とするCAR (SEQ ID NO. 12) を発現させるために、T細胞にレンチウイルス粒子を形質導入した。
【0183】
TALEN mRNAは、関心対象の各TALENアームをコードする線状化プラスミドDNAから生成した。RNA生成のためのインビトロRNA合成キットを使用した (Invitrogen #AMB1345-5)。Qiagen RNAeasyキット (#74106) を用いてRNAを精製し、BTXからのT溶液 (47-0002) 中に溶出させた。
【0184】
活性化および形質導入段階の前日に、2名の異なるドナー由来の凍結ヒトPBMCを、完全X-vivo培地(X-VIVO 15、Lonza#04-418Q;5%ヒト血清AB、Gemini #100-318;20ng/mL IL-2、Miltenyi#130-097-743;)中で1 ml当たり2 x 106個細胞で融解する。融解の翌日、(Poirot et al. (2015) Multiplex Genome-Edited T-cell Manufacturing Platform for “Off-the-Shelf” Adoptive T-cell Immunotherapies Cancer Res. 75: 3853-64) に記載されるように、ミモトープ配列(SEQ ID NO. 12中に太字で強調してある)を含有するCD22抗原を標的とするキメラ抗原受容体の発現を可能にするレンチウイルス粒子を細胞に形質導入する。製造業者のプロトコールに従って、抗CD3抗体および抗CD28抗体コーティングビーズ(TransAct、Miltenyi)を用いて、細胞を同日から4日間さらに活性化する。
【0185】
融解後の5日目に、Cellectis所有権のAgilPulseエレクトロポレーターおよびプロトコールを用いて、T細胞に、TRAC TALEN (10μg)、PD-1 TALEN(30μg~70μg)、およびB2M TALEN(30μg~70μg)をコードする用量反応のmRNAを同時に、または48時間間隔で逐次的にエレクトロポレーションした。各エレクトロポレーション段階後に、細胞を30℃で15分間、および次いで37℃でインキュベートした。融解の13日後に、最初にT細胞の一部をTransActで再刺激してPD-1発現を誘導することによって、陽性T細胞を三重KO有効性について解析した。2日後、再刺激した細胞を、それぞれ1:50希釈した抗体で4℃にて15分間標識した(Miltenyi;TCR#130-091-236、HLA-ABC#130-101-467、PD-1#130-099-878)。試験した異なるドナーのすべてについて、逐次編集は、20~40%という最良の三重KO有効性を提供する(
図14)。
【0186】
次いで、ビオチンおよびカラムに基づく陰性精製系を用いて、三重KO T細胞をTCRおよびB2M dKO細胞について濃縮した(Miltenyi;ビオチン-TCR #130-098-219、ビオチン-HLA-ABC#130-101-463、ビオチンビーズ#130-090-485、MSカラム#130-042-201)。この精製スキーム下では、TCRおよびB2M陽性細胞のみがMSカラムと結合し、関心対象のTCR/B2M dKO細胞は、97%またはそれ以上の純度でフロースルー画分中に濃縮される。TCR/B2M dKOについて濃縮された三重KO CAR-T細胞をさらなる2日間にわたってさらにインキュベートしてから、CAR-T細胞活性を評価した。15日目に、T細胞をCD22発現Raji-ルシフェラーゼ+標的と30:1、15:1、5:1、および1:1のエフェクター対標的比で5時間共培養した後に、ONE Glo発光キット (Promega) を用いて発光を定量化することにより、T細胞をCD22 CAR細胞傷害性について解析した。
図15により、三重KO CD22 CAR Tが、それらの野生型対応物(同じCAR CD22を付与された非遺伝子編集T細胞)と同程度に活性を有したことが実証される。
【0187】
(表3)実験で使用されたTALEN(登録商標)の配列
【0188】
(表4)T細胞の表面上に発現していることが見出された、様々ながんの分化クラスター (CD) 抗原マーカー
【0189】
配列情報
SEQUENCE LISTING
<110> Cellectis
<120> SEQUENTIAL GENE EDITING IN PRIMARY IMMUNE CELLS
<150> DK PA201670503
<151> 2016-07-06
<160> 12
<170> PatentIn version 3.5
<210> 1
<211> 925
<212> PRT
<213> artificial sequence
<220>
<223> TRAC TALEN Left
<400> 1
Met Gly Asp Pro Lys Lys Lys Arg Lys Val Ile Asp Ile Ala Asp Leu
1 5 10 15
Arg Thr Leu Gly Tyr Ser Gln Gln Gln Gln Glu Lys Ile Lys Pro Lys
20 25 30
Val Arg Ser Thr Val Ala Gln His His Glu Ala Leu Val Gly His Gly
35 40 45
Phe Thr His Ala His Ile Val Ala Leu Ser Gln His Pro Ala Ala Leu
50 55 60
Gly Thr Val Ala Val Lys Tyr Gln Asp Met Ile Ala Ala Leu Pro Glu
65 70 75 80
Ala Thr His Glu Ala Ile Val Gly Val Gly Lys Gln Trp Ser Gly Ala
85 90 95
Arg Ala Leu Glu Ala Leu Leu Thr Val Ala Gly Glu Leu Arg Gly Pro
100 105 110
Pro Leu Gln Leu Asp Thr Gly Gln Leu Leu Lys Ile Ala Lys Arg Gly
115 120 125
Gly Val Thr Ala Val Glu Ala Val His Ala Trp Arg Asn Ala Leu Thr
130 135 140
Gly Ala Pro Leu Asn Leu Thr Pro Gln Gln Val Val Ala Ile Ala Ser
145 150 155 160
Asn Gly Gly Gly Lys Gln Ala Leu Glu Thr Val Gln Arg Leu Leu Pro
165 170 175
Val Leu Cys Gln Ala His Gly Leu Thr Pro Gln Gln Val Val Ala Ile
180 185 190
Ala Ser Asn Asn Gly Gly Lys Gln Ala Leu Glu Thr Val Gln Arg Leu
195 200 205
Leu Pro Val Leu Cys Gln Ala His Gly Leu Thr Pro Gln Gln Val Val
210 215 220
Ala Ile Ala Ser Asn Gly Gly Gly Lys Gln Ala Leu Glu Thr Val Gln
225 230 235 240
Arg Leu Leu Pro Val Leu Cys Gln Ala His Gly Leu Thr Pro Glu Gln
245 250 255
Val Val Ala Ile Ala Ser His Asp Gly Gly Lys Gln Ala Leu Glu Thr
260 265 270
Val Gln Arg Leu Leu Pro Val Leu Cys Gln Ala His Gly Leu Thr Pro
275 280 285
Glu Gln Val Val Ala Ile Ala Ser His Asp Gly Gly Lys Gln Ala Leu
290 295 300
Glu Thr Val Gln Arg Leu Leu Pro Val Leu Cys Gln Ala His Gly Leu
305 310 315 320
Thr Pro Glu Gln Val Val Ala Ile Ala Ser His Asp Gly Gly Lys Gln
325 330 335
Ala Leu Glu Thr Val Gln Arg Leu Leu Pro Val Leu Cys Gln Ala His
340 345 350
Gly Leu Thr Pro Glu Gln Val Val Ala Ile Ala Ser Asn Ile Gly Gly
355 360 365
Lys Gln Ala Leu Glu Thr Val Gln Ala Leu Leu Pro Val Leu Cys Gln
370 375 380
Ala His Gly Leu Thr Pro Glu Gln Val Val Ala Ile Ala Ser His Asp
385 390 395 400
Gly Gly Lys Gln Ala Leu Glu Thr Val Gln Arg Leu Leu Pro Val Leu
405 410 415
Cys Gln Ala His Gly Leu Thr Pro Glu Gln Val Val Ala Ile Ala Ser
420 425 430
Asn Ile Gly Gly Lys Gln Ala Leu Glu Thr Val Gln Ala Leu Leu Pro
435 440 445
Val Leu Cys Gln Ala His Gly Leu Thr Pro Gln Gln Val Val Ala Ile
450 455 460
Ala Ser Asn Asn Gly Gly Lys Gln Ala Leu Glu Thr Val Gln Arg Leu
465 470 475 480
Leu Pro Val Leu Cys Gln Ala His Gly Leu Thr Pro Glu Gln Val Val
485 490 495
Ala Ile Ala Ser Asn Ile Gly Gly Lys Gln Ala Leu Glu Thr Val Gln
500 505 510
Ala Leu Leu Pro Val Leu Cys Gln Ala His Gly Leu Thr Pro Gln Gln
515 520 525
Val Val Ala Ile Ala Ser Asn Gly Gly Gly Lys Gln Ala Leu Glu Thr
530 535 540
Val Gln Arg Leu Leu Pro Val Leu Cys Gln Ala His Gly Leu Thr Pro
545 550 555 560
Glu Gln Val Val Ala Ile Ala Ser Asn Ile Gly Gly Lys Gln Ala Leu
565 570 575
Glu Thr Val Gln Ala Leu Leu Pro Val Leu Cys Gln Ala His Gly Leu
580 585 590
Thr Pro Gln Gln Val Val Ala Ile Ala Ser Asn Gly Gly Gly Lys Gln
595 600 605
Ala Leu Glu Thr Val Gln Arg Leu Leu Pro Val Leu Cys Gln Ala His
610 615 620
Gly Leu Thr Pro Glu Gln Val Val Ala Ile Ala Ser His Asp Gly Gly
625 630 635 640
Lys Gln Ala Leu Glu Thr Val Gln Arg Leu Leu Pro Val Leu Cys Gln
645 650 655
Ala His Gly Leu Thr Pro Gln Gln Val Val Ala Ile Ala Ser Asn Gly
660 665 670
Gly Gly Arg Pro Ala Leu Glu Ser Ile Val Ala Gln Leu Ser Arg Pro
675 680 685
Asp Pro Ala Leu Ala Ala Leu Thr Asn Asp His Leu Val Ala Leu Ala
690 695 700
Cys Leu Gly Gly Arg Pro Ala Leu Asp Ala Val Lys Lys Gly Leu Gly
705 710 715 720
Asp Pro Ile Ser Arg Ser Gln Leu Val Lys Ser Glu Leu Glu Glu Lys
725 730 735
Lys Ser Glu Leu Arg His Lys Leu Lys Tyr Val Pro His Glu Tyr Ile
740 745 750
Glu Leu Ile Glu Ile Ala Arg Asn Ser Thr Gln Asp Arg Ile Leu Glu
755 760 765
Met Lys Val Met Glu Phe Phe Met Lys Val Tyr Gly Tyr Arg Gly Lys
770 775 780
His Leu Gly Gly Ser Arg Lys Pro Asp Gly Ala Ile Tyr Thr Val Gly
785 790 795 800
Ser Pro Ile Asp Tyr Gly Val Ile Val Asp Thr Lys Ala Tyr Ser Gly
805 810 815
Gly Tyr Asn Leu Pro Ile Gly Gln Ala Asp Glu Met Gln Arg Tyr Val
820 825 830
Glu Glu Asn Gln Thr Arg Asn Lys His Ile Asn Pro Asn Glu Trp Trp
835 840 845
Lys Val Tyr Pro Ser Ser Val Thr Glu Phe Lys Phe Leu Phe Val Ser
850 855 860
Gly His Phe Lys Gly Asn Tyr Lys Ala Gln Leu Thr Arg Leu Asn His
865 870 875 880
Ile Thr Asn Cys Asn Gly Ala Val Leu Ser Val Glu Glu Leu Leu Ile
885 890 895
Gly Gly Glu Met Ile Lys Ala Gly Thr Leu Thr Leu Glu Glu Val Arg
900 905 910
Arg Lys Phe Asn Asn Gly Glu Ile Asn Phe Ala Ala Asp
915 920 925
<210> 2
<211> 925
<212> PRT
<213> artificial sequence
<220>
<223> TRAC TALEN Right
<400> 2
Met Gly Asp Pro Lys Lys Lys Arg Lys Val Ile Asp Ile Ala Asp Leu
1 5 10 15
Arg Thr Leu Gly Tyr Ser Gln Gln Gln Gln Glu Lys Ile Lys Pro Lys
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